(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】スピンテクスチャ制御装置、スピンテクスチャ制御方法、およびメモリ装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/82 20060101AFI20230725BHJP
H10B 61/00 20230101ALI20230725BHJP
H01F 10/14 20060101ALI20230725BHJP
H01F 10/16 20060101ALI20230725BHJP
H01F 10/32 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
H01L29/82 Z
H10B61/00
H01F10/14
H01F10/16
H01F10/32
(21)【出願番号】P 2019143322
(22)【出願日】2019-08-02
【審査請求日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2018208431
(32)【優先日】2018-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.第42回日本磁気学会 学術講演概要集 第269頁、公益社団法人日本磁気学会、発行日:平成30年8月28日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2.Nano Lett.2019,19,353-361、発行日:平成30年12月12日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 3.nano tech 2019、展示日:平成31年1月30日、開催場所:東京ビッグサイト(東京都江東区有明3-11-1)
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】劉 小晰
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2016-0113358(KR,A)
【文献】国際公開第2018/020730(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/047254(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0229262(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0294375(US,A1)
【文献】特開2014-086470(JP,A)
【文献】特開2018-026525(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0129995(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/82
H10B 61/00
H01F 10/14
H01F 10/16
H01F 10/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の一面に、下部電極層、磁性体膜、絶縁層、上部電極層が順に積層されてなる積層体と、
前記下部電極層と前記上部電極層との間に電圧を印加する電源と、を備え、
前記磁性体膜が、膜面に垂直な方向に磁気異方性を有しており、前記磁気異方性が、前記積層体の積層方向に直交する方向において、連続的に単調に増加または減少し
、
印加する前記電圧を調整し、前記磁気異方性の勾配の大きさを変化させて前記磁性体膜中のスピンテクスチャを制御する、ことを特徴とするスピンテクスチャ制御装置。
【請求項2】
前記磁性体膜が、鉄とコバルトのうち少なくとも一方と、重希土類金属と、の合金からなることを特徴とする請求項1に記載のスピンテクスチャ制御装置。
【請求項3】
前記積層体の積層方向において、前記磁性体膜が、磁性層と遷移金属層とが交互に積層されてなるサンドイッチ構造を有する、ことを特徴とする請求項1に記載のスピンテクスチャ制御装置。
【請求項4】
前記磁性体膜が、前記積層方向と直交する方向において、一端側に近づくにつれて薄くなっている、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のスピンテクスチャ制御装置。
【請求項5】
前記磁性体膜が、前記積層方向と直交する方向において、他端側に配置された板状の第一磁性体部と、
前記第一磁性体部の側面から突出し、前記一端側に向かって延在する少なくとも一つの第二磁性体部と、で構成されていることを特徴とする請求項4に記載のスピンテクスチャ制御装置。
【請求項6】
前記磁性体膜が、前記積層方向と直交する方向において、前記一端側に近づくにつれて薄くなっており、前記積層方向からの平面視において、前記第二磁性体部の幅が10nm以上20μm以下であることを特徴とする請求項5に記載のスピンテクスチャ制御装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のスピンテクスチャ制御装置を用い、
