(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】作業車両におけるRTK-GNSS受信装置
(51)【国際特許分類】
B60R 11/02 20060101AFI20230725BHJP
G01S 19/43 20100101ALI20230725BHJP
G01S 19/53 20100101ALI20230725BHJP
G01S 19/14 20100101ALI20230725BHJP
【FI】
B60R11/02 A
G01S19/43
G01S19/53
G01S19/14
(21)【出願番号】P 2019125168
(22)【出願日】2019-07-04
【審査請求日】2022-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000001878
【氏名又は名称】三菱マヒンドラ農機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】那須 和洋
(72)【発明者】
【氏名】林田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】錦織 将浩
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-070544(JP,A)
【文献】特開2018-114924(JP,A)
【文献】特開2012-202062(JP,A)
【文献】特開2015-024694(JP,A)
【文献】特開2010-268067(JP,A)
【文献】特開平11-168314(JP,A)
【文献】特開2006-115211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 11/02
G01S 19/43
G01S 19/53
G01S 19/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GNSS受信機、可搬型のRTK固定局からの送信情報を受取る特定小電力無線機、タブレット端末と情報をやり取りする近距離無線機、慣性計測装置、並びにこれらの機器によって走行機体の位置情報と方位情報を演算するGNSSコントローラを備えるGNSSユニットと、前記GNSS受信機に接続する位置及び方位用のGNSSアンテナと、前記特定小電力無線機に接続する無線アンテナの夫々を長尺な取付フレームに取付けて受信ユニットとなし、係る受信ユニットを走行機体の上部に取付け
、前記近距離無線機にアンテナを内蔵すると共に、係る近距離無線機を備えるGNSSユニットを前記取付フレームに取付けるに際して、この取付フレームによって近距離無線機のアンテナの電波を遮蔽しないようにGNSSユニットの下方側を開放させて取付けることを特徴とする作業車両におけるRTK-GNSS受信装置。
【請求項2】
GNSS受信機、可搬型のRTK固定局からの送信情報を受取る特定小電力無線機、タブレット端末と情報をやり取りする近距離無線機、慣性計測装置、並びにこれらの機器によって走行機体の位置情報と方位情報を演算するGNSSコントローラを備えるGNSSユニットと、前記GNSS受信機に接続する位置及び方位用のGNSSアンテナと、前記特定小電力無線機に接続する無線アンテナの夫々を長尺な取付フレームに取付けて受信ユニットとなし、係る受信ユニットを走行機体の上部に取付け、前記取付フレームの略中央に無線アンテナとGNSSユニットを取付けると共に、取付フレームの両端寄りに位置及び方位用のGNSSアンテナを取付け
、前記近距離無線機にアンテナを内蔵すると共に、係る近距離無線機を備えるGNSSユニットを前記取付フレームに取付けるに際して、この取付フレームによって近距離無線機のアンテナの電波を遮蔽しないようにGNSSユニットの下方側を開放させて取付けることを特徴とする作業車両におけるRTK-GNSS受信装置。
【請求項3】
前記GNSSユニットにGNSS受信機や近距離無線機の初期化状態等を表示するディスプレイを設け、このディスプレイをGNSSユニットの下面に設けて、前記取付フレームに遮られることなく下面側から視認可能になすことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の作業車両におけるRTK-GNSS受信装置。
【請求項4】
前記GNSSユニットを収容するケースの開口する下面を透明樹脂板によって蓋することを特徴とする請求項
1から請求項3の何れか1つに記載の作業車両におけるRTK-GNSS受信装置。
【請求項5】
操縦部を覆うキャビンの左右支柱の上部寄りに作業灯の取付部を設け、係る作業灯の取付部に前記受信ユニットの長尺な取付フレームの両端に設ける脚部を取付けて、キャビンのルーフより受信ユニットが上方に位置するように設けることを特徴とする請求項
1から請求項4の何れか1つに記載の作業車両におけるRTK-GNSS受信装置。
【請求項6】
前記特定小電力無線機に接続する無線アンテナをキャビンのルーフより上方に設けると共に、この無線アンテナを可倒式のアンテナで構成することを特徴とする請求項5に記載の作業車両におけるRTK-GNSS受信装置。
【請求項7】
前記受信ユニットの取付フレームをキャビンの左右支柱の作業灯の取付部に位置調節自在に取付け、キャビンのルーフより上方に設ける受信ユニットの位置を一括して調節可能になすことを特徴とする請求項
5又は請求項6に記載の作業車両におけるRTK-GNSS受信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタや乗用型田植機等の主に農業用の作業車両におけるRTK-GNSS受信装置に関し、詳しくは、リアルタイムキネマティック(RTK:Real Time Kinematic)による全地球航法衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)によって作業車両の位置や方位を測定する際に用いるRTK-GNSS受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
農業用の作業車両にあっては圃場内で耕起作業や苗の植付作業等を行う。また、作業車両はその作業走行を行う場合、走行機体をできるだけ真っすぐに且つ一定の作業間隔で走行させることが未作業領域や重複作業領域を減らして作業能率を向上させるうえで重要である。そこで、昨今、作業車両の現在位置、作業軌跡及び作業目標経路等を表示して、作業者はその情報に基づいて作業車両を走行させることで無駄のない高精度な作業の実践を支援するナビゲーションシステムが開発されている。
