(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】微生物由来化合物を用いたアルツハイマー病の予防、治療、または診断薬
(51)【国際特許分類】
A61K 31/44 20060101AFI20230725BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230725BHJP
A61K 31/357 20060101ALN20230725BHJP
A61K 31/365 20060101ALN20230725BHJP
A61K 31/7048 20060101ALN20230725BHJP
A61K 31/69 20060101ALN20230725BHJP
G01N 33/53 20060101ALN20230725BHJP
【FI】
A61K31/44
A61P25/28
A61K31/357
A61K31/365
A61K31/7048
A61K31/69
G01N33/53 D
(21)【出願番号】P 2020513467
(86)(22)【出願日】2019-04-12
(86)【国際出願番号】 JP2019016029
(87)【国際公開番号】W WO2019198825
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2018077632
(32)【優先日】2018-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】井上 治久
(72)【発明者】
【氏名】近藤 孝之
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-504131(JP,A)
【文献】特開平04-210679(JP,A)
【文献】特開平09-143072(JP,A)
【文献】The Journal of Antibiotics,1995年,Vol.48, No.2,pp.103-105
【文献】The Journal of Antibiotics,1995年,Vol.48, No.2,pp.99-102
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mer-A2026
Aまたはその医薬的に許容される塩を含む、アルツハイマー病の予防または治療剤。
【請求項2】
Mer-A2026Aを含む、アルツハイマー病の予防または治療剤。
【請求項3】
アルツハイマー病の予防または治療剤の製造における、Mer-A2026
Aまたはその医薬的に許容される塩の使用。
【請求項4】
アルツハイマー病の予防または治療剤の製造における、Mer-A2026Aの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物由来物質を用いたアルツハイマー病の予防、治療、または診断薬に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病(AD)は、認知機能低下、および人格の変化を主な症状とする認知症の一種である。アルツハイマー病脳病変の特徴としては、神経細胞の変性消失とそれに伴う大脳萎縮、老人斑の多発、および神経原線維変化(NFT)の多発が挙げられる。このうち、老人斑は、アミロイドβ(Aβ)ペプチドの凝集蓄積であることが知られている。Aβは、アミロイド前駆タンパク質(APP)のβ-およびγセクレターゼによる切断の結果産生する38~43アミノ酸からなるペプチドである。このうち、Aβ42は凝集能および神経細胞毒性が高いことが知られており、家族性アルツハイマー病(FAD)の原因変異を有する細胞において、Aβ42/40比の上昇が認められることが報告されている。このため、Aβ42量やAβ42/40比を減少させることが、アルツハイマー病の発症を抑制するためのキーポイントになることが広く認識されている。
【0003】
アルツハイマー病の発症は、個人が有するゲノム情報のみならず、マイクロバイオームと呼ばれる体内の微生物からなる細菌叢が寄与することが示唆されている。しかしながら、その詳細なメカニズムは分かっておらず、アルツハイマー病の発症と関連する微生物や、アルツハイマー病の発症と関連する微生物由来化合物についての知見も得られていない。
【0004】
現在、アルツハイマー病の治療薬は、ドネペジルを初めいくつかの治療薬が市場に登場してはいるが、未だ根本的な治療薬は見出されてはおらず、これまでにないような構造やメカニズムを有する新たな治療薬の創薬が切望されていた。
【0005】
また、軽度認知障害(Mild cognitive impairment、MCI)に至るよりも前の段階ですでにAβの病理的変化が進行していることが知られており、早期発見および早期治療が必要であると考えられている。しかしながら、現在市場に登場している診断薬では早期のAβの病理的変化を十分に検出することはできず、Aβの病理的変化を早期発見しうる新たな診断薬の創薬が切望されていた。
【0006】
ところで、患者由来のiPS細胞(疾患iPS細胞)から分化誘導された病因となる細胞は、in vitroで患者の病態を再現していると予測されることから、有力な薬効評価系として期待されている。ヒトiPS細胞由来神経細胞に関する最近の報告では、薬物応答性を評価するツールとしてのヒト神経細胞の重要性が強調されている(非特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】PLoS One 6, e25788(2011)
【文献】JAMA Neurol.71,1481-9(2014)
【文献】Stem Cell Reports 1,491-498(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のとおり、アルツハイマーの治療においては、未だ満足できる治療薬は見出されておらず、新たな創薬が期待されていた。本発明は、これまでアルツハイマー治療薬として研究されていないような新たな構造の化合物による創薬を目指して、微生物由来化合物をスクリーニングし、新たなアルツハイマー病の予防または治療剤を見出し、それを提供することを目的とする。また、本発明は、微生物由来化合物を用いたアルツハイマー病の診断薬を見出し、それを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行い、アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から分化誘導した神経細胞を用いて、種々微生物由来化合物をスクリーニングした結果、特定のいくつかの微生物由来化合物が該神経細胞においてAβ42量やAβ42/40比を変化させることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は、以下の[1]~[16-2]に関する。
[1]
Mer-A2026A、ベルカリンA、カラフンギン、コンカナマイシンA、エフォマイシンA、ブレフェルジンA、ユーペニフェルジン、エライオフィリン、およびボロマイシンからなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩を含む、アルツハイマー病の予防または治療剤;
[2]
化合物がMer-A2026AおよびベルカリンAからなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩である、[1]に記載の剤;
[3]
化合物がMer-A2026Aまたはその医薬的に許容される塩である、[1]に記載の剤;
