(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
H01T 13/20 20060101AFI20230725BHJP
【FI】
H01T13/20 C
(21)【出願番号】P 2022517360
(86)(22)【出願日】2021-09-14
(86)【国際出願番号】 JP2021033631
(87)【国際公開番号】W WO2022059658
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2020155562
(32)【優先日】2020-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤村 研悟
(72)【発明者】
【氏名】津曲 翔麻
(72)【発明者】
【氏名】都原 宗
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕一
【審査官】井上 信
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-32521(JP,A)
【文献】特開平11-233232(JP,A)
【文献】特開2017-183122(JP,A)
【文献】特開2014-72164(JP,A)
【文献】特開2012-129132(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の主体金具と、
前記主体金具の内側に保持され、軸線方向に延びる軸孔を有する筒状の絶縁体と、
前記軸孔の一端に保持された中心電極と、
前記軸孔の他端に保持された端子金具と、
前記軸孔において前記中心電極と前記端子金具との間に配され、ガラスと導電材とを含む抵抗体と、
前記抵抗体とは別体のシール部材と、を備え、
前記シール部材はガラス粒子と金属粒子とを含む導電性のシール部材であり、前記抵抗体における前記端子金具側の端を後端とし、前記端子金具における前記中心電極側の端を先端とした場合に、前記軸孔において前記抵抗体の前記後端と前記端子金具の前記先端との間に配置されており、
前記抵抗体が、
最も中心電極側に配され、酸化チタンを含む酸化チタン含有領域と、
前記酸化チタン含有領域よりも前記端子金具側に配され、酸化チタンの含有率が前記酸化チタン含有領域よりも低
い酸化チタン低減領域と、を備え、
前記酸化チタン低減領域は、酸化チタンを含み、
全体として、前記中心電極側から前記端子金具側に向かって、酸化チタンの含有率が小さくなる、スパークプラグ。
【請求項2】
前記酸化チタン含有領域における酸化チタンの含有率が1質量%以上15質量%以下である、請求項1に記載のスパークプラグ。
【請求項3】
前記酸化チタン低減領域として、酸化チタンを含まない酸化チタン非含有領域を有する、請求項1または請求項2に記載のスパークプラグ。
【請求項4】
前記抵抗体の酸化チタンの含有率が、前記中心電極側から前記端子金具側に向かって段階的に低下する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のスパークプラグ。
【請求項5】
前記抵抗体の酸化チタンの含有率が、前記中心電極側から前記端子金具側に向かって徐々に低下する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のスパークプラグ。
【請求項6】
前記酸化チタン含有領域の長さが1mm以上である、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のスパークプラグ。
【請求項7】
前記酸化チタン低減領域は、前記端子金具側の端が前記主体金具よりも前記端子金具に近接している、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のスパークプラグ。
【請求項8】
前記抵抗体に含まれる酸化チタンの結晶構造がルチル型のみからなる、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、スパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に使用されるスパークプラグとして、絶縁体が有する軸孔の一方の端部側に端子金具を挿入・固定し、他方の端部側に中心電極を挿入・固定するとともに、軸孔内において端子金具と中心電極との間に抵抗体を配置する構造を備えるものが知られている。抵抗体は、端子金具と中心電極との間における電気抵抗として機能することによって、火花放電時の電波ノイズの発生を抑制する。