【0003】
そして、このナビゲーションシステムは例えば、GNSSアンテナとGNSS受信機、及びアップデート可能なナビゲーションソフトをインストールしたタブレット端末等によって構成し、ここでGNSSアンテナとGNSS受信機は、複数の航法衛星から電波で送信された航法信号を受信する。また、GNSS受信機はその航法信号に基づいて測位計算を行い作業車両の位置座標を求める。
【0004】
さらに、この位置座標はタブレット端末に取り込まれ、タブレット端末は作業開始時に手動操舵によってティーチング走行を行った際の位置座標等から作業方位を得て、次回以降の作業目標経路を演算する。また、タブレット端末は作業車両の現在位置と作業目標経路と作業目標経路からの偏差等を自らのディスプレイに数値とともにグラフィック表示して作業者による直進走行のサポートを行う。
【0005】
なお、このような農業用作業車両の作業走行を支援するナビゲーションシステムは、高精度の農作業を行うために位置情報のリアルタイムの取得精度が数センチメートル以下となることが要求されると共に、システムとして安価に提供されることが望ましい。そこで、GNSSの測位方式として2つ以上のGNSS受信機を用いて位置情報の精度を高めるリアルタイムキネマティック(RTK:Real Time Kinematic)が採用される。
【0006】
そして、このRTK-GNSSは、既知の位置座標を持つ1つ以上のGNSS受信機(固定局)から受信情報を得て作業車両に設けるGNSS受信機(移動局)によって取得される位置情報を補正する。また、RTK-GNSSの形態としてネットワーク型が知られている。しかし、ネットワーク型RTK-GNSSは、情報提供会社との契約と通信回線が必要となって高価になり易く、対して可搬型のGNSS受信機を固定局とすると初期投資は必要になるがランニングコストがあまり掛からないので比較的安価に導入することができる。
【0007】
そこで、これらを考慮して可搬型のGNSS受信機をRTK固定局とするRTK-GNSSの基にナビゲーションシステムを構築すると、少なくとも固定局と移動局にそれぞれGNSSアンテナとGNSS受信機を設けると共に、RTK固定局から移動局に受信情報を発信する特定小電力無線機を設ける必要がある。また、RTK固定局から移動局に発信された受信情報に基づいて得られた位置情報を作業車両の操縦部に設けるタブレット端末に伝達する近距離無線機等を設ける必要がある。
【0008】
一方、この種の先行技術文献には、トラクタのキャビンルーフの上面にGPSアンテナを取付け、このGPSアンテナによって受信した情報や、受信情報に基づいて処理された制御値等をGPSモニタに表示して、このGPSモニタを見ながら運転操作することが記載されている(特許文献1参照)。また、作業車両の自律走行等に有効な各種のアンテナ機器を作業車両に効率良く搭載することができる作業車両用アンテナユニットが知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第6349996号公報
【文献】特開2018-129654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述のようにRTK-GNSS(RTK-GNSS受信装置)を備えたナビゲーションシステムを作業車両に設け、作業車両の現在位置、作業軌跡及び作業目標経路等を見ながら作業車両を走行させると、無駄のない高精度な作業を行うことができる。また、係るナビゲーションシステムに自動操舵装置を加えて作業車両を作業目標経路に倣って自動操舵させると、作業者は操舵操作から解放されて長時間にわたる作業走行にあっても疲労を軽減でき、また、不慣れな作業者でも熟練者並みの作業走行を行うことができる。
【0011】
そして、このようなナビゲーションシステムをユーザーが導入する場合、ナビゲーションシステムを構成する機器をオプションとして備える新しい作業車両を購入すれば良い。しかし、新しい作業車両をオプションと共に購入するためには当然にして少なからぬ費用が発生するから、既に手持ちの作業車両にナビゲーションシステムを後付けして簡単に取付けることができれば、比較的低コストでナビゲーションシステムを導入することができる。
【0012】
そこで、メーカーとしても購入頂いた作業車両にナビゲーションシステムを簡単に後付けできるようにする必要がある。しかし、ナビゲーションシステムに用いる前述のRTK-GNSS受信装置は、作業車両への搭載状態(例えば、アンテナの配置位置、或いはアンテナや受信機の配置位置)によって取得する位置情報に誤りを発生したり、最悪の場合に位置情報を適正に取得することができず、ナビゲーションが度々中断するといった虞がある。
【0013】
そのため、特許文献1のように唯一、単一のGPSアンテナを設ける場合はいざ知らず、RTK-GNSS受信装置の複数の機器を誤りなく適正な位置に取付けるためにはそれ相応の困難性を伴うという問題がある。その点、特許文献2のようにユニットベースの長手方向にGNSSアンテナ、慣性計測装置、無線通信ユニット、無線通信用アンテナ、及び基準局からの情報を受信する基地局アンテナ等を配置してアンテナユニットになすと、各機器の検出精度を向上し、且つ、無線通信ユニットの通信状態を良好に維持した状態で作業車両に効率良く搭載することができる。
【0014】
しかし、このものでは移動局としての作業車両のアンテナユニットにGNSSアンテナを単体として備えるから、作業車両が圃場に停止している場合は、RTK-GNSSによって作業車両の位置情報は取得することができても方位情報は取得することができない。また、農業用の作業車両の場合、時速0.1キロメートルといった超低速作業(根菜類の収穫作業等)を行うこともあり、このような超低速走行では衛星からの電波のドップラー効果を用いて計算する絶対方位や速度も精度良く検出することができない。
【0015】
そのため、ナビゲーション可能な作業車両の走行速度(車速)に最低速度の制約が課せられ、また、作業車両を自動操舵する際に必要となる方位偏差を高精度で得られず、例えば作業目標経路の直線に対する直線ずれが大きくなって必要な作業精度を確保できない虞がある。さらに、このものでは、GNSS受信信号や慣性計測装置の信号から位置、変位、方位情報を求める制御部を走行機体側に設ける。
