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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】制御装置および変速システム
(51)【国際特許分類】
   B62M 25/08 20060101AFI20230725BHJP
【FI】
B62M25/08
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018194967
(22)【出願日】2018-10-16
(65)【公開番号】P2020062925
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2020-12-04
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002439
【氏名又は名称】株式会社シマノ
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】謝花 聡
(72)【発明者】
【氏名】北野 裕之
【合議体】
【審判長】筑波 茂樹
【審判官】八木 誠
【審判官】一ノ瀬 覚
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-123978(JP,A)
【文献】特開2018-70001(JP,A)
【文献】特開2017-13624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62M1/00-29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人力駆動車の変速装置を変速条件に応じて制御する制御部を備え、
前記変速条件は、シフトアップ変速を実行するための第1変速条件、および、シフトダウン変速を実行するための第2変速条件を含み、
前記制御部は、前記第1変速条件および前記第2変速条件のうちの一方が満たされる場合、かつ、前記人力駆動車の走行駆動機構が駆動されない第1状態である場合、前記変速装置の移動量である第1動作量にて前記変速装置を動作させ、前記一方が満たされる場合、かつ、前記走行駆動機構が駆動される第2状態である場合、前記変速装置の移動量である第2動作量にて前記変速装置を動作させ、
前記第1動作量は、前記第2動作量とは異なる、制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1動作量が前記第2動作量よりも小さくなるように前記変速装置を動作させる、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
人力駆動車の変速装置の変速段を変速条件に応じて変更するように前記変速装置を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記人力駆動車の走行駆動機構が駆動されない第1状態において前記変速条件を満たす場合、前記変速段を第1段数にて変更するように前記変速装置を制御し、前記人力駆動車の走行駆動機構が駆動される第2状態において前記変速条件を満たす場合、前記変速段を第2段数にて変更するように前記変速装置を制御し、
前記第1段数は、前記第2段数とは異なる、制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1段数が前記第2段数よりも小さくなるように前記変速装置を動作させる、請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1状態において前記変速条件を満たす場合、前記変速段が前記第1段数分だけ大きくまたは小さくなるように前記変速装置を制御する、請求項3または4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記第1段数は、1段である、請求項3から5のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項7】
前記変速装置は、外装変速装置を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の制御装置と、前記変速装置と、を含む変速システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御装置および変速システムに関する。
【背景技術】
【0002】
人力駆動車の変速装置を制御する変速システムが知られている。従来の変速システムは、人力駆動車のクランクの回転速度および閾値に基づいて規定される変速条件に応じて、クランクの回転速度が所定の範囲内に維持されるように変速装置を制御する。特許文献1は、従来の変速システムの一例を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表平10-511621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人力駆動車の走行状態に応じて変速装置の動作態様を変更することが好ましい。
本開示の目的の1つは、人力駆動車の走行状態に適した変速を実現できる制御装置および変速システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1側面に従う制御装置は、人力駆動車の変速装置を変速条件に応じて制御する制御部を備え、前記制御部は、前記人力駆動車の走行駆動機構が駆動されない第1状態において前記変速条件を満たす場合、第1動作量にて前記変速装置を動作させ、前記走行駆動機構が駆動される第2状態において前記変速条件を満たす場合、第2動作量にて前記変速装置を動作させ、前記第1動作量は、前記第2動作量とは異なる。
上記第1側面の制御装置によれば、変速条件を満たして変速装置が動作する場合、走行駆動機構が駆動されている状態と駆動されていない状態とで変速装置の動作量が異なる。このため、人力駆動車の走行状態に応じて変速装置の第1動作量および第2動作量を設定することによって、人力駆動車の走行状態に適した変速を実現できる。
【0006】
前記第1側面に従う第2側面の制御装置において、前記制御部は、前記第1動作量が前記第2動作量よりも小さくなるように前記変速装置を動作させる。
上記第2側面の制御装置によれば、走行駆動機構が駆動されない状態での変速装置の動作量が、走行駆動機構が駆動されている状態での変速装置の動作量よりも小さいことによって、変速の失敗および変速時のショックを抑制できる。
【0007】
