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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】亜鉛電池用電解液、及び、亜鉛電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/26 20060101AFI20230725BHJP
   H01M 10/30 20060101ALI20230725BHJP
   H01M 10/32 20060101ALI20230725BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
H01M10/26
H01M10/30 A
H01M10/32 A
H01M4/62 C
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019205528
(22)【出願日】2019-11-13
(65)【公開番号】P2021077594
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】322013937
【氏名又は名称】エナジーウィズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100160897
【弁理士】
【氏名又は名称】古下 智也
(72)【発明者】
【氏名】大坪 亮二
(72)【発明者】
【氏名】阿部 美枝
(72)【発明者】
【氏名】近藤 裕介
(72)【発明者】
【氏名】水野 康之
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-153402(JP,A)
【文献】特開昭50-032437(JP,A)
【文献】特開昭49-063934(JP,A)
【文献】特開平07-161376(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0112223(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0059355(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/24-10/32
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属水酸化物と、酸素原子を含む有機化合物と、を含有し、
前記有機化合物が、単糖類、三糖類及び多糖類からなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、
前記多糖類が、シクロデキストリン及びスタキオースからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、亜鉛電池用電解液。
【請求項2】
前記有機化合物が、グルコース、マンノース、キシロース、ラフィノース及びシクロデキストリンからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1に記載の亜鉛電池用電解液。
【請求項3】
アルカリ金属水酸化物と、酸素原子を含む有機化合物と、を含有し、
前記有機化合物が、芳香環を有するカルボン酸、及び、芳香環を有するカルボン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、亜鉛電池用電解液。
【請求項4】
アルカリ金属水酸化物と、酸素原子を含む有機化合物と、を含有し、
前記有機化合物が単官能エポキシ化合物を含む、亜鉛電池用電解液。
【請求項5】
前記アルカリ金属水酸化物が水酸化カリウムを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の亜鉛電池用電解液。
【請求項6】
インジウム化合物を更に含有する、請求項1~のいずれか一項に記載の亜鉛電池用電解液。
【請求項7】
前記インジウム化合物が硫酸インジウムを含む、請求項に記載の亜鉛電池用電解液。
【請求項8】
正極と、負極と、請求項1~のいずれか一項に記載の亜鉛電池用電解液と、を備える、亜鉛電池。
【請求項9】
ニッケル亜鉛電池又は銀亜鉛電池である亜鉛電池であって、
正極と、負極と、亜鉛電池用電解液と、を備え、
前記亜鉛電池用電解液が、アルカリ金属水酸化物と、酸素原子を含む有機化合物と、を含有し、
前記有機化合物が、エーテル基を含む複素環を有するエーテル化合物を含む、亜鉛電池。
【請求項10】
前記負極が、集電体と、当該集電体に支持された電極材と、を有し、
前記電極材がインジウム化合物を含有する、請求項8又は9に記載の亜鉛電池。
【請求項11】
前記電極材の前記インジウム化合物が酸化インジウムを含む、請求項10に記載の亜鉛電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛電池用電解液、及び、亜鉛電池に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛電池としては、ニッケル亜鉛電池、空気亜鉛電池、銀亜鉛電池等が知られている。例えば、ニッケル亜鉛電池は、水酸化カリウム水溶液等の水系電解液を用いる水系電池であることから、高い安全性を有すると共に、亜鉛電極とニッケル電極との組み合わせにより、水系電池としては高い起電力を有することが知られている。さらに、ニッケル亜鉛電池は、優れた入出力性能に加えて低コストであることから、産業用途(例えば、バックアップ電源等の用途)及び自動車用途(例えば、ハイブリッド自動車等の用途)への適用可能性が検討されている。
【0003】
ニッケル亜鉛電池の充放電反応は、例えば、下記式に従って進行する(放電反応:右向き、充電反応:左向き)。
(正極)2NiOOH+2HO+2e → 2Ni(OH)+2OH
(負極)Zn+2OH → Zn(OH)+2e
【0004】
上記式に示されるように、亜鉛電池では、放電反応により水酸化亜鉛(Zn(OH))が生成する。水酸化亜鉛は電解液に可溶であり、水酸化亜鉛が電解液に溶解すると、テトラヒドロキシド亜鉛酸イオン([Zn(OH)2-)が電解液中に拡散する。その結果、負極の形態変化(変形)が進行すると共に充電電流の分布が不均一となること等により、負極上の局所で亜鉛の析出が起こり、デンドライト(樹枝状結晶)が発生する。従来の亜鉛電池では、充放電の繰り返しによりデンドライトが成長した場合、デンドライトがセパレータを貫通し短絡が発生する場合がある。そのため、このようなデンドライトによる短絡を防止し、寿命性能を向上させる種々の試みがなされている。例えば、下記特許文献1には、ナイロン、ポリプロピレン等の不織布にニッケルメッキを施し、当該不織布を正負両極間に介在させたことを特徴とするニッケル亜鉛電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭58-126665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
