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特許7319087回転電機及びこの回転電機を用いたインホイールモータ
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  • 特許-回転電機及びこの回転電機を用いたインホイールモータ 図1
  • 特許-回転電機及びこの回転電機を用いたインホイールモータ 図2
  • 特許-回転電機及びこの回転電機を用いたインホイールモータ 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】回転電機及びこの回転電機を用いたインホイールモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 21/22 20060101AFI20230725BHJP
【FI】
H02K21/22 M
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019090939
(22)【出願日】2019-05-13
(65)【公開番号】P2020188563
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】西出 哲弘
(72)【発明者】
【氏名】兼重 宙
(72)【発明者】
【氏名】角振 正浩
(72)【発明者】
【氏名】咲山 隆
(72)【発明者】
【氏名】岩城 翔
(72)【発明者】
【氏名】平田 智士
(72)【発明者】
【氏名】石川 弘二
(72)【発明者】
【氏名】谷口 翔
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-148516(JP,A)
【文献】特開2012-097730(JP,A)
【文献】特開2012-017736(JP,A)
【文献】特開2002-281722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電機子コイルを有する固定子と、前記固定子に対して所定のギャップを介して回転自在に配置されると共に前記固定子に対向する磁石を有する回転子とを備えた回転電機において、
前記固定子は、回転軸方向に移動可能な移動機構に取り付けられ、
前記移動機構は、前記固定子を貫通する軸部材と、前記軸部材の外周面に組み付けられたボールスプラインナット部材及びボールねじナット部材と、前記ボールねじナット部材に回転力を付与する駆動源とを備え、
前記軸部材の外周面には、前記回転子を回転可能に保持する複数の転動体が組み付けられると共に、該転動体が転走可能な転走溝が形成され
前記転走溝は、前記ボールスプラインナット部材が軸方向に沿って移動可能に組み付けられるボールスプライン溝と、前記ボールねじナット部材が軸方向に沿って移動可能に組み付けられる螺旋状のボールねじ溝とを有し、前記ボールスプライン溝と前記ボールねじ溝とは互いに隣接して配置されることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機において、
前記転走溝は、前記回転軸方向に沿って一対形成され、
前記転走溝に対応する対向転走溝を有するハブ部材を備えることを特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項に記載の回転電機において、
前記ハブ部材は、前記固定子、前記回転子及び前記移動機構を収納するケース部材に取り付けられることを特徴とする回転電機。
【請求項4】
請求項1からの何れか1項に記載の回転電機を用いたインホイールモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁束可変機構を有する回転電機及び、この回転電機を用いたインホイールモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、回転電機の低速及び高速での出力を調整することで、回転速度に応じた出力特性を得ることができる回転電機が知られている。このような回転電機は種々の構造が知られているが、例えば、固定子と、固定子に対して同軸をなして回転自在に設けられた回転子と、回転子に対する固定子の軸方向での相対位置を変化させる移動手段とを有し、固定子に電機子コイル及びコアが設けられ、コアに対峙するようにマグネットが設けられた回転電機が知られている。
【0003】