本発明の第3側面に従う制御装置は、人力駆動車の変速装置の変速段を変速条件に応じて変更するように前記変速装置を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記人力駆動車の走行駆動機構が駆動されない第1状態において前記変速条件を満たす場合、前記変速段を第1段数にて変更するように前記変速装置を制御し、前記人力駆動車の走行駆動機構が駆動される第2状態において前記変速条件を満たす場合、前記変速段を第2段数にて変更するように前記変速装置を制御し、前記第1段数は、前記第2段数とは異なる。
上記第3側面の制御装置によれば、変速条件を満たして変速装置が動作する場合、走行駆動機構が駆動されている状態と駆動されていない状態とで変速装置が変更する変速段数が異なる。このため、人力駆動車の走行状態に応じて変速装置が変更する第1変速段数および第2変速段を設定することによって、人力駆動車の走行状態に適した変速を実現できる。
【0008】
前記第3側面に従う第4側面の制御装置において、前記制御部は、前記第1段数が前記第2段数よりも小さくなるように前記変速装置を動作させる。
上記第4側面の制御装置によれば、走行駆動機構が駆動されない状態での変速装置の変更段数が、走行駆動機構が駆動されている状態での変速装置の変更段数よりも小さいことによって、変速の失敗および変速時のショックを抑制できる。
【0009】
前記第3または第4側面に従う第5側面の制御装置において、前記制御部は、前記第1状態において前記変速条件を満たす場合、前記変速段が前記第1段数分だけ大きくまたは小さくなるように前記変速装置を制御する。
上記第5側面の制御装置によれば、走行駆動機構が駆動されていない状態で変速条件を満たすと第2段数よりも小さい第1段数分だけ変速段が変更されることによって、変速の失敗および変速時のショックを抑制できる。
【0010】
前記第3から第5側面のいずれか一つに従う第6側面の制御装置において、前記第1段数は、1段である。
上記第6側面の制御装置によれば、変速の失敗および変速時のショックを一層抑制できる。
【0011】
前記第1から第6側面のいずれか一つに従う第7側面の制御装置において、前記変速装置は、外装変速装置を含む。
上記第7側面の制御装置によれば、人力駆動車の走行状態に適した変速を実現できる。
【0012】
本発明の第8側面に従う制御装置は、人力駆動車の変速装置を変速条件に応じて制御する制御部を備え、前記制御部は、コースティング状態から再びペダリングを開始する場合、前記コースティング状態の開始から前記ペダリングの開始までの第1期間と前記ペダリングの開始から所定の第2期間との合計の第3期間にわたり前記変速装置の動作を制限する第1制御を実行するように構成される。
上記第8側面の制御装置によれば、コースティング状態の開始からペダリングを開始してから所定の第2期間までにわたり変速装置の動作を制限することによって、ペダリングの開始時に人力駆動車の変速比の過度の変更を抑制できる。このため、人力駆動車の走行状態に適した変速を実現できる。
【0013】
前記第8側面に従う第9側面の制御装置において、前記第2期間は、予め定める所定期間である。
上記第9側面の制御装置によれば、ペダリングを開始してから所定期間にわたり人力駆動車の変速比の過度の変更を抑制できるため、人力駆動車の走行状態に適した変速を実現できる。
【0014】
前記第8または第9側面に従う第10側面の制御装置において、前記制御部は、前記人力駆動車の走行速度が所定速度よりも小さい場合、前記第2期間において変速を禁止しない。
上記第10側面の制御装置によれば、人力駆動車の走行速度が低速度時においてペダリングの開始時に人力駆動車の変速比が速やかに変更される。このため、人力駆動車の走行状態に適した変速を実現できる。
【0015】
前記第8から第10側面のいずれか一つに従う第11側面の制御装置において、前記制御部は、前記第1期間における前記人力駆動車の走行速度の減少速度が所定速度よりも大きい場合、前記第2期間において変速を禁止しない。
上記第11側面の制御装置によれば、コースティング状態になる前の人力駆動車の走行速度と、コースティング状態における人力駆動車の走行速度との速度差が大きい場合、すなわちペダリングの開始時に人力駆動車の走行速度が低速である場合、ペダリングの開始時に人力駆動車の変速比が速やかに変更される。このため、人力駆動車の走行状態に適した変速を実現できる。
【0016】
前記第8から第11側面のいずれか一つに従う第12側面の制御装置において、前記変速条件は、第1参照値を含み、前記制御部は、前記第1参照値が第1閾値以上になると、前記人力駆動車の変速比が大きくなるように前記変速装置を制御する第2制御を実行するように構成され、前記制御部は、前記第2期間において前記第1制御よりも前記第2制御を優先して実行する。
上記第12側面の制御装置によれば、第2期間において人力駆動車の変速比が大きくなりやすくなることによって、人力駆動車の変速比を速やかに変更できる。このため、人力駆動車の走行状態に適した変速を実現できる。
【0017】
前記第8から第12側面のいずれか一つに従う第13側面の制御装置において、前記変速条件は、第1参照値を含み、前記制御部は、前記第1参照値が第1閾値未満になると、前記人力駆動車の変速比が小さくなるように前記変速装置を制御する第3制御を実行するように構成され、前記制御部は、前記第2期間において前記第3制御よりも前記第1制御を優先して実行する。
上記第13側面の制御装置によれば、第2期間において人力駆動車の変速比が小さくなりにくくなることによって、人力駆動車の変速比の過度の変更を抑制できる。このため、人力駆動車の走行状態に適した変速を実現できる。
【0018】
前記第13側面に従う第14側面の制御装置において、前記制御部は、前記変速装置の変速段を前記変速条件に応じて変更するように前記変速装置を制御し、前記第1制御において、前記制御部は、前記第3期間において前記第1参照値が前記第1閾値未満になると、前記第3制御による前記変速段の変更段数よりも少ない変更段数となるように前記変速装置を動作させる。
上記第14側面の制御装置によれば、第3期間において人力駆動車の変速比が小さくなりにくくなることによって、人力駆動車の変速比の過度の変更を抑制できる。このため、人力駆動車の走行状態に適した変速を実現できる。
【0019】
前記第8から第14側面のいずれか一つに従う第15側面の制御装置において、前記第1制御において、前記制御部は、前記変速装置の変速段が予め定める段数分だけ大きくまたは小さくなるように前記変速装置を動作させる。
上記第15側面の制御装置によれば、ペダリングの開始時に人力駆動車の変速比の過度の変更を抑制できる。このため、人力駆動車の走行状態に適した変速を実現できる。
【0020】