亜鉛電池は、上記デンドライトに起因する短絡の発生の他、充放電の繰り返しにより放電容量を発揮し得なくなることで寿命に至る場合がある。亜鉛電池の寿命を向上させるためには、上記放電容量の低下を抑制することが求められる。
【0007】
本発明の一側面は、充放電の繰り返しに伴う亜鉛電池の放電容量の低下を抑制することが可能な亜鉛電池用電解液を提供することを目的とする。本発明の他の一側面は、当該亜鉛電池用電解液を備える亜鉛電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、アルカリ金属水酸化物と、酸素原子を含む有機化合物と、を含有する、亜鉛電池用電解液を提供する。
【0009】
本発明の他の一側面は、正極と、負極と、上述の亜鉛電池用電解液と、を備える、亜鉛電池を提供する。
【0010】
上述の亜鉛電池用電解液及び亜鉛電池によれば、充放電の繰り返しに伴う亜鉛電池の放電容量の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一側面によれば、充放電の繰り返しに伴う亜鉛電池の放電容量の低下を抑制することが可能な亜鉛電池用電解液を提供することができる。本発明の他の一側面によれば、当該亜鉛電池用電解液を備える亜鉛電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実験例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本明細書において、組成物中の各成分の使用量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。本明細書において「膜」又は「層」との語は、平面図として観察したときに、全面に形成されている形状の構造に加え、一部に形成されている形状の構造も包含される。本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
本実施形態に係る亜鉛電池用電解液(以下、場合により、単に「電解液」という)は、亜鉛電池(例えば亜鉛二次電池)の電解液として用いられる。本実施形態に係る亜鉛電池は、正極と、負極と、本実施形態に係る電解液と、を備える。亜鉛電池は、負極として亜鉛電極を備えることができる。亜鉛電池としては、正極がニッケル電極であるニッケル亜鉛電池(例えばニッケル亜鉛二次電池);正極が空気極である空気亜鉛電池(例えば空気亜鉛二次電池);正極が酸化銀極である銀亜鉛電池(例えば銀亜鉛二次電池)等が挙げられる。
【0015】
本実施形態に係る電解液は、アルカリ金属水酸化物と、酸素原子を含む有機化合物と、を含有する。本実施形態に係る電解液によれば、充放電の繰り返しに伴う亜鉛電池の放電容量の低下を抑制することができる。例えば、後述の実施例に示すとおり、25℃の環境下において、320mA(1C)、1.9Vの定電圧充電(電流値16mA(0.05C)まで減衰した時点で充電終止)を行った後に、電池電圧が1.1Vに到達するまで160mA(0.5C)の定電流放電を行うことを1サイクルとするサイクル試験を200サイクル行った際に、初回サイクル時の放電容量に対する200サイクル時の放電容量の維持率70%以上(好ましくは75%以上)を得ることができる。さらに、本実施形態に係る電解液によれば、上述のサイクル試験を100サイクル行った際に、初回サイクル時の放電容量に対する100サイクル時の放電容量の維持率85%以上(好ましくは91%以上)を得ることができる。
【0016】
なお、単位「C」とは、満充電状態から定格容量を定電流放電するときの電流の大きさを相対的に表したものである。単位「C」は、“放電電流値(A)/電池容量(Ah)”を意味する。例えば、定格容量を1時間で放電させることができる電流を「1C」、2時間で放電させることができる電流を「0.5C」と表現する。
【0017】
充放電の繰り返しに伴う亜鉛電池の放電容量の低下を抑制可能である要因としては、例えば下記の要因が挙げられるが、下記要因に限定されない。すなわち、アルカリ金属水酸化物(M-OH。Mはアルカリ金属元素を表す)と、酸素原子を含む有機化合物(R-OH)とが共存することにより平衡反応「M-OH + R-O ⇔ R-O + HO」が生じる。これにより、アルカリ金属水酸化物が、アルカリ金属カチオン及び水酸化物イオンに電離(解離)することが抑制されることにより電解液の塩基性が過剰に高まることが抑制される。この場合、水酸化亜鉛が電解液に溶解することによって生じるテトラヒドロキシド亜鉛酸イオンの溶解度が低下することにより、水酸化亜鉛の溶解が抑制される。これにより、充放電の繰り返しに伴う亜鉛電池の放電容量の低下が抑制される。
【0018】
本実施形態に係る電解液によれば、亜鉛電池を保存したときの放電容量の低下を抑制可能であり、例えば、亜鉛電池を40℃で7日間保存した後に充放電を行った際の保存前後の放電容量の変化量を低減できる。このような効果が得られる要因としては、例えば下記の要因が挙げられるが、下記要因に限定されない。すなわち、上述のとおり、アルカリ金属水酸化物と、酸素原子を含む有機化合物とを併用することにより、アルカリ金属水酸化物が、アルカリ金属カチオン及び水酸化物イオンに電離(解離)することが抑制されることにより電解液の塩基性が過剰に高まることが抑制される。この場合、亜鉛電池を保存した場合において、電極材中の亜鉛が酸化されて酸化亜鉛が生じることにより電極材の表面に不働態が形成されることが抑制される。これにより、亜鉛電池を保存したときの放電容量の低下が抑制される。
【0019】
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)等が挙げられる。アルカリ金属水酸化物は、水溶液中で電離(解離)していてよく、塩として存在していてもよい。アルカリ金属水酸化物は、充放電の繰り返しに伴う亜鉛電池の放電容量の低下を抑制しやすい観点、及び、亜鉛電池を保存したときの放電容量の低下を抑制しやすい観点から、水酸化カリウム及び水酸化リチウムからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましく、水酸化カリウムを含むことがより好ましい。
【0020】
