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特許7319021心臓弁の修復用の医療インプラントおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】心臓弁の修復用の医療インプラントおよび方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/24 20060101AFI20230725BHJP
【FI】
A61F2/24
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021133555
(22)【出願日】2021-08-18
(62)【分割の表示】P 2018518497の分割
【原出願日】2016-10-19
(65)【公開番号】P2021180941
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】01533/15
(32)【優先日】2015-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】518116581
【氏名又は名称】コアメディック アーゲー
【氏名又は名称原語表記】COREMEDIC AG
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】シャッフナー, シルヴィオ
(72)【発明者】
【氏名】エシュリマン, トバイアス
(72)【発明者】
【氏名】ビュートリッヒ, オリヴァー
(72)【発明者】
【氏名】バウアー, トーマス
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/040865(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0265658(US,A1)
【文献】国際公開第2009/133715(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0243968(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0250590(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/24
A61B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトまたは動物の心臓の損傷した生来の腱索を置換または補完するためのインプラントであって、遠位インプラント部、近位インプラント部、および人工の索または同種移植片の索または異種移植片の索を備え、
前記遠位インプラント部が、インプラント送達器具の腔部内に収まるように構成されており、前記遠位インプラント部が前記腔部から解放されたときに径方向外側に広がる自動拡張部を備え、前記自動拡張部が前記遠位インプラント部を組織に固定できるようになっており、
前記近位インプラント部が、前記インプラント送達器具の前記腔部内に収まるように構成されており、前記近位インプラント部が前記腔部から解放されたときに径方向外側に広がる自動拡張部を備え、前記近位インプラント部が弁尖組織の組織部分に当接できるようになっており、
前記遠位インプラント部と前記近位インプラント部が前記索によって接続され、
前記遠位インプラント部が、シャフト部と、非解放状態で前記シャフト部に隣接して位置する複数の脚部とを備え、
前記シャフト部と前記脚部の両方が遠位ヘッドから近位側に延び、解放状態では、前記脚部が前記シャフト部から離れるように径方向外側に延び、
前記シャフト部が中空であり、
前記索が、前記シャフト部を通って延び、前記遠位ヘッドの遠位側にある結び目によって前記遠位インプラント部に固定される、インプラント。
【請求項2】
前記索が、前記遠位インプラント部と前記近位インプラント部との間に延びる2つの部分を備え、前記2つの部分が、前記シャフト部を通って延び、前記結び目によって前記遠位インプラント部に固定される、請求項1に記載のインプラント。
【請求項3】
前記索が、前記遠位インプラント部から前記近位インプラント部に延び、前記遠位インプラント部に戻り、前記近位インプラント部を通って輪になり、それにより、前記索の前記2つの部分が形成される、請求項2に記載のインプラント。
【請求項4】
解放状態では、前記脚部が、前記シャフト部から離れるように径方向外側に延びるように曲がる、請求項1~3のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項5】
前記遠位ヘッドから始まる前記脚部が、近位側に向かって後方に延び、解放状態で前記シャフト部から離れるように曲がり、それにより、前記索を引っ張ることによって前記脚部が径方向に広げられる、請求項4に記載のインプラント。
