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7319772大型ディーゼルエンジンのための燃料噴射ノズルおよび燃料噴射方法、および大型ディーゼルエンジン
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  • -大型ディーゼルエンジンのための燃料噴射ノズルおよび燃料噴射方法、および大型ディーゼルエンジン 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】大型ディーゼルエンジンのための燃料噴射ノズルおよび燃料噴射方法、および大型ディーゼルエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02M 47/00 20060101AFI20230726BHJP
【FI】
F02M47/00 A
F02M47/00 F
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018202403
(22)【出願日】2018-10-29
(65)【公開番号】P2019090407
(43)【公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】17201409.4
(32)【優先日】2017-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515111358
【氏名又は名称】ヴィンタートゥール ガス アンド ディーゼル アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トゥルハン イルディリム
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス シュミット
(72)【発明者】
【氏名】ダーヴィト イムハスリー
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第2541037(EP,A2)
【文献】特表2002-513885(JP,A)
【文献】特開2010-096071(JP,A)
【文献】特開2003-065177(JP,A)
【文献】特開2001-349257(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第4425339(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型ディーゼルエンジンのための燃料噴射ノズルであって、
燃焼室(50)に燃料を注入可能な少なくとも1つのノズル孔(30)を有するノズルヘッド(3)と、
圧力チャンバ(5)に燃料を注入可能な燃料パイプ(4)と、
バネ(12)が装着され、弁ピストン(61)、および前記弁ピストン(61)に接続するノズルニードル(62)を有する弁本体(6)と、
前記ノズルニードル(62)と協働するよう設計される弁座(11)であって、開放状態では、前記圧力チャンバと(5)前記ノズルヘッド(3)との間の流れ接続が、前記弁本体(6)のストロークにより開放され、閉鎖状態では、前記ノズルニードル(62)が密封して前記弁座(11)と協働して、前記圧力チャンバ(5)と前記ノズルヘッド(3)との間の流れ接続を閉鎖する、弁座(11)と、を含み、
前記弁ピストン(61)の上部(614)によって制限される上部チャンバ(9)と、
前記弁ピストン(61)の下部(615)によって制限される下部チャンバ(10)と、
前記上部チャンバ(9)を前記燃料パイプ(4)に接続する第1の供給パイプ(21)と、
前記上部チャンバ(9)を燃料の第1の出口(91)に接続する第1の排出パイプ(31)と、
前記下部チャンバ(10)を前記燃料パイプ(4)に接続する第2の供給パイプ(22)と、
前記下部チャンバ(10)を第2の出口(92)に接続する第2の排出パイプ(32)と、が設けられ、
第1の制御弁(7)であって、閉鎖位置では、前記第2の供給パイプ(22)と前記第1の排出パイプ(31)の両方を閉鎖し、開放位置では、前記第2の供給パイプ(22)と前記第1の排出パイプ(31)の両方を開放する第1の制御弁(7)がさらに設けられ、
第2の制御弁(8)であって、閉鎖位置では、前記第2の排出パイプ(32)を閉鎖し、開放位置では、前記第2の排出パイプ(32)を開放する第2の制御弁(8)がさらに設けられ、
前記第1の制御弁(7)と前記第2の制御弁(8)とが、独立して交互に作動する、燃料噴射ノズル。
【請求項2】
前記第1の制御弁(7)と前記第2の制御弁(8)がそれぞれ、バネ付勢の電磁弁として構成され、電流が印加されると、前記電磁弁がバネ(71;81)の力に抗して前記閉鎖位置から前記開放位置に切り替わる、請求項1に記載の燃料噴射ノズル。
【請求項3】
前記第1の制御弁(7)および前記第2の制御弁(8)は、弁スライド(72;82)を備えた摺動弁としてそれぞれ設計される、請求項1または2に記載の燃料噴射ノズル。
【請求項4】
前記上部チャンバ(9)を前記燃料パイプ(4)に接続する第3の供給パイプ(23)が設けられ、前記第2の制御弁(8)が、前記閉鎖位置では、前記第3の供給パイプ(23)を閉鎖し、前記開放位置では、前記第3の供給パイプ(23)を開放する、請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料噴射ノズル。
【請求項5】
前記弁ピストン(61)が、接続要素(613)により、圧的に、かつ/あるいは、機械的に互いに接続する、上部ピストン(611)と下部ピストン(612)を含み、前記上部ピストンが前記弁ピストン(61)の前記上部(614)を形成し、前記下部ピストン(612)が前記弁ピストン(61)の前記下部(615)を形成する、請求項1~4のいずれか一項に記載の燃料噴射ノズル。
【請求項6】
