(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】細胞凍結保存液、及び細胞凍結方法
(51)【国際特許分類】
A01N 1/02 20060101AFI20230725BHJP
C12N 1/04 20060101ALI20230725BHJP
C07K 1/12 20060101ALI20230725BHJP
C07K 14/78 20060101ALI20230725BHJP
C12N 13/00 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
A01N1/02
C12N1/04
C07K1/12
C07K14/78
C12N13/00
(21)【出願番号】P 2021207231
(22)【出願日】2021-12-21
【審査請求日】2021-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】500063435
【氏名又は名称】株式会社アビー
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 華奈
(72)【発明者】
【氏名】大和田 哲男
【審査官】大木 みのり
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0120068(US,A1)
【文献】特開2021-000027(JP,A)
【文献】特表2020-504725(JP,A)
【文献】特表2017-501172(JP,A)
【文献】特開2019-024325(JP,A)
【文献】特表2019-533442(JP,A)
【文献】特表2019-504643(JP,A)
【文献】国際公開第2020/165152(WO,A1)
【文献】特開平07-255469(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A01N
C07K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダルベッコりん酸緩衝生理食塩水を溶媒とし、
添加剤として主成分の添加剤と副成分の添加剤のみが添加されてなり、
前記主成分の添加剤はトレハロースであり、
前記副成分の添加剤はコラーゲンペプチドである、
細胞凍結保存液。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞凍結保存液であって、前記
ダルベッコりん酸緩衝生理食塩水中に200mM以上300mM以下の濃度で前記トレハロースが含まれるトレハロース溶液に前記コラーゲンペプチドが添加されてなる、細胞凍結保存液。
【請求項3】
請求項2に記載の細胞凍結保存液であ
って、前記コラーゲンペプチドが3vol%以上~10vol%以下の割合で
含まれている、細胞凍結保存液。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれかに記載の細胞凍結保存液を用いて細胞を凍結させる方法であって、
凍結対象となる細胞に前記細胞凍結保存液を加えた細胞懸濁液をサンプルとして作製するサンプル作製ステップと、
前記サンプルが収納された第1の容器を、2-プロパノールで満たされた第2の容器内に設置するするサンプル設置ステップと、
前記サンプル設置ステップに次いで、前記第2の容器を冷凍庫内に載置して前記サンプルを凍結させる凍結ステップと、
を含み、
前記凍結ステップでは、前記サンプルを載置した前記冷凍庫内を、-50℃以上-30℃以下の温度まで徐冷するとともに、当該温度で所定時間維持する、
細胞凍結方法。
【請求項5】
請求項4に記載の細胞凍結方法であって、
前記凍結ステップでは、前記冷凍庫内に磁場を発生させて、当該磁場を前記サンプルに印加する、
細胞凍結方法。
【請求項6】
請求項1~請求項3のいずれかに記載の細胞凍結保存液を用いて細胞を凍結させる方法であって、
凍結対象となる細胞に前記細胞凍結保存液を加えた細胞懸濁液をサンプルとして作製するサンプル作製ステップと、
2-プロパノールで満たされた第1の容器を-80℃の温度に設定された冷凍庫内に載置する第1容器載置ステップと、
前記第1の容器内で-80℃の温度まで冷却された前記2-プロパノール内に前記サンプルを設置して前記サンプルを凍結させる凍結ステップと、
を含む、
細胞凍結方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞凍結保存液、及び細胞凍結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種臓器の細胞組織や多能性細胞等を凍結保存しておき、移植等の治療時に凍結保存しておいた細胞を解凍して利用する、細胞凍結技術が注目されている。細胞組織の一般的な凍結方法は、例えば、細胞組織に、生理食塩水に各種添加剤を添加した凍結保存液を加えた細胞懸濁液を作製し、その細胞懸濁液が入った容器(クライオチューブなど)を、2-プロパノールで満たされた細胞凍結容器内に設置し、その細胞凍結容器を、冷凍装置の冷凍庫内に保持することで行われる。