【請求項6】
前記脚部の数が6または8である、請求項1~5のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項7】
前記脚部のうちの少なくとも1つの外側端が先鋭化されている、請求項1~6のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項8】
前記脚部が、前記脚部の軸線と垂直ではない少なくとも1つの面を有する、請求項7に記載のインプラント。
【請求項9】
前記脚部が、前記遠位インプラント部の軸線に対して径方向外側に向いた縁部を有する、請求項8に記載のインプラント。
【請求項10】
中空の前記シャフト部の寸法と前記索の寸法が、前記遠位インプラント部の向きを安定化させるとともに、前記索に作用する引っ張り力の方向に前記シャフト部を向けるように、前記シャフト部内で前記索を案内するために、互いに適合される、請求項1~9のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項11】
前記結び目が、鈍い遠位端部となるように前記遠位インプラント部の遠位端部の遠位側にある、請求項1~10のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項12】
前記遠位インプラント部の少なくとも前記自動拡張部が形状記憶材料で作られている、請求項1~11のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項13】
前記シャフト部を形成する中空管形状のシャフトピースと、前記シャフトピース上で前記シャフトピースに固定されクラウンピースとを備え、前記クラウンピースが前記脚部を備える、請求項1~12のいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項14】
前記シャフトピースの周りにコレットピースを更に備え、前記コレットピースが前記脚部の近位端部の近位側に配置される、請求項13に記載のインプラント。
【請求項15】
前記遠位インプラント部が、
前記シャフト部を形成する中空管形状のシャフトピースと、
前記シャフトピース上で前記シャフトピースに固定されるクラウンピースであって、前記シャフトピースの周りに延びる前記クラウンピースの遠位ヘッドと、前記クラウンピースの遠位ヘッドから近位側に延びる前記脚部とを有する、クラウンピースと、
前記シャフトピースの周りに延びるコレットピースであって、前記脚部の近位端部の近位側に配置され、前記シャフトピースに固定される、コレットピースと、を備える、請求項1~14のいずれか一項に記載のインプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科手術、例えば、低侵襲または介入性の心臓学、心臓弁修復用の器具の分野のものである。より具体的には、房室心臓弁、特に僧帽弁、または心臓の三尖弁も修復するためのインプラント、およびそれに従う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
僧帽弁の弁尖が左心房に脱出し、結果として弁の不全が生じて心臓の重篤な機能不全を引き起こす場合がある。このような脱出の1つの理由は、僧帽弁の弁尖を左心室を通して乳頭筋に接続している腱(腱索)が損傷することである。そのような損傷は、例えば、心筋梗塞、組織変性または感染性疾患の結果があり得る。
【0003】
このような脱出を修復するには、例えばGore-tex(登録商標)繊維などの合成繊維によって、1つまたは複数の弁尖を乳頭筋に再接続することが必要となる。現在の技術水準によるこのようなアプローチでは、乳頭筋にインプラントを縫合することが必要である。このような修復プロセスの第1の欠点は、心臓が不活性な間にのみ修復が可能ということである。したがって、外科的修復は、心肺バイパスを用いる間、心臓を停止し、血液を排出することが必要となる。また、心臓の頂点に縫合糸を付けることも可能であると記載されているが、同様に記載しているように、縫合糸を生理学的部位である乳頭筋に取り付ける場合ほど結果が良好ではない。第2の欠点は、手術の成功は、特に長さの調節、および心臓を不全にする間につぎ込まれる時間という点で、外科医の技量に強く依存することである。さらなる欠点は、弁尖に縫合された繊維が長期にわたる損傷を引き起こす可能性があることである。
【0004】
国際公開第2012/040865号パンフレットでは、左心室を越えて放ち得る、人工の索として機能するフィラメントに取り付けられた遠位アンカを使用するアプローチが提示されている。また、人工の索を弁尖に固定するための器具、および鼓動している心臓の弁尖を一時的に固定するための器具が図示されている。
【0005】
