(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】熱電対
(51)【国際特許分類】
G01K 7/02 20210101AFI20230726BHJP
【FI】
G01K7/02 A
(21)【出願番号】P 2020195002
(22)【出願日】2020-11-25
【審査請求日】2022-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】390007744
【氏名又は名称】山里産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】阿南 邦義
(72)【発明者】
【氏名】垣手 龍
(72)【発明者】
【氏名】藤室 孝之
【審査官】松山 紗希
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-158424(JP,A)
【文献】特開2013-110260(JP,A)
【文献】特開2000-234961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本の白金ロジウム合金製線材からなる正極(+)側素線と、複数本の白金ロジウム合金製線材、または複数本の白金製線材からなる負極(-)側素線とを備えた熱電対であって、前記一本の正極(+)側素線は、前記熱電対の長さ方向に沿って配設された筒状碍子に挿入された状態で設置され、前記複数本の負極(-)側素線は、均一な撚りピッチで撚り合わされている熱電対。
【請求項2】
前記負極(-)側素線の撚りピッチと、前記負極(-)側素線の直径との比率は、10倍から40倍の範囲内である請求項1記載の熱電対。
【請求項3】
前記負極(-)側素線の本数は、2本から6本の範囲内である請求項1または2記載の熱電対。
【請求項4】
前記正極(+)側素線は、Pt-Rh30%合金製線材であり、前記負極(-)側素線は、Pt-Rh6%合金製線材である請求項1~3のいずれか1項に記載の熱電対。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉および各種燃焼炉等の高温に加熱される設備の熱風温度測定に好適に用いられる熱電対に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、温度測定用の熱電対としては、種類の異なる二本の熱電対素線を先端で互いに接続し、この接続部(温接点)間に温度差が生じたときに熱起電力が閉回路に発生し、回路に電流が流れるゼーベック効果を利用して温度を測定するものが知られている。そして、高温下の温度測定には、S熱電対(Pt対Pt-Rh10%合金)や、R熱電対(Pt対Pt-Rh13%合金)、またはB熱電対(Pt-Rh6%合金対Pt-Rh30%合金)等のようなPt対Pt-Rh系熱電対が用いられている。
【0003】
このような白金を主体とした熱電対では、高純度の白金を有する負極(-)側の線が、Rhの含有量が多い正極(+)側の素線に比べて低強度であるため、使用時に熱電対の断線は、負極(-)側の素線側で生じることが多い。特に、高炉の熱風炉等に熱電対を設置した場合には、1000℃以上の高温下において、負極(-)側の素線に軸方向応力や振動等が作用することによるクリープ破断が生じ易く、熱電対の寿命が極めて短いという問題があった。
【0004】
すなわち、高温下の使用状況において、負極(-)側の素線に軸方向応力や振動等が作用することによる素線の変形が時間とともに徐々に増大した後、素線の応力がクリープ限度に達した時点で、素線の変形が急激に増大して破断するというクリープ破断現象が生じ易く、1カ月程度の寿命しか得られないこともあった。
【0005】
このため、例えば特許文献1に開示されているように、Pt素線を構成するPt純度5N以上の原料に、Zr換算で0.02~0.5質量%のZr酸化物を分散させることにより、負極(-)側のPt素線の熱起電力値をほとんど低下させることなく、そのクリープ強度を高めて、その破断を防止することが行われている。しかし、このように特殊な加工が施されたPt素線を用いた場合には、製品価格が高価になるという問題がある。特に、近年では、ロジウム(Rh)等からなる貴金属の価格が顕著に高騰しているため、優れた耐久性を有する熱電対を安価に製造することが望まれている。
【0006】
