(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】自動車用転舵装置
(51)【国際特許分類】
B62D 9/00 20060101AFI20230725BHJP
【FI】
B62D9/00
(21)【出願番号】P 2020050880
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】立入 泉樹
(72)【発明者】
【氏名】竹▲崎▼ 朗
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/189094(WO,A1)
【文献】特開平04-345514(JP,A)
【文献】特開2019-059364(JP,A)
【文献】特開2006-327550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 7/00 - 7/22
B62D 6/00 - 6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向における二列以上の左右対のタイヤのうち、一列以上のタイヤ(91-94)が左輪と右輪とで独立して転舵可能な独立転舵車両(100)に搭載され、
駆動対象の各タイヤを転舵方向に駆動する複数の転舵アクチュエータ(31-34)と、
車両の進行方向に対して左右対のタイヤの前端が内側を向く角度を正、外側を向く角度を負として、前記転舵アクチュエータにより左右対称に偏向される角度をトー角と定義すると、入力情報に応じて前記トー角を設定し、前記転舵アクチュエータに駆動信号を出力するトー角制御部(15)と、
走行路の路面状態を検出する路面状態検出部(16)と、
車両挙動又は外力による車両状態を検出する車両状態検出部(17)と、
を備え、
前記トー角制御部は、前記路面状態検出部が検出した路面状態
、及び、前記車両状態検出部が検出した車両状態に応じて前記トー角を設定する自動車用転舵装置。
【請求項2】
車両前後方向における二列以上の左右対のタイヤのうち、一列以上のタイヤ(91-94)が左輪と右輪とで独立して転舵可能な独立転舵車両(100)に搭載され、
駆動対象の各タイヤを転舵方向に駆動する複数の転舵アクチュエータ(31-34)と、
車両の進行方向に対して左右対のタイヤの前端が内側を向く角度を正、外側を向く角度を負として、前記転舵アクチュエータにより左右対称に偏向される角度をトー角と定義すると、入力情報に応じて前記トー角を設定し、前記転舵アクチュエータに駆動信号を出力するトー角制御部(15)と、
走行路の路面状態を検出する路面状態検出部(16)と、
車両を今後、加速させようとする加速指令を検出する加速指令検出部(19)と、
を備え、
前記トー角制御部は、前記路面状態検出部が検出した路面状態に応じて前記トー角を設定
し、前記加速指令検出部が検出した加速指令に応じて前記トー角を変化させる自動車用転舵装置。
【請求項3】
車両速度を検出する車両速度検出部(18)を備え、
前記トー角制御部は、停車時の前記トー角の絶対値を走行時の前記トー角の絶対値よりも小さく設定する請求項1または2に記載の自動車用転舵装置。
【請求項4】
車両前後方向において二列以上のタイヤが独立転舵可能な車両に搭載され、
前記トー角制御部は、各列の前記トー角を個別に設定可能である請求項1~3のいずれか一項に記載の自動車用転舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用転舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の進行方向に対して左右対のタイヤ前端が内側又は外側を向くように設定される角度をトー角という。トー角が正のとき、タイヤ前端が内側を向く「トーイン」となり、直進安定性が高まる。トー角が負のとき、タイヤ前端が外側を向く「トーアウト」となり、旋回性が高まる。スポーツ車ではトーアウトに設定される場合があるが、一般には直進安定性を高めるため、前輪、後輪の片方もしくは両方がトーインに設定される場合が多い。
【0003】
