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特許7319568プレス成形品の製造方法およびプレス成形装置、プレス成形ライン
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】プレス成形品の製造方法およびプレス成形装置、プレス成形ライン
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/26 20060101AFI20230726BHJP
   B21D 24/00 20060101ALI20230726BHJP
   B21D 28/00 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
B21D22/26 C
B21D22/26 D
B21D24/00 F
B21D24/00 H
B21D28/00 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021565657
(86)(22)【出願日】2020-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2020047274
(87)【国際公開番号】W WO2021125293
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2019227948
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】園部 蒼馬
(72)【発明者】
【氏名】白神 聡
(72)【発明者】
【氏名】有賀 高
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】特許第5636846(JP,B2)
【文献】特開平09-174166(JP,A)
【文献】特許第5510533(JP,B1)
【文献】特開2015-100812(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/26
B21D 24/00
B21D 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面、隆起面、および、前記第1の面と前記隆起面との間にある第1の稜線を備えた中間成形品の前記第1の面を拘束して、前記隆起面を、第2の面、フランジ、および、前記第2の面と前記フランジとの間にある第2の稜線にプレス成形するフランジ成形工程を有し、
前記プレス成形のプレス方向から見て、前記第1の稜線は、前記隆起面から前記第1の面に向かう方向に凸に湾曲して延在し、前記第2の稜線は、前記フランジから前記第2の面に向かう方向に凸に湾曲して延在し、
前記第1の稜線と交差する前記プレス方向に沿った断面における、前記第1の稜線の凸方向と、前記第2の稜線と交差する前記プレス方向に沿った断面における、前記第2の稜線の凸方向が同じ側であり、
前記第2の稜線に直交する直線上にある、前記中間成形品における、前記直線との交点での前記第1の稜線の延在方向の曲率半径は、前記フランジ成形工程後における、前記直線上の前記第2の稜線の延在方向の曲率半径より大きく、
前記中間成形品における、前記第1の稜線に隣接する前記隆起面と前記第1の面とのなす角度より、前記フランジ成形工程後における、前記第1の稜線に相当する位置での前記第2の面のなす角度が大きい、プレス成形品の製造方法。
【請求項2】
前記中間成形品における、前記第1の稜線から前記隆起面の先端までの長さは、前記フランジ成形工程後における、前記第1の稜線に相当する位置から前記フランジの先端までの長さの1.00~1.05倍である、請求項1に記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項3】
前記中間成形品における、前記隆起面の高さが、前記フランジ成形工程後における、前記フランジの高さ以上である、請求項1または2に記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項4】
前記中間成形品における、前記第2の稜線となる部分である稜線相当部の延在方向の曲率半径が、前記フランジ成形工程後における、前記第2の稜線の延在方向の曲率半径の1.29倍以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項5】
前記第1の稜線と交差する前記プレス方向に沿った断面において、前記中間成形品の前記隆起面が前記プレス方向に向かって凸となる曲線に形成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項6】
前記中間成形品を成形する予成形工程を備える、請求項1~5のいずれか一項に記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項7】
前記予成形工程の後にトリム工程を備え、
前記トリム工程において、前記フランジ成形工程で成形する前記フランジの高さに応じて前記隆起面の先端部が切断される、請求項6に記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項8】
パンチ、ダイ、および、パッドを備え、
前記パンチは、パンチ縦壁部、パンチ底面部、および、前記パンチ縦壁部と前記パンチ底面部との間にある凹稜線部を備え、
前記ダイは、ダイ縦壁部、ダイ底面部、および、前記ダイ縦壁部と前記ダイ底面部との間にあるダイ肩稜線部を備え、
前記パッドは、パッド縦壁部、パッド底面部、および、前記パッド縦壁部と前記パッド底面部の間にあるパッド稜線部を備え、
プレス方向に見た状態において、前記パッド稜線部は、前記ダイから前記パッドに向かう方向に凸に湾曲して延在し、
前記プレス方向に見た状態において、前記ダイ肩稜線部は、前記パンチ縦壁部から前記ダイ縦壁部に向かう方向に凸に湾曲して延在し、
前記パッド縦壁部は、前記ダイに隣接して配置され、
成形下死点において、前記パンチ縦壁部と前記ダイ縦壁部とが対向して隣接し、
成形下死点において、前記パンチ底面部と前記ダイ底面部とが対向して隣接し、
成形下死点において、前記パッド底面部と前記パンチ底面部とが対向して隣接し、
前記ダイ肩稜線部に直交する直線上にある、前記直線との交点での前記パッド稜線部の延在方向の曲率半径は、前記直線上の前記ダイ肩稜線部の延在方向の曲率半径より大きい、プレス成形装置。
【請求項9】
請求項8に記載のプレス成形装置と予成形装置とを備え、
前記予成形装置は、予成形パンチ、および、予成形ダイを備え、
前記予成形パンチは、予成形パンチ縦壁部、予成形パンチ底面部、および、前記予成形パンチ縦壁部と前記予成形パンチ底面部との間にある予成形パンチ凹稜線部を備え、
前記予成形ダイは、予成形ダイ縦壁部、予成形ダイ底面部、および、前記予成形ダイ縦壁部と前記予成形ダイ底面部との間にある予成形ダイ肩稜線部を備え、
プレス方向に見た状態において、前記予成形ダイ肩稜線部は、前記予成形パンチ縦壁部から前記予成形ダイ縦壁部に向かう方向に凸に湾曲して延在し、
成形下死点において、前記予成形パンチ縦壁部と前記予成形ダイ縦壁部とが対向して隣接し、
成形下死点において、前記予成形パンチ底面部と前記予成形ダイ底面部とが対向して隣接し、
前記プレス成形装置のダイ肩稜線部と直交し、前記予成形装置の予成形ダイ肩稜線部と交差する直線との交点での前記予成形ダイ肩稜線部の延在方向の曲率半径は、前記直線上の前記ダイ肩稜線部の延在方向の曲率半径より大きく、
前記予成形装置の前記予成形ダイの前記予成形ダイ肩稜線部および前記プレス成形装置のパッドの前記パッド稜線部と交差する前記プレス方向に沿った断面における、前記予成形ダイ肩稜線部に隣接する前記予成形ダイ縦壁部と前記予成形ダイ底面部のなす角より、前記パッド稜線部に隣接する前記ダイ底面部と前記パッド底面部のなす角の方が大きい、プレス成形ライン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、伸びフランジ変形によって成形された部分を有するプレス成形品を製造するプレス成形品の製造方法およびプレス成形装置、プレス成形ラインに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の燃費規制の厳格化により、自動車車体の軽量化が求められており、車体を構成する各部品についても同様に軽量化が求められている。しかしながら、部品の材料を単純に高強度で板厚が薄いものに置き換えるだけでは、剛性の低下が懸念されることから、材料の高強度化と共に部品の形状や構造の改良を行うことによって軽量化の要求に対応することが望ましい。
