(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】バインダジェッティング付加製造での使用のための熱可塑性バインダ
(51)【国際特許分類】
B29C 64/165 20170101AFI20230725BHJP
B29C 64/314 20170101ALI20230725BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230725BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20230725BHJP
【FI】
B29C64/165
B29C64/314
B33Y10/00
B33Y80/00
(21)【出願番号】P 2021204520
(22)【出願日】2021-12-16
(62)【分割の表示】P 2020509493の分割
【原出願日】2018-07-06
【審査請求日】2021-12-22
(32)【優先日】2017-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390041542
【氏名又は名称】ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ナタラジャン、アルンクマール
(72)【発明者】
【氏名】ボニラ、ゴンザレス、カルロス
(72)【発明者】
【氏名】チャン、クォク、ポン
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-515465(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0069649(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/16
B28B 1/30
B29C 64/10,64/165,64/20,64/314
B33Y 10/00,30/00,70/00,80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダ・ジェット・プリンティン
グによる部品
の製造方法であって、
バインダ・ジェット・プリンタの作業面上に粉末層を積層させる工程と、
連結可能な熱可塑性バインダを含むバインダ溶液を前記粉末層にパターン状に選択的にプリントしてプリント層を作製する工程であって、前記パターンは、前記部品の層の構造を表し、前記連結可能な熱可塑性バインダは、第1ポリマーストランド及び第2ポリマーストランドを含み、前記第1ポリマーストランドは第1官能基を含み、前記第2ポリマーストランドは第2官能基を含み、前記第1官能基及び第2官能基は前記第1ポリマーストランドを前記第2ポリマーストランドに非共有結合させるように構成される、プリント層を作製する工程と、
前記プリント層中の前記連結可能な熱可塑性バインダを硬化させてグリーン体部品の層を作製する工程と、
前記グリーン体部品を第1温度
範囲内に加熱して、前記連結可能な熱可塑性バインダの
第1の部分を除去し、ブラウン体部品を作製する工程と、
前記ブラウン体部品を、前記第1温度範囲より高い第2温度範囲内に加熱して、前記連結可能な熱可塑性バインダの第2の部分を除去する工程と、
前記ブラウン体部品を
前記第2温度
範囲よりも高く加熱して、前記粉末を焼結し、前記部品を作製する工程であって、前記部品の炭素含有量が、前記粉末の炭素含有量以下である、前記部品を作製する工程と
を含む
、前記製造方法。
【請求項2】
前記グリーン体部品が、40~118重量ポンド(lbF)の強度を含む、請求項1に記載の
製造方法。
【請求項3】
前記部品の酸素含有量が、前記粉末の酸素含有量と同一又はより少ない、請求項1又は請求項2に記載の
製造方法。
【請求項4】
前記粉末が、ニッケル合金、チタン合金、コバルト合金、アルミニウム系材料、タングステン、ステンレス鋼、セラミック、又はこれらの組み合わせを含む金属粉末である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の
製造方法。
【請求項5】
前記粉末層が、10マイクロメートル~200マイクロメートルの厚さを有する金属粉末の層である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の
製造方法。
【請求項6】
選択的にプリントすることが、前記バインダ溶液をバインダ・ジェット・プリンタのプリントヘッドで選択的にプリントすることを含む、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の
製造方法。
【請求項7】
前記グリーン体部品を前記第1温度
範囲まで加熱する前に、前記グリーン体部品を乾燥させて、前記グリーン体部品の前記バインダ溶液に使用された残留溶媒を除去することを含む、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の
製造方法。
【請求項8】
前記第2官能基は前記第1官能基とは異なる、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で開示する主題は、付加製造に関し、より詳細には、バインダジェッティング付加製造技術で使用する熱可塑性バインダに関する。
【背景技術】
【0002】
3Dプリンティングとしても知られている付加製造は、一般に専用のシステムを使用して一度に1層ずつ物品をプリントすることを伴う。特に、材料の層(例えば、金属粉末床)は、作業面上に積層されて、同じ材料の別の層又は異なる材料の別の層と固着される場合がある。付加製造は、例えば、金属レーザ溶融、レーザ焼結、及びバインダジェッティングであるがこれらに限定されない技術を使用して、計算機支援設計(CAD)モデルから物品(例えば、燃料ノズル、燃料噴射器、タービンブレードなど)を製造するために使用される場合がある。これらの付加製造技術は、材料の層を溶融、焼結、又は化学的に結合して、所望の物品を作製する。付加製造は、成形(例えば、注型成形、射出成形)などの技術と比較して、複雑な物品の製造を容易にし、物品のカスタマイズの柔軟性を可能にし得る。さらに、付加製造は、一般に使用される成形技術と比較して、これらの複雑な物品の作製に関連する全体的な製造コストを低減し得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
一実施形態では、部品のバインダ・ジェット・プリンティングの方法は、バインダ・ジェット・プリンタの作業面上に粉末層を積層させること、及び連結可能な熱可塑性バインダを有するバインダ溶液を前記粉末層にパターン状に選択的にプリントしてプリント層を作製することを含む。前記パターンは、前記部品の層の構造を表している。前記連結可能な熱可塑性バインダは、第1ポリマーストランド及び第2ポリマーストランドを含み、前記第1ポリマーストランドは第1官能基を含み、前記第2ポリマーストランドは第2官能基を含み、前記第1官能基及び第2官能基は前記第1ポリマーストランドを前記第2ポリマーストランドに非共有結合させる。前記部品のバインダ・ジェット・プリンティングの方法はさらに、プリント層中の前記連結可能な熱可塑性バインダを硬化させてグリーン体部品の層を作製すること、前記グリーン体部品を第1温度よりも高く加熱して、前記連結可能な熱可塑性バインダの少なくとも一部を除去し、ブラウン体部品を作製すること、及び前記ブラウン体部品を第2温度よりも高く加熱して、前記粉末を焼結し、前記部品を作製することも含む。前記部品は、チャー残渣を実質的に含まない。
【0004】
第2の実施形態では、バインダ・ジェット・プリンタの作業面上に粉末層を積層させる工程、及び連結可能な熱可塑性バインダを有するバインダ溶液を前記粉末層にパターン状に選択的にプリントしてプリント層を作製する工程を含む、バインダ・ジェット・プリンティング・プロセスによって部品を製造した。前記パターンは、前記部品の層の構造を表している。前記連結可能な熱可塑性バインダは、第1ポリマーストランド及び第2ポリマーストランドを含み、前記第1ポリマーストランドは第1官能基を含み、前記第2ポリマーストランドは第2官能基を含み、前記第1官能基及び第2官能基は前記第1ポリマーストランドを前記第2ポリマーストランドに非共有結合させる。前記バインダ・ジェット・プリンティング・プロセスはさらに、プリント層中の前記連結可能な熱可塑性バインダを硬化させてグリーン体部品の層を作製すること、前記グリーン体部品を第1温度よりも高く加熱して、前記連結可能な熱可塑性バインダの少なくとも一部を除去し、ブラウン体部品を作製すること、及び前記ブラウン体部品を第2温度よりも高く加熱して、前記粉末を焼結し、前記部品を作製することも含む。前記部品は、チャー残渣を実質的に含まない。