前記下部ピストン(612)が中空ピストンとして設計され、前記弁ピストン(61)を装着する前記バネ(12)を受ける、請求項5に記載の燃料噴射ノズル。
【請求項7】
前記上部ピストン(611)の前記下部と前記下部ピストン(612)の前記上部との間の圧力を均等化するための補償パイプ(41)が設けられ、前記補償パイプを通って燃料を排出できる、請求項5~6のいずれか一項に記載の燃料噴射ノズル。
【請求項8】
前記開放状態で開いている前記流れ接続部の前記流れ断面が、前記圧力チャンバ(5)と前記ノズルヘッド(3)との間で変更可能となるよう、前記弁本体(6)のストロークが調整可能である、請求項1~7のいずれか一項に記載の燃料噴射ノズル。
【請求項9】
前記第2の供給パイプ(22)は、前記燃料パイプ(4)の直径の50%以下の直径を有することを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の燃料噴射ノズル。
【請求項10】
前記第1の供給パイプ(21)の直径が、前記第2の供給パイプ(22)の直径よりも小さい、請求項1~9のいずれか一項に記載の燃料噴射ノズル。
【請求項11】
前記第3の供給パイプ(23)が、前記第2の供給パイプ(22)の直径とほぼ等しい直径を有する、請求項4~10のいずれか一項に記載の燃料噴射ノズル。
【請求項12】
前記第2の排出パイプ(32)が、前記下部チャンバ(10)と前記第2の制御弁(8)との間の直径を有し、前記第2の排出パイプの直径は、前記第2の供給パイプの直径よりも小さい、請求項1~11のいずれか一項に記載の燃料噴射ノズル。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の燃料噴射ノズルを備える、大型ディーゼルエンジン。
【請求項14】
射プロセス中、前記弁本体(6)が、前記閉鎖状態と最大開放状態との間の中間位置に少なくとも一時的に保持される、請求項13に記載の大型ディーゼルエンジン
【請求項15】
前記大型ディーゼルエンジンが、縦型掃気式の2ストローク大型ディーゼルエンジンである、請求項13または14に記載の大型ディーゼルエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各カテゴリーの独立請求項のプリアンブルに記載の大型ディーゼルエンジンのための燃料噴射ノズルおよび燃料噴射方法、および大型ディーゼルエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
大型のディーゼルエンジン(例えば、縦型掃式の2ストロークの大型ディーゼルエンジン)は、大抵の場合、船舶用の駆動ユニットとして使用されている。あるいは、船舶が静止運転中でさえも使用される(例えば、電気エネルギーを生成するために大型発電機を駆動させる)。これらのエンジンは、通常、連続運転においてかなりの長時間動作するため、運転の安全性と可用性に対する要求が高い。その結果、具体的には、動作材料のメンテナンス間隔を長くし、摩耗を抑え、経済的に取り扱うことが、操作者にとって重要な基準である。
【0003】
数年来、排気ガスの品質はますます重要になってきており、もう1つの大きな問題となってきている。結果として、特に、2ストロークの大型ディーゼルエンジンでは、従来の重油の燃焼(汚染物質でかなり汚染されている)だけでなく、ディーゼル油またはその他の燃料の燃焼もより重要な問題となってきている。というのも、排出閾値を順守することはますます困難で技術的により複雑になり、それに伴いコストもかかる。すなわち、閾値を順守することはもはや経済的に実現可能ではなくなる。
【0004】
したがって、実際には、少なくとも2つの異なる燃料で動作可能なエンジンが長い間必要とされてきた。これらは、例えば、2つの異なる液体燃料でよい、あるいは液体燃料と気体燃料でもよい。このようなエンジンは、通常、多種燃料エンジンと呼ばれ、運転中に一方の燃料から別の燃料に切り替えることが可能である。多種燃料の大型ディーゼルエンジンで代替的に燃焼させることができる既知の液体または気体燃料には、重油の他に、船舶用ディーゼル油およびディーゼル油(具体的には、メタノールまたはエタノールなどのアルコール)、LNG(液化天然ガス)のような天然ガス、あるいはエマルションまたは懸濁液が含まれる。
【0005】
一例として、MSAR(Multiphase Superfine Atomized Residue)と呼ばれる乳剤を挙げることができる。これらは本質的に重質炭化水素のエマルション(例えば、ビチューメン、重油など)、や水であり、特殊工程で製造される。別の例では、例えば、石炭の塵や水からつくられる懸濁液が挙げられ、これらは、大型ディーゼルエンジンの燃料としても使用されている。
【0006】
特別な種類の多種燃料エンジンは、通常は「デュアル燃料エンジン」と呼ばれるエンジンであり、これは2つの異なる燃料で動作することが可能である。ガス、例えば、LNG(液化天然ガス)などの天然ガスは、ガスモードで燃焼するが、ディーゼル油や重油などの適切な液体燃料は液体モードで同じエンジンで燃焼することができる
【0007】
この出願の枠組みの中で、「大型ディーゼルエンジン」という用語は、燃料の自己着火を特徴とするディーゼル運転のみならず、燃料の積極的な点火を特徴とするオットー運転によっても運転可能であり、またはこれら2つの混合形態において運転可能である、多種燃料の大型エンジン、デュアル燃料のエンジン、およびデュアル燃料の大型エンジンも指す。また、「大型ディーゼルエンジン」という用語には、少なくとも2種類の異なる燃料で運転可能であるこのような大型エンジンも含まれ、これらの異なる燃料の少なくとも1方がディーゼル運転でエンジンを作動させるのに適している。
【0008】
