(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】流路
(51)【国際特許分類】
G01N 27/00 20060101AFI20230725BHJP
B82Y 15/00 20110101ALI20230725BHJP
【FI】
G01N27/00 Z
B82Y15/00
(21)【出願番号】P 2020530232
(86)(22)【出願日】2019-07-10
(86)【国際出願番号】 JP2019027366
(87)【国際公開番号】W WO2020013235
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2018131885
(32)【優先日】2018-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】518437671
【氏名又は名称】アイポア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】筒井 真楠
(72)【発明者】
【氏名】横田 一道
(72)【発明者】
【氏名】有馬 彰秀
(72)【発明者】
【氏名】殿村 渉
(72)【発明者】
【氏名】谷口 正輝
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 隆
(72)【発明者】
【氏名】川合 知二
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0270521(US,A1)
【文献】特表2018-510329(JP,A)
【文献】国際公開第2015/083767(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00
B82Y 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノポアセンサ
の第1電極と第2電極との間に介在するように設けられる流路であって、
基材と、
上記基材に対応する位置に設けられた被覆部材と、を備え、
上記基材および上記被覆部材のそれぞれの厚さ方向を第1方向として、
上記基材には、当該基材を上記第1方向に貫く基材開口が設けられており、
上記被覆部材には、当該被覆部材を上記第1方向に貫く被覆部材開口が設けられており、
上記被覆部材開口は、上記被覆部材によって上記基材開口が覆われないように設けられており、
上記基材のキャパシタンスを基材キャパシタンスとし、
上記被覆部材のキャパシタンスを被覆部材キャパシタンスとして、
上記被覆部材は、上記基材キャパシタンスと上記被覆部材キャパシタンスとが直列接続されるように、上記基材に対して配置されており、
上記被覆部材キャパシタンスは、上記基材キャパシタンスよりも小さ
く、
上記被覆部材の材料は、ポリマー材料である、流路。
【請求項2】
上記被覆部材開口の、上記第1方向に対して垂直な方向における最大長をBとし、
上記基材開口の、上記第1方向に対して垂直な方向における最大長をCとして、
B≧10×C;
という関係が満たされている、請求項1に記載の流路。
【請求項3】
上記被覆部材の厚さをAとして、
B
2/A>5×C;
という関係が満たされている、請求項1または2に記載の流路。
【請求項4】
上記ポリマー材料は、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、またはポリジメチルシロキサンである、請求項
1から3のいずれか1項に記載の流路。
【請求項5】
上記基材の材料は、Si
3N
4またはSiO
2である、請求項1から
4のいずれか1項に記載の流路。
【請求項6】
上記被覆部材の比誘電率は、上記基材の比誘電率よりも小さい、請求項1から
5のいずれか1項に記載の流路。
【請求項7】
上記被覆部材開口の電気抵抗は、上記基材開口の電気抵抗よりも小さい、請求項1から
6のいずれか1項に記載の流路。
【請求項8】
上記被覆部材開口の電気抵抗は、上記基材開口の電気抵抗の1/4よりも小さい、請求項
7に記載の流路。
【請求項9】
上記被覆部材開口の電気抵抗は、上記基材開口の電気抵抗の1/10以下である、請求項
8に記載の流路。
【請求項10】
上記被覆部材は、上記第1方向から見た場合に、上記被覆部材開口を除いた位置において、上記基材の一部と重なり合っている、請求項1から
9のいずれか1項に記載の流路。
【請求項11】
上記基材を支持する支持部材をさらに備えており、
上記被覆部材は、上記支持部材を介して、上記基材と間接的に接触している、請求項1から
10のいずれか1項に記載の流路。
【請求項12】
上記被覆部材は、上記基材と直接的に接触している、請求項1から
10のいずれか1項に記載の流路。
【請求項13】
上記被覆部材キャパシタンスは、上記基材キャパシタンスの1/100以下である、請求項1から
12のいずれか1項に記載の流路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、ナノポアセンサに設けられる流路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノポア(ナノスケールの細孔)を利用して物体を検出する装置(ナノポアセンサ)が開発されている。ナノポアセンサでは、物体がナノポアを通過する時に生じるイオン電流の変化を測定することで、当該物体を検出できる(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国公開特許公報「特開2016-197077号公報」
【文献】日本国公開特許公報「特開2014-126554号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
但し、後述するように、ナノポアセンサにおいて、物体の検出精度を向上させるための工夫点には、なお改善の余地がある。本発明の一態様の目的は、物体の検出精度を従来よりも向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る流路は、ナノポアセンサの第1電極と第2電極との間に介在するように設けられる流路であって、基材と、上記基材に対応する位置に設けられた被覆部材と、を備え、上記基材および上記被覆部材のそれぞれの厚さ方向を第1方向として、上記基材には、当該基材を上記第1方向に貫く基材開口が設けられており、上記被覆部材には、当該被覆部材を上記第1方向に貫く被覆部材開口が設けられており、上記被覆部材開口は、上記被覆部材によって上記基材開口が覆われないように設けられており、上記基材のキャパシタンスを基材キャパシタンスとし、上記被覆部材のキャパシタンスを被覆部材キャパシタンスとして、上記被覆部材は、上記基材キャパシタンスと上記被覆部材キャパシタンスとが直列接続されるように、上記基材に対して配置されており、上記被覆部材キャパシタンスは、上記基材キャパシタンスよりも小さく、上記被覆部材の材料は、ポリマー材料である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一態様によれば、物体の検出精度を従来よりも向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態1の検出装置の構成について説明するための図である。
【
図3】(a)および(b)はそれぞれ、比較例の検出装置と実施形態1の検出装置との構成の違いについて説明するための図である。
【
図4】比較例の検出装置および実施形態1の検出装置のそれぞれにおいて得られた、イオン電流の時間変化の様子を示す図である。
【
図5】(a)~(c)はそれぞれ、比較例の検出装置および実施形態1の検出装置のそれぞれにおいて得られた、イオン電流のパルス波形を示す図である。
【
