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  • 特許-顕微鏡観察用培養装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】顕微鏡観察用培養装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20230726BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20230726BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20230726BHJP
   G01N 21/01 20060101ALI20230726BHJP
   G02B 21/30 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
C12M1/34 B
C12M1/00 C
C12M3/00 B
G01N21/01 B
G02B21/30
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018005798
(22)【出願日】2018-01-17
(65)【公開番号】P2019122313
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-10-22
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】坪内 洋平
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】福井 悟
【審判官】松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-090374(JP,A)
【文献】特開2009-165444(JP,A)
【文献】特開2007-024576(JP,A)
【文献】特表2011-503544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M1/00-3/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生細胞を培養しながら顕微鏡観察を行う顕微鏡観察用培養装置であって、
プレートホルダをXY方向に移動させるXYステージユニットと、
前記プレートホルダに保持され、複数のサンプルホルダを有し、前記複数のサンプルホルダの各々に培養中の試料を収容するXY方向に平行なウェルプレートと、
前記XYステージユニットをそれぞれ上下から挟むように設けられるXY方向に平行なトップヒータユニット及びボトムヒータユニットと、を備え、
前記トップヒータユニットには、前記ウェルプレート内に収容された前記試料に薬液を添加するための孔が形成されており、
前記トップヒータユニットの上面側には、上下方向にスライド移動可能に構成され、前記ウェルプレート内に収容された前記試料に添加する薬液を滴下するディスペンサと、
前記ディスペンサが用いられない場合には前記孔を覆い、前記ディスペンサが下方向にスライド移動して前記試料に薬液を添加する場合には前記孔を開放する透明材料からなる蓋部と、
が設けられており、
前記XYステージユニットが、前記トップヒータユニットの下面側で前記ウェルプレートをX方向及びY方向に適宜移動させることにより、前記複数のサンプルホルダ内の前記試料の各々に、前記ディスペンサから前記孔を介して薬液が滴下され、
前記蓋部は、前記トップヒータユニットの上面側に当該上面に沿って備えられた固定軸に沿ってスライド移動可能に設けられている、
ことを特徴とする顕微鏡観察用培養装置。
【請求項2】
前記蓋部は、前記孔を覆ったとき、少なくとも前記ウェルプレートを気密に保持するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡観察用培養装置。
【請求項3】
前記プレートホルダには、加温用ヒータ、又は、外部からCO2ガスを供給するためのCO2ポートのうちの少なくとも何れかが設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の顕微鏡観察用培養装置。
【請求項4】
前記ボトムヒータユニットは、一方の面に、ヒータホルダとメタルプレートとからなる水流路が形成され、他方の面に、ボトムヒータが設けられていることを特徴とする請求項1~請求項3の何れか一項に記載の顕微鏡観察用培養装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡観察用培養装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、細胞分野の研究にあたっては、近年、従来の固定細胞に代わり、生細胞を用いた手法が重要になってきている。このような生細胞の場合、細胞を長期に渡って培養しながらその現象を観察することが行われる。