最新の大型ディーゼルエンジンは、通常、完全に電子制御され、典型的には、重油またはディーゼル油などの燃料をシリンダに供給する、燃料用の蓄圧器を用いる燃料噴射のための共通のレールシステムを含む。各シリンダの燃焼室に燃料を注入するために、シリンダ毎に少なくとも1つの燃料噴射ノズルが設けられている。大抵の場合、いくつかの燃料インジェクタ(例えば、2つまたは3つ)が、シリンダ毎に設けられ得る。各燃料噴射ノズルは、この蓄圧器に接続し、ノズル本体とノズルヘッドを備え、通常、このノズルヘッドがシリンダの燃焼室内に突出する。ノズルヘッド(アトマイザーとも呼ばれる)は、通常、燃料が燃焼室に注入されるいくつかのノズル孔を備える。噴射プロセスを開始または終了させるために、燃料噴射ノズルには可動弁本体が設けられ、これにより弁座と協働してノズル孔への通路を開閉する。噴射プロセスを開始するために、この弁本体は、バネの力に抗してストロークにより弁座から持ち上げられ、燃料が噴射圧力によりノズル孔に流入することができる。噴射プロセスを終了するために、弁本体は弁座に密封接触され、ノズル孔への通路は閉鎖される。
【0009】
この噴射プロセスは、例えば、電磁制御弁に電流を印加することによって電子的に制御され、この電磁制御弁により、燃料噴射ノズルの弁本体の対応するストローク運動が引き起こされる。噴射の終了時に、バネの力が弁本体を押し戻して、弁座と密封接触する。
【0010】
このような大型ディーゼルエンジンのための噴射システムは実際に実証されているが、まだ改善の余地がある。課題の1つとして、噴射システムの慣性または応答時間の問題が挙げられる。噴射プロセスの開始または終了を引き起こす電気信号や電子信号は、シャープ、明確で正確なタイミングの信号として生成することができるが、噴射システムの物理的特性により、実際に燃料をシリンダに注入する場合、弁本体と弁座と間の通路を開閉するとき、時間においても側面の勾配においても、電子信号からは逸脱する。具体的には、この通路の開閉が遅すぎる、すなわち燃料噴射ノズルの反応時間が長すぎるという問題を抱えている。そのような長い反応時間は、大型ディーゼルエンジンの経済的、効率的および低排出ガス運転に悪影響を及ぼす可能性がある。特に、エンジンの低温始動時またはエンジンが低負荷域で運転されている場合に、このことが当てはまる。
【0011】
これらの反応時間を短縮する、すなわち弁座と弁本体との間の通路を開閉するプロセスを短縮する、すなわち加速するために、いくつかの措置が試みられているが、これらの手段はしばしば妥協を意味するだけである。制御弁によって開始される開閉は、スロットル、具体的には、流体(例えば、燃料)が流れるスロットルパイプを介して行われるため、開放が加速されることにより、閉鎖が遅れる、または、その逆は、通常よく起こり得ることである。
【発明の概要】
【0012】
本発明の目的は、このような技術水準から出発して、燃料噴射ノズルの切り替え時間が特に短い、すなわち、開放状態(ノズルヘッドへの流れ接続が開いた状態)から閉鎖状態(ノズルヘッドへの流れ接続が閉じた状態)への(およびその逆の)切り替え時間が特に短い、大型ディーゼルエンジンのための燃料噴射ノズルを提案することである。
本発明のさらなる目的は、それに対応する燃料噴射方法、および大型ディーゼルエンジンを提案することである。
【0013】
この問題を解決する本発明の目的は、それぞれのカテゴリーの独立請求項の特徴により特徴付けられる。
【0014】
本発明によれば、大型ディーゼルエンジンのための燃料噴射ノズルが提案される。燃焼室に燃料を注入する少なくとも1つのノズル孔を有するノズルヘッドと、圧力チャンバに燃料を注入可能な燃料パイプと、弁本体であって、バネが装着され、弁ピストン、およびこの弁ピストンに接続するノズルニードルを有する弁本体と、ノズルニードルと協働するよう設計される弁座であって、前記弁座は、開放状態では、圧力チャンバとノズルヘッドとの間の流れ接続が、弁本体のストロークにより開放され、閉鎖状態では、ノズルニードルが密封して弁座と協働し、圧力チャンバとノズルヘッドとの間の流れ接続を閉鎖する弁座と、を含み、弁ピストンの上部によって制限される上部チャンバと、弁ピストンの下部によって制限される下部チャンバと、が設けられ、上部チャンバと燃料パイプを接続する第1の供給パイプと、上部チャンバを燃料の第1の出口に接続する第1の排出パイプと、下部チャンバを燃料パイプに接続する第2の供給パイプと、下部チャンバを第2の出口に接続する第2の排出パイプと、が設けられ、第1の制御弁であって、閉鎖位置では、第2の供給パイプと第1の排出パイプの両方を閉鎖し、開放位置では、第2の供給パイプと第1の排出パイプの両方を開放する第1の制御弁がさらに設けられ、第2の制御弁であって、閉鎖位置では、第2の排出パイプを閉鎖し、開放位置では、第2の排出パイプを開放する第2の制御弁がさらに設けられ、これらの第1の制御弁と第2の制御弁とが、独立して交互に作動する。
【0015】
上部チャンバが弁ピストンの上方に設けられ、下部チャンバが弁ピストンの下方に設けられ、2つの制御弁により、上部チャンバおよび下部チャンバへの流入、および上部チャンバおよび下部チャンバからの流出を制御可能な、この設計により、切り替え時間の著しい短縮が実現される。
【0016】
「切り替え時間」という用語は、弁本体が閉鎖状態から開放状態に切り替えられるのに必要な開弁時間と、弁本体が開放状態から閉鎖状態に切り替えられるのに必要な閉弁時間の両方のことを指す。
【0017】
本発明の実施形態により、弁ピストンの上部を燃料の圧力から解放し、それと同時に、弁ピストンの下部に圧力を加えて閉鎖状態から開放状態に切り替えることが可能になり、開放時間の著しい短縮につながる。その反対に、弁ピストンの上部に燃料の圧力を加えると同時に、弁ピストンの下部から圧力を解放して開放状態から閉鎖状態に切り替えることができ、これにより閉鎖時間が著しく短縮される。
【0018】
好ましい実施形態によれば、第1の制御弁および第2の制御弁は、電流が印加されたときにバネの力に抗して閉鎖位置から開放位置に切り替わるバネ付勢の電磁弁としてそれぞれ設計されている。この目的のために、第1の制御弁および第2の制御弁が単安定スイッチング素子として設計されていることが好ましい。このことは、それぞれの制御弁がただ1つの安定した状態、すなわち閉鎖位置を有することを意味する。もう一方の状態、すなわち開放位置は、制御弁に電流が印加されている間だけ維持される。制御弁に電流が印加されなくなると、制御弁はバネ付勢によって、自動的に安定状態、すなわち、閉鎖位置に戻る。
