(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】緑内障におけるGDF15及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20230725BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230725BHJP
C07K 14/495 20060101ALN20230725BHJP
【FI】
G01N33/53 D
C12N15/12
C07K14/495
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021171700
(22)【出願日】2021-10-20
(62)【分割の表示】P 2018559172の分割
【原出願日】2017-01-30
【審査請求日】2021-11-18
(32)【優先日】2016-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597025806
【氏名又は名称】ワシントン・ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】Washington University
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100165892
【氏名又は名称】坂田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】ラジェンドラ・エス・アプテ
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・ヨシノ
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第02770326(EP,A1)
【文献】国際公開第2015/171457(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0239947(US,A1)
【文献】特表2015-506373(JP,A)
【文献】国際公開第2013/012648(WO,A1)
【文献】MURALIDHARAN, Arumugam Ramachandran et al.,INVESTIGATIVE OPTHALMOLOGY & VISUAL SCIENCE,2016年12月,Vol. 57, No. 15,pp. 6482-6495
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
G01N 33/48-33/98
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑内障と診断された対象における治療
の決定
を支援する方法であって、
a)前記対象から得られた
房水の試料中
のGDF15タンパク質の量を測定すること、
b)前
記試料中の前
記GDF15タンパク質の量を基準値と比較し、前記基準値を上回る前
記GDF15タンパク質の量が緑内障の重症度を示すこと、及び
c)前記
示された緑内障の重症度
を、前記対象の治療
の決定
の支援として提供すること、
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記対象が、前記基準値に対する前
記GDF15タンパク質の量に基づいて、グレードI、グレードIIまたはグレードIIIの緑内障を有すると判定され、ここで、前記基準値を上回
るGDF15タンパク質の量が、グレードI、グレードIIまたはグレードIIIの緑内障を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
20pg/ml~80pg/mlの量のGDF15タンパク質がグレードIの緑内障を示し、80pg/ml~160pg/mlの量のGDF15タンパク質がグレードIIの緑内障を示し、160pg/ml以上の量のGDF15タンパク質がグレードIIIの緑内障を示す、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
46.4±12.1pg/mlの量のGDF15タンパク質がグレードIの緑内障を示し、129.5±38.0pg/mlの量のGDF15タンパク質がグレードIIの緑内障を示し、190±48.7pg/ml以上の量のGDF15タンパク質がグレードIIIの緑内障を示す、請求項
2に記載の方法。
【請求項5】
前記基準値が20pg/mlである、請求項
3に記載の方法。
【請求項6】
前記基準値が8.9±7.7pg/mlである、請求項
4に記載の方法。
【請求項7】
前記GDF15タンパク質の量を、試料をGDF15に特異的な抗体と接触させ、前記抗体に結合した前記GDF15の量を定量することによって検出する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記GDF15タンパク質の量を、イムノアッセイ、酵素結合イムノアッセイ(ELISA)、蛍光ベースアッセイ、解離促進ランタニド蛍光イムノアッセイ(DELFIA)、ラジオメトリックアッセイ、マルチプレックスイムノアッセイ、及びサイトメトリービーズアッセイ(CBA)からなる群から選択される方法によって検出する、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記GDF15タンパク質の量を、ELISAによって検出する、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記治療が、点眼剤、丸薬、レーザー手術、切開手術、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の権利
本発明は、国立衛生研究所により与えられたEY019287に基づく政府の支援によってなされたものである。政府は、本発明に特定の権利を有する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年1月29日出願の米国仮特許出願第62/289,030号の利益を主張し、その開示は参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
本開示は、GDF15の発現レベルを使用して緑内障の重症度を判定する方法を提供した。緑内障の重症度の判定は、治療決定に役立つ。
【0004】
発明の背景
緑内障は、眼の視神経を損傷し、視力喪失及び失明をもたらすことがある疾患群である。しかし、早期検出と治療では、重篤な視力喪失から目を保護することができる。現在、緑内障の重症度または進行を検出する利用可能なバイオマーカーはない。Tgfb2は緑内障を引き起こすことがあるが、緑内障のバイオマーカーではない。現在、眼内圧(IOP)及び視野測定に基づいて緑内障治療を決定する。しかし、IOPは患者ごとに大きな差があり、視野測定は自覚的検査である。したがって、緑内障の治療決定に役立つバイオマーカーが必要である。
【発明の概要】
【0005】
一態様では、本開示は、緑内障と診断された対象における緑内障の重症度を判定する方法を提供する。前記方法は、(a)前記対象から得られた生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を測定すること、(b)前記生体試料中の前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を基準値と比較すること、及び(c)基準値に対する前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量に基づいて、緑内障の重症度を判定すること、を含む。
【0006】
別の態様では、本開示は、緑内障と診断された対象における治療を決定する方法を提供する。この方法は、(a)前記対象から得られた生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を測定すること、(b)前記生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を基準値と比較し、前記基準値を上回るgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量が緑内障の重症度を示すこと、及び(c)前記検出された緑内障の重症度に基づいて前記対象の治療を決定すること、を含む。
【0007】
更に別の態様では、本開示は、対象における緑内障の進行をモニタリングする方法を提供する。この方法は、(a)前記対象から得られた第1の生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を測定すること、(b)後の時点で前記対象から得られた第2の生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を測定すること、(c)前記第2の生体試料中の前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を、前記第1の生体試料中の前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量と比較すること、及び(d)前記第2の生体試料中の前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量が、前記第1の生体試料中の前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量に対して増加している場合、緑内障が進行していると判定すること、を含む。
【0008】
