(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】運動能力向上用製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4545 20060101AFI20230726BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20230726BHJP
A61K 31/787 20060101ALI20230726BHJP
A61K 47/56 20170101ALI20230726BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20230726BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20230726BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
A61K31/4545
A61K9/14
A61K31/787
A61K47/56
A61P21/00
A61P39/06
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2019090012
(22)【出願日】2019-05-10
【審査請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大森 肇
(72)【発明者】
【氏名】小峰 昇一
(72)【発明者】
【氏名】鳥海 拓都
(72)【発明者】
【氏名】金 雅覽
(72)【発明者】
【氏名】長崎 幸夫
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】化学と工業,2015年,Vol.68, No.5,pp.424-426
【文献】別冊・医学のあゆみ レドックスUPDATE-ストレス制御の臨床医学・健康科学,2015年,pp.301-306
【文献】ファルマシア,2018年,Vol.54, No.1,pp.21-25
【文献】体力科学,2019年01月,Vol.68, No.1,p.35
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される共重合体を有効成分として含んでなる運動能力を向上するための製剤。
【化1】
上式中、
Aは、非置換又は置換C
1-C
12アルキルを表し、置換されている場合の置換基は、ホ
ルミル基、式R
'R
"CH-基を表し、ここで、R
'及びR
"は独立してC
1-C
4アルコキシ又はR
'とR
"は一緒になって-OCH
2CH
2O-、-O(CH
2)
3O-もしくは-O(CH
2)
4O-を表す。
L
1は、直接結合
又は下式
で表される基から選ばれるか、又は-(CH
2
)
b
S-、-CO(CH
2
)
b
S-、-(CH
2
)
b
NH-、-(CH
2
)
b
CO-、-CO-、-OCOO-、-CONH-からなる群より選ばれ、ここで、各bは独立して、1~5の整数である、
L
2-R
1は、L
2が-(CH
2)
a-NH-(CH
2)
a-又は-(CH
2)
a-O-(CH
2)
a-であり、R
1が、式
【化2】
のいずれかである。
R
2は、クロロ、ブロモ又はヒドロキシルである。
上記において、L
2-R
1とR
2を有するポリマー主鎖中の単位(unit)はランダム
に存在し、L
2-R
1を有する単位は2~100の範囲内にあり、R
2を有する単位は存在
しない(0)か、若しくは1~20の範囲内にあり、ただし、これらの単位の総数はnとなる。
ZはH、SHまたはS(C=S)-Phであり、Phは1または2個のメチルまたはメトキシで置換されていてもよいフェニルを表す。
各aは、独立して0又は1~5の整数であり、
mは2~10,000の整数を表し、
nは3~100の整数を表す。
【請求項2】
請求項1に定義された式(I)で表される共重合体を有効成分として含んでなる運動による酸化ストレスのダメージを抑制するための製剤。
【請求項3】
共重合体がナノ粒子の形態にある、請求項1又は2の製剤。
【請求項4】
L
2が-(CH
2)
a-NH-(CH
2)
a-であり、共重合体が皮下投与されるものであ
る、請求項1~3のいずれかの製剤。
【請求項5】
請求項1に記載された製剤であって、運動能力の向上が運動により生じる筋組織の炎症、細胞の障害を未然に防ぐことを含む、製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトをはじめとする哺乳動物における運動能力を向上するための製剤に関し、より具体的には、運動能力を向上するための製剤の有効成分として、疎水性セグメントの側鎖として環状ニトロキシドラジカルを担持する親水性-疎水性ブロック共重合体の用途発明に関する。
