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特許7319272粉末化された脂肪酸グリセリドを含む組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】粉末化された脂肪酸グリセリドを含む組成物
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/16 20060101AFI20230725BHJP
   A21D 2/02 20060101ALI20230725BHJP
   A21D 10/02 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
A21D2/16
A21D2/02
A21D10/02
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020531583
(86)(22)【出願日】2018-12-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 EP2018083983
(87)【国際公開番号】W WO2019115388
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】62/597,107
(32)【優先日】2017-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397060588
【氏名又は名称】デュポン ニュートリション バイオサイエンシーズ エーピーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・トロイ・ブーテ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ピー・ネダーセン
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03743512(US,A)
【文献】特表2006-503577(JP,A)
【文献】特開昭60-102151(JP,A)
【文献】特公昭46-015651(JP,B1)
【文献】油化学,1991年,Vol.40,No.12,pp.1105-1114
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A21D
A23D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
40~60の範囲のヨウ素価の、30~100重量%のモノグリセリドを含む脂肪酸グリセリドでコーティングされたキャリア材料の粒子を含む、乾燥粉末の形態の組成物であって、前記脂肪酸グリセリドは、前記組成物の50~90重量%を構成する、パン用プレミックス用の組成物。
【請求項2】
前記脂肪酸グリセリドは、45~97重量%のモノグリセリドを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記脂肪酸グリセリドは、植物油、又は動物油若しくは脂肪、或いはこれらの混合物に由来する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記植物油は、ダイズ油、ベニバナ油、ヒマワリ油、ゴマ油、ラッカセイ油、コメヌカ油、トウモロコシ油、ババスヤシ油、キャノーラ油、菜種油、綿実油、オリーブ油、グレープカーネル油、パーム油、パームカーネル油から選択され、動物油若しくは脂肪は魚油、タロー若しくはラードから選択される、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記脂肪酸グリセリドのモノグリセリド部分の脂肪酸に含まれる飽和脂肪酸は、30%~70%のパルミチン酸を含み、及び残りの飽和脂肪酸は、ステアリン酸、ミリスチン酸、アラキジン酸及び/又はベヘン酸である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記キャリア材料は、二酸化ケイ素、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カルシウム、リン酸カルシウム、天然又は合成繊維、タンパク質、親水コロイド及びデンプン又はデンプン誘導体からなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記繊維は、オートムギ繊維、コムギ繊維、コメ繊維、サトウキビ繊維、ビート繊維、ダイズ繊維及びセルロース繊維からなる群から選択される、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記デンプンは、タピオカデンプン、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、ジャガイモデンプン、コメデンプン及びマルトデキストリンとしてのデンプン誘導体からなる群から選択される、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
前記キャリア材料は、100μm未満の平均粒径、500g/L未満のかさ密度及び75~500m2/gの範囲の比表面積を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
α-トコフェロール、三級ブチルヒドロキノン、没食子酸プロピル、ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、アスコルビン酸、クエン酸、ローズマリー抽出物及び緑茶抽出物からなる群から選択される酸化防止剤を更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
乾燥パン用プレミックスであって、
(a)前記プレミックスの0.05~99.9重量%の濃度の、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物と、
(b)アミラーゼ、キシラナーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、マルトジェニックアミラーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、マルトテトラヒドロラーゼ、トランスグルタミナーゼ及びリポキシゲナーゼ並びにこれらの混合物からなる群から選択される、粉末形態の1つ以上の酵素と、
(c)任意選択的に、1つ以上の親水コロイド、及び/又は1つ以上の生地コンディショナ、及び/又は1つ以上の抗菌剤と
を含む乾燥パン用プレミックス。
【請求項12】
前記生地コンディショナは、アスコルビン酸、L-システイン、アゾジカルボンアミド、ヨウ素酸カリウム及び臭素酸カリウムからなる群から選択される、請求項11に記載のパン用プレミックス。
【請求項13】
前記親水コロイドは、グアーガム、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、ペクチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ローカストビーンガム及びジェランガムからなる群から選択される、請求項11に記載のパン用プレミックス。
【請求項14】
前記抗菌剤は、プロピオン酸カルシウム、ソルビン酸カリウム、酢及び微生物発酵物からなる群から選択される、請求項11に記載のパン用プレミックス。
【請求項15】
穀物粉末、水、膨張剤及び請求項11~14のいずれか一項に記載のパン用プレミックスを含む生地。
【請求項16】
請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物を製造するプロセスであって、
(a)前記脂肪酸グリセリドを溶解させること;
(b)前記溶解された脂肪酸グリセリドを前記キャリア材料の前記粒子上に噴霧すること;
(c)冷却し、自由流動性粉末を得ること
を含むプロセス。
【請求項17】
程(b)前に前記脂肪酸グリセリドを噴霧冷却する工程を有することによって特徴付けられる、請求項16に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸グリセリドを含む乾燥粉末組成物、その組成物を含むパン用プレミックス、その組成物を製造する方法及びパン製品を製造するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