前記第15側面に従う第16側面の制御装置において、前記第1制御において、前記制御部は、前記変速段を1段分だけ大きくまたは小さくするように前記変速装置を動作させる。
上記第16側面の制御装置によれば、ペダリングの開始時に人力駆動車の変速比の過度の変更を一層抑制できる。このため、人力駆動車の走行状態に適した変速を実現できる。
【0021】
前記第8側面に従う第17側面の制御装置において、前記制御部は、前記第3期間において変速を禁止する。
上記第17側面の制御装置によれば、コースティング状態の開始からペダリングを開始してから所定の第2期間までにわたり変速しないことによって、人力駆動車の変速比の過度の変更を抑制できる。
【0022】
前記第8から第17側面のいずれか一つに従う第18側面の制御装置において、前記制御部は、前記人力駆動車のスプロケット、前輪、後輪、および、クランクの回転状態、ならびに、ペダル踏力の少なくとも1つに応じて前記コースティング状態を検出する。
上記第18側面の制御装置によれば、コースティング状態を適切に検出できる。
【0023】
本発明の第19側面に従う変速システムは、第1から第18側面のいずれか一つに従う制御装置と、前記変速装置と、を含む。
上記第19側面の変速システムによれば、人力駆動車の走行状態に適した変速を実現できる。
【発明の効果】
【0024】
本開示の制御装置および変速システムによれば、人力駆動車の走行状態に適した変速を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1実施形態の制御装置および変速システムを含む人力駆動車の側面図。
図2】変速システムの電気的な構成を示すブロック図。
図3】制御装置の制御部が実行する制御の処理手順の一例を示すフローチャート。
図4】制御部が実行する制御の処理手順の一例を示すフローチャート。
図5】第2実施形態の制御装置および変速システムについて、制御装置の制御部が実行する制御の処理手順の一例を示すフローチャート。
図6】制御部が実行する制御の処理手順の一例を示すフローチャート。
図7】制御部が実行する制御の処理手順の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(第1実施形態)
図1を参照して、変速システム10を含む人力駆動車Aについて説明する。
ここで、人力駆動車は、走行のための原動力に関して、少なくとも部分的に人力を用いる車両を意味し、電動で人力を補助する車両を含む。人力以外の原動力のみを用いる車両は、人力駆動車に含まれない。特に、内燃機関のみを原動力に用いる車両は、人力駆動車には含まれない。通常、人力駆動車には、小型軽車両が想定され、公道での運転に免許を要しない車両が想定される。図示される人力駆動車Aは、電気エネルギーを用いて人力駆動車Aの推進を補助する電動補助ユニットEを含む自転車(e-bike)である。具体的には、図示される人力駆動車Aは、トレッキングバイクである。人力駆動車Aは、フレームA1、フロントフォークA2、前輪WF、後輪WR、ハンドルH、および、走行駆動機構Bをさらに含む。
【0027】
走行駆動機構Bは、ドライブトレインを含む。本実施形態のドライブトレインは、チェーンドライブタイプに構成される。走行駆動機構Bは、クランクC、フロントスプロケットD1、リアスプロケットD2、および、チェーンD3を含む。クランクCは、フレームA1に回転可能に支持されるクランク軸C1、および、クランク軸C1の両端部のそれぞれに設けられる一対のクランクアームC2を含む。各クランクアームC2の先端には、ペダルPDが回転可能に取り付けられる。なお、ドライブトレインは、任意のタイプから選択でき、ベルトドライブタイプ、または、シャフトドライブタイプであってもよい。
【0028】
フロントスプロケットD1は、クランク軸C1と一体に回転するようにクランクCに設けられる。リアスプロケットD2は、後輪WRのハブHRに設けられる。チェーンD3は、フロントスプロケットD1およびリアスプロケットD2に巻き掛けられる。人力駆動車Aに搭乗するユーザによってペダルPDに加えられるペダル踏力は、フロントスプロケットD1、チェーンD3、および、リアスプロケットD2を介して後輪WRに伝達される。
【0029】
リアスプロケットD2と後輪WRとの間に一方向クラッチが設けられている。一方向クラッチは、リアスプロケットD2の進行方向への回転を後輪WRに伝える。一方向クラッチは、後輪WRの進行方向への回転をリアスプロケットD2に伝えない。後輪WRの回転速度がリアスプロケットD2の回転速度よりも大きい場合は、一方向クラッチによってリアスプロケットD2の回転は後輪WRに伝達されない。一例では、一方向クラッチは、リアスプロケットD2と一体的に回転する部材が後輪WRと一体的に回転する部材に対して一方向に回転することにより係合する係合部材を有する。これにより、リアスプロケットD2と一体的に回転する部材が後輪WRと一体的に回転する部材に対して一方向に回転する場合、リアスプロケットD2は後輪WRと一体的に回転する。係合部材は、リアスプロケットD2と一体的に回転する部材が後輪WRと一体的に回転する部材に対して他方向に回転により係合が解除される。これにより、リアスプロケットD2と一体的に回転する部材が後輪WRと一体的に回転する部材に対して他方向に回転する場合、リアスプロケットD2は後輪WRに対して相対的に回転できる。
【0030】
電動補助ユニットEは、人力駆動車Aの推進をアシストするように動作する。電動補助ユニットEは、例えばペダルPDに加えられるペダル踏力に応じて動作する。電動補助ユニットEは、モータE1を含む。電動補助ユニットEは、人力駆動車Aに搭載されるバッテリBTから供給される電力によって動作する。
【0031】
変速システム10は、制御装置12と、変速装置20とを含む。制御装置12は、例えば電動補助ユニットEのハウジングE2内に収容される。制御装置12は、バッテリBTから供給される電力によって動作する。変速装置20は、外装変速装置を含む。変速装置20は、人力駆動車Aのスプロケット付近に設けられるディレーラと、ディレーラを動作させる電気モータとを含む。変速装置20は、フロント変速装置22およびリア変速装置24の少なくとも一方を含む。フロント変速装置22は、例えばフロントスプロケットD1付近に設けられるフロントディレーラ22Aと、フロントディレーラ22Aを動作させる電気モータとを含む。フロント変速装置22の駆動に伴って、チェーンD3が巻き掛けられるフロントスプロケットD1が変更され、人力駆動車Aの変速比が変更される。リア変速装置24は、例えばフレームA1のリアエンドA3に設けられるリアディレーラ24Aと、リアディレーラ24Aを動作させる電気モータとを含む。リア変速装置24の駆動に伴って、チェーンD3が巻き掛けられるリアスプロケットD2が変更され、人力駆動車Aの変速比が変更される。変速装置20は、バッテリBTから供給される電力、または、変速装置20に搭載される専用の電源から供給される電力によって動作する。なお、変速装置20は、外装変速装置に代えて、内装変速装置を含んでいてもよい。この場合、内装変速装置は、例えば後輪WRのハブHRに設けられる。変速装置20は、外装変速装置に代えて無段変速装置を含んでいてもよい。この場合、無段変速装置は、例えば後輪WRのハブHRに設けられる。
