(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】排ガス浄化触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 35/04 20060101AFI20230725BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20230725BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20230725BHJP
B01J 23/63 20060101ALI20230725BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20230725BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20230725BHJP
F01N 3/035 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
B01J35/04 301L
B01J35/10 301F
B01J37/02 301C
B01J23/63 A ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
F01N3/28 301P
F01N3/035 A
(21)【出願番号】P 2020558092
(86)(22)【出願日】2019-08-16
(86)【国際出願番号】 JP2019032177
(87)【国際公開番号】W WO2020110379
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2018222097
(32)【優先日】2018-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000228198
【氏名又は名称】エヌ・イーケムキャット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100118991
【氏名又は名称】岡野 聡二郎
(72)【発明者】
【氏名】城取 万陽
(72)【発明者】
【氏名】高橋 禎憲
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/060048(WO,A1)
【文献】特開2010-167366(JP,A)
【文献】特開2009-160547(JP,A)
【文献】国際公開第2016/133087(WO,A1)
【文献】特開2017-185464(JP,A)
【文献】国際公開第2008/136232(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 35/04
B01J 35/10
B01J 37/02
B01J 23/63
B01D 53/94
F01N 3/28
F01N 3/035
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化触媒であって、
排ガス導入側の端部が開口した導入側セルと、該導入側セルに隣接し排ガス排出側の端部が開口した排出側セルとが、多孔質の隔壁により画定されたウォールフロー型基材と、
前記隔壁内に形成された触媒層と、を有し、
前記触媒層が、前記排ガス導入側の端部から前記隔壁の延伸方向に沿って形成される第1領域と、前記排ガス排出側の端部から前記隔壁の延伸方向に沿って形成される第2領域と、前記第1領域と前記第2領域とが重なる第3領域と、を有し、
前記第1領域はPd及び/又はRhを含み、
前記第2領域はPd及び/又はRhを含み、
前記隔壁内に形成された前記第3領域の細孔分布から算出される細孔径D
midに対する
前記隔壁内に形成された前記第1領域の細孔分布から算出される細孔径D
inの比(D
in/D
mid)が、1.2以上であり、
前記細孔径D
midに対する
前記隔壁内に形成された前記第2領域の細孔分布から算出される細孔径D
outの比(D
out/D
mid)が、1.2以上である、
排ガス浄化触媒。
【請求項2】
前記隔壁内に形成された前記第3領域の細孔分布から算出される細孔径1μm以上の細孔容積V
midに対する
前記隔壁内に形成された前記第1領域の細孔分布から算出される細孔径1μm以上の細孔容積V
inの比(V
in/V
mid)が、1.3以上であり、
前記細孔容積V
midに対する
前記隔壁内に形成された前記第2領域の細孔分布から算出される細孔径1μm以上の細孔容積V
outの比(V
out/V
mid)が、1.3以上である、
請求項1に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項3】
前記細孔径D
in又は前記細孔径D
outと、前記細孔径D
midとの差が、それぞれ、2.5~10μmである、
請求項1又は2に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項4】
前記第1領域が、Pdを含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項5】
前記第2領域が、Rhを含む、
請求項4に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項6】
前記第1領域が、Rhを含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項7】
前記第2領域が、Pdを含む、
請求項6に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項8】
前記触媒層が、前記隔壁の厚さ方向において、前記導入側セル側のセル壁面から前記排出側セル側のセル壁面にかけて形成されている、
請求項1~5のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項9】
前記第3領域の形成範囲が、前記隔壁の延伸方向の全長100%に対して、2~20%である、
請求項1~8のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項10】
前記内燃機関が、ガソリンエンジンである、
請求項1~9のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項11】
内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化触媒の製造方法であって、
排ガス導入側の端部が開口した導入側セルと、該導入側セルに隣接し排ガス排出側の端部が開口した排出側セルとが、多孔質の隔壁により画定されたウォールフロー型基材を準備する工程と、