【0016】
しかし、この制御部をアンテナユニットに設けないと、アンテナユニットに設けるGNSSアンテナや慣性計測装置を制御部に接続するケーブルが長くなって信号レベルの低下をもたらす虞がある。また、走行機体側に制御部を設ける設置スペースを用意してアンテナユニットとは別にこれを走行機体側に取付ける必要がある。そこで、本発明は係る問題点に鑑み、位置情報と共に方位情報を高精度で得られる受信装置を作業車両に簡単に後付けできるRTK-GNSS受信装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の作業車両におけるRTK-GNSS受信装置は、前述の課題を解決するためGNSS受信機、可搬型のRTK固定局からの送信情報を受取る特定小電力無線機、タブレット端末と情報をやり取りする近距離無線機、慣性計測装置、並びにこれらの機器によって走行機体の位置情報と方位情報を演算するGNSSコントローラを備えるGNSSユニットと、前記GNSS受信機に接続する位置及び方位用のGNSSアンテナと、前記特定小電力無線機に接続する無線アンテナの夫々を長尺な取付フレームに取付けて受信ユニットとなし、係る受信ユニットを走行機体の上部に取付け、前記GNSSユニットにGNSS受信機や近距離無線機の初期化状態等を表示するディスプレイを設け、このディスプレイをGNSSユニットの下面に設けて、前記取付フレームに遮られることなく下面側から視認可能になすことを特徴とする。また、本発明は、前記GNSSユニットを収容するケースの開口する下面を透明樹脂板によって蓋することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の作業車両におけるRTK-GNSS受信装置は、前述の課題を解決するためGNSS受信機、可搬型のRTK固定局からの送信情報を受取る特定小電力無線機、タブレット端末と情報をやり取りする近距離無線機、慣性計測装置、並びにこれらの機器によって走行機体の位置情報と方位情報を演算するGNSSコントローラを備えるGNSSユニットと、前記GNSS受信機に接続する位置及び方位用のGNSSアンテナと、前記特定小電力無線機に接続する無線アンテナの夫々を長尺な取付フレームに取付けて受信ユニットとなし、係る受信ユニットを走行機体の上部に取付け、前記取付フレームの略中央に無線アンテナとGNSSユニットを取付けると共に、取付フレームの両端寄りに位置及び方位用のGNSSアンテナを取付け、前記近距離無線機にアンテナを内臓すると共に、係る近距離無線機を備えるGNSSユニットを前記取付フレームに取付けるに際して、この取付フレームによって近距離無線機のアンテナの電波を遮蔽しないようにGNSSユニットの下方側を開放させて取付け、前記GNSSユニットにGNSS受信機や近距離無線機の初期化状態等を表示するディスプレイを設け、このディスプレイをGNSSユニットの下面に設けて、前記取付フレームに遮られることなく下面側から視認可能になすことを特徴とする。また、本発明は、前記GNSSユニットを収容するケースの開口する下面を透明樹脂板によって蓋することを特徴とする。
【0020】
そして、本発明は、操縦部を覆うキャビンの左右支柱の上部寄りに作業灯の取付部を設け、係る作業灯の取付部に前記受信ユニットの長尺な取付フレームの両端に設ける脚部を取付けて、キャビンのルーフより受信ユニットが上方に位置するように設けることを特徴とする。
【0021】
さらに、本発明は、前記特定小電力無線機に接続する無線アンテナをキャビンのルーフより上方に設けると共に、この無線アンテナを可倒式のアンテナで構成することを特徴とする。また、本発明は、前記受信ユニットの取付フレームをキャビンの左右支柱の作業灯の取付部に位置調節自在に取付け、キャビンのルーフより上方に設ける受信ユニットの位置を一括して調節可能になすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の作業車両におけるRTK-GNSS受信装置によれば、GNSS受信機、可搬型のRTK固定局からの送信情報を受取る特定小電力無線機、タブレット端末と情報をやり取りする近距離無線機、慣性計測装置、並びにこれらの機器によって走行機体の位置情報と方位情報を演算するGNSSコントローラを備えるGNSSユニットと、前記GNSS受信機に接続する位置及び方位用のGNSSアンテナと、前記特定小電力無線機に接続する無線アンテナの夫々を長尺な取付フレームに取付けて受信ユニットとなし、係る受信ユニットを走行機体の上部に取付ける。
【0023】
そのため、RTK固定局を用意したうえで、作業車両の操縦部にタブレット端末を備え、或いはタブレット端末と共に操舵ユニットを取付け、また、走行機体の上部に受信ユニットを取付けることによって、作業車両に高精度の農作業を行う支援システムを比較的安価に装置することができる。また、この支援システムを用いることによって未作業領域や重複作業領域を減らして作業能率を向上させることができる。
【0024】
さらに、受信ユニットにRTK-GNSS受信装置として必要な機器をまとめて設けているから、走行機体の上部にRTK-GNSS受信装置を一括して簡単に取付けることができる。しかも、受信ユニットのGNSSユニットには、走行機体の位置情報と方位情報を演算するGNSSコントローラを備えるから、走行機体側にGNSSコントローラを設ける設置スペースを新たに用意する必要がない。
【0025】
また、GNSSアンテナとGNSS受信機或いは無線アンテナと特定小電力無線機は、互いの間の距離をあまり置かずに受信ユニットにまとめて設け、それにより両者を接続するアンテナケーブルを短くすることができて信号レベルの低下の虞を解消することができる。さらに、受信ユニットに位置及び方位用の2つのGNSSアンテナとGNSS受信機を設けるから、GNSSコントローラはこれらから得た信号を用いて走行機体の方位をリアルタイムで取得することができる。
【0026】
そのため、例えば、検出精度の劣る地磁気センサ等を設けることなく、走行機体の方位を精度よくリアルタイムに取得することができるから、作業車両を停止させたり超低速で走行させても高精度で作業車両の位置と方位情報を得ることができ、例えば、作業車両を直進自動操舵する際にも作業目標経路からの偏差を少なくして必要な作業精度を十分に確保することができる。
【0027】