[3-1]
化合物がカラフンギンまたはその医薬的に許容される塩である、[1]に記載の剤;
[4]
アルツハイマー病の予防または治療剤の製造における、Mer-A2026A、ベルカリンA、カラフンギン、コンカナマイシンA、エフォマイシンA、ブレフェルジンA、ユーペニフェルジン、エライオフィリン、およびボロマイシンからなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩の使用;
[4-1]
化合物がMer-A2026AおよびベルカリンAからなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩である、[4]に記載の使用;
[4-2]
化合物がMer-A2026Aまたはその医薬的に許容される塩である、[4]に記載の使用;
[5]
アルツハイマー病の予防または治療のための、Mer-A2026A、ベルカリンA、カラフンギン、コンカナマイシンA、エフォマイシンA、ブレフェルジンA、ユーペニフェルジン、エライオフィリン、およびボロマイシンからなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩;
[5-1]
アルツハイマー病の予防または治療のための、Mer-A2026AおよびベルカリンAからなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩;
[5-2]
アルツハイマー病の予防または治療のための、Mer-A2026Aまたはその医薬的に許容される塩;
[5-3]
Mer-A2026A、ベルカリンA、カラフンギン、コンカナマイシンA、エフォマイシンA、ブレフェルジンA、ユーペニフェルジン、エライオフィリン、およびボロマイシンからなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩の治療上有効量を患者に投与することを含む、アルツハイマー病の予防または治療方法;
[5-4]
化合物がMer-A2026AおよびベルカリンAからなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩である、[5-3]に記載の予防または治療方法;
[5-5]
化合物がMer-A2026Aまたはその医薬的に許容される塩である、[5-3]に記載の予防または治療方法;
[6]
検体中のユーペニフェルジン、エライオフィリン、ボロマイシン、Mer-A2026A、ベルカリンA、カラフンギン、コンカナマイシンA、エフォマイシンA、およびブレフェルジンAからなる群から選択される1種以上の化合物もしくはその医薬的に許容される塩、該化合物もしくはその医薬的に許容される塩を産生する微生物、または該微生物の抽出物を検出するための物質を含む、アルツハイマー病の診断薬;
[7]
化合物もしくはその医薬的に許容される塩、該化合物もしくはその医薬的に許容される塩を産生する微生物、または該微生物の抽出物を検出するための物質がユーペニフェルジン、エライオフィリン、ボロマイシン、Mer-A2026A、ベルカリンA、カラフンギン、コンカナマイシンA、エフォマイシンA、およびブレフェルジンAからなる群から選択される1種以上の化合物もしくはその医薬的に許容される塩、該化合物もしくはその医薬的に許容される塩を産生する微生物、または該微生物の抽出物に結合する抗体である、[6]に記載の診断薬;
[8]
化合物がユーペニフェルジン、エライオフィリン、およびボロマイシンからなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩である、[6]または[7]に記載の診断薬;
[9]
化合物がユーペニフェルジンまたはその医薬的に許容される塩である、[6]~[8]のいずれか1つに記載の診断薬;
[9-1]
アルツハイマー病の診断薬の製造における、ユーペニフェルジン、エライオフィリン、ボロマイシン、Mer-A2026A、ベルカリンA、カラフンギン、コンカナマイシンA、エフォマイシンA、およびブレフェルジンAからなる群から選択される1種以上の化合物もしくはその医薬的に許容される塩、該化合物もしくはその医薬的に許容される塩を産生する微生物、または該微生物の抽出物に結合する抗体の使用;
[9-2]
化合物がユーペニフェルジン、エライオフィリン、およびボロマイシンからなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩である、[9-1]に記載の使用;
[9-3]
化合物がユーペニフェルジンまたはその医薬的に許容される塩である、[9-1]に記載の使用;
[10]
アルツハイマー病を診断するための、ユーペニフェルジン、エライオフィリン、ボロマイシン、Mer-A2026A、ベルカリンA、カラフンギン、コンカナマイシンA、エフォマイシンA、およびブレフェルジンAからなる群から選択される1種以上の化合物もしくはその医薬的に許容される塩、該化合物もしくはその医薬的に許容される塩を産生する微生物、または該微生物の抽出物に結合する抗体;
[10-1]
化合物がユーペニフェルジン、エライオフィリン、およびボロマイシンからなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩である、[10]に記載の抗体;
[10-2]
検体中のユーペニフェルジン、エライオフィリン、ボロマイシン、Mer-A2026A、ベルカリンA、カラフンギン、コンカナマイシンA、エフォマイシンA、およびブレフェルジンAからなる群から選択される1種以上の化合物もしくはその医薬的に許容される塩、該化合物もしくはその医薬的に許容される塩を産生する微生物、または該微生物の抽出物を検出するプロセスを含む、アルツハイマー病の診断方法;
[10-3]
検体中のユーペニフェルジン、エライオフィリン、およびボロマイシンからなる群から選択される1種以上の化合物もしくはその医薬的に許容される塩、該化合物もしくはその医薬的に許容される塩を産生する微生物、または該微生物の抽出物を検出するプロセスを含む、アルツハイマー病の診断方法;
[10-4]
検体中のユーペニフェルジンもしくはその医薬的に許容される塩、該化合物もしくはその医薬的に許容される塩を産生する微生物、または該微生物の抽出物を検出するプロセスを含む、アルツハイマー病の診断方法;
[11]
検体中のロリジンA、ロイカニシジン、バフィロマイシンA1、およびバフィロマイシンB1からなる群から選択される1種以上の化合物もしくはその医薬的に許容される塩、該化合物もしくはその医薬的に許容される塩を産生する微生物、または該微生物の抽出物を検出するための物質を含む、アルツハイマー病の診断薬;
[12]
化合物もしくはその医薬的に許容される塩、該化合物もしくはその医薬的に許容される塩を産生する微生物、または該微生物の抽出物を検出するための物質がロリジンA、ロイカニシジン、バフィロマイシンA1、およびバフィロマイシンB1からなる群から選択される1種以上の化合物もしくはその医薬的に許容される塩、該化合物もしくはその医薬的に許容される塩を産生する微生物、または該微生物の抽出物に結合する抗体である、[11]に記載の診断薬;
[13]
化合物がロリジンAまたはその医薬的に許容される塩である、[11]または[12]に記載の診断薬;
[13-1]
アルツハイマー病の診断薬の製造における、ロリジンA、ロイカニシジン、バフィロマイシンA1、およびバフィロマイシンB1からなる群から選択される1種以上の化合物もしくはその医薬的に許容される塩、該化合物もしくはその医薬的に許容される塩を産生する微生物、または該微生物の抽出物に結合する抗体の使用;