【0005】
第3の実施形態では、バインダ・ジェット・プリンティングに使用され得るバインダ溶液は、第1ポリマーストランド及び第2ポリマーストランドを含む連結可能な熱可塑性バインダを有するバインダ溶液を含む。前記第1ポリマーストランドは第1官能基を含み、前記第2ポリマーストランドは第2官能基を含み、前記第1官能基及び第2官能基は前記第2ポリマーストランドの少なくとも一部を前記第1ポリマーストランドの少なくとも一部に非共有結合させ、前記バインダ溶液は界面活性剤を実質的に含まない。
【0006】
本発明のこれら並びに他の特徴、態様、及び利点は、添付の図面を参照して以下の詳細な説明を読解すればより良好に理解され、前記図面全体を通して同一の符号は同一の部分を示す。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、連結可能な熱可塑性バインダを使用するバインダ・ジェット・プリンティング・プロセスによって金属部品を製造する方法の実施形態のフロー図である。
【
図2】
図2は、
図1の方法を行うことにより金属部品がプリントされる材料の層の実施形態の概略図である。
【
図3】
図3は、
図1の方法により金属部品をプリントするために使用されるバインダ・ジェット・プリンタの実施形態のブロック図である。
【
図4】
図4は、
図1の方法により連結可能な熱可塑性バインダで被覆された材料の粒子を有するプリント層の実施形態の断面図である。
【
図5】
図5は、
図1の方法により金属部品の構造を表すパターン状に選択的に積層された連結可能な熱可塑性バインダを有する
図4のプリント層の実施形態の上面図である。
【
図6】
図6は、非共有結合力による連結可能な熱可塑性バインダの一実施形態におけるポリマーストランド間の連結を示す概略図である。
【
図7】
図7は、連結可能な熱可塑性バインダの一実施形態を使用してプリントされたグリーン体部品のグリーン強度と、連結不可能なバインダを使用してプリントされたグリーン体部品のグリーン強度との比較を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1又は複数の特定の実施形態を以下に述べる。これらの実施形態の簡潔な説明を行うために、実際の実施にかかるすべての特徴が本明細書中に記載されているわけではない。あらゆるエンジニアリング又は設計プロジェクトにあるようないずれのそうした実際の実施についての開発において、開発者の特定の目的を達成するために、システム関連の制約及び事業関連の制約の遵守など実施に特有の多数の決定がなされなければならず、これらの制約は実施により異なり得ることを理解されたい。さらに、このような開発努力は、複雑で時間がかかり得るが、それにもかかわらず、本開示の利益を得る当業者にとっては設計、製作、及び製造における日常的な作業(routine undertaking)であることを理解されたい。
【0009】
本発明の各種実施形態の要素を紹介する際、冠詞「a」、「an」、「the」、及び「said」は、1又は複数の要素があることを意味するよう意図されている。用語「含む(comprising)」、「含む(including)」、及び「有する(having)」は、包括的であることが意図され、列挙された要素以外の付加的要素があり得ることを意味する。さらに、以下の説明における数値例は非限定的であることが意図されており、したがって、追加の数値、範囲、及びパーセンテージは開示された実施形態の範囲内である。
【0010】
本明細書で使用する場合、「連結可能な熱可塑性バインダ」は、弱い非共有結合力(例えば、相互作用、結合)によって互いに相互作用して、対応する各熱可塑性ポリマーのストランドと連結、又はそうでなければ結合する官能基を有する第1熱可塑性ポリマー及び第2熱可塑性ポリマーを含む化学的バインダを意味することを意図している。本明細書で使用する場合、「弱い非共有結合力」は、水素結合力、イオン結合力、ファン・デル・ワールス力などを意味することを意図している。本明細書で定義されるような、「グリーン体金属部品」及び「グリーン体部品」は、化学的バインダを除去するための熱処理を施していないプリントした部品を意味することを意図している。本明細書で定義されるような、「ブラウン体金属部品」及び「ブラウン体部品」は、化学的バインダを除去するための熱処理を施したプリントした部品を意味することを意図している。本明細書で定義されるような金属部品は、金属材料を有する部品を意味することを意図している。本実施形態は主として金属部品との関係において記載されているが、本明細書に記載される連結可能な熱可塑性バインダは、セラミック部品を含む他の数多くの3Dプリント部品に適用可能であり得る。
【0011】
種々の機械装置で使用されるセラミック部品及び/又は金属部品などの物品を製造するための幾つかの技術がある。例えば、数ある中でも砂型成形、注型成形、及び/又は射出成形などの成形技術を使用して、機械装置用途の部品を製造する場合がある。上記のように、部品を製造するために使用され得る他の技術は、付加製造を含む。例えば、付加製造技術としては、レーザ溶融、レーザ焼結、及びバインダジェッティングが挙げられるが、これらに限定されない。付加製造は、ある程度は、使用され得る材料の柔軟性、より複雑な物品を製造する能力、及びより低い製造コストのために、成形技術と比較して部品の作製について有利であり得る。
【0012】
材料を加熱して、材料の層を固化及び構築して部品を形成するレーザ溶融及びレーザ焼結付加製造技術とは異なり、バインダジェッティングは、化学的バインダを使用して、材料の粒子を部品のグリーン体を形成する層に結合する。前記グリーン体部品は、層を固化して最終的な金属部品を形成するためにさらに処理(例えば、焼結)してもよい。化学的バインダは、砂粒子を結合し、他の部品を製造するために使用することができる砂型を形成するために、砂型成形技術で使用されている。砂型成形と同様に、バインダ・ジェット・プリンティングでは、化学的バインダは、粉末層(例えば、セラミック粉末及び/又は金属粉末)に連続的に積層され部品をプリントする。例えば、化学的バインダ(例えば、ポリマー接着剤)は、プリントされる部品の層を表すパターン状に粉末床に選択的に積層され得る。各プリント層は、各層の粒子をまとめて結合してグリーン体部品を形成するために、プリント後に硬化される(例えば、熱、光、水分、溶媒蒸発などにより)場合がある。グリーン体部品が完全に形成された後、化学的バインダは、プリント後プロセス(例えば、脱バインダ及び焼結)中に除去される。このような脱バインダ工程及び焼結工程は、砂型がその後成形金属部品を形成するために使用されるにもかかわらず、その化学的バインダが砂型の一体部分のままである砂型成形プロセスの一部ではないことが理解されよう。しかしながら、直接的な金属成分及び/又はセラミック成分のバインダ・ジェット・3Dプリンティングでは、化学的バインダは、グリーン体部品の一体部分であり(例えば、化学的バインダは、プリントした部品の各層内及び各層間に配置される)、その後の脱バインダ及び/又は焼結中に除去され、完成した3Dプリント金属部品を形成する。バインダ・ジェット・プリンティングはまた、砂型成形製造プロセスを使用して製造することが不可能又は実用的ではない複雑な3D形状を有する金属部品及び/又はセラミック部品の製造を可能にするという点にも留意されたい。
【0013】
上述のように、グリーン体部品は、その層を固化するために追加の処理(例えば、脱バインダ及び焼結)を施され、完成した3Dプリント金属部品を形成する。したがって、グリーン体部品は、プリント後プロセス中の取り扱い(例えば、移送、検査、粉末除去)に適したグリーン強度を有することが望ましい。しかしながら、バインダ・ジェット・3Dプリンティング用に以前に利用できた化学的バインダは、固化金属部品内にチャー残渣を形成する傾向がある。例えば、ブラウン体部品から化学的バインダを除去するプロセスは、酸素(O2)を含む環境下で実施してよい。O2は、数ある分解副生成物の中でも特に、化学的バインダの二酸化炭素(CO2)及び水(H2O)への完全な分解を促進し得る。しかしながら、これらの脱バインダ条件(例えば、O2を含む環境)はまた、固化金属部品中に金属酸化物を形成させる場合もある。したがって、固化金属部品の特定の特性(例えば、機械的特性)は望ましくない場合があり、この部品は所望の機械装置で使用するのに適さない場合がある。
【0014】
