(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】鉄道車両用のリンク装置及び台車
(51)【国際特許分類】
B61F 5/30 20060101AFI20230726BHJP
B61F 5/44 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
B61F5/30 D
B61F5/44 Z
(21)【出願番号】P 2020025930
(22)【出願日】2020-02-19
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】下川 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 拓也
(72)【発明者】
【氏名】亀甲 智
(72)【発明者】
【氏名】谷峰 輝彦
(72)【発明者】
【氏名】松見 隆紀
【審査官】金田 直之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-126835(JP,A)
【文献】特開昭61-157464(JP,A)
【文献】特開2013-018342(JP,A)
【文献】特開2017-109704(JP,A)
【文献】特開2013-023093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 5/30,5/38-5/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の台車に用いられるリンク装置であって、
第1アーム部と、前記第1アーム部の一端に連結される筒状の第1ボス部と、前記第1ボス部内に配置され、前記台車の台車枠及び軸箱の一方に取り付けられる第1取付軸が嵌入される筒状の第1弾性体と、を含む第1リンク部材と、
前記第1アーム部と重なるように配置される第2アーム部と、前記第1ボス部と並列に配置され、前記第2アーム部の一端に連結される筒状の第2ボス部と、前記第2ボス部内に配置され、前記台車枠及び前記軸箱の他方に取り付けられる第2取付軸が嵌入される筒状の第2弾性体と、を含む第2リンク部材と、
前記第1アーム部と前記第2アーム部との間から前記台車の幅方向において外側に延びて突出するてこ部材と、
を備え、
前記第1リンク部材は、さらに、
前記幅方向において前記第1ボス部及び前記第2ボス部よりも外側に位置付けられるとともに、前記第2ボス部と直列に配置され、前記第1アーム部の他端に連結される筒状の第3ボス部と、
前記第3ボス部内に配置され、前記第2取付軸が嵌入される筒状の第3弾性体と、
を含み、
前記第2リンク部材は、さらに、
前記幅方向において前記第1ボス部及び前記第2ボス部よりも外側に位置付けられるとともに、前記第1ボス部と直列に配置され、前記第2アーム部の他端に連結される筒状の第4ボス部と、
前記第4ボス部内に配置され、前記第1取付軸が嵌入される筒状の第4弾性体と、
を含み、
前記てこ部材は、前記第1リンク部材に対して、前記第1アーム部、前記てこ部材、及び前記第2アーム部の積層方向に延びる第1支軸周りに回転可能に接続されるとともに、前記第2リンク部材に対し、前記第1支軸よりも前記てこ部材の突出端から離れて配置され前記積層方向に延びる第2支軸周りに回転可能に接続される、リンク装置。
【請求項2】
請求項1に記載のリンク装置であって、
前記第3弾性体及び前記第4弾性体は、それぞれ、前記積層方向における剛性及び前記幅方向における剛性よりも、前記台車の前後方向における剛性が小さくなるように構成される、リンク装置。
【請求項3】
請求項2に記載のリンク装置であって、
前記第3弾性体の前記前後方向における両端部のうち少なくとも一方と、前記第3ボス部の内周面との間には、隙間が設けられる、リンク装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のリンク装置であって、
前記第4弾性体の前記前後方向における両端部のうち少なくとも一方と、前記第4ボス部の内周面との間には、隙間が設けられる、リンク装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のリンク装置であって、
前記第1支軸及び前記第2支軸は、前記台車の前後方向に位置をずらして配置される、リンク装置。
【請求項6】
鉄道車両の車体を支持する台車であって、
台車枠と、