前記ウォールフロー型基材の前記隔壁内の気孔表面上の少なくとも一部に、触媒スラリーを塗工して、触媒層を形成する触媒層形成工程と、を有し、
該触媒層形成工程において、
前記排ガス導入側の端部から前記隔壁の延伸方向に沿って形成される第1領域と、前記排ガス排出側の端部から前記隔壁の延伸方向に沿って形成される第2領域と、前記第1領域と前記第2領域とが重なる第3領域と、を有し、
前記第1領域はPd及び/又はRhを含み、前記第2領域はPd及び/又はRhを含み、前記隔壁内に形成された前記第3領域の細孔分布から算出される細孔径D
midに対する
前記隔壁内に形成された前記第1領域の細孔分布から算出される細孔径D
inの比(D
in/D
mid)が、1.2以上であり、前記細孔径D
midに対する
前記隔壁内に形成された前記第2領域の細孔分布から算出される細孔径D
outの比(D
out/D
mid)が、1.2以上である前記触媒層を有する前記排ガス浄化触媒を製造する、
排ガス浄化触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関から排出される排ガスには、炭素を主成分とする粒子状物質(PM)、不燃成分からなるアッシュなどが含まれ、大気汚染の原因となることが知られている。従来より、ガソリンエンジンよりも比較的に粒子状物質を排出しやすいディーゼルエンジンでは、粒子状物質の排出量が厳しく規制されていたが、近年、ガソリンエンジンにおいても粒子状物質の排出量の規制が強化されつつある。
【0003】
粒子状物質の排出量を低減するための手段としては、内燃機関の排ガス通路に粒子状物質を堆積させ捕集することを目的としたパティキュレートフィルタを設ける方法が知られている。特に、近年では、搭載スペースの省スペース化等の観点から、粒子状物質の排出抑制と、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)及び窒素酸化物(NOx)等の有害成分の除去を同時に行うために、パティキュレートフィルタに触媒スラリーを塗工し、これを焼成することで触媒層を設けることが検討されている。
【0004】
排ガス導入側の端部が開口した導入側セルと、該導入側セルに隣接し排ガス排出側の端部が開口した排出側セルとが、多孔質の隔壁により画定されたウォールフロー型基材を備えるパティキュレートフィルタに対して、このような触媒層を形成する方法としては、スラリーの粘度や固形分率などの性状を調整し、導入側セル又は排出側セルの一方を加圧して、導入側セルと排出側セルに圧力差を生じさせることにより、触媒スラリーの隔壁内への浸透を調整する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるようなパティキュレートフィルタは、粒子状物質の除去の観点からウォールフロー型構造を有し、排ガスが隔壁の気孔内を通過するように構成される。しかしながら、スス捕集性能、圧力損失、及び排ガス浄化性能に関して、依然として改善の余地がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、NOx浄化性能が高められた排ガス浄化触媒及びその製造方法を提供することにある。なお、ここでいう目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも、本発明の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、浄化性能の向上方法について鋭意検討を重ねた。その結果、触媒層が形成された隔壁の延伸方向における細孔径を調整することにより上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下に示す種々の具体的態様を提供する。
【0009】
〔1〕
内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化触媒であって、
排ガス導入側の端部が開口した導入側セルと、該導入側セルに隣接し排ガス排出側の端部が開口した排出側セルとが、多孔質の隔壁により画定されたウォールフロー型基材と、
前記隔壁内に形成された触媒層と、を有し、
前記触媒層が、前記排ガス導入側の端部から前記隔壁の延伸方向に沿って形成される第1領域と、前記排ガス排出側の端部から前記隔壁の延伸方向に沿って形成される第2領域と、前記第1領域と前記第2領域とが重なる第3領域と、を有し、
前記第3領域の細孔分布から算出される細孔径Dmidに対する前記第1領域の細孔分布から算出される細孔径Dinの比(Din/Dmid)が、1.2以上であり、
前記細孔径Dmidに対する前記第2領域の細孔分布から算出される細孔径Doutの比(Dout/Dmid)が、1.2以上である、
排ガス浄化触媒。
〔2〕
前記第3領域の細孔分布から算出される細孔径1μm以上の細孔容積Vmidに対する前記第1領域の細孔分布から算出される細孔径1μm以上の細孔容積Vinの比(Vin/Vmid)が、1.3以上であり、
前記細孔容積Vmidに対する前記第2領域の細孔分布から算出される細孔径1μm以上の細孔容積Voutの比(Vout/Vmid)が、1.3以上である、
〔1〕に記載の排ガス浄化触媒。
〔3〕
前記細孔径Din又は前記細孔径Doutと、前記細孔径Dmidとの差が、それぞれ、2.5~10μmである、
〔1〕又は〔2〕に記載の排ガス浄化触媒。
〔4〕
前記第1領域が、Pdを含む、
〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
〔5〕
前記第2領域が、Rhを含む、
〔4〕に記載の排ガス浄化触媒。
〔6〕
前記第1領域が、Rhを含む、
〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
〔7〕
前記第2領域が、Pdを含む、
〔6〕に記載の排ガス浄化触媒。
〔8〕
前記触媒層が、前記隔壁の厚さ方向において、前記導入側セル側のセル壁面から前記排出側セル側のセル壁面にかけて形成されている、
〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
〔9〕
前記第3領域の形成範囲が、前記隔壁の延伸方向の全長100%に対して、2~20%である、
〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
〔10〕
前記内燃機関が、ガソリンエンジンである、
〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
〔11〕