前記下部電極層と前記上部電極層との間に印加する電圧を調整することにより、前記磁性体膜内でスピンテクスチャを制御することを特徴とする、スピンテクスチャ制御方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載のスピンテクスチャ制御装置において制御される、前記スピンテクスチャの状態に対応したデータを記憶することを特徴とするメモリ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁壁、磁気バブル、スキルミオン等のトポロジカルなスピンテクスチャの制御装置、制御方法、および、スピンテクスチャの状態に対応したデータを記憶するメモリ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電場を利用した磁気ダイナミクスは、デバイスの電力消費を著しく低減させる技術として活用されている。例えば、強磁性体、重金属からなる多層構造体において生じるDzyaloshinskii-Moriya相互作用により、磁壁、磁気バブル、スキルミオン等のトポロジカルなスピンテクスチャの安定した形成が可能であることが知られている(特許文献1)。これらのスピンテクスチャは、電場で制御することができるため、スピントロニクスデバイスへの応用が期待されている。スピンテクスチャは、数nm~数百nmのサイズで形成されるものであり、高密度メモリデバイスとしての活用が期待されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/158230号
【文献】特開2017-41580号公報
【文献】特許第6116043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまで、メモリを構成する情報を担うスピンテクスチャを形成し、その動きを電流で制御する方法が開示されている(特許文献3)。ただし、この方法では、電流を流すことによって発生するジュール熱が、スピンテクスチャの形状に影響を及ぼすことが知られている。ジュール熱は、消費電力の増大、スピンテクスチャの欠損(情報の損失)を招き、その影響は、スピンテクスチャを適用するデバイスのサイズが小さいほど顕著となる。また、デバイスがナノスケールである場合、ジュール熱の影響によってデバイス自体が劣化してしまうことが知られており、長時間正常に動作させられないことが問題となっている。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、消費電力が低く、長時間の安定した動作を可能とし、かつ情報損失を抑えることが可能なスピンテクスチャ制御装置、スピンテクスチャ制御方法、および、それらを利用したメモリ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用している。
【0007】
(1)本発明の一態様に係るスピンテクスチャ制御装置は、基材と、前記基材の一面に、下部電極層、磁性体膜、絶縁層、上部電極層が順に積層されてなる積層体と、前記下部電極層と前記上部電極層との間に電圧を印加する電源と、を備え、前記磁性体膜が、膜面に垂直な方向に磁気異方性を有しており、前記磁気異方性が、前記積層体の積層方向に直交する方向において、連続的に単調に増加または減少している。
【0008】
(2)前記(1)に記載のスピンテクスチャ制御装置において、前記磁性体膜が、鉄とコバルトのうち少なくとも一方と、重希土類金属と、の合金からなることが好ましい。
【0009】
(3)前記(1)に記載のスピンテクスチャ制御装置において、前記積層体の積層方向において、前記磁性体膜が、磁性層と遷移金属層とが交互に積層されてなるサンドイッチ構造を有していてもよい。
【0010】
(4)前記(1)~(3)のいずれか一つに記載のスピンテクスチャ制御装置において、前記磁性体膜が、前記積層方向と直交する方向において、一端側に近づくにつれて薄くなっていることが好ましい。
【0011】
(5)前記(4)に記載のスピンテクスチャ制御装置において、前記磁性体膜が、前記積層方向と直交する方向において、他端側に配置された板状の第一磁性体部と、前記第一磁性体部の側面から突出し、前記一端側に向かって延在する少なくとも一つの第二磁性体部と、で構成されていてもよい。
【0012】
(6)前記(5)に記載のスピンテクスチャ制御装置において、前記磁性体膜が、前記積層方向と直交する方向において、前記一端側に近づくにつれて薄くなっており、前記積層方向からの平面視において、前記第二磁性体部の幅が10nm以上20μm以下であることが好ましい。
【0013】
(7)本発明の一態様に係るスピンテクスチャ制御方法は、前記(1)~(6)のいずれか一つに記載のスピンテクスチャ制御装置を用い、前記下部電極層と前記上部電極層との間に印加する電圧を調整することにより、前記磁性体膜内でスピンテクスチャを制御する。
【0014】
(8)本発明の一態様に係るメモリ装置は、前記(1)~(6)のいずれか一つに記載のスピンテクスチャ制御装置において制御される、前記スピンテクスチャの状態に対応したデータを記憶する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、消費電力が低く、長時間の安定した動作を可能とし、かつ情報損失を抑えることが可能なスピンテクスチャ制御装置、スピンテクスチャ制御方法、および、それらを利用したメモリ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(a)、(b)本発明の第一実施形態に係るスピンテクスチャ制御装置の構成を示す断面図、斜視図である。
