(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
B60G 17/016 20060101AFI20230725BHJP
E02F 9/24 20060101ALI20230725BHJP
E02F 9/02 20060101ALI20230725BHJP
B60K 17/30 20060101ALI20230725BHJP
B60K 17/344 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
B60G17/016
E02F9/24 B
E02F9/02 Z
B60K17/30 Z
B60K17/344 Z
(21)【出願番号】P 2019180941
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 圭一
【審査官】佐々木 智洋
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-183307(JP,A)
【文献】特開2002-242233(JP,A)
【文献】特開2002-067649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 17/016
E02F 9/24
E02F 9/02
B60K 17/30
B60K 17/344
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、
前記車体の前後方向に延びる軸に対しロール動作可能に前記車体に取り付けられたリアアクスルと、
前記リアアクスルの前記車体に対するロール動作をロックするロック機構と、
前記車体の重心の安定度を取得し、前記安定度に基づき前記リアアクスルの前
記ロール動作を
ロックする、コントローラを備え
、
前記コントローラは、前記車体の自重で前記リアアクスルが前記車体に対してロール動作する結果、前記車体の鉛直方向に対する傾きが増大していくと判断した場合、前記ロック機構を駆動する、作業機械。
【請求項2】
前記車体の前方に備えられる左右の前輪を含むフロントアクスルをさらに備え、
前記安定度は、前記フロントアクスルと前記リアアクスルとによって規定される領域と、前記車体の重心との関係に基づき規定される、請求項1に記載の作業機械。
【請求項3】
前記リアアクスルのロール動作の中心位置により前記領域が規定される、請求項2に記載の作業機械。
【請求項4】
前記左右の前輪の回転中心により前記領域が規定される、請求項2または3に記載の作業機械。
【請求項5】
前記領域と、前記車体の重心を通り鉛直方向に延びる仮想上の直線である鉛直線との位置関係から、前記安定度が判別される、請求項2~4のいずれか1項に記載の作業機械。
【請求項6】
前記コントローラは、前記車体
が鉛直方向に対
して傾斜しているとき、前記鉛直線を
前記車体の上下方向に対して傾斜させる、請求項5に記載の作業機械。
【請求項7】
前記車体に取り付けられた作業機をさらに備え、
前記コントローラは、前記作業機
が持ち上げられた姿勢
では前記作業機が持ち上げられていない姿勢と比較して前記重心の位置を上方に位置させ、前記作業機に
荷が積載され
た状態
では前記作業機に荷が搭載されていない状態と比較して前記重心の位置を
上方に位置させる、請求項1~6のいずれか1項に記載の作業機械。
【請求項8】
前記リアアクスルを支持する後フレームと、
前記フロントアクスルを支持し、前記後フレームに対して屈曲可能な前フレームとをさらに備え、
前記コントローラは、前記前フレームと前記後フレームとのなす角度から、前記領域を導出する、請求項2~6のいずれか1項に記載の作業機械。
【請求項9】
前記安定度は、前記車体によって規定される領域と、前記車体の重心を通り鉛直方向に延びる仮想上の直線である鉛直線とに基づき規定され、
前記コントローラは、前記鉛直線が前記領域と交差しない場合、前記ロック機構を駆動する、請求項
1に記載の作業機械。
【請求項10】
前記作業機械は、前記車体を走行させる走行装置を備え、走行して作業を行うものであり、
前記走行装置は、前記リアアクスルを有し、
前記コントローラは、前記ロック機構を駆動させた状態で前記車体を走行させる、請求項1に記載の作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平5-86636号公報(特許文献1)には、車体の回転モーメントと作業機の回転モーメントとを合成して得られた車両を接地させる方向の回転モーメントが閾値以下になると、作業機の姿勢を調整する、作業車両が開示されている。この文献には、かかる構成により、作業車両が傾斜地を走行する場合の転倒を未然に防止すると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ホイールローダなどの作業機械の場合、地面の凹凸に応じて後輪が左右に傾くリアアクスルオシレート機構を備えることで、前輪および後輪の四輪が常に接地して、駆動力を確実に地面に伝えることを可能としている。
【0005】
上記文献には、リアアクスルが車体に対して回転しない作業車両が開示されており、オシレート可能な作業機械の転倒の防止については考慮されていない。
【0006】
本開示では、車体に対してロール動作可能なリアアクスルを備える作業機械の転倒を未然に防止できる技術が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に従うと、車体と、車体の前後方向に延びる軸に対しロール動作可能に車体に取り付けられたリアアクスルとを備える、作業機械が提供される。作業機械は、コントローラを備えている。コントローラは、車体の重心の安定度を取得し、重心の安定度に基づきリアアクスルの車体に対するロール動作を制御する。
【発明の効果】
【0008】
本開示に従えば、車体に対してロール動作可能なリアアクスルを備える作業機械の転倒を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に基づく作業機械の一例としてのホイールローダの側面図である。
【
図2】実施形態に従うホイールローダを含む全体システムの構成を示す概略ブロック図である。
【
図3】オシレート可能な状態の後輪を示す斜視図である。
【
