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特許7319613果樹の耐凍性付与剤、果樹の耐凍性向上方法、及び食品廃棄物の再利用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】果樹の耐凍性付与剤、果樹の耐凍性向上方法、及び食品廃棄物の再利用方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20230726BHJP
   A01N 65/08 20090101ALI20230726BHJP
   A01N 65/20 20090101ALI20230726BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
A01G7/00 604Z
A01N65/08
A01N65/20
A01P21/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019182164
(22)【出願日】2019-10-02
(65)【公開番号】P2021052724
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-04-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術支援センター「『知』の集積と活用の場による革新的技術創造促進事業(うち「知」の集積と活用の場による研究開発モデル事業)」、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000214191
【氏名又は名称】長崎県
(73)【特許権者】
【識別番号】517222133
【氏名又は名称】株式会社KUREi
(73)【特許権者】
【識別番号】595068232
【氏名又は名称】マルコメ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河原 秀久
(72)【発明者】
【氏名】長岡 康夫
(72)【発明者】
【氏名】川本 久敏
(72)【発明者】
【氏名】福島 敦子
(72)【発明者】
【氏名】山下 次郎
(72)【発明者】
【氏名】北川 学
(72)【発明者】
【氏名】中村 彩乃
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-006883(JP,A)
【文献】特開平07-274725(JP,A)
【文献】特開2011-211913(JP,A)
【文献】特開2004-182707(JP,A)
【文献】特開2019-030246(JP,A)
【文献】特開2004-081028(JP,A)
【文献】特開昭63-233901(JP,A)
【文献】特開2004-285137(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0143502(US,A1)
【文献】米国特許第05285769(US,A)
【文献】特開2015-038170(JP,A)
【文献】コーヒーの副産物を有効活用し、農産物の凍霜害を抑止・低減,2019年03月22日,https://www.asahigroup-holdings.com/pressroom/2019/0322.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
A01N 65/08
A01N 65/20
A01P 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
味噌の抽出物を含む、柑橘類である果樹の耐凍性付与剤。
【請求項2】
結実した樹体の耐凍性を向上させるための、請求項に記載の果樹の耐凍性付与剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の果樹の耐凍性付与剤を樹体に接触させる工程を含む、果樹の耐凍性向上方法。
【請求項4】
前記接触は夜間の最低気温が5℃以下となる時期に行われる、請求項に記載の果樹の耐凍性向上方法。
【請求項5】
味噌の食品廃棄物を柑橘類である果樹の耐凍性の向上のために利用する、食品廃棄物の再利用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果樹の耐凍性付与剤、果樹の耐凍性向上方法、及び食品廃棄物の再利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
果実生産技術において、急激な気温の変化への対策は重要な課題である。特に、日本で栽培される柑橘類の多くは比較的温暖な地域で栽培され、冬季に果実が成熟する。このため、樹上で著しい低温に晒されると果実の品質が低下して出荷できなくなる場合がある。したがって、収量安定化の観点から、果樹の耐凍性を向上させる技術の開発が求められている。例えば、特許文献1には縮合リン酸塩を有効成分として含有する凍結防止剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-81028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された凍結防止剤は、結実前のサクランボ樹に対する効果が実施例で検証されているが、柑橘類への効果及び果実品質への効果については検証されていない。また、果樹の耐凍性向上に有効な物質を新たに見出すことは、果樹の耐凍性を向上させる方法の選択の幅を広げ、果樹産業の発展に資するものである。