【0003】
一般に、細胞を長期間培養するためには、細胞にとって好適な環境を維持することが好ましい。例えば、特許文献1には、一般的な細胞を培養する環境としては、温度37度、湿度90%、CO2濃度5%に維持することが好ましいことが記載されている。
【0004】
また、特許文献1には、XYステージユニットを上下から挟むようにトップヒータユニットとボトムヒータユニットが設けられ、XYステージユニットに培養中の試料が収容されたウェルプレートを保持するプレートホルダが設けられた顕微鏡観察用培養装置が記載されている。また、特許文献1には、XYステージユニットが、ウェルプレートの着脱ができるように、X又はYの何れかの方向に大きく駆動できること、プレートホルダに、加温用ヒータ又は外部からCO2ガスを供給するためのCO2ポートが設けられていること、並びに、ボトムヒータユニットに流路が形成され、プレートホルダ内を加湿できることが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、複数の細胞培養容器(ウェルプレート)を用いて同時に細胞を培養する細胞培養装置において、各々の細胞培養容器に蓋が設けられた構成の装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-090374号公報
【文献】特表2012-524527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、生細胞を培養しながら観察する方法としては、例えば、この生細胞に投薬しながら、あるいは投薬直後の細胞の反応を素早く観察する、カルシウム反応等のような方法による観察が行われている。この場合、生細胞への投薬は、ディスペンサ等によって行われる。
【0008】
特許文献1に記載の顕微鏡観察用培養装置においては、細胞の培養に適した環境の保持と、ディスペンサによる投薬の作業性という、両方の機能を実現するため、トップヒータユニットの上部に、ディスペンサによる投薬用の孔が形成されている。しかしながら、特許文献1においては、トップヒータユニットに孔が形成されていることから、細胞培養環境の気密性を確保することが難しく、CO2ガスを大量に供給する必要があるため、CO2ガスの消費量が増大してコスト高となる問題があった。
【0009】
また、特許文献2に記載の細胞培養装置においては、複数で備えられた細胞培養容器自体に蓋が設けられ、それぞれ蓋で覆われる構成なので、容器内部の気密性が向上して環境保持が容易になるものの、細胞培養容器の外部は気密性が低く、環境保持が難しいという問題があった。また、特許文献2に記載の細胞培養装置の場合、容器自体が蓋で覆われていることから、ディスペンサを用いた投薬を行う際は、蓋を都度外す作業が必要となり、作業性に劣るとともに、蓋全体を外すことから、投薬の度に内部環境が低下するという大きな問題があった。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、ウェルプレートに収容された細胞に対し、ディスペンサ等を用いて容易に投薬することが可能であり、且つ、ウェルプレート内における優れた気密性を確保することが可能な顕微鏡観察用培養装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の態様を包含する。
本発明の一態様による顕微鏡観察用培養装置は、生細胞を培養しながら顕微鏡観察を行う顕微鏡観察用培養装置であって、プレートホルダをXY方向に移動させるXYステージユニットと、前記プレートホルダに保持され、培養中の試料を収容するウェルプレートと、前記XYステージユニットを上下から挟むように設けられるトップヒータユニット及びボトムヒータユニットと、を備え、前記トップヒータユニットには、前記ウェルプレート内に収容された前記試料に薬液を添加するための孔が形成されているとともに、該孔を覆うための蓋部が開閉自在に設けられていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一態様による顕微鏡観察用培養装置は、前記蓋部が、前記トップヒータユニットに備えられた固定軸に沿ってスライド移動可能に設けられていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一態様による顕微鏡観察用培養装置は、前記蓋部が、前記孔を覆ったとき、少なくとも前記ウェルプレートを気密に保持するように設けられていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の一態様による顕微鏡観察用培養装置は、前記プレートホルダに、加温用ヒータ、又は、外部からCO2ガスを供給するためのCO2ポートのうちの少なくとも何れかが設けられていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の一態様による顕微鏡観察用培養装置は、前記ボトムヒータユニットが、一方の面に、ヒータホルダとメタルプレートとからなる水流路が形成され、他方の面に、ボトムヒータが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様による顕微鏡観察用培養装置によれば、ディスペンサ等を用いて試料に投薬を行う際は、蓋部を開放状態として孔を開放することで、ウェルプレート内に収容された試料に対してディスペンサ等による投薬を容易に行うことが可能になる。