【0003】
スパークプラグの使用が長期間にわたると、抵抗体の抵抗値が徐々に増大して着火性能が低下する。この問題を解決するため、抵抗体に酸化チタン(TiO2)を添加することで、抵抗値の上昇の抑制効果(電気的耐久性)を向上させる技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、車両の内燃機関には小型化、小排気量化が求められ、過給エンジンが使用されるようになっている。これによりスパークプラグには高電圧が要求され、抵抗体にも高い電気的耐久性が求められている。
【0006】
しかし、電気的耐久性の向上を目的として抵抗体への酸化チタンの添加量を多くすると、電波ノイズの抑制効果が低下する。近年、燃費改善のために車両の軽量化が求められており、一部の部品の材料は金属材料から、炭素繊維複合材料に代表される非金属材料に置き換えられている。非金属材料により形成された部品はシールド性能を有しないため、スパークプラグ自身に対する電波ノイズ抑制性能への要求が高くなっている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書によって開示されるスパークプラグは、筒状の主体金具と、前記主体金具の内側に保持され、軸線方向に延びる軸孔を有する筒状の絶縁体と、前記軸孔の一端に保持された中心電極と、前記軸孔の他端に保持された端子金具と、前記軸孔において前記中心電極と前記端子金具との間に配され、ガラスと導電材とを含む抵抗体と、を備え、前記抵抗体が、最も中心電極側に配され、酸化チタンを含む酸化チタン含有領域と、前記酸化チタン含有領域よりも前記端子金具側に配され、酸化チタンの含有率が前記酸化チタン含有領域よりも低い、または酸化チタンを含まない酸化チタン低減領域と、を備え、全体として、前記中心電極側から前記端子金具側に向かって、酸化チタンの含有率が小さくなる。
【発明の効果】
【0008】
本明細書によって開示されるスパークプラグによれば、電気的耐久性と電波ノイズ抑制性能とを両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態1のスパークプラグの断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態1のスパークプラグに備えられる第1抵抗層の軸線方向の長さを説明するための概略断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態1のスパークプラグに備えられる第1抵抗層の軸線方向の長さを説明するための他の概略断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態2のスパークプラグの断面図である。
【
図5】
図5は、実施形態3のスパークプラグの断面図である。
【
図6】
図6は、実施形態4のスパークプラグの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態の概要]
(1)本明細書によって開示されるスパークプラグは、筒状の主体金具と、前記主体金具の内側に保持され、軸線方向に延びる軸孔を有する筒状の絶縁体と、前記軸孔の一端に保持された中心電極と、前記軸孔の他端に保持された端子金具と、前記軸孔において前記中心電極と前記端子金具との間に配され、ガラスと導電材とを含む抵抗体と、を備え、前記抵抗体が、最も中心電極側に配され、酸化チタンを含む酸化チタン含有領域と、前記酸化チタン含有領域よりも前記端子金具側に配され、酸化チタンの含有率が前記酸化チタン含有領域よりも低い、または酸化チタンを含まない酸化チタン低減領域と、を備え、全体として、前記中心電極側から前記端子金具側に向かって、酸化チタンの含有率が小さくなる。
【0011】
抵抗値が上昇する場合には、抵抗体のうち主に中心電極側の領域で、ガラスの溶融が観察される。この領域において、酸化チタンを含有させることにより、ガラスの溶融を抑制し、電気的耐久性を向上させることができる。一方、電波ノイズは、主体金具において端子金具側の端部から発生しやすい。抵抗体のうち端子金具に近い領域を酸化チタン低減領域とすることで、電波ノイズの抑制効果が保たれる。
