(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】殺菌処理された肉塊の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 13/00 20160101AFI20230726BHJP
A23B 4/20 20060101ALI20230726BHJP
A23B 4/24 20060101ALI20230726BHJP
A23B 4/26 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
A23L13/00 Z
A23B4/20 A
A23B4/24
A23B4/26
(21)【出願番号】P 2019170020
(22)【出願日】2019-09-19
【審査請求日】2022-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】506215526
【氏名又は名称】株式会社ティーケーシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西渕 光昭
(72)【発明者】
【氏名】小澤 讓
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0271110(US,A1)
【文献】特開2018-157770(JP,A)
【文献】国際公開第2011/118821(WO,A1)
【文献】特表2019-531052(JP,A)
【文献】国際公開第2003/037504(WO,A1)
【文献】島村裕子,食中毒菌の食肉への付着・侵入機構の解明と電解水処理による殺菌法の確立,サッポロホールディングス 研究助成報告書,第3回,2015年,https://www.sapporoholdings.jp/foundation/record/list/2014/pdf/list_2014_04.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食肉、魚肉、及び貝肉からなる群より選択される少なくとも1種の肉塊を、
変形可能な密閉容器内で、食品用液体殺菌剤に浸漬させたうえで振動条件下で洗浄すること、及び該密閉容器から食品用液体殺菌剤を吸引排出することを含む、殺菌処理された肉塊の製造方法。
【請求項2】
洗浄に供する前記肉塊が、表面に食品用液体殺菌剤を保持する肉塊である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
肉塊表面を食品用液体殺菌剤で前処理して、表面に食品用液体殺菌剤を保持する肉塊を得ることを含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記振動条件下での洗浄が、前記肉塊及び前記食品用液体殺菌剤を含む前記密閉容器を振動状態の振動装置に接触させて行われる、請求項1~
3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記振動装置の振動速度が100~3000回/分である、請求項
4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記吸引排出が前記洗浄中に行われる、請求項1~
5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記洗浄が食品用液体殺菌剤を交換しながら行われる、請求項1~
6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記洗浄が食品用液体殺菌剤を断続的に交換しながら複数回行われる、請求項
7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記肉塊が、表面の50%以上が脂肪組織で覆われている食肉の肉塊である、請求項1~
8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記肉塊が牛肉の肉塊である、請求項1~
9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記食品用液体殺菌剤が、焼成カルシウム、エタノール及び乳酸ナトリウムを含有する水溶液又は水分散体である、請求項1~
10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
さらに、洗浄された肉塊の表層を除去することを含む、請求項1~