一方、試料である細胞を培養する際は、蓋部を閉じて薬液添加用の孔を塞ぐことで、ウェルプレート、ひいてはプレートホルダ内全体における気密性を確保できる。従って、試料に対する投薬の作業性の確保と、ウェルプレート内における培養に適した環境の確保とを両立させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態である顕微鏡観察用培養装置を模式的に説明する図であり、装置の全体構成を示す斜視図である。
図2】本発明の一実施形態である顕微鏡観察用培養装置を模式的に説明する図であり、ウェルプレートに収容された試料に投薬するためのディスペンサを含めた装置の全体構成を示す概略図である。
図3】本発明の一実施形態である顕微鏡観察用培養装置を模式的に説明する図であり、プレートホルダに保持されたウェルプレートを移動させるためのXYステージユニットを示す斜視概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を適用した一実施形態である顕微鏡観察用培養装置について、図1図3を適宜参照しながら説明する。図1は、本実施形態の顕微鏡観察用培養装置10の全体構成を示す斜視図であり、図2は、ウェルプレート5に収容された試料に投薬するためのディスペンサ7を含めた全体構成を示す斜視概略図、図3は、プレートホルダ4に保持されたウェルプレート5を移動させるためのXYステージユニット1を示す斜視概略図である。
【0019】
なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかり易くするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0020】
<顕微鏡観察用培養装置の構成>
以下に、本実施形態の顕微鏡観察用培養装置(以下、培養装置と略称することがある)10の構成について詳述する。
本実施形態の培養装置10は、図示略の生細胞等のような試料を培養しながら顕微鏡観察を行う装置である。図1図3に示すように、本実施形態の培養装置10は、プレートホルダ4をXY方向に移動させるXYステージユニット1と、プレートホルダ4に保持され、培養中の試料を収容するウェルプレート5と、XYステージユニット1を上下から挟むように設けられるトップヒータユニット2及びボトムヒータユニット3と、を備えて概略構成される。そして、本実施形態の培養装置10は、トップヒータユニット2に、ウェルプレート5内に収容された試料に薬液を添加するための孔21aが形成されているとともに、この孔21aを覆うための蓋部6が開閉自在に設けられた構成とされている。
【0021】
XYステージユニット1は、上記のように、ウェルプレート5を保持したプレートホルダ4をXY方向に移動させるものである。XYステージユニット1は、図示略のアクチュエータによってX方向に駆動するXテーブル11と、Y方向に駆動するYテーブル12とを有し、ウェルプレート5をXY方向に駆動可能に構成されている。
【0022】
また、XYステージユニット1は、Y方向に大きく駆動することにより、プレートホルダ4を、後述のトップヒータユニット2で覆われる位置よりも外側に移動させ、プレートホルダ4に保持されたウェルプレート5を着脱できるように構成されている。
また、Yテーブル12の底面には図示略のシールゴムが設けられており、後述のボトムヒータユニット3との間を気密に保つように構成されている。
【0023】
本実施形態の培養装置10においては、XYステージユニット1として、従来からこの分野で用いられているものを何ら制限無く採用することができる。
【0024】
トップヒータユニット2は、上記のように、トップヒータユニット2とボトムヒータユニット3とでXYステージユニット1を上下から挟み込むように配置される。即ち、トップヒータユニット2は、図1及び図2に示すように、XYステージユニット1の上方に配置される。
【0025】
トップヒータユニット2は、透明のヒータパネル21と、このヒータパネル21を保持するヒータホルダ22と、これらを固定する固定プレート23とから構成されている。また、ヒータパネル21の中心には、薬液添加用の孔21aが設けられている。さらに、トップヒータユニット2には、詳細については後述するが、ウェルプレート5を開閉可能に覆うことが可能な蓋部6が設けられている。