[13-2]
化合物がロリジンAまたはその医薬的に許容される塩である、[13-1]に記載の使用;
[14]
アルツハイマー病を診断するための、ロリジンA、ロイカニシジン、バフィロマイシンA1、およびバフィロマイシンB1からなる群から選択される1種以上の化合物もしくはその医薬的に許容される塩、該化合物もしくはその医薬的に許容される塩を産生する微生物、または該微生物の抽出物に結合する抗体;
[14-1]
化合物がロリジンAまたはその医薬的に許容される塩である、[14]に記載の抗体;
[15]
検体が血液、血漿、血清、間質液、血管外液、脳脊髄液、滑液、胸膜液、リンパ液、唾液、尿、および便からなる群から選択される、[6]~[9]または[11]~[13]のいずれか1つに記載の診断薬;
[16]
検体中のロリジンA、ロイカニシジン、バフィロマイシンA1、およびバフィロマイシンB1からなる群から選択される1種以上の化合物もしくはその医薬的に許容される塩、該化合物もしくはその医薬的に許容される塩を産生する微生物、または該微生物の抽出物を検出するプロセスを含む、アルツハイマー病の診断方法;
[16-1]
検体中のロリジンAもしくはその医薬的に許容される塩、該化合物もしくはその医薬的に許容される塩を産生する微生物、または該微生物の抽出物を検出するプロセスを含む、アルツハイマー病の診断方法;
[16-2]
検体が血液、血漿、血清、間質液、血管外液、脳脊髄液、滑液、胸膜液、リンパ液、唾液、尿、および便からなる群から選択される、[10-2]~[10-4]または[16]~[16-1]のいずれか1つに記載の診断方法。
【0011】
また、本発明は、以下の[17]~[45]にも関する。
[17]
Mer-A2026A、ベルカリンA、カラフンギン、コンカナマイシンA、エフォマイシンA、ブレフェルジンA、ユーペニフェルジン、エライオフィリン、およびボロマイシンからなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩を含む、Aβ42量および/またはAβ42/40比を変化させるための剤;
[18]
Mer-A2026AおよびベルカリンAからなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩を含む、Aβ42量および/またはAβ42/40比を減少させるための剤;
[19]
Mer-A2026Aまたはその医薬的に許容される塩を含む、Aβ42量および/またはAβ42/40比を減少させるための剤;
[20]
ユーペニフェルジン、エライオフィリン、およびボロマイシンからなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩を含む、Aβ42量および/またはAβ42/40比を増加させるための剤;
[21]
ユーペニフェルジンまたはその医薬的に許容される塩を含む、Aβ42量および/またはAβ42/40比を増加させるための剤;
[22]
Aβ42量および/またはAβ42/40比を変化させるための剤の製造における、Mer-A2026A、ベルカリンA、カラフンギン、コンカナマイシンA、エフォマイシンA、ブレフェルジンA、ユーペニフェルジン、エライオフィリン、およびボロマイシンからなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩の使用;
[23]
Aβ42量および/またはAβ42/40比を減少させるための剤の製造における、Mer-A2026AおよびベルカリンAからなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩の使用;
[24]
Aβ42量および/またはAβ42/40比を減少させるための剤の製造における、Mer-A2026Aまたはその医薬的に許容される塩の使用;
[25]
Aβ42量および/またはAβ42/40比を増加させるための剤の製造における、ユーペニフェルジン、エライオフィリン、およびボロマイシンからなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩の使用;
[26]
Aβ42量および/またはAβ42/40比を増加させるための剤の製造における、ユーペニフェルジンまたはその医薬的に許容される塩の使用;
[27]
Aβ42量および/またはAβ42/40比を変化させるための、Mer-A2026A、ベルカリンA、カラフンギン、コンカナマイシンA、エフォマイシンA、ブレフェルジンA、ユーペニフェルジン、エライオフィリン、およびボロマイシンからなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩;
[28]
Aβ42量および/またはAβ42/40比を減少させるための、Mer-A2026AおよびベルカリンAからなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩;
[29]
Aβ42量および/またはAβ42/40比を減少させるための、Mer-A2026Aまたはその医薬的に許容される塩;
[30]
Aβ42量および/またはAβ42/40比を増加させるための、ユーペニフェルジン、エライオフィリン、およびボロマイシンからなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩;
[31]
Aβ42量および/またはAβ42/40比を増加させるための、ユーペニフェルジンまたはその医薬的に許容される塩;
[32]
Mer-A2026A、ベルカリンA、カラフンギン、コンカナマイシンA、エフォマイシンA、ブレフェルジンA、ユーペニフェルジン、エライオフィリン、およびボロマイシンからなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩の有効量を患者に投与することを含む、Aβ42量および/またはAβ42/40比を変化させる方法;
[33]
Mer-A2026AおよびベルカリンAからなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩の有効量を患者に投与することを含む、Aβ42量および/またはAβ42/40比を減少させる方法;
[34]
Mer-A2026Aまたはその医薬的に許容される塩の有効量を患者に投与することを含む、Aβ42量および/またはAβ42/40比を減少させる方法;
[35]
ユーペニフェルジン、エライオフィリン、およびボロマイシンからなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩を検体に添加することを含む、Aβ42量および/またはAβ42/40比を増加させる方法;
[36]
ユーペニフェルジンまたはその医薬的に許容される塩を検体に添加することを含む、Aβ42量および/またはAβ42/40比を増加させる方法;
[37]
ロリジンA、ロイカニシジン、バフィロマイシンA1、およびバフィロマイシンB1からなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩を含む、Aβ42量および/またはAβ42/40比を増加させるための剤;
[38]
ロリジンAまたはその医薬的に許容される塩を含む、Aβ42量および/またはAβ42/40比を増加させるための剤;
[39]
Aβ42量および/またはAβ42/40比を増加させるための剤の製造における、ロリジンA、ロイカニシジン、バフィロマイシンA1、およびバフィロマイシンB1からなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩の使用;
