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特許7319631水酸化リチウムの製造方法、及び水酸化リチウムの製造装置
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  • 特許-水酸化リチウムの製造方法、及び水酸化リチウムの製造装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】水酸化リチウムの製造方法、及び水酸化リチウムの製造装置
(51)【国際特許分類】
   C01D 15/02 20060101AFI20230726BHJP
   H01M 4/485 20100101ALN20230726BHJP
   H01M 4/505 20100101ALN20230726BHJP
   H01M 4/525 20100101ALN20230726BHJP
   H01M 4/58 20100101ALN20230726BHJP
【FI】
C01D15/02
H01M4/485
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/58
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019183797
(22)【出願日】2019-10-04
(65)【公開番号】P2021059467
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000217583
【氏名又は名称】株式会社タナベ
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】長 伸朗
(72)【発明者】
【氏名】永松 克明
(72)【発明者】
【氏名】六町 謙三
(72)【発明者】
【氏名】深澤 貴之
(72)【発明者】
【氏名】倉島 朗
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特公昭25-001126(JP,B2)
【文献】特開2005-197149(JP,A)
【文献】特開平04-115459(JP,A)
【文献】特開2006-004884(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111115662(CN,A)
【文献】CHEN, Ya et al.,Preparation of lithium carbonate from spodumene by a sodium carbonate autoclave process,Hydrometallurgy,2011年,Vol.109,PP.43-46,ISSN:0304-386X, DOI:10.1016/j.hydromet.2011.05.006
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01D 15/02
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸リチウムに過熱水蒸気を接触させて水酸化リチウムを生成する反応工程を有する水酸化リチウムの製造方法。
【請求項2】
前記炭酸リチウムは、溶解した状態である請求項1に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項3】
前記炭酸リチウムの温度は、924℃未満である請求項2記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項4】
前記炭酸リチウムに対して、バブリング法により前記過熱水蒸気を接触させる請求項2又は請求項3に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項5】
前記炭酸リチウムを収容する反応容器内に前記過熱水蒸気を連続的又は間欠的に供給するとともに、前記反応容器から気体を連続的又は間欠的に排出する請求項1~4のいずれか一項に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項6】
前記反応容器から排出された前記気体から未反応の前記炭酸リチウム及び生成した水酸化リチウムの少なくとも一方を回収する請求項5に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項7】
前記反応工程の後、生成された水酸化リチウムを精製する精製工程を有し、
前記精製工程は、前記反応工程により得られた混合物に水を混合した後、水に溶解しない未反応の炭酸リチウムを分離する工程である請求項1~6のいずれか一項に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項8】