左右対のタイヤがリンクを介して機械的に結合されている一般的な車両では、トー角は、停車時のアライメント調整において初期設定され、走行中に変更することができない。これに対し特許文献1には、左右のタイヤを独立して転舵可能な独立転舵車両において、直進時に車両の速度に応じてトー角を調整するステアリングシステムが開示されている。例えば低速直進時のトー角は0であり、所定の車速域では車速が上昇するに従ってトー角が正側(すなわちトーイン側)に増加する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トーインでのトー角付与は直進安定性を高める一方で、進行方向とタイヤの転がり方向とがずれることによる横力が発生する。その横力が走行時に走行抵抗を増加させるため、燃費が低下する。そこで、車両が安定している状態ではトー角を0にし、不安定になりやすい状態ではトー角を大きくするように調整できることが望ましい。
【0006】
特許文献1の従来技術では車両の速度に応じてトー角を調整しているが、路面状態を考慮していない。路面摩擦係数が低い走行路では、低速走行であってもトー角を0にすると直進安定性が低下するおそれがある。また、路面摩擦係数が高い走行路では高速走行時でも直進安定性が確保されるため、トー角を大きくしすぎると走行抵抗による燃費のロスが増加する。
【0007】
本発明は上述の点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、独立転舵車両において直進安定性と走行抵抗の低減とを両立させる自動車用転舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による自動車用転舵装置は、車両前後方向における二列以上の左右対のタイヤのうち、一列以上のタイヤ(91-94)が左輪と右輪とで独立して転舵可能な独立転舵車両(100)に搭載される。この自動車用転舵装置は、駆動対象の各タイヤを転舵方向に駆動する複数の転舵アクチュエータ(31-34)と、トー角制御部(15)と、走行路の路面状態を検出する路面状態検出部(16)と、を備える。
【0009】
車両の進行方向に対して左右対のタイヤの前端が内側を向く角度を正、外側を向く角度を負として、転舵アクチュエータにより左右対称に偏向される角度を「トー角」と定義する。トー角制御部は、入力情報に応じてトー角を設定し、転舵アクチュエータに駆動信号を出力する。そして、トー角制御部は、路面状態検出部が検出した路面状態に応じてトー角を設定する。
【0010】
例えば路面状態検出部は、走行路の路面摩擦係数を検出する。また、「路面状態を検出する」には、気温、天候、位置、季節等から路面状態を推定することを含む。トー角制御部は、路面状態検出部が検出した路面状態に応じて、車両が不安定になりやすいときトー角を正側に大きくし、車両が安定しているときトー角を0に近づける。これにより、路面状態に応じて、直進安定性と走行抵抗の低減とを両立させることができる。
【0011】
本発明の第一の態様の自動車用転舵装置は、車両挙動又は外力による車両状態を検出する車両状態検出部(17)をさらに備える。トー角制御部は、路面状態検出部が検出した路面状態、及び、車両状態検出部が検出した車両状態に応じてトー角を設定する。これにより、路面状態及び車両状態に応じて、直進安定性と走行抵抗の低減とを両立させることができる。本発明の第二の態様の自動車用転舵装置は、車両を今後、加速させようとする加速指令を検出する加速指令検出部(19)をさらに備える。トー角制御部は、加速指令検出部が検出した加速指令に応じてトー角を変化させる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態による自動車用転舵装置のブロック図。
【
図2】(a)トー角0、(b)トーインの状態を示す図。
【
図5】一実施形態によるトー角制御の例を示すフローチャート。
【
図6】路面摩擦係数に応じたトー角の設定例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態による自動車用転舵装置を図面に基づいて説明する。本実施形態の自動車用転舵装置は、車両前後方向における二列以上の左右対のタイヤのうち、一列以上のタイヤが左輪と右輪とで独立して転舵可能な独立転舵車両に搭載される。