【0026】
ボトムヒータユニット3は、XYステージユニット1に対し、上記のトップヒータユニット2とは反対側、即ち、XYステージユニット1の下方に配置される。
ボトムヒータユニット3は、ヒータホルダ31と、ヒータホルダ31の両端を固定支持するヒータフレーム32a、32bとから構成されている。ヒータホルダ31の下面には、図示略のシート状のボトムヒータが貼付され、ヒータホルダ31を加温可能な構成とされている。さらに、ヒータホルダ31の中心には、図示略の開口穴が設けられており、後述する図示略のベローズが固定されている。
【0027】
また、図1及び図2においては図示を省略しているが、ボトムヒータユニット3の中心部には開口穴が設けられており、この開口穴に図示略の対物レンズが配置されている。この対物レンズは、図示略のアクチュエータによって、その光軸方向に駆動可能に構成されている。また、対物レンズの辺縁部と、上述したボトムヒータユニット3の開口穴には、上述したベローズが設けられており、対物レンズが光軸方向で上昇した際に、ベローズと開口穴との間を密封することで、装置内部、特にウェルプレート9内の温度や湿度、CO2等の環境が保持できる構成とされている。また、詳細は省略するが、対物レンズによって撮影されるウェルプレート5内の細胞の画像は、図示略の光学系及びカメラによって撮影可能に構成されている。
【0028】
また、ヒータホルダ31の表面(上面)において、上記の開口穴の周辺部は、流路を形成するように、周辺部の外周部に対してわずかに低くなるように加工されている。
また、ヒータホルダ31の表面には図示略の給水穴と排水穴が設けられており、底面のポートから給水及び排水が行うことが可能に構成されている。
【0029】
さらに、図1及び図2中においては図示を省略しているが、ボトムヒータユニット3は、表面(上面:一方の面)側に、ヒータホルダ31とメタルプレートとからなる水流路が形成され、他方の面(下面:他方の面)側に図示略のボトムヒータが設けられた構成とされている。即ち、ボトムヒータユニット3は、ヒータホルダ31の表面に形成された上記の開口穴の周辺部に、この周辺部に嵌合するように加工された図示略のメタルメッシュを介してメタルプレートが貼付され、ヒータホルダ31とメタルプレートによって流路が形成されている。また、メタルプレートの所定の領域には、所定の径及び間隔で、複数の微小孔が千鳥状に形成されている。これにより、本実施形態の培養装置10においては、詳細は後述するが、ウェルプレート5内(プレートホルダ4内)にメタルメッシュから蒸発した水分を供給し、内部の湿度を調整することが可能になる。
【0030】
プレートホルダ4は、上記のように、XYステージユニット1に取り付けられ、ウェルプレート5を保持する。図3に示す例では、プレートホルダ4が凹状に形成されており、内部にウェルプレート5を収容して保持することが可能な構成とされている。
【0031】
プレートホルダ4には、例えば、図示略の加温用ヒータ、又は、外部からCO2ガスを供給するためのCO2ポートのうちの少なくとも何れかを設けることができる。このように、プレートホルダ4に加温用ヒータを設けることで、プレートホルダ4に保持されたウェルプレート5内の試料を効果的に加温することが可能になる。また、プレートホルダ4にCO2ポートを設けることで、例えば5体積%程度に調整されたCO2ガスを外部からウェルプレート5に供給可能となる。なお、本実施形態の培養装置10に備えられるプレートホルダ4には、開口部に図示略のシールゴムが設けられており、ヒータパネル21との間を気密に保つように構成されている。
【0032】
ウェルプレート5は、内部に被培養物である生細胞等の試料を収容し、培養する容器である。ウェルプレート5は、プレートホルダ4に保持されることで、上述したXYステージユニット1によってXY方向に移動できるように構成されている。図3に示す例のように、ウェルプレート5には、凹状に形成された複数のサンプルホルダ51が備えられており、これらの各々に試料を収容することが可能な構成とされている。
【0033】
本実施形態の培養装置10においては、ウェルプレート5として、従来からこの分野で用いられているものを何ら制限無く採用できる。
【0034】
蓋部6は、上記のように、トップヒータユニット2に形成された孔21aを覆うことができるように、トップヒータユニット2の上面側において、孔21aに対して開閉自在に設けられている。また、図示例の蓋部6は、トップヒータユニット2の上面側に設けられた固定軸61に、この固定軸61に沿ってスライド移動可能に取り付けられており、このスライド移動によって、孔21aに対して開閉自在に構成されている。
【0035】
蓋部6は、例えば、樹脂等の透明材料からなり、ウェルプレート5内に収容された試料を透過光で観察することが可能な構成とされている。
また、図示例の蓋部6は、孔21aを覆って塞いだとき、ウェルプレート5内を気密に保持できるように設けられている。
