(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】ウェアラブルデバイスにおける熱負荷を放散する方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
A61F 7/10 20060101AFI20230726BHJP
A61F 7/03 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
A61F7/10 322
A61F7/08 333
(21)【出願番号】P 2020541774
(86)(22)【出願日】2019-01-11
(86)【国際出願番号】 US2019013348
(87)【国際公開番号】W WO2019152172
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-12-08
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516106209
【氏名又は名称】エンブル・ラブス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Embr Labs Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100189544
【氏名又は名称】柏原 啓伸
(72)【発明者】
【氏名】マシュー・ジェイ・スミス
(72)【発明者】
【氏名】クリステン・ウォーレン
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ・エドウィン・ペンダーグラスト
【審査官】佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-28130(JP,A)
【文献】特開平9-154867(JP,A)
【文献】特表2016-538972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 7/10
A61F 7/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の温度を操作するためのデバイスにおいて、
表面に近接して配置されるように構成されて設定された少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子と、
前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子、及び前記デバイスの外部環境と、熱的に連絡するヒートシンクと、並びに、
前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子と電気的に連絡するコントローラ
と
を含み、
前記コントローラは、
前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子に、
第1の温度を前記表面に適用させ
、
前記ヒートシンクの温度が第1の閾値温度を超えたことを検出し、
前記ヒートシンクの温度が前記第1の閾値温度を超えたことを検出すると、前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子に、前記第1の温度と前記ヒートシンクの温度との間にある第2の温度を前記表面に適用させ、ここで、前記ヒートシンクは前記第2の温度が前記表面に適用されている間、熱負荷を放散させるものであり、
並びに、
前記ヒートシンクの温度が前記第1の閾値温度よりも低い第2の閾値温度未満であることを検出した後に、前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子に、前記第1の温度を前記表面に適用させる
ように構成されている、
デバイス。
【請求項2】
前記第2の温度が前記表面に適用されたときに前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子によって発生する熱の変化率が、前記ヒートシンクからの熱放散の変化率よりも小さい、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記コントローラが、前記温度変化の少なくとも一部の間、0.01℃/sから1.0℃/sの間の変化率で、前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子を前記第1の温度から前記第2の温度に変化させるように構成されている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
第2の温度が30℃と36℃との間である、請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
第2の温度が、前記表面の初期温度と前記ヒートシンクの温度との間である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
第2の温度が、前記表面の初期温度と前記第1の温度との間である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記コントローラが、前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子を、
前記ヒートシンクの温度が
前記第1の閾値温度よりも大きい
第1の持続時間の後に、前記第1の
温度を適用することから前記第2の
温度を適用することに切り替えるように、構成され、
並びに、
前記コントローラが、前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子を、前記ヒートシンクの温度が
前記第2の閾値温度よりも小さい
第2の持続時間の後に、前記第2の
温度を適用することから前記第1の
温度を適用することに切り替えるように構成されている、
請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
前記ヒートシンクが、受動ヒートシンクである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
前記コントローラが、前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子に、前記表面を能動的に冷却させるように、構成されている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子が、熱電素子である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
前記コントローラが、前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子に、閾値温度未満の温度では第1の平均率で第1の温度を第2の温度に変化させ、閾値温度以上の温度では第1の平均率よりも小さい第2の平均率で第1の温度を第2の温度に変化させるように、構成されている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項12】
表面の温度を操作するためのデバイスにおいて、
表面に近接して配置されるように構成されて設定された少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子と、
前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子、及び前記デバイスの外部環境と、熱的に連絡するヒートシンクと、並びに、
前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子と電気的に連絡するコントローラであって、前記コントローラは、前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子に、少なくとも第1の
温度及び第2の
温度を周期的に適用させて表面に熱刺激を加えさせるように構成されている、コントローラと
を含み、
前記コントローラは、前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子に、第1の発熱率で発熱させ前記ヒートシンクにより第1の熱放散率で熱放散させつつ
前記第1の温度を前記表面に適用させ
、ここで第1の熱放散率は第1の発熱率よりも小さく、
前記ヒートシンクの温度が第1の閾値温度を超えたことを検出し、
前記ヒートシンクの温度が前記第1の閾値温度を超えたことを検出すると、前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子に、第2の発熱率で発熱させ前記ヒートシンクにより第2の熱放散率で熱放散させつつ
前記第2の温度を前記表面に適用させ
、ここで第2の熱放散率は第2の発熱率よりも大き
く、
前記ヒートシンクの温度が前記第1の閾値温度よりも低い第2の閾値温度未満であることを検出し、
前記ヒートシンクの温度が前記第1の閾値温度よりも低い第2の閾値温度未満であることを検出すると、前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子に、前記第1の温度を前記表面に適用させる
ように構成されている、
デバイス。
【請求項13】
前記コントローラが、0.01℃/sから1.0℃/sの間の変化率で、前記第1の温度を前記第2の温度に変化させるように構成されている、請求項
12に記載のデバイス。
【請求項14】
第2の温度が30℃と36℃との間である、請求項
13に記載のデバイス。
【請求項15】
第2の温度が、前記表面の初期温度と前記ヒートシンクの温度との間である、請求項
12に記載のデバイス。
【請求項16】
第2の温度が、前記表面の初期温度と前記第1の温度との間である、請求項
12に記載のデバイス。
【請求項17】
前記コントローラが、
前記ヒートシンクの温度が
前記第1の閾値温度よりも大きい
第1の持続時間の後に、前記第1の
温度を適用することから前記第2の
温度を適用することに切り替えるように、構成され、
並びに、
前記コントローラが、
前記ヒートシンクの温度が
前記第2の閾値温度よりも小さい
第2の持続時間の後に、前記第2の
温度を適用することから前記第1の
温度を適用することに切り替えるように構成されている、
請求項
12に記載のデバイス。
【請求項18】
前記ヒートシンクが、受動ヒートシンクである、請求項
12に記載のデバイス。
【請求項19】
前記コントローラが、前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子に、前記表面を能動的に冷却させるように、構成されている、請求項
12に記載のデバイス。
【請求項20】
前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子が、熱電素子である、請求項
12に記載のデバイス。
【請求項21】
前記コントローラが、前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子に、閾値温度未満の温度では第1の平均率で第1の温度を第2の温度に変化させ、閾値温度以上の温度では第1の平均率よりも小さい第2の平均率で第1の温度を第2の温度に変化させるように、構成されている、請求項
12に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年1月31日出願の、米国仮出願第62/624465号の、特許法119条(e)に基づく利益を主張するものであり、その開示は全体として参照により組み込まれる。
【0002】
本開示の実施形態は、ウェアラブルデバイスにおける熱負荷を放散する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
熱電冷却システムは、人体へ冷却を適用するための大きな関心を集めている。また、電池容量の向上により、電子デバイスをウェアラブル技術に組み込むことが可能になった。人体を冷却するためのこの種の熱電システムの利用例には、片頭痛の緩和、しわの制御、更年期のホットフラッシュからの熱的緩和、建物内での個人的な快適さの提供、極端な環境での人間のパフォーマンスの向上、及び、他の適切な利用例が含まれる。熱電素子は、これらの利用例において、(特にコンプレッサ技術と比較して)低い形状因子、機械的に強固であり静音である非可動部、及びデバイスによって適用される温度プロファイルに対する正確な動的制御を含む、いくつかの利点を提供する。これらの熱電システムの使用によって発生する熱負荷を処理するために、従来のシステムでは、蒸発冷却、ヒートシンクとファンとの組み合わせを使用する強制対流、及び、設定された期間の後に、及び/又は、プリセット温度に達した後に、デバイスの作動を終了させること、などの熱管理ソリューションを使用してきた。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