このような回転電機によれば、低速回転時には、固定子と回転子の対向面積が大きくなるように移動手段によって固定子を軸方向に移動させて固定子を通過する有効磁束が大きくなるようにして高トルク化を図り、高速回転時には、固定子と回転子との対向面積を少なくするように固定子を移動させて固定子を通過する有効磁束が小さくなるようにして高速回転を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-148516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の回転電機によれば、移動手段は、駆動モータなどのアクチュエータによって固定子を移動可能としているが、アクチュエータの駆動軸が回転電機の回転軸と同軸に配置されておらず、駆動軸と回転軸が互いに略平行に配置されているため、取付スペースが2軸分必要となることから、小型化を図ることが難しく、アクチュエータの駆動によって回転軸に曲げモーメントが作用し、当該曲げモーメントによって回転軸を回転支持する軸受等が早期に破損するという問題があった。
【0006】
また、このような回転軸を回転支持する軸受の早期破損を防止するために、アクチュエータの駆動軸と回転電機の回転軸を同軸に配置することも考えられるが、そのように配置した場合には、部品重量の増加に伴って慣性モーメントも増加するため、必要な回転速度までの到達時間が遅いという問題もあった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために成されたものであって、回転電機の小型化を図ると共に、部品重量を低減して必要な回転速度までの到達時間を短縮することができる回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明に係る回転電機は、電機子コイルを有する固定子と、前記固定子に対して所定のギャップを介して回転自在に配置されると共に前記固定子に対向する磁石を有する回転子とを備えた回転電機において、前記固定子は、回転軸方向に移動可能な移動機構に取り付けられ、前記移動機構は、前記固定子を貫通する軸部材と、前記軸部材の外周面に組み付けられたボールスプラインナット部材及びボールねじナット部材と、前記ボールねじナット部材に回転力を付与する駆動源とを備え、前記軸部材の外周面には、前記回転子を回転可能に保持する複数の転動体が組み付けられると共に、該転動体が転走可能な転走溝が形成され、前記転走溝は、前記ボールスプラインナット部材が軸方向に沿って移動可能に組み付けられるボールスプライン溝と、前記ボールねじナット部材が軸方向に沿って移動可能に組み付けられる螺旋状のボールねじ溝とを有し、前記ボールスプライン溝と前記ボールねじ溝とは互いに隣接して配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る回転電機によれば、移動機構は、固定子を貫通する軸部材と、軸部材の外周面に組み付けられたボールスプラインナット部材及びボールねじナット部材と、ボールねじナット部材に回転力を付与する駆動源とを備え、軸部材の外周面には、回転子を回転可能に保持する複数の転動体が組み付けられると共に、該転動体が転走可能な転走溝が形成されるので、回転電機の小型化を図ると共に、移動機構の構成部品の部品重量を低減させることができ、必要な回転速度までの到達時間を早めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る回転電機の軸方向断面図。
図2】本発明の実施形態に係る回転電機の移動機構の構成図。
図3】本発明の実施形態に係る回転電機の軸方向の断面図であって、固定子を可動子に対して抜き出した状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る回転電機の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る回転電機の軸方向断面図であり、図2は、本発明の実施形態に係る回転電機の移動機構の構成図であり、図3は、本発明の実施形態に係る回転電機の軸方向の断面図であって、固定子を可動子に対して抜き出した状態を示す図である。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係る回転電機10は、自動車等の車輪1に組み込まれる所謂インホイールモータとして用いられると好適である。車輪1は、自動車の車体に取り付けられると共に、車輪1を回転可能に支持する車軸4と、ホイール3とホイール3の外周面に取り付けられたゴムなどの弾性体からなるタイヤ2とを備えている。
【0014】
本実施形態に係る回転電機10は、ホイール3の内部に配置されており、回転電機10の回転力をホイール3に伝達することで、当該回転電機10が取り付けられる自動車の駆動力を発生させている。
【0015】
本実施形態に係る回転電機10は、図示しないコアに線材が巻回された電機子コイルが周方向に沿って配置される固定子11と、固定子11に対して所定のギャップを介して回転自在に配置される回転子12とを備えている。なお、電機子コイルの巻回方法は、従来周知の種々の巻き方を採用することが可能である。
【0016】