米国特許出願公開第2011/0011917号明細書は、心臓弁修復用の方法および器具を記載している。器具は、心組織内に固定される自動拡張可能な脚部を有するダーツアンカと、弁尖の組織内に展開されるステープルとを備えることができ、そのステープルは、同様にダーツアンカに接続される引っ張り部材に固定され得る。拘束物を使用して、装填物を拡散する、すなわちステープルが弁尖組織を損傷するのを防止することができる。米国特許出願公開第2011/0011917号明細書はまた、アイレットを有するアンカを開示しているが、そのアンカでは索が摺動できる。このアンカは、弁尖に取り付けられる。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、房室、特に僧帽弁または同様に三尖弁、心臓弁を修復するためのインプラント、およびそれに従う方法を提供することである。このインプラントと方法は、従来技術の器具および方法の欠点を克服し、簡単に移植でき、介入手術にも適しており、信頼性があり組織適合性が高い修復を提供する。
【0007】
本発明の態様によれば、インプラントが提供され、インプラントは、ヒトまたはおそらく動物の心臓の損傷した生来の腱索を置換するための無縫合インプラントであり、遠位インプラント部、近位インプラント部および人工の索を含み、
遠位インプラント部がインプラント送達器具の腔部内に嵌まるように構成され、遠位インプラント部が腔部から解放されたときに半径方向外側に広がる自動拡張部を含み、自動拡張部は遠位インプラント部をヒトの組織、特に筋組織に固定できるようになっており、
近位インプラント部がインプラント送達器具の腔部内に嵌まるように構成され、近位インプラント部が腔部から解放されたときに半径方向外側に広がる自動拡張部を備え、自動拡張部が弁尖組織の組織の一部に当接することができるようになっており、
遠位インプラント部と近位インプラント部が、索によって接続されている。
【0008】
インプラント部が非展開状態に嵌まる腔部は、管状であり、最小侵襲性外科用器具(カテーテルなど)の屈曲可能な管の腔部、または針などの別の外科用器具の腔部であってもよい。腔部の内径は、2mm以下または1.5mm以下、特に1.2mm以下、例えば1mmまたはそれ未満であってもよい。展開後、それぞれのインプラント部はより嵩張り、したがって遠位インプラント部または近位インプラント部またはその両方は、それらの部分が、非展開状態に変形しなければ、腔部にそれ以上嵌まり込まないような寸法を有する。
【0009】
インプラント部は、連続して解放されるように互いに隣接するように設計されてもよい。例えば、器具(カテーテル、他の器具)は、まず遠位インプラント部を解放する組織内に進めてもよい。遠位インプラント部を解放した後、器具を弁尖に移動させることができ、弁尖で近位インプラント部を解放する。
【0010】
遠位インプラント部は、遠位ヘッドから近位方向に延びるシャフト部と、非解放状態ではシャフト部に対して並設され、また遠位ヘッドから近位方向(後方)に突出し、移植された状態では近位側に突出し、シャフト部から離れるように半径方向外側に曲がっている、複数のインプラント脚部とを含むことができる。索は、シャフト部の近位端に取り付けられ、またはシャフト部内で誘導され、シャフト部の遠位部に取り付けられる。これにより、遠位インプラント部が一旦移植されると、その向きは安定化される。すなわち、索が引っ張られるとき、アンカは所望の向きに強制され、したがって、シャフト部は安定化作用を有する。遠位インプラントの向きは、インプラントに作用する引っ張り力の方向と自動的に位置合わせされる。
【0011】
脚部の数は偶数であってもよい。これには、すべての脚部に十分明確な対があるという利点があり、そのことからバランスのとれた構成に至る。実施形態では、数は少なくとも4つ、または少なくとも6つ、特に6つである。6本の脚部が特に安定した固定をもたらし得ることが分かっている。偶数に代わるものとして、遠位アンカは奇数の脚部を有することができる。
【0012】
索は、少なくとも近位端において結び目のないように遠位インプラント部に固定してもよい。例えば、索は遠位端に固定し(結び目によって、圧着、溶接、はんだ付け、接着および/または他の技術によって)、遠位インプラント部を通って軸線方向に、したがって、適用可能であればシャフト部を通るように誘導してもよい。
【0013】
いくつかの実施形態では、脚部は尖っている。この目的のために、脚部は、例えば、外側(特に近位方向外側に向いている)端において、脚部の軸線に対して垂直ではない少なくとも1つの面を備える。特に、実施形態では、2つの面の間に、脚部を解放したときに周囲の組織内に各脚部が突き刺さるのを容易にする半径方向外側に向いた縁部を、形成してもよい。加えて、または代替として、脚部の尖鋭化により、脚部の外側端に、脚部を解放して外側に曲がって半径方向外側に向いた先端を形成してもよい。
【0014】
脚部は自動拡張可能であるので、解放状態では、脚部は、特に超弾性のために、弾性力の作用によってシャフト部から突出してシャフト部から離れるように曲がっている。このために、遠位インプラント部の材料またはその少なくとも一部は、形状記憶材料であってもよい。