一つの実施形態では、表面の温度を操作するためのデバイスは、表面に近接して配置されるように構成されて設定された少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子と、並びに、前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子、及び前記デバイスの外部環境と、熱的に連絡するヒートシンクとを含む。前記デバイスは又、前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子と電気的に連絡するコントローラを含む。前記コントローラは、前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子に、第1の作動モードの間、第1の温度プロファイルを有する第1の温度を前記表面に適用させるように構成され、前記コントローラは、前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子に、第2の作動モードの間、第2の温度プロファイルを有する第2の温度を前記表面に適用させるように構成される。前記第2の温度は、前記第1の温度と前記ヒートシンクの温度との間にあり、前記ヒートシンクは、前記第2の温度が前記表面に適用されている間、熱負荷を放散させる。
【0005】
別の実施形態では、表面の温度を操作するための方法は、第1の温度プロファイルを伴う第1の温度を前記表面に適用するステップと、第2の温度プロファイルを伴う第2の温度を前記表面に適用するステップと、及び、前記第2の温度が、前記表面に適用されている間に、前記ヒートシンクからの熱を放散するステップとを含み、前記第2の温度が、前記第1の温度と前記ヒートシンクの温度との間である。
【0006】
更に別の実施形態では、表面の温度を操作するための方法は、少なくとも第1の作動モード及び第2の作動モードを周期的に適用して表面に熱刺激を加えるステップを含む。第1の作動モードは、第1の発熱率で熱を発生させつつ第1の温度プロファイルを伴う第1の温度を表面に適用することと、第1の熱放散率でヒートシンクにより熱を放散することとを含む。第1の熱放散率は、第1の発熱率よりも小さい。第2の作動モードは、第2の発熱率で熱を発生させつつ第2の温度プロファイルを伴う第2の温度を表面に適用することと、第2の熱放散率でヒートシンクにより熱を放散することとを含む。第2の熱放散率は、第2の発熱率よりも大きい。
【0007】
更に別の実施形態では、表面の温度を操作するためのデバイスは、表面に近接して配置されるように構成されて設定された少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子と、並びに、前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子、及び前記デバイスの外部環境と、熱的に連絡するヒートシンクとを含む。前記デバイスは、前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子と電気的に連絡するコントローラを含む。前記コントローラは、前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子に、少なくとも第1の作動モード及び第2の作動モードを周期的に適用させて表面に熱刺激を加えさせるように構成されている。前記第1の作動モードの間、前記コントローラは、前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子に、第1の発熱率で発熱させ前記ヒートシンクにより第1の熱放散率で熱放散させつつ第1の温度プロファイルを伴う第1の温度を前記表面に適用させるように構成されている。第1の熱放散率は第1の発熱率よりも小さい。前記第2の作動モードの間、前記コントローラは、前記少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子に、第2の発熱率で発熱させ前記ヒートシンクにより第2の熱放散率で熱放散させつつ第2の温度プロファイルを伴う第2の温度を前記表面に適用させるように構成されている。第2の熱放散率は第2の発熱率よりも大きい。
【0008】
前述の概念、及び以下で説明する更なる概念は、任意の適切な組み合わせで構成され得ることが理解されるべきである。本開示がこの点で限定されるものではないからである。更に、本開示の他の利点及び新規な特徴は、添付の図と組み合わせて考慮すると、様々な非限定的な実施形態についての、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
添付の図面は、正確な比率であることを意図していない。図面では、様々な図に示されている各同一の若しくは略同一の構成要素は、同じ数字で表され得る。明確さのために、あらゆる構成要素があらゆる図面において必ずラベル付けされている、というわけでもない。
【0010】
【
図1】
図1は、熱調整デバイスの一つの実施形態の概略図である。
【
図2A】
図2Aは、バッテリが描かれていない熱調整デバイスの一つの実施形態の概略の分解透視図である。
【
図2B】
図2Bは、
図2Aの熱調整デバイスの一つの実施形態の、バッテリが描かれた状態の断面図である。
【
図3】
図3は、熱調整デバイスを用いて適用され得る温度プロファイルの一つの実施形態のグラフである。
【
図4】
図4は、ヒートシンクの対応する温度プロファイル、及び、熱調整デバイスの作動中にユーザの皮膚に適用される温度の、一つの実施形態のグラフである。
【
図5】
図5は、関連するヒートシンクの熱負荷を放散させるために熱調整デバイスを作動させる方法の、一つの実施形態のフロー図である。
【
図6】
図6は、温度知覚の異なるフォームのグラフである。
【
図7】
図7は、被験者による熱知覚のための温度変化率に対する、皮膚温度からの温度変化の、グラフである。
【
図8A】
図8Aは、適応温度に対する、適応温度からの変化に関する個人による温度知覚の、グラフである。
【
図8B】
図8Bは、
図8Aの温度知覚のグラフ上に重ね合わされたいくつかの温度プロファイルを描写したグラフであり、これは、ユーザによるニュートラルな熱感覚の知覚をもたらす。
【
図9A】
図9Aは、ヒートシンクに結合する熱電システムのための能動冷却プロセスの概略図である。
【
図9B】
図9Bは、能動冷却後の
図9Aのシステムのための、ヒートシンクの熱平衡化プロセスの概略図である。
【
図10A】
図10Aは、システムがオフになった後の、ユーザの皮膚及び熱調整デバイスのヒートシンクに関する、温度対時間のグラフである。
【
図11A】
図11Aは、所望の皮膚温度を維持しつつヒートシンクの熱平衡化を行っている間の、ユーザの皮膚及び熱調整デバイスに関する、ヒートシンクの温度対時間のグラフである。
【
図12A】
図12Aは、適用されるシステム温度に対してより低い温度へのヒートシンクの熱平衡化を可能にするために、ヒートシンクが高過ぎる温度にある場合の、ユーザの皮膚及び熱調整デバイスに関する、ヒートシンクの温度対時間のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、限定された持続時間、バルク、及び/又は、大きい消費電力の冷却戦略の、いずれかを使用することにより、様々な用途での熱調整デバイスの使用が制限されている、ということを認識している。更に、以下に概説するように、本発明者らは、所定の作動期間及び/又は所定の温度に達した後に単に電源を切ることにより作動する先行システムは、望ましくない熱感覚がユーザに加えられる結果となる可能性があることを、認識している。具体的には、関連するヒートシンクが周囲の環境温度に平衡化すると、ユーザに高温が加えられる。従って、本発明者らは、ユーザに望ましくない熱感覚を発生させることなく、関連するヒートシンクからの熱が、周囲の環境に放散されることを許容するように、複数の利用例で着用可能である熱調整デバイスを作動させることが望ましい、ということを認識した。例えば、冷却熱感覚を提供するために熱調整デバイスを使用しているユーザに、暖めの熱感覚を適用することは望ましくない。よって、望ましくない熱感覚が回避されるので、そのプロセスは、熱調整デバイスを連続的に着用し、ユーザに所望の熱感覚を適用することと熱放散することとの、任意の数の交互のサイクルを通して、ユーザの皮膚と接触したままにすることを、可能にし得る。
【0012】
本発明者らは、上記に基づいて、システムからの熱エネルギーを貯蔵して放散するために使用されるヒートシンクを含む、熱調整デバイスに関連する利点を認識してきた。しかしながら、そのようなシステムは、連続的に作動するようにシステムを設計する際に、複数の競争因子を、示すことがある。例えば、熱調整デバイスが一つ以上の熱電材料を含む場合、受動ヒートシンクからの熱の放散と熱電材料内での熱の発生との間には、競合するメカニズムが存在する。具体的には、ヒートシンクが蓄える熱量が多いほど、即ち、ヒートシンクの温度が高いほど、ヒートシンクは環境への熱の放散に優れている、即ち、熱放散率が速い。しかし、より高い温度は熱電材料の効率を低下させ、従って、熱電材料は、同量の冷却を生成するために、ヒートシンクによって蓄えられるか、または放散されるより高い温度でより多くの廃熱を発生させる。
【0013】
上記の観点から、本発明者らは、二つ以上の作動モードの間の、熱調整デバイスの連続作動中に、デバイス内で生成する熱と環境に放散される熱との、バランスをとるようにして、熱調整デバイスを作動させることに関する利点を認識している。例えば、一つ実施形態では、第1の作動モードでは、熱調整デバイスは、第1の作動温度を、デバイスの関連するヒートシンクが温度を上昇させ得る第1の持続時間の間、ユーザの皮膚などの表面に、加えてもよい。第2の作動モードでは、熱調整デバイスは、第2の持続時間の間、第2の温度を表面に加えてもよい。熱調整デバイスは、第2の温度が表面に加えられる間、熱調整デバイスのヒートシンクから熱を放散してもよい。或る実施形態では、第2の温度は、第1の温度とヒートシンクの温度との間であってもよい。ヒートシンクからの熱放散の間、表面の温度を所望の温度に維持することにより、ヒートシンクの熱平衡化の間、ユーザに望ましくない熱感覚が適用されることを防止することが、可能であってもよい。所望の持続時間が経過し、十分な熱を放散し、及び/又は、適切なヒートシンク温度に達した後、熱調整デバイスは、例えば、第1の温度に戻ることを含む、所望の熱感覚をユーザに適用する通常の作動に戻ってもよい。
【0014】
当然ながら、上述のヒートシンク、及び本開示の他の箇所で説明するヒートシンクは、受動及び/又は能動ヒートシンクのいずれであってもよい。具体的には、受動ヒートシンクは、ファン若しくは他の能動的なコンポーネントの助け無く着用したとしても、自然対流、放射冷却、及びデバイスの動きによる対流の、組み合わせを介して、環境に熱を放散する熱伝導性材料(ヒートシンク)に対応し得る。これは、ファン若しくはポンプのいずれかを用いてヒートシンク上若しくはヒートシンクを通って流体を吹き付けるために、強制対流を使用してヒートシンクから熱を除去する能動ヒートシンクや、蒸発冷却が実施されるヒートシンクとは、対照的である。しかしながら、受動ヒートシンクは、着用可能の、若しくは携帯用の、利用例に組み込まれた場合、大きな利点を提供し得る。例えば、受動ヒートシンクは、低い形状因子を有するように設計されていてもよく、受動ヒートシンクには可動部分がないため、システム全体の信頼性が向上する可能性がある。しかしながら、受動ヒートシンクは、熱を放散することが比較的苦手である。従って、受動ヒートシンクを利用した従来のシステムは、ヒートシンクが冷却されるように、一定期間の使用後に本体から取り外されるように設計されていた。対照的に、ここで記載するシステムは、使用中に生成される熱エネルギーを放散させるために受動ヒートシンクが使用される場合でも、二つ以上の交互作動モードを用いて連続的に使用することができる。更に、或る実施形態では、そうでなければ連続作動のために熱調整デバイスを十分には冷却することができないであろう、より小さい能動的に冷却されるヒートシンクも、開示する作動方法の使用によって可能になり得る。従って、ここで開示する熱調整デバイス及び作動方法は、本開示が限定されていないことから、任意の特定のタイプのヒートシンクに限定されない、ということが理解されるべきである。
【0015】
ヒートシンクからの熱放散中に表面に適用される上述の第2の温度は、ヒートシンクの温度が所望の作動温度に戻ることを許容する任意の適切な温度に対応し得ることが、理解されるべきである。しかしながら、一つの実施形態では、第2の温度は、表面の初期温度、即ち、初期皮膚温度と、ヒートシンクの温度との間であってもよい。或いは、別の実施形態では、第2の温度は、表面の初期温度と、通常の作動の間にユーザに適用される第1の温度との間であってもよい。更に、一定の第2の温度が適用されてもよいが、或る実施形態では、本開示はそのように限定されるものでもなく、ヒートシンクの平衡化中に表面に適用される第2の温度は、可変温度であってもよい。これらの異なる作動レジームに関連する特定の考慮事項は、以下で更に詳しく説明する。
【0016】
様々な作動モードの間、即ち通常作動中及び熱放散中に適用される温度は、連続作動中の熱調整デバイスの後続のサイクル中に、同じものであっても、及び/又は異なるものであってもよい、ということが理解されるべきである。例えば、一つの実施形態では、熱調整デバイスは、後続の通常作動モード及び熱放散作動モードの間に、同じ温度プロファイルを適用してもよい。或いは、異なる作動モードの間に適用される温度プロファイル及び/又は絶対温度は、後続の通常作動モードと熱放散作動モードとの間で、変化してもよい。更に、以下に詳述するように、ユーザに適用される温度は、熱調整デバイスのサイクルの個々の部分の間にて、変化してもよく、及び/若しくは、一定であってもよく、並びに/又は、適用される温度は変化してもよい。よって、本明細書に記載する第1及び第2の温度は、異なる作動モードの間に適用される第1及び第2の温度プロファイルに対応するものと理解され得る。更に、ここで開示する作動モードは、本開示がこの態様に限定されるものではないので、任意の数の異なるタイプの温度プロファイル及び/又は温度に、対応し得る。
