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特許73192763次元プリントの方法、および結果として得られる多孔質構造の物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】3次元プリントの方法、および結果として得られる多孔質構造の物品
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/314 20170101AFI20230725BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20230725BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20230725BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230725BHJP
   B29C 64/165 20170101ALI20230725BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20230725BHJP
【FI】
B29C64/314
B33Y80/00
B33Y70/00
B33Y10/00
B29C64/165
B29C64/153
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2020534848
(86)(22)【出願日】2018-12-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 US2018066990
(87)【国際公開番号】W WO2019126602
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-08
(31)【優先権主張番号】62/609,797
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513156456
【氏名又は名称】ブラスケム アメリカ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BRASKEM AMERICA,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105360
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 光治
(74)【代理人】
【識別番号】100145023
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 学
(72)【発明者】
【氏名】ベルナルディ,アレッサンドロ
(72)【発明者】
【氏名】ディアス,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】マノ,バーバラ,イリア
(72)【発明者】
【氏名】ソアレス,ジュリアナ,ブレダ
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-527260(JP,A)
【文献】特表2018-529008(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0068245(US,A1)
【文献】国際公開第2017/211522(WO,A1)
【文献】特開2009-040870(JP,A)
【文献】国際公開第2017/063351(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107304251(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物であって、
前記組成物の総重量を基準として50重量%乃至99.9重量%のベース・ポリマーであって、ポリオレフィンを含み5μ乃600μの範囲の粒径を有するベース・ポリマーと、
前記組成物の総重量を基準として0.1重量%乃至50重量%接着剤ポリマーであって1μ乃250μの範囲の粒径を有し前記ベース・ポリマーの平均粒径より小さい平均粒径を有する接着剤ポリマーと、
を含み、
前記ベース・ポリマーは300μ以下の平均粒径を有するものであり、前記接着剤ポリマーは250μ以下の平均粒径を有し得るものである、
組成物。
【請求項2】
前記ベース・ポリマーが超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記接着剤ポリマーが高密度ポリエチレン(HDPE)またはポリプロピレン(PP)を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ベース・ポリマーおよび前記接着剤ポリマーは、球形またはジャガイモ状の形状を有するものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
さらに、前記組成物の総重量を基準として2重量%以下の添加剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記添加剤が、熱または赤外線(IR)を吸収することができる1種以上の添加剤を含む、請求項に記載の組成物。
【請求項7】
多孔質構造を有する物品であって、
前記物品の総重量を基準として50重量%乃至99.9重量%のベース・ポリマーあって、ポリオレフィンを含み5μ乃至600μの範囲の粒径を有するベース・ポリマーと、
前記物品の総重量を基準として0.1重量%乃至50重量%接着剤ポリマーであって、1μ乃至250μの範囲の粒径を有し前記ベース・ポリマーの平均粒径より小さい平均粒径を有する接着剤ポリマーと、
を含
前記物品は5体積%乃至60体積%の範囲の孔隙率を有し、前記物品は0.1μ乃70μの範囲の平均孔径を有する細孔を有するものである、
物品。
【請求項8】
前記ベース・ポリマーが超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)を含む、請求項に記載の物品。
【請求項9】
前記接着剤ポリマーが高密度ポリエチレン(HDPE)またはポリプロピレン(PP)を含む、請求項に記載の物品。
【請求項10】
さらに、前記物品の総重量を基準として2重量%以下の添加剤を含む、請求項に記載の物品。
【請求項11】
請求項1に記載の組成物を1つの層の形態で付着させることを含む3次元(3D)プリントの方法であって、
前記ベース・ポリマーおよび前記接着剤ポリマーは、それぞれ所定のサイズまたはサイズ分布を有するものであり、
