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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】光拡散ファイバ及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/00 20060101AFI20230725BHJP
   G02B 6/036 20060101ALI20230725BHJP
   G02B 6/02 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
G02B6/00 326
G02B6/036
G02B6/02 411
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021081403
(22)【出願日】2021-05-13
(65)【公開番号】P2022175188
(43)【公開日】2022-11-25
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003263
【氏名又は名称】三菱電線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 正俊
(72)【発明者】
【氏名】八若 正義
(72)【発明者】
【氏名】谷口 浩一
【審査官】奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-029454(JP,A)
【文献】特表2017-536571(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0094161(US,A1)
【文献】特開2019-191394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/00- 6/10
G02B 6/245-6/25
G02B 6/44- 6/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側コアと、前記内側コアを被覆する内側クラッドと、前記内側クラッドを被覆する外側コアと、前記外側コアを被覆する外側クラッドとを備えた多重コア構造と、
前記多重コア構造における前記内側コアを伝搬する光をファイバ外部に取り出す光取り出し手段と、
を有し、
前記多重コア構造は、前記内側コア、前記内側クラッド、及び前記外側コアが光散乱体を含まない一方、前記外側クラッドが光散乱体を含み、
前記光取り出し手段は、前記多重コア構造の光源側とは反対側に接続されるとともに、前記内側コアに結合したコアと、前記コアを被覆する光散乱体を含むクラッドとを備えた光ファイバで構成されている光拡散ファイバ。
【請求項2】
内側コアと、前記内側コアを被覆する内側クラッドと、前記内側クラッドを被覆する外側コアと、前記外側コアを被覆する外側クラッドとを備え、長さ方向の中間部に曲げ構造が設けられた多重コア構造と、
前記多重コア構造における前記内側コアを伝搬する光をファイバ外部に取り出す光取り出し手段と、
を有し、
前記多重コア構造は、前記内側コア、前記内側クラッド、及び前記外側コアが光散乱体を含まない一方、前記外側クラッドが光散乱体を含み、
前記光取り出し手段は、前記多重コア構造における前記曲げ構造及びそれよりも光源側とは反対側の部分で構成されている光拡散ファイバ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された光拡散ファイバの使用方法であって、
前記多重コア構造における前記内側コア及び前記外側コアに光量の異なる光を入射させる光拡散ファイバの使用方法。
【請求項4】
内側コアと、前記内側コアを被覆する内側クラッドと、前記内側クラッドを被覆する外側コアと、前記外側コアを被覆する光散乱体を含む外側クラッドとを備えた多重コア構造と、
前記多重コア構造における前記内側コアを伝搬する光をファイバ外部に取り出す光取り出し手段と、
を有する光拡散ファイバの使用方法であって、
前記多重コア構造における前記内側コア及び前記外側コアに異なる色の波長の光を入射させる光拡散ファイバの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光拡散ファイバ及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバでは、通常、光源から入射端に入力された光は、コアを中心としてクラッドに染み出した状態で伝播する。クラッドに染み出した光は、エバネッセント波といわれる。光拡散ファイバでは、クラッドに微粒子が添加されている。エバネッセント波の光は、クラッドの微粒子に当たると散乱する。この散乱光は、光拡散ファイバの側方への発光となってイルミネーションや各種照明等に利用される。