【0017】
ここで開示するシステムおよび方法は、任意の適切な利用例にて用いることができるが、上記の実施形態は、本明細書に記載しているように、熱電冷却システムなどのウェアラブル熱調整システムの作動を可能にする。 更に、そのようなシステムは、ユーザに望ましくない熱感覚を発生させることなく、蓄熱された熱を環境に放出してもよい能動冷却モードの間、ヒートシンクを蓄熱デバイスとして用いることによって、受動ヒートシンクを含む先行システムの欠点を克服する。更に、このようなシステムは、バルクおよび電力消費量が低減される能動冷却システムと比較しての利点を提供する。しかしながら、特定の利点は上述したが、本開示はこの態様に限定されるものではないので、特定の実施形態に応じて、システムは、上述した利点とは異なる利点のいずれかを示し得ることが、理解されるべきである。
【0018】
熱調整デバイスの通常の作動モード、例えば、ユーザに冷却温度が適用される能動冷却モードと、熱調整デバイスの熱放散モードとの間の遷移は、任意の適切な方法で実施され得る。例えば、一つの実施形態では、これらの作動モード間の遷移は、熱調整デバイスの一つ以上の作動パラメータが一つ以上の対応する閾値を超えたことが検出されたときに、開始されてもよい。或る実施形態では、熱調整デバイスは、一つ以上の作動パラメータが、ヒステリシス閾値のリセットに対応する初期閾値及び第2の低い閾値のいずれかを下回った後に、通常の作動モードに遷移し得る。モニタされ得る適切な作動パラメータには、加熱及び/若しくは冷却素子の温度、加熱及び/若しくは冷却素子を横切る温度差(例えば、熱電モジュールの対向する側面間の温度差)、ヒートシンク及び/若しくはハウジングの温度(例えば、或る実施形態では、ハウジングの一部がヒートシンクに対応し得る)、ヒートシンクと、対応する冷却及び/若しくは加熱素子との間の熱流束、所望の温度を維持するための加熱及び/若しくは冷却素子の消費電力、並びに/又は、他の適切なパラメータが含まれるが、これらに限定されるものではない。一つの例示の実施形態では、ヒートシンクの温度が閾値温度を超えると、熱調整デバイスは、通常作動モードから熱放散モードに遷移し得る。その後、検出されたヒートシンクの温度が、実施形態に応じて、初期閾値温度又は第2の低い閾値温度のいずれかよりも低い温度まで低下したときに、熱調整デバイスは、通常の作動モードに遷移し戻り得る。
【0019】
本明細書に記載の様々な作動パラメータは、任意の適切な技術を用いて測定され得る。例えば、様々なコンポーネントの温度は、熱電対およびサーミスタを含む任意の適切な温度プローブを用いてモニタし得る。ヒートシンクへの熱流束及び/又はヒートシンクからの熱流束は、熱流束センサを用いて直接測定してもよく、熱流束を推論するために熱電材料を横切る温度差のような技術を用いて間接的に測定してもよく、及び/又は、他の任意の適切な方法を用いて測定してもよい。加熱及び/又は冷却素子の消費電力は、加熱及び/又は冷却要素に印加される電力を検出することができる、任意の適切な電力、電圧、及び/又は電流モニタリング構成を用いてモニタされ得る。従って、本開示は、本明細書で説明するパラメータをモニタする任意の特定の方法に限定されないことが理解されるべきである。
【0020】
或る実施形態では、ヒートシンクに適用された熱負荷の放散中に、ユーザに適用される熱感覚を制御することが望ましい。例えば、ユーザに冷却熱感覚を適用した後、同じユーザに暖かい感覚を適用することは望ましくないかもしれない。従って、或る実施形態では、システム全体が、ヒートシンクと、対応する一つ以上の加熱及び/又は冷却素子との、二つの極端の間の温度を、平衡化することを可能にするような熱調整デバイスを単にオフにすることを回避することが望ましい。その代わりに、或る実施形態では、下地の表面、即ちユーザの皮膚に適用される温度は、熱放散の間、低減された若しくはニュートラルの熱感覚を提供するように、変更されてもよい。従って、本開示のシステム及び方法は、ヒートシンクについて、熱的に放出させることを、即ち、望ましくない熱感覚を発生させずに所望の作動温度まで冷却若しくは暖めることを、可能にする。上記と同様に、ヒートシンクの所望の量の熱放散が達成された後、システムは、別の作動サイクルのために通常の作動に復帰してもよく、及び/又は、システムをシャットダウンしてもよい。
【0021】
以下でさらに詳しく説明するように、人の温度の知覚は、絶対温度、現在の皮膚温度に対する温度差、及び、人の皮膚に適用される温度の変化率の、全ての複雑な相互作用である。従って、「ニュートラル」であることを意図した、又は、低減された熱感覚を適用することを意図した、温度プロファイルをユーザに適用する場合、適用される温度プロファイルは、以下に詳述するように、温度及び温度変化率を含んでもよい。一つの実施形態では、温度は、20℃以上、25℃以上、30℃以上、31℃以上、35℃以上、及び/又は、他の任意の適切な温度以上であってもよい。これに対応して、適用される温度は、40℃以下、36℃以下、35℃以下、33℃以下、及び/又は、他の任意の適切な温度以下であってもよい。上述の範囲の組み合わせは、例えば、20℃と40℃の間又はそれに等しい温度、30℃と36℃の間又はそれに等しい温度、31℃と35℃の間又はそれに等しい温度、或る実施形態では36℃が好ましい温度、及び/又は、他の任意の適切な範囲である、ユーザに適用される温度を含むことが企図されている。これらの温度の範囲は、0.01℃/s(毎秒摂氏)、0.1℃/s、0.2℃/s、及び/又は、任意の他の適切な温度変化率よりも大きいか、又はそれに等しい、ユーザの皮膚に適用される温度変化率と組み合わせてもよい。適用される温度変化率はまた、1.0℃/s、0.5℃/s、0.4℃/s、0.3℃/s、及び/又は、任意の他の適切な温度変化率以下であってもよい。これらの温度変化率の組み合わせは、例えば、0.01℃/sと1.0℃/sの間又はそれに等しい温度変化率、0.01℃/sと0.5℃/sの間又はそれに等しい温度変化率、0.1℃/sと0.3℃/sの間又はそれに等しい温度変化率、更に、0.01℃/sと0.1℃/sの間又はそれに等しい温度変化率、或る実施形態では約0.2℃/sの温度変化率が好ましいが、それらを含むことが企図されている。例えば、一つの特定の実施形態では、ユーザに冷却温度プロファイルを適用した後、熱調整デバイスは、ユーザに対して、知覚される暖かい熱感覚を発生させないようにしながら、関連するヒートシンクが冷却されることを可能にするために、0.2℃/sの率で、下部の近接表面の温度、即ちユーザの皮膚の温度を36℃まで上昇させてもよい。もちろん、特定の例が示されているが、本開示はそのようには限定されないので、上述の温度範囲及び率の異なる組み合わせも考えられる。
【0022】
上述の温度変化率、及び、本明細書に記載の他の温度変化率は、第1の温度から第2の温度に変化する際に、温度プロファイルの特定の部分の間における温度変化率の平均値を指すものであってもよく、及び/又は、適用される温度プロファイルの少なくとも一部の間に適用される温度変化率を指すものであってもよい。例えば、可変の又は一定の温度変化率が、第1の温度から第2の温度への変化の際に、適用されてもよい。従って、特定の変化率が、注目される温度変化の少なくとも一部の間に適用されてもよく、及び/又は、変化率が、注目される温度変化の間の平均の変化率に対応するものであってもよい。
【0023】
熱放散モードの間に用いられる上述の温度は、通常の作動モードの間にユーザに暖めの、及び/又は、冷却の熱感覚のいずれかを適用するのに用いられる温度の任意の適切な範囲と、組み合わせてもよいことが理解されるべきである。例えば、15℃と45℃の間又はそれに等しい温度、20℃と40℃の間又はそれに等しい温度、20℃と27℃の間又はそれに等しい温度、30℃と40℃の間又はそれに等しい温度、及び/又は、任意の他の適切な温度範囲が、通常の作動モードの間に用いられ得る。
【0024】
望ましくない熱感覚を生じさせずにデバイスを作動させる方法を上記に記載したが、本開示はそのようには限定されず、ユーザを冷却した後に暖めの感覚を、及び/又は、ユーザを暖めた後に冷却の感覚を、適用するようにして、熱調整デバイスを作動させる実施形態が企図されている。
【0025】
或る実施形態では、熱調整デバイスは、ユーザの皮膚に直接近接して配置され得る一つ以上の加熱及び/又は冷却素子(例えば、熱電材料)を含み得る。電気的入力、例えば電気信号の形での電気的入力は、例えば、温度プロファイルの形で、皮膚の表面の温度を操作するように、関連するコントローラによって、加熱及び/又は冷却素子に適用され得る。以下に更に詳述するように、適用される温度プロファイルは、一定の、変化の、及び/又は、交互の、温度プロファイルであってもよい。任意の適切な加熱及び/又は冷却素子が採用されてもよいことも理解されるべきである。例えば、加熱及び/又は冷却素子は、抵抗加熱デバイス、対流熱デバイス、放射熱デバイス、熱電材料、又は、人の皮膚に適用するための所望の温度プロファイルを生成することができる他の任意の適切な装置に、対応し得る。特定の実施形態では、熱電材料が好ましい。
【0026】
用語「熱電素子」、「熱電体材料」、「熱電モジュール」、及び、他の類似の用語は、当技術分野において通常の意味を与えられ、(例えば、ペルチェ効果、トムソン効果、およびゼーベック効果のような他の名称でしばしば言及される)熱電効果に従って、電位(例えば、電圧及び対応する電流)の印加に応じて材料の表面で温度変化が生じるその材料を指す。任意の適切な熱電素子を採用することができ、そのうちの幾つかを以下に更に説明する。本明細書の記載の一部は熱電材料を記載しているが、本開示は熱電材料に限定されるものではなく、他の熱調整装置が適切なところで採用され得ることが理解されるべきである。
【0027】
抵抗性加熱体という用語は、当技術分野においてその通常の意味を与えられ、ジュール加熱に従って、電位(例えば、電圧及びそれに対応する電流)の印加に応じて材料の表面で温度上昇が生成されるその材料を指す。ジュール加熱を発生させるのに十分な抵抗を備える任意の電気伝導体を用い得る、任意の適切な抵抗加熱素子を採用することができる。本明細書の記載の一部は抵抗性加熱素子を記載しているが、本開示は抵抗性加熱体に限定されるものではなく、他の加熱装置が適切なところで採用され得ることが理解されるべきである。
【0028】
図示しない、或る実施形態では、本明細書に開示するデバイス及びシステムは、ウェアラブル物品(例えば、衣類の物品)に組み込まれてもよい。例えば、特定の実施形態では、本明細書に記載されるような熱調整デバイスは、スカーフ、ネックレス、アームバンド、リストバンド、帽子、シャツ、ベスト、パンツ、レギンス、スリーブ、又は、人の身体の任意の適切な部分に着用することが可能な他の適切な着用可能物品に組み込まれてもよい。デバイスのサイズは、或る実施形態では、デバイスが、手首、足首、頭、首、胴体、腕、脚、ふくらはぎ、及び/又は、人の身体の任意の他の適切な部分上又はその周りに快適にフィットするように、選択され得る。更に、或る実施形態では、熱調整デバイスは、衣類の物品内部に収まるような、若しくは、ユーザの掌の内部に収まるようなサイズでもよく、又は、任意の他の適切なサイズであってもよい。更に、熱調整デバイスがウェアラブル物品に組み込まれていない実施形態も考えられる。例えば、熱調整デバイスは、人によって手動で適用され得るように、及び/又は、別個の固定システムに組み込まれ得るように、構成され得る。従って、本開示のデバイスおよびシステムは、任意の特定の形状因子及び/又はサイズに限定されないことが理解されるべきである。
【0029】
便宜上、以下の実施形態及び例示は、主に、ユーザに冷却感覚を適用するのに用いられる熱調整デバイスに関連して記載されている。従って、これらの実施形態では、熱放散中の第2の作動モードは、熱放散モードの間に温度を冷却する関連するヒートシンクに対応する。しかしながら、本開示はそのようには限定されず、熱調整デバイスが、通常の作動モードの間に暖機感覚を適用し、ヒートシンクの温度が上昇する熱放散モードの間に、対応するヒートシンクの温度を上昇させるような、実施形態もまた企図されている。
【0030】
図に目を向けると、特定の非限定的な実施形態が更に詳細に記載されている。本開示は本明細書に記載の特定の実施形態のみに限定されるものではなく、これらの実施形態に関連して記載された様々なシステム、コンポーネント、特徴、及び方法は、個別に及び/又は任意の所望の組み合わせで、用い得ることが理解されるべきである。
【0031】