【0015】
加えてまたは代替として、遠位インプラント部の脚部の端部は、引っ張り力が加えられた場合に、脚部がシャフトからさらに遠くに引き伸ばされるような形状にすることができる。これは、組織における固着の改善をもたらし得る。したがって、この概念では、これは、遠位インプラント部の組織内への固定に寄与する棘状の効果である。
【0016】
この任意選択の特徴の結果、引っ張り力を受けるときに遠位インプラント部が筋肉組織内に切断する傾向が減少する。
【0017】
脚部の長さは同じでもよい。特定の実施形態では、脚部は異なる長さを有してもよい。特に、遠位インプラント部は、第1の長さの少なくとも1つの脚部と、第2の異なる長さの少なくとも1つの脚部とを有することができる。短い脚部と長い脚部の組み合わせは、固定が筋肉内の異なる深さで行われるという点で、固定の強度を高めることがある。
【0018】
遠位インプラント部は、実施形態で、鈍い遠位端を有してもよく、すなわち、それ自体が筋組織を突き刺する能力を有さないように形作っている場合がある。また、これらの実施形態では、遠位インプラント部(および多くの実施形態ではまた、近位インプラント部)が解放される器具は、例えば針のような突き刺しを行うものである。遠位インプラント部が鈍い遠位端を有する実施形態は、術後に遠位インプラント部から組織内にさらに進むことから生じる筋組織への損傷を排除する、または少なくとも不可能にすることができるという利点を有する。
【0019】
実施形態において、インプラントは、シャフト部を形成するシャフトピースと、脚部を有するクラウンピースとから構成されてもよい。そのようなシャフトピースは、遠位カラーを形成することができる。クラウンピースは、シャフトピースを取り囲むように取り付けられてもよく、適用可能であれば、カラーに対して遠位に当接して、クラウンピースの遠位端とカラーとが一緒になって上述の種類のヘッドを構成し得る。
【0020】
遠位インプラント部は、自動拡張部(例えば脚部)が解放中に広がるのに必要な弾性特性を有する適切な材料のものであってもよい。遠位インプラント部は、特に、ニチノールまたは他の形状記憶金属または形状記憶プラスチックなどの超弾性特性を有する形状記憶材料から製造することができる。遠位インプラント部がシャフトピースおよびクラウンピースのようないくつかのピースを有する実施形態では、脚部を有する少なくとも一部(クラウンピースなど)は、形状記憶材料である場合がある。
【0021】
シャフト部および脚部に加えて、遠位インプラント部は、近位コレットピースをさらに備えてもよい。このコレットピースは、非解放状態で、脚部の近位端の近位側に配置して、非解放状態の脚部の半径方向の伸長にほぼ相応するか、脚部の半径方向の伸長より多い半径方向の伸長を有することができる。それによって、コレットピースは、インプラントを取り付ける際に部品を(寸法が小さくなっているため比較的鋭利な)脚部から保護する効果、特に索を保護する効果がある。また、移植の間に、インプラントの向きを定めることに寄与し、それによって適切な解放を確実にすることができる。
【0022】
従来技術のアプローチとは対照的に、近位インプラント部は、弁尖組織表面上に平らに並設されるように構成され、索が近位インプラント部から弁尖組織を通って心室を通って近位インプラント部まで延びていてもよい。この目的のために、近位インプラント部は、例えば、遠位に向いた平坦な当接面(移植状態で遠位に向いた、すなわち、索が延びる側に向いた)を備えることができる。これは、弁尖アンカによって弁尖をクランプすることを教示する従来技術のアプローチ、または弁尖を縫合することを教示する他の従来技術のアプローチとは対照的である。
【0023】
特に、近位インプラント部は、弁尖上にのみ存在し、それによって弁尖に固定されるように構成することができ、近位インプラント部は弁尖内に、または弁尖を通って延びるいずれかの固定機構を有していない。
【0024】
近位インプラント部は、いずれの追加の固定機構(例えば縫合糸)や人工的な固定手段なしに、弁尖組織に存在する、遠位方向に向いた当接面を含むようなインプラントの設計によってのみ、弁尖を保持することができる。特に、弁尖組織および心室を通って遠位インプラント部に延びる索によるものであり、場合により、組織を突き抜けることなく組織内に突出する部分を含み、および/または組織に対してインデントされ、シフトする動きを防止する、当接面の遠位方向に向いた構造によって補助される。
【0025】
近位インプラント部は、特に、移植後、弁尖の一方の側にのみ配置され、例えば弁尖を通って延びることはない。近位インプラント部が弁尖組織に存在している側は、心房に向いた弁尖の上側である。
【0026】
特に、近位インプラント部は、いかなるクランプ機構もなく、心室に向いた弁尖の下面に当たるいかなる部分をも含まない。
