(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】ゲノム編集効率を増大させるための化合物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20230725BHJP
A61K 31/16 20060101ALI20230725BHJP
A61K 31/194 20060101ALI20230725BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20230725BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20230725BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20230725BHJP
A61K 31/711 20060101ALI20230725BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20230725BHJP
A61K 38/45 20060101ALI20230725BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20230725BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230725BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230725BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
C12N15/09 100
A61K31/16 ZNA
A61K31/194
A61K31/519
A61K31/5377
A61K31/7088
A61K31/711
A61K35/12
A61K38/45
A61K45/06
A61K48/00
A61P35/00
A61P43/00 111
A61P43/00 121
C12N15/09 110
(21)【出願番号】P 2019555112
(86)(22)【出願日】2018-04-10
(86)【国際出願番号】 EP2018059173
(87)【国際公開番号】W WO2018189186
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2021-04-09
(32)【優先日】2017-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2017-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504199286
【氏名又は名称】マックス-プランク ゲゼルシャフト ツァー フォルデルング デア ビッセンシャフテン エー.ファウ.
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】リーゼンベルク、ステファン
(72)【発明者】
【氏名】マリチッチ、トミスラフ
【審査官】木原 啓一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-509063(JP,A)
【文献】Genome Medicine,2015年08月27日,Vol. 7, Article number: 93
【文献】Nucleic Acids Research,2016年03月21日,Vol. 44,pp. 5204-5217, supplementary data
【文献】DNA Repair,2009年06月16日,Vol. 8,pp. 920-929, supplementary data
【文献】Nucleic Acids Research,2015年01月07日,Vol. 43,pp. 987-999, supplementary data
【文献】Nucleic Acids Research,2012年12月24日,Vol. 41,pp. 2047-2059, supplementary data
【文献】RIESENBERG, Stephan et al.,Targeting repair pathways with small molecules increases precise genome editing in pluripotent stem cells,bioRxiv preprint,2017年05月10日,doi: https://doi.org/10.1101/136374
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真核生物の標的細胞における、特に哺乳動物の標的細胞における、より具体的にはヒトの標的細胞におけるゲノム編集のための
(a)DNA-PK阻害剤である少なくとも1つの化合物(III)と、
(b)HDAC阻害剤である少なくとも1つの化合物(I)、NAE阻害剤である少なくとも1つの化合物(II)及び/又はRPA阻害剤である少なくとも1つの化合物(IV)、
との組合せ物のインビトロの使用であって、
標的細胞が、人工多能性幹細胞又は胚性幹細胞であり、
ゲノム編集が、標的細胞の二本鎖ゲノムに5’オーバーハングを伴うスタガードカットを導入することを含む、使用。
【請求項2】
組合せ物が、少なくとも1つの化合物(III)、少なくとも1つの化合物(I)、少なくとも1つの化合物(II)、及び少なくとも1つの化合物(IV)を含む、請求項1の使用。
【請求項3】
真核生物の標的細胞における、特に哺乳動物の標的細胞における、より具体的にはヒトの標的細胞におけるゲノム編集のための
(a)DNA-PK阻害剤である少なくとも1つの化合物(III)と、
(b)HDAC阻害剤である少なくとも1つの化合物(I)及びRPA阻害剤である少なくとも1つの化合物(IV)
との組合せ物(但し、NAE阻害剤である化合物(II)を含まない)のインビトロの使用であって、
標的細胞が、造血前駆細胞であり、
ゲノム編集が、標的細胞の二本鎖ゲノムに5’オーバーハングを伴うスタガードカットを導入することを含む、使用。
【請求項4】
化合物(I)がトリコスタチンAであり、及び/又は
化合物(II)がMLN4924であり、及び/又は
化合物(III)がNU7026であり、及び/又は
化合物(IV)がNSC15520である、
請求項1~3のいずれか1項の使用。
【請求項5】
ゲノム編集が、(i)標的細胞におけるCRISPR/Cas9D10A酵素の存在、又は(ii)標的細胞におけるCRISPR/Cpf1酵素の存在を含む、請求項1~4のいずれか1項の使用。
【請求項6】
標的細胞がヒトの人工多能性幹細胞又は胚性多能性幹細胞である、請求項1
及び2のいずれか1項の使用。
【請求項7】
組合せ物が、
(i)触媒的に不活性であるが構造的に完全であり;野生型配列と比較して少なくとも1つの変異を含み、特に変異サブユニットK3753Rである、DNAタンパク質キナーゼ触媒サブユニット、
(ii)(i)のDNAタンパク質キナーゼ触媒サブユニットをコードする核酸分子、及び/又は
(iii)(i)のDNAタンパク質キナーゼ触媒サブユニットを発現できる真核細胞
を更に含む、請求項1~6のいずれか1項の使用。
【請求項8】
ゲノム編集が、標的細胞に、一本鎖又は二本鎖DNA分子、特に一本鎖DNA分子である、所望の変異を有するドナーDNA分子を導入することを含む、請求項1~7のいずれか1項の使用。
【請求項9】
真核生物の標的細胞又は標的生物、特に哺乳動物の標的細胞又は標的生物、より具体的にはヒトの標的細胞又は標的生物におけるゲノム編集を含む方法における、ヒト医療又は獣医療を含む医療において用いるための
(a)DNA-PK阻害剤である少なくとも1つの化合物(III)、並びに
(b)HDAC阻害剤である少なくとも1つの化合物(I)、NAE阻害剤である少なくとも1つの化合物(II)及び/又はRPA阻害剤である少なくとも1つの化合物(IV)、
を含む組合せ物であって、
標的細胞が、人工多能性幹細胞又は胚性幹細胞であり、
ゲノム編集が、標的細胞又は標的生物の二本鎖ゲノムに5’オーバーハングを伴うスタガードカットを導入することを含む、組合せ物。
【請求項10】
真核生物の標的細胞又は標的生物、特に哺乳動物の標的細胞又は標的生物、より具体的にはヒトの標的細胞又は標的生物におけるゲノム編集を含む方法における、ヒト医療又は獣医療を含む医療において用いるための
(a)DNA-PK阻害剤である少なくとも1つの化合物(III)、並びに
(b)HDAC阻害剤である少なくとも1つの化合物(I)及びRPA阻害剤である少なくとも1つの化合物(IV)
を含み、NAE阻害剤である化合物(II)を含まない、組合せ物であって、
標的細胞が、造血前駆細胞であり、
ゲノム編集が、標的細胞の二本鎖ゲノムに5’オーバーハングを伴うスタガードカットを導入することを含む、
組合せ物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
明細書
本発明は、真核生物の標的細胞又は標的生物における正確なゲノム編集の効率を増大させるのに好適な化合物、組成物及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
CRISPRは、真核細胞において染色体DNA配列を正確に切断するために採用されている、細菌のウイルスDNAに対するヌクレアーゼ免疫系である。かかるDNA切断は、2つの競合する経路:非相同末端結合(NHEJ)又は相同組換え修復(HDR)によって修復される。
【0003】
NHEJにおいては、DNA末端に結合する最初のタンパク質はKu70/Ku80であり、DNAタンパク質キナーゼ触媒サブユニット(DNA-PKcs)が次である(Shrivastav et al.2008)。キナーゼは、修復部位で自身及び他の下流のエフェクターをリン酸化する。Artemisのようないくつかのタンパク質の動員及びリン酸化により、リガーゼIV(LIG4)、X線修復交差補完タンパク質4(XRCC4)、及び非相同末端結合因子1(XLF)による末端プロセシングライゲーション(end-processing ligation)がもたらされる(Dueva,Iliakis 2013)。
【0004】
この標準的なNHEJ経路が抑制される場合、代替NHEJ経路(A-NHEJ)が活性化する(Nussenzweig、Nussenzweig 2007)。それには、数あるタンパク質の中で、ポリ(ADP-リボース)-ポリメラーゼ1(PARP-1)、ウェルナー症候群ATP依存性(WRN)ヘリカーゼ及びDNAリガーゼ3(LIG3)又はDNAリガーゼI(LIG1)が必要である。MRN(Mre11、Rad50及びNbs1)複合体(MRN-complex (Mre11, Rad50 and Nbs1) complex)の二本鎖切断(DSB)への結合により、HDRが開始する(Shrivastav et al.2008)。DNAエンドヌクレアーゼRBBP8(CtIP)、ブルームヘリカーゼ(BLM)、エキソヌクレアーゼ1(EXO1)のような他のタンパク質とともに、5’末端において末端ヌクレオチドが除去され、DNAの切れ目の両側に長い3’一本鎖DNA(ssDNA)オーバーハングが生成される(Dueva,Iliakis 2013)。次いで、これらのテールは、複製タンパク質A(RPA)複合体により被覆及び安定化され、続いてbreast cancer 2(BRCA2)に補助されるRad51核タンパク質フィラメントの生成が起こる(Shrivastav et al.2008)。Rad52は、ssDNAに結合したRPAのRad51との置換を促進し、ssDNAアニーリングを促進する(Grimme et al.2010)。ドナーDNAによる鎖侵入と、その後のポリメラーゼによるDNA合成により、最終的に正確に修復されたDNAがもたらされる。タンパク質キナーゼの毛細血管拡張性運動失調症変異(ATM)は、少なくとも12の修復タンパク質をリン酸化するため、HDRにおいて主要な役割を果たす(Shrivastav et al.2008)。
【0005】
CRISPR Cas9誘導性DSBのNHEJはエラーを起こしやすく、切断部位で挿入及び欠失(インデル)を頻繁に導入する。従って、標的遺伝子をノックアウトするのに有用である。対照的に、HDRにより、相同ドナーDNA配列を用いることにより、DSBの正確な修復が可能となる。このドナー配列が実験において提供され、変異を有している場合、これらはゲノムに導入される。
【0006】
Cas9によって導入されるDSBのための要件は、DNA中のNGG配列(PAM部位)である。Cas9の標的指向性は、PAM部位に隣接する20ヌクレオチドに相補的な結合ガイドRNA(gRNA)によって決定される。しかし、Cas9ヌクレアーゼは、gRNAが標的とする配列と配列類似性を有する部位でもゲノムを切断し得る(Fu et al.2013)。これらのオフターゲット二本鎖切断は、所望の変異とともに、望まない変異がゲノム内の他の場所に出現し得ることを意味する。
【0007】
このようなオフターゲットカットを削減する1つの戦略は、DSBではなく一本鎖ニックを導入する、Cas9 D10A等の変異Cas9を用いることである(Shen et al.2014)。2つのgRNAを用いて、互いに近接する反対のDNA鎖に2つのニックを導入すると、DSBを引き起こすのに十分近い、ゲノム中の他の場所で発生する2つのオフターゲットニックのリスクを低減しながら、所望の遺伝子座においてDSBがもたらされる。別の戦略は、Cpf1を用いることである(Zetsche et al.2015)。このヌクレアーゼは、TリッチPAM部位の近傍にスタガードカットを導入し、オフターゲット効果の発生が少ないことが示されている(Kim et al.2016)(Kleinstiver et al.2016)。
【0008】
現在のアプローチにおいては、特に幹細胞における標的ヌクレオチド置換の正確なゲノム編集(PGE)の効率は通常低く、0.5~15%の範囲である(Yu et al.2015)(Gonzalez et al.2014)。何名かの研究者は、HDRの促進や、NHEJの低減を試みることにより、正確なゲノム編集の低効率に対処した。
【0009】
G2/M期への細胞周期同調が、一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ssODN)ドナーによるPGEを増大(HEK293T細胞において(26%から38%へ)、ヒト初代新生児線維芽細胞において(検出不能から0.6%へ)及びヒト胚性幹細胞(hESC)において(検出不能から1.6%へ))させることが示され(Lin et al.2014)、及び二本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(dsODN)ドナーによるPGEを増大(hESCにおいて(選別後7から41%へ))させることが示された(Yang et al.2016)。これは相同組み換えがこの期に制限され、そのタンパク質が上方制御されるからである。