過熱水蒸気を発生させる過熱水蒸気発生装置と、
前記過熱水蒸気発生装置から供給された過熱水蒸気を炭酸リチウムに接触させるための反応容器と、
前記反応容器内の前記炭酸リチウムが溶解する温度に前記反応容器を加熱する加熱装置とを備える水酸化リチウムの製造装置。
【請求項9】
前記反応容器から排出された気体に含まれる未反応の炭酸リチウム及び生成した水酸化リチウムの少なくとも一方を回収するための固気分離装置を備える請求項8に記載の水酸化リチウムの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸化リチウムの製造方法、及び水酸化リチウムの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水酸化リチウムは、例えば、リチウムイオン二次電池の正極用材料として用いられている。水酸化リチウムの製造方法としては、下記の反応式(A)に示すように、炭酸リチウムと水酸化カルシウムとを反応させて水酸化リチウムを生成する方法が知られている。
【0003】
LiCO+Ca(OH)→2LiOH+CaCO…(A)
その他にも、下記の反応式(B)、(C)に示すように、炭酸リチウムを加熱分解して酸化リチウムを生成する第1の反応と、酸化リチウムと水とを反応させて水酸化リチウムを生成する第2の反応を経る方法も知られている。
【0004】
LiCO→LiO+CO…(B)
LiO+HO→2LiOH…(C)
特許文献1には、水素の存在下にて上記の第1の反応を行うことにより、常圧で反応を進行させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-47117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、過熱水蒸気を利用した化合物の製造方法に関する研究が行われている。本発明者らは、鋭意研究の結果、炭酸リチウムと過熱水蒸気とを反応させることにより、水酸化リチウムが合成されることを見出した。この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、新規な水酸化リチウムの製造方法、及び水酸化リチウムの製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する水酸化リチウムの製造方法は、炭酸リチウムに過熱水蒸気を接触させて水酸化リチウムを生成する反応工程を有する。
前記炭酸リチウムは、溶解した状態であることが好ましい。
【0008】
前記炭酸リチウムの温度は、924℃未満であることが好ましい。
前記炭酸リチウムに対して、バブリング法により前記過熱水蒸気を接触させることが好ましい。
【0009】
前記炭酸リチウムを収容する反応容器内に前記過熱水蒸気を連続的又は間欠的に供給するとともに、前記反応容器から気体を連続的又は間欠的に排出することが好ましい。
前記反応容器から排出された前記気体から未反応の前記炭酸リチウム及び生成した水酸化リチウムの少なくとも一方を回収することが好ましい。
【0010】
前記反応工程の後、生成された水酸化リチウムを精製する精製工程を有し、前記精製工程は、前記反応工程により得られた混合物に水を混合した後、水に溶解しない未反応の炭酸リチウムを分離する工程であることが好ましい。
【0011】
上記課題を解決する水酸化リチウムの製造装置は、過熱水蒸気を発生させる過熱水蒸気発生装置と、前記過熱水蒸気発生装置から供給された過熱水蒸気を炭酸リチウムに接触させるための反応容器と、前記反応容器内の前記炭酸リチウムが溶解する温度に前記反応容器を加熱する加熱装置とを備える。
【0012】
上記水酸化リチウムの製造装置は、前記反応容器から排出された気体に含まれる未反応の炭酸リチウム及び生成した水酸化リチウムの少なくとも一方を回収するための固気分離装置を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水酸化リチウムを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】水酸化リチウムの製造方法の説明図。
図2】水酸化リチウムの製造装置の説明図。
図3】実施例3及び実施例7における反応時間と生成率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、水酸化リチウムの製造方法の一実施形態を説明する。
図1に示すように、水酸化リチウムの製造方法は、炭酸リチウムに過熱水蒸気を接触させて水酸化リチウムを生成する反応工程と、反応工程の後、生成された水酸化リチウムを精製する精製工程とを有している。
【0016】
(反応工程)