【0019】
実用上の理由から、第1の制御弁および第2の制御弁は、弁スライドを備えた摺動弁としてそれぞれ設計されることが好ましい。
【0020】
好ましい実施形態では、上部チャンバを燃料パイプに接続する第3の供給パイプが設けられ、閉鎖位置では第2の制御弁が、第3の供給パイプを閉鎖し、開放位置では第3の供給パイプを開放する。このとき、第2の制御弁によって開放状態から閉鎖状態に切り替えるとき、下部チャンバの圧力を解放するための第2の排出パイプが開放されるだけでなく、第3の供給パイプも開放され、燃料パイプからこの供給パイプを通って加圧燃料がさらに上部チャンバに流入することができ、その結果、上部チャンバ内でさらに速く圧力が上昇する。これにより、閉鎖時間をさらに短くすることができる。
【0021】
好ましい実施形態によれば、弁ピストンは、接続要素によって、油圧式に、かつ/または、機械式に互いに接続される上部ピストンおよび下部ピストンを備え、上部ピストンが弁ピストンの上部を形成し、下部ピストンは弁ピストンの下部を形成する。
【0022】
弁ピストンのこの設計では、下部ピストンが中空ピストンとして設計され、バネを受け入れ、このバネが弁ピストンを装着すれば、構造上の理由から有利である。
【0023】
当然のことながら、中空ピストンとしてのこの設計は必須ではなく、例えば、下部ピストンを全ピストンとして、すなわち空洞なしに設計することも可能である。このような設計では、弁ピストンを装着するバネは、好ましくは、下部ピストンの上端面に載置される。
【0024】
上部ピストンおよび下部ピストンを備える弁ピストンの設計では、上部ピストンの下部と下部ピストンの上部との間の圧力を均等化するための補償パイプが設けられ、この補償パイプを通って燃料が排出されることがさらに好ましい。このことは、燃料が上部ピストンと下部ピストンとの間の領域に入ると、補償パイプがこの領域に圧力が蓄積するのを防止することを意味する。
【0025】
特に好ましい実施形態によれば、弁本体のストロークは調整可能であり、開放状態で開いている流れ接続部の流れ断面は、圧力チャンバとノズルヘッドとの間で変更することができる。これは、弁本体のストロークをゼロ(閉鎖状態)と最大ストロークとの間の任意の値に調整することができることを意味し、最大ストロークが最大開放状態に対応し、圧力チャンバとノズルヘッドとの間の流れ接続が弁座に沿って最大流断面を有する。このストロークは、好ましくは、噴射プロセス中に第1の制御弁を作動させることによって調整される。この調整は、所望の噴射時間に対応する波長を有する一つのパルスではなく、複数の短いパルスによって行われ、これにより、第2の接続パイプと第1の排出パイプが短い時間開放される。これは、第2の制御弁の複数の短期作動によって支持され得る。
【0026】
この第1の制御弁(および、好ましくは第2の制御弁も)の複数の短期作動により、噴射プロセス中に弁本体が、閉鎖状態と最大開放状態との間である中間位置で浮動すなわち泳動し続けることが可能となる。このようにして、圧力チャンバとノズルヘッドとの間の流れ接続の開放流断面は、弁座に沿って、ゼロと最大値との間の任意の値に調整することが可能である。弁本体のストロークが一定値である公知のソルーションとは対照的に、本発明による燃料噴射ノズルを用いると、弁本体の可変ストローク、すなわち、閉鎖状態と最大開放状態との間での変化を実現することができる。
【0027】
このように弁本体の可変ストロークが可能になることにより、例えば、大型ディーゼルエンジンを部分負荷運転する場合に都合がよい。特に、全負荷運転と比べて、噴射プロセス当たりに必要とされる燃料の量が少なくて済むため、より小さなストロークで弁本体を作動させることができ、時間間隔毎により低い圧力で、より少ない量の燃料が噴射される。これはまた、弁本体のより小さいストロークにより、開放時間および閉鎖時間をさらに短縮することができ有利である。
【0028】
さらに、可変ストロークによって、噴射プロセスの間にゼロでない2つ以上の値の間でストロークを変更することが可能である。例えば、噴射プロセスの間に、第1の中間位置から(第1の中間位置とは異なる)第2の中間位置に移動させる、あるいは最大開放状態に弁本体を移動させることが可能である。
【0029】
このように弁本体の可変ストロークが可能になることは、噴射プロセスをそれぞれの動作条件(例えば、燃料の種類および特性、またはエンジンが作動する負荷範囲)に最適に調整するために、噴射の開始および噴射期間に加えて、別のパラメータ(すなわち、弁本体の可変ストローク、したがって噴射の可変圧力)も利用可能になることを意味する。特に、噴射された燃料量の時間経過を意味する実質的に任意の噴射プロファイルを実現することができる。プレ噴射も可能である。特に、弁本体の可変ストロークは、最適な噴射を可能にし、これに伴い、大型ディーゼルエンジンの特に経済的、効率的、低排出ガスおよび摩耗低減運転が可能になる。
【0030】
実用的な見地からすると、加圧燃料が下部チャンバまたは上部チャンバに注入されたり、あるいは燃料が下部チャンバまたは上部チャンバから排出させたりする、接続パイプおよび排出パイプが、スロットルパイプとして設計され、それぞれのパイプを通る燃料の流れのスロットルで調整することが好ましい。具体的には、この目的のためには以下の措置が好ましい。
【0031】
第2の供給パイプは、燃料パイプの直径の50%以下、好ましくは、25%以下の直径を有する。
【0032】
第1の供給パイプは、第2の供給パイプの直径よりも小さい直径を有する。
【0033】
第3の供給パイプは、第2の供給パイプの直径とほぼ同じ直径を有する。
【0034】
第2の排出パイプは、下部チャンバと第2の制御弁との間の直径を有し、第2の供給パイプの直径より小さい。