例えば、ニッケル合金では、脱バインダ中(例えば、約400セ氏(℃)~約450℃の温度)に、グリーン部品の化学的バインダが燃え尽き、微量の化学的バインダで固定されたほとんどが金属粉末であるブラウン部品が残る。次に、前記ブラウン部品は焼結の種々の段階にさらされ、その間、プリントした金属部品を製造するために使用された金属粉末に応じて、1000セ氏温度(℃)を超える温度での焼結中に、金属粉末粒子はネック形成(neck)し始める。さらに、通常約6時間~約24時間にわたって約1280℃~約1300℃である焼結の長いインキュベーション時間中を拡散が占め、金属部品中の間隙の大部分を排除して、密度約94%~約99%の部品をもたらす。これらの脱バインダ温度及び焼結温度では、酸素が存在する場合に、金属部品において金属粒子の酸化が起こる可能性があり、金属部品の表面及び層の間の金属酸化物形成の原因となる。チャー残渣及び金属粒子の酸化のいずれも、金属部品の使用時に望ましくない効果(例えば、応力破壊、腐食など)をもたらす可能性がある金属部品の特定の特性(例えば、微細構造、機械的特性)に影響を与える場合がある。そのため、現時点では、プリント後及び脱バインダ前に、グリーン体金属部品の完全性を維持するのに十分な結合強度をもたらし、脱バインダ及び/又は焼結中にきれいに除去されて、固化金属部品がチャー及び化学的バインダの任意のその他の望ましくない分解生成物を実質的に含まないような、バインダ・ジェット・3Dプリンティングにて使用可能である化学的バインダを開発する必要があることが認識されている。
【0015】
熱硬化性バインダなどの化学的バインダは、一般に、プリント後プロセス中のグリーン体金属部品の取り扱いに好適なグリーン強度をもたらす。熱硬化性バインダでは、ポリマーストランドは高度に架橋され(すなわち、共有結合相互作用及び共有結合によって)、グリーン体金属部品を取り扱うのに望ましいグリーン強度が得られる。しかしながら、現時点では、熱硬化性バインダは、架橋されたポリマーストランド間の強力な共有結合によって、不活性条件及び真空条件下で除去することが困難であると認識されている。そのため、熱硬化性バインダは一般に、空気(酸素)の存在下で除去されるため、完成した3Dプリント金属部品の全体的な特性に影響を及ぼす望ましくない量の副生成物(例えば、チャー、金属酸化物)をもたらす可能性がある。例えば、空気の存在下では、熱硬化性バインダは、除去中に金属部品内(例えば、金属粉末の粒子間)の酸化物含有量を増加させる方法で分解する可能性がある。これらの酸化物は、プリントした金属部品の焼結中に金属酸化物の形成を生じさせる場合がある。プリントした金属部品の焼結後に形成される固化金属部品上の金属酸化物は、固化金属部品の機械的特性に影響を及ぼす可能性があり、機械的特性の低下をもたらす。これに対して、熱硬化性樹脂を不活性雰囲気で燃焼する場合、非効率的な燃焼によって大量の残存チャー形成が起こる。このチャー残渣は、焼結によって金属炭化物になる可能性がある。金属炭化物及び金属酸化物にそれぞれ効果的に変化するチャー及び酸化物のいずれの含有量も、特に特定の合金で機械的特性の低下の原因となる。現時点では、熱可塑性バインダは、一部には、熱可塑性ポリマーストランド間に共有結合性の架橋が存在しないために、3Dプリンティング金属部品により適している可能性があることが認識されている。熱可塑性ポリマーストランド間に共有結合性の架橋が存在しないため、不活性条件、真空条件、又は空気条件下における熱可塑性バインダのきれいな除去が可能となる。すなわち、熱可塑性バインダは、チャー残渣及び/又は金属酸化物を形成しない方法で、プリントした金属部品から除去される。そのため、熱可塑性バインダを用いてバインダ・ジェット・プリントしたグリーン体金属部品から形成された固化金属部品は、固化金属部品を製造するために使用された金属の特性に類似する特性を有し得る。
【0016】
しかしながら、熱可塑性バインダは、脱バインダ及び焼結プロセス中にきれいに除去される一方で、現時点では、熱可塑性バインダを使用してプリントしたグリーン体金属部品は、プリント後プロセス中(特に、粉末除去プロセス中)の取り扱いに適したグリーン強度を有さない場合があることが認識されている。これは、一部には、熱可塑性バインダのポリマーストランド間に共有結合性の架橋が存在しないためである。現時点では、弱い非共有結合力によって熱可塑性ポリマーストランド間の連結を可能にする連結可能な熱可塑性バインダを使用することにより、グリーン体金属部品のグリーン強度及び安定性は、連結不可能な熱可塑性バインダを使用してプリントしたグリーン体金属部品と比較して改善される可能性があることが認識されている。さらに、連結不可能な熱可塑性バインダと同様に、連結可能な熱可塑性バインダは、不活性条件及び真空条件下での脱バインダ中に容易に除去され得る。連結可能な熱可塑性ポリマーのポリマーストランドを連結する弱い非共有結合力は、不活性条件及び真空条件下で容易に破壊されて、ポリマーストランドを分離し、連結されていない熱可塑性ポリマーの除去を可能にする。したがって、一般にO2の存在下で除去される熱硬化性バインダとは異なり、本明細書で開示する連結可能な熱可塑性バインダは、O2がない状態でほとんど除去され得る。さらに、O2の存在下において、前記連結可能な熱可塑性バインダは、チャー残渣を形成せず、又は金属酸化物の形成を生じさせない温度で除去される場合がある。したがって、前記連結可能な熱可塑性バインダの分解は、熱硬化性バインダを使用してプリントされたグリーン体金属部品と同等のグリーン強度を有するグリーン体金属部品をもたらし、熱硬化性バインダの除去に伴う望ましくないチャー残渣を生じない。本明細書で開示するのは、バインダ・ジェット・3Dプリンティングに使用され得、グリーン体金属部品の取り扱いに適したグリーン強度をもたらし、熱処理(例えば、脱バインダ及び/又は焼結)中に金属部品から容易且つきれいに除去される化学的バインダ(すなわち、連結可能な熱可塑性バインダ)である。
【0017】
以上のことを念頭に置いた上で、
図1は、連結可能な熱可塑性バインダを使用してバインダ・ジェット・3Dプリンティングによって物品(例えば、固化金属部品)を製造するための、方法10の実施形態を示すブロック図である。前記連結可能な熱可塑性バインダは、一旦硬化されると、物品をプリントするために使用される金属粉末の粒子及び層を結合する2成分熱可塑性ポリマーを含んでもよく、又はその2成分熱可塑性ポリマーからなってもよい。さらに、前記2成分熱可塑性ポリマーの少なくとも1つの構成成分は、弱い非共有結合力(例えば、水素結合力、イオン結合力、ファン・デル・ワールス力)によって、前記連結可能な熱可塑性バインダ内でポリマーストランドの結合(例えば、連結)を可能にする1又は複数の官能基を含む。非限定的な実施例として、前記1又は複数の官能基は、ヒドロキシル(-OH)、カルボキシレート(-COOH)、アミン(NH
3)、チオール(-SH)、アミド(-CONR
2)、又は弱い非共有結合力によってポリマーストランドの連結を可能にする任意の他の好適な官能基、又はこれらの組み合わせを含んでもよい。バインダを噴射し硬化させた後、前記連結可能な熱可塑性バインダの構成成分のポリマーストランドを弱い非共有結合相互作用によって連結させることにより、前記連結可能な熱可塑性バインダは、グリーン体金属部品に所望のグリーン強度をもたらす。さらに、前記連結可能な熱可塑性バインダは、プリントした金属部品を製造するために使用した化学的バインダの分解に伴うチャー残渣を実質的に含まず、機械装置で使用するのに適した固化金属部品を作製する方法で、プリントした金属部品から容易に除去され得る。さらに、前記連結可能な熱可塑性バインダが不活性雰囲気で分解される条件は、脱バインダ/焼結中にグリーン体金属部品の金属と水(H
2O)及び/又は酸素(O
2)との反応から生じる、固化金属部品内の金属酸化物の形成を軽減する。
【0018】
図1に示す方法10の態様を解説しやすくするために、
図2~
図5を参照し、これらの図は概して、図示した方法10の特定の工程に対応する。
図1の方法10は、対象物品を製造するために使用される金属粉末の層を積層することから始まる(ブロック12)。例えば、
図2は、バインダ・ジェット・プリンタの作業面上の金属粉末18の層16の断面図(例えば、粉末床)である。特定の実施形態では、層16は、約10マイクロメートル(μm)~約200μmの厚さ20を有し得る。しかしながら、他の実施形態では、層16の厚さ20は、任意の好適な値であってもよい。
【0019】