内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化触媒の製造方法であって、
排ガス導入側の端部が開口した導入側セルと、該導入側セルに隣接し排ガス排出側の端部が開口した排出側セルとが、多孔質の隔壁により画定されたウォールフロー型基材を準備する工程と、
前記ウォールフロー型基材の前記隔壁内の気孔表面上の少なくとも一部に、触媒スラリーを塗工して、触媒層を形成する触媒層形成工程と、を有し、
該触媒層形成工程において、
前記排ガス導入側の端部から前記隔壁の延伸方向に沿って形成される第1領域と、前記排ガス排出側の端部から前記隔壁の延伸方向に沿って形成される第2領域と、前記第1領域と前記第2領域とが重なる第3領域と、を有し、前記第3領域の細孔分布から算出される細孔径Dmidに対する前記第1領域の細孔分布から算出される細孔径Dinの比(Din/Dmid)が、1.2以上であり、前記細孔径Dmidに対する前記第2領域の細孔分布から算出される細孔径Doutの比(Dout/Dmid)が、1.2以上である前記触媒層を有する前記排ガス浄化触媒を製造する、
排ガス浄化触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、NOx浄化性能が高められた排ガス浄化触媒及びその製造方法を提供することができる。そして、この排ガス浄化触媒は、触媒を担持したガソリンパティキュレートフィルタ(GPF)として有効に利用することができ、このようなパティキュレートフィルタを搭載した排ガス処理システムの一層の高性能化が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の排ガス浄化触媒の一態様を模式的に示す断面図である。
【
図2】実施例及び比較例における、NOx浄化性能を示すグラフである。
【
図3】実施例及び比較例における、NOx浄化性能とスス捕集率とのバランスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。なお、本明細書において、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。本明細書において、「細孔径」とは、細孔径の頻度分布(以下、細孔分布ともいう。)における出現比率がもっとも大きい径(モード径:分布の極大値)をいう。また、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いる。例えば「1~100」との数値範囲の表記は、その下限値「1」及び上限値「100」の双方を包含するものとする。また、他の数値範囲の表記も同様である。
【0013】
[排ガス浄化触媒]
本実施形態の排ガス浄化触媒は、内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化触媒100であって、排ガス導入側の端部11aが開口した導入側セル11と、該導入側セルに隣接し排ガス排出側の端部12aが開口した排出側セル12とが、多孔質の隔壁13により画定されたウォールフロー型基材10と、隔壁13内に形成された触媒層21と、を有し、前記触媒層が、前記排ガス導入側の端部から前記隔壁の延伸方向に沿って形成される第1領域と、前記排ガス排出側の端部から前記隔壁の延伸方向に沿って形成される第2領域と、前記第1領域と前記第2領域とが重なる第3領域と、を有し、前記第3領域の細孔分布から算出される細孔径Dmidに対する前記第1領域の細孔分布から算出される細孔径Dinの比(Din/Dmid)が、1.2以上であり、前記細孔径Dmidに対する前記第2領域の細孔分布から算出される細孔径Doutの比(Dout/Dmid)が、1.2以上であることを特徴とする。
【0014】
以下、
図1に示す、本実施形態の排ガス浄化触媒を模式的に示す断面図を参照しつつ、各構成について説明する。本実施形態の排ガス浄化触媒はウォールフロー型構造を有する。このような構造を有する排ガス浄化触媒100では、内燃機関から排出される排ガスが、排ガス導入側の端部11a(開口)から導入側セル11内へと流入し、隔壁13の気孔内を通過して隣接する排出側セル12内へ流入し、排ガス排出側の端部12a(開口)から流出する。この過程において、隔壁13の気孔内を通り難い粒子状物質(PM)は、一般に、導入側セル11内の隔壁13上及び/又は隔壁13の気孔内に堆積し、堆積した粒子状物質は、触媒層21の触媒機能によって、或いは所定の温度(例えば500~700℃程度)で燃焼し、除去される。また、排ガスは、隔壁13の気孔内に形成された触媒層21と接触し、これによって排ガスに含まれる一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)は水(H
2O)や二酸化炭素(CO
2)などへ酸化され、窒素酸化物(NOx)は窒素(N
2)へ還元され、有害成分が浄化(無害化)される。なお、本明細書においては、粒子状物質の除去及び一酸化炭素(CO)等の有害成分の浄化をまとめて「排ガス浄化性能」ともいう。以下、各構成についてより詳細に説明する。
【0015】
(細孔径)
隔壁の延伸方向において細孔径に違いを生じさせることにより、排ガスの流れやすいところと流れにくいところが生じ、排ガスの流れを制御することができる。これにより、排ガス浄化触媒を通過する排ガスを、より効果的に触媒と接触させることができ、排ガス浄化性能の向上や、ススの捕集性能の向上が期待できる。本実施形態の排ガス浄化触媒は、排ガスの流れを制御することにより、排ガス浄化性能及びスス捕集性能を向上させるという観点から、触媒層21を、排ガス導入側の端部から隔壁の延伸方向に沿って形成される第1領域21aと、排ガス排出側の端部から隔壁の延伸方向に沿って形成される第2領域21bと、第1領域21aと第2領域21bとが重なる第3領域21cを有するように形成する。そして、第3領域21cの細孔分布から算出される細孔径Dmidを、第1領域21aの細孔分布から算出される細孔径Din及び第2領域21bの細孔分布から算出される細孔径Doutよりも、それぞれ、所定値以上小さくする。排ガスが端部11a(開口)から端部12a(開口)へ最短距離で抜けるためには隔壁中央を通過することになる。この際、第3領域21cの細孔径を第1領域21aと第2領域21bの細孔径よりも小さくし、少し排ガスを通りにくくすることで、排ガスが第1領域21aと第2領域21bにも均等にいきわたり、排ガス浄化性能及びスス捕集性能がより向上する。
【0016】