【0012】
なお、「全体として、前記中心電極側から前記端子金具側に向かって、酸化チタンの含有率が小さくなる」は、抵抗体が複数の層を有しており、酸化チタンの含有率が、中心電極側から端子金具側に向かって段階的に低下している場合と、抵抗体が明確に複数の層に分かれておらず、酸化チタンの含有率が、中心電極側から端子金具側に向かって連続的に低下している場合との双方を含む。
【0013】
(2)上記のスパークプラグにおいて、前記酸化チタン含有領域における酸化チタンの含有率が1質量%以上15質量%以下であっても構わない。
【0014】
酸化チタンの含有率が1質量%以上であると、充分な電気的耐久性を得ることができる。酸化チタンの含有率が15質量%以下であると、電波ノイズの充分な抑制効果が保たれる。
【0015】
(3)上記のスパークプラグにおいて、前記酸化チタン低減領域として、酸化チタンを含まない酸化チタン非含有領域を有していても構わない。
【0016】
抵抗体のうち端子金具に最も近い領域を酸化チタン非含有領域とすることにより、電波ノイズをより抑制できる。
【0017】
(4)上記のスパークプラグにおいて、前記抵抗体の酸化チタンの含有率が、前記中心電極側から前記端子金具側に向かって段階的に低下していても構わない。
【0018】
あるいは、上記のスパークプラグにおいて、前記抵抗体の酸化チタンの含有率が、前記中心電極側から前記端子金具側に向かって徐々に低下していても構わない。
【0019】
酸化チタン含有領域と、酸化チタン低減領域との間で酸化チタン含有率が極端に異なる場合、2つの領域の境界位置で接触抵抗が発生しやすく、抵抗体の抵抗値を所望の範囲内で安定させることが困難となる場合がある。酸化チタン含有率を、抵抗体において中心電極側の一端から端子金具側の他端に向かって段階的に、あるいは連続的に変化させることで、接触抵抗の発生を抑制し、抵抗体の抵抗値を所望の範囲内で安定させることができる。
【0020】
(5)上記のスパークプラグにおいて、前記酸化チタン含有領域の長さが1mm以上であっても構わない。
【0021】
抵抗体のうち最も中心電極に近い位置で、電気的耐久性を確保できる。
【0022】
(6)上記のスパークプラグにおいて、前記酸化チタン低減領域は、端子金具側の端が前記主体金具よりも前記端子金具に近接していても構わない。
【0023】
主体金具において端子金具側の端部から電波ノイズが漏れ出ることをより抑制できる。
【0024】
(7)上記のスパークプラグにおいて、前記抵抗体に含まれる酸化チタンの結晶構造がルチル型のみからなっていても構わない。
【0025】
抵抗体に含まれる酸化チタンの結晶構造がアナターゼ型であるよりもルチル型である方が、電気的耐久性をより向上させることができる。
【0026】
[実施形態の詳細]
本明細書によって開示される技術の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0027】
[実施形態1]
実施形態1を、
図1から
図3を参照しつつ説明する。スパークプラグ1は内燃機関のシリンダヘッドに取り付けられ、内燃機関の燃焼室内の混合気に着火するために用いられる。スパークプラグ1は、
図1に示すように、絶縁体10と、主体金具20と、中心電極30と、端子金具40と、抵抗体50と、シール部材60、70と、接地電極80とを備える。
図1の一点破線は、スパークプラグ1の軸線AXを示している。以下の説明では、軸線AXと平行な方向(
図1の上下方向)を「軸線方向」という。また、
図1における下側をスパークプラグ1の先端側といい、
図1における上側をスパークプラグ1の後端側という。
【0028】
<絶縁体10>
絶縁体10は、
図1に示すように、軸線AXに沿って延び、内部に軸線方向に延びる軸孔11を有する略円筒状の部材である。絶縁体10は、例えば、アルミナ等のセラミックスを用いて形成されている。
【0029】
<主体金具20>
主体金具20は、スパークプラグ1をシリンダヘッドに取り付ける際に利用される部材である。この主体金具20は、
図1に示すように、全体として軸線方向に延びた円筒形状をなし、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼材)によって構成される。
【0030】
主体金具20は、