図6】(a)~(d)はそれぞれ、比較例の検出装置と実施形態1の検出装置との間の、イオン電流の応答速度の相違について説明するための図である。
【
図7】(a)~(c)はそれぞれ、実施形態2の検出装置の構成について説明するための図である。
【
図8】(a)~(d)はそれぞれ、実施形態3の流路について説明するための図である。
【
図9】(a)~(c)はそれぞれ、実施形態3における一検討結果について説明するための図である。
【
図10】(a)および(b)はそれぞれ、実施形態3における別の検討結果について説明するための図である。
【
図11】(a)~(d)はそれぞれ、実施形態4の流路について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔実施形態1〕
実施形態1の検出装置100(ナノポアセンサ)について、以下に説明する。説明の便宜上、以降の各実施形態では、実施形態1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0009】
なお、本明細書では、公知技術と同様の事項についても、説明を適宜省略する。説明を省略した事項については、公知技術と同様であると理解されてよい。例えば、ナノポアセンサの基本原理については、特許文献2を参照されたい。
【0010】
(検出装置100の構成)
図1は、検出装置100の構成について説明するための図である。検出装置100は、サンプルとしての粒子P(物体)を検出するナノポアセンサの一例である。以下の例では、粒子Pは、任意のナノ粒子である。このため、説明の便宜上、粒子Pの形状が球体である例示する。但し、粒子Pの形状は、球体に限定されない。粒子Pの形状は、当該粒子Pが以下に述べる流路10を通過できる限り、任意のものであってよい。
【0011】
また、
図1は、検出装置100の一構成例を概略的に示す図であることに留意されたい。例えば、
図1では、各部材の寸法が、必ずしも実際のスケール通りに描画されていない。また、各部材の位置は、
図1の配置に限定されなくともよい。例えば、後述の
図2に示されるように、HL1(後述)の中心軸とHL2(後述)の中心軸とは、必ずしも一致していなくともよい。これらの点は、後述の
図3等についても同様である。
【0012】
検出装置100は、流路10、第1電極11、第2電極12、電圧源21、および電流計22を備える。第1電極11および第2電極12は、電極対を形成するように、対向して配置されている。
図1の例では、第1電極11および第2電極12は、z方向(後述)において互いに離間している。第1電極11および第2電極12としては、例えば、銀/塩化銀(Ag/AgCl)電極を使用できる。
【0013】
図1の例では、第1電極11および第2電極12はそれぞれ、正極および負極として機能する。具体的には、電圧源21によって、第1電極11に、所定の大きさの電圧(以下、Vb)が印加されている。電圧源21の+極は、第1電極11に接続されている。電圧源21の-極は、接地されている。一例として、Vb=0.1Vである。電流計22の一方の端子は、第2電極12に接続されている。電流計22のもう一方の端子は、接地されている。電流計22は、粒子Pが流路10を通過した時に生じる時に生じるイオン電流(以下、Iion)を測定する。
【0014】
図1の構成によれば、第1電極11と第2電極12との間には、Vbが印加される。つまり、z方向に電界を形成できる。当該電界によって、粒子Pをz方向に移動させることができる。例えば、正電荷が帯電した粒子Pを、第1電極11の側から第2電極12の側へと移動させることができる。
【0015】
流路10は、z方向において、第1電極11と第2電極12との間に介在するように配置されている。流路10は、基材1および被覆部材2を備える。一例として、基材1および被覆部材2は、いずれも絶縁物である。このため、流路10は、絶縁物構造体と称されてもよい。一例として、基材1は、Si3N4の薄膜(Si3N4メンブレン)である。被覆部材2は、基材1に対応する位置に設けられている。実施形態1では、被覆部材2は、基材1の一部を覆うように、当該基材1上に堆積されている。一例として、被覆部材2は、基材1の2つの面(より厳密には、主面)のうち、第2電極12に対向する面の一部を覆う。一例として、被覆部材2は、ポリイミドの層(ポリイミド層)である。被覆部材2は、被覆層とも称される。
【0016】
本明細書では、基材1の2つの面のうち、第2電極12に対向する面を、「基材1の第1面」と称する。以下では、説明の便宜上、基材1の第1面を、「基材1の上面(表面)」とも称する。また、基材1の2つの面のうち、第1電極11に対向する面を、「基材1の下面」と称する。基材1の第2面を、「基材1の下面(裏面)」とも称する。一例として、基材1の下面には、当該基材1を支持する支持部材(
図1では不図示)が設けられている(後述の実施形態4も参照)。
【0017】
基材1には、当該基材1をz方向に貫通する円形の開口(以下、HL1)が形成されている。HL1は、基材1の内部空間(以下、第1内部空間)を規定する。
図1の例では、第1内部空間は、円筒状の内部空間である。従って、z方向から見た場合のHL1の形状(便宜上、「HL1の平面形状」と称する)は、円形である。HL1は、基材開口と称されてもよい。HL1は、ナノポアとも称される。
【0018】
HL1は、粒子Pが当該HL1を通過できるように形成されている。このため、HL1の直径(
図1のC)は、粒子Pの直径(以下、dps)よりも大きく設定されている。一例として、C=300nmであり、dps=100nmである。本明細書では、Cを、dporeとも適宜表記する。
図1のDは、基材1の厚さを示す。Dは、HL1の深さ(高さ)と称されてもよい。一例として、D=50nmである。
【0019】
ここで、「D/C」(深さ/直径)の値を、ナノポアのアスペクト比と称する。ナノポアのアスペクト比は、特に限定されない。ここで、アスペクト比が小さいナノポア(所定の直径に対して深さが比較的小さいナノポア)を、低アスペクト比ナノポアと称する。これに対して、アスペクト比が大きいナノポア(所定の直径に対して深さが比較的大きいナノポア)を、高アスペクト比ナノポアと称する。
【0020】
低アスペクト比ナノポアを使用することにより、高アスペクト比ナノポアを使用した場合に比べて、イオン電流の波形が複雑となる。このため、低アスペクト比ナノポアを使用することにより、粒子Pについてのより多様な情報(例:粒子Pの形状を特定するための情報)を取得できることが知られている。そこで、実施形態1では、HL1が低アスペクト比ナノポアである場合を主に例示する。
【0021】
被覆部材2には、当該被覆部材2をz方向に貫通する開口(以下、HL2)が形成されている。HL2は、被覆部材2の内部空間(以下、第2内部空間)を規定する。
図1の例では、第2内部空間も、第1内部空間と同様に、円筒状の内部空間である。従って、z方向から見た場合のHL2の形状(便宜上、「HL2の平面形状」と称する)は、HL1の平面形状と同様に、円形である。HL2は、被覆部材開口と称されてもよい。実施形態1におけるHL2は、ポリイミド開口と称されてもよい。
【0022】
HL2は、被覆部材2によってHL1が覆われないように、形成されている。より具体的には、HL2は、z方向から見た場合に、HL1の全体を内包するように(HL1と最大限に重なり合うように)、形成されている。従って、HL2の直径(
図1のB)は、Cに比べて十分大きく設定されている。一例として、B=3μmである。
図1のAは、被覆部材2の厚さを示す。Aは、HL2の深さ(高さ)と称されてもよい。一例として、A=5μmである。このように、Aは、Dに比べて十分に大きい。HL2は、マイクロポアとも称される。
【0023】
以上のように、流路10には、HL1およびHL2が形成されている。当該HL1およびHL2は、電極対(第1電極11および第2電極12)の間において、粒子Pの移動経路を画定する。基材1および被覆部材2は、当該移動経路の一部を取り囲むように形成されている。