具体的には、比(Din/Dmid)は、1.2以上であり、好ましくは1.3以上であり、より好ましくは1.35以上である。また、比(Din/Dmid)の上限は、特に制限されないが、好ましくは3以下であり、より好ましくは2.8以下であり、さらに好ましくは2.5以下である。また、比(Dout/Dmid)は、1.2以上であり、好ましくは1.3以上であり、より好ましくは1.35以上である。また、比(Dout/Dmid)の上限は、特に制限されないが、好ましくは3以下であり、より好ましくは2.8以下であり、さらに好ましくは2.5以下である。比(Din/Dmid)及び比(Dout/Dmid)が、それぞれ、1.2以上であることにより、延伸方向において排ガスの流れが一様となり、排ガス浄化性能及びスス捕集性能がより向上する。また、比(Din/Dmid)及び比(Dout/Dmid)が、それぞれ、3以下であることにより、隔壁の中央領域である第3領域21c及びその付近への排ガスの流入が阻害されすぎることにより、かえって排ガス浄化性能及びスス捕集性能が低下することを抑制することができる。
【0017】
第1領域21aの細孔径は、好ましくは12~16μmであり、より好ましくは12.5~15μmであり、さらに好ましくは13~14.5μmである。また、第3領域21cの細孔径は、好ましくは4~13μmであり、より好ましくは5~11.5μmであり、さらに好ましくは7~10.5μmである。さらに、第2領域21bの細孔径は、好ましくは12~16μmであり、より好ましくは12.5~15μmであり、さらに好ましくは13~14.5μmである。各々の細孔径が上記範囲内であることにより、排ガス浄化性能及びスス捕集性能がより向上する傾向にある。
【0018】
上記観点から、第1領域21aの細孔径Din又は第2領域21bの細孔径Doutと、第3領域21cの細孔径Dmidとの差は、それぞれ、好ましくは2.5~10μmであり、より好ましくは3~8μmであり、さらに好ましくは3~6μmである。
【0019】
第1領域21aの細孔径Din、第2領域21bの細孔径Dout、及び第3領域21cの細孔径Dmidを測定するためのサンプルは、第1領域21a、第2領域21b、及び第3領域21cの、隔壁13の延伸方向におけるそれぞれ真ん中に位置する部分から採取する。例えば、ウォールフロー型基材10の延伸方向の全長LW(隔壁13の延伸方向の全長)を100%としたとき、第1領域21a及び第2領域21bが排ガス導入側及び排出側の端部11a,12aからそれぞれ40%の長さで形成されており、第3領域21cが第1領域21a及び第2領域21bの間、すなわちウォールフロー型基材10の延伸方向の中央の20%の領域に形成されているような排ガス浄化触媒を想定する。このような排ガス浄化触媒の場合は、第1領域21aの細孔径Din及び第2領域21bの細孔径Doutを測定するためのサンプルは、排ガス導入側及び排出側の端部11a,12aからそれぞれ20%(=40%/2)に位置する部分から採取し、第3領域21cの細孔径Dmidを測定するためのサンプルは、排ガス導入側の端部11aから50%(=40%+20%/2)に位置する部分から採取する。
【0020】
第1領域21a、第2領域21b、及び第3領域21cの形成される範囲は特に制限されない。例えば、第1領域21a及び第2領域21bが排ガス導入側及び排出側の端部11a,12aからそれぞれ同程度の塗工長さで形成され、第3領域21cが隔壁13の延伸方向において中心に位置するような態様、第1領域21aの塗工長さが第2領域21bの塗工長さよりも短く、第3領域21cが隔壁13の中心よりも排ガス導入側の端部11a寄りに位置するような態様、第2領域21bの塗工長さが第1領域21aの塗工長さよりも短く、第3領域21cが隔壁13の中心よりも排ガス排出側の端部12a寄りに位置するような態様など、いずれであってもよい。
【0021】
具体的には、隔壁13の延伸方向(長さ方向)において、第1領域21aが形成されている範囲L1(塗工長さ)は、ウォールフロー型基材10の延伸方向の全長Lw(隔壁13の延伸方向の全長)を100%として、好ましくは20~80%であり、より好ましくは25~75%であり、さらに好ましくは30~70%である。また。第2領域21bが形成されている範囲L2(塗工長さ)は、ウォールフロー型基材10の延伸方向の全長LW(隔壁13の延伸方向の全長)を100%として、好ましくは20~80%であり、より好ましくは25~75%であり、さらに好ましくは30~70%である。さらに、第3領域21cが形成されている範囲L3(塗工長さ)は、ウォールフロー型基材10の延伸方向の全長Lw(隔壁13の延伸方向の全長)を100%として、好ましくは1~35%であり、より好ましくは3~25%であり、さらに好ましくは5~15%である。
【0022】
触媒層21が、隔壁13の厚さ方向において、導入側セル11側のセル壁面から排出側セル12側のセル壁面にかけて形成されており、また、触媒層21が、隔壁13の厚さ方向において、導入側セル11側又は排出側セル12側に偏在していないことが好ましい。これにより、圧力損失を向上させることなく、スス捕集性能及び排ガス浄化性能をより向上させることができる。なお、「偏在」とは、隔壁13の壁厚Twとしたとき、導入側セル11側又は排出側セル12側のセル壁面からTw*5/10までの深さ領域T1に、触媒層21の総質量の60%以上が存在することをいう。
【0023】
(細孔容積)
細孔径と同様の観点から、第3領域21cの細孔分布から算出される細孔径1μm以上の細孔容積Vmidを、第1領域21aの細孔分布から算出される細孔径1μm以上の細孔容積Vin及び第2領域21bの細孔分布から算出される細孔径1μm以上の細孔容積Voutよりも、それぞれ、所定値以上の大きくする。
【0024】
具体的には、比(Vin/Vmid)は、好ましくは1.3以上であり、より好ましくは1.35以上であり、さらに好ましくは1.37以上である。また、比(Vin/Vmid)の上限は、特に制限されないが、好ましくは2以下であり、より好ましくは1.8以下であり、さらに好ましくは1.6以下である。また、比(Vout/Vmid)は、好ましくは1.3以上であり、より好ましくは1.35以上であり、さらに好ましくは1.37以上である。また、比(Vout/Vmid)の上限は、特に制限されないが、好ましくは2以下であり、より好ましくは1.8以下であり、さらに好ましくは1.6以下である。比(Vin/Vmid)及び比(Vout/Vmid)が、それぞれ、1.3以上であることにより、延伸方向において排ガスの流れが一様となり、排ガス浄化性能及びスス捕集性能がより向上する。また、比(Vin/Vmid)及び比(Vout/Vmid)が、それぞれ、2以下であることにより、第3領域21cへの排ガスの流入が阻害されすぎることにより、かえって排ガス浄化性能及びスス捕集性能が低下することを抑制することができる。
【0025】