【背景技術】
【0002】
運動時は安静時と比べてエネルギー産生の目的で多くの酸素を消費するため、活性酸素種(ROS)が多く発生する。適度なROSは運動パフォーマンス発揮の際に必要ではあるが、過剰に発生したROSはDNA、細胞や筋組織などに酸化ストレス、損傷や炎症を引き起こすため、運動能力の低下を引き起こす(非特許文献1)。
【0003】
例えばマラソンでは地面と足の裏の物理的刺激により10~20%もの赤血球が破壊されているとの報告もあり、漏れ出した鉄イオンがフェントン反応のような反応を経由して大量のROSを産生し、生体に障害を与えていく、と推察されている。
【0004】
このような問題に対して、抗酸化剤の摂取が効果的であるとされているが、一般の抗酸化剤は血中滞留性が低く継続的な効果が低いうえに、低分子抗酸化剤は正常細胞内のミトコンドリアを破壊することが問題点となっており、運動能力向上に対してはほとんど効果が見られず、かえって運動能力を低下させることが報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Wan,Jing-jing,et al.Experimental & Molecular Medicine 49.10(2017):e384
【文献】Merry,Troy L. et al.The Journal of Physiology 594.18(2016):5135-5147
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、運動に起因する酸化ストレスによる細胞又は筋組織への障害又は機能の低下を防止又は軽減するとともに、身体の目的とする動きを達成する力ともいえる運動能力を向上できる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、レドックス作用物質ともいえ、抗酸化化合物にも分類できる環状ニトロキシドラジカル(特に、2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMP))をポリ(エチレングリコール)セグメントとポリ(クロロメチルスチレン)セグメントを含有する共重合体のクロロメチル基を介してその側鎖に結合せしめて高分子化することにより、生体内で安定であり、かつ、安全に使用できる化合物を創製することに成功し、提案した(WO2009/133647及びWO2016/052463参照。)。これらの特許文献には、こうして提供された高分子化環状ニトロキシドラジカル(PEG-b-PMNT)由来のナノ粒子(N-TEMPO-RNP、O-TEMPO-RNP)は、例えば、静脈投与により長期にわたる血中滞留性が達成され、活性酸素種(ROS)に起因すると考えられる一定の炎症性疾患を予防または治療できることが記載されている。上記において、PMNTはポリ(メチルスチレン)の側鎖として環状ニトロキシドラジカルが結合していることを意味し、N-TEMPO及びO-TEMPOは、それぞれ高分子主鎖に-NH-及び-O-を介してTEMPOが共有結合していることを意味する(以下、本明細書を通してこれらの略号を同様に用いることもある。)。
【0008】
このような高分子化環状ニトロキシドラジカル(PEG-b-PMNT)由来のナノ粒子(N-TEMPO-RNP、O-TEMPO-RNP)は、正常組織、細胞内のミトコンドリアを破壊せず、過剰に発生したROSのみをターゲットとし、運動の継続に伴う生体中のROSを効果的に排除するとともに、運動能力の標準的な評価方法である、オールアウトテストにより比較対照に比べて有意に優れた結果をもたらすことが確認できた。
【0009】
したがって、限定されるものでないが、次の態様の発明が提供される。
[態様1]
下記式(I)で表される共重合体を有効成分として含んでなる運動能力を向上するための製剤。
【0010】
【0011】
上式中、
Aは、非置換又は置換C1-C12アルキルを表し、置換されている場合の置換基は、ホルミル基、式R'R"CH-基を表し、ここで、R'及びR"は独立してC1-C4アルコキシ又はR'とR"は一緒になって-OCH2CH2O-、-O(CH2)3O-もしくは-O(CH2)4O-を表す。
【0012】
L1は、直接結合又は二価の連結基を表す。
【0013】
L2-R1は、L2が-(CH2)a-NH-(CH2)a-又は-(CH2)a-O-(CH2)a-であり、R1が、式
【0014】
【0015】
のいずれかである。
【0016】
