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特許7319079電磁波透過性金属光沢物品、及び、加飾部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】電磁波透過性金属光沢物品、及び、加飾部材
(51)【国際特許分類】
   B32B 3/10 20060101AFI20230725BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
B32B3/10
B32B15/04 Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019080625
(22)【出願日】2019-04-22
(65)【公開番号】P2019188806
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2018082656
(32)【優先日】2018-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 幸大
(72)【発明者】
【氏名】有本 将治
(72)【発明者】
【氏名】中井 孝洋
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 太一
(72)【発明者】
【氏名】陳 暁雷
(72)【発明者】
【氏名】米澤 秀行
(72)【発明者】
【氏名】梨木 智剛
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-221557(JP,A)
【文献】特公平06-006783(JP,B2)
【文献】国際公開第2018/079547(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/097943(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、前記基体上に形成された金属層と、少なくとも1層の光学調整層とを備え、
前記金属層は、少なくとも一部において互いに不連続の状態にある複数の部分を含み、
前記光学調整層は、屈折率1.75以上の高屈折率層を含む電磁波透過性金属光沢物品。
【請求項2】
前記光学調整層の厚みが10nm~1000nmである請求項1に記載の電磁波透過性金属光沢物品。
【請求項3】
前記光学調整層が設けられた側の波長380nm~780nmの範囲における反射率の最大値と最小値の差が30%以上である請求項1又は2に記載の電磁波透過性金属光沢物品。
【請求項4】
前記基体と前記金属層の間に、酸化インジウム含有層をさらに備える請求項1~3のいずれか一項に記載の電磁波透過性金属光沢物品。
【請求項5】
前記酸化インジウム含有層は連続状態で設けられている請求項4に記載の電磁波透過性金属光沢物品。
【請求項6】
前記酸化インジウム含有層は、酸化インジウム(In)、インジウム錫酸化物(ITO)、又はインジウム亜鉛酸化物(IZO)のいずれかを含む請求項4又は5に記載の電磁波透過性金属光沢物品。
【請求項7】
前記酸化インジウム含有層の厚さは、1nm~1000nmである請求項4~6のいずれか1項に記載の電磁波透過性金属光沢物品。
【請求項8】
前記金属層の厚さは、20nm~100nmである請求項1~7のいずれか1項に記載の電磁波透過性金属光沢物品。
【請求項9】
前記金属層の厚さと前記酸化インジウム含有層の厚さとの比(前記金属層の厚さ/前記酸化インジウム含有層の厚さ)は、0.02~100である請求項4~7のいずれか1項に記載の電磁波透過性金属光沢物品。
【請求項10】
シート抵抗が、100Ω/□以上である請求項1~9のいずれか1項に記載の電磁波透過性金属光沢物品。
【請求項11】
前記複数の部分は島状に形成されている請求項1~10のいずれか1項に記載の電磁波透過性金属光沢物品。
【請求項12】
前記金属層は、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、銅(Cu)、銀(Ag)、又はこれらの合金のいずれかである請求項1~11のいずれか1項に記載の電磁波透過性金属光沢物品。
【請求項13】
前記基体は、基材フィルム、樹脂成型物基材、ガラス基材、又は金属光沢を付与すべき物品のいずれかである請求項1~12のいずれか1項に記載の電磁波透過性金属光沢物品。
【請求項14】
透明粘着剤からなる粘着剤層をさらに備える、請求項1~13のいずれか1項に記載の電磁波透過性金属光沢物品。
【請求項15】
被着部材と、請求項14に記載の電磁波透過性金属光沢物品とを備え、前記電磁波透過性金属光沢物品が前記粘着剤層を介して前記被着部材に貼付されている加飾部材。
【請求項16】
前記被着部材側における反射光のCIE-Lab表色系において、a値及びb値の二乗和の平方根が5.0以上である請求項15に記載の加飾部材。
【請求項17】
前記被着部材側の波長380nm~780nmの範囲における反射率の最大値と最小値の差が20%以上である請求項16に記載の加飾部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波透過性金属光沢物品、及び、加飾部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁波透過性及び金属光沢を有する部材が、その金属光沢に由来する外観の高級感と、電磁波透過性とを兼ね備えることから、電磁波を送受信する装置に好適に用いられている。
例えば、フロントグリル、エンブレムといった自動車のフロント部分に搭載されるミリ波レーダーのカバー部材に装飾を施した、光輝性と電磁波透過性の双方を兼ね備えた金属光沢物品が求められている。
【0003】
ミリ波レーダーは、ミリ波帯の電磁波(周波数約77GHz、波長約4mm)を自動車の前方に送信し、ターゲットからの反射波を受信して、反射波を測定、分析することで、ターゲットとの距離や、ターゲットの方向、サイズを計測することができるものである。
計測結果は、車間計測、速度自動調整、ブレーキ自動調整などに利用することができる。
このようなミリ波レーダーが配置される自動車のフロント部分は、いわば自動車の顔であり、ユーザに大きなインパクトを与える部分であるから、金属光沢調のフロント装飾で高級感を演出することが好ましい。しかしながら、自動車のフロント部分に金属を使用した場合には、ミリ波レーダーによる電磁波の送受信が実質的に不可能、或いは、妨害されてしまう。したがって、ミリ波レーダーの働きを妨げることなく、自動車の意匠性を損なわせないために、光輝性と電磁波透過性の双方を兼ね備えた金属光沢物品が必要とされている。
