(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】アルツハイマー病を治療するための抗Aベータプロトフィブリル抗体及びベータ-セクレターゼBACE1阻害剤を含む組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20230725BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230725BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230725BHJP
A61K 31/542 20060101ALI20230725BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230725BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20230725BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20230725BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61P25/28
A61P43/00 121
A61K31/542
A61K9/08
A61K9/20
C07K16/18
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022065210
(22)【出願日】2022-04-11
(62)【分割の表示】P 2019521660の分割
【原出願日】2017-10-26
【審査請求日】2022-05-11
(32)【優先日】2016-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506137147
【氏名又は名称】エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】サトリン, アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 達人
【審査官】鶴 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特許第7116725(JP,B2)
【文献】Journal of Neuroscience,2014年,34(35),11621-11630
【文献】Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters,2014年,24,2033-2045
【文献】CrinicalTrials.gov archive, NCT01511783,v7,2015年,https://clinicaltrials.gov/ct2/history/NCT01511783
【文献】Developing Therapeutics for Alzheimer's Disease, Chapter 7,2016年05月,p193-226
【文献】CrinicalTrials.gov archive, NCT01767311,v18,2016年06月,https://clinicaltrials.gov/ct2/history/NCT01767311
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/395
A61P 25/28
A61P 43/00
A61K 31/542
C07K 16/18
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療有効量の抗Aβプロトフィブリル抗体を含む注射組成物並びに治療有効量のN-[3-((4aS,5R,7aS)-2-アミノ-5-メチル-4a,5,7,7a-テトラヒドロ-4H-フロ[3,4-d][1,3]チアジン-7a-イル)-4-フルオロフェニル]-5-ジフルオロメチルピラジン-2-カルボキサミド及び/又はその医薬的に許容される塩を含む経口錠剤を含む、アルツハイマー病の治療剤であって、
前記抗体は、(a)配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、及び(b)配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含み、
前記抗体は2.5mg/kg~10mg/kgの範囲の用量で投与されるように用いられるものであり、
N-[3-((4aS,5R,7aS)-2-アミノ-5-メチル-4a,5,7,7a-テトラヒドロ-4H-フロ[3,4-d][1,3]チアジン-7a-イル)-4-フルオロフェニル]-5-ジフルオロメチルピラジン-2-カルボキサミド及び/又はその医薬的に許容される塩は、5mg/日~50mg/日の範囲の用量で投与されるように用いられるものである、治療剤。
【請求項2】
N-[3-((4aS,5R,7aS)-2-アミノ-5-メチル-4a,5,7,7a-テトラヒドロ-4H-フロ[3,4-d][1,3]チアジン-7a-イル)-4-フルオロフェニル]-5-ジフルオロメチルピラジン-2-カルボキサミド及び/又はその医薬的に許容される塩が、15mg/日~50mg/日の範囲の用量で投与されるように用いられるものである、請求項1に記載の治療剤。
【請求項3】
N-[3-((4aS,5R,7aS)-2-アミノ-5-メチル-4a,5,7,7a-テトラヒドロ-4H-フロ[3,4-d][1,3]チアジン-7a-イル)-4-フルオロフェニル]-5-ジフルオロメチルピラジン-2-カルボキサミド及び/又はその医薬的に許容される塩が、50mg/日の用量で投与されるように用いられるものである、請求項1に記載の治療剤。
【請求項4】
前記抗体が5mg/kg~10mg/kgの範囲の用量で投与されるように用いられるものである、請求項1に記載の治療剤。
【請求項5】
前記抗体が10mg/kgの用量で投与されるように用いられるものである、請求項1に記載の治療剤。
【請求項6】
前記抗体が2週間毎に投与されるように用いられるものである、請求項1に記載の治療剤。
【請求項7】
前記抗体が毎月投与されるように用いられるものである、請求項1に記載の治療剤。
【請求項8】
(a)重鎖定常領域が配列番号3のアミノ酸配列をさらに含み、かつ、(b)軽鎖定常領域が配列番号4のアミノ酸配列をさらに含む、請求項1に記載の治療剤。
【請求項9】
N-[3-((4aS,5R,7aS)-2-アミノ-5-メチル-4a,5,7,7a-テトラヒドロ-4H-フロ[3,4-d][1,3]チアジン-7a-イル)-4-フルオロフェニル]-5-ジフルオロメチルピラジン-2-カルボキサミドが遊離塩基の形態である、請求項1に記載の治療剤。
