IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイハツ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-多気筒内燃機関のシリンダヘッド 図1
  • 特許-多気筒内燃機関のシリンダヘッド 図2
  • 特許-多気筒内燃機関のシリンダヘッド 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】多気筒内燃機関のシリンダヘッド
(51)【国際特許分類】
   F02F 1/24 20060101AFI20230725BHJP
   F02F 11/00 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
F02F1/24 Z
F02F11/00 P
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019118639
(22)【出願日】2019-06-26
(65)【公開番号】P2021004572
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 貫志
(72)【発明者】
【氏名】菊川 哲史
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-047001(JP,A)
【文献】特開平08-151955(JP,A)
【文献】米国特許第04545101(US,A)
【文献】特開2008-303856(JP,A)
【文献】特開2004-197678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00
F02F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒に対応した複数の排気ポートと、前記排気ポートを上から覆う排気側上部冷却水ジャケットと、シリンダブロックの上面に固定するためのヘッドボルトの群とを備えており、
排気側面に、前記排気ポートと連通した1つ又は複数の排気出口が開口して、前記排気出口は排気通路に接続されている多気筒内燃機関のシリンダヘッドであって、
前記排気ポートよりも上側の部位が排気ガスの熱によってクランク軸線方向に熱膨張することを促進する加熱通路が、前記排気ポートの中途部から前記排気側上部冷却水ジャケットの上方を通って前記排気側面に開口するように形成されており、前記加熱通路の終端と前記排気通路とが切り替えバルブを備えたバイパス通路によって接続されている、
多気筒内燃機関のシリンダヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多気筒内燃機関のシリンダヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
多気筒内燃機関は、複数の気筒がクランク軸線方向に並べて形成されているシリンダブロックと、その上面にヘッドボルトで固定されたシリンダヘッドと、シリンダヘッドの上面に固定されたヘッドカバーと、シリンダブロック及びシリンダヘッドの前面に重ね固定されたフロントカバー(チェーンケース)とを備えている。
【0003】
そして、運転に際してシリンダヘッドが最も多くの熱を受けるため、シリンダヘッドが最も多く熱膨張する傾向があり、このため、シリンダヘッドとシリンダブロックとの熱膨張量の違いに起因した不具合が生じている。
【0004】
例えば、シリンダヘッドがクランク軸線方向にシリンダブロックよりも多く熱膨張することによってフロントカバーに曲げ力が作用するという不具合があり、この点について特許文献1には、シリンダヘッドとフロントカバーとの合わせ面に液状ガスケットを介在させることにより、シリンダブロックとシリンダヘッドとの熱膨張差を吸収することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-151955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおり、シリンダヘッドはシリンダブロックよりも多く熱膨張するが、シリンダヘッドは上部よりも下部が多く受熱するため、クランク軸線及び気筒軸線と直交した方向から見て、シリンダヘッドが熱膨張によって上側に反る現象が発生しやすい。また、排気側と吸気側とについて見ると、排気側において多く熱膨張するという現象があり、従って、シリンダヘッドは、排気側の前後コーナー部がシリンダブロックから最も高く離反するように反り変形する傾向を呈する。