車軸と、前記車軸に固定される一対の車輪とを含み、前記台車枠に支持される輪軸と、
前記車軸の端部を支持する軸箱と、
請求項1から5のいずれか1項に記載のリンク装置と、
を備え、
前記リンク装置は、前記第1取付軸及び前記第2取付軸を介して前記台車枠及び前記軸箱に取り付けられ、
前記てこ部材の前記突出端は、前記車体又は前記台車に取り付けられる、台車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鉄道車両用のリンク装置及び台車に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両用の台車は、前後の輪軸と、台車枠とを備えている。各輪軸は、左右の車輪及び車軸で構成され、軸箱支持装置によって台車枠に弾性的に支持される。すなわち、軸箱支持装置により、台車枠と、各輪軸の車軸を軸受によって回転可能に支持する軸箱との間に作用する各方向の荷重が支持される。
【0003】
軸箱支持装置の1種として、モノリンク式の軸箱支持装置が知られている。例えば、特許文献1に開示されるように、モノリンク式の軸箱支持装置では、台車の前後方向に延びるリンクにより、台車枠の側梁と軸箱とが連結される。リンクの両端部には、ゴムブッシュが設けられている。これらのゴムブッシュには、台車枠の側梁及び軸箱にそれぞれ取り付けられる取付軸が嵌入される。このリンクにより、台車枠と軸箱との間に作用する前後方向の荷重が適度な剛性で支持される。上下方向及び左右方向の荷重は、例えば、軸箱の上方に設けられたコイルばね及びロールゴムによって支持される。
【0004】
ところで、鉄道車両用の台車には、前後の輪軸が平行状態を維持し、輪軸間の距離が変化しない通常台車の他、鉄道車両が曲線を通過する際、前後の輪軸間の距離が外軌側で長く、内軌側で短くなるように輪軸を操舵し、輪軸の向きを曲線の向きに合わせて走行する操舵台車が存在する。
【0005】
例えば、特許文献2の
図4及び特許文献3の
図4には、モノリンク式の軸箱支持装置を用いた従来の操舵台車が開示されている。これらの操舵台車は、操舵リンク、連結リンク、及び操舵てこによって構成されるリンク機構を有する。すなわち、台車枠の側梁によって回転可能に支持された操舵てこに対し、操舵リンクの一端部及び連結リンクの一端部がゴムブッシュ又は球面ブッシュを介して接続されている。操舵リンクの他端部は、ゴムブッシュ又は球面ブッシュを介して軸箱に接続されている。連結リンクの他端部は、ゴムブッシュ又は球面ブッシュを介し、例えばボルスタに接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5772317号公報
【文献】特許第5668628号公報
【文献】特許第5838780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
既存の通常台車を操舵台車に変更する場合、例えば特許文献2及び3に開示されるように、操舵リンク、連結リンク、及び操舵てこからなるリンク機構を台車に設ける必要がある。しかしながら、操舵台車において操舵てこや操舵リンクが取り付けられる位置は、通常台車においてリンクが取り付けられる位置と異なる。そのため、既存の通常台車を操舵台車に変更する場合には、当該通常台車におけるリンクの取付部を取り外し、リンク機構用の取付部を新たに形成する必要がある。すなわち、既存の通常台車のリンクを操舵台車用のリンク機構に単純に交換するだけでは、通常台車を操舵台車に変更することはできない。
【0008】
本開示は、鉄道車両用の通常台車を操舵台車に容易に変更することができるリンク装置、及びこれを用いた台車を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係るリンク装置は、鉄道車両の台車に用いられる。リンク装置は、第1リンク部材と、第2リンク部材と、てこ部材と、を備える。第1リンク部材は、第1アーム部と、筒状の第1ボス部と、筒状の第1弾性体と、を含む。第1ボス部は、第1アーム部の一端に連結される。第1弾性体は、第1ボス部内に配置される。第1弾性体には、第1取付軸が嵌入される。第1取付軸は、台車の台車枠及び軸箱の一方に取り付けられる。第2リンク部材は、第2アーム部と、筒状の第2ボス部と、筒状の第2弾性体と、を含む。第2アーム部は、第1アーム部と重なるように配置される。第2ボス部は、第1ボス部と並列に配置される。第2ボス部は、第2アーム部の一端に連結される。第2弾性体は、第2ボス部内に配置される。第2弾性体には、第2取付軸が嵌入される。第2取付軸は、台車枠及び軸箱の他方に取り付けられる。てこ部材は、第1アーム部と第2アーム部との間から台車の幅方向(左右方向)において外側に延びて突出する。