電解液におけるアルカリ金属水酸化物の含有量(アルカリ金属水酸化物の合計量)は、充放電の繰り返しに伴う亜鉛電池の放電容量の低下を抑制しやすい観点、及び、亜鉛電池を保存したときの放電容量の低下を抑制しやすい観点から、電解液の全量を基準として下記の範囲が好ましい。アルカリ金属水酸化物の含有量は、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、又は、30質量%以上が好ましい。アルカリ金属水酸化物の含有量は、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、又は、35質量%以下が好ましい。これらの観点から、アルカリ金属水酸化物の含有量は、10~50質量%が好ましい。
【0021】
電解液における水酸化カリウムの含有量は、充放電の繰り返しに伴う亜鉛電池の放電容量の低下を抑制しやすい観点、及び、亜鉛電池を保存したときの放電容量の低下を抑制しやすい観点から、電解液の全量を基準として下記の範囲が好ましい。水酸化カリウムの含有量は、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、又は、30質量%以上が好ましい。水酸化カリウムの含有量は、50質量%以下、45質量%以下、40質量%以下、又は、35質量%以下が好ましい。これらの観点から、水酸化カリウムの含有量は、10~50質量%が好ましい。
【0022】
電解液における水酸化リチウムの含有量は、充放電の繰り返しに伴う亜鉛電池の放電容量の低下を抑制しやすい観点、及び、亜鉛電池を保存したときの放電容量の低下を抑制しやすい観点から、電解液の全量を基準として下記の範囲が好ましい。水酸化リチウムの含有量は、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、0.8質量%以上、又は、1質量%以上が好ましい。水酸化リチウムの含有量は、3質量%以下、2質量%以下、1.5質量%以下、又は、1.2質量%以下が好ましい。これらの観点から、水酸化リチウムの含有量は、0.1~3質量%が好ましい。
【0023】
本実施形態に係る電解液は、酸素原子を含む有機化合物(以下、場合により「酸素含有化合物」という)を含有する。酸素含有化合物は、酸素原子を含む官能基を有してよい。酸素原子を含む官能基としては、カルボキシル基、カルボン酸塩基、水酸基(カルボキシル基に包含されるOH構造を除く)、エポキシ基、エーテル基、アルコキシド基、エステル基、ケトン基、アルデヒド基等が挙げられる。酸素含有化合物は、充放電の繰り返しに伴う亜鉛電池の放電容量の低下を抑制しやすい観点、及び、亜鉛電池を保存したときの放電容量の低下を抑制しやすい観点から、カルボキシ基、カルボン酸塩基、水酸基、エポキシ基及びエーテル基からなる群より選ばれる少なくとも一種を有することが好ましい。
【0024】
酸素含有化合物がOH構造を有する場合、酸素含有化合物において炭素数に対するOH構造の数の比率(OH構造の数/炭素数)は、充放電の繰り返しに伴う亜鉛電池の放電容量の低下を抑制しやすい観点、及び、亜鉛電池を保存したときの放電容量の低下を抑制しやすい観点から、下記の範囲が好ましい。比率は、0.01以上、0.03以上、0.05以上、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、又は、5/6以上が好ましい。比率は、2以下、1.5以下、1.2以下、1以下、0.9以下、又は、5/6以下が好ましい。酸素含有化合物は、OH構造を有していなくてもよい。
【0025】
酸素含有化合物は、充放電の繰り返しに伴う亜鉛電池の放電容量の低下を抑制しやすい観点、及び、亜鉛電池を保存したときの放電容量の低下を抑制しやすい観点から、糖類、カルボン酸(糖類に該当する化合物を除く)、カルボン酸塩(糖類に該当する化合物を除く)、エポキシ化合物(エポキシ基を有する化合物。糖類、カルボン酸又はカルボン酸塩に該当する化合物を除く)、及び、エーテル化合物(エーテル基を有する化合物。糖類、カルボン酸、カルボン酸塩又はエポキシ化合物に該当する化合物を除く)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0026】
糖類は、単糖類、二糖類、三糖類、多糖類(二糖類又は三糖類に該当する糖類を除く)等を用いることができる。単糖類としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、アラビノース、リボース、マンノース、キシロース、ソルボース、ラムノース、フコース、リボデソース等が挙げられる。二糖類としては、マルトース、トレハロース、ショ糖、セロビオース、ゲンチオビオース、ラクトース、メリビオース等が挙げられる。三糖類としては、ラフィノース、ゲンチアノース、メレチトース等が挙げられる。多糖類としては、シクロデキストリン(例えばγ-シクロデキストリン)、スタキオース等が挙げられる。酸素含有化合物は、充放電の繰り返しに伴う亜鉛電池の放電容量の低下を抑制しやすい観点、及び、亜鉛電池を保存したときの放電容量の低下を抑制しやすい観点から、グルコース、マンノース、キシロース、マルトース、ラフィノース、及び、シクロデキストリンからなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0027】
カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、安息香酸、サリチル酸、3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸、ベンゼンヘキサカルボン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アコニット酸、ピルビン酸、オキサロ酢酸、ギ酸グリシジル、酢酸グリシジル、安息香酸グリシジル等が挙げられる。カルボン酸塩としては、これらのカルボン酸の塩等が挙げられる。カルボン酸塩としては、ナトリウム塩(例えば、テレフタル酸二ナトリウム)、カリウム塩等のアルカリ金属塩などが挙げられる。カルボン酸塩は、充放電の繰り返しに伴う亜鉛電池の放電容量の低下を抑制しやすい観点、及び、亜鉛電池を保存したときの放電容量の低下を抑制しやすい観点から、アルカリ金属塩を含むことが好ましく、ナトリウム塩を含むことがより好ましい。酸素含有化合物は、充放電の繰り返しに伴う亜鉛電池の放電容量の低下を抑制しやすい観点、及び、亜鉛電池を保存したときの放電容量の低下を抑制しやすい観点から、芳香環を有するカルボン酸、及び、芳香環を有するカルボン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましく、テレフタル酸、及び、テレフタル酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことがより好ましく、テレフタル酸、及び、テレフタル酸のナトリウム塩からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが更に好ましい。