第1領域21aの1μm以上の細孔容積は、好ましくは0.30~0.60cc/gであり、より好ましくは0.35~0.55cc/gであり、さらに好ましくは0.40~0.50cc/gである。また、第3領域21cの細孔径は、好ましくは0.20~0.45cc/gであり、より好ましくは0.25~0.40cc/gであり、さらに好ましくは0.30~0.35cc/gである。さらに、第2領域21bの細孔径は、好ましくは0.30~0.60cc/gであり、より好ましくは0.35~0.55cc/gであり、さらに好ましくは0.40~0.50cc/gである。各々の1μm以上の細孔容積が上記範囲内であることにより、スス捕集性能及び排ガス浄化性能がより向上する傾向にある。
【0026】
なお、第1領域21a、第3領域21c、及び第2領域21bの各細孔径及び細孔容積は、下記実施例に記載の条件において水銀圧入法により算出される値を意味する。
【0027】
第1領域21a、第3領域21c、及び第2領域21bの各細孔径及び細孔容積を所定の範囲に調整する方法としては、特に制限されないが、例えば、第3領域21cに形成する触媒層の厚さを厚くすることなどが考えられる。
【0028】
(基材)
ウォールフロー型基材10は、排ガス導入側の端部11aが開口した導入側セル11と、該導入側セル11に隣接し排ガス排出側の端部12aが開口した排出側セル12とが、多孔質の隔壁13によって仕切られているウォールフロー型構造を有する。
【0029】
基材10としては、従来のこの種の用途に用いられる種々の材質及び形体のものが使用可能である。例えば、基材の材質は、内燃機関が高負荷条件で運転された際に生じる高温(例えば400℃以上)の排ガスに曝された場合や、粒子状物質を高温で燃焼除去する場合などにも対応可能なように、耐熱性素材からなるものが好ましい。耐熱性素材としては、例えば、コージェライト、ムライト、チタン酸アルミニウム、及び炭化ケイ素(SiC)等のセラミック;ステンレス鋼などの合金が挙げられる。また、基材の形体は、排ガス浄化性能及び圧力損失上昇抑制等の観点から適宜調整することが可能である。例えば、基材の外形は、円筒形状、楕円筒形状、又は多角筒形状等とすることができる。また、組み込む先のスペースなどにもよるが、基材の容量(セルの総体積)は、好ましくは0.1~5Lであり、より好ましくは0.5~3Lである。また、基材の延伸方向の全長(隔壁13の延伸方向の全長)は、好ましくは10~500mm、より好ましくは50~300mmである。
【0030】
導入側セル11と排出側セル12は、筒形状の軸方向に沿って規則的に配列されており、隣り合うセル同士は延伸方向の一の開口端と他の一の開口端とが交互に封止されている。導入側セル11及び排出側セル12は、供給される排ガスの流量や成分を考慮して適当な形状および大きさに設定することができる。例えば、導入側セル11及び排出側セル12の口形状は、三角形;正方形、平行四辺形、長方形、及び台形等の矩形;六角形及び八角形等のその他の多角形;円形とすることができる。また、導入側セル11の断面積と、排出側セル12の断面積とを異ならせたHigh Ash Capacity(HAC)構造を有するものであってもよい。
【0031】
なお、導入側セル11及び排出側セル12の個数は、排ガスの乱流の発生を促進し、かつ、排ガスに含まれる微粒子等による目詰まりを抑制できるように適宜設定することができ、特に限定されないが、好ましくは200cpsi~400cpsiである。また、隔壁13の厚み(延伸方向に直交する厚さ方向の長さ)は、好ましくは6~12milであり、より好ましくは6~10milである。
【0032】
隣り合うセル同士を仕切る隔壁13は、排ガスが通過可能な多孔質構造を有するものであれば特に制限されず、その構成については、排ガス浄化性能や圧力損失の上昇抑制、基材の機械的強度の向上等の観点から適宜調整することができる。例えば、後述する触媒スラリーを用いて該隔壁13内の気孔表面に触媒層21を形成する場合、細孔径(例えば、モード径(細孔径の頻度分布における出現比率がもっとも大きい細孔径(分布の極大値)))や細孔容積が大きい場合には、触媒層21による気孔の閉塞が生じにくく、得られる排ガス浄化触媒は圧力損失が上昇しにくいものとなる傾向にあるが、粒子状物質の捕集能力が低下し、また、基材の機械的強度も低下する傾向にある。一方で、細孔径や細孔容積が小さい場合には、圧力損失が上昇しやすいものとなるが、粒子状物質の捕集能力は向上し、基材の機械的強度も向上する傾向にある。
【0033】
このような観点から、触媒層21を形成する前のウォールフロー型基材10の隔壁13の細孔径(モード径)は、好ましくは8~25μmであり、より好ましくは10~22μmであり、さらに好ましくは13~20μmである。また、隔壁13の気孔率は、好ましくは20~80%であり、より好ましくは40~70%であり、さらに好ましくは60~70%である。気孔率が下限以上であることにより、圧力損失の上昇がより抑制される傾向にある。また、気孔率が上限以下であることにより、基材の強度がより向上する傾向にある。なお、細孔径(モード径)、及び気孔率は、下記実施例に記載の条件において水銀圧入法により算出される値を意味する。
【0034】
(触媒層)
次に、隔壁13の気孔内に形成された触媒層21について説明する。触媒層21は、従来のこの種の用途に用いられる種々の態様のものが使用可能である。例えば、触媒層21の態様として、触媒金属粒子と担体粒子とを含む触媒スラリーを焼成してなるものが挙げ有られる。このように各種粒子を含む触媒スラリーを焼成して形成される触媒層21は、焼成により粒子同士が結着した微多孔構造を有する。
【0035】
触媒層21に含まれる触媒金属としては、特に制限されず、種々の酸化触媒や還元触媒として機能し得る金属種を用いることができる。例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)及びオスミウム(Os)等の白金族金属が挙げられる。このなかでも、酸化活性の観点からはパラジウム(Pd)、白金(Pt)が好ましく、還元活性の観点からはロジウム(Rh)が好ましい。本実施形態においては、上記のとおり一種以上の触媒金属を混合された状態で含有する触媒層21を有する。特に二種以上の触媒金属の併用により、異なる触媒活性を有することによる相乗的な効果が期待される。
【0036】
このような触媒金属の組み合わせの態様は、特に制限されず、酸化活性に優れる二種以上の触媒金属の組み合わせ、還元活性に優れる二種以上の触媒金属の組み合わせ、酸化活性に優れる触媒金属と還元活性に優れる触媒金属の組み合わせが挙げられる。このなかでも、相乗効果の一つの態様として、酸化活性に優れる触媒金属と還元活性に優れる触媒金属の組み合わせが好ましく、Rh、Pd及びRh、または、Pt及びRhを少なくとも含む組合せがより好ましい。このような組み合わせとすることにより、排ガス浄化性能がより向上する傾向にある。