モノグリセリドなどの脂肪酸グリセリドは、主に、焼成品の柔らかさ及び保存期限を改善するためだけでなく、パンの身の構造の細かさ及び焼成容積を改善するために焼成品で使用される。モノグリセリドは、室温で柔らかいペースト状のものから、70℃以上の融点で固体状のものまでの範囲の製品をもたらす多様な油、脂肪又は脂肪酸から製造される。商業用モノグリセリドは、通常、各種の割合のモノステアリン酸グリセロール、モノパルミチン酸グリセロール、モノオレイン酸グリセロール、モノリノール酸グリセロール及びモノリノレン酸グリセロールを含有する混合物である。モノエライジン酸グリセロールは、モノオレイン酸グリセロールのトランスバージョンであり、トランス脂肪が禁止されるまでパン用モノグリセリド中で一般に見られた。
【0003】
モノグリセリドは、製品製造に使用される脂肪酸の飽和度の尺度であるそれらのヨウ素価に基づいて分類されることが多い。ヨウ素価は、不飽和脂肪酸中に見られる二重結合によるヨウ素の吸収に基づく。したがって、0~3のヨウ素価は、モノステアリン酸グリセロールなどの高い割合の完全飽和モノグリセリドを指す。これらの製品は、室温で非常に硬い固体である。およそ80以上のヨウ素価を有するモノグリセリドは、高い割合のモノオレイン酸グリセロール、モノリノール酸グリセロール又はモノリノレン酸グリセロールを有する。商業用モノグリセリドは、ヨウ素価最大約110を有し、このヨウ素価範囲の製品は、室温で柔らかいペースト状である。トランス脂肪酸を含有せず、ヨウ素価およそ20~60を有するモノグリセリドは、噴霧冷却して粉末にすることができないため、典型的には、はかりで計って使用することが非常に難しい固体の塊として販売される。
【0004】
モノグリセリドは、パン製品において2つの主要な作用方式を有する。第1の機能は、生地混合中にデンプン顆粒の表面をコーティングすることである。モノグリセリドは、表面活性物質であり、デンプン顆粒を含む任意の利用可能な表面又は界面に移動する傾向がある。モノグリセリドは、分子の脂肪部分を水から遠ざけ、分子のグリセロール部分を水又は他の極性物質に向ける。デンプン顆粒のコーティングは、焼成プロセス中にデンプンが加熱される場合、水がデンプン顆粒に入り込む能力を低下させ、加熱中にデンプン顆粒から浸出するアミロースの量を減少させる。アミロースは、焼成後の最初の数日間で再結晶化し、焼成品の固化をもたらすため、これは、重要である。これは、一般に老化と呼ばれるものの第1段階である。デンプン顆粒間の間隙中のアミロースは、デンプン顆粒間の接着剤として機能するため、非常に重要である。これにより、焼成品全体にわたって網状組織が発生し、食感品質に悪影響を及ぼす。したがって、デンプン顆粒から放出されるアミロースの量を最小化することは、非常に役立つ。
【0005】
モノグリセリドの第二の機能は、間隙中に放出される任意のアミロース用デンプン錯化剤として機能することである。モノグリセリドの脂肪酸部分は、非極性又は油溶性であり、非極性環境下にあることを好む。アミロースは、極性であるグルコースの鎖で構成されているが、それ自体をねじって、グルコースのヒドロキシル基を生地の水相に向ける一方、グルコースの炭素及び水素部分を脂肪酸に向けるらせん構造にすることができる。このらせん構造の内側は、非極性であり、したがってモノグリセリドの脂肪部分を受け入れることができる。これは、水に不溶であるモノグリセリドの周りを囲むアミロースの錯体をもたらす。錯体は、他のアミロース分子と共結晶化せず、接着剤の網状組織を破壊する。最終的な効果は、焼成品が、焼いた直後により柔らかく、この柔らかさの改善が製品の保存期限中に残存することである。しかしながら、全てのモノグリセリドがアミロース錯体化で等しく効果的であるとは限らない。アミロースらせん構造の内部形状は、線状であり、したがって、直鎖脂肪酸を有するモノグリセリド、例えばモノステアリン酸グリセロール及びモノパルミチン酸グリセロールなどは、一般的に最高のデンプン錯体と考えられている。モノオレイン酸グリセロールなどの不飽和モノグリセリドは、二重結合の存在により角度が付けられているため、非常に貧弱なデンプン錯化剤である。
【0006】
飽和モノグリセリドは、デンプン錯体化で最も効果的であるが、これらは、その高融点及び非常に硬い性質のために、生地中に分散させることが非常に困難である。したがって、飽和モノグリセリドを迅速且つ容易にパン生地中に分散させる方法を開発することに多くの努力が費やされてきた。高融点モノグリセリドを分散させる1つの方法は、それらをパン用ショートニング中に分散させることである。およそ2~8%のモノグリセリドを溶解油混合物に添加し、次いでこれを、パン生地中に容易に分散されるショートニングに加工する。これらの条件下では、モノグリセリドは、完全に分散し、乳化剤及びデンプン錯化剤として非常に効果的である。しかしながら、現在のパン屋は、ショートニングの代わりに液体油を使用する。したがって、このアプローチは、多くの酵母発酵パン用用途で機能しない。