11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
食肉、魚肉、及び貝肉からなる群より選択される少なくとも1種の肉塊を、
変形可能な密閉容器内で、食品用液体殺菌剤に浸漬させたうえで振動条件下で洗浄すること、及び該密閉容器から食品用液体殺菌剤を吸引排出することを含む、生食品の製造方法。
【請求項14】
食肉、魚肉、及び貝肉からなる群より選択される少なくとも1種の肉塊を、
変形可能な密閉容器内で、食品用液体殺菌剤に浸漬させたうえで振動条件下で洗浄すること、及び該密閉容器から食品用液体殺菌剤を吸引排出することを含む、肉塊の殺菌方法。
【請求項15】
(A)食肉、魚肉、及び貝肉からなる群より選択される少なくとも1種の肉塊を密閉する
変形可能な密閉容器、
(B)前記密閉容器に接触可能な振動装置、並びに
(C)前記密閉容器への食品用液体殺菌剤の供給、及び前記密閉容器からの食品用液体殺菌剤の吸引排出を行う給排水機器、
を備える、肉塊の殺菌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌処理された肉塊の製造方法、生食用肉の製造方法、肉塊の殺菌方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
腸管出血性大腸菌(EHEC:Enterohemorrhagic Escherichia coli)の重要な特徴は、その感染症は致死性疾患であること、及びその菌体は胃酸による殺菌作用を逃れる耐酸性能力を持つため、通常は、食品中に1菌体でも検出されてはならないことである。EHECは、標的組織に付着後にその内部にある程度侵入するので、表面殺菌処理からも逃れる可能性がある。
【0003】
このため、EHECに汚染される可能性のあるウシ肉は、通常、表面が充分な高温に達する条件下で加熱処理されてから、熱変性していない内部の部分のみを無菌的が取り出され、生食に供されている。ただ、この場合、加熱処理前の肉の極一部しか生食に供されないので、生食肉の価格が高くなってしまい、効率的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-157770号公報
【文献】国際公開第2010/150850号
【文献】特開平11-222796号公報
【文献】特開平11-290044号公報
【文献】特開2002-272434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、食品用液体殺菌剤を用いて肉塊を効率的に殺菌する方法が開示されている。この方法であれば、従来法のように加熱処理をすることなく、肉塊の殺菌が可能である。しかし、特許文献1に記載の方法は、大量の食品用液体殺菌剤を要し、高コストである。
【0006】
そこで、本発明は、食品用液体殺菌剤の使用量がより少なくとも、良好な殺菌効果が得られる、肉塊の殺菌技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、食肉、魚肉、及び貝肉からなる群より選択される少なくとも1種の肉塊を、密閉容器内で、食品用液体殺菌剤に浸漬させたうえで振動条件下で洗浄すること、及び該密閉容器から食品用液体殺菌剤を吸引排出することを含む、殺菌処理された肉塊の製造方法、であれば、上記課題を解決できることを見出した。この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する:
項1. 食肉、魚肉、及び貝肉からなる群より選択される少なくとも1種の肉塊を、密閉容器内で、食品用液体殺菌剤に浸漬させたうえで振動条件下で洗浄すること、及び該密閉容器から食品用液体殺菌剤を吸引排出することを含む、殺菌処理された肉塊の製造方法。
【0009】
項2. 洗浄に供する前記肉塊が、表面に食品用液体殺菌剤を保持する肉塊である、項1に記載の製造方法。
【0010】
項3. 肉塊表面を食品用液体殺菌剤で前処理して、表面に食品用液体殺菌剤を保持する肉塊を得ることを含む、項2に記載の製造方法。
【0011】
項4. 前記密閉容器が変形可能な容器である、項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【0012】
項5. 前記振動条件下での洗浄が、前記肉塊及び前記食品用液体殺菌剤を含む前記密閉容器を振動状態の振動装置に接触させて行われる、項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【0013】
