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  • 特許-アルミニウム-樹脂複合体の製造方法。 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】アルミニウム-樹脂複合体の製造方法。
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/64 20060101AFI20230726BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
B29C65/64
B29C45/14
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020207298
(22)【出願日】2020-12-15
(65)【公開番号】P2022094427
(43)【公開日】2022-06-27
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000114488
【氏名又は名称】メック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100145849
【弁理士】
【氏名又は名称】井澤 眞樹子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 勝
(72)【発明者】
【氏名】小山 都
(72)【発明者】
【氏名】加藤 貴大
(72)【発明者】
【氏名】星田 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】正木 大輔
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-52671(JP,A)
【文献】特開2014-46599(JP,A)
【文献】特開2018-111277(JP,A)
【文献】国際公開第2019/164008(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/00-65/82
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載用流体機械の部品であるアルミニウム-樹脂複合体の製造方法であって、
Siを0.5重量%以上16重量%以下及びCuを0.5重量%以上5.5重量%以下含むアルミニウム合金の表面に、NaOHを水酸化物イオンとして5.0重量%以上9.3重量%以下と、Znイオンを1.9重量%以上3.5重量%以下と、硝酸イオンと、チオ硫酸イオンとを含むアルカリ性の表面粗化剤を接触させる第1粗化工程と、
前記第1粗化工程を経たアルミニウム合金の表面に、酸濃度として2.4重量%以上4.2重量%以下の塩酸と、アルミニウム濃度として4.1重量%以上5.8重量%以下の塩化アルミニウムとを含む酸性の表面粗化剤を接触させる第2粗化工程と、
前記第2粗化工程を経たアルミニウム合金の表面を超音波洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄工程を経たアルミニウム合金の表面に樹脂組成物を接合させる接合工程と、を含むアルミニウム-樹脂複合体の製造方法。
【請求項2】
前記アルミニウム合金はT3調質、T6調質又はT7調質のいずれかの調質材である請求項1に記載のアルミニウム-樹脂複合体の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂組成物は、PPS樹脂、液晶ポリマー、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、PEEK樹脂、PBT樹脂、エポキシ樹脂、ETFE樹脂、PFA樹脂又はPTFE樹脂のいずれかの樹脂である請求項1又は2に記載のアルミニウム-樹脂複合体の製造方法。
【請求項4】
前記アルミニウム合金は、平均粒径が10μm以下のSi及び平均粒径が2μm以下のCuAlを含む請求項1乃至3のいずれか一項に記載のアルミニウム-樹脂複合体の製造方法。
【請求項5】
前記アルミニウム合金は、Siを10.0重量%以上13.0重量%以下及びCuを3.0重量%以上5.5重量%以下含む請求項1乃至4のいずれか一項に記載のアルミニウム-樹脂複合体の製造方法。
【請求項6】
前記洗浄工程において、アルミニウム合金の表面に酸濃度10.0重量%以上50.0重量%以下である硝酸水溶液を接触させた後に、前記超音波洗浄を行う、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のアルミニウム-樹脂複合体の製造方法。
【請求項7】