更に別の態様では、本開示は、対象における緑内障治療に対する応答をモニタリングする方法を提供する。この方法は、(a)前記対象から得られた第1の生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を測定すること、(b)前記対象を治療すること、(c)後の時点で前記対象から得られた第2の生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を測定すること、(d)前記第2の生体試料中の前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を、前記第1の生体試料中の前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量と比較すること、及び(e)前記第2の生体試料中の前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量が、前記第1の生体試料中の前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量に対して減少している場合、治療に対する応答を判定すること、を含む。
【0009】
本発明の態様をさらに記載する:
[項1]
緑内障と診断された対象における緑内障の重症度を判定する方法であって、
a)前記対象から得られた生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を測定すること、
b)前記生体試料中の前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を基準値と比較すること、及び
c)前記基準値に対する前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量に基づいて、緑内障の重症度を判定すること、を含む、前記方法。
[項2]
前記対象が、軽度から中等度の緑内障と診断される、上記項1に記載の方法。
[項3]
前記対象が、緑内障と診断されないが、緑内障を有する危険性がある、上記項1に記載の方法。
[項4]
前記対象が、緑内障と診断されないが、緑内障を有する疑いがある、上記項1に記載の方法。
[項5]
前記対象が、前記基準値に対する前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量に基づいて、グレードI、グレードIIまたはグレードIIIの緑内障を有すると判定される、上記項1に記載の方法。
[項6]
前記対象が、緑内障のグレードに基づいて治療される、上記項5に記載の方法。
[項7]
前記生体試料が、房水または網膜組織である、上記項1に記載の方法。
[項8]
前記生体試料が、房水である、上記項1に記載の方法。
[項9]
前記房水を、手術の開始時に採取する、上記項8に記載の方法。
[項10]
GDF15タンパク質を検出する、上記項1に記載の方法。
[項11]
前記基準値を上回るgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量が、グレードI、グレードIIまたはグレードIIIの緑内障を示す、上記項1に記載の方法。
[項12]
約20pg/ml~約80pg/mlの量のGDF15タンパク質がグレードIの緑内障を示し、約80pg/ml~約160pg/mlの量のGDF15タンパク質がグレードIIの緑内障を示し、約160pg/ml以上の量のGDF15タンパク質がグレードIIIの緑内障を示す、上記項11に記載の方法。
[項13]
約46.4±12.1pg/mlの量のGDF15タンパク質が、グレードIの緑内障を示し、約129.5±38.0pg/mlの量のGDF15タンパク質が、グレードIIの緑内障を示し、約190±48.7pg/ml以上の量のGDF15タンパク質がグレードIIIの緑内障を示す、上記項11に記載の方法。
[項14]
前記対象を、前記基準値を上回る前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量に基づいて治療する、上記項1に記載の方法。
[項15]
前記基準値が約20pg/mlである、上記項1に記載の方法。
[項16]
前記基準値が約8.9±7.7pg/mlである、上記項1に記載の方法。
[項17]
前記GDF15タンパク質の量を、試料をGDF15に特異的な抗体と接触させ、抗体に結合した前記GDF15の量を定量することによって検出する、上記項10に記載の方法。
[項18]
前記GDF15タンパク質の量を、イムノアッセイ、酵素結合イムノアッセイ(ELISA)、蛍光ベースアッセイ、解離促進ランタニド蛍光イムノアッセイ(DELFIA)、ラジオメトリックアッセイ、マルチプレックスイムノアッセイ、及びサイトメトリービーズアッセイ(CBA)からなる群から選択される方法によって検出する、上記項10に記載の方法。
[項19]
前記GDF15タンパク質の量を、ELISAによって検出する、上記項18に記載の方法。
[項20]
臨床症状を評価すること、眼内圧を測定すること、視野測定を実施すること、またはそれらの組み合わせをさらに含む、上記項1に記載の方法。
[項21]
緑内障と診断された対象における治療を決定する方法であって、
a)前記対象から得られた生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を測定すること、
b)前記生体試料中の前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を基準値と比較し、前記基準値を上回る前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量が緑内障の重症度を示すこと、及び
c)前記検出された緑内障の重症度に基づいて前記対象の治療を決定すること、
を含む、前記方法。
[項22]
前記対象が、緑内障と診断されないが、緑内障を有する危険性がある、上記項21に記載の方法。
[項23]
前記対象が、緑内障と診断されないが、緑内障を有する疑いがある、上記項21に記載の方法。
[項24]
前記対象が、前記基準値に対する前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量に基づいて、グレードI、グレードIIまたはグレードIIIの緑内障を有すると判定される、上記項21に記載の方法。
[項25]
約20pg/ml~約80pg/mlの量のGDF15タンパク質がグレードIの緑内障を示し、約80pg/ml~約160pg/mlの量のGDF15タンパク質がグレードIIの緑内障を示し、約160pg/ml以上のGDF15タンパク質の量がグレードIIIの緑内障を示す、上記項24に記載の方法。
[項26]
前記対象を、緑内障のグレードに基づいて治療する、上記項24または上記項25に記載の方法。
[項27]
前記治療が、点眼剤、丸薬、レーザー手術、切開手術、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、上記項26に記載の方法。
[項28]
対象における緑内障の進行をモニタリングする方法であって、
a)前記対象から得られた第1の生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を測定すること、
b)後の時点で前記対象から得られた第2の生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を測定すること、
c)前記第2の生体試料中の前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を、前記第1の生体試料中の前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量と比較すること、及び
d)前記第2の生体試料中の前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量が、前記第1の生体試料中の前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量に対して増加している場合、緑内障が進行していると判定すること、を含む、前記方法。
[項29]
対象における緑内障治療に対する応答をモニタリングする方法であって、
a)前記対象から得られた第1の生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を測定すること、
b)前記対象を治療すること、
c)後の時点で前記対象から得られた第2の生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を測定すること、
d)前記第2の生体試料中の前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を、前記第1の生体試料中の前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量と比較すること、及び
e)前記第2の生体試料中の前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量が、前記第1の生体試料中の前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量に対して減少している場合、治療に対する応答を判定すること、
を含む、前記方法。
[項30]
GDF15タンパク質を検出する、上記項28または上記項29に記載の方法。
[項31]
前記基準値を上回るGDF15タンパク質の量が、グレードI、グレードIIまたはグレードIIIの緑内障を示す、上記項30に記載の方法。
[項32]
約20pg/ml~約80pg/mlの量のGDF15タンパク質がグレードIの緑内障を示し、約80pg/ml~約160pg/mlの量のGDF15タンパク質がグレードIIの緑内障を示し、約160pg/ml以上のGDF15タンパク質の量がグレードIIIの緑内障を示す、上記項31に記載の方法。