さらに、前記層の選択された領域において前記組成物を焼結して、一体型物品の層を形成することを含み、
前記一体型物品の層は所定の細孔径または細孔径分布を有するものである、
方法。
【請求項12】
さらに、前記一体型物品の層における前記所定の細孔径または細孔径分布に基づくコンピュータ・シミュレーションにより前記ベース・ポリマーと前記接着剤ポリマーの各々に関する前記所定のサイズまたはサイズ分布を決定することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記層の前記選択された領域における前記組成物の前記焼結が、選択的レーザ焼結(SLS)または高速焼結(HSS)によって行われるものである、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記ベース・ポリマーは超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)を含み、前記接着剤ポリマーは高密度ポリエチレン(HDPE)またはポリプロピレン(PP)を含むものである、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記ベース・ポリマーおよび前記接着剤ポリマーが、球形またはジャガイモ状の形状を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物は、さらに、熱または赤外線(IR)を吸収することができる1種以上の添加剤を含むものである、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
積層造形により多孔質物品を製造する方法であって、
前記多孔質物品の総重量を基準として50重量%乃至99.9重量%ベース・ポリマーであって、ポリオレフィンを含み5μ乃至600μの範囲の粒径を有するベース・ポリマーと、
前記多孔質物品の総重量を基準として0.1重量%乃至50重量%の接着剤ポリマーであって、1μ乃至250μの範囲の粒径を有し前記ベース・ポリマーの平均粒径より小さい平均粒径を有す接着剤ポリマーと
を選択することを含む、方法。
【請求項18】
前記ベース・ポリマーが0.80g/cm未満の嵩密度を有する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
さらに、前記ベース・ポリマーおよび前記接着剤ポリマーを1つの層の形態で付着させ、
前記ベース・ポリマーおよび前記接着剤ポリマーを前記層の選択された領域において選択的に焼結して、一体型物品の層を形成すること
を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
積層造形を用いて作製された多孔質物品であって、
前記多孔質物品の総重量を基準として50重量%乃至99.9重量%のベース・ポリマーであって、ポリオレフィンを含み5μ乃至600μの範囲の粒径を有するベース・ポリマーと、
前記多孔質物品の総重量を基準として0.1重量%乃至50重量%の接着剤ポリマーであって、1μ乃至250μの範囲の粒径を有し前記ベース・ポリマーの平均粒径より小さい平均粒径を有す接着剤ポリマーと
を含み、
60体積%未満の孔隙率および70μ未満の平均細孔径を有する多孔質物品。
【請求項21】
前記ベース・ポリマーが超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)であり、前記接着剤ポリマーが高密度ポリエチレン(HDPE)である、請求項20に記載の多孔質物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般的にポリマーおよび処理もしくは加工に関する。特に、開示内容は、3次元プリント(3D printing)によりポリオレフィン・ベース(ポリオレフィン系)の物品を製造または製作する方法、およびその結果得られる多孔質構造の物品に関する。
【0002】
優先権の主張および相互参照
本願は、2017年12月22日に出願された米国仮出願第62/609797号の利益(優先権)を主張する。この仮出願全体をここに参照により組み込む。
【背景技術】
【0003】
3次元プリント技術は、一体型部品(solid parts:固体部品)の製造または作製において使用され、様々なプロセス(処理、加工)を含んでいる。例えば、3次元プリントは、インクジェット・タイプのプリント・ヘッドを使用して、液体またはコロイド状のバインダ材料を複数層の粉末状の造形材料へと送達または供給すること、を含み得る。そのプリント技術は、典型的にはローラを使用して一層の粉末状の造形材料を表面に付着させまたは塗布することを含んでいる。造形材料がその表面に付着または塗布された後、プリント・ヘッドは、液体状のバインダをその層の材料の所定の複数の領域に送達または供給する。そのバインダはその材料に浸透しその粉末と反応して、例えば粉末中の接着剤を活性化することによって、その各プリント領域においてその層を固化させる。また、そのバインダは、各下層中にも浸透し、層間結合を生じさせる。最初の断面部分が形成された後、前の各工程が繰り返されて、最終的な物体(オブジェクト)(最終製品)が形成されるまで、連続する複数の断面部分が構築または建造される。この3次元プリント技術は、一般的に、極性ポリマーに使用され、ポリオレフィンには使用されない。
【0004】
選択的レーザ焼結(SLS)は、粉末材料を焼結するための動力源としてレーザを使用する積層造形(AM)技術であり、3次元モデルで定義された空間内の複数の点にレーザの照準を自動的に合わせて、その材料を結合または接着させて1つのソリッド(固体)構造を形成する。
【0005】
高速焼結(HSS)は、別の積層造形技術であり、そこで、粉末床(powder bed:粉末層)の表面に粉末の微細な層が堆積(被着)され、次いで、インクジェット・プリントヘッドが熱または赤外線(IR)吸収流体(またはインク)をその粉末表面上に直接的に選択的にプリント(印刷)する。その表面全体が赤外線(IR)エネルギで加熱または照射されて、プリント領域のみが溶融/焼結し、非プリント領域が粉末のまま残留する。このプロセスは、製品が完成するまで各層毎に繰り返され、次いで未焼結の粉末が除去されて、最終部品が現れる。床寸法(ベッド・サイズ)および部品形状に応じて、このプロセスは、一般的な3次元プリント技術よりも最大で100倍速く、1日に最大で100000個の部品までを製造できる潜在的能力がある。製造が速く、工作機械据付け手段または工具手段(tooling means)が不要なため、より複雑な部品を必要に応じて、以前よりも大量に低コストで構築し再設計することができる。
