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特許7319483多層構造紡績糸、その製造方法、生地及び衣類
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】多層構造紡績糸、その製造方法、生地及び衣類
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/36 20060101AFI20230725BHJP
   D03D 15/44 20210101ALI20230725BHJP
   D03D 15/47 20210101ALI20230725BHJP
   D03D 15/292 20210101ALI20230725BHJP
   D03D 15/233 20210101ALI20230725BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20230725BHJP
   D04B 1/14 20060101ALI20230725BHJP
   D04B 21/00 20060101ALI20230725BHJP
   A41D 31/00 20190101ALI20230725BHJP
   A41D 31/02 20190101ALI20230725BHJP
   D02G 3/38 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
D02G3/36
D03D15/44
D03D15/47
D03D15/292
D03D15/233
D03D15/283
D04B1/14
D04B21/00 B
A41D31/00 502A
A41D31/02 A
D02G3/38
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023516275
(86)(22)【出願日】2022-07-19
(86)【国際出願番号】 JP2022028007
【審査請求日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2021206337
(32)【優先日】2021-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390018153
【氏名又は名称】日本毛織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】安田 智則
(72)【発明者】
【氏名】岡田 啓
(72)【発明者】
【氏名】茂上 英明
(72)【発明者】
【氏名】高田 卓也
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/044910(WO,A1)
【文献】特開平03-045734(JP,A)
【文献】特開平02-014033(JP,A)
【文献】特開2009-293136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D31/00-31/32
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
D03D1/00-27/18
D04B1/00-39/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分繊維と鞘成分繊維を含む多層構造紡績糸であって、
前記芯成分繊維はマルチフィラメント糸であり、
前記鞘成分繊維は内層繊維と表層繊維を含み、前記鞘成分繊維の内層繊維が無撚り状であり、表層繊維が一方向に巻き付いて全体を束ねており、
前記鞘成分繊維は、平均繊維長10mm以上25mm以下の短繊維Aと、平均繊維長25mmを超え51mm以下の短繊維Bが混紡されており、
前記多層構造紡績糸を100質量%としたとき、前記短繊維Aの混合率は0.1~20質量%であることを特徴とする多層構造紡績糸。
【請求項2】
前記短繊維Aは、獣毛繊維100質量%又は獣毛繊維とそれ以外の繊維の混紡品である請求項1に記載の多層構造紡績糸。
【請求項3】
前記短繊維Bは、新綿獣毛繊維とそれ以外の繊維の混紡品である請求項1に記載の多層構造紡績糸。
【請求項4】