図1に示すように、内部に軸線方向に貫通する通し孔21を備えており、その通し孔21に挿通される形で、絶縁体10が主体金具20の内部で保持される。絶縁体10の後端は、主体金具20の後端から外側(
図1の上側)へ突出している。絶縁体10の先端部は、主体金具20の先端から外側(
図1の下側)へ突出している。
【0031】
<中心電極30>
中心電極30は、
図1に示すように、軸線方向に沿って延びる棒状の中心電極本体31と、その中心電極本体31の先端に取り付けられる円柱状のチップ32とを備えている。中心電極本体31は、その先端部が絶縁体10の外部に露出するように、絶縁体10の軸孔11の先端側に保持されている。中心電極本体31は、ニッケル(Ni)又はニッケルを最も多く含むニッケル基合金(例えば、NCF600、NCF601等)によって構成される。なお、中心電極本体31は、ニッケル又はニッケル基合金製からなる外層部(母材)と、その外層部に埋設された芯部とを含む2層構造であってもよい。その場合、芯部は、外層部よりも熱伝導性に優れる銅(Cu)又は銅を最も多く含む銅基合金から形成されることが好ましい。チップ32は、例えば白金やイリジウムなどの貴金属を主成分とする。なお、チップ32は省略可能である。
【0032】
<端子金具40>
端子金具40は、
図1に示すように、軸線方向に延びる棒状の部材であり、その後端部が絶縁体10の外部に露出するように、絶縁体10の軸孔11の後端側に保持されている。端子金具40は、軸孔11内において、中心電極30よりも後端側に配置されている。端子金具40は、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼)で構成される。端子金具40の表面には、防食等の目的でニッケル等のメッキが施されてもよい。端子金具40は、軸線方向の所定位置に形成された鍔部41と、鍔部41よりも後端側に位置する端子接続部42と、鍔部41よりも先端側の脚部43と、を備えている。脚部43は、絶縁体10の軸孔11に挿入されている。端子接続部42は、絶縁体10よりも後端側に露出している。端子接続部42には、図示しない高圧ケーブルが接続されたプラグキャップが装着され、放電を発生するための高電圧が印加される。
【0033】
<抵抗体50>
抵抗体50は、
図1に示すように、絶縁体10の軸孔11内において、端子金具40の先端と中心電極30の後端との間に配置される。抵抗体50は、例えば、1kΩ以上の抵抗値(例えば、5kΩ)を有し、火花発生時の電波ノイズを低減する機能等を備えている。抵抗体50の詳細な構成については後述する。
【0034】
<シール部材60、70>
軸孔11における抵抗体50の先端と中心電極30の後端との間には、導電性のシール部材60が配置されている。また、軸孔11における抵抗体50の後端と端子金具40の先端との間には、導電性のシール部材70が配置されている。シール部材60、70は、導電性を有する材料、例えば、B2O3-SiO2系等のガラス粒子と金属粒子(Cu、Feなど)とを含む組成物で形成されている。
【0035】
<接地電極80>
接地電極80は、
図1に示すように、全体的には途中で略L字状に折れ曲がった形状を有し、その後端が主体金具20の先端に接合される。そして、その先端部が中心電極30の先端にあるチップ32と間隔を保ちつつ対向するように配される。接地電極80と主体金具20とは、例えば、互いに抵抗溶接、レーザ溶接等によって接合される。これにより、接地電極80と主体金具20とは、互いに電気的に接続される。接地電極80は、例えば、ニッケル又はニッケル基合金からなる。
【0036】
中心電極30の先端にあるチップ32と、接地電極80の先端部との間には、隙間があり、中心電極30と接地電極80との間に高電圧が印加されると、その隙間において、概ね軸線AXに沿った形で、火花放電が発生する。
【0037】
<抵抗体50の詳細な構成>
抵抗体50は、主成分であるガラス粒子と、導電材とを含む組成物で形成されている。ガラス粒子の材料としては、例えばB2O3-SiO2系、BaO-B2O3系、SiO2-B2O3-CaO-BaO系などの材料が採用され得る。導電材としては、例えば炭素粒子(カーボンブラック等)、TiC粒子、TiN粒子などの非金属導電性材料や、Al、Mg、Ti、Zr及びZn等の金属が採用され得る。本実施形態の抵抗体50は、さらに酸化チタン粒子を含んでいる。