【0006】
多孔質プラスチック・フィルタは、例えば液体または気体のような流体に含まれる微粒子を濾過によって分離するのに使用される。例えば、そのような微粒子は空気中のダストまたは塵であってもよい。多孔質基材(基板)の表面は、ポリマーで形成されていてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許出願公開第2015/146278号
【文献】欧州特許出願公開第2369401号
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
本開示によって、多孔質構造を有する物品を作製または製造する方法、およびその結果得られる物品が実現される。その方法は、3次元プリントの工程を含み得る。例えば、その方法は、選択的レーザ焼結(SLS)、高速焼結(HSS)、またはその任意の組合せを含んでいる。出発物質(材料、原料)およびその物品は、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、任意の他の適切なポリオレフィン、またはその組合せを含んでいる。その物品は、細孔が均一な孔径(大きさ、サイズ)および分布を有する多孔質構造を有する。その物品はフィルタとして使用することができる。
【0009】
幾つかの実施形態において、出発物質は、例えば超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)のようなベース・ポリマー(基材ポリマー、基本高分子)と、例えば高密度ポリエチレン(HDPE)または任意の他の適切なポリオレフィンのような接着剤ポリマー(glue polymer)とを含んでいる。
【0010】
例えばUHMWPEのようなベース・ポリマーは、様々な等級(グレード)の様々なサイズまたは粒径を有し得る。各等級(グレード)は、様々な層の各々に適用され得る。例えば、UHMWPEは、幾つかの実施形態において、5μ乃至600μの範囲の(例えば、40~100μ、50~100μ、60~100μ、10~500μ、100~500μまたは任意の範囲の組合せ)の粒径(粒度)を有し得る。幾つかの実施形態において、UHMWPEは、300μ以下の平均粒径を有する。
【0011】
ベース・ポリマーは、例えば、球形、近似的にまたはほぼ球形、またはジャガイモ状の形状のような、適切な粒子形状を有し得る。幾つかの実施形態において、ベース・ポリマーは回転楕円体(スフェロイド)の形状を有する。ベース・ポリマーは、適切な表面積を有し得る。ベース・ポリマー含有量は、出発物質中のポリマーの総重量(または諸成分の総重量)を基準にして、重量で、50重量%乃至100重量%(例えば、60~100重量%、70~100重量%、80~100重量%、85~100重量%、95~100重量%、98~100重量%、90~98重量%)の範囲にある。
【0012】
例えばUHMWPEのようなベース・ポリマーは、様々な等級(グレード)の様々な分子量を有し得る。各等級(グレード)は、様々な層の各々に適用され得る。例えば、UHMWPEは、幾つかの実施形態において、1×10乃至1.6×10g/モル(例えば、1~16×10g/モル、1~12×10g/モル、1~8×10g/モル、1~3×10g/モル、または任意の範囲の組合せ)の範囲の分子量を有し得る。
【0013】
例えばHDPEのような接着剤ポリマーは、任意の適切な粒径(粒度)および表面積(表面領域)を有し得る。その粒径(粒度)は、ベース・ポリマーの粒径に基づいて調整することができる。例えば、HDPEまたは他のポリオレフィンは、幾つかの実施形態において、1μ乃至250μ(例えば、10~50、10~40、10~30、5~60、10~100、10~250μ、または任意の他の範囲の組合せ)の範囲の粒径を有し得る。幾つかの実施形態において、接着剤ポリマーは250μ以下の平均粒径を有し得る。接着剤ポリマーは、例えば、球形、近似的にまたはほぼ球形またはジャガイモ状の形状のような、適切な粒子形状を有することができる。幾つかの実施形態において、接着剤ポリマーは回転楕円体の形状を有する。接着剤ポリマーは、適切な表面積を有し得る。接着剤ポリマーの含有量は、重量で、出発物質中のポリマーの総重量(または諸成分の総重量)を基準にして、0重量%乃至50重量%(例えば、0~30重量%、0~20重量%、0~15重量%、0~5重量%、0~2重量%、2~10重量%、0.1~30重量%、0.1~20重量%、0.1~15重量%、0.1~5重量%、0.1~2重量%)の範囲にある。
【0014】
幾つかの実施形態において、ベース・ポリマーの平均粒径は、接着剤ポリマーの平均粒径より大きい。
【0015】
幾つかの実施形態において、出発物質は、1種以上の添加剤を含み得る。その添加剤は、数nm乃至数μ(例えば、10nm乃至10μ)の範囲の粒径を有し得る。例えば、出発物質は、粘土(クレイ)炭素ベース(系)の添加剤(例えば、グラファイトおよびグラフェン)、接着剤、シーラント、石膏または粘土、ケイ酸塩、または様々な相変化材料を含み得る。添加剤は、化合物の熱伝導率を高めることができる。添加剤の含有量は、配合物(剤形)の総重量中の2重量%または20000重量ppm以下であり得る。
【0016】
幾つかの実施形態において、多孔質構造を有する物品を作製(製造)する方法は、次の幾つかの工程を含んでいる。即ち、それは、所定の粒径を有する1つの層(または層毎)の形で出発物質を付着させるまたは塗布する工程、出発物質をレーザ焼結して一層または一体型物品の一部を形成する工程である。出発物質は、ローラまたは他の任意の3次元プリント方法を使用することによって付着されまたは塗布されてもよい。レーザ焼結工程の期間中に、粒子は溶融しおよび/または共に融合して多孔質構造を形成する。ベース・ポリマーは、溶融してよいが、流動してはいけない(流動しなくてよい)。接着剤ポリマーは、接着剤ポリマーが溶融して流動することができるように、ベース・ポリマーの融点よりも低い融点を有し得る。また、その方法は、層毎の構造または多層構造を含む3次元モデルを生成することを含んでもよく、出発物質は、層毎の構造または多層構造の各層について所定の粒径を有する。
【0017】