【0003】
図1は自動車の車体骨格を示す図である。自動車の車体骨格においては、例えばフロントサイドメンバーやリアサイドメンバー、クロスメンバー等の部品と他部品とが接合される箇所があり、その接合箇所においては、図2のように第1の部品80と第2の部品81とがT字状に固定されることがある。この例では、第1の部品80は、互いに異なる方向に延びる第1のフランジ82aと第2のフランジ82bを有しており、第1のフランジ82aと第2のフランジ82bの各々は溶接によって第2の部品81に接合されている。図2の例では、第1のフランジ82aと第2のフランジ82bが連続的に繋がっていないが、車体の衝突性能および剛性向上の観点からは、図3中の破線で囲まれた部分のように第1のフランジ82aと第2のフランジ82bが連続的に繋がっていることが好ましい。
【0004】
しかしながら、第1のフランジ82aと第2のフランジ82bが連続的に繋がる形状の部品を製造する場合、ブランクを立ち上げるようにして成形を行うと、第1のフランジ82aと第2のフランジ82bの間に存在する第3のフランジ82cには引張応力が生じ、成形時に引張ひずみが生じる。すなわち、第3のフランジ82cは、いわゆる伸びフランジ変形を伴って成形される。このような伸びフランジ変形が生じる部分(以下、“伸びフランジ部”)を有する部品は成形難易度が高くなり、伸びフランジ部においては例えばフランジの先端割れなどが発生しやすくなる。特に、部品の材料がハイテン材のような高強度のものである場合には、伸びフランジ変形を伴う成形の難易度はさらに高くなる。
【0005】
伸びフランジ部を有する部品の製造方法として、特許文献1には、中間成形品を成形する第1成形工程と、中間成形品から製品形状のフランジを成形する第2成形工程とを有するプレス成形方法が開示されている。特許文献1の第1成形工程では、中間成形品のフランジ面に天板部側が凸となる山形部を成形し、その後の第2成形工程で、フランジの高さを高くして製品形状のフランジを成形している。特許文献2には、天板部を折り曲げてフランジを成形する際に、天板部の外周縁部から離れた位置で天板部を押さえ、その状態でフランジを成形することが開示されている。特許文献3には、張り出し成形により金属薄板に凸部を設けた後、絞り加工により凸部基端の板面にシワを発生させ、その後、ピアス加工により凸部の頂面に孔部を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5510533号
【文献】特開2015-100812号公報
【文献】特開平4-031773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および特許文献2の成形方法では、製品形状のフランジを成形する際に、フランジの高さを確保するために、フランジの高さ方向にブランクを延ばすように加工する必要があり、フランジ先端部における引張ひずみの抑制効果は小さい。特許文献3の成形方法においては、フランジの根元部にシワが発生することから、部品としての用途が制限される。したがって、伸びフランジ部を有する部品においては、引張ひずみを抑えて部品を製造するための新たな成形方法が求められる。
【0008】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、伸びフランジ部を有するプレス成形品を製造する際に、フランジに発生する引張ひずみを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本開示の一態様は、第1の面、隆起面、および、前記第1の面と前記隆起面との間にある第1の稜線を備えた中間成形品の前記第1の面を拘束して、前記隆起面を、第2の面、フランジ、および、前記第2の面と前記フランジとの間にある第2の稜線にプレス成形する、フランジ成形工程を有し、前記プレス成形のプレス方向から見て、前記第1の稜線は、前記隆起面から前記第1の面に向かう方向に凸に湾曲して延在し、前記第2の稜線は、前記フランジから前記第2の面に向かう方向に凸に湾曲して延在し、
前記第1の稜線と交差する前記プレス方向に沿った断面における、前記第1の稜線の凸方向と、前記第2の稜線と交差する前記プレス方向に沿った断面における、前記第2の稜線の凸方向が同じ側であり、前記第2の稜線に直交する直線上にある、前記中間成形品における、前記直線との交点での前記第1の稜線の延在方向の曲率半径は、前記フランジ成形工程後における、前記直線上の前記第2の稜線の延在方向の曲率半径より大きく、前記中間成形品における、前記第1の稜線に隣接する前記隆起面と前記第1の面とのなす角度より、前記フランジ成形工程後における、前記第1の稜線に相当する位置での前記第2の面のなす角度が大きい、プレス成形品の製造方法である。
【0010】
別の観点による本開示の一態様は、パンチ、ダイ、および、パッドを備え、前記パンチは、パンチ縦壁部、パンチ底面部、および、前記パンチ縦壁部と前記パンチ底面部との間にある凹稜線部を備え、前記ダイは、ダイ縦壁部、ダイ底面部、および、前記ダイ縦壁部と前記ダイ底面部との間にあるダイ肩稜線部を備え、前記パッドは、パッド縦壁部、パッド底面部、および、前記パッド縦壁部と前記パッド底面部の間にあるパッド稜線部を備え、プレス方向に見た状態において、前記パッド稜線部は、前記ダイから前記パッドに向かう方向に凸に湾曲して延在し、プレス方向に見た状態において、前記ダイ肩稜線部は、前記パンチ縦壁部から前記ダイ縦壁部に向かう方向に凸に湾曲して延在し、前記パッド縦壁部は、前記ダイに隣接して配置され、成形下死点において、前記パンチ縦壁部と前記ダイ縦壁部とが対向して隣接し、成形下死点において、前記パンチ底面部と前記ダイ底面部とが対向して隣接し、成形下死点において、前記パッド底面部と前記パンチ底面部とが対向して隣接し、前記第2の稜線に直交する直線上にある、前記直線との交点での前記パッド稜線部の延在方向の曲率半径は、前記直線上の前記ダイ肩稜線部の延在方向の曲率半径より大きい、プレス成形装置である。
【0011】
また、さらに別の観点による本開示の一態様は、前記プレス成形装置と予成形装置とを備え、前記予成形装置は、予成形パンチ、および、予成形ダイを備え、前記予成形パンチは、予成形パンチ縦壁部、予成形パンチ底面部、および、前記予成形パンチ縦壁部と前記予成形パンチ底面部との間にある予成形パンチ凹稜線部を備え、前記予成形ダイは、予成形ダイ縦壁部、予成形ダイ底面部、および、前記予成形ダイ縦壁部と前記予成形ダイ底面部との間にある予成形ダイ肩稜線部を備え、プレス方向に見た状態において、前記予成形ダイ肩稜線部は、前記予成形パンチ縦壁部から前記予成形ダイ縦壁部に向かう方向に凸に湾曲して延在し、成形下死点において、前記予成形パンチ縦壁部と前記予成形ダイ縦壁部とが対向して隣接し、成形下死点において、前記予成形パンチ底面部と前記予成形ダイ底面部とが対向して隣接し、前記プレス成形装置のダイ肩稜線部と直交し、前記予成形装置の予成形ダイ肩稜線部と交差する直線との交点での前記予成形ダイ肩稜線部の延在方向の曲率半径は、前記直線上の前記ダイ肩稜線部の延在方向の曲率半径より大きく、前記予成形装置の前記予成形ダイの前記予成形ダイ肩稜線部および前記プレス成形装置のパッドの前記パッド稜線部と交差する前記プレス方向に沿った断面における、前記予成形ダイ肩稜線部に隣接する前記予成形ダイ縦壁部と前記予成形ダイ底面部のなす角より、前記パッド稜線部に隣接する前記ダイ底面部と前記パッド底面部のなす角の方が大きい、プレス成形ラインである。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、伸びフランジ部を有するプレス成形品を製造する際に、フランジに発生する引張ひずみを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】自動車の車体骨格の一例を示す図である。
図2】第1の部品と第2の部品の接合箇所における継手形状の一例を示す図である。
図3】第1の部品と第2の部品の接合箇所における継手形状の一例を示す図である。
図4】伸びフランジ部を有するプレス成形品の一例を示す図である。