【0032】
変速装置20は、複数の変速段を有する。フロント変速装置22は、1または複数の変速段を有する。フロント変速装置22が有する変速段の数は、フロントスプロケットD1の枚数に準ずる。リア変速装置24は、1または複数の変速段を有する。リア変速装置24が有する変速段の数は、リアスプロケットD2の枚数に準ずる。変速装置20が有する変速段の数は、フロント変速装置22が有する変速段の数と、リア変速装置24が有する変速段の数との積によって決められる。フロント変速装置22の変速段に応じた歯数と、リア変速装置24の変速段に応じた歯数との関係によって、フロントスプロケットD1の回転速度に対するリアスプロケットD2の回転速度の比である、人力駆動車Aの変速比が決められる。
【0033】
変速装置20は、操作装置SLの操作に応じて電気的に駆動される。操作装置SLは、ハンドルHの右側、および、ハンドルHの左側にそれぞれ設けられる。一例では、一方の操作装置SLの操作に応じてフロント変速装置22のフロントディレーラ22Aが電気モータによって動作し、他方の操作装置SLの操作に応じてリア変速装置24のリアディレーラ24Aが電気モータによって動作する。操作装置SLは、シフトアップ変速のための第1シフトレバーSL1、および、シフトダウン変速のための第2シフトレバーSL2を含む。第1シフトレバーSL1が操作される場合、例えば現在の変速段よりも1段または複数段上の変速段となるように変速装置20が駆動される。第2シフトレバーSL2が操作される場合、例えば現在の変速段よりも1段または複数段下の変速段となるように変速装置20が駆動される。
【0034】
図1および図2を参照して、制御装置12の具体的な構成について説明する。
制御装置12は、人力駆動車Aの変速装置20を変速条件に応じて制御する制御部14を備える。一例では、制御部14は、人力駆動車Aの変速装置20の変速段を変速条件に応じて変更するように変速装置20を制御する。制御部14は、変速装置20を変速条件に応じて自動的に制御する。一例では、変速条件は、人力駆動車Aの第1参照値および閾値THに基づいて規定される。変速装置20の変速段は、フロント変速装置22の変速段およびリア変速装置24の変速段のいずれかを含む。以下の説明において、変速装置20の変速段が変更されるとは、フロント変速装置22の変速段が変更される、または、リア変速装置24の変速段が変更されることをいう。
【0035】
第1参照値は、人力駆動車Aに関する車両情報を含む。車両情報は、人力駆動車Aの走行状態に関する走行情報、および、人力駆動車Aの走行環境に関する環境情報の少なくとも一方を含む。走行情報は、ケイデンス、人力駆動車Aに与えられるトルク、車速、加速度、および、パワーの少なくとも1つを含む。トルクは、クランクCに作用するトルクを含む。パワーは、ケイデンスとトルクとの積である。環境情報は、路面の状態に関する路面情報、空気抵抗に関する空気抵抗情報、天候に関する天候情報、および、気温に関する気温情報の少なくとも1つを含む。路面情報は、路面の抵抗に関する抵抗情報、および、路面の勾配に関する勾配情報の少なくとも一方を含む。路面の抵抗は、がれ、砂利、および、アスファルト等によって異なる。空気抵抗情報は、人力駆動車Aが走行する場合にユーザおよび人力駆動車Aに作用する空気抵抗に関する情報を含む。一例では、空気抵抗情報は、風速、風圧、および、風向等の風力に関する風力情報を含む。
【0036】
閾値THは、上限閾値THUおよび下限閾値THLを含む。制御部14は、第1参照値と上限閾値THUとの関係に応じて人力駆動車Aの変速比が大きくなるように変速装置20を制御し、第1参照値と下限閾値THLとの関係に応じて変速比が小さくなるように変速装置20を制御する。一例では、制御部14は、第1参照値が上限閾値THUを上回ると変速比が大きくなるように変速装置20を制御し、第1参照値が下限閾値THLを下回ると変速比が小さくなるように変速装置20を制御する。
【0037】
一例では、変速条件は、人力駆動車Aの操作装置SLへの入力に基づいて規定される。制御部14は、変速装置20を操作装置SLへの入力に応じて制御する。制御部14は、第1シフトレバーSL1が操作されると、変速比が大きくなるように変速装置20を制御し、第2シフトレバーSL2が操作されると、変速比が小さくなるように変速装置20を制御する。制御部14は、CPU(Central Processing Unit)またはMPU(Micro Processing Unit)である。
【0038】
制御装置12は、情報を記憶する記憶部16をさらに備える。記憶部16は、不揮発性メモリおよび揮発性メモリを含む。記憶部16は、例えば制御のための各種プログラム、および、予め設定される情報等を記憶する。一例では、記憶部16は、複数の制御態様に関する情報等を記憶する。
【0039】
人力駆動車Aは、各種の情報を検出する検出装置18をさらに含む。検出装置18は、第1検出部18Aおよび第2検出部18Bを含む。第1検出部18Aは、例えばクランクCの回転速度(ケイデンス)を検出するセンサを含む。第2検出部18Bは、例えば人力駆動車Aの走行速度を検出するセンサを含む。第1検出部18Aのセンサおよび第2検出部18Bのセンサはそれぞれ既存のセンサを用いることができる。検出装置18は、第1検出部18Aおよび第2検出部18B以外のセンサをさらに含んでもよい。一例では、センサは、フロントスプロケットD1の回転速度を検出するセンサ、リアスプロケットD2の回転速度を検出するセンサ、前輪WFの回転速度を検出するセンサ、後輪WRの回転速度を検出するセンサ、ペダルPDに与えられる力であるペダル踏力を検出するセンサ、および、人力駆動車Aの加速度を検出するセンサの少なくとも1つを含む。これらセンサについても既存のセンサを用いることができる。
【0040】
次に、制御部14による変速装置20の制御の詳細な内容について説明する。
制御部14は、変速装置20の制御として、第1参照値と閾値THとに応じて変速比を変更する制御に加え、次の第1の処理および第2の処理のいずれかを実行する。制御部14は、例えばバッテリBTから制御部14に電力の供給が開始されてから制御部14に電力の供給が終了するまでの期間において第1の処理または第2の処理を所定時間毎に繰り返し実行する。