【請求項10】
抗Aβプロトフィブリル抗体
を含む注射組成物並びにN-[3-((4aS,5R,7aS)-2-アミノ-5-メチル-4a,5,7,7a-テトラヒドロ-4H-フロ[3,4-d][1,3]チアジン-7a-イル)-4-フルオロフェニル]-5-ジフルオロメチルピラジン-2-カルボキサミド又はその医薬的に許容される塩
を含む経口錠剤を含む、アルツハイマー病の治療剤であって、
前記抗体は、(a)配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン、及び(b)配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む、治療剤。
【請求項11】
(a)重鎖定常領域が配列番号3のアミノ酸配列をさらに含み、及び(b)軽鎖定常領域が配列番号4のアミノ酸配列をさらに含む、請求項10に記載の治療剤。
【請求項12】
N-[3-((4aS,5R,7aS)-2-アミノ-5-メチル-4a,5,7,7a-テトラヒドロ-4H-フロ[3,4-d][1,3]チアジン-7a-イル)-4-フルオロフェニル]-5-ジフルオロメチルピラジン-2-カルボキサミドが遊離塩基の形態である、請求項10に記載の治療剤。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[0002]アルツハイマー病は、9人に1人の高齢者を悩ませ、520万人を超えるアメリカ人及び世界中で3千万人を超える人々の認知症の原因となっている。現在、この壊滅的な病気を予防するための治療法や方法はない。組織学的には、この疾患は主に連合皮質、辺縁系及び大脳基底核に見られる老人斑を特徴とする。これらの老人斑の主成分はアミロイドベータペプチド(Aβ)である。
【0002】
[0003]Aβは種々の立体配座状態-モノマー、オリゴマー、プロトフィブリル、及び不溶性フィブリルで存在する。アルツハイマー病の発病とAβ産生との間の機構的関係の詳細は不明である。しかし、いくつかの抗Aβ抗体とβ-セクレターゼ(BACE1)阻害剤は、現在アルツハイマー病の潜在的な治療薬として臨床試験中である。
【発明の概要】
【0003】
[0004]治療有効量の抗Aβプロトフィブリル抗体及び治療有効量のβ-セクレターゼ阻害剤を投与することを含む、アルツハイマー病の治療、予防並びに/又は発病及び/若しくは発症の遅延のための組合せ療法が本明細書において提供される。いくつかの実施形態において、本組合せ療法は、Aβ及び/又は毒性オリゴマーAβの産生を阻害する。いくつかの実施形態において、本組合せ療法は、脳内のAβ及び/又は毒性オリゴマーAβプロトフィブリルを減少させる。
【0004】
[0005]抗Aβプロトフィブリル抗体とN-[3-((4aS,5R,7aS)-2-アミノ-5-メチル-4a,5,7,7a-テトラヒドロ-4H-フロ[3,4-d][1,3]チアジン-7a-イル)-4-フルオロフェニル]-5-ジフルオロメチルピラジン-2-カルボキサミド又はその医薬的に許容される塩の組合せを用いたアルツハイマー病の治療、予防並びに/又は発病及び/若しくは発症の遅延のための方法、組合せ療法、医薬組成物及びキットが記載される。
【0005】
[0006]本明細書中で使用される場合、抗Aβプロトフィブリル抗体は、(a)配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン及び(b)配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含む。各ドメインへのアミノ酸の割り当ては、一般に、免疫学的目的のタンパク質配列(SEQUENCES OF PROTEINS OF IMMUNOLOGICAL INTEREST)(Kabatら、第5版、米国保健社会福祉省、NIH公開番号91-3242、1991年、以後「Kabat報告」と呼ぶ)の定義に従う。
【0006】
[0007]いくつかの実施形態において、抗Aβプロトフィブリル抗体はヒト定常領域を含む。
【0007】
[0008]いくつかの実施形態において、抗Aβプロトフィブリル抗体のヒト定常領域は、Kabat報告に開示されているように、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA、IgE、及びそれらの任意の対立遺伝子変異体から選択される重鎖定常領域を含む。本開示では、そのような配列のうちの任意の1つ又は複数を使用することができる。いくつかの実施形態において、重鎖定常領域は、IgG1及びその対立遺伝子変異体から選択される。ヒトIgG1定常領域のアミノ酸配列は当技術分野において公知であり、配列番号3に記載されている。
【0008】
[0009]いくつかの実施形態において、抗Aβ抗体のヒト定常領域は、Kabat報告で論じられているように、κ-λ鎖定常領域及びその任意の対立遺伝子変異体から選択される軽鎖定常領域を含む。本開示では、そのような配列のうちの任意の1つ又は複数を使用することができる。いくつかの実施形態において、軽鎖定常領域はκ及びその対立遺伝子変異体から選択される。ヒトκ鎖定常領域のアミノ酸配列は当技術分野において公知であり、配列番号4に記載されている。
【0009】
[00010]いくつかの実施形態において、抗Aβプロトフィブリル抗体はBAN2401である。mAb158は、プロトフィブリルを標的とするように作製されたマウスモノクローナル抗体であり、BAN2401は、mAb158のヒト化IgG1モノクローナルバージョンである。mAb158は、国際公開第2007/108756号A1及びJournal of Alzheimer’s Disease、43(2015)575~588頁に開示されている。
【0010】
[00011]BAN2401は、(a)配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン及び(b)配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインを含むヒト化モノクローナル抗体である。BAN2401の全長配列は、配列番号5に記載されている。
【0011】
[00012]BAN2401は、アルツハイマー病における神経変性プロセスに寄与すると考えられている可溶性の有毒なAβ凝集体(プロトフィブリル)に選択的に結合し、中和し、そして排除すると思われている。したがって、BAN2401はアルツハイマー病の進行を抑えるかもしれない免疫調節効果を示す。BAN2401は現在フェーズII臨床試験を受けている。