【0014】
従来、一般的な車両は左右対のタイヤがリンクを介して機械的に結合されており、ステアリングの操舵によってタイヤが転舵する。今後、ステアリングと左右対タイヤのリンクとが機械的に分離したステアバイワイヤや、左右対のタイヤが独立して転舵可能な独立転舵車両に発展していくと考えられる。ステアバイワイヤでは、左右対のタイヤが連動して同相にしか動かないのに対し、独立転舵車両では左輪と右輪とが自由に転舵可能である。
【0015】
独立転舵車両のメリットの一例を説明する。従来車両では旋回時におけるタイヤの転舵角は、必ず左右同じになる。しかし幾何学的には、旋回内側の転舵角が旋回外側の転舵角よりも大きくないとタイヤは横滑りすることになる。これに対し、独立転舵車両の場合、旋回半径に応じて左右の舵角を自由に設定できるため、従来よりもタイヤの横滑りに伴う走行抵抗をへらすことができる。
【0016】
(一実施形態)
図1を参照し、一実施形態による自動車用転舵装置10の構成を説明する。
図1に示す独立転舵車両100は、車両前後方向に二列の左右対のタイヤを有する四輪車両において、前列のタイヤ91、92及び後列のタイヤ93、94がいずれも独立転舵可能である。自動車用転舵装置10は、複数(例えば4個)の転舵アクチュエータ31-34、トー角制御部15、路面状態検出部16、車両状態検出部17、車両速度検出部18、及び加速指令検出部19を備える。
【0017】
複数の転舵アクチュエータ31-34は、各タイヤ91-94を転舵方向に駆動する。四輪の独立転舵車両100では、前列左右のタイヤ91、92を駆動する転舵アクチュエータFL31及び転舵アクチュエータFR32、並びに、後列左右のタイヤ93、94を駆動する転舵アクチュエータRL33及び転舵アクチュエータRR34が設けられる。
【0018】
トー角制御部15は、入力情報に応じてトー角θtoeを設定し、転舵アクチュエータ31-34に駆動信号を出力する。本明細書において「トー角」は、「車両の進行方向に対して左右対のタイヤの前端が内側を向く角度を正、外側を向く角度を負として、転舵アクチュエータ31-34により左右対称に偏向される角度」と定義される。
【0019】
つまり、従来の一般的な車両では、トー角は、停車時のアライメント調整において初期設定されるものであるのに対し、独立転舵車両100では、走行中の転舵アクチュエータ31-34の駆動により、随時トー角を変更可能である。また、本実施形態では、トー角制御部15は、各列のトー角を個別に設定可能である。ただし、各列左右対のタイヤに対して非対称にトー角を設定することは想定しない。前列のトー角設定値θtoeFは、前列左右の転舵アクチュエータ31、32に対称の駆動信号として出力される。後列のトー角設定値θtoeRは、後列左右の転舵アクチュエータ33、34に対称の駆動信号として出力される。
【0020】
また、左右対のタイヤの前端が内側を向く「トーイン」のときトー角は正、左右対のタイヤの前端が内側を向く「トーアウト」のときトー角は負として定義される。トーインでは直進安定性が高いが旋回性は低く、トーアウトでは旋回性が高いが直進安定性が低い。一般には直進安定性を高めるため、トーインに設定される。以下の明細書中、特に言及しない限り、基本的にトー角は、0または正に設定されるものとする。「トー角を小さくする」とは「トー角を正(すなわちトーイン)の範囲で0に近づける、又は、0にする」ことを意味し、「トー角を負(すなわちトーアウト)にする」ことを想定しない。
【0021】
図2~
図4を参照し、トー角を付与することの得失について説明する。
図2(a)にはトー角を付与しない、すなわちトー角0の状態を示し、
図2(b)には正のトー角を付与した「トーイン」の状態を示す。通常、車両は直進安定性を高めるため、直進状態で左右対のタイヤ前端が若干(1[deg]以下)内側を向く「トーイン」に調整されている。しかし、
