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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】電動シートスライド装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/06 20060101AFI20230725BHJP
【FI】
B60N2/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019155731
(22)【出願日】2019-08-28
(65)【公開番号】P2021030985
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-05-02
(73)【特許権者】
【識別番号】517251797
【氏名又は名称】株式会社TF-METAL
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】木股 俊裕
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 大晃
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ニューベリー
(72)【発明者】
【氏名】マデュースダナ ダリナヤカナパルヤ サドヒーンドラ
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-241697(JP,A)
【文献】特開平05-246273(JP,A)
【文献】特開2006-15804(JP,A)
【文献】国際公開第2009/048065(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00-90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に沿って延設されるロアレールと、
前記ロアレールの長手方向に沿って相対移動するアッパレールと、
前記ロアレールと前記アッパレールとのいずれか一方に回転自在に取り付けられ、前記相対移動方向に沿って延びるスクリュ軸と、
前記ロアレールと前記アッパレールとの前記いずれか一方に取り付けられ、前記スクリュ軸を回転駆動する駆動部と、
前記ロアレールと前記アッパレールとの間の内部側で、前記ロアレールと前記アッパレールとの前記いずれか一方に取り付けられ、前記スクリュ軸に直交して配置されると共に、前記スクリュ軸の軸方向に所定の間隔を有する前後一対のストッパ部材と、
前記ロアレールと前記アッパレールとのいずれか他方に取り付けられ、前記一対のストッパ部材相互間に配置されると共に、前記スクリュ軸に螺合するナット部材と、を備え、
前記ナット部材が、前記スクリュ軸の回転によって、前記一対のストッパ部材間を相対移動する電動シートスライド装置において、
前記ロアレールと前記アッパレールとの間の内部側で、前記いずれか他方に取り付けられ、前記ロアレールと前記アッパレールとを組み付けた状態で、前記スクリュ軸の軸方向において、前記いずれか一方に取り付けられた前記ストッパ部材と前記いずれか他方に取り付けられた前記ナット部材との間に位置する固定ナットと、
前記ロアレールと前記アッパレールとの前記いずれか他方外部側から挿入され、前記固定ナットに締結されるストッパボルトと、を備え、
前記固定ナットは、前記アッパレールが前記ロアレールに対して相対移動する際に前記いずれか一方に取り付けられた前記ストッパ部材と干渉することがないように、前記ロアレールと前記アッパレールとの間の内部側で、前記ストッパ部材上下方向で離間しており、
前記ストッパボルトの先端部分は、前記固定ナットを貫通して突出しており、前記スクリュ軸の回転によって前記いずれか一方が前記スクリュ軸とに前記いずれか他方に対して軸方向に相対移動して、前記いずれか一方に取り付けられた前記ストッパ部材が前記いずれか他方に取り付けられた前記ナット部材の方向に相対移動したときに、前記ストッパ部材と上下方向で重なって当接可能なストッパ部を備えていることを特徴とする電動シートスライド装置。
【請求項2】
前記ロアレール及び前記アッパレールを備えるレール体は、左右一対設けられ、