【0004】
この種の金属光沢物品は、ミリ波レーダーのみならず、通信を必要とする様々な機器、例えば、スマートキーを設けた自動車のドアハンドル、車載通信機器、携帯電話、パソコン等の電子機器等への応用が期待されている。更に、近年では、IoT技術の発達に伴い、従来は通信等行われることがなかった、冷蔵庫等の家電製品、生活機器等、幅広い分野での応用も期待されている。
【0005】
金属光沢部材に関して、特開2007-144988号公報(特許文献1)には、クロム(Cr)又はインジウム(In)より成る金属被膜を含む樹脂製品が開示されている。この樹脂製品は、樹脂基材と、当該樹脂基材の上に成膜された無機化合物を含む無機質下地膜と、当該無機質下地膜の上に物理蒸着法により成膜された光輝性及び不連続構造のクロム(Cr)又はインジウム(In)よりなる金属皮膜を含む。無機質下地膜として、特許文献1では、(a)金属化合物の薄膜、例えば、酸化チタン(TiO、TiO、Ti等)等のチタン化合物;酸化ケイ素(SiO、SiO等)、窒化ケイ素(Si等)等のケイ素化合物;酸化アルミニウム(Al)等のアルミニウム化合物;酸化鉄(Fe)等の鉄化合物;酸化セレン(CeO)等のセレン化合物;酸化ジルコン(ZrO)等のジルコン化合物;硫化亜鉛(ZnS)等の亜鉛化合物等、(b)無機塗料の塗膜、例えば、シリコン、アモルファスTiO等(その他、上記例示の金属化合物)を主成分とする無機塗料による塗膜が使用されている。
【0006】
一方、特開2009-298006号公報(特許文献2)には、クロム(Cr)又はインジウム(In)のみならず、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)をも金属膜として形成することができる電磁波透過性光輝樹脂製品が開示されている。
特開2010-5999号公報(特許文献3)には金属膜層を母材シートに形成し、母材シートに、張力を負荷しつつ、加熱処理を行うことによりクラックを有する電磁波透過性の金属膜加飾シートを製造する方法が記載されている。
特許第4601262号公報(特許文献4)には透明樹脂成形品の上に、不連続な膜構造である金属薄膜層による金属発色部分を有する加飾層が積層されたカバーパネルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-144988号公報
【文献】特開2009-298006号公報
【文献】特開2010-5999号公報
【文献】特許第4601262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術における金属光沢物品は、一般的には平滑面に金属層を形成したものである。しかしながら、金属光沢物品の意匠に対するニーズは多様化しており、例えば着色された金属光沢物品も望まれている。
本願発明は、上記に鑑みてなされたものであり、電磁波透過性と高い光輝性を両立し、着色された電磁波透過性金属光沢物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、通常は不連続構造になり難い、例えば、アルミニウム(Al)等その他の金属から成る金属層を不連続構造とし、かつ屈折率1.75以上の高屈折率層を少なくとも1層含む光学調整層を備えることにより電磁波透過性と高い光輝性を両立し、着色された金属外観が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の一態様は、基体と、前記基体上に形成された金属層と、少なくとも1層の光学調整層とを備え、前記金属層は、少なくとも一部において互いに不連続の状態にある複数の部分を含み、前記光学調整層は、屈折率1.75以上の高屈折率層を少なくとも1層含む電磁波透過性金属光沢物品に関する。
【0011】
本発明の電磁波透過性金属光沢物品の一態様において、光学調整層の厚みが10nm~1000nmであってもよい。
【0012】
本発明の電磁波透過性金属光沢物品の一態様において、前記光学調整層が設けられた側の波長380nm~780nmの範囲における反射率の最大値と最小値の差が30%以上であってもよい。
【0013】
本発明の電磁波透過性金属光沢物品の一態様において、前記基体と前記金属層の間に、酸化インジウム含有層をさらに備えることが好ましい。
【0014】
本発明の電磁波透過性金属光沢物品の一態様において、前記酸化インジウム含有層は連続状態で設けられていることが好ましい。
【0015】
本発明の電磁波透過性金属光沢物品の一態様において、前記酸化インジウム含有層は、酸化インジウム(In)、インジウム錫酸化物(ITO)、又はインジウム亜鉛酸化物(IZO)のいずれかを含むことが好ましい。
【0016】
本発明の電磁波透過性金属光沢物品の一態様において、前記酸化インジウム含有層の厚さは、1nm~1000nmであることが好ましい。
【0017】
本発明の電磁波透過性金属光沢物品の一態様において、前記金属層の厚さは、20nm~100nmであることが好ましい。
【0018】
本発明の電磁波透過性金属光沢物品の一態様において、前記金属層の厚さと前記酸化インジウム含有層の厚さとの比(前記金属層の厚さ/前記酸化インジウム含有層の厚さ)は、0.02~100であってもよい。
【0019】
本発明の電磁波透過性金属光沢物品の一態様において、前記複数の部分は島状に形成されていてもよい。
【0020】
本発明の電磁波透過性金属光沢物品の一態様において、シート抵抗が、100Ω/□以上であることが好ましい。
【0021】
本発明の電磁波透過性金属光沢物品の一態様において、前記金属層は、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、銅(Cu)、銀(Ag)、又はこれらの合金のいずれかであることが好ましい。
【0022】
本発明の電磁波透過性金属光沢物品の一態様において、前記基体は、基材フィルム、樹脂成型物基材、ガラス基材、又は金属光沢を付与すべき物品のいずれかであることが好ましい。
【0023】
本発明の電磁波透過性金属光沢物品の一態様において、透明粘着剤からなる粘着剤層をさらに備えることが好ましい。
【0024】