プリントされる物品は、燃料チップ、燃料ノズル、側板、マイクロミキサ、タービンブレード、又は任意の他の好適な金属部品などの複雑な3D形状を有する種々の金属部品を含んでもよいが、これらに限定されない。したがって、金属部品をプリントするために使用される金属粉末18は、物品の種類及び物品の最終用途(例えば、ガスタービン機関、ガス化システムなど)に応じて異なり得る。非限定的な実施例として、金属粉末18は、ニッケル合金(例えば、インコネル625、インコネル718、レネ108、レネ80、レネ142、レネ195、及びレネM2、Marm-247)、コバルト合金(例えば、Hans 188及びL605)、コバルトクロム合金、鋳造合金(例えば、X40、X45、及びFSX414)、チタン合金、アルミニウム系材料、タングステン、ステンレス鋼、又は任意の他の好適な材料並びにこれらの組み合わせを含んでもよい。特定の実施形態では、金属粉末18は、約1マイクロメートル(μm)~75μmの粒径分布(例えば、d50)を有する粒子を有し得る。しかしながら、金属粉末18は、任意の他の好適な粒径分布を有してもよい。
【0020】
図1に戻ると、金属粉末層16の積層に続いて、方法10は、パターンにしたがって層16の一部に連結可能な熱可塑性バインダの選択的な積層を続ける(ブロック24)。例えば、前記連結可能な熱可塑性バインダは、プリントされる物品の層の描写を含むCAD設計に基づいてコントローラよって操作されるプリントヘッドを使用して、金属粉末層16に選択的にプリントされ得る。
【0021】
例えば、
図3は、ブロック24(
図1)の動作にしたがって、前記連結可能な熱可塑性バインダを層16に選択的に積層するために使用され得るバインダ・ジェット・プリンタ26の実施形態のブロック図である。図示した実施形態では、バインダ・ジェット・プリンタ26は、金属粉末層16を支持する作業面28、バインダ溶液34を貯蔵するリザーバ30、及びリザーバ30に流体接続されたプリンタヘッド42を含む。バインダ溶液34は、第1熱可塑性ポリマーストランド38及び第2熱可塑性ポリマーストランド40を含む、連結可能な熱可塑性バインダ36を含む。プリンタヘッド42は、バインダ溶液34を金属粉末層16に選択的に積層させて、プリントされる金属部品の層を表すパターン状に、連結可能な熱可塑性バインダ36を層16上及び層16内にプリントする。図示したバインダ・ジェット・プリンタ26は、バインダ・ジェット・プリンタ26の操作をコントロールするための制御システム46を含む。制御システム46は、分散制御システム(DCS)又は完全に若しくは部分的に自動化された任意のコンピュータベースのワークステーションを含んでもよい。例えば、制御システム46は、一般にバインダ・ジェット・プリンタ26の操作をコントロールするための1又は複数の命令を記憶するメモリ回路48を含み得る、汎用コンピュータ又はアプリケーション固有デバイスを用いる任意の好適な装置であり得る。メモリ48は、プリントされる物品の構造を表すCAD設計を記憶し得る。プロセッサは、1又は複数の処理装置(例えば、マイクロプロセッサ50)を含んでもよく、メモリ回路48は、本明細書に記載される動作をコントロールするために前記プロセッサにより実行可能な命令を一括して記憶する1又は複数の有形の非一時的な機械可読媒体を含んでもよい。
【0022】
上述のように、バインダ溶液34は、プリントされる金属部品の構造を表すパターン状に金属粉末層16に選択的に積層される。
図4は、連結可能な熱可塑性バインダ36の積層後の金属粉末層16の断面の概略図である。図示されているように、連結可能な熱可塑性バインダ36は、金属粉末粒子56の外側表面54を被覆し、それによって、バインダ被覆粒子58を形成する。連結可能な熱可塑性バインダ36は、金属粉末層16にプリントされたバインダ溶液34のパターンにしたがってバインダ被覆粒子58を結合して、硬化(例えば、約200℃での熱処理)後にグリーン体金属部品の層を形成する。例えば、
図5は、プリントされる金属部品の層を表しているパターン64状に互いに結合されたバインダ被覆粒子58を有するグリーン体金属部品62のプリント層60の上面図である。
【0023】
図1に戻ると、方法10は、ブロック12及びブロック24の動作を繰り返して、グリーン体金属部品を作製するために必要とされる数の層がプリントされるまで、層ごとの方式で物品を構築し続け得る。連結可能な熱可塑性バインダ36は、連続する各層60を結合し、プリントしたグリーン体金属部品の構造の完全性がプリント後プロセス(例えば、脱バインダ、焼結、粉末除去など)中に影響を受けないように、プリントした物品にある程度の強度(例えば、グリーン強度)をもたらす。すなわち、連結可能な熱可塑性バインダ36によってもたらされるグリーン強度は、層60内の金属粉末粒子間の結合を維持し、グリーン体金属部品の取り扱い中及びプリント後プロセス中の層60の剥離をブロック(例えば、抵抗、防止)する。
【0024】
本明細書で開示する連結可能な熱可塑性バインダ36は、3Dプリント物品の脱バインダ中及び焼結中に形成され得るチャー残渣を実質的に含まない3Dプリント物品の製造を容易にする。したがって、連結可能な熱可塑性バインダ36は、O2の存在を必要とせずに、一般に二酸化炭素(CO2)及び水(H2O)に分解し、焼結中にきれいに且つ容易に除去されて、連結可能な熱可塑性バインダ36並びにプリントした金属部品の熱処理中に形成され得る分解生成物(例えば、チャー及び金属酸化物)を実質的に含まない固化金属部品をもたらす、熱可塑性ポリマーの部類から選択され得る。上述のように、連結可能な熱可塑性バインダ36は、第1熱可塑性ポリマーストランド38及び第2熱可塑性ポリマーストランド40を含む。第1熱可塑性ポリマーストランド38は、水素結合供与体、水素結合受容体、負に荷電した基、正に荷電した基、又はこれらの組み合わせなどの官能基を含んでもよく、これらは第2熱可塑性ポリマーストランド40の官能基を相補してポリマーストランド38、40の非共有的な連結を促進する。非限定的な実施例として、第1熱可塑性ポリマーストランド38の官能基は、ヒドロキシル基、カルボキシレート基、アミン、チオール、アミド、又は弱い非共有結合力によってポリマーストランド38、40の結合を可能にする任意の他の好適な官能基、又はこれらの組み合わせを含む。第1熱可塑性ポリマーストランド38は、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアミド、ポリアクリルアミド、これらの誘導体、又は弱い非共有結合力によって第2熱可塑性ポリマーストランド40との結合を受容する任意の他の好適な熱可塑性ポリマー、又はこれらの組み合わせなどのポリマーを含んでもよいが、これらに限定されない。第1熱可塑性ポリマーストランド38は、約5K~150Kの平均分子量を有し得る。例えば、特定の実施形態では、第1熱可塑性ポリマー38は、約5~10K+/-2K、約10~25K+/-2K、約30~50K+/-2K、約75~100K+/-3K、又は約100~150K+/-5Kの分子量を有し得る。
【0025】
上述のように、連結可能な熱可塑性バインダは、グリーン体金属部品に対するグリーン強度を改善し、プリント後プロセス(例えば、粉末除去)中の金属部品の取り扱い及び安定性を可能にする。したがって、連結可能な熱可塑性バインダは、ポリマーストランド38、40間の結合(例えば、非共有結合架橋)を可能にする第2熱可塑性ポリマーストランド40を含み、グリーン体金属部品のグリーン強度を高める。したがって、第2熱可塑性ポリマーストランド40は、
図6に示すように、ポリマーストランドが第1熱可塑性ポリマーストランド38と相互作用して、弱い非共有結合力70によって対応するポリマーストランドを連結することを可能にする官能基を含む。例えば、第2熱可塑性ポリマーストランド40は、第1熱可塑性ポリマーストランド38上の官能基に対して相補的な官能基を含んでもよい。すなわち、第2熱可塑性ポリマーストランド40は、水素結合供与体、水素結合受容体、負に荷電した基、正に荷電した基、又はこれらの組み合わせなどの官能基を含んでもよく、これらは第1熱可塑性ポリマーストランド38の官能基を相補してポリマーストランド38、40の非共有的な連結を促進する。非限定的な実施例として、第2熱可塑性ポリマーストランド40の官能基は、ヒドロキシル基、カルボキシレート基、アミン、チオール、アミド、又は弱い非共有結合力によってポリマー38、40の結合を可能にする任意の他の好適な官能基、又はこれらの組み合わせを含む。
【0026】