【0010】
第1リンク部材は、さらに、筒状の第3ボス部と、筒状の第3弾性体と、を含む。第3ボス部は、台車の幅方向において第1ボス部及び第2ボス部よりも外側に位置付けられるとともに、第2ボス部と直列に配置される。第3ボス部は、第1アーム部の他端に連結される。第3弾性体は、第3ボス部内に配置される。第3弾性体には、第2取付軸が嵌入される。第2リンク部材は、さらに、筒状の第4ボス部と、筒状の第4弾性体と、を含む。第4ボス部は、台車の幅方向において第1ボス部及び第2ボス部よりも外側に位置付けられるとともに、第1ボス部と直列に配置される。第4ボス部は、第2アーム部の他端に連結される。第4弾性体は、第4ボス部内に配置される。第4弾性体には、第1取付軸が嵌入される。てこ部材は、第1リンク部材に対して、第1支軸周りに回転可能に接続される。第1支軸は、第1アーム部、てこ部材、及び第2アーム部の積層方向(上下方向)に延びる。てこ部材は、第2リンク部材に対して、第2支軸周りに回転可能に接続される。第2支軸は、第1支軸よりもてこ部材の突出端から離れて配置され、上記積層方向に延びる。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係るリンク装置によれば、鉄道車両用の通常台車を操舵台車に容易に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る鉄道車両用台車の側面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す台車に用いられるリンク装置の斜視図である。
【
図4】
図4は、
図2に示すリンク装置の動作を説明するための図である。
【
図5】
図5は、
図2に示すリンク装置の動作を説明するための別の図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施形態に係るリンク装置は、鉄道車両の台車に用いられる。リンク装置は、第1リンク部材と、第2リンク部材と、てこ部材と、を備える。第1リンク部材は、第1アーム部と、筒状の第1ボス部と、筒状の第1弾性体と、を含む。第1ボス部は、第1アーム部の一端に連結される。第1弾性体は、第1ボス部内に配置される。第1弾性体には、第1取付軸が嵌入される。第1取付軸は、台車の台車枠及び軸箱の一方に取り付けられる。第2リンク部材は、第2アーム部と、筒状の第2ボス部と、筒状の第2弾性体と、を含む。第2アーム部は、第1アーム部と重なるように配置される。第2ボス部は、第1ボス部と並列に配置される。第2ボス部は、第2アーム部の一端に連結される。第2弾性体は、第2ボス部内に配置される。第2弾性体には、第2取付軸が嵌入される。第2取付軸は、台車枠及び軸箱の他方に取り付けられる。てこ部材は、第1アーム部と第2アーム部との間から台車の幅方向(左右方向)において外側に延びて突出する。
【0014】
第1リンク部材は、さらに、筒状の第3ボス部と、筒状の第3弾性体と、を含む。第3ボス部は、台車の幅方向において第1ボス部及び第2ボス部よりも外側に位置付けられるとともに、第2ボス部と直列に配置される。第3ボス部は、第1アーム部の他端に連結される。第3弾性体は、第3ボス部内に配置される。第3弾性体には、第2取付軸が嵌入される。第2リンク部材は、さらに、筒状の第4ボス部と、筒状の第4弾性体と、を含む。第4ボス部は、台車の幅方向において第1ボス部及び第2ボス部よりも外側に位置付けられるとともに、第1ボス部と直列に配置される。第4ボス部は、第2アーム部の他端に連結される。第4弾性体は、第4ボス部内に配置される。第4弾性体には、第1取付軸が嵌入される。てこ部材は、第1リンク部材に対して、第1支軸周りに回転可能に接続される。第1支軸は、第1アーム部、てこ部材、及び第2アーム部の積層方向(上下方向)に延びる。てこ部材は、第2リンク部材に対して、第2支軸周りに回転可能に接続される。第2支軸は、第1支軸よりもてこ部材の突出端から離れて配置され、上記積層方向に延びる(第1の構成)。
【0015】