【0003】
より具体的は、プログラムフリーザーなどを用いて所定の降温速度(例えば、1℃/min等)で所定の温度(例えば、-80℃)まで冷却することで行われる。あるいは、細胞凍結容器を所定の温度(例えば、-80℃)に設定された冷凍庫内に所定時間(例えば、24H)保持することで行われる。そして、凍結後の細胞懸濁液が入った容器を液体窒素に浸漬して凍結細胞を保存する。
【0004】
なお、以下の非特許文献1や2にはiPS細胞の凍結保存技術について記載されている。また以下の非特許文献3には、iPS細胞などの細胞組織の凍結保存方法や細胞組織用の凍結保存液の概略について記載されている。以下の特許文献1や非特許文献4には、細胞毒性が低い細胞凍結保存液である細胞凍結保存用組成物について記載されている。以下の特許文献2には、本発明の実施例に関連して、磁場を印加しながら細胞を凍結させるための冷凍装置について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-115837号公報
【文献】特開2017-104061号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】京都大学、”ヒトiPS細胞の効果的凍結保存法の確立”、[online]、[令和3年12月7日検索]、インターネット<URL:http://www.kyoto-u.ac.jp/static/ja/news_data/h/h1/news6/2010/101201_3.htm>
【文献】公益社団法人日本生物工学会、” 霊長類ES/iPS細胞の凍結保存”、[online]、[令和3年12月7日検索]、インターネット<URL:https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9009/9009_tokushu-1_3.pdf>
【文献】ゼノアックリソース株式会社、”STEM-CELLBANKER GMP grade 製品案内(「STEM-CELLBANKER」は登録商標)”、[online]、[令和3年12月7日検索]、インターネット<URL:http://www.zenoaq.jp/zenoaq_resource/stem-cellbanker.html>
【文献】ナカライテスク株式会社、”細胞保存液 Cell Reservoir One”、[online]、[令和3年12月7日検索]、インターネット<URL:https://www.nacalai.co.jp/products/entry/d001007.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的な細胞凍結保存液は、非特許文献3に記載されているように、添加剤としてジメチルスルホキシド(DMSO)を含んでいる。しかし、DSMOには細胞毒性があることが知られている。したがって、現在の実験レベルや臨床レベルにある、医療用途の細胞凍結保存技術を、今後の実用レベルにまで移行させていくことを考慮すると、細胞凍結保存液にはより高い安全性が求められる。もちろん、細胞凍結保存液には、安全性ととともに、解凍時に高い細胞生存率を有することも求められている。
【0008】
上記特許文献1や非特許文献4に記載の細胞凍結保存液は、絹タンパク質であるセリシンを主とした添加剤を含み、さらに、これらの文献にはDSMOを含まないものについても開示されている。しかしながら、セリシンは、マユ由来の絹タンパク質を原料とし、製糸過程の製錬工程で発生する排水中から抽出して精製して得ることから、より低いコストで製造することが難しい。また、原料の入手先も限定される。
【0009】
医療用途の細胞凍結技術を実用レベルにまで引き上げるためには、安全性が高く、かつ安価で入手が容易な原料を用いつつ、細胞生存率の向上も期待できる細胞凍結保存液を得ることが必要である。
【0010】
そこで本発明は、安全性に優れ、安価で原料の入手が容易な細胞凍結保存液と、この細胞凍結保存液を用いた細胞凍結方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、ダルベッコりん酸緩衝生理食塩水を溶媒とし、添加剤として主成分の添加剤と副成分の添加剤のみが添加されてなり、
前記主成分の添加剤はトレハロースであり、
前記副成分の添加剤はコラーゲンペプチドである、
細胞凍結保存液である。
【0012】
前記ダルベッコりん酸緩衝生理食塩水中に200mM以上300mM以下の濃度で前記トレハロースが含まれるトレハロース溶液に前記コラーゲンペプチドが添加されてなる細胞凍結保存液とすれば好ましい。さらに、前記トレハロース溶液に3vol%以上~10vol%以下の割合で前記コラーゲンペプチドが含まれている細胞凍結保存液とすればより好ましい。