【0007】
モノグリセリドの別の分散方法は、まず、高融点モノグリセリドを水中に分散させ、水和モノグリセリド又は水和物と呼ばれるものを形成する。水和物はいくつかの方法で生成されるが、モノグリセリドを溶解することと、高剪断下で加熱水と合わせることとを含む。次いで、生成物を均質化し、冷却して、柔らかいペースト状の稠度を有する製品を得る。水和物は、モノグリセリドの最も機能的な形態と見なされることがあるが、いくつかの欠点を有する。水和物は、はかりで計ることが難しく、多くの場合、滑りやすい床を含む非常に厄介な作業条件になる。また、水和物は、およそ50~75%の水を含有しているため、物流的に効率的ではない。また、水和物は、カビの増殖に感染しやすく、ラベリングを必要とする酸及び抗菌剤を含有しなくてはならない。最後に、水和物は、これらの製品の粉末品質を損なうため、水和物を乾燥パン用ミックスに添加することができない。
【0008】
モノグリセリドの別の形態は、粉末化された「分散性」モノグリセリドである。これらの製品は、純粋なモノグリセリドであり、生地中でゆっくりと水和してより良い分散を与えるモノグリセリドをもたらす、飽和、不飽和及びトランス脂肪酸の組み合わせに基づく。これらの製品のほとんどは、中間融点を有して良好なデンプン錯化剤でもあるエライジン酸などのトランス脂肪酸に大きく依存する。モノエライジン酸グリセロールは、これらの製品の40%を占める。トランス脂肪は、依然としてモノグリセリドで許可されているが、ほとんどの商業用パン屋は、これらの製品を使用することを望まない。より新しいトランスフリーの粉末化されたモノグリセリドは、トランス脂肪酸含有量が高くなければ、有効ではない。分散性モノグリセリドの全ては、主に、夏季の数カ月中、その不飽和脂肪酸の含有量により、取り扱いに困難が存在する。
【0009】
モノグリセリドの更なる別の形態は、噴霧乾燥型である。これらの製品は、モノグリセリド、固形コーンシロップ、乳固形分及び他の成分を含有する乳化剤を形成し、微細粉末まで噴霧乾燥することによって製造される。これらの製品は、非常に分散性であり、機能的である。
【0010】
粉末化されたモノグリセリドを製造する方法は、先行技術文献である特許文献1に開示されている。この特許の教示によると、押出成形プロセスを使用して、デンプン、繊維又は粉末キャリア上に乳化剤をコーティングする。最大60%の最大乳化剤充填量を主張しているが、わずか40%の乳化剤の粉末品質は、油っぽいと記載され、品質が悪いことを示す。
【0011】
特許文献2では、モノグリセリドを、高衝撃ミルを使用してコムギデンプン上にコーティングする、粉末化されたモノグリセリドを製造するプロセスが開示されている。上記特許は、最大50%の完全飽和モノグリセリドがコムギデンプン上にコーティングされ得ることを教示している。
【0012】
特許文献3では、コメ粉末を用いた押し出しを含む、粉末化された乳化剤を製造するプロセスが開示されている。プロセスは、塩の添加を必要とし、例示されている乳化剤の最大充填容量は、35%である。
【0013】
乳化剤の不飽和度及び最大充填容量を主張する先行技術文献はない。本出願は、わずか10%のキャリアの充填により、最大90%のより多くの不飽和モノグリセリドの使用を可能にする、粉末化されたモノグリセリドを製造する改善された方法を提供する。これにより、依然として高い粉末品質及び流動性が提供しながら、先行技術と比較してはるかに経済的なプロセスがもたらされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】米国特許第4,748,027号明細書
【文献】米国特許第3,743,512号明細書