本発明の一態様は、被着部材と、前記電磁波透過性金属光沢物品とを備え、前記電磁波透過性金属光沢物品が前記粘着剤層を介して前記被着部材に貼付されている加飾部材に関する。
【0025】
本発明の加飾部材の一態様において、前記被着部材側における反射光のCIE-Lab表色系において、a値及びb値の二乗和の平方根が5.0以上であることが好ましい。
【0026】
本発明の加飾部材の一態様において、前記被着部材側の波長380nm~780nmの範囲における反射率の最大値と最小値の差が20%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、電磁波透過性と高い光輝性を両立し、着色された金属外観を有する電磁波透過性金属光沢物品、及び金属薄膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、本発明の一実施形態による電磁波透過性金属光沢物品の概略断面図である。
図2図2は、本発明の一実施形態による電磁波透過性金属光沢物品の概略断面図である。
図3図3は、本発明の一実施形態による電磁波透過性金属光沢物品の表面の電子顕微鏡写真を示す図である。
図4図4は、本発明の一実施形態による加飾部材の概略断面図である。
図5図5は、本発明の一実施形態による加飾部材の概略断面図である。
図6図6は、実施例5と比較例1の加飾部材の波長380nm~780nmの範囲における可視光線の波長と反射率(%)との関係を示す図である。
図7図7は、実施例1~7、比較例1及び2の加飾部材のa値とb値との関係を示す図である。
図8図8は、本発明の一実施形態による電磁波透過性金属光沢物品の金属層の膜厚の測定方法を説明するための図である。
図9図9は、本発明の一実施形態における金属層の断面の透過型電子顕微鏡写真(TEM画像)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の一つの好適な実施形態について説明する。以下においては、説明の便宜のために本発明の好適な実施形態のみを示すが、勿論、これによって本発明を限定しようとするものではない。
【0030】
<1.基本構成>
図1に、本発明の一実施形態による電磁波透過性金属光沢物品(以下、「金属光沢物品」という。)1の概略断面図を示し、図3に、本発明の一実施形態による金属光沢物品1の表面の電子顕微鏡写真(SEM画像)を示す。また、図9に、本発明の一実施形態における島状構造の金属層11の断面図の透過型電子顕微鏡写真(TEM画像)を示す。
【0031】
金属光沢物品1は、基体10と、基体10の上に形成された、金属層12と、光学調整層13とを含む。
【0032】
金属層12は基体10の上に形成される。金属層12は複数の部分12aを含む。金属層12におけるこれらの部分12aは、少なくとも一部において互いに不連続の状態、言い換えれば、少なくとも一部において隙間12bによって隔てられる。隙間12bによって隔てられるため、金属光沢物品のシート抵抗は大きくなり、電波との相互作用が低下するため、電波を透過させることができる。これらの各部分12aは金属を蒸着、スパッタ等することによって形成されたスパッタ粒子の集合体であってもよい。
【0033】
尚、本明細書でいう「不連続の状態」とは、隙間12bによって互いに隔てられており、この結果、互いに電気的に絶縁されている状態を意味する。電気的に絶縁されることにより、シート抵抗が大きくなり、所望とする電磁波透過性が得られることになる。すなわち、不連続の状態で形成された金属層12によれば、十分な光輝性が得られやすく、電磁波透過性を確保することもできる。不連続の形態は、特に限定されるものではなく、例えば、島状構造、クラック構造等が含まれる。ここで「島状構造」とは、図3に示されているように、金属粒子同士が各々独立しており、それらの粒子が、互いに僅かに離間し又は一部接触した状態で敷き詰められてなる構造を意味する。
【0034】
クラック構造とは、金属薄膜がクラックにより分断された構造である。
クラック構造の金属層12は、例えば基材フィルム上に金属薄膜層を設け、屈曲延伸して金属薄膜層にクラックを生じさせることにより形成することができる。この際、基材フィルムと金属薄膜層の間に伸縮性に乏しい、即ち延伸によりクラックを生成しやすい素材からなる脆性層を設けることにより、容易にクラック構造の金属層12を形成することができる。
【0035】
上述のとおり金属層12が不連続となる態様は特に限定されないが、生産性の観点からは島状構造とすることが好ましい。
【0036】
金属光沢物品1の電磁波透過性は、例えば電波透過減衰量により評価することができる。
なお、マイクロ波帯域(5GHz)における電波透過減衰量とミリ波レーダーの周波数帯域(76~80GHz)における電波透過減衰量との間には相関性があり、比較的近い値を示すことから、マイクロ波帯域における電磁波透過性に優れる金属光沢物品は、ミリ波レーダーの周波数帯域における電磁波透過性にも優れる。
マイクロ波帯域(5GHz)における電波透過減衰量は、10[-dB]以下であることが好ましく、5[-dB]以下であるのがより好ましく、2[-dB]以下であることが更に好ましい。10[-dB]より大きいと、90%以上の電波が遮断されるという問題がある。
【0037】
金属光沢物品1のシート抵抗も電磁波透過性と相関を有する。
金属光沢物品1のシート抵抗は100Ω/□以上であることが好ましく、この場合マイクロ波帯域(5GHz)における電波透過減衰量は、10~0.01[-dB]程度となる。
金属光沢物品1のシート抵抗は200Ω/□以上であることが更に好ましく、600Ω/□以上であることがより更に好ましい。
また、特に好ましくは、1000Ω/□以上である。
金属光沢物品1のシート抵抗は、JIS-Z2316-1:2014に従って渦電流測定法により測定することができる。
【0038】
金属光沢物品の電波透過減衰量及びシート抵抗は、金属層12の材質や厚さ等により影響を受ける。
また、金属光沢物品1が酸化インジウム含有層11を備える場合には酸化インジウム含有層11の材質や厚さ等によっても影響を受ける。
【0039】
本実施形態にかかる電磁波透過性金属光沢物品において、光学調整層が設けられた側の波長380nm~780nmの範囲における反射率の最大値と最小値の差が30%以上であることが好ましい。反射率の最大値と最小値の差が30%以上であると、金属外観の着色を濃いものとすることができる。着色の濃さの観点から、35%以上であることがより好ましく、40%以上であることが更に好ましい。なお、反射率の最大値と最小値の差の上限は特に制限されない。反射率は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0040】