【
図2】磁性体膜において、スピンテクスチャが発生した状態、消滅した状態、およびスピンテクスチャの構成を示すイメージ図である。
【
図3】(a)、(b)本発明の第二実施形態に係るスピンテクスチャ制御装置の構成を示す断面図、斜視図である。
【
図4】第二実施形態に係る磁性体膜の製造方法について説明する図である。
【
図5】(a)第一実施形態の磁性層における、レーザースポットの位置とヒステリシス曲線との関係を示すグラフである。(b)積層体に印加する電圧とヒステリシス曲線との関係を示すグラフである。
【
図6】(a)~(d)第一実施形態のスピンテクスチャ制御装置における、上部電極層側から見た磁性体膜の磁気光学カー効果(MOKE)画像である。
【
図7】(a)第一実施形態のスピンテクスチャ制御装置による、レーザー光スポットを用いた、スピンテクスチャの移動の検出手法を示す模式図である。(b)磁性体膜において、印加電圧を周期的に変化させた場合に得られる、カー信号のグラフである。
【
図8】(a)第一実施形態のスピンテクスチャ制御装置における、電圧および磁化反転距離の時間変化のグラフである。(b)~(i)上部電極層側から見た磁性体膜の磁気光学カー効果(MOKE)画像である。
【
図9】(a)電圧印加による、第一実施形態の磁性層の垂直磁気異方性の変化を示すグラフである。(b)垂直磁気異方性の強さの勾配と、スキルミオンが形成される位置の関係について示すグラフである。(c)垂直磁気異方性の強さの勾配と、発生するスキルミオンの大きさの関係を示す図である。
【
図10】(a)第二実施形態に係る磁性体膜の斜視図である。(b)~(d)磁性体膜で測定されたヒステリシス曲線を示すグラフである。
【
図11】(a)第二実施形態に係る磁性体膜に対して電圧を印加する状態を、模式的に示す図である。(b)~(e)電圧を印加した磁性体膜の磁気光学カー効果画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を適用した実施形態に係るスピンテクスチャ制御装置、スピンテクスチャ制御方法について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0018】
<第一実施形態>
図1(a)は、本発明の第一実施形態に係る、スピンテクスチャ制御装置100の構成を模式的に示す断面図である。スピンテクスチャ制御装置100は、主に、基材101と、基材の一面101aに形成された積層体102と、積層体102に接続された電源103と、を備えている。本明細書では、スキルミオン、磁気バブル、磁壁等に代表されるトポロジカルな磁気構造(磁気秩序、磁気模様)のことを総称して、「スピンテクスチャ」と呼ぶ。
【0019】
基材101としては、ガラス、表面に絶縁体を有するシリコンウェーハ等の非磁性の絶縁材料からなるものを用いることができる。基材101の厚みについて制限されることはない。
【0020】
積層体102は、下部電極層104、磁性体膜105、絶縁層106、上部電極層107が順に積層されてなる。磁性体膜105は、膜面に垂直な方向に磁気異方性を有しており、この磁気異方性が、積層体102の積層方向D1(z方向)と直交する方向D2(x方向)において、連続的に単調に増加または減少している。
【0021】
本実施形態の第二磁性体部102Bは、方向D
2において、一端102a側に近づくにつれて、連続的または断続的に、徐々に薄くなっている。本実施形態では、第二磁性体部102Aが、一端102a側に近づくにつれて、連続的に薄くなる楔形状を有する場合について例示している。なお、
図1(a)に示すように、一端102a側に近づくにつれ、下部電極層104の厚みも、磁性体膜105と同様に薄くなっていてもよい。
【0022】
本実施形態の磁性体膜105は、方向D2において、他端102b側に配置された板状の第一磁性体部102Bと、第一磁性体部102Bの側面から突出し、一端102a側に向かって延在する複数の第二磁性体部102Aと、で構成されている。
【0023】
第二磁性体部102Aの頂面(上面)は、
図1(a)に示すように平坦な傾斜面であってもよいし、曲面であってもよい。また、本実施形態では、下部電極層104、磁性体膜105のいずれも、方向D
2における他端102b側が、下部電極層104、磁性体膜105の厚みが固定された第一磁性体部102Bとなっている場合について例示している。
【0024】
図1(b)は、スピンテクスチャ制御装置100を、上部電極層107側から見た斜視図である。本実施形態では、積層体102の積層方向D
1からの平面視において、第一磁性体部102Bから複数の第二磁性体部102Aが突出し、一端102a側に向かって延在している場合について例示している。複数の第二磁性体部102Aのうち、一部または全部の幅が揃っていなくてもよい。なお、第二磁性体部102Aは複数でなく一つであってもよい。
【0025】