反応工程は、下記の反応式(1)に示すように、炭酸リチウムに過熱水蒸気(SHS:Superheated Steam)を接触させることによって、水酸化リチウム及び二酸化炭素を生成する工程である。
【0017】
LiCO+HO(SHS)→2LiOH+CO…(1)
反応工程における圧力条件(以下、反応圧力という。)は特に限定されるものではないが、例えば、0.01MPa以上1MPa以下であることが好ましく、0.09MPa以上0.2MPa以下であることがより好ましく、大気圧であることが更に好ましい。
【0018】
反応に供される炭酸リチウムは、固体状及び液体状のいずれであってもよいが、過熱水蒸気との接触効率を高める観点から、液体状に溶解した状態、即ち、炭酸リチウムの融点以上沸点未満に加熱された状態であることが好ましい。
【0019】
生成した水酸化リチウムの気化を抑制する観点から、炭酸リチウムの温度は、水酸化リチウムの沸点未満の温度であることが好ましい。一例として、反応圧力が大気圧である場合、炭酸リチウムの温度は、723℃以上924℃未満であることが好ましい。
【0020】
固体状の炭酸リチウムを用いる場合、炭酸リチウムは、撹拌可能な粉粒体であることが好ましい。
過熱水蒸気は、与えられた圧力における水蒸気の沸点よりも高温に加熱された状態にある水蒸気であり、例えば、熱交換器を用いて飽和水蒸気を等圧的に加熱することによって得られる。与えられた圧力における水蒸気の沸点と過熱水蒸気の温度との温度差は、例えば、10℃以上であることが好ましい。ただし、生成した水酸化リチウムの分解を抑制する観点から、過熱水蒸気の温度は、924℃未満の温度であることが好ましい。また、生成した水酸化リチウムの気化を抑制する観点から、過熱水蒸気の温度は、水酸化リチウムの沸点未満の温度であることが好ましい。一例として、反応圧力が大気圧である場合、過熱水蒸気の温度は、110℃以上924℃未満であることが好ましく、500℃以上924℃未満であることがより好ましく、723℃以上924℃未満であることが更に好ましい。
【0021】
過熱水蒸気は、反応式(1)の反応を過度に阻害しない範囲において、窒素、アルゴン等のその他の成分を含有してもよいが、反応効率を高める観点から、その他の成分を含有しないことが好ましい。
【0022】
反応工程において、炭酸リチウムに過熱水蒸気を接触させる方法としては、例えば、反応容器内に収容された炭酸リチウムに向かって過熱水蒸気を吹き付ける方法、反応容器内に収容された炭酸リチウムが溶融した状態である場合において、バブリング法により過熱水蒸気を接触させる方法が挙げられる。これらの接触方法のなかでも、バブリング法により過熱水蒸気を接触させる方法が特に好ましい。
【0023】
また、反応工程は、反応容器に過熱水蒸気を連続的又は間欠的に通気する開放系にて実施してもよいし、炭酸リチウム及び過熱水蒸気を収容する反応容器を密閉状態で所定時間、保持する密閉系にて実施してもよい。ただし、反応の進行に伴って水酸化リチウムと共に生成される二酸化炭素が反応容器内に蓄積することを抑制する観点から、開放系にて実施することが好ましい。
【0024】
開放系を適用する場合、炭酸リチウムに対する過熱水蒸気の通気量は、例えば、炭酸リチウム1kg当たり、3.5kg/h以上11.7kg/h以下であることが好ましく、3.5kg/h以上6kg/h以下であることがより好ましい。この場合の反応時間としては、反応を十分に進行させる観点から、例えば、4時間以上であることが好ましく、6時間以上であることがより好ましい。また、製造効率の観点から、例えば、20時間以下であることが好ましく、15時間以下であることがより好ましい。
【0025】
密閉系を適用する場合、炭酸リチウムに対する過熱水蒸気の量は、例えば、炭酸リチウム1kg当たり、244g以上2440g以下であることが好ましく、244g以上4480g以下であることがより好ましい。この場合の反応時間としては、反応を十分に進行させる観点から、例えば、30分以上であることが好ましく、60分以上であることがより好ましい。また、製造効率の観点から、例えば、240分以下であることが好ましく、180分以下であることがより好ましい。
【0026】
また、密閉系を適用する場合、反応容器に過熱水蒸気を供給する構成に代えて、反応容器に炭酸リチウムと水を収容させておき、水が過熱水蒸気となる条件に加熱することによって、収容された水を過熱水蒸気に変換して、その過熱水蒸気を炭酸リチウムに接触させるようにしてもよい。
【0027】
反応工程において、炭酸リチウムに過熱水蒸気を接触させる処理、及び生成された水酸化リチウムを回収する処理は、バッチ式の処理装置を用いて行ってもよいし、連続式の処理装置を用いて行ってもよい。反応工程に用いる反応容器は特に限定されるものではなく、固定式の反応容器を用いてもよいし、ロータリーキルン等の回転式の反応容器を用いてもよい。固定式の反応容器を用いる場合、撹拌羽根等を用いて撹拌しながら反応させてもよい。