【0010】
また、効率の改善は、dsODNドナーを用いて、HEK293/TLR細胞において、siRNAによるKu70/80及びリガーゼIVのような重要なタンパク質を抑制すること(5から25%へ)、又はアデノウイルス5型タンパク質4E1B55K及びE4orf6の共発現(5から36%へ)によって達成された(Chu et al.2015)。E1B55K及びE4orf6タンパク質は、数ある標的の中でLIG4のユビキチン化とプロテオソーム分解を媒介する。
【0011】
小分子の使用が、ゲノム編集を増大させる一般的な戦略となっている。リガーゼIV阻害剤の小分子SCR7は、マウス胚においてNHEJを阻止し、PGEの効率を増大させる(5から22.7%へ)と主張されている(Maruyama et al.2015)。他の研究者は、HEK293/TLR細胞における同様の増大、HEK293Aにおける、わずかではあるが有意な増大を記述したか、又はマウス胚、ウサギ胚、及びヒト幹細胞においては有意な効果を見出さなかった(Chu et al.2015)(Pinder et al.2015)(Song et al.2016)(Yang et al.2016)(Zhang et al.2017)。最近、Greco et al.は、SCR7の構造及び阻害特性を再解析した(Greco et al.2016)。彼らは、SCR7及びその誘導体は、ヒトLIG4の選択的阻害剤でも強力な阻害剤でもないと結論付けた。
【0012】
NHEJ経路における重要なタンパク質複合体であるDNA-PKの、小分子NU7441、KU-0060648及びNU7026による薬理学的阻害は、NHEJの頻度を減少させ、HEK293/TLR細胞(1.9から3.8%へ)、HEK293(3が7.6%へ)及びヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)(13から16%へ)(dsODNドナーによる)、及びマウス胚線維芽細胞(3から10%へ)(ssODNドナーによる)におけるPGEを増大させることが示された(Robert et al.2015)(Suzuki et al.2016)(Zhang et al.2017)。
【0013】
また、CRISPR-Cas9との相同組換えを増強する単一の小分子が記載されている。RAD51刺激化合物RS-1は、ウサギ胚(4.4から26.1%へ)、HEK293A細胞(3.5から21%へ)、及びU2OS細胞(1.9から2.4%へ)におけるPGEを増大させた(Song et al.2016)(Pinder et al.2015)が、hiPSCにおいてはさせなかった(全てdsODNドナーによる)(Zhang et al.,2017)。ブタ胎児線維芽細胞においては、ssODNドナーを用いて、PGE効率に対するRS-1の影響は見出されなかった(Wang et al.2016)。
【0014】
更に、Yu et al.は、約4000の小分子のライブラリースクリーニングを用いて、β3-アドレナリン受容体アゴニストL755507が、ssODNを用いて、hiPSCにおける(0.35から3.13%へ)、及びdsODNドナーを用いてマウスESCにおける(17.7から33.3%へ)PGEを増大させることを見出したが、その分子の修復経路の標的は不明である(Yu et al.2015)。他者は、HEK293A細胞又はhiPSCにおいて、L755507によるPGEの有意な刺激作用を見出さなかった(Pinder et al.2015)(Zhang et al.2017)。Pinder et al.は、SCR7、RS-1、及びL755507を単独で及び組合せで比較し、SCR7及びL755507をRS-1と共に加える場合、RS-1単独と比較して、相加効果がないことを見出した。
【0015】
CRISPR(CRIPR)-Cas9ゲノム編集を増強する小分子の、現在の最新の概説から、我々は、DNA-PKの阻害剤はCRISPR-Cas9ゲノム編集においてPGEを増大させ得るが、SCR7、L755507及びRS-1の効果は細胞株及び遺伝子座間で一貫していなかったことを理解する。我々は、以前に試験された小分子の組合せが相加効果を示さなかったことも理解する。
【発明の概要】
【0016】
本発明者らは、特定の化合物が、特に2以上の異なる化合物の組合せとして適用される場合、正確なゲノム編集の効率を増大させることを見出した。特に、本発明者らは、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)の阻害剤、NEDD8活性化酵素(NAE)の阻害剤、DNA依存性タンパク質キナーゼ(DNA-PK)、特にその触媒サブユニット(DNA-PKcs)の阻害剤、及び複製タンパク質A(RPA)の阻害剤、から選択される化合物、並びにこれらの異なるクラスの阻害剤から選択される化合物の組合せが、ゲノム編集の効率を増大できることを見出した。化合物及びそれらの組合せは、非医療用途(例えば研究ツールとして)、又は医療用途(例えばインビボ又はエクスビボでの使用のため)の両方に適している。
【0017】
更に、本発明者らは、触媒的に不活性であるが構造的に完全であるDNA-PKcsが、上記の化合物の存在とは無関係に、正確なゲノム編集の効力を増大させることを見出した。この効果は、ゲノム編集用の複数の異なる系で見出されるため、広範に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1:ゲノム編集及び解析の流れ図。iCRISPR 409-B2 iPSCを、2μg/mlドキシサイクリンで少なくとも2日間処理し、Cas9又はCas9D10A発現を誘導する。RNAiMAX、gRNA(各7.5nM)、ssODN(10nM)、及び評価する小分子によるリバーストランスフェクションを、96ウェルプレート中で1日間行う。用いられる細胞の量により80%までのコンフルエンシーがもたらされる。次いで、細胞を通常の培地交換により3日間増幅する。回収後、DNA抽出、標的遺伝子座のPCR増幅、イルミナ配列決定、インデル量と正確なゲノム編集についてのCRISPResso(Pinello et al.2016)配列解析を行う。
【
図2】
図2:ヒトCALD1、KATNA1及びSLITRK1の、ヒト及びネアンデルタール人の最後の共通祖先の、祖先型状態への正確なゲノム編集(PGE)のための、gRNA及びssODNの設計。DSB生成のために用いられるgRNA及びその効率スコア(sc)(sgRNA scorer 1.0 Chari et al.2015)とともに、CALD1、KATNA1及びSLITRK1のそれぞれの遺伝子座を示す。PAM部位は灰色、標的配列は青、及び変更する塩基は赤である。Cas9D10A(Cas9n)によるニック、又はCas9によるDSBの位置を矢印で示す。Cas9nによる編集については両方のガイドを用いるが、Cas9による編集についてはCALD1 g1、KATNA1 g2及びSLITRK1 g2を用いる。両方のCas9変異体による編集についてのそれぞれのssODNも示す。所望の変異を緑色で示し、更なる変異は橙色である。「ブロック」は、遺伝子座の再切断を防ぐためのCas9ブロック変異を示す。Cas9D10Aドナーはすべてニックの後に50ntの相同性アームを有するが、Cas9ドナーはすべて合計で90ntであり、所望の変異は中央に存在している。完全配列を表2に示す。
【
図3-1】
図3:iCRISPR Cas9D10AによるCALD1、KATNA1及びSLITRK1のゲノム編集に対する、溶媒の効果及び異なる小分子濃度の影響についての第一スクリーニング。正確なゲノム編集(PGE)及びインデルを、それぞれ緑色の丸(三角形)又は青色の菱形によって示す。各記号はテクニカルレプリケートを表す。それぞれの平均を黒色の線として示す。各スカル(skull)により、位相差光学顕微鏡で測定された最大20%の細胞死を示す。1μM及び0.1μMのトリコスタチンAによりすべての細胞が死んだ。更なる実験のために選択された濃度を青緑色で示す。
【
図3-2】
図3:iCRISPR Cas9D10AによるCALD1、KATNA1及びSLITRK1のゲノム編集に対する、溶媒の効果及び異なる小分子濃度の影響についての第一スクリーニング。正確なゲノム編集(PGE)及びインデルを、それぞれ緑色の丸(三角形)又は青色の菱形によって示す。各記号はテクニカルレプリケートを表す。それぞれの平均を黒色の線として示す。各スカル(skull)により、位相差光学顕微鏡で測定された最大20%の細胞死を示す。1μM及び0.1μMのトリコスタチンAによりすべての細胞が死んだ。更なる実験のために選択された濃度を青緑色で示す。
【
図3-3】
図3:iCRISPR Cas9D10AによるCALD1、KATNA1及びSLITRK1のゲノム編集に対する、溶媒の効果及び異なる小分子濃度の影響についての第一スクリーニング。正確なゲノム編集(PGE)及びインデルを、それぞれ緑色の丸(三角形)又は青色の菱形によって示す。各記号はテクニカルレプリケートを表す。それぞれの平均を黒色の線として示す。各スカル(skull)により、位相差光学顕微鏡で測定された最大20%の細胞死を示す。1μM及び0.1μMのトリコスタチンAによりすべての細胞が死んだ。更なる実験のために選択された濃度を青緑色で示す。
【
図3-4】
図3:iCRISPR Cas9D10AによるCALD1、KATNA1及びSLITRK1のゲノム編集に対する、溶媒の効果及び異なる小分子濃度の影響についての第一スクリーニング。正確なゲノム編集(PGE)及びインデルを、それぞれ緑色の丸(三角形)又は青色の菱形によって示す。各記号はテクニカルレプリケートを表す。それぞれの平均を黒色の線として示す。各スカル(skull)により、位相差光学顕微鏡で測定された最大20%の細胞死を示す。1μM及び0.1μMのトリコスタチンAによりすべての細胞が死んだ。更なる実験のために選択された濃度を青緑色で示す。
【
図4】
図4:Cas9D10A及びCas9による、CALD1、KATNA1及びSLITRK1における正確なゲノム編集(PGE)の効率に対する小分子の効果。PGE効率を相対単位(RU)で示し、異なる遺伝子座における効率の変動を考慮するためにコントロールの平均を1に設定する。n回の独立した実験のテクニカルレプリケートを示す。灰色及び黒色のバーは、それぞれ、コントロール及び各小分子の平均を表す。用いた濃度は、NU7026 20μM、トリコスタチンA(TSA)0.01μM、MLN4924 0.5μM、NSC 19630 1μM、NSC 15520 5μM、AICAR 20μM、RS-1 1μM、レスベラトロール1μM、SCR7 1μM、L755507 5μM、STL127685 5μM及びB02 20μMであった。
【
図5-1】
図5:Cas9D10A及びCas9によるCALD1、KATNA1及びSLITRK1における、並びにCpf1によるHPRT及びDMNT1における正確なゲノム編集(PGE)の効率に対する小分子の組合せの影響。小分子は、409-B2 iCRISPR iPSC株において、Cas9D10AによるPGE効率に対して相加効果を有する(A)が、Cas9ではそうではない(B)。PGE、PGE+インデル、及びインデルを、それぞれ緑色、灰色、又は青色のバーにより示す。エラーバーは、A、B及びCについての3つのテクニカルレプリケート及びDについての2つのテクニカルレプリケートの標準偏差を示す。用いた濃度は、NU7026 20μM、トリコスタチンA(TSA)0.01μM、MLN4924 0.5μM、NSC 19630 1μM、NSC 15520 5μM、AICAR 20μM及びRS-1 1μMであった。CRISPYミックスは、NU7026、TSA、MLN4924及びNSC 15520の小分子混合物を示す。ノックイン効率の変化の有意性は、3つの遺伝子CALD1、KATNA1、SLITRK1にわたってプールされた二元配置分散分析及びテューキー多重比較を用いて決定した。遺伝子及び処理は、それぞれ変量効果及び固定効果として扱った。解析には、各遺伝子について3つのテクニカルレプリケートを含めた。P値は多重比較のために調整する(
**P
<0.01、
***P
<0.001)。
【
図5-2】
図5:Cas9D10A及びCas9によるCALD1、KATNA1及びSLITRK1における、並びにCpf1によるHPRT及びDMNT1における正確なゲノム編集(PGE)の効率に対する小分子の組合せの影響。小分子は、409-B2 iCRISPR iPSC株において、Cas9D10AによるPGE効率に対して相加効果を有する(A)が、Cas9ではそうではない(B)。PGE、PGE+インデル、及びインデルを、それぞれ緑色、灰色、又は青色のバーにより示す。エラーバーは、A、B及びCについての3つのテクニカルレプリケート及びDについての2つのテクニカルレプリケートの標準偏差を示す。用いた濃度は、NU7026 20μM、トリコスタチンA(TSA)0.01μM、MLN4924 0.5μM、NSC 19630 1μM、NSC 15520 5μM、AICAR 20μM及びRS-1 1μMであった。CRISPYミックスは、NU7026、TSA、MLN4924及びNSC 15520の小分子混合物を示す。ノックイン効率の変化の有意性は、3つの遺伝子CALD1、KATNA1、SLITRK1にわたってプールされた二元配置分散分析及びテューキー多重比較を用いて決定した。遺伝子及び処理は、それぞれ変量効果及び固定効果として扱った。解析には、各遺伝子について3つのテクニカルレプリケートを含めた。P値は多重比較のために調整する(
**P
<0.01、
***P
<0.001)。
【
図5-3】
図5:Cas9D10A及びCas9によるCALD1、KATNA1及びSLITRK1における、並びにCpf1によるHPRT及びDMNT1における正確なゲノム編集(PGE)の効率に対する小分子の組合せの影響。小分子は、409-B2 iCRISPR iPSC株において、Cas9D10AによるPGE効率に対して相加効果を有する(A)が、Cas9ではそうではない(B)。PGE、PGE+インデル、及びインデルを、それぞれ緑色、灰色、又は青色のバーにより示す。エラーバーは、A、B及びCについての3つのテクニカルレプリケート及びDについての2つのテクニカルレプリケートの標準偏差を示す。用いた濃度は、NU7026 20μM、トリコスタチンA(TSA)0.01μM、MLN4924 0.5μM、NSC 19630 1μM、NSC 15520 5μM、AICAR 20μM及びRS-1 1μMであった。CRISPYミックスは、NU7026、TSA、MLN4924及びNSC 15520の小分子混合物を示す。ノックイン効率の変化の有意性は、3つの遺伝子CALD1、KATNA1、SLITRK1にわたってプールされた二元配置分散分析及びテューキー多重比較を用いて決定した。遺伝子及び処理は、それぞれ変量効果及び固定効果として扱った。解析には、各遺伝子について3つのテクニカルレプリケートを含めた。P値は多重比較のために調整する(