【0013】
本発明の態様には、上記細胞凍結保存液を用いて細胞を凍結させる方法も含まれ、当該方法は、
凍結対象となる細胞に前記細胞凍結保存液を加えた細胞懸濁液をサンプルとして作製するサンプル作製ステップと、
前記サンプルが収納された第1の容器を、2-プロパノールで満たされた第2の容器内に設置するするサンプル設置ステップと、
前記サンプル設置ステップに次いで、前記第2の容器を冷凍庫内に載置して前記サンプルを凍結させる凍結ステップと、
を含み、
前記凍結ステップでは、前記サンプルを載置した前記冷凍庫内を、-50℃以上-30℃以下の温度まで徐冷するとともに、当該温度で所定時間維持する、
細胞凍結方法としている。
【0014】
前記凍結ステップでは、前記冷凍庫内に磁場を発生させて、当該磁場を前記サンプルに印加する、細胞凍結方法とすれば好ましい。
【0015】
また、上記細胞凍結保存液を用いて細胞を凍結させる方法は、
凍結対象となる細胞に前記細胞凍結保存液を加えた細胞懸濁液をサンプルとして作製するサンプル作製ステップと、
2-プロパノールで満たされた第1の容器を-80℃の温度に設定された冷凍庫内に載置する第1容器載置ステップと、
前記第1の容器内で-80℃の温度まで冷却された前記2-プロパノール内に前記サンプルを設置して前記サンプルを凍結させる凍結ステップと、
を含む、
細胞凍結方法とすることもできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、安全性に優れ、安価で原料の入手が容易な細胞凍結保存液、及びその細胞凍結保存液を用いた細胞凍結方法が提供される。なお、その他の効果については以下の記載で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】凍結槽内に磁場を発生することができる磁場発生式冷凍装置の外観の一例を示す図である。
【
図2】上記磁場発生式冷凍装置の構成の一例を示す図である。
【
図3】HEK293細胞(試験用細胞)に、生理食塩水(D-PBS)に各種糖類が添加されてなる細胞凍結保存液を加えて得たサンプルを凍結して解凍したときの細胞生存率を示す図である。
【
図4】上記試験用細胞に、上記D-PBSに上記トレハロースと各種タンパク質とが添加されてなる細胞凍結保存液を加えて得たサンプルを凍結して解凍したときの細胞生存率を示す図である。
【
図5】上記試験用細胞に、上記D-PBSにトレハロースを添加剤の主成分とし、こらー濃度が異なるトレハロースが添加されてなる細胞凍結保存液を加えて得たサンプルを凍結して解凍したときの細胞生存率を示す図である。
【
図6A】上記試験用細胞に、上記D-PBSに上記トレハロースが200mMの濃度で含まれる溶液にコラーゲンペプチドが各種添加量で添加されてなる細胞凍結保存液を加えて得たサンプルを凍結して解凍したときの細胞生存率を示す図である。
【
図6B】上記試験用細胞に、上記D-PBSに上記トレハロースが300mMの濃度で含まれる溶液にコラーゲンペプチドが各種添加量で添加されてなる細胞凍結保存液を加えて得たサンプルを凍結して解凍したときの細胞生存率を示す図である。
【
図7】上記試験用細胞に、上記D-PBSに上記トレハロースと上記コラーゲンペプチドとが添加された細胞凍結保存液を加えて得たサンプルを、各種凍結方法で凍結させて解凍したときの細胞生存率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施例について、以下に添付図面を参照しつつ説明する。
【0019】
===実施例===
<糖類を含む細胞凍結保存液>
【0020】
上述したように、医療用途の細胞凍結保存技術を実用化させるためには、高い安全性と、低価格で、原料の入手が容易であることが重要となる。もちろん、高い細胞生存率を有することも必要となる。そこで本発明者は、安全性を最優先課題とし、かつ安価で原料の入手が容易な食品由来の物質を細胞凍結保存液に用いることを検討し、その上で、より高い細胞生存率を達成するべく鋭意研究を重ね、その結果、本発明に想到した。
【0021】
本発明の実施例に係る細胞凍結保存液は、食品由来の物質を添加剤として含んでいる。食品由来の細胞凍結保存液の添加剤としては、上記特許文献1にも記載されているように糖類がある。そこでまず、添加剤として糖類を含む凍結保存液を用いた細胞懸濁液をサンプルとし、そのサンプルを凍結させ、解凍後の細胞生存率を調べた。
【0022】
<サンプルの作製手順>
以下、サンプルの作製手順、サンプルの凍結手順、及びサンプルの解凍手順について、その一例を具体的に説明する。なお、ここでは、凍結対象となる細胞組織として、ヒト胎児由来腎細胞株(HEK293A)を培養して得たHEK293細胞を採用した。
【0023】