<2.基体>
本実施形態にかかる電磁波透過性金属光沢物品において、基体10としては、電磁波透過性の観点から、樹脂、ガラス、セラミックス等が挙げられる。
基体10は、基材フィルム、樹脂成型物基材、ガラス基材、又は金属光沢を付与すべき物品のいずれかであってもよい。
より具体的には、基材フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリスチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン、ポリシクロオレフィン、ポリウレタン、アクリル(PMMA)、ABSなどの単独重合体や共重合体からなる透明フィルムを用いることができる。
【0041】
これらの部材によれば、光輝性や電磁波透過性に影響を与えることもない。但し、酸化インジウム含有層11や金属層12を後に形成する観点から、蒸着やスパッタ等の高温に耐え得るものであることが好ましく、従って、上記材料の中でも、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、アクリル、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ABS、ポリプロピレン、ポリウレタンが好ましい。なかでも、耐熱性とコストとのバランスがよいことからポリエチレンテレフタレートやシクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、アクリルが好ましい。
【0042】
基材フィルムは、単層フィルムでもよいし積層フィルムでもよい。加工のし易さ等から、厚さは、例えば、6μm~250μm程度が好ましい。酸化インジウム含有層11や金属層12との付着力を強くするために、プラズマ処理や易接着処理などが施されてもよい。
基体10が基材フィルムの場合、金属層12は基材フィルム上の少なくとも一部に設ければよく、基材フィルムの片面のみに設けてもよく、両面に設けてもよい。
【0043】
基材フィルムは、必要に応じて平滑性、或いは防眩性ハードコート層が形成されていてもよい。ハードコート層が設けられることにより、金属薄膜の擦傷性を向上させる事ができる。平滑性ハードコート層が設けられることにより、金属光沢感が増し、逆に防眩性ハードコート層によりギラツキを防止する事が出来る。ハードコート層は、硬化性樹脂を含有する溶液を塗布する事により形成できる。
【0044】
硬化性樹脂としては、熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂等が挙げられる。硬化性樹脂の種類としてはポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、アミド系、シリコーン系、シリケート系、エポキシ系、メラミン系、オキセタン系、アクリルウレタン系等の各種の樹脂があげられる。これら硬化性樹脂は、一種または二種以上を、適宜に選択して使用できる。これらの中でも、硬度が高く、紫外線硬化が可能で生産性に優れることから、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、およびエポキシ系樹脂が好ましい。
【0045】
ここで、基材フィルムは、その表面上に金属層12を形成することができる対象(基体10)の一例にすぎない点に注意すべきである。基体10には、上記のとおり基材フィルムの他、樹脂成型物基材、ガラス基材、金属光沢を付与すべき物品それ自体も含まれる。樹脂成型物基材、及び金属光沢を付与すべき物品としては、例えば、車両用構造部品、車両搭載用品、電子機器の筐体、家電機器の筐体、構造用部品、機械部品、種々の自動車用部品、電子機器用部品、家具、台所用品等の家財向け用途、医療機器、建築資材の部品、その他の構造用部品や外装用部品等が挙げられる。
【0046】
金属層12は、これら全ての基体上に形成することができ、基体の表面の一部に形成してもよく、基体の表面の全てに形成してもよい。この場合、金属層12を付与すべき基体10は、上記の基材フィルムと同様の材質、条件を満たしていることが好ましい。
【0047】
<3.酸化インジウム含有層>
また、一実施形態に係る金属光沢物品1は、図2に示されるように、基体10と金属層12の間に、酸化インジウム含有層11をさらに備えてもよい。酸化インジウム含有層11は、基体10の面に直接設けられていてもよいし、基体10の面に設けられた保護膜等を介して間接的に設けられてもよい。酸化インジウム含有層11は、金属光沢を付与すべき基体10の面に連続状態で、言い換えれば、隙間なく、設けられるのが好ましい。連続状態で設けられることにより、酸化インジウム含有層11、ひいては、金属層12や金属光沢物品1の平滑性や耐食性を向上させることができ、また、酸化インジウム含有層11を面内ばらつきなく成膜することも容易となる。
【0048】
このように、基体10と金属層12の間に、酸化インジウム含有層11をさらに備えること、すなわち、基体10の上に酸化インジウム含有層11を形成し、その上に金属層12を形成することによれば、金属層12を不連続の状態で形成しやすくなるため好ましい。そのメカニズムの詳細は必ずしも明らかではないが、金属の蒸着やスパッタによるスパッタ粒子が基体上で薄膜を形成する際には、基体上での粒子の表面拡散性が薄膜の形状に影響を及ぼし、基体の温度が高く、基体に対する金属層の濡れ性が小さく、金属層の材料の融点が低い方が不連続構造を形成しやすいと考えられる。そして、基体上に酸化インジウム含有層を設けることにより、その表面上の金属粒子の表面拡散性が促進されて、金属層を不連続の状態で成長させやすくなると考えられる。
【0049】
酸化インジウム含有層11として、酸化インジウム(In)そのものを使用することもできるし、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)や、インジウム亜鉛酸化物(IZO)のような金属含有物を使用することもできる。但し、第二の金属を含有したITOやIZOの方が、スパッタリング工程での放電安定性が高い点で、より好ましい。これらの酸化インジウム含有層11を用いることにより、基体の面に沿って連続状態の膜を形成することもでき、また、この場合には、酸化インジウム含有層の上に積層される金属層を、例えば、島状の不連続構造としやすくなるため、好ましい。更に、後述するように、この場合には、金属層に、クロム(Cr)又はインジウム(In)だけでなく、通常は不連続構造になり難く、本用途には適用が難しかった、アルミニウム等の様々な金属を含めやすくなる。