積層体102を構成する各層は、いずれも、マスクスパッタリング法、マスク蒸着法等の公知の方法で成膜し、フォトリソグラフィ等でパターニングすることによって得られる。なお、積層体の第二磁性体部102Aの形状は、たとえばマスクスパッタリング法により積層体102の各層を形成する際に、マスクを移動させながら行うことによって形成することができる。また、マスク位置を固定しマスクの側面の影を利用することによって形成することができる。下部電極層104は、導電性を有し、レーザー光を反射させる材料からなる。上部電極層107は、酸化インジウムスズ(In2O3とSnO2の無機混合物)、厚さ3nm以下の金属薄膜等のレーザー光を透過させる材料からなる。
【0026】
本実施形態の磁性体膜105は、例えば、CoNi、Co、Ni、Fe等の磁性材料からなる磁性層105Aと、例えば、Ta、W、Ir、Pt、Pd、Au等の遷移金属材料からなる遷移金属層105Bと、が交互に積層されてなるサンドイッチ構造(多層構造)を有する。これは、ナノメートルレベルの厚さ範囲において、磁性層105Aが、上下層の遷移金属層105Bに挟まれることにより、それぞれの遷移金属層105Bとの境界面に対して略垂直な方向(すなわち積層方向D1)に、磁気異方性を発現させるためである。磁性層105Aと遷移金属層105Bとを積層することにより、室温において、積層体(磁性体膜105)の垂直磁気異方性を発現させることができる。なお、単層構造の磁性層105Aでは、このような垂直磁気異方性が発現しない。
【0027】
本実施形態では、CoNiからなる磁性層105A、Ptからなる遷移金属層105Bを、それぞれ二層ずつ有する場合について例示しているが、磁性層105Aと遷移金属層105Bは、それぞれ少なくとも1層あればよい。第一磁性体部102Bにおける磁性層105Aの厚みは、0.1~1nm程度であることが好ましく、遷移金属層105Bの厚みは0.1~2nm程度であることが好ましい。
【0028】
第二磁性体部102Aの厚みは、磁性層105Aの磁気異方性係数の面直分量Kuzが、下記式(1)を満たす範囲で変動するものとする。ここで、μ0は真空の透磁率(12.556×10-7H/m)を示し、Msは磁性層105Aの飽和磁化を示している。
【0029】
【0030】
第二磁性体部102Aを楔形状とする場合、一端102a側の厚みTa、他端102b側の厚みTb、長さTcは、それぞれ次に示す範囲に含まれる。
0.2nm<Ta<0.5nm
0.5nm<Tb<3.5nm
Tc>50nm
【0031】
電源103は、直流電源であり、下部電極層104と上部電極層107との間に電圧を印加することができるように、両電極層104、107に接続されている。なお、磁性体膜105の最下層の遷移金属層105Bを下部電極層104を兼ねるように構成することができる。
【0032】
絶縁層106は、下部電極層104と上部電極層107との間に電圧を印加した際に、積層体102に電流が流れないようにする層であり、例えば、酸化シリコン(SiO2)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)等の絶縁材料からなる。絶縁層106の厚みは、数十nmから数百nm程度であることが好ましい。本実施形態では、絶縁層106が、上部電極層107と磁性体膜105との間にある場合について例示しているが、絶縁層106は、下部電極層104と磁性体膜105との間にあってもよい。
【0033】
スピンテクスチャ制御装置100は、レーザー光スポットを用いたスピンテクスチャの移動の検出手段108を、さらに備えていてもよい。レーザー光スポットを用いたスピンテクスチャの移動の検出手段108により、磁性層105A内の所定の位置に、スキルミオン、磁壁等のトポロジカルなスピンテクスチャ(磁気構造)の移動をリアルタイム的に検出することができる。実験では径0.3μmのレーザ光スポットを使用した。
【0034】
スピンテクスチャ制御装置100おいて、積層体102の積層方向D
1に電圧を印加する(電場EFを発生させる)ことにより、磁性層105Aの磁化方向が局所的に傾き、スキルミオンSが発生する。
図2は、スピンテクスチャ制御装置100の第二磁性体部102Aの一部を拡大し、スキルミオンSが発生した状態(右側)、消滅した状態または発生していない状態(左側)、およびスキルミオンの構成(中央)を示すイメージ図である。下部電極層104と上部電極層107との間に印加する電圧を調整することにより、磁性層105A内の磁壁、スキルミオン、磁気バブル等のスピンテクスチャの生成および消滅を制御することができ、また、生成したスピンテクスチャを制御することができる。
【0035】
以上のように、本実施形態に係るスピンテクスチャ制御装置100では、磁性層105Aが、一端102a側に近づくにつれて薄くなり、それに伴って厚み方向に沿った磁気異方性(垂直磁気異方性)が小さくなっている。すなわち、スピンテクスチャを動かす方向(x方向)において、磁性層105Aの垂直磁気異方性の強さが勾配を有している。そして、この磁性層105Aの厚み方向に印加する電圧を調整することにより、スピンテクスチャを動かす方向における、垂直磁気異方性の勾配の大きさを変えることができ、スピンテクスチャを構成するスピンの反転しやすさ、すなわち、スピンテクスチャの拡大縮小または移動のしやすさを変えることができる。したがって、本実施形態に係るスピンテクスチャ制御装置100では、磁性層105Aに印加する電圧を調整することによって、磁性層105A中のスピンテクスチャの動きを容易に制御することができる。