【0028】
カルボン酸におけるカルボキシル基の数、又は、カルボン酸塩におけるカルボン酸塩基の数は、1以上であり、充放電の繰り返しに伴う亜鉛電池の放電容量の低下を抑制しやすい観点、及び、亜鉛電池を保存したときの放電容量の低下を抑制しやすい観点から、下記の範囲が好ましい。カルボキシル基又はカルボン酸塩基の数は、2以上が好ましい。カルボキシル基又はカルボン酸塩基の数は、4以下、3以下又は2以下が好ましい。
【0029】
エポキシ化合物としては、単官能エポキシ化合物、多官能エポキシ化合物等が挙げられる。単官能エポキシ化合物としては、1,2-エポキシエタン、1,2-エポキシプロパン、1,2-エポキシブタン、1,2-エポキシ-2-メチルプロパン、1-フェニル-1,2-エポキシエタン、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、グリシジルメチルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ポリエチレンオキシドグリシジルエーテル、グリシジルアミド、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、ブトキシポリエチレングリコールグリシジルエーテル、フェノールポリエチレングリコールグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p-メチルフェニルグリシジルエーテル、p-エチルフェニルグリシジルエーテル、p-sec-ブチルフェニルグリシジルエーテル、p-tert-ブチルフェニルグリシジル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等が挙げられる。多官能エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、ポリフェノール型エポキシ化合物、環状脂肪族エポキシ化合物、脂肪族グリシジルエーテル系エポキシ化合物、グリシジルエステル系エポキシ化合物、グリシジルジアミン系エポキシ化合物、複素環式エポキシ化合物、環状脂肪族エポキシ化合物等が挙げられる。酸素含有化合物は、充放電の繰り返しに伴う亜鉛電池の放電容量の低下を抑制しやすい観点、及び、亜鉛電池を保存したときの放電容量の低下を抑制しやすい観点から、単官能エポキシ化合物を含むことが好ましく、1,2-エポキシ-2-メチルプロパンを含むことがより好ましい。
【0030】
エーテル化合物としては、18-クラウン-6、15-クラウン-5、12-クラウン-4、ジベンゾ-18-クラウン-6、ジシクロヘキサノ-18-クラウン-6、ジベンゾ-24-クラウン-8等のクラウンエーテル化合物;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコール;グリセリンなどが挙げられる。エーテル化合物としては、ポリエーテル化合物を用いることができる。酸素含有化合物は、充放電の繰り返しに伴う亜鉛電池の放電容量の低下を抑制しやすい観点、及び、亜鉛電池を保存したときの放電容量の低下を抑制しやすい観点から、エーテル基を含む複素環を有するエーテル化合物を含むことが好ましく、18-クラウン-6を含むことがより好ましい。
【0031】
エーテル化合物におけるエーテル基の数は、1以上であり、充放電の繰り返しに伴う亜鉛電池の放電容量の低下を抑制しやすい観点、及び、亜鉛電池を保存したときの放電容量の低下を抑制しやすい観点から、下記の範囲が好ましい。エーテル基の数は、2以上、3以上、4以上、5以上又は6以上が好ましい。エーテル基の数は、10以下、9以下、8以下、7以下又は6以下が好ましい。
【0032】
酸素含有化合物の分子量は、下記の範囲が好ましい。酸素含有化合物の分子量は、上述のサイクル試験において初回サイクル時の放電容量に対する200サイクル時の放電容量の維持率が向上しやすい観点から、50以上、70以上、80以上、100以上、120以上、150以上、160以上、170以上、又は、180以上が好ましい。酸素含有化合物の分子量は、上述のサイクル試験において初回サイクル時の放電容量に対する100サイクル時の放電容量の維持率が向上しやすい観点から、2000以下、1500以下、1300以下、1200以下、1000以下、800以下、600以下、500以下、400以下、350以下、340以下、320以下、300以下、280以下、270以下、260以下、250以下、230以下、又は、220以下が好ましい。これらの観点から、酸素含有化合物の分子量は、50~2000が好ましい。酸素含有化合物の分子量は、190以上、200以上、210以上、220以上、240以上、260以上、300以上、340以上、350以上、400以上、450以上、500以上、600以上、800以上、1000以上、又は、1200以上であってよい。酸素含有化合物の分子量は、210以下、200以下、190以下、185以下、180以下、170以下、160以下、155以下、150以下、120以下、100以下、又は、80以下であってよい。
【0033】
酸素含有化合物としては、電解液に対する溶解性の高い化合物を用いることが好ましい。溶解性が高くない化合物であっても、濾過で残渣を除去する等して用いることができる。本実施形態に係る電解液は、アルコールを含有しなくてもよい。
【0034】
電解液における酸素含有化合物の含有量は、充放電の繰り返しに伴う亜鉛電池の放電容量の低下を抑制しやすい観点、及び、亜鉛電池を保存したときの放電容量の低下を抑制しやすい観点から、電解液の全量を基準として下記の範囲が好ましい。酸素含有化合物の含有量は、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、0.8質量%以上、1質量%以上、1.2質量%以上、1.5質量%以上、1.8質量%以上又は2質量%以上が好ましい。酸素含有化合物の含有量は、5質量%以下、4.5質量%以下、4質量%以下、3.5質量%以下又は3質量%以下が好ましい。これらの観点から、酸素含有化合物の含有量は、0.1~5質量%が好ましい。酸素含有化合物の含有量は、上述のサイクル試験において初回サイクル時の放電容量に対する200サイクル時の放電容量の維持率が向上しやすい観点から、2.2質量%以上、2.5質量%以上、2.7質量%以上又は3質量%以上が好ましい。酸素含有化合物の含有量は、上述のサイクル試験において初回サイクル時の放電容量に対する100サイクル時の放電容量の維持率が向上しやすい観点から、2.7質量%以下、2.5質量%以下、2.2質量%以下又は2質量%以下が好ましい。酸素含有化合物の含有量は、電解液の全量を基準として0.5mol/L未満であってよい。