R2は、クロロ、ブロモ又はヒドロキシルである。
【0017】
上記において、L2-R1とR2を有するポリマー主鎖中の単位(unit)はランダムに存在し、L2-R1を有する単位は2~100の範囲内にあり、R2を有する単位は存在しない(0)か、若しくは1~20の範囲内にあり、ただし、これらの単位の総数はnとなる。
【0018】
ZはH、SHまたはS(C=S)-Phであり、Phは1または2個のメチルまたはメトキシで置換されていてもよいフェニルを表す。
【0019】
各aは、独立して0又は1~5の整数であり、
mは2~10,000の整数を表し、
nは3~100の整数を表す。
[態様2]
態様1に定義された式(I)で表される共重合体を有効成分として含んでなる運動による酸化ストレスのダメージを抑制するための製剤。
[態様3]
共重合体がナノ粒子の形態にある、態様1又は2の製剤。
[態様4]
L2が-(CH2)a-NH-(CH2)a-であり、共重合体が皮下投与されるものである、態様1~3のいずれかの製剤。
【発明の効果】
【0020】
ナノ粒子の形態にある式(I)で表される共重合体の投与により、長時間走行能力(走れなくなるまでの時間、オールアウトタイム)が、例えば、40%以上上昇し、また、運動による酸化ストレスのダメージが有意に抑制され得る。例えば、後者では、運動により生じる筋組織の炎症、細胞の障害等が未然に防がれ得る。
【発明の詳細な説明】
【0021】
本明細書中で使用する用語は、特記しない限り、当該技術分野で常用されている意味内容であるものと解釈される。
【0022】
ナノ粒子は、前記共重合体が水性媒体(水を含有し、必要により、リン酸緩衝剤及び/又は食塩、水可溶性有機溶媒を含有できる。)中で可溶化処理により自己組織的に又は会合することに形成されるナノサイズにある分子集合体である。かような分子集合体は、理論に拘束されるものでないが、水性媒体中で高い可溶性及び高い可動性を有するポリ(エチレングリコール)(PEG)セグメントをシェルとし、主として、L2-R1とR3を有する疎水性のポリマーセグメントから形成される領域(コア)を備えた、コア-シェル型ナノ粒子を形成するものと理解できる。ナノサイズとは、限定されるものでないが、10nm~500nm、10nm~300nm、10nm~100nm、又は10nm~60nmの範囲内にあるサイズである。
【0023】
式(I)で表されるブロック共重合体において、L1について定義する二価の連結基は、ポリ(エチレングリコール)(以下、PEGと略記する場合あり。)セグメントと側鎖としての環状ニトロキシドラジカルが結合したポリ(メチルスチレン)セグメントの機能、例えば、上記のナノ粒子形成能、環状ニトロキシドラジカルに起因するレドックス機能に悪影響を及ぼさないものであることができる。しかし、限定されるものでない二価の連結基は、一般的には、最大34個、好ましくは18個、より好ましくは最大10個の炭素、並びに任意に酸素及び窒素原子を含有する基を意味する。かような連結基として、具体的には次の基を挙げることができる:下式
【0024】
【0025】
で表される基から選ばれるか、又は-(CH2)bS-、-CO(CH2)bS-、-(CH2)bNH-、-(CH2)bCO-、-CO-、-OCOO-、-CONH-からなる群より選ばれ、各bは独立して、1~5の整数である、で表される。かような連結基が、結合の方向性により異なる構造を有する場合には、ここに、記載されている方向性を以って式(I)中に組み込まれるものとする。
【0026】
Aの定義に限定されるものでなく、本発明全体を通して、Ca-Czアルコキシ若しくはアルキルのように表示される場合、炭素原子数a個~z個を有する直鎖若しくは分岐のアルコキシ若しくはアルキルを意味し、アルキル部分若しくはアルキルとしては、限定されるものでないが、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、ペンチル、へキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、ウンデシル等を挙げることができる。
【0027】
L1としては、好ましくは、パラキシリレン若しくはメタキシリレン、または-(CH2)2S-の連結基であることができ、L2としては,定義中のaがゼロ(0)である、-NH-または-O-であることができる。L2について結合の方向性により異なる構造となる場合には、記載された連結基の右端がR1に結合するものと理解される。
【0028】
このような共重合は、前述したとおり、水、イオン強度の高められたまたは緩衝剤を含む水性媒体または水性溶液中で、疎水部をコアとし、親水部をシェルとするナノサイズの可溶化された又は分散したコア-シェル型ミセル粒子として安定に存在し得る。