一実施形態では、ポリマーストランド38、40は同一の熱可塑性ポリマーである。この特定の実施形態では、第1熱可塑性ポリマーストランド38は、第1官能基を含む前記熱可塑性ポリマーの一部であり、第2熱可塑性ポリマーストランド40は、第2官能基を含む前記熱可塑性ポリマーの別の部分である。すなわち、第1ポリマーストランド38及び第2ポリマーストランド40は、前記熱可塑性ポリマーのストランドの一部である。前記熱可塑性ポリマーの各ポリマーストランドが第1官能基及び第2官能基の両方を含むため、第1ポリマーストランド38部分上の官能基と第2ポリマーストランド40部分上の官能基との間のホモカップリングが起こり得る。すなわち、ポリマーストランド38、40の第1官能基は、ポリマーストランド38、40の対応する第2官能基と結合する可能性があり、それによって、別個の熱可塑性ポリマーのストランド間の結合の程度が低下する。ポリマーストランド38、40の対応する各部分の第1及び第2官能基(function group)間のホモカップリングを軽減するために、バインダ溶液36は、ポリマーストランド38、40の第1官能基と第2官能基との間の結合をブロックし得るプライマ(例えば、小さなポリマー)を含んでもよい。さらに、ポリマーストランド38、40の官能基間のホモカップリングをブロックするために、ポリマーストランド38、40の濃度をコントロールしてもよく、及び/又はバインダ溶液36のpHを調整してもよい。
【0027】
他の実施形態では、第1熱可塑性ポリマーストランド38は、第1熱可塑性ポリマーであり、第2熱可塑性ポリマーストランド40は、第1熱可塑性ポリマーとは異なる第2熱可塑性ポリマーである。したがって、第1熱可塑性ポリマーストランド38が第1熱可塑性ポリマーであり、第2熱可塑性ポリマーストランド40が第1熱可塑性ポリマーとは異なる第2熱可塑性ポリマーである場合、このポリマーストランド38、40の官能基間のホモカップリングは問題ではない。非限定的な実施例として、第2熱可塑性ポリマーストランド40は、ポリアクリル酸(PAA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、これらの誘導体、又は非共有結合相互作用を可能にする官能基を有する任意の他の好適なポリマー、又はこれらの組み合わせを含んでもよい。特定の実施形態では、バインダ溶液34は、あらゆる界面活性剤を実質的に含まない。界面活性剤を含まないことにより、前記バインダ溶液34の配合は簡素化される場合があり、界面活性剤を含む配合物と比較して製造コストが削減される場合がある。さらに、以下でさらに詳細に説明されるように、界面活性剤を実質的に含まないバインダ溶液配合物は、界面活性剤を含むバインダ溶液配合物を用いてプリントされたグリーン体金属部品のグリーン強度よりも高いグリーン強度を有するグリーン体金属部品のプリントを可能にし得る。
【0028】
特定の実施形態では、第2熱可塑性ポリマーストランド40は、保護されたポリ酸無水物を含んでもよい。例えば、前記第2熱可塑性ポリマーストランド40は、ポリビニルメチルエーテル-無水マレイン酸(PVME-MA)を含んでもよい。水分(例えば、水)にさらした際に、無水マレイン酸は加水分解されて、第1熱可塑性ポリマーストランド38と相互作用して弱い非共有結合力によって対応するポリマーストランドを連結し得るカルボキシレート官能基を露出させる。特定の実施形態では、第2ポリマーストランド40は、アンモニウム(-NH3
+)又はアミン(-NH2)を含んでもよい。アンモニウムは、イオンの分子内力によって対応するポリマーストランド38、40のポリマーストランドを連結する。非限定的な実施例として、第2ポリマーストランド40は、ポリ(エチレンイミン);ポリ(アリルアミン);2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、3-(ジメチルアミノ)プロピルアクリレートを含むポリアクリレートコポリマー;これらの誘導体;又はこれらの組み合わせを含んでもよい。この第2熱可塑性ポリマーストランド40は、約1.5K~160Kの平均分子量を有し得る。
【0029】
上述のように、バインダ溶液34は、第1熱可塑性ポリマーストランド38及び第2熱可塑性ポリマーストランド40の混合物を含む。バインダ溶液34は、第1熱可塑性ポリマーストランド38と第2熱可塑性ポリマーストランド40との任意の好適な比率を包含し得る。バインダ溶液34中の第1熱可塑性ポリマーストランド38と第2熱可塑性ポリマーストランド40との比率は、ポリマーストランド38、40間の好適な連結度が得られて、プリント後プロセス中の取り扱いに好適な望ましいグリーン強度を有するグリーン体金属部品をもたらし、そして連結可能な熱可塑性バインダ36のきれいな除去が可能となるような比率である。ポリマーストランド38、40間の連結度に加え、第1熱可塑性ポリマーストランド38及び第2熱可塑性ポリマーストランド40の組み合わせは、3D・バインダ・ジェット・プリンティングに好適な粘度(例えば、約2センチポアズ(cP)~約200cPの粘度)をもたらし得るということも認識されている。非限定的な実施例として、この第1熱可塑性ポリマーストランド38と第2熱可塑性ポリマーストランド40との比率は、1:1、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、8:1、9:1、10:1、又は任意の他の好適な比率であってもよい。
【0030】
図3を参照して上述したように、プリンタヘッド42は、連結可能な熱可塑性バインダ36を有するバインダ溶液34(例えば、インク)を受け取り、連結可能な熱可塑性バインダ36を金属粉末層16にプリントする。したがって、バインダ溶液34は、プリンタヘッド42よるバインダ・ジェット・プリンティングを促進する特定の特性を有し得る。バインダ溶液34は、連結可能な熱可塑性バインダ26の層16への積層を促進し得る添加剤を含んでもよい。例えば、特定の実施形態では、バインダ溶液34は、界面活性剤、希釈剤、粘度調整剤、分散剤、安定剤(stablizers)、又はバインダ溶液34の噴射性能(jettability)及び連結可能な熱可塑性バインダ36の層16への積層を促進する任意の他の添加剤などの1又は複数の添加剤を含んでもよい。界面活性剤は、連結可能な熱可塑性バインダ36及び/又は金属粉末18の特性に応じて、イオン性(例えば、双性イオン性、カチオン性、アニオン性)又は非イオン性であってもよい。非限定的な実施例として、界面活性剤は、ポリプロポキシジエチルメチルアンモニウムクロリド(例えば、VARIQUAT(登録商標)CC-42NS)、ヘキサン酸のオリゴマー(例えば、HYPERMER(登録商標)KD1)、アルキレンオキシドコポリマー(HYPERMER(登録商標)KD2)、脂肪酸及びアルキルアミンのアルキレンエステル(HYPERMER(登録商標)KD3)、並びにこれらの組み合わせであってもよい。
【0031】
1又は複数の添加剤は、金属粉末18の粒子を連結可能な熱可塑性バインダ36で被覆することを容易にするために、金属粉末18のぬれ性を改善し得る。1又は複数の添加剤は、バインダ溶液34の噴射性能を促進するために、バインダ溶液34の表面張力も変化(例えば、改質)させ得る。例えば、特定の実施形態では、オーネゾルゲ数(例えば、粘性力に対する慣性力及び表面張力の比)が約0.1~約1である場合、バインダ溶液34は一般に噴射可能であるとみなされる。
【0032】
特定の実施形態では、1又は複数の添加剤は、連結可能な熱可塑性バインダ36を溶解する溶媒もまた含み得る。前記溶媒は、選択されたポリマーストランド38、40及びバインダ溶液34中に存在し得る他の添加剤に応じて、水性又は非水性であってもよい。前記溶媒は一般に、金属粉末18、連結可能な熱可塑性バインダ36、又はバインダ溶液34中に存在し得る任意の他の添加剤と反応しないように、非反応性(例えば、不活性)である。さらに、バインダ被覆粒子58及びプリント層60の結合を促進するために、金属粉末層16への連結可能な熱可塑性バインダ36の選択的な積層後、溶媒は容易に蒸発しなくてはならない。バインダ溶液に使用してよい溶媒の例としては、水、塩化メチレン(CH2Cl2)、クロロホルム(CHCl3)、トルエン、キシレン、メシチレン、アニソール、2-メトキシエタノール、ブタノール、ジエチレングリコール、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン(MEK)、トリクロロエチレン(TCE)、又は任意の他の好適な溶媒が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
バインダ溶液34中の連結可能な熱可塑性バインダ36は、予め形成された溶解されたポリマーストランド38、40の形態であってよい。連結可能な熱可塑性バインダ36は、ポリマーストランド38、40の連結、噴射性能、及び金属粉末層16への積層を促進するために、好適な溶媒中で可溶化されてもよい。バインダ溶液34の金属粉末層16への積層に続いて、前記溶媒は蒸発してもよく、連結可能な熱可塑性バインダ36は、グリーン体金属部品を形成するためにバインダ被覆粒子58及びプリント層60を合着して結合してもよい。
【0034】