【0028】
反応工程の雰囲気は、過熱水蒸気以外の気体を含有する雰囲気でもよいが、水酸化リチウムの生成効率の向上の観点から、過熱水蒸気100%の雰囲気であることが好ましい。過熱水蒸気以外の気体としては、例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガスが挙げられる。なお、反応工程の後は、生成された水酸化リチウムが二酸化炭素と反応して、炭酸リチウムに戻る逆反応を抑制するために、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下にて生成物を取り扱うことが好ましい。
【0029】
次に、図2を参照して、開放系の製造装置を用いた反応工程の具体例について説明する。
水酸化リチウムの製造装置は、過熱水蒸気を発生させる過熱水蒸気発生装置10と、耐熱性の反応容器11と、反応容器11の周囲に配置されて反応容器11を加熱する加熱炉等の加熱装置12とを備えている。反応容器11には、過熱水蒸気発生装置10から反応容器11内に過熱水蒸気を供給する供給管13、及び反応容器11内の気体を排出する排気管14が接続されている。
【0030】
排気管14の途中には、冷却装置15が取り付けられるとともに、排気管14の下流側端部には、集塵機16が取り付けられている。冷却装置15は、排気管14内を流れる気体を冷却する。集塵機16は、排気管14内を流れる気体に含まれる固形成分を分離して回収するとともに、気体成分を排気する。
【0031】
反応工程においては、まず、炭酸リチウムを投入した反応容器11を加熱装置12により加熱する。反応容器11は、炭酸リチウムの融点以上沸点未満の温度、例えば、900℃に加熱され、この加熱状態が維持される。これにより、反応容器11内の炭酸リチウムは、固体状から液体状に溶解する。このとき、供給管13の先端部分に設けられている吹出口13aは、溶解した炭酸リチウムの液面よりも下側に位置する。
【0032】
次に、供給管13を通じて反応容器11内に、過熱水蒸気発生装置10から、例えば、900℃の過熱水蒸気が所定時間、所定流量にて連続的に供給される。反応容器11内に供給された過熱水蒸気は、供給管13の吹出口13aから液体状の炭酸リチウム内に吹き出されて、バブリング法により炭酸リチウムに対して過熱水蒸気が接触する。また、反応容器11内に供給された過熱水蒸気は、排気管14を通じて反応容器11から排出される。
【0033】
炭酸リチウムと過熱水蒸気との接触により、上記反応式(1)に基づいて水酸化リチウム及び二酸化炭素が生成される。生成された水酸化リチウムは、反応容器11内に残留するとともに、生成された二酸化炭素は、過熱水蒸気と共に排気管14を通じて反応容器11から排出される。
【0034】
反応容器11から排出された過熱水蒸気及び二酸化炭素を含む気体は、排気管14を通過する途中にて、冷却装置15により冷却された後、集塵機16に送られる。冷却装置15は、排気管14を通過する気体の温度が水酸化リチウムの融点以下、好ましくは400℃以下、より好ましくは300℃以下になるように排気管14を冷却する。
【0035】
ここで、反応容器11から排気管14に排気される気体中には、未反応の炭酸リチウム及び生成された水酸化リチウムの一方又は両方が混入する場合がある。炭酸リチウム及び水酸化リチウムの混入は、炭酸リチウム及び水酸化リチウムが気化することや、反応容器11内に飛散している固形状又は液状の炭酸リチウム及び水酸化リチウムが過熱水蒸気の流通に巻き込まれること等により生じる。
【0036】
冷却装置15は、反応容器11から排出された気体を冷却して、同気体に含まれる炭酸リチウム及び水酸化リチウムを固化させる。そして、集塵機16は、冷却された気体中に含まれる固体成分である炭酸リチウム及び水酸化リチウムを分離して回収するとともに、過熱水蒸気及び二酸化炭素等の気体成分を排出する。集塵機16により回収された炭酸リチウム及び水酸化リチウムは、反応容器11に戻す、又は次回の反応の原料として使用する。
【0037】
本実施形態において、冷却装置15及び集塵機16は、反応容器11から排出された気体に含まれる未反応の炭酸リチウム及び生成した水酸化リチウムの少なくとも一方を回収するための固気分離装置を構成する。
【0038】
反応容器11への過熱水蒸気の供給開始から所定時間、経過した後、過熱水蒸気の供給を停止する。そして、反応容器11内に残留する水酸化リチウム及び未反応の炭酸リチウムの混合物を回収する。
【0039】
(精製工程)
精製工程は、反応工程において生成された水酸化リチウムと、未反応の炭酸リチウムとを分離することにより水酸化リチウムを精製する工程である。
【0040】