【0036】
本実施形態のスピンテクスチャ制御装置100では、従来のスピンテクスチャ制御装置のように磁性層105A中に電流を流さないため、ジュール熱が発生することがなく、熱拡散による情報の損失を抑えるとともに、消費電力を低く抑えることができる。スピンテクスチャ制御装置100は、形成されるスピンテクスチャをメモリの単位データとすることにより、メモリデバイスとして活用することができ、さらに、ジュール熱の影響による劣化の虞がないため、長時間連続して駆動することができる。
【0037】
本実施形態のスピンテクスチャ制御装置100では、例えば、実施例5として後述するように、積層体102を、幅が約10nm以上20μm以下、より好ましくは約10nm以上1μm以下の細線パターンとすることにより、磁性層105内に、スピンテクスチャを一つずつ生成・消滅させることができる。スピンテクスチャの生成・消滅状態については、電圧制御が可能である。たとえば細線内に一つのスキルミオンを生成させ、生成させたスキルミオンにプローブ等を利用して電界を作用させることでスキルミオンの磁化を反転させ(書き込み)、レーザカー効果あるいは磁気抵抗効果素子等によりスキルミオンの磁化状態を検知(読み取り)することにより、スピンテクスチャ制御装置100をメモリ素子として利用することが可能である。細線パターンは、きわめて微細に高密度に形成することが可能であり、細線に生成させたスキルミオンを利用することで、データを記憶するメモリ装置を構成することが可能である。
【0038】
本実施形態に係るスピンテクスチャの制御装置100によれば、電界の作用のみによってスキルミオンを制御することが可能であり、電流を利用して制御する方法と比較して、制御時にまったくジュール熱を発生させないという利点がある。
【0039】
<第二実施形態>
図3(a)は、本発明の第二実施形態に係る、スピンテクスチャ制御装置200の構成を模式的に示す断面図である。
図3(b)は、スピンテクスチャ制御装置200を、上部電極層107側から見た斜視図である。スピンテクスチャ制御装置200では、第二磁性体部102A、ひいては磁性体膜105の厚みが、積層方向と直交する方向D
2において略一様となっている。磁性体膜105以外の構成については、第一実施形態のスピンテクスチャ制御装置100と同様であり、対応する箇所については、形状の違いによらず、同じ符号で示している。
【0040】
磁性体膜105は、膜面に垂直な方向に磁気異方性を有しており、磁気異方性が、積層方向と直交する方向D2において、連続的に単調に変化(増加または減少)している。すなわち、磁性体膜の一端102aから他端102bまでの間において、位置が変わるにつれて、磁気異方性の向きが緩やかに回転するように構成されている。一端102aにおける磁気異方性の向きと、他端102bにおける磁気異方性の向きとは、ほぼ直交している。
【0041】
このような磁気異方性を有する磁性体膜105としては、例えば、鉄とコバルトのうち少なくとも一方と、重希土類金属と、の合金からなるものが挙げられる。重希土類金属は、希土類元素のランタノイド類の中でGd(ガドリニウム)以上の原子量をもつ元素である。具体的な磁性体膜105の材料としては、例えば、TbFeCo(テリビウム-鉄-コバルト)、TbFe(テリビウム-鉄)、TbCo(テリビウム-コバルト)、GdFeCo(ガドリニウム-鉄-コバルト)、GdFe(ガドリニウム-鉄)、GdCo(ガドリニウム-コバルト)、DyFeCo(ジスプロシウム-鉄-コバルト)等が挙げられる。
【0042】
磁性体膜105は、スピンテクスチャを動かす方向(x方向)において、垂直磁気異方性の強さが勾配を有していればよく、本実施形態の磁性層のように平板状であってもよいし、他の形状であってもよい。
【0043】
図4は、本実施形態の積層体102の製造方法について説明する図である。まず、基材20を、回転可能な基材ホルダ(回転板)10上(
図4では下側の表面)に設置する。さらに、基材ホルダの回転中心(回転軸)10Cから偏位(離間)し、かつ回転軸10C方向からの平面視において基材20の回転軌道と重なる位置に、磁性体膜105の材料からなるターゲット30を設置する。その他に、下部電極層用のターゲット31、絶縁層用のターゲット(図示を省略している)および上部電極層用のターゲット(図示を省略している)を設置する。なお、基材20は磁性体膜105の材料からなるターゲット30の直上になく、基材ホルダ(回転板)10の回転円の半径方向に対して、基材20の中心はターゲット30の中心からずれている。
【0044】
その上で、基材ホルダ10を回転させながら、磁性体膜用のタ-ゲット30およびその他のターゲットを用いたスパッタリングを行い、回転板10とともに回転する基材20に対し、それぞれのターゲットからたたき出された下部電極層104の材料、磁性体膜105の材料、絶縁層106の材料、上部電極層107の材料を、順に堆積させることにより、積層体102を形成する。このとき、基材ホルダの回転円の半径方向に対して基材20の中心がターゲット30の中心とずれているため、磁性体膜105は、斜めスパッタリングによって成膜される。
【0045】