【0005】
上記事情にかんがみ、本発明の一態様は、新規な果樹の耐凍性付与剤及び果樹の耐凍性向上方法を提供することを課題とする。
本発明の別の一態様は、食品廃棄物の新規な再利用方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
<1>コーヒー及び大豆発酵物からなる群から選択される少なくとも1種の抽出物を含む、果樹の耐凍性付与剤。
<2>前記果樹は柑橘類である、<1>に記載の果樹の耐凍性付与剤
<3>結実した樹体の耐凍性を向上させるための、<1>又は<2>に記載の果樹の耐凍性付与剤。
<4><1>~<3>のいずれか1項に記載の果樹の耐凍性付与剤を、樹体に接触させる工程を含む、果樹の耐凍性向上方法。
<5>前記接触は夜間の最低気温が5℃以下となる時期に行われる、<4>に記載の果樹の耐凍性向上方法。
<6>コーヒー及び大豆発酵物からなる群より選択される少なくとも1種の食品廃棄物を果樹の耐凍性の向上のために利用する、食品廃棄物の再利用方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、新規な果樹の耐凍性付与剤及び果樹の耐凍性向上方法を提供することを課題とする。本発明の別の一態様によれば、食品廃棄物の新規な再利用方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、以下の説明によって本発明の範囲が制限されるものではない。
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0009】
本発明の果樹の耐凍性付与剤(以下、単に耐寒性付与剤ともいう)は、コーヒー及び大豆発酵物からなる群から選択される少なくとも1種の抽出物を含む。
本発明者らの検討により、コーヒー及び大豆発酵物からなる群から選択される少なくとも1種の抽出物を含む耐凍性付与剤は、果樹の耐凍性の向上に有効であることがわかった。特に、耐凍性付与剤を結実した状態の果樹に接触させると、接触から長時間経過した後に果実が低温に晒されても凍結及び品質低下が生じにくく、耐凍性が持続的に向上することがわかった。
また本発明者らの検討により、上述した効果は果実に含まれる水分の凝固点の低下(過冷却現象)によらずに達成されることがわかった。このような知見はこれまでに報告のないものである。
【0010】
従来より、果実の品質低下(柑橘類の場合、主に寒害による「すあがり」や「果皮障害」の発生)を予防するために行っていた個々の果実に袋を掛ける作業が大きな負担となっていた。また、袋掛けを行っても一部の果実に品質低下が生じていた。
本発明の耐凍性付与剤は、果樹への接触を散布等の方法で行うことができるため、袋掛け等の手作業に比べて大幅な省力化が可能になる。また、出荷選別時の廃棄率を小さくでき、収益性の向上が可能になる。
【0011】
本発明の耐凍性付与剤に含まれる抽出物は食品由来の成分であるため、生体及び環境への副作用を生じるおそれがなく、安全性にも優れている。
耐凍性付与剤は、コーヒー又は大豆発酵物のいずれか一方の抽出物のみを含んでいても、コーヒー及び大豆発酵物の両方の抽出物を含んでいてもよい。
【0012】
耐凍性付与剤に含まれる抽出物の濃度は特に制限されず、果樹の種類及び品種、使用方法等に応じて選択できる。また、耐凍性付与剤は濃縮液の状態であって使用前に水等で希釈するものであってもよい。必要に応じ、耐凍性付与剤は、展着促進剤等の成分をさらに含んでもよい。
【0013】
耐凍性付与剤に含まれる抽出物を得る方法は、特に制限されない。
例えば、抽出物の原料となるコーヒー又は大豆発酵物を溶媒と混合し、抽出物を溶媒に溶解させた後、遠心分離、ろ過等により残渣を分離することで、抽出物を溶液(抽出液)として得てもよい。溶媒の種類は特に制限されず、水又はアルコール等の水溶性溶媒であってもよく、水であることが好ましい。
原料が塩分を含んでいる場合、塩分を除去する処理(脱塩)を実施することが好ましい。
【0014】
抽出物の原料となるコーヒーの種類は特に制限されず、一般に飲料としてのコーヒーの原料となるものから選択できる。食品廃棄物の有効利用の観点からは、原料となるコーヒーは、飲料としてのコーヒーを抽出した後の残渣、不要になった在庫品等であってもよい。
【0015】
抽出物の原料となる大豆発酵物の種類は特に制限されず、味噌、醤油等の一般的な大豆発酵食品から選択できる。食品廃棄物の有効利用の観点からは、原料となる大豆発酵物は、大豆発酵食品を製造する際に発生する残渣、不要になった在庫品等であってもよい。
【0016】
耐凍性向上剤を使用する方法は、特に制限されない。例えば、後述する果樹の耐凍性向上方法に関して記載する条件で使用することができる。
【0017】
<果樹の耐凍性向上方法>