項6. 前記振動装置の振動速度が100~3000回/分である、項5に記載の製造方法。
【0014】
項7. 前記吸引排出が前記洗浄中に行われる、項1~6のいずれかに記載の製造方法。
【0015】
項8. 前記洗浄が食品用液体殺菌剤を交換しながら行われる、項1~7のいずれかに記載の製造方法。
【0016】
項9. 前記洗浄が食品用液体殺菌剤を断続的に交換しながら複数回行われる、項8に記載の製造方法。
【0017】
項10. 前記肉塊が、表面の50%以上が脂肪組織で覆われている食肉の肉塊である、項1~9のいずれかに記載の製造方法。
【0018】
項11. 前記肉塊が牛肉の肉塊である、項1~10のいずれかに記載の製造方法。
【0019】
項12. 前記食品用液体殺菌剤が、焼成カルシウム、エタノール及び乳酸ナトリウムを含有する水溶液又は水分散体である、項1~11のいずれかに記載の製造方法。
【0020】
項13. さらに、洗浄された肉塊の表層を除去することを含む、項1~12のいずれかに記載の製造方法。
【0021】
項14. 食肉、魚肉、及び貝肉からなる群より選択される少なくとも1種の肉塊を、密閉容器内で、食品用液体殺菌剤に浸漬させたうえで振動条件下で洗浄すること、及び該密閉容器から食品用液体殺菌剤を吸引排出することを含む、生食品の製造方法。
【0022】
項15. 食肉、魚肉、及び貝肉からなる群より選択される少なくとも1種の肉塊を、密閉容器内で、食品用液体殺菌剤に浸漬させたうえで振動条件下で洗浄すること、及び該密閉容器から食品用液体殺菌剤を吸引排出することを含む、肉塊の殺菌方法。
【0023】
項16. (A)食肉、魚肉、及び貝肉からなる群より選択される少なくとも1種の肉塊を密閉する密閉容器、
(B)前記密閉容器に接触可能な振動装置、並びに
(C)前記密閉容器への食品用液体殺菌剤の供給、及び前記密閉容器からの食品用液体殺菌剤の吸引排出を行う給排水機器、
を備える、肉塊の殺菌装置。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、食品用液体殺菌剤の使用量がより少なくとも、良好な殺菌効果が得られる、肉塊の殺菌技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】肉塊入りバッグを、フィットネス用振動マシン上に置き、振動させている状態(試験例1-1-2)を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0027】
1.殺菌処理された肉塊の製造方法
本発明は、その一態様において、食肉、魚肉、及び貝肉からなる群より選択される少なくとも1種の肉塊を、密閉容器内で、食品用液体殺菌剤に浸漬させたうえで振動条件下で洗浄すること、及び該密閉容器から食品用液体殺菌剤を吸引排出することを含む、殺菌処理された肉塊の製造方法(本明細書において、「本発明の肉塊製造方法」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0028】
本発明の肉塊製造方法における対象病原体は、特に制限されるものではないが、例えば細菌、ウイルス、原虫、真菌等が挙げられる。これらの中でも、細菌、食中毒性の病原体(特に、食中毒菌)等がより好ましい。食中毒性の病原体としては、例えば腸管出血性大腸菌(例えばO157、O111、O26等)、腸管病原性大腸菌、腸管侵入性大腸菌、毒素原性大腸菌、腸管拡散付着性大腸菌、腸管凝集性大腸菌、サルモネラ、カンピロバクター、黄色ブドウ球菌、ウェルシュ菌、セレウス菌、腸炎ビブリオ、エルシニア菌、ナグビブリオ、コレラ菌(O1型、O139型)、ビブリオ・ミミカス、ビブリオ・フルビアリス、エロモナス・ソブリア、エロモナス・フィドロフィラ、セレウス菌、ノロウイルス、サポウイルス、クリプトスポリジウム、サイクロスポラ等が挙げられる。これらの中でも、毒性が強く、殺菌処理の要請が高いという観点から、好ましくは腸管出血性大腸菌が挙げられる。
【0029】
本発明の肉塊製造方法において用いる肉塊は、食肉、魚肉、及び貝肉からなる群より選択される少なくとも1種の肉塊である限り、特に制限されない。魚肉及び貝肉は、魚及び貝の可食部である限り特に制限されず、魚そのもの及び貝そのものも包含する。
【0030】
肉塊の由来生物としては、特に制限されず、食肉、魚肉、及び貝肉として供される生物を広く挙げることができる。肉塊の由来生物として、具体的には、例えばウシ、ブタ、イノシシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウサギ、シカ、クマ等の哺乳類動物; ニワトリ、カモ、アヒル、ガチョウ、シチメンチョウ等の鳥類動物;マグロ、イカ、タコ、ホタテ貝等の魚介類動物等が挙げられる。これらの中でも、生食が比較的普及しており、且つより効率的な殺菌手法の開発が望まれているという観点から、ウシが好ましい。