【0036】
蓋部6は、ウェルプレート5内に収容された試料に所定の処理を施す際、即ち、試料(細胞)に薬液を添加する処理を行う際に開放される。つまり、図2に示すようなディスペンサ7を使用するときには、蓋部6を開放することで試料に対して薬液を添加可能な状態とし、ディスペンサ7を使用しないときには、蓋部6を閉じることで孔21aを塞ぎ、ウェルプレート5内の機密性を確保し、内部環境を適正に管理された状態で維持する。
【0037】
ディスペンサ7は、ウェルプレート5内に収容された試料(生細胞)に対して、滴下部72から薬液を添加する。図2に示す例のディスペンサ7は、図示略の固定部に対して取り付けられた可動軸71に取り付けられている。
【0038】
ディスペンサ7は、ウェルプレート5内に収容された試料に対して薬液を添加する際、軸方向、即ち上下方向にスライド移動することで、滴下部72を試料に近接させることができるように構成されている。そして、ディスペンサ7は、図示略の薬液貯留部に貯留された薬液(化合物)を、配管を介して吸引し、滴下部72からウェルプレート5内の試料に滴下できるように構成されている。
【0039】
本実施形態の培養装置10は、上述したように、トップヒータユニット2に、ウェルプレート5内に収容された試料に薬液を添加するための孔21aが形成されて、且つ、この孔21aを覆うための蓋部6が開閉自在に設けられている。これにより、培養装置10は、ウェルプレート5内の試料に薬液を添加するときは蓋部6を開放する一方、薬液を添加しないときは蓋部6を閉じることで、ウェルプレート5内を気密に保持する。また、本実施形態では、図3に示す例のように、凹状に形成されたプレートホルダ4内にウェルプレート5が収容されていることで、ウェルプレート5に備えられる複数のサンプルホルダ51のみならず、プレートホルダ4内全体が気密に保持される。さらに、孔21aを蓋部6で開閉自在に覆う構成なので、薬液を添加するときに蓋部6を開放した際に内部環境が劣化するのを極力抑えることが可能になる。
従って、本実施形態の培養装置10によれば、試料に対する投薬作業性の確保と、ウェルプレート内の環境の確保とを両立させることが可能になる。
【0040】
<顕微鏡観察用培養装置の使用方法>
以下に、上述した顕微鏡観察用培養装置10を用いて、試料である生細胞を培養しながら観察し、薬液を添加する場合の使用方法について、図1図3を適宜参照しながら説明する。
【0041】
まず、生細胞(観察用の試料)がサンプルホルダ51内に収容されたウェルプレート5を、XYステージユニット1に取り付けられたプレートホルダ4にセットする。この際、XYステージユニット1をY方向に大きく駆動させることで、プレートホルダ4を、トップヒータユニット2によって覆われる位置よりも外側に移動させ、試料が収容されたウェルプレート5をプレートホルダ4にセットする。その後、XYステージユニット1をY方向における逆方向に移動させ、観察位置に戻す。
【0042】
この状態で、図示略の対物レンズを移動させることにより、光学系及びカメラによってウェルプレート5に収容された試料を観察できる。ここで、試料に対し、トップヒータユニット2の上方から、図示略のランプにより、透明のヒータパネル21越しに光を照射してもよいし、光学系側から対物レンズの内部を通過させて光を照射してもよい。また、XYステージユニット1を駆動し、ウェルプレート5をX方向又はY方向に適宜移動させることにより、ウェルプレート5内における所望のサンプルホルダ51を観察することができる。
【0043】
試料を培養するにあたっての温度は、例えば、ヒータパネル21、プレートホルダ4に貼付された図示略のヒータ、及びボトムヒータユニット3に備えられる図示略のボトムヒータを加熱駆動し、図示略の熱電対及び制御部を用いて温度検出・制御を行う。これにより、例えば、ウェルプレート5内が37℃程度となるように、各ヒータによる加熱温度を調整する。
【0044】
また、ウェルプレート5内(プレートホルダ4内)に供給するCO2については、例えば、CO2濃度が5%程度に調整された混合気体を装置外部から導入し、プレートホルダ4に備えられる図示略のCO2ポートから供給する。これにより、培養装置10内におけるウェルプレート5近傍、即ち、プレートホルダ4内のCO2濃度を5%程度とすることができる。
【0045】
また、ウェルプレート5内(プレートホルダ4内)の湿度については、例えば、ボトムヒータユニット3に備えられる図示略の給水穴から純水を供給することで調整できる。この純水は、ヒータホルダ31と図示略のメタルプレートによって形成された薄い流路に、毛細管現象によって流入する。上述したように、この流路には図示略のメタルメッシュが配置されていることから、流路が狭くなることで毛細管現象がより顕著に作用するため、純水が効率的に流路内に導かれる。
【0046】