【0024】
粒子Pを移動させる場合、第1内部空間および第2内部空間は、不図示の媒体によって充填される。当該媒体は、例えば、電解質が溶解した水溶液である。それゆえ、特許文献2に示されるように、電界および電気浸透流によって、粒子Pの移動を制御できる。このように、検出装置100は、粒子Pの移動を制御する制御装置としての機能を有する。
【0025】
図1において、基材1および被覆部材2のそれぞれの厚さ方向を、z方向として表す。z方向は、第1方向と称されてもよい。z方向は、HL1およびHL2のそれぞれの深さ方向とも表現できる。また、z方向は、基材1および被覆部材2のそれぞれの主面の法線方向とも表現できる。
【0026】
これに対し、HL1およびHL2のそれぞれの半径方向を、r方向と称する。r方向は、z方向に直交している。r方向は、z方向に垂直な平面(xy平面)上の任意の方向を指していてよい。
【0027】
なお、上述のB(HL2の直径)は、より厳密には、「HL2の、z方向に対して垂直な方向における最大長(最大の長さ)」として規定される。同様に、上述のC(HL1の直径)は、より厳密には、「HL1の、z方向に対して垂直な方向における最大長」として規定される。このため、HL1の平面形状およびHL2の平面形状は、必ずしも円形に限定されない。例えば、当該平面形状は、楕円形であってもよいし、あるいは多角形(例:四角形)であってもよい。また、第1内部空間および第2内部空間の立体的な形状は、必ずしも円筒状(円柱状)に限定されない。例えば、当該形状は、円錐台状であってもよいし、あるいは角錐台状であってもよい。
【0028】
図2は、流路10のSEM(Scanning Electron Microscope,走査電子顕微鏡)像の一例を示す。
図2に示される各部の寸法は、上述のA~Dの例の通りである。
【0029】
(比較例としての検出装置100rの構成)
続いて、検出装置100との対比のため、比較例としての検出装置(以下、検出装置100r)を考える。検出装置100rは、従来のナノポアセンサの一構成例である。
図3は、検出装置100rと検出装置100との構成の違いについて説明するための図である。
図3の(b)には、検出装置100における流路10およびその周辺の構成が、3次元的に図示されている。
【0030】
図3の(a)は、
図3の(b)と対になる図である。
図3の(a)に示されるように、検出装置100rは、検出装置100から、被覆部材2が取り除かれた構成である。つまり、検出装置100rは、検出装置100において、A=B=0として設定された場合に相当する。検出装置100rでは、検出装置100とは異なり、基材1のみによって流路が構成されている。
【0031】
(イオン電流波形の観測)
本願の発明者ら(以下、単に発明者ら)は、検出装置100rおよび検出装置100のそれぞれについて、Iionの時間変化を観測した。粒子Pとしては、カルボキシ修飾ポリスチレンナノ粒子を選択した。媒体としては、超純水を所定の希釈液によって希釈した水溶液を用いた。以下の例では、0.4×PBS(Phosphor Saline Buffer,リン酸緩衝液生理的食塩水)を希釈液として用いた。その他、各部の寸法および材料は、特に明示されない限り、上述の例の通りである。従って、C(dpore)=300nmであり、dps=100nmである。サンプリングレートを1MHzとして、Iionの時間変化を記録した。
【0032】
<確認された効果その1:電流ノイズの低減>
図4は、検出装置100rおよび検出装置100のそれぞれにおいて得られた、Iionの時間変化の様子(Iionの波形)を示すグラフである。
図4のグラフにおいて、横軸はt(時間)(単位:s(秒))であり、縦軸はIion(単位:nA)である。検出装置100rおよび検出装置100のいずれにおいても、1つの粒子Pが流路内(より具体的には、第1内部空間)を通過する時に、当該粒子Pによってイオン電流がブロックされる。このため、1つの粒子Pが流路内を通過する時に、Iionの減少(Iionの負のパルス)が観測される。
【0033】
但し、
図4に示されるように、検出装置100rの場合には、検出装置100の場合に比べ、Iionのノイズ(電流ノイズ)が十分に大きいという傾向が確認された。つまり、検出装置100の構成(より具体的には、流路10)を適用することによって、検出装置100rに比べて、電流ノイズを十分に低減できることが確認された。具体的には、検出装置100の場合には、検出装置100rの場合に比べ、電流ノイズが約1/4(RMS値)まで低減されていることが確認された。
【0034】
<確認された効果その2:イオン電流の応答速度の向上>
続いて、発明者らは、検出装置100rおよび検出装置100のそれぞれについて、Iionの応答速度に関して検討を行った。発明者らは、検出装置100rおよび検出装置100のそれぞれについて、Iionの1つのパルス波形を比較した。以下の実験では、希釈液として0.1×PBSを用いた。また、C(dpore)=1200nmに設定した。その上で、dpsの値を、様々に変化させ、Iionのパルス波形(以下、単にパルス波形)を観測した。
【0035】
図5は、上記実験によって得られたパルス波形を示すグラフである。具体的には、
図5の(a)~(c)にはそれぞれ、dps=900nm、780nm、510nmの場合に観測されたパルス波形が示されている。以下、パルス波形のパルス高をIp、パルス波形のパルス幅をtdと称する。Ipは、Iionのピーク値の絶対値に相当する。tdは、Ipが非ゼロの値をとる期間の長さに相当する。tdは、粒子Pが流路内に存在している時間とも言える。
【0036】
図5の(a)~(c)のいずれにおいても、検出装置100の場合には、検出装置100rの場合に比べ、Ipが十分に大きいことが確認された。また、検出装置100の場合には、検出装置100rの場合に比べ、tdは同程度またはやや大きくなることが確認された。つまり、検出装置100の場合には、検出装置100rの場合に比べ、Iionの時間変化が急激であると言える。このように、発明者らは、検出装置100の構成(より具体的には、流路10)を適用することによって、検出装置100rに比べて、Iionの応答速度を十分に向上させることも可能となることを確認した。
【0037】
(イオン電流の応答速度についてのさらなる検討)
発明者らは、検出装置100rと検出装置100との間の、イオン電流の応答速度の相違について、さらなる検討を行った。
図6は、これらの検討事項について説明するための図である。
【0038】
<追加検討1>
発明者らは、検出装置100rおよび検出装置100のそれぞれにおいて得られた複数のパルス(例:数100個のパルス)を平均化した。発明者らは、検出装置100rおよび検出装置100のそれぞれについて、平均化されたパルス(以下、平均化パルス)を比較した。
【0039】
図6の(a)には、検出装置100rおよび検出装置100のそれぞれにおいて得られた平均化パルスが示されている。
図6の(a)における実験では、希釈液として0.4×PBSを用いた。また、C(dpore)=300nm、dps=200nmに設定した。
【0040】
発明者らは、平均化パルスのライズ部分(時間の経過に伴い、Iionが0からピーク値に向かう部分)において、Arise=Σ(Iion×Δt)を算出した。また、発明者らは、平均化パルスのテール部分(時間の経過に伴い、Iionがピーク値から0に向かう部分)において、Afall=Σ(Iion×Δt)を算出した。なお、Δt=10
-6(s)である。
図6の(a)には、検出装置100rおよび検出装置100のそれぞれの平均化パルスにおける、AriseおよびAfallが示されている。
【0041】