図3に示すように、トー角θtoeを付与することで、進行方向に対し駆動力の方向、及び、駆動力と反対向きの転がり抵抗の方向がずれる。そのため直進状態でもタイヤに横力が発生し、横滑りにより走行抵抗が増加する。走行時のタイヤの横滑りは、駆動力低下、燃費低下、タイヤ片減り等のデメリットにつながる。
【0022】
図4に、直進移動中に発生するトー角に対する走行抵抗の特性を示す。トー角0[deg]に対して、トー角1.5[deg]では約55[N]の走行抵抗が発生する。走行抵抗を減らすためにはトー角を常に0[deg]にするのがよい。しかし、トー角を減らすと直進安定性も低下するという背反がある。
【0023】
そこで、独立転舵車両において走行状態に応じてトー角を変化させることで、走行時のタイヤ横力による走行抵抗の低減と、直進安定性とを両立させることが求められる。特許文献1(国際公開WO2019/189094号)の従来技術では、直進時に車両の速度に応じてトー角を調整する。しかし、この従来技術では、路面状態に関係なく車両の速度のみに応じてトー角が設定される。そのため、乾燥したアスファルト路のような路面摩擦係数が高い道路では、高速走行時の走行抵抗が増加する。また、濡れたアスファルト路や雪道等の路面摩擦係数が低い道路では、低速走行時の直進安定性が低下する。よって、路面状態に応じてトー角を設定することが望ましい。
【0024】
この課題を解決するため、本実施形態の自動車用転舵装置10は、路面状態検出部16を備えている。そして、トー角制御部15は、路面状態検出部16が検出した路面状態に応じてトー角を設定する。例えばトー角制御部15は、路面摩擦係数が低い、又は、砂利やホコリが浮いている等の路面が荒れている状態では直進安定性を高めるためトー角を大きくし、路面摩擦係数が高い状態では走行抵抗を低減させるためトー角を小さくすることが好ましい。
【0025】
図1に戻ると、本実施形態の自動車用転舵装置10は、路面状態検出部16の他にも、様々な走行シーンを想定した各種の検出部17、18、19を備えている。路面状態検出部16、車両状態検出部17、車両速度検出部18、及び加速指令検出部19は、それぞれ、トー角制御部15がトー角θtoeを設定するための「入力情報」を検出し、トー角制御部15に通知する。
【0026】
路面状態検出部16は、走行路の路面状態を検出する。例えば路面状態検出部16は、走行路の路面摩擦係数を検出する。路面状態検出部16は、路面摩擦係数センサから現在の路面摩擦係数を推定してもよいし、外部ネットワークから路面情報を受信してもよい。また、「路面状態を検出する」には、気温、天候、位置、季節等から路面状態を推定することを含む。
【0027】
天候については外部から情報を受信する以外に、オートワイパーに使われる雨滴センサを用いてもよい。また、外部から路面情報を入手する場合、車両進行先の情報を前もって入手しておくことで、トー角制御部15は、フィードフォワード的にトー角を設定することも可能である。
【0028】
車両状態検出部17は、車両挙動又は外力による車両状態を検出する。車両挙動は車両の能動的な挙動を意味し、外力は、路面の轍やうねり、横風等によりタイヤに作用する外乱の力を意味する。例えば車両状態検出部17は、ヨーレートセンサ、横加速度センサ、ハイトセンサ等により、ヨーレート、横加速度、車高変化量等を検出する。また、車両状態検出部17は、転舵アクチュエータ31-34にかかるSAT(セルフアライニングトルク)等の負荷(電流)の増加等から車両状態を判断する。
【0029】
車両速度検出部18は、車両速度を検出する。加速指令検出部19は、「車両を今後、加速させようとする加速指令」を検出する。具体的には運転者がアクセル操作した時点でアクセルペダルのストローク等を検出する。したがって、エンジン車の場合にはスロットルバルブの開度増加により吸気量が増加し、エンジン回転数が上昇して車両が実際に加速するよりも前に、トー角制御部15は加速指令を取得する。
【0030】
また、本実施形態では詳しく言及しないが、補足として、トー角の実際の値を検出する場合、エンコーダのような回転角検出器を用いてもよいし、可変抵抗のように、ある限定された範囲内で電圧の変化量を検出してもよい。
【0031】
次に
図5のフローチャート及び