【0012】
[00013]下記化学式(1)で表されるN-[3-((4aS,5R,7aS)-2-アミノ-5-メチル-4a,5,7,7a-テトラヒドロ-4H-フロ[3,4-d][1,3]チアジン-7a-イル)-4-フルオロフェニル]-5-ジフルオロメチルピラジン-2-カルボキサミド又はその医薬的に許容される塩(本明細書において「化合物X」と呼ぶ)は、ベータ部位アミロイド前駆体タンパク質切断酵素1(BACE1)阻害剤である。例えば、米国特許第8,158,620号及び米国特許第8,426,584号を参照のこと。化合物Xは、E2609としても知られているか、又はエレンベセスタット(elenbecestat)とも呼ばれ得る。BACEを阻害することにより、化合物Xは脳内のAβペプチドを減少させ、潜在的に症状を改善し、及び/又はアルツハイマー病の進行を遅らせる可能性がある。
【0013】
【0014】
[00014]いくつかの実施形態において、化合物Xは遊離塩基の形態である。
【0015】
[00015]いくつかの実施形態において、アルツハイマー病の発病及び/又は発症を予防、治療及び/又は遅延させるための方法が提供され、治療有効量のBAN2401及び治療有効量の化合物Xを必要とする対象に投与することを含む。
【0016】
[00016]いくつかの実施形態において、対象は、アルツハイマー病を発症する危険性があると見なされる個体、例えば、アルツハイマー病と診断された少なくとも1人の家族を有する個体である。
【0017】
[00017]いくつかの実施形態において、対象は、アルツハイマー病に関連する少なくとも1つの遺伝的変異を有すると診断された個体である。
【0018】
[00018]いくつかの実施形態において、対象は、アルツハイマー病に関連する少なくとも1つの変異又は異常遺伝子(例えば、APP変異、プレセニリン変異、及び/又はApoE4対立遺伝子)を有するが、アルツハイマー病と診断されていない個体である。
【0019】
[00019]いくつかの実施形態において、対象は、遺伝的にアルツハイマー病を発症する素因があると同定されていない個体である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】Tg2576マウスの脳からの抽出物中のAβの量を示す図である。
【
図2】Tg2576ヘテロマウスにおけるEEG記録に対するα1及びβ1周波数帯における組合せ治療の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[00023]本明細書で使用されるとき、用語「予防する」は、アルツハイマー病に関連する1つ又は複数の生化学的変化、組織学的変化、及び/又は行動症状を阻害及び/又は回避することを含むが、それらに限定されない。アルツハイマー病に関連する症状及び病理学的変化には、認知機能低下、アミロイド斑の形成増加、体液中を循環する可溶性Aβペプチドの量、脳内のAβペプチドの蓄積、及び記憶、問題解決、言語、計算、視空間知覚、判断、及び行動の異常が含まれるが、それらに限定されない。
【0022】
[00024]本明細書で使用されるとき、「治療」又は「治療する」は、臨床結果を含むがそれに限定されない、有益な及び/又は所望の結果を得るためのアプローチである。有益及び/又は所望の結果の非限定的な例には、以下の1つ又は複数が含まれる:アミロイド斑の形成の阻害及び/若しくは抑制、アミロイド斑の減少、除去及び/若しくは解消、認知機能の改善及び/若しくは認知機能低下の逆転、体液中を循環する可溶性Aβペプチドの封鎖、組織(例えば、脳)中のAβペプチド(可溶性及び沈着物を含む)の減少、脳内のAβペプチドの蓄積の阻害及び/若しくは減少、組織(例えば、脳)内のAβペプチドの毒性作用の阻害及び/若しくは減少、脳の萎縮の減少、疾患に起因する1つ若しくは複数の症状の減少(例えば、記憶、問題解決、言語、計算、視空間知覚、判断及び/若しくは行動の異常、自分自身のケア不能)、生活の質の上昇、病気を治療するために必要な1つ若しくは複数の他の薬の用量の減少、病気の進行の遅延、根底にある疾患経過及び/若しくは過程の変更、並びに/又は生存期間の延長。
【0023】
[00025]本明細書で使用されるとき、用語「治療する」は、アルツハイマー病の症状の発病後の本方法の遂行を記載するために使用され、「予防する」は、例えば、アルツハイマー病の危険性がある患者に対する症状の発病前の本方法の遂行を記載するために使用される。
【0024】
[00026]本明細書で使用されるとき、アルツハイマー病の危険性のある患者は、検出可能な疾患を有していてもいなくてもよく、本明細書に記載の治療方法の前に検出可能な疾患を示していてもいなくてもよい。「危険性がある」とは、個体がアルツハイマー病の発症と相関する1つ又は複数の測定可能なパラメータ(危険因子)を有することを意味する。これらの危険因子には、年齢、性別、人種、食事、以前の疾患の病歴、前兆疾患の存在、遺伝子的な(すなわち、遺伝的な)考慮事項、及び環境的曝露が含まれるが、これらに限定されない。非限定的な例として、アルツハイマー病の危険性のある個体には、アルツハイマー病の家族歴を有する個体、遺伝子的又は生化学的マーカーの分析によってその危険性が決定される個体、臨床的なアルツハイマー病の診断を予測することが知られている血漿中及び/又は脳脊髄液(「CSF」)に存在する任意のシグナル伝達タンパク質について血液検査で陽性の結果を有する個体が含まれる。
【0025】
[00027]本明細書中で使用されるとき、アルツハイマー病の発症を「遅延させる」とは、疾患の発症を延期させる、妨げる、減速させる、遅らせる、安定化させる、及び/若しくは延長させる並びに/又は進行を遅らせる、或いは一度発症した場合、根底にある疾患経過及び/若しくは過程を変更させることを意味する。この遅延は、疾患の病歴及び/又は治療されている個体に応じて、様々な長さの時間であり得る。当業者には明らかであるように、十分な又は顕著な遅延は、事実上、個体が疾患を発症しないという点で予防を包含し得る。アルツハイマー病の発症を「遅延させる」方法は、その方法を使用しない場合と比較して、所与の期間内の疾患発症の確率を低下させる方法並びに/又は病気に起因する1つ若しくは複数の症状(例えば、記憶、問題解決、言語、計算、視空間的知覚、判断及び/若しくは行動の異常、自分自身のケア不能)を安定化させることを含む所与の期間内に疾患の程度を低下させる方法である。そのような比較は、一般に統計的に有意な結果を達成するため十分な数の対象を使用している臨床試験に基づいていてもよい。アルツハイマー病の発症は、標準的な神経学的検査、患者の面接、ニューロイメージング、血清又は脳脊髄液中の特定のタンパク質レベルの変化の検出(例えば、アミロイドペプチド及び/又はタウ)、コンピュータ断層撮影法(CT)、磁気共鳴画像法(MRI)及び/又はアミロイド又はタウの陽電子放出断層撮影法(PET)脳画像法のような標準的な臨床技術を用いて検出できる。本明細書で使用される「発症」はまた、最初は検出不可能であり得る疾患の進行を指し得、発生、再発、悪化及び/又は発病を含み得る。