第1の構成に係るリンク装置は、第1リンク部材及び第2リンク部材を備えている。このリンク装置では、第1リンク部材の第1ボス部と第2リンク部材の第2ボス部とが並列に配置され、これらのボス部の間において、第1リンク部材の第1アーム部、てこ部材、及び第2リンク部材の第2アーム部が積層されている。また、第1リンク部材には、第2リンク部材の第2ボス部と直列に配置される第3ボス部が設けられている。第2リンク部材には、第1リンク部材の第1ボス部と直列に配置される第4ボス部が設けられている。第3ボス部及び第4ボス部は、台車の幅方向において、第1ボス部及び第2ボス部よりも外側に位置付けられている。
【0016】
このリンク装置において、例えば、第1アーム部と第2アーム部との間から台車の幅方向において外側に突出するてこ部材の突出端が第2及び第3ボス部側に引っ張られた場合、てこの原理により、第1及び第4ボス部と、その内部に保持された第1取付軸とが第2及び第3ボス部内の第2取付軸に接近する。そのため、第1取付軸と第2取付軸との距離が短くなり、リンク装置が全体として収縮する。一方、てこ部材の突出端が反対側、つまり第1及び第4ボス部側に引っ張られた場合、てこの原理により、第1及び第4ボス部内の第1取付軸は、第2及び第3ボス部内の第2取付軸から離間する。そのため、第1取付軸と第2取付軸との距離が短くなり、リンク装置が全体として伸長する。
【0017】
このように、第1の構成によれば、リンク装置自身が伸縮することができる。そのため、既存の通常台車を操舵台車に変更する際には、モノリンク式軸箱支持装置のリンクを当該リンク装置に交換するだけでよく、操舵リンク、連結リンク、及び操舵てこからなるリンク機構を設けるために台車を加工する必要はない。すなわち、通常台車の既存のモノリンクを第1の構成に係るリンク装置に付け替えるだけで、リンク装置の伸縮によって前後の輪軸間の距離を変化させられるようになる。よって、通常台車を操舵台車に容易に変更することができる。
【0018】
第3弾性体及び第4弾性体は、それぞれ、上記積層方向における剛性及び台車の幅方向における剛性よりも、台車の前後方向における剛性が小さくなるように構成されることが好ましい(第2の構成)。
【0019】
台車の前後方向における第3弾性体の両端部のうち少なくとも一方と、第3ボス部の内周面との間には、隙間が設けられることが好ましい(第3の構成)。
【0020】
第3の構成によれば、第3ボス部内の第3弾性体のうち前後方向の一端部又は両端部と、第3ボス部の内周面との間に隙間が設けられている。第3ボス部内の第2取付軸は、実質上、この隙間分を超えて移動することはできない。よって、例えば、鉄道車両の走行中にてこ部材が破断したとしても、第2取付軸の移動が制限され、前後の輪軸間の距離が必要以上に変化するのを防止することができる。
【0021】
台車の前後方向における第4弾性体の両端部のうち少なくとも一方と、第4ボス部の内周面との間には、隙間が設けられることが好ましい(第4の構成)。
【0022】
第4の構成によれば、第4ボス部内の第4弾性体のうち前後方向の一端部又は両端部と、第4ボス部の内周面との間に隙間が設けられている。第4ボス部内の第1取付軸は、実質上、この隙間分を超えて移動することはできない。よって、例えば、鉄道車両の走行中にてこ部材が破断したとしても、第1取付軸の移動が制限され、前後の輪軸間の距離が必要以上に変化するのを防止することができる。
【0023】
第1支軸及び第2支軸は、台車の前後方向に位置をずらして配置されていてもよい(第5の構成)。
【0024】
第5の構成において、第1リンク部材の第1アーム部をてこ部材に接続する第1支軸、及び第2リンク部材の第2アーム部をてこ部材に接続する第2支軸は、台車の前後方向に位置をずらして配置される。これにより、第1取付軸と第2取付軸との接近量及び離間量を異ならせることができる。すなわち、外軌側を通過する場合に輪軸間の距離が伸長する量と、内軌側を通過する際に輪軸間の距離が短縮する量とを互いに異ならせることができる。
【0025】
実施形態に係る台車は、鉄道車両の車体を支持する。台車は、台車枠と、輪軸と、軸箱と、上記リンク装置と、を備える。輪軸は、車軸と、車軸に固定される一対の車輪とを含む。輪軸は、台車枠に支持される。軸箱は、車軸の端部を支持する。リンク装置は、第1取付軸及び第2取付軸を介して台車枠及び軸箱に取り付けられる。てこ部材の突出端は、車体又は台車に取り付けられる(第6の構成)。
【0026】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0027】
[台車の構成]
図1は、本実施形態に係る鉄道車両用台車10の側面図である。