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<0.01、
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<0.001)。
【
図5-4】
図5:Cas9D10A及びCas9によるCALD1、KATNA1及びSLITRK1における、並びにCpf1によるHPRT及びDMNT1における正確なゲノム編集(PGE)の効率に対する小分子の組合せの影響。409-B2 hiPSCにおける、組換えCpf1によるHPRT及びDMNT1のPGE効率は、CRISPYミックスを用いると同様に増大した(C)。CRISPYミックスを用いると、PGE効率は、SC102A1 hiPSCs及びH9 hESCsにおいても、プラスミドで送達されるCas9n-2A-GFPにより(GFP-FACS濃縮)、及びチンパンジーSandraA ciPSCsにおいても組換えCpf1により増大した(D)。PGE、PGE+インデル、及びインデルを、それぞれ緑色、灰色、又は青色のバーにより示す。エラーバーは、A、B及びCについての3つのテクニカルレプリケート及びDについての2つのテクニカルレプリケートの標準偏差を示す。用いた濃度は、NU7026 20μM、トリコスタチンA(TSA)0.01μM、MLN4924 0.5μM、NSC 19630 1μM、NSC 15520 5μM、AICAR 20μM及びRS-1 1μMであった。CRISPYミックスは、NU7026、TSA、MLN4924及びNSC 15520の小分子混合物を示す。ノックイン効率の変化の有意性は、3つの遺伝子CALD1、KATNA1、SLITRK1にわたってプールされた二元配置分散分析及びテューキー多重比較を用いて決定した。遺伝子及び処理は、それぞれ変量効果及び固定効果として扱った。解析には、各遺伝子について3つのテクニカルレプリケートを含めた。P値は多重比較のために調整する(
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【
図6】
図6:非多能性細胞種における、Cpf1によるHPRTにおける正確なゲノム編集(PGE)の効率に対する、CRISPYミックス及び小分子の組合せの影響。CRISPYミックスの成分についての、あり得るすべての組合せを、HEK293及びK562細胞について示す(A)。NU7026はPGE効率を増大させるが、TSA及びNSC15520は明確な効果を有さず、MLN4924はがんの特徴を持つそれら細胞株において明確な破壊的効果を有する。MLN4924は、初代細胞におけるPGE効率に対して、同様に破壊的効果を有する(B)。MLN4924を含まないCRISPYミックスは、CD4
+T及びCD34
+前駆細胞において、PGE効率に対して、NU7026単独よりも高い効果を有する。初代ヒト表皮角化細胞(HEKa)においては、NU7026及びNSC15520もPGE効率に対して破壊的効果を有する。PGE、PGE+インデル、及びインデルを、それぞれ緑色、灰色、又は青色のバーにより示す。エラーバーは、Aについての2つの独立した実験及びBについての2つの独立した実験のそれぞれについての2つのテクニカルレプリケートの標準偏差を示す。CRISPYミックスは、20μM NU7026、0.01μM トリコスタチンA(TSA)、0.5μM MLN4924及び5μM NSC 15520の小分子の混合物を示す。
【
図7】
図7:CRISPYミックス及びその成分の毒性。RNAiMax、gRNA、及びssODNあり又はなしで、
図4及び5の小分子及び組合せと24時間インキュベーションした後の409-B2-iCRISPR-Cas9n細胞のレサズリンアッセイを(A)に示す。レサズリンは、細胞の脱水素酵素によって蛍光性のレゾルフィンに変換され、結果生じる蛍光(励起:530~570nm、蛍光:590~620nm)は、細胞の生存率についてのマーカーとして認められている(O’Brien et al.2000)。CRISPYミックスは黒い境界線で強調表示されており、わずかに毒性であり、その成分の相加的毒性効果は伴わない。エラーバーは、2つのテクニカルレプリケートの標準偏差を示す。CRISPYミックス及びモック処理と共に細胞を5回継代した後の核型分析を(B)に示す。バルク及び各条件の5クローンの少なくとも20個の中期核(metaphase)を、トリプシン誘導性ギムザ染色を用いて解析した。CRISPYミックス(25のうち3の中期核(倍数体))とモック処理(25のうち4の中期核(倍数体))に対応する2つの単クローン由来の小サブセットの中期核を除いて、数的又は大規模な染色体異常は同定されなかった。
【
図8-1】
図8:ヒト人工多能性幹細胞におけるBFP挿入(ssODN)の有効性に対するCRISPYミックス及びその成分NU7026の影響。mtagBFP2(Subach et al.2011)ssODNドナー及びiCRISPR系の設計を(A)に示す。我々は、ヘテロ接合性のAAVS1 iCRISPR遺伝子座において、Cas9nのN末端核局在化シグナル配列(NLS)の直後に、青色蛍光タンパク質(BFP)の真向い(in front of)に2A自己切断ペプチドをコードする871nt(50nt相同性アームを含む)の配列を挿入した(409-B2 iCRISPR-Cas9n hiPSC)。配列を挿入する場合、ドキシサイクリンは核輸送BFPの発現をもたらす。
【
図8-2】
図8:ヒト人工多能性幹細胞におけるBFP挿入(ssODN)の有効性に対するCRISPYミックス及びその成分NU7026の影響。7日間のBFP発現後のモック、NU7027、及びCRISPYミックス処理の代表的な画像を、位相差(PC)、ヨウ化プロピジウム核染色(PI)、mtagBFP2発現(BFP)並びにPI及びBFPの合成として(B)に示す。ImageJ(C)を用いて、BFP挿入を伴う細胞のパーセンテージを定量化するために、それぞれの処理に対する3つのテクニカルレプリケートのそれぞれからの2つの画像(倍率50倍、白色サイズバー200μm)を用いた。
【
図9】
図9:触媒的に不活性なDNA-PKcs(K3753R)は、相同組換え修復(HDR)を促進し、非相同末端結合(NHEJ)を阻止する。例、CRISPR Cas9又はCpf1(灰色のgRNAを含む水色)によって誘導される二本鎖切断(DSB)後、DNA末端はKu70/80(橙色)で覆われ、続いてDNA-PKcs(シアン色)が結合し、両方が各DSB末端でDNA-PK複合体を構成する(A)。DNA-PKcsの自己リン酸化により、下流のNHEJタンパク質の動員及び活性化がもたらされる。DNA-PKcsが触媒的に活性な場合、NHEJはHDRを凌ぐ。DNA-PKcsが触媒的に不活性化されている場合(例、K3753R変異により)、自己リン酸化は起き得ず、NHEJ経路は阻止される。キナーゼ不活性化DNA-PKcsにより、DSBのHDR修復が優先的にもたらされる。DNA-PKcsの構成的構造(organizational structure)を、そのリン酸化クラスター、そのキナーゼ(紫色)、及びK3753R変異(暗青色)と共に(B)に示す(Neal et al.2014から改)。4128aa(約470kDa)の長さの酵素は、セリン/スレオニンからなる以下のリン酸化クラスター:N(残基56及び72)、JK(残基946及び1003)、PQR(2023と2056の間の5残基)、及びABCDE(2609及び2647の間の6残基)を有する。一部のクラスターは、リン酸化されるとDNA-PKcsを活性化するが、他はNHEJから離脱させるか、キナーゼを不活性にすらする(Neal et al.2014)。Nクラスター及びT3950のリン酸化、並びにK3753R変異は、キナーゼ活性を不活性化することが示されている(Neal et al.2011、Shrivastav et al.2008、Douglas et al.2007)。DNA-PKcs及びそのK3753近傍の配列は、脊椎動物において進化的に保存されている(C)(Kent et al.2002)。
【
図10】
図10:触媒的に不活性なDNA-PKcs(K3753R)は、DNA二本鎖切断の、正確なゲノム編集(PGE)へのほぼ完璧な変換をもたらす。KR変異体は、導入された二本鎖切断のタイプに関係なく、409-B2 hiPSC中の野生型DNA-PKcsと比較してPGEの増大をもたらす。Cas9nダブルニッキングによるCALD1、KATNA1、SLITRK1及びPRKDC(R3753K)(A)、及びCas9によるCALD1又はCpf1によるHPRT(B)のPGEの増大を示す。PGE、PGE+インデル、及びインデルを、それぞれ緑色、薄緑色、又は青色のバーにより示す。エラーバーは、Aについての2つの独立した実験それぞれに対する3つのテクニカルレプリケート、及びBについての2つのテクニカルレプリケートの標準偏差を示す。細胞をドキシサイクリンと3日間インキュベーションして、AのダブルニッキングのためにCas9nを発現させた。
【
図11-1】
図11:CALD1、KATNA1、及びSLITRK1の効率的な多重の正確なゲノム編集(MPGE)。gRNA及びssODN DNAドナーのエレクトロポレーションにより、409-B2 hiPSCにおいて、3つの遺伝子すべてに対して、DNA-PKcs KR変異を含む、堅牢なバルクの正確なゲノム編集(PGE)の効率が実現する(A)。PGE、PGE +インデル、及びインデルを、それぞれ緑色、薄緑色、又は青色のバーにより示す。エラーバーは、2つのテクニカルレプリケートの標準偏差を示し、ダブルニッキングのために、細胞を、ドキシサイクリンと4日間インキュベーションし、Cas9nを発現させた。祖先型変異(ancient mutation)及びサイレントなブロック変異(blocking mutation)は、標的ヌクレオチド置換(TNS)が起きた染色体に常に一緒に組込まれるわけではなく、他の変異から離れたブロック変異が唯一のTNSとして組込まれ得る(B)。
【
図11-2】
図11:それぞれの遺伝子についてのダブルニッキングのガイドの標的(青色)と変異(緑色)を縮尺比で示す。解析した33クローンのCALD1、KATNA1、及びSLITRK1を有する染色体におけるゲノム編集イベント(TNS及び/又はインデル)のヒートマップを(C)に示す。ほとんどのクローンは、野生型のままであるか、又は3つの遺伝子すべてについて正確に編集される。ヒートマップは、ブロック変異か祖先型変異かにかかわらず、インデルの組込み及び任意のTNSの組込みを伴って(左パネル)、又は少なくとも祖先型変異の組込みの(右パネル)、単一遺伝子について2つの染色体又は3つの遺伝子すべてについて6つの染色体のいずれかを提示する。MPGEクローンの生成は、エレクトロポレーションしたばかりの細胞のごく一部を用いて単一細胞希釈播種を行う場合、2週間未満で可能である(D)。採取した56個のコロニーのうち、45個が生存し、そのうち12個が1超の細胞に由来し(DNA配列決定の読み取り比率に基づく)、解析用に33個のクローンが残った。
【
図12】
図12:Cas9D10AによるCALD1、KATNA1及びSLITRK1における正確なゲノム編集(PGE)の効率に対するCRISPYミックス及びDNA-PKcs(K3753R)の相加効果。PGE効率は、野生型(WT)と比較してDNA-PKcs KR変異体(KR)で大幅に増大し、単一遺伝子に対するCRISPYミックスの添加により更に増大し(A)、一般に効率は低い、多重のPGEについて、より一層増大する。PGE、PGE+インデル、及びインデルを、それぞれ、緑色、薄緑色、又は青色のバーにより示す。エラーバーは、3つのテクニカルレプリケートの標準偏差を示す。CRISPYミックスは、20μM NU7026、0.01μM トリコスタチンA(TSA)、0.5μM MLN4924及び5μM NSC 15520の小分子混合物を示す。ダブルニッキングのために、細胞を、ドキシサイクリンと共に2日間(多重化のために4日間)インキュベーションしてCas9nを発現させた。
【
図13】
図13:培養3か月後のDNA-PKcs KR変異を含む409-B2 iCRISPR hiPSCの代表的な核図(karyogram)。トリプシン誘導性ギムザ染色によって解析された25の中期核のうち、すべてが健全な核型(46,XX)を示す。数的又は大規模な染色体異常は確認されなかった(バンド数350、モノクロ3階調)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
第1の態様においては、本発明は、ゲノム編集において用いるための、以下において化合物(I)と称される、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)の阻害剤である化合物に関する。
【0020】
HDAC阻害剤は、細胞周期の停止、分化及び/又はアポトーシスを誘導することにより腫瘍細胞増殖を阻害する細胞増殖抑制剤として知られる。HDAC阻害剤は通常、HDACの亜鉛含有触媒ドメインに結合することにより作用する。それらは、亜鉛イオンに結合する化学部分に従って分類され得る。好適なクラスのHDAC阻害剤の例は:
(1)ヒドロキサム酸塩化合物、
(2)チオール基を介して亜鉛イオンに結合する環状テトラペプチド及びデプシペプチド、
(3)ベンズアミド化合物、
(4)求電子性ケトン及び
(5)脂肪酸化合物
である。
【0021】
HDAC阻害剤は、例えばKhan & La Thangue(Immunol.Cell Biol.90(2012),85-94)及びFalkenberg&Johnstone(Nature Rev.Drug Discovery 13(2014)673-691)(参照により本明細書に組込まれる)に総説されている。
【0022】