【0026】
[00028]本明細書で使用されるとき、用語「有効量」及び「治療有効量」は、少なくとも1つの疾患の発病及び/又は発症を予防及び/又は遅延させることを含むがこれらに限定されない所望の治療効果を生じるのに十分な化合物又は医薬組成物の量を指す。治療有効量は、意図される用途、治療される対象(例えば、体重及び年齢を含む)、疾患及びその重症度、投与経路及び投与時期、所望の効果(例えば、より低い副作用(複数可))、使用される投薬計画、並びに製剤化及び送達システム(もしあれば)に応じて変わり得る。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの他の治療薬と組合せて使用される薬物の「治療有効量」は、個別に(すなわち、単独療法で)使用される薬物の(より低い又はより高い)「治療有効量」と同じでも異なってもよい。
【0027】
[00029]いくつかの実施形態において、本明細書に開示される組合せ療法は、個々の療法が単独で与えられる場合(すなわち、BAN2401及び化合物X単独療法)に必要とされるよりも低用量の1つ又は複数の個々の療法を含み得る。この用量の減少は、治療に関連した1つ又は複数の副作用を減少させるかもしれない。例えば、いくつかの実施形態において、組合せ療法では、個別の治療で一般的に使用される量よりも少ない量(例えば、低用量又は低頻度の投薬スケジュール)のBAN2401、化合物X、又はその両方を使用して、同じ又はより大きい治療効果が達成される。さらに一例として、いくつかの実施形態において、少量のBAN2401、化合物X、又は両方の使用は、化合物に関連する1つ又は複数の副作用の数、重症度、頻度、及び/又は持続時間の減少をもたらす。非限定的な例として、組合せ療法は、個々の療法に一般的に使用される用量と比較して:(i)より低用量の化合物X及びより低用量のBAN2401;(ii)より低用量のBAN2401及び同じ用量の化合物X;(iii)より低用量の化合物X及び同じ用量のBAN2401を含み得る。
【0028】
[00030]いくつかの実施形態において、本明細書に開示される組合せ療法は、個々の療法が単独で与えられた場合(すなわち、BAN2401及び化合物Xの単独療法)に必要とされるよりも高用量の個々の療法を含み得る。例えば、組合せ療法のいくつかの実施形態において、一方の薬物(BAN2401及び化合物X)の用量は、個々の治療に一般的に使用される用量よりも低いが、他方の薬物は個々の治療に一般的に使用される用量と等しいか又はそれ以上の用量で与えられる。非限定的な例として、組合せ療法は、(i)高用量の化合物X及び低用量のBAN2401又は(ii)高用量のBAN2401及び低用量の化合物Xを含み得る。場合によっては、一方の薬物の用量を増加させながら他方の用量を減少させることは、薬物の副作用をより低い用量で軽減すること及び個々の治療と同じかそれ以上の治療効果を得ることができることの一方又は両方の利点を有し得る。さらに例として、いくつかの実施形態において、組合せ療法は、個々の療法に一般的に使用される投与量と比較して、(i)より高用量の化合物X及びより高用量のBAN2401;(ii)より高用量のBAN2401及び同じ用量の化合物X;又は(iii)より高用量の化合物X及び同じ用量のBAN2401を含み得る。
【0029】
[00031]いくつかの実施形態において、本明細書に開示される組合せ療法は、治療前の同じ対象における対応する症状と比較して、又は組合せ療法を受けていない他の対象における対応する症状と比較して、アルツハイマー病に関連する1つ又は複数の症状の重症度を少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は95%を超えて軽減する。例えば、いくつかの実施形態において、BAN2401と化合物Xとの組合せの投与は、認知機能の尺度における低下の減少を対照と比較して、例えば少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、又は95%を超えてもたらす。
【0030】
[00032]いくつかの実施形態において、BAN2401と化合物Xとの組合せは、単一剤形において及び/又は各活性剤の別々の投与によって対象に投与され得る。
【0031】
[00033]いくつかの実施形態において、BAN2401及び化合物Xは、錠剤、丸剤、カプセル剤又は液剤で製剤化されてもよい。BAN2401と化合物Xの製剤化は適宜選択してもよい。いくつかの実施形態において、BAN2401、化合物X、又はその両方は、非経口投与用の溶液に製剤化される。いくつかの実施形態において、BAN2401及び化合物Xは、カプセル内に収容された隔離された領域又は異なるカプレットに製剤化されてもよい。いくつかの実施形態において、BAN2401及び化合物Xは錠剤中の隔離層に製剤化されてもよい。
【0032】
[00034]いくつかの実施形態において、アルツハイマー病を治療、予防、並びに/又は発病及び/若しくは発症を遅延させるための医薬組成物は、治療有効量のBAN2401、治療有効量の化合物X、及び少なくとも1つの医薬的に許容される担体を含む。
【0033】
[00035]いくつかの実施形態において、BAN2401及び化合物Xは、別々の組成物として、そして任意選択的に異なる形態として、例えば別々の錠剤又は溶液として投与され得る。例えば、いくつかの実施形態において、化合物Xは1日1回経口錠剤として投与され、BAN2401は注射として投与される。さらに非限定的な例として、BAN2401と化合物Xの両方は、経口錠剤として別々に投与される。またさらに非限定的な例として、BAN2401及び化合物Xの両方は、注射として別々に投与される。
【0034】
[00036]いくつかの実施形態において、BAN2401及び化合物Xが別々の組成物として投与される場合:
治療有効量のBAN2401及び少なくとも1つの医薬的に許容される担体を含む、アルツハイマー病の発病及び/又は発症を治療、予防及び/又は遅延するための化合物Xと組合せて使用するための医薬組成物;並びに
治療有効量の化合物X及び少なくとも1つの医薬的に許容される担体を含む、アルツハイマー病の発病及び/又は発症を治療、予防及び/又は遅延するためにBAN2401と組合せて使用するための医薬組成物。