図1を参照して、台車10は、輪軸1a,1bと、軸箱2と、台車枠3と、リンク装置4と、を備える。台車10は、リンク装置4を除き、公知の台車と同様に構成されている。そのため、本実施形態では、台車10の構成のうちリンク装置4以外の構成については、説明を省略又は簡略化する。
【0028】
輪軸1aは、台車10において、前後方向の一方側に配置されている。輪軸1bは、台車10において、前後方向の他方側に配置されている。前後方向は、台車10が設けられる鉄道車両の走行方向(双方向)である。この前後方向及び上下方向に垂直な方向を左右方向又は幅方向という。左右方向(幅方向)は、
図1の紙面に直交する方向である。
【0029】
輪軸1a,1bの各々は、車軸11と、一対の車輪12とを有する。車軸11は、台車10の左右方向に延びている。車軸11には、一対の車輪12が固定されている。車軸11の各端部は、軸箱2内に設けられた軸受(図示略)によって回転可能に支持される。
【0030】
台車枠3は、輪軸1a,1bを支持している。台車枠3は、一対の側梁31を含む。一対の側梁31は、台車10の前後方向に延び、実質的に平行に配置されている。側梁31の各々には、ばね帽5を介し、各輪軸1a,1bの車軸11を支持する軸箱2が取り付けられている。ばね帽5には、例えば、図示しないコイルばね及びロールゴムが収容されている。
【0031】
リンク装置4は、輪軸1bを支持する軸箱2から台車10の前後方向内側に向かって延びている。リンク装置4の一端は、軸箱2に取り付けられる。リンク装置4の他端は、台車枠3の側梁31に取り付けられる。本実施形態では、輪軸1b側にリンク装置4が設けられている。しかしながら、リンク装置4は、輪軸1a側に設けられていてもよいし、輪軸1a,1bの双方に設けられていてもよい。本実施形態では、鉄道車両の走行方向において輪軸1a側を前方、リンク装置4が設けられている輪軸1b側を後ろ側と仮定する。
【0032】
[リンク装置の構成]
次に、
図2を参照し、リンク装置4の構成について詳細に説明する。
図2は、リンク装置4の斜視図である。
図2に示すように、リンク装置4は、リンク部材41,42と、てこ部材43と、を備えている。リンク装置4には、筒状のボス部401a,401b,401c,401dと、これらに対応する筒状の弾性体402a,402b,402c,402dとが設けられている。
【0033】
リンク部材41は、筒状のボス部401a,401cと、筒状の弾性体402a,402cと、アーム部403と、を含む。
【0034】
ボス部401a,401cは、実質的に円筒状をなす。ボス部401a,401cの中心軸X1,X2は、それぞれ左右方向に延びている。ボス部401a,401cは、前後左右に位置をずらして配置されている。ボス部401cは、ボス部401aよりも前方(台車10の内側)、且つ幅方向において外側に位置付けられている。ボス部401a,401c内には、それぞれ、弾性体402a,402cが配置される。弾性体402a,402cは、典型的にはゴムブッシュである。
【0035】
弾性体402aは、実質的に円筒状をなす。弾性体402aの外周面は、全体にわたり、ボス部401aの内周面と接触している。この弾性体402cの中央部には、取付軸441が嵌入される。取付軸441は、台車10の軸箱2(
図1)に取り付けられる。取付軸441は、左右方向に延びている。
【0036】
弾性体402cは、実質的に円筒状をなす。ただし、弾性体402cの前後端側の一部分は、上下方向に沿って切り落とされている。これにより、弾性体402cの前後方向の肉厚は、上下方向の肉厚及び左右方向の肉厚よりも小さくなる。すなわち、弾性体402cは、上下方向における剛性及び左右方向における剛性よりも、前後方向における剛性の方が小さくなるように構成されている。
【0037】
弾性体402cの前後方向の両端部と、ボス部401cの内周面との間には隙間g1が形成されている。一方、弾性体402cのその他の部分は、ボス部401cの内周面に接触する。この弾性体402cの中央部には、取付軸442が嵌入される。取付軸442は、台車枠3の側梁31(
図1)に取り付けられる。取付軸442は、左右方向に延びている。
【0038】
アーム部403は、板状をなす。アーム部403は、一方のボス部401aから他方のボス部401cに向かって延びている。アーム部403の前後方向の一端は、ボス部401aに連結されている。アーム部403の前後方向の他端は、ボス部401cに連結されている。アーム部403は、例えば、リンク部材41の平面視で概略S字状をなすように形成されている。