【0050】
ITOに含まれる酸化錫(SnО)の質量比率である含有率(含有率=(SnO/(In+SnO))×100)は特に限定されるものではないが、例えば、2.5wt%~30wt%、より好ましくは、3wt%~10wt%である。また、IZOに含まれる酸化亜鉛(ZnO)の質量比率である含有率(含有率=(ZnO/(In+ZnO))×100)は、例えば、2wt%~20wt%である。
酸化インジウム含有層11の厚さは、シート抵抗や電磁波透過性、生産性の観点から、通常1000nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましく、20nm以下が更に好ましい。一方、積層される金属層12を不連続状態としやすくするためには、1nm以上であることが好ましく、確実に不連続状態にしやすくするためには、2nm以上であることがより好ましく、5nm以上であることが更に好ましい。
【0051】
<4.金属層>
金属層12は基体上に形成され、少なくとも一部において互いに不連続の状態にある複数の部分を含む。
金属層12が基体上で連続状態である場合、十分な光輝性は得られるものの、電波透過減衰量が非常に大きくなり、従って、電磁波透過性を確保することはできない。
【0052】
金属層12が基体上で不連続状態となるメカニズムの詳細は必ずしも明らかではないが、おおよそ、次のようなものであると推測される。即ち、金属層12の薄膜形成プロセスにおいて、不連続構造の形成しやすさは、金属層12が付与される基体上での表面拡散と関連性があり、基体の温度が高く、基体に対する金属層の濡れ性が小さく、金属層の材料の融点が低い方が不連続構造を形成しやすい、というものである。従って、以下の実施例で特に使用したアルミニウム(Al)以外の金属についても、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、銅(Cu)、銀(Ag)などの比較的融点の低い金属については、同様の手法で不連続構造を形成しうると考えられる。
【0053】
ここで、複数の部分12aの平均粒径とは、複数の部分12aの円相当径の平均値を意味する。部分12aの円相当径とは、部分12aの面積に相当する真円の直径のことである。複数の部分12aの平均粒径は、実施例の欄に記載する方法で測定することができる。
金属層12の部分12aの円相当径は特に限定されないが、通常10~1000nm程度である。また、各部分12a同士の距離は特に限定されないが、通常は10~1000nm程度である。
【0054】
金属層が含む互いに不連続の状態にある複数の部分12aの平均粒径を上記の範囲とすることにより、高い電磁波透過性を維持したまま、光輝性がより向上できる。
【0055】
金属層12は、十分な光輝性を発揮し得ることは勿論、融点が比較的低いものであることが望ましい。金属層12は、スパッタリングを用いた薄膜成長によって形成するのが好ましいためである。このような理由から、金属層12としては、融点が約1000℃以下の金属が適しており、例えば、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、銅(Cu)、銀(Ag)から選択された少なくとも一種の金属、および該金属を主成分とする合金のいずれかを含むことが好ましい。特に、物質の光輝性や安定性、価格等の理由からAlおよびそれらの合金が好ましい。また、アルミニウム合金を用いる場合には、アルミニウム含有量を50質量%以上とすることが好ましい。
【0056】
金属層12の厚さは、十分な光輝性を発揮するように、通常20nm以上が好ましく、一方、シート抵抗や電磁波透過性の観点から、通常100nm以下が好ましい。例えば、20nm~100nmが好ましく、30nm~70nmがより好ましい。この厚さは、均一な膜を生産性良く形成するのにも適しており、また、最終製品である樹脂成形品の見栄えも良い。なお、金属層12の厚さは実施例の欄に記載の方法で測定できる。
【0057】
また、同様の理由から、金属層の厚さと酸化インジウム含有層の厚さとの比(金属層の厚さ/酸化インジウム含有層の厚さ)は、0.1~100の範囲が好ましく、0.3~35の範囲がより好ましい。
【0058】
金属層のシート抵抗は、100Ω/□以上であるのが好ましい。この場合、電磁波透過性は、5GHzの波長において、10~0.01[-dB]程度となる。更に好ましくは、1000Ω/□以上である。
【0059】
酸化インジウム含有層を更に設ける場合、金属層と酸化インジウム含有層の積層体としてのシート抵抗は、100Ω/□以上であるのが好ましい。この場合、電磁波透過性は、5GHzの波長において、10~0.01[-dB]程度となる。更に好ましくは、1000Ω/□以上である。このシート抵抗の値は、金属層の材質や厚さは勿論のこと、下地層である酸化インジウム含有層の材質や厚さからも大きな影響を受ける。よって、酸化インジウム含有層を設ける場合は、酸化インジウム含有層との関係も考慮したうえで設定する必要がある。
【0060】
<5.光学調整層>
光学調整層は、屈折率1.75以上の高屈折率層を少なくとも1層含む。
光学調整層は、金属層12が視認される側に設けることが好ましく、金属層12上に直接設けても、他の層を介して設けてもよい。例えば、一実施形態に係る金属光沢物品1においては、図1に示されるように、金属層12の基体10側と反対の面上に設けてもよく、図2に示されるように金属層12と基体10との間に設けてもよい。なお、光学調整層13を金属層12上に直接設ける場合、光学調整層13は金属層12上に積層されていればよく、必ずしも隙間12bを完全に埋めていなくてもよい。
【0061】
高屈折率層の屈折率が1.75以上であると着色した金属外観が得られ意匠性に優れた金属光沢物品とすることができる。より色味の濃い金属外観を得るには、高屈折率層の屈折率は1.8以上が好ましく、1.9以上がより好ましい。また、厚み制御性の観点から、3.5以下が好ましく、3.0以下がより好ましい。