【0037】
なお、触媒層21が触媒金属を含有することは、排ガス浄化触媒の隔壁13の断面の走査型電子顕微鏡などにより確認することができる。具体的には、走査型電子顕微鏡の視野においてエネルギー分散型X線分析を行うことにより確認することができる。
【0038】
触媒層21に含まれ、触媒金属を担持する担体粒子としては、従来この種の排ガス浄化触媒で使用される無機化合物を考慮することができる。例えば、酸化セリウム(セリア:CeO2)、セリア-ジルコニア複合酸化物(CZ複合酸化物)等の酸素吸蔵材(OSC材)、酸化アルミニウム(アルミナ:Al2O3)、酸化ジルコニウム(ジルコニア:ZrO2)、酸化ケイ素(シリカ:SiO2)、酸化チタン(チタニア:TiO2)等の酸化物やこれらの酸化物を主成分とした複合酸化物を挙げることができる。これらは、ランタン、イットリウム等の希土類元素、遷移金属元素、アルカリ土類金属元素が添加された複合酸化物若しくは固溶体であってもよい。なお、これら担体粒子は、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。ここで、酸素吸蔵材(OSC材)とは、排ガスの空燃比がリーンであるとき(即ち酸素過剰側の雰囲気)には排ガス中の酸素を吸蔵し、排ガスの空燃比がリッチであるとき(即ち燃料過剰側の雰囲気)には吸蔵されている酸素を放出するものをいう。
【0039】
第3領域の形成範囲は、隔壁の延伸方向の全長100%に対して、好ましくは2~20%であり、より好ましくは3~15%であり、さらに好ましくは5~10%である。これにより、排ガスが第1領域21aと第2領域21bにも均等にいきわたり、排ガス浄化性能及びスス捕集性能がより向上する傾向にある。
【0040】
また、触媒層が延伸方向に沿って異なる触媒金属により形成される複数の領域を有する場合、第1領域21aはPd及び/又はRhを含むことが好ましく、Pdを含むことがより好ましい。一方で、第2領域21bはPd及び/又はRhを含むことが好ましく、Rhを含むことがより好ましい。第1領域21a及び第2領域21bが上記触媒金属を有することにより、排ガス浄化性能がより向上する傾向にある。
【0041】
なお、内燃機関、特にガソリンエンジンから排出される排ガスを浄化する排ガス浄化触媒であって、特に、粒子状物質の捕集用途に用いられるという観点から、排ガス浄化触媒100の触媒層の塗工量(ウォールフロー型基材1Lあたりの触媒金属質量を除く触媒層の塗工量)は、好ましくは20~110g/Lであり、より好ましくは40~90g/Lであり、さらに好ましくは50~70g/Lである。また、触媒層21が形成された状態の排ガス浄化触媒100の水銀圧入法による隔壁13の気孔率は、好ましくは20~80%であり、より好ましくは30~70%であり、好ましくは35~60%である。
【0042】
[排ガス浄化触媒の製造方法]
本実施形態の製造方法は、内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化触媒100の製造方法であって、排ガス導入側の端部11aが開口した導入側セル11と、該導入側セル11に隣接し排ガス排出側の端部12aが開口した排出側セル12とが、多孔質の隔壁13により画定されたウォールフロー型基材10を準備する工程S0と、ウォールフロー型基材10の隔壁13内の気孔表面上の少なくとも一部に、触媒スラリーを塗工して、触媒層21を形成する触媒層形成工程S1と、を有し、該触媒層形成工程S1において、排ガス導入側の端部11aから隔壁13の延伸方向に沿って形成される第1領域21aと、排ガス排出側の端部12aから隔壁13の延伸方向に沿って形成される第2領域21bと、第1領域21aと第2領域21bとが重なる第3領域21cと、を有し、第3領域21cの細孔分布から算出される細孔径Dmidに対する第1領域21aの細孔分布から算出される細孔径Dinの比(Din/Dmid)が、1.2以上であり、細孔径Dmidに対する第2領域21bの細孔分布から算出される細孔径Doutの比(Dout/Dmid)が、1.2以上である触媒層21を有する排ガス浄化触媒100を製造することを特徴とする。
【0043】
以下、各工程について説明する。なお、本明細書においては、触媒層21を形成する前のウォールフロー型基材を「基材10」と表記し、触媒層21を形成した後のウォールフロー型基材を「排ガス浄化触媒100」と表記する。
【0044】
<準備工程>
この準備工程S0では、基材として、上記排ガス浄化触媒100において述べたウォールフロー型基材10を準備する。
【0045】
<触媒層形成工程>
この触媒層形成工程S1では、隔壁13の気孔表面に触媒スラリーを塗工して、乾燥させ、焼成することで、触媒層21を形成する。触媒スラリーの塗工方法は、特に制限されないが、例えば、基材10の一部に触媒スラリーを含浸させて、それを基材10の隔壁13全体に広げる方法のほか、排ガス導入側の端部11aと排ガス排出側の端部12aを個別に触媒スラリーに含浸させる方法が挙げられる。より具体的には、排ガス導入側の端部11aに触媒スラリーを含侵させる含浸工程S1aと、触媒スラリーを含浸させた端部と反対側の端部から基材10内に気体を導入させることにより、基材10に含浸した余剰の触媒スラリーを排出する排出工程S1bを有する方法が挙げられる。
【0046】
含浸工程S1aにおける触媒スラリーの含浸方法としては、特に制限されないが、例えば、触媒スラリーに基材10の端部を浸漬させる方法が挙げられる。この方法においては、必要に応じて、反対側の端部から気体を排出(吸引)させることにより触媒スラリーを引き上げてもよい。触媒スラリーを含浸させる端部は、排ガス導入側の端部11a又は排ガス排出側の端部12aのどちらでもよい。
【0047】
また、排出工程S1bでは、触媒スラリーは、基材10の導入側から所定の位置まで吸い上げられ、その後、触媒スラリーを含浸させた端部と反対側の端部から基材10内に気体を導入させることにより、基材10の導入側から余剰分を排出する。その過程において、隔壁13の気孔内部を触媒スラリーが通過することで、気孔内部に触媒スラリーを塗工することができ、触媒スラリーを吸い上げた位置まで隔壁に触媒スラリーが塗工される。このような方法を用い、例えば、第3領域21cに重複して触媒スラリーを塗工することにより、第3領域21cの細孔径を第1領域21aと第2領域21bの細孔径よりも小さくすることができる。
【0048】
乾燥工程S1cでは、塗工した触媒スラリーを乾燥させる。乾燥工程S1cにおける乾燥条件は、触媒スラリーから溶媒が揮発するような条件であれば特に制限されない。例えば、乾燥温度は、好ましくは100~225℃であり、より好ましくは100~200℃であり、さらに好ましくは125~175℃である。また、乾燥時間は、好ましくは0.5~2時間であり、好ましくは0.5~1.5時間である。