前記短繊維Bは、新綿獣毛繊維の平均繊維長は25mmを超え35mm以下、獣毛繊維以外の繊維の平均繊維長は25mmを超え51mm以下である請求項1に記載の多層構造紡績糸。
【請求項5】
前記多層構造紡績糸を100質量%としたとき、獣毛繊維の混率は5~50質量%である請求項1に記載の多層構造紡績糸。
【請求項6】
前記マルチフィラメント糸は、コンジュゲートマルチフィラメント糸及び仮撚マルチフィラメント糸から選ばれる少なくとも一つの伸縮性マルチフィラメント糸である請求項1に記載の多層構造紡績糸。
【請求項7】
前記多層構造紡績糸を100質量%としたとき、前記芯成分繊維は10~40質量%であり、鞘成分繊維は60~90質量%である請求項1に記載の多層構造紡績糸。
【請求項8】
前記多層構造紡績糸の単糸は、メートル番手で20~40番(繊度:500~250decitex)の範囲である請求項1に記載の多層構造紡績糸。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の多層構造紡績糸の製造方法であって、
平均繊維長10mm以上25mm以下の短繊維Aと、平均繊維長25mmを超え51mm以下の短繊維Bを、カード機で開繊し、かつ混紡してスライバーとし、
前記スライバーを紡績機のドラフトゾーンに供給してドラフトし、
前記ドラフトゾーンのフロントローラの上流側に芯成分繊維となるマルチフィラメント糸を供給し、前記スライバーと合体させて繊維束とし、
前記繊維束を前記フロントローラの排出部から離れて配置されているスピンドルに供給し、旋回流によって仮撚りを掛けた後に巻き取ることを特徴とする多層構造紡績糸の製造方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の多層構造紡績糸を含む織物生地及び編物生地から選ばれる少なくとも一つの生地。
【請求項11】
請求項1~のいずれか1項に記載の多層構造紡績糸を含む衣類。
【請求項12】
請求項10に記載の生地を含む衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯にマルチフィラメント糸を配置し、鞘に短繊維を配置した多層構造紡績糸、その製造方法、生地及び衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
芯成分繊維がフィラメント糸で鞘成分繊維が短繊維の長短複合紡績糸は、フィラメント糸と短繊維の持つそれぞれの長所を生かせることから、従来から様々な提案がされている。特許文献1には、リング紡績法により、マルチフィラメント糸を電気開繊して短繊維と撚糸し、均一混繊構造の長短複合紡績糸を作る方法が提案されている。特許文献2には、リング紡績法により、芯部にコンジュゲート複合繊維糸からなるフィラメント糸を配置し、鞘部に短繊維を配置した長短複合紡績糸が提案されている。本発明者らは、リング紡績法により、芯部にマルチフィラメント仮撚糸を配置し、鞘部に短繊維束を配置した長短複合紡績糸が提案している(特許文献3)。特許文献4には結束紡績法を用いた長短複合紡績糸が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-102445号公報
【文献】特開2015-045112号公報
【文献】特許第6696004号公報
【文献】特開平11-217741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、繊維長の短い繊維の活用は簡単ではなく、高付加価値製品にすることは困難があった。繊維長の短い繊維は、工程通過性が悪く、糸切れが多く、毛羽立ちもあり、紡績糸に形成しにくいという問題があった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、繊維長が短い繊維を含んでも、糸構造の最適化を図ることにより、糸物性及び生地物性が従来品とそん色のない多層構造紡績糸、その製造方法、生地及び衣服を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の多層構造紡績糸は、芯成分繊維と鞘成分繊維を含む多層構造紡績糸であって、前記芯成分繊維はマルチフィラメント糸であり、前記鞘成分繊維は内層繊維と表層繊維を含み、前記鞘成分繊維の内層繊維が無撚り状であり、表層繊維が一方向に巻き付いて全体を束ねており、前記鞘成分繊維は、平均繊維長10mm以上25mm以下の短繊維Aと、平均繊維長25mmを超え51mm以下の短繊維Bが混紡されており、前記多層構造紡績糸を100質量%としたとき、前記短繊維Aの混合率は0.1~20質量%であることを特徴とする