図1のブロック12及びブロック24に示されるように、層16の積層及び連結可能な熱可塑性バインダ36のプリントに続いて、方法10は、前記連結可能な熱可塑性バインダの硬化を続けてグリーン体金属部品の層を形成する(ブロック74)。例えば、上述のように、前記バインダ溶液36は、連結可能な熱可塑性バインダ36(例えば、ポリマーストランド38、40)と溶媒との混合物であってもよい。バインダ溶液36中の溶媒の一部は、連結可能な熱可塑性バインダ36の積層(例えば、プリント)中に蒸発し得るが、一定量の溶媒は金属粉末層16内に残存する場合がある。したがって、特定の実施形態では、グリーン体金属部品は、プリント層60中に残存する溶媒が蒸発し、グリーン体金属部品のプリント層60の効果的な結合を可能にするのに好適な温度(例えば、約200℃)で熱硬化(後続のプリント後工程(例えば、
図1のブロック74))されてもよい。過剰な材料18(例えば、連結可能な熱可塑性バインダ36によって結合されていない金属粉末18)は、脱バインダ及び焼結処理のためにグリーン体を準備するために硬化後に除去されてもよい。硬化後、このグリーン体金属部品は、金属部品中に残存し得る任意の残留溶媒及び/又は他の揮発性物質を除去するために乾燥工程を施される場合がある。例えば、前記グリーン体金属部品は、真空中、不活性雰囲気(例えば、窒素(N
2)、アルゴン(Ar))下、又はやや高い温度若しくは室温の空気中で乾燥されてもよい。
【0035】
上述のように、バインダジェッティング用途でグリーン体金属部品を形成するために使用される連結可能な熱可塑性バインダは、焼結プロセス中のチャー残渣の形成及び金属酸化物の形成の両方を軽減する方法で除去されてもよい。したがって、方法10は、ブラウン体金属部品を作製するためにグリーン体金属部品から連結可能な熱可塑性バインダ36の一部を除去すること(例えば、脱バインダ)を含む(ブロック78)。上述のように、バインダジェッティング用途で使用されるバインダは、プリントした物品に強度(例えば、グリーン強度)をもたらす。したがって、焼結前に得られるブラウン体金属部品の取り扱い強度を改善するために、グリーン体金属部品の脱バインダ中に連結可能な熱可塑性バインダの一部のみ(すなわち、すべてではない)を除去することが望ましい。
【0036】
前述のように、バインダ・ジェット・3Dプリンティングで使用される特定の熱可塑性バインダは、プリント後プロセス(例えば、粉末除去及び脱バインダ)におけるグリーン体金属部品の取り扱いに適したグリーン強度をもたらさない場合がある。しかしながら、連結可能な熱可塑性バインダ36を使用することにより、プリントした物品のグリーン強度は、連結不可能な熱硬化性バインダを使用してプリントした物品と比較して増大し得ることが現時点で認識されている。さらに、連結可能な熱可塑性バインダ36は、O2がない状態で容易に除去される場合があるため、脱バインダ及び焼結後にチャー残渣を実質的に含まない固化物品がもたらされ得る。このように、固化金属部品の特定の特性(例えば、酸化レベル)は、物品をプリントするために使用される金属粉末18の特性と類似又は同一であり得る。
【0037】
本技術の実施形態による、バインダ溶液の実施例の表を、バインダ溶液を使用してプリントされたグリーン体のグリーン強度のデータとともに以下に示す。グリーン体金属部品は、レネ108(d50が約16μm)の金属粉末を1.43インチのプラスチックのペトリ皿に入れて、このペトリ皿を約50回タッピングして金属粉末を充填することによって準備した。約2ミリリットル(mL)のバインダ溶液(例えば、ポリビニルアルコール(PVA))、連結可能な熱可塑性ポリマー36(例えば、PVA:ポリアクリル酸(PAA)、PVA:ポリビニルピロリドン、PVA:ポリ(メチルビニルエーテル-alt-無水マレイン酸)(poly(methyl vinyl ether-alt-maleic)anhydride)、又は市販のバインダ)を、前記金属粉末がこのバインダ溶液で飽和するまで金属粉末に滴下した。このバインダ溶液が充填した金属粉末に吸収されるように、このバインダ溶液の各滴の添加とともに同時にペトリ皿をタップした。前記飽和金属粉末を周囲条件下で約1時間乾燥させた。乾燥に続いて、前記飽和金属粉末を約85℃で一晩硬化させて、グリーン体金属部品を得た。前記グリーン体金属部品を、グリーン体金属部品が破壊されるまで適用される500ニュートン(N)のロードセル(loaded cell)を用いた3点曲げ試験に供した。上記方法にしたがって準備した各グリーン体金属部品のグリーン強度を以下の表1にて報告する。
【0038】
【0039】
図7は、上記の表1に示した種々のバインダ溶液配合物を使用してプリントしたグリーン体金属部品の実施形態に関するグリーン強度の棒グラフ80である。例えば、棒グラフ80は、それぞれPVA(31~50K):PAA又はPVA(13~23K):PAAの5:1の比率を有する連結可能な熱可塑性バインダを用いてプリントしたグリーン体金属部品84及びグリーン体金属部品86のグリーン強度82を重量ポンド(lbF)で示す。前記棒グラフ80は、界面活性剤及びそれぞれPVA(31~50K)又はPVA(13~23K)を有する連結不可能な熱可塑性バインダ配合物を使用してプリントしたグリーン体金属部品90及びグリーン体金属部品94のグリーン強度、並びに市販のバインダ配合物を使用してプリントしたグリーン体金属部品96のグリーン強度も示す。
図7に示すように、グリーン体金属部品84、86のグリーン強度は、グリーン体金属部品90、94とそれぞれ比較して、より高いグリーン強度82を有する。例えば、グリーン体金属部品84、86のグリーン強度は、連結不可能な熱可塑性バインダ配合物を用いてプリントしてグリーン体金属部品90、94のグリーン強度を約20%~35%上回る。さらに、本明細書で開示する連結可能な熱可塑性バインダの特定の配合物は、既存の現況技術のバインダ(例えば、市販のバインダ)と比較して、20%~46%より高いグリーン強度を示す。
【0040】
さらに、驚くべきことに、予想外に、現時点では、界面活性剤を含まない本明細書で開示する連結可能な熱可塑性バインダ配合物は、上記の表1に示すように、界面活性剤を含む連結可能な熱可塑性バインダ配合物と比較して、より高いグリーン強度をもたらすことが認識されている。特定のバインダ配合物では、界面活性剤は、金属粉末の表面特性(例えば、ぬれ性)を改善させることにより、金属粉末18のバインダによる被覆を容易にし得る。しかしながら、特定の連結可能な熱可塑性バインダ配合物を使用する場合、界面活性剤は、ポリマーストランド38、40のストランド間の分子間相互作用を妨げる場合があり、弱い非共有結合力によるポリマーストランド40の官能基とポリマーストランド38との間の結合を減少させるか、又はブロックする。そのため、前記連結可能な熱可塑性バインダ36は、ポリマーストランド38、40間の十分な連結を有さない場合があり、プリント後プロセス中のプリント及び硬化したグリーン体金属部品の取り扱いに適したグリーン強度をもたらさない。したがって、ポリマーストランド40の官能基及びポリマーストランド38、40を連結する弱い非共有結合力の種類に応じて、ポリマーストランド38、40間の弱い非共有結合力の形成を可能にするために、連結可能な熱可塑性バインダ配合物から界面活性剤を省くことが望ましい場合がある。あるいは、特定の実施形態では、ポリマーストランド38、40と実質的に相互作用しない(例えば、実質的に不活性である)界面活性剤が、連結可能な熱可塑性バインダ配合物に使用され得る。
【0041】
脱バインダ中、連結可能な熱可塑性バインダ36の部分的な除去中に、グリーン体金属部品を加熱して、連結されたポリマーストランド38、40を分離し、ポリマーストランド38、40の一部を分解してもよい。例えば、グリーン体金属部品は、ブロック78の脱バインダ工程中に、約250℃~約450℃などの約500℃以下の温度に加熱されてもよい。脱バインダ中にグリーン体金属部品がさらされる条件は、ポリマーストランド38、40を分解し、連結可能な熱可塑性バインダ36のかなりの部分(例えば、約95%、約96%、約97%、約98%)が除去されたブラウン体金属部品をもたらす。脱バインダ後のブラウン体金属部品中に残存するポリマーストランド38、40の残留炭素は、ブラウン体金属部品内のプリント層を結合し続け、取り扱い中にブラウン体金属部品の構造を維持するブラウン強度(brown strength)をもたらし得る。
【0042】