前記左右一対のレール体のそれぞれに、前記ナット部材及び前記スクリュ軸が設けられ、
左右一対の前記スクリュ軸は、一つの前記駆動部によって同期して駆動され、
前記左右一対のレール体のうちの少なくとも前記駆動部が取り付けられたレール体に、前記固定ナット及び前記ストッパボルトが設けられていることを特徴とする請求項に記載の電動シートスライド装置。
【請求項3】
前記ロアレールと前記アッパレールとの前記いずれか他方は、前記ストッパボルトを前記固定ナットに締結することで、前記固定ナットと前記ストッパボルトの頭部とにより挟持固定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電動シートスライド装置。
【請求項4】
前記固定ナットは、前記ロアレールと前記アッパレールとの前記いずれか他方に、溶接により固定される溶接ナットであることを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の電動シートスライド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートを電動により前後移動させる電動シートスライド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アッパレールに取り付けたスクリュ軸をモータにより回転させ、ロアレールに取り付けたナット部材をスクリュ軸に対して相対移動させることで、アッパレールをロアレールに対して相対移動させる電動シートスライド装置が知られている(特許文献1参照)。電動シートスライド装置は、アッパレールの側壁から切起こして形成した切起こし部を、ナット部材に当接させることで、アッパレールの移動範囲を規制するためのストッパとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-227152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アッパレールのロアレールに対する移動範囲は、電動シートスライド装置が搭載される自動車用シートによって異なる場合が多い。このため、上記アッパレールの移動範囲を変更可能とすることが必要となっている。しかし、アッパレールの移動範囲を規制するためのストッパを、アッパレールの側壁から切起こして形成した切起こし部とした場合には、ストッパ強度が不充分となり、信頼性の低下を招く。
【0005】
そこで、本発明は、アッパレールとロアレールとの相対移動範囲を変更可能とすると共に、移動範囲を規制するためのストッパの強度を充分なものとすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電動シートスライド装置は、車両前後方向に沿って延設されるロアレールと、前記ロアレールの長手方向に沿って相対移動するアッパレールと、前記ロアレールと前記アッパレールとのいずれか一方に回転自在に取り付けられ、前記相対移動方向に沿って延びるスクリュ軸と、前記ロアレールと前記アッパレールとのいずれか一方に取り付けられ、前記スクリュ軸を回転駆動する駆動部と、前記ロアレールと前記アッパレールとのいずれか一方に取り付けられ、前記スクリュ軸に直交して配置されるストッパ部材と、前記ロアレールと前記アッパレールとのいずれか他方に取り付けられ、前記スクリュ軸に螺合するナット部材と、前記ロアレールと前記アッパレールとのいずれか他方の前記いずれか一方に対向する内部に取り付けられ、前記ロアレールと前記アッパレールとを組み付けた状態で、前記ストッパ部材と前記ナット部材との間に位置する固定ナットと、前記ロアレールと前記アッパレールとのいずれか他方の前記いずれか一方と反対側の外部側から挿入され、前記固定ナットに締結されるストッパボルトと、を備えている。前記固定ナットの前記いずれか一方の側の端部が、前記ストッパ部材の前記いずれか他方の側の端部に対して上下方向で離間しており、前記ストッパボルトは、前記スクリュ軸の回転によって、前記いずれか一方が前記スクリュ軸とともに前記いずれか他方に対して軸方向に相対移動したときに、前記ストッパ部材に当接するストッパ部を備えている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、固定ナットに締結したストッパボルトのストッパ部をストッパ部材に当接させる構成とすることで、アッパレールとロアレールとの相対移動範囲を容易に変更することができると共に、ストッパ強度を高めることができる。また、固定ナットとストッパ部材とは上下方向で隙間を有して対向する位置にあるため、あらかじめロアレールに固定ナットを取り付けた場合でも、固定ナットが無い場合と同様の組み付けができる。そのため、上記相対移動範囲が異なる場合でも同じ組み立てラインで組み立てできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】電動シートスライド装置の断面図である。