また、本発明によれば、前記取付フレームの略中央に無線アンテナとGNSSユニットを取付けると共に、取付フレームの両端寄りに位置及び方位用のGNSSアンテナを取付ける。そして、このようになすと位置及び方位用のGNSSアンテナを取付フレームの両端寄りに離して設けることができて、方位情報の必要とする検出精度を確保することができる。
【0028】
さらに、可搬型のRTK固定局からの送信情報を受取る無線アンテナとGNSSユニットに設ける特定小電力無線機を取付フレームの略中央に設けて、周囲からのノイズやマルチパスによるフェージング等を少なくして通信障害を防止する。また、無線アンテナと特定小電力無線機を接続するアンテナケーブルを可及的に短くして、受信した信号レベルの低下を防止することができる。
【0029】
また、本発明によれば、前記近距離無線機にアンテナを内臓すると共に、係る近距離無線機を備えるGNSSユニットを前記取付フレームに取付けるに際して、この取付フレームによって近距離無線機のアンテナの電波を遮蔽しないようにGNSSユニットの下方側を開放させて取付ける。そのため、GNSSユニットに組み込んだ近距離無線機のアンテナと作業車両の操縦部に設けるタブレット端末の近距離無線機のアンテナとの間で行き交う電波が取付フレームに遮られることがないので、通信障害を防止することができる。
【0030】
そして、本発明によれば、前記GNSSユニットにGNSS受信機や近距離無線機の初期化状態等を表示するディスプレイを設け、このディスプレイをGNSSユニットの下面に設けて、前記取付フレームに遮られることなく下面側から視認可能になす。そのため、GNSS受信機や近距離無線機の初期化状態、或いは慣性計測装置のセンサ値等をディスプレイに表示してチェックすることができ、これらの故障の有無等を簡単に調べることができる。
【0031】
また、前述のように近距離無線機のアンテナの電波を遮蔽しないようにGNSSユニットの下方側を開放させ、或いはGNSSユニットに設けるディスプレイを下面側から視認可能になすためにGNSSユニットを収容するケースの下面に開口を設けると、例えば作業車両を高圧洗車する際にその洗車水が開口を通してケース内に入って、GNSSユニットが水を被ることになる。
【0032】
そこで、本発明によれば、前記GNSSユニットを収容するケースの開口する下面を透明樹脂板によって蓋する。そのため、透明樹脂板によって電波を遮蔽したりディスプレイの視認性を阻害したりすることなくケース内への水や塵埃の侵入を防止することができ、それによってGNSSユニットの故障を防止することができる。
【0033】
さらに、本発明によれば、操縦部を覆うキャビンの左右支柱の上部寄りに作業灯の取付部を設け、係る作業灯の取付部に前記受信ユニットの長尺な取付フレームの両端に設ける脚部を取付けて、キャビンのルーフより受信ユニットが上方に位置するように設ける。
【0034】
そのため、キャビンのルーフに強度が無く、止む無く支持部材を多く設けて加重を分散して受信ユニットをルーフに取付ける必要がなくなり、受信ユニットを十分に強度を備えるキャビンの左右支柱の上部寄りに設ける作業灯の取付部に、その両端に設ける脚部のみで確実に取付けることができる。また、作業車両を格別改造することなく受信ユニットを後付けすることができ、受信ユニットの着脱も簡単であるから受信ユニットのメンテナンス性も向上させることができる。
【0035】
なお、前述のように受信ユニットをキャビンのルーフより上方に位置するように設け、また、特定小電力無線機の無線アンテナの先端を通信障害を防止するためにキャビンルーフの最高部より高く設けると、係る無線アンテナが障害物に直接接触してアンテナが破損する虞がある。そこで、本発明によれば、前記特定小電力無線機に接続する無線アンテナをキャビンのルーフより上方に設けると共に、この無線アンテナを可倒式のアンテナで構成する。
【0036】
そのため、無線アンテナは障害物に接触するとアンテナ自体が車両の前後方向に倒れるので、大きな破損に至ることを防止することができる。また、無線アンテナを手で起立させたり倒したりしてアンテナの傾きを変更することができ、これにより作業車両の車高を低くしてトラック積み等、輸送上の問題を解決したり、RTK固定局から出される偏波の向きに無線アンテナを調節して受信感度を向上させることができる。
【0037】
そのうえ、本発明によれば、前記受信ユニットの取付フレームをキャビンの左右支柱の作業灯の取付部に位置調節自在に取付け、キャビンのルーフより上方に設ける受信ユニットの位置を一括して調節可能になす。そのため、走行機体とキャビンの左右支柱の作業灯の取付部の位置に組立上の誤差等があった場合でも、例えば、後車軸の左右中心付近に受信ユニットの無線アンテナやGNSSユニットが位置するように調節して取付けることができて、受信ユニットを作業車両の最適な受信位置に設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図6】取付フレームの上方側から見た斜視図である。
【
図7】取付フレームの下方側から見た斜視図である。
【
図10】RTK-GNSS受信装置の別実施形態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1乃至
図3に示すように作業車両としての農業用のトラクタ1は、前方からエンジン2、クラッチハウジング3、トランスミッションケース4等を一体的に連結して車体(走行機体)を構成する。また、車体の前部寄りには、エンジン2とエンジン2の補器類を覆うボンネット5とサイドーカバー6を設け、ボンネット5は後部に設けるヒンジを介して前部側を開閉自在に構成する。
【0040】
さらに、エンジン2に固定して前方に延びるフロントブラケット7は、フロントアクスルケースを左右揺動自在に軸支する。このフロントアクスルケースの左右端には、前車軸ケース(キングピンケース及びファイナルケース)を取付ける。また、前車軸ケースは前輪8を取付ける前車軸9を軸支し、操縦部に設けるステアリングホイール10は左右の前輪8を操舵する。
【0041】
一方、車体の後部寄りにはトランスミッションケース4の左右に連結するリアアクスルケースを設け、リアアクスルケースに軸支する後車軸11に左右の後輪12を取付ける。また、車体の後部には、トップリンク13と左右のロワリンク14からなる周知の三点リンク機構やドローバ等の連結装置を設け、これらの連結装置にはロータリ耕耘装置、畝立機、或いは播種機や移植機等の作業機を連結し、トランスミッションケース4の後部に軸支するPTO軸(動力取出軸)から作業機にエンジン動力を伝達する。
【0042】