【0029】
このような共重合体は、上記のWO2009/133647又はWO2016/052463に記載の方法により、また、必要により、これらの方法を改変した方法により製造できる。また、前記ナノ粒子は、式(I)の共重合体を例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)等の溶液を透析容器に充填し、例えば、分画(カットオフ)分子量12kDa~14kDaの透析膜を介して水に対して透析することにより、目的レドックス作用を有するナノ粒子として取得できる。
【0030】
ナノ粒子についていうナノサイズとは、それらを含む水性溶液または均質な水性分散体において、動的散乱光(DLS)による解析を行った場合に決定できる平均粒径意味する。水性媒体中で形成されたナノサイズの粒子は、例えば、凍結乾燥、遠心分離、等をすることにより、固形物として取得できる。
【0031】
こうして提供される、ナノ粒子は、水性媒体中で、前述したとおり、可溶化または均一に分散した溶液または液剤として提供でき、また、前述した固形物としても提供できるので、被験者又は個体に投与された後、高い血中滞留性を示すものであれば、あらゆる形態にある非経口製剤または経口製剤を調製するのに使用できる。かような製剤は、それ自体の当該技術分野で常用されている賦形剤、希釈剤を利用して注射剤、錠剤、丸薬、顆粒剤として提供することができる。賦形剤又は希釈剤は、限定されるものでないが、経口製剤としては、クロロカルメロースナトリウム、結晶セルロース、ヒプロメロース、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、マクロゴール4000、酸化チタン、等であることができる。一方で、非経口製剤、特に、注射剤は、水性媒体中に可溶化又均質に分散した状態にあるナノ粒子を含有する溶液に、必要により、糖類若しくは糖アルコール、又は可溶性ポリ(エチレングリコール)を含めることにより調製するができる。
【0032】
前述した製剤の運動能力を向上するための又は運動による酸化ストレスのダメージを抑制するための前記ナノ粒子の用量は、被験者又は個体の年齢、体重等、並びに予定される運動の負荷の強度や酸化ストレスの程度により変動するので最適化できないが、小実験の結果を考慮して、適宜決定できる。想定されている運動能力及び運動による酸化ストレスは、それぞれ、実験動物を使用したオールアウトテストによる走行時間の長短、及び腓腹筋のダメージ(プロテインカルボニル量の変動)や血中の抗酸化能、特に、スーパーオキシドディスムターゼの活性の低下、等である。したがって、当業者は、それ自体公知のオールアウトテストの実施や腓腹筋や血液の生理学的マーカーを測定することにより、本発明の効果を確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図2】製造例2で調製されたN-TEMPO-RNPの粒径分布を表す図
【
図3】試験例1におけるRNPの運動能力向上の効果の検証のための実験スケジュールの概略図
【
図4】試験例1(1)における運動強度の推定のための血中乳酸濃度のグラフ表示
【
図5】試験例1(2)におけるオールアウトの認定された走行時間のグラフ表示
【
図6】試験例1(3)(i)における腓腹筋中のプロテインカルボニル測定結果のグラフ表示
【
図7】試験例1(3)(ii)における血漿中SOD量のグラフ表示
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を実施する際の具体例について説明を行うが、本発明はこれらの例に限定されるものでない。
【0035】
製造例1:共重合体の合成は次合成スキームに従って実施した。
【0036】
【0037】
(1)ブロック共重合体PEG-CTAの合成
110℃にて,50gのポリ(エチレングリコール)モノメチルエーテル(MeO-PEG-OH,MW=5,000,Fluka,Germany)を減圧下で水もしくは水分がなくなるまで、2~12時間撹拌した。安定化のため窒素雰囲気下、撹拌しながら65℃で1時間撹拌した。窒素流条件下で脱水処理ポリマーにテトラヒドロフラン(THF)200mLをゆっくり加えた。10mLのブチルリチウム(BuLi,16mmol)を1:2の比率で加えることによりヒドロキシル基をリチオ化した(10mmol PEG+20mmol BuLi,MeO-PEG-OLi)。次いで、リチオ化PEG溶液に10倍過剰量のα、α-ジクロロ-p-キシレン(DCPX,C6H6(CH2Cl)2,MW=175.05)(25g)を加え、撹拌しながら65℃で、48時間撹拌した。