[40]
Aβ42量および/またはAβ42/40比を増加させるための剤の製造における、ロリジンAまたはその医薬的に許容される塩の使用;
[41]
Aβ42量および/またはAβ42/40比を増加させるための、ロリジンA、ロイカニシジン、バフィロマイシンA1、およびバフィロマイシンB1からなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩;
[42]
Aβ42量および/またはAβ42/40比を増加させるための、ロリジンAまたはその医薬的に許容される塩の使用;
[43]
ロリジンA、ロイカニシジン、バフィロマイシンA1、およびバフィロマイシンB1からなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩を検体に添加することを含む、Aβ42量および/またはAβ42/40比を増加させる方法;
[44]
ロリジンAまたはその医薬的に許容される塩を検体に添加することを含む、Aβ42量および/またはAβ42/40比を増加させる方法;
[45]
検体が血液、血漿、血清、間質液、血管外液、脳脊髄液、滑液、胸膜液、リンパ液、唾液、尿、および便からなる群から選択される、[35]、[36]、[43]、または[44]のいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明で用いる微生物由来化合物は、Aβ42量やAβ42/40比を変化させる作用を有するため、アルツハイマー病の予防、治療、または診断に有用である。特に、本発明で見出された予防または治療用化合物は、これまでアルツハイマー病治療薬としては未知の構造群の化合物であり、既存のアルツハイマー病治療薬の問題点を克服した薬剤として期待される。また、本発明で見出された診断用化合物は、これまでアルツハイマー病バイオマーカーとしては未知の構造群の化合物であり、既存のアルツハイマー病バイオマーカーの問題点を克服した化合物として期待される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】PSEN1のG384A変異を有する家族性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いた1回目のスクリーニング結果を示す。縦軸は1μMまたは50nMの各化合物を添加した場合のAβ40、Aβ42、およびAβ42/40比についてのDMSOコントロールに対する変化率を示す。横軸は化合物番号を示す。
【
図2】PSEN1のG384A変異を有する家族性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いた2回目のスクリーニング結果を示す。
【
図3】PSEN1のG384A変異を有する家族性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いて1μMの化合物で行った試験について、1回目のスクリーニングと2回目のスクリーニングの相関プロットを示す。縦軸は1回目のスクリーニングにおける値、横軸は2回目のスクリーニングにおける値を示す。
【
図4】孤発性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いたスクリーニング結果を示す。縦軸は1μMまたは50nMの各化合物を添加した場合のAβ40、Aβ42、およびAβ42/40比についてのDMSOコントロールに対する変化率を示す。横軸は化合物番号を示す。
【
図5】スクリーニングした各微生物由来化合物について、家族性と孤発性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いたスクリーニングにおけるAβ42/40比をプロットした結果を示す。縦軸は孤発性アルツハイマー病由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いた場合のAβ42/40比のDMSOに対する変化率を示し、横軸は家族性アルツハイマー病由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いた場合のAβ42/40比のDMSOに対する変化率を示す。
【
図6-1】家族性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞および孤発性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いた、Aβ40およびAβ42の産生量、Aβ42/40比、ならびに毒性についてのロイカニシジン(compound 01)の濃度依存性を示す。
【
図6-2】家族性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞および孤発性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いた、Aβ40およびAβ42の産生量、Aβ42/40比、ならびに毒性についてのバフィロマイシンA1(compound 02)の濃度依存性を示す。
【
図6-3】家族性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞および孤発性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いた、Aβ40およびAβ42の産生量、Aβ42/40比、ならびに毒性についてのロリジンA(compound 03)の濃度依存性を示す。
【
図6-4】家族性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞および孤発性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いた、Aβ40およびAβ42の産生量、Aβ42/40比、ならびに毒性についてのバフィロマイシンB1(compound 04)の濃度依存性を示す。
【
図6-5】家族性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞および孤発性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いた、Aβ40およびAβ42の産生量、Aβ42/40比、ならびに毒性についてのカラフンギン(compound 05)の濃度依存性を示す。
【
図6-6】家族性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞および孤発性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いた、Aβ40およびAβ42の産生量、Aβ42/40比、ならびに毒性についてのコンカナマイシンA(compound 06)の濃度依存性を示す。
【
図6-7-1】家族性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いた、Aβ40およびAβ42の産生量、Aβ42/40比、ならびに毒性についてのベルカリンA(compound 07)の濃度依存性を示す。同一のデータについてY軸のスケールが異なる2つのグラフを示している。
【
図6-7-2】孤発性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いた、Aβ40およびAβ42の産生量、Aβ42/40比、ならびに毒性についてのベルカリンA(compound 07)の濃度依存性を示す。同一のデータについてY軸のスケールが異なる2つのグラフを示している。