【0035】
[00037]いくつかの実施形態において、治療有効量のBAN2401を含む第1の医薬組成物、治療有効量の化合物Xを含む第2の医薬組成物、並びにアルツハイマー病の発病及び/又は発症の治療、予防、及び/又は遅延における使用説明書を含むキットが本明細書において提供される。
【0036】
[00038]いくつかの実施形態において、BAN2401及び化合物Xを同時に投与することができる。いくつかの実施形態において、BAN2401及び化合物Xは連続して投与されてもよい。いくつかの実施形態において、BAN2401及び化合物Xは断続的に投与されてもよい。BAN2401と化合物Xの投与間の時間の長さは、所望の治療効果を達成するために調整されてもよい。いくつかの実施形態において、BAN2401及び化合物Xは、数分のみの間隔で投与されてもよい。いくつかの実施形態において、BAN2401及び化合物Xは、数時間(例えば、約2、4、6、10、12、24、又は36時間)の間隔で投与されてもよい。いくつかの実施形態において、残りの治療薬の投与の間に、BAN2401及び化合物Xのうちの1つの1回分を超える投与量を投与することが有利であり得る。例えば、1つの治療薬を他の治療薬の投与後1時間で投与し、次いで11時間で投与することができる。いくつかの実施形態において、各BAN2401及び化合物Xの治療効果は、持続期間の少なくとも一部にわたって重複するはずであり、その結果、組合せ療法の全体的な治療効果は、組合せ療法の組合せ効果又は相乗効果に一部起因し得る。
【0037】
[00039]BAN2401及び化合物Xの投与量は、各薬剤の薬力学的特性、投与方法、投与経路、治療される患者の健康状態、所望の治療の程度、併用療法の性質及び種類、もしあれば、治療の頻度、及び所望の効果の性質を含むいくつかの要因に依存し得る。いくつかの実施形態において、BAN2401は、1日当たり約0.001mg/kg体重から1日当たり約200mg/kg体重の範囲の用量で投与され得る。いくつかの実施形態において、BAN2401は、1日当たり0.001mg/kg体重から1日当たり200mg/kg体重の範囲の用量で投与され得る。いくつかの実施形態において、化合物Xは、5mg/日~100mg/日、10mg/日~75mg/日、5mg/日~50mg/日、又は15mg/日~50mg/日の範囲の用量で投与され得る。いくつかの実施形態において、化合物Xは、約5mg/日~約100mg/日、約10mg/日~約75mg/日、約5mg/日~約50mg/日又は約15mg/日~約50mg/日までの範囲の用量で投与され得る。いくつかの実施形態において、化合物Xは、5mg/日、10mg/日、15mg/日、20mg/日、25mg/日、30mg/日、又は50mg/日の投与量の用量で投与され得る。
【0038】
[00040]いくつかの実施形態において、BAN2401は、2.5mg/kg~10mg/kg、又は5mg/kg~10mg/kgの範囲の用量で投与され得る。いくつかの実施形態において、BAN2401は2週間毎に10mg/kgの用量で投与される。いくつかの実施形態において、BAN2401は2週間毎に5mg/kgの用量で投与される。いくつかの実施形態において、BAN2401は2週間毎に2.5mg/kgの用量で投与される。いくつかの実施形態において、BAN2401は毎月5mg/kgの用量で投与される。いくつかの実施形態において、BAN2401は毎月10mg/kgの用量で投与される。
【0039】
[00041]いくつかの実施形態において、BAN2401は、約2.5mg/kg~約10mg/kg、又は約5mg/kg~約10mg/kgの範囲の用量で投与され得る。いくつかの実施形態において、BAN2401は2週間毎に約10mg/kgの用量で投与される。いくつかの実施形態において、BAN2401は2週間毎に約5mg/kgの用量で投与される。いくつかの実施形態において、BAN2401は2週間毎に約2.5mg/kgの用量で投与される。いくつかの実施形態において、BAN2401は毎月約5mg/kgの用量で投与される。いくつかの実施形態において、BAN2401は毎月約10mg/kgの用量で投与される。
【0040】
[00042]いくつかの実施形態において、BAN2401及び化合物Xの各々は、表1に例示されるような投与計画で投与されてもよい。
【0041】
【0042】
[00043]いくつかの実施形態において、BAN2401及び化合物Xのそれぞれは、表2に例示されるような投与計画で投与されてもよい。
【0043】
【0044】
[00044]いくつかの実施形態において、50mgの固定用量の化合物Xが投与される。いくつかの実施形態において、BAN2401/プラセボ注入の投与頻度は2又は4週間の投与計画で、化合物Xの投与は1日1回、少なくとも1つの錠剤の形態で最も高い許容用量で投与される。
【0045】
[00045]いくつかの実施形態において、用量範囲は、治療されている対象の年齢及び体重、並びに意図される投与経路に応じて変動し得る。いくつかの実施形態において、用量は、効力を改善し、及び/又は効力を維持し、並びに安全性及び耐容性の少なくとも一方を改善するように選択される。いくつかの実施形態において、用量は、少なくとも1つの副作用を低下させると同時に効力を改善し、及び/又は効力を維持するように選択される。
【0046】
[00046]いくつかの実施形態において、本明細書に提供される組合せ及び方法は、Aβ及び/又は毒性オリゴマーAβの産生を阻害し得る。いくつかの実施形態において、本明細書に提供される組合せ及び方法は、脳内のAβ及び/又は毒性オリゴマーAβプロトフィブリルを減少させ得る。
【0047】
[00047]いくつかの実施形態において、本明細書に提供される組合せ及び方法は、いずれかの成分単独(すなわち、BACE1阻害剤単独又は抗Aβプロトフィブリル抗体単独のいずれか)による単独療法と比較して改善された治療効力をもたらし得る。いくつかの実施形態において、本明細書で提供される組合せ及び方法は、いずれかの成分単独での単独療法と比較して、安全性を高めるが同等の効力(用量節約、したがって有害事象の減少)をもたらし得る。
【0048】
[00048]いくつかの実施形態において、本明細書で提供される組合せ及び方法は単独療法に従うことができる。本明細書で提供される組合せ及び方法は、個々の患者の必要性に合わせて多剤レジメンを調整するためのより幅広い選択肢を提供し得る。
【0049】
[00049]いくつかの実施形態において、組合せ治療は、いずれかの成分単独の単独療法と比較して、単量体Aβ、プロトフィブリル/オリゴマーAβ、又はその両方のより高い低減をもたらし得る。
