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  • 特許-バッチ式加熱炉の操業方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】バッチ式加熱炉の操業方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/52 20060101AFI20230726BHJP
   C21D 9/70 20060101ALI20230726BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
C21D1/52 K
C21D9/70 A
C21D9/00 101Q
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019110144
(22)【出願日】2019-06-13
(65)【公開番号】P2020200522
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 聡
(72)【発明者】
【氏名】青木 利一
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-043934(JP,A)
【文献】特開平06-017151(JP,A)
【文献】特開平02-141533(JP,A)
【文献】特開昭59-006328(JP,A)
【文献】特公昭46-029249(JP,B1)
【文献】米国特許第04629417(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/00-11/00
F27D 3/00- 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2段に積み重ねられた鋼材を加熱する炉内上部にバーナーが配置されたバッチ式加熱炉の操業方法であって、
前記鋼材のうち、最上段に位置する第1の鋼材の温度推定値を第1の推定式を用いて算出し、最上段の次の段に位置する第2の鋼材の温度推定値を第2の推定式を用いて算出する工程と、
前記第1の鋼材の温度推定値が所定値に到達したときに、前記第1の鋼材を前記バッチ式加熱炉から抽出する工程と、
前記第1の鋼材が抽出された後、前記第2の鋼材の温度推定値を前記第1の推定式を用いて算出する工程と
を含む、バッチ式加熱炉の操業方法。
【請求項2】
前記鋼材は、少なくとも3段に積み重ねられ、
前記鋼材のうち、前記第2の鋼材の次の段に位置する第3の鋼材の温度推定値を第3の推定式を用いて算出する工程と、
前記第1の鋼材が抽出された後、前記第3の鋼材の温度推定値を前記第2の推定式を用いて算出する工程と、
前記第2の鋼材の温度推定値が前記所定値に到達したときに、前記第2の鋼材を前記バッチ式加熱炉から抽出する工程と、
前記第2の鋼材が抽出された後、前記第3の鋼材の温度推定値を前記第1の推定式を用いて算出する工程と
をさらに含む、請求項1に記載のバッチ式加熱炉の操業方法。
【請求項3】
前記鋼材の温度推定値Tmを、前記バッチ式加熱炉の炉内雰囲気の温度測定値Tf、経過時間t、係数Aおよび比例定数kを含む式(i)を用いて算出し、前記第1の推定式と前記第2の推定式との間では係数Aおよび比例定数kの少なくともいずれかの値が異なる、請求項1または請求項2に記載のバッチ式加熱炉の操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッチ式加熱炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材を所定の温度まで加熱するための炉として、例えば特許文献1および特許文献2に記載されたような一方向焚きのバッチ式加熱炉が知られている。特許文献1および特許文献2に記載された例では、炉内で敷台の上に鋼材を互いの間に隙間を開けて積み重ね、炉内上部に配置されたバーナーで炉内を加熱するとともに炉内下部から排ガスを吸引し、バーナーによる加熱雰囲気を鋼材の間に通すことによって鋼材を加熱する。バッチ式加熱炉は、例えば連続式加熱炉に比べて少ない敷地および費用で設置でき、また大量の鋼材を少ない数のバーナーで加熱できることから、現在もなお使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭57-181325号公報