【0035】
これらの措置は、個別に、あるいは、任意の組み合わせで実現することが可能である。上記の全ての手段が実現されることが好ましい。
【0036】
さらに、本発明により、大型ディーゼルエンジンのための燃料噴射方法が提案される。この方法には、
本発明に従って設計される燃料噴射ノズルを提供するステップと、
第1の制御弁を作動させて噴射プロセスを開始するステップと、
噴射プロセスの間、第1の制御弁、かつ随意的に任意に第2の制御弁の複数を作動させるステップと、が含まれる。
【0037】
本発明による燃料噴射ノズルに関連して上に説明した通り、噴射プロセス中の弁本体の有利な可変ストロークは、第1の制御弁を複数回、場合により第2の制御弁を作動させることによって達成することができる。
【0038】
好ましい実施形態によれば、弁本体は、噴射プロセスの間に、閉鎖状態と最大開放状態との間の中間位置に少なくとも一時的に維持される。
【0039】
さらに、大型のディーゼルエンジン、特に、縦型掃気式の2ストロークの大型ディーゼルエンジンが、本発明により提案され、この大型ディーゼルエンジンは、本発明に従って設計される燃料噴射ノズルを備える、すなわち、本発明による燃料噴射方法で運転される。
【0040】
具体的には、この大型ディーゼルエンジンは、少なくとも2つの異なる燃料、特に、デュアル燃料エンジンとして作動することができる多種燃料エンジンとして設計され得、液体燃料、好ましくは、重油あるいはディーゼル油で作動されることができ、作動時に液体モードから気体モードに切り替えることができ、その逆も可能である。
【0041】
本発明のさらなる有利な手段および実施形態は、従属請求項から生じる。
【0042】
次に、実施形態と図面を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本発明による、燃料噴射ノズルの一実施形態の概略縦断面図である。
【0044】
本出願の枠組みの中では、「下部」、「上部」、「真下」、「上」などの相対的な位置指定は、それらが常に使用の通常の位置を指すように理解されよう。
【0045】
図1には、本発明による大型ディーゼルエンジンのための燃料噴射ノズルの一実施形態の概略的な縦断面図が示されており、燃料噴射ノズルは全体として参照符号1で示されている。特に、この燃料噴射ノズル1は、縦型掃気式の2ストロークの大型ディーゼルエンジンに適している。当然のことながら、燃料噴射ノズル1は、他の大型エンジン、例えば、4ストロークの大型ディーゼルエンジンや大型エンジンにも適しており、別の液体燃料で動作させることが可能である。
【0046】
図1には、通常の作動位置にある燃料噴射ノズル1が示されている。
【0047】
大型のディーゼルエンジンは、それ自体公知の方法で複数のシリンダ、例えば、6、2、12、またはそれ以上のシリンダを備える。各シリンダには、ピストンが設けられており、これらのシリンダは上死点と下死点との間でシリンダの走行面に沿って前後に配置され、このピストンの上部がシリンダカバーとともに燃焼室50を制限する(図1)。燃料(例えば、重油)は、燃料噴射ノズル1によって燃焼室50内に噴射される。
【0048】
燃料噴射ノズル1は、噴射システムの一部であり、この噴射システムは、例えば、共通レール噴射システムとして設計されている。この噴射システムは、シリンダ毎に、少なくとも1つ、しかし、通常は数個(例えば、2つ、または3つ)の燃料噴射ノズル1を備え、燃焼室50内に燃料を噴射し、燃料噴射ノズル1は通常はシリンダカバーに配置される
【0049】
大型ディーゼルエンジンの構造および個々の構成要素、例えば、噴射システム、ガス交換システム、排気システム、あるいは掃気または給気を供給するためのターボチャージャーシステムならびに大型ディーゼルエンジンの制御監視システムは、当業者には周知であり、ここでさらに説明する必要はない。
【0050】
最新の大型ディーゼルエンジンは、完全に電子的に制御され監視されている。エンジン制御ユニット(図示せず)は、大型ディーゼルエンジンの全ての機能、例えば、ガス交換のための出口弁の作動または燃料の噴射プロセスを制御し監視する。これらの様々な機能は、エンジンの対応する構成要素を制御するために使用される電気信号や電子信号によって制御される、あるいは調整される。さらに、エンジン制御ユニットが、様々な検出器、センサまたは測定装置からの情報を受信する。
【0051】
各シリンダの燃焼室50に燃料(例えば、重油)を供給する共通レール噴射システムは、一般にアキュムレータとしても知られる蓄圧器(図示せず)を備える。この蓄圧器が、燃料を高圧下に保ち、この圧力は、本質的に燃料が各燃焼室50に噴射される噴射圧力に対応する。この蓄圧器は、通常、大型ディーゼルエンジンの全てのシリンダに沿って延びる管状の容器として設計される。1つ以上の燃料ポンプにより、高圧の燃料が蓄圧器に供給される。例えば、蓄圧器内の燃料の圧力は、700~900バールでよいが、これより高くても低くてもよい。ブースタポンプ(燃料タンクに接続される)により、燃料が燃料ポンプに搬送される。
【0052】
燃料噴射ノズル1がそれぞれ、圧力パイプを介して蓄圧器に接続されており、噴射圧力を加えられた燃料が、蓄圧器から燃料噴射ノズル1まで搬送され得る。さらに、燃料噴射ノズル1と蓄圧器との間に流量制限弁を設けることができ、これにより、例えば、誤動作による意図しない連続噴射を防止することができる。
【0053】
次に、図1に概略的に示されている、本発明による燃料噴射ノズル1の実施形態およびその動作をより詳細に説明する。
【0054】
燃料噴射ノズル1は、燃料噴射ノズル1の長手軸Lによって画定される半径方向に延在し、ノズル本体2とノズルヘッド3とを備え、このノズルヘッド3が燃料噴射ノズル1の下端に設けられ、ノズル本体2に接続される。このノズルヘッド3は、ノズル本体2に接続される別個の部品として設計され得る。あるいは、ノズルヘッド3は、ノズル本体2の一体部分でもよい。ノズルヘッド3は、少なくとも1つのノズル孔30、一般には、複数のノズル孔30を有し、この穴を通して燃料をシリンダの燃焼室50に導入することができる。燃料噴射ノズル1は、例えば、ノズルヘッド3がシリンダの燃焼室50内に突出するように、シリンダのシリンダカバーに取り付けられている。