【0003】
ところで、光拡散ファイバにおいては、光源に近い部分では高い発光強度が得られる一方、光源から遠くなるに従って、伝播する光が減衰するため、発光強度は指数関数的に弱くなるという問題がある。この問題に対し、特許文献1には、光拡散ファイバの出射端に反射膜を設けることにより、長さ方向に沿った発光強度の均一化を図ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/199367号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、長さ方向に発光状態をアクティブに変化させることができる光拡散ファイバを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、内側コアと、前記内側コアを被覆する内側クラッドと、前記内側クラッドを被覆する外側コアと、前記外側コアを被覆する光散乱体を含む外側クラッドとを備えた多重コア構造と、前記多重コア構造における前記内側コアを伝搬する光をファイバ外部に取り出す光取り出し手段とを有する光拡散ファイバである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、多重コア構造における内側コア及び外側コアへの光の励振態様を操作することにより、外側クラッドからファイバ外部に取り出される外側コアを伝播する光と、光取り出し手段から取り出される内側コアを伝播する光との使い分けにより、長さ方向に発光状態をアクティブに変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A】実施形態1に係る光拡散ファイバの模式的な縦断面図である。
図1B図1AにおけるIB-IB断面図である。
図1C図1AにおけるIC-IC断面図である。
図2A】実施形態2に係る光拡散ファイバの一部分の縦断面図である。
図2B】実施形態2に係る光拡散ファイバの使用状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
(実施形態1)
図1A乃至Cは、実施形態1に係る光拡散ファイバ10を示す。この光拡散ファイバ10は、例えば自動車の室内ランプやコンビネーションランプ、イルミネーション、各種照明等に用いられるものである。
【0011】
実施形態1に係る光拡散ファイバ10は、二重コア構造(多重コア構造)を有する光ファイバの第1ファイバ部分11と、単一コア構造を有する光ファイバの第2ファイバ部分12とが接続されて構成されている。なお、実施形態1に係る光拡散ファイバ10は、これらの第1ファイバ部分11及び第2ファイバ部分12を被覆する透明なジャケットを有していてもよい。
【0012】
第1ファイバ部分11の光ファイバが有する二重コア構造は、内側コア111と、その内側コア111に接触して被覆する内側クラッド112と、その内側クラッド112に接触して被覆する外側コア113と、その外側コア113に接触して被覆する外側クラッド114とを備える。二重コア構造は、断面形状が円形の内側コア111がファイバ中心に設けられるとともに、その内側コア111を中心として、各々、断面形状が環状の層の内側クラッド112、外側コア113、及び外側クラッド114が、内側から外側に向かって連続するように同心状に設けられている。
【0013】
内側コア111は、例えば高屈折率の石英で形成されている。内側コア111を形成する石英は、純粋石英であることが好ましいが、GeやP等の屈折率を高めるドーパントがドープされた石英であってもよい。
【0014】
内側クラッド112は、例えば内側コア111よりも低屈折率の石英で形成されている。内側クラッド112を形成する石英は、FやB等の屈折率を下げるドーパントがドープされた石英であることが好ましい。
【0015】
外側コア113は、例えば内側クラッド112よりも高屈折率の石英で形成されている。外側コア113を形成する石英は、内側コア111と同様、純粋石英であることが好ましいが、GeやP等の屈折率を高めるドーパントがドープされた石英であってもよい。外側コア113は、内側コア111と同一材料で形成されていてもよい。
【0016】