図1~2Bは、ユーザに熱刺激を提供するのに用いられ得る熱調整デバイス100の実施形態を示す。或る実施形態では、熱調整デバイスは、ユーザの手首、足首、脚、及び/又は腕に装着可能なブレスレットの形態である。しかしながら、前述のように、熱調整デバイスは、ユーザの身体の任意の適切な部分に近接して配置されてもよく、熱調整デバイスをユーザの身体上の所望の位置に近接して維持し得る任意の適切な装着可能な物品に一体化されてもよい。図示されているように、熱調整デバイスは、ユーザの身体上の所望の部分に近接して熱調整デバイスを維持するように構成されたハウジング102とバンド104、又は、他の適切な構造を含み得る。ハウジング内では、熱調整デバイスは、熱調整デバイスが近接して配置されているユーザの身体の関連する部分に熱刺激を適用するように構成され得る、一つ以上の加熱及び/又は冷却素子106を含んでもよい。熱調整デバイスは、少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子106と電気的に通信するコントローラ108を含み得る。具体的には、コントローラは、以下でさらに詳述するように、様々な作動モードの間にて、少なくとも一つの加熱及び/又は冷却素子に、少なくとも一つ以上の所望の温度プロファイルをユーザに適用させるように構成され得る。熱調整デバイスはまた、コントローラに作動的に結合された一つ以上のセンサ110を含んでもよい。センサは、熱調整デバイスの一つ以上の作動状態、及び/又は、ユーザの一つ以上の物理的状態を、感知するように構成され得る。更に、図示されるように、センサは、例えば、ハウジングの外側部分、着用時にユーザの皮膚に近接して配置されるハウジングの部分、加熱及び/若しくは冷却素子の対向する側、コントローラ上、並びに/又は、本開示では限定されない、熱調整デバイスの任意の他の適切な部分を含む、デバイス内の任意の数の様々な位置に配置され得る。熱調整デバイスはまた、コントローラに作動的に結合されたバッテリ112を含んでもよい。
【0032】
例示の実施形態では、一つ以上の加熱及び/又は冷却素子106の第1の表面106aは、着用時にユーザの皮膚のような、下地の表面に接触するように配置され得る。加熱及び/又は冷却素子、コントローラ108、及びバッテリ112は、熱電モジュールのホット側などの、一つ以上の加熱及び/又は冷却素子の第2の表面106bが、外側ハウジング102と、若しくは、ヒートシンクとして使用され得る他の適切な構造と、熱的に連絡するように、任意の適切な方法で外側ハウジング102内に配置されてもよい。更に、或る実施形態では、ハウジングの少なくとも一部、及び、或る実施形態では全体が、一つ以上の介在コンポーネントを介して直接的又は間接的に一つ以上の加熱及び/又は冷却素子と熱的に接触する熱伝導性材料から作られ得る。そのような実施形態では、一つ以上の加熱及び/又は冷却素子によって生成される熱は、ハウジングの一つ以上の熱伝導性部分へ流れてもよく、この部分は、適用される熱負荷を放散させるための受動的ヒートシンクとして機能してもよい。更に、以下に詳述するように、特定の作動モードに応じて、ヒートシンクは、異なる作動モードの間、一つ以上の加熱及び/又は冷却素子によって生成される熱の量よりも大きいか、小さいか、及び/又は、等しい変化率で熱を放散させてもよい。
【0033】
上記の実施形態では、一つ以上の加熱及び/又は冷却素子からの熱の流れは、加熱及び/又は冷却素子からハウジングに直接流れてもよく、及び/又は、熱は、一つ以上の中間コンポーネントを通って流れてもよい。例えば、例示の実施形態では、熱は、一つ以上の加熱及び/又は冷却素子から、コントローラ、バッテリ、及び/又は他の任意の中間コンポーネントなどの、一つ以上のコンポーネントを通って、熱が外部の周囲環境に放散してもよいハウジングへ、流れてもよい。しかしながら、加熱及び/又は冷却素子の少なくとも一部が、ハウジング又は他のヒートシンクと直接熱的に接触する実施形態もまた、想定される。
【0034】
上記の実施形態で示す熱調整デバイスはバンドを含むが、熱調整デバイスは、前述したように、任意の他の適切なタイプのウェアラブルデバイス、コンポーネント、または衣服に組み込まれてもよいことが理解されるべきである。更に、ハウジング、一つ以上の加熱及び/又は冷却素子、コントローラ、及びバッテリなどの様々なコンポーネントの特定の構成が図示されているが、本開示はそれらに限定されず、他の構成もまた、想定されることが理解されるべきである。
【0035】
本明細書に記載の熱調整デバイスは、冷却及び/又は暖めの両方の感覚を含む、任意の数の異なるタイプの温度プロファイルをユーザに適用するのに用いられてもよい。通常の作動モードの間に熱調整デバイスによってユーザの身体の対応する部分に適用され得る温度プロファイルの一つの特定の実施形態は、
図3に示されている。提示されるグラフでは、表面の初期温度に対する温度変化が、時間に対してプロットされている。明確さのために、例示の実施形態では、熱調整デバイスが対向して配置されている表面の対応する温度T
Suraseよりも大きい温度を例示している(即ち、熱調整デバイスは、暖めの感覚を提供している)。しかしながら、本開示は、この態様に限定されない。例えば、熱調整デバイスは、ユーザに冷却感覚を提供するために、表面の対応する初期温度よりも低い温度を適用するように操作されてもよい。更に、加熱及び/又は冷却感覚の両方が、表面の初期温度よりも大きい温度と小さい温度の両方で交互に適用される実施形態も、想定される。
【0036】
図に模式的に示されるように、温度プロファイルは、ランププロファイル部分及び/又は一つ以上の交互温度プロファイル部分を含む、一つ以上の部分、即ち一つ以上の熱パルスを有してもよい。例えば、温度プロファイルは、ランププロファイル部分を含む第1の部分(レジームI)と、交互温度プロファイル部分を含む第2の部分(レジームII)とを含んでもよく、該第2の部分では、熱調整デバイスの温度は、少なくとも第1の高い温度と第2の低い温度との間で周期的に変化する。しかしながら、温度プロファイルのこの部分の間、一定の温度が適用される実施形態も想定される。或る実施形態では、交互温度プロファイル部分は、単位時間当たりに適用される熱パルスの数に対応する平均周波数f1、平均温度Tavg、及び、発振ウインドウTowを、有してもよい。発振ウインドウは、所定の交互温度プロファイルの最高温度と最低温度との差異である。平均温度Tavgは、温度の時間平均に等しくてもよく、従って、第1の高い温度と第2の低い温度との間の温度の増加率及び減少率が異なるかどうか、及び/又は、熱パルスに関連して一定の温度部分があるかどうかに応じて、変化し得る。
【0037】
繰り返しになるが、特定の温度プロファイルが図示され、熱調整デバイスの一つの可能な通常の作動モードについて上述されているが、本明細書に記載の熱調整デバイスは、任意の数の異なるタイプの温度プロファイルをユーザに適用するための任意の数の方法で作動させ得る。従って、本開示は、所与の作動モードに対する任意の特定の温度プロファイルに限定されるべきではない。
【0038】
前述のように、或る実施形態では、関連するヒートシンク、又は他の熱放散システムが、連続的に熱放散することができない熱刺激の大きさ、例えば、初期皮膚温度からの温度変化を、提供するために、熱調整デバイスを連続的に作動させることが望ましい場合がある。従って、或る実施形態では、
図4及び
図5に示すように、熱調整デバイスを二つ以上の作動モードを用いて連続的に作動させて、デバイスの通常の作動の一つ以上のモード中に発生する熱負荷と、一つ以上の熱放散の作動モード中に放散される熱負荷の量との、バランスを維持することが望ましい場合がある。ステップ200において、ユーザの皮膚などの、下地の表面に所望の熱刺激を適用するように熱調整デバイスが作動してもよい。初期には、皮膚、及び、皮膚に近接する熱調整デバイスの一部は、初期の第1の表面温度T
S1であってもよい。熱調整デバイスの関連するヒートシンクもまた、初期の第1ヒートシンク温度T
HS1にあってもよく、これは、或る実施形態では、ヒートシンクが曝露される周囲環境温度に略対応し得るものであり、周囲環境に応じて、表面の初期温度よりも大きいか、またはそれ以下であってもよい。
図4に示すように、期間Aの初期のランプ部分の間に、熱調整デバイスは、適用された皮膚温度を第2の表面温度T
S2に変化させるが、この温度は、例示の実施形態では、
図5のステップ202の間にて、第1の表面温度よりも低くてもよい。所望の作動温度に達すると、熱調整デバイスは、適用された温度プロファイルのランプ部分を終了して、少なくとも第1の期間の間、所望の温度プロファイルを伴う所望の熱感覚を適用し得る。適用される温度プロファイルは、本開示では限定されるものではなく、常に適用される温度及び/又は変化する温度プロファイルのいずれかであってもよい。勿論、熱調整デバイスが所望の熱刺激をユーザに適用する間、ヒートシンクの対応する温度は対応して変化し、これは、例示の実施形態では、ヒートシンクの温度の増加に対応する。
【0039】
図4の期間Aと期間Bとの間の遷移によって示されるように、関連するヒートシンクの温度は、ヒートシンクの例示の温度などの、システムの作動パラメータが第1のヒートシンク閾値温度T
TH1に達するまで、時間的期間を超えるまで、及び/又は、別の適切な閾値が満たされるまで、上昇し続けてもよい。前述のように、この閾値温度条件は、直接的若しくは間接的な温度測定、熱流束測定、及び/又は、電力測定を含む、任意の適切な検出技術を用いて、決定され得る。ステップ204で、所望の作動パラメータが、対応する閾値を超えたことが検出されると、熱調整デバイスのコントローラは、
図5のステップ206及び208にて、熱放散作動モードの実施に進み得る。
【0040】
図4の期間Bの間に示されるように、熱調整デバイスによって皮膚に適用される温度は、期間Cに示されるような少なくとも第2の期間、第2の表面温度T
S2から第3の表面温度T
S3に調整されてもよい。図示されているように、第3の表面温度は、ヒートシンクの温度と、デバイスの通常の作動中に適用される第2の表面温度との間であってもよい。具体的には、図示される実施形態では、第3の表面温度は、初期の第1の表面温度と、第1のヒートシンク閾値温度などのヒートシンクの温度との間であってもよく、この第3の表面温度は、或る実施形態では、ユーザにニュートラルの若しくは暖めの熱感覚を適用することに、対応し得る。しかしながら、別の実施形態では、第3の表面温度は、初期の第1の表面温度と、第2の表面温度との間であってもよく、この第3の表面温度は、ユーザにニュートラルの若しくは低減される冷却感覚を適用することに、対応し得る。いずれの場合においても、実施例に関して以下にさらに詳述するように、第3の表面温度は、
図5のステップ208において、そして
図4のヒートシンクの温度の減少によって示されるように、ヒートシンクが適用された熱負荷を放散させ得るように選択されてもよい。理論に縛られることを望むものではないが、熱調整デバイスの一つ以上の加熱及び/又は冷却素子が、期間B及びC中に観察されるヒートシンク温度の減少に繋がるこの第2の作動モードの間にヒートシンクが、発生した熱を放散する変化率よりも小さい変化率で熱を発生させるので、ヒートシンクは熱負荷を放散することができる。期間Cの間、図では一定の温度プロファイルが示されているが、可変温度プロファイル及び/又は熱パルスが、同様に表面に適用され得ることが理解されるべきである。
【0041】
図5のステップ210において、熱調整デバイスのコントローラは、デバイスの作動パラメータが第2の閾値を満たしていることを検出し得る。例えば、ヒートシンクの温度は、第2の温度閾値T
TH2を満たし得る。従って、ヒートシンクの第2の温度閾値は、
図4を参照して、熱放散モードの間に下地の表面に適用される第1のより大きな温度閾値TT
H1と第3の表面温度T
S3との間であってもよい。或る実施形態では、第2の温度閾値は、デバイスが作動するであろう予想される周囲温度よりも大きくなるように設定される。ヒートシンクが所望のより低い温度まで冷却されると、
図5のステップ212にて、所望の熱刺激期間が終了したか否かが判断されてもよい。デバイスの作動が終了していると判断された場合、デバイスは、ステップ214で停止してもよい。或いは、デバイスの作動が継続することが意図されている場合、熱調整デバイスのコントローラは、下地の表面に所望の温度プロファイルを適用し得る通常の作動に戻ってもよい。例えば、
図4の期間Dに示すように、コントローラは、熱放散中に適用される第3の表面温度から、デバイスの通常の作動中に適用されることを意図した第2の表面温度T
S2、若しくは他の適切な温度に戻って、表面に適用される温度を調整してもよい。
【0042】
上述の実施形態の一つの実装にて、デバイスの通常の作動モードでは、第2の温度TS2が、所望の第1の期間、表面に適用される。前述のように、この温度は、一定の熱プロファイル、及び/又は、複数の熱パルスを含み得る可変の熱プロファイルの、いずれかを用いて表面に適用されてもよい。第1の期間を超えた後、若しくは、デバイスのヒートシンク温度が上述の第1の閾値温度を満たす場合、デバイスの通常の作動モードを終了し、熱放散モードを適用してもよい。しかしながら、ヒートシンク温度が第1の閾値温度に達しないか、若しくは第1の閾値温度を超えない場合、デバイスは、所定の期間、所望の温度プロファイルを提供し続けてもよい。熱放散モードの間、ヒートシンクが蓄積された熱負荷を放散する間、第3の表面温度TS3および対応する熱プロファイルは、第2の所定の期間、表面に適用されてもよい。所定の期間が経過したとき、デバイスのコントローラは、ヒートシンクの温度が第2の閾値温度以下であるかどうかを判定してもよい。第2の所定の期間が経過した後にヒートシンクがこの閾値温度を下回っている場合、コントローラは、デバイスの加熱及び/又は冷却素子を用いて表面に所望の熱プロファイルを適用するためにデバイスの作動を通常の作動モードに戻してもよい。ヒートシンクが第2の所定の期間が経過した後も第2の閾値温度を超えている場合、デバイスのコントローラは、その条件が満たされるまで、所望の熱プロファイルを伴う通常の作動モードへの切り戻しを遅延させてもよい。
【0043】