前記接合工程において、溶剤に前記樹脂組成物を溶解又は分散させて塗布するコーティング法又は射出成型法のいずれかによってアルミニウム合金の表面に樹脂組成物を接合させる請求項1乃至6のいずれか一項に記載のアルミニウム-樹脂複合体の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂組成物は、液晶ポリマーであって、接合後のアルミニウム合金と樹脂組成物との接合強度は10MPa以上である請求項1乃至7のいずれか一項に記載のアルミニウム-樹脂複合体の製造方法。
【請求項9】
前記樹脂組成物は、PPS樹脂であって、接合後のアルミニウム合金と樹脂組成物との接合強度は30MPa以上である請求項1乃至7のいずれか一項に記載のアルミニウム-樹脂複合体の製造方法。
【請求項10】
前記車載用流体機械は、燃料電池車用の水素循環ポンプである請求項1乃至9のいずれか一項に記載のアルミニウム-樹脂複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム-樹脂複合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気、電子、自動車分野等を中心に幅広い産業分野でアルミニウムと樹脂とを一体化させる技術が開発されている。従来、アルミニウムと樹脂との接合には、接着剤を使用することが一般的に行われていた。しかし、接着剤を使用すると、高温下における接合強度が低下するので、自動車等の耐熱性が要求される用途への適用は困難である。
【0003】
そこで、近年、接着剤を使用せずにアルミニウムと樹脂とを一体化させる技術が研究されている。例えば、下記特許文献1には、アルミニウム合金の表面をエッチング剤によって粗化し、該粗化処理した表面に樹脂組成物を付着させてアルミニウム-樹脂複合体を製造する製造方法が記載されている。
【0004】
一方、自動車分野においては、例えば、下記特許文献2に記載されているように、燃料電池車における水素循環ポンプのような車載用流体機械等においてアルミニウム部材に樹脂組成物のコーティングすることが軽量化且つ高耐久性を得る観点から研究されている。かかる機械においては従来よりもさらに高い接合強度が期待される傾向にある。
特に、アルミニウム合金に接合する樹脂組成物の種類によっては特許文献1の製造方法によって粗化処理したとしても、特許文献2に記載される機械で求められる十分な接合強度が得られないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-52671号公報
【文献】特開2018-162719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、より高い接合強度が得られるアルミニウム-樹脂複合体の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、車載用流体機械の部品であるアルミニウム-樹脂複合体の製造方法であって、Siを0.5重量%以上16重量%以下及びCuを0.5重量%以上5.5重量%以下含むアルミニウム合金の表面に、NaOHを水酸化物イオンとして5.0重量%以上9.3重量%以下と、Znイオンを1.9重量%以上3.5重量%以下と、硝酸イオンと、チオ硫酸イオンとを含むアルカリ性の表面粗化剤を接触させる第1粗化工程と、前記第1粗化工程を経たアルミニウム合金の表面に、酸濃度として2.4重量%以上4.2重量%以下の塩酸と、アルミニウム濃度として4.1重量%以上5.8重量%以下の塩化アルミニウムとを含む酸性の表面粗化剤を接触させる第2粗化工程と、前記第2粗化工程を経たアルミニウム合金の表面を超音波洗浄する洗浄工程と、前記洗浄工程を経たアルミニウム合金の表面に樹脂組成物を接合させる接合工程と、を含むアルミニウム-樹脂複合体の製造方法である。
【0008】
本発明において、前記アルミニウム合金はT3調質、T6調質又はT7調質のいずれかの調質材であってもよい。
【0009】
本発明において、前記樹脂組成物は、PPS樹脂、液晶ポリマー、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、PEEK樹脂、PBT樹脂、エポキシ樹脂、ETFE樹脂、PFA樹脂又はPTFE樹脂のいずれかの樹脂であってもよい。
【0010】
本発明において、前記アルミニウム合金は、平均粒径が10μm以下のSi及び平均粒径が2μm以下のCuAlを含んでいてもよい。
【0011】
本発明において、前記アルミニウム合金は、Siを10.0重量%以上13.0重量%以下及びCuを3.0重量%以上5.5重量%以下含んでいてもよい。
【0012】
本発明においては、前記洗浄工程において、アルミニウム合金の表面に酸濃度10.0重量%以上50.0重量%以下である硝酸水溶液を接触させた後に、前記超音波洗浄を行ってもよい。