サンプルの作製手順は、まず、ヒト胎児由来腎細胞株(HEK293A)を、基本培地であるDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地、Dulbecco's Modified Eagle's Medium)に対してウシ胎児血清(FBS)及びペニシリンストレプトマイシンを、夫々10vol%及び1vol%加えた培地を用いて、温度37℃、CO2濃度5%の環境下で培養してHEK293細胞(以下、「試験用細胞」と言うことがある。)を得る。次に、試験用細胞に細胞凍結保存液を加えた細胞懸濁液をサンプルとする。なお、細胞懸濁液における細胞濃度は1×107(cells/ml)とした。
【0024】
サンプルに用いた細胞凍結保存液は、D-PBS(ダルベッコりん酸緩衝生理食塩水)を主成分として糖類が添加されたものであり、サンプルに応じて糖類の種類が異なっている。また、各細胞凍結保存液における糖類の濃度は、サンプルごとにD-PBSの量を変えることで一律に200mMとした。
【0025】
次に、クライオチューブを第1の容器として、当該第1の容器(以下、「チューブ」と言うことがある。)に500μlのサンプルを入れた。次いで、サンプルが入ったチューブを、2-プロパノールで満たされた第2の容器である凍結保存容器内に設置し、その凍結保存容器(以下、「容器」と言うことがある。)を、後述する冷凍装置等の冷凍個内に設置してサンプルを凍結させた。
【0026】
解凍は、凍結したサンプルが入ったチューブが設置された凍結保存容器を、37℃の恒温槽に1分間保持する手順で行った。そして、各サンプルに対し、上述した手順で凍結して解凍する凍結解凍試験を行い、解凍後のサンプル内において生存している細胞の数を計測し、凍結前の細胞の数と解凍後の生存細胞の数とに基づいて細胞生存率を求めた。なお、生存細胞の数は、フロートサイトメーターによる自動解析により、視細染色色素(PI)を用いて染色したサンプル内の試験用細胞の生死判定を行うことで計測した。
【0027】
<冷凍装置>
細胞懸濁液を凍結させるための一般的な手順は、プログラムフリーザーの冷凍庫内にサンプルを載置し、冷凍庫内を室温から所定の降温速度(例えば、-1℃/min)で-80℃程度の極低温にまで冷却して凍結させる。-80℃の温度に設定した冷凍庫内にサンプルを投入する凍結方法もある。
【0028】
ところで、実施例に係る細胞凍結保存液は、細胞内に浸透するDMSOを含むものとは異なり、添加剤として糖類を含んでいる。周知のごとく糖類は、毒性がないものの、脂溶性でないことから、-80℃の極低温の温度下で凍結させる一般的な凍結方法を用いてサンプルを凍結させるとサンプルを適切に評価できない可能性がある。
【0029】
具体的には、細胞を凍結させる際、細胞外の氷晶形成より、細胞内の氷晶形成が細胞の生存率に大きく影響する。そのため、DMSOを含む細胞凍結保存液を用いてサンプルを凍結させる場合、一般凍結方法により、細胞内に凍結保護剤であるDMSOを十分に浸透させ,細胞内の氷の起源である自由水と凍結保護剤とを置換し、氷晶形成による細胞内の器官(オーガナイザー)の損傷を抑制することが重要となる。
【0030】
一方、実施例に係る細胞凍結保存液では、添加剤として分子量が大きい糖類を用いているため、細胞内に浸透し難い。そのため、細胞内の自由水を可能な限り脱水する、あるいは細胞内の浸透圧がある程度保たれるように、超過冷却状態となる温度(例えば、-30℃)で維持することで一気に凍結させる方法が適していると考えることができる。そして、実施例に係る細胞凍結保存液の性能を正しく評価するためには、添加物の物性を考慮した適切な方法でサンプルを凍結させて、異なる添加物同士での性能比較ができるようにすることが必要である。
【0031】
そこで、サンプルの凍結には、上記特許文献2に記載の冷凍装置と同様の冷凍装置を用いることとした。この種の冷凍装置は、冷凍庫内に磁場を発生させることが可能なものであり、上記特許文献2では、従来のDMSOを含む細胞凍結保存液を用いたサンプルを、当該文献に記載の冷凍装置を用いてサンプルに磁場を印加させながら凍結させている。そして、細胞生存率等が向上することも開示されている。そこで、実施例に係る細胞凍結保存液を評価するために作製した種々のサンプルに対する凍結解凍試験では、基本的に、サンプルに対する磁場の印加を問わず、この種の冷凍装置(以下、「磁場発生式冷凍装置」と言うことがある。)を用いて、サンプルを凍結させることとしている。
【0032】
参考までに、
図1と
図2に、磁場発生式冷凍装置1の一例を示した。
図1は、磁場発生式冷凍装置1の外観図であり、
図2は磁場発生式冷凍装置1の概略構成を示している。
【0033】