【0031】
肉塊が食肉の肉塊である場合、肉塊は、表面の全部又は一部が脂肪組織で覆われている肉塊であることが好ましい。このような肉塊を採用することにより、より効率的に殺菌効果を得ることができる。
【0032】
脂肪組織は、肉塊の表面を覆い得る脂肪組織である限り、特に制限されない。脂肪は、皮膚および関連器官に認められる脂肪(皮下脂肪、乳房脂肪、陰嚢脂肪など)、結合組織に認められる脂肪(筋肉間脂肪、肋骨脂肪など)、内臓に認められる脂肪(例えば腎周囲脂肪など)を含む。
【0033】
本発明の好ましい一態様における肉塊において、脂肪組織で覆われている表面の割合は、肉塊全体の表面面積100%に対して、例えば15%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上、よりさらに好ましくは60%以上、よりさらに好ましくは70%以上、よりさらに好ましくは80%以上、よりさらに好ましくは90%以上、よりさらに好ましくは95%以上である。上限は、特に制限されないが、例えば100%、99%、98%、97%である。脂肪組織で覆われている表面の割合が高い程、より効率的殺菌を行うことができ、またより高い殺菌効果を得ることができる。
【0034】
本発明は、主に生食用肉の製造を意図したものであるので、肉塊は、生食用部位を含むことが望ましい。生食用部位としては、通常、生食に供されている肉の部位である限り特に制限されないが、例えば食肉(特に牛肉)の場合であれば、例えばシンタマ、ランプ、ウチモモ、カイノミ、ブリスケ、マルシン、トンビ等が挙げられる。
【0035】
肉塊の具体例としては、例えば枝肉、部分肉等が挙げられる。部分肉は、通常は、表面の余分な脂肪組織が除去されているが、本発明の好ましい一態様で用いる部分肉は、表面の余分な脂肪組織ができるだけ除去されていないことが好ましい。部分肉における、表面の脂肪組織の除去率(%)[=(枝肉を単にカットして得られた肉塊から除去した表面脂肪組織面積/表面脂肪組織除去前の表面脂肪組織面積)×100]は、例えば90%以下、好ましくは70%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは40%以下、よりさらに好ましくは30%以下、よりさらに好ましくは20%以下、よりさらに好ましくは10%以下、よりさらに好ましくは5%以下である。下限は、特に制限されないが、例えば0%、1%、5%、10%である。除去率がより低い程、肉塊において脂肪組織で覆われている表面の割合がより高くなり、より効率的殺菌を行うことができ、またより高い殺菌効果を得ることができる。
【0036】
本発明の肉塊製造方法における洗浄に供する肉塊は、表面に食品用液体殺菌剤を保持する肉塊であること、換言すれば予め表面が食品用液体殺菌剤で前処理されていることが好ましい。これにより、菌の増殖を抑制し、さらには菌を一定程度低減させ、本発明の肉塊製造方法の殺菌効率をより高めることができる。処理の態様は、肉塊表面に食品用液体殺菌剤が接触する態様である限り特に制限されない。例えば、食品用液体殺菌剤を肉塊に塗布、噴霧等したり、食品用液体殺菌剤に肉塊を浸漬したりすることによって行われる。食品用液体殺菌剤の使用量を抑える観点から、食品用液体殺菌剤を肉塊に塗布又は噴霧する方法が好ましく、噴霧する方法がより好ましい。処理温度及び処理時間は特に制限されず、例えば、0~40℃程度、5分間~7日間程度である。本発明の一態様においては、例えば、本発明の肉塊製造方法に供する前に、肉塊と食品用液体殺菌剤とを接触させた状態で低温保存温度(例えば0~10℃)で輸送及び/又は保存することにより、前処理することができる。
【0037】
本発明の肉塊製造方法において用いる食品用液体殺菌剤は、食品に用いることが可能である、液体の殺菌剤である限り、特に制限されないが、食品用液体殺菌剤としては、例えば焼成カルシウム溶液(例えば特許文献2~5等、シェルコート(かわかみ社製))、次亜塩素酸ナトリウム溶液及び関連殺菌剤(亜塩素酸水、微酸性次亜塩素酸水、酸性化亜塩素酸ナトリウム、過作酸製剤)、天然物由来で殺菌効果があると報告されている成分(グレープフルーツ種子抽出物、ブドウ種子エキス等)を特徴とする殺菌剤(例えばユービコールNV(摂津製油社製))等が挙げられる。これらの中でも、臭いの問題、安全性の問題、有機物の存在下での殺菌効果等の観点から、好ましくは焼成カルシウム溶液が挙げられる。