【0039】
リンク部材42は、概ね、もう一方のリンク部材41を前後反転した構成を有する。リンク部材42は、リンク部材41と同様、筒状のボス部401b,401dと、筒状の弾性体402b,402dと、アーム部404と、を含む。
【0040】
ボス部401b,401dは、実質的に円筒状をなす。ボス部401b,401dは、前後左右に位置をずらして配置されている。ボス部401dは、ボス部401bよりも後方(台車10の端側)、且つ幅方向において外側に位置付けられている。ボス部401bは、もう一方のリンク部材41のボス部401aと並列に配置される。また、ボス部401bは、リンク部材41のボス部401cと直列に配置される。ここで、本開示において「2つのボス部が並列である」とは、一方のボス部の中心軸が他方のボス部の中心軸の前方又は後方に位置付けられることをいい、「2つのボス部が直列である」とは、2つのボス部が中心軸を共有するか、一方のボス部の中心軸と他方のボス部の中心軸とが左右方向において概ね直線状に並んでいることをいう。すなわち、ボス部401bは、ボス部401aの中心軸X1の前方に位置付けられた中心軸X2を有し、この中心軸X2をボス部401cと共有する円筒である。
【0041】
ボス部401dは、もう一方のリンク部材41のボス部401cと並列に配置される。また、ボス部401dは、リンク部材41のボス部401aと直列に配置される。すなわち、ボス部401dは、ボス部401cの中心軸X2の後方に位置付けられた中心軸X1を有し、この中心軸X1をボス部401aと共有する円筒である。
【0042】
ボス部401b,401d内には、それぞれ、弾性体402b,402dが配置される。弾性体402b,402dは、典型的にはゴムブッシュである。
【0043】
弾性体402bは、実質的に円筒状をなす。弾性体402bの外周面は、全体にわたり、ボス部401bの内周面と接触している。この弾性体402bの中央部には、側梁31側(
図1)の取付軸442が嵌入される。取付軸442は、リンク部材42の弾性体402b及びリンク部材41の弾性体402cを貫通している。
【0044】
弾性体402dは、実質的に円筒状をなす。ただし、弾性体402dの前後端側の一部分は、上下方向に沿って切り落とされている。これにより、弾性体402dの前後方向の肉厚は、上下方向の肉厚及び左右方向の肉厚よりも小さくなる。すなわち、弾性体402dは、上下方向における剛性及び幅方向における剛性よりも、前後方向における剛性の方が小さくなるように構成されている。
【0045】
弾性体402dの前後方向の両端部と、ボス部401dの内周面との間には隙間g2が形成されている。一方、弾性体402dのその他の部分は、ボス部401dの内周面に接触する。この弾性体402dの中央部には、軸箱2側(
図1)の取付軸441が嵌入される。取付軸441は、リンク部材41の弾性体402a及びリンク部材42の弾性体402dを貫通している。
【0046】
アーム部404は、板状をなす。アーム部404は、一方のボス部401bから他方のボス部401dに向かって延びている。アーム部404の前後方向の一端は、ボス部401bに連結されている。アーム部404の前後方向の他端は、ボス部401dに連結されている。アーム部404は、例えば、リンク部材42の平面視で、実質的に、もう一方のリンク部材41のアーム部403と逆のS字状に形成されている。アーム部404は、リンク部材41のアーム部403と重なるように配置される。アーム部404は、平面視でアーム部403と交差する。本実施形態の例では、アーム部404がアーム部403の下方に配置されている。ただし、アーム部404がアーム部403の上方に配置されていてもよい。
【0047】
てこ部材43は、板状の部材である。てこ部材43は、一方のリンク部材41のアーム部403と、他方のリンク部材42のアーム部404との間に配置される。すなわち、アーム部403、てこ部材43、及びアーム部404は、下方に向かってこの順で積層されている。てこ部材43は、アーム部403,404の間から中心軸X1,X2の方向、つまり台車10(
図1)の幅方向において外側に延びて突出する。てこ部材43の突出端43eは、幅方向においてリンク部材41,42よりも外側に配置される。てこ部材43の突出端43eは、鉄道車両の車体又は台車10の構成部品により、上下方向及び左右方向に柔らかく、前後方向には剛性をもって支持される。てこ部材43の突出端43eは、例えば、球面ブッシュを介し、鉄道車両の車体又は台車10の構成部品に取り付けられる。本実施形態の例では、てこ部材43の突出端43eは、前後方向に延びる連結部材6を介し、台車枠3に対するヨー角が車体と一致する揺れ枕のボルスタアンカ受け7に取り付けられている(