光学調整層は少なくとも1層の屈折率の異なる層の積層体であってもよい。
高屈折率層の材料としては、例えば、CeO(2.30)、Nd(2.15)、Nb(2.20)、SiN(2.03)、Sb(2.10)、TiO(2.35)、Ta(2.10)、ZrO(2.05)、ZnO(2.10)、ZnS(2.30)などの無機物〔上記各材料の括弧内の数値は屈折率である〕や、その混合物が好ましく、酸化ニオブ(Nb)又はSiN(2.03)が好ましい。
【0062】
光学調整層の厚みは、10nm~1000nmであることが好ましい。コストの観点から、800nm以下であることがより好ましく、500nm以下であることが更に好ましい。また、色味の観点から、15nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることが更に好ましい。
【0063】
<6.粘着剤層>
粘着剤層14は、透明粘着剤からなる層である。本実施形態の金属光沢物品1は、粘着剤層14を介して被着部材15に貼付されて用いられてもよい。例えば、基体10が基材フィルムやガラス基材の場合、粘着剤層14を介して透明な被着部材15に貼付することで被着部材15を内側から装飾することができる。
【0064】
粘着剤層14を形成する粘着剤は透明粘着剤であれば特に限定されず、例えばアクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、エポキシ系粘着剤、及びポリエーテル系粘着剤のいずれかを単独で、或いは、2種類以上を組み合わせて使用することができる。透明性、加工性及び耐久性などの観点から、アクリル系粘着剤を用いることが好ましい。
【0065】
粘着剤層14の厚みは特に限定されないが、薄くすることで可視光透過性や膜厚精度、平坦性を向上させることができるため、100μm以下であることが好ましく、75μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。
【0066】
粘着剤層14全体の全光線透過率は特に限定はされないが、JIS K7361に従って測定した任意の可視光波長における値で10%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。粘着剤層14の全光線透過率は、高いほど好ましい。
【0067】
また、粘着剤層14を構成する透明粘着剤は着色されていてもよい。
この場合、金属層12が着色された粘着剤層14を通して視認されることとなるので、着色された金属光沢を発現することができる。
【0068】
透明粘着剤を着色する方法は特に限定されないが、例えば色素を微量添加することにより着色することができる。
【0069】
粘着剤層14の上には、被着部材15に貼付する際まで粘着剤層14を保護するために、剥離ライナーを設けてもよい。
【0070】
本実施形態の金属光沢物品には、本発明の効果を奏する限りにおいて上述の金属層12、酸化インジウム含有層11、光学調整層13、粘着剤層14の他に、用途に応じてその他の層を設けてもよい。その他の層としては色味等の外観を調整するための高屈折材料等の光学調整層(色味調整層)、耐湿性や耐擦傷性等の耐久性を向上させるための保護層(耐擦傷性層)、バリア層(腐食防止層)、易接着層、ハードコート層、反射防止層、光取出し層、アンチグレア層等が挙げられる。
【0071】
<7.金属光沢物品の製造>
金属光沢物品1の製造方法の一例について、説明する。特に説明しないが、基材フィルム以外の基体を用いた場合についても同様の方法で製造することができる。
【0072】
基体10上に金属層12を形成するにあたっては、例えば、真空蒸着、スパッタリング等の方法を用いることができる。
光学調整層13の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、塗工法等が挙げられ、材料の種類及び必要とする膜厚に応じて適宜の方法を採用することができる。
【0073】
また、基体10上に酸化インジウム含有層11を形成する場合には、金属層12の形成に先立ち、酸化インジウム含有層11を、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等によって形成する。但し、大面積でも厚さを厳密に制御できる点から、スパッタリングが好ましい。
【0074】
粘着剤層14を設ける場合には、粘着剤層14を設ける面に粘着剤組成物を塗布等することにより形成できる。
粘着剤組成物の塗布は、慣用のコーター、例えば、グラビヤロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーターなどを用いて行うことができる。乾燥温度は、適宜採用可能であるが、好ましくは40℃~200℃であり、さらに好ましくは、50℃~180℃であり、特に好ましくは70℃~120℃である。乾燥時間は、適宜、適切な時間が採用され得る。上記乾燥時間は、好ましくは5秒~20分、さらに好ましくは5秒~10分、特に好ましくは、10秒~5分である。
【0075】
尚、基体10と金属層12の間に酸化インジウム含有層11を設ける場合、酸化インジウム含有層11と金属層12の間には、他の層を介在させずに直接接触させるのが好ましい。
【0076】
<8.加飾部材>
本実施形態に係る加飾部材は、被着部材と、上述の電磁波透過性金属光沢物品とを備え、前記電磁波透過性金属光沢物品(金属光沢物品1)が前記粘着剤層を介して前記被着部材に貼付されている。
【0077】
金属光沢物品1は、透明な被着部材2の内側の面に貼付して用いてもよい。透明な被着部材15としては、例えば、ガラスやプラスチックからなる部材を使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0078】
図4に、本発明の一実施形態による加飾部材2の概略断面図を示す。本発明の一実施形態による加飾部材2は、金属光沢物品1が被着部材15に貼付された状態の概略断面図である。本実施形態の加飾部材2は、金属層12、酸化インジウム含有層11、光学調整層13、基体10(基材フィルム)、及び粘着剤層14を備えた金属光沢物品1が被着部材15に貼付されている。
【0079】