【0027】
このように、近位インプラント部は、遠位に向かう力(心室の側に向かう力)を弁尖に結合することができるが、その構造は近位に向かう力を弁尖に結合することができず(近位インプラント部は、心房側に向かって弁尖を引っ張ることができない)、その逆もまた同様である。近位インプラント部は、中央本体と、非解放状態で互いに対して並設またはシャフト部に対して並設されており、解放状態で半径方向外側に曲がっている複数のアームを有していてもよい。中央本体と外側に延びるアームは共に、当接面を形成する。解放状態で、近位インプラント部は、弁尖表面に平坦に存在してもよい。
【0028】
実施形態では、近位インプラント部、特にそのアームは、当接面に任意の突起(フック/穿孔する突起または他の構造)を含む。このようなフックは、移植が一旦行われた後、近位インプラント部と弁尖組織表面との相対的な移動がないことを保証することができる。これは必要な内部成長を促進することができる。構造が突起を含む場合、そのような突起の突き刺さる深さは、多くの実施形態では、弁尖の厚さよりも薄い。
【0029】
近位インプラント部は、自動拡張部(例えばアーム)が解放中に広がるのに必要な弾性特性、例えば超弾性特性を有する適切な材料のものであってもよい。近位インプラント部は、特に、ニチノールまたは他の形状記憶金属または形状記憶プラスチックなどの形状記憶材料から製造することができる。
【0030】
遠位および/または近位インプラント部の代替の材料は、PEEKなどのポリマベースの材料(プラスチック)である。特別な種類の材料は、ポリラクチドポリマまたは生分解性合金(例えば生分解性マグネシウムまたは鉄合金)のような再吸収性(生分解性)材料である。生体吸収性インプラント部を適用する原理は、吸収中に組織が成長して索を統合するため、ある時間後にインプラント部がもはや必要とされないという事実に依拠する。
【0031】
より一般には、生体適合性であり、好ましくは放射線不透過性の任意の適切な材料を使用することができる。
【0032】
近位インプラント部への索の取付けは、結び目のないものであってもよい。実施形態では、近位インプラント部は、遠位インプラント部から近位インプラント部を通って遠位インプラント部に戻るように誘導されることにより、索が二重になるように形作られる。特に、近位インプラント部は、索が遠位側から近位側に誘導され、遠位側に戻る2つの開口部を含むことができる。特に、開口部は、双方、横方向および軸線方向に対して中心に配置してもよく、その結果索が引っ張られたときに、当接面上に力が均一に分布し、近位インプラント部が引っ張られるときに、傾斜モーメントがない(トルクなし)ようにする。
【0033】
別の群の実施形態では、遠位インプラント部への索の取付けは、近位インプラント部から遠位インプラント部を通って近位インプラント部に戻るよう誘導することにより、索が二重になる、結び目のないものでもよい。この目的のために、遠位インプラント部は、例えば、索が誘導されるシャフト部を通る水平な貫通開口部を含むことができる。
【0034】
一般に、索は、索に対する引っ張り力が、弁尖に平らに並設される近位インプラント部にいかなるトルクをも伝えないように、近位インプラント部に連結してもよい。
近位インプラント部と遠位インプラント部との間に単一の索部分が延びる実施形態では、これは、索の取付位置を当接面に対する領域の中心に配置することによって達成できる。
近位インプラント部と遠位インプラント部との間に複数の索部分が延びる実施形態では、これは、索の取付位置(例えば、索が通る貫通開口部)の間の中心を、当接面に対する領域の中心の位置に配置することによって達成できる。
近位インプラント部と遠位インプラント部との間の索の任意の付加的な結び目(特に、索が通る開口部よりも大きい直径を有する)は、近位インプラント部と遠位インプラント部との間の距離の長さを定めることができる。
単一の索部分を有する実施形態と複数の索部分を有する実施形態の両方において、遠位インプラント部と近位インプラント部との間の最大距離のインサイチュでの調整を可能にする移動可能な知見を提供することも可能である。
【0035】
また、この実施形態および他の実施形態では、索は、近位インプラント部に対して移動可能に取り付けてもよい。索が固定の長さを有する実施形態では、これにより、器具内において近位インプラント部の近位を格納することが可能になる。これはまた、遠位インプラント部と近位インプラント部との間に唯一の索部分が延びる実施形態、すなわち索が近位インプラント部の(例えば中心に位置する)開口部を通って延び、開口部の近位側に結び目を有する場合の選択肢でもある。
【0036】
索が近位インプラント部に対して移動可能でない実施形態では、これは、結び目によって、圧着または溶接またはクランプまたは他の固定技術によって、近位インプラント部に取り付けられ得る。
【0037】