【0038】
焼成カルシウムは、殺菌力の主体となる成分であり、牡蠣殻、ホタテ貝殻、ホッキ貝殻、卵殻あるいは珊瑚殻など焼成前の成分が炭酸カルシウムである動物性由来のカルシウムを600℃以上、好ましくは900~1200℃の温度で15~60分程度焼成もしくは通電加熱して得られ、主成分を酸化カルシウムとするものである。得られた焼成カルシウムの飽和水溶液のpHが11~13の範囲にあることが好ましい。焼成カルシウムの平均粒径は通常0.1~10μmである。上述した焼成カルシウムは食品添加物規格に適合したものが通常用いられる。焼成カルシウム溶液中の焼成カルシウムの配合割合はとくに限定されないが、殺菌力および経済性の点で、好ましくは0.01~15重量%であり、さらに好ましくは0.1~5重量%である。
【0039】
焼成カルシウム溶液は、通常、焼成カルシウムを含有する水溶液または水分散体からなり、焼成カルシウムの主成分である酸化カルシウムは水と反応して水酸化カルシウムを生成する。そして、この水酸化カルシウムが殺菌効果を発揮するものと一般的に考えられている。したがって、焼成カルシウム溶液においては、焼成カルシウムに加えて、又は焼成カルシウムに代えて、水酸化カルシウムが配合されたものであってもよい。本発明で用いられる水酸化カルシウムの平均粒径は通常0.1~10μmである。上述した水酸化カルシウムは食品添加物規格に適合したものが通常用いられる。焼成カルシウム溶液中の水酸化カルシウムの配合割合はとくに限定されないが、殺菌力および経済性の点で、好ましくは0.01~15重量%であり、さらに好ましくは0.1~5重量%である。また、焼成カルシウムは吸湿性が高いので、取り扱い易さを向上させるため、焼成カルシウムと水酸化カルシウムを併用することもできる。
【0040】
焼成カルシウム溶液は、さらにエタノールを含有することが好ましい。エタノールは通常食品添加物規格に適合したものが好ましい。焼成カルシウム溶液中のエタノールの配合割合はとくに限定されず、通常5~20重量%の範囲で配合される。
【0041】
焼成カルシウム溶液は、さらに乳酸ナトリウムを含有することが好ましい。乳酸ナトリウムは、焼成カルシウムが水と反応して生成する水酸化カルシウムの水への溶解性向上に必要なものであり、食品添加物規格に適合した50重量%あるいは60重量%の水溶液が通常用いられる。焼成カルシウム溶液中の乳酸ナトリウムの配合割合はとくに限定されないが、殺菌力および経済性の点で、好ましくは0.02~20重量%であり、さらに好ましくは0.1~15重量%であり、特に好ましくは1~15重量%である。
【0042】
食品用液体殺菌剤は、殺菌成分、上記した成分に加えて、必要に応じて例えば、香料、染料等の他の成分を含有していてもよい。
【0043】
洗浄は、密閉容器内で行われる。密閉容器は、洗浄中に食品用液体殺菌剤の漏出や空気の侵入などが起こらないように密閉可能な容器である限り、特に制限されない。密閉容器は、形状が一定の容器であってもよいが、食品用液体殺菌剤の使用量を抑える観点から、変形可能な容器であることが好ましい。変形可能な容器としては、特に制限されないが、例えば樹脂、エラストマー等の軟質素材からなる容器が挙げられる。密閉容器の容量は、特に制限されないが、食品用液体殺菌剤の使用量を抑える観点から、肉塊の容量により近いことが好ましい。この観点から、密閉容器の容量は、肉塊の容量100%に対して、例えば500%以下、好ましくは250%以下、より好ましくは150%以下、さらに好ましくは120%以下である。密閉容器の容量の下限は、肉塊表面全体に食品用液体殺菌剤を接触させることができる程度の容量である限り、特に制限されない。該下限は、肉塊の容量100%に対して、例えば102%、105%、107%、110%である。
【0044】
洗浄処理中、密閉容器内には肉塊及び食品用液体殺菌剤が含まれる。殺菌効率の観点から、密閉容器は、肉塊とその周囲に存在する食品用液体殺菌剤で満たされていることが好ましい。空気塊が存在すると、その部分では、肉塊と食品用液体殺菌剤との接触効率が低下する可能性があるので、好ましくない。例えば、肉塊と食品用液体殺菌剤との合計容量は、密閉容器の容量100%に対して、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、よりさらに好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上である。
【0045】