[項33]
約46.4±12.1pg/mlのGDF15タンパク質の量が、グレードIの緑内障を示し、約129.5±38.0pg/mlのGDF15タンパク質の量が、グレードIIの緑内障を示し、約190±48.7pg/ml以上のGDF15タンパク質の量がグレードIIIの緑内障を示す、上記項31に記載の方法。
[項34]
GDF15タンパク質の量を、試料をGDF15に特異的な抗体と接触させ、前記抗体に結合したGDF15の量を定量することによって検出する、上記項30に記載の方法。
[項35]
前記GDF15タンパク質の量を、イムノアッセイ、酵素結合イムノアッセイ(ELISA)、蛍光ベースアッセイ、解離促進ランタニド蛍光イムノアッセイ(DELFIA)、ラジオメトリックアッセイ、マルチプレックスイムノアッセイ、及びサイトメトリービーズアッセイ(CBA)からなる群から選択される方法によって検出する、上記項34に記載の方法。
[項36]
前記GDF15タンパク質の量を、ELISAによって検出する、上記項35に記載の方法。
[項37]
臨床症状を評価すること、眼内圧を測定すること、視野測定を実施すること、またはそれらの組み合わせをさらに含む、上記項28または上記項29に記載の方法。
本出願のファイルは、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含んでいる。カラー図面(複数可)による本特許出願公開の写しは、請求に応じて、必要な手数料が支払われた場合に、米国特許商標庁により提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】視神経挫滅モデル(ONC)と、エンドトキシン誘発ブドウ膜炎モデル(EIU)と、光曝露誘発網膜変性モデル(LE)との間で重複するアップレギュレートされた遺伝子を示すベン図を表す。
【
図2】ONCと、EIUと、LEとの間で重複するダウンレギュレートされた遺伝子を示すベン図を表す。
【
図3】
図3A、
図3B及び
図3Cは、ONC(
図3A)、EIU(
図3B)及びLE(
図3C)におけるgdf15の遺伝子発現レベルを示すグラフを表す。Gdf15遺伝子発現は、ONCモデルにおいてのみアップレギュレートされる。
【
図6】GDF15タンパク質がONCマウスモデルにおいて上昇したことを示すグラフを表す。
【
図7】
図7A及び
図7Bは、gdf15がONC(
図7A)において有意にアップレギュレートされ、tgfb2がONC(
図7B)において変化しなかったことを示すグラフを表す。
図7Cは、房水で実施したELISAアッセイによって検出されたGDF15タンパク質発現が、ONCのラットモデルにおいてもアップレギュレートされることを示すグラフを表す。
【
図8】
図8A、
図8B、及び
図8Cは、それぞれ前眼部、水晶体及び網膜におけるgdf15の6時間での発現を示すグラフを表す。結果は、いずれの眼組織においても有意なアップレギュレーションがないことを示した。
図8D、
図8E、及び
図8Fは、gdf15発現が網膜(
図8F)では有意にアップレギュレートされたが、前眼部または水晶体では有意にアップレギュレートされなかったことを示すグラフを表す(それぞれ
図8D、
図8E)。
【
図9】
図9Aは、対照対ONCモデルにおけるマクロファージの有意差がないことを示すグラフを表す。
図9B及び
図9Cは、EIUモデル及びLEモデルの両方が、対照と比較してマクロファージの有意な増加をそれぞれ示すグラフを表す。
【
図10】対照患者と比較して、緑内障患者におけるGDF15発現の有意な増加が存在することを示すグラフを表す。
【
図11】GDF15の発現が疾患の重症度と相関することを示すグラフを表す。緑内障の重症度がグレードIからグレードII、グレードIIIへと進行するにつれて、検出されるGDF15の量が増加する。テューキーの多重比較検定
*p<0.05
**p<0.01
【
図12】対照組織及びONC組織のインサイチュハイブリダイゼーション(ISH)を示す画像を表す。GDF15は、ONC組織の外顆粒層(ONL)及び内顆粒層(INL)と比較して、神経節細胞層(GCL)において特にアップレギュレートされている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示は、GDF15タンパク質の房水濃度の増加と緑内障の重症度の増加との間の統計的に有意な関係を提供する。成長/分化因子15(GDF15)は、トランスフォーミング成長因子βスーパーファミリーに属するタンパク質である。GDF15は、成長/分化因子15、TGF-PL、MIC-1、PDF、PLAB、NAG-1、及びPTGFBとも称してもよい。GDF15のアミノ酸配列は、GenBankアクセッション番号NP_004855.2に見出すことができ、mRNA配列は、GenBankアクセッション番号NM_004864.3に見出すことができる。当業者は、提供されるGenBankアクセッション番号に基づいて配列を決定することができるであろう。網膜神経節細胞の慢性損傷に起因する緑内障においてGDF15タンパク質レベルが上昇し、GDF15の上昇が緑内障のグレードと特異的に相関することは、思いがけないことであった。驚くべきことに、GDF15は、網膜神経節細胞傷害によりアップレギュレートされる唯一の特異的遺伝子である。したがって、本明細書では、この関係を利用して、緑内障の重症度を判定し治療決定に役立つ本発明の手段を提供する方法を提供する。
【0012】
本明細書において、gdf15核酸及びGDF15タンパク質を検出するための方法、ならびに対象における緑内障の重症度を分類する際のそれらの使用を提供する。これらの方法の種々の態様は、以下でより詳細に説明する。
【0013】
I.方法
一態様では、本開示は、対象から得られた生体試料中で測定したgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量に基づいて、対象を分類する方法を提供する。この方法は、一般に(i)前記生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を測定すること、(ii)前記生体試料中の前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を基準値と比較すること、及び(iii)前記試料中で測定した前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量に基づいて、前記対象を、増加したもしくは減少した前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質を有するものとして分類すること、を含む。
【0014】
別の態様では、本開示は、緑内障と診断された対象における緑内障の重症度を判定する方法を提供する。この方法は、一般に(i)前記対象から得られた生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を測定すること、(ii)前記生体試料中の前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を基準値と比較すること、及び(iii)前記基準値に対する前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量に基づいて、緑内障の重症度を判定することを含む。対象の緑内障を診断する方法は、当該技術分野において既知であり、眼圧測定(眼内圧(IOP)、眼圧検査)、眼の排液角度の検査(隅角鏡検査)、視神経の検査(眼底検査)、周辺視力検査(視野検査、視野測定)、角膜の厚さ測定(パキメトリー)が含まれるが、これらに限定されない。ある実施形態では、対象は、緑内障と診断されない場合があるが、症状に基づいて緑内障を有する疑いがある。診断につながる場合がある緑内障の症状の非限定的な例としては、周辺視における盲点、かすみ目、ハロー、軽度の頭痛、眼の痛み、目または額に重度の痛み、目の充血、視力低下、虹視症、悪心及び/または嘔吐が挙げられる。他の実施形態では、対象は、緑内障と診断されない場合があるが、緑内障を有する危険性がある。緑内障の危険因子の非限定的な例としては、高IOP、60歳超の年齢、アフリカ系アメリカ人またはヒスパニック系、緑内障の家族歴、糖尿病、心臓病、高血圧及び鎌状赤血球貧血などの病状、近視、眼の傷害歴または特定のタイプの眼の手術歴などの目の状態、43歳以前に両側卵巣摘出術後に起こりうる早期エストロゲン欠乏症、及び/または長期間のコルチコステロイド薬、特に点眼薬の服用が挙げられる。
【0015】
一般に、緑内障の重症度は、ICD-9病期分類定義に基づいて判定する。しかし、本開示は、生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を使用して、緑内障の重症度を判定し得ることを提供する。ICD-9病期分類の定義によれば、緑内障の重症度は、軽度または初期段階の緑内障(グレードI)、中等度段階の緑内障(グレードII)または重度段階の緑内障、高度段階の緑内障、末期段階の緑内障(グレードIII)でありうる。軽度または初期段階の緑内障(グレードI)は、緑内障に一致する視神経異常として定義されるが、ホワイト オン ホワイト視野検査での視野異常は存在せず、または短波長自動視野測定または周波数二倍錯視視野測定においてのみ視野異常が存在する。中等度段階の緑内障(グレードII)は、緑内障に一致する視神経異常及び1つの半視野においてであり、固視5度内にはない緑内障性視野異常と定義される。重度段階の緑内障、進行段階の緑内障、末期の緑内障(グレードIII)は、緑内障に一致する視神経異常及び両半視野の緑内障性視野異常、及び/または少なくとも1つの半視野における固視5度内として定義される。当該技術分野において既知であるその他の病期分類系を使用してもよい。当業者であれば、ICD-9病期分類系を、他の病期分類系と相関させることができるであろう。したがって、生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量に基づいて、対象は、グレードI、グレードIIまたはグレードIIIの緑内障に分類することができる。次いで、治療決定は、緑内障の段階に基づいて行うことができる。