また、特許文献2に開示されているように、熱電対において、負極(-)側の素線および正極(+)側の素線の先端部をそれぞれ所定の長さに折り曲げて、この折り曲げ部を各素線からなる芯線にスパイラル状に巻き付けて二重構造とする等により、装置本体取り付け部付近に位置する素線の機械的強度を高め、高温下においても、劣化、脆化による破断を抑制したものが知られている。しかし、このように、各素線の芯線に折り曲げ部をスパイラル状に巻き付けるようにした構成では、高温下で作用する引張応力等の大部分が中心部の芯線に集中して、この芯線がクリープ破断し易い傾向がある。このため、各素線を二重構造としたにも拘わらず、熱電対の通電信頼性を確保することができず、その寿命をそれほど長くすることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許5308499号
【文献】特許3026541号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、高温下の使用状況においても素線が短期間で破断することがなく、優れた耐久性を有するとともに、安価に製造することができる熱電対を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の発明を包含する。
(1) 1本の白金ロジウム合金製線材からなる正極(+)側素線と、複数本の白金ロジウム合金製線材、または複数本の白金製線材からなる負極(-)側素線とを備えた熱電対であって、前記一本の正極(+)側素線は、前記熱電対の長さ方向に沿って配設された筒状碍子に挿入された状態で設置され、前記複数本の負極(-)側素線は、均一な撚りピッチで撚り合わされている熱電対。
(2) 前記負極(-)側素線の撚りピッチと、前記負極(-)側素線の直径との比率は、10倍から40倍の範囲内である(1)記載の熱電対。
(3) 前記負極(-)側素線の本数は、2本から6本の範囲内である(1)または(2)熱電対。
(4) 前記正極(+)側素線は、Pt-Rh30%合金製線材であり、前記負極(-)側素線は、Pt-Rh6%合金製線材である(1)~(3)のいずれかに記載の熱電対。
【発明の効果】
【0010】
本発明による熱電対、およびこの熱電対を備えた温度測定装置によれば、複数本の負極(-)側素線を設けることにより、その1本当たりに作用する荷重及び応力を低減することができる。また、複数本の負極(-)側素線を均一な撚りピッチで撚り合わせたため、この素線を並列状態で設置したり、不均一な撚りピッチで撚り合わせたりした場合のように、特定の素線に過大な荷重及び応力が作用するのを防止することができる。したがって、複数本の負極(-)側素線を一体に撚り合わせることによる相互補強作用が十分に発揮され、各負極(-)側の素線のクリープ破断等が効果的に防止されることにより、高温下の使用状況においても、熱電対の寿命を効果的に伸ばすことができる。しかも、特許文献1に開示されているように、特殊な加工が施されたPt素線を用いた場合に比べて、熱電対の製造コストを効果的に低減することができる。
【0011】
また、負極(-)側の素線に比べて強度が高い正極(+)側素線の本数を1本に設定し、この正極(+)側素線を、熱電対の長さ方向に沿って配設された筒状碍子に挿入したため、この筒状碍子により、正極(+)側素線の絶縁性及び耐熱度を確保して、正極(+)側素線の損傷を防止できるとともに、複数本の正極(+)側素線を設けた場合や、素線の直径を拡大する場合に比べて、熱電対の製造コストを大幅に低減できる等の利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】温度測定装置の実施形態を示す部分断面説明図である。
【
図2】本発明に係る熱電対の実施形態を示す断面図である。
【
図4】負極(-)側素線の撚り合わせ状態を示す説明図である。
【
図6】素線の本数および線径と素線価格との相関関係を示すグラフである。
【
図7】負極(-)側素線の撚り合わせ状態の変形例を示す写真である。
【
図8】負極(-)側素線の撚り合わせ状態の別の変形例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1に示すように、本発明に係る熱電対1を備えた温度測定装置10は、例えば1m程度の全長を有する熱電対1を収容する内側保護管2と、この内側保護管2を収容する外側保護管3と、この外側保護管3を包持するソケット4と、このソケット4の基端部に設けられた取付フランジ5を備えている。前記ソケット4および取付フランジ5は、SUS304等のステンレス鋼からなり、この取付フランジ5を介して温度測定装置10が、後述の温度測定部に取り付けられるように構成されている。また、温度測定装置10の基端部には、端子箱6が設けられている。