【0013】
本発明においては、前記接合工程において、溶剤に前記樹脂組成物を溶解又は分散させて塗布するコーティング法又は射出成型法によってアルミニウム合金の表面に樹脂組成物を接合してもよい。
【0014】
本発明において、前記樹脂組成物は、液晶ポリマーであって、接合後のアルミニウム合金と樹脂組成物との接合強度は、10MPa以上であってもよい。
【0015】
本発明において、前記樹脂組成物は、PPS樹脂であって、接合後のアルミニウム合金と樹脂組成物との接合強度は、30MPa以上であってもよい。
【0016】
本発明において、前記車載用流体機械は、燃料電池車用の水素循環ポンプであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、より高い接合強度が得られるアルミニウム-樹脂複合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は本実施例で用いた試験用アルミニウム-樹脂複合体を示す概略斜視図である。
図2図2の(a)は図1の試験用アルミニウム-樹脂複合体の上面図、(b)は側面図である。
図3図3は実施例1のアルミニウム-樹脂複合体の接合境界近傍の断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明のアルミニウム-樹脂複合体の製造方法(以下、単に製造方法ともいう。)の実施形態について説明する。
【0020】
本実施形態の製造方法は、車載用流体機械の部品であるアルミニウム-樹脂複合体の製造方法であって、Siを0.5重量%以上16重量%以下及びCuを0.5重量%以上5.5重量%以下含むアルミニウム合金の表面に、NaOHを水酸化物イオンとして5.0重量%以上9.3重量%以下と、Znイオンを1.9重量%以上3.5重量%以下と、硝酸イオンと、チオ硫酸イオンとを含むアルカリ性の表面粗化剤を接触させる第1粗化工程と、前記第1粗化工程を経たアルミニウム合金の表面に、酸濃度として2.4重量%以上4.2重量%以下の塩酸と、アルミニウム濃度として4.1重量%以上5.8重量%以下の塩化アルミニウムとを含む酸性の表面粗化剤を接触させる第2粗化工程と、前記第2粗化工程を経たアルミニウム合金の表面を超音波洗浄する洗浄工程と、前記洗浄工程を経たアルミニウム合金の表面に樹脂組成物を接合させる接合工程とを含む。
【0021】
(車載用流体機械)
本実施形態の車載用流体機械は、車載空調装置に用いられる電動圧縮機や、燃料電池車用水素循環ポンプ等、自動車等の車輌に搭載される流体機械であれば特に限定されるものではないが、燃料電池車用の水素循環ポンプ装置、特にアルミニウム合金製のロータ部材であることが好ましい。
燃料電池では生成水が回転軸やロータに接触することで生じる腐食からアルミニウム部材を保護するために樹脂コーティングすることが好ましく、またその機能的な面からも高い耐熱性、耐久性が要求されるため、本実施形態の方法で製造されることが適している。
【0022】
(アルミニウム合金)
本実施形態のアルミニウム合金は、Siを0.5重量%以上16重量%以下及びCuを0.5重量%以上5.5重量%以下含むアルミニウム合金である。
かかるアルニミウム合金は軽量且つ耐久性が高く車載用流体機械部品の材料として適している。
より具体的には、Siを0.5重量%以上16重量%以下、又は、10.0重量%以上13.0重量%以下、又は、11.0重量%以上12.0重量%以下、Cuを0.5重量%以上5.5重量%以下、又は、3.0重量%以上5.5重量%以下、又は、4.0重量%以上4.8重量%以下、含むアルミニウム合金が挙げられる。
【0023】
本実施形態のアルミニウム合金は、平均粒径が10μm以下のSi及び平均粒径が2μm以下のCuAlを含むものであることが、軽量化且つ高耐久性を得る観点から好ましい。
尚、本実施形態において平均粒子径は、FE-SEM観察により計測される粒子径を意味する。
【0024】
本実施形態のアルミニウム合金は熱処理型合金であって、例えば、T3調質、T6調質又はT7調質のいずれかの調質材であることが好ましい。尚、本実施形態におけるT3調質、T6調質又はT7調質の調質材とは、JIS H 0001(アルミニウム及びアルミニウム合金の質別記号)に記載の各調質を施した合金を意味する。
【0025】
(第1粗化工程)
本実施形態の製造方法は、前述のアルミニウム合金の表面に、NaOHを水酸化物イオンとして5.0重量%以上9.3重量%以下と、Znイオンを1.9重量%以上3.5重量%以下と、硝酸イオンと、チオ硫酸イオンとを含むアルカリ性の表面粗化剤を接触させる第1粗化工程を含む。
【0026】
[アルカリ性表面粗化剤]