本発明によれば、HDAC阻害剤は、好ましくは、合成非ヌクレオシド化合物、例、1500Da以下又は1000Da以下の分子量を有する小分子、から選択される。HDAC阻害剤の具体例は、トリコスタチンA(Trichostatin A)、ボリノスタット(Vorinostat)、エンチノスタット(Entinostat)、パノビノスタット(Panobinostat)、モセチノスタット(Mocetinostat)、ベリノスタット(Belinostat)、ロミデプシン(Romidepsin)、MC1568、ツバスタチンA塩酸塩(Tubastatin A HCl)、ジビノスタット(Givinostat)、LAQ824、CUDC-101、キジノスタット2塩酸塩(Quisinostat 2HCl)、プラシノスタット(Pracinostat)、PCI-34051、ドロキシノスタット(Droxinostat)、PCI-24781、RGFP966、AR-42、ロシリノスタット(Rocilinostat)、バルプロ酸(Valproic acid)、CI994、CUDC-907、ツバシン(Tubacin)、M344、レスミノスタット(Resminostat)、RG2833、ジバルプロエクスナトリウム(Divalproex Sodium)、スクリプタイド(Scriptaid)、フェニルブチレート(Phenylbutyrate)、ツバスタチンA(Tubastatin A)、CAY10603、ネクスツラスタットA(Nexturastat A)、BG45、LMK-235、サンタクルザメートA(Santacruzamate A)、BRD73954、HPOB、TMP269、タスキニモド(Tasquinimod)及び4SC-202、並びにそれらの塩又は溶媒和物、特に医薬的に許容されるそれらの塩又は溶媒和物から選択される。
【0023】
好ましい化合物(I)は、トリコスタチンA(その塩及び溶媒和物を含む)である。
【0024】
第2の態様においては、本発明は、ゲノム編集において用いるための、以下において化合物(II)と称される、NEDD8活性化酵素(NAE)の阻害剤である化合物に関する。
【0025】
NAE阻害剤は、例、Nawrocki et al.(Exp Opin Investing Drugs 21(2012),1564-1573)によって総説されたように抗腫瘍剤として、又は、例、Le-Trilling et al.(Sci.Rep.6(2016),doi:19977)によって総説されたように抗ウイルス剤として知られる(これらは参照により本明細書に組込まれる)。
【0026】
本発明によれば、NAE阻害剤は、好ましくは、合成非ヌクレオシド化合物、例、1500Da以下又は1000Da以下の分子量を有する小分子、から選択される。好ましいNAE阻害剤は、MLN4924(ペボンジスタット(Pevonedistat))又は任意のその塩若しくは溶媒和物、特に任意の医薬的に許容されるその塩若しくは溶媒和物である。
【0027】
第3の態様においては、本発明は、ゲノム編集において用いるための、以下において化合物(III)と称される、DNA依存性タンパク質キナーゼ(DNA-PK)の阻害剤、特にその触媒サブユニット(DNA-PKcs)の阻害剤である化合物に関する。
【0028】
DNA-PK阻害剤は、例、Davidson et al.(Front.Pharmacol.4(2013),doi:13 3389)(参照により本明細書に組込まれる)によって総説されたように化学療法剤として知られる。
【0029】
本発明によれば、DNA-PK阻害剤は、好ましくは、合成非ヌクレオシド化合物、例、1500Da以下又は1000Da以下の分子量を有する小分子から選択される。DNA-PK阻害剤の具体的な例は、NU7026、NU7441、PIK-75及びPI-103、並びにそれらの塩又は溶媒和物、特に医薬的に許容されるそれらの塩及び溶媒和物である。
【0030】
好ましい実施形態においては、化合物(III)は、NU7026(その塩及び溶媒和物を含む)である。
【0031】
第4の態様においては、本発明は、ゲノム編集用の、以下において化合物(IV)と称される、複製タンパク質A(RPA)の阻害剤である化合物に関する。
【0032】
RPA阻害剤は、例、Neher et al.(Mel.Cancer Ther.10(2011),1756-1806)(参照により本明細書に組込まれる)によって総説されたように、抗腫瘍剤として知られる。
【0033】
本発明によれば、RPA阻害剤は、好ましくは、合成非ヌクレオシド化合物、例、1500Da以下又は1000Da以下の分子量を有する小分子、から選択される。RPA阻害剤の具体的な例は、NSC15520、TDRL-505及びNSC111847、並びにそれらの塩又は溶媒和物、特に医薬的に許容されるそれらの塩及び溶媒和物である。
【0034】
化合物(IV)の好ましい実施形態は、NSC15520(その塩及び溶媒和物を含む)である。
【0035】
本発明者らは、化合物(I)、化合物(II)、化合物(III)、又は化合物(IV)が、動物、例、ヒトを含む哺乳動物の細胞等の、真核細胞における正確なゲノム編集の頻度を増大させることを見出した。
【0036】
特に、本発明者らは、化合物(I)、(II)、(III)、及び/又は(IV)が一緒に投与される場合、相加効果を有することを見出した。特に、化合物のトリコスタチンA、MLN4924、NSC15520、及びNU7026からなる組合せ物を用いる場合、最大6.7倍の正確なゲノム編集の増大又はほぼ50%の編集された染色体が達成され、これは発明者の知る限りヒト多能性幹細胞のこれまでに記述された最高のゲノム編集効率である。更に、触媒的に不活性なDNAタンパク質キナーゼ触媒サブユニット、特にK3753R変異体を含む多能性幹細胞において上記の化合物の組合せ物を用いる場合、最大82%の編集された染色体又は19.2倍の増加を伴うほぼ完全で正確なゲノム編集が達成される。更に、彼らは、両方の染色体の3遺伝子で、セレクションなしで、2週間未満で多重の正確なゲノム編集(multiplexed precise genome editing)(MPGE)を達成し、哺乳動物の系で初めてMPGEを示す。解析されたクローンの3分の1は、両方の染色体の3遺伝子に標的ヌクレオチド置換がある。
【0037】
化合物(I)、(II)、(III)、及び(IV)の2以上の組合せ物、特に少なくとも1の化合物(III)及び少なくとも1の化合物(I)、並びに必要に応じて、少なくとも1の化合物(II)及び/又は少なくとも1の化合物(IV)の組合せ物を、DNA二本鎖、例、染色体DNA、に所望の遺伝子座においてスタガードカットを導入できるヌクレアーゼ(例、Cpf1)又はニッカーゼ酵素系(例、Cas9D10A)の使用とともに投与することの、特別に強力な相加効果が見出された。
【0038】
更なる実験においては、少なくとも1の化合物(III)及び少なくとも1の化合物(I)、並びに必要に応じて少なくとも1の化合物(IV)の組合せ物を、特に化合物(II)の非存在下で、DNA二本鎖、例、染色体DNA、における所望の遺伝子座でスタガードカットを導入できるヌクレアーゼ(例、Cpf1)又はニッカーゼ酵素系(例、Cas9D10A)の使用とともに投与することの、強力な効果が、造血細胞、例、CD4+T細胞等のT細胞又は造血前駆細胞(例、CD34+細胞)で見出された。
【0039】
ヒト胎児腎細胞株HEK293及び白血病細胞株K562においては、少なくとも1の化合物(III)を、必要に応じて少なくとも1の化合物(I)及び/又は少なくとも1の化合物(IV)と共に、特に化合物(II)の非存在下で、DNA二本鎖、例、染色体DNA、における所望の遺伝子座でスタガードカットを導入できるヌクレアーゼ(例、Cpf1)又はニッカーゼ酵素系(例、Cas9D10A)の使用とともに投与する場合、強力な効果が見出された。
【0040】
従って、本発明の一態様は、(a)化合物(I)、(b)化合物(II)、(c)化合物(III)、及び(d)化合物(IV)のうちの少なくとも2を含む組合せ物、例、組成物又はキット、に関する。好ましい実施形態は、化合物(I)がトリコスタチンAであり、及び/又は化合物(II)がMLN4924であり、及び/又は化合物(III)がNU7026であり、及び/又は化合物(IV)がNSC15520である組合せ物である。特に、本発明の組合せ物は、非医療用途及び医療用途の両方における、両方の染色体上の多重ゲノム編集を含むゲノム編集における使用が意図されている。
【0041】
本発明の文脈において、用語「組合せ物」は、上記の通りの少なくとも2の化合物を、必要に応じて好適な担体、例、医薬的に許容される担体、と共に混合して一緒に含む組成物を包含する。用語「組合せ物」は、上記の通りの少なくとも2の化合物を、別個の形態で、必要に応じてそれぞれが好適な担体、例、医薬的に許容される担体、と共に含むキットも包含する。
【0042】
更に、本発明は、(i)少なくとも1の化合物(I)及び少なくとも1の化合物(II)、(ii)少なくとも1の化合物(I)及び少なくとも1の化合物(III)、(iii)少なくとも1の化合物(I)及び少なくとも1の化合物(IV)、(iv)少なくとも1の化合物(II)及び少なくとも1の化合物(III)、(v)少なくとも1の化合物(II)及び少なくとも1の化合物(IV)、又は(vi)少なくとも1の化合物(III)及び少なくとも1の化合物(IV)を含む組合せ物、例、組成物又はキットに関する。好ましい化合物(I)、(II)、(III)、及び/又は(IV)は上記の通りである。
【0043】
更に、本発明は、(i)少なくとも1の化合物(I)、少なくとも1の化合物(II)、及び少なくとも1の化合物(III)、(ii)少なくとも1の化合物(I)、少なくとも1の化合物(II)、及び少なくとも1の化合物(IV)、又は(iii)少なくとも1の化合物(II)、少なくとも1の化合物(III)、及び少なくとも1の化合物(IV)を含む組合せ物、例、組成物又はキット、に関する。好ましい化合物(I)、(II)、(III)、及び/又は(IV)は上記の通りである。
【0044】
更に、本発明は、少なくとも1の化合物(I)、少なくとも1の化合物(II)、少なくとも1の化合物(III)、及び少なくとも1の化合物(IV)を含む組合せ物、例、組成物又はキットに関する。好ましい化合物(I)、(II)、(III)、及び/又は(IV)は上記の通りである。
【0045】
特に好ましい実施形態においては、本発明は、少なくとも1の化合物(III)及び少なくとも1の化合物(I)、並びに必要に応じて、少なくとも1の化合物(II)及び/又は少なくとも1の化合物(IV)を含む組合せ物に関する。いくつかの実施形態においては、化合物(II)は存在しない。
【0046】
更に特に好ましい実施形態においては、本発明は、少なくとも1の化合物(III)と、化合物(I)及び化合物(IV)のうちの少なくとも1とを含む組合せ物に関する。いくつかの実施形態においては、化合物(II)は存在しない。
【0047】
記載された本発明の組合せ物は、1以上の更なる化合物を更に含み得る。一実施形態においては、組合せ物は、ノコダゾール及びABT-751(Yang et al.,2016)、パクリタキセル(Shu et al.,Apoptosis 2(1997),463-470)、又はコルヒチン若しくはビンクリスチン(Blajeski et al.,J.Clin.Invest.110(2002),91-95)、或いはその塩又は溶媒和物等、G2/M期で細胞を同調させるための化合物を含み得る。更なる実施形態においては、組合せ物は、特に触媒的に不活性なDNAタンパク質キナーゼ触媒サブユニットと共に、NSC19630又はその塩若しくは溶媒和物等のAlt-NHEJ阻害剤を含み得る。
【0048】
本発明の組合せ物、例、組成物又はキットは、真核生物の標的細胞、特に以下に記載する通りの、哺乳動物の標的細胞、例えば、ヒトの標的細胞だけでなく、マウス又はゼブラフィッシュ等の非ヒト動物由来の標的細胞等の動物の標的細胞、を含み、幹細胞、例、ヒト幹細胞(例えば胚性幹細胞又は多能性幹細胞)を含む、真核生物の標的細胞でのゲノム編集における使用に好適である。いくつかの実施形態においては、標的細胞は、ヒト人工又は胚性多能性幹細胞等の人工又は胚性多能性幹細胞だけでなく、非ヒト動物由来の人工又は胚性多能性幹細胞を含む、真核生物の標的生物の幹細胞である。他の実施形態においては、標的細胞は造血細胞又は造血前駆細胞である。なお他の実施形態においては、標的細胞はがん細胞等の不死化細胞である。
【0049】
本発明の組合せ物、例、組成物又はキットは、標的細胞のゲノムにスタガードカット、特に5’オーバーハングを伴うスタガードカットを導入することを含むゲノム編集手順において特に好適である。この結果を達成するために、標的細胞は、CRISPR/Cas9の変異型ニッカーゼであるCRISPR/Cas9 D10A又はCRISPR/Cas9 H840A酵素等の、CRISPR/Cas9の変異型ニッカーゼ又はCRISPR/Cpf1酵素を含み得る。代替的に、他のゲノム編集酵素、例、CRISPR、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼタンパク質、細菌テルムス・テルモフィルス(Thermus thermophiles)のアルゴノート(TtAgo)、リコンビナーゼ、若しくはメガヌクレアーゼ又は他の酵素、特に二本鎖標的DNAにおいてスタガードカットを提供する酵素が存在し得る。本発明は、上記の酵素の分割融合型、例、Cas9又はCas9 D10Aの分割融合型(Zetsche et al.,2015)と共に用いても好適である。酵素(複数可)は、それ自体で、例、タンパク質又はリボ核タンパク質として、又はそれぞれの酵素(複数可)をコードする核酸分子として標的細胞に導入され得る。核酸分子は、標的細胞における一過性又は安定な発現のための適切な発現制御エレメントと機能的に連結したプラスミド等の発現ベクターとして導入され得る。タンパク質又は核酸を真核生物の標的細胞に導入するための好適なトランスフェクション技術は、当該技術分野で周知であり、リポフェクション、エレクトロポレーション(例:ヌクレオフェクション)、リン酸カルシウム又はウイルスベースの方法が挙げられる。
【0050】
特定の実施形態においては、本発明は、ヒト人工又は胚性幹細胞等の人工又は胚性多能性幹細胞を含む幹細胞である、真核生物の標的細胞におけるゲノム編集のための、少なくとも1の化合物(III)及び少なくとも1の化合物(I)、並びに必要に応じて、少なくとも1の化合物(II)及び/又は少なくとも1の化合物(IV)を含む組合せ物の使用であって、該ゲノム編集の手順が、標的細胞のゲノムにスタガードカット、特に5’オーバーハングを伴うスタガードカットを導入することを含む使用、に関する。上記の通りの酵素により、標的細胞のゲノムにスタガードカットが導入され得る。
【0051】
更なる特定の実施形態においては、本発明は、T細胞(例:CD4+T細胞)等の造血細胞又はCD34+細胞等の造血前駆細胞である、真核生物の標的細胞におけるゲノム編集のため、少なくとも1の化合物(III)及び少なくとも1の化合物(I)、並びに必要に応じて少なくとも1の化合物(IV)を含む組合せ物の、特に化合物(II)の非存在下での使用であって、ゲノム編集の手順が、標的細胞のゲノムにスタガードカット、特に5’オーバーハングを伴うスタガードカットを導入することを含む使用、に関する。上記の通りの酵素により、標的細胞のゲノムにスタガードカットが導入され得る。