【0016】
さらに別の態様では、本開示は、緑内障と診断された対象の治療を決定する方法を提供する。この方法は、一般に(i)前記対象から得られた生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を測定すること、(ii)前記生体試料中の前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を基準値と比較し、前記基準値を上回る前記gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量が緑内障の重症度を示すこと、及び(iii)検出された緑内障の重症度に基づいて前記対象の治療を決定すること、を含む。ある実施形態では、対象は、緑内障と診断されない場合があるが、症状に基づいて緑内障を有する疑いがある。他の実施形態では、対象は、緑内障と診断されない場合があるが、緑内障を有する危険性がある。生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量に基づいて、対象は、グレードI、グレードIIまたはグレードIIIの緑内障に分類することができる。緑内障は、点眼剤、丸薬、レーザー手術、切開手術、またはこれらの方法の組み合わせで治療することができる。緑内障による失明は不可逆的であるため、あらゆる治療の目標は、視力の喪失を防ぐことである。一般に、点眼剤は、低グレードの緑内障を治療するために使用する。点眼剤が十分にIOPを制御しない場合、点眼剤に加えて丸薬を使用してもよい。投薬により所望の結果が達成されないか、または耐えられない副作用がある場合、手術が次の選択肢であり得る。手術は、レーザー手術または切開手術であり得る。レーザー手術は、投薬と切開手術の中間段階と考えられる。レーザー手術の非限定的な例としては、アルゴンレーザー線維柱帯形成術(ALT)、選択的線維柱帯形成術(SLT)、レーザー末梢虹彩切開術(LPI)及びシクロアブレーションが挙げられる。切開手術の非限定的な例としては、線維柱帯切除術、ドレナージインプラント手術、非穿孔性手術、エクスプレスミニ緑内障シャント、トラベクトーム及び管形成術が挙げられる。生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量に基づいたグレードI、グレードIIまたはグレードIIIの分類に基づいて、対象は、点眼剤、丸薬、レーザー手術及び/または切開手術で治療され得る。
【0017】
更に別の態様では、本開示は、対象における緑内障をモニタリングする方法を提供する。このような実施形態では、gdf15核酸またはGDF15タンパク質を検出する方法を使用して、ある時点における対象の緑内障の重症度を評価することができる。その後次いで、gdf15核酸またはGDF15タンパク質を検出する方法を使用して、対象における緑内障の重症度の経時変化を判定することができる。例えば、gdf15核酸またはGDF15タンパク質を検出する方法は、gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を最初に決定した数日後、数週間後、数ヶ月後または数年後に、同じ対象に使用することができる。したがって、gdf15核酸またはGDF15タンパク質を検出する方法を使用して、より重度の疾患に進行する危険性が高く、それによって治療を必要とする時期を判定するために、対象を経時的に追跡することができる。さらに、gdf15核酸またはGDF15タンパク質を検出する方法を使用して、疾患の進行速度を測定することができる。例えば、gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量の減少は、疾患の進行の弱まりを示し得る。あるいは、gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量の増加は、疾患の進行を示し得る。対象における緑内障の重症度の早期評価によって、介入の改善が可能になるか、またはより早期の介入が可能になり、緑内障に関連する症状の発症及び/または進行を低減させる場合がある。
【0018】
さらに、対象における緑内障をモニタリングする方法を用いて、治療に対する応答を判定することもできる。本明細書中で使用する場合、治療に応答する対象は、治療の恩恵を受けたと言われる。治療に対する応答は、臨床的実践において、眼圧測定(眼内圧(IOP)、眼圧検査)、眼の排液角度の検査(隅角鏡検査)、視神経の検査(眼底検査)、周辺視力検査(視野検査、視野測定)、角膜の厚さ測定(パキメトリー)が含まれるが、これらに限定されない試験により測定する。これらの試験は、当該分野で周知であり、当業者が臨床試験中及び臨床的実践において測定した特定のパラメーターを意味することを意図している。例えば、gdf15核酸またはGDF15タンパク質を検出する方法は、治療の開始前に、対象の生体試料において実施してもよい。その後次いで、gdf15核酸またはGDF15タンパク質を検出する方法を使用して、経時的治療への応答を判定することができる。例えば、gdf15核酸またはGDF15タンパク質を検出する方法は、治療の開始後の数日間、数週間、数ヶ月間または数年間、同じ対象の生体試料に行うことができる。したがって、gdf15核酸またはGDF15タンパク質を検出する方法は、治療を受けている対象の追跡に使用して、これにより対象が治療に応答しているかどうかを判定することができる。gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量が増加するかまたは同じままである場合、対象は治療に応答していない可能性がある。gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量が減少する場合、対象は治療に応答している可能性がある。これらの工程を反復して、経時的治療に対する応答を判定することができる。
【0019】
好適な対象としては、ヒト、家畜動物、コンパニオンアニマル、実験動物及び動物学上の動物が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、対象は、例えばマウス、ラット、モルモットなどのげっ歯類であってもよい。別の実施形態では、対象は家畜動物であってもよい。好適な家畜動物の非限定的な例としては、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ラマ及びアルパカを挙げてよい。さらに別の実施形態では、対象はコンパニオンアニマルであってもよい。コンパニオンアニマルの非限定的な例としては、イヌ、ネコ、ウサギ、及びトリなどのペットを挙げてよい。さらに別の実施形態では、対象は動物学上の動物であってもよい。本明細書で使用する場合、「動物学上の動物」とは、動物園で見出され得る動物を意味する。そのような動物としては、非ヒト霊長類、大型のネコ、オオカミ、及びクマを挙げてよい。好ましい実施形態では、動物は実験動物である。実験動物の非限定的な例としては、げっ歯類、イヌ科動物、ネコ科動物、及び非ヒト霊長類を挙げてよい。ある実施形態では、動物はげっ歯類である。好ましい実施形態では、対象はヒトである。
【0020】
(a)生体サンプル
本明細書中で使用する場合、「生体試料」という用語は、対象から得られた試料を意味する。GDF15タンパク質またはgdf15核酸を含む任意の生体試料が好適である。多くの種類の生体試料が、当該技術分野において既知である。好適な生体試料としては、組織試料または体液が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、生体試料は、組織生検などの組織試料である。生検組織を固定し、パラフィンまたはプラスチックに包埋し、切開してもよく、または生検組織を凍結して凍結切開してもよい。特定の実施形態では、生検組織は網膜組織である。他の実施形態では、試料は体液であってもよい。好適な体液の非限定的な例としては、房水が挙げられる。特定の実施形態では、生体試料は房水である。流体は「そのまま」使用してもよく、細胞成分を流体から単離してもよく、または標準的な技術を用いて画分を流体から単離してもよい。
【0021】
当業者が理解するように、生体試料を採取する方法は、生体試料の性質及び実施するべき分析のタイプに応じて変化する。当該技術分野において一般的に既知である種々の方法のうちのいずれかを利用して、生体試料を採取することができる。一般的に言うと、この方法により、好ましくは、試料の完全性を維持し、これにより本開示に従ってgdf15核酸またはGDF15タンパク質を正確に検出することができ、その量を測定することができる。特定の実施形態では、房水は、外科手術の開始時に採取する。
【0022】
いくつかの実施形態では、単一の試料を対象から得て、試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質を検出する。あるいは、gdf15核酸またはGDF15タンパク質は、対象から経時的に得られた試料中で検出してもよい。このように、複数の試料を、経時的に対象から採取してもよい。例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16またはそれ以上の試料を、経時的に対象から採取してもよい。いくつかの実施形態では、2、3、4、5または6の試料を、経時的に対象から採取する。他の実施形態では、6、7、8、9または10の試料を、経時的に対象から採取する。さらに他の実施形態では、10、11、12、13または14の試料を、経時的に対象から採取する。さらに他の実施形態では、14、15、16またはそれ以上の試料を、経時的に対象から採取する。