【
図6-8】家族性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞および孤発性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いた、Aβ40およびAβ42の産生量、Aβ42/40比、ならびに毒性についてのユーペニフェルジン(compound 08)の濃度依存性を示す。
【
図6-9-1】家族性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いた、Aβ40およびAβ42の産生量、Aβ42/40比、ならびに毒性についてのMer-A2026A(compound 09)の濃度依存性を示す。同一のデータについてY軸のスケールが異なる2つのグラフを示している。
【
図6-9-2】孤発性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いた、Aβ40およびAβ42の産生量、Aβ42/40比、ならびに毒性についてのMer-A2026A(compound 09)の濃度依存性を示す。同一のデータについてY軸のスケールが異なる2つのグラフを示している。
【
図6-10】家族性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞および孤発性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いた、Aβ40およびAβ42の産生量、Aβ42/40比、ならびに毒性についてのエフォマイシンA(compound 10)の濃度依存性を示す。
【
図6-11】家族性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞および孤発性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いた、Aβ40およびAβ42の産生量、Aβ42/40比、ならびに毒性についてのブレフェルジンA(compound 11)の濃度依存性を示す。
【
図6-12】家族性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞および孤発性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いた、Aβ40およびAβ42の産生量、Aβ42/40比、ならびに毒性についてのエライオフィリン(compound 12)の濃度依存性を示す。
【
図6-13】家族性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞および孤発性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いた、Aβ40およびAβ42の産生量、Aβ42/40比、ならびに毒性についてのボロマイシン(compound 13)の濃度依存性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明で用いる微生物由来化合物は、アルツハイマー病の予防、治療、または診断に有用である。本明細書における用語「アルツハイマー病」は、家族性アルツハイマー病(FAD)および孤発性アルツハイマー病(SAD)を含む。1つの実施態様では、本発明で用いる微生物由来化合物は、家族性アルツハイマー病の予防、治療、または診断に用いられる。別の実施態様では、本発明で用いる微生物由来化合物は、孤発性アルツハイマー病の予防、治療、または診断に用いられる。
【0015】
予防または治療剤
本発明の予防または治療剤は、カラフンギン(kalafungin;CAS番号11048-5-0;分子量300.3)、コンカナマイシンA(concanamycin A;CAS番号80890-47-7;分子量866.1)、ベルカリンA(verrucarin A;CAS番号3148-09-2;分子量502.6)、ユーペニフェルジン(eupenifeldin;CAS番号151803-45-1;分子量548.7)、Mer-A2026A(CAS番号144357-08-4;分子量413.6)、エフォマイシンA(efomycin A;CAS番号106387-82-0;分子量1039.3)、ブレフェルジンA(brefeldin A;CAS番号20350-15-6;分子量280.4)、エライオフィリン(elaiophylin;CAS番号37318-06-2;分子量1025.3)、およびボロマイシン(boromycin;CAS番号34524-20-4;分子量879.9)からなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩(以下、「本発明成分」とも称する)を含む。
【0016】
カラフンギン、コンカナマイシンA、ベルカリンA、ユーペニフェルジン、Mer-A2026A、エフォマイシンA、ブレフェルジンA、エライオフィリン、およびボロマイシンからなる群から選択される化合物またはその医薬的に許容される塩はAβ42量やAβ42/40比を変化させる作用を有するため、アルツハイマー病の予防または治療等に用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。アルツハイマー病の予防または治療に用いる化合物としては、Mer-A2026A、ベルカリンA、カラフンギン、およびコンカナマイシンAからなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩が好ましく、Mer-A2026AおよびベルカリンAからなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩がより好ましく、Mer-A2026Aまたはその医薬的に許容される塩がとりわけ好ましい。
【0017】
本発明成分は、市販品でもよく、市販品から公知の方法により製造したものでもよく、または微生物から抽出したものでもよい。本発明における予防または治療剤は本発明成分自体を含んでもよく、また本発明成分を産生する微生物を含んでもよい。本発明における予防または治療方法では、本発明成分自体を投与してもよく、また本発明成分を産生する微生物を投与してもよい。該微生物は、当業者が容易に入手でき、本発明成分の少なくとも1つを産生する微生物であれば、特に限定されるものではない。
【0018】
本発明成分は、互変異性体の形態またはこれらの混合物として存在してもよい。また、本発明成分は、エナンチオマーおよびジアステレオマー等の立体異性体の形態またはこれらの混合物で存在してもよい。本発明成分がジアステレオマーまたはエナンチオマーの形態で得られる場合、これらを当該技術分野で周知の慣用の方法、例えばクロマトグラフィーおよび分別結晶法等で分離してもよい。
【0019】
本発明成分は、同位元素(例えば、2H、3H、13C、14C、15N、18F、32P、35S、または125I等)等で標識された化合物および重水素変換体を包含する。
【0020】
本発明成分は、遊離の形でも、また医薬的に許容される塩の形でも存在することができる。医薬的に許容される塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、マレイン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、およびトリフルオロ酢酸塩等の酸付加塩;リチウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、亜鉛塩、およびアルミニウム塩等の金属塩;ならびにアンモニウム塩、ジエタノールアミン塩、エチレンジアミン塩、トリエタノールアミン塩、およびトリエチルアミン塩等の塩基付加塩等が挙げられる。医薬的に許容される塩は、その分子内塩や付加物、それらの溶媒和物、または水和物等をいずれも含むものである。