図1に示すように、精製工程においては、まず、反応工程後に回収された水酸化リチウム及び未反応の炭酸リチウムの混合物に水を混合する。これにより、混合物中の水酸化リチウムが水に溶解するとともに、混合物中の炭酸リチウムが水に分散した状態の混合液となる。なお、混合物は、アトマイザー等の微粉砕機を用いて粉状化しておくことが好ましい。
【0041】
混合物に対する水の混合量は、例えば、混合物1g当たり600ml以上であることが好ましく、1200ml以上であることがより好ましい。この場合には、水に水酸化リチウムを十分に溶解させることができる。また、水に炭酸リチウムが溶解することを抑制するため、温度60℃以上80℃以下の温水を用いることが好ましい。
【0042】
次に、得られた混合液に対して固液分離処理を行うことにより、混合液を、未反応の炭酸リチウムからなる固形分と、水酸化リチウムの溶液である液分とに分離する。分離された液分に対して乾燥処理を行うことにより、未反応の炭酸リチウムが除去された高純度の水酸化リチウムが得られる。また、分離された固形分である未反応の炭酸リチウムは、次回の反応の原料として使用する。
【0043】
上記固液分離処理としては、フィルタープレスを用いる方法等の公知の分離方法を適用できる。上記乾燥処理としては、スプレードライヤーを用いる方法等の公知の乾燥方法を適用できる。
【0044】
次に、本実施形態の効果について記載する。
(1)水酸化リチウムの製造方法は、炭酸リチウムに過熱水蒸気を接触させて水酸化リチウムを生成する反応工程を有する。
【0045】
上記製造方法(以下、本製造方法という。)によれば、炭酸リチウムから水酸化リチウムを製造できる。
ここで、下記反応式(A)に基づく従来の水酸化リチウムの製造方法の場合、原料として炭酸リチウムに加えて、炭酸リチウムと同量の水酸化カルシウムが必要であるとともに、炭酸リチウムと同量の炭酸カルシウムが副生する。
【0046】
LiCO+Ca(OH)→2LiOH+CaCO…(A)
これに対して、本製造方法の場合、原料は、炭酸リチウムと水のみであり、二酸化炭素以外の副生成物は生成されない。したがって、本製造方法は、反応式(A)に基づく従来の製造方法と比較して生産効率に優れている。
【0047】
また、下記反応式(B)、(C)に基づく従来の水酸化リチウムの製造方法の場合、炭酸リチウムから酸化リチウムを生成する第1の反応と、酸化リチウムから水酸化リチウムを生成する第2の反応の2段階の反応が必要である。
【0048】
LiCO→LiO+CO…(B)
LiO+HO→2LiOH…(C)
これに対して、本製造方法の場合、1段階の反応により水酸化リチウムを生成できる。したがって、本製造方法は、反応式(B)、(C)に基づく従来の製造方法と比較して生産効率に優れている。
【0049】
また、本製造方法の場合、可燃性ガス等の取り扱いの難しい物質を用いていないため、より安全に水酸化リチウムを製造できる。
(2)反応工程に供される炭酸リチウムは、溶解した状態である。
【0050】
上記構成によれば、炭酸リチウムが液体状になることにより、炭酸リチウムと過熱水蒸気との接触機会が増大する。これにより、炭酸リチウムと過熱水蒸気との反応が促進されて、短時間で効率的に水酸化リチウムを生成できる。
【0051】
(3)反応工程に供される炭酸リチウムの温度は、924℃未満である。
上記構成によれば、生成した水酸化リチウムの分解が抑制されることにより、生産効率が向上する。
【0052】
(4)炭酸リチウムに対して、バブリング法により過熱水蒸気を接触させている。
上記構成によれば、液体状の炭酸リチウムと過熱水蒸気との接触機会が増大する。これにより、炭酸リチウムと過熱水蒸気との反応が促進されて、短時間で効率的に水酸化リチウムを生成できる。
【0053】
(5)炭酸リチウムを収容する反応容器内に過熱水蒸気を連続的又は間欠的に供給するとともに、反応容器から過熱水蒸気を連続的又は間欠的に排出している。
上記構成によれば、反応の進行に伴って水酸化リチウムと共に生成される二酸化炭素が反応容器内に蓄積することを抑制できる。これにより、水酸化リチウムを生成する反応が進み難くなること、及び生成された水酸化リチウムが二酸化炭素と反応して、炭酸リチウムに戻ってしまうことを抑制できる。
【0054】
(6)反応容器から排出された過熱水蒸気から未反応の炭酸リチウム及び生成した水酸化リチウムの少なくとも一方を回収している。
上記構成によれば、原料である炭酸リチウムのロス、及び生成した水酸化リチウムのロスが低減されることにより、生産効率が向上する。
【0055】
(7)反応工程の後、生成された水酸化リチウムを精製する精製工程を有している。精製工程は、反応工程により得られた混合物に水を混合した後、水に溶解しない未反応の炭酸リチウムを分離する工程である。
【0056】
上記構成によれば、純度の高い水酸化リチウムを製造できる。