【文献】特開平2-141533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のようなバッチ式加熱炉では、積み重ねられた各段の鋼材の間で、目標温度に到達するまでの時間に偏差が生じるという問題があった。具体的には、最上段に位置する鋼材は、片面の全体が加熱雰囲気に露出しているため昇温が早く、比較的短時間のうちに目標温度に到達する。一方、下段に位置する鋼材は、加熱雰囲気に露出される面が限られるため昇温が遅く、目標温度に到達するまでの時間が長い。従って、例えば最下段の鋼材が目標温度に到達するまで加熱を継続したときに、バーナーによって供給される熱は既に目標温度に到達している最上段の鋼材を余分に加熱するのにも消費されるため、この点において加熱効率が低下している。
【0005】
そこで、本発明では、少なくとも2段に積み重ねられた鋼材を加熱するバッチ式加熱炉における加熱効率を向上させることを可能にする、バッチ式加熱炉の操業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある観点によれば、少なくとも2段に積み重ねられた鋼材を加熱するバッチ式加熱炉の操業方法は、鋼材のうち、最上段に位置する第1の鋼材の温度推定値を第1の推定式を用いて算出し、最上段の次の段に位置する第2の鋼材の温度推定値を第2の推定式を用いて算出する工程と、第1の鋼材の温度推定値が所定値に到達したときに、第1の鋼材をバッチ式加熱炉から抽出する工程と、第1の鋼材が抽出された後、第2の鋼材の温度推定値を第1の推定式を用いて算出する工程とを含む。
【0007】
上記のバッチ式加熱炉の操業方法において、鋼材は、少なくとも3段に積み重ねられ、鋼材のうち、第2の鋼材の次の段に位置する第3の鋼材の温度推定値を第3の推定式を用いて算出する工程と、第1の鋼材が抽出された後、第3の鋼材の温度推定値を第2の推定式を用いて算出する工程と、第2の鋼材の温度推定値が所定値に到達したときに、第2の鋼材をバッチ式加熱炉から抽出する工程と、第2の鋼材が抽出された後、第3の鋼材の温度推定値を第1の推定式を用いて算出する工程とをさらに含んでもよい。
【0008】
上記のバッチ式加熱炉の操業方法において、鋼材の温度推定値Tmを、バッチ式加熱炉の炉内雰囲気の温度測定値Tf、経過時間t、係数Aおよび比例定数kを含む式(i)を用いて算出し、第1の推定式と第2の推定式との間では係数Aおよび比例定数kの少なくともいずれかの値が異なってもよい。
【0009】
【数1】
【発明の効果】
【0010】
上記の構成によれば、最上段に位置する鋼材の抽出後は上から2段目だった鋼材3が新たに最上段になり、片面の全体が加熱雰囲気に露出されることによって昇温が促進される。これによって、鋼材の余分な加熱を減らし、加熱効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係るバッチ式加熱炉の構成を示す断面図である。
図2図1のII-II線矢視図である。
図3図1に示すバッチ式加熱炉において、本発明の実施形態に係る操業方法を実施しない場合の鋼材温度の推移を示すグラフである。
図4図1に示すバッチ式加熱炉において、本発明の実施形態に係る操業方法を実施した実施例の加熱期における鋼材の温度推定値の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0013】
図1は本発明の一実施形態に係るバッチ式加熱炉の構成を示す断面図であり、図2図1のII-II線矢視図である。図1および図2に示された例において、一方向焚きのバッチ式加熱炉1では、炉床に敷台2が設置され、敷台2の上に鋼材3が積み重ねられる。鋼材3は、少なくとも2段(図示された例では5段)に積み重ねられ、図2に示されるように、平面配置では互いの間に隙間を開けて、かつ隣り合う段の鋼材が互いに交差するように配置される。炉の上方にはスライド式の蓋体4が設置され、蓋体4を開放して上方からクレーンなどを用いて鋼材3を出し入れすることができる。