【0023】
複数の試料を経時的に対象から採取する場合、試料は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12またはそれ以上の日ごとに採取してもよい。いくつかの実施形態では、試料は約6日ごとに採取する。いくつかの実施形態では、試料は1、2、3、4、または5日ごとに採取する。他の実施形態では、試料は5、6、7、8、または9日ごとに採取する。さらに他の実施形態では、試料は9、10、11、12、またはそれ以上の日ごとに採取する。さらに他の実施形態では、1ヶ月間隔、3ヶ月間隔、6ヶ月間隔、1年間隔、2年間隔、5年間隔、10年間隔またはそれ以上の間隔で、試料を採取する。
【0024】
(b)gdf15核酸またはGDF15タンパク質の検出
試料を得ると、それをインビトロで処理して、gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を検出及び測定する。当業者に既知の、gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を検出及び測定するための全ての好適な方法は、本発明の範囲内であると考えられる。核酸発現及びタンパク質発現を検出する方法は、以下に詳細に記載する。
【0025】
i.核酸発現
一実施形態では、gdf15核酸発現を測定して、生体試料中のgdf15核酸の量を判定することができる。特定の実施形態では、gdf15のmRNAを測定して、生体試料中のgdf15核酸の量を判定することができる。
【0026】
試料中の核酸発現の量を評価するための方法は、当該技術分野において周知であり、当業者に既知の核酸発現の量を評価するための全ての好適な方法は、本発明の範囲内であると考えられる。本明細書で使用する「核酸発現量」または「核酸発現レベル」という用語は、発現するメッセンジャーRNA(mRNA)転写物、または特定の変異体またはmRNAの他の部分のレベル、核酸の酵素的または他の活性、及び特定の代謝産物のレベルなどであるがこれらに限定されない、核酸の発現の測定可能なレベルに依存する。「核酸」という用語は、DNA及びRNAを含み、二本鎖または一本鎖のいずれかであり得る。核酸発現の量を評価するための好適な方法の非限定的な例としては、マイクロアレイなどのアレイ、RT-PCR(定量的RT-PCRを含む)などのPCR、ヌクレアーゼ保護アッセイ及びノーザンブロット分析を挙げてよい。特定の実施形態では、標的核酸の発現量を判定することは、部分的に、標的核酸mRNA発現のレベルを測定することを含む。
【0027】
一実施形態では、核酸発現量は、マイクロアレイなどのアレイを用いて判定することができる。核酸マイクロアレイを使用する方法は、当該技術分野において広範にわたってよく知られている。例えば、標的遺伝子の発現産物と相補的またはハイブリダイズ可能な核酸プローブを、アレイに使用することができる。「ハイブリダイズする」または「ハイブリダイズ可能な」という用語は、相補的核酸との配列特異的非共有結合相互作用を意味する。好ましい実施形態では、ハイブリダイゼーションは高ストリンジェンシー条件下で行われる。ハイブリダイゼーションを促進する適切なストリンジェンシー条件は、当業者に既知であるか、またはCurrent Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y. (1989), 6.3.1 6.3.6に見出すことができる。本明細書で使用する「プローブ」という用語は、標的核酸配列にハイブリダイズする核酸配列を意味する。一例では、プローブは、核酸のRNA産物またはその相補的な核酸配列にハイブリダイズする。プローブの長さは、ハイブリダイゼーション条件及びプローブ及び標的核酸配列の配列に依存する。一実施形態では、プローブは、少なくとも8、10、15、20、25、50、75、100、150、200、250、400、500またはそれ以上のヌクレオチド長である。
【0028】
別の実施形態では、核酸発現量は、PCRを用いて判定することができる。PCRを使用する方法は、当該技術分野において広範にわたってよく知られており、定量的PCR、半定量的PCR、マルチプレックスPCR、またはそれらの任意の組み合わせを含み得る。具体的には、核酸発現量は、定量的RT-PCRを用いて判定することができる。定量的RT-PCRを実施する方法は、当該技術分野において一般的である。このような実施形態では、定量的RT-PCRに使用するプライマーは、標的遺伝子のためのフォワード及びリバースプライマーを含むことができる。本明細書で使用する「プライマー」という用語は、精製された制限消化物中に天然に存在するか、または合成的に作製されたかに関係なく、核酸鎖に相補的であるプライマー伸長産物の合成が誘導される条件下(例えば、ヌクレオチド及びDNAポリメラーゼなどの誘導剤の存在下で、適切な温度及びpHで)に置かれた場合に、合成のポイントとして作用することができる核酸配列を意味する。プライマーは、誘導剤の存在下で、所望の伸長産物の合成を開始するのに十分な長さでなければならない。プライマーの正確な長さは、温度、プライマーの配列及び使用方法を含む因子に依存する。プライマーは、典型的には15~25個またはそれ以上のヌクレオチドを含むが、より少ないまたはより多いヌクレオチドを含むことができる。プライマーの適切な長さの決定に関与する因子は、当業者には容易に知られる。
【0029】
核酸発現量は、核酸配列のmRNA転写物全体を測定することによって、または核酸配列のmRNA転写物の一部を測定することによって、測定することができる。例えば、核酸アレイを、mRNA発現量を測定するために利用する場合、アレイは、目的の核酸配列のmRNAの一部のプローブを含むことができるか、またはアレイは、目的の核酸配列の完全なmRNAのプローブを含むことができる。同様に、PCR反応において、プライマーは、目的の核酸配列のcDNA配列全体またはcDNA配列の一部を増幅するように設計してもよい。当業者は、目的の核酸配列のcDNA全体またはcDNAの一部のいずれかを増幅するために使用され得る一組以上のプライマーが存在することを、認識するであろう。プライマーを設計する方法は、当該技術分野において既知である。生体試料からRNAを抽出する方法は、当該技術分野において既知である。
【0030】
発現レベルは、対照核酸のレベルに対して標準化されてもされなくてもよい。これにより、異なる機会に実施されるアッセイ間の比較が可能になる。
【0031】
ii.タンパク質発現
別の実施形態では、GDF15タンパク質発現を測定して、生体試料中のGDF15タンパク質の量を決定することができる。特定の実施形態では、GDF15タンパク質発現は、ELISAを用いて測定して、生体試料中のGDF15タンパク質の量を決定することができる。
【0032】
タンパク質発現量を評価するための方法は、当該技術分野において周知であり、当業者に既知のタンパク質発現の量を評価するための全ての好適な方法は、本発明の範囲内であると考えられる。タンパク質発現の量を評価するための好適な方法の非限定的な例としては、エピトープ結合剤ベースの方法及び質量分析に基づく方法を挙げてよい。
【0033】
いくつかの実施形態では、タンパク質発現量を評価する方法は、質量分析法である。質量及び電荷の固有の特性を利用することにより、質量分析(MS)は、タンパク質を含む多種多様の複合化合物を解析し、確実に同定することができる。従来の定量的MSでは、エレクトロスプレーイオン化(ESI)に続いてタンデムMS(MS/MS)を使用し(Chen et al., 2001; Zhong et al., 2001; Wu et al., 2000)、一方、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)に続いて飛行時間型(TOF)MSを使用して(Bucknall et al., 2002; Mirgorodskaya et al., 2000; Gobom et al., 2000)、より新しい定量法が開発されている。本発明によれば、質量分析を用いて、本発明の標的核酸からコードされたタンパク質のレベルを検出することができる。
【0034】
いくつかの実施形態では、タンパク質発現量を評価する方法は、エピトープ結合剤ベースの方法である。本明細書で使用する「エピトープ結合剤」という用語は、標的遺伝子タンパク質を認識しそれに結合することができる、抗体、アプタマー、核酸、オリゴ核酸、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、脂質、代謝産物、小分子、またはその断片を意味する。核酸類としてはRNA、DNA、及び天然に存在するか、または合成的に作製した誘導体を挙げてよい。
【0035】
本明細書中で使用する場合、「抗体」という用語は、一般に、抗原のエピトープを認識し、これに結合することができるポリペプチドまたはタンパク質を意味する。本明細書中で使用する場合、抗体は、当該技術分野において理解されるような、すなわち2つの重鎖及び2つの軽鎖からなる完全な抗体であり得るか、または抗原結合領域を有し、Fab’、Fab、F(ab’)2、単一ドメイン抗体、Fv、及び一本鎖Fvなどの抗体フラグメントを含むが、これらに限定されない、任意の抗体様分子であり得る。抗体という用語はまた、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体及びヒト化抗体を意味する。種々の抗体ベースの構築物及び断片を調製及び使用するための技術は、当該技術分野において周知である。抗体の調製及び特性評価のための手段も、当該技術分野において周知である(例えば、Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988を参照のこと、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0036】