【0052】
更なる特定の実施形態においては、本発明は、哺乳動物の不死化細胞、例、HEK293又はK562、である真核生物の標的細胞におけるゲノム編集のための、少なくとも1の化合物(III)を、必要に応じて少なくとも1の化合物(I)及び/又は化合物(IV)と共に含む組合せ物の、特に化合物(II)の非存在下での使用であって、ゲノム編集の手順が、標的細胞のゲノムにスタガードカット、特に5’オーバーハング伴うスタガードカットを導入することを含む使用、に関する。スタガードカットは、上記の通りの酵素により、標的細胞のゲノムに導入され得る。
【0053】
本発明の組合せ物、例、組成物又はキットは、(i)触媒的に不活性であるが構造的に完全である(intact)DNAタンパク質キナーゼ触媒サブユニット(DNA-PKcs)、(ii)(i)のDNAタンパク質キナーゼ触媒サブユニットをコードする核酸分子及び/又は(iii)(i)のDNAタンパク質キナーゼ触媒サブユニット(その分割融合型を含む)を含むか、又は発現できる真核細胞を更に含み得る。好ましくは、触媒的に不活性であるが、構造的に完全である変異体は、対応する野生型配列、例、ヒト配列NP_008835.5、に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有し、野生型配列と比較して、キナーゼ活性の減少をもたらす少なくとも1つの変異を含む。好適な、構造的に完全で触媒的に不活性な変異体及びかかる変異体を検出するための試験は、例、Neal et al.,2001(参照により本明細書に組込まれる)によって記述されている。
【0054】
触媒的に不活性であるが、構造的に完全であるDNA-PKcsサブユニットは、タンパク質として、又は標的細胞における一過性又は安定な発現のために、それぞれのサブユニットをコードする核酸として標的細胞に導入され得る。このアプローチは、標的細胞における内因性DNA-PKcs遺伝子のノックダウン(例、標的相同組換え又はRNA干渉(例:siRNA)の使用による)と組み合わせて用いられ得る。更に、このアプローチは、内因性DNA-PKcsを有さない細胞においては、例えば、異なる種(例:進化的に密接に関連した種)由来のDNA-PKcs変異体を用いることにより、用いられ得る。
【0055】
特に、DNA-PKcs変異体は、触媒トライアッド(N3927、D3922、H3924)を含む触媒ループ(アミノ酸3919~3927)において、又はPループ(アミノ酸3729~3735)において、又はアミノ酸F3946、T3950、特にK3753を含む隣接領域(アミノ酸3736~3760)において(NCBI参照配列NP_008835.5に基づく)、少なくとも1つの変異を含む。それは、キナーゼ活性を低減又は不活性化するトランケーション(例、Y4046*)(NCBI参照配列NP_008835.5に基づく)をもたらす変異も含み得る。表示されたアミノ酸の位置は、ヒト以外の種におけるDNA-PKcs又はそのオルソログにおいては異なり得る。
【0056】
更により具体的には、DNA-PKcs変異体は、K3753位に少なくとも1の変異(例、変異K3753R、及び/又はK3753H)、D3922位に少なくとも1の変異(例、変異D3922A)、T3950位に少なくとも1の変異(例、変異T3950D)、及び/又はF39460位に少なくとも1の変異(例、F3946D)を含む(NCBI参照配列NP_008835.5に基づく)。表示されたアミノ酸の位置は、ヒト以外の種におけるDNA-PKCs又はそのオルソログにおいては異なり得る。
【0057】
更に、DNA-PKcsは、通常、その自己リン酸化機能の標的であるリン酸化クラスターにおける少なくとも1の変異を含み得る。これらには、例えば、NCBI参照配列NP_008835.5に基づいて、PQRクラスター(S2023及び/若しくはS2029及び/若しくはS2041及び/若しくはS2053及び/若しくはS2056)についての不活性化変異、例えば、アラニン(但し、それに限定されない)である変異、そして/或いは、ABCDEクラスター(T2069及び/若しくはS2612及び/若しくはT2620及び/若しくはS2624及び/若しくはT2638及び/若しくはT2647)並びに/又はNクラスター(S56及び/若しくはS72)並びに/又はJKクラスター(T946及び/若しくはS1003)についての活性化(ホスホミミック)変異、例えば、アスパラギン酸(但し、それに限定されない)である変異、が含まれ得る。表示されたアミノ酸の位置は、ヒト以外の種におけるDNA-PKCs又はそのオルソログにおいては異なり得る。
【0058】
組合せ物、例、組成物又はキットは、インビボ又はインビトロで増幅されたか、又は化学的に合成された一本鎖分子又は二本鎖DNA分子を含むがこれらに限定されない、あらゆる種類のドナー核酸分子との使用に好適である。ドナー核酸分子の長さは、通常、約20~2000nt又はそれ以上(例、約80~120nt、50~200nt、又は500~2000nt)の範囲である。ドナー核酸分子は、ゲノム編集により標的細胞のゲノムに導入される野生型配列を考慮して、少なくとも1の所望の変異を含むように設計される。変異は、単一ヌクレオチド変異又は複数のヌクレオチドを包含する変異であり得る。これに関して、変異という用語は、単一のヌクレオチド又は複数のヌクレオチドの置換、欠失、又は挿入を指す。
【0059】
上記の態様は、インビボ、例、単離された細胞又は細胞クラスター中、だけでなく、インビトロ、標的生物の細胞中での使用を含む。組合せ物は、上記の通りの細胞種において、及び特にDNA二本鎖にスタガードカットを導入できるDNA切断酵素系の使用を含む、上記の通りのゲノム編集手順を用いて適用できる。この態様には、ヒト医療又は獣医療を含む医療における使用も含まれる。
【0060】
本発明の更なる態様は、真核生物の標的細胞、特に脊椎動物の標的細胞、例、齧歯類、(.)ヒト又は非ヒトの標的細胞を含み、ヒト幹細胞を含む、哺乳動物の標的細胞におけるゲノム編集のための、(i)上記の通りの、触媒的に不活性であるが構造的に完全であるDNAタンパク質キナーゼ触媒サブユニット、特に変異サブユニットK3753R、(ii)(i)のDNAタンパク質キナーゼ触媒サブユニットをコードする核酸分子、及び/又は(iii)(i)のDNAタンパク質キナーゼ触媒サブユニットを含むか又は発現できる真核細胞の使用に関する。
【0061】
この態様は、インビボ、例、単離された細胞又は細胞クラスター中、だけでなく、インビトロ、標的生物の細胞における使用を含む。DNA-PKcs変異体は、すべての細胞種において、すべてのタイプのゲノム編集手順(例、任意のDNA切断酵素(例、上記の通りの、DNA二本鎖にスタガードカットを導入できる酵素系)だけでなく、他の酵素系(例、平滑末端カット(blunt ended cut)を導入できる酵素系)、の使用を含む)と共に適用され得る。この態様には、ヒト医療又は獣医療を含む医療における使用も含まれる。
【0062】
本発明のなお更なる態様は、少なくとも2の異なる化合物(I)、(II)、(III)、及び(IV)を含む組合せ物、例、組成物又はキットの、ヒト医療又は獣医療を含む医療における使用である。医薬組成物を製造するための生理学的に許容される担体、希釈剤及び/又は補助剤に加えて、有効投与量の、本発明による化合物若しくはそれらの塩、溶媒和物又はそれらのプロドラッグが用いられる。活性化合物の投与量は、投与経路、患者の年齢及び体重、治療される疾患の性質及び重篤度、並びに同様の要因に応じて異なり得る。1日投与量は、1回で投与される、単回投与量として与えられるか、又は2回以上での1日投与量に細分され得、原則として0.001~2000mgである。0.1~500mg、例、0.1~100mgの1日投与量を投与することが特に好ましい。
【0063】
好適な投与形態は、経口、非経口、静脈内、経皮、局所、吸入、経鼻、及び舌下製剤である。本発明による化合物の、経口、非経口(例、静脈内又は筋肉内、経鼻)の製剤、例、乾燥粉末、又は舌下のものを用いることが特に好ましい。錠剤、糖衣錠剤、カプセル、分散性粉末、顆粒、水溶液、アルコール含有水溶液、水性若しくは油性懸濁液、シロップ、ジュース又はドロップ等の慣習的なガレヌス製剤形態が用いられ得る。
【0064】
固体の薬用形態は、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸ナトリウム、乳糖、デンプン、マンニトール、アルギン酸塩、ゼラチン、グアーガム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、タルク、高分散ケイ酸、シリコーン油、高分子量脂肪酸(ステアリン酸等)、ゼラチン、寒天若しくは植物若しくは動物の油脂、又は固体高分子量ポリマー(ポリエチレングリコール等)等の不活性成分及び担体物質を含み得;経口投与に好適な製剤は、所望により更なる香味料及び/又は甘味料を含み得る。
【0065】
液体の医療用形態は、滅菌され得、及び/又は、適切な場合、防腐剤、安定化剤、湿潤剤、浸透剤、乳化剤、展着剤、可溶化剤、浸透圧の調節用若しくは緩衝用の塩、糖若しくは糖アルコール、及び/又は粘度調整剤等の補助物質を含み得る。
【0066】
非経口投与用の製剤は、アンプル又はバイアル等の別個の投与量単位形態で存在し得る。活性化合物の溶液、好ましくは水溶液、及び特に等張溶液及び懸濁液も好ましく用いられる。これらの注射形態は、活性化合物、例えば、適切な場合、他の固体担体物質を含有する凍結乾燥物と、所望の溶媒若しくは懸濁剤とを混合することにより、即時使用調製物として利用できるようにし得るか、又は使用直前にのみ調製され得る。
【0067】
経鼻投与製剤は、水性若しくは油性溶液として、又は水性若しくは油性懸濁液として存在し得る。それらは、使用前に好適な溶媒又は懸濁剤を用いて調製される凍結乾燥物としても存在し得る。
【0068】
吸入可能な製剤は、粉末、溶液又は懸濁液として存在し得る。好ましくは、吸入可能な製剤は、粉末、例えば、有効成分と乳糖等の好適な製剤化助剤との混合物として、の形態である。
【0069】
製剤は、通常の抗菌及び無菌条件下で製造、分注、及び密封される。
【0070】
本発明の化合物は、単独で、又は更なる活性薬剤との併用療法として投与され得る。
【0071】
本発明の組合せ物の医療における使用は、特に標的遺伝子治療、例、治療を必要とする患者の望ましくない遺伝子型に関連する障害、の治療を包含する。例えば、障害は代謝機能不全又はがんである。本発明により、患者由来の細胞は、上記の通りの組合せ物の存在下でゲノム編集手順に供され得、それにより正確なゲノム編集の効率が増大する。この手順は、インビボで、即ち組合せ物を患者に投与するか、又はエクスビボで患者から単離された細胞(―ゲノム編集が成功した後―患者に再移植される)を用いて行われ得る。患者は、哺乳動物等の脊椎動物、好ましくはヒトの患者であり得る。最後に、本発明の組合せ物は、植物細胞又は植物におけるゲノム編集にも好適である。
【0072】
更に、本発明は、以下の図及び実施例により更に詳細に説明される。
【実施例】
【0073】
方法
細胞培養
本プロジェクトのために培養した幹細胞株には、ヒト409-B2 hiPSC(女性、Riken BioResource Center)及びSC102A1 hiPSC(男性、BioCat GmbH)、チンパンジーSandraA ciPSC(雌性、Mora-Bermudez et al.201637)、及びH9 hESC(女性、WiCell Research Institute,倫理許可AZ 3.04.02/0118)が含まれた。幹細胞株をMatrigel Matrix(Corning,35248)上で増殖させた。mTeSR1 supplement(StemCell Technologies,05852)を含むmTeSR1(StemCell Technologies,05851)を培養培地として用いた。非多能性細胞種及び用いたそれらそれぞれの培地は:HEK293(ECACC,85120602)と10%FBS(SIGMA,F2442)及び1%NEAA(SIGMA,M7145)を添加したDMEM/F-12(Gibco,31330-038);K562(ECACC,89121407)と10%FBSを添加したIMDM(ThermoFisher,12440053);CD4+T(HemaCare,PB04C-1)と10%FBSを添加したRPMI 1640(ThermoFisher,11875-093)(Dynabeads Human T-Activator(CD3/CD28)(ThermoFisher,11131D)で活性化);CD34+前駆細胞(HemaCare,M34C-1)とStemSpan CC110(StemCell,02697)を添加したStemSpan SFEM(Stemcell,09600)並びにHEKa(Gibco、C0055C)とMedium 154(ThermoFisher,M154500)及びHuman Keratinocyte Growth Supplement(ThermoFisher,S0015)であった。細胞を、5%CO2でガス供給した加湿インキュベーター中で37℃で増殖させた。培地を、幹細胞については毎日、非多能性細胞株については2日ごとに交換した。細胞培養物を、80%のコンフルエントになるまで4~6日間維持し、1:6~1:10希釈で継代培養した。接着細胞を、EDTA(VWR、437012C)を用いて解離させた。細胞の生存を増加させるために、1日間の細胞分裂後、培地に10μM Rho結合タンパク質キナーゼ(ROCK)阻害剤Y-27632(Calbiochem,688000)を添加した。
【0074】
iCRISPR細胞株の生成及び検証
iCRISPR-Cas9株を、ヒト409-B2 iPSCを用いて、Gonzalez et al.によって記載されたように作製した(Gonzalez et al.2014)。iCRISPR-Cas9D10A株の生成のために、Puro-Cas9ドナーを、Q5 mutagenesis kit(New England Biolabs,E0554S)を用いて部位特異的変異誘発に供した。プライマーはIDT(Coralville,USA)に注文した(表2に示す)。iCRISPR株における多能性マーカーSOX2、OCT-4、TRA1-60及びSSEA4の発現は、PSC 4-Marker immunocytochemistry kit(Molecular Probes,A24881)を用いて検証した(データ示さず)。定量的PCRを用いて、ドキシサイクリン誘導性Cas9又はCas9D10Aの発現を確認し、デジタルPCRを用いて、iCRISPRカセットのオフターゲットの組込みを排除した(データ示さず)。
【0075】
小分子