このような斜めスパッタリングを行うことにより、形成される磁性体膜105の磁気異方性は、基材20の長手方向(すなわち基材ホルダの回転円の半径方向)においてグラディエーションを有するものとなる。具体的には、磁気異方性の向きが、基材20の一端側では積層方向D1に垂直であり、基材20の他端側では積層方向D1に平行である。基材20の両端の間では、一端側から他端側に向かって、あるいは他端側から一端側に向かって、磁気異方性の向きが、垂直方向から平行方向に連続的に変化している。ここで用いる磁性体膜用のターゲット30としては、例えば、TbFeCo等の重希土類金属とFe、Coの三元系の合金ターゲット等が挙げられる。重希土類金属の組成をx(at%)、FeCoの組成を100-x(at%)とすると、磁性体膜に垂直磁気異方性を生じさせるためには、x=19~32(at%)の範囲であることが好ましい。また、ここで用いる下部電極層のターゲット31としては、例えば、Pt、Au(金)、Cu(銅)等が挙げられる。さらに、絶縁層用のターゲットとしては、例えば、酸化シリコン(SiO2)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)等の絶縁材料からなる。また、上部電極層用のターゲットは、酸化インジウムスズ、PtAu、Cu等が挙げられる。
【0046】
本実施形態の磁性体膜105においても、厚み方向に印加する電圧を調整することにより、スピンテクスチャを動かす方向における、垂直磁気異方性の勾配の大きさを変えることができる。これにより、磁性体膜105におけるスピンテクスチャを構成するスピンの反転しやすさ、すなわち、スピンテクスチャの拡大縮小または移動のしやすさを変えることができる。したがって、本実施形態に係るスピンテクスチャ制御装置200でも、磁性体膜105に印加する電圧を調整することによって、磁性体膜105中のスピンテクスチャの動きを容易に制御することができる。本実施形態では、磁性体膜105の形状が平坦であり、所定の厚みを有する領域が増える分、スピンテクスチャの駆動距離をより長くすることができる。
【0047】
<第三実施形態>
本発明の第三実施形態に係るスピンテクスチャ制御装置(不図示)は、磁性体膜が、鉄とコバルトのうち少なくとも一方と、重希土類金属と、の合金からなり、かつ第二磁性体部が、積層方向と直交する方向において、一端側に近づくにつれて薄くなっている。磁性体膜以外の構成については、第一実施形態のスピンテクスチャ制御装置と同様である。第三実施形態のスピンテクスチャ制御装置においても、第一実施形態、第二実施形態のスピンテクスチャ制御装置と同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0049】
(実施例1)
上述したスピンテクスチャ制御装置100において、積層体102内の位置、積層体102に印加する電圧と、ヒステリシス曲線の関係について調べた。
【0050】
図5(a)は、積層体の一端102aからの距離lを10μm、20μm、30μmとしたときのヒステリシス曲線を示すグラフである。印加電圧V
Gを0Vとした。さらに、このグラフには、積層体の一端102aからの距離lと磁化M
R/M
Sとの関係を示すグラフが、内挿されている。一端102aからの距離が約20μmとなる位置で磁化(反転)が発生し、約25μmとなる位置で飽和していることが分かる。
【0051】
図5(b)は、積層体102に印加する電圧V
Gを0V、-4V、-10Vとしたときのヒステリシス曲線を示すグラフである。電圧印加は一端102aから30μm離れた位置で行った。さらに、このグラフには、印加電圧V
Gと磁化M
R/M
Sとの関係を示すグラフが、内挿されている。印加電圧V
Gが約-8Vとなったときに磁化が発生し、約-6Vとなったときに飽和していることが分かる。この結果から、印加電圧を調整することによる、磁化方向の反転が可能であることが分かる。
【0052】
(実施例2)
上述したスピンテクスチャ制御装置100において、磁性層105A(磁性体膜105)に印加した電圧V
G、磁場H
zの大きさに依存して、磁性層105Aの磁化状態が変化する様子を調べた。磁性層105AをCoNiで形成し、その厚さを0.5nmとした。遷移金属層105BをPtで形成し、その厚さを0.5nmとした。絶縁層106をSiO
2で形成し、その厚さを100nmとした。上部電極層107をITOとし、下部電極層104は遷移金属層(Pt)で兼用する構成とした。
図6(a)~(d)は、各条件において、上部電極層107側から見た磁性層105Aの磁気光学カー効果画像(MOKE)画像である。
【0053】
図6(b)は、磁場を印加していない状態(H
z=0mT)で、上から順に、印加する電圧V
Gを-2.0V、-6.5V、-9.0V、-6.5V、-4.5Vとした場合のMOKE画像を示している。スピンテクスチャは、磁場がない状態であっても発生させることができ、電圧の大きさ(絶対値)を変えることにより、スピンテクスチャの大きさ、動きを制御することができる。具体的には、磁性層105Aに印加する電圧V
Gを大きくすると、一端102a側(薄膜側(ここでは左側))の端部で発生した磁壁が他端102b側(厚膜側(ここでは右側))に拡大し、さらに大きくするとスキルミオンが発生する。反対に、電圧V