前述のように、或る実施例では、デバイスの通常の作動モードから熱放散作動モードへの遷移の間に、熱的ニュートラル感覚がユーザによって経験されるように、絶対温度及び温度変化率をユーザの皮膚に適用することが望ましい場合がある。これは、多くの方法で達成され得る。例えば、ヒートシンク及び/又はデバイスが接触している表面の、相対温度及び温度変化率の両方が、ユーザに熱的ニュートラル感覚を提供するために熱放散モード中に積極的に制御されてもよい。しかしながら、用いられる特定の作動パラメータによっては、以下に詳述するように、より受動的な制御方法を使用して、ユーザに熱的ニュートラル感覚を提供することも可能である。いずれの場合においても、デバイスの熱放散作動モードに遷移するとき、及び/又はその間、表面に適用される温度及び温度変化率は、本開示が温度及び/又は温度変化率の任意の特定の組み合わせに限定されるものではないので、本明細書に記載の温度及び温度変化率の任意の適切な組み合わせに対応することができ、ユーザに熱的ニュートラル感覚を提供することができる。
【0044】
ある特定の実施形態では、作動モードの作動の間で遷移する際に表面に適用される、結果としての温度変化率及び温度が、十分にゆっくりと適用され、及び/又は、ユーザに知覚可能な熱感覚の変化を誘発しないような適切な範囲内にあるように、デバイスのヒートシンクの作動温度を制限することによって、熱的ニュートラル感覚がユーザに提供されてもよい。例えば、デバイスの加熱及び/又は冷却素子の作動は、閾値ヒートシンク温度TTh1が満たされたとき、及び/又は、所定の期間の後に、素子のコントローラによって低減され、幾つかの実施例では、停止され得る。その後、ヒートシンクは、
図4の遷移期間Bに示されるように、加熱及び/又は冷却素子、及びそれらが接触している表面の、温度変化をもたらす、周囲環境及び加熱及び/又は冷却素子の両方と熱交換すること、即ち熱的に平衡化することを許され得る。閾値ヒートシンク温度T
Th1と、通常の作動中に表面に適用される温度T
S2との間の相対温度差が十分に小さいと仮定すると、加熱及び/又は冷却素子を積極的に作動させずに熱平衡化する間の温度変化率は、ユーザに相対的に熱的ニュートラル感覚を提供するために十分に低くてもよい。或る実施形態では、これは、ヒートシンクに適用される熱負荷がヒートシンクの熱放散率よりも小さくなるような、熱平衡化の間に表面に適用される温度を能動的に制御することなく、表面の温度が「自由落下」することを許容するものと見なすことができる。熱放散中に表面に適用される所望の温度T
S3に達すると、加熱及び/又は冷却素子は、デバイスの作動の期間Cの間に適用される所望の温度及び/又は熱プロファイルを維持するように、デバイスのコントローラによって適切に作動し得る。
【0045】
或る実施形態では、ヒートシンク及び/又は表面の温度変化率は、熱平衡化中に一つ以上の温度センサを用いてモニタされ得る。従って、ヒートシンク及び/又は表面のいずれかの温度変化率が、熱放散作動モードの所定の部分について所望の作動ウインドウ150及び152の外に落ちる(例えば、低い閾値速度よりも遅い、高い閾値速度よりも高い、高い閾値温度よりも大きい、及び/又は低い閾値温度よりも小さい)場合、デバイスのコントローラは、表面及び/又はヒートシンクの温度変化率及び/又は絶対温度を制御するために、加熱及び/又は冷却素子を作動させてもよい。従って、デバイスは、デバイスが所望の作動境界条件のセットの範囲内で作動する間、加熱及び/又は冷却素子を積極的に作動させることなく、受動的に熱的に平衡化することが許容されてもよい。しかしながら、デバイスのコントローラは、ユーザに熱感覚の所望の組み合わせを提供するべく所望の作動ウインドウ内でデバイスの作動を維持するために、通常の作動モードと熱放散の作動モードとの間の遷移期間中に加熱及び/又は冷却素子を用いてこの熱平衡化プロセスを能動的に制御してもよい。
【0046】
上記の実施形態では、ヒートシンクに適用される熱負荷がヒートシンクの熱放散率よりも小さくなるような、デバイスを作動させる通常のモードとデバイスを作動させる熱放散モードとの間の遷移期間中に、表面の温度を「自由落下」させることを許容することが記載されている。しかしながら、本開示ではこのように限定されるものではないので、ヒートシンクと、デバイスが接触する表面との、両方の絶対温度及び温度変化率が、この遷移期間中にデバイスの加熱及び/又は冷却素子を作動させることによって能動的に制御されるような実施形態もまた、企図されている。
【0047】
上記の実施形態は、表面温度の低下、及びヒートシンク温度における対応する上昇を伴う、冷却感覚をユーザに適用するべく作動するデバイスに向けられているが、本開示は、ユーザに冷却感覚を適用することのみに限定されない。例えば、前述のように、熱調整デバイスはまた、表面に上昇した温度を適用すること、及び、周りの周囲環境の温度よりも低いヒートシンクの減少させた温度を適用することに、対応する暖めの感覚を適用するのに、用いられてもよい。そのような実施形態では、熱調整デバイスは、少なくとも第1のモードでユーザに所望の刺激を適用し、第2の作動モードの間に、ヒートシンクに適用される熱負荷を放散させるように、尚二つ以上の作動モードで作動してもよい。
【0048】
上記の実施形態では、様々な作動モード間の切り替えを選択的に制御するために温度閾値を用いることも記載されている。しかしながら、本開示はそれに限定されるものではなく、様々な作動モードをモニタして、様々なモード間の切り替えのタイミングを検出し、及び/又は様々なモード間の切り替えに時間閾値を用いるような実施形態も、想定されている。例えば、前述のように、熱流束率、温度差、及び/又はヒートシンク以外のコンポーネントの温度が、モニタされてもよい。従って、例示の実施形態は例示的なものに過ぎず、例示の温度プロファイル及び作動方法のみに、本開示を限定するものではないことが、理解されるべきである。
【0049】
上記の実施形態は、記載する様々な作動モードの任意の適切な温度を用いて実施され得ることが、理解されるべきである。例えば、典型的な皮膚温度は、約27℃~約30℃の範囲である。更に、以下で更に詳しく説明するように、冷痛覚は、典型的には約15℃未満の温度で始まり、熱痛覚は、典型的には約45℃を超える温度で始まる。従って、冷却感覚がユーザに適用される或る実施例では、ユーザの皮膚に適用される温度は、約15℃~約45℃、約20℃~約40℃、又は、任意の他の適切な温度に維持されてよい。更に、冷却モードで作動する場合、通常の作動の温度は、約15℃と約30℃の間、約20℃と約30℃の間、約25℃と約30℃の間、及び/又は、任意の他の適切な温度範囲に、維持されてよい。熱放散モードに切り替えるためのヒートシンクの対応する温度閾値は、約30℃と約50℃の間、約30℃と約40℃の間、約35℃と約40℃の間、約40℃と約50℃の間、及び/又は、任意の他の適切な温度範囲であってよい。更に、通常の作動に切り戻すための、及び/又は、シャットダウン目的のための、第2の温度閾値は、30℃と40℃、30℃と36℃、及び/又は、他の任意の適切な温度範囲であってもよい。また、熱放散モードの間に下地の表面に適用される温度は、25℃と40℃の間であってもよい。更に、ユーザに熱的にニュートラルの若しくはそれほど強くない冷却感覚を適用することが望まれる場合、熱放散モード中にユーザに適用される温度は、25℃と36℃の間、30℃と36℃の間、31℃と35℃の間、又は任意の他の適切な温度範囲であってもよい。勿論、本開示がそれらに限定されるものではなく、上述の温度範囲よりも大きい温度範囲及び小さい温度範囲の両方の、他の適切な温度範囲も実装され得る。更に、対応する適切な閾値により、ユーザに温めの熱感覚が適用される実施形態もまた、企図される。
【0050】
実施例:熱感知
【0051】
皮膚上の熱感覚(暖かさや冷たさ)は、二つの別々のタイプの感覚器官、即ち、冷感受容体と温感受容体によって知覚される。神経末端の刺激の相対的程度によって、熱感覚の強度の、個人の知覚が決まる。温感受容体と冷感受容体は、特定の温度範囲で活性化され、夫々が温度変化率に一意に敏感である。以下で更に説明するように、本発明者は、二つのタイプの熱受容体の一意的な挙動を理解することにより、暖かさの有意の感覚を発生させることなく、明らかに冷たい温度から初期皮膚温度より高い温度まで調節され得るように、ユーザの皮膚温度を操作することを可能にする温度プロファイルを決定することが、可能である。しかしながら、ユーザの皮膚の温度が、冷却の有意の感覚を発生させることなく、より暖かい温度からより低い温度へと低下する、実施形態もまた、企図される。
【0052】
図6は、冷感受容体と温感受容体が敏感に反応する温度範囲を示す。具体的には、人間の皮膚の四つのタイプの神経末端、冷感受容体、温感受容体、及び、冷痛覚の神経線維、熱痛覚の神経線維の、放電周波数が様々な温度で示されている。
図6は、Hall,J.E.,及びGuyton,A.C.による“Textbook of Medical Physiology, 11th Ed. Saunders Elsevier, pp.608, Fig.48-10, 2011”から転載している。
図6は、これらの温度に亘る、冷感受容体及び温感受容体、並びに、熱痛覚及び冷痛覚の、重なり合う範囲を説明する目的で含まれている。図に示すように、冷感受容体は25℃前後の温度で最も敏感であるが、その活動範囲は15℃前後から40℃以上にまで広がっている。15℃以下では、感覚は活性化された痛覚受容体に支配されている。温感受容体は約30℃から約45℃の熱痛覚閾値まで敏感である。暖かさの、無害な(痛みを伴わない)感覚は、一般的に、約37~42℃の静温度で発生する。従って、約30℃以下では、温感受容体はその温度範囲で敏感ではないので、暖かさの感覚を発生させることなく、ユーザの皮膚の温度が上昇し得ることに、留意すべきである。従って、或る実施形態では、熱放散作動モードの間にユーザの皮膚の温度を上昇させることが望まれる場合、ユーザの皮膚、若しくは他の下地の表面に適用される温度は、閾値温度以下の温度では第1の平均変化率で上昇させ、閾値温度以上の温度では第1の平均変化率よりも大きい第2の平均変化率で上昇させてもよい。例えば、より低い温度でのレートの不感応性のために、デバイスは、ユーザの皮膚に適用される温度変化を減少させるようにシステムを駆動することなく、熱的に平衡化することを単に許されてもよい。具体的には、システムの一つ以上の加熱及び/又は冷却素子は、閾値温度がユーザの皮膚に適用される前に、単にシャットオフされるか、又は、減少した量で駆動されてもよい。閾値温度に近づいた後、又は閾値温度を満たした後、システムは、上述のように、望ましくない熱感覚の知覚を回避するために、ユーザに適用される温度変化率を制御するように作動してもよい。特定の実施形態に応じて、閾値温度は、約28℃と約32℃の間、約29℃と約31℃の間、及び/又は、例えば約30℃の閾値温度を含む他の任意の適切な閾値温度であってもよい。30℃を超える温度に対する温熱感覚の知覚のためのレートの感応性は、以下に更に詳細に記載される。
【0053】
熱受容体が敏感な温度範囲であっても、熱受容体は強い時間依存性の挙動を示す。具体的には、熱受容体はより速い温度変化率に強く反応し(即ち、熱的知覚の増加)、時間の経過とともに静的な温度プロファイルに適応する(即ち、熱的知覚の減少)。従って、熱調整システムのコントローラは、約30℃の閾値温度のような上述の閾値温度以上の皮膚温度のためにユーザの皮膚の温度を上昇させながら、ユーザに冷却若しくはニュートラルの熱感覚の、いずれかを提供するために、温度および温度変化率の両方を、制御し得る。例えば、温度が約0.1℃/sよりも大きい変化率で変化している場合、温感受容体及び冷感受容体の両方が、発火率の増加を示すが、冷感受容体は、温感受容体と比較して、温度変化率に対して顕著に高くなった感度を示す。
【0054】
図7は、人の熱的知覚の変化率依存性を説明するために含まれている。更に、この図は、Kenshalo DR, Holmes C, Wood P.らによる“Warm and Cool Thresholds as a function of rate of stimulus temperature change. Percept Psychophys 3, pp. 81-84, 1968”から掲載されている。図は、3人の参加者の前腕の背側表面上の31.5℃のベースライン皮膚温度からの、暖かさや冷たさの感覚を検出するための、閾値の温度変化を示す。適用される温度変化は、0.3℃/s、0.1℃/s、0.05℃/s、0.02℃/s、0.01℃/sの変化率で、増加若しくは増減した。図に示すように、感知される冷却感覚と温熱感覚の両方ともに、決定される温度閾値は、ユーザに適用される温度変化率に応じて、大きく変化した。具体的には、
図7は、温度変化率が遅いほど、冷却感覚若しくは温熱感覚のいずれかを知覚するための初期皮膚温度に対する温度変化の大きさが大きいものと関連する、ということを示す。図に示すように、このレートの感応性の効果は、0.1℃/s以下の温度変化率で特に顕著であり、冷却感覚の知覚に比べて、温熱感覚の知覚の方が、より顕著であった。理論に縛られることを望むものではないが、冷却感覚は急激な温度変化により敏感であるのに対し、温熱感覚は温度変化率に敏感ではないということである。従って、適用される変化率が十分に遅い場合には、温暖感覚の知覚は適応しやすい、即ち、熱的知覚が低くなり得る。逆に、冷感受容体のレートの感応性の増大のために、或る実施形態では、望ましくない熱感覚の知覚を回避するために、より低い冷却温度からの温暖の間に適用される変化率よりも遅いレートで、より高い温熱温度から、表面を冷却することが望ましい。
【0055】