【0041】
第1の処理では、制御部14は、人力駆動車Aの走行駆動機構Bが駆動されない第1状態において変速条件を満たす場合、第1動作量にて変速装置20を動作させ、走行駆動機構Bが駆動される第2状態において変速条件を満たす場合、第2動作量にて変速装置20を動作させる。第1動作量は、第2動作量とは異なる。一例では、制御部14は、第1動作量が第2動作量よりも小さくなるように変速装置20を制御する。走行駆動機構Bが駆動されていない第1状態は、クランクCの回転が停止した状態と、クランクCが後転することによってチェーンD3が前転方向に回転していない状態とを含む。走行駆動機構Bが駆動される第2状態は、クランクCが前転することによってチェーンD3が前転方向に回転している状態を含む。第1動作量および第2動作量の第1例は、フロントディレーラ22AがチェーンD3を複数のフロントスプロケットD1のうちのいずれかに掛け替えるために動作するフロントディレーラ22Aの移動量である。第1動作量および第2動作量の第2例は、リアディレーラ24AがチェーンD3を複数のリアスプロケットD2のうちのいずれかに掛け替えるために動作するリアディレーラ24Aの移動量である。第1動作量および第2動作量はそれぞれ、例えば変速装置20の電気モータの回転量によって規定される。制御部14は、フロントディレーラ22Aの移動量を検出するセンサの検出結果に応じて第1動作量および第2動作量をそれぞれ取得してもよく、リアディレーラ24Aの移動量を検出するセンサの検出結果に応じて第1動作量および第2動作量をそれぞれ取得してもよい。
【0042】
第1動作量は、例えば変速装置20の変速段を1段分だけ大きくするまたは小さくするような動作量である。第2動作量は、例えば変速装置20の変速段を予め決められた段数(2段以上)分だけ大きくするまたは小さくするような動作量である。第1動作量は、第2動作量よりも小さい範囲内において、変速装置20の変速段数が2段以上の動作量であってもよい。
【0043】
制御部14は、第1状態において第1参照値が第1閾値TH1以上となる場合、または、操作装置SLからシフトアップ変速の変速指令の信号を受信する場合、第1動作量にて変速装置20の変速段が大きくなるように変速装置20を制御する。一例では、操作装置SLからのシフトアップ変速の変速指令の信号は、2段以上のシフトアップ変速の変速指令の信号である。制御部14は、第1状態において第1参照値が第1閾値TH1未満となる場合、または、操作装置SLからシフトダウン変速の変速指令の信号を受信する場合、第1動作量にて変速装置20の変速段が小さくなるように変速装置20を制御する。一例では、操作装置SLからのシフトダウン変速の変速指令の信号は、2段以上のシフトダウン変速の変速指令の信号である。
【0044】
制御部14は、第2状態において第1参照値が第1閾値TH1以上となる場合、または、操作装置SLからシフトアップ変速の変速指令の信号を受信する場合、第2動作量にて変速装置20の変速段が大きくなるように変速装置20を制御する。一例では、操作装置SLからのシフトアップ変速の変速指令の信号は、2段以上のシフトアップ変速の変速指令の信号である。制御部14は、第2状態において第1参照値が第1閾値TH1未満となる場合、または、操作装置SLからシフトダウン変速の変速指令の信号を受信する場合、第2動作量にて変速装置20の変速段が小さくなるように変速装置20を制御する。一例では、操作装置SLからのシフトダウン変速の変速指令の信号は、2段以上のシフトダウン変速の変速指令の信号である。
【0045】
図3は、第1の処理の手順の一例を示すフローチャートである。
制御部14は、ステップS11において変速条件を満たすか否かを判定する。ステップS11における変速条件は、第1参照値が上限閾値THUを上回ること、第1参照値が下限閾値THLを下回ること、および、人力駆動車Aの操作装置SLへの入力があることのいずれか1つを満たすことである。制御部14は、操作装置SLから変速指示に関する信号を受信するか否かに応じて人力駆動車Aの操作装置SLへの入力があるか否かを判定する。制御部14は、変速条件を満たさない場合、すなわち第1参照値が上限閾値THUと下限閾値THLとの間となる場合、または、操作装置SLから変速指示に関する信号を受信していない場合、処理を一旦終了する。
【0046】
制御部14は、変速条件を満たす場合、ステップS12に移行する。制御部14は、ステップS12において第1状態か否かを判定する。一例では、制御部14は、第1検出部18Aの検出結果、すなわちクランクCが前転しているか否かに応じてステップS12の判定を行う。制御部14は、第1状態であると判定する場合、ステップS13に移行する。制御部14は、ステップS13において第1動作量にて変速装置20を動作させ、処理を一旦終了する。制御部14は、第1状態ではないと判定する場合、すなわち第2状態である場合、ステップS14に移行する。制御部14は、ステップS14において第2動作量にて変速装置20を動作させ、処理を一旦終了する。
【0047】
第2の処理では、制御部14は、人力駆動車Aの走行駆動機構Bが駆動されない第1状態において変速条件を満たす場合、変速段を第1段数にて変更するように変速装置20を制御し、人力駆動車Aの走行駆動機構Bが駆動される第2状態において変速条件を満たす場合、変速段を第2段数にて変更するように変速装置20を制御する。第1段数は、第2段数とは異なる。具体的には、制御部14は、第1状態において変速条件を満たす場合、変速段が第1段数分だけ大きくまたは小さくなるように変速装置20を制御する。一例では、制御部14は、第1段数が第2段数よりも小さくなるように変速装置20を動作させる。この場合、第1段数および第2段数はそれぞれ0よりも大きい段数である。具体的には、第1段数は、1段である。第2段数は、2段以上である。本実施形態では、第1段数および第2段数はそれぞれ、予め定められ、記憶部16に記憶されている。第1段数および第2段数の少なくとも一方は、ユーザによって変更されてもよい。
【0048】
制御部14は、第1状態において第1参照値が第1閾値TH1以上となる場合、または、操作装置SLからシフトアップ変速の変速指令の信号を受信する場合、変速装置20の変速段が第1段数分大きくなるように変速装置20を制御する。一例では、操作装置SLからのシフトアップ変速の変速指令の信号は、第2段数分のシフトアップ変速の変速指令の信号である。制御部14は、第1状態において第1参照値が第1閾値TH1未満となる場合、または、操作装置SLからシフトダウン変速の変速指令の信号を受信する場合、変速装置20の変速段が第1段数分小さくなるように変速装置20を制御する。一例では、操作装置SLからのシフトダウン変速の変速指令の信号は、第2段数分のシフトダウン変速の変速指令の信号である。