図4】リアアクスルの車体に対するロール動作を示す図である。
【
図5】オシレートロック機構の第1の例を示す模式図である。
【
図6】
図5に示されるオシレートロック機構の駆動状態を示す模式図である。
【
図7】オシレートロック機構の第2の例を示す模式図である。
【
図8】第1処理装置内の機能ブロックを示す図である。
【
図9】リアアクスルのロール動作をロックする処理の流れを示すフロー図である。
【
図10】車体情報の一例を示す、ホイールローダを側面視した図である。
【
図11】車体情報の一例を示す、ホイールローダを側面視した図である。
【
図12】車体情報の一例を示す、ホイールローダを平面視した図である。
【
図13】車体情報の一例を示す、ホイールローダを後方から見た図である。
【
図14】傾斜面を走行するホイールローダの鉛直線を示す図である。
【
図15】オシレート可能な状態での領域と鉛直線との位置関係を示す図である。
【
図16】オシレートロック状態での領域と鉛直線との位置関係を示す図である。
【
図17】オシレートロック状態での領域と鉛直線との位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について図に基づいて説明する。以下の説明では、同一部品には、同一の符号を付している。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0011】
<全体構成>
実施形態においては、作業機械の一例としてホイールローダ1について説明する。
図1は、実施形態に基づく作業機械の一例としてのホイールローダ1の側面図である。
【0012】
図1に示されるように、ホイールローダ1は、車体フレーム2と、作業機3と、走行装置4と、キャブ5とを備えている。車体フレーム2、キャブ5などからホイールローダ1の車体(作業機械本体)が構成されている。ホイールローダ1の車体には、作業機3および走行装置4が取り付けられている。
【0013】
走行装置4は、ホイールローダ1の車体を走行させるものであり、走行輪4a、4bを含んでいる。ホイールローダ1は、走行輪4a、4bが回転駆動されることにより自走可能であり、作業機3を用いて所望の作業を行うことができる。
【0014】
車体フレーム2は、前フレーム2aと後フレーム2bとを含んでいる。前フレーム2aと後フレーム2bとは、互いに左右方向に回動可能に取り付けられている。前フレーム2aと後フレーム2bとに亘って、一対のステアリングシリンダ11が取り付けられている。ステアリングシリンダ11は、油圧シリンダである。ステアリングシリンダ11がステアリングポンプ(図示せず)からの作動油によって伸縮することによって、ホイールローダ1の進行方向が左右に変更される。
【0015】
本明細書中において、ホイールローダ1が直進走行する方向を、ホイールローダ1の前後方向という。ホイールローダ1の前後方向において、車体フレーム2に対して作業機3が配置されている側を前方向とし、前方向と反対側を後方向とする。ホイールローダ1の左右方向とは、平坦な地面上にあるホイールローダ1を平面視したときに前後方向と直交する方向である。前方向を見て左右方向の右側、左側が、それぞれ右方向、左方向である。ホイールローダ1の上下方向とは、前後方向および左右方向によって定められる平面に直交する方向である。上下方向において地面のある側が下側、空のある側が上側である。
【0016】
前フレーム2aには、作業機3および左右一対の走行輪(前輪)4aが取り付けられている。作業機3は、車体の前方に配設されている。作業機3は、作業機ポンプ25(
図2参照)からの作動油によって駆動される。作業機ポンプ25は、エンジン20により駆動され、吐出する作動油によって作業機3を作動させる油圧ポンプである。作業機3は、ブーム14と、作業具であるバケット6とを含んでいる。バケット6は、作業機3の先端に配置されている。バケット6は、ブーム14の先端に着脱可能に装着されたアタッチメントの一例である。作業の種類に応じて、アタッチメントが、グラップル、フォーク、またはプラウなどに付け替えられる。
【0017】
ブーム14の基端部は、ブームピン9によって前フレーム2aに回転自在に取付けられている。バケット6は、ブーム14の先端に位置するバケットピン17によって、回転自在にブーム14に取付けられている。
【0018】
前フレーム2aとブーム14とは、一対のブームシリンダ16により連結されている。ブームシリンダ16は、油圧シリンダである。ブームシリンダ16の基端は、前フレーム2aに取り付けられている。ブームシリンダ16の先端は、ブーム14に取り付けられている。ブームシリンダ16が作業機ポンプ25(
図2参照)からの作動油によって伸縮することによって、ブーム14が昇降する。ブームシリンダ16は、ブーム14を、ブームピン9を中心として上下に回転駆動する。
【0019】
作業機3は、ベルクランク18と、バケットシリンダ19と、リンク15とをさらに含んでいる。ベルクランク18は、ブーム14のほぼ中央に位置する支持ピン18aによって、ブーム14に回転自在に支持されている。バケットシリンダ19は、ベルクランク18と前フレーム2aとを連結している。リンク15は、ベルクランク18の先端部に設けられた連結ピン18cに連結されている。リンク15は、ベルクランク18とバケット6とを連結している。
【0020】
バケットシリンダ19は、油圧シリンダであり作業具シリンダである。バケットシリンダ19の基端は、前フレーム2aに取り付けられている。バケットシリンダ19の先端は、ベルクランク18の基端部に設けられた連結ピン18bに取り付けられている。バケットシリンダ19が作業機ポンプ25(
図2参照)からの作動油によって伸縮することによって、バケット6が上下に回動する。バケットシリンダ19は、バケット6を、バケットピン17を中心として回転駆動する。
【0021】
後フレーム2bには、キャブ5および左右一対の走行輪(後輪)4bが取り付けられている。キャブ5は、ブーム14の後方に配置されている。キャブ5は、車体フレーム2上に載置されている。キャブ5内には、オペレータが着座するシートおよび後述する操作装置などが配置されている。
【0022】
キャブ5内には、IMU(Inertial Measurement Unit)66が配置されている。IMU66は、車体フレーム2の傾きを検出する。IMU66は、車体フレーム2の前後方向および左右方向に対する傾斜角を検出する。IMU66は、ホイールローダ1の車体の鉛直方向に対する傾きを検出する。