洗浄は、振動条件下で行われる。振動条件とは、肉塊及び食品用液体殺菌剤を含む密閉容器が振動する条件である限り、特に制限されない。好適には、洗浄は、肉塊及び食品用液体殺菌剤を含む密閉容器を振動状態の振動装置に接触させて行われる。振動速度は、特に制限されないが、殺菌効率の観点から、例えば100~3000回/分、好ましくは200~1200回/分、より好ましくは400~800回/分、さらに好ましくは500~700回/分である。振動の幅は、特に制限されないが、例えば1mm~5cm、好ましくは5mm~3cmである。
【0046】
洗浄時間は、特に制限されないが、殺菌効率等の観点から、例えば20~360分間、好ましくは40~300分間、より好ましくは80~240分間、さらに好ましくは120~200分間である。
【0047】
洗浄温度は、特に制限されないが、例えば5~40℃、好ましくは10~35℃である。
【0048】
本発明の肉塊製造方法においては、密閉容器から食品用液体殺菌剤を吸引排出することを含む。この吸引排出により、殺菌効率をより向上させることができる。吸引排出は、上記した洗浄操作とは別に、すなわち振動させない状態で行うこともできるし、上記洗浄中に、すなわち振動条件下で行うこともできる。本発明の好ましい一態様においては、食品用液体殺菌剤の吸引排出が無い条件下で洗浄した後、食品用液体殺菌剤を吸引排出しながら洗浄する。
【0049】
吸引排出量は、特に制限されないが、殺菌効率の観点から、密閉容器内の食品用液体殺菌剤の容量100%に対して、例えば30%以上、50%以上、70%以上、80%以上、90%以上である。
【0050】
吸引排出の時間は、特に制限されないが、殺菌効率の観点から、例えば10~180分間、好ましくは20~150分間、より好ましくは40~120分間、さらに好ましくは60~100分間である。吸引排出が洗浄操作中に行われる場合、吸引排出の時間は、洗浄時間全体100%に対して、例えば20~80%、好ましくは30~70%、より好ましくは40~60%である。
【0051】
吸引排出が洗浄操作中に行われる場合、吸引排出中の振動速度は、吸引排出していない状態の振動速度よりも低いことが好ましい。
【0052】
吸引排出の方法は特に制限されない。例えば、容器にダイアフラム式ポンプ等のポンプを連結して、該ポンプで圧力を調整することにより、容器から食品用液体殺菌剤を吸引排出することができる。
【0053】
洗浄は、食品用液体殺菌剤の一部又は全部を交換しながら行われることが好ましい。食品用液体殺菌剤の交換過程(液の排出、供給)においても、殺菌効果が発揮され得る。
【0054】
本発明の好ましい一態様において、洗浄は、食品用液体殺菌剤を断続的に交換しながら複数回行われる。例えば、洗浄終了後、必要に応じて密閉容器中の使用済み食品用液体殺菌剤を排出してから、未使用の食品用液体殺菌剤を密閉容器内に供給し、次回の洗浄処理を行うことができる。この場合の各洗浄処理の時間は、特に制限されず、総洗浄時間が上記の洗浄時間となるように設定することができる。複数回行う場合の各回の洗浄時間は、例えば6~60分間、好ましくは10~40分間、より好ましくは15~30分間である。複数回行う場合の洗浄回数は、特に制限されないが、例えば2~20回、好ましくは3~15回、より好ましくは4~12回、さらに好ましくは5~10回である。
【0055】
また、本発明の別の一態様においては、洗浄は、食品用液体殺菌剤を連続的に交換しながら行われる。
【0056】
洗浄処理後の肉塊は、必要に応じて、その表層を除去してもよい。
【0057】
こうして得られた肉塊においては、表面に付着する細菌や表面から表層部に侵入した細菌がより低減されており、好ましい態様においては生食可能な程度に殺菌されている。また、本発明の肉塊製造方法によれば、生食に供することができる部位をより多く残しつつ、殺菌処理された肉塊を製造することができる。
【0058】
本発明の好ましい一態様においては、本発明の肉塊製造方法の工程により、肉塊の生菌数を、例えば1/1×103~1/1×106、好ましくは1/1×104~1/1×106、より好ましくは1/5×104~1/1×106、さらに好ましくは1/1×105~1/1×106に減少させることができる。
【0059】
本発明の肉塊製造方法は、(A)食肉、魚肉、及び貝肉からなる群より選択される少なくとも1種の肉塊を密閉する密閉容器、(B)前記密閉容器に接触可能な振動装置、並びに(C)前記密閉容器への食品用液体殺菌剤の供給、及び前記密閉容器からの食品用液体殺菌剤の吸引排出を行う給排水機器、を備える、肉塊の殺菌装置(本明細書において、「本発明の殺菌装置」と示すこともある。)を利用して実行することができる。