さらに、エンジン2より後方の車体には、防振ゴムを介して操縦部を覆うキャビン15を搭載する。ここで、キャビン15は、左右一対の前側の支柱であるフロントピラー16と、左右一対の後側の支柱であるリアピラー17と、両者の間に設ける左右一対の中間の支柱であるミッドピラー18と、この上下方向に延びる6本の各支柱16、17、18の上端部間を連結固定する方形枠状のルーフフレーム19と、各支柱16、17、18の下端部間を連結固定する下部フレーム20等によってキャビンフレームを構成する。
【0043】
そして、キャビンフレームには、左右のドアガラス21を後部側に設けるヒンジ22を介して開閉自在に装着すると共に、前面側にフロントガラス23を、また、後面側にリヤガラス24をヒンジ25を介して開閉自在に装着し、更にミッドピラー18とリアピラー17の間にはヒンジ26を介してサイドガラス27を開閉自在に装着する。また、左右のリアピラー17の下端部から、前方斜め下方のフロア28側に向けて後輪12の前側上方を覆うフェンダ29を延設する。さらに、前記ルーフフレーム19にはエアコンユニットやオーディオ機器を取付け、これらをインナールーフとアウタールーフ30で覆う。
【0044】
また、下部フレーム20には、左右のフェンダ29間に位置させて、車体側から設ける操作レバー等を通すサイドコンソールや運転席31を取付けるシートアンダーカバーを設ける。さらに、フロア28の前部寄り中央には、車体から立設して運転席31側に向けて傾斜させて設けるステアリングコラムの周囲を覆うパネルカバー32とリヤパネルカバー33を設ける。
【0045】
そして、パネルカバー32にはメーターパネル34を設ける他、エンジンのスタータスイッチ35や、トラクタ1の各種の自動制御を行う操作スイッチユニット36等を設ける。なお、37は前後進レバー、38はエンジンコントロールレバー、39はコンビネーションスイッチレバー、40は作業機昇降レバーである。また、ステアリングホイール10下方のフロア28には主クラッチペダルと左右のブレーキペダル等を設ける。
【0046】
次に、トラクタ1にオプションとして提供するGNSS直進自動操舵装置41について説明する。
図4のブロック図に示すようにGNSS直進自動操舵装置41は、既存のトラクタ1に拡張機能を備えた自動操舵装置を後付け可能とし、最高ではないにしても必要な作業精度を十分に備えて非常に安価にGNSSを用いた自動操舵装置を提供するものであり、未熟な作業者でも熟練者並みの直進作業を可能として、作業者の長時間に亘る作業走行における疲労を軽減する。
【0047】
そのため、GNSS直進自動操舵装置41は、センチメートル級の精度で走行機体(トラクタ1)の位置を取得すると共に走行機体の絶対方位を高精度で取得するRTK-GNSS受信装置42と、RTK-GNSS受信装置42を補完するRTK固定局43と、RTK-GNSS受信装置42が測位計算した位置情報と方位情報等に基づいて作業目標経路とこの作業目標経路に導くための操舵量を演算するタブレット端末44と、タブレット端末44が演算した操舵量に一致するように前輪8を操舵する操舵ユニット45を設ける。
【0048】
そして、この内、RTK-GNSS受信装置42は、GNSS衛星から出される電波を捉える2つのGNSSアンテナ46、47、これら2つのGNSSアンテナ46、47が捉えた夫々の衛星から出された信号を受取ってこれを復調して情報を復元する2つのGNSS受信機48、49、RTK固定局43から出された電波を捉える無線アンテナ50、この無線アンテナ50が捉えた信号を受取ってこれを復調して情報を復元する特定小電力無線機51を備える。
【0049】
また、RTK-GNSS受信装置42は、走行機体の姿勢を検出する3軸のジャイロと3方向の加速度計からなる慣性計測装置52、タブレット端末44との間で情報を交換するアンテナ内蔵型の近距離無線機53、電子制御ユニット(ECU)によって構成するGNSSコントローラ54、7セグメントLEDで構成するディスプレイ55、電源リレー56等を備える。なお、RTK-GNSS受信装置42は、GNSSアンテナ46、47と無線アンテナ50と電源リレー56を除いた各機器48、49、51、52、53、54、55を単一のボードに纏めてGNSSユニット57に構成する。
【0050】
一方、RTK固定局43は、設置高さを確保する三脚とこの三脚の上に設ける衛星から出される電波を捉えるGNSSアンテナ58、GNSSアンテナ58が捉えた衛星から出された信号を受取ってこれを復調して情報を復元するGNSS受信機59、GNSS受信機59が復元した情報をRTK-GNSS受信装置42に向けて発信する特定小電力無線機60とその無線アンテナ61、乾電池で構成する電源バッテリー62等から構成し、例えば、移動局となるトラクタ1が作業を行う圃場から300メートル以内で周囲に山や木、高い建物などの障害物がない見通しの良い安定した場所に設置する。
【0051】
また、タッチパネル付きの液晶ディスプレイを備える薄型軽量のコンピュータであるタブレット端末44は、無線LANを内蔵すると共に、その通信距離を約10メートルとする内臓アンテナ式の近距離無線機63を搭載する。そして、このタブレット端末44は、例えば三脚式スタンドに取付けてトラクタ1の操縦部に据え置き、また、必要に応じてトラクタ1に備える電源取出しコネクタ等を利用して内臓バッテリに充電しながら使用する。
【0052】
なお、このタブレット端末44には、GNSS直進自動操舵を行うナビゲションソフトウェアが予めインストールしてあり、このナビゲションソフトウェアがその機能を拡張した場合には、無線LAN等を用いてインターネット上からアップデートすることも可能である。また、タブレット端末44の近距離無線機63とGNSSユニット57の近距離無線機53は予めペアリングを行って、次回以降は自動的に接続できるようにしておく。
【0053】
また、操舵ユニット45は、電子制御ユニットによって構成する操舵ECU64、操作スイッチ群65、LEDランプ群66、ステッピングモータ67、伝動部68等によって構成し、
図3に示すように全体を樹脂製のカバーや底板で覆った操舵ユニット45をステアリングホイール10下方のステアリングコラムの上部に取付け、ステアリングシャフトをステアリングホイール10と共に回動させて前輪8を操舵する。
【0054】