【0014】
また、バッチ式加熱炉1では、炉内上部にバーナー5が配置され、バーナー5には燃料ガス、例えばコークス炉ガス(COG:coke oven gas)および空気が供給される。排ガスは炉内下部から煙道6を経由して排出され、レキュペレーター(熱交換器)に供給される。炉内では、バーナー5によって加熱された加熱雰囲気が、積み重ねられた鋼材3の外面、および各段の鋼材3の間の隙間を通過することによって、鋼材3が加熱される。炉内には、炉温を測定するための熱電対7、およびバーナー5の燃焼状態を監視するためのO濃度計8も設置される。熱電対7には演算装置9が接続され、後述するように温度測定値に基づいて鋼材3の温度推定値を算出する。
【0015】
図3は、図1に示すバッチ式加熱炉において、本発明の実施形態に係る操業方法を実施しない場合の鋼材温度の推移を示すグラフである。現行のバッチ式加熱炉1において、上述した熱電対7とは別に各段の鋼材3に熱電対を取り付けて、加熱工程における表面温度を測定した。図示された例において、バッチ式加熱炉1における鋼材3の加熱は、すべての鋼材3を約800℃まで昇温させる予熱期と、予熱期に続いて鋼材3を約1200℃まで昇温させる加熱期とに分けて実施される。温度測定の結果、予熱期、加熱期とも、最上段の昇温が最も早く、上から2段目、3段目がそれに続き、最下段の昇温が最も遅いことがわかった。
【0016】
具体的には、経過時間200分で昇温を開始した場合、予熱期では最上段の鋼材3の表面温度が経過時間約600分で800℃を超えるのに対し、最下段の鋼材3の表面温度が約800℃に到達するのは経過時間約1700分であり、この間の約1100分間、最上段の鋼材3は余分に加熱されていることになる。続く加熱期では、最上段の鋼材3の表面温度が経過時間約2000分で1200℃を超えるのに対し、最下段の鋼材3の表面温度が1200℃に到達するのは経過時間約2500分であり、この間の約500分間、最上段の鋼材3は余分に加熱されていることになる。この範囲で鋼材3を余分に加熱することによる品質への大きな影響はないが、結果としてバーナー5に余分な燃料を供給することになる点で、加熱効率が低下している。
【0017】
そこで、本実施形態では、バッチ式加熱炉1での加熱工程において各段の鋼材3の温度推定値を熱電対7の温度測定値に基づく推定式を用いて算出し、最上段の鋼材3の温度推定値が所定値(上記の例では1200℃)に到達したときに最上段の鋼材3をバッチ式加熱炉1から抽出する。抽出後は上から2段目の鋼材3が新たに最上段の鋼材3になり、片面の全体が加熱雰囲気に露出されることによって昇温が促進される。この手順を繰り返し、新たに最上段になった鋼材3の温度推定値が所定値に到達する度に最上段の鋼材3をバッチ式加熱炉1から抽出すれば、鋼材3の余分な加熱をすることなく、バーナー5に供給した燃料を効率的に用いて、鋼材3の所定の加熱温度まで昇温させることができる。
【0018】
一例として、鋼材の温度推定値をTm、熱電対7による炉内雰囲気の温度測定値をTf、経過時間をt、比例定数をkとすると、鋼材加熱速度dTm/dtについて以下の式(1)が成り立ち、式(1)を積分すると式(2)が、式(2)を変形すると式(3)が得られる。
【0019】
【数2】
【0020】
上記の式(3)における比例定数kおよび係数Aは、鋼材3の段数によって変化しうる。具体的には、比例定数kおよび係数Aは、鋼材3が最上段、または相対的に上の段に位置するほど経過時間t(min)に対して鋼材の温度推定値Tm(℃)が上昇しやすくなるように設定される。例えば、鋼材3が4段に積み重ねられたバッチ式加熱炉1において、炉内雰囲気の温度測定値Tfが1280℃に制御される場合、最上段、2段目、3段目、および最下段における係数A~Aおよび比例定数k~kの値は以下のように設定することができる。4段よりも多い、または4段よりも少ない段数で鋼材3が積み重ねられる場合は、より多くの、またはより少ない係数Aおよび比例定数kが定義されてもよい。