【文献】国際公開第2007/042045A2号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、粉末を含む焼成品のパンの身の柔らかさを改善し、且つ保存期限を延長するために、パン生地に使用するのに便利であり、分散性が高い自由流動性粉末として脂肪酸グリセリドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、一態様では、本発明は、30~100重量%のモノグリセリドを含む脂肪酸グリセリドでコーティングされたキャリア材料の粒子を含む、乾燥粉末の形態の組成物であって、脂肪酸グリセリドは、組成物の30~90重量%を構成する、組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】TAXT2テクスチャアナライザを使用したテクスチャ解析の結果を示すグラフである。y軸は、対照と比較して以下の実施例3の組成物の異なる量を使用して作られたパンにおける、異なる時点でのパンの身を圧縮するのに必要な力の量(x軸上に示される)を表す。
図2】TAXT2テクスチャアナライザを使用したテクスチャ解析の結果を示すグラフである。y軸は、対照としての標準的な商業用モノグリセリドの異なる量と比較して以下の実施例3の組成物の異なる量を使用して作られたパンにおける、2つの異なる時点でのパンの身を圧縮するのに必要な力の量(x軸上に示される)を表す。
図3】TAXT2テクスチャアナライザを使用したテクスチャ解析の結果を示すグラフである。y軸は、対照としての2つの異なる商業用モノグリセリド(トランス脂肪酸有り及びトランス脂肪酸無し)と比較して以下の実施例3の組成物の異なる量を使用して作られたパンにおける、2つの異なる時点でのパンの身を圧縮するのに必要な力の量を表す(x軸上に示される)。
図4】TAXT2テクスチャアナライザを使用したテクスチャ解析の結果を示すグラフである。y軸は、対照としてのDimodan HS150及び水和モノグリセリドと比較して以下の実施例7の組成物の異なる量を使用して作られたパンにおける、2つの異なる時点でのパンの身を圧縮するのに必要な力の量(x軸上に示される)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
一実施形態では、脂肪酸グリセリドは、45~97重量%のモノグリセリドを含み、現時点の好ましい実施形態では、脂肪酸グリセリドは、93~97重量%のモノグリセリドを含む。
【0019】
本組成物に含まれるモノグリセリドは、30~120の範囲のヨウ素価を有し得る。ヨウ素価は、モノグリセリド内の脂肪酸の飽和度の尺度であることにより、ヨウ素価0~3の場合、モノグリセリドが完全飽和脂肪酸を多く含むことを示す。ヨウ素価は、モノグリセリドを塩化ヨウ素と反応させ、チオリン酸ナトリウムで逆滴定することを含む方法によって決定され得る。現時点の好ましい実施形態では、モノグリセリドのヨウ素価は、40~60の範囲(いわゆる中間ヨウ素価)である。中間ヨウ素価範囲のモノグリセリドは、室温で柔らかいペースト状であり、噴霧冷却して粉末にすることができないため、パン屋においてはかりで計って使用することが難しい。しかしながら、この問題は、溶解した脂肪酸グリセリドでキャリア粒子をコーティングすることにより、容易に計量可能であり、生地中で他の乾燥成分と混合できる乾燥粉末がもたらされる本発明によって克服された。「コーティング」という用語は、脂肪酸グリセリドがキャリア粒子に吸収されるか若しくは部分的に吸収されるか、又はキャリア粒子に吸着されて、キャリア粒子の外表面上に脂肪酸グリセリドの層を形成することを意味することが意図される点に留意すべきである。
【0020】
脂肪酸グリセリドは、典型的には、植物油、例えばダイズ油、ベニバナ油、ヒマワリ油、ゴマ油、ラッカセイ油、コメヌカ油、トウモロコシ油、ババスヤシ油、キャノーラ油、菜種油、綿実油、オリーブ油、グレープカーネル油、パーム油、パームカーネル油又は動物油若しくは脂肪、例えば魚油、タロー若しくはラード或いはこれらの混合物に由来する。
【0021】
現時点での好ましい実施形態では、脂肪酸グリセリドのモノグリセリド部分は、35~55重量%の飽和脂肪酸、30~50重量%のモノ不飽和脂肪酸及び0~20重量%のポリ不飽和脂肪酸を含む。飽和脂肪酸は、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、アラキジン酸又はベヘン酸から選択され得る。モノ不飽和酸は、例えば、オレイン酸であり得る。ポリ不飽和酸は、例えば、リノール酸又はリノレン酸であり得る。
【0022】