本研究で用いた市販の小分子は、NU7026(SIGMA,T8552)、TSA(SIGMA,T8552)、MLN4924(Adooq BioScience,A11260)、NSC 19630(Calbiochem,681647)、NSC 15520(ChemBridge,6048069)、AICAR(SIGMA,A9978)、RS-1(Calbiochem,553510)、レスベラトロール(Selleckchem,S1396)、SCR7(XcessBio,M60082-2s)、L755507(TOCRIS,2197)、B02(SIGMA,SML0364)及びSTL127685(Vitas-M)であった。STL127685は、市販されていないSTL127705の4-フルオロフェニル類似体である。ジメチルスルホキシド(DMSO)(Thermo Scientific,D12345)を用いて、15mM(又はNU7026については10mM)のストックを作製した。NU7026濃度に対する制限要因は溶解度である。各小分子の添加により培地中においてDMSOの最終濃度が0.08%(又はNU7026については0.2%)を占めるように、さまざまな濃度について好適な作業溶液を作製した。すべての小分子を添加することにより、DMSOの最終濃度0.7%がもたらされる。
【0076】
gRNA及びssODNの設計
我々は、3つの遺伝子CALD1、KATNA1及びSLITRK1に1つの所望の変異を導入して、人間とネアンデルタール人の最後の共通祖先の状態に復帰させることにした(Pruefer et al.2013)。Cas9D10Aニッカーゼにより編集するためのgRNA対を選択して、所望の変異及びそれぞれのパートナーになるsgRNAから短い距離で効率的に切断した。効率を、パーセンタイルランクスコアとしてsgRNA scorer 1.0 tool(Chari et al.2015)を用いて推定した。ニッカーゼ編集用のためのドナーssODNは、遺伝子座の再切断を防ぐために所望の変異及びCas9ブロック変異を有するように設計され、各ニックの上流及び下流に少なくとも30ntの相同性アームを有した(
図2)。所望の変異のより近くを切断するニッカーゼgRNA対のgRNAを、所望の変異を中心とし、Cas9ブロック変異を含有する90nt ssODNとともにCas9ヌクレアーゼ編集に用いた(
図2)。Cpf1を用いる、HPRT及びDMNT1の編集のためのssODNは、PAM部位の近傍にブロック変異を含有し、切断の近傍に更なる変異を含有するよう設計された。gRNA(crRNA及びtracR)並びにssODNは、IDT(Coralville,USA)に注文した。ssODN及びcrRNA標的を表2に示す。
【0077】
オリゴヌクレオチドのリポフェクション
リポフェクションの2日前に、細胞を2μg/mlドキシサイクリン(Clontech,631311)を含有する培地とインキュベーションした。リポフェクション(リバーストランスフェクション)は、alt-CRISPRの製造業者のプロトコル(IDT)を用いて、最終濃度7.5nMの各gRNA及び10nMの各ssODNにより行った。簡単に説明すると、0.75μl RNAiMAX(Invitrogen,13778075)及びそれぞれのオリゴヌクレオチドを別々に各25μl OPTI-MEM(Gibco,1985-062)で希釈し、室温で5分間インキュベーションした。両方の希釈液を混合して、RNAiMAX、gRNA、及びssODNを含む50μlのOPTI-MEMを得た。リポフェクション混合物を室温で20~30分間インキュベーションした。インキュベーション中、細胞を、EDTAを用いて5分間解離させ、Countess Automated Cell Counter(Invitrogen)を用いて計数した。リポフェクションミックス、Y-27632を添加したmTeSR1中に25.000の解離細胞を含有する100μl、2μg/mlドキシサイクリン及び試験する各小分子(複数可)を十分に混合し、Matrigel Matrix(Corning,35248)で覆われた96ウェルのうちの1ウェルに入れた。24時間後に、培地を通常のmTeSR1培地に交換した。
【0078】
オリゴヌクレオチド及びリボ核タンパク質のエレクトロポレーション(ヌクレオフェクション)
組換えA.s.Cpf1及びS.p.Cas9タンパク質及びエレクトロポレーション促進剤はIDT(Coralville,USA)に注文し、ヌクレオフェクションを、次の変更を除いて、製造業者のプロトコルを用いて行った。ヌクレオフェクションは、それぞれの株の100万細胞、78pmolのエレクトロポレーション促進剤、160pmolの各gRNA(Cas9についてはcrRNA/tracRの二本鎖及びCpf1についてはcrRNA)(1遺伝子についての、両方のgRNAによるダブルニッキングについて320pmol)、200pmolのssODNドナー、252pmolのCRISPRタンパク質を含有する、100μlのHuman Stem Cell nucleofection buffer(Lonza,VVPH-5022)用又はHuman T Cell nucleofection buffer for CD4+ T cells(Lonza,VPA-1002)及びHuman CD34 Cell nucleofection buffer for CD34+ progenitor cells(Lonza,VPA-1003)用のキュベットにおいて、Nucleofector 2b Device(Lonza)のB-16プログラム(又はCD4+T細胞についてはU-14)を用いて行った。多重化のためには、Cas9nを発現する、iCRISPR-Cas9n hiPSC株を用いたため、gRNAと一本鎖DNAドナーのみをエレクトロポレーションした。細胞を、Countess Automated Cell Counter(Invitrogen)を用いてカウントした。
【0079】
FACS選別
2μgプラスミドDNA(pSpCas9n(BB)-2A-GFP(PX461),Addgene#48140)の、Cas9を誘導的に(inducably)発現しない細胞への導入は、100万のSC102A1 iPSC又はH9 ESCのいずれかを含有する、100μl のHuman Stem Cell nucleofection buffer(Lonza,VVPH-5022)用のキュベットにおいて、Nucleofector 2b Device(Lonza)のB-16プログラムを用い行った。細胞を、Countess Automated Cell Counter(Invitrogen)を用いて計数した。ヌクレオフェクションの24時間後、細胞を、Accutase(SIGMA,A6964)を用いて解離させ、単一細胞の溶液を得るために濾過し、GFP発現細胞について蛍光関連細胞選別(fluorescence associated cell sorting)(FACS)に供した。BD FACSAria III(Becton-Dickinson)による選別中に、細胞をY-27632を添加したmTeSR1中で4℃で維持した。選別から48時間後、細胞を、sgRNA、ssODNによるリポフェクション、及び小分子での処理に供した。
【0080】
イルミナライブラリの調製及び配列決定
リポフェクションの3日後、Accutase(SIGMA,A6964)を用いて細胞を解離させ、ペレット化し、15μlのQuickExtract(Epicentre,QE0905T)に再懸濁した。65℃で10分間、68℃で5分間及び最後に98℃で5分間インキュベーションを行い、ssDNAをPCRテンプレートとして生成した。CALD1、KATNA1及びSLITRK1の各標的遺伝子座についての、イルミナ配列決定用アダプターを含有するプライマーを、IDT(Coralville,USA)に注文した。PCRは、KAPA2G Robust PCR Kit(Peqlab,07-KK5532-03)を用いて、提供されたバッファーB及び3μlの細胞抽出液を用い、総体積25μlで、T100サーマルサイクラー(Bio-Rad)中で行った。PCRの熱サイクルプロファイルは:95℃ 3分;(95℃ 15秒、65℃ 15秒、72℃ 15秒)を34回;72℃ 60秒であった。Phusion HF MasterMix(Thermo Scientific,F-531L)及び0.3μlの第一のPCRの産物を用いる、第二のPCRの反応物(Kircher et al.2012)中に、サンプル特異的な指標を備えるP5及びP7イルミナアダプターを添加した。PCRの熱サイクルプロファイルは:98℃ 30秒;(98℃ 10秒、58℃ 10秒、72℃ 20秒)を25回;72℃ 5分であった。増幅を、EXゲル(Invitrogen,G4010-11)を用いてサイズ分離アガロースゲル電気泳動によって確認した。指標付きのアンプリコンを、Solid Phase Reversible Immobilization(SPRI)beads(Meyer,Kircher 2010)を用いて精製した。二重指標ライブラリーを、2x150 bpのペアエンド配列を提供するMiSeq(Illumina)で配列決定した。Bustard(Illumina)を用いるベースコールの後、leeHomを用いてアダプターを切り取った(Renaud et al.2014)。
【0081】
配列データ解析
CRISPresso(Pinello et al.2016)を用いて、野生型のパーセンテージ、標的ヌクレオチド置換(TNS)、インデル、及びTNSとインデルの混合について、CRISPRゲノム編集実験からの配列決定データを解析した。解析に用いたパラメーターは、「-w 20」、「--min_identity_score 70」、及び「--ignore_substitutions」であった(解析を、最低70%の野生型配列との類似性を有するアンプリコン及び各gRNAから20bpのウィンドウに制限した;配列エラーはNHEJイベントとして誤って特性解析されるため、置換は無視した。単一細胞播種後のコロニーからの配列決定データ(
図3B及びC)を、SAMtoolを用いて実際のリード配列を評価することによって更に解析した。配列リードの割合を用いて、クローン化コロニーを混合コロニーから区別した。リードの大部分が明確に1配列(ホモ接合性)又は類似したリード数の2配列(ヘテロ接合性)で構成されている場合、コロニーをクローンとして計数した。我々が示した核型が健全であったため、各細胞には2つの染色体があると仮定した。組込まれたブロック変異、祖先型変異、及びクローンの細胞の各染色体についてのインデルを記録した。
【0082】
統計分析
TNS効率の変化の有意性は、3つの遺伝子CALD1、KATNA1、SLITRK1にわたってプールした2元配置分散分析及びテューキー多重比較を用いて決定した。遺伝子及び処理は、それぞれ変量効果及び固定効果として扱った。従って、我々は、遺伝子との相互作用に対する処理の効果を試験した(Zar 1999)。解析には、各遺伝子について3つのテクニカルレプリケートを含めた。QQプロット(Field 2005)の目視検査と適合値に対してプロットされた残差(Quinn&Keough 2002)によって、正規分布の及び均一な残差の仮定が満たされているか否かを確認した。これらは、残差がほぼ対称的に分布していることを示したが、テールが長く(即ち、正と負の残差が大きすぎる)、均一性の仮定から明確な偏差はなかった。P値は、多重比較のために調整する。統計解析はRを用いて行った。
【0083】
レサズリンアッセイ
「オリゴヌクレオチドのリポフェクション」において記載したように、409-B2 iCRISPR-Cas9n hiPSCを、編集試薬(KATNA1編集用のRNAiMax、gRNA、及びssODNドナー)有り又は無しのいずれかで播種した。培地に小分子又は小分子の組合せを添加し、各条件をデュプリケートで行った。24時間後に培地を吸引し、10μlのレサズリン溶液(Cell Signaling,11884)と共に100μlの新鮮な培地を添加した。レサズリンは、細胞の脱水素酵素によって蛍光性のレゾルフィンに変換され、その結果生じる蛍光(励起:530~570nm、蛍光:590~620nm)は、細胞生存率の線形マーカーとして認められている(O’Brien et al.2000)。細胞を37℃でレサズリンとインキュベーションした。酸化還元反応を、Typhoon 9410 imager(Amershamn Biosciences)を用いた吸光度測定によって1時間ごとに測定した。5時間後、吸光度スキャンは飽和せずに良好なコントラストを示し、ImageJ及び「ReadPlate」プラグインを用いて吸光度を定量化するために用いた。培地及びレサズリンを含むが、細胞を含まないデュプリケートのウェルをブランクに用いた(used a blank)。
【0084】
顕微鏡法と画像解析
409-B2 iCRISPR-Cas9n hiPSCは、gRNA及び青色蛍光タンパク質(BFP)一本鎖オリゴ(図(8A、330ng)で、モック、NU7026、及びCRISPYミックス処理のいずれかについて、2つのテクニカルレプリケートでヌクレオフェクションした。培地に2μg/mlドキシサイクリン(Clontech,631311)を7日間添加し、正確に編集した細胞中で核移入BFPの発現を可能にした。次いで、細胞をDPBS(ThermoFisher,A24881)中4%ホルムアルデヒドで15分間固定し、100μg/ml RNAseA(ThermoFisher,EN0531)及び40μg/mlヨウ化プロピジウム(ThermoFisher,P3566)を添加したDPBS(ThermoFisher,A24881)中1%サポニンで37℃で45分間透過処理し、DPBSで3回洗浄した。核酸をインターカレーションするヨウ化プロピジウムを用いて核を対比染色した。蛍光顕微鏡Axio Observer Z(Zeiss)を用いて、それぞれの処理について3つのテクニカルレプリケートの各々から:位相差、HcRedチャネル(BP 580~604nm、BS 615nm、BP 625 ~725nm、10.000ms)、及びDAPIチャネル(BP 335~383nm、BS 395nm、BP 420~470nm、20.000ms)から成る画像(倍率50倍)を2枚取得した。画像を盲検し、Adobe Photoshop CS5 counting toolを用いてBFP陽性核を計数した。ImageJを用いて、核の面積(デフォルトの閾値)を平均の単一核面積で除算することにより、ヨウ化プロピジウム陽性の核を定量化した。
【0085】
核型分析
核型の顕微鏡解析は、トリプシン誘導性ギムザ染色後に行った。解析は、‘Saechsischer Inkubator fuer klinische Translation’(Leipzig,Germany)により、国際品質ガイドライン(ISCN 2016:ヒト細胞遺伝学用命名法の国際的システム48)に従って行った。
【0086】
研究設計