【0007】
本発明の多層構造紡績糸の製造方法は、前記多層構造紡績糸の製造方法であって、平均繊維長10mm以上25mm以下の短繊維Aと、平均繊維長25mmを超え51mm以下の短繊維Bを、カード機で開繊し、かつ混紡してスライバーとし、
前記スライバーを紡績機のドラフトゾーンに供給してドラフトし、
前記ドラフトゾーンのフロントローラの上流側に芯成分繊維となるマルチフィラメント糸を供給し、前記スライバーと合体させて繊維束とし、
前記繊維束を前記フロントローラの排出部から離れて配置されているスピンドルに供給し、旋回流によって仮撚りを掛けた後に巻き取る多層構造紡績糸の製造方法である。
【0008】
本発明の生地は、前記の多層構造紡績糸を使用した織物又は編物である。また、本発明の衣類は、前記の多層構造紡績糸又は生地を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の多層構造紡績糸は、芯成分繊維と鞘成分繊維を含み、前記芯成分繊維はマルチフィラメント糸であり、前記鞘成分繊維は内層繊維と表層繊維を含み、前記鞘成分繊維の内層繊維が無撚り状であり、表層繊維が一方向に巻き付いて全体を束ねており、前記鞘成分繊維は、平均繊維長10mm以上25mm以下の短繊維Aと、平均繊維長25mmを超え51mm以下の短繊維Bが混紡されていることにより、繊維長が短い繊維であっても、糸構造の最適化を図り、糸物性及び生地物性が従来品とそん色のない多層構造紡績糸、その製造方法、生地及び衣服を提供できる。すなわち、平均繊維長10mm以上25mm以下の短繊維Aは、通常の紡績用短繊維の平均繊維長(一例として38mm)に比較して短いが、芯成分繊維のマルチフィラメント糸に絡まって旋回流スピンドルまで運ばれ、糸形成できる。ここで芯成分繊維のマルチフィラメント糸は、つなぎ糸として機能する。得られる多層構造紡績糸(結束紡績糸)は、表層繊維が一方向に巻き付いて全体を束ねており、この糸構造により糸は強固となり、糸物性及び生地物性が従来品の物性とそん色のないものとなる。これらの特性は、ビジネス用スーツ、ビジネス用ユニホーム、学生服などに好適である。また、本発明の多層構造紡績糸の製造方法は、結束紡績法であるため、リング紡績法に比べて約10~20倍の高速で紡績でき、効率よく合理的に、コストも安く製造でき、毛羽数が少なく均整な糸であり、熱水収縮率も高い多層構造紡績糸を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は本発明の一実施形態における多層構造紡績糸を製造するための結束紡績装置の要部を示す模式的斜視図である。
図2図2は本発明の一実施形態における多層構造紡績糸の模式的斜視図である。
図3図3は本発明の一実施例の多層構造紡績糸の側面写真(倍率200倍)である。
図4図4は本発明の一実施例の織物組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、平均繊維長10mm以上25mm以下の短繊維Aの活用ができないかを検討した。最初は、短繊維Aと短繊維Bを混紡してリング紡績糸にできないかを検討したが、短繊維Aの平均繊維長が短く、糸形成は困難であった。次に結束紡績機を使用して、同様に紡績糸にできないかを検討したが、短繊維Aの平均繊維長が短く、繊維束がフロントローラから旋回流スピンドルまでの間を通らず、糸形成は困難であった。そこで、結束紡績機を使用して、芯にマルチフィラメント糸を配置し、鞘に短繊維Aを含む短繊維Aと短繊維Bを混紡した短繊維束を配置して長短複合紡績糸(精紡交撚糸)とすることを検討したところ、芯成分繊維のマルチフィラメント糸は、つなぎ糸の機能を発揮し、短繊維Aはマルチフィラメント糸に絡まって旋回流スピンドルまで運ばれ、糸形成できることが分かった。
【0012】
本発明の多層構造紡績糸は、芯成分繊維と鞘成分繊維で構成され、前記鞘成分繊維は内層繊維と表層繊維を含む3層構造になっている。この糸構造により、糸構造は強固となり、生地の摩擦強力及び抗ピリング性を向上できる。またこの糸構造により、後の工程で多層構造紡績糸又は生地を熱水収縮させても、芯成分繊維のマルチフィラメント糸が外に飛び出さず、スナールになりにくい。