特に好ましい実施形態では、本組成物は、トランス脂肪酸、例えばモノエライジン酸グリセロールを実質的に含まない。トランス脂肪酸は、良好なデンプン錯化剤であり、したがってパン製品のパンの身の軟化に寄与する一方、トランス脂肪酸は、健康上の理由で食品に望ましくないと考えられている。しかしながら、トランス脂肪酸を含まない商業用の粉末化されたモノグリセリドは、効果が弱い。対照的に、本組成物は、トランスフリーの粉末化されたモノグリセリドと比較して、パンの身の柔らかさの改善及び保存期限の延長を提供することが見出された。
【0023】
粒子状キャリアは、適切には、二酸化ケイ素、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カルシウム、リン酸カルシウム、天然又は合成繊維、タンパク質、親水コロイド及びデンプン又はデンプン誘導体からなる群から選択される材料から調製され得る。繊維は、適切には、オートムギ繊維、コムギ繊維、コメ繊維、サトウキビ繊維、ビート繊維、ダイズ繊維及びセルロース繊維、例えばαセルロースからなる群から選択され得る。デンプンは、適切には、タピオカデンプン、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、ジャガイモデンプン及びコメデンプンからなる群から選択され得る。デンプン誘導体は、適切には、マルトデキストリンであり得る。
【0024】
本目的に最も効果的なキャリアは、非常に大きい比表面積を有し、また指定された範囲内でかさ密度がより高く、粒径がわずかに大きいため、塵埃が軽減される。これにより、製造及び取り扱いを容易にすることができる。したがって、最終組成物は、過度の塵埃がない良好な自由流特性及びケーキング又は他の粉末品質の問題に対する優れた耐性を有すべきである。好ましいキャリア材料は、500g/L未満のかさ密度及び75~500m/gの範囲の比表面積を有する。平均粒径は、表面積を改善するために実質的に100μm未満であるべきであり、最終焼成製品においてザラザラした質感をもたらすほど大きくすべきでない。キャリア材料の好適な平均粒径は、75μm未満である。
【0025】
本発明の組成物は、存在する不飽和モノグリセリドの酸化を低減させるために酸化防止剤などの他の微量成分を含有し得る。酸化防止剤は、適切には、α-トコフェロール、三級ブチルヒドロキノン、没食子酸プロピル、ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、アスコルビン酸、クエン酸、ローズマリー抽出物及び緑茶抽出物からなる群から選択され得る。
【0026】
本組成物は、
(a)脂肪酸グリセリドを溶解させること;
(b)溶解された脂肪酸グリセリドをキャリア材料の粒子上に噴霧すること;
(c)冷却し、自由流動性粉末を得ること
を含むプロセスによって調製され得る。
【0027】
本発明の別の実施形態では、プロセスは、任意選択的に、工程(b)前に脂肪酸グリセリドを噴霧冷却する工程を含む。
【0028】
別の態様では、本発明は、乾燥パン用プレミックスであって、
(a)脂肪酸グリセリドでコーティングされたキャリアの粒子を含む、本明細書に記載の組成物と、
(b)粉末形態の1つ以上の酵素と、
(c)任意選択的に、1つ以上の親水コロイド、及び/又は1つ以上の生地コンディショナ、及び/又は1つ以上の抗菌剤と
を含む乾燥パン用プレミックスに関する。
【0029】
一実施形態では、生地コンディショナは、アスコルビン酸、L-システイン、アゾジカルボンアミド、ヨウ素酸カリウム及び臭素酸カリウムからなる群から選択され得る。
【0030】
酵素は、生地から作られるパン又は他の焼成品の特性を改善するために生地に頻繁に添加される。酵素は、適切には、アミラーゼ、キシラナーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、マルトジェニックアミラーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、マルトテトラヒドロラーゼ、トランスグルタミナーゼ及びリポキシゲナーゼ並びにこれらの混合物からなる群から選択され得る。具体的な実施形態では、リパーゼ、α-アミラーゼ、キシラナーゼ及びヘキソースオキシダーゼの混合物がプレミックスに添加され得る。このような酵素混合物は、DuPont Daniscoから商標名POWERBake 2550にて入手可能である。
【0031】