本明細書中で使用する場合、「アプタマー」という用語は、生化学的活性、分子認識または結合特性に関して有用な生物学的活性を有するポリヌクレオチド、一般にRNAまたはDNAを意味する。通常、アプタマーは、特定のエピトープ(領域)における標的分子への結合などの分子活性を有する。ポリペプチドに結合するそれに特異的なアプタマーは、インビトロ進化法によって合成及び/または同定され得ることが一般に認められている。インビトロ進化法を含むアプタマーの調製及び特性評価のための手段は、当該技術分野において周知である(例えば、US7,939,313を参照のこと、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0037】
一般に、タンパク質発現量を評価するエピトープ結合剤ベースの方法は、エピトープ結合剤とポリペプチドとの間の複合体の形成を可能にするのに有効な条件下で、このポリペプチドを含む試料を、このポリペプチドに特異的なエピトープ結合剤と接触させることを含む。エピトープ結合剤ベースの方法は、溶液中で生じてもよく、またはエピトープ結合剤または試料が固体表面上に固定化されてもよい。好適な表面の非限定的な例としては、マイクロタイタープレート、試験管、ビーズ、樹脂類、及び他のポリマー類が挙げられる。
【0038】
エピトープ結合剤は、当業者には理解されるように、多種多様な方法で基質に付着することができる。エピトープ結合剤は、最初に合成して、続いて基質に付着させてもよく、または基質上で直接合成してもよい。基質及びエピトープ結合剤は、化学官能基で誘導体化し、その後この2つを結合してもよい。例えば、基質は、アミノ基、カルボキシル基、オキソ基またはチオール基を含むが、これに限定されない化学官能基で誘導体化することができる。これらの官能基を使用して、エピトープ結合剤は、官能基を用いて直接的にまたはリンカーを用いて間接的に付着することができる。
【0039】
エピトープ結合剤はまた、基質に非共有結合していてもよい。例えば、ビオチン化エピトープ結合剤を調製することができ、これはストレプトアビジンで共有結合的にコートされた表面に結合し、付着をもたらす。あるいは、エピトープ結合剤は、光重合及びフォトリソグラフィなどの技術を用いて表面上で合成してもよい。エピトープ結合剤を固体表面に付着させるさらなる方法及び生体分子を基質上で合成する方法は、当該分野で周知であり、すなわちAffymetrixのVLSIPS技術である(例えば、米国特許第6,566,495号及びRockett and Dix、Xenobiotica 30(2):155-177、これらの両方は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0040】
有効な条件下で複合体の形成を可能にするのに十分な時間、エピトープ結合剤と試料を接触させることは、一般に、エピトープ結合剤組成物を試料に添加すること、及びエピトープ結合剤が、存在する任意の抗原に結合するのに十分な時間、混合物をインキュベートすることを含む。この時間経過後、複合体を洗浄し、複合体は、当該技術分野で周知の任意の方法によって検出し得る。エピトープ結合剤-ポリペプチド複合体を検出する方法は、一般に、標識またはマーカーの検出に基づく。本明細書で使用する「標識」という用語は、エピトープ結合剤または他の基質物質に付着した任意の物質であって、検出方法によって検出可能である任意の物質を意味する。好適な標識の非限定的な例としては、発光分子、化学発光分子、蛍光色素、蛍光消光剤、有色分子、放射性同位体、シンチラント、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、プロテインA、プロテインG、抗体またはそのフラグメント、ポリヒスチジン、Ni2+、Flagタグ、mycタグ、重金属、及び酵素(アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、及びルシフェラーゼを含む)が挙げられる。標識またはマーカーの検出に基づいてエピトープ結合剤-ポリペプチド複合体を検出する方法は、当該技術分野において周知である。
【0041】
いくつかの実施形態では、エピトープ結合剤ベースの方法は、イムノアッセイである。イムノアッセイは、多数の異なる形式で実行できる。一般的に言うと、イムノアッセイは2つのカテゴリー、すなわち競合イムノアッセイ及び非競合イムノアッセイに分けることができる。競合イムノアッセイでは、試料中の非標識分析物が標識分析物と競合して抗体に結合する。結合していない分析物を洗い流し、結合した分析物を測定する。非競合イムノアッセイでは、抗体が標識され、分析物は標識されない。非競合イムノアッセイは、1つの抗体(例えば、捕捉抗体が標識されている)または2つ以上の抗体(例えば、標識されていない少なくとも1つの捕捉抗体及び標識された少なくとも1つの「キャッピング」または検出抗体)を使用してもよい。好適な、標識については、上述した通りである。
【0042】
一実施形態では、エピトープ結合剤の方法は、イムノアッセイである。別の実施形態では、エピトープ結合剤の方法は、酵素結合イムノアッセイ(ELISA)、蛍光ベースアッセイ、解離促進ランタニド蛍光イムノアッセイ(DELFIA)、ラジオメトリックアッセイ、マルチプレックスイムノアッセイ、及びサイトメトリービーズアッセイ(CBA)からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、エピトープ結合剤ベースの方法は、酵素結合イムノアッセイ(ELISA)である。他の実施形態では、エピトープ結合剤ベースの方法は、ラジオイムノアッセイである。さらに他の実施形態では、エピトープ結合剤ベースの方法はイムノブロットまたはウェスタンブロットである。代替実施形態では、エピトープ結合剤ベースの方法はアレイである。別の実施形態では、エピトープ結合剤ベースの方法は、フローサイトメトリーである。異なる実施形態では、エピトープ結合剤ベースの方法は、免疫組織化学(IHC)である。IHCでは、インタクトな組織試料中の抗原を検出及び定量するために、抗体を使用する。組織試料は、IHCによる試験のために調製した新鮮凍結及び/またはホルマリン固定、パラフィン包埋(またはプラスチック包埋)組織ブロックであってもよい。IHCによる試験のための組織ブロックを調製する方法、ならびにIHCを実施する方法は、当該技術分野において周知である。
【0043】
(c)gdf15核酸またはGDF15タンパク質の量と基準値との比較
生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量を、gdf15核酸またはGDF15タンパク質の基準値とそれぞれ比較することができる。生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の対象発現レベルを、gdf15核酸またはGDF15タンパク質の基準値とそれぞれ比較し、対象を分類し、対象における緑内障の重症度を判定し、対象の治療を決定し、対象における緑内障をモニタリングし、及び/または治療に対する応答をモニタリングする。一般的に言えば、対象は、基準値と比較して、gdf15核酸またはGDF15タンパク質の増加量または減少量を有するものとして分類することができ、gdf15核酸またはGDF15タンパク質の増加量は基準値を超える量であり、減少量は基準値以下の量である。
【0044】
より具体的には、gdf15核酸またはGDF15タンパク質の発現レベルを、gdf15核酸またはGDF15タンパク質の基準値と比較して、試験試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質が、gdf15核酸またはGDF15タンパク質の基準値それぞれに対して、差次的に発現するかどうかを判定する。本明細書で使用する「差次的に発現する」または「差次的発現」という用語は、メッセンジャーRNA転写物またはその一部の発現レベル、または発現したタンパク質の核酸のレベルなどの核酸の産物の発現レベルを測定することによって分析することができる核酸の発現レベルにおける差異を意味する。
【0045】
「発現レベルの差異」という用語は、例えば、基準試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の測定可能な発現レベルと比較したときの、生体試料中のメッセンジャーRNA転写物の量及び/またはタンパク質の量によって測定される、gdf15核酸またはGDF15タンパク質の測定可能な発現レベルの増加または減少を意味する。一実施形態では、差次的発現は、基準試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の発現レベルと比較するとき、gdf15核酸またはGDF15タンパク質の発現レベルの割合を使用して比較することができ、この割合は1.0に等しくない。例えば、核酸またはタンパク質は、第1の試料を、第2の試料と比較したときの発現レベルの割合が1.0より大きいか、または1.0未満である場合、差次的に発現する。例えば、1以上、1.2以上、1.5以上、1.7以上、2以上、3以上、3以上、5以上、10以上、15以上、20以上の割合、または1以下、0.8以下、0.6以下、0.4以下、0.2以下、0.1以下、0.05以下、0.001以下の割合である。別の実施形態では、差次的発現はp値を用いて測定する。例えば、p値を用いる場合、核酸またはタンパク質は、p値が0.1未満、好ましくは0.05未満、より好ましくは0.01未満、さらにより好ましくは0.005未満、最も好ましくは0.001未満である場合に、第1の試料と第2の試料との間で差次的に発現していると同定する。基準値に使用する試料に応じて、発現レベルの差異は統計的に有意であってもなくてもよい。例えば、基準値に使用する試料が緑内障と診断された対象(複数可)からのものである場合、発現レベルの差異が有意に異ならないときには、対象は緑内障を有する。しかし、発現レベルの差が有意に異なる場合、対象は緑内障を有していない。例えば、基準値に使用する試料が疾患のない対象からのものである場合、発現レベルの差異が有意に異ならないときには、対象は緑内障を有していない。しかし、発現レベルの差異が有意に異なる場合、対象は緑内障を有する。