図6の(a)も示されるように、検出装置100rと検出装置100とでは、Ariseが顕著に相違していることが確認された。このことからも、検出装置100の構成によって、Iionの応答速度が向上されていると言える。
【0042】
<追加検討2>
発明者らは、実験条件を様々に変更し、検出装置100rおよび検出装置100のそれぞれについて、Afallを比較した。
図6の(b)には、様々な実験条件において得られたAfallの比較結果を示す。
図6の(b)には、
(1)希釈液:0.4×PBS、dps=0.2μm、dpore=0.3μm;
(2)希釈液:0.1×PBS、dps=0.5μm、dpore=1.2μm;
(3)希釈液:0.1×PBS、dps=0.8μm、dpore=1.2μm;
(4)希釈液:0.1×PBS、dps=0.9μm、dpore=1.2μm;
という、4通りの実験条件において得られたAfallが示されている。
【0043】
図6の(b)に示されるように、上述の(1)~(4)のいずれの実験条件においても、検出装置100rと検出装置100とでは、Afallはそれほど大きく相異していない(誤差は高々5%程度である)ことが確認された。このことから、発明者らは、検出装置100rと検出装置100とでは、Rnet(後述)の値はそれほど大きい相違しないと推測した。
【0044】
<追加検討3>
発明者らは、検出装置100rおよび検出装置100のそれぞれについて、パルスのテール波形の時間変化の態様を比較した。具体的には、発明者らは、テール波形を指数関数によってフィッティングすることにより、当該テール波形の時定数(以下、Tdelay)を算出した。なお、Tdelayは、以下に述べるRC回路の時定数とも表現できる。このため、Tdelay=Rnet×Cnetの関係が成立する。Cnetについては後述する。
【0045】
図6の(c)には、検出装置100rおよび検出装置100のそれぞれについて、テール波形をフィッティングした波形が示されている。
図6の(c)に示されるように、検出装置100rの場合には、Tdelay=1099μsと算出された。これに対し、検出装置100の場合には、Tdelay=157μsと算出された。
【0046】
このように、検出装置100によれば、検出装置100rに比べ、Tdelayが十分に低減されたことが確認された。このことからも、検出装置100の構成によって、Iionの応答速度が向上されていると言える。さらに、発明者らは、Tdelayの低減傾向から、検出装置100では、検出装置100rに比べ、Cnetが十分に低減されていると推測した。
【0047】
<追加検討4>
発明者らは、検出装置100rおよび検出装置100のそれぞれについて、流路およびその近傍の等価回路(より厳密には、簡易等価回路)を検討した。
図6の(d)には、検出装置100rにおける等価回路(以下、比較例の等価回路)および検出装置100における等価回路(以下、実施例の等価回路)が示されている。以下では、電気抵抗を、単に抵抗と称する。
【0048】
図6の(d)の各記号は、
・CEOF:電気2重層のキャパシタンス;
・Cstray:漂遊キャパシタンス;
・CSi
3N
4:基材1(Si
3N
4メンブレン)のキャパシタンス;
・Cpoly:被覆部材2(ポリイミド層)のキャパシタンス;
・Rpore:HL1(ナノポア)の抵抗;
・Racc:HL1外の抵抗;
の通りである。以下の検討では、簡単のために、Cstrayについては無視する。
図6の(d)の各等価回路において、合成抵抗をRnet、合成キャパシタンスをCnetとして表す。
【0049】
以下、基材1のキャパシタンスおよび被覆部材2のキャパシタンスをそれぞれ、基材キャパシタンスおよび被覆部材キャパシタンスと称する。CSi3N4およびCpolyはそれぞれ、基材キャパシタンスおよび被覆部材キャパシタンスの一例である。以下に述べるように、本開示の一態様に係る流路では、被覆部材は、基材キャパシタンスと被覆部材キャパシタンスとが直列接続されるように、基材に対して配置されている。そして、被覆部材キャパシタンスは、基材キャパシタンスよりも小さく設定されている。
【0050】
図6の(d)に示されるように、比較例の等価回路および実施例の等価回路のいずれにおいても、抵抗成分の接続関係は共通している。具体的には、「1つのRpore」と「2つのRacc」とが、直列に接続されている。このため、
Rnet=Rpore+2×Racc…(1)
である。一般に、RaccはRporeに比べて十分に大きいため、Rnet≒2×Raccである。
【0051】
これに対し、比較例の等価回路と実施例の等価回路とでは、キャパシタンス成分の接続関係は相違している。まず、比較例の等価回路では、「1つのCSi3N4」と「2つのCEOF」とが、直列に接続されている。このため、比較例の等価回路では、
1/Cnet=(1/CSi3N4)+1/(2×CEOF)…(2)
となる。一般に、CEOFはCSi3N4に比べて十分に小さいため、比較例の等価回路では、Cnet≒CSi3N4となる。以下、比較例におけるCnetを、Cnet(比較例)とも表記する。
【0052】
他方、実施例の等価回路では、「1つのCSi
3N
4」と「1つのCpoly」と「2つのCEOF」とが、直列に接続されている。つまり、比較例の等価回路におけるキャパシタンス成分に対し、Cpolyがさらに直列接続されている。このため、実施例の等価回路では、
1/Cnet={1/Cnet(比較例)}+(1/Cpoly)…(3)
となる。上述の
図1に示されるように、被覆部材2のサイズは、基材1のサイズに比べて十分に大きい。このため、CpolyはCSi
3N
4(≒Cnet(比較例))に比べても十分に小さいと見なすことができる。それゆえ、実施例の等価回路では、Cnet≒Cpolyとなる。以下、実施例におけるCnetを、Cnet(実施例)とも表記する。
【0053】
以上のように、Cnet(比較例)≒CSi3N4であり、Cnet(実施例)≒Cpolyである。すなわち、実施例の等価回路によれば、比較例の等価回路に比べて、Cnetを十分に小さくすることができる。実施例の等価回路では、直列接続された3つのキャパシタンスのうち、Cpolyが、Cnetのキャパシタンスを決定する支配的な成分となるためである。
【0054】
一例として、発明者らは、検出装置100rにおけるTdelayに基づいて、CSi3N4を算出した。その結果、CSi3N4≒45nFであった。なお、当該計算において、発明者らは、媒体の電気抵抗率ρ(既知)に基づいて算出されたRaccの値を用いた。
【0055】
さらに、発明者らは、被覆部材2を平板コンデンサと見なして、Cpolyを算出した。具体的には、発明者らは、
Cpoly=ε0×εpoly×S/d…(4)
という関係式を用いて、Cpolyを算出した。その結果、Cpoly≒90pFであった。式(4)において、ε0は真空の誘電率であり、εpolyはポリイミドの比誘電率である。εpoly=3.4である。また、Sは、被覆部材2の主面のうち、媒体に接触する部分の面積である。dは、被覆部材2の厚さ(すなわち上述の
図1のA)である。d=5μmである。
【0056】
以上のことから、Cnet(実施例)/Cnet(比較例)≒90pF/45nF=0.002である。このように、発明者らは、実施例の等価回路によれば、比較例の等価回路に比べて、Cnetを十分に低減できることを確認した。
【0057】
(効果)
上述の通り、検出装置100r(従来のナノポアセンサ)では、電流ノイズを十分に低減させるには至らなかった。従って、検出装置100rでは、サイズが小さい粒子Pを検出することが困難である。一般に、粒子Pのサイズが小さくなるほど、Iionのパルス高が小さくなるので、電流ノイズの影響が顕著となるためである。
【0058】