本実施形態の第1粗化工程において使用される表面粗化剤はアルカリ性の液状粗化剤(以下、アルカリ性表面粗化剤ともいう。)であって以下のような各主成分を含む。
【0027】
<NaOH>
本実施形態のアルカリ性表面粗化剤はNaOHを水酸化物イオンとして5.0重量%以上9.3重量%以下、又は、5.5重量%以上8.7重量%以下含むことが挙げられる。
上記範囲でNaOHを含むことで、本実施形態のアルミニウム合金表面を適切に粗化することができ樹脂との密着性を向上させることができる。
【0028】
<Znイオン>
本実施形態のアルカリ性表面粗化剤はZnイオンを1.9重量%以上3.5重量%以下、又は、2.0重量%以上3.3重量%以下、又は、2.5重量%位以上3.0重量%以下含むことが挙げられる。
上記範囲でNaOHを含むことで、本実施形態のアルミニウム合金表面を適切に粗化することができ樹脂との密着性を向上させることができる。
【0029】
Znイオンは、Znイオン源をアルカリ性表面粗化剤に配合することで液中に含有させることができる。
Znイオン源の例としては、硝酸亜鉛、ホウ酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、臭化亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、酸化亜鉛、硫化亜鉛等が挙げられる。
【0030】
<硝酸イオン>
本実施形態の表面粗化剤は、硝酸イオンを含む。硝酸イオンの含有量は限定されるものではないが、例えば、1.5重量%以上5.0重量%以下、又は、2.0重量%以上3.0重量%以下等が挙げられる。
上記範囲で硝酸イオンを含むことで、本実施形態のアルミニウム合金表面を適切に粗化することができ樹脂との密着性を向上させることができる。
【0031】
硝酸イオンは、硝酸イオン源をアルカリ性表面粗化剤に配合することで液中に含有させることができる。
硝酸イオン源の例としては、硝酸、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸バリウム、硝酸カルシウム、硝酸アンモニウム、硝酸亜鉛等が挙げられる。
【0032】
<チオ硫酸イオン>
本実施形態の表面粗化剤は、チオ硫酸イオンを含む。チオ硫酸イオンの含有量は限定されるものではないが、0.1重量%以上0.8重量%以下、又は、0.2重量%以上0.7重量%以下等が挙げられる。
上記範囲でチオ硫酸イオンを含むことで、本実施形態のアルミニウム合金表面を適切に粗化することができ樹脂との密着性を向上させることができる。
【0033】
チオ硫酸イオンは、チオ硫酸イオン源をアルカリ性表面粗化剤に配合することで液中に含有させることができる。
チオ硫酸イオン源の例としては、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウム、チオ硫酸マグネシウム等のチオ硫酸塩等が挙げられる。
【0034】
本実施形態のアルカリ性表面粗化剤は必要に応じて他の添加剤を添加してもよい。
アルカリ性表面粗化剤は各成分をイオン交換水等に溶解させることにより容易に調製することができる。各成分を溶媒に溶解させることでアルカリ性になるように調整することもでき、又は適切なpH調整剤等を添加することでアルカリ性に調整することもできる。
アルカリ性表面粗化剤のpHは特に限定されるものではないがpH12以上の範囲であることが挙げられる。
【0035】
第1粗化工程において、表面粗化剤をアルミニウム合金の表面に接触させる方法は特に限定されるものではなく、公知の方法で処理することができる。例えば、浸漬、スプレー等による処理方法が挙げられる。処理温度、処理時間も適宜調整することができる。例えば、処理温度25~45℃、処理時間30~90秒程度が挙げられる。
【0036】
(第2粗化工程)
本実施形態の製造方法は、前記第1粗化工程を経たアルミニウム合金の表面に、酸濃度として2.4重量%以上4.2重量%以下の塩酸と、アルミニウム濃度として4.1重量%以上5.8重量%以下の塩化アルミニウムとを含む酸性表面粗化剤を接触させる第2粗化工程を含む。
【0037】
[酸性表面粗化剤]
本実施形態の第2粗化工程において使用される表面粗化剤は酸性の液状粗化剤(以下、酸性表面粗化剤ともいう。)であって、塩酸及び塩化アルミニウムを含む。
【0038】
<塩酸>
本実施形態の酸性の表面粗化剤は、塩酸を酸濃度として2.4重量%以上4.2重量%以下、又は3.0重量%以上3.6重量%以下含む。
例えば、35%塩酸を使用した場合、上記酸濃度の範囲になるようにするためには、6.8重量%以上11.9重量%以下含むことになる。
【0039】
<塩化アルミニウム>
本実施形態の酸性表面粗化剤は、塩化アルミニウムをアルミニウム濃度として4.1重量%以上5.8重量%以下、又は4.5重量%以上5.2重量%以下含む。