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0057】
・反応工程において、反応容器から排出される気体の温度が低い場合には、冷却装置による冷却を省略してもよい。
・反応工程において、反応容器から排出される気体から未反応の炭酸リチウム及び生成した水酸化リチウムの少なくとも一方を回収する処理を省略してもよい。
【0058】
・精製工程を省略してもよい。例えば、反応工程において反応が100%進行し、未反応の炭酸リチウムが存在しない場合や、反応工程後の混合物における水酸化リチウムの純度が目的の数値に達している場合には、精製工程を行う必要はない。
【実施例
【0059】
以下に試験例を挙げ、上記実施形態をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1~3)
図2に示す反応装置を用いて、以下のようにして反応工程を実施した。
【0060】
内径180mm×深さ250mmの円筒形状の反応容器に、表1に示す仕込み量の粉状の炭酸リチウムを投入し、加熱装置により反応容器内の炭酸リチウムを900℃に加熱して溶解させた。その後、大気圧下の反応容器内に900℃の過熱水蒸気を、表1に示す通気量となるように連続的に供給し、炭酸リチウムに対してバブリング法により過熱水蒸気を接触させた。なお、表1に示す通気量は、炭酸リチウム1kg当たりの過熱水蒸気の通気量である。
【0061】
上記の状態を5時間保持した後、反応容器から試料を採取した。採取した試料0.1gを60mlの純水に溶解させ、0.5mol/l塩酸水溶液を用いて滴定分析することにより、試料に含まれる水酸化リチウムの量及び炭酸リチウムの量を測定した。この測定結果から、採取した試料に占める水酸化リチウムの質量割合を算出し、これを水酸化リチウムの生成率(質量%)とした。その結果を表1に示す。
【0062】
また、実施例3について、保持時間が1、2.5、3、4、5、6時間となる各タイミングにおいて、上記と同様に反応容器から試料を採取し、水酸化リチウムの生成率の経時的な変化を測定した。その結果を図3のグラフに示す。
【0063】
(実施例4~6)
バブリング法に代えて、溶解した炭酸リチウムの液面に対して、上方から過熱水蒸気を吹き付けることにより、炭酸リチウムに過熱水蒸気を接触させた点を除いて、実施例1~3と同様にして反応工程を実施した。上記の状態を5時間保持した後、反応容器から試料を採取し、実施例1~3と同様にして、水酸化リチウムの生成率を算出した。その結果を表1に示す。
【0064】
(実施例7)
表1に示す仕込み量の粉状の炭酸リチウムを反応容器に投入し、加熱装置により反応容器内の炭酸リチウムを600℃に加熱した。その後、大気圧下の反応容器内に600℃の過熱水蒸気を、表1に示す通気量となるように連続的に供給し、粉状の炭酸リチウムに対して過熱水蒸気を吹き付けることにより、炭酸リチウムに過熱水蒸気を接触させた。反応容器内の炭酸リチウムを撹拌しつつ、上記の状態を5時間保持した後、反応容器から試料を採取し、実施例1~3と同様にして、水酸化リチウムの生成率を算出した。その結果を表1に示す。
【0065】
また、保持時間が5、15、30時間となる各タイミングにおいて、上記と同様に反応容器から試料を採取し、水酸化リチウムの生成率の経時的な変化を測定した。その結果を図3のグラフに示す。
【0066】
(実施例8)
表1に示す仕込み量の粉状の炭酸リチウムを反応容器に投入した。大気圧下の反応容器内に110℃の過熱水蒸気を、表1に示す通気量となるように連続的に供給し、粉状の炭酸リチウムに対して過熱水蒸気を吹き付けることにより、炭酸リチウムに過熱水蒸気を接触させた。反応容器内の炭酸リチウムを撹拌しつつ、上記の状態を30時間保持した後、反応容器から試料を採取し、実施例1~3と同様にして、水酸化リチウムの生成率を算出した。その結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
表1に示すように、各実施例の結果から、炭酸リチウムに過熱水蒸気を接触させることにより水酸化リチウムが生成することが分かる。
【0068】
炭酸リチウムに過熱水蒸気を接触させる方法に関して、実施例1~3と実施例4~6の比較から、過熱水蒸気を吹き付ける方法よりもバブリング法の方が効率的に水酸化リチウムを生成できることが分かる。
【0069】
過熱水蒸気を接触させる炭酸リチウムの状態に関して、表1及び図3に示すように、実施例3と実施例7の比較から、固体状である場合よりも液体に溶解した状態である場合の方が効率的に水酸化リチウムを生成できることが分かる。
【符号の説明】
【0070】
10…過熱水蒸気発生装置、11…反応容器、12…加熱装置、13…供給管、13a…吹出口、14…排気管、15…冷却装置、16…集塵機。
図1
図2
図3