【0055】
燃料噴射ノズル1は、燃料パイプ4をさらに備え、この燃料パイプ4がノズル本体2内のボアとして設計されていることが好ましい。燃料パイプ4を、圧力パイプ(図示せず)に接続することができ、この燃料パイプ4により、燃料噴射ノズル1が燃料用の蓄圧器(図示せず)に接続され、噴射圧力を加えられた燃料が燃料パイプに流れる。
【0056】
この燃料パイプ4は、ノズル本体2内の圧力チャンバ5まで延在し、この燃料パイプ4を介して、圧力を加えられた燃料が圧力チャンバ5に導入され得る。圧力チャンバ5は、実質的に環状の形状である。
【0057】
燃料噴射ノズル1は、弁本体6をさらに備え、この弁本体6が弁ピストン61と、弁ピストン61に接続されるノズルニードル62とを有する。このノズルニードル62は弁ピストン61の下方に軸方向に配置される。このノズルニードル62は、軸方向Aに沿って圧力チャンバ5内に延在する。この実施形態では、弁ピストン6は、上部ピストン611、下部ピストン612、および接続要素613を備え、この接続要素613が、上部ピストン611と下部ピストン612との間に配置され、これらの2つのピストン611、612を互いに機械的、かつ/または、油圧的に接続する、すなわち連結する。
【0058】
弁ピストン61は、上部614と下部615を有し、これらが弁ピストン61の軸端面を形成する。本明細書で説明されている実施形態では、上部ピストン611が弁本体61の上部614を形成し、下部ピストン612が弁ピストン61の下部615を形成する。
【0059】
図1に示される実施形態では、下部ピストン612は中空ピストンとして、すなわち中央凹部とともに設計され、その中に接続要素613が延在する。バネ12は、下部ピストン612のこの中央凹部内に配置され、弁本体6に荷重をかける、あるいは圧力をかける。
【0060】
あるいは、下部ピストン612を完全ピストンとして、すなわち中央凹部なしに設計することも当然のことながら可能である。そして、バネ12は、その下端部が下部ピストン612の上部に載っていることが好ましい。
【0061】
この弁本体6は、上部ピストン611、下部ピストン612および接続要素613、ならびにノズルニードル62を有する弁ピストン61を含み、例えば、いくつかの部品からなる。弁本体6は軸方向Aに対して前後に移動可能である。
【0062】
ノズルニードル62の下端は、弁座11と協働するように設計され、この弁座11は圧力チャンバ5の真下に配置され、圧力チャンバ5に隣接する。好ましくは、ノズルニードル62の下端は、円錐または円錐台のように設計され、弁座11も、円錐または円錐台のように設計され、ノズルニードル62と弁座11で密封するようにする。
【0063】
閉鎖状態では、ノズルニードル62は密封して弁座11と協働して、圧力チャンバ5とノズルヘッド3との間の流れ接続が閉じられ、燃料が圧力チャンバ5からノズルヘッド3に到達することができない。開放状態では、弁本体6の軸方向Aのストローク(図示のように上方)により、圧力チャンバ5とノズルヘッド3との間の流れ接続が開放され、ノズルニードル62と弁座11との間の圧力チャンバ5から、ノズルヘッド3とノズル孔30に燃料が流れる。
【0064】
ノズルニードル62は、圧力チャンバ5内に配置された領域にテーパ621を有し、圧力チャンバ5内の噴射圧力下にある燃料は、弁本体6に上向きの力を加えることができる。弁本体6の下部ピストン612は、中空ピストンとして設計されており、バネ12がこの下部ピストン612により受けられ、弁本体6を弁座11の方向に付勢するように配置されている。このことは、バネ12が弁本体6に下向きの力を加え、弁本体6を弁座11の方向に押し込むことを意味する。
【0065】
さらに、ノズル本体2内には上部チャンバ9が設けられ、このチャンバが弁ピストン61の上方に配置され、弁ピストン61の上部614によって制限される。さらに、ノズル本体2内には下部チャンバ10も設けられ、このチャンバは弁ピストン61の下に配置され、弁ピストン61の下部615によって制限される。
【0066】
燃料噴射ノズル1は、第1の供給パイプ21、第2の供給パイプ22、第1の排出パイプ31、および第2の排出パイプ32を備え、これらの各パイプ21、22、31、32は、好ましくは、ノズル本体2内のボアとして設計される。
【0067】
第1の供給パイプ21は、上部チャンバ9と燃料パイプ4を接続する。第2の供給パイプ22は、下部チャンバ10と燃料パイプ4を接続する。第1の排出パイプ31は、上部チャンバ9と第1の出口91を接続し、上部チャンバ9から第1の出口91に燃料を流すことができる。第2の排出パイプ32は、下部チャンバ10を第2の出口92に接続し、下部チャンバ10から第2の出口92に燃料を流すことができる。第1の出口91と第2の出口92は、再循環(図示せず)を介して燃料供給源(例えば、燃料貯蔵タンク)に接続し、これにより、これら2つの出口91、92を通って流出する燃料が燃料供給源に戻る。
【0068】
本明細書で説明されている実施形態では、第3の供給パイプ23がさらに設けられ、この供給パイプは、好ましくはノズル本体2内のボアとしても設計され、上部チャンバ9と燃料パイプ4とを接続する。第3の供給パイプ23は、第1の供給パイプ21とは異なる。
【0069】
種々のパイプ21、22、23、31、32を通る加圧燃料の流れを制御または調整するために、燃料噴射ノズル1は、第1の制御弁7および第2の制御弁8を含む。2つの制御弁7、8は、それぞれ開放位置と閉鎖位置を有する電子的に、あるいは電気的に制御可能な切り替え弁として設計されている。
【0070】