【0050】
[00050]いくつかの実施形態において、組合せ治療は、いずれかの成分単独での単独療法と比較して、脳内のAβプラーク形成の数及び/又は面積のより大きな減少をもたらし得る。
【0051】
[00051]いくつかの実施形態において、組合せ治療は、いずれかの成分単独の単独療法と比較して、記憶障害の改善及び/又は自発運動の亢進の阻害をもたらし得る。
【0052】
[00052]いくつかの実施形態において、組合せ治療は、いずれかの成分単独の単独療法と比較して、異常なニューロン生存率及び/又は異常なシナプス機能の改善をもたらし得る。
【0053】
[00053]いくつかの実施形態において、組合せ治療は、いずれかの成分単独の単独療法と比較して、皮質神経回路機能不全の改善をもたらし得る。
【0054】
[00054]いくつかの実施形態において、組合せ治療は、いずれかの成分単独の単独療法と比較して、上方制御及び/又は異常な神経炎症反応の改善をもたらし得る。
【0055】
[00055]いくつかの実施形態において、組合せ治療は、いずれかの成分単独の単独療法と比較して、Aβの形成及び/又はタウ病理の阻害をもたらし得る。
【0056】
[00056]いくつかの実施形態において、組合せ治療は、いずれかの成分単独の単独療法と比較して、神経細胞及び/又はグリア細胞の生存率の改善をもたらし得る。
【0057】
[00057]いくつかの実施形態において、組合せ治療は、いずれかの成分単独の単独療法と比較して、病理学的Aβによる遺伝子発現変化の阻害をもたらし得る。
【実施例】
【0058】
[00058][00059]実施例1:生化学的研究のTg2576マウスにおけるインビボでの組合せ治療の評価
【0059】
[00060]投与量
[00061]mAb158(「化合物A」)と化合物Xとの組合せ治療の効果を調べるために、11月齢を超えるTg2576ヘテロマウスに化合物Aのみ(12mg/kg/週、n=19)、化合物Xのみ(3mg/kg/日、n=19)、又は化合物AとXとの組合せ(n=19)を投与した。PBSを化合物Aのビヒクル溶液として使用し、5% 1N HClを含む0.5%メチルセルロース溶液(「MC溶液」)を化合物Xのビヒクル溶液として使用した。対照群(n=20)のTg2576マウス及び野生型マウス(n=15)にビヒクル溶液、PBS(6mL/kg/週)及びMC溶液(10mL/kg/日)の両方を投与した。化合物Aの投与は毎週、腹腔内に行い、化合物Xの投与は毎日、経口で行った。化合物A群又は化合物XのTg2576ヘテロマウスに、それぞれMC溶液又はPBS溶液を同時投与した。投与期間は3ヶ月であった。マウスを脳、CSF、及び血漿サンプルの採取のために屠殺した。再灌流後、脳を別々の半球に解体した。脳の一方の半球を液体窒素で凍結し、もう一方の半球を10%リン酸緩衝ホルマリンで固定した。凍結脳サンプルをAβ種の測定に利用した。
【0060】
[00062]脳内のAβの測定
[00063]Tg2576マウス由来の凍結脳半球を、複数のプロテアーゼインヒビター(cOmplete、Roche社)を補充したトリス緩衝食塩水(TBS、Sigma社)中でホモジナイズし、ホモジナイズしたTBS溶液を100,000g、4℃で1時間遠心分離した。遠心分離後、上清(可溶性抽出物)及び沈殿物をTBS溶液から分離し、沈殿物を70%ギ酸で順次ホモジナイズした(不溶性抽出物として)。各脳について、可溶性及び不溶性抽出物中のAβの濃度をAβ ELISA(ヒト/ラットAβ(40)/(42)ELISAキット、Wako社)によって測定した。各抽出物中のAβ40/42のレベルにおいて、ビヒクル対照群と組合せ群との間の統計学的差異は、主にGraphPad Prism(GraphPad Software、Inc.)を使用したスチューデントt検定によって分析した。ビヒクル対照群と組合せ群との間の有意差に基づいて、組合せ群と化合物A(単独)群又は化合物X(単独)群との間の比較は、多重ダネット検定によって行った。
【0061】
[00064]
図1は、Tg2576マウスからの可溶性及び不溶性脳抽出物中のAβ42を測定した結果を示す。
【0062】
[00065]化合物Aと化合物Xとの組合せ治療は、ビヒクル治療と比較してAβ42のレベルの有意な減少をもたらした(p=0.042)。不溶性抽出物において、組合せ治療はビヒクル治療と比較してAβ42のレベルの有意な減少をもたらした(p=0.035)。対照群と組合せ群との間、及び組合せ群と化合物X単独群との間の統計的差異を図中に示し、ここで*はp<0.05を示し、#はp<0.1を示す。
【0063】
[00066]実施例2:生化学的、病理学的、及びEEG測定研究のTg2576マウスにおけるインビボでの組合せ治療の評価
【0064】
[00067]投与量
[00068]化合物Aと化合物Xとの組合せ治療の効果を調べるために、11ヶ月齢を超えるTg2576マウスに、化合物A単独(12mg/kg/週、n=7)、化合物X単独(3mg/kg/日、n=8)、又は化合物AとXとの組合せ(n=9)の1つを投与した。化合物Aの投与は毎週、腹腔内に行い、化合物Xの投与は毎日、経口で行った。化合物Aの投与にはPBS溶液を使用し、化合物Xの投与には5% 1N HCl(MC溶液)を含む0.5%メチルセルロース溶液を使用した。対照群(n=8)のTg2576ヘテロマウスにはビヒクル溶液、PBS(6mL/kg/週)及びMC溶液(10mL/kg/日)の両方を投与した。化合物A群又は化合物Xのマウスに、それぞれMC溶液又はPBS溶液を同時投与した。投与期間は3ヶ月であった。投与の最後の週に、脳波(EEG)記録の分析によってマウスを機能的に評価した。
【0065】
[00069]EEG測定
[00070]イソフルランを用いた吸入麻酔下で、Tg2576マウスを定位固定装置に保持し、それらの頭蓋骨をEEG及び筋電図(EMG)の記録電極の移植のために露出させた。4つのEEG電極を頭蓋骨に挿入した。2つの電極を右側の位置[前-後(AP)=1.1mm/横(L)=1.3mm及びAP=-4.0mm/L=1.3mm]に配置し、残りの2つを左側[AP=1.1mm/L=-1.3mm及びAP=-4.0mm/L=-1.3mm]に配置した。その後、筋電位用のEMG電極を左右の頸部骨格筋に埋入した。
【0066】
[00071]EEG及びEMGの記録は、EEG及びEMGを測定するためのケージに入れられたマウスに対して行われた。Tg2576マウスに埋入した電極からEEG及びEMG信号をオンラインに出し、3チャンネル生体電位記録システム(Pinnacle Technology、Inc.)により増幅し、データ取得ソフトウェア(Sirenia Acquisition、Pinnacle Technology、Inc.)を使用してハードディスクに記録した。