図1)。突出端43eは、例えば、連結部材6を介してボルスタアンカ8に取り付けられていてもよい。
【0048】
図3は、リンク装置4の分解斜視図である。
図3では、弾性体402a,402b,402c,402d及び取付軸441,442が省略されている。
【0049】
図3に示すように、一方のリンク部材41は、アーム部403を上下方向に貫通する貫通孔4031を有する。他方のリンク部材42は、アーム部404を上下方向に貫通する貫通孔4041を有する。貫通孔4031,4041は、左右方向にオフセットされている。すなわち、貫通孔4041の中心軸は、貫通孔4031の中心軸から左右方向にずれている。貫通孔4031,4041の直径は、互いに異なっていてもよいし、同一であってもよい。
【0050】
てこ部材43の上面には、一方のリンク部材41のアーム部403に設けられた貫通孔4031に位置及び形状が一致するように、穴431が形成されている。貫通孔4031及び穴431には、支軸451が挿入される。これにより、てこ部材43は、アーム部403に対し、支軸451周りに回転可能に接続される。支軸451は、例えば公知の支点ピンである。支軸451は、リンク部材41又はてこ部材43に対し、固定されていてもよい。
【0051】
てこ部材43の下面には、他方のリンク部材42のアーム部404に設けられた貫通孔4041に位置及び形状が一致するように、穴432が形成されている。貫通孔4041及び穴432には、支軸452が挿入される。これにより、てこ部材43は、アーム部404に対し、支軸452周りに回転可能に接続される。支軸452は、例えば、公知の支点ピンである。支軸452は、リンク部材42又はてこ部材43に対し、固定されていてもよい。支軸452は、支軸451よりもてこ部材43の突出端43eから離れて配置されている。すなわち、支軸451,452の位置は、てこ部材43の長手方向にオフセットされている。
【0052】
[リンク装置の動作]
リンク装置4は、鉄道車両が曲線を通過する際、ボギー角に応じ、前後方向に伸縮する。以下、リンク装置4の伸縮動作について説明する。
【0053】
図4は、収縮状態のリンク装置4を示す斜視図である。リンク装置4は、当該リンク装置4側(
図1において手前側)の車輪12が内軌側を通過する場合に収縮する。すなわち、リンク装置4側で輪軸1a,1b間の前後方向の距離が短くなるときには、てこ部材43の突出端43eが前方(台車10の内側)に引っ張られる。これにより、ボス部401a,401d側の取付軸441がボス部401b,401c側の取付軸442に接近する。そのため、取付軸441と取付軸442との前後方向の距離が短くなる。
【0054】
図5は、伸長状態のリンク装置4を示す斜視図である。リンク装置4は、当該リンク装置4側(
図1において手前側)の車輪12が外軌側を通過する場合に伸長する。すなわち、リンク装置4側で輪軸1a,1b間の前後方向の距離が長くなるときには、てこ部材43の突出端43eが後方(台車10の端側)に引っ張られる。これにより、ボス部401a,401d側の取付軸441がボス部401b,401c側の取付軸442から離間する。そのため、取付軸441と取付軸442との前後方向の距離が長くなる。
【0055】
リンク装置4の伸縮量は、適宜設定することができるが、例えば10mm程度である。例えば、リンク装置4が収縮したときに車輪12の踏面が踏面ブレーキの制輪子に接触しないように、リンク装置4の収縮量を設定することが好ましい。また、例えば、リンク装置4の伸長量は、制動時におけるユニットブレーキのスラックアジャスタの動作距離よりも小さくなるように設定することが好ましい。リンク部材41及びてこ部材43におけるてこ比、並びにリンク部材42及びてこ部材43におけるてこ比は、リンク装置4における所望の伸縮量を実現するように設定される。
【0056】
[効果]
本実施形態に係るリンク装置4は、鉄道車両が曲線を通過する際、前後方向に伸縮することができる。そのため、既存の通常台車を操舵台車に変更する際には、モノリンク式軸箱支持装置のリンクをこのリンク装置4に交換するだけでよく、操舵リンク、連結リンク、及び操舵てこからなるリンク機構を設けるために台車を加工する必要はない。すなわち、既存の通常台車のリンクをリンク装置4に付け替えるだけで、リンク装置4の伸縮によって輪軸1a,1b間の前後方向の距離が変化するようになる。よって、通常台車を操舵台車に容易に変更することができる。