【0040】
本実施形態の酸性表面粗化剤は必要に応じて他の添加剤を添加してもよい。
また、酸性表面粗化剤は各成分をイオン交換水等に溶解させることにより容易に調製することができる。各成分を溶媒に溶解させることで酸性になるように調整することもでき、又は適切なpH調整剤等を添加することで酸性に調整することもできる。
酸性表面粗化剤のpHは特に限定されるものではないがpH1以下の範囲であることが挙げられる。
【0041】
第2粗化工程において、酸性表面粗化剤をアルミニウム合金の表面に接触させる方法は特に限定されるものではなく、公知の方法で処理することができる。例えば、浸漬、スプレー等による処理方法が挙げられる。処理温度、処理時間も適宜調整することができる。例えば、処理温度25~40℃、処理時間30~300秒程度が挙げられる。
【0042】
(洗浄工程)
本実施形態の製造方法は、第2粗化工程を経たアルミニウム合金の表面を超音波洗浄する洗浄工程を含む。
【0043】
洗浄工程において行われる超音波洗浄の処理条件は特に限定されるものではないが、例えば、25℃~60℃の処理温度において、3分間~15分間、周波数25kHz~120kHz、好ましくは、40kHz~80kHz等の条件で超音波処理をすること等が挙げられる。超音波処理は複数回繰り返して行ってもよい。
かかる洗浄によって、第1、第2粗化工程において付着した各表面粗化剤をアルミニウム合金表面から除去でき、後に行う接合後のアルミニウム合金と樹脂組成物との密着性が良好になり、高い接合強度が得られる。
【0044】
洗浄工程においては、アルミニウム合金の表面に酸濃度10.0重量%以上50.0重量%以下である硝酸水溶液を接触させた後に前記超音波洗浄を行ってもよい。
硝酸水溶液を接触させることは任意であるが、かかる接触処理を行うことで、超音波洗浄による洗浄効果がより高くなる。
かかる硝酸水溶液を接触させる方法は特に限定されるものではなく、公知の方法で接触させることができる。例えば、浸漬、スプレー等による方法が挙げられる。処理温度、処理時間も適宜調整することができる。例えば、処理温度25~35℃、処理時間30~60秒程度が挙げられる。
【0045】
(接合工程)
本実施形態の製造方法は、前記洗浄工程を経たアルミニウム合金の表面に樹脂組成物を接合させる接合工程を含む。
【0046】
[樹脂組成物]
本実施形態で用いる樹脂組成物としてはアルミニウム合金に接合可能なものであれば特に限定されるものではないが、例えば、PPS(ポリフェニレンスルフィド)樹脂、液晶ポリマー、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂、エポキシ樹脂、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)樹脂、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)樹脂又はPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)樹脂等が挙げられる。
中でも、PPS樹脂、液晶ポリマーが車載用流体機械の部品において使用される材料として適している。
【0047】
接合工程において樹脂組成物をアルミニウム合金表面に接合させる方法は、特に限定されるものではないが、溶剤に前記樹脂組成物を溶解又は分散させて塗布するコーティング法や、射出成型法によってアルミニウム合金の表面に樹脂組成物を接合させる方法が挙げられる。
【0048】
樹脂組成物とアルミニウム合金とを接合させる条件等は適宜公知の条件を設定することができる。
例えば、期待しうる接合強度は、樹脂の種類によっても相違するため、樹脂の種類に応じて所望の接合強度が得られる接合条件を設定することが好ましい。
樹脂組成物として、液晶ポリマーを用いた場合には、例えば、接合後のアルミニウム合金と樹脂組成物との接合強度が10MPa以上、好ましくは13MPa以上になるような条件を設定することが好ましい。
【0049】
樹脂組成物として、PPS樹脂を用いた場合には、例えば、接合後のアルミニウム合金と樹脂組成物との接合強度が30MPa以上、好ましくは33MPa以上になるような条件を設定することが好ましい。
【0050】
尚、本実施形態の製造方法の各工程の前後において、任意に、水洗工程や乾燥させる乾燥工程を行うことができる。
【0051】
本実施形態で例示される製造方法で得られたアルミニウム-樹脂複合体は、車載用流体機械の部品に好適であり、より具体的には、燃料電池車用の水素循環ポンプのロータ材に好適である。すなわち、ロータ材がアルミニウム合金である場合にロータ材の表面を樹脂組成物でコーティングすることによって、ロータ材の腐食を防止することができる。この場合、アルミニウム合金と樹脂組成物とを高い接合強度で付着させることができ、耐久性にすぐれた水素循環ポンプを得ることができる。