外側クラッド114は、そのクラッド本体が例えば外側コア113よりも低屈折率のシリコーン樹脂やアクリル樹脂で形成されている。外側クラッド114は、クラッド本体の層内に分散したクラッド本体とは屈折率の異なる光散乱体Sを含む。光散乱体Sとしては、例えば、粉状の樹脂、セラミックス、金属などの他、気泡等も挙げられる。
【0017】
第2ファイバ部分12の光ファイバが有する単一コア構造は、コア121と、そのコア121に接触して被覆するクラッド122とを備える。第2ファイバ部分12のコア121及びクラッド122は、それぞれ第1ファイバ部分11の外側コア113及び外側クラッド114と同様の構成を有する。したがって、コア121は、第1ファイバ部分11の内側コア111及び外側コア113が光学的に結合している。クラッド122は、その層内に分散した光散乱体Sを含む。
【0018】
上記の構成の実施形態1に係る光拡散ファイバ10において、例えば半導体レーザ等の光源からの光で、二重コア構造を有する第1ファイバ部分11の入射端の全体を均一に励振すると、第1ファイバ部分11では、内側コア111に入射した光は、概ねそのまま内側コア111を伝播する。一方、外側コア113に入射した光は、外側コア113を含む領域を中心として、外側クラッド114にエバネッセント波の光が染み出した状態で伝播する。外側クラッド114に染み出したエバネッセント波の光は、外側クラッド114の光散乱体Sに当たって散乱することによりファイバ外部に放射されて側方への発光となる。
【0019】
第2ファイバ部分12では、第1ファイバ部分11の内側コア111を伝播した光及び外側コア113を伝播した光が入射する。これらの光は、コア121を中心として、クラッド122にエバネッセント波の光が染み出した状態で伝播する。クラッド122に染み出したエバネッセント波の光は、クラッド122の光散乱体Sに当たって散乱することによりファイバ外部に出射されて側方への発光となる。
【0020】
ここで、第2ファイバ部分12には、上記の通り、第1ファイバ部分11の内側コア111を伝播した光及び外側コア113を伝播した光が入射するが、これらのうちの後者は、第1ファイバ部分11での発光に消費されて減衰している。一方、前者は、第1ファイバ部分11での減衰がほとんどない。そのため、第2ファイバ部分12においては、主として、第1ファイバ部分11の内側コア111を伝播した減衰の少ない光に起因した光がファイバ外部に放射されて側方への発光となる。つまり、実施形態1に係る光拡散ファイバ10では、第2ファイバ部分12が、第1ファイバ部分11の内側コア111を伝搬する光をファイバ外部に取り出す光取り出し手段を構成する。このように、実施形態1に係る光拡散ファイバ10では、光源に近い第1ファイバ部分11と、光源から遠い第2ファイバ部分12との間での発光強度の均一化を図ることができる。
【0021】
また、実施形態1に係る光拡散ファイバ10において、光源からの光で入射端における内側コア111を中心に図1AのX部分を励振した場合には、内側コア111には相対的に多量の光が入射するものの、外側コア113には相対的に少量の光しか入射しない。そのため、第1ファイバ部分11の発光強度は相対的に低くなる一方、第2ファイバ部分12の発光強度は相対的に高くなる。光源からの光で入射端における外側コア113を中心に図1AのY部分を励振した場合には、内側コア111には相対的に少量の光しか入射しないが、外側コア113には多量の光が入射する。そのため、第1ファイバ部分11の発光強度は相対的に高くなる一方、第2ファイバ部分12の発光強度は相対的に低くなる。このように、実施形態1に係る光拡散ファイバ10では、入射端における励振位置を変化させ、内側コア111及び外側コア113に光量の異なる光を入射させることにより、第1ファイバ部分11及び第2ファイバ部分12の発光強度を変えることができる。
【0022】
さらに、実施形態1に係る光拡散ファイバ10では、内側コア111を中心に図1AのX部分を例えば赤色の波長の光で励振するとともに、外側コア113を中心に図1AのY部分を例えば青色の波長の光で励振した場合には、第1ファイバ部分11では青色の発光が得られるとともに、第2ファイバ部分12では赤色の発光が得られる。つまり、内側コア111及び外側コア113に異なる色の波長の光を入射させることにより、第1ファイバ部分11及び第2ファイバ部分12の発光色を変えることができる。
【0023】