【0038】
抵抗体50は、2層構造となっており、中心電極30側に配される第1抵抗層50A(酸化チタン含有領域の一例)と、端子金具40側に配される第2抵抗層50B(酸化チタン低減領域の一例)とで構成される。第1抵抗層50A、および第2抵抗層50Bは、ともに酸化チタンを含む。第1抵抗層50Aよりも端子金具40に近接して配される第2抵抗層50Bは、酸化チタンの含有率が第1抵抗層50Aよりも低い。
【0039】
抵抗体50に酸化チタンが含まれることにより、抵抗値の上昇の抑制効果(電気的耐久性)が向上する。しかし、電気的耐久性の向上を目的として抵抗体50への酸化チタンの添加量を多くすると、電波ノイズの抑制効果が低下する。
【0040】
抵抗値が上昇する場合には、抵抗体50のうち主に中心電極30側の領域で、ガラスの溶融が観察される。これは、中心電極30側の方が内燃機関の燃焼室に近く、高温になりやすいからである。抵抗体50のうち中心電極30側の領域に、酸化チタンを含有する第1抵抗層50Aを配することにより、ガラスの溶融を抑制し、電気的耐久性を向上させることができる。一方、電波ノイズは、主体金具20において端子金具40側の端部から漏れ出やすい。抵抗体50のうち端子金具40に近い領域に、相対的に酸化チタンの含有量が低い第2抵抗層50Bを配することにより、電波ノイズの抑制効果が保たれる。
【0041】
第1抵抗層50Aにおいて、酸化チタンの含有率が1質量%以上であることが好ましい。酸化チタンの含有率が1質量%以上であると、充分な電気的耐久性を得ることができる。また、第1抵抗層50Aにおいて、酸化チタンの含有率が15質量%以下であることが好ましい。抵抗体50のうち中心電極30側の領域であっても、酸化チタンの含有率があまりにも多すぎれば、電波ノイズの抑制効果の低下が懸念される。この領域で酸化チタンの含有率が15質量%以下であると、電波ノイズの十分な抑制効果が保たれる。
【0042】
第1抵抗層50Aの軸線方向の長さLは、1mm以上であることが好ましい。1mm以上であれば、十分な電気的耐久性を確保できるためである。第1抵抗層50Aの軸線方向の長さLは、第1抵抗層50Aにおいて中心電極30側の端E1と端子金具40側の端E2との距離で表される。第1抵抗層50Aにおいて中心電極30側の端E1は、第1抵抗層50Aの中心電極30側の端面(シール部材60との界面)が平坦であり、軸線AXに対して垂直な面であれば、その端面を意味する。また、第1抵抗層50Aの中心電極30側の端面が凹凸を有していたり、軸線AXに対して斜めに傾いていたりする場合には、第1抵抗層50Aの中心電極30側の端面のうち、第1抵抗層50Aの軸線方向の中央位置に最も近い部分を含む、軸線AXに対して垂直な面を意味する。例えば、
図2に示すように、第1抵抗層50Aの中心電極30側の端面が、中央部分が先端側に凹む凹面であれば、端E1は、端面の周縁を含む、軸線AXに垂直な面である。また、
図3に示すように、第1抵抗層50Aの中心電極30側の端面が、中央部が後端側に膨らむ凹面であれば、端E1は、端面の中央部を含む、軸線AXに垂直な面である。端子金具40側の端E2についても同様である。
【0043】
第2抵抗層50Bは、
図1に示すように、端子金具40側の端E3が、主体金具20よりも端子金具40に近接している。上記したように、電波ノイズは、主体金具20において端子金具40側の端部から漏れ出やすい。第2抵抗層50Bの端子金具40側の端E3が、主体金具20よりも端子金具40に近接していれば、主体金具20において端子金具40側の端部から電波ノイズが漏れ出ることを効果的に抑制できる。
【0044】
なお、第2抵抗層50Bにおける端子金具40側の端E3は、第2抵抗層50Bの端子金具40側の端面(シール部材70との界面)が平坦であり、軸線AXに対して垂直な面であれば、その端面を意味する。また、第2抵抗層50Bの端子金具40側の端面が凹凸を有していたり、軸線AXに対して斜めに傾いていたりする場合には、第2抵抗層50Bの端子金具40側の端面のうち最も中心電極30側に近い部分を含む、軸線AXに対して垂直な面を意味する。
【0045】
抵抗体50に含まれる酸化チタンの結晶構造は、ルチル型のみからなることが好ましい。酸化チタンの結晶構造がアナターゼ型であるよりもルチル型である方が、電気的耐久性をより向上させることができる。
【0046】