別の態様では、本開示は、結果として得られる3次元の物品(article)または物体(object)を実現する。そのような物品は、記載されるように、ベース・ポリマー、接着剤ポリマー、および任意に添加剤を含んでいる。その物品は、適切な細孔径および径分布を有する適切な孔隙率(porosity:孔隙率、間隙率、多孔性、多孔度)を有する。細孔径は、物品全体に均一に分布させることができる。例えば、所望の孔隙率(即ち、体積%)は、任意の適切な範囲、例えば、5~60%、10~60%、20~60%、または30~50%であってよい。細孔は、任意の適切な径またはサイズ、例えば、平均約0.1μ、0.2μ、0.22μ、0.45μ、0.8μ、5μ、10μ、または最大70μまでであってもよい。平均細孔径は、5%、10%、15%、または20%の百分率割合の標準偏差を有してもよい。幾つかの実施形態において、細孔径の勾配が存在してもよい。
【0018】
別の態様では、本開示は、積層造形により多孔質物品を製造する方法を実現する。そのような方法は、ベース・ポリマーを選択することを含んでいる。ベース・ポリマーは、ポリオレフィンを含み、約5μ乃至約600μの範囲の粒径および/または300μ以下の平均粒径、並びに0.80g/cm3未満の嵩(かさ)密度を有する。その方法は、さらに、約1μ乃至約250μの範囲の粒径および/または250μ以下の平均粒径を有する接着剤ポリマーを選択することを含んでいる。幾つかの実施形態において、ベース・ポリマーは50重量%乃至100重量%であり、接着剤ポリマーは0重量%~50重量%の接着剤ポリマーである。幾つかの実施形態において、ベース・ポリマーは、接着剤ポリマー平均粒径よりも大きい平均粒径を有する。その方法は、さらに、ベース・ポリマーおよび接着剤ポリマーを1つの層の形態で供給または形成すること、およびベース・ポリマーおよび接着剤ポリマーをその層の選択領域において選択的に焼結して、一体型(固体)物品の一層を形成することを含んでいる。
【0019】
別の態様では、本開示は、積層造形を使用して作製された多孔質物品も実現する。多孔質物品は、ポリオレフィンを含むベース・ポリマーを含んでいる。その物品は、60体積%未満の孔隙率および70μ未満の平均細孔径を有する。多孔質物品は、幾つかの実施形態において、50重量%乃至100重量%の量のベース・ポリマーを含んでいる。多孔質物品は、記載されるように、0重量%乃至50重量%の接着剤ポリマーをさらに含んでもよい。幾つかの実施形態において、ベース・ポリマーはUHMWPEであり、接着剤ポリマーはHDPEである。
【0020】
本開示は、以下の詳細な説明を図面と併せて読むと最も良く理解される。強調すべきこととして、一般的な実務により、図面の様々な特徴は必ずしも縮尺通りではない。逆に、様々な機能の寸法は、明確にするために任意に拡大または縮小される。同様の参照番号は、明細書および図面を通じて同様の特徴を示している。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1A~1Cは、溶融後も同じ状態を維持するUHMWPEの粒子形状および粒径分布を示している。
図2図2は、幾つかの実施形態による、選択的レーザ焼結(SLS)で3次元(3D)物体をプリントするために使用される例示的な装置を示している。
図3図3は、図3の例示的な装置に供給されるように粒子を様々な粒径(サイズ)に篩分けし分離するための例示的な装置を示している。
図4図4は、幾つかの実施形態において使用されるUHMWPEの例示的な粒径分布を示している。
図5図5は、幾つかの実施形態による、UHMWPE(より大きい粒径を有する)と、例えば高密度ポリエチレン(より小さい粒径を有する)のような接着剤ポリマーとの組合せを示す、コンピュータ・シミュレーション期間における例示的な層を示している。
図6図6は、幾つかの実施形態による、均一な細孔径および細孔径分布を有する結果的に得られた多孔質構造を示している。
図7図7は、幾つかの実施形態で使用される、UHMWPEである例示的なベース・ポリマーの粒径分布を示している。
図8図8は、幾つかの実施形態で使用される、HDPEである例示的な接着剤ポリマーの粒径分布を示す走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図9図9は、図7のUHMWPEおよび図8のHDPEから得られる例示的な多孔質物品のSEM画像を示している。図9A(1)~(3)は60倍の倍率の画像を示している。図9B(1)~(3)は100倍の倍率の画像を示している。図9C(1)~(3)は200倍の倍率の画像を示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
例示的な実施形態のこの説明は、図面との関係で読まれるよう意図されており、図面は記載された説明全体の一部とみなされるべきである。この説明では、例えば、“下側”(lower)、“上側”(upper)、“水平な”(horizontal)、“垂直な”(vertical)、“の上”(above)、“の下”(below)、“上”(up)、“下”(down)、“頂部”(top)および“底部”(bottom)のような相対的な用語、並びにその派生語(例えば“水平に”(horizontally)、“下向きに”(downwardly)、“上向きに”(upwardly)、等)は、その際記載されまたは考察中の図に示されるような方位または方向を指すと解釈されるべきである。これらの相対的な用語は、説明の便宜のためのものであり、装置が特定の方位または方向に組み立てられまたは操作されることを必要としない。例えば“接続された”(connected)のような取り付け、結合、等に関する用語は、明示的に記載されない限り、構造が介在構造を介して直接的または間接的に共に可動または剛性の取り付けまたは関係のいずれかで互いに固着されまたは取り付けられる関係を指す。
【0023】
以下での説明のために、以下に記載する各実施形態は、代替的な変形例および実施形態を想定し得ることを理解すべきである。また、ここに記載された特定の物品、組成物および/またはプロセス(方法)は、例示的なものであり、限定的なものと見なされるべきではない、と理解されるべきである。
【0024】