さらに、検出装置100rでは、イオン電流の応答速度を十分に向上させるにも至らなかった。従って、検出装置100rでは、高い時間分解能で粒子Pを検出することが困難である。例えば、検出装置100rでは、流路内を高速で移動する粒子Pを検出することが困難である。このように、検出装置100rでは、十分に高い感度で粒子Pを検出することが困難であった。
【0059】
これに対し、検出装置100によれば、検出装置100rとは異なり、電流ノイズを十分に低減させることができる。さらに、検出装置100によれば、イオン電流の応答速度を十分に向上させることもできる。それゆえ、検出装置100によれば、検出装置100rに比べて、粒子Pの検出精度を十分にも向上させることができる。例えば、上述の
図4に示されるように、検出装置100rでは、サイズが十分に小さい粒子P(例:直径100nm程度のナノ粒子)を高感度で検出することは困難であった。これに対し、検出装置100によれば、当該粒子Pを高感度で検出することが可能となる。
【0060】
特に、検出装置100によれば、被覆部材2を設けることにより、検出装置100rに比べて、Cnetを十分に低下させることができる。すなわち、被覆部材2によって、Tdelayを十分に低下させることができる。その結果、上述の通り、イオン電流の応答速度を十分に向上させることが可能となる。
【0061】
また、以下に述べるように、流路10の構成によれば、HL2(ポリイミド開口)の抵抗(以下、Rpore2)は、Rporeに比べて十分に小さい。このため、被覆部材2を設けた場合であっても、実施例の等価回路におけるRnetは、比較例の等価回路におけるRnetとほぼ同程度の値に維持される。つまり、
図6の(d)において、Rpore2≒0と見なしても構わない。このため、
図6の(d)の等価回路では、Rpore2は図示されていない。
【0062】
このように、被覆部材2によれば、Rnetをほぼ増加させることなく、Cnetを十分に低減できる。すなわち、Tdelay(=Rnet×Cnet)を十分に低下させることが可能となる。このように、流路10の構成は、イオン電流の応答速度を向上させるために特に好適である。それゆえ、流路10は、低アスペクト比ナノポア(高アスペクト比ナノポアに比べて、イオン電流の波形が複雑となるナノポア構成)に対し、特に好適である。
【0063】
(流路10の各部の寸法についての検討)
続いて、発明者らは、流路10の電気的な特性に着目し、当該流路10の各部の寸法について検討を行った。以下、上述の
図1のA~C間の関係について検討する。上述の通り、媒体の電気抵抗率をρとすると、Rpore2は、
Rpore2=ρ×A/{(π×B
2/4)}+ρ/B…(5)
として表される。ここで、式(5)の右辺第2項を無視すれば、近似的に、
Rpore2=ρ×A/{(π×B
2/4)}…(6)
と表すことができる。
【0064】
また、Rporeは、
Rpore=ρ×D/{(π×C2/4)}+ρ/C…(7)
として表される。ここで、C>>Dであることを考慮すれば、式(7)の右辺第1項を無視できる。このため、近似的に、
Rpore=ρ/C…(8)
と表すことができる。
【0065】
上述の通り、Rpore2は、Rporeに比べて十分に小さく設定される必要がある。つまり、Rpore2<<Rporeの関係が満たされるように、A~C間の関係が設定されることが好ましい。
【0066】
(第1の条件)
以上の点を踏まえ、発明者らは、
B≧10×C …(9)
という条件(以下、第1の条件)が満たされるように、流路10を構成することが好ましいと考察した。例えば、
図1の例では、B=3μm、C=300nmであるので、B=10×Cである。すなわち、第1の条件が満たされている。
【0067】
一例として、B=10×Cである場合を考える。ここで、簡単のために、式(5)の右辺第1項を無視する近似が成立すると仮定する。この場合、
Rpore2=ρ/B …(10)
と表すことができる。この場合、Rpore2=ρ/(10×C)=Rpore/10である。以上のように、第1の条件が満たされる場合には、「Rpore2≦Rpore/10」(すなわち、10×Rpore2≦Rpore)という関係が成立する。従って、Rpore2を、Rporeに比べて十分に小さく設定できる。
【0068】
(第2の条件)
さらに、発明者らは、
B
2/A>5×C …(11)
という条件(以下、第2の条件)が満たされるように、流路10を構成することも好ましいと考察した。例えば、
図1の例では、A=5μmであるので、(B
2/A)=1.8μmである。これに対し、5×C=1.5μmである。すなわち、第2の条件が満たされている。
【0069】
一例として、B2/A=5×Cである場合を考える。この場合、式(6)から、
Rpore2={4/(5×π)}×(ρ/C) …(12)
である。式(12)に式(8)を代入すれば、Rpore2={4/(5×π)}×Rpore≒0.25×Rporeとなる。
【0070】
以上のように、第2の条件が満たされる場合には、「Rpore2<Rpore/4」(すなわち、4×Rpore2<Rpore)、という関係が成立する。この場合にも、Rpore2を、Rporeに比べて十分に小さく設定できる。なお、第1の条件と第2の条件との両方が満たされるように、流路10が構成されることが特に好ましい。
【0071】
以上のように、流路10では、Rpore2は、Rporeに比べて小さく設定されている。好ましくは、Rpore2は、Rporeの1/4よりも小さい。より好ましくは、Rpore2は、Rporeの1/10以下である。
【0072】
(流路10の製造方法の一例)
以下、流路10(基材1および被覆部材2)の製造方法の一例について、簡単に述べる。但し、本発明の一態様では、以下の例に限定されず、公知の成膜技術、リソグラフィ技術、およびエッチング技術が利用されてよい。
【0073】
<基材1の製造工程>
まず、CVP(Chemical Vapor Deposition)を用いて、厚さ50nm(=D)のSi3N4の層(Si3N4メンブレン)を成膜した。続いて、電子線ビームリソグラフィを用いて、Si3N4メンブレンに対し、直径300nm(=C)の開口(すなわちHL1)を形成した。このようにして、基材1(HL1が設けられたSi3N4メンブレン)が得られた。
【0074】
<被覆部材2の製造工程>
そして、基材1の表面に、厚さ5μm(=A)の感光性ポリイミド層を成膜した。続いて、感光性ポリイミド層にUV(Ultra Violet)光を照射し、当該感光性ポリイミド層に直径3μm(=B)の開口(すなわちHL2)を形成した。このようにして、被覆部材2(HL2が設けられたポリイミド層)が得られた。すなわち、流路10が製造された。
【0075】
〔変形例〕
実施形態1では、基材1の材料としてSi3N4を例示した。但し、基材1の材料は、これに限定されない。基材1の材料の別の例としては、SiO2を挙げることができる。
【0076】
また、実施形態1では、被覆部材2の材料としてポリイミドを例示した。但し、被覆部材2の材料も、これに限定されない。被覆部材2の別の例としては、PMMA(ポリメチルメタクリレート)またはPDMS(ポリジメチルシロキサン)を挙げることができる。
【0077】
また、発明者らは、「被覆部材2を設けることによりCnetを低減する」というコンセプトに基づき、「被覆部材2の材料は、比誘電率が比較的低い材料であればよい」と推察した。例えば、被覆部材2の材料としては、上述の各例に限らず、公知のポリマー材料を用いることができる。あるいは、被覆部材2の材料として、公知の無機材料(より具体的には、非金属材料)を用いることもできる。
【0078】
上述の通り、本発明の一態様に係る流路において、被覆部材キャパシタンスは、基材キャパシタンスよりも小さい。このため、被覆部材の比誘電率(以下、被覆部材比誘電率)は、基材の比誘電率(以下、基材比誘電率)よりも小さいことが好ましい。実施形態1におけるεpoly(ポリイミドの比誘電率)は、被覆部材比誘電率の一例である。上述の通り、εpoly=3.4である。これに対し、Si3N4メンブレン(基材)の比誘電率は、εSi3N4=7.5である。εSi3N4は、基材比誘電率の一例である。