【0057】
本実施形態に係るリンク装置4において、取付軸441,442が嵌入される弾性体402c,402dは、上下方向における剛性及び幅方向における剛性よりも前後方向における剛性の方が小さくなるように構成されている。そのため、リンク装置4の伸縮に際し、取付軸441,442は、実質的に上下左右には移動せず、前後方向にのみ移動することができる。
【0058】
本実施形態では、ボス部401a,401c及び取付軸441,442により、リンク部材41のアーム部403の両端が支持されている。これにより、支軸451によってアーム部403に接続されるてこ部材43の位置が安定するため、リンク装置4の伸縮動作が安定して行われる。また、アーム部403が両端からしっかりと支持されることにより、てこ部材43に荷重が作用したときに、アーム部403が座屈するのを抑制することができる。
【0059】
本実施形態では、リンク部材42のアーム部404の両端も、ボス部401b,401d及び取付軸441,442によって支持されている。そのため、支軸451,452によってアーム部403,404に接続されるてこ部材43の位置がより安定し、リンク装置4の伸縮動作をさらに安定して行うことができる。また、両方のリンク部材41,42のアーム部403,404を両端からしっかりと支持することにより、アーム部403,404の座屈の発生をより確実に抑制することができる。
【0060】
本実施形態において、弾性体402cの前後端部と、ボス部401cの内周面との間には隙間g1が形成されている。ボス部401c内において、取付軸442は、実質的にこの隙間g1分を超えて移動することはできない。そのため、例えば、鉄道車両の走行中に、輪軸1a,1bの操舵量が設計量を超え、てこ部材43が破断したとしても、ボス部401c内での取付軸442の移動を制限することができる。よって、輪軸1a,1bの間の距離が必要以上に変化するのを防止することができる。
【0061】
本実施形態において、弾性体402dの前後端部と、ボス部401dの内周面との間には隙間g2が形成されている。ボス部401d内において、取付軸441は、実質的にこの隙間g2分を超えて移動することはできない。そのため、例えば、鉄道車両の走行中に、輪軸1a,1bの操舵量が設計量を超え、てこ部材43が破断したとしても、ボス部401d内での取付軸441の移動を制限することができる。よって、輪軸1a,1bの間の距離が必要以上に変化するのを防止することができる。
【0062】
以上、本開示に係る実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0063】
上記実施形態に係るリンク装置4において、支軸451,452は、てこ部材43の長手方向にオフセットされている。しかしながら、てこ部材43の幅方向にも、支軸451,452をオフセットすることができる。すなわち、リンク装置4において、支軸451,452は、台車10の前後方向に位置をずらして配置されていてもよい。この場合、リンク装置4の伸長量が収縮量よりも大きくなるように、支軸451,452の位置が設定されることが好ましい。
【0064】
上記実施形態に係るリンク装置4では、円筒状の弾性体402c,402dの前後端側の一部分を上下方向に沿って切り落とすことにより、弾性体402c,402dの前後方向における剛性を低下させている。しかしながら、弾性体402c,402dの前後方向における剛性を低下させる手段はこれに限定されるものではない。また、弾性体402c,402dは、上記実施形態における弾性体402a,402bと同様、全体にわたり均一な剛性を有していてもよい。あるいは、弾性体402a,402bを、上記実施形態における弾性体402c,402dと同様、上下方向における剛性及び幅方向における剛性よりも前後方向における剛性の方が小さくなるように構成することもできる。
【符号の説明】
【0065】
10:台車
1a,1b:輪軸
2:軸箱
3:台車枠
4:リンク装置
41:リンク部材
401a,401c:ボス部
402a,402c:弾性体
403:アーム部
42:リンク部材
401b,401d:ボス部
402b,402d:弾性体
404:アーム部
43:てこ部材
441,442:取付軸
451,452:支軸