特定の実施形態では、連結可能な熱可塑性バインダ36の約98%~約99.95%は、連結可能な熱可塑性バインダ36の部分的な分解による脱バインダ中に除去され得る。前記連結可能な熱可塑性バインダの部分的な分解中に形成される小分子の多くは、室温又は脱バインダ温度でガス状であり得る。脱バインダ後にブラウン体金属部品に残存する連結可能な熱可塑性バインダ36の一部(例えば、オリゴマー)は、ブラウン体金属部品の金属粉末層を結合し続け、適切な強さのブラウン強度をもたらす。一実施形態では、ブラウン体に残存するオリゴマーの一部は、約0.05%~約2%である。他の実施形態では、ブラウン体に残存するオリゴマーの一部は、約0.1%~約1%である。
【0043】
特定の実施形態では、連結可能な熱可塑性バインダ36の脱バインダは、無酸素環境(例えば、不活性雰囲気下の真空槽内)でグリーン体金属部品を所望の温度(例えば、約250℃~約450℃)まで加熱することを含み得る。例えば、脱バインダは、窒素(N2)、アルゴン(Ar)、又は別の実質的に不活性なガスの下で実施してよい。しかしながら、特定の実施形態では、脱バインダは、空気中で実施してよい。部分的には、連結可能な熱可塑性バインダ36のポリマーストランド38、40を連結する弱い非共有結合力のために、空気中での脱バインダは、金属粉末18の酸化をブロックする約450℃未満の温度で実施され得る。そのため、連結可能な熱可塑性バインダ36を使用してプリントした固化金属部品の全体的な特性は、3Dプリント金属部品を製造するために使用される金属粉末18の特性に類似し得る。
【0044】
ブロック78に示されるように、連結可能な熱可塑性バインダ36の脱バインダに続いて、
図1の方法10は、ブラウン体金属部品の予備焼結を続けて、ブラウン体金属部品中に残存する連結可能な熱可塑性バインダの一部(例えば、脱バインダ中に形成されるオリゴマー)を除去する(ブロック100)。例えば、上述のように、ブロック78の動作にしたがって、連結可能な熱可塑性バインダ36の部分的な脱バインダ後に、連結可能な熱可塑性バインダ36は部分的に分解する場合があり、グリーン体金属部品から形成されるブラウン体金属部品に十分な強度をもたらすオリゴマーを形成する。予備焼結中に、ブラウン体金属部品は、約500℃~約800℃である予備焼結温度まで加熱してよい。予備焼結中にブラウン体金属部品に加えられた熱は、残存するオリゴマーを速やかに揮発してブラウン体金属部品から逃散する小分子に分解する。前記オリゴマーは、きれいに分解して、ブラウン体の多孔質構造を通して蒸発し得るより小さな分子になり、実質的に残渣を残さない。そのため、このブラウン体金属部品をその後焼結する場合、得られる固化金属部品は、チャーを実質的に含まない場合がある。したがって、この固化金属部品は、金属部品をプリントするために使用される金属粉末18の特性に類似した特性を有し得る。
【0045】
最後に、
図1に示す方法10は、ブラウン体金属部品を焼結することで完了し、金属酸化物を形成することなく金属粉末の粒子を固化する(ブロック104)。焼結中、ブラウン体金属部品は、ブラウン体金属部品を加熱し、ブラウン体のプリント層60を固化して対応するブラウン体金属部品の密度よりも高い密度を有する実質的に固体金属部品(例えば、固化金属部品)を形成するために、集束したエネルギー源(例えば、レーザ、電子ビーム、又は任意の他の好適なエネルギー源)にさらされてもよい。焼結は、固化金属部品が機械装置で使用するのに適するように、ブラウン体金属部品に強度及び完全性を付与する。焼結温度は、部品をプリントするために使用される金属粉末18に応じて、1000℃を超える場合がある。例えば、特定の実施形態では、焼結温度は、約1200℃~約1300℃であってもよい。したがって、バインダジェッティングで一般に使用されるバインダなどの、ブラウン体金属部品中に存在し得る任意の有機化合物は、焼結中に金属炭化物/金属酸化物を形成する可能性がある。
【0046】
上述のように、チャーは、固化物品の特定の特性(例えば、微細構造及び/又は機械的特性)に影響を及ぼす可能性があり、機械装置で使用される場合、固化金属部品の性能に影響を及ぼし得る。固化物品を作製するための金属部品の脱バインダ及び焼結中のチャーの形成は、不活性、真空、及び大気雰囲気下で容易に除去され得る熱可塑性ポリマーを使用することにより軽減される場合がある。しかしながら、熱可塑性バインダは、プリント後プロセス(例えば、粉末除去)においてプリントしたグリーン体を取り扱うために十分なグリーン強度をもたらさない場合がある。ポリマーストランド38を、ポリマーストランド38と相互作用する官能基を有するポリマーストランド40と混合して、本明細書で開示する連結可能な熱可塑性バインダ36を形成することにより、プリントしたグリーン体金属部品は、プリント後プロセスのための十分な取り扱い強度を有し得、固化金属部品は、チャー残渣を実質的に含まない場合があることが現時点で認識されている。したがって、固化金属部品の特性は、金属粉末18の特性に類似し得、成形技術によって製造された金属部品の特性と同等であり得る。本明細書で開示する連結可能な熱可塑性バインダ36を使用してバインダ・ジェット・3Dプリンティングによって製造した固化金属部品は、金属部品をプリントするために使用される金属粉末18の炭素含有量及び酸素含有量以下である炭素含有量及び酸素含有量を有し得る。
【0047】
3D・バインダ・ジェット金属プリンティング(3-D binder jet metal printing)に使用される現況技術の化学的バインダは一般に、本明細書で開示する連結可能な熱可塑性バインダをプリントしたグリーン体金属部品のグリーン強度よりも低いグリーン強度を有するグリーン体金属部品をもたらす。さらに、3D・バインダ・ジェット金属プリンティングに使用される現況技術の化学的バインダは一般に、炭素(C)及び酸素(O)(例えば、金属酸化物又は酸素を含有するバインダ分解生成物)含有量をもたらすチャー残渣を有する固化金属物品をもたらし、この固化金属物品の炭素及び酸素の含有量は、金属部品をプリントするために使用される金属粉末のC及びOレベルよりも高くなる。しかしながら、本明細書で開示する連結可能な熱可塑性バインダは、プリントしたグリーン体のグリーン強度を改善し、現況技術の化学的バインダと比較して、粉末除去及び脱バインダプロセス中のグリーン体金属部品の取り扱いを可能にする。さらに、驚くべきことに、予想外に、界面活性剤を含まない特定の連結可能な熱可塑性バインダ配合物は、界面活性剤を含む連結可能な熱可塑性バインダ及び連結不可能な熱可塑性配合物と比較して、さらに高いグリーン強度をもたらす。
【0048】
上述のように、本明細書で開示する連結可能な熱可塑性バインダは、金属機械部品などの物品をプリントするためにバインダジェッティング付加製造で使用され得る。この開示される連結可能な熱可塑性バインダは、弱い非共有結合力によって相互作用して、連結可能な熱可塑性バインダ中の熱可塑性ポリマーの対応するポリマーストランドを連結(例えば、非共有的な架橋)する熱可塑性ポリマーを含んでもよい。このように、プリントしたグリーン体金属部品のグリーン強度は、連結不可能な熱可塑性バインダでプリントしたグリーン体と比較して増大し得る。さらに、この開示される連結可能なバインダは、連結可能な熱可塑性バインダと金属部品をプリントするために使用される金属粉末の粒子との間の相互作用を促進する界面活性剤を使用することなく、グリーン体金属体のグリーン強度を改善する。さらに、バインダの分解温度を超えて加熱した場合、前記連結可能な熱可塑性バインダ中の熱可塑性ポリマーは、より低い脱バインダ温度で比較的安定であり、より高い(例えば、予備焼結、焼結)温度で金属部品から容易に除去される分解生成物(例えば、オリゴマー)を形成する。前記分解生成物は、脱バインダ後に物品中に残存し、ブラウン体金属部品の強度を改善するオリゴマーを含む場合がある。このように、ブラウン体金属部品の完全性は、物品が焼結されるまで維持され得る。さらに、前記オリゴマーは、炭化することなく、予備焼結工程で容易に且つきれいに分解される。このように、固化金属部品は、固化金属部品の材料特性に悪影響を与え得るチャー残渣を実質的に含まない場合がある。
【0049】
本明細書は、最良の形態を含めて、本発明を開示するために実施例を用いており、また、任意のデバイス又はシステムを製作し使用し、任意の組み込まれた方法を実行することを含めて、いかなる当業者も本発明を実施することが可能となるように実施例を用いている。本発明の特許可能な範囲は、特許請求の範囲によって定義され、当業者が想到する他の実施例を含むことができる。このような他の実施例は、特許請求の範囲の文言との差がない構造要素を有する場合、又は特許請求の範囲の文言との実質的な差がない等価の構造要素を含む場合、特許請求の範囲の技術的範囲に包含される。
<付記>
<項1>
部品のバインダ・ジェット・プリンティングの方法であって、
バインダ・ジェット・プリンタの作業面上に粉末層を積層させることと、