【0021】
1つの実施態様では、本発明はアルツハイマー病の予防または治療剤の製造における、本発明成分の使用を提供する。
【0022】
別の実施態様では、本発明は本発明成分の治療上有効量を患者に投与することを含む、アルツハイマー病の予防または治療方法を提供する。
【0023】
別の実施態様では、本発明はアルツハイマー病の予防または治療のための、本発明成分を提供する。
【0024】
本明細書における用語「患者」は、予防、治療、または診断の対象となる個体であり、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトである。
【0025】
本発明成分は、単独で、またはこれと医薬的に許容される添加剤と混合し、経口的にも非経口的にも投与することができる。医薬的に許容される添加剤としては、当該技術分野で慣用の添加剤でよく、例えば結合剤(シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビット、トラガカント、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびポリビニルピロリドン等)、賦形剤(乳糖、ショ糖、コーンスターチ、リン酸カリウム、ソルビット、およびグリシン等)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、およびシリカ等)、崩壊剤(カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、およびバレイショデンプン等)、乳化剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、およびショ糖脂肪酸エステル等)、安定剤(メチルパラベンおよびプロピルパラベン等)、ならびに希釈剤等が挙げられる。また、本発明の製剤の剤形は特に限定されるものではなく、錠剤、丸剤、顆粒剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、注射剤、吸入剤、または坐剤等の慣用の医薬製剤として用いることができる。
【0026】
本発明成分は、1種のみを製剤化してもよく、または2種以上を組み合わせて製剤化してもよい。2種以上の成分を組み合わせる場合、単一の製剤として製剤化してもよく、別々の製剤として製剤化してもよい。本発明の2種以上の成分を別々の製剤として製剤化する場合、各製剤の剤形は同一でも異なっていてもよい。
【0027】
また、本発明成分は、他のアルツハイマー病治療薬と併用してもよい。他のアルツハイマー病治療薬としては、例えばドネペジル、メマンチン、ガランタミン、およびリバスチグミン等を挙げることができる。
【0028】
本発明の各成分の治療上有効量は、成分の種類、投与方法、患者の年令、体重、および状態等によっても異なるが、経口投与の場合には、1回当たり0.1~1000mg、好ましくは0.5~500mg/kgとすることができ、非経口投与の場合には、1日当たり0.01~100mg、好ましくは0.05~50mg/kgとすることができ、1日1回または数回投与することができる。本発明の製剤が2種以上の成分を含む場合、それらは同時にまたは別々に投与することができる。
【0029】
診断薬および診断方法
本発明成分、ならびにロイカニシジン(leucanicidin;CAS番号91021-66-8;分子量783.0)、バフィロマイシンA1(bafilomycin A1;CAS番号88899-55-2;分子量622.8)、ロリジンA(roridin A;CAS番号14729-29-4;分子量532.6)、およびバフィロマイシンB1(bafilomycin B1;CAS番号88899-56-3;分子量816.0)からなる群から選択される化合物またはその医薬的に許容される塩(以下、「本発明のバイオマーカー」とも称する)は、Aβ42量やAβ42/40比を変化させる作用を有するため、アルツハイマー病の診断等に用いることができる。本発明成分において、診断の対象となる化合物としては、ユーペニフェルジン、エライオフィリン、およびボロマイシンからなる群から選択される1種以上の化合物またはその医薬的に許容される塩が好ましく、ユーペニフェルジンまたはその医薬的に許容される塩がより好ましい。また、本発明のバイオマーカーにおいて、診断の対象となる化合物としては、ロリジンAまたはその医薬的に許容される塩が好ましい。本発明のアルツハイマー病の診断薬は、検体中の本発明成分もしくは本発明のバイオマーカー、該成分もしくはバイオマーカーを産生する微生物、または該微生物の抽出物を検出するための物質を含む。該微生物は、当業者が容易に入手でき、本発明成分または本発明のバイオマーカーの少なくとも1つを産生する微生物であれば、特に限定されるものではない。また、該微生物の抽出物は、該微生物中に存在する本発明成分または本発明のバイオマーカー以外の物質で、該微生物に特徴的な物質であれば特に限定されるものではないが、例えば該微生物に特徴的なDNAおよびRNA等を挙げることができる。1つの実施態様では、本発明のアルツハイマー病の診断薬は、検体中の本発明成分または本発明のバイオマーカーを検出するための物質を含む。
【0030】
本明細書における用語「検体」は、診断の対象となる患者から採取した生体試料を意味し、例えば血液、血漿、血清、間質液、血管外液、脳脊髄液、滑液、胸膜液、リンパ液、唾液、尿、および便等を挙げることができる。これらは2種以上を組み合わせて用いてもよい。好ましくは、血液、血漿、血清、または脳脊髄液が用いられる。
【0031】
本発明成分もしくは本発明のバイオマーカー、該成分もしくはバイオマーカーを産生する微生物、または該微生物の抽出物を検出するための物質は特に限定されず、例えば受容体および抗体等を用いることができるが、抗体が好ましく、本発明成分もしくは本発明のバイオマーカー、該成分もしくはバイオマーカーを産生する微生物、または該微生物の抽出物に特異的に結合する抗体がより好ましい。また、本発明成分もしくは本発明のバイオマーカー、該成分もしくはバイオマーカーを産生する微生物、または該微生物の抽出物を検出する方法は特に限定されない。本発明成分もしくは本発明のバイオマーカー、該成分もしくはバイオマーカーを産生する微生物、または該微生物の抽出物に対する抗体を用いる場合、酵素結合免疫吸着法(ELISA)等の免疫学的方法等を用いて本発明成分もしくは本発明のバイオマーカー、該成分もしくはバイオマーカーを産生する微生物、または該微生物の抽出物を検出することができ、好ましくは直接吸着法、サンドイッチ法、または競合法を用いたELISAが用いられる。
【0032】