【0049】
制御部14は、第2状態において第1参照値が第1閾値TH1以上となる場合、または、操作装置SLからシフトアップ変速の変速指令の信号を受信する場合、変速装置20の変速段が第2段数分大きくなるように変速装置20を制御する。一例では、操作装置SLからのシフトアップ変速の変速指令の信号は、第2段数分のシフトアップ変速の変速指令の信号である。制御部14は、第2状態において第1参照値が第1閾値TH1未満となる場合、または、操作装置SLからシフトダウン変速の変速指令の信号を受信する場合、変速装置20の変速段が第2段数分小さくなるように変速装置20を制御する。一例では、操作装置SLからのシフトダウン変速の変速指令の信号は、第2段数分のシフトダウン変速の変速指令の信号である。
【0050】
図4は、第2の処理の手順の一例を示すフローチャートである。図4のフローチャートにおいてステップS21およびステップS22の判定は、図3のフローチャートのステップS11およびステップS12の判定と同じである。
【0051】
制御部14は、ステップS21において否定判定する場合、処理を一旦終了する。制御部14は、ステップS21およびステップS22において肯定判定する場合、ステップS23に移行する。制御部14は、ステップS23において変速段を第1段数にて変更するように変速装置20を制御し、処理を一旦終了する。制御部14は、ステップS21において肯定判定し、ステップS22において否定判定する場合、ステップS24に移行する。制御部14は、ステップS24において変速段を第2段数にて変更するように変速装置20を制御し、処理を一旦終了する。
【0052】
制御部14が第1の処理および第2の処理のいずれかを実行することによって、ユーザがクランクCを前転させていない状態において例えば変速条件を満たして多段変速が要求される場合、第1動作量にて変速装置20が動作することによって例えば1段分の変速段に相当するスプロケットにチェーンD3が掛け替える。その後、ユーザがクランクCを前転させると、多段変速における目標段数となるように変速装置20が動作する。ユーザがクランクCを前転させている状態において例えば変速条件を満たして多段変速が要求される場合、第2動作量にて変速装置20が動作することによって例えば多段変速における目標段数となるように変速装置20が動作する。
【0053】
(第2実施形態)
図5から図7を参照して、第2実施形態の変速システム10について説明する。本実施形態の変速システム10は、第1実施形態の変速システム10と比較して、コースティング状態のとき、および、コースティング状態からペダリングを開始してから所定期間内における変速装置20の動作態様が異なる。以下の説明において、第1実施形態と共通する構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0054】
制御部14は、人力駆動車Aのスプロケット、前輪WF、後輪WR、および、クランクCの回転状態、ならびに、ペダル踏力の少なくとも1つに応じてコースティング状態を検出する。人力駆動車Aのスプロケットは、フロントスプロケットD1およびリアスプロケットD2の少なくとも一方を含む。一例では、制御部14は、リアスプロケットD2の前転方向の回転速度よりも後輪WRの前転方向の回転速度が大きい場合、コースティング状態であると検出する。
【0055】
なお、制御部14は、人力駆動車Aのスプロケット、前輪WF、および、後輪WRの少なくとも1つの回転状態と、クランクCの回転状態およびペダル踏力の少なくとも一方とに応じてコースティング状態を検出してもよい。すなわち、制御部14は、人力駆動車Aが走行している状態かつ走行駆動機構Bが駆動していない状態の場合、コースティング状態であると検出する。この場合、例えば制御部14は、第1検出部18Aの検出結果から取得できるケイデンスと、第2検出部18Bの検出結果から取得できる人力駆動車Aの走行速度とに応じてコースティング状態を検出してもよい。
【0056】
制御部14は、前輪WFの回転速度の変化度合に応じてコースティング状態を検出してもよいし、後輪WRの回転速度の変化度合に応じてコースティング状態を検出してもよい。一例では、制御部14は、前輪WFの回転速度の変化度合が閾値X1未満の場合、コースティング状態であると検出する。制御部14は、後輪WRの回転速度の変化度合が閾値X1未満の場合、コースティング状態であると検出する。閾値X1は、ペダリングによって前輪WFまたは後輪WRの回転速度が変化していないと判定するための値であり、試験等によって予め設定される。制御部14は、人力駆動車Aのスプロケットの回転速度が0または予め定める閾値X2未満の場合、コースティング状態であると検出してもよい。閾値X2は、スプロケットが実質的に回転していない状態であることを判定するための値であり、試験等によって予め決められる。制御部14は、クランクCの回転速度が0または予め定める閾値X3未満の場合、コースティング状態であると検出してもよい。閾値X3は、クランクCが実質的に前転していない状態であることを判定するための値であり、試験等によって予め決められる。制御部14は、ペダル踏力が予め定める閾値X4未満の場合、コースティング状態であると検出してもよい。閾値X4は、ペダルPDを漕ぐためにペダルPDに加えられるペダル踏力の最小値であり、試験等により予め決められる。
【0057】
制御部14は、変速装置20の変速段を変速条件に応じて変更するように変速装置20を制御する。本実施形態の変速条件は、例えば第1実施形態の変速条件と同じである。第1実施形態と同様に、変速条件は、第1参照値を含む。本実施形態の第1参照値は、人力駆動車Aの走行速度である。制御部14は、人力駆動車Aの走行速度に応じて変速装置20の変速段を変更する。一例では、制御部14は、第1参照値が第1閾値TH1以上になると、人力駆動車Aの変速比が大きくなるように変速装置20を制御する第2制御を実行するように構成される。一例では、制御部14は、第1参照値が第1閾値TH1未満になると、人力駆動車Aの変速比が小さくなるように変速装置20を制御する第3制御を実行するように構成される。制御部14は、人力駆動車Aの走行速度が小さくなるにつれて人力駆動車Aの変速比が小さくなるように変速装置20を制御する。
【0058】
制御部14は、コースティング状態から再びペダリングを開始する場合、コースティング状態の開始からペダリングの開始までの第1期間TM1とペダリングの開始から所定の第2期間TM2との合計の第3期間TM3にわたり変速装置20の動作を制限する第1制御を実行するように構成される。第2期間TM2は、予め定める所定期間である。第2期間TM2は、ユーザによって変更可能である。第2期間TM2の一例は、3秒である。