【0013】
本発明は、鞘成分繊維として、平均繊維長10mm以上25mm以下の短繊維Aと、平均繊維長25mmを超え51mm以下の短繊維Bを混紡して使用する。短繊維Aの平均繊維長は10~25mmであり、好ましくは18~22mmである。前記平均繊維長であると、結束紡績装置に掛かりやすい。この結束紡績装置は、ボルテックス(VORTEX)紡績装置ともいう。
【0014】
前記多層構造紡績糸を100質量%としたとき、前記短繊維Aの混合率は0.1~20質量%が好ましく、より好ましくは0.5~18質量%であり、さらに好ましくは1~15質量%である。前記の範囲であれば、製品の品位を落とすことなく、高付加価値製品とすることができる。具体的には、糸構造及び獣毛繊維の混率の最適化を図り、生地の摩擦強力、伸び及び抗ピリング性などを向上できる。
【0015】
前記短繊維Aは、獣毛繊維100質量%又は獣毛繊維とそれ以外の繊維の混紡品であるのが好ましい。混紡品の混紡割合は任意の数値を適用できる。例えば短繊維Aが混紡品の場合、獣毛繊維:獣毛繊維以外の繊維=1:99~99:1の範囲で混紡されていてもよい。獣毛繊維はウールなど後に説明するものを含む。獣毛繊維以外の繊維は、ポリエステル、ナイロンなどの合成繊維、レーヨンなどの再生繊維、コットンなどの天然繊維である。
【0016】
前記短繊維Bは、新綿(しんわた)獣毛繊維100質量%又は獣毛繊維とそれ以外の繊維の混紡品であるのが好ましい。混紡品の混紡割合は任意の数値を適用できる。例えば短繊維Bが混紡品の場合、獣毛繊維:獣毛繊維以外の繊維=1:99~99:1の範囲で混紡されていてもよい。前記短繊維Bの新綿(しんわた)獣毛繊維の平均繊維長は25mmを超え35mm以下が好ましく、獣毛繊維以外の繊維の平均繊維長は25mmを超え51mm以下が好ましい。新綿獣毛繊維以外の短繊維は、合成繊維、再生繊維、天然繊維のいずれかでもよい。好ましくはポリエステル短繊維、ナイロン短繊維、セルロースアセテート短繊維、キュプラ短繊維、シルク短繊維、コットン繊維、麻繊維、レーヨン繊維などである。この中でもポリエステル短繊維は強度が高く腰もあることから好ましい。
【0017】
前記多層構造紡績糸は内層繊維とその表層の表層繊維を含み、前記内層繊維が無撚り状であり、前記表層繊維が一方向に巻き付いて全体を束ねている多層構造紡績糸である。この糸構造により、糸は強固となり、生地の摩擦強力及び抗ピリング性を向上できる。またこの糸構造により、芯成分繊維のマルチフィラメント糸は外に飛び出さず、スナールになりにくい。これらの特性は、ビジネス用スーツ、ビジネス用ユニホーム、学生服などに好適である。
【0018】
芯成分繊維のマルチフィラメント糸は、伸縮性マルチフィラメント糸が好ましい。伸縮性マルチフィラメント糸としては、コンジュゲートマルチフィラメント糸又は仮撚マルチフィラメント糸が好ましい。これにより、生地の伸びを向上できる。コンジュゲートマルチフィラメント糸は、一例として、ポリエチレンテレフタレート(PET)とポリトリメチレンテレフタレート(PTT)がサイドバイサイドで複合紡糸されたポリエステルコンジュゲートフィラメント糸が好ましい。このような伸縮糸は例えば、商品名“ライクラT400ファイバー”(東レ・オペロンテックス社販売)がある。別の伸縮糸としては、極限粘度の異なる2成分のポリエチレンテレフタレートのコンジュゲート糸、PETとポリブチレンテレフタレート(PBT)とのコンジュゲート糸、PTTとPBTとのコンジュゲート糸なども使用できる。このようなポリエステルコンジュゲートフィラメント糸は、PETマルチフィラメント糸と同様に耐塩素性も耐光性も高い。コンジュゲートマルチフィラメント糸は染色温度程度の熱水処理により捲縮が発現し、伸縮性(ストレッチ性)が発現する。このことから潜在捲縮糸ともいわれている。
【0019】
仮撚マルチフィラメント糸は、ポリエステル仮撚マルチフィラメント糸、ナイロン仮撚マルチフィラメント糸、セルロースアセテート仮撚マルチフィラメント糸、キュプラ仮撚マルチフィラメント糸、シルク仮撚マルチフィラメント糸などが好ましい。これらの糸は獣毛繊維と組み合わせるとより高付加価値の交撚糸となる。なかでもポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント仮撚糸は強度も高く腰もあることから好ましい。