【0079】
〔実施形態2〕
図7は、実施形態2の検出装置の構成について説明するための図である。実施形態2の検出装置は、実施形態1の検出装置100とは異なり、粒子Pを本発明の一態様に係る流路の付近まで移動させるための補助流路(例:マイクロ流路)を含んでいる。以下、実施形態2の検出装置を、単に「検出装置」と称する。また、実施形態2の流路を、単に「流路」と称する。
【0080】
具体的には、
図7の(a)には、検出装置の全体的な構成が示されている。
図7の(b)は、
図7の(a)におけるナノポアおよびその近傍を拡大した図である。
図7の(b)には、流路の構成が示されている。
図7の(c)には、検出装置に設けられるナノポアチップの構成が示されている。
【0081】
図7の(a)に示されるように、検出装置は、Ag/AgCl電極(第1電極・第2電極)、ナノポアチップ(基材)、およびPDMSブロック(被覆層)を備える。ナノポアチップには、ナノポア(HL1)、注入口、および排出口が形成されている。また、ナノポアチップには、ナノポアと注入口と排出口とを連通する流路が形成されている(
図7の(c)も参照)。ナノポアチップの材料は、SI
3N
4である。PDMSブロックには、HL2が形成されている(
図7の(b)を参照)。2つのPDMSブロックは、ナノポアチップを挟持するように配置されている。
【0082】
一例として、ユーザによって、粒子Pを含んだ液体(懸濁液)が注入口に注入される。そして、流体が補助流路を通ってナノポアの近傍に到達すると、上述の通り流路を利用して粒子Pを移動させることができる。このため、粒子Pの一部が取り除かれた液体が、排出口に向かう。当該液体は、排出口を通過して排出される。
【0083】
<追加検討>
発明者らは、以下の事項、すなわち、
(1)ナノポアチップの表面の一部のみを被覆層(例:PMMA)によって覆った場合には、Cnetの低減効果がそれほど高くない;
(2)これに対し、ナノポアチップの裏面のみを被覆層によって覆った場合には、Cnetの低減効果が高い;
という事項を確認した。
【0084】
このことから、発明者らは、「RC効果」、換言すれば、「Tdelay(=Rnet×Cnet)の大きさ」(イオン電流波形の鈍り具合と表現されてもよい)には、液体と接触するナノポアチップの表面に由来するキャパシタンスが大きく寄与するのではないかと考察した。
【0085】
〔実施形態3〕
発明者らは、実施形態2における「追加検討の(1)」に関し、さらなる検討を行った。実施形態3では、その検討結果の一例について述べる。
【0086】
図8は、実施形態3の流路30について説明するための図である。
図8の(a)には、流路30およびその近傍の構成が概略的に示されている。流路30は、実施形態1の流路10と同様に、被覆部材としてのポリイミド層を備える。以下、流路30の被覆部材を、被覆部材2Aと称する。被覆部材2Aは、被覆部材2と同様に、基材1(Si
3N
4メンブレン)の上面に設けられている。なお、実施形態3の検出装置では、実施形態2と同様に、PDMSによって画定された流路(PDMSチャネル)が設けられている。
【0087】
実施形態3において、発明者らは、dps=200nmの場合について検討を行った。なお、実施形態3では、B=50μmとして、被覆部材2Aが形成されている。つまり、実施形態3では、実施形態1に比べ、Bがより大きく設定されている。なお、実施形態3では、希釈液としては、0.4×PBSが用いられている。その他の条件については、特に明示されない限り、実施形態1と同様であるものとする。
【0088】
図8の(b)には、ポリイミド層(被覆部材2A)によって被覆されたナノポアチップ(基材1)の光学像が示されている。Lpolyは、被覆部材2Aの長手方向の長さを示す。実施形態3では、y方向が、水平面(xy平面)における流路30の長手方向であるものとする。y方向は、例えば
図1における左右方向に相当する。これに対し、x方向を、幅方向とも称する。実施形態3では、x方向が、水平面における流路30の短手方向であるものとする。長手方向および幅方向はいずれも、上述のr方向の一例である。
【0089】
また、
図8の(b)に示されるように、実施形態3のナノポアチップには、
図7の(c)と同様の流路が設けられている。
図8の(a)および(b)に示されるように、実施形態3では、基材1の上面の一部のみが、被覆部材2Aに覆われている場合を主に例示する。
【0090】
図8の(c)には、流路30のSEM像の一例が示されている。
図8の(c)に示されるように、実施形態3においても、HL1はHL2に比べて十分に小さい。
【0091】
図8の(d)には、流路30およびその近傍の等価回路が示されている。
図8の(d)のCEDLは、電気2重層のキャパシタンスである。CEDLは、
図6の(d)のCEOFに相当する。
図8の(d)の等価回路において、基材1が被覆部材2Aによって被覆されている箇所では、CpolyとCSi
3N
4とが直列接続されている。なお、
図8の(d)の等価回路の右端におけるCSi
3N
4は、基材1が被覆部材2Aによって被覆されていない箇所の基材キャパシタンスを示す。
【0092】
実施形態1と同様に、CEDLは、CSi
3N
4に比べて十分に小さい。このため、CEDLについては無視する。また、実施形態1と同様に、Cpolyは、CSi
3N
4に比べて十分に小さい。このことから、
図8の(d)の等価回路におけるCnetは、近似的に、
Cnet=Cpoly+CSi
3N
4…(13)
と表すことができる。
【0093】
以下に述べるように、実施形態3において、CpolyおよびCSi3N4のそれぞれは、Lpolyに依存する。それゆえ、Cnetも、Lpolyに依存する。
【0094】
(Cpolyについて)
図7の(c)に示されるように、実施形態3のナノポアチップにおいて、正方形状の2つの末端部を除いた流路の長手方向の長さは、12mmである。そこで、まずは、Lpoly≦12mmの場合を考える。この場合、Cpolyは、
Cpoly=α×wthin×Lpoly…(14A)
と表すことができる。なお、
α=ε0×εpoly/tpoly
である。wthinは、2つの末端部を除いた領域における流路の幅である。
図7の(c)に示されるように、wthin=0.5mmである。tpolyは、ポリイミド層(被覆部材2A)の厚さであり、
図1のAに相当する。実施形態1と同様に、tpoly=5μmである。
【0095】
続いて、Lpoly>12mmの場合を考える。この場合、Cpolyは、
Cpoly=0.012×α×wthin
+(Lpoly-0.012)×α×wsq…(14B)
と表される。wsqは、流路における正方形状の末端部の幅を表す。
図7の(c)に示されるように、wsq=2mmである。従って、流路の長手方向の全長は、16mmである。この点を踏まえ、実施形態3では、Lpolyの最大値は、16mmであるものとする。
【0096】
(CSi
3N
4について)
まず、Lpoly≦12mmの場合を考える。この場合、CSi
3N
4は、
CSi
3N
4=(0.012-Lpoly)×β…(15A)
と表される。なお、
β=ε0×εSi
3N
4×wthin/tSi
3N
4
である。また、tSi
3N
4は、基材1の厚さであり、
図1のDに相当する。実施形態1と同様に、tSi
3N
4=50nmである。上述の通り、tSi
3N
4<<tpolyである。
【0097】
他方、Lpoly>12mmの場合、CSi3N4は、
CSi3N4=(Lpoly-0.012)×β…(15B)
と表される。
【0098】
発明者らは、式(13)~(15B)に基づき、Lpolyの増加に伴い、Cnetが減少する傾向にあると予想した。