【0007】
そこで、シリンダブロックとシリンダヘッドとの合わせ面にも、金属製ガスケットに加えて液状ガスケットを設け、シリンダヘッドが反り変形してもシール性を確保できるように配慮されているが、暖機運転時に高速走行や登坂走行のような高負荷運転がされると、シリンダヘッドのうちシリンダブロックに近い下部が急激に加熱されることにより、シリンダヘッドの反り現象が顕著に現れて、液状ガスケットを介在させてもシール性を確保できない事態が生じることがあった。
【0008】
本願発明は、このような現状を改善することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、
複数の気筒に対応した複数の排気ポートと、前記排気ポートを上から覆う排気側上部冷却水ジャケットと、シリンダブロックの上面に固定するためのヘッドボルトの群とを備えており、
排気側面に、前記排気ポートと連通した1つ又は複数の排気出口が開口して、前記排気出口は排気通路に接続されている多気筒内燃機関のシリンダヘッドであって、
前記排気ポートよりも上側の部位が排気ガスの熱によってクランク軸線方向に熱膨張することを促進する加熱通路が、前記排気ポートの中途部から前記排気側上部冷却水ジャケットの上方を通って前記排気側面に開口するように形成されており、前記加熱通路の終端と前記排気通路とが切り替えバルブを備えたバイパス通路によって接続されている
という構成になっている。
【0010】
本願発明において、シリンダブロックの上面とは、シリンダブロックのうちクランク軸と反対側に位置した面という意味であり、縦型の内燃機関の場合は鉛直方向の上を向いた面になっているが、大きくスラントしている内燃機関の場合は、必ずしも鉛直方向の上にはなっていない場合もある。排気ポートよりも上側の部位も同様である。
【0011】
本願発明において、加熱される部位(被加熱部)は1か所でもよいし、クランク軸線方向に離れた複数箇所であってもよい。更に、被加熱部がクランク軸線方向に長く延びる形態になっていてもよい。
【0012】
更に、シリンダヘッドの反り現象は暖機運転時の高負荷運転状態に顕著に現れており、シリンダヘッドが全体的に温まると反り現象は低下するため、本願発明では、暖機運転時の高負荷運転状態でのみ排気ガスが流れるように、バルブによって排気ガスの流れを切り替えることも可能である。
【発明の効果】
【0013】
本願発明では、シリンダヘッドのうち排気ポートよりも上側の部位の被加熱部が加熱通路を通る排気ガスによって加熱されることにより、シリンダヘッドの下部と上部との熱膨張の違いを抑制できる。従って、シリンダヘッドが反り変形することを防止又は大幅に抑制できる。その結果、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間に過剰な隙間が発生して、排気ガスが漏洩したりオイルが滲み出たりする不具合を防止できる。
【0014】
また、熱源として排気ガスを使用するものであるため、例えば電熱ヒータによって加熱する場合のような燃費低下の問題が発生することはない。むしろ、シリンダヘッドの被加熱部が動弁室に近い部位に位置することにより、加熱手段によってオイルの昇温が促進されるため、メカロスの低減を通じて燃費の向上に貢献できる。また、本願発明では、高温の排気ガスを利用して加熱するため、シリンダヘッド上部の加熱の応答性にも優れており、従って、反り変形抑制効果を確実化できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態を排気側面と直交した方向から見た概略側面図である。
図2図1のII-II 視縦断面図である。
図3】(A)は第1参考例の縦断面図であり、(B)は第2参考例の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下では、方向を特定するため前後・左右の文言を使用するが、前後方向はクランク軸線方向であり、タイミングチェーンが配置されている側を前、変速機が配置されている側を後ろとしている。念のため,図1に方向を明示している。
【0017】