図5】本開示の一実施形態に係る伸びフランジ部を有するプレス成形品の製造過程における形状を示す図である。(a)はブランクの形状、(b)は予成形工程後の中間成形品の形状、(c)は成形加工後のプレス成形品の形状を示している。
図6】プレス成形ラインの予成形装置とプレス成形装置の配置例を示す図である。
図7】予成形工程における予成形装置の構成例を示す図である。
図8】予成形装置のパンチ(予成形パンチ)を示す図である。
図9】予成形装置のプレス方向の断面を示す図である。
図10】予成形工程における中間成形品の成形過程を示す図である。
図11図5(b)中のA-A断面を示す図である。なお、図11中の二点鎖線はフランジ成形工程後のプレス成形品の形状を示している。
図12】予成形装置の各成形部を説明するための図である。本図では断面を示すハッチングの図示を省略している。
図13】フランジ成形工程におけるプレス成形装置の構成例を示す図である。
図14】プレス成形装置のパンチを示す図である。
図15】プレス成形装置のプレス方向の断面を示す図である。
図16】フランジ成形工程におけるプレス成形品の成形過程を示す図である。
図17図5(c)中のB-B断面を示す図である。なお、図17中の二点鎖線は予成形工程後の中間成形品の形状を示している。
図18】プレス成形装置の各成形部を説明するための図である。本図では断面を示すハッチングの図示を省略している。
図19】中間成形品の平面図である。
図20】予成形装置の各成形部を模式的に示した平面図である。
図21】本発明の別の実施形態に係る伸びフランジ部を有するプレス成形品の製造過程における部品形状を示す図である。(a)はブランクの形状、(b)は予成形工程後の中間成形品の形状、(c)はトリム工程後のプレス成形品の形状、(d)はフランジ成形工程後のプレス成形品の形状を示している。
図22】プレス成形ラインの配置例を示す図である。
図23】比較例1におけるフランジ成形工程後のプレス成形品の板厚変化の分布を示す図である。
図24】実施例1におけるフランジ成形工程後のプレス成形品の板厚変化の分布を示す図である。
図25】実施例2におけるフランジ成形工程後のプレス成形品の板厚変化の分布を示す図である。
図26】フランジからの水平方向位置における周方向ひずみの大きさを示す図である。
図27】L1/L2が異なる解析モデルのシミュレーション結果を示す図である。
図28】R3/R2が異なる解析モデルのシミュレーション結果を示す図である。
図29】中間成形品の隆起面が、プレス方向に向かって凸となる曲面となるように形成された場合と、中間成形品の隆起面が、プレス方向と逆向きに向かって凸となる曲面となるように形成された場合の、プレス成形品の第2の面への影響の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0015】
本実施形態においては、伸びフランジ部を有するプレス成形品の一例として図4のような形状のプレス成形品1を製造する方法について説明する。本プレス成形品1は、平板状の面(第2の面)2と、面2の一部が面2と交差する方向(図示では上方)に折り曲げられて延在しているフランジ3と、面2とフランジ3とを接続する稜線(第2の稜線)4を有している。平板状である面2の縁の一部がプレス成型により上方に折り曲げられることによりフランジ3が形成されている。面2とフランジ3との間に稜線4が連続して存在している。フランジ3は、面2の板厚方向から見た平面視において面2の内側に凸となるように湾曲しており、成形時には伸びフランジ変形が生じている。本実施形態においては、図5(a)のような曲線状の切欠き部10aを有する平板状のブランク10から図5(b)のような中間成形品11を成形する予成形工程と、中間成形品11から図5(c)のようなフランジ3を成形するフランジ成形工程を経てプレス成形品1が製造される。図5では、切欠き部10aの両側がつながっていないが、切欠き部10aは環状でもよい。すなわち、切欠き部10aは穴でもよい。言い換えると、切欠き部10aは図5に表現された箇所のみであってもよいし、図5の奥の角を中心に同様の構造が図の描写の外側にあってもよい。後述の図13図14図19図20図21図23図24図25も同様である。なお、ブランク10の材料は、特に限定されず、例えば鋼板やアルミニウム合金板、マグネシウム合金板等の金属板が採用され得る。
【0016】
<予成形工程>
図5(b)に示されるように予成形工程で製造される中間成形品11は、平板形状の第1の面12と、ブランク10の切欠き部10aを含む部分を図中の上方に隆起させるように成形された、第1の面12に対して隆起した面である隆起面13と、第1の面12と隆起面13との間に位置する第1の稜線14と、を有している。平面視において、第1の稜線14は、隆起面13から第1の面12に向かう方向に凸に湾曲して延在している。以後、平面視をプレス方向に見た平面視と表現するが、第1の面12の板厚方向に見た平面視でも意味は同じである。隆起面13は、ブランク10をプレス加工することによって成形される。
【0017】
このような中間成形品11は、例えば図6に示されるようなプレス成形ライン20の予成形装置30を用いて製造される。図6の例において、プレス成形ライン20は、ブランク10から中間成形品11を成形する予成形装置30と、中間成形品11からプレス成形品1を成形するプレス成形装置40を備えている。予成形装置30とプレス成形装置40は互いに接近して配置されており、ブランク10に対して連続的にプレス成形が行われる。なお、予成形装置30とプレス成形装置40は互いに離れた位置に設けられていてもよい。そのような場合、例えば予成形装置30で成形された中間成形品11を一時的に保管しておき、中間成形品11の在庫が所定量に達した後に保管されていた中間成形品11をまとめてプレス成形装置40まで搬送し、プレス成形装置40において各中間成形品11に対して一つずつプレス成形が施される。
【0018】
図7図9は、本実施形態に係る予成形装置30の構成例を示す図である。なお、図7では、予成形ダイ33の下面形状のみを示している。また、図7、8では、予成形パンチ31の上面の形状のみを示している。予成形パンチ31の上面と予成形ダイ33の下面が、ブランク10から中間成形品11を成形するプレス面(成形部)である。
【0019】
図7に示されるように、本実施形態の予成形装置30は、予成形パンチ31と、予成形パッド32と、予成形ダイ33を備えている。予成形パンチ31は、予成形パンチ底面部31aと、予成形パンチ底面部31aと異なる高さ(この形態では、予成形パンチ底面部31aの上方)に位置する予成形パンチ天面部31bと、予成形パンチ底面部31aと予成形パンチ天面部31bとを接続するパンチ傾斜面31cとを有している。本実施形態の予成形パンチ31の予成形パンチ底面部31aと予成形パンチ天面部31bは互いに平行であるが、平行でなくてもよい。また、図8に示されるように予成形パンチ傾斜面31cの一部は、円錐台の側面のように曲率を有した予成形パンチ縦壁部31c‘となっている。予成形パンチ縦壁部31c‘は、プレス方向に見た平面視で、予成形パンチ天面部31bから予成形パンチ底面部31aに向かう方向に凸の湾曲形状となっている。すなわち、予成形パンチ縦壁部31c’の表面は凸に湾曲している。予成形パンチ傾斜面31cの予成形パンチ縦壁部31c‘と予成形パンチ底面部との間は、凹稜線部31dとなっている。同様に、凹稜線部31dは、プレス方向に見た平面視で、予成形パンチ天面部31bから予成形パンチ底面部31aに向かう方向に凸の曲線形状となっている。
【0020】
予成形パッド32は、予成形パンチ31の予成形パンチ天面部31bに対向する位置において昇降可能に構成されている。予成形ダイ33は、予成形パンチ31の予成形パンチ底面部31aに対向する予成形ダイ底面部33aと、予成形パンチ31の予成形パンチ傾斜面31cに対向する予成形ダイ傾斜面33bとを有している。予成形パンチ傾斜面31cの予成形パンチ縦壁部31c‘と同様に、予成形ダイ傾斜面33bの一部は、曲率を有した予成形ダイ縦壁部33b‘となっている。予成形ダイ縦壁部33b‘は、プレス方向に見た平面視で、予成形ダイ傾斜面33bから予成形ダイ底面部33aに向かう方向に凸の湾曲形状となっている。すなわち、予成形ダイ縦壁部33b’の表面は凸に湾曲している。予成形ダイ傾斜面33bの予成形ダイ縦壁部33b‘と予成形ダイ底面部33aとの間は、予成形ダイ肩稜線部33cとなっている。同様に、予成形ダイ肩稜線部33cは、プレス方向に見た平面視で、予成形ダイ傾斜面33bから予成形ダイ底面部33aに向かう方向に凸の曲線形状となっている。予成形ダイ33は、予成形パッド32の側方において昇降可能に構成されている。なお、予成形装置30の構成はプレス成形品1の製品形状に応じて適宜変更され、採用され得る加工方法についてもプレス成形品1の製品形状に応じて適宜変更される。