一般に、索は、固定された所定の索の長さを有しても、調整可能な索の長さを有してもよい。索の長さが調整可能である場合、索の近位インプラント部への接続は、例えば結び目によって外科医によって行われてもよい。
【0038】
断面において、非解放状態の近位インプラント部は、例えば約180°、または180°を超える中心角を有する円弧形状を有することができる。特に、このような中心角は、少なくとも120°または少なくとも90°であってもよい。
【0039】
本発明はまた、本文において議論され、特許請求されている特性を有する遠位インプラント部、および本文において議論され、特許請求された特性を有する近位インプラント部に関するものである。したがって、本明細書において議論され、特許請求された遠位インプラント部および近位インプラント部は各々、他のインプラント部とともに、または例えば縫合などと組み合わせて使用することができる。
【0040】
本発明はさらに、本文において議論され、特許請求されている種類のインプラントを移植する方法であって、心組織の弁尖を穿孔するステップと、近位および遠位インプラント部を含む管を、穿孔した弁尖を通って、また心室を通って前進させるステップと、遠位インプラント部を組織、特に心室の筋肉組織に解放するステップと、管を弁尖に後退させるステップと、弁尖の近位の近位インプラント部を解放するステップと、管を後退させるステップとを含む。
【0041】
実施形態では、遠位インプラント部が解放される組織は、乳頭筋の筋肉組織である。
【0042】
この方法は、カテーテルのシステムを通って挿入された管(針である遠位先端を有することができる)を用いて、鼓動する心臓において最小侵襲性または介入性の様式で実施することができる。あるいは、この方法は、開いた、鼓動していない心臓という従来の外科手術によって行うことができる。
【0043】
以下、本発明の原理および実施形態を図面を参照して説明する。図面において、同じ参照番号は、同じまたは類似の要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】インプラントを示す。
図2】遠位インプラント部を示す。
図3図2の遠位インプラント部の要素の分解図を示す。
図4】近位インプラント部を示す。
図5】インプラントが腔部から解放される前にインプラントを針の内部の腔部で形作る、カニューレ状の針を示す。
図6】術後移植されたインプラントを示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1に示すインプラントは、遠位インプラント部1と、近位インプラント部2と、近位インプラント部と遠位インプラント部とを接続する索3とを備える。索は遠位インプラント部の遠位端から近位インプラント部に、また近位インプラント部を通って遠位インプラント部の遠位端に戻るよう誘導され、そのため索3は二重になり、2つの索部分3.1、3.2を、近位インプラント部と遠位インプラント部との間に有する。遠位インプラント部内およびその遠位端と近位端との間で、索部分3.1、3.2はシャフト13内に誘導され、遠位インプラント部の遠位の結び目5によって固定される。
【0046】
図2および図3では、遠位インプラント部1が幾分かより詳細に示されている。図示の実施形態では、遠位インプラント部はシャフトピース8とクラウンピース9と、任意選択のコレットピース11とで構成されている。シャフトピース8は、遠位インプラント部1を長手方向に配向し、位置合わせし、近位端が弁尖に向くのを促す安定器として機能する。このシャフトピースは管状のシャフト13を備え、シャフトは索3を通す長手方向の貫通開口14を備える。遠位端では、シャフトピース8は、任意選択に、シャフトの周りにカラー(図示せず)をさらに備えていてもよい。クラウンピース9がシャフト13の上/周囲に配置され、シャフトピース8と共にアンカ機能を果たすように設計されている。この目的のために、クラウンピースは、遠位ヘッド12に取り付けられ、遠位インプラント部の解放後に乳頭筋の組織に対しておよび内部に広がる、複数の後方に(近位に)突出した脚部15を備える。
【0047】
コレットピース11がシャフトの近位端に据え付けられ、図示の実施形態では最初は別個のピースである。あるいは、シャフトに直接コレットを設け、シャフトと一体にして設けることも可能である。
【0048】
(近位方向)の軸線19もまた図面に示している。
【0049】
遠位インプラント部1または少なくともそのクラウンピースは、形状記憶金属、例えばニチノールなどの形状記憶材料で任意選択に形成することができる。
【0050】
図示の実施形態とは対照的に、遠位インプラント部は、脚部が遠位インプラント部の残りの部分にしっかりと取り付けられたワンピースであってもよい。
【0051】
図示の実施形態では、遠位インプラント部の脚部は最外面に向いている。より具体的には、脚部には、縁部で合致する複数の面17がそれぞれ設けられ、外側に向いた少なくとも1つの縁部18および/または先端16があり、組織を貫くのを容易にするよう促す。