Gを小さくすると、スキルミオンが消失し、磁壁は一端102a側(ここでは左側)に縮小する。電圧V
Gの増減を何度繰り返しても、同様の振る舞いが見られることになる。
【0054】
図6(d)は、電圧を印加せず(V
G=0V)、磁場H
zのみによってスピンテクスチャを増大させた場合のMOKE画像を示している。
図6(d)から分かるように、磁場H
zは磁化の反転をアシストする機能を有しているため、電圧V
Gによるスピンテクスチャの拡大縮小の効果を強めることができる。
図6(a)、(c)は、それぞれ磁場H
zを-0.2mT、0.2mTとし、電圧については、
図6(b)と同様とした場合のMOKE画像を示している。磁場のアシストにより、スピンテクスチャの拡大率と縮小率のいずれも高くなる。
【0055】
(実施例3)
上述したスピンテクスチャ制御装置100において、上部電極層107と下部電極層104との間に電圧VGを印加した。振動電圧VGの周波数を7Hzとし、振動の範囲を-8V~0Vとした。初期状態の磁性層105Aの磁化を、上向きとした。
【0056】
図7(a)は、磁性層105Aのレーザー光の照射スポット周辺を拡大した図である。
図7(a)の下側の図は、上部電極層107と下部電極層104との間に最大電圧を印加した状態を示している。この状態では、被照射スポットである中央部の磁化が反転し、局所的に下向き磁化の磁壁が形成されている。
図7(a)の上側の図は、上部電極層107と下部電極層104との間に最小電圧を印加した状態を示している。この状態では、磁化の反転が戻り、下向きになっていた磁化が上向きになり、磁壁がなくなっている。
【0057】
図7(b)は、印加する電圧の向きを周期的に変えた場合に、得られるカー信号の様子を示すグラフである。グラフの横軸は経過時間を示し、グラフの縦軸はカー信号を示している。このグラフから、電圧の増減を複数回繰り返して行っても、スピンテクスチャ移動の再現性があることが分かる。したがって、本発明のスピンテクスチャ制御装置100は、メモリを構成する単位データとして、磁壁等のスピンテクスチャを制御することにより、メモリデバイスとして活用することができる。
【0058】
(実施例4)
積層体の第二磁性体部102Aを構成する磁性体膜105の細線パターンに対し、時間変動する電圧を印加した。細線パターンについては、幅を6μmとし、長手方向の長さを500μmとした。磁場は印加しなかった。
【0059】
図8(a)は、電圧V
Gの時間変化(階段状のグラフ)および磁化反転距離Δxの時間変化(○印)のグラフ(上段)と、磁化反転速度vの時間変化のグラフ(下段)を示している。電圧V
Gを0Vから-4Vまで変化させた場合、細線パターンの薄膜側の端部(
図1の一端102a部)近傍で磁化反転している。さらに、電圧V
Gを-4Vから-7Vまで変化させた場合、磁化反転領域が、細線パターンの厚膜側(
図1では他端102b側)に広がり、その結果として、磁壁が移動する様子が見られている。移動中の磁壁からはスキルミオンも発生している。電圧V
Gを-7Vから-3.5Vに変化させた場合、磁壁とスキルミオンの両方が、薄膜側の端部に移動する。
【0060】
これらの結果から、磁化反転量および磁壁の移動速度は、磁性層に印加された電圧の絶対値に比例して変わることが分かる。そして、細線パターン中における磁壁、スキルミオン、磁気バブルの行き来を、電圧で制御できていることが分かる。
【0061】
図8(b)~(i)は、それぞれ、電圧V
Gとして-4V、―5V、-6V、-7V、-6V、-5V、-4V、-3Vを印加した場合に得られる、磁性層のMOKE画像である(細線のパターン幅は6μm)。印加電圧の大きさに比例して、磁化反転領域の面積が変化する。
【0062】
(実施例5)
図1のスピンテクスチャ制御装置100において、積層体の第二磁性体部102Aを構成する磁性体膜105に対し、厚み方向D
1に電圧を印加し、積層方向と直交する方向D
2(x方向)における磁性層105Aの垂直磁気異方性の勾配を小さくした。磁性層105Aとしては、x方向に1000nm、y方向に200nm、z方向に0~0.5nmの長さを有するものを用いた。この磁性層105Aについて、飽和磁化Msを550kA・m
-1とし、Heisenberg交換係数Aを22pJ・m
-1とし、DMI定数を1.2mJ・m
-2とした。
【0063】
図9(a)は、電圧印加による、磁性層105Aの垂直磁気異方性の変化を示すグラフである。グラフの横軸はx方向における位置を示している。グラフの縦軸は、垂直磁気異方性の強さについて、x=1000nmでの値で規格化したものを示している。このグラフから、電圧印加に伴って、垂直磁気異方性の勾配が、初期の0.001nm
-1より小さくなっていることが分かる。
【0064】
図9(b)は、x=1000nmにおける垂直磁気異方性の強さと、スキルミオンが形成される位置の関係について示すグラフである。グラフの横軸、縦軸は、それぞれ、x方向、y方向における位置を示している。このグラフから、x=220nmのところでスキルミオンが発生しており、x=1000nmにおける垂直磁気異方性が弱くなるにつれて、すなわち、垂直磁気異方性の勾配が小さくなるにつれて、スキルミオンがx方向に沿って直線状に移動していることが分かる。この結果は、磁性層105Aに電圧を印加することによって、スキルミオンの動きを高い精度で制御し得ることを示している。