本開示において、単数形の“a”、“an”および“the”は複数の言及を含み、特定の数値への言及は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、少なくともその特定の値を含んでいる。従って、例えば、“ナノ構造”への言及は、この分野の専門家に知られているそのような構造およびその均等物の中の1つ以上への言及であり、以下同様である。値が近似値として表される場合、先行語の“約”を使用することによって、特定の値が別の実施形態を形成することを理解されるであろう。本明細書で使用される場合、“約X”(ここで、Xは数値である)は、挙げられた値の±10%をその両端を含めて指すことが、好ましい。例えば、“約8”という語句は、両端を含む7.2乃至8.8の値を指すことが、好ましい。別の例として、“約8%”という語句は、両端を含む7.2%乃至8.8%の値を指すことが、好ましい(但し、必ずしもそうではない)。存在する場合、全ての範囲は、両端を含み、組合せ可能である。例えば、“1乃至5”の範囲が挙げられている場合、その挙げられた範囲は、範囲“1乃至4”、“1乃至3”、“1~2”、“1~2及び4~5”、“1~3及び5”、“2~5”、等を含むと解釈されるべきである。さらに、選択肢のリストが肯定的に提示されている場合、そのようなリストは、選択肢の中のいずれかが、例えば請求の範囲における否定的な限界について、除外され得ることを意味する、と解釈することができる。例えば、“1乃至5”の範囲が挙げられている場合、その挙げられた範囲は、1、2、3、4または5のいずれかが否定的に除外される状況を含むと解釈され得る。従って、“1乃至5”の記載は、“1及び3~5、但し2でない”、または単に“ここで2が含まれない”と解釈できる。本明細書で肯定的に記載される任意の部品(コンポーネント)、要素、属性、または工程(ステップ)は、そのような部品、要素、属性または工程が代替物(選択肢)として列挙(リスト)されるかまたはそれらが単独で記載されるかにかかわらず、請求の範囲において明示的に除外され得る。
【0025】
例えば選択的レーザ焼結(SLS)または高速焼結(HSS)のようなレーザ焼結プロセスは、一種の3次元プリント・プロセスである。このプロセスでは、ポリマー粉末を基材(基板)上にまたは造形台(プラットフォーム)の上面上に1つの薄層の形態で付着させまたは塗布することができる。コンピュータで制御し得るレーザは、選択された領域におけるポリマー粉末に当たってそのポリマー粉末を焼結させる。そのポリマー粒子は、充分な粒径(サイズ)、粒径(サイズ)分布および形態を有する必要がある。
【0026】
UHMWPEは、溶融するが流動しないポリマーである。これによって、3次元プリント・プロセスに課題が生じる。その理由は、圧力が不足するために粒子の良好な焼結が促進されず、その結果得られる部品は充分な強度を持たないからである。UHMWPEは溶融後も流動せずに、それらの粒子が同じ形状を維持するようになる。焼結後、その結果的に得られる物品は、非常に多孔質で強度が低い。
【0027】
一方、HDPEはUHMWPEと同じ化学的性質を有するが、分子量が低いことによってHDPEは溶融して流動するこができる。一方、HDPEは、例えばフィルタのような多孔質の焼結部品の作製または製造に使用できる。
【0028】
本開示は、3次元プリントの1つの工程により、多孔性構造を有する物品を作製する方法を実現する。幾つかの実施形態では、その方法は、選択的レーザ焼結(SLS)、高速焼結(HSS)、またはその任意の組合せを含んでいる。出発物質は、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、任意の他の適切なポリオレフィン、またはそれらの組合せを含んでいる。その物品は、細孔が均一に調整された孔径および分布を有する多孔質構造を有する。その物品はフィルタ(濾過材)として使用することができる。幾つかの実施形態では、出発物質は、例えばUHMWPEのようなベース・ポリマーと、例えばHDPEまたは任意の他の適切なポリオレフィンのような接着剤ポリマーとを含んでいる。
【0029】
本発明は、UHMWPEの3次元プリントの技術的障壁を、より良好な流動特性、および粒子の形態、径(サイズ)および分布を有する製品を開発することによって、乗り越えることができる。濾過部品および多孔質部品については、同じ製品設計を利用して濾過性能の向上を促進することができる。
【0030】
幾つかの実施形態において、例えばHDPEのような接着剤ポリマーが、例えばUHMWPEのようなベース・ポリマーとの組合せで使用される。本発明は、多孔質部品または一体型部品の製造のために、適切な粉末の流動性、形態、径(サイズ)および分布を有する固体状態のポリマーを実現することによって、技術的障壁を乗り越えることができる。
【0031】
規定された粒径、粒径分布および添加剤を有するUHMWPEおよびHDPEをブレンドまたは混合して、多孔質物品を作製してもよい。例えば、その混合物は、焼結が生じかつ結果的に或る孔隙率分布の部品が得られる規定温度でプレス加工される。顕微鏡分析によって、その得られた物品には、最終部品において大きい細孔と小さい細孔の双方が含まれている。全体的な孔隙率分布は均一ではない。
【0032】
細孔は、不完全な粉末合体(coalescence:融合、癒着)による選択的レーザ焼結(SLS)部品に固有(本来的)に存在し、それ(不完全な粉末合体)は、より高いレーザ・エネルギ密度および/またはより薄い層厚さのいずれかによりその粒子により多くのエネルギを与えることによって、最小化することができる。しかし、固有の孔隙率で得られる利点を利用して、多孔質部品を製造することができる。幾つかの実施形態によれば、選択的レーザ焼結(SLS)または高速焼結(HSS)により、結果として得られる孔隙率および細孔径分布は均一である。
【0033】
ベース(基材)ポリマー:
幾つかの実施形態において、ベース・ポリマーはUHMWPEである。UHMWPEは、約1×10乃至16×10g/モルの範囲の分子量(Mw)および約4乃至40dL/gの固有粘度を有する熱可塑性物質(thermoplastic)である。ベース・ポリマーは、様々な等級(グレード)の様々なサイズ(径)を有し得る。各等級は、様々な層の各々に適用し得る。例えば、UHMWPEは、幾つかの実施形態において、5μ乃至600μ(例えば、40~100μ、50~100μ、60~100μ、10~500μ、100~500μ、または任意の他の範囲の組合せ)の範囲の粒径を有し得る。粒径(粒度)分布は、適用例に対して(径(サイズ)排除篩(size exclusion sieves)を使用して)向上させることができる。ここに記載する“粒径”(粒度)とは、直径または一次元の最大長さをいう。ベース・ポリマーは、球形、近似的にまたはほぼ球形、またはジャガイモ状の形状のような適切な粒子形状を有し得る。幾つかの実施形態において、ベース・ポリマーは回転楕円体(スフェロイド)の形状を有する。ベース・ポリマーは、適切な表面積を有し得る。ベース・ポリマー含有量は、重量で、出発物質中のポリマーの総重量(または諸成分の総重量)を基準にして、50乃至100重量%(例えば、50~99重量%、60~100重量%、70~100重量%、80~100重量%、85~100重量%、95~100重量%、98~100重量%、90~98重量%)の範囲にある。
【0034】