【0099】
(実施形態3における検討その1)
図9は、実施形態3における一検討結果について説明するための図である。発明者らは、Lpolyの値を様々に相違させて、実験を行った。具体的には、発明者らは、
(ケース1)Lpoly=0mm;
(ケース2)Lpoly=1mm;
(ケース3)Lpoly=2mm;
(ケース4)Lpoly=3mm;
(ケース5)Lpoly=6mm;
(ケース6)Lpoly=12mm;
(ケース7)Lpoly=16mm;
という、7通りのケースについて実験を行った。なお、ケース1は、被覆部材2Aが設けられていない場合に相当する。つまり、ケース1は、実施形態1の比較例に相当する。
【0100】
図9の(a)には、上記7通りのケースのそれぞれにおける、Iionの波形が示されている。
図9の(a)に示されるように、Lpolyを大きくするにつれて、Ip(Iionのピーク値の絶対値)が大きくなる傾向が確認された。また、ケース6・7において、電流ノイズが特に効果的に削減できていることが確認された。そこで、例えば、Lpolyは、12mm以上に設定されることが好ましい。
【0101】
また、
図9の(b)には、ケース7におけるIionの1つのパルス波形が示されている。
図9の(c)には、ケース7におけるIionの30個のパルス波形が重ね合わせて示されている。
【0102】
図9の(c)の例において、パルスのライズ部分の形状については、パルスごとのばらつきが比較的大きい。ライズ部分の大きいばらつきは、粒子Pが多様な入射角によって、流路30の入口部(上部に位置するHL2)に侵入することに起因していると考えられる。他方、パルスのテール部分の形状については、パルスごとのばらつきが比較的小さい。テール部分の小さいばらつきは、流路30の出口部(下部)では、HL1を通過した粒子Pの進行方向がほぼ均一に揃えられていることに起因していると考えられる。
【0103】
(実施形態3における検討その2)
図10は、実施形態3における別の検討結果について説明するための図である。
図10の(a)には、ケース1・3・4のそれぞれにおける平均化パルスが示されている。
図10の(a)からも、Lpolyを大きくするにつれて、Ipが大きくなる傾向が確認された。
【0104】
また、実施形態1から理解されるように、テール部分におけるIionは、
Iion=I0×exp(-t/Tdelay)…(16)
と表すことができる。つまり、テール波形は、式(16)によってフィッティングできる。I0は、Iionのピーク値である。
図10の(a)には、Lpoly=3mmの場合について、式(8)に基づき算出されたテール波形が示されている。当該テール波形は、ケース4の平均化パルスのテール波形と概ね一致することが確認された。
【0105】
続いて、発明者らは、式(8)を用いて、ケース1~7のそれぞれについて、Tdelayを同定した。
図10の(b)には、ケース1~7のそれぞれにおけるTdelayが、白丸によって示されている(Tdelayの値については、同図のグラフの左端の縦軸を参照)。また、
図10の(b)には、ケース1~7のそれぞれについて、式(13)~(15B)に基づき算出されたCnetが、黒丸によって示されている(Cnetの値については、同図のグラフの右端の縦軸を参照)。
【0106】
このように、
図10の(b)には、Lpoly(同図のグラフの横軸)に対する、TdelayおよびCnetの依存性が示されている。
図10の(b)に示されるように、Lpolyの増加に伴い、Tdelayが減少する傾向が確認された。また、Lpolyの増加に伴い、Cnetが減少する傾向が確認された。
【0107】
但し、(i)Lpolyの増加に伴うTdelayの減少傾向と、(ii)Lpolyの増加に伴うCnetの減少傾向との間には、若干の相違がみられる。当該相違は、各種のノイズに起因すると考えられる。上述の通り、Lpolyが小さい場合には、ノイズが大きくなると考えられる。それゆえ、Lpolyは、ある程度大きい値に設定されることが好ましいと言える。例えば、上述の通り、Lpolyは、12mm以上に設定されることが好ましい。
【0108】
〔実施形態4〕
発明者らは、実施形態2における「追加検討の(2)」に関し、さらなる検討を行った。実施形態4では、その検討結果の一例について述べる。
【0109】
図11は、実施形態4の流路40について説明するための図である。
図11の(a)には、流路40の構成が概略的に示されている。流路40では、基材1の下面に、支持部材9が設けられている。支持部材9は、基材1を支持する。支持部材9は、例えばドープSi基板である。支持部材9には、HL1に対応する位置に、支持部材開口(以下、HLM)が設けられている。HLMは、支持部材9をz方向に貫く。HLMは、支持部材9によってHL1が覆われないように設けられている。
【0110】
そして、流路40では、支持部材9の下面に、被覆部材2Bが設けられている。被覆部材2Bの材料は、PMMAである。このように、流路40では、実施形態1~3とは異なり、被覆部材が基材1の上面に設けられていない。流路40では、被覆部材2Bは、基材1の下方に設けられている。
図11の(a)に示されるように、被覆部材2Bは、支持部材9を介して、基材1と間接的に接触している。なお、被覆部材2Bにおいて、HL2は、HL1およびHLMに対応する位置に設けられている。
【0111】
流路40の構成においても、基材キャパシタンスと被覆部材キャパシタンスとが直列接続されている。このように、本発明の一態様に係る流路において、基材と被覆部材とは、z方向に離間していてもよい。なお、本発明の一態様に係る流路において、基材の第1面(上面)とは、当該基材の2つの主面のうち、支持部材9と接触していない面と表現することもできる。また、基材の第2面(下面)とは、当該基材の2つの主面のうち、支持部材9と接触している面(支持部材9によって支持されている面)と表現することもできる。
【0112】
図11の(b)には、流路40およびその近傍の等価回路が示されている。また、
図11の(b)には、流路40との対比のために、流路10Vが示されている。
図11の(b)には、流路10Vおよびその近傍の等価回路がさらに示されている。流路10Vでは、流路10における支持部材9が明示的に図示されている。流路10Vでは、流路10と同様に、基材1の上面のうち、HLの近傍を除いた部分の全体が、ポリイミド層(被覆部材2)によって被覆されている。以下、当該被覆態様を、「上面全体被覆」と称する。流路10Vでは、被覆部材2は、支持部材9を介さずに、基材1と直接的に接触している。
【0113】
これに対し、流路40では、被覆部材2Bは、基材1の下面の一部に対応する位置に設けられている。以下、当該被覆態様を、「PMMA被覆」と称する。上述の実施形態3に示されるように、本発明の一態様に係る流路において、上面全体被覆は必須ではないことが、発明者らによって新たな知見として見出された。流路40の構成は、当該新たな知見に基づき、発明者らによって創作された。
【0114】
図11の(b)の等価回路において、CPMMAは、被覆部材2Bのキャパシタンスである。CPMMAは、被覆部材キャパシタンスの別の例である。CdSiは、支持部材9のキャパシタンスである。CdSiは、CPMMAおよびCSi
3N
4に比べて十分に大きい。このため、Cnetの計算においては、CdSiを無視してよい。
【0115】
図11の(b)の各等価回路においても、基材キャパシタンスと被覆部材キャパシタンスとは直列接続されている。
図11の(b)の例において、CPMMA=44pFであった。従って、流路40の等価回路では、Cnet≒44pFとなる。これに対し、CSi
3N
4=13nFであった。従って、流路10Vの等価回路では、Cnet≒13nFとなる。このように、発明者らは、PMMA被覆によれば、上面全体被覆に比べて、被覆部材キャパシタンスをさらに低減できることを見出した。すなわち、流路40によれば、流路10Vに比べて、さらに小さいCnetを得ることができる。