<スパークプラグ1の製造工程>
上記の構成のスパークプラグ1の製造工程の一例を、以下に説明する。
【0047】
まず、中心電極30を、軸孔11の内部に後端側から挿入する。中心電極30は、軸孔11の先端側に保持される。
【0048】
次に、シール部材60の原料粉末を、後端側から軸孔11の内部に注ぎ入れ、中心電極30の後端部の周囲に充填する。次いで、プレスピンを用いて、充填されたシール部材60の原料粉末を予備圧縮する。
【0049】
次に、第1抵抗層50Aの原料粉末を、後端側から軸孔11の内部に注ぎ入れ、予備圧縮後のシール部材60の原料粉末に重ねて充填し、予備圧縮する。次いで、第2抵抗層50Bの原料粉末を、後端側から軸孔11の内部に注ぎ入れ、予備圧縮後の第1抵抗層50Aの原料粉末に重ねて充填し、予備圧縮する。第1抵抗層50Aの原料粉末は、第2抵抗層50Bの原料粉末よりも酸化チタンを多く含んでいる。
【0050】
次いで、シール部材70の原料粉末を、後端側から軸孔11の内部に注ぎ入れ、予備圧縮後の第2抵抗層50Bの原料粉末に重ねて充填し、予備圧縮する。
【0051】
次に、端子金具40を軸孔11の内部に後端側から挿入する。端子金具40が挿入された絶縁体10を電気炉内に設置し、シール部材60、70、第1抵抗層50Aおよび第2抵抗層50Bの原料粉末を端子金具40により圧縮しつつ、加熱する。各原料粉末が圧縮・焼結され、シール部材60、70、第1抵抗層50Aおよび第2抵抗層50Bが形成される。
【0052】
その後、主体金具20の組み付けや接地電極80の加工等の必要な工程を施し、スパークプラグ1が完成する。
【0053】
<作用効果>
(1)本実施形態のスパークプラグ1は、抵抗体50を備え、この抵抗体50が、最も中心電極30側に配され、酸化チタンを含む第1抵抗層50Aと、第1抵抗層50Aよりも端子金具40側に配され、酸化チタンの含有率が第1抵抗層50Aよりも低い第2抵抗層50Bと、を備えている。
【0054】
抵抗体50のうち中心電極30側の領域である第1抵抗層50Aにおいて、酸化チタンを含有させることにより、ガラスの溶融を抑制し、電気的耐久性を向上させることができる。一方、抵抗体50のうち端子金具40に近い領域を、相対的に酸化チタンの濃度が低い第2抵抗層50Bとすることで、電波ノイズの抑制効果が保たれる。
【0055】
(2)第1抵抗層50Aにおける酸化チタンの含有率が1質量%以上15質量%以下である。酸化チタンの含有率が1質量%以上であると、充分な電気的耐久性を得ることができる。酸化チタンの含有率が15質量%以下であると、電波ノイズの充分な抑制効果が保たれる。
【0056】
(3)第1抵抗層50Aの長さLが1mm以上である。抵抗体50のうち最も中心電極30に近い位置で、電気的耐久性を確保できる。
【0057】
(4)第2抵抗層50Bは、端子金具40側の端E3が主体金具20よりも端子金具40に近接している。主体金具20において端子金具40側の端部から電波ノイズが漏れ出ることをより抑制できる。
【0058】
(5)抵抗体50に含まれる酸化チタンの結晶構造がルチル型のみからなる。酸化チタンの結晶構造がアナターゼ型であるよりもルチル型である方が、電気的耐久性をより向上させることができる。
【0059】
[実施形態2]
次に、実施形態2を、
図4を参照しつつ説明する。本実施形態のスパークプラグ100は、抵抗体110の構成が実施形態1と異なる。本実施形態において、実施形態1と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0060】
抵抗体110は、実施形態1と同様に、軸孔11内において端子金具40の先端と中心電極30の後端との間に配置され、主成分であるガラス粒子と、導電材とを含む組成物で形成されている。抵抗体110は、2層構造となっており、中心電極30側に配される第1抵抗層110A(酸化チタン含有領域の一例)と、端子金具40側に配される第2抵抗層110B(酸化チタン低減領域、および酸化チタン非含有領域の一例)とで構成される。第1抵抗層110Aは、酸化チタンを含む。第2抵抗層110Bは、酸化チタンを含まない。本明細書において、「酸化チタンを含まない」とは、酸化チタンが全く含まれないことのみを意味するものではなく、不純物として検出限界以下の酸化チタンが存在する場合も含むことを意味する。なお、抵抗体中の酸化チタンの検出は、例えば、EDS(Energy dispersive X-ray spectroscopy:エネルギー分散型X線分光法)によって元素分析を行ってチタンの有無を調べることによって行うことができる。