図1に示した磁場発生式冷凍装置1は、水平面に載置した状態で上下方向に長い箱状の冷凍装置本体(以下、本体10とも言う)とケーブル2で接続された制御ユニット20とから構成されている。制御ユニット20は、本体10の動作を制御したり、本体の動作状態を監視したりするための装置であり、ユーザインタフェースとして、各種設定操作を受け付ける入力部(23、26)や、本体10の設定状態等を表示する表示部(24、27)を備える。
【0034】
図2に示したように、本体10は内部に冷凍庫(以下、「凍結槽」と言うことがある。)11、スターリング冷凍機等の冷凍機12、熱交換器である冷却ヘッド13、ヒーター14、凍結槽11内の温度を監視する温度センサ15、および凍結槽11内に磁場を発生させるためのコイル16などを含んで構成されている。なおコイル16を構成する導線は、例えば、上下方向を軸として凍結槽11の周囲に矩形状に巻回される。また冷却ヘッド13は上面が凍結槽の底面を構成し、この冷却ヘッド13内にヒーター14と温度センサ15が組み込まれている。それによって凍結槽11内がこの冷却ヘッド13を介して直接冷却あるいは加温される。
【0035】
<糖類の選定>
糖類の種類が異なる各種細胞凍結保存液を用いたサンプルを、上記磁場発生式冷凍装置(CAS-LAB1、株式会社アビー製)の凍結槽に入れ、-2℃/minの降温速度で-30℃まで冷却するとともに、-30℃の温度で10分間維持してサンプルを凍結させた。なお、降温過程および-30℃での維持期間では、周波数50Hz、磁束密度0.30~0.31mTの磁場をサンプルに印加した。そして、-30℃でサンプルを維持ししてサンプルを凍結させた後、-80℃の冷凍庫にサンプルを移し、24H保管した。このようにして凍結、保管したサンプルを、上記の方法で解凍し、細胞生存率を調べた。なお、以下に示す各サンプルについても、断りがない限り、同様の条件(降温速度、維持期間の温度と時間、磁場の周波数と磁束密度)で凍結させ、同様の方法で解凍した。なお、以下では、磁場発生式冷凍装置を用いてサンプルに磁場を印加させながらサンプルを凍結させる方法を「磁場印加凍結方法」と称することとする。
【0036】
図3に糖類の種類が異なる各種細胞凍結保存液を用いたサンプルの夫々における細胞生存率を示した。
図3に示したように、添加剤にトレハロースを用いたサンプルでは細胞生存率が50%を上回った。
【0037】
<添加剤の副成分>
上述したように、細胞毒性のある添加剤を含まず食品由来の糖類であるトレハロースを添加剤とした細胞凍結保存液を用いることで、少なくとも50%以上の細胞生存率が得られることがわかった。次に、細胞生存率をさらに向上させるために、トレハロースを添加剤の主成分として、このトレハロースとトレハロース以外の副成分とからなる添加剤を含む細胞凍結保存液を用いてサンプルを作製した。そして、磁場印加凍結方法によりサンプルを-30℃で凍結させた上で、-80℃の冷凍庫内でサンプルを24時間保管したのち、上記と同様の手順でサンプルを解凍する凍結解凍試験を行って、サンプルの細胞生存率を調べた。
【0038】
ここでは、添加剤の副成分として、各種タンパク質を用いた。タンパク質は、糖と同様に、生体において極めて重要な高分子であるとともに、生体においては水を溶媒としていることから、生理食塩水であるD-PBSに対する添加剤として糖とタンパク質とを含んだ細胞凍結保存液であれば、添加剤と水との相互作用(水和)によって、凍結時の細胞の破壊を抑制し、かつ解凍後の細胞生存率も向上すると仮定した。そして、細胞凍結保存液の添加剤として実績のある、特許文献1や非特許文献4に記載のセリシンに加え、FBS、ウシ血清アルブミン(BSA)も副成分として選定した。
【0039】
さらに、セリシン、FBS、BSAは、決して安価とは言えないことから、細胞凍結保存液用としては全く実績のない添加剤についても検討する必要があると考え、コラーゲンペプチドを選定した。周知のごとく、コラーゲンペプチドは、ゼラチンを酵素等により加水分解することで得られる低分子の水溶性タンパク質である。また、ゼラチンは、魚類、牛、豚などの生体内に豊富に存在する不溶性タンパク質であるコラーゲンに熱を加えることで抽出することができる。そして、コラーゲンペプチドは、サプリメントなどの原料として広く使用されており、安全性が高く、極めて安価に、かつ容易に入手できる。
【0040】
そこで、D-PBSを溶媒とした濃度200mMのトレハロース溶液に上記副成分のいずれかを加えてなる各種細胞凍結保存液を作製し、夫々の細胞凍結保存液を用いた細胞懸濁液をサンプルとした。なお、細胞凍結保存液中の副成分の濃度は、10vol%とした。
【0041】
図4に、副成分の種類が異なる各種細胞凍結保存液を用いたサンプルに対する凍結解凍試験後の細胞生存率を示した。
図4に示したように、上記特許文献1や4に記載のセリシンを添加剤の副成分としたサンプルは、17.7%の細胞生存率であり、試験を行ったサンプルの中で最も細胞生存率が低かった。それでも、安全性を考慮すれば、特許文献1や4に記載されているセリシンを用いることには意義があると考えられる。
【0042】