【0021】
予成形装置30を用いた予成形工程においては、まず図7および図10(a)のように切欠き部10aの周辺のブランク10を予成形パッド32で押さえ、その状態で予成形ダイ33を下降させる。なお、図10(a)のように、ブランク10の切欠き部10aの周辺を、予成形パンチ天面部31bと予成形パッド32の下面との間で挟むことにより、予成形パンチ31の上面と予成形ダイ33の下面の間に、ブランク10を配置することができる。
【0022】
こうして、予成形パンチ31の上面と予成形ダイ33の下面の間にブランク10を配置して、図10(b)のように予成形ダイ33を下降させる。予成形ダイ33を下降させた成形下死点では、予成形パンチ縦壁部31c‘と予成形ダイ縦壁部33b’とが対向して隣接し、予成形パンチ底面部31aと予成形ダイ底面部33aとが対向して隣接した状態となる。また、このように予成形ダイ33を下降させた成形下死点では、プレス方向に見た平面視で、予成形ダイ肩稜線部33cと凹稜線部31dは、予成形パンチ縦壁部31c‘から予成形ダイ縦壁部33b’に向かう方向に凸に湾曲して延在した状態となる。
【0023】
予成形ダイ33が成形下死点まで下降することで、予成形パンチ31の予成形パンチ縦壁部31c‘と予成形ダイ33の予成形ダイ縦壁部33b‘でプレス成型されて、ブランク10の一部領域が図10(b)のように隆起した形状となり、図11のように第1の面12と、隆起面13と、第1の稜線14とを有した中間成形品11が成形される。平板状である第1の面12の一部が予成形工程におけるプレス成型により上方に折り曲げられることにより隆起面13が形成されている。中間成形品11においては、第1の面12と隆起面13との間に第1の稜線14が連続して存在している。プレス方向に見た平面視において、第1の稜線14は、隆起面13から第1の面12に向う方向に凸に湾曲した曲線形状に延在している。また、第1の稜線14と交差するプレス方向の断面において、第1の稜線14は斜め下方(図11中に矢印eで示す。)に向かって突出している。隆起面13の高さは、第1の面12からの第1の面の板厚方向の高さである。
【0024】
このように、予成形装置30によって中間成形品11の第1の面12と、隆起面13と、第1の稜線14が成形されることから、予成形装置30は、図12に示されるように中間成形品11の第1の面12を成形する部分である第1の面成形部35と、第1の面成形部35に対して隆起した、中間成形品11の隆起面を成形する部分である隆起面成形部36と、第1の面成形部35と隆起面成形部36とを接続する、中間成形品11の第1の稜線14を成形する部分である第1の稜線成形部37とを有している。予成形パンチ31の予成形パンチ底面部31aと予成形パッド32の予成形ダイ底面部33aとの間が第1の面成形部35となる。予成形パンチ31の予成形パンチ縦壁部31c‘と予成形パッド32の予成形ダイ縦壁部33b‘との間が隆起面成形部36となる。予成形パンチ31の凹稜線部31dと予成形ダイ33の予成形ダイ肩稜線部33cとの間が第1の稜線成形部37となる。また、図5(b)のような第1の稜線14に隣接する縁の一部が第1の面12の内方に湾曲した第1の面12は、第1の面成形部35によって成形されることから、第1の面成形部35は、第1の稜線成形部37に隣接した縁の一部が第1の面形成部35の内方に湾曲した部分を有しており、隆起面成形部36は、第1の面成形部35の湾曲した部分に隣接して設けられている。すなわち、隆起面形成部36と第1の面形成部35の間に第1の稜線形成部37がある。
【0025】
図11に示されるように予成形工程においては、中間成形品11の隆起面13が、後のフランジ成形工程で稜線4となる部分15を含むように成形される。本明細書では、そのような、後のフランジ成形工程で稜線4となる部分のことを、稜線4に相当する部分として“稜線相当部15”と称す。すなわち、中間成形品11の隆起面13は、稜線相当部15を含むように成形される。なお、稜線相当部15の位置は、プレス成形品1の製品形状やフランジ3の高さ、中間製品形状(隆起面13の形状等)等に応じて変わるものである。また、稜線相当部15を含む隆起面13を成形する際に、ブランク10のどの範囲までを隆起させるかについてはプレス成形品1の製品形状や金型構成等に応じて適宜変更される。すなわち、中間成形品11における第1の面12と隆起面13の割合は、プレス成形品1の製品形状や金型構成等に応じて適宜変更される。
【0026】
<フランジ成形工程>
図5(c)に示されるようにフランジ成形工程で製造されるプレス成形品1は、前述の通り、平板状の面2(以下“第2の面2”)と、第2の面2と交差する方向(上方)に湾曲させられたフランジ3と、第2の面2とフランジ3とを接続する稜線4(以下“第2の稜線4”)を有している。プレス方向に見た平面視において、第2の稜線4は、フランジ3から第2の面2に向かう方向に凸に湾曲して延在している。なお、後述するように、フランジ成形工程において、中間成形品11の第1の稜線14は押し広げられて実質的に消失する。しかし、第1の稜線14は押しつぶされて第1の稜線の痕になっていてもよいし、第1の面12と隆起面13変形した第2の面2のなす角が大きくなって第1の稜線14が残っていてもよい。図5中に、第1の稜線の痕(14)を示す。第1の稜線の痕は平坦になっていたとしても、例えば、成形品の表面をやすりで磨いたり、硬度測定して加工硬化している箇所を調べれば特定可能である。
【0027】
本実施形態のフランジ成形工程においては、例えば図13図15に示される構成のプレス成形装置40によって中間成形品11が成形され、プレス成形品1が製造される。なお、図13では、ダイ43の下面形状のみを示している。また、図13、14では、パンチ41の上面の形状のみを示している。パンチ41の上面とダイ43の下面が、中間成形品11からプレス成形品1を成形するプレス面(成形部)である。
【0028】
図15に示されるように本実施形態のプレス成形装置40は、パンチ41と、パッド42と、ダイ43を備えている。パンチ41は、パンチ底面部41aと、パンチ底面部41aと異なる高さ(この形態では、パンチ底面部41aの上方)に位置するパンチ天面部41bと、パンチ底面部41aとパンチ天面部41bとを接続するパンチ縦壁面41cとを有している。本実施形態のパンチ41のパンチ底面部41aとパンチ天面部41bは互いに平行であるが、平行でなくてもよい。また、図13に示されるようにパンチ縦壁面41cの一部は、円柱の側面のように曲率を有したパンチ縦壁部41c‘となっている。パンチ縦壁部41c‘は、プレス方向に見た平面視で、パンチ天面部41bからパンチ底面部41aに向かう方向に凸の曲線形状となっている。すなわち、パンチ縦壁部41c’の表面は凸に湾曲している。また、パンチ底面部41aとパンチ縦壁部41c‘との間は、パンチ凹稜線部41dとなっている。同様に、パンチ凹稜線部41dは、プレス方向に見た平面視で、パンチ天面部41bからパンチ底面部41aに向かう方向に凸の曲線形状となっている。
【0029】
パッド42は、パッド縦壁面42aとパッド底面部42bを有している。パッド42の下面がパッド底面部42bである。パッド縦壁面42aは、ダイ43に向かい合うように形成されている。パッド縦壁面42aの一部は、ダイ43からパッド42に向かって凹んだ曲率を有したパッド縦壁部42a‘となっている。パッド縦壁部42a‘は、プレス方向に見た平面視で、パッド縦壁面42aからパッド底面部42bに向かう方向に凸の曲線形状となっている。また、パッド底面部42bとパッド縦壁部42a‘との間には、パッド稜線部42cがある。同様に、パッド稜線部42cは、プレス方向に見た平面視で、ダイ43からパッド42に向かう方向に凸の曲線形状となっている。パッド縦壁部42a’は、ダイ43に隣接して配置されており、パッド42は、パンチ41のパンチ底面部41aに対向する位置において昇降可能に構成されている。
【0030】