左右方向は,クランク軸線及び気筒軸線と直交した方向である。上下方向は気筒軸線方向であって必ずしも鉛直方向と一致しない。但し、本実施形態の内燃機関は、排気側が前傾するように若干の角度だけスラントしているものの基本的には縦型であり、従って、上下方向は鉛直方向とみなして差し支えない。
【0018】
(1).施形態の基本構造
実施形態は自動車用の3気筒内燃機関に適用している。従って、内燃機関は、図1のとおり、3つの気筒2が形成されたシリンダブロック1と、シリンダブロック1の上面に固定されたシリンダヘッド3と、シリンダブロック1及びシリンダヘッド3の前面に跨がった状態で重ね配置されたフロントカバー4と、シリンダヘッド3及びフロントカバー4の上面に重ね固定されたヘッドカバー5とを備えている。
【0019】
シリンダヘッド3の下面には、各気筒2に対応して屋根形の燃焼室6が形成されており、各燃焼室6に、吸気側面に開口した吸気ポート(図示せず)の群と、排気側面7に向けて開口した一対ずつの排気ポート8(図2参照)の群とが開口している。排気ポート8は、シリンダヘッド3の内部に形成された排気集合通路9に連通しており、シリンダヘッド3の排気側面7には、排気集合通路9と連通した1つの排気出口10が開口している。
【0020】
排気出口10は、シリンダヘッド3の排気側面7に形成した取り付け座11に開口しており、取り付け座11に、排気通路を構成するエルボ形の排気継手管12がフランジ接合によって固定されている。排気継手管12には触媒ケース(図示せず)が接続されている。
【0021】
取り付け座11に排気ターボ過給機を固定することも可能である。排気ターボ過給機を固定する場合は、触媒ケースは排気ターボ過給機の出口に接続されるが、排気ターボ過給機の出口は後ろ向きに開口するため、仮に排気出口10が排気側面7の前後中間部に位置していると、触媒ケースがシリンダブロック1の後ろにはみ出てしまう。
【0022】
そこで、本実施形態では、排気出口10を前側にずらして配置することにより、排気ターボ過給機を取り付けた場合であっても、触媒ケースがシリンダブロック1の後ろにはみ出ないように配慮している。
【0023】
図2に示すように、シリンダヘッド3の内部には、冷却手段として、排気ポート8及び排気集合通路9を上下から挟むように配置された2層式の排気側冷却水ジャケット13,14と、吸気ポートの群の上下(又は他方)に位置した吸気側冷却水ジャケット15とが形成されている。図2において、符号16で示すのはセンター冷却水ジャケット、符号17で示すのはカム軸の軸受部、符号18で示すのは排気バルブ配置通路である。
【0024】
(2).加熱手段
本実施形態では、加熱手段として、排気出口10の近傍部において1つの排気ポート8から上方に向かう加熱通路19を形成している。加熱通路19は、排気ポート8の中途から上に延びて排気側上部冷却水ジャケット13の上に至り、シリンダヘッド3の長手側壁20よりも僅かに下方の部位において排気側面7に開口している。従って、シリンダヘッド3は、その前後中途部が、排気ポート8及び排気側上部冷却水ジャケット13よりも上の部位において加熱される。
【0025】
加熱通路19の出口と排気継手管12とはパイバスパイプ21によって接続されており、パイバスパイプ21に、電磁式等の切り替えバルブ22を設けている。切り替えバルブ22は、ECU(エンジン・コントロール・ユニット)によって制御される。排気継手管12は触媒ケースの上流側に位置しているので、加熱通路19を通過した排気ガスは、排気通路のうち触媒ケースよりも上流側の部位に戻される。実施形態の加熱通路19は鋳造によって形成しているが、ドリル加工によって形成することも可能である。
【0026】
さて、シリンダヘッド3は下部が排気ガスによって強く加熱されるため、上部と下部との温度差に起因した熱膨張量の違いにより、図1に一点鎖線で誇張して示すように、排気側において下面が上に向けて反り変形する現象が発生する。特に、暖機運転時において登坂走行のような高負荷運転がされると、シリンダヘッド3の上部と下部との温度差が大きくなって反り変形が顕著に現れるため、反り変形に伴う隙間が大きくなって、液状ガスケットであっても追従できずにシール不良状態になることがある。
【0027】