【0067】
[00072]EEGパワースペクトルの分析は、SleepSignソフトウェア(キッセイコムテック株式会社)を使用して行った。各マウスからの記録されたEEGデータを高速フーリエ変換(FFT)によって分析して、各周波数におけるEEGパワー値(生のEEGパワー)を得た。
【0068】
[00073]生のEEGパワーは、1~100Hzの範囲の8つの周波数帯域に分割された。8つの周波数帯域は、δ(1~4Hz)、θ(4~8Hz)、α1(8~11Hz)、α2(11~13Hz)、β1(13~22Hz)、β2(22~30Hz)、γ1(30~48Hz)、及びγ2(52~100Hz)から構成された。すべての投与群において、EEGパワーは各周波数帯でまとめられ、群間で比較された。
【0069】
[00074]GraphPad Prism(GraphPad Software、Inc.)を用いて統計分析を行った。まず、各δ、θ、α1、α2、β1、β2、γ1、及びγ2周波数帯におけるビヒクル対照群と組合せ群との間のEEGパワーについてスチューデントのt検定による統計分析を行った。第1の統計解析により周波数帯域内のEEGパワーが有意差を示した場合、組合せ群と化合物A単独又は化合物X単独群との間のEEGパワーの差を一元配置分散分析(ANOVA)続けてフィッシャーの最小有意差検定により解析した。組合せ群は、α1及びβ1においてビヒクル対照群と比較して統計的に有意に増加するEEGパワーを有していた。組合せ群におけるEEGパワーが化合物A群と比較して有意に増加し(それぞれα1においてp=0.0009及びβ1において0.0106)、化合物X群と比較して増加する傾向を有する(α1においてp=0.0512)ことがさらなる統計分析により示された。
【0070】
[00075]AD患者における安静ステージEEGの特徴は、広範囲のデルタ及びシータ活性の増加、並びに後部アルファ及びベータ活性の減少によって特徴付けられ、並びにアルファ活性の減少と相まって遅いEEGパワーの増加は健康な対象と比較したMCIの認知能力低下と関連していることが報告された(Electroencephalogram and Alzheimer’s Disease:Clinical and Research Approaches (A.Tsolaki等、International Journal of Alzheimer’s Disease、2014);Electroencephalographic Rhythms in Alzheimer’s Disease (R.Lizio等、International Journal of Alzheimer’s Disease、2011))ここに提示されたADマウスモデルにおける組合せ治療の効果は、組合せ治療がAD患者におけるEEG異常を改善し得ることを示している。
【0071】
[00076]
図2は、Tg2576ヘテロマウスのEEG記録に対するα1及びβ1周波数帯における組合せ治療の効果を示す。ビヒクル対照群と組合せ群との間、及び組合せ群と化合物A単独群との間の統計的差異が図中に示され、ここで*はそれぞれp<0.05を示し、そして
#及び
##はそれぞれp<0.1及びp<0.05を示す。
【0072】
[00077]実施例3:製剤化
【0073】
[00078]いくつかの実施形態において、化合物Xは、国際公開第2016/056638号の実施例1に従って固体剤形に製剤化することができる。具体的には、2500mgの薬理化合物1、2285mgのラクトース(DFE Pharma Corp.)、330mgの低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(タイプLH21、信越化学工業株式会社)及び165mgのヒドロキシプロピルセルロース(タイプSL、日本曹達株式会社)を乳鉢内で混合する。適量の水性エタノール(30% w/w)を得られた混合物に加え、続いて乳鉢中で湿式造粒する。恒温槽を使用して得られた顆粒を乾燥した後、顆粒を1mmの目開きを有する篩を使用して整粒する。1056mgのサイズの顆粒当たり33mgの低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(タイプLH21、信越化学工業株式会社)及び11mgのステアリルフマル酸ナトリウム(JRS Pharma Corp.)を添加し、バイアル中で混合する。シングルパンチ打錠機を用いて得られた混合物を9kNで圧縮して、直径6.5mm及び重量110mgの錠剤を得る。
【0074】
[00079]一方、BAN2401は、例えば、約5のpHを有するクエン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、及びポリソルベート80を含む液体剤形に従来の方法によって製剤化することができる。いくつかの実施形態において、製剤は、10mg/mL BAN2401、25mM クエン酸ナトリウム、125mM 塩化ナトリウム、及び0.2%(w/v)ポリソルベート80を含むことができ、pH5.7を有することができる。
【0075】
[00080]実施例4:早期アルツハイマー病を有する対象における化合物X、BAN2401及び化合物XとBAN2401の組合せの安全性及び効力を評価するためのプラセボ対照、二重盲検、二重ダミー、要因計画、24ヶ月試験
【0076】
[00081]研究デザイン
[00082]この試験は、早期アルツハイマー病を有する対象における多施設、二重盲検、要因計画、二重ダミー、プラセボ対照試験である。この試験は、BAN2401の静脈内注入及び化合物Xの経口錠剤に適合したプラセボを使用した二重ダミーデザインを組み入れており、試験の単独療法及び同時投与の両方のアームにわたる完全な盲目化を可能にする。全対象は静脈内注入と経口投与錠剤の両方を受ける。
【0077】
[00083]BAN2401/プラセボ注入についての用量及び投与頻度は、進行中の研究BAN2401-G000-201の結果に基づいたフェーズ3発症のために選択された最も高く十分な耐容性のあるレジメンであり、現在2週間及び4週間投与レジメンの両方を調査中である。化合物Xは、進行中の研究からの最も高い許容用量で1日1回経口錠剤として投与される。合計3064人の対象が4つの治療群にわたって無作為化され、そのすべてが、現在承認されているアルツハイマー病の安定した治療の有無にかかわらず投与することが提案される。
【0078】
アームA(プラセボ):プラセボは2週間(又は4週間)毎に注入として毎日経口及び静脈内(IV)投与される、