親水コロイドは、グルテンと相互作用することにより、生地から作られる焼成品の特性を改善するために生地に頻繁に添加され、より強力なタンパク質網状組織をもたらす。加えて、親水コロイドは、焼成品中の水分を保持するのに役立ち、その結果、湿り気を増加させ、保存期限を延長する。親水コロイドは、適切には、グアーガム、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、ペクチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ローカストビーンガム及びジェランガムからなる群から選択され得る。
【0032】
一実施形態では、抗菌剤は、プロピオン酸カルシウム、ソルビン酸カリウム、酢及び微生物発酵物からなる群から選択され得る。
【0033】
組成物(a)の濃度は、プレミックスの0.05~99.9重量%である。
【0034】
なお更なる態様では、本発明は、穀物粉末、膨張剤、上記パン用プレミックス及び水を含む生地に関する。生地は、塩、香味剤、酸性化剤、ショートニング、全粒穀物、種子、穀粒、ドライフルーツ、親水コロイド、脂肪、砂糖、老化防止剤、柔軟化剤及び酸化防止剤から選択される1つ以上の成分を更に含み得る。
【0035】
プレミックス中の穀物粉末は、コムギ、トウモロコシ(maize)(トウモロコシ(corn))、ライ麦、コメ、オートムギ、大麦若しくはサトウモロコシ粉末又はこれらの混合物から好都合に選択され得る。
【0036】
膨張剤は、化学膨張剤、例えば重炭酸ナトリウム又は酵母培養物、例えばサッカロマイセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)の培養物(パン用酵母)であり得る。
【0037】
なお更なる態様では、本発明は、パン製品を製造するプロセスであって、
a.穀物粉末、膨張剤、脂肪酸グリセリドでコーティングされたキャリアの粒子を含む、本明細書に記載の組成物、水並びに任意選択的に塩、香味剤、酸性化剤、ショートニング、全粒穀物、種子、穀粒、ドライフルーツ、親水コロイド、脂肪、砂糖、老化防止剤、柔軟化剤及び酸化防止剤から選択される1つ以上の成分から生地を混合する工程と、
b.生地を焼成する工程と
を含むプロセスに関する。
【0038】
代替的な実施形態では、本発明は、パン製品を製造するプロセスであって、
c.穀物粉末、膨張剤、本明細書に記載の焼成用プレミックス、水並びに任意選択的に塩、香味剤、酸性化剤、ショートニング、全粒穀物、穀粒、ドライフルーツ、親水コロイド、脂肪、砂糖、老化防止剤、柔軟化剤及び酸化防止剤から選択される1つ以上の成分から生地を混合する工程と、
d.生地を焼成する工程と
を含むプロセスに関する。
【0039】
なお更なる態様では、本発明は、上記のいずれかのプロセスによって調製される生地を焼成することによって製造されるパン製品に関する。パン製品は、ローフ、ロール、丸パン若しくはフラットブレッドなどのパン又はピザベース、ペーストリー、トルティーヤ、ケーキ、クッキー、ビスケット、クラッカーなどから選択され得る。本組成物をパスタなどの非焼成生地製品並びにアイスクリーム及び他の乳製品、ペットフード並びにデザート及び菓子に使用することも考えられる。
【0040】
本発明を以下の実施例で更に記載する。
【実施例
【0041】
実施例1
モノグリセリドでコーティングされたキャリアとしてオートムギ繊維を含む組成物
【0042】
【表1】
【0043】
プロセス:
1.高剪断ミキサー、例えば内部チョッパーブレード又はハンマーミルを備えたリボンブレンダーにオートムギ繊維を添加する。他の好適な高剪断装置、例えばHICIPユニット又は押出成形機などが使用され得る。
2.融点を5~10℃上回る温度まで蒸留モノグリセリドを溶解させる。
3.Guardian Toco 70をモノグリセリドに添加し、完全に混合する。
4.オートムギ繊維の撹拌を始める。
5.均質になるまで混合しながら、モノグリセリド-トコフェロール混合物をオートムギ繊維上に噴霧する。
6.混合物を冷却して包装する。
【0044】
得られた製品は、固まりにくく、塵埃がなく、計量が容易な薄い茶色の自由流動性の粉末である。
【0045】
実施例2
モノグリセリドでコーティングされたキャリアとしてマルトデキストリンを含む組成物
【0046】
【表2】
【0047】
実施例1と同じプロセスを使用して、組成物を調製した。得られた製品は、色が非常に薄く、良好な密度を有し、非常に自由流動性な品質を有する。材料は、塵埃が極めて少なく取り扱いが簡単である。