【0021】
=750,k=-0.0058
=750,k=-0.0045
=750,k=-0.0023
=750,k=-0.0018
【0022】
本実施形態に係るバッチ式加熱炉1では、演算装置9が熱電対7の温度測定値Tfから例えば上記の式(3)、係数A~A、および比例定数k~kを用いて各段の鋼材3の温度推定値を算出し、最上段の鋼材3の温度推定値が所定値に到達すると、最上段の鋼材3の抽出を指示する。具体的には、演算装置9は、鋼材3の搬送のためのクレーンのオペレータに鋼材3の抽出を指示する。この場合、例えばオペレータの操作によって蓋体4が開放され、クレーンを用いて最上段の鋼材3が抽出される。なお、最上段の鋼材3の抽出時には、蓋体4が開放されて炉内の加熱雰囲気が放散されることによって一時的に炉内雰囲気の温度が低下するが、炉体および鋼材3に熱が蓄積されているため温度低下は一時的であり、炉内に残された鋼材3の昇温速度に与える影響は小さい。
【実施例
【0023】
図4は、図1に示すバッチ式加熱炉において、本発明の実施形態に係る操業方法を実施した実施例の加熱期における鋼材の温度推定値の推移を示すグラフである。図示された例では、経過時間約1450分で加熱期が開始されている。この時点での最上段に位置する第1段の鋼材3の温度推定値Tmは、上記の係数Aおよび比例定数kを用いた以下の式(4)(第1の推定式)を用いて算出される。また、この時点で上から2段目に位置する第2段の鋼材3の温度推定値Tmは、上記の係数Aおよび比例定数kを用いた式(5)(第2の推定式)を用いて算出される。同様に、この時点で上から3段目に位置する第3段、および4段目に位置する第4段の鋼材3の温度推定値Tm,Tmは、それぞれ式(6)(第3の推定式)および式(7)(第4の推定式)を用いて算出される。
【0024】
【数3】
【0025】
経過時間1725分の時点において、最上段に位置する第1段の鋼材3の温度推定値Tmが所定値(1200℃)に到達したため、第1段の鋼材3をバッチ式加熱炉1から抽出した。この抽出の後、第2段の鋼材3が最上段に位置することになるため、第2段の鋼材3の温度推定値Tmを、係数Aおよび比例定数kを用いた式(8)(第1の推定式)を用いて算出するように演算装置9の処理を変更する。同様に、新たに上から2段目および3段目に位置する第3段および第4段の鋼材3の温度推定値Tm,Tmを、それぞれ式(9)(第2の推定式)および式(10)(第3の推定式)を用いて算出するように演算装置9の処理を変更する。
【0026】
【数4】
【0027】
以下同様に、最上段になった第2段の鋼材3の温度推定値Tmが所定値(1200℃)に到達したら第2段の鋼材3をバッチ式加熱炉1から抽出し、第3段および第4段の鋼材3の温度推定値Tm,Tmをそれぞれ式(11)(第1の推定式)および式(12)(第2の推定式)を用いて算出するように演算装置9の処理を変更する。
【0028】
【数5】
【0029】
第3段の鋼材3の温度推定値が所定値に到達して第3段の鋼材3が抽出され、バッチ式加熱炉1には第4段の鋼材3のみが残ると、第4段の鋼材3の温度推定値Tmを以下の式(13)(第1の推定式)を用いて算出するように演算装置9の処理を変更する。
【数6】
【0030】
上記の実施例において、温度推定値Tmが所定値に到達し、第4段の鋼材3をバッチ式加熱炉1から抽出して加熱工程を終了したのは経過時間2075分の時点であった。従来、すなわち第1段から第4段の鋼材3を途中で抽出することなく第4段の鋼材3が所定の温度(1200℃)に到達するまで加熱を継続した場合は経過時間2310分の時点で第4段の鋼材3が所定の温度に到達したため、本発明の実施形態に係る操業方法によって加熱工程の時間を235分短縮できたことになる。
【0031】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、各種の変形例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0032】
1…バッチ式加熱炉、2…敷台、3…鋼材、4…蓋体、5…バーナー、6…煙道、7…熱電対、9…演算装置。
図1
図2
図3
図4