熱感覚への適応は、広い範囲の温度に亘って起こり得るが、最も容易なのは、約30℃から36℃までの周囲条件下で人間の皮膚で一般的に観察される温度の範囲である。いずれの場合も、対応する温度範囲内で温度変化率を適切に制御することにより、温度調整の冷却方向及び/又は温熱方向のいずれかにおいて、実質的にニュートラルの熱感覚をユーザに提供しながら、ユーザの皮膚の温度を調整することが可能である。例えば、このことは、ユーザの皮膚を暖める場合に特に有用であるが、ここで、暖めに対する生理学的適応のより速い変化率によって、熱調整デバイスが、暖めの感覚を発生させることなく、ユーザの皮膚をユーザの初期皮膚温度よりも高い温度に暖めることを可能にする、熱放散モードで、熱調整デバイスを作動させることを可能にする。
【0056】
上記を考慮すると、一つの実施形態では、冷却感覚から暖まる場合、閾値温度以下の平均温度変化率は、約0.5℃/sと10℃/sの間、約0.5℃/sと1℃/sの間、約1℃/sと10℃/sの間、約5℃/sと10℃/sの間、及び/又は、任意の他の適切な温度変化率で、あってもよい。これに対応して、閾値温度以上では、適用される温度変化率は、1℃/s、0.5℃/s、0.1℃/s、0.05℃/s、及び/又は、任意の他の適切な温度変化率以下であってもよい。或る実施形態では、閾値温度は、前に詳述した温度に対応するものでもよい。
【0057】
冷却感覚から暖めるのとは対照的に、反対の熱的方向に行くこと、即ち、より高い温度からより低い温度に冷却することは、上述したような方法では、知覚されないかもしれない。具体的には、冷感受容体が40℃以上でアクティブであること、及び冷感熱受容体のレートの感応性が高くなっていることにより、人に適用される冷却の変化率によっては、冷却プロセスの大部分(全てではないにせよ)の間に、冷却感覚の知覚が生じる可能性がある。従って、第1の高い温度から第2の低い温度に冷却するときには、ユーザにとって望ましくない冷却感覚の発生を回避するために、比較的低い温度変化率を維持することが望ましい場合がある。冷却中の適切な温度変化率は、1℃/s、0.5℃/s、0.1℃/s、0.05℃/s、0.01℃/sの、夫々以下であり、及び/又は、他の適切な温度変化率以下であってもよい。
【0058】
図8Aは、人の皮膚が熱的に適用されている温度と、その適用温度に相対するユーザの皮膚に適用される温度変化との間の相互作用のために、人が経験する熱感覚を説明する目的で含まれている。
図8Aは、Kenshalo,D.R.による“Psychophysical studies of temperature sensitivity. in W. D. Neff (Ed). Contributions to sensory physiology. New York: Academic Press, pp. 19-74, 1970”から転載されたものである。図は、人の皮膚が熱的に適用される温度に対する、特定のタイプの熱的知覚を提供するための適用温度からの変化を、示すグラフである。例えば、約31℃と約35℃の間の温度について、約0.4℃と約0.2℃以下である熱的適用温度からの温度変化は、比較的ニュートラルの熱感覚をもたらす。これは、約30℃若しくは31℃未満の温度では冷却性の熱感覚の量が少ないかそれ以上になることがあり、約36℃以上の温度では温熱性の熱感覚の量が少ないかそれ以上になることがあるのとは対照的である。
【0059】
図8Bは、
図8Aの修正版であり、グラフ上に二つの温度プロファイルF
1及びF
2が重ね合わされており、温度プロファイルの少なくとも一部の間、知覚される冷却の、及び/又はニュートラルの、熱感覚の減少量のいずれかを提供しつつ、ユーザの皮膚の温度を増加させる方法を示している。図示される温度プロファイルは、ユーザの皮膚の熱的適用からの変化に関連し得る温度変化率を制御することによって、温熱の感覚を発生させることなく、ユーザの皮膚の温度を第1の冷却温度から目標皮膚温度T
Sk(TN)まで上昇させ得る。更に、皮膚は約30℃未満では温熱感覚にあまり敏感ではないため、適用温度に対するより大きな温度変化、即ちより速い温度変化率が、図示される二つの温度プロファイルの間の差によって示されている約30℃未満の温度にて適用されてもよい。勿論、上記に加えて、熱感覚の生理学に基づくと、ニュートラルの熱感覚を維持しながらユーザの皮膚に適用され得る温度には上限があり、これを超えると、温度変化率に関係なくユーザが温熱に気づく可能性がある。この生理学的限界は、約36℃を超える温度にあることが確認されている。従って、ユーザにニュートラルの熱感覚を提供するためにデバイスの温度を上昇させるいくつかの実施形態では、ユーザの皮膚に適用される温度は、約36℃以下に維持されてもよい。
【0060】
図8Aおよび8Bは、適用温度に対する温度変化率を描写していないことに留意すべきである。その代わりに、これらの図は、被験者が最初に熱感覚を知覚する閾値温度の変化のみを示している。しかしながら、より大きな閾値温度は、より大きな温度変化率と関連している可能性があり、従って、これらの図は、様々なタイプの熱刺激を提供するために適用され得る温度プロファイルの議論のために有益である。従って、図に直接描かれていなくても、示される温度プロファイルF
1及びF
2は、望ましくない熱感覚の知覚を回避するために選択される適切な温度変化率を有し得ることが理解されるべきであり、それは、例示の実施形態では、温熱の熱感覚に対応する。
【0061】
ユーザの皮膚を暖めている間の、低減された冷却感覚及び/又はニュートラルの感覚は、図に示されており、上述されているが、本開示は、この態様に限定されない。例えば、先に説明したように、上昇した温度からユーザの皮膚を冷却する間に、低減された温熱感覚及び/又はニュートラルの熱感覚がユーザに適用され得る実施例もまた、企図される。
【0062】
実施例:熱放散と熱生成のバランス
【0063】
モニタ及び制御され得る様々なパラメータ、並びに、結果として生じるシステム動作の例が、受動ヒートシンクおよび熱電モジュールを含む、ウェアラブル熱調整デバイスに関連して以下に提供される。本実施例は、冷却作動モードおよび熱放散作動モードの、連続したサイクルを用いてシステムを作動させることについての議論を含む。具体的には、閉ループシステム内の様々なセンサからの入力に基づいてデバイスを制御する方法が記載されている。
【0064】
図9A及び9Bは、夫々、能動冷却及び熱放散を含む、異なる作動モードの間に人を冷却するのに用いられる温度調整デバイスの簡略化モデルを示す。具体的には、モデルは、人体、熱電モジュール、受動ヒートシンク、及び周りの周囲環境に対応する、四つの層を含む。モデルは、本明細書に開示のプロセスおよび方法に関連するメカニズムを強調するために簡略化されている。具体的には、モデルは、環境への熱放散率(Q
Diss)に関連して、ヒートシンクに送り込まれる熱量(Q
Load)を管理することに向けられている。以下で更に議論するように、このバランスは、ヒートシンク温度と周りの周囲環境の温度との間の温度差ΔT
Envに関連するように、熱電素子全体の温度差(ΔT
TEM)を管理することによって、決定される。
【0065】
一般的な用語では、能動冷却の間、皮膚温度TSkは、固定温度若しくは可変温度であってもよいT
Sk(Cool)に制御可能に冷却される。この能動冷却条件下で作動している間は、熱負荷Q
Loadがヒートシンクに適用され、ヒートシンクから熱が熱放散率Q
Dissで放散される。Q
LoadがQ
Dissよりも大きいため、能動冷却中はヒートシンク温度T
HSが上昇する。T
HSが定義された閾値(例えば、最大ヒートシンク温度T
HS-MAX)に達すると、システムは、
図9Bの熱放散モードに切り替わり得る。
【0066】
図9Bにおいて、皮膚温度T
Skは、所望の温度T
SK(TN)に等しくなるまで、熱的ニュートラル温度プロファイルf
TNに沿って増加し得る。これは、熱電モジュールを横切る温度差ΔT
TEMを徐々に減少させ、これにより、熱電モジュールQ
Loadによって生成される熱負荷を減少させる。以下で更に詳細に説明するように、様々な作動パラメータは、熱負荷がこの温度でのヒートシンクの熱放散率よりも小さくなるように選択されてもよい。従って、ヒートシンク温度は、第2のヒートシンク温度閾値T
HS(Eq)に達するまで低下してもよく、その後、システムは、単にオフにして、初期状態に戻って弛緩し、及び/又は能動冷却に戻ってもよい。
【0067】
以下のモデルを開発するにあたり、幾つかの単純化された仮定が為された。具体的には、熱界面間の温度を同じと仮定し、熱界面抵抗の影響を無視した。このモデルでは、皮膚の温度(TSk)を熱電素子のコールド側の温度(TCold)と同じ扱いとし、ヒートシンクの温度(THS)を熱電素子のホット側の温度(THot)と同じ扱いとしている。
【0068】
受動ヒートシンクは、高い熱伝導性を有する材料、典型的にはアルミニウム、銅、又は、別の金属、金属の組み合わせ、若しくは、熱伝導性ポリマー若しくは織物などの、他の熱伝導性材料から作られてもよい。いずれの場合も、現在のモデルのために、ヒートシンクを介して完全な伝導があると仮定した。完全な伝導を仮定するということは、ヒートシンクの表面温度(TSurf)がヒートシンクの温度(THS)と同じであると仮定されたことを意味し、これは熱電素子のホット側の温度(THot)と同じである。しかしながら、実際には、ヒートシンクの表面の温度は、ヒートシンクの形状と、それが熱放散と伝導の局所的な変化率にどのように関係するか、とに、依存する。
【0069】
現在のモデルでは、局所的な冷却に対する人体の適応行動も無視されている。しかしながら、実際には、人体の熱的特性は、局所的な加熱及び/又は冷却に応答して、血管収縮および血管拡張を介して局所的に調節されている。従って、このモデルは、本開示の方法/プロセスに大きな影響を与えない人体自体の複雑で適応的な熱的特性を考慮に入れていない。しかし、或る実施形態では、人体の生理学的挙動は、能動冷却中の皮膚温度の選択(若しくは変調)において説明され得る。
【0070】
図示されているように、熱電冷却の間、外部電力(P
TEM)を熱電モジュールに供給して、熱電モジュールのコールド側からホット側に熱流束(Q
Cool)を駆動させてもよい。Q
Coolは、ヒートシンクを介して汲み上げられる熱であり、人体の熱を除去するペルチェ冷却を含む競合処理と、小さくて無視し得るトンプソン効果と、熱電素子のホット側からコールド側への熱伝導と、ジュール加熱との組み合わせに、対応する。P
TEMは、皮膚からヒートシンクに熱を移動させるために熱電モジュールに供給される電力である。この電力は、その後、廃熱に変換され、ヒートシンクに伝達される熱負荷(Q
Load)に加算される。従って、ヒートシンク上の熱負荷は、皮膚からヒートシンクに移動された熱と、そのために必要な電力との合計である可能性があり、以下の式、及び
図9Aの複合の熱流矢印を参照されたい。
[数1]
Q
Load=Q
Cool+P
TEM
【0071】
図9Aは、ヒートシンクに適用される熱負荷Q
Loadが、ヒートシンクの熱放散率Q
Dissよりも大きい作動モードを示している。このような作動モードは、図示されているように、能動冷却中に発生し得る。熱負荷および熱放散率のこの不均衡は、ヒートシンク温度THSの上昇による熱電素子全体の温度差ΔT
TEMの増大をもたらす。前述のように、熱電材料は、熱電素子全体の温度差が増大すると効率性が低下する。従って、熱電モジュールの効率性は、ヒートシンクに適用される熱負荷を増大させる温度差ΔT
TEMの増加に伴って低下する。従って、この作動モードでは、システムが一定の温度を適用している場合でも、ヒートシンクの温度が上昇する正のフィードバックループが発生し得る。このタイプの動作は、以下に詳しく説明するように、ヒートシンクの熱放散率もヒートシンク温度の上昇に伴って増大するため、制御上の課題となる。
【0072】
受動的熱伝導性ヒートシンクは、自然対流と放射冷却を組み合わせて周囲の環境に熱を放散する(QDiss)。
[数2]
QDiss=QConvection+QRadiation
【0073】
どの熱放散プロセスが支配的であるかは、しかしながら、ヒートシンクの形状、材料の選択、ヒートシンクの温度、及びヒートシンクの特定の環境に強く依存する。環境温度が固定されたままであると仮定すると、熱放散の変化率はTHSとともに増加する。具体的には、自然対流に伴う熱放散は、ヒートシンクと環境温度との温度差ΔTDissで線形的に増加し、放射冷却はTHS
4とTEnv
4との差として増大する。従って、QDissとヒートシンク温度との正確な関係は、ヒートシンクの設計やヒートシンクが配置されている環境に強く依存することになる。
【0074】
現在のモデルに適用可能な様々な作動パラメータを説明した後、
図9Aおよび9Bに示される作動の能動冷却モードおよび熱放散モードの間のシステムの作動を、夫々以下に更に説明する。
【0075】
図9Aを参照すると、デバイスが装着されているが電源が入っていないとき、ヒートシンク温度(T
HS(Init))は、初期皮膚温度(T
Sk(Init))と環境温度(T
Env)との間のどこかにある。システムがオンになると、熱電素子のコールド側の温度センサは、ユーザの皮膚が初期皮膚温度T
Sk(Init)から第2の冷却温度T
Sk(Cool)に冷却されるようにP
TEMを調節するPID制御システムにフィードバックを提供し得る。このプロセスは、
図9Aにおいて(A)とラベル付けされている。能動冷却中の初期には、ヒートシンク温度T
HSが環境温度T
Envと同じようであるため、ヒートシンク上の熱負荷(Q
Load)は、熱放散率(Q