図2】電動シートスライド装置の分解斜視図である。
図3図1のIII-III断面図である。
図4】ストッパボルトのストッパ部が後方のストッパプレートに当接した状態を示す断面図である。
図5図3に対し、ストッパボルトを取り付ける前の断面図である。
図6】固定ナットを溶接ナットとした場合の図4に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。なお、以下の説明で、「前」は図1図2中で左側の車両前方FR側で、「後」は図1中で右側の車両後方RR側であり、「左右」は車両後方から車両前方を見たときの左右方向である。
【0010】
図1は、実施形態に係わる電動シートスライド装置の断面図、図2は、電動シートスライド装置の分解斜視図である。電動シートスライド装置は、車体床面に固定されて車両前後方向に沿って延設されるロアレール1と、ロアレール1の内部において長手方向に沿って相対移動するアッパレール3とを備えている。アッパレール3は、図示しないシートの下面に取り付けられる。したがって、シートは、アッパレール3とともに、車体床面に取り付けられたロアレール1に対して前後方向に移動する。ロアレール1とアッパレール3とでレール体を構成している。
【0011】
ロアレール1は、図1のIII-III断面図である図3に示すように、底壁1aと、底壁1aの左右両側から上方に延びる左右の側壁1b,1cと、左右の側壁1b,1cの上端から内側斜め上方に向けて傾斜する上傾斜壁1d,1eと、を備えている。上傾斜壁1d,1eの内側端部から下方に向けて、側壁1b,1cとほぼ平行に延びる内側壁1f,1gが形成されている。ロアレール1は、底壁1aが図示しない複数のブラケット等の取付具を介して車体の床面に固定される。
【0012】
アッパレール3は、天壁3aと、天壁3aの左右両側から下方に延びる左右の側壁3b,3cと、左右の側壁3b,3cの下端から左右の外側に向けて屈曲する折り返し部3d,3eとを備えている。折り返し部3d,3eは、側壁3b,3cの下端から外側上方に向けて傾斜している下傾斜部3d1,3e1と、下傾斜部3d1,3e1から側壁3b,3c側の内側上方に向けて傾斜している上傾斜部3d2,3e2と、上傾斜部3d2,3e2から上方に向けて、側壁3b,3cとほぼ平行に延びる縦壁3d3,3e3とを備えている。アッパレール3は、天壁3aがシート側のブラケット等の取付具5に複数の締結具7によって固定される。
【0013】
ロアレール1の側壁1b,1c周辺とアッパレール3の折り返し部3d,3eとの間には、ボールリテーナ9,11によって支持された上ガイドボール13,15及び下ガイドボール17,19がそれぞれ転動自在に収容されている。すなわち、アッパレール3がロアレール1に対して前後方向に移動する際に、上ガイドボール13,15及び下ガイドボール17,19が回転することで、レール相互間の摩擦が抑制されて円滑な移動が可能となる。図2に示すように、ロアレール1の前後両端部の左右及びロアレール1の中間部の左右には、それぞれ固定ストッパ1sが形成されている。固定ストッパ1sは、上ガイドボール13,15及び下ガイドボール17,19を保持するボールリテーナ9,11の外れ及び位置ずれを抑えている。
【0014】
アッパレール3の内部には、アッパレール3の移動方向に沿って延びるスクリュ軸21が配置されている。スクリュ軸21は、アッパレール3とほぼ同じ長さであり、アッパレール3に取り付けられている。一方、ロアレール1の長手方向中央よりやや後側の底壁1aには、ナット部材23が取り付けられている。ナット部材23は、前後方向に長く形成され、底壁1aに載置した状態で、底壁1aの外側下方から挿入される取付ボルト20によって取り付けられる。ナット部材23は、スクリュ軸21の雄ねじ部21aが螺合している雌ねじ部を有している。すなわち、スクリュ軸21が回転することで、スクリュ軸21(アッパレール3)がナット部材23(ロアレール1)に対して前後方向(図1中で左右方向)に移動する。