したがって、実施形態1に係る光拡散ファイバ10によれば、第1ファイバ部分11の二重コア構造における内側コア111及び外側コア113への光の励振態様を操作することにより、外側クラッド114からファイバ外部に取り出される外側コア113を伝播する光と、光取り出し手段から取り出される内側コア111を伝播する光との使い分けにより、長さ方向に発光状態をアクティブに変化させることができる。
【0024】
(実施形態2)
図2A及びBは、実施形態2に係る光拡散ファイバ10を示す。なお、実施形態1と同一名称の部分は、実施形態1と同一符号で示す。
【0025】
実施形態2に係る光拡散ファイバ10は、全長に渡って実施形態1に係る光拡散ファイバ10の第1ファイバ部分11と同様の二重コア構造(多重コア構造)を有する。そして、その長さ方向の中間部に曲げ構造13が設けられている。この曲げ構造13では、内側コア111を伝播する光が内側クラッド112を介して外側コア113に漏洩して伝播する。そのため、曲げ構造13よりも光源側とは反対側の部分においては、外側コア113を伝播した光に起因した光に加えて、内側コア111を伝播した光に起因した光もファイバ外部に放射されて側方への発光となる。つまり、実施形態2に係る光拡散ファイバ10では、曲げ構造13及びそれよりも光源側とは反対側の部分が、内側コア111を伝搬する光をファイバ外部に取り出す光取り出し手段を構成する。外側コア112を伝播した光は、曲げ構造13よりも光源側の部分での発光に消費されて減衰しているが、曲げ構造13よりも光源側とは反対側の部分において、内側コア111を伝播した光に起因した光を、外側コア112を伝播した光に起因した光よりも優先的に発光させる観点からは、内側コア111の外側クラッド122に対するNAよりも、外側コア112の外側クラッド122に対するNAの方が高いことが好ましい。
【0026】
上記の構成の実施形態2に係る光拡散ファイバ10において、光源からの光で、二重コア構造を有する第1ファイバ部分11の入射端の全体を均一に励振すると、曲げ構造13までの部分では、外側コア113を伝播した光に起因した光がファイバ外部に放射されて側方への発光となる。ここで、曲げ構造13を、光の減衰により発光強度が低くなる位置に設けておけば、曲げ構造13よりも光源側とは反対側の部分では、外側コア113に漏洩した内側コア111を伝播した減衰の少ない光に起因した光も加わり、それらがファイバ外部に放射されて側方への発光となるため、その発光強度は回復する。このように、実施形態2に係る光拡散ファイバ10では、曲げ構造13の前後間での発光強度の均一化を図ることができる。
【0027】
また、実施形態2に係る光拡散ファイバ10では、入射端における励振位置を変化させ、内側コア111及び外側コア113に光量の異なる光を入射させることにより、曲げ構造13の前後の発光強度を変えることができる。さらに、実施形態2に係る光拡散ファイバ10では、内側コア111及び外側コア113に異なる色の波長の光を入射させることにより、曲げ構造13の前後の発光色を変えることができる。その他の作用効果は、実施形態1と同一である。
【0028】
(その他の実施形態)
上記実施形態1では、二重コア構造を有する第1ファイバ部分11と、単一コア構造を有する第2ファイバ部分12とを接続した構成としたが、特にこれに限定されるものではなく、三重以上の多重コア構造を含む構成であってもよく、例えば第1乃至第3内側コア及び第1乃至第3クラッドと、外側コア及び外側クラッドとを有する四重コア構造、第1乃至第2内側コア及び第1乃至第2内側クラッドと、外側コア及び外側クラッドとを有する三重コア構造、内側コア及び内側クラッドと、外側コア及び外側クラッドとを有する二重コア構造、並びに単一コア構造を順に連結した構成であってもよい。このとき、n重コア構造と(n-1)重コア構造とは、n重コア構造における第(n-1)内側コアが、(n-1)重コア構造における外側コアに光学的に結合していればよい。
【0029】
上記実施形態2では、曲げ構造13を一つ有する構成としたが、特にこれに限定されるものではなく、曲げ構造13を複数有する構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、光拡散ファイバ及びその使用方法の技術分野について有用である。
【符号の説明】
【0031】
10 光拡散ファイバ
11 第1ファイバ部分
111 内側コア
112 内側クラッド
113 外側コア
114 外側クラッド
12 第2ファイバ部分(光取り出し手段)
121 コア
122 クラッド
13 曲げ構造(光取り出し手段)
S 光散乱体
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B