Diss)よりもはるかに大きい。従って、矢印の相対的な大きさで示されるように、ヒートシンクに適用される熱負荷Q
Loadは熱放散率Q
Dissよりも大きく、これにより、ヒートシンク温度T
HSは徐々に上昇する。
図9Aの(B)で示されているように、T
HSが上昇し続けると、熱放散率Q
Diss、熱電素子P
TEMに適用される電力、及び、ユーザの皮膚からヒートシンクQ
Loadに伝達される熱の全てが同様に増加する。従って、システムは、ヒートシンクの温度が上昇した結果、より多くの電力を消費し、放散している。殆どのウェアラブル熱電システムでは、この正のフィードバックループは、熱電モジュールと利用可能な電力とによって決定される、熱電素子の最大ΔT
TEMに達するまで、T
HSを継続的に増大させる。従来の作動では、この温度に達する前にデバイスは通常シャットオフされるか、または身体から取り外される。あるいは、環境条件およびヒートシンクの設計によっては、ヒートシンク温度が上昇した場合に、ヒートシンクの熱負荷と熱放散率が等しくなり、高温でのシステムの定常の作動を可能にし得る。しかしながら、そのような状態が発生したとしても、システムをシャットダウンする際にユーザに適用される所望の熱感覚を維持することは依然として課題であり、本明細書に開示する方法及びシステムの実装から利益を得ることができる。
【0076】
T
HSの増大が、ΔT
TEM及びΔT
Dissの増大を駆動するかもしれないが、受動ヒートシンクQ
Dissからの熱放散率は、ヒートシンクの温度が増大する変化率を決定する熱伝達プロセスの制御パラメータであってもよい、ということは、強調する価値がある。しかしながら、Q
Dissは、ウェアラブル熱電システムの使用中に定期的に変化する環境条件に依存する。従って、以下の
図9Bに関連して説明する熱放散方法は、ヒートシンクを所望の作動温度まで正常に冷却するために、作動中に発生する熱放散の量を考慮に入れることに加えて、作動中にヒートシンクから環境への熱放散の変化率を考慮に入れてもよい。
【0077】
上述のように、受動ヒートシンクを有するウェアラブル熱電システムの通常の作動モードに対応し得る能動冷却の間、ヒートシンクに適用される熱負荷は、ヒートシンクからの熱放散率よりも大きいかもしれず(即ち、Q
Load≧Q
Diss)、対応するヒートシンク温度は、ヒートシンクに蓄積されるかなりの過剰な熱のために、初期のヒートシンク温度よりも大きいかもしれない(即ち、T
HS>T
HS(Init))。しかしながら、
図9Bに関連して以下に更に詳述するように、ヒートシンク温度、及び熱電モジュール全体の温度差が適切に制御される場合には、ヒートシンクに蓄積された熱を放散し、より低いヒートシンク温度でシステムを定常の作動に戻すことが可能であるかもしれない。更に、上述したように、このプロセスは、冷却するためにデバイスを身体から取り外すことを必要とせずに、冷却感覚の低下及び/又はニュートラルの熱感のいずれかをユーザに提供しながら、行われてもよい。
【0078】
図9Bは、受動ヒートシンクを含む熱調整デバイスのユーザに適用される所望の温度を維持しながら、ヒートシンクから熱エネルギーを放散させるための作動モードを示す。図示されているように、プロセス(C)の間に、皮膚温度T
Skは、皮膚温度対時間の関数であってもよく、或る実施形態では、前述のように、ニュートラルの熱感覚プロファイルであってもよい、温度プロファイルf
TNに沿って、能動冷却設定点T
SK(Cool)からより暖かい皮膚温度T
Sk(TN)に上昇されてもよい。この増大する皮膚温度は、熱電材料を横切る温度差ΔT
TEMの減少に対応するのであり、ヒートシンクに適用される熱的負荷が、ヒートシンクの熱放散率(すなわち、Q
Load<Q
Diss)よりも小さくなるように、選択されてもよく、これは、ヒートシンクの温度が上昇しているために依然として大きいかもしれない。プロセス(D)の間、ヒートシンク温度T
HSは、熱放散中に皮膚に適用される温度よりも大きいかもしれない所望の定常状態の作動温度T
HS(Eq)に向かって減少し始める。減少した温度差に伴って増加する熱電材料の効率のために、これは、ユーザの皮膚に適用される所望の温度を維持しながら、所望の閾値状態へのヒートシンクの完全な熱放電を可能にする負のフィードバックループを開始し得る。
【0079】
上記を考慮すると、システムの熱放散が成功するための条件は、以下のように簡単に述べることができる。
[数3]
TSk=TSk(TN)のとき、QLoad<QDiss
【0080】
従って、ヒートシンクの、上述の成功した熱放散の回復は、次のようなときに発生する。つまり、温度差の関数であり得る、ヒートシンクに適用される熱負荷QLoadが、熱放散ヒートシンクQDissよりも小さくなるように、熱電素子に亘る温度差(ΔTTEM=THS-TSk)が十分に低減されるべく、熱調整デバイスによって皮膚に適用される温度が適切な作動温度まで上昇するとき、である。これらの条件が満たされると、ヒートシンクの温度が低下し始め、前述の負のフィードバックループが発生して、熱システムが所望の作動温度まで弛緩できるようになる。このプロセスは、能動冷却中に観察される正のフィードバックループの逆であり、ヒートシンク温度がこの熱放散の作動中に適用された皮膚温度、若しくはその他の所望の温度と等しくなるまで(即ち、THS=TSk=TSk(TN))継続され、この点にてΔTTEM=0及びPTEM=0である。この時点で、クローズループ熱電デバイスは、所望の皮膚温度を維持しながら、効果的にそれ自体オフになっている。従って、システムに追加の電力を提供することなく、熱電冷却システムは、初期状態(TSk(Init)、THS(Init))に戻るまで、弛緩し続けることが許され得る。或いは、システムは、先に説明した能動冷却のような通常の作動モードに戻されてもよい。
【0081】
上記の枠組みに基づいて、本明細書に記載のやり方で作動するシステムの熱放散のための作動限界を定義することも可能である。具体的には、熱放散中のヒートシンク温度と皮膚に適用される温度との関係が適切にバランスされている場合、以下の条件になり得る。
[数4]
TSk=TSk(TN)のとき、QLoad≧QDiss
【0082】
上記に戻るが、或る作動モードでは、システムによって皮膚に適用される温度は、ヒートシンクに適用される熱負荷がヒートシンクの熱放散率以上となり得るような、熱電材料全体の温度差をもたらし得るものであり、それによってヒートシンク温度は一定(Q
Load=Q
Diss)のままである、又は増大し続ける(Q
Load>Q
Diss)、ということになり得る。従って、ヒートシンク温度の上限は、熱放散THSの間にユーザの皮膚に適用される所定の温度について、熱負荷がヒートシンク温度からの熱放散率に等しい点にて、定義されてもよい(即ち、T
Sk=T
Sk(TN)のとき、Q
Load=Q
Diss)。この温度は、ヒートシンク上の熱負荷が環境への熱放散率と釣り合っているので、
図9A及び
図9BにてT
HS(Bal)と称され得る。従って、熱調整デバイスは、ヒートシンク温度T
HSがT
HS(Bal)よりも控え目に低い値を維持している限り、ヒートシンクから熱を放散することができ、及び/又は、連続的に作動し得る。
【0083】
前に述べたように、環境への熱放散率QDissは、環境条件に非常に敏感であり、これらの条件は、受動ヒートシンクでは能動的に制御されない。しかしながら、本開示のシステムは、ユーザの皮膚に適用される温度を正確に制御することが可能であり、よって、ヒートシンクの温度を調節し得る。しかしながら、QDissを知ること、又は適切なTHS(Bal)が所与の時点で何であるか、を知ることは、実際には困難である。従って、ヒートシンクの熱放散を可能にするために、幾つかの可能な作動方法が適用され得る。
【0084】
一つの実施形態では、受動ヒートシンクを含む熱調整デバイスが作動され得る環境条件の範囲について保守的な仮定が為され得る。システムが、環境条件の定義された範囲内で作動されることを意図している場合、最大許容ヒートシンク温度THS-MAXは、次のように定義されてもよい。つまり、ヒートシンク温度が最大許容ヒートシンク温度に等しいとき(即ち、THS=THS-MAX)、システムは、冷却モードなどの通常の作動から、ヒートシンクの熱放散を可能にするべくユーザの皮膚温度が所望の温度に調整される熱放散作動モードに切り替わる、というものである。そのような方法は、(i)実施するのが簡単であり、(ii)作動条件の所望の範囲下で比較的ロバストである、という点で有利であり得る。しかしながら、考えられる不利な点としては、(i)所与の時間に提供され得る能動冷却の量を不必要に制限すること、及び(ii)熱調整デバイスの局所環境が、ヒートシンクの熱放散率が予測される範囲の値よりもはるかに小さいような、予測される作動条件の十分に外にある場合に、ヒートシンクの熱放散が失敗する可能性があることが、挙げられる。
【0085】
別の実施形態では、ヒートシンクの温度変化率(dTHS/dt)は、QDissの瞬時値を推定するのに用いられもよく、多数の様々なタイプの温度センサを使用して容易に測定され得る。理論に縛られることを望むものではないが、ヒートシンクの温度変化率は、ヒートシンクに適用される熱負荷QLoadと、熱放散率QDissとの間の差異の、ヒートシンクの熱容量(CHS)による比に関連する。
[数5]
dTHS/dt=(QLoad-QDiss)/CHS
【0086】
ヒートシンクの熱容量CHSは、所与のヒートシンクに対して計算や測定が容易である固定の材料特性である。上記の関係を利用して、温度変化率とヒートシンクに適用される熱負荷を用いて、環境変動、放射冷却、及び自然対流に関する多くの複雑な問題を克服し、所与の時点でのQDissを推定することができる。皮膚に適用される温度、及び、対応するヒートシンク温度は、ヒートシンクが、蓄積された熱を放散し、所望のより低い作動温度へ弛緩することを可能にするべく、シンクに適用される熱負荷と熱放散率との間の所望の関係を提供するように適切に制御され得る。
【0087】
QLoadは、作動中にどのような追加情報がシステムによってモニタ若しくは収集されているかに大きく依存して、多くの様々な方法で決定され得る。前述のように、ヒートシンクQLoadに適用される熱負荷は、熱電モジュールPTEMに提供される電力と、ユーザの皮膚からヒートシンクQCoolへの熱電モデルに亘る熱伝達とに、等しいことがある。これらの3つの項の各々は、システムによって直接測定されてもよいし、他のシステム情報に基づいて間接的に近似されてもよい。例えば、一つの実施形態では、熱流束センサは、QLoadの直接測定を提供するために、熱電素子とヒートシンクとの間のインターフェースに統合され得る。別の実施形態では、システムのパワーエレクトロニクスは、熱電モジュールに亘る電圧(VTEM)、熱電モジュールに提供される電流(ITEM)、及び熱電モジュールの抵抗(RTEM)の、幾つかの組み合わせを通して、熱電素子PTEMに提供される電力の直接測定を可能にするように設計され得る。さらに別の実施形態では、PTEMの推定値を提供するために、PTEMの関連するサブコンポーネント(VTEM、ITEM、RTEM)を直接測定せずに、推定してもよい。例えば、VTEMは、熱電素子を駆動するのに用いられる電源の知識に基づいて近似され得、RTEMは、温度センサによって測定される、熱電モジュール及びΔTTEMの特性の知識に基づいて近似され得る。更に別の実施形態では、閉ループPID制御システムは、PTEMを推定するためにシステムの既知の又は推定されたRTEM及びVTEMと組み合わせて取られ得るITEMを近似するのに用いられ得るデューティサイクルを有するパルス幅変調(PWM)を使用して、熱電素子への電力を調節し得る。また、或る実施形態では、熱電素子と皮膚との間のインターフェースに統合された熱流束センサを用いて、QCoolを直接にのみ測定することが望ましい。また、ΔTTEMの知識とPTEMの推定若しくは測定とを組み合わせて用いられる特定の熱電モジュールの既知の特性に基づいて、QCoolを近似することも可能である。
【0088】
上記に加えて、熱放散を開始するための閾値温度に対応し得る最大ヒートシンク温度は、ヒートシンクが最大ヒートシンク温度にあり、熱調整デバイスが、例えば、通常の冷却作動中に適用される温度よりも大きい温度を含む、熱放散目的の所望の温度を皮膚に適用しているときに、ヒートシンクに適用される予測される熱負荷に基づいて、決定され得る。上述の方法では、熱放散の間、皮膚の温度は一定に保持され得る。従って、熱電素子は、積極的に皮膚を冷却しているのではなく、ヒートシンク温度と皮膚に適用される温度との間の差(即ち、ΔTTEM=THS-MAX-TSk(TN))に等しいような、熱電素子全体の特定の温度差を維持するに過ぎない。従って、QCoolは、PTEMと比較して無視できる程度であり、シンクに印加される熱負荷は、熱電素子に入力される電力とほぼ等しいと仮定され得る。上述のように、熱電モジュールへの入力電力PTEM(ΔTTEM)は、熱電モジュールの既知の特性に基づいて決定され得る。このことは以下のように用いられ得る。つまり、所与の熱放散率QDiss、及び熱放散中の適用皮膚温度TSk(TN)について、ヒートシンクに適用される熱負荷がヒートシンクからの熱放散率よりも小さい(即ち、QLoad<QDiss)ように、最大ヒートシンク温度THS-MAXを定義し得る、というように、である。
【0089】