【0023】
キャブ5の後方に、エンジンフード7が配置されている。エンジンフード7は、エンジン20(
図2)などを収納する収納空間の上方および両側方を覆っている。エンジンフード7の上面から、エアクリーナ12および排気管13が、上方に突出している。
【0024】
背面グリル8は、エンジンフード7の後方に配置されている。背面グリル8は、上記の収納空間を後方から覆っている。背面グリル8の後面には、収納空間の内部と外部とを連通する吸気口が形成されている。この吸気口を通過して、収納空間の内部に空気が供給される。
【0025】
図2は、実施形態に従うホイールローダ1を含む全体システムの構成を示す概略ブロック図である。
【0026】
ホイールローダ1は、エンジン20、動力取り出し部22、動力伝達機構23、シリンダ駆動部24、第一角度検出器29、第二角度検出器48、回動機構60および第1処理装置30(コントローラ)を備えている。
【0027】
エンジン20は、たとえばディーゼルエンジンである。エンジン20は、エンジンフード7(
図1)に覆われた収納空間内に収納されている。エンジン20の出力は、エンジン20のシリンダ内に噴射する燃料量を調整することにより制御される。エンジン20には、回転センサ32が設けられている。回転センサ32は、エンジン20内部の回転軸の回転数を検出する。回転センサ32は、回転数を示す検出信号を第1処理装置30に出力する。
【0028】
動力取り出し部22は、エンジン20の出力を、動力伝達機構23とシリンダ駆動部24とに振り分ける装置である。動力伝達機構23は、エンジン20からの駆動力を前輪4aおよび後輪4bに伝達する機構であり、たとえばトランスミッションである。ホイールローダ1においては、前フレーム2aに取り付けられた前輪4aと、後フレーム2bに取り付けられた後輪4bとの両方が、駆動力を受けてホイールローダ1を走行させる駆動輪を構成している。
【0029】
動力伝達機構23は、入力軸21の回転を変速して出力軸23aに出力する。動力伝達機構23の出力軸23aには、ホイールローダ1の車速を検出するための車速検出部27が取り付けられている。ホイールローダ1は、車速検出部27を含んでいる。
【0030】
車速検出部27はたとえば車速センサである。車速検出部27は、出力軸23aの回転速度を検出することにより、走行装置4(
図1)によるホイールローダ1の移動速度を検出する。車速検出部27は、出力軸23aの回転速度を検出するための回転センサとして機能する。車速検出部27は、走行装置4による移動を検出する移動検出器として機能する。車速検出部27は、ホイールローダ1の車速を示す検出信号を第1処理装置30に出力する。
【0031】
出力軸23aに、フロントアクスル41が接続されている。エンジン20の発生する駆動力は、フロントアクスル41に伝達される。フロントアクスル41の両端に、左右の前輪4aが取り付けられている。フロントアクスル41から、左右一対の前輪4aに、駆動力が伝達される。フロントアクスル41は、前フレーム2aに支持されている。前輪4aは、フロントアクスル41を介して、ホイールローダ1の車体の一部を構成する前フレーム2aに、前フレーム2aに対して回転可能に取り付けられている。
【0032】
回動機構60は、前フレーム2aと後フレーム2bとを回動可能に連結している。後フレーム2bに対する前フレーム2aの回動は、前フレーム2aと後フレーム2bとの間に連結されたアーティキュレートシリンダを伸縮させることで行われる。前フレーム2aは、後フレーム2bに対して屈曲可能である。前フレーム2aを後フレーム2bに対して屈曲させる(アーティキュレートさせる)ことで、前輪4aと後輪4bとの内輪差を小さくして、ホイールローダ1の旋回時の旋回半径を小さくすることが可能である。
【0033】
回動機構60には、アーティキュレート角度センサ61が設けられている。アーティキュレート角度センサ61は、前フレーム2aと後フレーム2bとのなす角度であるアーティキュレート角度を検出する。アーティキュレート角度センサ61は、アーティキュレート角度を示す検出信号を第1処理装置30に出力する。
【0034】
出力軸23aに、リアプロペラシャフト43が接続されている。リアプロペラシャフト43の後端に、連結部44が設けられている。連結部44に、リアアクスル42が接続されている。リアアクスル42は、リアプロペラシャフト43を介して、出力軸23aに接続されている。エンジン20の発生する駆動力は、リアアクスル42に伝達される。リアアクスル42の両端に、左右の後輪4bが取り付けられている。リアアクスル42から、左右一対の後輪4bに、駆動力が伝達される。リアアクスル42は、後フレーム2bに支持されている。後輪4bは、リアアクスル42を介して、ホイールローダ1の車体の一部を構成する後フレーム2bに、後フレーム2bに対して回転可能に取り付けられている。
【0035】
図2には、エンジン20の発生する駆動力を前輪4aおよび後輪4bに伝達するための構造の一例が模式的に図示されている。エンジン20から前輪4aおよび後輪4bへの動力伝達構造は、上述した例に限られない。たとえば、動力伝達機構23が、トランスミッションと、駆動力を前後軸に分配するためのトランスファとを有し、トランスファの出力軸の一方端から前輪4aに駆動力が伝達され、トランスファの出力軸の他方端から後輪4bに駆動力が伝達される構造としてもよい。
【0036】
ホイールローダ1は、リアアクスルオシレート機構を有している。
図3は、オシレート可能な状態の後輪4bを示す斜視図である。
図3には、左後方から見たホイールローダ1が図示されている。
図4は、リアアクスル42の車体に対するロール動作を示す図である。
図4には、後方から見たリアアクスル42が図示されている。
【0037】
リアアクスルオシレート機構は、ホイールローダ1が凹凸のある路面または車幅方向に勾配のある路面などを走行する場合において、車体を水平に保つための機構である。リアアクスルオシレート機構を備えるホイールローダ1においては、
図4に示されるように、一対の後輪4bを互いに連結するリアアクスル42は、連結部44を中心として揺動可能に、後フレーム2bに支持されている。