粒径分布は、所望の孔隙率分布を達成するよう調整される。図1A~1Cを参照すると、溶融後でも、UHMWPEは元の粒子形状および粒径分布を保っている。UHMWPEは、超高分子量であるため、溶融した場合でも流動しない。また、粒子形状は、平均孔隙率(多孔性)、孔隙率分布、添加剤、およびフィラー(充填剤)分散を変えるよう調整される。ここで説明するように、幾つかの実施形態において、粒子は、球形、近似的にまたはほぼ球形、またはジャガイモ状の形状を有してもよく、粒径は、粒子の直径、または一次元の最大寸法(サイズ)を指し得る。細孔径は、細孔(pore)の直径を指してもよい。幾つかの実施形態において、ジャガイモ状の形状は、表面が比較的滑らかで僅かに細長くてもよい。
【0035】
UHMWPEは、UTEC(登録商標)という商品名でブラスケム社(Braskem)から入手でき、これは132~145℃で溶融するが流動しない。UTEC(登録商標)の分子量は、高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂より約10倍も高い。その分子量は、低い範囲(100万g/モル)にあり、高い範囲(700万乃至1000万g/モル)まで拡張される。
【0036】
幾つかの実施形態において、ベース・ポリマーは、UHMWPEの代わりにHDPEであってもよい。
【0037】
接着剤(glue)ポリマー:
幾つかの実施形態において、接着剤ポリマーは、HDPEまたは任意の他の適切なポリオレフィンである。例えばHDPEのような接着剤ポリマーは、任意の適切な粒径および表面積を有し得る。その粒径は、ベース・ポリマーの粒径に基づいて調整することができる。例えば、HDPEまたは他のポリオレフィンは、幾つかの実施形態において、1μ乃至250μの範囲(例えば、10~50、10~40、10~30、5~60、10~100μまたは任意の他の範囲の組合せ)の粒径を有し得る。接着剤ポリマーは、例えば、球形、近似的にまたはほぼ球形またはジャガイモ状の形状のような、適切な粒子形状を有し得る。幾つかの実施形態において、接着剤ポリマーは回転楕円体の形状を有する。接着剤ポリマーは、適切な表面積を有し得る。接着剤ポリマーの含有量は、重量で、出発物質中のポリマーの総重量(または諸成分の総重量)を基準にして、0重量%乃至50重量%(例えば、1~50重量%、0~40重量%、0~30重量%、0~20重量%、0~15重量%、0~5重量%、0~2重量%、2~10重量%、0.1~30重量%、0.1~20重量%、0.1~15重量%、0.1~5重量%、0.1~2重量%)の範囲にある。
【0038】
接着剤ポリマーは、各粒子層に基づいて設計される。溶融特性、粒径および形状は、各層について設計され、結果として得られる物品(例えば、フィルタ)の強度および孔隙率の均一性な形態(morphology)が結果として得られる。
【0039】
添加剤:
添加剤は任意である。幾つかの実施形態では、出発物質は1種以上の添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、熱または赤外線(IR)を吸収する1種以上の添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、ナノメートルまたはマイクロメートル・レベル(例えば、10nm乃至10μ)の粒径を有し得る。例えば、出発物質は、粘土炭素ベース(系)の添加剤(例えば、グラファイトおよびグラフェン)、接着剤、シーラント、石膏または粘土、ケイ酸塩、または様々な相変化材料(物質)を含み得る。時には、配合物の熱伝導率を高めるために添加剤が使用される。幾つかの実施形態において、添加剤の含有量は、配合物の総重量の2重量%以下または20000重量ppm以下であり得る。
【0040】
方法:
本開示は、多孔質構造を有する物品を作製または製造する方法を実現する。そのような方法は、次のような幾つかの工程を含み得る。即ち、所定の粒径を有する1つの層(または層毎)に出発物質を付着させる(塗布する)工程、その出発物質をレーザ焼結して1つの層または一体型(固体)物品の一部を形成する工程。その出発物質は、ローラまたは他の任意の3次元プリント方法を用いることによって付着させまたは塗布してもよい。レーザ焼結工程期間中に、その粒子は溶融しおよび/または共に融合して多孔質構造を形成する。ベース・ポリマーは、溶融し得るが、流動してはいけない(流動しない可能性がある)。接着剤ポリマーは、接着剤ポリマーが溶融して流動し得るように、ベース・ポリマーの融点よりも低い融点を有し得る。例えば、幾つかの実施形態において、ベース・ポリマーは、130℃乃至136℃の範囲の融点を有し得る。接着剤ポリマーは、ベース・ポリマーの融点より低い、例えば5~10℃、5~15℃または10~15℃のような、或る温度範囲だけ低い融点を有し得る。幾つかの実施形態において、その方法は、3次元モデルを生成することを含んでいる。そのモデルは、層毎の構造または多層構造を含んでもよく、出発物質は、層毎の構造または多層構造中の各層について所定の粒径を有する。
【0041】
3次元プリント・プロセスでは、特定の粒子を層毎に堆積させまたは被着して、所望の平均孔隙率および孔隙率分布を達成することができる。コンピュータ・シミュレーションを用いて、層毎に粒子特性(粒径(サイズ)、形状、数量)が設計される。幾つかの実施形態において、出発物質は、ベース・ポリマーのみを含み、接着剤ポリマーを含まない。様々な特性を有する粒子は、様々な等級(グレード)に分離され得る。その分離は、複数の篩を使用して行ってもよい。そのような様々な等級への粒子分離を用いて、所定の粒径および組合せを提供することによって、コンピュータ・シミュレーションの目標(標的)を達成することができる。
【0042】
図2を参照すると、SLSまたはHSSが関係する3次元プリント技術が使用される。部品は層単位で(一層ずつ)作製できる。シミュレーションを実行して、各層の粒径および各層の厚さを規定することができる。図3を参照すると、UHMWPE粒子は、その粒径に基づいて様々な等級(グレード)へと篩がけすることができ、3次元プリンタに加えられて、はるかに良好な孔隙率(多孔度)分布を達成することができる。粒子焼結を適切なレベルにするために、レーザ・パラメータの調整を行う必要がある。最終的な適用例に応じて、接着剤ポリマーおよび/またはポリマー混合(ブレンド)をこれらの層の中/相互間に含ませて、多孔質部品に対して追加的な機能または特徴を加えることができる。また、表面処理された粒子および/または添加剤も含ませることができる。幾つかの実施形態において、接着剤ポリマーは、UHMWPEとは異なる粒径、メルトインデックス(メルトフローレート)、分子量、分子量分布および密度を有するHDPEである。他のポリマーも、最終適用例でのより良い性能を満たす最終部品を有するように、特定の特性を有するものを加えることができる。代替的に、本発明では、UHMWPEをHDPEで置き換えることができる。多孔質物品を準備するためには、HDPEの粒径分布が狭く、ポリマーの嵩密度が低く、その結果として充填率が低くなるようにする必要がある。焼結後、粒子間の空隙(voids:空間、空所)は、規定された細孔径(孔隙径)の相互接続された系になる。粒子は、各粒径ごとに篩にかけられ、3次元プリンタ装置に供給されて、最終物品(製品)の体積全体にわたって規定された孔隙率勾配を達成することができる。さらに、UHMWPEまたはHDPEおよびその組合せは、NaClまたは任意の粒子状物質と組み合わせることができ、それ(NaCl、粒子状物質)が、焼結後のプロセスにおいて選択的に可溶化されて(solubilized)(濾過されて(leached))、追加的な孔隙率(多孔度)にすることができる。