【0020】
鞘成分繊維は短繊維Aと新綿獣毛繊維、又は短繊維Aと新綿獣毛繊維と前記新綿獣毛繊維以外の短繊維を含む混紡繊維が好ましい。鞘成分繊維は、内層に位置する短繊維が無撚り状であり、表層に位置する短繊維が一方向に実撚り状に巻き付いて全体を束ねている。内層の無撚り状短繊維と、表層に位置する実撚り状繊維は、別の繊維であってもよいし、同一繊維がマイグレーションにより入れ替わっていてもよい。
【0021】
獣毛繊維は、羊の毛であるウール(メリノ・ウールの場合、繊維長30~150mm)、山羊の毛であるモヘヤ(繊維長100~300mm)、カシミヤ(繊維長40~90mm)ラクダの毛であるキャメル(繊維長50~70mm)、アルパカ(繊維長100~200mm)、ビキューナ(繊維長20~70mm)、ウサギの毛であるアンゴララビット(繊維長100~130mm)等を使用できる。このうち好ましいのは最も汎用性があるウールである。ウールと他の獣毛繊維とを混紡してもよい。獣毛繊維の平均繊維長は25mmを超え35mm以下にカットするのが好ましい。多層構造紡績糸を100質量%としたとき、新綿獣毛繊維の混率は5~50質量%が好ましく、より好ましくは7~45質量%、さらに好ましくは10~40質量%である。これにより、風合いが良く、温かい織物、編み物が得られる。残余は獣毛繊維以外の新綿繊維(例えばポリエステル短繊維)とするのが好ましい。
【0022】
多層構造紡績糸を100質量%としたとき、芯成分繊維のマルチフィラメント糸は10~40質量%、鞘成分繊維は60~90質量%が好ましい。より好ましくは、芯成分繊維のマルチフィラメント糸は15~35質量%、鞘成分繊維は65~85質量%であり、さらに好ましくは、芯成分繊維のマルチフィラメント糸は20~30質量%、鞘成分繊維は70~80質量%である。
【0023】
多層構造紡績糸の一例の各繊維を質量部で表示すると、好ましい割合は次のとおりである。
(1)マルチフィラメント糸:10~40質量部、より好ましくは15~35質量部、さらに好ましくは20~30質量部。
(2)新綿獣毛繊維:5~50質量部、より好ましくは7~45質量部、さらに好ましくは10~40質量部、とくに好ましくは20~35質量部。
(3)獣毛繊維以外の新綿繊維(例えばポリエステル短繊維):5~50質量部、より好ましくは7~45質量部、さらに好ましくは10~40質量部、とくに好ましくは20~35質量部。
(4)短繊維A:0.1~20質量部、より好ましくは0.5~18質量部、さらに好ましくは1~15質量部。
【0024】
本発明の多層構造紡績糸は、生産性に優れることから結束紡績糸が好ましい。リング紡績糸に比べて結束紡績糸は、約10~20倍生産性に優れる。とくに旋回流ノズルが1個の結束紡績装置により得られた結束紡績糸は毛羽も少なく、糸構造は強固となり、生地の摩擦強力及び抗ピリング性を向上できる。なお、結束紡績は、ボルテックス(VORTEX)紡績ともいう。
【0025】
本発明の多層構造紡績糸は、メートル番手(単糸)で、20~40番(繊度:500~250decitex)の範囲が好ましい。この範囲であれば、ビジネス用スーツ、ビジネス用
ユニホーム、学生服などに好適である。多層構造紡績糸は2本撚り合わされた双糸としてもよい。前記双糸のメートル番手は10~20番(繊度:1000~500decitex)が
好ましい。双糸にすると、生地の表面がきれいになるうえ、織物の強度も高くなる。
【0026】
本発明の織物又は編物の単位面積あたりの質量は50~400g/mの範囲が好ましい。前記範囲であれば、さらに軽くて着心地の良い衣服とすることができる。さらに好ましくは100~350g/mの範囲、とくに好ましくは150~300g/mの範囲である。織物組織は、平織り、綾織り、朱子織、その他の変化織など、どのような組織であってもよい。編物は、横編み、丸編み、経編などであり、編物組織はどのような組織であってもよい。
【0027】
次に本発明の多層構造糸を製造するための装置と方法について図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。図1は本発明の一実施例における結束紡績装置1の要部を示す斜視図である。