図4中の両矢印ARに示されるように、リアアクスル42は、車体の前後方向に延びる水平軸、たとえば出力軸23aの回転中心またはリアプロペラシャフト43の回転中心に対してリアアクスル42が両方向に傾斜する、ロール動作が可能である。連結部44(
図2)は、水平軸を中心にリアアクスル42を揺動可能に支持し、リアアクスル42を水平軸回りにオシレート自在とする、連結装置の一例である。
【0038】
リアアクスル42の左右両方の端部には、後輪取付部46が設けられている。左右の後輪取付部46の各々に、左右の後輪4bが取り付けられる。リアアクスル42が路面の凹凸または傾斜に沿って揺動し、リアアクスル42が車幅方向に対して傾斜することにより、
図3中の両矢印ARに示されるように、リアアクスル42と一体として後輪4bが上下動する。これにより、左右一対の前輪4aと左右一対の後輪4bとの合計4つの走行輪の全てを地面に接触させ、ホイールローダ1の駆動力を確実に地面に伝えることが可能とされている。
【0039】
図2に戻って、シリンダ駆動部24は、作業機ポンプ25および制御弁26を有している。エンジン20の出力は、動力取り出し部22を介して、作業機ポンプ25に伝達される。作業機ポンプ25から吐出された作動油は、制御弁26を介して、ブームシリンダ16およびバケットシリンダ19に供給される。
【0040】
センサ33は、作業機ポンプ25の斜板の角度を検出する。センサ33は、作業機ポンプ25の斜板の角度を示す検出信号を第1処理装置30に出力する。圧力センサ34は、作業機ポンプ25の吐出圧力を検出する。圧力センサ34は、作業機ポンプ25の吐出圧力を示す検出信号を第1処理装置30に出力する。
【0041】
ブームシリンダ16には、ブームシリンダ16の油室内の油圧を検出するための第一油圧検出器28a、28bが取り付けられている。ホイールローダ1は、第一油圧検出器28a、28bを含んでいる。第一油圧検出器28a、28bは、たとえばヘッド圧検出用の圧力センサ28aと、ボトム圧検出用の圧力センサ28bとを有している。
【0042】
圧力センサ28aは、ブームシリンダ16のヘッド側に取り付けられている。圧力センサ28aは、ブームシリンダ16のシリンダヘッド側油室内の作動油の圧力(ヘッド圧)を検出することができる。圧力センサ28aは、ブームシリンダ16のヘッド圧を示す検出信号を第1処理装置30に出力する。圧力センサ28bは、ブームシリンダ16のボトム側に取り付けられている。圧力センサ28bは、ブームシリンダ16のシリンダボトム側油室内の作動油の圧力(ボトム圧)を検出することができる。圧力センサ28bは、ブームシリンダ16のボトム圧を示す検出信号を第1処理装置30に出力する。
【0043】
第一角度検出器29は、たとえば、ブームピン9に取り付けられたポテンショメータである。第一角度検出器29は、ブーム14の持ち上がり角度を表すブーム角度を検出する。第一角度検出器29は、ブーム角度を示す検出信号を第1処理装置30に出力する。
【0044】
具体的には、
図1に示すように、ブーム基準線Aは、ブームピン9の中心とバケットピン17の中心とを通る直線である。ブーム角度θ1は、ブームピン9の中心から前方に延びる水平線Hと、ブーム基準線Aとの成す角度である。ブーム基準線Aが水平である場合をブーム角度θ1=0°と定義する。ブーム基準線Aが水平線Hよりも上方にある場合にブーム角度θ1を正とする。ブーム基準線Aが水平線Hよりも下方にある場合にブーム角度θ1を負とする。
【0045】
第一角度検出器29は、ブームシリンダ16に配置されたストロークセンサであってもよい。
【0046】
第二角度検出器48は、たとえば、支持ピン18aに取り付けられたポテンショメータである。第二角度検出器48は、ブーム14に対するバケット6の角度を表すバケット角度を検出する。第二角度検出器48は、バケット角度を示す検出信号を第1処理装置30に出力する。
【0047】
具体的には、
図1に示すように、バケット基準線Bは、バケットピン17の中心とバケット6の刃先6aとを通る直線である。バケット角度θ2は、ブーム基準線Aとバケット基準線Bとの成す角度である。バケット6を接地した状態でバケット6の刃先6aが地上において水平となる場合をバケット角度θ2=0°と定義する。バケット6をチルト方向(上向き)に移動した場合にバケット角度θ2を正とする。バケット6をダンプ方向(下向き)に移動した場合にバケット角度θ2を負とする。
【0048】
第二角度検出器48は、ブーム14に対するベルクランク18の角度(ベルクランク角度)を検出することにより、バケット角度θ2を検出してもよい。ベルクランク角度は、支持ピン18aの中心と連結ピン18bの中心とを通る直線と、ブーム基準線Aとの成す角度である。第二角度検出器48は、バケットピン17に取り付けられたポテンショメータまたは近接スイッチであってもよい。または第二角度検出器48は、バケットシリンダ19に配置されたストロークセンサであってもよい。
【0049】
IMU66は、ホイールローダ1の車体の、鉛直方向に対する傾斜の角度を示す検出信号を、第1処理装置30に出力する。
【0050】
図2に示されるように、ホイールローダ1は、キャブ5内に、操作装置49を備えている。操作装置49は、オペレータによって操作される操作部材49aと、操作部材49aの位置を検出して検出結果を第1処理装置30に出力する検出センサ49bとを含んでいる。操作装置49は、車両の前進および後進の切り換え、エンジン20の目標回転速度の設定、ホイールローダ1の減速力の操作、ブーム14の上げ動作および下げ動作、動力伝達機構23における入力軸21から出力軸23aへの変速の制御、バケット6の掘削動作およびダンプ動作、回動機構60を介した前フレーム2aの後フレーム2bに対する屈曲(アーティキュレート)などを指示するために、オペレータによって操作される。
【0051】
第1処理装置30は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などの記憶装置と、CPU(Central Processing Unit)などの演算装置を含むマイクロコンピュータで構成されている。第1処理装置30は、エンジン20、作業機3(ブームシリンダ16、バケットシリンダ19など)、動力伝達機構23などの動作を制御する、ホイールローダ1のコントローラの機能の一部として実現されてもよい。