【0049】
焼成工程S1dでは、触媒スラリーを焼成して、触媒層21を形成する。焼成工程S1dにおける焼成条件は、触媒スラリーから触媒層21が形成できるような条件であれば特に制限されない。例えば、焼成温度は、特に制限されないが、好ましくは400~650℃であり、より好ましくは450~600℃であり、さらに好ましくは500~600℃である。また、焼成時間は、好ましくは0.5~2時間であり、好ましくは0.5~1.5時間である。
【0050】
(触媒スラリー)
触媒層21を形成するための触媒スラリーについて説明する。触媒スラリーは、触媒粉体と、水などの溶剤とを含む。触媒粉体は、触媒金属粒子と該触媒金属粒子を担持する担体粒子とを含む、複数の触媒粒子の集団であり、後述する焼成工程を経て、触媒層21を形成する。触媒粒子は、特に限定されず、公知の触媒粒子から適宜選択して用いることができる。なお、隔壁13の気孔内への塗工性の観点から、触媒スラリーの固形分率は、好ましくは1~50質量%であり、より好ましくは15~40質量%であり、さらに好ましくは20~35質量%である。このような固形分率とすることにより、触媒スラリーを隔壁13内の導入側セル11側に塗工しやすくなる傾向にある。
【0051】
触媒スラリーに含まれる触媒金属としては、特に制限されず、種々の酸化触媒や還元触媒として機能し得る金属種を用いることができる。例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)及びオスミウム(Os)等の白金族金属が挙げられる。このなかでも、酸化活性の観点からはパラジウム(Pd)、白金(Pt)が好ましく、還元活性の観点からはロジウム(Rh)が好ましい。
【0052】
触媒金属粒子を担持する担体粒子としては、従来この種の排ガス浄化触媒で使用される無機化合物を考慮することができる。例えば、酸化セリウム(セリア:CeO2)、セリア-ジルコニア複合酸化物(CZ複合酸化物)等の酸素吸蔵材(OSC材)、酸化アルミニウム(アルミナ:Al2O3)、酸化ジルコニウム(ジルコニア:ZrO2)、酸化ケイ素(シリカ:SiO2)、酸化チタン(チタニア:TiO2)等の酸化物やこれらの酸化物を主成分とした複合酸化物を挙げることができる。これらは、ランタン、イットリウム等の希土類元素、遷移金属元素、アルカリ土類金属元素が添加された複合酸化物若しくは固溶体であってもよい。なお、これら担体粒子は、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。ここで、酸素吸蔵材(OSC材)とは、排ガスの空燃比がリーンであるとき(即ち酸素過剰側の雰囲気)には排ガス中の酸素を吸蔵し、排ガスの空燃比がリッチであるとき(即ち燃料過剰側の雰囲気)には吸蔵されている酸素を放出するものをいう。なお、排ガス浄化性能の観点から、触媒スラリーに含まれる担体粒子の比表面積は、好ましくは10~500m2/g、より好ましくは30~200m2/gである。
【0053】
[用途]
内燃機関(エンジン)には、酸素と燃料ガスとを含む混合気が供給され、この混合気が燃焼されて、燃焼エネルギーが力学的エネルギーに変換される。このときに燃焼された混合気は排ガスとなって排気系に排出される。排気系には、排ガス浄化触媒を備える排ガス浄化装置が設けられており、排ガス浄化触媒により排ガスに含まれる有害成分(例えば、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx))が浄化されるとともに、排ガスに含まれる粒子状物質(PM)が捕集され、除去される。特に、本実施形態の排ガス浄化触媒100は、ガソリンエンジンの排ガスに含まれる粒子状物質を捕集し、除去できるガソリンパティキュレートフィルタ(GPF)に用いられるものであることが好ましい。
【実施例】
【0054】
以下に試験例、実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらによりなんら限定されるものではない。すなわち、以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜変更することができる。また、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における好ましい上限値又は好ましい下限値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0055】
(実施例1)
アルミナ粉末に、硝酸ロジウム水溶液を含浸させ、その後、500℃で1時間焼成して、Rh担持粉末を得た。得られたRh担持粉末0.5kgと、セリアジルコニア複合酸化物粉末2kgと、46%硝酸ランタン水溶液195gと、イオン交換水とを混合し、得られた混合物をボールミルに投入し、触媒粉体が所定の粒子径分布になるまでミリングし、触媒スラリーを得た。得られた触媒スラリーに、水酸化バリウム八水和物183gと、60%硝酸とを混合し、触媒スラリーを得た。
【0056】
また、アルミナ粉末に、硝酸パラジウム水溶液を含浸させ、その後、500℃で1時間焼成して、Pd担持粉末を得た。得られたPd担持粉末0.5kgと、セリアジルコニア複合酸化物粉末2kgと、46%硝酸ランタン水溶液195gと、イオン交換水とを混合し、得られた混合物をボールミルに投入し、触媒粉体が所定の粒子径分布になるまでミリングし、触媒スラリーを得た。得られた触媒スラリーに、水酸化バリウム八水和物183gと、60%硝酸とを混合し、触媒スラリーを得た。
【0057】
次いで、コージェライト製のウォールフロー型ハニカム基材(セル数/ミル厚:300cpsi/10mil、直径:118.4mm、全長:127mm、細孔径(モード径):16.4μm、気孔率:65%)を用意した。この基材の排ガス導入側の端部をRhを含む触媒スラリーに浸漬させ、反対側の端部側から減圧吸引して、基材の中心まで触媒スラリーを含浸保持させて、隔壁内の気孔表面に触媒スラリーを塗工した。その後、排ガス排出側の端部から基材内へ気体を流入させて、基材の排ガス導入側の端部から過剰分の触媒スラリーを吹き払った。
【0058】
また、基材の排ガス排出側の端部をPdを含む触媒スラリーに浸漬させ、反対側の端部側から減圧吸引して、基材の中心まで触媒スラリーを含浸保持させて、隔壁内の気孔表面に触媒スラリーを塗工した。その後、排ガス導入側の端部から基材内へ気体を流入させて、基材の排ガス排出側の端部から過剰分の触媒スラリーを吹き払った。なお、Pdを含む触媒スラリーの塗工領域とRhを含む触媒スラリーの塗工領域とが、延伸方向の全長に対し2%重複するように塗工した。