また、本実施形態においては、メタルプレートに設けられた多数の微小穴から純水が溢れ出ないように、給水穴からの純水の供給量及び排水穴からの純水の排水量を調節することが好ましい。ここで、微小穴の径を、例えば0.5mm程度と小さくした場合には、表面張力が作用するため、この微小穴から純水が溢れ出るのを効果的に防止でき、より効率的に純水を流路内に導くことができる。
【0047】
また、流路内の純水の層は非常に薄く、体積も微小な量であるため、図示略のヒータによって容易に加熱することができるので、メタルプレートに設けられた多数の微小穴からの純水の蒸発が効果的に促進される。これにより、ウェルプレート5内(プレートホルダ4内)の湿度を効率的に上昇させることが可能になる。また、流路内に配置された図示略のメタルメッシュも、純水に対して熱をより一層効率的に伝える役割を果すので、微小穴からの純水の蒸発が、さらに効果的に促進される。
【0048】
また、ヒータの加熱温度を、ウェルプレート5内の環境温度である37℃よりも若干高めの38.5℃程度に設定することで、純水が蒸発するメタルプレートとヒータとの距離が近いことと相まって、この部分の温度がヒータと概略同じ温度(38.5℃)まで加熱される。これにより、純水が蒸発してなる飽和蒸気の温度が37℃よりも高くなるため、対流が生じて飽和蒸気が装置内部で対流するとともに、飽和していない気体がメタルプレート近傍に対流してくることから、次の蒸発も促進される。これらの各作用により、通常よりも効率的に高い湿度環境を構築することが可能になる。
【0049】
そして、ウェルプレート5内に収容された試料に薬液を添加する際は、まず、培養装置10に備えられる蓋部6をスライド移動させて開放状態とすることにより、ディスペンサ7とウェルプレート5内に収容された試料とを、孔21aを介して対向した状態とする。
次いで、ディスペンサ7を上下方向にスライド移動することで、滴下部72を試料に近接させる。
【0050】
次いで、ディスペンサ7により、図示略の薬液貯留部に貯留された薬液を、配管を介して吸引し、ウェルプレート5内の試料に滴下する。この際、XYステージユニット1によってウェルプレート5をX方向及びY方向で適宜移動させることにより、ウェルプレート5に複数で設けられたサンプルホルダ51内の試料の各々に、薬液を滴下する動作を繰り返す。
【0051】
そして、ウェルプレート5内の試料に対する薬液の滴下(添加)が所定量に達した後、ディスペンサ7は、薬液の吸引滴下を停止して、軸方向で上昇することで待機位置に戻る。
この際、蓋部6は、固定軸61に沿ってスライド移動することで、孔21aを覆う位置に移動し、再びウェルプレート5内を気密な状態とする。
【0052】
以上のような手順により、本実施形態の培養装置10を用いて、生細胞を培養しながら観察し、薬液を添加する作業を行うことができる。
【0053】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態の顕微鏡観察用培養装置10によれば、トップヒータユニット2に、ウェルプレート5内に収容された試料に薬液を添加するための孔21aが形成されているとともに、この孔21aを覆うための蓋部6が開閉自在に設けられている構成を採用している。これにより、ディスペンサ7を用いて試料に投薬を行う際は、蓋部6を開放状態として孔21aを開放することで、ウェルプレート5内に収容された試料に対してディスペンサ7による投薬を容易に行うことが可能になる。一方、試料である細胞を培養する際は、蓋部を閉じて薬液添加用の孔を塞ぐことで、ウェルプレート5、ひいてはプレートホルダ4内全体における気密性を確保できる。従って、試料(細胞)に対する投薬の作業性の確保と、ウェルプレート内における培養に適した環境の確保とを両立させることが可能になる。
【0054】
さらに、本実施形態の培養装置10によれば、ウェルプレート5内を気密に保持することで、その内部の温度や湿度、CO2等の環境変化を最小限に抑制することが可能になり、また、使用するCO2ガスの流量を削減することも可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の顕微鏡観察用培養装置は、細胞に対する投薬処理の作業性と、ウェルプレート内における優れた気密性とを両立させることができるので、細胞の培養に好適な環境を保持しながら、正確且つ作業性よく細胞観察を行うことが可能になる。従って、本発明の顕微鏡観察用培養装置は、生細胞を用いて長期間に渡って観察を行う細胞分野の研究において非常に有用である。
【符号の説明】
【0056】
1…XYステージユニット
11…Xテーブル
12…Yテーブル
2…トップヒータユニット
21…ヒータパネル
22…ヒータホルダ
23…固定プレート
3…ボトムヒータユニット
31…ヒータホルダ
32a,32b…ヒータフレーム
4…プレートホルダ
5…ウェルプレート
51…サンプルホルダ
6…蓋部
61…固定軸
7…ディスペンサ
71…可動軸
72…滴下部
10…顕微鏡観察用培養装置(培養装置)
図1
図2
図3