【0052】
第1処理装置30には、IMU66によって検出される車体の傾斜角度の信号と、第一角度検出器29によって検出されるブーム角度θ1の信号と、第二角度検出器48によって検出されるバケット角度θ2の信号と、圧力センサ28aによって検出されるブームシリンダ16のヘッド圧の信号と、圧力センサ28bによって検出されるブームシリンダ16のボトム圧の信号と、アーティキュレート角度センサ61によって検出されるアーティキュレート角度の信号と、車速検出部27によって検出されるホイールローダ1の車速の信号と、が主に入力される。
【0053】
第1処理装置30は、記憶部30jを有している。記憶部30jは、ホイールローダ1の各種の動作を制御するためのプログラムを格納する。第1処理装置30は、記憶部30jに格納されているプログラムに基づいて、ホイールローダ1の動作を制御するための各種処理を実行する。記憶部30jは、不揮発性のメモリであり、必要なデータを記憶する領域として設けられている。
【0054】
<オシレートロック機構40>
ホイールローダ1は、オシレートロック機構40をさらに有している。オシレートロック機構40は、第1処理装置30から制御信号を受けて駆動することにより、リアアクスル42を車体に対して相対移動不能にロックして、リアアクスル42が車体に対してロール動作しないようにする。
【0055】
図5は、オシレートロック機構40の第1の例を示す模式図である。
図5に示されるオシレートロック機構40は、シリンダ81,82を有している。シリンダ81は、リアアクスル42のうち、連結部44よりも左の後輪4bに近い部分に、対向して配置されている。シリンダ82は、リアアクスル42のうち、連結部44よりも右の後輪4bに近い部分に、対向して配置されている。
【0056】
図6は、
図5に示されるオシレートロック機構40の駆動状態を示す模式図である。
図6に示されるオシレートロック機構40は、駆動状態では、シリンダ81,82のピストンロッドが突出して、ピストンロッドの先端部がリアアクスル42に接触する。シリンダ81,82のピストンロッドが、連結部44の両側でリアアクスル42に押し付けられることにより、リアアクスル42の車体に対する相対移動が妨げられる。このようにしてリアアクスル42がロックされ、リアアクスル42が車体に対してロール動作しないようになる。
【0057】
図7は、オシレートロック機構40の第2の例を示す模式図である。
図7に示されるオシレートロック機構40は、ブレーキディスク83と、ブレーキパッド84とを有している。ブレーキディスク83は、リアアクスル42に固定されており、リアアクスル42と一体的に車体に対して回転可能である。ブレーキディスク83は、平板状の形状を有している。ブレーキパッド84は、平板状のブレーキディスク83を間に挟むように配置されている。
【0058】
図7に示されるオシレートロック機構40は、駆動状態では、ブレーキパッド84が平板状のブレーキディスク83を両側から挟み付け、ブレーキディスク83の動きを規制する。ブレーキディスク83はリアアクスル42に一体に固定されているので、リアアクスル42の車体に対する相対移動が妨げられる。このようにしてリアアクスル42がロックされ、リアアクスル42が車体に対してロール動作しないようになる。
【0059】
<第1処理装置30内の機能ブロック>
図2に示される第1処理装置30は、オシレートロック機構40を駆動することにより、リアアクスル42の車体に対するロール動作をロックする機能を有している。この機能を有する第1処理装置30の機能ブロックについて、以下説明する。
【0060】
図8は、第1処理装置30内の機能ブロックを示す図である。
図8に示されるように、第1処理装置30は、たとえば、車体情報検出部36と、重心算出部37と、判別部38と、指令部39とを有している。
【0061】
車体情報検出部36は、ホイールローダ1の車体の情報を検出する。車体情報検出部36は、車速検出部27から出力されたホイールローダ1の車速の検出信号と、第一油圧検出器28a,28bから出力されたブームシリンダ16内の油圧の検出信号と、第一角度検出器29から出力されたブーム角度θ1の検出信号と、第二角度検出器48から出力されたバケット角度θ2の検出信号と、アーティキュレート角度センサ61から出力されたアーティキュレート角度の検出信号と、IMU66から出力された車体の傾斜角度の検出信号と、を取得する。
【0062】
ブーム角度θ1およびバケット角度θ2、アーティキュレート角度、ならびに車体の傾斜角度は、キャブ5に取り付けたカメラの画像を解析することで、取得されてもよい。また、作業機3にIMUを設置し、作業機3のIMUの検出結果と車体のIMU66の検出結果との相対性より、ブーム角度θ1およびバケット角度θ2が取得されてもよい。
【0063】
重心算出部37は、取得した車体情報に基づいて、ホイールローダ1の車体の重心の位置を算出する。重心算出部37は、さらに、車体の重心を通り鉛直方向に延びる仮想上の直線である、鉛直線を求める。重心算出部37は、求めた鉛直線の情報を、判別部38に出力する。
【0064】
判別部38は、記憶部30j(
図2)から、ホイールローダ1の車体の仕様に係る情報を読み出す。具体的には判別部38は、左右の前輪4aの回転中心と、リアアクスル42の車体に対するロール動作の中心位置とを、記憶部30jから読み出す。判別部38は、ホイールローダ1の車体の仕様に係る情報と、アーティキュレート角度とに基づいて、左右の前輪4aの回転中心とリアアクスル42のロール動作の中心位置とから規定される領域を導出する。判別部38は、この領域と、重心算出部37から取得した鉛直線との位置関係から、ホイールローダ1の安定度を判別する。この判別された安定度に基づいて、判別部38は、リアアクスル42のロール動作をロックするか否かを判別する。判別部38は、判別の結果を、指令部39に出力する。
【0065】
指令部39は、リアアクスル42のロール動作をロックするという判別の結果を判別部38から取得した場合に、オシレートロック機構40を駆動する制御信号を、オシレートロック機構40に対して出力する。
【0066】
<リアアクスル42のロックに係る制御方法>
次に、リアアクスル42をロックする制御方法について説明する。
図9は、リアアクスル42のロール動作をロックする処理の流れを示すフロー図である。