【0046】
当該技術分野において既知である任意の好適な基準値を使用してもよい。例えば、好適な基準値は、疾患(すなわち、緑内障)の兆候または症状を有していない同じ種の対象または対象群から得られた生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量であり得る。別の例では、好適な基準値は、疾患(すなわち、緑内障)と診断されていない同じ種の対象または対象群から得られた生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量であり得る。さらに別の例では、好適な基準値は、緑内障の兆候または症状を有する同じ種の対象または対象群から得られた生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量であり得る。さらに別の例では、好適な基準値は、緑内障と診断された同じ種の対象または対象群から得られた生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量であり得る。異なる例では、好適な基準値は、当該技術分野において既知の方法によって決定されるアッセイのバックグラウンドシグナルであり得る。別の異なる例では、好適な基準値は、コンピュータ可読媒体に保存された非罹患試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量であり得る。さらに別の異なる例では、好適な基準値は、コンピュータ可読媒体に保存された罹患試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量であり得る。コンピュータ可読媒体の一般的な形態としては、例えば、フロッピーディスク、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、または他の磁気媒体、CD-ROM、CDRW、DVD、または他の光媒体、パンチカード、紙テープ、光学マークシート、または穴のパターンを有する他の物理媒体、他の光学的に認識可能な証印、RAM、PROM、EPROM、FLASH-EPROM、または他のメモリチップもしくはカートリッジ、搬送波、またはコンピュータが読み取ることができる他の媒体を含む。
【0047】
他の例では、好適な基準値は、同じ対象から得られた基準試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量であり得る。基準試料は、緑内障が疑われていないときに対象から得られたものであっても、そうでなくてもよい。当業者は、対象が他の点では健康な場合に、対象から基準試料を得ることが必ずしも可能ではないか、または望ましいとは限らないことを理解するであろう。例えば、短期治療では、基準試料は、診察時に対象から得られた最初の試料であってもよい。別の例では、治療の有効性をモニタリングする場合、基準試料は、治療開始前の対象から得られた試料であり得る。このような例では、対象は緑内障の疑いがあるが、緑内障の他の症状を有していない可能性があるか、または対象は緑内障及び緑内障の1つまたは複数の他の症状を疑われる可能性がある。
【0048】
特定の実施形態では、基準値は、非罹患試料中のGDF15タンパク質の量であり得る。GDF15タンパク質の好適な基準値は、約10pg/ml、約11pg/ml、約12pg/ml、約13pg/ml、約14pg/ml、約15pg/ml、約16pg/ml、約17pg/ml、約18pg/ml、約19pg/mlまたは約20pg/mlである。具体的には、実施例に提示されたデータは、緑内障ではない対象が8.9±SE 7.7pg/mlの平均GDF15を有することを示す。本開示によれば、基準値を超えるGDF15タンパク質の量は、グレードI、グレードIIまたはグレードIIIの緑内障を示す。例えば、約20pg/ml~約80pg/mlの量のGDF15タンパク質はグレードIの緑内障を示し、約80pg/ml~約160pg/mlの量のGDF15タンパク質はグレードIIの緑内障を示し、約160pg/ml以上のGDF15タンパク質の量はグレードIIIの緑内障を示す。これらの値は、追加の実験データによって変化し得ることが理解されるべきである。例示的な実施形態において、約46.4±12.1pg/mlのGDF15タンパク質の量は、グレードIの緑内障を示し、約129.5±38.0pg/mlのGDF15タンパク質の量はグレードIIの緑内障を示し、約190±48.7pg/mlまたはそれ以上のGDF15タンパク質の量はグレードIIIの緑内障を示す。
【0049】
基準値に対するgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量の増加は、緑内障の重症度の増加を示す。具体的には、GDF15タンパク質の量が約10pg/ml超及び約80pg/ml未満の場合、対象は、グレードIの緑内障を有する可能性がある。ある実施形態では、GDF15タンパク質の量が、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、または約20pg/ml超かつ約30、約31、約32、約33、約34、約35、約36、約37、約38、約39、約40、約41、約42、約43、約44、約45、約46、約47、約48、約49、約50、約51、約52、約53、約54、約55、約56、約57、約58、約59、約60、約61、約62、約63、約64、約65、約66、約67、約68、約69、約70、約71、約72、約73、約74、約75、約76、約77、約78、約79、または約80pg/ml超である場合、対象は、グレードIの緑内障を有する可能性がある。一実施形態では、GDF15タンパク質の量が、約10pg/ml超及び約50pg/ml未満、約20pg/ml超及び約50pg/ml未満、約10pg/ml超及び約60pg/ml未満、約20pg/ml超及び約60pg/ml未満、約10pg/ml超及び約70pg/ml未満、約20pg/ml超及び約70pg/ml未満、約10pg/ml超及び約80pg/ml未満、または約20pg/ml超及び約80pg/ml未満である場合、対象は、グレードIの緑内障を有する可能性がある。特定の実施形態では、対象は、GDF15タンパク質の量が約20pg/ml超及び約80pg/ml未満である場合に、グレードIの緑内障を有する可能性がある。
【0050】
あるいは、GDF15タンパク質の量が、約50pg/ml~約180pg/mlの間である場合、対象は、グレードIIの緑内障を有する可能性がある。ある実施形態では、GDF15タンパク質の量が、約50、約51、約52、約53、約54、約55、約56、約57、約58、約59、約60、約61、約62、約63、約64、約65、約66、約67、約68、約69、約70、約71、約72、約73、約74、約75、約76、約77、約78、約79、約80、約81、約82、約83、約84、約85、約87、約88、約89、または約90pg/mlと、約150、約151、約152、約153、約154、約155、約156、約157、約158、約159、約160、約161、約162、約163、約164、約165、約167、約168、約169、約170、約171、約172、約173、約174、約175、約176、約177、約178、約179または約180pg/mlとの間にある場合に、対象は、グレードIIの緑内障を有する可能性がある。一実施形態では、GDF15タンパク質の量が、約50pg/ml超及び約170pg/ml未満、約50pg/ml超及び約160pg/ml未満、約50pg/ml超及び約150pg/ml未満、約60pg/ml超及び約180pg/ml未満、約60pg/ml超及び約170pg/ml未満、約60pg/ml超及び約160pg/ml未満、約60pg/ml超及び約150pg/ml未満、約70pg/ml超及び約180pg/ml未満、約70pg/ml超及び約170pg/ml未満、約70pg/ml超及び約160pg/ml未満、約70pg/ml超及び約150pg/ml未満、約80pg/ml超及び約180pg/ml未満、約80pg/ml超及び約170pg/ml未満、約80pg/ml超及び約160pg/ml未満、約80pg/ml超及び約150pg/ml未満、約90pg/ml超及び約180pg/ml未満、約90pg/ml超及び約170pg/ml未満、約90pg/ml超及び約160pg/ml未満、または約90pg/ml超及び約150pg/ml未満である場合に、対象は、グレードIIの緑内障を有する可能性がある。特定の実施形態では、GDF15タンパク質の量が約80pg/ml超及び約160pg/ml未満の場合、対象は、グレードIIの緑内障を有する可能性がある。
【0051】