【0059】
第1制御の一例は次のとおりである。すなわち第1制御において、制御部14は、第3期間TM3において第1参照値が第1閾値TH1以上になると、第2制御による変速段の変更段数よりも少ない変更段数となるように変速装置20を動作させる。第1制御において、制御部14は、第3期間TM3において第1参照値が第1閾値TH1未満になると、第3制御による変速段の変更段数よりも少ない変更段数となるように変速装置20を動作させる。
【0060】
制御部14は、人力駆動車Aの走行状態に応じて第1制御、第2制御、および、第3制御のいずれかを選択する。図5は、第1制御、第2制御、および、第3制御のいずれかを選択する制御の処理の一例を示す。
【0061】
制御部14は、ステップS31においてコースティング状態であるか否かを判定する。制御部14は、コースティング状態であると判定する場合、ステップS32に移行する。制御部14は、ステップS32において第1制御を実行し、ステップS33に移行する。一例では、第1制御において、制御部14は、変速段が予め定める段数分だけ大きくまたは小さくなるように変速装置20を動作させる。予め定める段数は、ユーザによって変更可能である。本実施形態では、予め定める段数は、1段である。すなわち第1制御において、制御部14は、変速段を1段分だけ大きくまたは小さくするように変速装置20を動作させる。
【0062】
制御部14は、ステップS33において第3期間TM3を経過するか否かを判定する。制御部14は、第3期間TM3を経過していない場合、ステップS33の判定に戻る。この場合、制御部14は、第1制御を維持する。制御部14は、第3期間TM3を経過する場合、ステップS34に移行する。制御部14は、ステップS34において第1制御を終了して、処理を一旦終了する。言い換えれば、制御部14は、第3期間TM3を経過すると、変速装置20の動作の制限を解除する。
【0063】
制御部14は、コースティング状態ではないと判定する場合、ステップS35に移行する。制御部14は、ステップS35において第2制御または第3制御を実行し、処理を一旦終了する。言い換えれば、制御部14は、コースティング状態ではない場合、変速装置20の動作を制限しない。制御部14は、第1参照値が第1閾値TH1以上の場合に第2制御を実行し、第1参照値が第1閾値TH1未満の場合に第3制御を実行する。
【0064】
次に、第2期間TM2における変速装置20の制御について説明する。
制御部14は、第2期間TM2における変速装置20の制御として第1の処理および第2の処理の少なくとも一方を実行する。制御部14は、第2期間TM2において第1の処理および第2の処理の少なくとも一方を繰り返し実行する。
【0065】
第1の処理では、制御部14は、人力駆動車Aの走行速度が所定速度V1よりも小さい場合、第2期間TM2において変速を禁止しない。制御部14は、第1期間TM1における人力駆動車Aの走行速度の減少速度が所定速度V2よりも大きい場合、第2期間TM2において変速を禁止しない。制御部14は、第2検出部18Bの検出結果から人力駆動車Aの走行速度を取得できる。所定速度V1は、変速装置20の変速段が所定値SX以下となる人力駆動車Aの走行速度であり、試験等により予め定められる。所定速度V1の一例は、時速11kmである。所定値SXは、人力駆動車Aの快適な走行のためにペダリングの開始時に変速装置20の変速段を速やかに大きくする必要がある変速段であり、試験等により予め定められる。
【0066】
人力駆動車Aの走行速度の減少速度は、例えば、コースティング状態になる直前の人力駆動車Aの走行速度と、第1期間TM1の経過時すなわち第2期間TM2の開始時における人力駆動車Aの走行速度との差によって算出される。なお、人力駆動車Aの走行速度の減少速度は、例えば、コースティング状態になる直前の人力駆動車Aの走行速度と、第1期間TM1における人力駆動車Aの走行速度の最小値との差によって算出されてもよい。所定速度V2は、変速装置20の変速段が所定値SX以下となる可能性が高い人力駆動車Aの走行速度の減少速度であり、試験等により予め定められる。所定速度V2の一例は、時速10kmである。
【0067】
図6は、第1の処理の手順の一例を示すフローチャートである。
制御部14は、ステップS41において第2期間TM2であるか否かを判定する。制御部14は、例えばカウンタを含み、コースティング状態を検出したときにカウントを開始し、カウント数が第2期間TM2を規定する範囲内である場合に第2期間TM2であると判定する。
【0068】
制御部14は、第2期間TM2ではないと判定する場合、処理を一旦終了する。制御部14は、第2期間TM2であると判定する場合、ステップS42に移行する。制御部14は、ステップS42において人力駆動車Aの走行速度が所定速度V1よりも小さいか否かを判定する。制御部14は、第2検出部18Bの検出結果から取得する人力駆動車Aの走行速度と所定速度V1との比較に応じてステップS42の判定を行う。
【0069】
制御部14は、人力駆動車Aの走行速度が所定速度V1よりも小さい場合、ステップS43に移行する。制御部14は、ステップS43において第2期間TM2において変速を禁止しない状態とし、処理を一旦終了する。ステップS43の処理の一例は、制御部14は、第1制御に代えて、第2制御または第3制御を実行する。
【0070】
制御部14は、人力駆動車Aの走行速度が所定速度V1よりも大きい場合、ステップS44に移行する。制御部14は、ステップS44において第1期間TM1における人力駆動車Aの走行速度の減少速度が所定速度V2よりも大きいか否かを判定する。制御部14は、コースティング状態を検出する場合に検出直前の人力駆動車Aの走行速度と、第1期間TM1の終了時の人力駆動車Aの走行速度との差である減少速度と所定速度V2との比較に応じてステップS44の判定を行う。制御部14は、第1期間TM1における人力駆動車Aの走行速度の減少速度が所定速度V2よりも大きい場合、ステップS43に移行する。制御部14は、第1期間TM1における人力駆動車Aの走行速度の減少速度が所定速度V2以下の場合、処理を一旦終了する。
【0071】
第2の処理では、制御部14は、第2期間TM2において第1制御よりも第2制御を優先して実行する。制御部14は、第2期間TM2において第3制御よりも第1制御を優先して実行する。第2期間TM2においては、制御部14は、変速段を大きくしやすく、かつ、変速段の減少幅を小さくするまたは変速段を小さくしにくくするように変速装置20を制御する。
【0072】
図7は、第2の処理の手順の一例を示すフローチャートである。