【0015】
スクリュ軸21は、モータ25及びギヤボックス27を備えた駆動部29によって回転駆動される。駆動部29は、アッパレール3の長手方向の前側の端部にカシメピン31によって固定される。アッパレール3の前側の端部には、一対の取付板3fが形成されている。一対の取付板3f相互間にギヤボックス27の取付部27aが挿入される。この状態で、カシメピン31を、取付部27aの取付孔27a1及び、取付板3fの挿入孔3f1に挿入し、反対側に突出した端部をカシメにより潰して締結する。
【0016】
スクリュ軸21の前側の端部には、セレーション21bが形成されている。セレーション21bをギヤボックス27内の図示しないウォームホイールに結合することで、スクリュ軸21と駆動部29とが連結される。モータ25を除く電動シートスライド装置は、シートの左右位置にそれぞれ設けられている。図2の左端であるアッパレール3の前部同士は図示しない連結部材により連結されている。該連結部材に設けられた単一のモータ25の出力軸が、左右のギヤボックス27の図示しない入力軸に連結され、ギヤボックス27を介してそれぞれのスクリュ軸21が同期して駆動される。
【0017】
アッパレール3の前方側及び後方側には、ストッパプレート33,35が取り付けられている。ストッパプレート33,35は、スクリュ軸21にほぼ直交する板状に形成され、アッパレール3の左右の側壁3b,3c間を跨ぐようにしてアッパレール3の内部に取り付けられている。ストッパプレート33,35は、上部中央にカシメ用の突起部33a,35aが、下部に下爪部33c,35cが、それぞれ形成されている。下爪部33c,35cをアッパレール3に形成したスリット3tに嵌合させた状態で、突起部33a,35aをアッパレール3の天壁3aに形成したカシメ孔3a1に嵌入してカシメ固定する。
【0018】
なお、ストッパプレート33,35は、下爪部33c,35cに加え、突起部33a,35aの左右両側に上爪部を設け、該上爪部をアッパレール3に形成したスリットに嵌合させてもよい。これにより、ストッパプレート33,35のアッパレール3に対する取付強度が向上する。カシメ孔3a1の周辺部分は、アッパレール3の天壁3aの他の部分に対して下方に窪んで形成されている。これにより、ストッパプレート33,35の上部が天壁3aの他の部位よりも上方に突出しないように設定される。
【0019】
図3に示すように、ストッパプレート33,35の下部側の左右両側縁33d,35d及び33e,35eは、左右の側壁3b,3cに形成したスリット3tに下爪部33c,35cと共にそれぞれ嵌合した状態となる。左右両側縁33d,35d及び33e,35eは、ストッパプレート33,35の上下方向の中心より上方でスクリュ軸21の中心に対応する位置から下端に至る部分に相当する。
【0020】
前後のストッパプレート33,35相互間に、スクリュ軸21に螺合した状態のナット部材23が位置する。ストッパプレート33,35は、中央に貫通孔33f,35fが形成され、貫通孔33f,35fにスクリュ軸21が挿通されている。したがって、スクリュ軸21は、貫通孔33f,35fに挿通された状態で、ストッパプレート33,35に対して回転自在である。スクリュ軸21が、回転によってアッパレール3とともにナット部材23(ロアレール1)に対して前後に移動する際に、図3に示すストッパボルト36が後方のストッパプレート35に当接し、ナット部材23が前方のストッパプレート33に当接する。これにより、アッパレール3の前後方向の移動が規制される。
【0021】
前後のストッパプレート33,35は、互いに対向する側と反対側に突出する筒部33g,35gが形成されている。貫通孔33f,35fは筒部33g,35gにも貫通している。筒部33g,35gに対向する側に軸受けナット37,39が、筒部33g,35gに対して所定の隙間を有した状態で配置されている。軸受けナット37,39は、スクリュ軸21の雄ねじ部21aにねじ込んだ状態で、雄ねじ部21aに対し外周部から軸心へ向かって複数個所を押圧することで、スクリュ軸21カシメにより固定される。