2つの制御弁7、8は、互いに独立して作動させることができる、すなわち、互いに独立して切り替えることができる。このことは、第1の制御弁7が開放位置にある場合、第2の制御弁8を任意に開放位置または閉鎖位置にすることができ、第1の制御弁7が閉鎖位置にある場合、第2の制御弁8も任意に、開放位置または閉鎖位置にすることができることを意味する。したがって、2つの制御弁7、8は、互いに独立して作動することができる、すなわち、切り替えることができる。2つの制御弁7または制御弁8の一方の位置(開放位置または閉鎖位置)にかかわらず、他方の制御弁8または7は、必要に応じて、その開放位置と閉鎖位置との間で前後に切り替えることができる。したがって、第1の制御弁7および第2の制御弁8は、互いに独立して作動させることができる、あるいは起動させることができる。したがって、2つの制御弁7および8をそれぞれ別々に切り替えることができる。
【0071】
第1の制御弁7が閉鎖位置にある場合、第2の供給パイプ22と第1の排出パイプ31の両方が閉鎖され、これにより、燃料はそれらの間を流れない。第1の制御弁7が開放位置にある場合、第2の供給パイプ22と第1の排出パイプ31の両方が開放され、これにより、流体がこれらのパイプ22、31および第1の出口91を通って流れることができる。
【0072】
第2の制御弁8が閉鎖位置にある場合、第2の排出パイプ32は閉鎖され、これにより、燃料は第2の出口92を通って流れることはできない。第2の制御弁8が開放位置にある場合、第2の排出パイプ32は開放され、これにより、燃料は第2の排出パイプ32を通って第2の排出口92に流れることができる。
【0073】
第3の供給パイプ23の通過も、第2の制御弁8によって制御される。第2の制御弁8が閉鎖位置にある場合、第2の制御弁8は第3の供給パイプ23を閉鎖し、燃料パイプ4から第3の供給パイプ23を介して上部チャンバ9に燃料を流入させることができない。第2の制御弁8が開放位置にある場合には、第3の供給パイプ23が開いており、燃料パイプ4から第3の供給パイプ23を介して上部チャンバ9に燃料を流すことができる。
【0074】
第1の制御弁7および第2の制御弁8はそれぞれ、バネ付勢の電磁弁7、8として設計され、これらの電磁弁7、8は、電流が印可されるとバネ71、81の力に抗して閉鎖位置から開放位置に変化することが好ましい。第1の制御弁7および第2の制御弁8はそれぞれ単安定切り替え弁として構成されていることが特に好ましい。このことは、それぞれの第1の制御弁7または第2の制御弁8が、唯一の安定状態、すなわち閉鎖位置を有することを意味する。もう一方の状態(すなわち、開放位置)は、制御弁7または制御弁8に電流が印加されている間だけ維持される。制御弁7または制御弁8にもはや電流が印加されない場合、制御弁7または制御弁8は、バネの付勢によって自動的に安定状態、すなわち、閉鎖位置に戻る。
【0075】
この目的のために、第1の制御弁7および第2の制御弁8は、弁スライド72または弁スライド82を備えた摺動弁として設計されることが好ましい。それぞれの弁スライド72または弁スライド82は、バネ71またはバネ81によって閉鎖位置の方向に力を加えられている。すなわち、制御弁7または制御弁8に電流が印加されていない限り、それぞれのバネ71またはバネ81により、それぞれの制御弁7または制御弁8はその閉鎖位置に保持されている。それぞれの制御弁7または制御弁8を閉鎖位置から開放位置に移動させるために、電磁石73または電磁石83が設けられており、これらの電磁石に電流が印加されると、それぞれの弁スライド72または82を引き付け、これにより、それぞれの制御弁7または制御弁8が閉鎖位置から開放位置に切り替えられ、それぞれの制御弁7または制御弁8への印可が停止されるまで開放位置に保持される。
【0076】
第2の供給パイプ22は、燃料パイプ4から第1の制御弁7の入口に延在し、次いで、第1の制御弁7の出口から下部チャンバ10まで延在する。第3の供給パイプ23は、燃料パイプ4から第2の制御弁8の入口に延在し、次いで、第2の制御弁8の出口から上部チャンバ9に延在する。第1の排出パイプ31は、上部チャンバ9から第1の制御弁7の別の入口に延在し、次いで、第1の制御弁7の別の出口から第1の出口91に延在する。第2の排出パイプ32は、下部チャンバ10から第2の制御弁8の別の入口に延在し、次いで、第2の制御弁8の別の出口から第2の出口92に延在する。
【0077】
さらに、上部ピストン611の下部側と下部ピストン612の上部側との間には、圧力補償のための補償パイプ41が設けられている。一方、この補償パイプは、上部ピストン611の下部の真下の空間と下部ピストン612の上部の上方の空間とを接続する。一方、補償パイプ41は、第3の出口93に接続する。その結果、上部ピストン611の下部の真下の空間と、下部ピストン612の上方の空間には圧力がかからず、2つの空間の間に圧力差は生じない。
【0078】
次に、燃料噴射ノズルの機能を説明する。図1には、噴射が行われていない閉鎖状態の燃料噴射ノズル1または弁本体6が示されている。第1の制御弁7および第2の制御弁8は閉鎖位置にある。上部チャンバ9には、第1の供給パイプ21を介して燃料パイプ4内の燃料の圧力が加えられている。第1の排出パイプ31と第2の供給パイプ22は閉鎖されているので、燃料が第1の排出パイプ31を通って上部チャンバ9から燃料が流出することも、第2の供給パイプ22を通って下部チャンバ10に流入することもない。
【0079】
圧力チャンバ5内の圧力は、燃料パイプ4と本質的に同じであり、これが、噴射圧力である。上部チャンバ9内の圧力も燃料パイプ4の圧力と同じなので、バネ12によるバネ力と、弁ピストン61の上部614の上部チャンバ9の圧力によって加えられる力とを合わせた力が、圧力チャンバ5内の圧力によりノズルニードル62とテーパ621にそれぞれ加えられる力と、弁ピストン61の下部615の上の下部チャンバに加えられる力とを合わせた力を上回る。その結果、弁本体6のノズルニードル62が弁座11に押し込まれて密封され、それにより、燃料が圧力チャンバ5からノズルヘッド3内に侵入することがなくなる。