【0015】
熱電対1は、
図2および
図3に示すように、0.5mm程度の直径を有する白金ロジウム合金製線材からなる1本の正極(+)側素線11と、0.5mm程度の直径を有する複数本の白金ロジウム合金製線材、または複数本の白金製線材からなる負極(-)側素線12とを備えている。
【0016】
前記正極(+)側素線11としては、高温の温度測定が可能で高強度のPt-Rh30%合金製線材が好適に使用される。この正極(+)側素線11は、熱電対1の長さ方向に沿って配設された筒状碍子13に挿入された状態で、内側保護管2内に収容されている。この筒状碍子13は、例えば1.2mm程度の外径と、0.8mm程度の内径と、5ミリ程度の全長を有する硬質磁器製の筒状体からなっている。そして、熱電対1の長さ方向に沿って配設された複数個の筒状碍子13に、正極(+)側素線11が順次挿入されることにより、各筒状碍子13が、いわゆる数珠状に連結されるように構成されている。
【0017】
なお、正極(+)側素線11を長尺の筒状碍子内に挿入するように構成した場合、温度測定装置10を垂直に設置した際に、長尺の筒状碍子の全重量が正極(+)側素線11の下端に加わり、通常の温度変動や振動等の応力に加えて、さらに荷重が増大するために寿命が短くなることが避けられない。したがって、上述のように正極(+)側素線11は、少し緩めに素線を配置できるように短い複数の筒状碍子13内に挿入した構成とすることが必要である。
【0018】
一方、前記負極(-)側素線12としては、上述のPt-Rh30%合金製線材よりも低強度のPt-Rh6%合金製線材が好適に使用される。そして、複数本の負極(-)側素線、図例では2本の負極(-)側素線12が均一な撚りピッチで螺旋状に捩じられることにより、一体に撚り合わされている。なお、負極(-)側素線12の本数は、2本に限らず3本以上であってもよいが、負極(-)側素線12の本数が多すぎると、各負極(-)側素線12を均一な撚りピッチで撚り合わせることが困難となり、また素線の材料費も高額となる。このため、負極(-)側素線12の本数は、2本から6本の範囲内に設定することが好ましい。
【0019】
負極(-)側素線12の撚りピッチ、つまり
図4(a)~(c)に示すように、1本の素線12が完全な螺旋を作って撚り線の周りを一回転する長さLと、負極(-)側素線12の直径dとの比率(L/d)は、素線12の本数、および各素線12の巻き固め度合いによっても異なるが、10倍から40倍の範囲内であることが好ましい。
【0020】
例えば、
図4(a)に示すように、0.5mmの直径dを有する2本の負極(-)側素線12を、少し固めに捩じって螺旋状に撚り合わせた場合、撚りピッチLは10mmから13mmとなり、撚りピッチLと直径dとの比率(L/d)は、20倍から26倍となる。また、
図4(b)に示すように、0.5mmの直径dを有する3本の負極(-)側素線12を、少し固め捩じって螺旋状に撚り合わせた場合、撚りピッチLは13mmから16mmとなり、撚りピッチLと直径dとの比率(L/d)は、26倍から32倍となる。
図4(c)に示すように、0.5mmの直径dを有する4本の負極(-)側素線12を、少し固め捩じって螺旋状に撚り合わせた場合、撚りピッチLは16mmから18mmとなり、撚りピッチLと直径dとの比率(L/d)は、32倍から36倍となる。
【0021】
上述のデータから、負極(-)側素線12の撚りピッチLと直径dとの比率(L/d)が40倍よりも大きくなると、各素線12がばらばらになって、複数本の負極(-)側素線12を一体に撚り合わせることによる相互補強作用が十分に得られなくなることがわかる。一方、上記の比率(L/d)が10倍未満になると、各素線12を均一に撚り合せるためには、素線本数に応じて撚り加工時に作用させる外力を大きくする必要がある。その加工外力で素線内部に残留応力が生じ、高温時におけるクリープ強度の低下を招くために、各素線12が破断し易くなる。したがって、上記の比率(L/d)を、10倍から40倍の範囲内に設定することが好ましい。
【0022】
熱電対1の先端部には、
図2に示すように、正極(+)側素線11の先端部と、負極(-)側素線12の先端部とを捩じって結合した状態で、この結合部を溶接する等により一体化した温接点(温度測定部)14が形成されている。そして、熱電対1を内側保護管2内に挿入して、温接点14を内側保護管2の先端部近傍に位置させることにより、熱電対1が内側保護管2内に収容されるようになっている。
【0023】