混濁したネオングリーンへの色変化に注意し、LiClの沈殿(容器の上部)を観察する。精製するため、集めた溶液に冷イソプロピルアルコール(IPA)を添加して沈殿を形成させ、遠心した(8,800rpm、2分間、-4℃)。沈殿物を集め、温メタノールで可溶化し、次いで、冷IPAを加え、遠心した。この操作を8~9回繰り返した。次いで、精製されたポリマーをN2条件下、丸底フラスコ中で撹拌しながら純THF(200mL)に溶解させた。この段階でポリマー溶液は透明であった。このポリマー溶液に直ちにMgBr-CS2溶液を加えた。更なるプロセスを行うまで、40℃で、少なくとも12~73時間撹拌しながらインキュベーションした。集めた溶液から冷IPAを用いて沈殿させ、遠心した(8,800rpm、3分間、-4℃)。遠心後、沈殿物を集め、温メタノールで溶解した後、冷IPAを加え、遠心した。この操作を上層液が澄明になるまで5~8回繰り返した。この段階で、得られた沈殿物の色はピンクであった。真空下で36時間乾燥し、PEG-CTAの生成物50gを得た。
【0038】
得られたPEG-CTAが目的のものであることを1H NMRスペクトルにより確認した。
【0039】
(2)PEG-b-PCMS共重合体の合成:
連鎖移動剤と共にテローゲンとしてPEG-CTAを用いるクロロメチルスチレン(CMS)のラジカルテロメリゼーションによりメトキシ-ポリ(エチレングリコール)-b-ポリ(クロロメチルスチレン)(PEG-b-PCMS)を合成した。このPEG-b-PCMSのポリマー主鎖は親水性セグメントとしてのPEGと疎水性セグメントしての反復単位26のPCMSから構成されていることが1H NMRデータから確認された。
【0040】
当該合成を要約すると、次のとおりである。
【0041】
PEG-b-CTA(36g)をフリーラジカル開始剤、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)の240mg及びCMS56mLを混合し、高純度トルエン(200mL)に溶解した。この混合物を窒素雰囲気下24時間60℃で撹拌したのち、イソプロピルアルコールに投入し、生成物の沈殿を得た。イソプロピルアルコールをデカンテーションし、減圧乾燥によって生成物を得た。
【0042】
得られたPEG-b-PCMSが目的のものであることは1H NMRスペクトルにより確認した。
【0043】
(3)PEG-b-PMNTの合成
PEG-b-PCMS(4.67g)とN-TEMPO(10g)を混合し、高純度DMFに溶解した。この混合物を窒素雰囲気下24時間室温で撹拌したのち、イソプロピルアルコールに投入し、生成物の沈殿を得た。イソプロピルアルコールをデカンテーションし、減圧乾燥によって生成物を得た。
【0044】
得られたPEG-b-PMNTはESRスペクトルによりN-TEMPOの導入を確認し、得られたPEG-b-PMNTにフェニルヒドラジンを加えて1H NMRスペクトルにより確認し、得られたPEG-b-PMNTが目的のものであることを確認した。
【0045】
製造例2:N-TEMPO-RNPの調製例
PEG-b-PMNTをDMFに300mg/mLの濃度で溶かし、その溶液を透析膜(分画(カットオフ)分子量12kDa~14kDa)に入れて密閉し、蒸留水に対して透析を行うことでRNPを作製した。蒸留水は透析開始から1、3、5、8、20時間ごとに交換し、24時間後に透析膜内の溶液を回収した。透析膜内の溶液に10倍の濃さを持つPBSを最終濃度が1倍のPBS濃度になるように加えた。N-TEMPO-RNP(以下、RNPと略記する。)は動的光散乱法(DLS)により、粒径と粒径分布を測定した。粒径(Z-Ave)は23nm、多分散指数(PDI)は0.122となり粒径分布がそろっているといえる(
図2参照。)。
【0046】
試験例1:RNPの運動能力向上効果の検討法
本試験では、運動能力の評価を行う目的で、ラット(F344,10週齢,雄)を用い、
図3に示される実験スケジュールにしたがい、オールアウトテストを行った。すなわち、このテストでは、ラットを
図3にみられるように、次の4グループに無作為に分けて実施した(n=6)。
【0047】
(a)PBS投与安静群(PBS+SED)
(b)PBS投与オールアウト群(PBS+AO)
(c)TEMPOL投与オールアウト群(TEMPOL+AO)
(d)RNP投与オールアウト群(RNP+AO)
本テストではラットをある一定の速度で走行させ、走行不能の状態になるまでの時間を測定することで運動能力が評価される。
【0048】
具体的には、下記表1に示されるとおりに走行学習をラットに行い、安静及びオールアウトテストの当日はその3時間前に被験物質の皮下投与を行った上で、絶食を開始した。安静群はトレッドミル上で60分間安静にさせ、各オールアウト群には、