我々はiPSC中のいくつかの小分子の正確なゲノム編集の効率を試験することを目的にした。化合物SCR7、L755507及びRS-1は、文献にCRISPR-Casエフェクターの候補として示されているが、他の試験化合物はこの目的に関してはまだ公知ではない。試験化合物を表1に示す。
【0087】
表1:本研究において評価した小分子の概観。標的タンパク質、その機能、並びにそのそれぞれの経路及び小分子の機能を示す。アスタリスク付きの参考文献は、CRISPR-Casエフェクターとしての小分子を示す。略語:代替NHEJ(Alt-NHEJ)、損傷依存性シグナル伝達(DDS)。
【0088】
【0089】
HDR効率に対する小分子の効果の解析のためのツールとして、我々は、ドキシサイクリン誘導性のCas9又はCas9D10Aの発現並びにssODN及びガイドRNA(gRNA)の効率的な送達を可能にするiCRISPR-Cas9及びiCRISPR-Cas9D10A iPSC株を生成した(Gonzalez et al.2014)。ゲノム編集及び解析の流れ図を
図1に示す。3つの例の遺伝子CALD1、KATNA1及びSLITRK1の編集において用いられるgRNA、ssODN、及びプライマーの設計を
図2及び表2に示す。
【0090】
表2:本研究において用いたオリゴヌクレオチド。CALD1、KATNA1、SLITRK1、HPRT、DMNT1、AAVS1-iCRISPR、及びPRKDCの編集のためのgRNA(crRNA標的)及び一本鎖DNAドナー(ssODN)並びにCas9 iCRISPRドナープラスミドの解析及びQ5部位特異的変異誘発のためのプライマーを示す。変異は太字であり、祖先型変異は下線付きでもある。ドナーのKATNA1 Cas9D10A 2及びSLITRK1 Cas9D10A 2は異なるサイレント変異を有し、
図10~12に関して用いられた。
【0091】
【0092】
【0093】
NHEJを阻止する能力について試験するために我々が選択した小分子は、SCR7、Ku70/80阻害剤STL127705の4-フルオロフェニル類似体であるSTL127685(Weterings et al.2016)、及びDNA-PK阻害剤NU7026(Suzuki et al.2016)である。我々は、Alt-NHEJを阻止するために、WRNヘリカーゼ阻害剤NSC 19630を選択した(Aggarwal et al.2011)。NEDD8活性化酵素(NAE)阻害剤であるMLN4924は、CtIPのnedd化を阻害することが示されていて、これにより、鎖切断においてDNA末端の削り込みの程度(extend)が増大し、従って、DNA二本鎖切断修復経路の選択が、優先的にHDRを経るように調節される(Jimeno et al.2015)。DNAの削り込みにより、ssDNAが残り、相同性探知及び組換えを経る前に、RPAにより被覆及び安定化される。我々は、RPAの可用性が高まるとHDRに好都合であると想定した。フマロピマル酸(NSC15520)は、RPAのp53及びRAD9への結合を妨げ(Glanzer et al.2011)(Glanzer et al.2013)、ssDNAに利用可能なRPAの量を増大させる可能性がある。RAD51は二本鎖DNA(dsDNA)による相同組換えに重要であるが、RAD52はssDNAのアニーリングに必要である(Grimme at al.2010)。従って、我々は、正確なゲノム編集の効率に対する、RAD52阻害剤AICAR(Sullivan et al.2016)、RAD51阻害剤B02(Huang et al.2011)、及びRAD51促進剤RS-1(Song et al.2016)の効果を試験することにした。我々は、更に、修復タンパク質キナーゼATMを増強すると記述されている小分子を含めた。レスベラトロールは、インビトロでの精製ATMの触媒効率に対する直接的な刺激効果を有すると記述されている(Lee et al.2014)。ヒストンデアセチラーゼ阻害剤のトリコスタチンAは、ATM依存性DNA損傷シグナル伝達経路を活性化し、HRを増大させることが記述されている(Lee 2007)(Jimeno et al.2015)。最後に、我々は、β3アドレナリン受容体アゴニストL755507をスクリーニングに含めた。
【0094】
結果
正確なゲノム編集に対する小分子の効果
我々は、まず、異なる濃度の小分子を試験して、iCRISPR Cas9D10Aを用いた、CALD1、KATNA1、及びSLITRK1の正確な編集に対するそれらの効果を検証した(
図3)。その結果、我々は、正確なゲノム編集の最も高い頻度をもたらすそれぞれの濃度を選択した。異なる濃度が編集に対して同様の効果をもたらした場合、我々は、より低い濃度を選択した。繰り返した独立した実験からのCas9D10A及びCas9によるCALD1、KATNA1及びSLITRK1における正確なゲノム編集の効率に対する、選択した小分子濃度の効果を
図4に示す。
【0095】
NU7026処理により、3つの遺伝子座すべてについて、Cas9D10A(
図4A)及びCas9(
図4B)によるPGEが増大した。平均変化は、Cas9D10Aでは、CALD1について1.5倍、KATNA1について2.6倍及びSLITRK1について2.5倍であり、Cas9では、CALD1について1.5倍、KATNA1について1.6倍及びSLITRK1について1.2倍であった。我々は、NU7026に加えて、TSA及びMLN4924がCas9D10AによるPGEの頻度に対する増強効果を有することを見出した。TSAは、Cas9D10AによるPGEを、CALD1について1.5倍、KATNA1について2.2倍及びSLITRK1について1.8倍増大させた;興味深いことに、Cas9では増強効果は見出されなかった。MLN4924は、Cas9D10AでのPGEを、CALD1について1.2倍、KATNA1について1.1倍及びSLITRK1について1.3倍増大させた。Cas9では、PGEに対するMLN4924のわずかな減少効果がある。NSC 15520での処理により、Cas9D10A及びCas9による、CALD1のPGEが、それぞれ1.4倍及び1.3倍増大した。しかし、KATNA1及びSLITRK1のPGEに対しては効果がなかった。NSC 19630、AICAR、RS-1、レスベラトロール、SCR7、L755507、及びSTL127685は、Cas9D10Aでは、それぞれのコントロールと比較して、3つの遺伝子CALD1、KATNA1及びSLITRK1に対するPGE頻度に対する明確な効果を示さず、Cas9では、効果を示さなかったか、又は減少効果を示した。B02は、3つの遺伝子座すべてで、Cas9D10A及びCas9によるPGEを両方半減させた。
【0096】
我々は、次に、小分子の組合せがCas9D10A又はCas9によるPGEに対する増強効果を有するか否かを試験した。我々は、少なくとも1の遺伝子においてCas9D10AによるPGEの増大が示され、且つPGEが決して減少しない小分子を選択した;それらの分子は:NU7026、TSA、MLN4924、NSC 19630、NSC 15520、AICAR及びRS-1である。
【0097】
Cas9D10A又はCas9のいずれかによる、3つ(tree)の異なる遺伝子座の編集に対する小分子の組合せの影響を
図5に示す。Cas9D10Aによる編集については、PGEのための(or)NU7026での処理により、分子なしより2.3又は1.8倍高いPGE頻度がもたらされた(テューキーの一対比較、事後比較:p<0.001)(
図5A)。NU7026とTSAの両方の組合せにより、NU7026又はTSAのいずれか単独よりも1.3又は1.6倍高いPGE頻度がもたらされた(p<0.001)。NU7026とTSAの混合物にMLN4924を添加することにより、PGEにおいて更なる1.3倍の増大がもたらされた(p<0.01)。編集にCas9D10Aを用いる場合、NSC 15520の更なる添加により、すべての遺伝子座についてPGEの平均がわずかに増大したが、統計的に有意には達しなかった。NSC 19630、AICAR、及びRS-1の添加によっては、PGEに対する測定可能な効果がなかった。
【0098】
我々は、Cas9D10AによりPGEの頻度を最も増大させる小分子のミックスは、NU7026(20μM)、TSA(0.01μM)、MLN4924(0.5μM)及びNSC 15520(5μM)の組合せであると結論する。我々は、これを「CRISPY」ニッカーゼミックスと名付ける。それはiCRISPR 409-B2 iPSC株において、CALD1について2.8倍(11から31%へ)、KATNA1について3.6倍(12.8から45.8%へ)及びSLITRK1について6.7倍(4.7から31.6%へ)のPGEの増大をもたらした。
【0099】
我々がブラントエンドDSBを導入するCas9を用いた場合、NU7026に加えて他の小分子を添加しても、有意な効果は見られなかった(
図5B)。対照的に、エレクトロポレーションによって409-B2 hiPSC中に導入された、スタガードDNAカットを生成する、Cpf1リボ核タンパク質を伴うCRISPYミックスは、PGEを、HPRTについて2.9倍及びDMNT1について4.0倍増加させた(
図5D)。NU7026のみの添加は、PGEを、HPRTについて2.1倍及びDMNT1について2.4倍増加させた。
【0100】
CRISPYミックスが他の多能性幹細胞株においてPGEを増大させるか否かを試験するために、我々は、Cas9nプラスミドエレクトロポレーションを用いてSC102A1 hiPSC及びH9 hESC中で遺伝子KATNA1を編集し、Cpf1リボ核タンパク質を用いてチンパンジーiPSC中でHPRTを編集した。PGEはそれぞれ2.6倍、2.8倍、2.3倍増加し、NU7026を単独で用いた場合よりも増大が大きかった(
図5C)。
【0101】
更なる実験においては、標的ヌクレオチド置換効率に対するCRISPYミックス及びその成分の影響を、不死化ヒト胎児腎細胞株HEK293、不死化白血病細胞株K562、造血CD4
+T細胞及びCD34
+造血前駆細胞並びに初代ヒト角化細胞(HEKα)を含む複数の非多能性細胞種でCpf1のエレクトロポレーションにより試験した。結果を
図6に示す。CRISPYミックスの成分NU7026は、HEKa細胞を除き、試験した細胞株で有効であることがわかった。HEK293及びK562細胞においては、NU7026がPGE効率を大幅に増大させ、TSA及びNSC15520が効率を中程度に増大させ、MLN4924はがんの特徴を有する細胞株に明確な破壊的効果を有する。MLN4924は、初代細胞におけるPGE効率に対しても破壊的効果を有する。MLN4924を含まないCRISPYミックスは、造血CD4
+T細胞及びCD34
+前駆細胞において、NU7026単独よりもPGE効率に対して高い効果を有する。初代ヒト角化細胞(HEKα)においても、NU7026及びNSC15520はPGE効率に対して破壊的効果を有する。
【0102】
なお更なる実験においては、CRISPYミックス及びその成分の毒性を試験した。Cas9nダブルニッキング及び24時間のCRISPYミックス処理を伴うKATNA1の編集後、細胞は、小分子処理なしと比較して75%の生存率を示し、その成分の相加的毒性効果はなかった(
図7)。重要なことに、各ラウンドが、細胞をリポフェクション試薬及びCRISPYミックスと共に継代し、3日後に回収することからなる、5ラウンドの編集を我々がシミュレートした場合、トリプシン誘発性ギムザ染色によって示されるように、細胞は数的又は大規模な染色体異常のない健全な核型を有していた(
図13)。
【0103】
なお更なる実験においては、ヒト人工多能性幹細胞におけるBFP挿入(ssODN)効率に対する、CRISPYミックス及びその成分NU7026の影響を試験した。結果を
図8に示す。我々は、AAVS1 iCRISPR遺伝子座における高感度青色蛍光タンパク質(BFP)(Subach et al.2011)の真向いに2A自己切断ペプチドをコードする871nt(50nt相同性アームを含む)配列を挿入した。配列が挿入される場合、ドキシサイクリンは核輸送BFPの発現につながる。BFPに関して陽性の核は、無CRISPYコントロール(3.7%)と比較して7.1倍(26.6%)増加したが、NU7026単独でもたらされる増加は1.6倍(6%)であり(
図8B及びC)、CRISPYミックスによりiPSCにおける遺伝子断片の挿入効率が増大することが示される。
【0104】
正確なゲノム編集に対する、調製したDNAタンパク質キナーゼ触媒サブユニットの効果
ATP結合部位付近のK3753Rの変異により、DNA-PKcsのキナーゼ活性が無効になる。CHOV3細胞においては、DNA-PKcs KR細胞におけるDSB誘導性HDRは、DNA-PKcsヌル細胞の上昇したHDRレベルの2~3倍超、野生型DNA-PKcsを発現する細胞の4~7倍超までであることが示されている(Shrivastav et al.2008及び2009)。
【0105】
我々は、Gonzalez et al.(2014)によって記述されたように、ドキシサイクリン誘導性Cas9ニッカーゼ(iCRISPR-D10A)を含む人工多能性幹(iPSC)株を作製し、オフターゲットが減少した高効率の標的DSBを達成した(Shen et al.2014)。我々は、組込まれたCas9D10Aを用いて、DNA-PKcsのキナーゼ活性部位付近のリジンをアルギニンに交換し(K3752R)、完全な全体構造を維持しつつ、そのキナーゼ活性を不活性化した(Shrivastav et al.2008及び2009)。我々は、野生型DNA-PKcsを用いた正確なゲノム編集の効率をDNA-PKcs KRと比較するために、神経突起伸長遺伝子CALD1、KATNA1及びSLITRK1を人間とネアンデルタール人の最後の共通祖先の祖先状態に正確に編集して復帰させることにした(Prufer et al.2014)。我々は、R3753をリジンに交換して復帰させることにより、PRKDC(DNA-PKcs)の不活性化を覆す効率も調べた。野生型DNA-PKcs又はDNA-PKcs KRのいずれかが発現している、iCRISPR-Cas9D10AによるCALD1、KATNA1、SLITRK1及びPRKDCのPGE効率を
図10Aに示す。DNA-PKcs KRを用いる場合、PGE効率は、CALD1、KATNA1及びSLITRK1について、2.5倍(36%)、4.1倍(78.5%)及び7.8倍(51.1%)増加する。これは、PGE/NHEJの比の、それぞれ0.23、0.29及び0.08から3.49、25.45及び2.60へのシフトに対応する。我々は、染色体の71.4%でPRKDCの復帰変異(back mutation)を達成する。組換えCas9又はCpf1をエレクトロポレーションする場合、CALD1又はHPRTについてのPGE効率は4.8倍(72.2%)又は8.3倍(43.7%)増大し、PGE/NHEJの比が0.45から12.8又は0.08から7.1にシフトした。従って、PGEはDSBのタイプに関係なくKR株によって増大する。