ダイ43は、パンチ底面部41aに対向するダイ底面部43aと、パンチ天面部41bに対向するダイ天面部43bと、パンチ縦壁面41cに対向するダイ縦壁面43cとを有しており、パンチ縦壁面41cとパッド42との間の位置において昇降可能に構成されている。本実施形態のダイ43のダイ底面部43aとダイ天面部43bは互いに平行であるが、平行でなくてもよい。また、ダイ縦壁面43cの一部は、ダイ43の内側に向かって凹む曲率を有したダイ縦壁部43c‘となっている。ダイ縦壁部43c‘は、プレス方向に見た平面視で、ダイ天面部43bからダイ底面部43aに向かう方向に凸の湾曲形状となっている。また、ダイ底面部43aとダイ縦壁部43c‘との間は、ダイ肩稜線部43dがある。同様に、ダイ肩稜線部43dは、プレス方向に見た平面視で、ダイ天面部43bからダイ底面部43aに向かう方向に凸の曲線形状となっている。なお、プレス成形装置40の構成はプレス成形品1の製品形状に応じて適宜変更され、採用され得る加工方法についてもプレス成形品1の製品形状に応じて適宜変更される。
【0031】
プレス成形装置40を用いたフランジ成形工程においては、まず図16(a)のように中間成形品11の第1の面12をパッド42で押さえ、その状態でダイ43を下降させて、隆起面13の曲げ外側から曲げ内側に向かって隆起面13を押し込むように加工する。なお、図16(a)のように、中間成形品11の第1の面12を、パッド底面部42bとパンチ底面部41aとの間で挟むことにより、パンチ41の上面とダイ43の下面の間に、中間成形品11を配置することができる。
【0032】
こうして、パンチ41の上面とダイ43の下面の間に、中間成形品11を配置して、図16(b)のようにダイ43を下降させる。ダイ43を下降させた成形下死点では、パンチ縦壁部41c‘とダイ縦壁部43c’とが対向して隣接し、パンチ底面部41aとダイ底面部43aとが対向して隣接し、パッド底面部42bとパンチ底面部41aとが対向して隣接した状態となる。また、このようにダイ43を下降させた成形下死点では、プレス方向に見た平面視で、ダイ肩稜線部43dは、パンチ縦壁部41c‘からダイ縦壁部43c’に向かう方向に凸に湾曲して延在し、パッド稜線部42cは、ダイ43からパッド42に向かう方向に凸に湾曲して延在している。
【0033】
中間成形品11は、ダイ43が成形下死点まで下降することで、パンチ41のパンチ縦壁部41c‘とダイ43のダイ縦壁部43c’でプレス成型される。その結果、図16(b)のように、中間成形品11の隆起面13の一部が中間成形品11の第1の面12と連続した面となり、図17のようにプレス成形品1としての第2の面2が成形される。これに伴い、中間成形品11の第1の稜線14は押し広げられて消失してもよい。ダイ1の稜線14は完全に押し広げられずに残っていてもよい。ダイ1の稜線が消失したとしても、ダイ1の稜線14の痕は残る場合がある。また、隆起面13の残りの部分は、パンチ41のパンチ縦壁部41c‘とダイ43のダイ縦壁部43c’の間隙に材料が流れ込み、図17のように中間成形品11の稜線相当部15が第2の稜線4となり、かつ、隆起面13の先端13aがフランジ3の先端3aとなってフランジ3が成形される。プレス成形品1においては、第2の面2とフランジ3との間に第1の稜線4が連続して存在している。プレス方向に見た平面視において、第2の稜線4は、フランジ3から第2の面2に向う方向に凸に湾曲した曲線形状に延在している。また、第2の稜線4と交差するプレス方向に沿った断面において、第2の稜線4は斜め下方(図17中に矢印fで示す。)に向かって突出している。すなわち、中間成形品11での第1の稜線14と交差するプレス方向の断面において、第1の稜線14が突出する方向(図11中に矢印eで示す。)と、プレス成形品1での第2の稜線4と交差するプレス方向の断面において、第2の稜線4が突出する方向(図17中に矢印fで示す。)は、中間成形品11とプレス成形品1の同じ面の側である。
【0034】
このように、プレス成形装置40によってプレス成形品1の第2の面2と、フランジ3と、第2の稜線4が成形されることから、プレス成形装置40は、図18に示されるようにプレス成形品1の第2の面2を成形する部分である第2の面成形部45と、プレス成形品1のフランジ3を成形する部分であるフランジ成形部46と、プレス成形品1の第2の稜線4を成形する部分である第2の稜線成形部47とを有している。パンチ41のパンチ底面部41aとダイ43のダイ底面部43aとの間が第2の面成形部45となり、パンチ41のパンチ縦壁部41c‘とダイ43のダイ縦壁部43c‘との間がフランジ成形部46となり、パンチ41のパンチ凹稜線部41dとダイ43のダイ肩稜線部43dとの間が第2の稜線成形部47となる。また、図5(c)のように第2の稜線に隣接する縁の一部が第2の面2の内方に湾曲して延在する第2の面2は、第2の面成形部45によって成形されることから、第2の面成形部45は、縁の一部が第2の面形成部45の内方に湾曲した部分を有しており、フランジ成形部46は、第2の面成形部45の湾曲した部分に設けられている。フランジ成形部46によりプレス成形品1のフランジ3が成形されるため、フランジ成形部46の高さH(図18)は、フランジ3の高さH(図17)に等しくても良い。なお、成形部46の高さがフランジ3の高さ以上であれば金型上問題はない。
【0035】
上述したように、プレス成形装置40を用いたフランジ成形工程においては、中間成形品11の隆起面13の一部が中間成形品11の第1の面12と連続した面となり、図17のようにプレス成形品1としての第2の面2が成形される。これに伴い、中間成形品11の第1の稜線14は押し広げられて、第1の稜線14は実質的に消失しても良い。しかしながら、中間成形品11の第1の稜線14は、プレス成形品1において、完全な平板形状(180°)に押し広げられる必要はない。フランジ成形工程の前後において、第1の稜線14と交差するプレス方向の断面を比較した場合に、図17に示すように、中間成形品11(フランジ成形工程の前)において、第1の稜線14に隣接して存在している隆起面13と第1の面12のなす角度(θ1)に比べて、プレス成形品1において(フランジ成形工程後において)、第1の稜線14に相当する位置(中間成形品において存在していた第1の稜線14に相当する箇所)での第2の面2のなす角度(第1の稜線14に相当する位置において、隣接して存在する第2の面2同士のなす角度)(θ2)の方が大きくなればよい。このように、中間成形品において存在していた第1の稜線14は、フランジ成形工程において押し広げられることにより、プレス成形品1においては、第2の面2の一部となっても良い。なお、第1の面12と第2の面の間の第1の稜線14は稜線の延在方向の形状を保ってもよいし、第1の稜線14の痕になってもよい。
【0036】
本実施形態の伸びフランジ部を有するプレス成形品1は、以上の工程を経て製造される。このように製造されたプレス成形品1は、フランジ3の先端部に生じる引張ひずみが小さくなっている。その理由を以下に述べる。
【0037】
図19は予成形工程後の中間成形品11をプレス方向から見た図(上から見た図)である。なお、図19では、ブランク10の形状と、フランジ成形工程後のプレス成形品1が対比できるように示されている。図19では、ブランク10の位置を固定し、同一のブランク10から、中間成形品11、プレス成形品1の順に加工されていく際の、中間成形品11に現れる第1の面12、隆起面13、および、第1の稜線14と、プレス成形品1に現れる第2の面2、フランジ3、および、第2の稜線4との位置関係が対比して示されている。ブランク10における切欠き部10aと、プレス成形品1における第2の稜線4は、二点鎖線で示されている。また、本実施形態のプレス成形品1においては、図17のようにフランジ3が第2の面2に垂直な方向に延在する形状である場合、図19のような平面視においてはフランジ3の位置と第2の稜線4の位置が概ね同じ位置となる。
【0038】
また図19では、中間成形品11に現れる第1の稜線14と、プレス成形品1に現れる第2の稜線4とについて、延在方向の曲率を比較するために、中間成形品11の第1の稜線14と交差し、プレス成形品1の第2の稜線4と直交する直線Lを示している。この直線Lと第1の稜線14との交点14aでの第1の稜線14の延在方向の曲率半径R1と、この直線Lと第2の稜線4との交点4aでの第2の稜線4の延在方向の曲率半径R2を比較する。
【0039】