【0035】
酸素含有化合物の含有量は、充放電の繰り返しに伴う亜鉛電池の放電容量の低下を抑制しやすい観点、及び、亜鉛電池を保存したときの放電容量の低下を抑制しやすい観点から、アルカリ金属水酸化物100質量部に対して下記の範囲が好ましい。酸素含有化合物の含有量は、1質量部以上、2質量部以上、3質量部以上、4質量部以上、4.5質量部以上、5質量部以上、5.5質量部以上又は6質量部以上が好ましい。酸素含有化合物の含有量は、10質量部以下、9質量部以下、8質量部以下、7.5質量部以下、7質量部以下又は6.5質量部以下が好ましい。これらの観点から、酸素含有化合物の含有量は、1~10質量部が好ましい。
【0036】
本実施形態に係る電解液は、インジウム化合物(インジウムを含む化合物)を含有してよい。電解液がインジウム化合物を含有することにより、亜鉛電池を保存したときの放電容量の低下を更に抑制可能であり、例えば、亜鉛電池を40℃で7日間保存した後に充放電を行った際の保存前後の放電容量の変化量を更に低減できる。インジウム化合物は、亜鉛電池を保存した場合において電極材の表面に不働態が形成されることが抑制される上述の効果を増幅すると推測される。但し、要因は当該内容に限定されない。
【0037】
インジウム化合物としては、硫酸インジウム、酸化インジウム、フッ化インジウム、塩化インジウム、臭化インジウム、ヨウ化インジウム、硝酸インジウム、炭酸インジウム等が挙げられる。インジウム化合物は、亜鉛電池を保存したときの放電容量の低下を更に抑制しやすい観点から、硫酸インジウムを含むことが好ましい。
【0038】
電解液におけるインジウム化合物の含有量は、亜鉛電池を保存したときの放電容量の低下を更に抑制しやすい観点から、電解液の全量を基準として下記の範囲が好ましい。インジウム化合物の含有量は、0.01質量%以上、0.03質量%以上、0.05質量%以上、0.08質量%以上又は0.1質量%以上が好ましい。インジウム化合物の含有量は、2質量%以下、1.5質量%以下、1質量%以下、0.7質量%以下、0.5質量%以下、0.3質量%以下、0.2質量%以下又は0.1質量%以下が好ましい。これらの観点から、インジウム化合物の含有量は、0.01~2質量%が好ましい。
【0039】
インジウム化合物の含有量は、亜鉛電池を保存したときの放電容量の低下を更に抑制しやすい観点から、アルカリ金属水酸化物100質量部に対して下記の範囲が好ましい。インジウム化合物の含有量は、0.01質量部以上、0.03質量部以上、0.05質量部以上、0.1質量部以上、0.15質量部以上、0.2質量部以上、0.25質量部以上又は0.3質量部以上が好ましい。インジウム化合物の含有量は、10質量部以下、5質量部以下、3質量部以下、1質量部以下、0.8質量部以下、0.5質量部以下、0.45質量部以下、0.4質量部以下又は0.35質量部以下が好ましい。これらの観点から、インジウム化合物の含有量は、1~10質量部が好ましい。
【0040】
インジウム化合物の含有量は、亜鉛電池を保存したときの放電容量の低下を更に抑制しやすい観点から、酸素含有化合物100質量部に対して下記の範囲が好ましい。インジウム化合物の含有量は、0.1質量部以上、0.3質量部以上、0.5質量部以上、1質量部以上、2質量部以上、3質量部以上、4質量部以上又は5質量部以上が好ましい。インジウム化合物の含有量は、20質量部以下、15質量部以下、10質量部以下、9質量部以下、8質量部以下、7質量部以下、6質量部以下又は5質量部以下が好ましい。これらの観点から、インジウム化合物の含有量は、0.1~20質量部が好ましい。
【0041】
本実施形態に係る電解液は、水(例えばイオン交換水)等の液状媒体を含有できる。本実施形態に係る電解液の他の構成成分としては、リン酸カリウム、フッ化カリウム、炭酸カリウム、リン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、水酸化リチウム、酸化亜鉛、酸化アンチモン、二酸化チタン、界面活性剤等が挙げられる。本実施形態に係る電解液は、界面活性剤を含有しなくてもよい。
【0042】
以下、上記実施形態に係る電解液が用いられる亜鉛電池の一例として、ニッケル亜鉛電池について説明する。
【0043】
本実施形態に係る亜鉛電池は、例えば、電槽と、電槽に収容された電極群(例えば極板群)及び電解液と、を備える。本実施形態に係る亜鉛電池は、化成後又は未化成のいずれであってもよい。
【0044】
電極群は、例えば、正極(例えば正極板)と、負極(例えば負極板)と、セパレータと、を備える。正極と負極とは、一又は複数のセパレータを介して隣り合っている。すなわち、隣り合う正極と負極との間には、一又は複数のセパレータが設けられている。電極群は、複数の正極、負極及びセパレータを備えていてよい。電極群が複数の正極及び/又は複数の負極を備える場合、正極と負極は、セパレータを介して交互に積層されてよい。複数の正極同士及び複数の負極同士は、例えば、ストラップで連結されていてよい。
【0045】
本実施形態に係る亜鉛電池において負極は、負極集電体と、当該集電体に支持された負極材(電極材)と、を有する。負極は、化成前及び化成後のいずれであってもよい。
【0046】
負極集電体は、負極材からの電流の導電路を構成する。負極集電体は、例えば、平板状、シート状等の形状を有している。負極集電体は、発泡金属、エキスパンドメタル、パンチングメタル、金属繊維のフェルト状物等によって構成された3次元網目構造の集電体などであってもよい。負極集電体は、導電性及び耐アルカリ性を有する材料で構成されている。このような材料としては、例えば、負極の反応電位でも安定である材料(負極の反応電位よりも貴な酸化還元電位を有する材料、アルカリ水溶液中で基材表面に酸化被膜等の保護被膜を形成して安定化する材料など)を用いることができる。また、負極においては、副反応として電解液の分解反応が進行し水素ガスが発生するが、水素過電圧の高い材料はこのような副反応の進行を抑制できる点で好ましい。負極集電体を構成する材料の具体例としては、亜鉛;鉛;スズ;スズ等の金属メッキを施した金属材料(銅、真鍮、鋼、ニッケル等)などが挙げられる。
【0047】
負極材は、例えば、層状を呈している。すなわち、負極は、負極材層を有していてよい。負極材層は、負極集電体上に形成されていてよい。負極集電体の負極材を支持する部分が3次元網目構造を有する場合、当該集電体の網目の間に負極材が充填されて負極材層が形成されていてもよい。
【0048】