【0106】
我々は、DNA-PKcs KRによるこれらの高PGE効率を踏まえ、次に3つの遺伝子の多重編集を試みた。我々が、gRNA及びssDNAドナーの多重リポフェクションを用いた時、達成したPGE効率は、ある遺伝子についてせいぜい3~10%であった(データ示さず)。我々は、3つの遺伝子のgRNA及びssODNをエレクトロポレーションした時、CALD1について21.3%、KATNA1について32.0%及びSLITRK1について34.0%のPGE効率を達成した(
図11A)。リポフェクションとは異なり、エレクトロポレーションのためには、細胞を単一細胞懸濁液として調製する。細胞の大部分は、後のバルクDNA単離のためにプレーティングしたが、10パーセントは1細胞からコロニーの子孫が生じる単一細胞希釈液としてプレーティングした。33クローンの解析により、祖先型変異及びサイレントなブロック変異は、標的ヌクレオチド置換(TNS)が起こった染色体に常に共に組込まれるわけではないことが示された(
図11B)。
図11Cは、インデルの組込み及びブロック変異であるか祖先型変異であるかに関係なく任意のTNSの組込み(左パネル)又は少なくとも祖先型変異の組込み(右パネル)を伴う染色体のヒートマップを示す。ほとんどのクローンは、野生型のままであるか、3つの遺伝子すべてに対して正確に編集されるかのいずれかである。驚くべきことに、クローンの3分の1が、3つの遺伝子すべてについて両方の染色体に何ら更なるインデルのないTNSを有する。クローンの12.1%は、少なくとも、3つの遺伝子すべてについて両方の染色体に何ら更なるインデルのない祖先型TNSを有する。33.3%の12.1%への低下は、主にCALD1ドナーの設計に起因し、右のブロック変異は他の2つの変異から遠く離れており(were)、それは30%のCALD1 TNS陽性染色体(30のうち9)に組込まれている唯一の置換である(
図3A)。3つの遺伝子の両方の染色体上でのTNSの取込みは、単一の遺伝子TNSの効率に基づいて、偶然による予測よりも4倍超高い(任意のTNSについて7.1%と予測及び少なくとも祖先型TNSについて2.9%と予測)。ここに提示されているMPGEは効率的なだけでなく、高速でもある。エレクトロポレーションの直後に単一細胞希釈液の播種を用いることにより、2週間未満で所望のMPGEを伴うクローンの生成が可能となる(
図11D)。重要なことに、DNA-PKcs KR hiPSCは、トリプシン誘導性のギムザバンド形成で示されるように、26継代(3ヶ月に相当)後に数的又は大規模な染色体異常のない健全な核型を維持した(
図13)。
【0107】
我々が更なる実験で示すように、変異DNA-PKcsの存在下でのPGE効率は、Cas9D10Aを含むCRISPYミックスによって更に増強され得る。DNA-PKcs変異体では、CALD1、KATNA1及びSLITRK1についてのPGEがそれぞれ2.8倍、4、3倍、12.4倍増加した(
図12を参照)。更に、CRISPYミックスにより、小分子処理なしのDNA-PKcs野生型と比較したPGEの効率が更に一段と増大した。PGE効率は、CALD1、KATNA1及びSLITRK1についてそれぞれ48%(3.7倍の増大)、82%(4.7倍の増大)、57.5%(19.2倍の増大)であった。
【0108】
考察
CRISPYミックスは、試験した4つの(3つのヒトの及び1つのチンパンジーの)多能性幹細胞株すべてにおいて、それを構成する任意の個々の成分よりもPGEを増加させるが(
図5A、C、及びD)、これは、試験した他の細胞株についてはそうならない(
図6)。実際、我々の結果は、小分子とその組合せが、異なる細胞株におけるPGEに対して正反対の効果を与え得ることを示す。これは、細胞株が異なる修復タンパク質又は修復経路に依存することに起因する可能性があり、DNA修復の細胞種特異的メカニズムに関する追跡研究が必要であることを示唆する。ヒトESC及びiPSCが非常に高いDNA修復能力(分化後に減少する)を有することを示す研究(Blanpain et al.2011,Rocha et al.2013)は、この解釈に合致している。それは、いくつかの研究間の矛盾(例、DNAリガーゼIV阻害剤SCR7及びRAD51促進剤RS-1は、一部の細胞種においては正確なゲノム編集を促進するが、他ではしない)も説明し得る。従って、小分子を、目的の各細胞種におけるCRISPR編集に対するそれらの効果についてスクリーニングすることが必要であり得る。
【0109】
多能性幹細胞においてCas9D10A及びssODNドナーによるPGEを、を単独(
図4A)及びミックス(
図5A)で共に増加させた小分子は、NU7026、TSA、MLN4924及びNSC 15520である。ミックスは、NU7026での単回処理と比較して、Cpf1によるPGEに対する更なる増大効果も示すが、Cas9だと示さない。NU7026は、NHEJ経路における主要な複合体であるDNA-PKを阻害し(Shrivastav et al.2008)、hiPSCにおけるPGE効率を増大させることが以前に示されている(Suzuki et al.2016)。TSAは、ATM依存性のDNA損傷シグナル伝達経路を活性化し得る(Lee 2007)。Nedd8活性化酵素(NAE)阻害剤MLN4924は、CtIPのnedd化を阻害することが示されており、これは鎖切断におけるDNA末端の削り込みの程度を増大させ、それによってHDRを促進する(Jimeno et al.2015)。DNAの削り込みによりssDNAが残り、相同性探知及び組換えを経る前にRPAにより被覆及び安定化される。NSC15520は、RPAのp53及びRAD9への結合を妨げ(Glanzer et al.2011)(Glanzer et al.2013)、ssDNAにとって利用可能なRPAの量を増大させる可能性があり、これはHDRに好都合であり得る。PGEを増大させる能力について相反する報告があるRS-1、SCR7、及びL755507は、我々のもとでは、Cas9によってもCas9D10AによってもPGEに対する明確な効果を示さなかった。
【0110】
Cas9D10Aダブルニッキング又はCpf1と共に用いた場合の、TSA及びMLN4924の、PGEに対する増強効果は、Cas9による効果が顕在化しないのとは対照的に、異なる修復メカニズムによってブラント及びスタガードDNAカット(5’オーバーハング)が修復されることを示唆する。これまでssODNによるHDRのメカニズムは明確ではないが、モデルは提案されている(Bothmer et al.2017)。Bothmer et al.は、5’オーバーハング構造は3’オーバーハングよりも高レベルのHDRをもたらし、異なるオーバーハング極性が異なる修復経路に関与することを示唆する。
【0111】
しかしながら、Cas9の編集によるMLN4924の負の効果は、用いられるより短いssODN(Cas9D10Aのより長いssODNと比較して)に起因し得る。MLN4924によって引き起こされる大幅なDNAの削り込みが起きる場合、短いドナーが用いられると、ssODNアニーリングのための相同性は残存しない(are is)。Cas9D10Aの編集においては長い5’オーバーハングが存在するため、大幅な削り込み後でも相同性のあるDNAが提供される。従って、より長いドナーの使用により、Cas9を用いる場合にも、MLN4924が正確なゲノム編集の増強において効果的になり得る。
【0112】
RAD51は、dsDNAによる古典的な相同組換えのためには明らかに重要であるが((Shrivastav et al.2008)、ssDNAのアニーリングにはRAD52が必要であるため(Grimme et al.2010)、我々は、RAD51ではなくRAD52がssODNのHDRを支援する原動力になり得るか否かを検証することを望んだ。RAD52阻害剤AICAR、RAD51阻害剤B02、及びRAD51促進剤RS-1のPGE効率に対する効果の、我々の結果は、B02によるRAD51の阻害が半減し、RAD52の阻害はPGE効率に対して効果がないことから、RAD52ではなくRAD51が、ssODNによる正確な編集に重要であることを示唆している。興味深いことに、RS-1によるRAD51の刺激には、PGEに対する有益な効果はなかった。
【0113】
PGEの効率を増大させるために、我々は誘導性のCas9D10A iPSC株を生成し、ssODNの送達を最適化した。時折、細胞の90%超でインデルが観察される(
図3A)。我々は、CRISPY小分子ミックスを用いて、hiPSCで、ほぼ50%のPGEを達成するが、これは我々の知る限りこれまでに記述されているヒト多能性幹細胞の最高のPGE効率である(
図3A)。我々は、更に、CRISPYミックスを活用してCpf1を用いることによる、効率的なPGE(20%)を初めて示す(
図5C)。CRISPYミックスは、PGE頻度を増大させるための簡単なツールを提供し、従って、多くの研究者又は医療専門家にとって、CRISPR系を用いて正確なゲノム編集を行うのに有用であり得る。
【0114】
iCRISPRを用いて効率的なDSB誘導を活用し、NHEJとHDRの切り替えとしてキナーゼデッドDNA-PKcs KRを利用することにより、非常に効率的な、ゲノムの正確な編集が可能である(
図10)。高いPGE効率は、高い、インデルに対するPGEの比と密接に関連している。我々は、いくつかの遺伝子を多重にする場合、すべての標的染色体におけるTNSの取込みは、単一の遺伝子TNS効率に基づいて偶然により予想されるよりもはるかに高いことも示す。DNA-PKcsのHDR阻害特性は、そのキナーゼ活性に絶対的に依存することが示されている(Neal et al.2011)。我々のデータと同様に、CHOV3 KR細胞におけるHDRは、野生型DNA-PKcsを発現している細胞の4~7倍超であることが示されている(Shrivastav et al.2008及び2009)。驚くべきことに、CHOV3 KR細胞におけるHDRの増大はCHOV3 DNA-Pkcsノックアウト細胞よりも高かった。これは、更に増強されたHDRにはタンパク質構造が必要であることを示唆している。ABCDE又はJKクラスターのリン酸化は、それぞれ末端処理を促進するか、NHEJを阻害することが示されている(
図9Bを参照)。DNA-PKcs欠損により、培養細胞株及びマウスにおける重要な修復キナーゼATMのレベル低下がもたらされる(10)。Shrivastav et al.はDNA-PKcs KRのATM依存性リン酸化の回復、及び恐らくATM促進性のRAD51代謝回転が、過剰組換えの表現型(Neal et al.,2016)に寄与すると主張している。触媒的に不活性であるが構造的に完全であるDNA-PKcsを用いることにより、下流のc-NHEJタンパク質のリン酸化及びリン酸化誘導性のATMキナーゼ活性の阻害が阻止されるが(Zhou et al.,2017)、ATMレベルはキナーゼ非依存的様式で維持され、従って、HDRの増強がもたらされる。c-NHEJにおけるDNA-PKcsの中心的な役割と、Shrivastav et alによる、チャイニーズハムスター卵巣細胞におけるHDR増大に関する同様の知見を踏まえ、我々は、KR変異が細胞の各種類(type)及び種類(species)で一貫した効果をもたらすと考えている。DNA-PKcs、及びK3753近傍のその配列は脊椎動物において保存されているため(
図9C)、KR変異はいくつかの動物モデルにおいて貴重な遺伝子改変ツールであり得る。DNA-PKcsオルソログは、蚊、ミツバチ、及びこの酵素の古代の祖先を示唆するアメーバ粘菌にも見出されている(Dore et al.2004,Douglas et al.2007)。
【0115】
我々は、DNA-PKcs KR hiPSCを3か月培養した後、数的又は大規模な染色体異常を何ら検出しなかった(
図13)。標的ゲノム切断以外に、活性酸素種及び複製フォークの崩壊につながる物理的ストレスのために、V(D)J組換え中と同様に、内因性DSBが定期的に発生する。DNA-PKcsのキナーゼ活性を不活性化することによりエラーを起こしやすいc-NHEJが損なわれると、細胞に、緩慢なエラープローンa-NHEJにより、姉妹染色分体を利用した、信頼度が高く強化されたHDRでDSBを修復するか、又は死ぬかが一任される。従って、推測では、ヘテロ接合性損失の代償による、HDRによる信頼度の高い修復のために、KR細胞でゲノムの安定性は、野生型と比較して一層良好な(by)可能性がある。
【0116】
我々は、R3753を変異させリジンに復帰させることによる、DNA-PKcsの効率的な逆不活性化(reverse inactivation)も示した(
図10A)。V(D)J組換えはc-NHEJに依存するため、T細胞への細胞分化の前においては、標的変異を実施した後にDNA-PKcsを再活性化することが望ましい。ニューロンのような非増殖細胞への細胞分化の前にDNA-PKcs KRの変異を復帰させることも有益であり得る。HDRは分裂細胞に限られ、従ってNHEJは有糸分裂後の細胞におけるDNA修復の中核を成す。しかし、XLFを伴う、c-NHEJ因子であるKu70/80、XRCC4、及びLIG4は、低レベルの損傷を修復するのに十分であり(Gu et al.,2000)、a-NHEJはいずれにせよDNA-PKcsに非依存的である。
【0117】
CRISPY小分子ミックスを触媒的に不活性なDNA-PKcsと共に用いると、複数の遺伝子座を一度に編集することが可能なため、この知見は、CRISPRが促進する研究及びテーラーメイドゲノムに革命を起こす可能性がある。編集の効率が非常に高い(最大82%)だけでなく、インデルの限られた割合により、高速(多重)で正確なゲノム編集がこれより可能になる(
図10及び11)。
【0118】
結論として、CRISPR技術と組合せたDNA-PKcs KRの過剰組換え効果は、正確なゲノム編集における予期せぬ効率をもたらす。これは、ヒト多能性幹細胞において、CRISPY小分子ミックスによって更に増大させ得る。これにより、ゲノム研究の様々な分野において時間と労力を大幅に削減し得る。これらには、関連する医学的に重要な特性のハイスループットゲノムワイドアソシエーションスクリーン(GWAS)検証、疾患モデル化及び薬物スクリーニング、種比較分析、エックスビボ遺伝子治療、オーダーメイド動物モデルの簡易生産、種のディエクスティンクション、そしていつかはデノボ合成された大ゲノム断片の導入の可能性のようなエキサイティングな応用が含まれる。
【0119】
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【配列表】