なお、副成分がFBS、及びBSAのサンプルでは、50%以上の細胞生存率であり、この細胞生存率は、セリシンに対して3倍程度高い。そして、添加剤の副成分としてコラーゲンペプチドを含んだ細胞凍結保存液を用いたサンプルでは、細胞生存率が77.5%で、当該サンプルは他の副成分を用いたサンプルに対して特異的に細胞生存率が高かった。したがって、細胞生存率を向上させるためには、細胞凍結保存液の添加物にトレハロースとコラーゲンペプチドとを用いることが有効である。
【0043】
そして、コラーゲンペプチドは、添加剤の主成分であるトレハロースと同様に、安価で入手が容易なものであるとともに、食品由来の高い安全性を有する添加剤である。したがって、実施例に係る細胞凍結保存液は、こられの添加剤を含む細胞凍結保存液であり、実施例に係る細胞凍結保存液は、凍結細胞を利用した医療の実用化にも寄与するものと考えられる。
【0044】
<トレハロースの濃度について>
上述したように、安全性が確保できる糖類とタンパク質とを添加剤とした各種細胞凍結液の中で、トレハロースを添加剤の主成分とし、コラーゲンペプチドを添加剤の副成分とした実施例に係る細胞凍結保存液は、最優先課題である安全性を達成しつつ、安価に提供でき、原料の入手が容易であるとともに、細胞生存率を高められることも確認できた。
【0045】
次に、実施例に係る細胞凍結保存液の細胞生存率をさらに高めるために、まず、添加物の主成分であるトレハロースの濃度を最適化することとした。
【0046】
そこで、コラーゲンペプチドの濃度を10vol%としつつ、トレハロースの濃度が異なる各種細胞凍結保存液を用いて上述したサンプルを作製し、各サンプルに対して凍結解凍試験を行った。また、凍結解凍試験では、サンプルを上記磁場発生式冷凍装置の凍結槽に入れ、-2℃/minの降温速度で-30℃まで冷却した後、その-30℃の温度で10分間維持し、サンプルを凍結させた。
【0047】
なお、サンプルを凍結させるまでの過程では、磁場の印加の有無と細胞生存率との関係も併せて確認できるように、磁場を印加しなかった。そして、サンプルを凍結させた後、各サンプルを、-80℃の冷凍庫にサンプルを移して24H保管した後、上記の方法で解凍し、細胞生存率を調べた。
【0048】
図5は、細胞凍結保存液中のトレハロースの濃度と細胞生存率との関係を示す図である。
図5に示したように、トレハロースの濃度が200mM以上で60%以上の細胞生存率が得られた。100mMの低い濃度であっても40%以上の細胞生存率を得ることができた。
【0049】
また、200mM以上300mM以下の濃度では、75%以上の生存率が得られた。なお、
図5に示した試験結果は、サンプルを凍結させる際に磁場を印加していないものであり、濃度が200mMであるときの生存率は、
図4に示した磁場を印加して凍結させたときの生存率(77.5%)より若干小さかった。したがって、
図4、
図5に示した試験結果は、トレハロースを主添加物とした細胞凍結保存液は、高い安全性を確保しつつ細胞を凍結することができること、凍結過程での磁場の印加の有無にかかわらず、細胞生存率を高めることができること、及び凍結過程で磁場を印加することで細胞生存率をさらに高められることを示唆していると言える。
【0050】
<細胞凍結保存液の最適化>
次に、実施例に係る細胞凍結保存液による細胞生存率をさらに高めるために、D-PBSを溶媒とし、糖濃度が200mM、又は300mMのトレハロース溶液に対してコラーゲンペプチドの添加量を変え、細胞凍結保存液中のコラーゲンペプチドの濃度が異なる各種細胞凍結保存液を調製して、上記と同様の細胞懸濁液を作製した。そして、これらの細胞懸濁液をサンプルとし、各サンプルに対して、上記と同様の手順で凍結保存試験を行った後、各サンプルにおける細胞生存率を調べた。なお、サンプルは、冷凍庫内を-2℃/minの降温速度で-30℃まで冷却した後、その-30℃の温度で10分間維持することで凍結させた。また、サンプルには上述した強度と周波数の磁場を印加した。
【0051】
図6A、
図6Bに、コラーゲンペプチドの濃度が異なる各種細胞凍結保存液を用いたサンプルの細胞生存率を示した。
図6Aは、トレハロースの濃度が200mMのサンプルの細胞生存率を示しており、
図6Bは、トレハロースの濃度が300mMのサンプルの細胞生存率を示している。
【0052】
まず、
図6Aに示した各サンプルの細胞生存率から、トレハロースの濃度を200mMとした場合、コラーゲンペプチドの濃度が1.0vol%であっても、
図5に示したセリシンを添加物の副成分とした細胞凍結保存液の2倍以上の細胞生存率が得られた。また、コラーゲンペプチドの濃度を3.0vol%以上にすると55%以上の細胞生存率を確保でき、5.0vol%以上にすると細胞生存率が60%を越え、7.0vol%以上では70%以上の細胞生存率が得られ、10.0vol%では、80%に近い77.5%の細胞生存率が得られた。