負極材は、亜鉛を含む負極活物質(電極活物質)を含有する。負極活物質としては、例えば、金属亜鉛、酸化亜鉛及び水酸化亜鉛が挙げられる。負極活物質は、これらの成分のうちの一種を単独で含んでいてよく、複数種を含んでいてもよい。負極材は、例えば、満充電状態では金属亜鉛を含有し、放電末状態では酸化亜鉛及び水酸化亜鉛を含有する。負極活物質は例えば粒子状である。すなわち、負極材は、金属亜鉛粒子、酸化亜鉛粒子及び水酸化亜鉛粒子からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてよい。負極活物質の含有量は、例えば、負極材の全質量を基準として50~95質量%である。
【0049】
負極材は、添加剤を含有してよい。添加剤としては、インジウム化合物(インジウムを含む化合物)、ビスマス化合物(ビスマスを含む化合物)、水酸化カルシウム、フッ化カリウム、結着剤等が挙げられる。
【0050】
負極材がインジウム化合物を含有することにより、亜鉛電池を保存したときの放電容量の低下を更に抑制可能であり、例えば、亜鉛電池を40℃で7日間保存した後に充放電を行った際の保存前後の放電容量の変化量を更に低減できる。インジウム化合物は、亜鉛電池を保存した場合において電極材(負極材)の表面に不働態が形成されることが抑制される上述の効果を増幅すると推測される。但し、要因は当該内容に限定されない。
【0051】
インジウム化合物としては、硫酸インジウム、酸化インジウム、フッ化インジウム、塩化インジウム、臭化インジウム、ヨウ化インジウム、硝酸インジウム、炭酸インジウム等が挙げられる。インジウム化合物は、亜鉛電池を保存したときの放電容量の低下を更に抑制しやすい観点から、酸化インジウムを含むことが好ましい。
【0052】
負極材におけるインジウム化合物の含有量は、亜鉛電池を保存したときの放電容量の低下を更に抑制しやすい観点から、負極材の全量を基準として下記の範囲が好ましい。インジウム化合物の含有量は、0.01質量%以上、0.02質量%以上、0.03質量%以上又は0.04質量%以上が好ましい。インジウム化合物の含有量は、10質量%以下、8質量%以下、6質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1質量%以下、0.5質量%以下、0.1質量%以下、0.05質量%以下、又は、0.04質量%以下が好ましい。これらの観点から、インジウム化合物の含有量は、0.01~10質量%が好ましい。
【0053】
結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレンオキシド、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。結着剤の含有量は、例えば、負極活物質100質量部に対して0.5~10質量部であってもよい。
【0054】
正極は、例えば、正極集電体と、当該正極集電体に支持された正極材と、を備えている。正極は、化成前及び化成後のいずれであってもよい。
【0055】
正極集電体は、正極材からの電流の導電路を構成する。正極集電体は、例えば、平板状、シート状等の形状を有している。正極集電体は、発泡金属、エキスパンドメタル、パンチングメタル、金属繊維のフェルト状物等によって構成された3次元網目構造の集電体などであってもよい。正極集電体は、導電性及び耐アルカリ性を有する材料で構成されている。このような材料としては、例えば、正極の反応電位でも安定である材料(正極の反応電位よりも貴な酸化還元電位を有する材料、アルカリ水溶液中で基材表面に酸化被膜等の保護被膜を形成して安定化する材料など)を用いることができる。また、正極においては、副反応として電解液の分解反応が進行し酸素ガスが発生するが、酸素過電圧の高い材料はこのような副反応の進行を抑制できる点で好ましい。正極集電体を構成する材料の具体例としては、白金;ニッケル(発泡ニッケル等);ニッケル等の金属メッキを施した金属材料(銅、真鍮、鋼等)などが挙げられる。これらの中でも、発泡ニッケルで構成される正極集電体が好ましく用いられる。高率放電性能を更に向上させることができる観点から、少なくとも正極集電体における正極材を支持する部分(正極材支持部)が発泡ニッケルで構成されていることが好ましい。
【0056】
正極材は、例えば、層状を呈している。すなわち、正極は、正極材層を有していてよい。正極材層は、正極集電体上に形成されていてよい。正極集電体の正極材支持部が3次元網目構造を有する場合、当該集電体の網目の間に正極材が充填されて正極材層が形成されていてもよい。
【0057】
正極材は、ニッケルを含む正極活物質(電極活物質)を含有する。正極活物質としては、オキシ水酸化ニッケル(NiOOH)、水酸化ニッケル等が挙げられる。正極材は、例えば、満充電状態ではオキシ水酸化ニッケルを含有し、放電末状態では水酸化ニッケルを含有する。正極活物質の含有量は、例えば、正極材の全質量を基準として50~95質量%であってもよい。
【0058】
正極材は、添加剤として、正極活物質以外の他の成分を更に含有してよい。添加剤としては、バインダー(結着剤)、導電剤、膨張抑制剤等が挙げられる。
【0059】
バインダーとしては、親水性又は疎水性のポリマー等が挙げられる。具体的には、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリアクリル酸ナトリウム(SPA)、フッ素系ポリマー(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等)などをバインダーとして用いることができる。バインダーの含有量は、例えば、正極活物質100質量部に対して0.01~5質量部である。
【0060】
導電剤としては、コバルト化合物(金属コバルト、酸化コバルト、水酸化コバルト等)などが挙げられる。導電剤の含有量は、例えば、正極活物質100質量部に対して1~20質量部である。
【0061】
膨張抑制剤としては、酸化亜鉛等が挙げられる。膨張抑制剤の含有量は、例えば、正極活物質100質量部に対して0.01~5質量部である。
【0062】
セパレータは、例えば、平板状、シート状等の形状を有するセパレータであってもよい。セパレータとしては、ポリオレフィン系微多孔膜、ナイロン系微多孔膜、耐酸化性のイオン交換樹脂膜、セロハン系再生樹脂膜、無機-有機セパレータ、ポリオレフィン系不織布等が挙げられる。セパレータは、正極及び/又は負極を収容可能なように、袋状に加工されていてもよい。この場合、正極及び/又は負極はセパレータに収容されていてよい。セパレータは一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いてよい。
【0063】
以上説明したニッケル亜鉛電池の製造方法は、例えば、亜鉛電池の構成部材を得る構成部材製造工程と、構成部材を組み立てて亜鉛電池を得る組立工程と、を備える。構成部材製造工程では、少なくとも電極(正極及び負極)を得る。