【0052】
本実施形態にかかるアルミニウム-樹脂複合体の製造方法は、以上のとおりであるが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【実施例
【0053】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0054】
[表面粗化剤]
本実施例で使用するアルカリ性の表面粗化剤及び酸性の表面粗化剤を準備した。
各表面粗化剤は、以下の材料を表1に記載の各成分の濃度(イオン換算値、酸濃度換算値で表示)になるようにイオン交換水に溶解した水溶液である。

NaOH:キシダ化学社製、試薬(特級)
硝酸亜鉛・6水和物:キシダ化学社製、試薬(1級)
チオ硫酸ナトリウム・5水和物:富士フィルム和光純薬社製、試薬(特級)
35%塩酸: キシダ化学社製、試薬(特級)
塩化アルミニウム・6水和物:富士フィルム和光純薬社製、試薬(特級)

尚、実施例比較例で使用するアルカリ性の表面粗化剤のpHはいずれも14以上、酸性の表面粗化剤のpHはいずれも1以下であった。
【0055】
【表1】
【0056】
[アルミニウム材]
表2に記載の組成からなる以下の合金の試料を準備した。

Al-Si-Cu合金:T6調質材
Al-Cu合金(A2014):T6調質材
Al-Si合金(A4032):T6調質材
純アルミ(A1050):H24調質材

尚、Al-Si-Cu合金中に含まれるSi粒子の平均粒子径は10μm以下、CuAlの平均粒子径は2μm以下である。
【0057】
【表2】
【0058】
[樹脂組成物]
樹脂組成物として液晶ポリマー及びPPS樹脂を準備した。
【0059】
(引張剪断強度)
各表面粗化剤を用いて各アルミウム材に対して表3に示す処理を行った。
尚、第2粗化工程の処理時間は、アルミニウム材の材質によって適切な粗化状態(エッチング量)になるよう適宜調整した。また、一部の比較例においては表4に示すように一部の工程を省いて処理を行った。
【0060】
【表3】
【0061】
さらに、射出成形(使用装置:型式TR100EH、ソディック)を用いて試験片のアルミニウム-樹脂複合体を得た。
アルミニウム-樹脂複合体は、図1図2に示すように、一辺が45mm、幅が18mm、厚みが1.5mmの長方形のアルミニウム板の18mmの辺側の一面に、長さ45mm、幅10mm、厚み3mmの樹脂片を、重なり部分5mm×10mmとなるように取り付けられた状態で成形された。
【0062】
この試験片を、引っ張り試験機(島津製作所社製精密万能試験機、型式:AG―20kNXDplus)により、引張り速度10mm/分で図2(b)に示す方向Zに引っ張って、破断するときの強度を引張せん断強度とした。測定結果を表4に示す。
【0063】
(エッチング量)
各アルミニウム片のエッチング量を以下の方法で算出した値をμmで表した。

エッチング量=処理前後の重量差÷アルミニウムの比重÷処理表面積

処理前後の重量差:各アルミニウム材を上記表3に記載の第1粗化工程の前と洗浄工程の後に測定した重量差
アルミニウムの比重:2.7
処理表面積:アルミニウム板の表面積45×18×2+45×1.5×2+18×1.5×2

尚、エッチング量は、アルカリ性の表面粗化剤と酸性の表面粗化剤で処理した後に測定した結果であるため、両粗化処理によるエッチング量の合計である。
結果を表4に示す。
【0064】
【表4】
【0065】
(考察)
実施例では対応する合金と樹脂との組み合わせの比較例に比べて引張剪断強度が高かった。すなわち、高い接合強度が得られるアルミニウム-樹脂複合体であることが示された。
【0066】
図3は実施例1のアルミニウム-樹脂複合体の接合境界近傍の断面の模式図である。
実施例1のAl-Si-Cu合金に対して、各表面粗化剤を用いて表3に示す処理を施した場合、図3に示す通り、表面にマイクロオーダーの凹凸が形成されるとともに、マイクロオーダーの凹凸の周囲にナノオーダーの凹凸が形成されることになる。このように合金(アルミニウム材)の表面にマイクロオーダーの凹凸及びナノオーダーの凹凸の2種類の凹凸が形成されることにより、樹脂が各凹凸に入り込み、アンカー効果により接合強度を高めることができている。
【0067】
特に、実施例1のAl-Si-Cu合金の場合、アルカリ性の表面粗化剤を接触させる第1粗化工程において、合金に含まれるSi粒子がマスキング材となって、Si粒子の周囲にマイクロオーダーの凹凸が形成される。また次に、酸性の表面粗化剤を接触させる第2粗化工程において、合金に含まれるCu粒子がマスキング材となって、マイクロオーダーの凹凸の周囲にナノオーダーの凹凸が形成されることになる。

図1
図2
図3