【0060】
肉塊、密閉容器、振動装置、食品用液体殺菌剤、吸引排水等については、上述の通りである。
【0061】
振動装置は、密閉容器に接触している状態であっても、接触していない状態であってもよい。後者の場合は、使用時に、振動装置及び/又は密閉容器を移動させることにより、両者が接触可能である限り、特に制限されない。これらの移動は、手動で行うこともできるし、自動で行うこともできる。
【0062】
給排水機器は、通常、給排水を行うポンプと流路とを含む。流路としては、例えば密閉容器とポンプとを連結する流路、ポンプと食品用液体殺菌剤タンクとを連結する流路、ポンプから伸びる排水用流路等がある。
【0063】
本発明の殺菌装置は、本発明の肉塊製造方法の実行を妨げない限りにおいて、他の装置(例えば流路計等)を備えることもできる。
【0064】
本発明の殺菌装置において、密閉容器内に肉塊を導入し、適切なタイミングで振動装置及び給排水機器を稼動させることにより、本発明の肉塊製造方法を実行することができる。これらの移動は、手動で行うこともできるし、自動で行うこともできる。
【0065】
2.生食肉の製造方法
本発明は、その一態様において、食肉、魚肉、及び貝肉からなる群より選択される少なくとも1種の肉塊を、密閉容器内で、食品用液体殺菌剤に浸漬させたうえで振動条件下で洗浄すること、及び該密閉容器から食品用液体殺菌剤を吸引排出することを含む、生食品の製造方法(本明細書において、「本発明の生食品製造方法」と示すこともある。)に関する。
【0066】
本発明の生食品製造方法における各種態様については、「1.殺菌処理された肉塊の製造方法」における定義と同様である。
【0067】
3.肉塊の殺菌方法
本発明は、その一態様において、食肉、魚肉、及び貝肉からなる群より選択される少なくとも1種の肉塊を、密閉容器内で、食品用液体殺菌剤に浸漬させたうえで振動条件下で洗浄すること、及び該密閉容器から食品用液体殺菌剤を吸引排出することを含む、肉塊の殺菌方法(本明細書において、「本発明の肉塊殺菌方法」と示すこともある。)に関する。
【0068】
本発明の肉塊殺菌方法における各種態様については、「1.殺菌処理された肉塊の製造方法」における定義と同様である。
【実施例】
【0069】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0070】
試験例1.肉塊の殺菌試験1
<試験例1-1.肉塊の処理方法>
脂肪でかなりの表面が覆われた肉塊(牛部分肉(外モモ)、約12kg)を2つ準備した。これらの肉塊それぞれを、腸管出血性大腸菌(EHEC) O157 EDL933株(106CFU/mlの菌濃度)で人為的に汚染させた。人為汚染肉塊それぞれの表面全体に、食品用液体殺菌剤(シェルコート、組成:乳酸ナトリウム(60%)10.0%、エタノール9.9%、水酸化カルシウム0.26%、乳酸0.01%、純水79.83%)250mLを噴霧した。得られた肉塊をそれぞれ別々に真空パックして、4℃で4日間保持した。保持後、一方の肉塊を、「洗濯機法」により洗浄し、もう一方の肉塊を、「真空パック-振動法」により洗浄した。
【0071】
<試験例1-1-1.洗濯機法(比較例)>
肉塊を、特許文献1に記載の方法に従って、食品用液体殺菌剤を交換しながら高速洗浄を行った。洗浄装置としては、市販の比較的大型のドラム式洗濯機(HITACHI 社製、BD-V9800L)に殺菌剤供給タンクおよび廃液貯蔵タンクを接続して、閉鎖系としたものを用いた。肉塊を、食品用液体殺菌剤(シェルコート)に室温で5分間浸漬した後、洗浄装置の洗浄槽に移し、洗浄液及びすすぎ液として食品用液体殺菌剤(シェルコート)を用い、洗い→すすぎ→脱水の工程を3回繰り返した。なお、該工程1回当たりの時間は約12分間、3回の総時間はラグタイムを含めて42分間であった。食品用液体殺菌剤の総使用量は約150Lであった。
【0072】
<試験例1-1-2.真空パック-振動法(実施例)>
肉塊は、耐圧性のバッグ(真空パック用袋)内に入れ、該バッグに3つの穴を開け、2つの穴それぞれに食品用液体殺菌剤(シェルコート)供給用のホースを繋ぎ、1つの穴に廃液用のホースを繋いだ。各ホースは、液の流入及び吸引排出が制御可能なように、弁及びダイアフラム式ポンプに連結した。洗浄操作は以下のサイクル1を5回行い、続いて以下のサイクル2を3回行った。食品用液体殺菌剤の総使用量は約50Lであった。
【0073】
(サイクル1)