【0048】
実施例3
モノグリセリドでコーティングされたキャリアとして二酸化ケイ素を含む組成物
【0049】
【表3】
【0050】
実施例1と同じプロセスを使用して、組成物を調製した。得られた製品は、色が白く、良好な密度及び非常に良好な流動特性を有する。また、保存時及び取り扱い時のブリッジング又は凝集に対して非常に耐性があり、優れたパンの身の軟化特性を有する。
【0051】
実施例4
上記材料を含む焼成試作を行った。試験されたパン用配合は、以下のとおりであった。
【0052】
角食パン配合物
【0053】
【表4】
【0054】
プロセス:
1.全ての成分を生地ミキサーに添加し、低速で2分及び中速で13分混合し、生地形成を完成させる。
2.80Fの生地温度。
3.生地を25.5オンスの小片に分けて丸める。
4.生地をシート状にして成形し、円筒物に入れて、平なべに入れる。
5.105F及び75%湿度で1時間、生地を試し焼きする。
6.200Fの内部温度まで400Fで23分間焼成する。
7.袋に入れる前に1時間冷ます。
【0055】
TAXT2テクスチャアナライザを使用してテクスチャ解析を行う前に、焼成したパンを室温において2、6、8及び10日といった様々な時間で保存した。2つのローフの8つの中央のスライスを、中央のスライスが上を向くように2つセットして試験した。試験は、35mmの金属プローブを使用して行った。
【0056】
結果を図1に示す。y軸は、TAXT2 ロボットアームを使用したパンの身を圧縮するのに必要な力の量(グラム)を表す。実施例3の製品は、柔らかさ及び弾力性の両方において全ての試験レベルで対照をしのいだ。8日目までに、3オンス及び8オンスのレベルは、対照よりも約100ポイント柔らかくなった。6オンスのレベルは、10日で約150ポイント柔らかくなった。実施例3の組成物はまた、3オンスのレベルで対照よりも著しく高い弾力性をもたらした。
【0057】
実施例5
実施例3の製品を、焼成品の軟化に使用される標準的な商業用モノグリセリドと比較する別の焼成試作を行った。Dimodan HS 150は、完全水素添加ダイズ油から製造される蒸留モノグリセリドである。図2からわかるように、実施例3の製品は、等量で使用した場合、力の差がほぼ100グラムで1日目及び3日目にはるかに柔らかいパンを製造した。
【0058】
実施例6
第3のパン試作では、第1の試作において使用されたものと同一の配合及びプロセスを使用した。トランス脂肪酸を含有する粉末化された分散性モノグリセリドであるDimodan PH 300と同時に、Dimodan HS 150を再び試験した。この試作では、Dimodan HS 150及びDimodan PH 300の両方は、モノグリセリドを含有しない対照と比較して同様であるか又は更に硬かった。図3からわかるように、実施例3の製品は、1日目で150グラムもより柔らかい力であり、3日目で両方の市販のモノグリセリドよりも200グラムも柔らかい力であった。他の全てのパンの属性は、同様であった。
【0059】
実施例7
予備結晶化モノグリセリドとブレンドした二酸化ケイ素を含む組成物
【0060】
【表5】
【0061】
この実施例では、製造に若干異なるプロセスが使用される。この場合、モノグリセリドは、当業者に周知の方法で噴霧冷却される。プロセスは、従来の噴霧冷却塔内の回転ディスクアトマイザーにより溶解モノグリセリドを粉砕することを含む。モノグリセリドが塔に噴霧されると、二酸化ケイ素は、凝集ユニット又は他の正確な計量装置により同時に塔に計量される。結晶性モノグリセリド及び二酸化ケイ素は、塔内の気流を介して混合され、塔の基部で収集される。次いで、製品は、標準的な包装装置により包装される。このプロセスにより製造される材料は、ケーキング又はブリッジングに耐性が高く、流動化剤として二酸化ケイ素をほとんど必要としない非常に自由な流動粉末である。
【0062】
実施例7で製造された材料は、高機能焼成成分である。以下の配合に従う実施例7を使用して、焼成試作を行った。
【0063】
【表6】
【0064】
焼成試作の結果を図4に示す。粉末化されたDimodan HS 150は、水和モノグリセリドよりも硬いパンを生成した。0.2%及び0.25%の実施例7の製品は、水和モノグリセリドと比較して、1日目にわずかに柔らかいパン、4日目にはるかに柔らかいパンを製造した。この程度の違いは、感覚器官的に容易にわかる。
図1
図2
図3
図4