【0022】
ストッパプレート33,35と軸受けナット37,39とで荷重伝達部41,43を構成している。車両の衝突等により車体前方へ向かう衝撃荷重がアッパレール3に作用した場合、車体前方のストッパプレート33が車体前方へ移動するため、ストッパプレート33が車体前方の軸受けナット37に衝突する。したがって、アッパレール3から、アッパレール3に結合されたギヤボックス27へ直接に衝撃荷重が伝達するのを抑制できる。これにより、ギヤボックス27へ衝撃荷重が伝達されることによりギヤボックス27をスクリュ軸21から引き離す衝撃荷重が作用するのを抑制できる。このとき、スクリュ軸21には引張力が作用する。
【0023】
車体後方へ向かう衝撃荷重がアッパレール3に作用した場合は、スクリュ軸21の軸方向一方側に位置する車体後方のストッパプレート35が車体後方の軸受けナット39に衝突する。したがって、アッパレール3からアッパレール3に結合されたギヤボックス27へ直接に衝撃荷重が伝達されることを抑制できる。これにより、ギヤボックス27へ衝撃荷重が伝達されてギヤボックス27がスクリュ軸21を押圧するのが抑制される。このときも、スクリュ軸21には引張力が作用する。
【0024】
スクリュ軸21は、アッパレール3内に配置された状態で、後方側の後端部21cがエンドキャップ45の軸受け部45aに回転自在に支持される。エンドキャップ45は、軸受け部45aの外周部に設けてある左右一対の係合爪45bによって、アッパレール3の側壁3b,3cに形成してある係合孔3hに係合して取り付けられる。スクリュ軸21のセレーション21bよりもさらに前方側の前端部21dには、雄ねじが形成され、該雄ねじにナット47がねじ込まれている。符号49,51はワッシャである。
【0025】
図2に示すように、ロアレール1の底壁1aには、前述したストッパボルト36が取り付けられている。ストッパボルト36は、ナット部材23の後方側の近傍に、ナット部材23とストッパプレート35との間に設けられている。ストッパボルト36が取り付けられた底壁1aには、ボルト挿入孔1hが形成され、ボルト挿入孔1hにストッパボルト36が下方から挿入されている。底壁1aの内部側のボルト挿入孔1hに対応する位置には、固定ナット53が圧入等により固定されている。すなわち、固定ナット53はクリンチングナットである。図5は、固定ナット53を底壁1aに圧入固定した状態を示しており、ストッパボルト36を取り付ける前の状態である。
【0026】
ボルト挿入孔1hの内径は、固定ナット53のねじ孔の内径よりも大きく形成され、ボルト挿入孔1hの中心と固定ナット53のねじ孔の中心とはほぼ一致している。ストッパボルト36は、図5の状態で、ボルト挿入孔1hに下方から挿入し、固定ナット53に締結することで図3のようにロアレール1に固定される。ストッパボルト36は、底壁1aの下側の外部側に位置する頭部36aと、固定ナット53にねじ込まれるねじ部36bと、ねじ部36bに対して頭部36aと反対側の先端側に位置するストッパ部36cとを備えている。
【0027】
図3に示すように、ストッパプレート33,35は、下端縁33h,35hが上方に凹む凹形状となっている。下端縁33h,35hは、凹形状とせずに、平坦面としてもよい。下端縁33h,35hは、固定ナット53の上端部53aよりも上方に位置している。すなわち、固定ナット53の上側の端部(上端部53a)は、一対のストッパプレート33,35の下側の端部(下端縁33h,35h)に対し、下方に位置して上下方向で所定の隙間を有して離間している。
【0028】
一方、ストッパボルト36は、ストッパ部36cの先端部36c1がストッパプレート33,35の下端縁33h,35hよりも上方に位置している。下端縁33h,35hは、ストッパ部36cの上方方向のほぼ中央に位置している。すなわち、ストッパボルト36のストッパ部36cは、スクリュ軸21の回転によって、アッパレール3がスクリュ軸21とともにロアレール1に対して軸方向に相対移動したときにストッパプレート35に当接する。図4は、ストッパボルト36のストッパ部36cが、後方のストッパプレート35に当接した状態を示している。
【0029】
次に、電動シートスライド装置の動作を説明する。
【0030】