【0065】
図9(c)は、x=1000nmにおける垂直磁気異方性の強さを、1.0、0.96、0.92、0.88、0.72、0.60としたときのスキルミオン発生の様子を示す図である。これらの図から、x=1000nmにおける垂直磁気異方性が弱くなるにつれて、すなわち、垂直磁気異方性の勾配が小さくなるにつれて、発生するスキルミオンが小さくなっていることが分かる。この結果は、磁性層105Aに電圧を印加することによって、スキルミオンの大きさを制御することができ、ひいてはスキルミオンの生成・消滅を制御し得ることを示している。
【0066】
(実施例6)
第二実施形態のスピンテクスチャ制御装置200において、斜めスパッタリングを行って形成された磁性体膜105について、長手方向D2における位置と、ヒステリシス曲線の関係について調べた。ここでは、磁性体膜105として、下地層、TbFeCo層、キャッピング層を順に積層したものを用いた。TbFeCo層の膜厚は3nmである。下地層とキャッピング層としては、Ptからなり、1.5nmの厚みを有するものを用いた。
【0067】
図10(a)は、磁性体膜105の斜視図である。
図10(b)~(d)は、磁性体膜の一端側105a、中央105b、他端側105cで測定された、膜面に平行方向(∥)に磁場を印加したときと、膜面に垂直方向(膜厚方向)(⊥)に磁場を印加したときのヒステリシス曲線を示すグラフである。ヒステリシス曲線の測定には、VSM(Vibrating Sample Magnetometer(振動試料型磁力計))を用いた。印加磁場を±10kOeとした。ここでの磁性体膜の一端側105aは、斜めスパッタリングを行った際の回転軸10Cから遠い側に相当する。反対に、磁性体膜の他端側105cは、回転軸10Cに近い側に相当する。
【0068】
図10(b)のグラフによれば、磁性体膜の一端側105aでは、磁化容易軸が膜面に平行方向、磁化困難軸が膜面に垂直方向となっている。また、
図10(c)のグラフによれば、磁性体膜の中央105bでは、ヒステリシス曲線がほぼ同じとなっており磁気的に等方膜となっている。また、
図10(d)のグラフによれば、磁性体膜の他端側105cでは、磁化困難軸が膜面に平行方向、磁化容易軸が膜面に垂直方向となっている。これらの結果から、上述した斜めスパッタリングによって形成される磁性体膜は、磁気異方性が、磁性体膜105の長手方向D
2においてグラディエーションを有していることが分かる。
【0069】
(実施例7)
第二実施形態のスピンテクスチャ制御装置200において、電圧印加に伴ってTbFeCoからなる磁性体膜105中の磁壁(スピンテクスチャ)が移動する様子を、磁気光学カー効果(極カー効果)による磁区観測装置を用いて調べた。
図11(a)は、磁性体膜105を上部電極層107と下部電極層104とで挟み、両電極を介し、磁性体膜105に対して電圧V
Gを印加する状態を、模式的に示す図である。磁性体膜105の膜厚は3nm、上部電極層107と下部電極層104の膜厚は共に1.5nmである。ここでは、磁性体膜105と上部電極層107との間にある酸化シリコン(SiO
2)の絶縁層の図示を省略している。また、磁性体膜105と下部電極層104との間にもSiO
2絶縁層(不図示)が挿入されている。絶縁層の膜厚は何れも100nmである。
図11(b)~(e)は、それぞれ、印加する電圧V
Gを1.0V、1.5V、2.0V、2.5Vとした場合の磁性体膜105の極カー効果画像において、磁壁近傍を拡大したものである。上部電極層の膜厚が1.5nmと薄いため、光が上部電極層を透過し磁性体膜105の表面で反射することができる。磁性体膜105は、その厚み方向(上部電極107側)に磁化した黒色領域(磁区)と、厚み方向と直交する面内方向に磁化した白色領域(磁区)とで構成されており、二つの領域(磁区)の境界が磁壁に相当する。
【0070】
図11(b)~(e)の画像同士の比較から、印加電圧を大きくするにつれて、磁性体膜105における磁壁の位置が、一端側(左側)から他端側(右側)に移動している様子を確認することができる。ここでは、約30μmの範囲での磁壁の移動を示しているが、印加電圧を増加させることにより、この範囲を大きく超えて移動させることもできる。これらの結果から、本発明のスピンテクスチャ制御方法は、磁壁を電場(電圧)で駆動させることができ、ジュール熱の発生を伴う電流で駆動させる場合に比べ、消費エネルギーを抑えることができる点において、極めて有効な方法であることが分かる。
【符号の説明】
【0071】
100、200・・・スピンテクスチャ制御装置
101・・・基材
101a・・・基材の一面
102・・・積層体
102A・・・第二磁性体部
102B・・・第一磁性体部
102a・・・積層体の一端
102b・・・積層体の他端
103・・・電源
104・・・下部電極層
105・・・磁性体膜
105A・・・磁性層
105B・・・遷移金属層
105a・・・磁性体膜の一端側
105b・・・磁性体膜の中央
105c・・・磁性体膜の他端側
106・・・絶縁層
107・・・上部電極層
108・・・レーザー光照射手段
10・・・基材ホルダ
10C・・・回転軸
20・・・基材
30、31・・・ターゲット
D1・・・積層方向
D2・・・積層方向と直交する方向
EF・・・電場
S・・・スキルミオン