【0053】
また、
図6Bに示したように、トレハロースの濃度を300mMとした試験結果では、コラーゲンペプチドの添加量が0.1vol%以上で、70%以上の細胞生存率が得られることがわかった。そして、コラーゲンペプチドの濃度が3.0vol%以上では80%以上の極めて高い細胞生存率が得られた。
【0054】
以上の試験結果より、トレハロース溶液の濃度は200mM以上300mM以下のトレハロース溶液であれば、細胞生存率をより高めることができると考えられる。また、トレハロースの濃度を3.0vol%以上とすれば、さらに高い細胞生存率が確実に得られることもわかった。
【0055】
なお、コラーゲンペプチドの濃度の上限は、特に規定されるものではないが、
図5、
図6A、
図6Bに示した試験結果から、少なくとも10vol%の濃度までであれば、安定して高い細胞生存率が得られると言える。なお、
図6Aに示したように、トレハロースの濃度が200mMであるときは、コラーゲンペプチドの濃度と細胞生存率とが比例しているように見えるものの、
図6Aに示したように、トレハロースの濃度が300mMであるときは、コラーゲンペプチドの濃度が3.0vol%以上であれば極めて高い細胞生存率が得られることがわかったものの、コラーゲンペプチドの濃度と細胞生存率との間に明確な相関性を見いだせなかった。したがって、コラーゲンペプチドの濃度については、より高くする必要はないと考えるのが妥当である。すなわち、現実的なコラーゲンペプチドの濃度の上限は、10vol%辺りとしてもよい。
【0056】
いずれにしても、実施例に係る細胞凍結保存液の技術的意義は、従来の用途からでは想到し得なかったコラーゲンペプチドが細胞凍結保存液の添加剤として利用できることにある。すなわち、コラーゲンペプチドを含む細胞凍結保存液は、高い安全性を確保しつつ、かつ安価に提供できるものでもある。さらに、添加剤の濃度を調整することで、想定外の高い細胞生存率を得ることができるものである。
【0057】
ところで、
図5においてトレハロースの濃度が200mM及び300mMのときのサンプルと、
図6A及び
図6Bにおいてコラーゲンペプチドの濃度が10vol%のときのサンプルは、トレハロースとコラーゲンペプチドの濃度が同じものである。そして、これらのサンプルの細胞生存率は、磁場を印加しながら凍結させた
図6A及び
図6Bに示したサンプルの方が高かった。したがって、この
図5と、
図6A及び
図6Bとの比較でも、サンプルを凍結させる際に磁場を印加することで細胞生存率を高められることが確認できた。
【0058】
<凍結方法>
実施例に係る細胞凍結保存液を用いた上記の凍結解凍試験では、磁場発生式冷凍装置によってサンプルを徐冷しつつ-30℃で維持して凍結させた後、-80℃の温度に設定された冷凍庫内でサンプルを24H保持していた。すなわち、磁場発生式冷凍装置を用いて凍結温度を一般凍結法の-80℃に対して50℃も高い-30℃で凍結させて高い細胞生存率を得ることができた。また、凍結させる過程でサンプルに磁場を印加することで、より高い細胞生存率を得ることができた。
【0059】
ところで、一般的な凍結方法では、凍結温度となる-80℃にまで冷凍庫内を冷却することになり、冷凍庫内が設定した凍結温度に達するまでに長い時間が掛かる。当然、冷凍装置の消費電力量も嵩む。そのため、一般凍結法では、試料を凍結する度に、多大な時間と冷凍庫の運転コストとが掛かることになる。したがって、試料を極低温で凍結さる場合、時間も含めた総合的なコストを考慮すれば、プログラムフリーザーを用いて冷凍庫内を設定した凍結温度まで所定の降温速度で徐冷するより、冷凍庫内を凍結温度の状態で維持しておき、その凍結温度にある冷凍庫内に試料を入れて凍結させる方が好ましい。
【0060】
そこで、実施例に係る細胞凍結保存液を用いつつ、総合的なコストを考慮した凍結方法法について検討した。具体的には、上記試験用細胞と、300mMのトレハロース溶液に7vol%のコラーゲンペプチドを含む細胞凍結保存液とを用いた細胞懸濁液をサンプルとして作製した。
【0061】
次いで、そのサンプルを、様々な方法で凍結させた。ここでは、磁場発生式冷凍装置を用いた磁場印加凍結方法、-80℃の温度に維持された冷凍庫内にサンプルを載置する一般的な凍結方法、及び新規な凍結方法として、あらかじめ2-プロパノールで満たされた細胞凍結容器を-80℃の温度に設定された冷凍庫内に載置し、その後に細胞容器内にサンプルを設置する手順で凍結させる方法(以下、-80℃凍結方法)によりサンプルを凍結させた。また、磁場印加凍結方法では、サンプルに応じ、周囲温度の状態にある冷凍庫内にサンプルを載置した上で冷凍庫内を-20℃、-30℃、-40℃、及び-50℃のいずれかの凍結温度まで降温させ、各凍結温度で10分間維持した。
【0062】