さらに、GDF15タンパク質の量が160pg/ml超の場合、対象は、グレードIIIの緑内障を有する可能性がある。ある実施形態では、GDF15タンパク質の量が、約140、約145、約150、約155、約160、約165、約170、約175、約180、約185、約190、約195、約200、約205、約210、約215、約220、約225、約230、約235、または約240pg/ml超である場合に、対象は、グレードIIIの緑内障を有する可能性がある。特定の実施形態では、GDF15タンパク質の量が約140pg/ml超の場合、対象は、グレードIIIの緑内障を有する可能性がある。
【0052】
(d)治療
緑内障の重症度の判定は、緑内障対象の治療を選択するために使用することができる。本明細書で説明するように、gdf15核酸及びGDF15タンパク質によって、対象をグレードI、グレードIIまたはグレードIIIの緑内障を有するものとして、対象において治療の恩恵を受ける可能性のある群、または対象の適切な緑内障治療を決定する群に、分類することができる。一実施形態では、グレードI、グレードIIまたはグレードIIIの緑内障を有すると分類された対象を、治療することができる。当業者は、グレードI、グレードIIまたはグレードIIIの緑内障の標準治療を決定することができるであろう。したがって、本明細書に開示される方法は、緑内障対象の治療を選択するために使用することができる。一実施形態では、対象は、基準値に対するgdf15核酸及びGDF15タンパク質の量の差異に基づいて治療する。この分類は、治療が必要である、またはより積極的な治療が必要な群を同定するために使用され得る。本明細書で使用する「治療」または「療法」という用語は、緑内障の治療に好適な任意の治療を意味する。治療は、緑内障のための標準治療からなっていてもよい。緑内障の標準治療の非限定的な例としては、点眼剤、丸薬、レーザー手術、切開手術、またはこれらの方法の組み合わせが挙げられる。一般に、点眼剤は、低グレードの緑内障を治療するために使用する。点眼剤が十分にIOPを制御しない場合、点眼剤に加えて丸薬を使用してもよい。投薬により所望の結果が達成されないか、または耐えられない副作用がある場合、手術が次の選択肢であり得る。手術は、レーザー手術または切開手術であり得る。レーザー手術は、投薬と切開手術の中間段階と考えられる。レーザー手術の非限定的な例としては、アルゴンレーザー線維柱帯形成術(ALT)、選択的線維柱帯形成術(SLT)、レーザー末梢虹彩切開術(LPI)及びシクロアブレーションが挙げられる。切開手術の非限定的な例としては、線維柱帯切除術、ドレナージインプラント手術、非穿孔性手術、エクスプレスミニ緑内障シャント、トラベクトーム及び管形成術が挙げられる。生体試料中のgdf15核酸またはGDF15タンパク質の量に基づいたグレードI、グレードIIまたはグレードIIIの分類に基づいて、対象は、点眼剤、丸薬、レーザー手術及び/または切開手術で治療され得る。さらに、治療決定は、あるグレードから次のグレードへ進行しているという根拠に基づいて行うことができる。
【実施例】
【0053】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を実証するために含まれる。以下の実施例に開示される技術は、本発明の実施において良好に機能するように本発明者らによって発見された技術を表し、したがってその実施のための好ましい態様を構成すると考えることができることが、当業者には理解されるべきである。しかし、当業者であれば、本開示の見地から、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、開示された特定の実施形態において多くの変更がなされ、依然として同様のまたは類似の結果が得られることを認識すべきである。
【0054】
実施例1:
現在、緑内障の重症度または進行を検出する利用可能なバイオマーカーはない。Tgfb2は緑内障を引き起こすことがあるが、緑内障のバイオマーカーではない。現在、眼内圧(IOP)及び視野測定に基づいて緑内障治療を決定する。しかし、IOPは患者ごとに大きく異なり、視野測定は自覚的検査である。したがって、緑内障の治療決定に役立つバイオマーカーが必要である。
【0055】
緑内障のバイオマーカーを同定するために、本発明者らは網膜神経節細胞(RGC)死を反映するバイオマーカーを同定しようとした。涙、房水、硝子体及び血清(血漿)を調べた。異なる網膜細胞死モデルを用いて88の遺伝子を評価したサイトカインアレイを実施した(表1)。サイトカインアレイから得られたデータを分析したところ、視神経挫滅モデル(ONC)では、8個の遺伝子がアップレギュレートされ、0個の遺伝子がダウンレギュレートされ、エンドトキシン誘導ブドウ膜炎モデル(EIU)では、15個の遺伝子がアップレギュレートされ、1個の遺伝子がダウンレギュレートされ、光誘発網膜変性モデル(LE)では、22個の遺伝子がアップレギュレートされ、8個の遺伝子がダウンレギュレートされたことが明らかとなった。
図1は、異なる疾患モデルの間で重複する、アップレギュレートされた遺伝子を示す。1つの遺伝子は、ONCでは特異的にアップレギュレートされるが、EIUまたはLEではアップレギュレートされない。表2は、gdf15がONCにおいてのみアップレギュレートされることを示すこれらの遺伝子のリストを提示する。
図2は、異なる疾患モデル間で重複するダウンレギュレートされた遺伝子を示し、表3は、これらの遺伝子のリストを提示する。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
gdf15がONCに特異的であったことを考慮して、gdf15の発現プロファイルを、各疾患モデルにおいてさらに評価した。
図3は、ONC(
図3A)、EIU(
図3B)及びLE(
図3C)におけるgdf15の遺伝子発現レベルを示す。Gdf15遺伝子発現は、ONCモデルにおいてのみアップレギュレートされる。対照的に、tgfb2は、すべてのモデルにおいて対照と同等である(
図4A、
図4B、
図4C)。これらの結果は、gdf15遺伝子発現がONCに特異的であることを確認した。
【0060】
Gdfは、tgfβスーパーファミリーの一部である。他のgdfファミリーメンバーがONCにおいて改変されているかどうかを判定するために、ONCモデルにおいて、24時間でのgdf1、gdf2、gdf3、gdf5、gdf6、gdf7、gdf8、gdf9、gdf10及びgdf11遺伝子発現を評価した。
図5A、
図5Bは、
図5C、
図5D、
図5E、
図5F、
図5G、
図5H、
図5I及び
図5Jは、他のgdf遺伝子のいずれもONCモデルにおいて変化しないことを示す。
【0061】
gdf15遺伝子発現がONCにおいてアップレギュレートされたことを考慮して、ONCのマウスモデルにおいて、GDF15タンパク質レベルの上昇が房水において検出可能であるかどうかを判定した。ELISAアッセイを用いて、GDF15タンパク質を検出すると、GDF15タンパク質がONCマウスモデルにおいて上昇したことが見出された(
図6)。次いで、GDF15タンパク質及びgdf15核酸発現を、ONCのラットモデルにおいて評価した。gdf15及びtgfb2核酸発現の評価は、gdf15がONCにおいて有意にアップレギュレートされ、tgfb2がONCにおいて変化しないことを示した(
図7A、
図7B)。さらに、房水で実施したELISAアッセイによるGDF15タンパク質発現の評価は、GDF15タンパク質もONCのラットモデルにおいてアップレギュレートされることを示した(
図7C)。
【0062】
次いで、Gdf15核酸発現を、眼内の種々の領域で評価した。具体的には、前眼部、水晶体及び網膜におけるgdf15の発現を評価した。結果は、6時間において、いずれの眼組織においても有意なアップレギュレーションがないことを示した(
図8A、
図8B、
図8C)。しかし、24時間後、gdf15の発現は、網膜(
図8F)では有意にアップレギュレートされたが、前眼部または水晶体では有意にアップレギュレートされなかった(それぞれ
図8D、
図8E)。これらのデータは、gdf15発現が網膜に特異的であることを示唆している。GDF15は、さらにインサイチュハイブリダイゼーション(ISH)を用いて、ONCモデルの外顆粒層(ONL)及び内顆粒層(INL)と比較して、神経節細胞層(GCL)において特にアップレギュレートされることが容易に観察される(
図12)。
【0063】
次に、GDF15発現が疾患モデルにおけるマクロファージの増加に関連する可能性があるかどうかを判定した。F4/80抗原を用いてマクロファージを検出した。
図9Aは、対照対ONCモデルにおけるマクロファージに有意差がないことを表す。対照的に、EIU及びLEモデルの両方は、対照と比較してマクロファージの有意な増加を示す(それぞれ、
図9B、
図9C)。
【0064】
破砕した神経モデルは、網膜神経節細胞に対する急性損傷のモデルである。緑内障が慢性疾患であり、その結果、網膜神経節細胞の慢性的な損傷をもたらすため、このモデルが緑内障で起こるものを再現するかどうかは、不明である。したがって、ONCにおけるGDF15のアップレギュレーションがヒト緑内障におけるアップレギュレーションに変換されるかどうかは不明なので、ヒト試料をGDF15タンパク質発現について評価した。緑内障患者から房水を採取し、ELISAによってGDF15の量を測定した。
図10は、対照患者と比較して緑内障患者におけるGDF15発現の有意な増加があったことを示す。したがって、これらの結果より、GDF15がヒト緑内障においてアップレギュレートされることを示すことができた。重要なことに、本発明者らは、GDF15発現が疾患の重症度と相関していることを示した(
図11)。緑内障の重症度がグレードIからグレードII、グレードIIIへと進行するにつれて、検出されたGDF15の量が増加した。したがって、これらの結果は、GDF15が、緑内障の進行に感受性でありかつ特異的なマーカーであり、治療上の意思決定を導くことを実証する。