なお、この操舵ユニット45の取付けにあたっては、先ずステアリングシャフトの上部に設けるステアリングホイール10を取外し、次にステアリングシャフトの上部に伝動部68に設ける継手シャフトの下部を嵌合させた状態で操舵ユニット45をステアリングコラムの上部に取付ける。さらに、継手シャフトの上部に取外したステアリングホイール10を取付けて、操舵ユニット45を既存のトラクタ1に後付けすることができる。
【0055】
そして、このように操舵ユニット45を取付けると、手動操作によってステアリングホイール10を回した際には、前述の継手シャフトを介してステアリングシャフトを回動させて、また、ステアリングシャフトは全油圧式パワーステアリングユニットを介して前輪8を操舵する。一方、操舵ユニット45のステッピングモータ67が操舵ECU64からの指令に基づいて正逆回転すると、ステッピングモータ67は伝動部68に設ける歯車減速装置を介して継手シャフトを回動させて、以下手動操作と同様に前輪8を自動操舵する。
【0056】
なお、操舵ユニット45の操舵ECU64とGNSSユニット57のGNSSコントローラ54はコントローラエリアネットワーク(CAN)で情報のやり取りを行い、また、操舵ユニット45とGNSSユニット57の各機器はトラクタ1のバッテリ69を電源とし、スタータスイッチ35を入れて操舵ユニット45のメインスイッチ65aを入りにすると、操舵ユニット45とGNSSユニット57は、作業機電源コネクタを介してバッテリ69と繋がり起動する。
【0057】
以上、GNSS直進自動操舵装置41の機器構成について説明したが、ここでGNSS直進自動操舵装置41の使用方法の概要について説明すると、トラクタ1を圃場に移動させてスタータスイッチ35を入りにしてエンジン2を始動させ、操舵ユニット45のメインスイッチ65aを入りにすると操舵ユニット45とGNSSユニット57は起動し、また、タブレット端末44を起動させると、GNSSユニット57が近距離無線機53、63どうしを無線接続し、GNSSユニット57とタブレット端末44のナビゲションソフトウェアが通信を開始する。
【0058】
なお、タブレット端末44のナビゲションソフトウェアは、ガイダンス画面と設定画面とドキュメント画面を備え、例えばガイダンス画面では、トラクタ1の現在位置、自動操舵状態、方角を表示するコンパス、経路誤差、作業距離と面積、受信衛星状態等を表示すると共に、経路生成のためのA点生成ボタン、B点生成ボタン、現在位置を基準位置として経路を再設定するリセットボタン、経路修正ボタン、追従性ボタン等を備える。
【0059】
また、上述のA点生成ボタン、B点生成ボタン、現在位置を基準位置として経路を再設定するリセットボタン、追従性ボタン等に相当するスイッチは、操舵ユニット45の操作スイッチ群65の中にそれぞれスイッチ65c~65fとして備え、これらの機能はタブレット端末44側と操舵ユニット45側の何れの側でも行うことができるようになっている。但し、操舵ユニット45の操作スイッチ群65の中には自動操舵を開始又は停止させる自動操舵スイッチ65bを設けているが、係るスイッチ65bに相当するボタンはガイダンス画面に設けていない。
【0060】
一方、ナビゲションソフトウェアの設定画面では、近距離無線機のGNSSユニット57との接続、GNSSアンテナ位置、慣性計測装置の取付位置と向き、自動操舵パラメータ、初期設定、経路作成間隔や基準方位の直接指定又は解除等の設定等を行うことができ、これらの設定は支援システムの導入時に一括して行うことができる。また、ドキュメント画面に切り替えると過去に生成された経路や作業履歴等を表示させることができ、これらは今後の参考情報となる。
【0061】
従って、圃場においてGNSS直進自動操舵を実行する場合は、ナビゲションソフトウェアは主にガイダンス画面を表示させ、また、操舵ユニット45のLEDランプ群66の表示等から、ナビゲションソフトウェアとGNSSユニット57と操舵ユニット45が正しく接続されて自動操舵の経路設定が行える状態であることを確認し、次に作業者はトラクタ1を手動操舵してティーチング走行を行わせる。
【0062】
そして、このティーチング走行において、トラクタ1が基準線の開始点であるA点と終了点であるB点に至ると作業者はボタン又はスイッチを操作してGNSSコントローラ54にこれを知らせる。そこで、GNSSコントローラ54はRTK-GNSS受信装置42とRTK固定局43が受信した情報に基づいて測位計算を行ってA点とB点の位置情報と基準線の方位情報を求め、この情報をナビゲションソフトウェアに送信する。
【0063】
また、ナビゲションソフトウェアはA点とB点の位置情報と基準線の方位情報を得ると、次回以降の作業目標経路を演算し、ガイダンス画面にトラクタ1の現在位置と作業目標経路等を表示する。そして、ティーチング走行を終えて次行程となる作業目標経路の開始位置にトラクタ1が至って作業者が自動操舵スイッチ65bを入りにすると直進自動操舵制御が開始される。
【0064】
ここで、GNSSコントローラ54はトラクタ1の現在の位置情報や方位情報等をリアルタイムで求め、この情報をナビゲションソフトウェアに送信する。また、この情報に基づいてナビゲションソフトウェアは作業目標経路からの位置偏差と方位偏差を求め、これをガイダンス画面に表示する。さらに、ナビゲションソフトウェアは位置偏差と方位偏差が解消されるための前輪8の操舵量を、例えばモデル予測制御(MPC:Model Predictive Control)等を利用して演算し、この演算した操舵量をGNSSコントローラ54を経由して操舵ECU64に伝える。
【0065】
そこで、操舵ECU64は前輪8の操舵量が指示された操舵量になるように出力パルス数をカウントしながらステッピングモータ67を正逆回転させ、また、ステッピングモータ67は伝動部68に設ける歯車減速装置を介して継手シャフトを回動させ、さらに、継手シャフトの回転に伴ってステアリングシャフトは回転し、前輪8は最終的に全油圧式パワーステアリングユニットを介して指令された操舵量に操舵される。
【0066】
そして、係る自動直進制御のもとにトラクタ1が作業目標経路の1行程の終端に至ると、作業者は自動操舵スイッチ65bを切りにして直進自動操舵制御を終了させ、次行程に移るためにトラクタ1を手動操作で旋回させる。また、それ以後は前述の自動操舵と手動操作の繰り返しによって作業走行を終えることになる。
【0067】
以上、GNSS直進自動操舵装置41の使用方法について説明したが、次に本発明の特徴とするRTK-GNSS受信装置42の詳細について説明すると、
図5乃至