回転子12は、導電性のある金属などからなるバックヨーク13と、固定子11に対向するように配置された磁石14を有しており、バックヨーク13はホイール3に取り付けられたホイールハウジング15に組み付けられており、ホイール3は、回転子12の回転に伴って回転する。なお、固定子11と回転子12の対向面は、車軸4の回転軸方向に対して交差する方向に延びる斜面を有するようにそれぞれ傾斜して形成されている。
【0017】
ホイールハウジング15は、中空の円盤状部材であって、バックヨーク13の径方向に延びるフランジ部を挟み込むように組み付けられている。また、ホイールハウジング15の内部には、後述する移動機構20が収納されている。さらに、ホイールハウジング15は、軸方向の両端に組み付けられたハブ部材16によって車軸4に対して回転可能に組み付けられている。
【0018】
また、固定子11は、車軸4の軸方向に移動可能な移動機構20に取り付けられている。移動機構20は、車軸4が固定子11の回転中心軸と同軸に配置され、車軸4の外周面に回転不能に組み付けられたボールスプラインナット部材24と、車軸4の外周面に回転可能に組み付けられたボールねじナット部材25とを備えている。
【0019】
また、ボールねじナット部材25は、出力軸に歯車28が取り付けられた駆動源としての駆動モータ27によって回転力が付与されるように構成されている。このように構成されることで、駆動モータ27が回転することにより歯車28が回転し、歯車28がボールねじナット部材25の外周面と歯合することでボールねじナット部材25へ駆動モータ27の回転力を伝達している。
【0020】
図2に示すように、車軸4は、軸方向に貫通孔21が形成された中空軸であり、外表面の軸方向一端側に軸方向に沿って形成されるボールスプライン溝22が形成され、他端側に螺旋状のボールねじ溝23が形成されている。ボールスプライン溝22およびボールねじ溝23は、車軸4の中央近傍で互いに隣接して形成されている。このようにボールスプライン溝22とボールねじ溝23を互いに隣接して配置することで、移動機構20の必要なストローク量の確保を図っている。
【0021】
また、車軸4の外表面には、後述する転動体が転走可能な一対の転走溝29,29が形成されている。転走溝29は、車軸4の周方向に沿って形成されており、車軸4の軸方向端側に形成されている。すなわち、転走溝29は、ボールスプライン溝22及びボールねじ溝23のそれぞれよりも軸端側に配置されており、一対の転走溝29の間にボールスプライン溝22及びボールねじ溝23が配置されている。
【0022】
ボールスプラインナット部材24は、円筒状の部材であって、内周に車軸4が挿通される。また、ボールスプラインナット部材24の内周面には、車軸4のボールスプライン溝22に対応する第2ボールスプライン溝24aが形成されており、ボールスプライン溝22及び第2ボールスプライン溝24aの間には、図示しない転動体等を介在させることで、車軸4の軸方向にボールスプラインナット部材24が移動可能に組み付けられている。また、ボールスプラインナット部材24の一端は、ベアリング26の内輪に挿入されていると共に、図1に示すように固定子11の移動基部30に取り付けられている。
【0023】
ボールねじナット部材25は、内周にボールねじ溝23に対応する螺旋状の第2ボールねじ溝25aが形成された環状部材であり、外周面に歯車28が歯合する第3ねじ溝25bが形成されている。第2ボールねじ溝25aとボールねじ溝23の間には図示しない転動体などを介在させることで、ボールねじナット部材25は車軸4に対して回転可能に組み付けられている。
【0024】
また、ボールねじナット部材25の一端側には、ベアリング26の内輪に挿入される縮径部25cが形成されており、当該縮径部25cをベアリング26に挿入した状態で、ボールねじナット部材25はベアリング26の内輪に組み付けられている。
【0025】
また、図1に示すように、ハブ部材16の車軸4が挿入される挿入孔の内周面には、車軸4の外表面に形成された転走溝29に対応する第2転走溝33が形成されており、転走溝29及び第2転走溝33の間には複数の転動体32が配列されている。
【0026】
このように構成された本実施形態に係る回転電機10は、移動機構20の駆動モータ27を回転させて歯車28を介してボールねじナット部材25を回転させると、ボールねじナット部材25が車軸4に形成されたボールねじ溝23に沿って軸方向に移動する。ボールねじナット部材25は、ベアリング26を介してボールスプラインナット部材24に組み付けられているので、移動基部30は固定子11と共に軸方向に移動される。
【0027】
このように、本実施形態に係る回転電機10は、移動機構20の駆動モータ27によってボールねじナット部材25を回転移動させることで、固定子11を回転子12に対して抜き差しするように軸方向に移動可能となっているため、固定子11の回転子12に対する相対位置に応じて出力特性を可変することができる。