そこで、本実施形態では、暖機運転時に、切り替えバルブ22を開くことによって排気ガスの一部を加熱通路19に流し、これにより、排気ポート8よりも上の部分を加熱する。すると、シリンダヘッド3のうち排気ポート8よりも上の部分の熱膨張量が増大することにより、シリンダヘッド3の上部と下部とのクランク軸線方向の熱膨張量の違いを少なくして、反り変形の程度を小さくできる。これにより、シリンダヘッド3とシリンダブロック1との間の隙間を、液状ガスケットによってシールできる範囲に保持して高いシール性を確保できる。
【0028】
本実施形態では、加熱通路19は1箇所のみに設けているが、各気筒に対応した3箇所に設けるなど、クランク軸線方向に離れた複数箇所に設けることも可能であり、このように複数箇所に設けると、シリンダヘッド3の上部と下部との熱膨張量の違いを更に低減できる。複数箇所に加熱通路19を形成する場合、パイバスパイプ21を1本に纏めて排気継手管12に接続して、1本に纏めた部位に切り替えバルブ22を設けたらよい。
【0029】
更に、他の態様として、加熱通路19をクランク軸線方向に長く延びる状態に形成することも可能であり、この場合は、上部と下部との熱膨張の違いを更に縮小できるため、反り変形の抑制効果は更に向上する。また、加熱通路19は、上下に高さを変えて複数箇所に設けることも可能である。
【0030】
切り替えバルブ22は、負荷センサに連動させて、冷却水温度が設定値よりも低い暖機運転時でかつ予め設定された値よりも大きい負荷が掛かったときに開くように設定してもよいし、運転と同時に開くように設定してもよい。
【0031】
(3).参考例
図3(A)に示す第1参考例では、加熱手段として、内部に熱交換媒体が封入されたヒートパイプ23を使用している。すなわち、ヒートパイプ23は、内部において熱交換媒体が一端部23aと他端部23bとの間を循環できるようになっており、一端部23aはホルダー24を介して排気継手管12に接続されて、他端部23bはシリンダヘッド3の上部(例えば長手側壁20)に接続されている。
【0032】
そして、機関の運転によって排気継手管12は高温になるのに対して、シリンダヘッド3の上部は昇温しないため、熱交換媒体が排気継手管12から受熱してシリンダヘッド3に向けて移動し、他端部23bにおいてシリンダヘッド3に放熱して一端部23aに戻るという循環を繰り返すことにより、シリンダヘッド3の上部が加熱されて、シリンダヘッド3の上部とは下部との熱膨張量の差を小さくできる。
【0033】
参考例のように、排気継手管12とヒートパイプ23との接続手段として筒状のホルダー24を使用すると、排気継手管12からヒートパイプ23への伝熱量を多くできて好適である。また、図3(A)に一点鎖線で示すように、ヒートパイプ23の一端部23aを排気継手管12の内部に突出させることによっても、排気継手管12からヒートパイプ23への伝熱量を多くできる。
【0034】
ヒートパイプ23は、その一端部23aと他端部23bとの温度差が小さくなると媒体の循環速度は低下して、温度差が無くなると媒体の循環は停止する。従って、切り替えバルブ22を設けなくても、シリンダヘッド3の加熱を自動的に停止又は抑制できる。
【0035】
図3(B)に示すのは第1参考例の変形例である第2参考例であり、この例では、排気継手管12に接続された1本のヒートパイプ23を3本に分岐させて、各分岐部をシリンダヘッド3の3か所に接続している。シリンダヘッド3の複数箇所をヒートパイプ23で加熱する場合、分岐方式でなく、個別にヒートパイプ23を使用してもよい。
【0036】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、本願発明は、排気側面に各気筒に対応して排気出口を開口させて、排気ガスを排気マニホールドに集合させているタイプにも適用できる。この場合は、バイパスパイプは、排気マニホールドに接続してもよいし触媒ケースの上部に接続してもよい。
排気側面に排気ターボ過給機を接続している場合は、バイパスパイプやヒートパイプは、排気ターボ過給機を構成するタービンハウジングに接続してもよい、
【産業上の利用可能性】
【0037】
本願発明は、シリンダヘッドに具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0038】
1 シリンダブロック
2 気筒(シリンダボア)
3 シリンダヘッド
7 排気側面
8 排気ポート
9 排気集合通路
10 排気出口
12 排気継手管
19 加熱手段を構成する加熱通路
21 加熱手段を構成するバイパスパイプ
22 切り替えバル
図1
図2
図3