本発明の果樹の耐凍性向上方法(以下、単に耐凍性向上方法ともいう)は、上述した本発明の耐凍性付与剤を樹体に接触させる工程を含む。
【0018】
本発明の耐凍性向上方法によれば、果樹の耐凍性が有効に向上する。
耐凍性付与剤は、結実した状態の樹体に対して接触させることが好ましい。結実した状態の樹体に耐凍性付与剤を接触させることで、果実の品質低下が有効に抑制される。
【0019】
耐凍性付与剤を樹体に接触させる方法は、特に制限されない。例えば、一般的な手法で樹体に散布してもよい。耐凍性付与剤を接触させる樹体の部位は特に制限されず、果実、葉、枝、幹等であってよい。果実の品質低下を抑制する観点からは、少なくとも果実の表面に耐凍性付与剤を接触させることが好ましい。
【0020】
耐凍性付与剤を接触させる果樹の種類は特に制限されず、柑橘類、モモ、カキ、ナシ、ブドウ、リンゴ、キウイ、スモモ、マンゴー等から選択できる。耐凍性の向上効果を十分に得る観点からは、耐凍性付与剤を接触させる果樹は低温期に果実が成熟する種類であることが好ましく、柑橘類であることがより好ましい。
【0021】
耐凍性付与剤を樹体に接触させる回数は、特に制限されない。本発明の耐凍性付与剤はコーヒー又は大豆発酵物から得られる抽出物を含むため、生体及び環境への影響を考慮して回数を制限することなく使用することができる。耐凍性を効果的に向上させる観点からは、耐凍性付与剤の樹体への接触は2回以上行われることが好ましく、3回以上行われることがより好ましい。
【0022】
耐凍性付与剤を樹体に接触させる時期は、特に制限されない。例えば、夜間の最低気温が5℃以下となる時期に少なくとも1回接触させることが有効であるが、季節外れの冷害に備えるためには夜間の最低気温が5℃を超える時期に接触させることも有効である。
【0023】
<食品廃棄物の再利用方法>
本発明の食品廃棄物の再利用方法(以下、単に再利用方法ともいう)は、コーヒー及び大豆発酵物からなる群より選択される少なくとも1種の食品廃棄物を果樹の耐凍性の向上のために利用する、食品廃棄物の再利用方法である。
【0024】
食品廃棄量の増大が近年社会問題化しつつあり、食品廃棄物を有効に利用する方法の検討が多方面で進められている。
本発明の再利用方法では、コーヒー及び大豆発酵物からなる群より選択される少なくとも1種の食品廃棄物を、果樹の耐凍性の向上のために利用する。
【0025】
本発明の再利用方法で利用される食品廃棄物としては、飲料としてのコーヒー又は大豆発酵食品(味噌、醤油等)の製造工程で得られる残渣であってもよく、不要になった在庫品などであってもよい。
【0026】
本発明の再利用方法において食品廃棄物を果樹の耐凍性の向上のために利用する方法としては、具体的には、食品廃棄物から上述した耐凍性付与剤を調製し、これを樹体に接触させる方法が挙げられる。
【実施例
【0027】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
<耐凍性付与剤の調製>
(1)50mlのコニカルチューブに10gの味噌(米味噌)と30mlの蒸留水を加え、撹拌して味噌の水溶液を得た。次いで、水溶液から塩分を除くために12,000rpmで15分の遠心分離を行い、上清を除去した。沈殿物に30mlの蒸留水を加え、上記と同様に遠心分離を2回行った。その後、沈殿物から上清を除去し、沈殿物を300mlの三角フラスコに移した。チューブ1本分の沈殿に対して40mlの蒸留水を加え、100℃で30分加熱した。加熱後の溶液に対して12,000rpmで15分の遠心分離及びろ過(No.5のろ紙を使用)を実施して、味噌抽出物を調製した。
【0029】
(2)コーヒーを抽出した後の残渣(コーヒー粕)に対し、2.5倍量の熱水を加えて抽出液を得た。抽出は95℃で60分、圧力鍋及び上記高圧装置を使用して行った。抽出後、コーヒー粕の残渣と抽出液とをフィルターろ過により分離し、限外ろ過装置で分画分子量を5kDa以下に調節した。さらに、0.22μmのフィルターでろ過滅菌を行って、コーヒー粕抽出物を調製した。
【0030】
(3)上記(1)及び(2)で得られた味噌抽出物及びコーヒー粕抽出物を、表1に示す割合(容積基準)で混合し、表1に示す希釈倍率(容積基準)となるように水で希釈して、耐凍性付与剤を調製した。
【0031】
<耐凍性向上効果の評価>
(1)耐凍性付与剤による耐凍性の向上効果として、果実の凍結発生状況を下記の試験により評価した。
試験対象としては、結実した状態の「不知火」及び「南津海」の2品種を使用した。
11月15日、11月29日、12月13日、12月24日、1月7日、2月4日及び2月18日(2018年度、長崎県内の圃場で実施)に、耐凍性付与剤を樹体(果実の表面を含む)に散布した。対照群は無散布とした。
【0032】
散布後の樹体から収穫した「不知火」の果実(3月1日に収穫)及び「南津海」の果実(3月5日に収穫)をインキュベーター内-5.0℃設定で冷却(6時間)した。同様の冷却試験を4回行った後、果実の凍結の発生状況を調べた。結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
表1に記載の「最低温度」は、果実内に熱電対を挿入して測定した温度である。