図5は、本発明の一実施形態による加飾部材の概略断面図である。加飾部材2は、図5に示す構成の金属光沢物品1が被着部材15に貼付されている。図5では金属光沢物品1が透明な被着部材15の視認される側(以下、外側ともいう)の面2aとは反対側(以下、内側ともいう)の面2bに対して粘着剤層14を介して貼付されており、被着部材15及び粘着剤層14を通して光学調整層13と、金属層12が視認される。すなわち、本実施形態の金属光沢物品1は、透明な被着部材15を内側から装飾することができる。
本実施形態の加飾部材2は、金属光沢物品1を被着部材15の内側に貼付して得られるため傷つきにくく着色された金属外観が得られる。また、被着部材15の質感をそのまま活かしつつ被着部材15を装飾することができる。
【0080】
金属光沢物品1を被着部材2に貼付する方法は特に限定されないが、例えば真空成形により貼付することができる。真空成形とは、金属光沢物品1を加熱軟化しつつ展張し、金属光沢物品1の被着部材側の空間を減圧し、必要に応じ反対側の空間を加圧することにより、金属光沢物品1を被着部材の表面の三次元立体形状に沿って成形しつつ貼付積層する方法である。
金属光沢物品1としては、上述の説明をそのまま援用し得る。
【0081】
本実施形態に係る加飾部材は、被着部材側における反射光のCIE-L表色系において、a値及びb値の二乗和の平方根が5.0以上であることが好ましい。a値及びb値の二乗和の平方根が5.0以上であると着色が十分となるためである。a値及びb値の二乗和の平方根は、10以上であることがより好ましく、15以上であることが更に好ましい。a値及びb値の二乗和の平方根の上限値に特に制限はないが、70以下であることが好ましく、65以下であることがより好ましく、60以下であることが更に好ましい。
【0082】
CIE-L表色系は、CIE(国際照明委員会)が1976年に推奨した表色系で、Lは明度を表わし、0から100までで数値が大きいほど明るくなる。色度はa、bで表わし、aは色調の赤から緑の度合いを示す指数であり、aの値がプラス方向に大きいと赤色の色調になる。さらに、bは色調の黄から青の度合いを示す指数である。a、bともに0の場合には無彩色となる。
【0083】
本実施形態に係る加飾部材2は、被着部材側の波長380nm~780nmの範囲における反射率の最大値と最小値の差が20%以上であることが好ましい。着色の濃さの観点から、35%以上であることがより好ましく、40%以上であることが更に好ましい。
反射率の最大値と最小値の差の上限値に特に制限はないが、90%以下であることが好ましく、85%以下であることがより好ましく、80%以下であることが更に好ましい。
【0084】
<9.金属光沢物品及び加飾部材の用途>
本実施形態の金属光沢物品及び金属薄膜は、電磁波透過性を有することから電磁波を送受信する装置や物品及びその部品等に使用することが好ましい。例えば、車両用構造部品、車両搭載用品、電子機器の筐体、家電機器の筐体、構造用部品、機械部品、種々の自動車用部品、電子機器用部品、家具、台所用品等の家財向け用途、医療機器、建築資材の部品、その他の構造用部品や外装用部品等が挙げられる。
より具体的には、車両関係では、インスツルメントパネル、コンソールボックス、ドアノブ、ドアトリム、シフトレバー、ペダル類、グローブボックス、バンパー、ボンネット、フェンダー、トランク、ドア、ルーフ、ピラー、座席シート、ステアリングホイール、ECUボックス、電装部品、エンジン周辺部品、駆動系・ギア周辺部品、吸気・排気系部品、冷却系部品等が挙げられる。
電子機器および家電機器としてより具体的には、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、電子レンジ、エアコン、照明機器、電気湯沸かし器、テレビ、時計、換気扇、プロジェクター、スピーカー等の家電製品類、パソコン、携帯電話、スマートフォン、デジタルカメラ、タブレット型PC、携帯音楽プレーヤー、携帯ゲーム機、充電器、電池等電子情報機器等が挙げられる。
【実施例
【0085】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。金属光沢物品を準備し、反射率、CIE-L表示系におけるa値、及びb値、電波透過減衰量(-dB)、シート抵抗を評価した。なお、基体10としては、基材フィルムを用いた。
電波透過減衰量は、電磁波透過性に関する評価である。電波透過減衰量の値は小さい方が好ましい。
評価方法の詳細は以下のとおりである。
【0086】
(1)分光反射率
日立ハイテク社製の分光光度計U-4100を用いて、波長380nm~780nmの範囲の可視光線について5nm間隔で、金属光沢物品の一方の面に照射して反射した光の分光反射率を測定した。
なお、測定する際は、被着部材表面に対して上記可視光線を入射させるようにし、表1に反射率(糊有り)として記載した。また、表1には、波長380nm~780nmの範囲の分光反射率(%)の最大値(max)、最小値(min)、及び最大値(max)と最小値(min)との差を示した。
【0087】
(2)CIE-L表示系におけるa値及びb
上記分光光度計U-4100で測定した波長380~780nmの分光反射率と、CIE標準イルミナントD65の相対分光分布を用いて、CIE-L表示系におけるa値、及びb値を計算した。a値、b値、及び、a値及びb値の二乗和の平方根を表1に示した。
【0088】
(3)電波透過減衰量
5GHzにおける電波透過減衰量を、方形導波管測定評価治具WR-187でサンプルを挟み、アンリツ社製スペクトルアナライザMS4644Bを用いて測定した。
【0089】
(4)シート抵抗
ナプソン社製非接触式抵抗測定装置NC-80MAPを用い、JIS-Z2316に準拠し、渦電流測定法により金属層と酸化インジウム含有層の積層体としてのシート抵抗を測定した。
このシート抵抗は、100Ω/□以上であることが好ましく、200Ω/□以上であるのがより好ましく、更に600Ω/□以上であることが更に好ましい。100Ω/□より小さいと、充分な電磁波透過性が得られないという問題がある。
【0090】
(5)膜厚の評価方法
まず、金属光沢物品から、図8に示すように一辺5cmの正方形領域3を適当に抽出し、該正方形領域3の縦辺及び横辺それぞれの中心線A、Bをそれぞれ4等分することによって得られる計5箇所の点「a」~「e」を測定箇所として選択した。
次いで、選択した測定箇所それぞれにおける、図9に示すような断面画像(透過型電子顕微鏡写真(TEM画像))を測定し、得られたTEM画像から、5個以上の金属の部分12aが含まれる視野角領域を抽出した。