図8に示すようにRTK-GNSS受信装置42は、角パイプをベースにして形成する長尺な取付フレーム70を備え、この取付フレーム70の長手方向の略中央にGNSSユニット57を載置して取付ける第1のブラケット71を固着する。また、コ字状に折り曲げて形成するカバー72を設け、このカバー72は第1のブラケット71にボルトによって着脱自在に取付ける。
【0068】
さらに、取付フレーム70の長手方向の両端寄りには、GNSS衛星から出される電波を捉える2つのGNSSアンテナ46、47を夫々取付ける第2と第3のブラケット73、74を固着する。そして、取付フレーム70の長手方向の両端にはコ字状の取付座75,76を固着する。また、取付フレーム70は、上記取付座75,76にボルトで取付ける2つの脚部77、78を備え、この脚部77、78は上面にタップを立てた円柱77a、78aと、円柱77a、78aの下面に固着するコ字状の台座77b、78bと、台座77b、78bの下部に固着する取付座77c、78cによって形成する。
【0069】
そして、以上のように構成する取付フレーム70にGNSSユニット57とRTK固定局43から出された電波を捉える無線アンテナ50とGNSS衛星から出される電波を捉える2つのGNSSアンテナ46、47を取付け、また、取付フレーム70に脚部77、78を取付けて受信ユニットUとなし、係る受信ユニットUを走行機体の上部に取付ける。そこで、次に取付フレーム70への受信装置42の各機器の取付方法を説明する。
【0070】
先ず、GNSSユニット57は
図9に示すように、2つのGNSS受信機48、49と特定小電力無線機51と慣性計測装置52と近距離無線機53とGNSSコントローラ54とディスプレイ55等を単一のボードに纏めてケース79に収容している。このケース79の下面は開口しており、この開口から近距離無線機53の内臓アンテナが発する電波がケース79等に遮られることなく出される。また、ボードの下面にディスプレイ55を設けてケース79の開口を通してディスプレイ55を見ることができるようにしている。
【0071】
一方、前述の取付フレーム70の略中央に固着する第1のブラケット71の中央部には、GNSSユニット57のケース79の開口に合わせて開口71aを設け、この開口71aにケース79の開口を合わせてケース79を第1のブラケット71にボルトとナットを用いて取付ける。なお、ケース79の開口から例えば、トラクタ1を高圧洗車する場合の洗車水が開口を通してケース内に入ったり塵埃が侵入してGNSSユニット57が故障する虞がある。
【0072】
そこで、これを防止するためにケース79の開口する下面を透明樹脂板80によって蓋して第1のブラケット71に取付ける。従って、ケース79の開口は透明樹脂板80によって塞がれるが、近距離無線機53の内臓アンテナが発する電波は、透明樹脂板80に遮られることなく第1のブラケット71の開口71aを通ってトラクタ1の操縦部に設けるタブレット端末44側に届く。
【0073】
また、タブレット端末44に搭載する近距離無線機63の内臓アンテナから出された電波も逆経路を辿ってGNSSユニット57の近距離無線機53に支障なく届くことになる。さらに、透明樹脂板80を設けても同様に第1のブラケット71の開口71aと透明樹脂板80を通してディスプレイ55を見ることができるから、GNSS受信機48、49や近距離無線機53の初期化状態、或いは慣性計測装置52のセンサ値等を見てチェックすることができ、これらの故障の有無等を簡単に調べることができる。
【0074】
次に、RTK固定局43から出された電波を捉える無線アンテナ50は、GNSSユニット57の上方を覆うカバー72の上面に取付けて、取付フレーム70の長手方向の略中央に設ける。そのため、無線アンテナ50の高さを高くしてRTK固定局43から出された電波を捉え易くすると共に、周囲からのノイズやマルチパスによるフェージング等を少なくして通信障害を無くすことができる。
【0075】
また、GNSSユニット57の上方に無線アンテナ50を設けることで、GNSSユニット57に設ける特定小電力無線機51と無線アンテナ50を接続するアンテナケーブル81の長さを短くすることができ、信号レベルの低下を防止することができる。なお、無線アンテナ50は可倒式のアンテナで構成し、無線アンテナ50を取付フレーム70の長手方向に直交する方向にその傾きを変更することができる。従って、後述するように取付フレーム70を走行機体の左右方向に取付けた際には、無線アンテナ50を前後方向に倒すことができる。
【0076】
そのため、無線アンテナ50の先端を通信障害を防止するためにキャビン15のアウタールーフ30の最高部より高く設けると、無線アンテナ50が障害物に直接接触してアンテナ50が破損する虞があるが、このように可倒式のアンテナで構成すると、無線アンテナ50は障害物に接触するとアンテナ自体が車両の前後方向に倒れるので、大きな破損に至ることを防止することができる。また、無線アンテナ50を手で起立させたり倒したりしてアンテナ50の傾きを変更すると、トラクタ1の車高を低くしてトラック積み等、輸送上の問題を解決したり、RTK固定局43から出される偏波の向きに無線アンテナ50を調節して受信感度を向上させることもできる。
【0077】
一方、GNSS衛星から出される電波を捉える2つのGNSSアンテナ46、47は、一方のGNSSアンテナ46が位置情報の基準となるアンテナであり、また、他方のGNSSアンテナ47は走行機体の方位情報を得るためのアンテナである。ところで、GPSコンパスとして知られているように走行機体の絶対方位を求めるためには2つのアンテナを離して設け、この2つのアンテナに届いた電波をGNSS受信機48、49で受信して測定した2つのアンテナと衛星間の行路差と、アンテナ間の基線ベクトルを変化させて計算で求めた行路差を比較し、最も誤差が小さい基線ベクトルから走行機体の方位をリアルタイムで取得することができる。
【0078】
そのため、2つのGNSSアンテナ46、47は、方位精度を高めるために所定距離以上離して設ける必要があり、この場合、取付フレーム70の長手方向の両端寄りに設ける第2と第3のブラケット73、74にGNSSアンテナ46、47を振り分けて取付ける。そして、このGNSSアンテナ46、47の取付けにあたって、第2と第3のブラケット73、74は夫々上方に向けて立上がる4つの壁の底部を塞いだ角皿状の基底部73a、74aと、この基底部73a、74aの上面に固着するドーナツ状の円板で構成する遮蔽部73b、74bを備える。
【0079】