図19に示されるように、直線Lとブランク10の切欠き部10aとの交点における、切欠き部10aの平面視における曲率半径をR、フランジ成形後のフランジ3の高さをHとしたとき、例えば一工程でブランク10からフランジ3を成形する場合のフランジ3先端に生じる周方向のひずみε1は次式で表される。なお、“一工程”とは、ブランク10からプレス成形品1を一回の工程でプレス成型することを意味する。
ε1={(R+H)×π×(1/4)-R×π×(1/4)}/{R×π×(1/4)}=H/R
【0040】
一方、ブランク10から予成形工程を経てプレス成形品1を成型した場合、予成形工程においては、中間成形品11の隆起面先端13aの平面視における曲率半径R+Kが、ブランク10の切欠き部10aの平面視における曲率半径Rよりも大きくなる。この場合、本実施形態のように中間成形品11からフランジ3を成形する場合のフランジ3先端に生じる周方向のひずみε2は次式で表される。なお、次式中の“K”は、隆起面13の先端13aの曲率半径とブランク10の切欠き部10aの曲率半径との差である。
ε2={(R+H)×π×(1/4)-(R+K)×π×(1/4)}/{(R+K)×π×(1/4)}=(H-K)/R+K
【0041】
上記のε1とε2を比較すると、ε2の分子の値はKの分だけε1の分子の値よりも小さくなり、ε2の分母の値はKの分だけε1の分母の値よりも大きくなる。すなわち、ε2はε1よりも小さくなることから、本実施形態のような予成形工程を実施してフランジ3を成形する場合の方が、フランジ3の先端部に生じるひずみは小さくなる。また、フランジ成形工程で隆起面13からフランジ3を成形する過程では、プレス成形品1の第2の稜線4の周辺においては周方向の線長が短くなる。このため、プレス成形品1の第2の稜線4の周辺では材料が余ることになり、フランジ成形工程においてはフランジ3の先端側に向かって材料が流れやすくなる。これにより、フランジ3の先端部における引張ひずみが抑制される。
【0042】
したがって、本実施形態のような隆起面13を成形する予成形工程を行う製造方法によれば、フランジ3の先端部の引張ひずみを抑えて伸びフランジ部を有するプレス成形品1を製造することができる。これにより、伸びフランジ部を有するプレス成形品1の成形難易度を低くすることができ、部品の材料がより高強度なものとなっても所望の形状に部品を成形することが可能となる。
【0043】
上記のようなフランジ3先端部における引張ひずみの抑制効果を得るためには、中間成形品11の第1の稜線14の平面視における曲率半径R1(中間成形品11における、直線Lとの交点14aでの第1の稜線14の延在方向の曲率半径R1)が、プレス成形品1の第2の稜線4の平面視における曲率半径R2(フランジ成形工程後のプレス成形品1における、直線Lとの交点4aでの第2の稜線4の延在方向の曲率半径R2)よりも大きくなるようにプレス成形を行う必要がある。このようなプレス成形を行うことで、隆起面先端13aの平面視における曲率半径R+Kが、ブランク10の切欠き部10aの平面視における曲率半径Rよりも大きくなると共に、隆起面13に稜線相当部15が含まれるようになる。前述のフランジ3先端部の引張ひずみの抑制効果を得るためには、プレス成形ライン20は、プレス方向に見た状態において、予成形装置30の第1の稜線成形部37の曲率半径R1が、プレス成形装置40の第2の稜線成形部47の曲率半径R2よりも大きい必要がある。
【0044】
図20は、予成形装置30の第1の面成形部35、隆起面成形部36および第1の稜線成形部37を模式的に示した平面図である。なお、図20では、対応箇所において、プレス成形装置40の第2の面成形部45、フランジ成形部46、および、第2の稜線成形部47が二点鎖線で示されている。ここで、対応箇所とは、予成形装置30によってプレス成形された中間成形品11をさらにプレス成形装置40によってプレス成型してプレス成形品1を製造するに際して、中間成形品11をプレス成型する予成形装置30のパンチ31、パッド32、および、ダイ33の位置関係と、中間成形品11をさらにプレス成形品1プレス成型するプレス成形装置40のパンチ41、パッド42、および、ダイ43の位置関係が対応していることを意味する。本実施形態のプレス成形装置40においては、フランジ成形部46によって成形されるフランジ3が第2の面2に垂直な方向に延在する形状である場合、図20のような平面視においてはフランジ成形部46と第2の稜線成形部47が概ね同じ位置となる。
【0045】
第1の稜線成形部37は、予成形パンチ31の凹稜線部31dと予成形ダイ33の予成形ダイ肩稜線部33cとの間に形成される。第2の稜線成形部47は、パンチ41のパンチ凹稜線部41dとダイ43のダイ肩稜線部43dとの間に形成される。
【0046】
また図20では、第1の稜線成形部37(予成形パンチ31の凹稜線部31dと予成形ダイ33の予成形ダイ肩稜線部33c)と第2の稜線成形部47(パンチ41のパンチ凹稜線部41dとダイ43のダイ肩稜線部43d)とについて延在方向の曲率半径を比較するために、図19と同様に、予成形ダイ肩稜線部33c(凹稜線部31d)と交差し、ダイ肩稜線部43d(パンチ凹稜線部41d)と直交する共通の直線L‘を示している。この直線L‘と予成形ダイ肩稜線部33c(凹稜線部31d)との交点37aでの予成形ダイ肩稜線部33c(凹稜線部31d)の延在方向の曲率半径R1’と、この直線L‘とダイ肩稜線部43d(パンチ凹稜線部41d)との交点47aでのダイ肩稜線部43d(パンチ凹稜線部41d)の延在方向の曲率半径R2’を比較する。
【0047】
ここで、第2の稜線成形部47は、プレス成形品1の第2の稜線4を成形する部分であり、ダイ肩稜線部43d(パンチ凹稜線部41d)の延在方向の曲率半径R2’は、必然的にプレス成形品1の第2の稜線4のプレス成形時のプレス方向から見た平面視における曲率半径R2に一致する。また、第1の稜線成形部37は、中間成形品11の第1の稜線14を成形する部分であり、予成形ダイ肩稜線部33c(凹稜線部31d)の延在方向の曲率半径R1’は、必然的に中間成形品11の第1の稜線14の平面視における曲率半径R1に一致する。したがって、上記と同様に、フランジ3先端部における引張ひずみの抑制効果を得るためには、予成形ダイ肩稜線部33c(凹稜線部31d)の延在方向の曲率半径R1’が、ダイ肩稜線部43d(パンチ凹稜線部41d)の延在方向の曲率半径R2’よりも大きくなる必要がある。
【0048】
さらに、フランジ成形工程では、プレス成形装置40において、図16(a)に示したように、中間成形品11の第1の面12をパッド42で押さえ、その状態でダイ43を下降させて、隆起面13の曲げ外側から曲げ内側に向かって隆起面13を押し込むように加工する。この場合、中間成形品11を安定させて拘束することが望ましい。そのためには、パッド42のパッド底面部42bを、中間成形品11の第1の面12における第1の稜線14のなるべく近い位置まで密着させれば良い。パッド42のパッド底面部42bによって、中間成形品11の第1の面12における第1の稜線14のなるべく近い位置まで拘束した状態で、ダイ43を下降させることにより、高い加工精度でプレス成形品1をプレス成型することが可能となる。
【0049】
このように中間成形品11の第1の面12における第1の稜線14のなるべく近い位置までパッド42のパッド底面部42bによって押さえるためには、プレス方向に見た平面視において、ダイ43からパッド42に向かう方向に凸の曲線形状に形成されたパッド稜線部42cの曲率半径が、中間成形品11の第1の稜線14の平面視における曲率半径R1と同じであればよい。プレス方向から見た平面視でのパッド稜線部42cの曲率半径がR1であることにより、中間成形品11の第1の面12を第1の稜線14の直近の位置までパッド42のパッド底面部42bで拘束してプレス成型することができ、皴のないプレス成形品1を製造することが可能となる。平面視でのパッド稜線部42cの曲率半径がR1である場合に、図20と同様にパッド稜線部42cおよびダイ肩稜線部43dと交差する直線上において、必然的に、この直線との交点でのパッド稜線部42cの延在方向の曲率半径は、この直線との交点でのダイ肩稜線部43dの延在方向の曲率半径より大きくなる。
【0050】
なお、パッド稜線部42cの延在方向の曲率半径をR1よりさらに大きくし、ダイ43が下降した際に、ダイ43のダイ底面部43aで中間成形品11の第1の稜線14を押しつぶすようにしてもよい。その場合も、ダイ肩稜線部に直交する直線上において、パッド稜線部42cの延在方向の曲率半径は、ダイ肩稜線部43dの延在方向の曲率半径より大きい関係が維持される。