内側保護管2は、高純度アルミナからなるセラミック材により形成された有底筒状体からなり、その先端部には半球状の内側封止部21が設けられている。そして、内側保護管2内には、耐熱性粒状物22が充填され、この耐熱性粒状物22により熱電対1と内側保護管2との隙間が埋められている。この耐熱性粒状物22は、使用温度や使用目的等に応じて、熱伝導性に優れるアルミナや窒化アルミニウム、マグネシア、ボロンナイトライド等のセラミック破砕粉又は成形粒子を用いることが好ましく、その形状や大きさは特に限定されない。
【0024】
また、外側保護管3は、窒化珪素を結合体とした炭化珪素材により形成された有底筒状体からなり、その先端部には、
図1に示すように円板状の外側封止部31が設けられている。そして、外側保護管3を内側保護管2に外嵌することにより、外側保護管3の先端部近傍に内側保護管2の先端部を位置させた状態で、内側保護管2が外側保護管3内に収容される。なお、外側保護管3の材質は、窒化珪素を結合体とした炭化珪素材に限られない。
【0025】
外側保護管3と内側保護管2との間には、
図1に示すように、1000℃以上の高温域でも 安定して使用可能なアルミナ(Al2O3)とシリカ(SiO2)等を主成分としたセラミックファイバー等からなる耐火繊維材32と、アルミナ(Al2O3)粉末等からなる耐熱性粒状物33とが配置されている。
【0026】
次に、本実施形態の熱電対1および温度測定装置10の製造方法を説明する。まず、熱電対1の長さ方向に沿って配設された筒状碍子13に挿入された一本の正極(+)側素線11と、均一な撚りピッチで螺旋状に撚り合わされた複数本の負極(-)側素線12と、上述の温接点14とを備えた熱電対1を作製する。この熱電対1を、
図2に示すように内側保護管2内に挿入して収容するとともに、内側保護管2内に耐熱性粒状物22を充填し、この耐熱性粒状物22により熱電対1の周囲を覆うように配置する。この際に、
図2に示すように、正極(+)側素線11は、波打つように蛇行するように少し緩めに配置された状態で固定され、負極(-)側素線12は、略直線的に配置された状態で固定される。
【0027】
そして、
図1に示すように、内側保護管2を外側保護管3内に挿入するとともに、外側保護管3と内側保護管2との間において、その最先端部近傍に耐火繊維材32を充填して、クッション性を持たせるとともに、他の内側保護管2の外周部には耐熱性粒状物22を充填することで略固定状態とする。このようにして、上述の熱電対1と、この熱電対1を収容する内側保護管2と、この内側保護管2を収容する外側保護管3とを備え、前記内側保護管2内に耐熱性粒状物22が充填され、かつ外側保護管3と内側保護管2との間において、その最先端部近傍に耐火繊維材32が配設されるとともに、他の内側保護管2の外周部には、耐熱性粒状物33が配設された温度測定装置10が製造される。
【0028】
図5は、高炉用熱風炉の配置図を示し、複数の熱風炉から熱風本管71を介して高炉7に送風される熱風の温度を測定する高炉送風温度測定部72と、各熱風炉の蓄熱室73で加熱された熱風を燃焼室74および混冷室75を経て熱風本管71に供給する混冷室出口部76とに、本発明に係る熱電対1を備えた温度測定装置10が配置されている。
【0029】
前記高炉送風温度測定部72は、1200℃前後の高温下に晒されるとともに、各熱風炉で略一定の温度に調整された熱風が極めて高速で流動するために、この高炉送風温度測定部72に配置された従来の熱電対では寿命が短く、6カ月~14カ月程度で断線していた。
【0030】
一方、混冷室出口部76は、蓄熱室73から燃焼室74を経た高温(1150℃~1300℃)の熱風に、必要に応じて所定温度(50℃~80℃)の冷風が混入されるため、顕著な温度変動が生じるとともに、極めて高い流速下で各熱風炉の切替弁(図示せず)が開閉されることによる機械振動が加わるという条件下にある。したがって、前記混冷室出口部76に配置された従来の熱電対は、1カ月~2カ月程度の寿命しかなかった。
【0031】
本発明の実施形態に係る熱電対1は、上述のように1本のPt-Rh30%合金製線材からなる正極(+)側素線11が熱電対1の長さ方向に沿って配設された筒状碍子13に挿入された状態で設置され、かつ複数本のPt-Rh6%合金製線材からなる負極(-)側素線12が均一な撚りピッチで撚り合わされているため、上述の高炉送風温度測定部72および混冷室出口部76等に配置した場合においても、優れた耐久性を有するとともに、安価に製造することができるという利点がある。
【0032】
すなわち、