アームB(化合物X単独療法):化合物Xは毎日経口投与され、プラセボは2(又は4)週間毎にIV注入として投与される
アームC(BAN2401単独療法)BAN2401は2(又は4)週毎にIV注入として投与され、プラセボは毎日経口投与される
アームD(同時投与):BAN2401は2(又は4)週間の間隔をあけた2用量についてIV注入として投与され、プラセボは計画されたBAN2401の第3回用量まで毎日経口投与される。BAN2401の第3回用量から、BAN2401は2(又は4)週間毎にIV注入として投与され、化合物Xは毎日経口投与される。
【0079】
[00084]対象は、研究の4つの治療アームにわたって固定された1:1:1:1のスケジュールに無作為化されるべきである。対象の無作為化は、ApoE遺伝子型、同時アルツハイマー病治療薬使用、及び無作為化時のアルツハイマー病の重症度(すなわち、アルツハイマー病/前駆症状vs軽度認知症による軽度認知障害)に従って階層化される。
【0080】
[00085]包含基準
[00086]診断
[00087]アルツハイマー病による軽度認知障害-中程度の可能性/前駆症状アルツハイマー病:
1.アルツハイマー病に起因する軽度の認知障害についての米国立老化研究所-アルツハイマー病協会(NIA-AA)のコア臨床基準を満たす-中程度の可能性;
2.スクリーニング及びベースラインで0.5の臨床認知症レーティング(CDR)スコア及び0.5以上のCDRメモリボックススコアを有する;並びに
3.スクリーニング前の過去1年間で、徐々に発病しゆっくり進行した自覚的記憶衰退の病歴を報告する。
【0081】
[00088]軽度アルツハイマー病認知症:
1.アルツハイマー病認知症の可能性に対するNIA-AAのコア臨床基準を満たす;並びに
2.スクリーニング及びベースラインで1.0のCDRスコア及び0.5以上のメモリボックススコアを有する。
【0082】
[00089]全ての対象によって満たされなければならない重要な包含基準:
1.以下のうちの少なくとも1つによって示される、脳アミロイド病理学についての陽性バイオマーカー:
a)脳へ取り込ませた造影剤のPET評価;スクリーニングから12ヶ月以内に行われた場合には、スキャン及び結果が中央PET読影グループによって許容されると見なされるなら、過去のアミロイド陽性PETスキャンを使用することができる
b)AβのCSF評価(1-42)
2.スクリーニング及びベースラインで22以上のミニメンタルステート検査スコア。
【0083】
[00090]試験治療
[00091]この試験は、BAN2401の静脈内注入及び化合物Xの経口錠剤に適合したプラセボを使用して、試験の単独療法及び同時投与の両方のアームにわたる完全な盲検化を可能にする二重ダミーデザインを組み込んでいる。全対象は静脈内注入と経口投与錠剤の両方を受ける。
【0084】
[00092]BAN2401/プラセボ注入についての用量及び投与頻度は、進行中の研究BAN2401-G000-201からの結果に基づいて最も効果的で耐容性の高いレジメンから選択され、現在、2週間及び4週間の投与レジメンの両方を調査中である。
【0085】
[00093]化合物Xは、進行中の研究からのデータに基づいて最適に安全かつ有効であると仮定された最も高い用量で1日1回経口錠剤として投与される。
【0086】
[00094]化合物Xは、50mgの用量強度の錠剤として供給される。化合物Xに適合するプラセボ錠剤は同じ外観である。各対象は、午前中に食物と一緒に1日1回(「QD」)経口で投与される化合物X又はプラセボの1つの錠剤を受け取る。
【0087】
[00095]BAN2401薬品は、静脈内投与用の滅菌した非発熱性液体として製剤化されている。各バイアルは、等張緩衝液中にBAN2401の100mg/mL溶液5mLを含む。BAN2401は、通常の生理食塩水中でIV注入として投与される。BAN2401は、末端に0.22μMインラインフィルターを含む注入システムと共に投与されなければならない。BAN2401はmg/kg基準又はプラセボで投与される。全ての対象は隔週又は毎月、注入を受ける。
【0088】
[00096]例えば、BAN2401は、2.5mg/kg/隔週、5mg/kg/隔週、10mg/kg/隔週、5mg/kg/月、又は10mg/kg/月の用量で投与される。
【0089】
[00097]BAN2401/プラセボを用いた以前の研究では、注入反応は最初の注入で通常起こる一般的なAEであり、その後の注入の前に投与される予防的投薬を使用することで回避又は最小化することができる。したがって、BAN2401に関連する注入反応からの有害事象の決定と同時投与に関連する有害事象との間の起こり得る交絡を避けるために、同時投与アームにおいては化合物X治療の開始を遅らせ、BAN2401の3回目の静脈内注入と同じ日に開始する。
【0090】
[00098]十分な盲検化を確実にするために、アームD(同時投与)に割り当てられた対象について、対象にプラセボ錠剤を経口的にQD投与しながら、BAN2401の最初の2回の注入を静脈内投与する。3回目の注入時に、対象への化合物Xの経口的QD投与を開始して、試験期間中継続する。
【0091】
[00099]効力評価
[000100]CDR/臨床認知症レーティングボックス合計(CDR/Clinical Dementia Rating Sum of Boxes)、ミニメンタルステート検査(Mini Mental State Examination)、機能評価質問票(Functional Assessment Questionnaire;FAQ)及び修正アルツハイマー病評価尺度-認知サブスケール(Modified the Alzheimer’s Disease Assessment Scale-Cognitive Subscale;ADAS-Cog14)は、アルツハイマー病の評価において使用する十分に確立された臨床ツールである。
【0092】
[000101]疾患の進行は、CDRが行われる2回の連続した予定来院時にCDRスケールで少なくとも0.5ポイントだけベースラインから増加することとして定義される。ベースラインでCDRが0.5である対象については、疾患の進行は1以上のCDRによって示される。ベースラインでCDRが1.0である対象については、疾患の進行は2以上のCDRによって示される。
【0093】
[0001]本出願は、参照により本明細書に取り込まれる2016年10月27日に出願された米国特許仮出願第62/413,961号、及び2016年10月31日に出願された米国特許仮出願第62/415,165号の優先権の利益を主張する。
【配列表】