図6を参照し、本実施形態によるトー角制御について説明する。フローチャートの説明で記号「S」はステップを意味する。トー角θtoeの初期値は0[deg]とする。S11で路面状態検出部16は、路面状態として路面摩擦係数μを検出する。S12では、路面摩擦係数μが基準値μ0以上であるか判断される。路面摩擦係数μが基準値μ0未満であり、S12でNOの場合、S13に移行する。S12でYESの場合、S21に移行する。
【0032】
S21で車両状態検出部17は、ヨーレート、横加速度、SAT等により車両状態を検出する。S22では、車両状態が不安定であるか判断される。路面摩擦係数μが基準値μ0以上であっても車両状態が不安定であり、S22でYESの場合、S23に移行する。車両状態が安定しており、S22でNOの場合、トー角θtoeは初期値0のままでよいと判断し、処理を終了する。
【0033】
S13でトー角制御部15は、例えば式(1)によりトー角θtoeを設定する。αは正の定数である。S14でトー角制御部15は、転舵アクチュエータ31-34をトー角θtoeまで駆動する。
θtoe=α×(μ0-μ)・・・(1)
【0034】
S23でトー角制御部15は、例えば式(2)によりトー角θtoeを設定する。βは正の定数である。S24でトー角制御部15は、転舵アクチュエータ31-34をトー角θtoeまで駆動する。
θtoe=β×(1-μ)・・・(2)
【0035】
図6に、路面摩擦係数μに応じたトー角θtoeの設定例を示す。路面摩擦係数μが基準値μ0未満のとき、路面摩擦係数μが小さいほどトー角θtoeは大きく設定される。なお、路面摩擦係数μが0付近の領域で、トー角θtoeの上限値が制限されてもよい。路面摩擦係数μが基準値μ0以上で車両状態が安定しているとき、トー角θtoeは0に設定される。また、路面摩擦係数μが基準値μ0以上で車両状態が不安定であるとき、路面摩擦係数μが小さいほどトー角θtoeは大きく設定される。トー角θtoeの特性は直線状に限らず、ステップ状や曲線状に設定されてもよい。
【0036】
次に、S31で車両速度検出部18は、車両速度Vを検出する。S32では、車両速度Vが基準速度V0未満であるか判断される。基準速度V0は0[km/Hr]より少し大きい値に設定されており、S32でYESの場合、実質的に停車していると判断される。この場合、S34でトー角制御部15は、転舵アクチュエータ31-34を停車時用のトー角θtoe0まで駆動する。停車時用のトー角θtoe0は走行時のトー角θtoeよりも小さい、すなわち0に近い値に設定されている。S32でNOの場合、S34がスキップされる。
【0037】
次に、S41で加速指令検出部19は、加速指令を検出する。S42では、例えばアクセルペダル踏力やペダルストローク等の加速パラメータが閾値以上であるか判断される。S42でYESの場合、加速開始前に直進安定性を高めておくことが好ましいと判断される。この場合、S44でトー角制御部15は、転舵アクチュエータ31-34を加速時用のトー角θtoe1(>0)まで駆動する。S42でNOの場合、S44がスキップされる。
【0038】
以上のS11~44のステップが例えば一定周期で繰り返される。路面状態及び車両状態の検出、車両速度の検出、加速指令の検出の順番は入れ替わってもよい。また、S32でYESであり、停車中と判断された場合、停車中の判断が解除されるまで、他のステップの実行が中止されてもよい。
【0039】
(本実施形態の効果)
(1)自動車用転舵装置10は、走行路の路面状態を検出する路面状態検出部16を備え、トー角制御部15は、路面状態検出部16が検出した路面状態に応じてトー角を設定する。つまりトー角制御部15は、車両が不安定になりやすいときトー角を大きくし、車両が安定しているときトー角を小さくする。これにより、路面状態に応じて、直進安定性と走行抵抗の低減とを両立させることができる。
【0040】