【0059】
その後、触媒スラリーを塗工した基材を150℃で乾燥させた後、大気雰囲気下、550℃で焼成して、排ガス浄化触媒を作製した。なお、焼成後における触媒層の塗工量は、基材1L当たり57.8g(白金族金属の重量を除く)であった。また、Rhを含む触媒スラリーおよびPdを含む触触媒スラリーによる触媒層は、隔壁の厚さ方向において、導入側セル側のセル壁面から排出側セル側のセル壁面にかけて形成されていた。
【0060】
(実施例2)
Pdを含む触媒スラリーの塗工領域とRhを含む触媒スラリーの塗工領域とが、延伸方向の全長に対し7%重複するように塗工したこと以外は、実施例1で作製した排ガス浄化触媒と同様の触媒を作製した。
【0061】
(実施例3)
Pdを含む触媒スラリーの塗工領域とRhを含む触媒スラリーの塗工領域とが、延伸方向の全長に対し22%重複するように塗工したこと以外は、実施例1で作製した排ガス浄化触媒と同様の触媒を作製した。
【0062】
(比較例1)
上記Rh担持粉末0.5kgと、上記Pd担持粉末0.5kgと、セリアジルコニア複合酸化物粉末2kgと、46%硝酸ランタン水溶液195gと、イオン交換水とを混合し、得られた混合物をボールミルに投入し、触媒粉体が所定の粒子径分布になるまでミリングし、触媒スラリーを得た。得られた触媒スラリーに、水酸化バリウム八水和物183gと、60%硝酸とを混合し、触媒スラリーを得た。
【0063】
基材への触媒スラリーの塗工方法において、基材の排ガス導入側の端部を上記のようにして調製した触媒スラリーに浸漬させ、反対側の端部側から減圧吸引して、基材端部に触媒スラリーを含浸保持させた。排ガス導入側の端部から基材内へ気体を流入させて、隔壁内の気孔表面に触媒スラリーを塗工するとともに、基材の排ガス排出側の端部から過剰分の触媒スラリーを吹き払って、気体の流入を停止したこと以外は、実施例1と同様にして、排ガス浄化触媒を作製した。なお、焼成後における触媒層の塗工量は、基材1L当たり58.8g(白金族金属の重量を除く)であった。
【0064】
(比較例2)
Rhを含む触媒スラリーおよびPdを含む触媒スラリーそれぞれに代えて、比較例1において調製した触媒スラリーを用い、排ガス導入側の端部から浸漬した触媒スラリーの塗工領域と排ガス排出側の端部から浸漬した触媒スラリーの塗工領域とは、重複しないように塗工したこと以外は、実施例1と同様にして、排ガス浄化触媒を作製した。なお、焼成後における触媒層の塗工量は、基材1L当たり58.8g(白金族金属の重量を除く)であった。
【0065】
[細孔径及び細孔容積の算出]
実施例及び比較例で作製した排ガス浄化触媒の隔壁の、第1領域21a、第2領域21b、及び第3領域21cの、隔壁13の延伸方向におけるそれぞれ真ん中に位置する部分から、細孔径(モード径)及び細孔容積の測定用サンプル(1cm3)をそれぞれ採取した。また、触媒スラリーを塗工する前の基材については、実施例及び比較例で作製した排ガス浄化触媒においてそれぞれサンプル採取した同位置の部分から、細孔径(モード径)及び細孔容積の測定用サンプル(1cm3)をそれぞれ採取した。なお、この際、各領域から10点以上、合計で1cm3となるように測定用サンプルを採取した。測定用サンプルを乾燥後、水銀ポロシメーター(Thermo Fisher Scientific社製、商品名:PASCAL140及びPASCAL440)を用いて、水銀圧入法により気孔分布を測定した。この際、PASCAL140により低圧領域(0~400Kpa)を測定し、PASCAL440により高圧領域(0.1Mpa~400Mpa)を測定した。得られた気孔分布から、細孔径(モード径)を求め、また、細孔径1μm以上の気孔における細孔容積を算出した。
【0066】
次いで、気孔率の算出は下記式により行った。これらの結果の一部を、下記表3に示す。
排ガス浄化触媒の気孔率(%)=触媒層が形成された隔壁の細孔容積(cc/g)÷基材の細孔容積(cc/g)×基材の気孔率(%)
基材の気孔率(%)=65%
【0067】
[車両NOx浄化性能評価]
市販のフロースルー型三元触媒をコンバーターに格納後、格納した三元触媒の後段に実施例及び比較例で作製した排ガス浄化触媒をコンバーターに格納し、ガソリンエンジンの排気口の後流にコンバーターを装着した。その後、定常、減速、加速のサイクルを10時間繰り返した。温度は定常時950℃となるよう設定し、熱耐久処理を行った。
【0068】
その後、耐久処理後の市販のフロースルー型三元触媒と、実施例及び比較例で作製した排ガス浄化触媒をコンバーターに格納し、欧州仕様の排気量1.5Lの直噴ターボエンジンを搭載するガソリン車を用いて、WLTCモードにて触媒の排ガス浄化性能を調べた。
【0069】
[スス捕集性能の測定]
実施例及び比較例で作製した排ガス浄化触媒を、1.5L直噴ターボエンジン搭載車に取り付け、固体粒子数測定装置(堀場製作所製、商品名:MEXA-2100 SPCS)を用いて、WLTCモード走行時のスス排出数量(PN
test)を測定した。なお、ススの捕集率は、排ガス浄化触媒を搭載せずに上記試験を行った際に測定したスス量(PN
blank)からの減少率として、下記式により算出した。その結果を
図3に示す。
ススの捕集率(%)=(PN
blank-PN
test)/PN
blank × 100(%)
【0070】
【0071】
以上より、実施例においては、細孔径を調整することにより、ススの捕集率を高く維持しつつ、排ガス浄化性能の向上が達成されており、比較例においては、隔壁の延伸方向において細孔径が比較的均一であることによりススの捕集率が低く、また排ガス浄化性能も低下していた。
【0072】
本出願は、2018年11月28日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2018-222097)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の排ガス浄化触媒は、ガソリンエンジンの排ガス中に含まれる粒子状物質を除去するため排ガス浄化触媒として広く且つ有効に利用することができる。また、本発明の排ガス浄化触媒は、ガソリンエンジンのみならず、ジェットエンジン、ボイラー、ガスタービン等の排ガス中に含まれる粒子状物質を除去するため排ガス浄化触媒としても有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0074】
10 ・・・ウォールフロー型基材
11 ・・・導入側セル
11a・・・排ガス導入側の端部
12 ・・・排出側セル
12a・・・排ガス排出側の端部
13 ・・・隔壁
21 ・・・触媒層
21a・・・第1領域
21b・・・第2領域
21c・・・第3領域
100 ・・・排ガス浄化触媒