【0043】
UHMWPEは溶融するが流動しない。UHMWPEに関する既存のプロセスでは、3次元プリント・プロセスでは不可能な、例えばプレスおよびRAM押出し機のように、高圧および高温が必要である。本開示で実現される方法において、UHMWPEの加工性は、各粒子が接触するように表面積を増大させることによって改善することができる。例えば、粉末の嵩(かさ)密度は、粒径、粒径分布、および粒子の形態/孔隙率を変えることによって、増大させることができる。多孔質物品(製品)におけるのと同様に、コンピュータ・シミュレーションを実行して、3次元プリンタに供給される各層に関する粒径を規定または測定することができる。嵩密度に加えて、UHMWPEの構造を変更して、溶融粒子の流動性を向上させ、それによって焼結プロセスで良好な機械的強度を有する最終的な一体型部品を得ることができる。
【0044】
幾つかの実施形態において、1つの態様は、例えばUHMWPEのようなベース・ポリマーのフロー(流動性)を促進することである。例えば、UHMWPE粒子は、コア(中心)/シェル(外殻)(core/shell)構造を有してもよく、そのシェルは、溶融粒子が流れるのに充分な低分子量を有し、良好な焼結を有する。そのコアは、良好な機械的特性を有する通常のUHMWPEである。例えば、幾つかの実施形態において、そのシェルはHDPEで形成されてもよい。幾つかの実施形態において、このベース・ポリマーは、直列の2つの反応器でバイモーダル技術(bimodal technology:双峰性技術)を使用して製造することができる。コモノマーを使用して溶融挙動(behavior:特性、性質)を調整することもできる。
【0045】
幾つかの実施形態において、溶融粒子の流動性を改善する別の方法は、ポリプロピレン(PP)を低い百分率割合で添加することである。PP粒子は、UHWMPE粒子用の潤滑剤として機能する。例えば、UHWMPEおよびPPは、ペレット形態で混合(ブレンド)されてもよく、次いで所定の粒径および粒径分布が得られるように処理または加工されてもよい。微粉化または他の技術を使用して、UHWMPEおよびPPを含む微粒子を得てもよい。
【0046】
幾つかの実施形態において、UHMWPEのより良好なメルトフロー(溶融流動性)を促進する別の方法は、特定の重合条件および触媒を開発することによって、粒子における鎖の絡み合いを低減することである。鎖の絡み合いがより少ないと、ポリマーのメルトフローが高くなり、焼結プロセスがより良好になる。
【0047】
幾つかの実施形態において、ナノテクノロジーおよび/または添加剤をUHMWPE粉末または粒子に組み込んで、熱伝導率を改善することもできる。それによって、レーザが粒子の表面に生成する熱を、より速く伝播させることができる。
【0048】
3次元プリンタ機では、高圧の環境で、UHMWPE粒子のより良い焼結を得るのに必要な圧力をシミュレーション(模倣、モデル化)することができる。その圧力環境は、圧力および温度の制御に適し得るであろうガス(劣化を避けるために不活性ガスが望ましい)または液体であり得る。3次元プリント・プロセス期間中の圧力および温度を制御するために圧力チャンバ(室)を開発することができる。それに加えて、UHMWPEは溶融するが流動しないので、このチャンバは、UHMWPEの融点に近いかまたはそれより高い温度を有し得る。これは、溶融プロセスを加速するのに役立ち、粒子間の鎖拡散(chain diffusion)のために接触する時間をより長く粒子に与えるのに役立つ。
【0049】
また、焼結は、複数の粒子の合体として定義することもできる。上述の本発明による手法(アプローチ)は、UHMWPE多孔質部品および技術的部分に適用され得るであろう。
【0050】
幾つかの実施形態において、本開示で実現される方法は、プリント後の後処理工程(ステップ)を含み得る。後処理工程では、多孔質部品はオートクレーブ・オーブン内で所定の圧力および温度の下で或る時間期間で処理される。
【0051】
別の態様では、本開示は、積層造形により多孔質物品を製造する方法を実現する。そのような方法は、ベース・ポリマーを選択することを含んでいる。ベース・ポリマーは、ポリオレフィンを含み、約5μ乃至約600μの範囲の粒径および0.80g/cm3未満の嵩密度を有する。その方法は、さらに、約1μ乃至約250μの範囲の粒径を有する接着剤ポリマーを選択することを含んでいる。幾つかの実施形態において、ベース・ポリマーは50重量%乃至100重量%であり、接着剤ポリマーは0重量%乃至50重量%の接着剤ポリマーである。その方法は、さらに、ベース・ポリマーおよび接着剤ポリマーを1つの層の形態で供給すること、および、ベース・ポリマーおよび接着剤ポリマーをその層の選択領域において選択的に焼結して、一体型物品の1つの層を形成することを含んでいる。
【0052】
物品:
また、例えばフィルタのような結果的に生じる3次元物品または物体も、本開示において実現される。そのような物品は、記載されているように、ベース・ポリマー、接着剤ポリマー、および任意に添加剤を、含んでいる。その物品は、適切な細孔径および径分布を有する適切な孔隙率を有する。細孔径は、物品全体に均一に分布させることができる。例えば、所望の孔隙率(即ち、体積%)は、任意の適切な範囲、例えば、5~60%、10~60%、20~60%または30~50%であり得る。その細孔は、任意の適切な径(サイズ)、例えば、平均約0.1μ、0.2μ、0.22μ、0.45μ、0.8μ、5μ、10μ、または最大70μまで、であり得る。平均細孔径は、百分率割合5%、10%、15%、または20%の標準偏差を有し得る。幾つかの実施形態において、細孔径の勾配が存在し得る。幾つかの実施形態において、物品は、UHMWPE、HDPEまたはその組合せを含んでいる。