モータ25の駆動によって、スクリュ軸21がロアレール1に固定されたナット部材23に対して回転すると、スクリュ軸21はロアレール1に対しアッパレール3とともに前後に移動する。これにより、シートの前後位置が決められる。モータ25の駆動が継続されてアッパレール3が例えば前方にさらに移動すると、図4で示したように、ストッパ部36cが後方のストッパプレート35に当接し、それ以上の前方への移動が規制される。
【0031】
ストッパボルト36及び固定ナット53を、ナット部材23と後方のストッパプレート35との間において、アッパレール3の前後方向の適宜位置に設けることで、アッパレール3の後方への移動規制位置を変化させることができる。逆に、モータ25の駆動が継続されてアッパレール3が後方にさらに移動すると、ナット部材23が前方のストッパプレート33に当接し、それ以上の後方への移動が規制される。
【0032】
次に、本実施形態の作用効果を説明する。
【0033】
本実施形態は、固定ナット53の上端部53aが、ストッパ部材としてのストッパプレート35の下端縁35hに対し、下方に位置して上下方向で離間している。ストッパボルト36は、スクリュ軸21の回転によって、アッパレール3がスクリュ軸21とともにロアレール1に対して軸方向に相対移動したときに、ストッパプレート35に当接するストッパ部36cを備えている。この場合、ストッパプレート35は、アッパレール3から切起こしたものではなく、板材をアッパレール3にカシメにより固定しているため、アッパレール3により強固に取り付けられ、強度が極めて高くなっている。
【0034】
アッパレール3のロアレール1に対する前後方向に移動規制について、上記強度の高いストッパプレート35に、ロアレール1に取り付けたストッパボルト36が当接することによってなされる。その際、ストッパボルト36は固定ナット53との間でロアレール1の底壁1aを上下から挟んでいるため、ロアレール1に強固に固定される。このため、ストッパ部36cがストッパプレート35に当接したときの傾きや変形を抑制でき、ストッパ部36cの強度が極めて高くなる。
【0035】
アッパレール3のロアレール1に対する前後方向への移動規制に必要な部材としては、ロアレール1にストッパボルト36及び固定ナット53を取り付けるだけでよく、簡素な構造とすることができ、コストを低減できる。
【0036】
前述したように、固定ナット53の上端部53aがストッパプレート33,35の下端縁33h,35hよりも下方に位置している。このため、ロアレール1にストッパボルト36を取り付ける前であって、ロアレール1に固定ナット53を固定した状態で、ロアレール1とアッパレール3とを組み付けることができる。この場合、ロアレール1とアッパレール3とを長手方向にスライドさせて組み付ける際に、固定ナット53とストッパプレート33,35とが干渉することがない。
【0037】
ロアレール1に固定ナット53を固定する作業は、ロアレール1にナット部材23を取付ボルト20により取り付ける工程の中で行える。このため、ストッパボルト36を用いてアッパレール3の作動範囲を規制する部品(固定ナット53)を、ストッパボルト36を用いない従前の組み立て製造ラインでの組み付けが可能となり、生産性が向上する。ストッパボルト36は、ロアレール1とアッパレール3とを組み付け、スクリュ軸21及び駆動部29を取り付けた後に、最後の作業として固定ナット53に締結する。
【0038】
本実施形態のストッパ部材は、スクリュ軸21の軸方向に所定の間隔を有する前後一対のストッパ部材33,35である。ナット部材23は、一対のストッパ部材33,35相互間に配置されており、固定ナット53,55及びストッパボルト36は、少なくとも一方のストッパ部材とナット部材23との間に設けられている。この場合、図1に示すように、後方のストッパ部材35とナット部材23との間にストッパボルト36を設けた例では、アッパレール3が前方へ移動したときに、ストッパボルト36が後方のストッパ部材35に当接し、アッパレール3の前方への移動を規制できる。
【0039】
本実施形態は、ロアレール1及びアッパレール3を備えるレール体は、左右一対設けられている。左右一対のレール体のそれぞれに、ナット部材23及びスクリュ軸21が設けられ、左右一対のスクリュ軸21は、一つのモータ25によって同期して駆動される。左右一対のレール体のうちの少なくとも一方に、固定ナット53及びストッパボルト36が設けられている。