【0064】
電極は、例えば、電極材(正極材及び負極材)の原料に対して溶媒(例えば水)を加えて混練することにより電極材ペースト(ペースト状の電極材)を得た後、電極材ペーストを用いて電極材層を形成することにより得ることができる。
【0065】
正極材の原料としては、正極活物質の原料(例えば水酸化ニッケル)、添加剤(例えば前記結着剤)等が挙げられる。負極材の原料としては、負極活物質の原料(例えば金属亜鉛、酸化亜鉛及び水酸化亜鉛)、添加剤(例えば、前記インジウム化合物及び前記結着剤)等が挙げられる。
【0066】
電極材層を形成する方法としては、例えば、電極材ペーストを集電体に塗布又は充填した後に乾燥することで電極材層を得る方法が挙げられる。電極材層は、必要に応じて、プレス等によって密度を高めてもよい。
【0067】
組立工程では、例えば、構成部材製造工程で得られた正極及び負極を、セパレータを介して交互に積層した後、正極同士及び負極同士をストラップで連結させて電極群を作製する。次いで、この電極群を電槽内に配置した後、電槽の上面に蓋体を接着して未化成の亜鉛電池(ニッケル亜鉛電池)を得る。
【0068】
続いて、本実施形態に係る電解液を未化成の亜鉛電池の電槽内に注入した後、一定時間放置する。次いで、所定の条件にて充電を行うことで化成することにより亜鉛電池(ニッケル亜鉛電池)を得る。化成条件は、電極活物質(正極活物質及び負極活物質)の性状に応じて調整することができる。
【0069】
以上、正極がニッケル電極であるニッケル亜鉛電池(例えばニッケル亜鉛二次電池)の例を説明したが、亜鉛電池は、正極が空気極である空気亜鉛電池(例えば空気亜鉛二次電池)であってもよく、正極が酸化銀極である銀亜鉛電池(例えば銀亜鉛二次電池)であってもよい。
【0070】
空気亜鉛電池の空気極としては、空気亜鉛電池に使用される公知の空気極を用いることができる。空気極は、例えば、空気極触媒、電子伝導性材料等を含む。空気極触媒としては、電子伝導性材料としても機能する空気極触媒を用いることができる。
【0071】
空気極触媒としては、空気亜鉛電池における正極として機能するものを用いることが可能であり、酸素を正極活物質として利用可能な種々の空気極触媒が使用できる。空気極触媒としては、酸化還元触媒機能を有するカーボン系材料(黒鉛等)、酸化還元触媒機能を有する金属材料(白金、ニッケル等)、酸化還元触媒機能を有する無機酸化物材料(ペロブスカイト型酸化物、二酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化コバルト、スピネル酸化物等)などが挙げられる。空気極触媒の形状は、特に限定されないが、例えば粒子状であってもよい。空気極における空気極触媒の使用量は、空気極の合計量に対して、5~70体積%であってもよく、5~60体積%であってもよく、5~50体積%であってもよい。
【0072】
電子伝導性材料としては、導電性を有し、かつ、空気極触媒とセパレータとの間の電子伝導を可能とするものを用いることができる。電子伝導性材料としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類;鱗片状黒鉛のような天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛等のグラファイト類;炭素繊維、金属繊維等の導電性繊維類;銅、銀、ニッケル、アルミニウム等の金属粉末類;ポリフェニレン誘導体等の有機電子伝導性材料;これらの任意の混合物などが挙げられる。電子伝導性材料の形状は、粒子状であってもよく、その他の形状であってもよい。電子伝導性材料は、空気極において厚さ方向に連続した相をもたらす形態で用いられることが好ましい。例えば、電子伝導性材料は、多孔質材料であってもよい。また、電子伝導性材料は、空気極触媒との混合物又は複合体の形態であってもよく、前述したように、電子伝導性材料としても機能する空気極触媒であってもよい。空気極における電子伝導性材料の使用量は、空気極の合計量に対して、10~80体積%であってもよく、15~80体積%であってもよく、20~80体積%であってもよい。
【0073】
銀亜鉛電池の酸化銀極としては、銀亜鉛電池に使用される公知の酸化銀極を用いることができる。酸化銀極は、例えば酸化銀(I)を含む。
【実施例
【0074】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。但し、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0075】
{実験A}
<電解液の調製>
(実施例A1~A10及び比較例A1)
イオン交換水、水酸化カリウム(KOH)、水酸化リチウム(LiOH)、及び、下記表1に示す添加剤を混合することにより電解液(水酸化カリウム濃度:30質量%、水酸化リチウム濃度:1質量%、添加剤:2質量%)を調製した。
【0076】
(比較例A2)
イオン交換水、水酸化カリウム(KOH)、及び、水酸化リチウム(LiOH)を混合することにより電解液(水酸化カリウム濃度:30質量%、水酸化リチウム濃度:1質量%)を調製した。
【0077】
<正極の作製>
空隙率95%の発泡ニッケルからなる格子体を用意し、格子体を加圧成形することで正極集電体を得た。次いで、コバルトコート水酸化ニッケル粉末、金属コバルト、水酸化コバルト、酸化イットリウム、CMC、PTFE、イオン交換水を所定量秤量して混合し、混合液を攪拌することにより、正極材ペーストを作製した。この際、固形分の質量比を、「水酸化ニッケル:金属コバルト:酸化イットリウム:水酸化コバルト:CMC:PTFE=88:10.3:1:0.3:0.3:0.1」に調整した。正極材ペーストの水分量は、正極材ペーストの全質量基準で27.5質量%に調整した。次いで、正極材ペーストを正極集電体の正極材支持部に塗布した後、80℃で30分乾燥した。その後、ロールプレスにて加圧成形し、正極材層を有する未化成の正極を得た。
【0078】
<負極の作製>
負極集電体として開孔率60%のスズメッキを施した鋼板パンチングメタルを用意した。次いで、酸化亜鉛、金属亜鉛、HEC及びイオン交換水を所定量秤量して混合し、得られた混合液を攪拌することにより負極材ペーストを作製した。この際、固形分の質量比を「酸化亜鉛:金属亜鉛:HEC=85:11.5:3.5」に調整した。HECとしては、住友精化株式会社製のAV-15F(商品名)を使用した。負極材ペーストの水分量は、負極材ペーストの全質量基準で32.5質量%に調整した。次いで、負極材ペーストを負極集電体上に塗布した後、80℃で30分乾燥した。その後、ロールプレスにて加圧成形し、負極材(負極材層)を有する未化成の負極を得た。
【0079】