【0067】
図9に示されるように、まずステップS1において、車体情報が検出される。第1処理装置30、具体的には車体情報検出部36は、ホイールローダ1の車体の情報を検出する。
【0068】
図10は、車体情報の一例を示す、ホイールローダ1を側面視した図である。車体情報は、作業機3の姿勢を含んでいる。
図10に示されるホイールローダ1は、
図1と比較して、ブーム14が上方に位置している。ブーム基準線Aは、
図10に示される姿勢においては水平線Hよりも上方にある。
図10に示される姿勢においては、ブーム角度θ1は正の値をとる。
図10に示されるホイールローダ1は、
図1と比較して、バケット6がダンプ方向に移動している。
図10に示される姿勢においては、バケット角度θ2は負の値をとる。
【0069】
車体情報検出部36は、第一角度検出器29から、ブーム角度θ1の検出信号を取得する。車体情報検出部36は、第二角度検出器48から、バケット角度θ2の検出信号を取得する。ブーム角度θ1およびバケット角度θ2から、作業機3の姿勢が求められる。作業機3の姿勢は、ホイールローダ1の車体の重心の位置に影響を及ぼす。
図10に示されるブーム14が持ち上げられた姿勢では、
図1に示される姿勢と比較して、車体の重心は上方に位置している。
【0070】
図11は、車体情報の一例を示す、ホイールローダ1を側面視した図である。車体情報は、作業機3に積載された荷Lの状態を含んでいる。
図11に示される姿勢においては、ブーム角度θ1は正の値をとり、バケット角度θ2は負の値をとる。
図11に示されるホイールローダ1では、バケット6に、荷Lが積載されている。
【0071】
車体情報検出部36は、第一角度検出器29から、ブーム角度θ1の検出信号を取得する。車体情報検出部36は、第二角度検出器48から、バケット角度θ2の検出信号を取得する。車体情報検出部36は、第一油圧検出器28a,28bから、ブームシリンダ16のヘッド圧およびボトム圧の検出信号を取得する。ブーム角度θ1、バケット角度θ2、ならびにブームシリンダ16のヘッド圧およびボトム圧から、作業機3に積載された荷Lの重量が求められる。
【0072】
作業機3に積載された荷Lの重量、および荷Lが積載された作業機3の姿勢は、ホイールローダ1の車体の重心の位置に影響を及ぼす。
図11に示される、ブーム14が持ち上げられバケット6に荷Lが積載された状態では、
図1と比較して、車体の重心は上方に位置している。
【0073】
図12は、車体情報の一例を示す、ホイールローダ1を平面視した図である。車体情報は、アーティキュレート角度を含んでいる。
図12に示されるホイールローダ1では、前フレーム2aが、後フレーム2bに対して屈曲している。
【0074】
車体情報検出部36は、アーティキュレート角度センサ61から、アーティキュレート角度の検出信号を取得する。アーティキュレート角度は、左右の前輪4aの回転中心とリアアクスル42のロール動作の中心位置とから規定される領域に影響を及ぼす。当該領域を平面視した形状は、ホイールローダ1が直進走行する場合には二等辺三角形であるが、
図12に示される屈曲した姿勢では、不等辺三角形である。アーティキュレート角度はまた、ホイールローダ1の車体の重心の位置に影響を及ぼす。
【0075】
図13は、車体情報の一例を示す、ホイールローダ1を後方から見た図である。車体情報は、ホイールローダ1の車体の鉛直方向に対する傾きを含んでいる。
図13に示されるホイールローダ1が走行している地面GLは傾斜しており、そのためホイールローダ1の車体は、鉛直方向に対して傾斜している。
【0076】
車体情報検出部36は、IMU66から、車体の傾斜角度の検出信号を取得する。車体の傾斜角度は、車体の上下方向に対する鉛直線の傾斜に影響を及ぼす。ホイールローダ1の車体の重心を通り鉛直方向に延びる仮想上の直線である鉛直線は、ホイールローダ1が平坦な路面を走行している場合には、車体の上下方向に沿って延びる。
図13に示されるようにホイールローダ1が傾斜面を走行している場合には、鉛直線は車体の上下方向に対して傾斜する方向に延びる。
【0077】
また、車体情報は、ホイールローダ1の車速を含んでいる。車体情報検出部36は、車速検出部27から、車速の検出信号を取得する。特に
図13に示されるような傾斜面を走行する場合、車速が大きければ、ホイールローダ1の姿勢の安定性が低下することになる。
【0078】
図9に戻って、次にステップS2において、第1処理装置30は、先のステップS1で検出された車体情報から、ホイールローダ1の車体の重心の位置を求め、その重心を通り鉛直方向に延びる仮想上の直線である鉛直線を求める。第1処理装置30はまた、ホイールローダ1の車体の仕様に係る情報、具体的には左右の前輪4aの回転中心と、リアアクスル42の車体に対するロール動作の中心位置とを頂点として規定される領域を導出する。第1処理装置30はさらに、当該領域と、鉛直線との位置関係を算出する。
【0079】
次にステップS3において、第1処理装置30は、ホイールローダ1の安定度を判断する。具体的には、第1処理装置30は、ホイールローダ1が自重でオシレートすることによって、鉛直方向に対する車体の傾きが増大するか否かを判断する。
【0080】
図14は、傾斜面を走行するホイールローダ1の鉛直線を示す図である。
図14には、
図13と同様の、ホイールローダ1を後方から見た図が示されている。ホイールローダ1が走行する地面GLは横傾斜している。
図14に示される鉛直線gは、地面GLに直交する方向に対して傾斜する方向に延びている。鉛直線gは、ホイールローダ1の車体の上下方向に対して傾斜して延びている。
【0081】
図15は、オシレート可能な状態での領域R11,R12と鉛直線gとの位置関係を示す図である。
図15に示される領域R11は、3つの頂点P1,P2およびP3によって規定されている。頂点P1は、右の前輪4aの回転中心である。頂点P1は、フロントアクスル41の右端のハブの中心を示す。頂点P2は、左の前輪4aの回転中心である。頂点P2は、フロントアクスル41の左端のハブの中心を示す。頂点P3は、リアアクスル42の左右方向における中央の位置を示す。頂点P3は、リアプロペラシャフト43とリアアクスル42との連結部44(
図2)の位置を示す。頂点P3は、リアアクスル42の車体に対するロール動作の中心位置を示す。