連結可能な熱可塑性バインダを含むバインダ溶液を前記粉末層にパターン状に選択的にプリントしてプリント層を作製することであって、前記パターンは、前記部品の層の構造を表し、前記連結可能な熱可塑性バインダは、第1ポリマーストランド及び第2ポリマーストランドを含み、前記第1ポリマーストランドは第1官能基を含み、前記第2ポリマーストランドは第1官能基とは異なる第2官能基を含み、前記第1官能基及び第2官能基は前記第1ポリマーストランドを前記第2ポリマーストランドに非共有結合させるように構成される、プリント層を作製することと、
前記プリント層中の前記連結可能な熱可塑性バインダを硬化させてグリーン体部品の層を作製することと、
前記グリーン体部品を第1温度よりも高く加熱して、前記連結可能な熱可塑性バインダの少なくとも一部を除去し、ブラウン体部品を作製することと、
前記ブラウン体部品を第2温度よりも高く加熱して、前記金属粉末を焼結し、前記部品を作製することであって、前記部品はチャー残渣を実質的に含まない、前記部品を作製することと
を含む、部品のバインダ・ジェット・プリンティングの方法。
<項2>
前記バインダ溶液が、前記連結可能な熱可塑性バインダと界面活性剤を含まない溶媒との混合物を含み、前記プリント層の硬化が前記溶媒を蒸発させることを含む、<項1>に記載の部品のバインダ・ジェット・プリンティングの方法。
<項3>
前記バインダ溶液が、前記連結可能な熱可塑性バインダと、溶媒と、界面活性剤との混合物を含み、前記プリント層の硬化が前記溶媒を蒸発させることを含む、<項1>に記載の部品のバインダ・ジェット・プリンティングの方法。
<項4>
前記第1ポリマーストランドの分子量が約5K~150Kである、<項1>に記載の部品のバインダ・ジェット・プリンティングの方法。
<項5>
前記第2ポリマーストランドの分子量が約1.5K~160Kである、<項1>に記載の部品のバインダ・ジェット・プリンティングの方法。
<項6>
前記第1官能基が水素結合受容体又は負に荷電した官能基であり、前記第2官能基が水素結合供与体又は正に荷電した官能基である、<項1>に記載の部品のバインダ・ジェット・プリンティングの方法。
<項7>
前記第1官能基及び第2官能基が、カルボキシレート基、ヒドロキシル基、アミン、アミド、チオール、又はこれらの組み合わせを含む、<項1>に記載の部品のバインダ・ジェット・プリンティングの方法。
<項8>
前記第1ポリマーストランドが、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアミド、ポリアクリルアミド、これらの誘導体、又はこれらの組み合わせであり、前記第2ポリマーストランドが、ポリアクリル酸(PAA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニルメチルエーテル-無水マレイン酸(PVME-MA)、これらの誘導体、又はこれらの組み合わせである、<項1>に記載の部品のバインダ・ジェット・プリンティングの方法。
<項9>
前記第1ポリマーストランドが第1熱可塑性ポリマーであり、前記第2ポリマーストランドが第2熱可塑性ポリマーであり、前記第1熱可塑性ポリマーが前記第2熱可塑性ポリマーとは異なる、<項1>に記載の部品のバインダ・ジェット・プリンティングの方法。<項10>
前記第1熱可塑性ポリマーと前記第2熱可塑性ポリマーとの比率が5:1である、<項9>に記載の部品のバインダ・ジェット・プリンティングの方法。
<項11>
前記粉末が、ニッケル合金、チタン合金、コバルト合金、アルミニウム系材料、タングステン、ステンレス鋼、セラミック、又はこれらの組み合わせを含む、<項1>に記載の部品のバインダ・ジェット・プリンティングの方法。
<項12>
前記金属粉末層が、約10マイクロメートル~約200マイクロメートルの厚さを有する、<項1>に記載の部品のバインダ・ジェット・プリンティングの方法。
<項13>
選択的にプリントすることが、前記バインダ溶液を前記バインダ・ジェット・プリンタのプリントヘッドで選択的にプリントすることを含む、<項1>に記載の部品のバインダ・ジェット・プリンティングの方法。
<項14>
前記グリーン体部品を前記第1温度まで加熱する前に、前記グリーン体部品を乾燥させて、前記グリーン体部品から前記バインダ溶液に使用された残留溶媒を除去することを含む、<項1>に記載の部品のバインダ・ジェット・プリンティングの方法。
<項15>
バインダ・ジェット・プリンティング・プロセスによって製造される部品であって、前記プロセスが、
バインダ・ジェット・プリンタの作業面上に粉末層を積層させる工程と、
連結可能な熱可塑性バインダを含むバインダ溶液を前記粉末層にパターン状に選択的にプリントしてプリント層を作製する工程であって、前記パターンは、前記部品の層の構造を表し、前記連結可能な熱可塑性バインダは、第1ポリマーストランド及び第2ポリマーストランドを含み、前記第1ポリマーストランドは第1官能基を含み、前記第2ポリマーストランドは第2官能基を含み、前記第1官能基及び第2官能基は前記第1ポリマーストランドを前記第2ポリマーストランドに非共有結合させるように構成される、プリント層を作製する工程と、
前記プリント層中の前記連結可能な熱可塑性バインダを硬化させてグリーン体部品の層を作製する工程と、
前記グリーン体部品を第1温度よりも高く加熱して、前記連結可能な熱可塑性バインダの少なくとも一部を除去し、ブラウン体部品を作製する工程と、
前記ブラウン体部品を第2温度よりも高く加熱して、前記粉末を焼結し、前記部品を作製する工程であって、前記部品はチャー残渣を実質的に含まない、前記部品を作製する工程と
を含む、プロセスによって製造される部品。
<項16>
前記グリーン体部品が、約40~約118重量ポンド(lbF)の強度を含む、<項15>に記載の部品。
<項17>
前記部品の炭素含有量が、前記金属粉末の炭素含有量と実質的に同一又はより少ない、<項15>に記載の部品。
<項18>
前記部品の酸素含有量が、前記金属粉末の酸素含有量と実質的に同一又はより少ない、<項15>に記載の部品。
<項19>
第1ポリマーストランド及び第2ポリマーストランドを含む連結可能な熱可塑性バインダを含むバインダ溶液であって、前記第1ポリマーストランドは第1官能基を含み、前記第2熱可塑性ポリマーストランドは第2官能基を含み、前記第1官能基及び第2官能基は前記第2ポリマーストランドの少なくとも一部を前記第1ポリマーストランドの少なくとも一部に非共有結合させるように構成され、前記バインダ溶液は界面活性剤を実質的に含まない、バインダ溶液
を含む、バインダ・ジェット・プリンティングで使用するために構成されたバインダ溶液。
<項20>
前記第1ポリマーストランドが、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアミド、ポリアクリルアミド、これらの誘導体、又はこれらの組み合わせであり、前記第2ポリマーストランドが、ポリアクリル酸(PAA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニルメチルエーテル-無水マレイン酸(PVME-MA)、これらの誘導体、又はこれらの組み合わせである、<項19>に記載のバインダ溶液。
<項21>
前記第1ポリマーストランドの分子量が約5K~約150Kである、<項19>に記載のバインダ溶液。
<項22>
前記第2ポリマーストランドの分子量が約1.5K~約160Kである、<項19>に記載のバインダ溶液。
<項23>
前記第1官能基が水素結合受容体又は負に荷電した官能基であり、前記第2官能基が水素結合供与体又は正に荷電した官能基である、<項19>に記載のバインダ溶液。
<項24>
前記第1官能基及び第2官能基が、カルボキシレート基、ヒドロキシル基、アミド、アミン、チオール、又はこれらの組み合わせを含む、<項19>に記載のバインダ溶液。
<項25>
前記第1ポリマーストランドが第1熱可塑性ポリマーであり、前記第2ポリマーストランドが第2熱可塑性ポリマーであり、前記第1熱可塑性ポリマーが前記第2熱可塑性ポリマーとは異なる、<項19>に記載のバインダ溶液。
<項26>
前記第1熱可塑性ポリマーと前記第2熱可塑性ポリマーとの比率が約5:1である、<項25>に記載のバインダ溶液。
<項27>
前記第1ポリマーストランド及び前記第2ポリマーストランドが両方とも同一の熱可塑性ポリマーのポリマーストランドであり、前記第1ポリマーストランドが前記第2官能基をさらに含み、前記第2ポリマーストランドが前記第1官能基をさらに含む、<項19>に記載のバインダ溶液。
<項28>
前記バインダ溶液の粘度が、約2センチポアズ(cP)~200cPである、<項19>に記載のバインダ溶液。