【0061】
以上のように本実施形態においても、実施形態1と同様の作用効果が奏される、特に、抵抗体110のうち端子金具40側の領域を、酸化チタンを含まない第2抵抗層110Bとすることにより、電波ノイズをより抑制できる。
【0062】
[実施形態3]
次に、実施形態3を、
図5を参照しつつ説明する。本実施形態のスパークプラグ120は、抵抗体130の構成が実施形態1と異なる。本実施形態において、実施形態1と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0063】
抵抗体130は、実施形態1と同様に、軸孔11内において端子金具40の先端と中心電極30の後端との間に配置され、主成分であるガラス粒子と、導電材とを含む組成物で形成されている。抵抗体130は、3層構造となっており、先端側から順に、第1抵抗層130A(酸化チタン含有領域の一例)、第2抵抗層130B(酸化チタン低減領域の一例)、第3抵抗層130C(酸化チタン低減領域の一例)が配されている。
【0064】
抵抗体130中の酸化チタンの含有率は、中心電極30側から端子金具40側に向かって、段階的に低下している。より具体的には、最も中心電極30側に位置する第1抵抗層130Aが、酸化チタンを最も多く含む。第1抵抗層130Aよりも端子金具40側に位置する第2抵抗層130Bおよび第3抵抗層130Cは、酸化チタンの含有率が第1抵抗層130Aよりも低い。そして、これら2つのうち端子金具40により近い第3抵抗層130Cは、第2抵抗層130Bよりも酸化チタンの含有率が低くなっている。
【0065】
酸化チタン含有領域と酸化チタン低減領域との間で酸化チタン含有率が極端に異なる場合、2つの領域の境界位置で接触抵抗が発生しやすく、抵抗体の抵抗値を所望の範囲内で安定させることが困難となる場合がある。酸化チタン含有率を、抵抗体130において中心電極30側から端子金具40側に向かって段階的に変化させることで、接触抵抗の発生を抑制し、抵抗体130の抵抗値を所望の範囲内で安定させることができる。
【0066】
[実施形態4]
次に、実施形態4を、
図6を参照しつつ説明する。本実施形態のスパークプラグ140は、抵抗体150の構成が実施形態1と異なる。本実施形態において、実施形態1と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0067】
抵抗体150は、実施形態1と同様に、軸孔11内において端子金具40の先端と中心電極30の後端との間に配置され、主成分であるガラス粒子と、導電材とを含む組成物で形成されている。抵抗体150は、酸化チタンの含有率が、中心電極30側から端子金具40側に向かって連続的に低下している。境界位置は明確に定められないが、抵抗体150において、中心電極30側の領域が酸化チタン含有領域150Aであり、端子金具40側の領域が酸化チタン低減領域150Bである。酸化チタン含有率を、抵抗体130において中心電極30側から端子金具40側に向かって連続的に変化させることで、接触抵抗の発生を抑制し、抵抗体150の抵抗値を所望の範囲内で安定させることができる。
【0068】
[試験例]
1.酸化チタンの含有量と抵抗体の負荷寿命特性(電気的耐久性)および電波雑音特性との関係を調べた試験例
【0069】
1)試験体
上記実施形態1と同様の構成を有するスパークプラグを複数準備し、試験体とした。各試験体に備えられる抵抗体は、先端側(中心電極側)に配された抵抗層1と、後端側(端子金具側)に配された抵抗層2とを有する2層構造とした。各試験体について、抵抗層1および抵抗層2の組成を表1に示した。なお、試験体は、抵抗体における抵抗層1と抵抗層2の組成を異ならせた他は互いに同一の構成を有している。
【0070】
抵抗層1および抵抗層2に含まれる酸化チタン含有率は、EDSによって抵抗層1、2の元素分析を行い、計測されたチタンの含有量を酸化チタン含有量に換算することによって得た。元素分析は、日本電子株式会社製走査電子顕微鏡 JSM-IT300を用い、300×300μmのエリア内でスパークプラグの軸線に沿って走査しながら計測を行った。
【0071】
2)負荷寿命試験