そして、一般的な凍結方法、-80℃凍結方法、及び異なる凍結温度での磁場印加凍結方法によって凍結させたサンプルを-80℃の温度に設定された冷凍庫内で24H保持し、その後解凍して細胞生存率を調べる凍結解凍試験を行った。なお、磁場印加凍結方法を用いた凍結解凍試験では、周波数50Hz、磁束密度0.30~0.31mTの磁場をサンプルに印加しつつ、-2℃/minの降温速度で各温度まで冷却したのち、その温度を10分間維持することでサンプルを凍結させた。
【0063】
図7に、各種凍結方法によって凍結させたサンプルの解凍後の細胞生存率を示した。
図7に示したように、磁場印加凍結方法により凍結させてサンプルは、他の凍結方法により凍結させたサンプルよりも高い細胞生存率が得られた。しかも、-20℃~-50℃のいずれの温度で凍結させても、75%以上の細胞生存率が確保できた。特に、-30℃~-50℃の温度で凍結させたサンプルは、90%以上の極めて高い細胞生存率を示した。
【0064】
このように、実施例に係る細胞凍結保存液と、磁場発生式冷凍装置とを用いて細胞を凍結させれば、細胞生存率を向上させることができるとともに、細胞の凍結コストを低減させることが可能となる。すなわち、細胞生存率の向上と凍結コストの低減との相乗効果により、医療用途の細胞凍結技術の実用化の可能性をより高めることができる。そして、サンプルに印加する磁束密度や冷凍庫内の温度、あるいは冷却手順を最適化すれば、さらに生存率を高めることが期待できる。
【0065】
===凍結方法について===
図5、
図6A、及び
図6Bに示した試験結果から、同じ条件で作製したサンプルにおいて、凍結させる過程で磁場を印加しなかった場合と印加した場合とでは、磁場を印加した場合の方が細胞生存率を高めることが確認できた。具体的には、コラーゲンペプチドの濃度が10vol%で、トレハロースの濃度が200mMのサンプルでは、凍結過程で磁場を印加しなかった場合では、細胞生存率が75.4%であったのに対し、磁場を印加した場合では77.5%であり、磁場を印加することで細胞生存率が2%強向上した。また、コラーゲンペプチドの濃度が10vol%で、トレハロースの濃度が300mMのサンプルでは、凍結過程で磁場を印加しなかった場合では、細胞生存率が79.6%であったのに対し、磁場を印加した場合では83.8%であり、磁場を印加することで細胞生存率が4%強向上した。
【0066】
そして、
図5、
図6A、及び
図6Bに示した試験結果、及び
図7に示した試験結果に基づけば、凍結過程で磁場を印加しない場合でも、プログラムフリーザーを用いてサンプルを徐冷するとともに、-20℃~-50℃の温度で一定時間維持してサンプルを凍結させれば、磁場を印加した場合よりは若干低いものの、従来の一般的な凍結方法よりも遙かに高い細胞生存率が得られることが容易に想像できる。-30℃~-50℃で凍結させればさらに高い細胞生存率が得られることが容易に想像できる。
【0067】
また、-80℃凍結方法により凍結させたサンプルは、磁場印加凍結方法よりも細胞生存率は低かったが、一般的な凍結方法の細胞生存率(31.5%)の2倍に近い62.4%の高い細胞生存率を示した。-80℃凍結方法は、一般的な凍結方法と同様に-80℃の温度でサンプルを凍結させるものであることから、脂溶性でない糖類を含む細胞凍結保存液を用いて-80℃の極低温の温度下でサンプルを凍結させれば、上述したように、サンプルを適切に評価できない可能性が懸念された。しかし、試験結果では予想に反して高い細胞生存率が得られた。したがって、細胞を凍結保存する施設にプログラムフリーザーや磁場印加式冷凍装置が設置されていない場合には、この-80℃凍結方法でサンプルを凍結させることで従来の一般的な凍結方法よりも細胞生存率を高めることができると考えられる。もちろん、従来の細胞凍結保存液を用いる場合であっても、プログラムフリーザーを用意できない場合には、この-80℃凍結方法によってサンプルを凍結させれば、従来の一般的な凍結方法よりも高い細胞生存率が得られると考えられる。
【0068】
===補足説明、その他の実施例===
上記各実施例では、試験用細胞としてHEK293細胞を用いていたが、上記各実施例は、他の細胞にも適用可能である。
【0069】
上記サンプルは、試験を行う際にその都度調製されたものである。そのため、実施例において使用されたサンプルは、作製条件や試験方法が同じであっても、細胞生存率等の試験結果が若干異なる場合がある。
【0070】
図1、
図2に示した磁場発生式冷凍装置1は、磁場発生式冷凍装置の基本的、或いは代表的な構成を説明するためのものであり、上記各サンプルの凍結試験に使用された磁場発生式冷凍装置や、実用時に導入される磁場発生式冷凍装置とは、当然のことながら、外観、細部の構成、仕様等が異なる場合がある。
【符号の説明】
【0071】
1 磁場発生式冷凍装置、2 ケーブル、10 冷凍装置本体、
11 凍結槽(冷凍庫)、12 冷凍機、15 温度センサ、16 コイル、
20 制御ユニット、22 コイル制御部、25 温度制御部