図3に示されるスケジュールにしたがってテストを施した。比較対照として、リン酸緩衝化生理食塩液(PBS)、低分子抗酸化剤(TEMPOL)を投与した群も用意した。本テストにおけるオールアウトの定義を「電気ショックを5回与えてもその場から動かず、その後トレッドミルから取り出した際に後肢が完全に動かず、その場から全く移動できなくなった状態」とした。オールアウトの判定は投与物の内容を把握していない第三者により行った。
【0049】
【0050】
(1)運動強度の推定
安静およびオールアウトテスト終了後に血中乳酸値をラクテート・プロ
TM2 LT-1730を用いて測定し、実験動物をペントバルビタールナトリウムの過剰投与により処置した後、解剖を行った。血中乳酸値の測定結果を
図4に示す。血中乳酸値は運動強度依存的に増加するため、運動強度を推定する際の指標として使用されている。高い血中乳酸値はより高い運動強度であることを示す。
【0051】
図4から次の事象について言及できる。PBS+AO群、TEMPOL+AO群はPBS+SED群と比較して有意な血中乳酸の高値を示した。このことはオールアウトテストが安静時に比べて高い運動強度で行われたことを示している。しかし、RNP+AO群はPBS+SED群と比較して有意な血中乳酸の高値を示さなかった。このことは、RNPの投与により運動強度が相対的に低下したことを示唆している。
【0052】
(2)オールアウトに至るまでの時間
テストの結果を
図5に示す。
図5からTEMPOL群ではPBS群に比べて有意な走行時間の延長を認めなかったが、RNP群ではTEMPOL群、PBS群と比較して有意な走行時間の延長を認めた。RNP群はPBS群と比較して40%の走行時間の延長が認められる。
【0053】
(3)酸化ストレスおよび抗酸化能
図3に示される実験スケジュールにおいて、ペントバルビタールナトリウム過剰投与処置後の腓腹筋の酸化ストレスを測定した。
【0054】
(i)酸化ストレスの項目としてプロテインカルボニル量を評価した。
プロテインカルボニル量は、Lushchak,Volodymyr I.,et al.“Hyperoxia results in transient oxidative stress and an adaptive response by antioxidant enzymes in goldfish tissues.”The International Journal of Biochemistry & Cell Biology37.8(2005):1670-1680.を参考にして測定した。結果を
図6に示す。
図6から、PBS+AO群ではPBS+SED群と比較して有意なプロテインカルボニル量の高値が確認できるものの、RNP+AO群ではPBS+SED群と比較して有意なプロテインカルボニル量の高値を認めなかった。
【0055】
(ii)血漿中の抗酸化能を評価するための測定項目としてスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)を選択した。
SODの活性は、Peskin,Alexander V.,and Christine C.Winterbourn.“Assay of superoxide dismutase activity in a plate assay using WST-1.”Free Radical Biology and Medicine 103(2017):188-191.を参考にして測定した。結果を
図7に示す。
図7から、PBS+SED群とPBS+AO群を比較しても有意なSOD量増加を確認できなかった。このことは、オールアウトテストは抗酸化能を増加させないことを意味する。しかし、RNP+AO群はその他の群と比較して有意に高いSOD量を示した。このことはRNPが高い血中滞留性を持つために抗酸化能を発揮し続けたことに起因すると考えられる。
【0056】
(4)まとめ
以上の結果から、RNPはミトコンドリアへの副作用がなく、しかも単回の投与で運動能力を向上させる新しい抗酸化物質として利用できる。そのため、アスリートの記録更新や一般人の運動実践を促進することができ、クオリティーオブライフ(QOL)の向上や運動による健康増進に役立つと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明により、新規な運動能力を向上させ、運動による酸化ストレスのダメージを抑制するための製剤が提供される。このような製剤は、運動による健康増進やQOLの向上に大いに役立ち、例えば、製薬業で利用可能である。