例えば、本発明成分もしくは本発明のバイオマーカー、該成分もしくはバイオマーカーを産生する微生物、または該微生物の抽出物は、抗体を本発明成分もしくは本発明のバイオマーカー、該成分もしくはバイオマーカーを産生する微生物、または該微生物の抽出物に結合させた後、前記抗体に結合した本発明成分もしくは本発明のバイオマーカー、該成分もしくはバイオマーカーを産生する微生物、または該微生物の抽出物を前記抗体とは別の抗体であって(一次検出抗体)、かつ標識物質で標識した抗体によって検出するか、または一次検出抗体に結合し、かつ標識物質で標識した抗体(二次検出抗体)によって検出する。標識物質としては、当該技術分野で周知の物質を用いることができ、例えば32P、14C、および125I等の放射性同位元素、ならびに西洋ワサビペルオキシダーゼ等の酵素等を用いることができる。ELISAが用いられる場合、標識物質として西洋ワサビペルオキシダーゼ等の酵素等を用いることが好ましい。この場合、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)等の前記酵素の蛍光または発色基質を添加し、蛍光光度計等を用いてその蛍光または発色を検出することにより、本発明成分もしくは本発明のバイオマーカー、該成分もしくはバイオマーカーを産生する微生物、または該微生物の抽出物を検出することができる。
【0033】
本発明成分もしくは本発明のバイオマーカー、該成分もしくはバイオマーカーを産生する微生物、または該微生物の抽出物に対する抗体は、本発明成分もしくは本発明のバイオマーカー、該成分もしくはバイオマーカーを産生する微生物、または該微生物の抽出物に特異的に結合することができるものであれば特に限定されず、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、およびマウス抗体等の非ヒト抗体等を挙げることができ、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。抗体は当該技術分野で公知の方法で製造することができ、例えば抗体産生細胞と骨髄腫細胞のハイブリドーマを用いた公知の方法で製造することができる。
【0034】
1つの実施態様では、本発明は本発明成分もしくは本発明のバイオマーカー、該成分もしくはバイオマーカーを産生する微生物、または該微生物の抽出物に結合する抗体を含む、アルツハイマー病の診断薬を提供する。別の実施態様では、本発明は本発明成分または本発明のバイオマーカーに結合する抗体を含む、アルツハイマー病の診断薬を提供する。診断薬はキットの形態であってもよい。1つの実施態様では、診断薬はELISA測定用の診断薬であってよく、例えば前記抗体を吸着させたマイクロプレートまたはビーズ等の固相;本発明成分もしくは本発明のバイオマーカー、該成分もしくはバイオマーカーを産生する微生物、または該微生物の抽出物に結合し、かつ前記抗体とは別のエピトープを認識する一次検出抗体;一次検出抗体に結合し、かつ西洋ワサビペルオキシダーゼ等の酵素で標識された二次検出抗体;TMB(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン)等の、前記酵素の発色基質;希釈バッファー;および洗浄バッファー等を適宜含む。
【0035】
上記の診断薬を用いて検出された本発明成分もしくは本発明のバイオマーカー、該成分もしくはバイオマーカーを産生する微生物、または該微生物の抽出物の濃度を基準値と比較することにより、アルツハイマー病の診断をすることができる。基準値は当該技術分野で通常の知識を有する医師、臨床医、または獣医師等によって適切に決定される。本発明成分もしくは本発明のバイオマーカー、該成分もしくはバイオマーカーを産生する微生物、または該微生物の抽出物は1種のみを検出してもよいが、2種以上を組み合わせて検出することで診断の精度を向上させることができる。
【0036】
1つの実施態様では、本発明はアルツハイマー病の診断薬の製造における、本発明成分もしくは本発明のバイオマーカー、該成分もしくはバイオマーカーを産生する微生物、または該微生物の抽出物に結合する物質の使用を提供する。別の実施態様では、本発明はアルツハイマー病の診断薬の製造における、本発明成分もしくは本発明のバイオマーカー、該成分もしくはバイオマーカーを産生する微生物、または該微生物の抽出物に結合する抗体の使用を提供する。別の実施態様では、本発明はアルツハイマー病の診断薬の製造における、本発明成分または本発明のバイオマーカーに結合する物質の使用を提供する。別の実施態様では、本発明はアルツハイマー病の診断薬の製造における、本発明成分または本発明のバイオマーカーに結合する抗体の使用を提供する。
【0037】
1つの実施態様では、本発明はアルツハイマー病を診断するための、本発明成分もしくは本発明のバイオマーカー、該成分もしくはバイオマーカーを産生する微生物、または該微生物の抽出物に結合する物質を提供する。別の実施態様では、本発明はアルツハイマー病を診断するための、本発明成分もしくは本発明のバイオマーカー、該成分もしくはバイオマーカーを産生する微生物、または該微生物の抽出物に結合する抗体を提供する。別の実施態様では、本発明はアルツハイマー病を診断するための、本発明成分または本発明のバイオマーカーに結合する物質を提供する。別の実施態様では、本発明はアルツハイマー病を診断するための、本発明成分または本発明のバイオマーカーに結合する抗体を提供する。
【0038】
1つの実施態様では、本発明は検体中の本発明成分もしくは本発明のバイオマーカー、該成分もしくはバイオマーカーを産生する微生物、または該微生物の抽出物を検出するプロセスを含む、アルツハイマー病の診断方法を提供する。別の実施態様では、本発明は検体中の本発明成分または本発明のバイオマーカーを検出するプロセスを含む、アルツハイマー病の診断方法を提供する。
【0039】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、以下の実施例は本発明を説明する目的で提供されるものであり、本発明を限定するものではない。なお、実施例において、各用語は当該技術分野で通常用いられている意味を有するものとする。
【実施例】
【0040】
実施例1
PSEN1のG384A変異を有する家族性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いたスクリーニング
化合物のスクリーニングは、WO2017/115873A1に記載の方法に準じて実施した。すなわち、PiggyBacを用いてドキシサイクリン誘導性プロモーターに連結したヒトNeurogenin 2遺伝子(NGN2)を導入したiPS細胞を用いて大脳皮質神経細胞を作製した。iPS細胞は、Okita K et al.,Nature.2007,vol.448,pp313-317に記載の方法で樹立した。これらのiPS細胞にNGN2遺伝子を導入し、ドキシサイクリンを添加して5日間一過的に発現させた。ハイスループットスクリーニング(HTS)を行うために用いるiPS細胞として、Aβ42/40比が高いPSEN1のG384A変異を有する家族性アルツハイマー病(FAD)患者由来のiPS細胞と孤発性アルツハイマー病(SAD)患者由来のiPS細胞を選択し、大脳皮質神経細胞を作製した。
【0041】
続いて、家族性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用い、日本マイクロバイオファーマ株式会社から提供された下記の表1に記載の123個からなる微生物由来化合物ライブラリーについてスクリーニングを行い、アルツハイマー病の予防、治療、または診断薬を探索した。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0042】