【0052】
図4は、近位インプラント部2を示す。近位インプラント部は、長手軸線29を画定する細長いものである。近位インプラント部は、中央本体21と、中央本体と一体で、中央本体から外側に延びている4つのアーム25を有する。
【0053】
中心本体およびアームの下側は、移植後に弁尖組織に当接する当接面を形成する。
【0054】
索3は、近位インプラント部2と遠位インプラント部1とを互いに機械的に連結し、これらのインプラント部の間の最大距離を規定する。この目的のために、近位インプラント部は、ブリッジ24によって分離された第1索用開口部22および第2索用開口部23を有する。索は、第1索用開口部を通ってブリッジを越えて、第2索用開口部に戻り、近位インプラント部を通って輪になるようにする。ブリッジ24は、丸みを帯びた特徴を有し、索が損傷することなく容易にブリッジに沿って摺動することができるようにする。第1および第2の開口部は、当接領域の中心がそれらの開口部の間の中央に位置するように配置される。
【0055】
その結果、近位インプラント部2を遠位インプラント部1から引き離そうとする力があると、索3は、反対に働く力を近位インプラント部に結合する。その反対に働く力は、少なくとも長手方向に対して、近位インプラント部の当接面の領域の中心に作用する。開口部22、23は軸線29上にあるので、反対に働く力も横方向に対して中心に作用する。
【0056】
その結果、近位インプラント部に作用する索が引っ張ることにより、近位インプラント部へのいかなるトルクをも生じさせない。
【0057】
図示の構成では、索3は二重になり、近位インプラント部を通って輪になるが、この効果はまた、例えば、索が一方向のみであり、領域の中心のスポットに取り付けられるか、領域の中心にある単一の開口部を通る場合にも達成できる。
【0058】
近位インプラント部2のアーム25は、軸線から外向きに曲がっている。それにより、近位インプラント部は、弁尖組織によって良好に支持される。当接面で、アームはそれぞれ、任意のフック特徴27を備える。
【0059】
実施形態では、中央本体は、アーム25への移行部の近傍に、ウエストが近位インプラント部をアームの外方向の屈曲に対してより撓むようにする浅い横方向の凹部(図示せず)をさらに有してもよい。
【0060】
図5は、インプラントを移植する起点の腔部から解放される前のインプラントを示す。腔部は、遠位先端41を有する中空管40によって構成され、したがってカニューレ状の針である。中空管の内径は1mmである。
【0061】
遠位インプラント部1および近位インプラント部2は両方とも管40の内側に配置される。図面では、管40は、内部の要素が図面に見えるように、透けるように示している。管40はまた、遠位インプラント部および近位インプラント部に加えて、遠位インプラント部1から開口部22、23を通って延び、近位インプラント部の近位に輪を形成する索3を含む。
【0062】
さらに、このシステムは、アンカキャリア51を備える。アンカキャリアは、近位インプラント部2の近位側から近位インプラント部の遠位側に達する。アンカキャリアは、近位インプラント部用の座部を形成し、管内の向きを規定し、近位インプラント部が遠位方向に出ないように固定する。
【0063】
システムは、アンカキャリアおよびインプラント部を管に対して少なくとも遠位方向に移動させるための押し込み機構を備える(これは、依然として諸部分を組織に対して保持しながら、管を近位方向に後退させ得ることを含む)。そのような押し込み機構は、屈曲運動に対して撓む可能性があるが、軸線方向の力を伝達することができる。そのようなプッシャは、任意選択に、アンカキャリアとワンピースであってもよい。すなわち、そのようなプッシャの最遠位部は、アンカキャリアであってもよく、あるいはアンカキャリアの近位の別個の部品により構成されてもよい。次いで任意選択でアンカキャリアをプッシャに固定して、近位インプラント部が解放された後にプッシャを引っ張ることにより、アンカキャリアが管内に後退させるようにしてもよい。
【0064】
図示の実施形態では、システムは、管40の内側にスリーブ28をさらに備え、スリーブは、インプラントの解放前にアンカキャリアおよびインプラントを囲んでいる。このような任意選択のスリーブの目的は、インプラント部(索を含む)を管の針状の遠位先端41から保護し、さらに心組織の傷害のリスクを低減することである。
【0065】
図6は、乳頭筋に固定された遠位インプラント部1を示す。人工の索3は、心室を通って延び、弁尖の開口部を通って延びている。近位インプラント部は、弁尖61の近位側に配置され、当接面は、弁尖組織に配置される。これにより、インプラントは、生来の腱索63が損傷している場合、さもなければ僧帽弁が十分に閉じるのに十分ではない場合、生来の腱索63を補助する。

図1
図2
図3
図4
図5
図6