従って、係る第2と第3のブラケット73、74にGNSSアンテナ46、47を上方から差し込んで、GNSSアンテナ46、47を基底部73a、74aに下方からボルトによって固定するとGNSSアンテナ46、47の下方側は基底部73a、74aと遮蔽部73b、74bによって覆い、衛星電波のマルチパスを遮蔽するグランドプレーンとなる。
【0080】
なお、GNSSアンテナ46、47の下方寄りの側部にアンテナケーブル82の接続部を設けているため、基底部73a、74aと遮蔽部73b、74bの夫々にはアンテナケーブル82引き出し用の切欠きkを設けている。また、取付フレーム70の第1のブラケット71の隣には電源リレー56を含むケーブル中継部を設ける。
【0081】
そして、以上のように2つのGNSSアンテナ46、47を取付フレーム70に振り分けて取付けると、2つのGNSSアンテナ46、47を必要な方位精度を得ることができる距離だけ離して設けることができ、トラクタ1を停止させたり超低速で走行させても高精度で位置と方位情報を取得することができる。また、2つのGNSSアンテナ46、47の中間にGNSS受信機48、49を備えるGNSSユニット57を設けるから、夫々のアンテナケーブル82の長さを短くすることができて信号レベルの低下を防止することができる。
【0082】
次いで、以上のように取付フレーム70にGNSSユニット57と無線アンテナ50とGNSSアンテナ46、47を取付けた受信ユニットUを走行機体の上部に後付けする方法について説明すると、
図1、
図2、及び
図8に示すようにキャビン15の左右のリアピラー17の上部寄りにキャビン15を吊り上げる際に用いる係止穴83と作業灯84を取付ける取付部85を夫々固着している。そこで、この取付部85を利用して受信ユニットUを取付ける際に、先ず取付部85からボルトを抜き取って作業灯84を取り外す。
【0083】
次いで、作業灯84を取り外した左右の取付部85に脚部77、78をその取付座77c、78cと台座77b、78bの間に設ける隙間を利用して差し込み、また、下方からボルトを取付座77c、78cのボルト通し穴77d、78dを通して取付部85に固着したナットに螺着し、脚部77、78を左右の取付部85に取付ける。さらに、脚立等を用意して左右の脚部77、78の円柱77a、78aの上面に座金を介して取付フレーム70の取付座75,76を載せて、上方からボルトを通して円柱77a、78aの上面に螺着する。
【0084】
そのため、受信ユニットUは左右の脚部77、78を介して十分な強度を備えるリアピラー17の上部寄りに固着する取付部85に確実に後付けすることができ、これによって受信ユニットUはキャビン15のアウタールーフ30の後部寄りの上面より上方に位置するように設けることができる。また、先に取り外した左右の作業灯84は、取付部85に取付けた左右の脚部77、78の取付座77c、78cの後部にボルトで取付け、以前と同様に夜間作業において走行機体の後方を照らすことができる。
【0085】
なお、取付フレーム70の取付座75,76に設けるボルト通し穴75a,76aは取付フレーム70の長手方向に長い長穴としている。そのため、脚部77、78に取付フレーム70を取付ける際に受信ユニットUを左右方向に所定量位置を変えて取付けることができる。従って、キャビン15の左右のリアピラー17の位置、ひいては作業灯の取付部85の位置がキャビン15を走行機体へ搭載する際の個体差によって変動する場合であっても、後車軸11の左右中心に受信ユニットUの無線アンテナ50やGNSSユニット57が位置するように調節して取付けることができて、受信ユニットUをトラクタ1の最適な受信位置に設置することができる。
【0086】
また、前述した受信ユニットUの取付フレーム70として、
図10に示す別実施形態の取付フレームは、2つの長尺な角パイプ86a、86bと2つの短尺な取付座87a、87bを方形枠状に連結して構成する。そして、この場合、受信ユニットUの無線アンテナ50とGNSSユニット57を中央寄りに左右方向に並べて取付け、更に無線アンテナ50の先端部を除いてこれらをコ字状のカバー88で覆う。そのため、無線アンテナ50をやや低い位置に設けることになって可倒式のアンテナにする必要が無くなる。
【0087】
さらに、取付フレーム70の略中央に固着する第1のブラケット71の中央部に開口71aを設ける必要が無くなり、2つの角パイプ86a、86bの間に形成される間隙が開口71aの役割を担うことになる。但し、このように取付フレームを強固になすと受信ユニットUの重量が増してコスト面で不利となる虞がある。
【0088】
また、以上の実施形態では受信ユニットUを後車軸11の左右中心付近の上方に左右方向となるように設置したが、これはナビゲーション又は自動操舵を行う上でトラクタ1の基準位置を後車軸11の左右中心としてシステムを構築していることに起因し、このトラクタ1の基準位置上に受信ユニットUを設けることによって基準位置から受信ユニットUに至るオフセット量の誤差等を極力少なくして位置検出精度を向上させることを目的とする。
【0089】
そのため、ナビゲションの基準位置を前車軸9の左右中心、前車軸9と後車軸11の中間位置、トラクタ1の重心位置等になす場合には、後車軸11の左右中心付近の上方に受信ユニットUを必ずしも設ける必要はなく、走行機体の上方であれば何れの箇所に設けても良い。また、同様に受信ユニットUを走行機体の前後方向を向くように取付けても構わない。
【0090】
さらに、トラクタ1の位置情報や方位情報等をGNSSコントローラ54によって求めさせ、また、ナビゲションソフトウェア、即ちタブレット端末44のコンピュータによって作業目標経路や前輪8の操舵量を計算させ、演算負荷を分散させてナビゲーション精度を上げるようになすが、演算能力に余力があればGNSSコントローラ54によって作業目標経路や前輪8の操舵量を計算させたり、逆にトラクタ1の位置情報や方位情報等をタブレット端末44側で行わせても良く、本発明は前述の実施形態に必ずしも限定されるものではない。
【符号の説明】
【0091】
1 トラクタ(作業車両)
8 前輪
12 後輪
43 RTK固定局
44 タブレット端末
46 GNSSアンテナ(位置)
47 GNSSアンテナ(方位)
48 GNSS受信機
49 GNSS受信機
50 無線アンテナ
51 特定小電力無線機
52 慣性計測装置
53 近距離無線機
54 GNSSコントローラ
57 GNSSユニット
70 取付フレーム
U 受信ユニット