【0082】
図15には、直進走行する姿勢のホイールローダ1が示されており、このとき領域R11は、二等辺三角形の形状を有している。なお上述した通り、前フレーム2aが後フレーム2bに対して屈曲(アーティキュレート)した姿勢では、領域R11は不等辺三角形になる。
【0083】
図14に示されるように車体の上下方向に対して鉛直線gが傾斜しているため、領域R11が規定される平面において、鉛直線gは領域R11と交差しない。鉛直線gは領域R11の外側にある。車体が左方向に傾斜しているので、鉛直線gは、領域R11の左側の外側にある。
【0084】
領域R11と鉛直線gとが、鉛直線gが領域R11と交差しない位置関係にある場合、第1処理装置30、具体的には判別部38は、車体の自重でリアアクスル42が車体に対してロール動作し、その結果、鉛直方向に対する車体の傾きが増大すると判断する(ステップS3においてYES)。
図14に示される姿勢から、車体が自重でリアアクスル42に対して反時計回り方向に相対回転すると、車体は地面GLに対してより大きく傾斜することとなる。このように車体の傾斜が増大すると、車体の姿勢が不安定になる。
【0085】
このようにホイールローダ1の安定度が低いと判断された場合には、ステップS4に進み、リアアクスル42のロール動作がロックされる。第1処理装置30の指令部39から、オシレートロック機構40へ、オシレートロック機構40を駆動させる制御信号が出力される。制御信号を受けたオシレートロック機構40が駆動することで、リアアクスル42のロール動作がロックされる。車体に対してリアアクスル42が相対移動不可能とされることで、車体が自重でリアアクスル42に対して相対回転することが防止される。
【0086】
図16は、オシレートロック状態での領域R21と鉛直線gとの位置関係を示す第1の図である。リアアクスル42のロール動作がロックされると、
図16に示される領域R21が規定される。
【0087】
領域R21は、4つの頂点P11,P12,P13およびP14によって規定されている。頂点P11は、右の前輪4aの回転中心である。頂点P11は、フロントアクスル41の右端のハブの中心を示す。頂点P12は、左の前輪4aの回転中心である。頂点P12は、フロントアクスル41の左端のハブの中心を示す。頂点P13は、右の後輪4bの回転中心である。頂点P13は、リアアクスル42右端のハブ(後輪取付部46、
図4)の中心を示す。頂点P14は、左の後輪4bの回転中心である。頂点P14は、リアアクスル42の左端のハブ(後輪取付部46、
図4)の中心を示す。領域R21は、長方形の形状を有している。
【0088】
図16に示されるように、領域R21が規定される平面において、鉛直線gが領域R21と交差している。鉛直線gは領域R21の内側にある。
【0089】
図17は、オシレートロック状態での領域R22と鉛直線gとの位置関係を示す第2の図である。
図17には、左の後輪4bが地面に接触しており、一方右の後輪4bが地面に接触していないときに規定される領域R22が示されている。なお
図16を参照して説明した領域R11は、左右の後輪4bの両方が地面に接触しているときに規定される領域である。
【0090】
領域R22は、3つの頂点P11,P12およびP14によって規定されている。領域R22は、直角三角形の形状を有している。
図17に示されるように、領域R22が規定される平面において、鉛直線gが領域R22と交差している。鉛直線gは領域R22の内側にある。
【0091】
このように、ホイールローダ1の四輪によって規定される長方形状の領域R21、または片方の後輪4bが地面から離れたとしても地面に接触している三輪によって規定される直角三角形状の領域R22と、鉛直線gが交差することになる。これによりホイールローダ1の安定度が増大するので、車体の地面GLに対する傾きが増大することが抑制され、車体の姿勢を安定させることが可能とされている。
【0092】
図9に戻って、ステップS3の判断において、車体が傾斜しておらずリアアクスル42が車体に対してロール動作しない、または、リアアクスル42が車体に対してロール動作したとしても車体の傾きが増大するほどには車体は傾斜していないと判断した場合(ステップS3においてNO)、すなわち、ホイールローダ1の安定度が十分に高いと判断された場合には、ステップS5に進む。ステップS5の処理では、指令部39からオシレートロック機構40へ制御信号が出力されることはなく、リアアクスル42のロール動作はロックされずオシレート可能な状態のままとされる。そして、処理を終了する。
【0093】
なお、
図15に示されるように、実線で図示される領域R11の内側に、破線で図示される領域R12が規定されている。領域R12は、3つの頂点P4,P5およびP6によって規定されている。頂点P4およびP5は、フロントアクスル41よりも後方に位置する。頂点P6は、リアアクスル42よりも前方に位置する。頂点P4は、頂点P1よりも車体の内側に位置する。頂点P5は、頂点P2よりも車体の内側に位置する。頂点P6は、頂点P3よりも車体の内側に位置する。領域R12は、領域R11と相似の二等辺三角形である。領域R12を形成する二等辺三角形は、領域R11を形成する二等辺三角形よりも、より短い長さの底辺と高さとを有し、したがってより小さい面積を有している。
【0094】
鉛直線gが領域R11と交差せず領域R11の外側にあると、上述した通り、車体の自重のため、地面に対する車体の傾斜が大きくなる。領域R12は、領域R11に対してセンサの誤差などを考慮した領域として、設定することができる。車体の仕様に係る情報に基づいて領域R11を設定し、領域R11に対して誤差を考慮した領域R12を設定し、鉛直線gが領域R12と交差せず領域R12の外側にあると判断された場合にリアアクスル42のロール動作をロックすることが可能である。このようにすれば、より確実に車体の傾斜の増大を防止することができる。
【0095】
<作用および効果>
上述した実施形態に係る作業機械の特徴的な構成および作用効果についてまとめて説明すると、以下の通りである。なお、実施形態の構成に参照符号を付すが、これは一例である。
【0096】
図2に示されるように、ホイールローダ1は、リアアクスル42と、第1処理装置30とを備えている。リアアクスル42は、車体の前後方向に延びる軸に対しロール動作可能である。