<セパレータの準備>
セパレータには、微多孔膜として、UP3355(宇部興産株式会社製、商品名、透気度:440sec/100mL)、不織布として、不織布(ニッポン高度紙工業株式会社製、商品名:VL-100、透気度:0.3sec/100mL)を、それぞれ用いた。微多孔膜は、電池組立て前に、界面活性剤Triton-X100(シグマアルドリッチジャパン合同会社製)で、親水化処理した。親水化処理は、Triton-X100が1質量%の量で含まれる水溶液に微多孔膜を24時間浸漬した後、室温で1時間乾燥する方法で行った。なお、微多孔膜の透気度は親水化処理後の値を示す。さらに、微多孔膜は、所定の大きさに裁断し、それを半分に折り、側面を熱溶着することで袋状に加工した。不織布は、所定の大きさに裁断したものを使用した。
【0080】
<ニッケル亜鉛電池の作製>
袋状に加工した微多孔膜に、正極(未化成の正極)及び負極(未化成の負極)のそれぞれを1枚収納した。袋状の微多孔膜に収納された正極と、袋状の微多孔膜に収納された負極と、不織布とを積層した後、同極性の極板同士をストラップで連結させて電極群(極板群)を作製した。電極群は、正極2枚及び負極3枚で、正極と負極の間(正極側の微多孔膜と負極側の微多孔膜との間)に不織布を1枚ずつ配置した構成とした。この電極群を電槽内に配置した後、電槽の上面に蓋体を接着し、上記電解液を電槽内に注入することにより、未化成のニッケル亜鉛電池を得た。その後、32mA、15時間の条件で充電を行い、公称容量が320mAhのニッケル亜鉛電池を作製した。
【0081】
<充放電の繰り返しに伴う放電容量維持率>
25℃の環境下において、320mA(1C)、1.9Vの定電圧充電(電流値16mA(0.05C)まで減衰した時点で充電終止)を行った後に、電池電圧が1.1Vに到達するまで160mA(0.5C)の定電流放電を行うことを1サイクルとするサイクル試験を最大で200サイクル行い、100サイクル時及び200サイクル時の放電容量を測定した。そして、初回サイクル時の放電容量に対する各サイクル時の放電容量の維持率(%)を算出した。結果を表1に示す。比較例A1では、150サイクルで内部短絡し、比較例A2では、170サイクルで内部短絡した。
【0082】
【表1】
【0083】
{実験B}
<ニッケル亜鉛電池の作製>
(実施例B1~B4)
イオン交換水、水酸化カリウム(KOH)、水酸化リチウム(LiOH)、及び、グルコースを混合することにより電解液(水酸化カリウム濃度:30質量%、水酸化リチウム濃度:1質量%、グルコース:下記表2の含有量)を調製した。この電解液を用いたことを除き実験Aと同様の手順でニッケル亜鉛電池を作製した。
【0084】
(比較例B1)
比較例A2と同様の手順でニッケル亜鉛電池を作製した。
【0085】
<充放電の繰り返しに伴う放電容量維持率>
上述のニッケル亜鉛電池を用いて実験Aと同様の手順で、充放電の繰り返しに伴う放電容量の維持率を測定した。結果を表2に示す。比較例B1では、170サイクルで内部短絡した。
【0086】
【表2】
【0087】
{実験C}
<ニッケル亜鉛電池の作製>
(実施例C1)
実施例A3と同様の手順でニッケル亜鉛電池を作製した。
【0088】
(実施例C2)
イオン交換水、水酸化カリウム(KOH)、水酸化リチウム(LiOH)、グルコース、及び、硫酸インジウムを混合することにより電解液(水酸化カリウム濃度:30質量%、水酸化リチウム濃度:1質量%、グルコース:2質量%、硫酸インジウム:0.1質量%)を調製した。この電解液を用いたことを除き実験Aと同様の手順でニッケル亜鉛電池を作製した。
【0089】
(実施例C3)
下記の手順で負極を作製したことを除き実施例A3と同様の手順でニッケル亜鉛電池を作製した。負極材における酸化インジウムの含有量は、負極材の全量を基準として0.04質量%であった。
負極集電体として開孔率60%のスズメッキを施した鋼板パンチングメタルを用意した。次いで、酸化亜鉛、金属亜鉛、HEC、酸化インジウム及びイオン交換水を所定量秤量して混合し、得られた混合液を攪拌することにより負極材ペーストを作製した。この際、固形分の質量比を「酸化亜鉛:金属亜鉛:HEC:酸化インジウム=84.97:11.50:3.49:0.04」に調整した。HECとしては、住友精化株式会社製のAV-15F(商品名)を使用した。負極材ペーストの水分量は、負極材ペーストの全質量基準で32.5質量%に調整した。次いで、負極材ペーストを負極集電体上に塗布した後、80℃で30分乾燥した。その後、ロールプレスにて加圧成形し、負極材(負極材層)を有する未化成の負極を得た。
【0090】
(比較例C1)
イオン交換水、水酸化カリウム(KOH)、水酸化リチウム(LiOH)、及び、硫酸インジウムを混合することにより電解液(水酸化カリウム濃度:30質量%、水酸化リチウム濃度:1質量%、硫酸インジウム:0.1質量%)を調製した。この電解液を用いたことを除き実験Aと同様の手順でニッケル亜鉛電池を作製した。
【0091】
(比較例C2)
グルコースを含有することなく硫酸インジウムを含有する電解液(水酸化カリウム濃度:30質量%、水酸化リチウム濃度:1質量%、硫酸インジウム:0.1質量%)を用いたことを除き実施例C3と同様の手順でニッケル亜鉛電池を作製した。
【0092】
(比較例C3)
イオン交換水、水酸化カリウム(KOH)、及び、水酸化リチウム(LiOH)を混合することにより電解液(水酸化カリウム濃度:30質量%、水酸化リチウム濃度:1質量%)を調製した。この電解液を用いたことを除き実験Aと同様の手順でニッケル亜鉛電池を作製した。
【0093】
<亜鉛電池の保存に伴う放電容量維持率>
上述のニッケル亜鉛電池を40℃で7日間保存後、25℃で3時間静置することにより電池Aを得た。また、当該保存処理を行うことなく電池Bとして上述のニッケル亜鉛電池を準備した。次に、電池A及び電池Bのそれぞれについて、25℃の環境下において、320mA(1C)、1.9Vの定電圧充電(電流値16mA(0.05C)まで減衰した時点で充電終止)を行った後に、電池電圧が1.1Vに到達するまで64mA(0.2C)の定電流放電を行うことを1サイクルとするサイクル試験を2サイクル行い、2サイクル時の放電容量を測定した。そして、電池B(保存前)の放電容量に対する電池A(保存後)の放電容量の容量維持率(%)を算出した。結果を表3に示す。
【0094】
<充放電の繰り返しに伴う放電容量維持率>
実施例C1~C3及び比較例C1~C3のニッケル亜鉛電池を用いて実験Aと同様の手順で、充放電の繰り返しに伴う放電容量の維持率(200サイクル)を測定することにより、実施例C1~C3において70%以上の容量維持率が得られ、比較例C1~C3において70%以上の容量維持率が得られない。
【0095】
【表3】