96ウェルプレートに分注した100,000個/ウェルの大脳皮質神経細胞に、それぞれDMSOで1μMまたは50nMになるように希釈した各微生物由来化合物を10μL添加し、37℃で培養した。48時間後に培養上清を回収し、上清中のAβ40およびAβ42の産生量をECL-ELISA法で測定した。また、得られたAβ40およびAβ42の測定値からAβ42/40比を計算した。陰性コントロールとして0.1%v/vDMSOを用い、Aβ40またはAβ42を低下させる陽性コントロールとして1μM β-secretase inhibitor IV(BSI)を用い、Aβ42/40比を低下させる陽性コントロールとして1μM JNJ-40418677(GSM)を用いた。PSEN1のG384A変異を有する家族性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いて得たスクリーニング結果を
図1に示す。また、本発明成分と本発明のバイオマーカーの値をそれぞれ表2および表3に示す。
【0043】
さらにスクリーニングの再現性を検討するため、2回目のスクリーニングを行った。結果を
図2に示す。また、本発明成分と本発明のバイオマーカーの値をそれぞれ表4および表5に示す。さらに、1μMの化合物で行った試験について、1回目のスクリーニングと2回目のスクリーニングの相関プロットを
図3に示す。
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【0044】
実施例2
孤発性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いたスクリーニング
孤発性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いた以外は、実施例1と同様の方法でスクリーニングを行った。結果を
図4に示す。また、本発明成分と本発明のバイオマーカーの値をそれぞれ表6および表7に示す。さらに、各微生物由来化合物について、実施例1のスクリーニングの2回目のAβ42/40比と、実施例2のスクリーニングにおけるAβ42/40比をプロットした結果を
図5に示す。特に変化率の大きな孤発性アルツハイマー病のリスクとなる微生物由来化合物名と、孤発性アルツハイマー病の治療薬となる微生物由来化合物名をそれぞれ示す。
【表6】
【表7】
【0045】
上記の通り、カラフンギン、コンカナマイシンA、ベルカリンA、ユーペニフェルジン、Mer-A2026A、エフォマイシンA、ブレフェルジンA、エライオフィリン、およびボロマイシンからなる群から選択される化合物は、家族性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞において、特に1μMの化合物で行った試験において、Aβ42/40をDMSOと比較して有意に変化させた。カラフンギンは、孤発性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞においてもAβ42/40を有意に低下させた。また、コンカナマイシンAおよびベルカリンAは、家族性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞において、低濃度(50nM)でもAβ42/40を有意に低下させた。従って、カラフンギン、コンカナマイシンA、ベルカリンA、ユーペニフェルジン、Mer-A2026A、エフォマイシンA、ブレフェルジンA、エライオフィリン、およびボロマイシンからなる群から選択される化合物は、アルツハイマー病の予防または治療等に有用であることが示された。
【0046】
ロイカニシジン、バフィロマイシンA1、ロリジンA、およびバフィロマイシンB1からなる群から選択される化合物は、DMSOと比較して、特に孤発性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞において、Aβ42/40を有意に増加させた。従って、ロイカニシジン、バフィロマイシンA1、ロリジンA、およびバフィロマイシンB1からなる群から選択される化合物は、アルツハイマー病、特に孤発性アルツハイマー病の診断に有用であることが示された。
【0047】
実施例3
本発明成分または本発明のバイオマーカーの化合物の濃度依存性評価
本発明成分または本発明のバイオマーカーの化合物について、家族性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞および孤発性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞を用いて、Aβ産生量と細胞毒性についての濃度依存性を評価した。
【0048】
家族性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞および孤発性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞に対して、陰性コントロールとしてのDMSO添加群、ならびにDMSOに溶解した7つの濃度の各化合物添加群(0.32nM、1.6nM、8nM、40nM、0.2μM、1μM、および5μM)の合計8群の条件で、Aβ40およびAβ42の産生量、Aβ42/40比(Aβ42/40 ratio)、ならびに毒性(Toxicity)についての濃度依存性を評価した。培養上清中のAβ量測定(ECL-ELISA法)については、実施例1および2のスクリーニングと同一の方法を用いて評価した。また、毒性は、ToxiLight(商標)(Lonza社製)を用いて培養上清中のアデニル酸キナーゼ活性を測定することによって評価した。それぞれの化合物について、陰性コントロールであるDMSO添加群を1として、変化の度合い(Fold change(vs.DMSO control))を異なる濃度ごとにプロットした。結果を
図6-1~6-13に示す。なお、これらの図において、Aβの変動については、DMSOコントロールに対する倍率変化を左側のY軸に示しており(Fold change of Aβ species(vs.DMSO control))、毒性については、DMSOコントロールに対する倍率変化を右側のY軸に示している(Fold change of toxicity(vs.DMSO control))。なお、
図6-1~6-13のx軸の薬物濃度(Drug concentration (M))における「-10」等の数値は指数を示しており、例えば「-10」は濃度が「10
-10(M)」であることを示す。
【0049】
図6-7-1、6-7-2、6-9-1、および6-9-2から明らかなように、ベルカリンA(compound 07)およびMer-A2026A(compound 09)について、家族性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞および/または孤発性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞において、毒性が見られない濃度域(0.32~40nM)においてもAβ42量低下効果が見られた。また、
図6-8、6-12、および6-13から明らかなように、ユーペニフェルジン(compound 08)、エライオフィリン(compound 12)、およびボロマイシン(compound 13)について、家族性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞および孤発性アルツハイマー病患者由来のiPS細胞から誘導した大脳皮質神経細胞のいずれにおいても、特に低濃度域(0.32~8nM)においてAβ42産生の亢進が見られ、アルツハイマー病の原因となる脳内Aβ42蓄積の因子となりうることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明で用いる微生物由来化合物は、Aβ42量やAβ42/40比を変化させる作用を有するため、アルツハイマー病の予防、治療、または診断に用いることができる。