図9,15に示されるように、第1処理装置30は、左右の前輪4aの回転中心である頂点P1,P2とリアアクスル42のロール動作の中心である頂点P3とから規定される領域R11を設定する。第1処理装置30は、車体の重心を通り鉛直方向に延びる仮想上の直線である鉛直線gを設定する。第1処理装置30は、領域R11と鉛直線gとの位置関係から、ホイールローダ1の車体の重心の安定度を取得し、取得された安定度に基づいて、リアアクスル42の車体に対するロール動作を制御する。
【0097】
領域R11と鉛直線gとの位置関係から、ホイールローダ1の車体の地面に対する傾きが増大すると判断された場合に、第1処理装置30は、リアアクスル42のロール動作を制御する。リアアクスル42のロール動作を制御することで、ホイールローダ1の車体の地面に対する傾きが増大することを抑制できる。したがって、車体に対してロール動作可能なリアアクスル42を備えるホイールローダ1の転倒を、未然に防止することができる。
【0098】
図13,14に示されるように、第1処理装置30は、車体の鉛直方向に対する傾きを考慮して、鉛直線gを求める。このように鉛直線gを求めることで、領域R11と鉛直線gとの位置関係に基づくリアアクスル42のロール動作の制御の要否を、より正確に判断することができる。
【0099】
図10,11に示されるように、第1処理装置30は、作業機3の姿勢と、作業機3に積載された荷Lの状態とを考慮して、車体の重心の位置を求める。このように重心の位置を求めることで、領域R11と鉛直線gとの位置関係に基づくリアアクスル42のロール動作の制御の要否を、より正確に判断することができる。
【0100】
図12に示されるように、第1処理装置30は、前フレーム2aと後フレーム2bとのなす角度から、領域R11を算出する。このように領域R11を算出することで、領域R11と鉛直線gとの位置関係に基づくリアアクスル42のロール動作の制御の要否を、より正確に判断することができる。第1処理装置30は、アーティキュレート角度を使用して車体の重心の位置を求め、またアーティキュレート角度を使用して領域R11を算出することができ、このようにすれば、領域R11と鉛直線gとの位置関係に基づくリアアクスル42のロール動作の制御の要否を、さらに正確に判断することができる。
【0101】
図2,5~7に示されるように、ホイールローダ1は、リアアクスル42のロール動作をロックするオシレートロック機構40をさらに備えている。第1処理装置30がオシレートロック機構40を駆動する制御信号を出力することで、リアアクスル42のロール動作をロックする制御を容易に実行することができる。
【0102】
図9に示されるように、第1処理装置30は、車体の自重でリアアクスル42が車体に対してロール動作する結果、車体の鉛直方向に対する傾きが増大すると判断した場合、オシレートロック機構40を駆動する。リアアクスル42のロール動作をロックすることで、ホイールローダ1の車体の地面に対する傾きが増大することを抑制でき、車体に対してロール動作可能なリアアクスル42を備えるホイールローダ1の転倒を、未然に防止することができる。
【0103】
図15に示されるように、第1処理装置30は、鉛直線gが領域R11と交差しない場合、オシレートロック機構40を駆動する。これにより、鉛直線gと領域R11との位置関係に基づいて、オシレートロック機構40の駆動の要否を、より正確に判断することができる。
【0104】
これまでの実施形態の説明では、リアアクスル42を固定するオシレートロック機構40を備え、車体に対してリアアクスル42がロール動作すると地面に対する車体の傾きが増大する可能性がある場合にはリアアクスル42をロックして、車体の傾きの増大を抑制する構成について説明した。
図5,6に示されるシリンダ81,82を有する機構を、リアアクスル42を回転駆動させるために適用してもよい。
図14に示される、左下がりに横傾斜した地形をホイールローダ1が走行する場合、シリンダ81のピストンロッドでリアアクスル42を押圧するように駆動し、一方シリンダ82は駆動しないように制御してもよい。車体が自重によってリアアクスル42に対して相対回転する方向とは逆方向に、リアアクスル42を回転駆動することで、車体の傾きの増大を抑制することができる。
【0105】
実施形態では、オシレート可能な状態での領域R11を、左右の前輪4aの回転中心と、リアアクスル42の車体に対するロール動作の中心位置とから規定する例について説明した。リアアクスル42における領域R11を規定する頂点は、ロール動作の中心位置である頂点P3に限られず、リアアクスル42の任意の位置に設定されてもよい。たとえば、リアアクスル42の両端に、領域R11の頂点が設定されてもよい。左右の後輪4bのいずれか一方または両方に、領域R11の頂点が設定されてもよい。左右方向に延びるリアアクスル42が、領域R11の一辺を構成してもよい。
【0106】
またフロントアクスル41における領域R11を規定する頂点は、左右の前輪4aに限られず、フロントアクスル41の任意の位置に設定されてもよい。
【0107】
実施形態では、作業機械の一例としてホイールローダ1について説明した。ホイールローダ1に限られず、後輪がオシレート可能な他の任意の作業機械に、実施形態の思想を適用してもよい。
【0108】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0109】
1 ホイールローダ、2 車体フレーム、2a 前フレーム、2b 後フレーム、3 作業機、4 走行装置、4a 前輪、4b 後輪、5 キャブ、6 バケット、14 ブーム、20 エンジン、27 車速検出部、28a,28b 第一油圧検出器、29 第一角度検出器、30 第1処理装置、36 車体情報検出部、37 重心算出部、38 判別部、39 指令部、40 オシレートロック機構、41 フロントアクスル、42 リアアクスル、43 リアプロペラシャフト、44 連結部、46 後輪取付部、48 第二角度検出器、61 アーティキュレート角度センサ、81,82 シリンダ、83 ブレーキディスク、84 ブレーキパッド、A ブーム基準線、AR 両矢印、B バケット基準線、GL 地面、H 水平線、L 荷、P1,P2,P3,P4,P5,P6,P11,P12,P13,P14 頂点、R11,R12,R21,R22 領域、g 鉛直線。