【0051】
また、予成形装置30とプレス成形装置40は別の装置であって、必ずしも中間成形品が向きを変えずに装置間を搬送されるとは限らないため、中間成形品11に現れる第1の面12、隆起面13、および、第1の稜線14と、プレス成形品1に現れる第2の面2、フランジ3、および、第2の稜線4との位置関係がずれてしまう場合が考えられる。かかる場合を考慮すれば、パッド稜線部42cの延在方向の曲率半径の平均値が、ダイ肩稜線部43dの延在方向の曲率半径の平均値より大きい関係としてもよい。例えば、プレス方向に見た平面視において、ダイ43からパッド42に向かう方向に凸の曲線形状に形成されたパッド稜線部42cの曲率半径を、等間隔で複数個所(例えば10か所)測定し、最も高い値と低い値を除外した8つの測定値の平均値をパッド稜線部42cの曲率半径とすることができる。また同様に、プレス方向に見た平面視において、ダイ天面部43bからダイ底面部43aに向かう方向に凸の曲線形状に形成されたダイ肩稜線部43dの曲率半径を、等間隔で複数個所(例えば10か所)測定し、最も高い値と低い値を除外した8つの測定値の平均値をダイ肩稜線部43dの曲率半径とすることができる。こうして測定されたパッド稜線部42cの曲率半径の平均値が、ダイ肩稜線部43dの曲率半径の平均値より大きくなればよい。
【0052】
なお、予成形装置30における隆起面成形部36の高さh(図12)は、プレス成形装置40におけるフランジ成形部46の高さH(図18)以上の高さであることが好ましい。換言すると、中間成形品11の隆起面13の高さh(図11)が、プレス成形品1のフランジ3の高さH(図17)以上の高さとなるようにプレス成形を行うことが好ましい。これにより、プレス成形装置40に中間成形品11をセットする際に、隆起面13近傍の第1の面12が浮きにくくなり、より安定した姿勢で成形を行うことができる。本明細書における“隆起面成形部36の高さh”とは、予成形装置30における、プレス成形装置40の第2の稜線成形部47に相当する位置から第1の面成形部35に垂直な方向における隆起面成形部36までの長さである。なお、予成形装置30およびプレス成形装置40においては、それぞれ被成形品(ブランク10または中間成形品11)をセットする位置が予め定められているため、予成形装置30とプレス成形装置40における被成形品のセット位置の対比から、予成形装置30における、プレス成形装置40の第2の稜線成形部47に相当する位置は一義的に定まる。
【0053】
予成形装置30の、第1の稜線成形部37から隆起面成形部36の先端36aまでの長さL1(図12)は、プレス成形装置40における、予成形装置30の第1の稜線成形部37に相当する位置からフランジ成形部46の先端46aまでの長さL2(図18)の1.00~1.05倍であることが好ましい。換言すると、中間成形品11の、第1の稜線14から隆起面13の先端13aまでの長さが、プレス成形品1における、中間成形品11の第1の稜線14に相当する位置からフランジ3の先端3aまでの長さの1.00~1.05倍となるようにプレス成形を行うことが好ましい。これにより、フランジ3の根元部におけるしわの発生が抑制されやすくなる。フランジ3の根元部におけるしわ抑制効果を向上させる観点においては、長さL1は、長さL2の1.04倍以下であることがより好ましく、1.03倍以下であることがさらに好ましい。なお、予成形装置30およびプレス成形装置40においては、それぞれ被成形品(ブランク10または中間成形品11)をセットする位置が予め定められているため、予成形装置30とプレス成形装置40における被成形品のセット位置の対比から、予成形装置30における隆起面成形部36の先端36aの位置や、プレス成形装置40における、予成形装置30の第1の稜線成形部37に相当する位置は一義的に定まる。
【0054】
また、図12図13および図20に示されるように、予成形装置30の隆起面成形部36における、中間成形品11の稜線相当部15を成形する位置36bのプレス方向から見た平面視における曲率半径R3は、プレス成形装置40の第2の稜線成形部47の平面視における曲率半径R2の1.29倍以下であることが好ましい。換言すると、中間成形品11の稜線相当部15の平面視における曲率半径は、プレス成形品1の第2の稜線4の平面視における曲率半径の1.29倍以下となるようにプレス成形を行うことが好ましい。これにより、フランジ3の根元部に発生し得るしわを小さくすることが可能となる。フランジ3の根元部におけるしわ抑制効果を向上させる観点においては、曲率半径R3は、曲率半径R2の1.28倍以下であることがより好ましい。なお、R3とR2の比の好ましい下限は、プレス成形品1の製品形状によっても異なるため、特に限定されないが、曲率半径R3は、例えば曲率半径R2の1.00倍以上に設定される。また、予成形装置30およびプレス成形装置40においては、それぞれ被成形品(ブランク10または中間成形品11)をセットする位置が予め定められているため、予成形装置30とプレス成形装置40における被成形品のセット位置の対比から、予成形装置30の隆起面成形部36における、中間成形品11の稜線相当部15を成形する位置36bは一義的に定まる。
【0055】
また、図11に示されるように、図示の形態では、中間成形品11について、第1の稜線14と交差するプレス方向に沿った断面において、中間成形品11の隆起面13が、第1の稜線14から稜線相当部15の間はほぼ直線形状とした例を示した。しかしながら、後述する実施例で示すように、同断面において、中間成形品11の隆起面13が、予成形パンチ31に向かって凸(プレス方向に向かって凸)となる曲線となるように形成しても良い。すなわち、隆起面13には予成形パンチ31に向かって凸の曲面を形成してもよい。換言すると、隆起面13は第1の面から遠ざかるに従い傾斜が急になる曲面を備えていてもよい。なお、同断面において、中間成形品11の隆起面13が、予成形ダイ33に向かって凸となる曲線とした場合は、フランジ成形工程において、プレス成形品1の第2の面2にたわみが発生する恐れがある。
【0056】
以上、本発明の実施形態の一例について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0057】
例えば上記実施形態では、ブランク10の初期形状として曲線状の切欠き部10aが設けられていたが、図21(a)のようにブランク10に切欠き部10aが設けられていない場合であっても、引張ひずみを抑えてフランジ3を成形することができる。図21では、予成形工程とフランジ成形工程の間にトリム工程が設けられる。プレス成形品1の製造方法は以下の通りである。
【0058】
まず、上記実施形態と同様に予成形工程によって、図21(b)のような隆起面13を成形して第1の中間成形品11aを製造する。次に、図21(c)で示されるように、トリム工程によって、その後のフランジ成形工程で所定の高さのフランジ3が得られるようフランジ3の製品高さに基づいて隆起面13の先端部を切断して第2の中間成形品11bを製造する。最後に、上記実施形態と同様にフランジ成形工程によって、第2の中間成形品11bから図21(d)のようなフランジ3を成形して伸びフランジ部を有するプレス成形品1が製造される。このような方法で製造されたプレス成形品1も、フランジ3の先端部のひずみが抑制されている。したがって、伸びフランジ部を有するプレス成形品1の製造方法は上記実施形態で説明された方法に限定されない。なお、図22に示されるように上記のトリム工程を行うためには、例えばプレス成形ライン20の予成形装置30とプレス成形装置40との間に中間成形品11の隆起面13の先端部を切断する切断機50が設けられる。切断機50の構成は、隆起面13の先端部を切断することができれば特に限定されないが、例えば第3のプレス金型(図示せず)によって隆起面13の先端部をせん断するように構成され得る。
【0059】
また、本実施形態では、図5(b)に示した中間成形品11、図5(c)に示したプレス成形品1の順にプレス成型する例を示した。しかしながら、図示の中間成形品11、プレス成形品1の形状は何れも例示である。たとえば、予成形工程において図5(c)に示したプレス成形品1の形状に中間成形品を成形し、図4中に示した点線Xに沿って曲げ成型を行うことにより、図3に示したような、第1のフランジ82aと第2のフランジ82bが連続的に繋がっている継手82を成形するような場合にも、本発明は適用される。