(2)自動車用転舵装置10は、車両挙動又は外力による車両状態を検出する車両状態検出部17をさらに備え、トー角制御部15は、路面状態検出部16が検出した路面状態、及び、車両状態検出部17が検出した車両状態に応じてトー角を設定する。路面摩擦係数が高くても、轍やうねり、横風等のタイヤに対する外乱によって車両状態が不安定になる場合がある。そこで、ヨーレート、横加速度、車高変化量、SAT等の情報から車両状態が不安定と判断された場合、トー角制御部15は、トー角を大きく設定することで直進安定性を向上させることができる。
【0041】
(3)自動車用転舵装置10は、車両速度を検出する車両速度検出部18を備え、トー角制御部15は、停車時のトー角を走行時のトー角よりも小さく設定する。停車状態から発進するとき、トー角が大きいと走行抵抗が増加し、車両に負担がかかる。そこで、停車時のトー角を走行時のトー角よりも小さく設定することで、発進時における走行抵抗による車両の負担を低減することができる。
【0042】
(4)前列及び後列のタイヤが独立転舵可能な車両100に搭載された自動車用転舵装置10において、トー角制御部15は、各列のトー角を個別に設定可能である。例えばトー角制御部15は、不安定域では前後列ともトーインにして直進安定性を高め、不安定域と安定域との中間域では前列又は後列の一方をトーイン、他方をトー角0にし、安定域では前後列ともトー角0にして走行抵抗を低減する。なお、「トー角0にする」には、トー角を0に近い小さい角度にすることを含む。このように、前列及び後列のトー角を調整することで、直進安定性と走行抵抗低減とのバランスを段階的に細かく変化させることができる。
【0043】
(5)自動車用転舵装置10は、車両を今後、加速させようとする加速指令を検出する加速指令検出部19を備え、トー角制御部15は、加速指令検出部19が検出した加速指令に応じてトー角を変化させる。例えばアクセル操作により車両を加速させようとするとき、加速前にトー角を大きくしておくことで加速時に直進安定性を高めることができる。特に旋回終了後に加速する場合に有効である。或いは、加速前にトー角を小さくしておくことで走行抵抗を低減し、加速性能を高めることができる。
【0044】
(その他の実施形態)
(a)
図1に示す独立転舵車両100では前列のタイヤ91、92及び後列のタイヤ93、94がいずれも独立転舵可能であるが、前列又は後列の一列のタイヤのみが独立転舵可能であってもよい。また、本発明の自動車用転舵装置は、車両前後方向において三列以上のタイヤが独立転舵可能な六輪以上の車両に搭載されてもよい。その場合、トー角制御部15は、直進安定性と走行抵抗低減との優先度等に応じて、各列のトー角を個別に設定可能であることが好ましい。
【0045】
(b)上記実施形態の自動車用転舵装置10は、路面状態検出部16、車両状態検出部17、車両速度検出部18、及び加速指令検出部19を備え、トー角制御部15は、路面状態、車両状態、車両速度、加速度指令の四つの情報に基づいてトー角θtoeを設定している。しかし、本発明の自動車用転舵装置は、少なくとも路面状態検出部16を備え、路面状態のみに基づいてトー角を設定してもよい。すなわち、車両状態、車両速度、加速度指令の情報によるトー角の設定は、オプションとして、適宜採用されればよい。これらのオプションは、運転者が任意に選択できるようにしてもよい。
【0046】
(c)上記実施形態において基本的にトー角は正(トーイン)に設定されるが、場合によってはトー角が負(トーアウト)に設定されてもよい。その場合でも、発進時における走行抵抗低減のため、停車時のトー角は約0に設定されることが好ましい。つまり、トー角制御部15は、トーイン、トーアウトの場合に共通し、停車時の「トー角の絶対値」を走行時の「トー角の絶対値」よりも小さく設定することが好ましい。
【0047】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【0048】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0049】
10・・・自動車用転舵装置、
15・・・トー角制御部、
16・・・路面状態検出部、 17・・・車両状態検出部、
18・・・車両速度検出部、 19・・・加速指令検出部、
31-34・・・転舵アクチュエータ、
91-94・・・タイヤ、 100・・・独立転舵車両。