表1に記載の「中心孔隙」及び「横径」は、試験に使用した果実の実測値の算術平均値である。
表1に記載の「凍結割合」は、果実を赤道面で切断し、凍結した部位の割合を達観で調査した数値の算術平均値である。
表1に記載の「糖度」は、試験に使用した果実の実測値の算術平均値である。
【0035】
表1に示すように、「不知火」及び「南津海」の両品種において、耐凍性向上剤を散布した群の果実は対照群の果実に比べて凍結の発生割合が低かった。なお、耐凍性向上剤を散布した群と対照群の果実の糖度はほぼ同じであり、観察された凍結の発生割合の違いにおける糖度の影響は小さいと考えられる。
【0036】
(2)耐凍性付与剤による耐凍性の向上効果として、果実の品質低下の発生状況を下記の試験により評価した。
具体的には、上述した試験と同じ条件で、インキュベーター内で冷却した後の果実の浮き皮(果皮と果肉が分離する現象)及びすあがり(果肉組織が水分を失う現象)の発生状況を調べた。結果を表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
注1:コーヒー粕:味噌の割合(容積基準)が1:1のものと、1:0.5のものを、
それぞれ同量
注2:100倍希釈のものと、250倍希釈のものを、それぞれ同量を併用して散布
注3:100倍希釈のものと、250倍希釈のものを、それぞれ同量を併用して散布
【0039】
表2に記載の浮き皮又はすあがりの発生は、果実を横に2等分したときの断面を観察したときの果肉の状態から、下記の基準に従って評価した。
0:すべての果肉に浮き皮又はすあがりが発生していない。
1:果肉の2割未満に浮き皮又はすあがりが発生している。
2:果肉の2割以上、5割未満に浮き皮又はすあがりが発生している。
3:果肉の5割以上に浮き皮又はすあがりが発生している。
【0040】
表2に記載の浮き皮又はすあがりの発生率は、上記基準1~3に該当する果実の個数をサンプル数で除した値に100を乗じた値である。
表2に記載の浮き皮又はすあがりの指標は、下記式で算出した値である。
指標={(1×基準1の果実の個数)+(2×基準2の果実の個数)+(3×基準3の果実の個数)}/(3×サンプル数)×100
【0041】
表2に記載の有意差は、浮き皮又はすあがりの指数についてはマンホイットニー検定により算出し、その他の項目についてはt検定により算出した。NSは有意差なし、*は5%水準で有意差あり、**は1%水準で有意差ありをそれぞれ示す。
【0042】
表2に示すように、「不知火」及び「南津海」の両品種において、耐凍性向上剤を散布した群の果実は対照群の果実に比べて浮き皮及びすあがりの発生割合が低かった。
以上の結果は、本発明の耐凍性向上剤が果樹の耐凍性を持続的に向上させることを示している。
【0043】
<耐凍性向上効果のメカニズムの考察>
本発明の耐凍性向上剤が果樹の耐凍性を向上させるメカニズムについて検討するため、下記の試験を行った。
上記した方法で作成した味噌抽出物及びコーヒー粕抽出物を、それぞれ500倍の希釈倍率(容積基準)となるように水で希釈して、耐寒性付与剤を調製した。
【0044】
比較用の組成物として、メラノイジンの水溶液を調製した。メラノイジンは、還元糖とアミノ酸とが反応して得られる物質であり、水分の過冷却現象を促進する作用があるとの報告がされている(例えば、特開2019-6883号公報)。本実施例で使用したメラノイジンは、還元糖としてグルコース、アミノ酸としてグリシンを用いて上記公報の実施例に記載した方法で合成した。
【0045】
上述した試験と同じ条件で、味噌抽出物を含む耐凍性付与剤(群A)、コーヒー粕抽出物を含む耐凍性付与剤(群B)、メラノイジンを含む比較用組成物(群C)を「不知火」に散布(1月16日、1月19日、1月20日、1月27日、1月29日、2月1日、2月14日、2月17日及び2月18日)(2017年度、長崎県内の圃場で実施)した。対照は無散布(群D)とし、全群2月20日に果実を収穫した。
【0046】
収穫した果実(各群8個)をインキュベーター内で冷却(庫内温度-6.0℃設定で7時間)した。同様の冷却試験を2回行った後、果実の凍結の発生状況を調べた。結果を表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
表3に記載の「最低温度」、「中心孔隙」、「横径」、「凍結割合」及び「糖度」は表1に記載した項目と同様にして得られる値である。
表3に記載の「冷却開始から凍結までの時間」は、冷却開始から果実に挿入した熱電対の指示する値から凍結したと想定されるまでの時間である。
表3に記載の「凍結部位」は、果実の凍結が発生した部分の直径の実測値の算術平均値である。
【0049】
表3に示すように、味噌抽出物を含む耐凍性付与剤を散布した群A及びコーヒー粕抽出物を含む耐凍性付与剤を散布した群Bの果実は、メラノイジンを含む比較用組成物を散布した群C及び無散布の群Dの果実に比べて果実の凍結割合が低かった。
メラノイジンを含む比較用組成物を散布した群Cは、最低温度が他の群と同程度であり、過冷却促進作用の発現(最低温度の低下)は認められなかった。
以上の結果から、収穫前の耐凍性付与剤の散布による果実の凍結割合の低下は、過冷却促進作用によるものではないことがわかった。