図5に示す高炉用熱風炉の配置図において、高炉送風温度測定部72および混冷室出口部76に温度測定装置10を取り付けた場合、この取付部の温度変化等に応じた軸方向応力と、各熱風炉に設けられた切替弁が開閉されることによる機械的振動に応じた曲げ応力や送風振動等とが熱電対1に作用するため、熱電対1を構成する素線、特にRhの含有量が少ない低強度の負極(-)側の素線12にクリープ破断が生じ易い傾向がある。このため、当実施形態では、Pt-Rh6%合金製線材からなる複数本の負極(-)側素線12を設けることにより、負極(-)側素線12の1本当たりに作用する荷重及び応力を低減するようにしている。
【0033】
そして、上述のように複数本の負極(-)側素線12を均一な撚りピッチで撚り合わせた構成としたため、各負極(-)側素線12を並列状態で設置したり、各負極(-)側素線12を不均一な撚りピッチで撚り合わせたりした場合のように、特定の負極(-)側素線12に過大な荷重及び応力が作用するのを防止することができる。この結果、複数本の負極(-)側素線12を一体に撚り合わせることによる相互補強作用が十分に発揮され、各負極(-)側の素線12のクリープ破断等が効果的に防止される。したがって、本発明の熱電対1を、例えば高温下で顕著な温度変動と、機械振動が加わる混冷室出口部76の温度測定に使用した場合に、従来、1カ月~2カ月程度であった寿命を、1年以上あるいは数年以上に伸ばすことが可能である。
【0034】
なお、上述の実施形態に示すように0.5mmの直径dを有する複数本のPt-Rh6%合金製線材からなる負極(-)側素線12を設けた構成に代え、負極(-)側素線12の直径dを1mmに増大することによっても、負極(-)側の素線12のクリープ破断を、ある程度は抑制することができる。しかし、2020年6月の時点における直径1mmのPt-Rh6%合金製線材の価格は、直径0.5mmのPt-Rh6%合金製線材の約4倍である。したがって、一本の太い負極(-)側素線12を用いる場合に比べて、複数本の細い負極(-)側素線12を用いた方が、熱電対1の製造コストを安価に抑えることが可能である。
【0035】
2020年6月の時点における素線単価に基づき、素線の本数および線径に応じて素線価格がどのように変化するかを検証したところ、
図6に示すようなデータが得られた。この
図6において、線Aは、0.5mmの直径dを有する1本のPt-Rh30%合金製線材からなる正極(+)側素線11の価格を示し、線Bは、本数に応じて変化するPt-Rh6%合金製線材からなる負極(-)側素線12の価格を示している。
【0036】
図6において、線Cは、線Aに示す正極(+)側素線11の価格と、線Bに示す負極(-)側素線12の価格と合計金額、つまり負極(-)側素線12の本数に応じて変化する本実施形態における熱電対1の価格を示している。なお、
図6において、線Dは、1mmの直径を有する1本のPt-Rh30%合金製線材からなる正極(+)側素線11と、1mmの直径を有する1本のPt-Rh6%合金製線材からなる負極(-)側素線12とを用いた場合の合計金額、つまり本発明の比較例における熱電対1の価格を示している。
図6に示すデータから、線Cで示す本実施形態における熱電対1は、負極(-)側素線12の本数が8本を超えない限り、線Dで示す比較例よりも安価に製造できることがわかる。
【0037】
また、本発明では、上述のように負極(-)側の素線12に比べてRhの含有量が多く、強度が高い正極(+)側素線11の本数を1本に設定し、この正極(+)側素線11を、熱電対1の長さ方向に沿って配設された筒状碍子13に挿入している。この筒状碍子13により、正極(+)側素線11の絶縁性及び耐熱度を確保して、正極(+)側素線11の損傷を防止することができる。また、複数本の正極(+)側素線を設けた場合に比べて、熱電対1の製造コストを大幅に低減できるという利点がある。
【0038】
図2に示すように、熱電対1を内側保護管2内に挿入して収容する際に、一本の正極(+)側素線11を波打つように蛇行させるとともに、複数本の負極(-)側素線12を均一な撚りピッチで螺旋状に撚り合わされせた状態で設置した場合、高温下の使用状態で生じる温度変化等に応じ、正極(+)側素線11に大きな引っ張り力が作用するのを抑制することができるとともに、負極(-)側の各素線12に引っ張り力を分散させて支持させることができる。このため、熱電対1の損傷を、より効果的に防止して、その長寿命化を図ることができるという利点がある。
【0039】
なお、
図4に示すように、複数本の負極(-)側素線12を螺旋状に撚り合わせてなる上記実施形態に代え、