制御部14は、ステップS51において第2期間TM2であるか否かを判定する。ステップS51の判定は、図6のステップS41の判定と同じである。制御部14は、第2期間TM2であると判定する場合、ステップS52に移行する。制御部14は、ステップS52において第1参照値が第1閾値TH1以上であるか否かを判定する。制御部14は、第1参照値が第1閾値TH1以上である場合、ステップS53に移行する。制御部14は、ステップS53において人力駆動車Aの変速比を大きくするように変速装置20を制御し、処理を一旦終了する。制御部14は、第1参照値が第1閾値TH1未満である場合、処理を一旦終了する。この場合、制御部14は、第1制御を維持する。制御部14は、第2期間TM2である場合、ステップS52,S53の処理によって第2制御および第1制御のいずれかを選択する。制御部14は、第2期間TM2ではない場合、処理を一旦終了する。
【0073】
(変形例)
上記各実施形態に関する説明は、本開示に従う制御装置および変速システムが取り得る形態の例示であり、その形態を制限することを意図していない。本開示に従う制御装置および変速システムは、例えば以下に示される上記各実施形態の変形例、および、相互に矛盾しない少なくとも2つの変形例が組み合わせられた形態を取り得る。以下の変形例において、各実施形態の形態と共通する部分については、各実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0074】
・第1実施形態において、制御部14は、変速装置20の変速に伴い変化する第2参照値に応じて、変速条件を変更してもよい。第2参照値は、人力駆動車Aに関する車両情報、および、人力駆動車Aに搭乗するユーザに関するユーザ情報の少なくとも一方を含む。ユーザ情報は、心拍数、筋電位、発汗量、および、体温の少なくとも1つを含む。
【0075】
制御部14は、第2参照値の大きさに応じて閾値THを変更する。制御部14は、変速完了後の第2参照値と変速完了前の第2参照値との差(以下、「参照値差」)に応じて閾値THを変更する。具体的には、制御部14は、変速装置20を制御する場合、第2参照値に基づいて規定される変速条件に応じて閾値THを変更する。一例では、変速条件は、参照値差の絶対値および所定差に基づいて規定される。すなわち、制御部14は、変速装置20を制御する場合、参照値差の絶対値と所定差との関係に応じて閾値THを変更する。所定差は、例えば上限閾値THUおよび下限閾値THLの所定の範囲を規定する所定幅に基づいて設定される。所定差は、第1所定差、第2所定差、第3所定差、および、第4所定差の少なくとも1つを含む。所定差は、閾値THが変更されるごとに変更後の閾値THに応じて更新されてもよく、固定値であってもよい。
【0076】
制御部14は、変速比が大きくなるように変速装置20を制御する場合、かつ、参照値差の絶対値が第1所定差以上の場合、上限閾値THUを大きくする。制御部14は、変速比が大きくなるように変速装置20を制御する場合、かつ、参照値差の絶対値が第2所定差未満の場合、上限閾値THUを維持する。第2所定差は、第1所定差以下の値に設定される。一例では、第2所定差は、第1所定差と同じ値に設定される。制御部14は、変速比が大きくなるように変速装置20を制御する場合、第1条件が成立すると上限閾値THUを小さくしてもよく、第1条件が成立すると上限閾値THUを初期の上限閾値THUに戻してもよい。制御部14は、参照値差の絶対値が第2所定差未満である状態が所定回数連続する場合に第1条件が成立すると判定してもよく、参照値差の絶対値が第2所定差よりも小さい所定差未満の場合に第1条件が成立すると判定してもよい。
【0077】
制御部14は、変速比が小さくなるように変速装置20を制御する場合、かつ、参照値差の絶対値が第3所定差以上の場合、下限閾値THLを小さくする。制御部14は、変速比が小さくなるように変速装置20を制御する場合、かつ、参照値差の絶対値が第4所定差未満の場合、下限閾値THLを維持する。第4所定差は、第3所定差以下の値に設定される。一例では、第4所定差は、第3所定差と同じ値に設定される。制御部14は、変速比が小さくなるように変速装置20を制御する場合、第2条件が成立すると下限閾値THLを大きくしてもよく、第2条件が成立すると下限閾値THLを初期の下限閾値THLに戻してもよい。一例では、制御部14は、参照値差の絶対値が第4所定差未満である状態が所定回数連続する場合に第2条件が成立すると判定してもよく、参照値差の絶対値が第4所定差よりも小さい所定差未満の場合に第2条件が成立すると判定してもよい。
【0078】
・第2実施形態において、人力駆動車Aが上り坂を走行している場合、第2期間TM2において変速を禁止しなくてもよい。一例では、制御部14は、人力駆動車Aの傾斜角度が閾値AX以上の場合、第2期間TM2において変速を禁止しない。人力駆動車Aの傾斜角度は、例えばピッチ角を含む。閾値AXは、人力駆動車Aが上り坂を走行していることを判別するための値であり、試験等により予め定められる。
【0079】
・第2実施形態において、制御部14は、第3期間TM3において変速を禁止してもよい。この場合、制御部14は、図6に示す第1の処理を実行すると、人力駆動車Aの走行速度が所定速度V1よりも小さい場合、または、第1期間TM1における人力駆動車Aの走行速度の減少速度が所定速度V2よりも大きい場合、変速の禁止を解除する。制御部14は、図7に示す第2の処理を実行すると、第2期間TM2において第1参照値が第1閾値TH1以上の場合、変速の禁止を解除し、人力駆動車Aの変速比が大きくなるように変速装置20を制御する。制御部14は、第2期間TM2において第1参照値が第1閾値TH1未満の場合、変速の禁止を維持する。
【0080】
・第2実施形態において、図6のフローチャートからステップS42の処理およびステップS44の処理の一方を省略してもよい。ステップS42の処理を省略する場合、制御部14は、第2期間TM2であると判定する場合、ステップS44に移行する。ステップS44を省略する場合、制御部14は、人力駆動車Aの走行速度が所定速度V1よりも小さい場合、処理を一旦終了する。
【0081】
・第2実施形態において、図6に示す第1の処理および図7に示す第2の処理をともに省略してもよい。この場合、制御部14は、第3期間TM3において第1制御を実行する。第1制御は、変速装置20の動作を制限する、または変速を禁止する。
【符号の説明】
【0082】
10…変速システム、12…制御装置、14…制御部、20…変速装置、A…人力駆動車、B…走行駆動機構、C…クランク、D1…フロントスプロケット(スプロケット)、D2…リアスプロケット(スプロケット)、WF…前輪、WR…後輪。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7