【0053】
幾つかの実施形態において、結果的に得られる物品は、UHMWPEまたはHDPEを含むフィルタである。本開示において実現される方法によって、HSSおよびレーザ焼結プロセス条件下で、粒子は、UHMWPEとは異なる形態で溶融しおよび/または流動し、良好な機械的性能を有する良好な多孔質構造を実現する。
【0054】
図4を参照すると、UHMWPEは、幾つかの実施形態において使用される60~120μの範囲の粒径分布を有し得る。図5を参照すると、コンピュータ・シミュレーション期間中の例示的な層が示されている。そのような例示的な層は、幾つかの実施形態によれば、UHMWPEとHDPEの組合せを含み得る。HDPE粒子は、UHMWPE粒子相互間の空間を満たす(充填する)より小さい粒径を有する。特定の粒径は、細孔径および細孔径分布を含む必要な結果的に得られる構造に基づいて調整することができる。コンピュータ・シミュレーションを使用して、所与の層においておよび/またはプリント部分(部品)全体にわたって所定の細孔径を有する多孔質部品を作製するための粒径分布が決定される。
【0055】
図6を参照すると、UHMWPEおよびHDPEを有する結果的に得られた物品の形態が示されている。均一な細孔径および孔隙率分布は、コンピュータ・シミュレーションに基づいて、層毎のHSSまたはレーザ焼結プロセスによって得られる。
【0056】
幾つかの実施形態において、組成物を1つの層の形態で付着させまたは塗布することができ、ベース・ポリマーおよび接着剤ポリマーはそれぞれ所定のサイズ(径)またはサイズ(径)分布を有する。組成物は、選択された領域で焼結されて、所定の細孔径または細孔径分布を有する一体型物品の1つの層を形成する。ベース・ポリマーおよび接着剤ポリマーの各々に関する所定の粒径または粒径分布は、一体型物品の1つの層における所定の細孔径または細孔径分布に基づいてコンピュータ・シミュレーションにより決定される。様々な粒径および対応する細孔径を使用することができる。例えば、幾つかの実施形態において、物品は、20μの細孔径を有し得、ベース・ポリマーは、約500μの粒径を有するUHMWPEを含み得る。物品は5μの細孔径を有してもよく、約10μ以下の粒径を有するUHMWPEをベース・ポリマーとして使用することができる。それに応じて、接着剤ポリマーはより小さい粒径を有し得る。
【0057】
別の態様では、本開示は、また、積層造形を使用して作製された多孔質物品を実現する。多孔質物品は、ポリオレフィンを含むベース・ポリマーを含んでいる。その物品は、50体積%または60体積%未満の孔隙率および50μ未満の平均細孔径を有する。ベース・ポリマーの接触は、幾つかの実施形態において、50重量%乃至100重量%である。多孔質物品は、さらに、0重量%乃至50重量%の接着剤ポリマーを含み得る。幾つかの実施形態において、ベース・ポリマーはUHMWPEであり、接着剤ポリマーはHDPEである。
【0058】

50重量%のUHMWPEおよび50重量%のHDPEを含む出発物質が調製された。
【0059】
出発物質(材料)中のUHMWPE粉末は、粉末の流動性を改善するために1000ppmのステアリン酸カルシウムを含んでいた。UHMWPE粉末を篩にかけて、粒径が300μ未満の粉末画分(fraction)を収集した。図7は、レーザ回折分析によって得られたUHMWPE粉末の粒径分布を示している。平均粒径は277.3μであった。使用されるUHMWPEは、HDPE樹脂より約10倍も高い分子量を有する。
【0060】
HDPE粉末は、1000ppmのステアリン酸カルシウムおよび1000ppmの抗酸化剤AOx1076を含んでいた。250μ未満の粒径および129.8μの平均粒径を有する粉末画分を収集するために、粉末が篩にかけられた。粒子平均粒径の決定または測定は、図8に示されるように電子顕微鏡画像によって行われた。使用されるHDPE粉末は、ASTM規格D1238(190℃/21.6kg)を使用して測定された9.3g/10分のメルトフローレートを有する。
【0061】
UHMWPEおよびHDPEの粉末を、混合し、選択的レーザ焼結プロセスで使用して、評価対象の試料(specimens:標本)が作製された。
【0062】
焼結性能は、走査型電子顕微鏡法(SEM、TM-1000/日立)を使用して評価された。試料は低温(極低温)破壊によって準備され、金で金属化された(20mA、60秒)。60倍、100倍および200倍の倍率でのSEM画像が、図9にA(1)~(3)、B(1)~(3)、およびC(1)~(3)を含むように示されている。
【0063】
粉末の混合物を用いて、結果的に得られたプリントされた試料は、記載した方法を使用して得られた。その試料は、水銀ポロシメトリー(mercury porosimetry:水銀多孔度測定法、水銀圧入法)を使用して測定された、平均細孔径61.6μm、および間隙率47.6%を有していた。結果として得られた多孔質物品は、濾過の適用例に使用することができる。
【0064】
本明細書に記載された方法およびシステムは、それらのプロセスを実施するためのコンピュータ実装プロセスおよび装置の形態で少なくとも部分的に具体化(実施)され得る。また、開示された方法は、コンピュータ・プログラム・コードでコード化された有形の非一時的な機械可読記憶媒体の形態で少なくとも部分的に具体化されてもよい。その媒体は、例えば、RAM、ROM、CD-ROM、DVD-ROM、BD-ROM、ハードディスク・ドライブ、フラッシュ・メモリ、または任意の他の非一時的な機械可読な記憶媒体、またはこれらの媒体の任意の組合せを含み得る。ここで、コンピュータ・プログラム・コードはコンピュータにロードされてそのコンピュータによって実行されると、そのコンピュータは、その方法を実施するための装置になる。また、その方法は、コンピュータがその方法を実施するための装置となるように、コンピュータ・プログラム・コードがロードされおよび/または実行されるコンピュータの形態で少なくとも部分的に具体化されてもよい。コンピュータ・プログラム・コード・セグメントは、汎用プロセッサに実装されると、特定の論理回路を形成するようにそのプロセッサを構成する。代替的に、その方法は、その方法を実行するための特定用途向け集積回路で形成されたデジタル信号プロセッサの形態で少なくとも部分的に具体化されてもよい。
【0065】
構成を例示的な実施形態に関して説明したが、構成はそれらに限定されない。むしろ、請求の範囲は、この分野の専門家によってなされ得る他の変形および実施形態を含むように広く解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9