上述に基づいて、熱放散作動モードに切り替えるための、最大ヒートシンク温度、即ち閾値温度は、予め定められた閾値であってもよいし、ヒートシンクの、所与の温度変化率、及びシステムの他の関連する作動パラメータに基づいて、動的に決定されてもよい。勿論、いずれの場合も、システムは、決定された最大許容ヒートシンク温度が、システムが熱を放散し、所望のより低い温度に弛緩することを許容する、絶対最大ヒートシンク温度を超えないことを保証するための、安全因子を含んでもよい。
【0090】
上記の実施形態は、主に、ヒートシンク温度、従って熱放散率QDissの関数として、記述した。しかしながら、様々な温度及び熱負荷を適切に制御してバランスを取るために様々な制御戦略が実装される実施形態もまた、企図されている。例えば、前述のように、別の実施形態では、能動冷却などの通常の作動の持続時間、及び/又は熱放散の持続時間は、上述のように、ヒートシンク温度を最大許容ヒートシンク温度以下に維持しつつ熱放散を可能にするために、システムの作動条件に関する想定に基づいて選択される固定持続時間に設定されてもよい。或る実施形態では、ヒートシンクの温度が、例えば、ヒートシンクの温度が所定の最大閾値温度に達することを含む、予想された温度よりも大きい温度に達した場合、タイミングサイクルは中断されてもよい。 そのような例では、デバイスは、熱放散作動モードに切り替わってもよい。
【0091】
実施例:ヒートシンクの熱放散と弛緩
【0092】
関連するヒートシンクの成功した熱放散と成功しない熱放散との両方を実施するのに熱調整デバイスが用いられた。実験システムは、本明細書に記載の実施形態と同様のものであり、熱電モジュール、複数の温度センサ、受動ヒートシンク、電源、及び、ヒートシンクの温度を管理しつつ正確な皮膚温度プロファイルを生成する閉ループ制御システムを、含んでいた。受動ヒートシンクは、0.9J/g・℃の比熱容量と200W/m・Kの熱伝導率を持つ、機械加工された6063アルミニウム合金で作られている。熱電モジュールは、熱伝導性エポキシを用いてアルミ合金ヒートシンクに搭載された。ヒートシンクの外側表面積は26cm
2であった。ANSYSシミュレーションに基づいて、ヒートシンクに対するフィギュアオブメリットは、周囲温度20~40℃の環境下で、浮力駆動の気流のみで20~30℃/Wの範囲内であることであった。カスタム熱電モジュールは、1気圧の窒素雰囲気下で熱電モジュールのホット側の温度27℃で測定された下記の表1に示すメトリクスを持っていた。
【表1】
【0093】
二つのサーミスタを、皮膚及びヒートシンクの温度をモニタするのに用いた。サーミスタは、負の温度係数抵抗器であり、熱電モジュールの両側のセラミックプレートの内側に表面実装した。これにより、適用される皮膚温度TSkinの正確な制御とヒートシンク温度THSのモニタリング、及び熱電モジュールに亘る温度差ΔTTEMの正確なモニタリングが、可能となった。デバイスはテスト中、被験者の前腕の内側に配置した。
【0094】
図10A~12Bは、ヒートシンクを高温から冷却する様々な方法の間に、ユーザが経験するヒートシンク温度、皮膚温度、および熱感覚の、プロットを示す。 具体的には、ウェアラブル熱電システムによる能動冷却の期間の後、ヒートシンクを冷却するために様々な制御方法が実装され、その結果として得られた温度、及びユーザが経験した熱感覚が、観察された。
【0095】
図10A及び
図10Bは、ヒートシンクの冷却中にユーザの皮膚に適用される温度について制御しないシステムの作動を示している。シャットダウンの前に、適用される皮膚温度T
Skは当初25℃であり、ヒートシンク温度T
HSは当初45℃であった。一定期間作動した熱電システムを着用し続けることいついての問題を説明するために、システムの熱平衡化中に熱電モジュールの温度を制御することなく、システムへの電力を遮断した。ヒートシンクが環境とユーザの体との両方に熱を放散し続けている間に、皮膚に適用される温度が約34℃~35℃の温度に急速に平衡化すると、感覚のプロットは、顕著な暖かさの感覚を示している。
【0096】
図11A及び
図11Bは、ユーザの皮膚に適用される温度を制御しつつ冷却されるウェアラブル熱電システムの、成功の冷却に対応する。具体的には、能動冷却の期間の後、皮膚温度T
Skは26℃であり、ヒートシンク温度T
HSは42℃であった。その後、適用された皮膚温度は、0.1℃/s未満の変化率で直線的に上昇し、2番目に高い皮膚温度32℃となった。熱感覚プロファイルで示されるように、この結果、ユーザは、ユーザに適用される皮膚温度を制御することなく、シンクの冷却中に経験される暖かい及び熱い感覚と比較して、実質的にニュートラルな熱感覚を経験することとなった。更に、ヒートシンクの条件と適用される皮膚温度との組み合わせは、熱放散率がヒートシンクに適用される熱負荷よりも大きい(即ち、Q
Diss>Q
Load)という閉ループシステムに対応する条件をもたらした。このようにして、ヒートシンク温度T
HSは、ユーザに対して顕著な暖かさの感覚を発生させることなく、モニタされた時間を通して、低下し続けた。
【0097】
図12A及び
図12Bは、ユーザの皮膚に適用される温度を制御しつつ冷却されるウェアラブル熱電システムの、成功でない冷却に対応する。具体的には、能動冷却の期間の後、皮膚温度T
Skは28℃であり、ヒートシンク温度T
HSは45℃であった。その後、ニュートラルの熱感覚のみがユーザによって観察されるような変化率で皮膚温度30℃まで温度を上昇させた。しかしながら、この場合、結果として生じるヒートシンク温度は、ヒートシンクによる熱放散と熱電モジュールによる発熱との割合の適切なバランスを可能にする、ヒートシンク温度を超えていた(即ち、T
HS>T
HS(Bal))。従って、温度平衡化プロセスの間、ヒートシンクの温度は、ヒートシンクによる熱放散率が、適用された皮膚温度に対して熱電モジュールによって生成された熱(すなわち、Q
Diss=Q
Load)と等しくなるまで、当初低下した。しかしながら、ヒートシンクの温度はそれ以上低下しなかった。より高い皮膚温度を適用すれば、ヒートシンクを適切に冷却することができたと考えられる。このことから、ヒートシンクからの熱放散率と熱電モジュールからの発熱率を適切にバランスさせることの重要性が確認された。
【0098】
本明細書に記載の技術についての上述の実施形態は、多数の方法のいずれでも実施することができる。例えば、実施形態は、ハードウェア、ソフトウェア、若しくはそれらの組み合わせを用いて実装し得る。ソフトウェアで実装する場合、ソフトウェアコードは、単一のデバイス内に提供されているか、若しくは複数のデバイス間で分散されているか、にかかわらず、任意の適切なプロセッサ若しくはプロセッサの集合体上で実行することができる。そのようなプロセッサは、CPUチップ、GPUチップ、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、又はコプロセッサなどの名称で当該技術分野にて周知の商用の集積回路コンポーネントを含む、集積回路コンポーネント内に一つ以上のプロセッサを有する集積回路として、実装され得る。代替的に、プロセッサは、ASICなどのカスタム回路、又はプログラマブルロジックデバイスを構成することから生じるセミカスタム回路で、実装され得る。更なる代替として、プロセッサは、商用のものであっても、セミカスタムであっても、カスタムであっても、より大きな回路又は半導体デバイスの一部であってもよい。特定の例として、幾つかの商用のマイクロプロセッサは、それらのコアの一つ若しくはサブセットがプロセッサを構成してもよいように、複数のコアを有する。但し、プロセッサは、任意の適切な形式の回路を用いて実装されてもよい。
【0099】
更に、本明細書に記載のシステム及び方法を実装するのに用いられるコントローラ若しくは他のコンピューティングデバイスは、集積プロセッサ、ラックマウントコンピュータ、デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータ、若しくはタブレットコンピュータなど、多数の形態のいずれでも具現化され得ることが、理解されるべきである。更に、コントローラ若しくはコンピューティングデバイスは、パーソナルデジタルアシスタント(PDA)、スマートフォン、又は、本明細書に記載の方法を実装することが可能な任意の他の適切なポータブル若しくは固定式電子デバイスを含む、一般的にコンピューティングデバイスとは見做されないが適切な処理能力を有するデバイスに、組み込まれてもよい。
【0100】
また、本明細書に記載のシステムは、一つ以上の入力デバイス及び出力デバイスを含み得る。これらのデバイスは、とりわけ、ユーザインタフェースを提示するのに用いることができる。ユーザインタフェースを提示するのに用い得る出力デバイスの例としては、出力を視覚的に提示するためのプリンタ若しくは表示画面、及び、出力を可聴的に提示するためのスピーカ若しくは他の音発生デバイスが挙げられる。ユーザインタフェースに用い得る入力デバイスの例としては、キーボード、マウス、タッチパッド、タッチスクリーン、ジェスチャー認識モジュール(例えば、IMU)、及び、デジタル化タブレットが挙げられる。別の例として、システムは、音声認識を介して、又は他の可聴形式で、入力情報を受信し得る。
【0101】
また、本明細書で概説する様々な方法又はプロセスは、様々なオペレーティングシステム又はプラットフォームのうちの任意の一つを採用する一つ以上のプロセッサ上で実行可能なソフトウェアとしてコード化され得る。更に、そのようなソフトウェアは、多数の適切なプログラミング言語及び/又はプログラミングツール若しくはスクリプトツールのいずれかを用いて記述され得、又、フレームワーク若しくは仮想マシン上で実行可能な機械語コードまたは中間コードとしてコンパイルされ得る。
【0102】
この点において、本明細書に記載の実施形態は、一つ以上のコンピュータ若しくは他のプロセッサ上で実行されると、上述の様々な実施形態を実装する方法を実行する一つ以上のプログラムでエンコードされた、コンピュータ可読記憶媒体(若しくは、複数のコンピュータ可読媒体)(例えば、コンピュータメモリ、一つ以上のフロッピーディスク、コンパクトディスク(CD)、光ディスク、デジタルビデオディスク(DVD)、磁気テープ、フラッシュメモリ、フィールドプログラマブルゲートアレイ若しくは他の半導体デバイスにおける回路構成、又は、他の有形のコンピュータ記憶媒体)として具現化され得る。前述の実施例から明らかなように、コンピュータ可読記憶媒体は、コンピュータ実行可能な命令を非一過性の形態で提供するのに十分な時間、情報を保持することができる。そのようなコンピュータ可読記憶媒体、又は、複数のそれら媒体は、上述のように本開示の様々な形態を実装するために、そこに記憶されたプログラム又は複数のそれらプログラムを、一つ以上の様々なコンピュータ又は他のプロセッサにロードすることができるように、運搬可能である。本明細書で用いるように、「コンピュータ読取可能記憶媒体」という用語は、製造物(すなわち、製造品)又は機械とみなすことができる、非一過性のコンピュータ読取可能媒体のみを包含する。代替的に又は追加的に、本開示は、伝播信号等のコンピュータ読取可能記憶媒体以外のコンピュータ読取可能媒体として、具現化され得る。
【0103】
「プログラム」若しくは「ソフトウェア」という用語は、上述のように、本開示の様々な形態を実装するためにコンピュータ又は他のプロセッサをプログラムするのに採用され得る、任意のタイプのコンピュータコード又はコンピュータ実行可能命令のセットを指すべく、本明細書では一般的な意味で用いる。更に、本実施形態の一つの形態によれば、実行の際に、本開示の方法を実行する一つ以上のコンピュータプログラムは、単一のコンピュータ又はプロセッサ上に存在する必要はなく、本開示の様々な形態を実装するために、多数の様々なコンピュータ又はプロセッサの間で、モジュール化された方法で、分散されてもよいことが理解されるべきである。
【0104】
コンピュータ実行可能命令は、一つ以上のコンピュータ又は他のデバイスによって実行される、プログラムモジュールのような、多くの形式であってもよい。一般的に、プログラムモジュールは、特定のタスクを実行するか、又は特定の抽象的なデータ型を実装する、ルーチン、プログラム、オブジェクト、コンポーネント、データ構造などを含む。典型的には、プログラムモジュールの機能は、様々な実施形態において所望のように結合されてもよいし、分散されてもよい。
【0105】
また、データ構造は、任意の適切な形式でコンピュータ読取可能媒体に格納されてもよい。例示の単純化のために、データ構造は、データ構造内の位置を介して関連するフィールドを有するように示されてもよい。そのような関係は、フィールド間の関係を伝えるコンピュータ読取可能媒体内の位置を有するフィールドのためのストレージを割り当てることによって、同様に達成されてもよい。しかしながら、データ構造のフィールド内の情報間の関係を確立するために、ポインタ、タグ、又は、データ要素間の関係を確立する他のメカニズムの、使用を経由することを含む、任意の適切なメカニズムが用いられてもよい。
【0106】
いくつかのアクションは、“ユーザ”によって行われるものとして記述している。“ユーザ”は単一の個人である必要はなく、或る実施形態では、“ユーザ”に帰属するアクションは、個人のチーム、及び/又は個人によって、コンピュータ支援ツール若しくは他のメカニズムと組み合わせて、実行されてもよいことが理解されるべきである。
【0107】
本教示は、様々な実施形態及び実施例に関連して記載されてきたが、本教示がそのような実施形態又は実施例に限定されることを意図したものではない。それどころか、本教示は、当該技術分野の当業者であれば理解されるであろうように、様々な代替案、修正案、及び等価物を包含する。したがって、前述の説明及び図面は、例示に過ぎない。