(1)ドラフト工程
結束紡績装置1のドラフトゾーン6は、一対のフロントローラ2,2’と、エプロンを有する一対のセカンドローラ3と、一対のサードローラ4と、一対のバックローラ5で構成されている。鞘成分繊維となる獣毛繊維と獣毛繊維鋳型の短繊維を混紡したスライバー7は、スライバーガイド8を通過させてバックローラ5から供給され、ドラフトゾーン6でドラフトされる。
(2)芯成分繊維と被覆成分繊維との合体工程
ドラフトゾーン6のフロントローラ2,2’手前(上流側)に、芯成分繊維となる伸縮性マルチフィラメント糸9を供給し、スライバー7がドラフトされた繊維束と合体させる。
(3)紡績糸形成工程
フロントローラ2,2’の排出部から離れて配置されているスピンドル10に、合体させた芯成分繊維糸と鞘成分繊維の繊維束を供給し、旋回流によって仮撚りを掛けて多層構造紡績糸11とする。
(4)巻き取り工程
得られた多層構造紡績糸11は、スラブキャッチャー12を通過し、フリクションローラ13で引き取られ、巻取り部17の巻き取りドラム14により駆動されクレードルアーム15に支持されたパッケージ16に巻き取られる。
本発明の製造方法に使用する紡績機は、例えば村田機械社製、商品名”MURATA VORTEX SPINNER”として販売されている。特徴的なことは、糸速度が300~450m/分であ
り、リング紡績機の約10~20倍生産速度が速いことである。
【0028】
本発明の一例の多層構造紡績糸(結束紡績糸)20を図2に示す。この糸は、芯成分繊維21が伸縮性マルチフィラメント糸であり、ウールの混率(リサイクルウールと新綿ウールの合計)を35質量%とした例である。鞘成分繊維24は短繊維A(ウール50質量%、ポリエステル短繊維50質量%の混紡品)と、新綿ウールと、新綿ポリエステル(PET)短繊維の混紡繊維である。鞘成分繊維24の内層繊維22も表層の巻き付き繊維23も、ウールとPET短繊維の混紡繊維の状態で内層繊維22と表層の巻き付き繊維23となっている。表層の巻き付き繊維23は一方向に撚りが掛けられた実撚り状であり、全体を束ねている。これにより、毛羽やたるみは少なく、摩耗を受けても繊維が脱落せず、強固な糸状態を保つ。前記において一方向とは、S撚りの巻き付け繊維又はZ撚りの巻き付け繊維のことをいい、撚り角が同一ということではない。S撚りの巻き付け繊維又はZ撚りの巻き付け繊維は、結束紡績機のスピナーの圧空旋回流の方向によって決まる。この多層構造紡績糸(結束紡績糸)20は、芯成分繊維21と、鞘成分繊維24のうちの無撚りの内層繊維22と、表層の巻き付き繊維23の3層構造になっている。この糸構造により、糸強度は高いものとなる。また、内層のウールは表層のPET短繊維に被覆保護されていることにより、ウールの傷みは防止される。
図2から明らかなとおり、表層の巻き付き繊維が、芯成分繊維及び鞘成分の内層繊維を強固にラッピングしており、これが生地の摩擦強力、緯伸び及び抗ピリング性の向上に寄与しているといえる。
【実施例
【0029】
以下、実施例を用いてさらに具体的に説明する。本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
本発明の実施例、比較例における測定方法はJIS又は業界規格にしたがって測定した。
【0030】
(実施例1)
1.使用繊維
(1)芯成分繊維
芯成分繊維として、ポリエチレンテレフタレート(PET)とポリトリメチレンテレフタレート(PTT)が50:50の割合でサイドバイサイド複合紡糸されたポリエステルコンジュゲートマルチフィラメント糸、商品名“ライクラT400ファイバー”(東レ・オペロンテックス社販売)、トータル繊度83decitex、構成本数34本、黒原着品を使
用した。
(2)鞘成分繊維
下記の繊維をカード混紡した。
(i)短繊維A
短繊維Aは、リサイクル反毛繊維として古着の混紡品を使用し、カッター機で裁断し、ガーネット反毛機でほぐしてウェブとした。平均繊維長は20.7mm、混紡割合は質量比でウール:ポリエステル(PET)=50:50であった。
(ii)短繊維B
・新綿ウール
平均直径22μm、平均繊維長80mmのメリノ種ウールの繊維束(20g/m)を平均繊維長28mmにスクウエアカットした。
・新綿PET短繊維