各試験体について、負荷寿命試験を行った。負荷寿命試験は、JIS B8031:2006(内燃機関-スパークプラグ)の7.14に規定された試験条件に基づいて60時間実施し、試験前後の抵抗値の変化率を算出した。抵抗値の変化率が±50%より大きい場合、電気的耐久性が不十分と判定し、表1において、「×」と表示した。抵抗値の変化率が±50%以下であり、30%より大きい場合、電気的耐久性が十分であると判定し、表1において、「〇」と表示した。抵抗値の変化率が±30%以下である場合、より電気的耐久性が優れると判定し、表1において、「〇〇」と表示した。
【0072】
3)電波ノイズ試験
各試験体について、電波ノイズ試験を行った。電波ノイズ試験は、JASO(日本自動車技術会伝送規格) D-002-2の「自動車-電波雑音特性-第2部 防止器の測定方法 ボックス法」に基づいて行い、30MHz以上1000MHz以下の領域におけるノイズ減衰量を計測した。ノイズ減衰量が20dB下回る場合、電波ノイズ抑制性能が不十分であると判定し、表1において、「×」と表示した。ノイズ減衰量が20dB以上30dB以下である場合、電波ノイズ抑制性能が十分であると判定し、表1において、「〇」と表示した。ノイズ減衰量が30dB以上である場合、より電波ノイズ抑制性能が優れると判定し、表1において、「〇〇」と表示した。
【0073】
【0074】
4)結果
表1より、抵抗層1の酸化チタンの含有率が抵抗層2よりも小さい試験例1、2、3では、電波ノイズ抑制性能が優れていたが、電気的耐久性が不十分であった。抵抗層1の酸化チタンの含有率が抵抗層2よりも大きい試験例4から11では、十分な電気的耐久性および電波ノイズ抑制性能が確認された。試験例4から11の中で比較すると、酸化チタンの含有率が15質量%以下の試験例4から10では、酸化チタンの含有率が15質量%を超える試験例11より電波ノイズ抑制性能が優れていた。以上より、抵抗層1の酸化チタン含有率が抵抗層2の酸化チタン含有率より大きい場合において、電気的耐久性と電波ノイズ抑制性能とを両立できることが確かめられ、また、抵抗層1の酸化チタン含有率が1質量%以上15質量%以下である場合において、電波ノイズ抑制性能がより優れることが確かめられた。
【0075】
2.酸化チタン含有領域の長さと抵抗体の負荷寿命特性(電気的耐久性)との関係を調べた試験例
1)試験体
上記実施形態1の試験例5を基準として、抵抗層1の長さを異ならせたスパークプラグを複数準備し、試験体とした。試験体は、抵抗体における抵抗層1、2の長さを異ならせた他は互いに同一の構成を有している。各試験例について、抵抗体のうち先端側(中心電極側)に配された抵抗層1の長さを表2に示した。なお、試験例26は実施形態における試験例4と同一である。
【0076】
2)負荷寿命試験
上記1.の2)と同様にして負荷寿命試験を行い、結果を表2に示した。
【0077】
【0078】
3)結果
抵抗層1の長さが1mm未満の試験例21、22、23より、抵抗層1の長さが1mm以上の試験例24から32の方が、電気的耐久性がより優れた結果となった。
【0079】
<他の実施形態>
(1)実施形態1、2では抵抗体50が2層構造であり、実施形態3では抵抗体130が3層構造であったが、抵抗体は4層以上の層を有していても構わない。この場合、最も中心電極側の層が酸化チタン含有領域であり、その他が酸化チタン低減領域である。
(2)実施形態3では、抵抗体130が酸化チタン非含有領域を有していなかったが、最も端子金具側の層が酸化チタン非含有領域であっても構わない。抵抗体が4層以上の層を有している場合であっても、同様である。
(3)実施形態4のように、酸化チタンの含有率が、中心電極側から端子金具側に向かって連続的に低下している場合、抵抗体のうち最も端子金具側に近い領域が酸化チタン非含有領域であってもよく、酸化チタン非含有領域でなくても構わない。
【符号の説明】
【0080】
1、100、120、140:スパークプラグ
10:絶縁体
11:軸孔
20:主体金具
30:中心電極
40:端子金具
50:抵抗体
50A、110A、130A:第1抵抗層(酸化チタン含有領域)
50B、130B:第2抵抗層(酸化チタン低減領域)
110B:第2抵抗層(酸化チタン低減領域、酸化チタン非含有領域)
130C:第3抵抗層(酸化チタン低減領域)
150A:酸化チタン含有領域
150B:酸化チタン低減領域