肉塊入りバッグ内に食品用液体殺菌剤(シェルコート)5Lを1分間かけて供給して、肉塊入りバッグを食品用液体殺菌剤で満たした。なお、耐圧性のバッグの容量は、供給する食品用液体殺菌剤の量に応じて、調整可能である。肉塊入りバッグを、フィットネス用振動マシン(SYOSIN 振動マシン 200W(SYOSIN社製)、99段階振動調節、最大振動速度:600回/分、振幅:1~2cm、サイズ:約長さ52.5×幅83.5×高さ21(cm))上に置き、該振動マシンを振動させて、18~22分間洗浄処理した。この洗浄処理中の写真を
図1に示す。この洗浄処理の前半10分間は、食品用液体殺菌剤の供給及び排出が無い状態、且つ振動マシンを最大速度(振動調節レベル99:振動速度600回/分)で振動させた状態で行った。後半の8~12分間は、振動マシンの振動調節レベルを30に設定して、食品液体殺菌剤を吸引排出しながら行った。吸引排出の速度は、一定、且つ洗浄処理終了時にバッグ内の食品用液体殺菌剤がほぼ無くなるような速度に設定した。
【0074】
(サイクル2)
肉塊入りバッグ内に食品用液体殺菌剤(シェルコート)8Lを1.5分間かけて供給して、肉塊入りバッグを食品用液体殺菌剤で満たした。なお、耐圧性のバッグの容量は、供給する食品用液体殺菌剤の量に応じて、調整可能である。肉塊入りバッグを、フィットネス用振動マシン(SYOSIN 振動マシン 200W(SYOSIN社製)、99段階振動調節、最大振動速度:600回/分、振幅:1~2cm、サイズ:約長さ52.5×幅83.5×高さ21(cm))上に置き、該振動マシンを振動させて、約22分間洗浄処理した。この洗浄処理の前半10分間は、食品用液体殺菌剤の供給及び排出が無い状態、且つ振動マシンを最大速度(振動調節レベル99:振動速度600回/分)で振動させた状態で行った。後半の約12分間は、振動マシンの振動調節レベルを30に設定して、食品液体殺菌剤を吸引排出しながら行った。吸引排出の速度は、一定、且つ洗浄処理終了時にバッグ内の食品用液体殺菌剤が4Lまで減少するような速度に設定した。
【0075】
<試験例1-2.評価方法>
人為汚染直後、食品用液体殺菌剤(シェルコート)噴霧後4日間保存後、及び洗浄操作終了後の各段階で肉片サンプルを採取し、それぞれの肉片サンプルを生理食塩水220 mlを含むPulsifier(強力な攪拌装置)専用のビニール袋に入れて15秒間攪拌して、被検サンプル液を得た。各被検サンプル液の希釈液をVRBD寒天平板培地3枚にプレーティングして培養し、3枚のコロニー数の平均値を算出し、該平均値から菌濃度を算出した。菌濃度から、食品用液体殺菌剤(シェルコート)噴霧後の保存(第一段階)によるEHEC生菌数減少力(=人為汚染直後サンプルの菌濃度/第一段階処理後の菌濃度)、洗浄操作(第二段階)によるEHEC生菌数減少力(=第一段階処理後の菌濃度/第二段階処理後の菌濃度)、及び第一段階処理及び第二段階処理によるEHEC生菌数減少力(総合殺菌力)(=人為汚染直後サンプルの菌濃度/第二段階処理後の菌濃度)を算出した。
【0076】
<試験例1-3.結果>
結果を表1に示す。
【0077】
【0078】
表1に示されるとおり、真空パック-振動法は、食品用液体殺菌剤の使用量が少ないながらも、本分野において通常要求されるレベル(104以上)の生菌数減少力を達成できた。
【0079】
試験例2.肉塊の殺菌試験2
肉塊を人為汚染させない以外は試験例1-1と同様にして肉塊を処理した。
【0080】
食品用液体殺菌剤(シェルコート)噴霧後4日間保存前(処理前)に3つの肉片サンプルを採取し、保存後(第一段階処理後)に3つの肉片サンプルを採取し、洗浄操作終了後(第二段階処理後)に25の肉片サンプルを採取した。それぞれの肉片サンプル(すなわち、肉片サンプル1、肉片サンプル2、・・・)に付着した菌体をPulsifier処理により4mlのTSB中に懸濁させたものを、各肉片サンプルについて13セット(肉片サンプル1について13セット、肉片サンプル2について13セット、・・・)作成して、これらの試験培養液中でどの程度細菌の増殖が認められるか否かについて、確認した。各肉片サンプルについて、13セット全てにおいて増殖が認められなかった場合は、その肉片サンプルを陰性と判定し、13セットいずれかにおいて増殖が認められた場合は、その肉片サンプルを陽性と判定した。
【0081】
結果を表2に示す。
【0082】
【0083】
表2に示されるとおり、真空パック-振動法を採用することにより、食品用液体殺菌剤の使用量が少ないながらも、処理後の全ての肉片サンプルにおいて細菌が検出されない程の殺菌効率を達成できた。