繊度1.56decitexのポリエチレンテレフタレート(PET)、スクエアカット(平
均繊維長38mm)、黒原着品を使用した。
以上のリサイクル反毛繊維とウールとPET短繊維を表1に示す所定の割合にてカード機で均一に混紡し、常法によりスライバーとした。
2.多層構造紡績糸の作製
ポリエステルコンジュゲートマルチフィラメント糸を芯成分繊維とし、ウールとPET短繊維を混紡した繊維束(スライバー)を鞘成分繊維とし、図1に示す村田機械社製、商品名”No.870,MURATA VORTEX SPINNER”を使用し、300m/分の速度で多層構造結束紡績糸を製造した。得られた糸のメートル番手は36番(278decitex)であった。この糸は単糸使いの場合は1/36と表示する。この糸は全体としてウール35質量%、ポリエステル65質量%であった。得られた多層構造結束紡績糸の側面写真を図3に示す。
【0031】
(比較例1)
リサイクル反毛繊維を加えない以外は実施例1と同様に実施した。
各繊維の割合及び得られた結束紡績糸の物性は表1に示す通りであった。
【0032】
【表1】
【0033】
表1から明らかなとおり、実施例1の結束紡績糸は、比較例1の結束紡績糸とそん色のない物性であった。
【0034】
(実施例2~3)
次の条件で織物を製造した。
(1)緯糸
実施例1の多層構造紡績糸を用いた。
(2)経糸
ウール50質量%、PET短繊維50質量%、メートル番手48番(208decitex)のリング紡績糸双糸、メートル番手2/48番(417decitex)を用いた。
(3)織物の作製
経糸と、緯糸を使用し、レピア織機を使用して図4に示す2/1綾組織の織物を製織した。図4において、組織点の経糸の浮きは黒、沈みは白で示す。得られた織物は、ウールを染色するため酸性染料を使用し、室温(25℃)から100℃まで75分かけて昇温し、100℃の熱水で45分間浸漬して染色し、その後洗浄した。
【0035】
(比較例2)
緯糸として、比較例1の結束紡績糸を使用した以外は実施例2と同様に実施した。
条件と結果を表2にまとめて示す。
【0036】
【表2】
【0037】
表2から明らかなとおり、各実施例の織物生地は比較例の生地とそん色のない物性であった。
【0038】
(比較例3)
図1に示す結束紡績装置において、芯成分繊維となる伸縮性マルチフィラメント糸9を供給しない以外は実施例1と同様に実施したところ、短繊維束は旋回流スピンドル10まで運ばれず、糸形成できなかった。このことから、芯成分繊維のマルチフィラメント糸はつなぎ糸の機能を発揮し、短繊維Aはマルチフィラメント糸に絡まって旋回流スピンドルまで運ばれ、糸形成できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の多層構造紡績糸から作られる生地は、ビジネス用スーツ、ビジネス用ユニホーム、学生服などに好適である。その他、靴下、手袋、ホールガーメント編み物などにも好適である。
【符号の説明】
【0040】
1 結束紡績装置
2,2’ フロントローラ
3 セカンドローラ
4 サードローラ
5 バックローラ
6 ドラフトゾーン
7 スライバー
8 スライバーガイド
9 伸縮性マルチフィラメント糸
10 スピンドル
11 多層構造紡績糸
12 スラブキャッチャー
13 フリクションローラ
14 巻き取りドラム
15 クレードルアーム
16 パッケージ
20 多層構造紡績糸
21 芯成分繊維
22 内層繊維
23 巻き付き繊維
24 鞘成分繊維
【要約】
芯成分繊維(21)と鞘成分繊維(24)を含む多層構造紡績糸(20)であって、芯成分繊維(21)はマルチフィラメント糸であり、鞘成分繊維(24)は内層繊維(22)と表層繊維(23)を含み、内層繊維(22)が無撚り状であり、表層繊維(23)が一方向に巻き付いて全体を束ねており、鞘成分繊維(24)は、平均繊維長10mm以上25mm以下の短繊維Aと、平均繊維長25mmを超え51mm以下の短繊維Bが混紡されている。芯成分繊維のマルチフィラメント糸は、つなぎ糸として機能する。多層構造紡績糸(20)を100質量%としたとき、短繊維Aの混合率は0.1~20質量%が好ましい。これにより、繊維長が短い繊維を含んでも、糸構造の最適化を図ることにより、糸物性及び生地物性が従来品とそん色のない多層構造紡績糸、その製造方法、生地及び衣服を提供する。
図1
図2
図3
図4