【0028】
より具体的には、固定子11を回転子12に対して最も挿入した状態においては、固定子11と回転子12の対向面積が最も大きく、固定子11と回転子12の間のギャップも最も小さい状態であることから、回転電機10の出力特性は、高トルク・低回転となる。このような状態では、自動車の発進時など速度は遅いが高トルクが必要な場合に最も出力特性が適した状態となる。
【0029】
また、この状態では、逆起電力が上昇することから電機子コイル11aへの給電を停止し、車輪1を制動させる減速時には、逆起電力が上昇することで、効率的に発電を行うことができ、高効率の回生ブレーキとして作用させることが可能となる。
【0030】
これに対し、駆動モータ27を回転させてボールねじナット部材25に回転力を付与すると、図3に示すように、ボールねじナット部材25の回転に伴って、ボールねじナット部材25が車軸4のボールねじ溝23に沿って回転しながら軸方向へ移動する。
【0031】
さらに移動機構20を駆動させると、固定子11が回転子12から最も抜き出された状態となり、固定子11と回転子12の対向面積は最も小さく、固定子11と回転子12の間のギャップが最も大きな状態となる。この状態では、逆起電力が下降し、回転電機10の出力特性は、低トルク・高回転となる。このように固定子11を回転子12から最も抜き出した状態では、トルクを必要としない高速走行時に最も出力特性が適した状態となる。
【0032】
なお、固定子11と回転子12の対向面が共に斜面として構成されているため、固定子11が軸方向に抜き出されることにより、斜面の傾斜に倣って固定子11と回転子12のギャップも大きくなるように構成されている。さらに、固定子11の移動量は、駆動モータ27によるボールねじナット部材25の回転量によって無段階に調整することができるので、固定子11と回転子12の対向面積及びギャップも固定子11の移動量に応じて無段階に調整することができる。
【0033】
このように構成された本実施形態に係る回転電機10は、車軸4にボールスプライン溝22、ボールねじ溝23及び転走溝29を形成しているので、車軸4、ボールスプラインナット部材24、ボールねじナット部材25の径を小さくすることができ、回転電機10の小型化を図ることができる。また、この小型化に伴って、駆動モータ27等を同時にホイールハウジング15内に収納することができるので、移動機構20のシール性を向上させて天候に左右されずに回転電機10を駆動させることができると共に、動作している移動機構20を直接触れることによる怪我等の防止を図ることができる。
【0034】
さらに、本実施形態に係る回転電機10は、ホイールハウジング15の軸方向両端に配置されたハブ部材16によって車軸4に対して回転保持されているので、ハブ部材16を小型化することで回転電機10の軽量化を図ることができ、軽量化に伴って必要な回転数までの到達時間を早くして応答性能を向上させることができる。
【0035】
さらに、回転軸と駆動軸とを同軸に配置しているので、回転電機10の小型化を図ることが可能となる。さらに、本実施形態に係る回転電機10は、ボールねじナット部材25と車軸4の外表面に形成されたボールねじ溝23による減速効果を有することから駆動モータ27の出力を小さくすることが可能となり、当該駆動モータ27を小型化することで、回転電機10の更なる小型化を図ることが可能となる。
【0036】
さらに、移動機構20は、ボールねじナット部材25及びボールスプラインナット部材24によって固定子11の移動を行っているため、応答性がよく高エネルギー効率の固定子11の移動制御を行うことが可能となる。また、移動機構20による移動量は、ボールねじナット部材25の回転量によって制御しているので、求められる出力特性に応じて固定子11の位置を任意に設定することで、最も適した出力特性で回転電機10を駆動させることが可能となる。
【0037】
なお、上述した実施形態においては、車軸4とボールスプラインナット部材24並びにボールねじナット部材25は、転動体を介して組み付けた場合について説明を行ったが、これらの部材は、転動体を介さずに互いに滑り合うように組み付けても構わない。また、上述した本実施形態に係る回転電機10においては、本実施形態に係る回転電機10を自動車の車輪1に適用した場合について説明を行ったが、その用途は自動車に限られず、例えば、風力発電機やプレス加工機などに適用しても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0038】
4 車軸, 10 回転電機, 11 固定子, 12 回転子, 20 移動機構, 24 ボールスプラインナット部材, 25 ボールねじナット部材, 27 駆動源, 29 転走溝。
図1
図2
図3