【実施例
【0060】
<シミュレーション(1)>
伸びフランジ部を有する部品の成形シミュレーションを実施した。本シミュレーションでは、ブランクとして降伏点:510MPa、引張強度:821MPa、伸び:22%の溶融亜鉛めっき鋼板が想定されており、平面視曲率半径が15mm、高さが10mmの伸びフランジ変形を伴うフランジを成形することを条件としている。解析ソルバーとしてはPAM-STAMPが使用されており、ブランクのメッシュサイズは1mm×1mmである。
【0061】
本シミュレーションでは、従来の成形方法(比較例1)と本発明例の成形方法(実施例1、実施例2)の各々の方法でフランジを成形している。比較例1の成形方法は、曲線状の切欠き部を有するブランクから一工程でフランジを成形する方法である。実施例1の成形方法は、比較例1と同一のブランクに対し、予成形工程で隆起面を有する中間成形品を成形し、フランジ成形工程で中間成形品からフランジを成形する方法である。実施例2の成形方法は、切欠き部が存在しないブランクに対し、予成形工程で隆起面を有する第1の中間成形品を成形し、トリム工程で隆起面の先端部を切断して第2の中間成形品を成形し、フランジ成形工程で第2の中間成形品からフランジを成形する方法である。実施例における予成形工程では、平面視における第1の稜線14の曲率半径R1(図19)が、第2の稜線4の曲率半径R2よりも大きくなるように中間成形品11を成形している。実施例および比較例の各例における工程ごとの部品形状は下記表1の通りである。
【0062】
【表1】
【0063】
図23図25は、ブランクの板厚に対するフランジ成形後の部品の板厚変化の分布を示す図であり、図23は比較例1、図24は実施例1、図25は実施例2の結果を示している。図23で示されるように、比較例1においてはフランジの先端部における板厚減少率が大きく、先端部において大きな伸びフランジ変形が生じていることがわかる。一方、図24および図25で示されるように、実施例1および実施例2においては、フランジの先端部における板厚減少率が比較例1に対して小さくなり、伸びフランジ変形が抑制されていることがわかる。
【0064】
図26は、フランジからの水平方向位置における周方向ひずみの大きさを示す図である。図26の縦軸において、正の値は引張ひずみを示し、負の値は圧縮ひずみを示している。図26の結果が示すように、実施例1および実施例2においては、フランジにおける引張ひずみが比較例1に対して抑制されている。
【0065】
<シミュレーション(2)>
図12に示される予成形装置30における長さL1と、図18に示されるプレス成形装置40における長さL2との比(L1/L2)が異なる複数の解析モデルを用いて成形シミュレーションを実施した。なお、ブランクの素材や最終形状、解析ソルバー等のシミュレーション条件は、前述のシミュレーション(1)と同様である。
【0066】
シミュレーション結果を図27に示す。本シミュレーションでは、フランジ根元部の板厚増加率を評価指標として、板厚増加率からフランジ根元部のしわ発生の有無を推測している。ブランクの板厚に対するフランジ根元部の板厚増加率が15%を超える場合、フランジの成形時にフランジの根元部近傍で材料が余り過ぎてしまい、フランジの根元部にしわが発生する場合がある。図27に示されるように、L1/L2が1.05以下の場合には、板厚増加率が15%以下となり、フランジの根元部のしわを抑えることができる。なお、いずれの解析モデルにおいても、フランジ先端の板厚減少率はシミュレーション(1)の比較例1の板厚減少率よりも小さくなっていた。したがって、L1/L2が1.05以下の条件で本発明に係るプレス成形を行うことにより、フランジの先端部の引張ひずみを抑えることができると共に、フランジの根元部のしわを抑えることができる。
【0067】
<シミュレーション(3)>
図20に示される予成形装置30の曲率半径R3と、プレス成形装置40の曲率半径R2との比(R3/R2)が異なる複数の解析モデルを用いて成形シミュレーションを実施した。なお、ブランクの素材や最終形状、解析ソルバー等のシミュレーション条件は、前述のシミュレーション(1)と同様である。
【0068】
シミュレーション結果を図28に示す。本シミュレーションにおいても、フランジ根元部の板厚増加率を評価指標として、板厚増加率からフランジ根元部のしわ発生の有無を推測している。図28に示されるように、R3/R2が1.29以下の場合には、板厚増加率が15%以下となり、フランジの根元部のしわを抑えることができる。なお、いずれの解析モデルにおいても、フランジ先端の板厚減少率はシミュレーション(1)の比較例1の板厚減少率よりも小さくなっていた。したがって、R3/R2が1.29以下の条件で本発明に係るプレス成形を行うことにより、フランジの先端部の引張ひずみを抑えることができると共に、フランジの根元部のしわを抑えることができる。また、L1/L2が1.05以下、かつ、R3/R2が1.29以下の条件で本発明に係るプレス成形を行うことで、その効果はさらに高まる。
【0069】
<シミュレーション(4)>
図29に示されるように、中間成形品11の隆起面13が、予成形パンチ31に向かって凸(下に向かって凸)となる曲線に形成された場合(図29(a))と、中間成形品11の隆起面13が、予成形ダイ33に向かって凸(上に向かって凸)となるとなる曲線に形成された場合(図29(a))の、プレス成形品の第2の面への影響について、成形シミュレーションを実施した。図29(a))に示すように、隆起面13が予成形パンチ31に向かって凸(下に向かって凸)となる曲線となるように形成された場合、フランジ成形工程において、しわを発生させずに隆起面13をプレス成型することができた。一方、図29(b))に示すように、隆起面13が予成形ダイ33に向かって凸(上に向かって凸)となるとなる曲線に形成された場合、フランジ成形工程において、第2の面2にしわを発生させる恐れがあった。中間成形品11の隆起面13は、第1の稜線14から稜線相当部15の間はほぼ直線形状か、もしくは、プレス方向に向かって凸の曲面とすることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、伸びフランジ部を有するプレス成形品の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 伸びフランジ部を有するプレス成型品
2 面(第2の面)
3 フランジ
3a フランジの先端
4 稜線(第2の稜線)
10 ブランク
10a 切欠き部
11 中間成形品
11a 第1の中間成形品
11b 第2の中間成形品
12 第1の面
13 隆起面
13a 隆起面の先端
14 第1の稜線
15 稜線相当部
20 プレス成形ライン
30 予成形装置
31 予成形パンチ
31a 予成形パンの底面部
31b 予成形パンチ天面部
31c 予成形パンチ傾斜面
31c‘ 予成形パンチ縦壁部
31d 凹稜線部
32 予成形パッド
33 予成形ダイ
33a 予成形ダイ天面部
33b 予成形ダイ傾斜面
33b‘ 予成形ダイ縦壁部
35 第1の面成形部
36 隆起面成形部
36a 隆起面成形部の先端
36b 隆起面成形部における中間成形品の稜線相当部の位置
37 第1の稜線成形部
40 プレス成形装置
41 パンチ
41a パンチ底面部
41b パンチ天面部
41c パンチ縦壁面
41c‘ パンチ縦壁部
41d パンチ凹稜線部
42 パッド
42a パッド縦壁面
42a‘ パッド縦壁部
42b パッド底面部
42c パッド稜線部
43 ダイ
43a ダイ底面部
43b ダイ天面部
43c ダイ縦壁面
43c‘ ダイ縦壁部
45 第2の面成形部
46 フランジ成形部
46a フランジ成形部の先端
47 第2の稜線成形部
50 切断機
80 第1の部品
81 第2の部品
82 継手
82a 第1のフランジ
82b 第2のフランジ
82c 第3のフランジ
H フランジ成形部の高さ
h 隆起面成形部の高さ
K 隆起面先端の曲率半径と第2の稜線の曲率半径との差
R 切欠き部の曲率半径
R1 第1の稜線成形部の曲率半径
R2 第2の稜線成形部の曲率半径
R3 隆起面成形部における中間成形品の稜線相当部の位置の曲率半径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29