図7(a)~(c)に示すように、複数本の負極(-)側素線12を、三つ編み、四つ編み、もしくは五つ編み等からなる丸編み状に撚り合わせ、または
図8(a)~(c)に示すように、複数本の負極(-)側素線12を、平編み状(ミサンガ編みともいう)に撚り合わせてもよい。
【0040】
上記のように複数本の負極(-)側素線12を丸編み状、または平編み状に撚り合わせた場合には、各負極(-)側素線12がばらつくのを、より効果的に防止できるという利点がある。しかし、細径の負極(-)側素線12を丸編み状、または平編み状に撚り合わせた場合、複数本の素線を複雑に絡ませる必要があるため、作業は煩雑で製造コストが高くなり、さらには編み加工時の外力による内部残留応力も大きくなり、その分クリープ強度が低下するという欠点がある。したがって、熱電対1の製造コストを効果的に低減するためには、
図4に示すように、複数本の負極(-)側素線12を螺旋状に撚り合わせた構成とすることが好ましい。
【0041】
また、上述の実施形態では、負極(-)側素線12の撚りピッチLと、その直径dとの比率は、10倍から40倍の範囲内としている。このため、負極(-)側素線12の撚りピッチLと直径dとの比率(L/d)が大きくなすぎることによる弊害、つまり各素線12がばらばらになって、複数本の負極(-)側素線12を一体に撚り合わせることによる相互補強作用が十分に得られなくなることを防止しつつ、上記の比率(L/d)が小さくなりすぎて、負極(-)素線12の撚り合せ加工時に内部残留応力が上昇して各素線12が破断し易くなるのを防止できるという利点がある。
【0042】
さらに、上記実施形態に示すように、負極(-)側素線12の本数を、2本から6本の範囲内に設定した場合には、負極(-)側素線12を均一な撚りピッチで撚り合わせることで加工時における内部残留応力の上昇を極めて小さくすることができ、複数本の負極(-)側素線12を一体に撚り合わせることによる相互補強作用が十分に得られるという利点がある。
【0043】
なお、複数本のPt-Rh6%合金製線材等が均一な撚りピッチで撚り合わされてなるなる負極(-)側素線12の絶縁性及び耐熱度を、より向上させるために、上記正極(+)側素線11と同様に、負極(-)側素線12も熱電対1の長さ方向に沿って配設された筒状碍子に挿入した状態とすることも考えられる。しかし、複数本の白金ロジウム合金製線材が撚り合わされてなる負極(-)側素線12を、筒状碍子に挿入するのは極めて困難であるため、現実的ではない。
【0044】
上記実施形態に示すように、正極(+)側素線11をPt-Rh30%合金製線材により構成するとともに、負極(-)側素線12をPt-Rh6%合金製線材により構成した場合には、熱起電力が極めて低く、高温の温度側定に向いているという利点がある。なお、上述の構成に代え、Pt-Rh13%合金製線材で正極(+)側素線11を構成するとともに、Pt製線材で負極(-)側素線12を構成することも可能である。さらに、Pt-Rh10%合金製線材で正極(+)側素線11を構成するとともに、Pt製線材で負極(-)側素線12を構成することも可能である。
【0045】
また、上述の構成を有する熱電対1と、これを収容する内側保護管2と、この内側保護管2を収容する外側保護管3とを備え、内側保護管2内に耐熱性粒状物22が充填された温度測定装置10によれば、前記耐熱性粒状物22、内側保護管2および外側保護管3により、熱電対1の絶縁性及び耐熱度を効果的に確保して、高温下の使用時における熱電対1の損傷を効果的に防止しつつ、熱電対1の温接点14に対する熱伝導性を良好に維持できるという利点がある。
【0046】
さらに上述の実施形態に示すように、外側保護管3と内側保護管2との間において、その最先端部近傍に耐火繊維材32を充填するとともに、他の内側保護管2の外周部に耐熱性粒状物22を充填した構成によれば、温度測定部から外側保護管3に伝達された振動を耐火繊維材32等により吸収して内側保護管2に伝達されるのを防止できるとともに、外側保護管3内に内側保護管2を安定して支持させることができる。したがって、高温下の使用状況下において熱電対1に振動等が作用することに起因するクリープ破断の発生を効果的に防止することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 熱電対
2 内側保護管
3 外側保護管
10 温度測定装置
11 正極側(+)素線
12 負極側(-)素線
13 筒状碍子
22 耐熱性粒状物
32 耐火繊維材
33 耐熱性粒状物
L 撚りピッチ
d 素線の直径