【0116】
以上のように、本発明の一態様に係る流路では、被覆部材は、z方向から見た場合に、HL2を除いた位置において、基材の一部と重なり合うように設けられてよい。すなわち、被覆部材は、z方向から見た場合に、HL2を除いた位置において、基材の全体と重なり合うように設けられていなくともよい。また、本発明の一態様に係る流路では、被覆部材を基材の下方に設けることもできるので、流路の構造設計の自由度も高いと言える。
【0117】
図11の(c)には、(i)「Lpoly=16mm(上述の実施形態3のケース7)」、(ii)「PMMA被覆(流路40)」、および、(iii)「上面全体被覆(流路10V)」のそれぞれにおける、Iionの波形が示されている。「Lpoly=16mm」のデータは、「PMMA被覆」および「上面全体被覆」のデータとの対比のために示されている。PMMA被覆によれば、ケース7および上面全体被覆に比べて、電流ノイズが特に効果的に削減できていることが確認された。
【0118】
図11の(d)には、(i)「Lpoly=16mm」、(ii)「PMMA被覆」、および、(iii)「上面全体被覆」のそれぞれにおける、平均化パルスが示されている。発明者らは、実施形態3と同様に、PMMA被覆および上面全体被覆のそれぞれの場合についても、Tdelayを同定した。
【0119】
図10に示されるように、ケース7では、Tdelayは、約200μsであった。これに対し、PMMA被覆では、Tdelay=145μsであった。また、上面全体被覆では、Tdelay=149μsであった。このように、PMMA被覆では、特に小さいTdelayが得られることが確認された。以上のことから、流路40の構成は、イオン電流の応答速度向上に特に好適であると期待される。
【0120】
〔補足1〕
上述のように、本発明の一態様に係る流路では、被覆部材キャパシタンス(以下、C2)は、基材キャパシタンス(以下、C1)よりも小さく設定されている。例えば、上述の各実施形態に示されるように、C2はpFオーダの値をとり、C1はpFオーダの値をとる。
【0121】
従って、一例として、C2は、C1の1/100以下であることが好ましい。このように各キャパシタンスが設定されていれば、C2<<C1であると言える。上述の各実施形態から理解されるように、C1とC2とが直列接続されている場合には、
Cnet≒(C1×C2)/(C1+C2)…(17)
の関係が成立する。
【0122】
さらに、C2<<C1である場合には、
Cnet≒(C1×C2)/C1=C2…(17A)
となる。このように、C2をC1よりも十分に小さく設定する(例:C2をC1の1/100以下に設定する)ことにより、Cnetを効果的に低減できる。
【0123】
〔補足2〕
本発明の一態様に係る流路では、基材の上方および下方の両方に、被覆部材がそれぞれ設けられてもよい。
【0124】
〔まとめ〕
本発明の一態様に係る流路は、ナノポアセンサに設けられる流路であって、基材と、上記基材に対応する位置に設けられた被覆部材と、を備え、上記基材および上記被覆部材のそれぞれの厚さ方向を第1方向として、上記基材には、当該基材を上記第1方向に貫く基材開口が設けられており、上記被覆部材には、当該被覆部材を上記第1方向に貫く被覆部材開口が設けられており、上記被覆部材開口は、上記被覆部材によって上記基材開口が覆われないように設けられており、上記基材のキャパシタンスを基材キャパシタンスとし、上記被覆部材のキャパシタンスを被覆部材キャパシタンスとして、上記被覆部材は、上記基材キャパシタンスと上記被覆部材キャパシタンスとが直列接続されるように、上記基材に対して配置されており、上記被覆部材キャパシタンスは、上記基材キャパシタンスよりも小さい。
【0125】
本発明の一態様に係る流路では、上記被覆部材開口の、上記第1方向に対して垂直な方向における最大長をBとし、上記基材開口の、上記第1方向に対して垂直な方向における最大長をCとして、B≧10×Cという関係が満たされている。
【0126】
本発明の一態様に係る流路では、上記被覆部材の厚さをAとして、B2/A>5×Cという関係が満たされている。
【0127】
本発明の一態様に係る流路では、上記被覆部材の材料は、ポリマー材料である。
【0128】
本発明の一態様に係る流路では、上記ポリマー材料は、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、またはポリジメチルシロキサンである。
【0129】
本発明の一態様に係る流路では、上記基材の材料は、Si3N4またはSiO2である。
【0130】
本発明の一態様に係る流路では、上記被覆部材の比誘電率は、上記基材の比誘電率よりも小さい。
【0131】
本発明の一態様に係る流路では、上記被覆部材開口の電気抵抗は、上記基材開口の電気抵抗よりも小さい。
【0132】
本発明の一態様に係る流路では、上記被覆部材開口の電気抵抗は、上記基材開口の電気抵抗の1/4よりも小さい。
【0133】
本発明の一態様に係る流路では、上記被覆部材開口の電気抵抗は、上記基材開口の電気抵抗の1/10以下である。
【0134】
本発明の一態様に係る流路では、上記被覆部材は、上記第1方向から見た場合に、上記被覆部材開口を除いた位置において、上記基材の一部と重なり合っている。
【0135】
本発明の一態様に係る流路は、上記基材を支持する支持部材をさらに備えており、上記被覆部材は、上記支持部材を介して、上記基材と間接的に接触している。
【0136】
本発明の一態様に係る流路では、上記被覆部材は、上記基材と直接的に接触している。
【0137】
本発明の一態様に係る流路では、上記被覆部材キャパシタンスは、上記基材キャパシタンスの1/100以下である。
【0138】
〔本発明の一態様の別の表現〕
本発明の一態様に係る流路は、ナノポアセンサに設けられる流路であって、基材と、上記基材上に堆積された被覆部材と、を備え、上記基材および上記被覆部材のそれぞれの厚さ方向を第1方向として、上記基材には、当該基材を上記第1方向に貫く基材開口が設けられており、上記被覆部材には、当該被覆部材を上記第1方向に貫く被覆部材開口が設けられており、上記被覆部材開口は、上記被覆部材によって上記基材開口が覆われないように設けられており、上記被覆部材開口の、上記第1方向に対して垂直な方向における最大長をBとし、上記基材開口の、上記第1方向に対して垂直な方向における最大長をCとして、B≧10×Cという関係が満たされている。
【0139】
本発明の一態様に係る流路では、上記被覆部材の厚さをAとして、B2/A>5×Cという関係が満たされている。
【0140】
〔付記事項〕
本発明の一態様は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の一態様の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0141】
1 基材
2、2A、2B 被覆部材
9 支持部材
10、10V、30、40 流路
100 検出装置(ナノポアセンサ)
HL1 基材開口(ナノポア)
HL2 被覆部材開口(ポリイミド開口)
A 被覆部材の厚さ
B 被覆部材開口の直径(被覆部材開口の、第1方向に対して垂直な方向における断面の最大幅)
C 基材開口の直径(基材開口の、第1方向に対して垂直な方向における断面の最大幅)
z方向 厚さ方向(第1方向)
CSi3N4 Si3N4メンブレン(基材)のキャパシタンス(基材キャパシタンス)
Cpoly ポリイミド層(被覆部材)のキャパシタンス(被覆部材キャパシタンス)
CPMMA PMMA(被覆部材)のキャパシタンス(被覆部材キャパシタンス)
Rpore 基材開口の抵抗(電気抵抗)
Rpore2 被覆部材開口の抵抗(電気抵抗)