5箇所の測定箇所それぞれにおいて抽出された視野角領域における金属層の総断面積を視野角領域の横幅で割ったものを各視野角領域の金属層の膜厚とし、5箇所の測定箇所それぞれにおける、各視野角領域の金属層の膜厚の平均値を金属光沢層厚み(nm)とした。
【0091】
[実施例1]
基材フィルムとして、三菱樹脂社製PETフィルム(厚さ50μm)の一方の面に厚み2000μmの熱硬化樹脂を形成したフィルムを用いた。
先ず、DCマグネトロンスパッタリング装置にITOターゲットを取り付け、ArガスとOガスを導入しながらスパッタリングをする事で基材フィルムの面に沿って、5nmの厚さのITO層を直接形成した。ITO層を形成する際の基材フィルムの温度は、130℃に設定した。ITOに含まれる酸化錫(SnО)の含有率(含有率=(SnO/(In+SnO))×100)は10wt%である。
【0092】
交流スパッタリング装置(AC:40kHz)にアルミニウム(Al)ターゲットを取り付け、Arガスを導入しながらスパッタリングする事でITO層の上に、35nmの厚さのAl層(金属層)を形成した。得られたAl層は不連続層であった。Al層を形成する際の基材フィルムの温度は、130℃に設定した。
【0093】
(光学調整層の形成)
次いで、交流スパッタリング装置にNbターゲット(AC:40kHz)を取り付けて、ArガスとOガスを導入しながらスパッタリングする事で、Al層上に光学調整層として110nmのNb層を成膜した。
【0094】
以上により基材フィルム、酸化インジウム含有層、金属層、光学調整層の積層体(以下、積層体)を得た。得られた積層体(金属光沢物品)の反射率を上記の方法により測定し、表1に反射率(糊無し)として記載した。
【0095】
<粘着剤組成物の製造>
一方、冷却管、窒素導入管、温度計および撹拌装置を備えた反応容器にアクリル酸ブチル100質量部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル0.01質量部、およびアクリル酸5部を含有するモノマー混合物を仕込んだ。さらに、前記モノマー混合物100質量部に対して、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.1質量部を酢酸エチル100質量部と共に仕込み、緩やかに攪拌しながら窒素ガスを導入して窒素置換した後、反応容器内の液温を55℃付近に保って8時間重合反応を行って、重量平均分子量(Mw)180万、Mw/Mn=4.1のアクリル系ポリマーの溶液(固形分濃度30質量%)を調製した。
得られたアクリル系ポリマー溶液の固形分100質量部に対して、ベンゾイルパーオキサイド(日本油脂社製、ナイパーBMT)を0.3質量部、イソシアネート系架橋剤(東ソー社製、コロネートL)を1質量部配合して粘着剤組成物を得た。
【0096】
<金属光沢物品の製造>
上記で得られた積層体の金属層側の面に対して、上記で得られた粘着剤組成物をハンドローラーで塗布して粘着剤層を形成することで、着色された金属光沢を有する金属光沢物品を得た。
【0097】
<加飾部材の製造>
被着部材として、厚み1.2mmのガラスを用いた。
上記で得られた金属光沢物品の粘着剤層側を被着部材に貼付し、加飾部材を得た。
【0098】
[実施例2~5]
実施例1における光学調整層の厚み(nm)を表1に記載のとおりに変更し、加飾部材を得た。
【0099】
[実施例6及び7]
実施例1における光学調整層の形成時に、Siターゲットを交流スパッタリング装置に取り付け、ArガスとNガスを導入しながらスパッタリングすることで、Al層上にSiN(光学調整層)を表1に記載の膜厚で成膜したこと以外は実施例1と同様にして加飾部材を得た。
【0100】
[比較例1]
実施例1における光学調整層を設けなかったこと以外は実施例1と同様にして加飾部材を得た。
【0101】
[比較例2]
実施例1における光学調整層を酸化ニオブ(Nb)から、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ケイ素(SiOx)及び酸化アルミニウム(Al)の混合物(質量比で、酸化亜鉛:酸化ケイ素:酸化アルミニウム=77:20:3)の焼結体に変更し、スパッタリング装置をDCスパッタリング装置に変更したこと以外は実施例1と同様にして加飾部材を得た。
【0102】
以下の表1に、評価結果を示す。また、実施例5と比較例1の加飾部材の波長380nm~780nmの範囲における可視光線の波長と反射率(%)との関係を図6に示した。また、実施例1~7、比較例1及び2の加飾部材のa値とb値との関係を図7に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
表1から明らかなように、実施例1~7では、屈折率1.75以上の高屈折率層を含むことから、そのCIE-Lab表色系におけるa値及びb値の二乗和の平方根が13~30となり、着色された金属光沢物品及び加飾部材が得られた。また、アルミニウム層は不連続な状態に形成された複数の部分12aを含むことから、電磁波透過性について良好な結果が得られた。
一方、比較例1及び2の金属光沢物品及び加飾部材は、反射率の差が小さかった。また、a値及びb値の二乗和の平方根も小さく、着色が不十分となった。
【0105】
なお、以上の実施例で特に使用したアルミニウム(Al)以外の金属についても、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)、銅(Cu)、銀(Ag)などの比較的融点の低い金属については、同様の手法で不連続構造を形成しうると考えられる。
【0106】
本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明に係る金属光沢物品は、電磁波を送受信する装置や物品及びその部品等に使用することができる。例えば、車両用構造部品、車両搭載用品、電子機器の筐体、家電機器の筐体、構造用部品、機械部品、種々の自動車用部品、電子機器用部品、家具、台所用品等の家財向け用途、医療機器、建築資材の部品、その他の構造用部品や外装用部品等、意匠性と電磁波透過性の双方が要求される様々な用途にも利用できる。
【符号の説明】
【0108】
1 金属光沢物品
2 加飾部材
10 基体
11 酸化インジウム含有層
12 金属層
12a 部分
12b 隙間
13 光学調整層
14 粘着剤層
15 被着部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9