【0040】
この場合、固定ナット53、ストッパボルト36及びストッパプレート35によるストッパ構造が強固であるために、左右一対のレール体のうちの一方にのみ固定ナット53及びストッパボルト36を設けることで、シートの後方への移動規制を安定して行える。左右一対のレール体の両方に固定ナット53及びストッパボルト36を設ける必要がないので、コスト低下を達成できる。なお、固定ナット53及びストッパボルト36は、左右一対のレール体の両方に設けてもよい。
【0041】
本実施形態の固定ナット53は、ロアレール1に圧入により固定される圧入ナットであってもよい。この場合、固定ナット53がロアレール1のボルト挿入孔1hに圧入にて固定されるため、固定ナット53の外れを抑制できると共に、製造ラインへの追加が容易であり、製造コストを低く抑えることができる。固定ナット53は、ストッパボルト36との間で、強固にロアレール1の底壁1aを挟持することになり、ストッパ強度をより高めることができる。
【0042】
本実施形態のロアレール1は、ストッパボルト36を固定ナット53に締結することで、固定ナット53とストッパボルト36の頭部36aとにより挟持固定されている。この場合、ストッパボルト36を固定ナット53に締結するだけで、ロアレール1の底壁1aを上下両側から挟持することができる。
【0043】
図6は、図4の圧入用の固定ナット53に代えて、溶接用の固定ナット55を使用している。溶接ナットで構成される円板形状の固定ナット55は、ロアレール1の底壁1a上に例えばプロジェクション溶接により固定され、図4の固定ナット53と同様にストッパボルト36のねじ部36bが、底壁1aの下側からねじ込まれる。図6の固定ナット55は、溶接によってロアレール1の底壁1aに一体的に固定できるため、ロアレール1に対する取付強度が高まり、ストッパ強度をより高めることができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これらの実施形態は本発明の理解を容易にするために記載された単なる例示に過ぎず、本発明は当該実施形態に限定されるものではない。本発明の技術的範囲は、上記実施形態で開示した具体的な技術事項に限らず、そこから容易に導きうる様々な変形、変更、代替技術なども含む。
【0045】
例えば、上記実施形態では、スクリュ軸21をアッパレール3に取り付け、ナット部材23をロアレール1に取り付けているが、スクリュ軸21をロアレール1に取り付け、ナット部材23をアッパレール3に取り付けてもよい。この場合、固定ナット及びストッパボルトをアッパレール3に取り付け、ストッパプレートはロアレール1に取り付けることになる。ロアレール1側のスクリュ軸を回転させることで、ナット部材がアッパレール3と共に前後に移動する。アッパレール3が前方へ移動する際には、ナット部材23と前方のストッパプレートとの間に設けてあるストッパボルトが前方のストッパプレートに当接して、アッパレール3の前方への移動を規制する。
【0046】
また、上記実施の形態では、後方のストッパプレート35とナット部材23との間に固定ナット53及びストッパボルト36を設けているが、前方のストッパプレート33とナット部材23との間に固定ナット35及びストッパボルト36を設けてもよい。この場合、前方のストッパプレート33とストッパボルト36とが当接し、アッパレール3の後方への移動を規制する。
【0047】
なお、後方のストッパプレート35とナット部材23との間及び、前方のストッパプレート33とナット部材23との間に、それぞれ固定ナット53及びストッパボルト36を設けてもよい。
【0048】
固定ナット53及びストッパボルト36を取り付けるためのボルト挿入孔1hを、設定したい位置に応じてロアレール底壁1aに複数設けておくことができる。これにより、電動シートスライド装置自体は共通化して利用でき、製造コストを下げることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 ロアレール(レール体)
3 アッパレール(レール体)
21 スクリュ軸
23 ナット部材
29 駆動部
35 ストッパプレート(ストッパ部材)
36 ストッパボルト
36a ストッパボルトの頭部
36c ストッパボルトのストッパ部
53,55 固定ナット
図1
図2
図3
図4
図5
図6