【0080】
各シリンダの作動サイクルの燃焼室50への噴射プロセスを開始するために、エンジン制御ユニットは、第1の制御弁7の電磁石73に電流を印加する信号を送る。そうする際に、第1の制御弁7の弁スライド72はバネ71の力に抗して引き付けられる。その結果、第1の制御弁7は、閉鎖位置から開放位置へと切り替わる。第2の制御弁8は作動せず(すなわち、電流が印加されず)、閉鎖位置にとどまる。
【0081】
第1の制御弁7は開放位置にあるため、第2の供給パイプ22は両方とも開放しており、圧力をかけられた燃料が、燃料パイプ4から第2の供給パイプ22を通って、下部チャンバ10と第1の排出パイプ31に流れ込み、これにより、燃料は上部チャンバ9から第1の排出パイプ31を通って、第1の出口91に同時に流れ、これにより、上部チャンバ9が圧力から解放される。
【0082】
下部チャンバ10に、燃料パイプ4からの燃料の圧力が加えられ、上部チャンバ9の圧力が解放されるため、下部チャンバ10内で圧力をかけられた燃料によって弁ピストン61の下部615に加えられる力と、圧力チャンバ5内の燃料によってノズルニードル62とテーパ621にそれぞれ加えられる力を合わせた力が、バネ12によって弁ピストン61に加えられる力を上回る。その結果、1ストロークにより弁本体6が軸方向Aに持ち上げられ、これに伴いノズルニードル62も弁座11から持ち上げられる。この開放状態では、圧力チャンバ5とノズルヘッド3の間の流れ接続が開放され、圧力をかけられた燃料が、圧力チャンバ5からノズルヘッド3内に流れ、ノズル孔30を通ってシリンダの燃焼室50内へ噴射される。
【0083】
噴射の開始時には、下部チャンバ10には圧力がかけられ、それと同時に、上部チャンバ9は圧力から解放されるので、開放時間が特に短くなる、すなわち、弁本体6のストロークにより閉鎖状態から開放状態への切り替えが、好都合にも非常に短時間で実施される。
【0084】
燃焼室50への噴射を終了するために、第1の制御弁7の電流の印加を停止する。第1の制御弁7の電磁石73には電流が供給されなくなるので、第1の制御弁7のバネ71の力により弁スライド72が休止位置に戻され、これにより、第1の制御弁7が開放状態から閉鎖状態に切り替わり、第2の供給パイプ22と第1の排出パイプ31の両方を閉鎖する。
【0085】
同時に、第2の制御弁8の電磁石には第2の制御弁8への信号により電流が印加され、第2の制御弁8は閉鎖位置から開放位置に切り替わる。開放位置では、第2の制御弁8は、両方の第2の排出パイプ32を開放し、この排出パイプを通って、燃料が下部チャンバ10から第2の出口92へと流れ得、そして第3の供給パイプ23も開放する。これにより、燃料パイプ4からの圧力が加えられた燃料が、第3の供給パイプ23を通って上部チャンバ9に追加で流入し得る。
【0086】
その結果、第1の制御弁7により、第2の供給パイプ22と第1の排出パイプ31が閉鎖され、第2の制御弁により、第2の排出パイプ32と第3の供給パイプ23が開放される。結果として、一方では、燃料が下部チャンバ10から、第2の排出パイプ32を通って流出することができるので、弁ピストン61の下部615は非常に迅速に圧力から解放される。一方、圧力を加えられた燃料が、燃料パイプ4から第1の供給パイプ21と第3の供給パイプ23の両方を通って、上部チャンバ9に流入することができるので、非常に迅速に弁ピストン61の上部614に圧力が加えられる。
【0087】
上部チャンバ9内での圧力上昇と、下部チャンバ10内での減圧が同時に起こり、それに加えてバネ12の作用により、ノズルニードル62を弁座11に押し付けて密封接触する力が再度上回る。弁本体6が開放状態から閉鎖状態に切り替わりし、圧力チャンバ5とノズルヘッド3との間の流れ接続が遮断される。
【0088】
下部チャンバ10が圧力から解放され、同時に上部チャンバ9に圧力が加えられて、噴射を終了させるため、閉鎖時間が特に短くなる。すなわち、弁本体6によって引き起こされる開放状態から閉鎖状態への切り替えが、好都合にも、非常に短い時間で行われる。
【0089】
噴射が終了した後(すなわち、ノズルニードル62が閉鎖状態で、密封して弁座11と再度協働した直後)、第2の制御弁8への電流の印加を終了させて、閉鎖状態に戻すことができ、第2の制御弁8は、第2の排出パイプ32と第3の供給パイプ23の両方を閉鎖する。主に第2の制御弁8が機能して、下部チャンバ10を可能な限り早く圧力から解放して、開放状態から閉鎖状態への切り替えを加速する、すなわち閉鎖時間を短縮する働きをする。随意的に、すなわち、第3の供給パイプ23が存在すると、開放状態から閉鎖状態への切り替えが行われるときに、第2の制御弁8が上部チャンバ9内の圧力の増幅を加速する働きもする。
【0090】
このように、燃料噴射ノズル1は、非常に短い切り替え時間、すなわち、閉鎖状態から開放状態への切り替えと開放状態から閉鎖状態への変化の両方が非常に迅速に行われることを特徴とする。これにより、大型ディーゼルエンジンの特に経済的で効率的な低排出ガスおよび低摩耗運転が可能になる。
【0091】
特に、燃料噴射ノズル1は、弁本体6の可変ストロークで燃料噴射ノズル1を作動させる燃料噴射方法に適している。
【0092】
上述のように、第1の制御弁7を1回作動させることにより、シリンダの1作動サイクルの噴射プロセスを実行することができる。この目的のために、第1の制御弁7は、単一の信号またはパルスで作動され、それにより、信号の開始が噴射開始を決定し、信号の長さが噴射持続時間を決定する。信号の開始時には、第1の制御弁7の電磁石73に電流が印加され、信号の終わりに第1の制御弁7の電磁石73の電流印加が終了する。既に説明した通り、第2の制御弁8を作動させることによって、開放状態から閉鎖状態への切り替えを支持する、あるいは加速することができる。
【0093】
しかし、個々の信号が所望の噴射長よりもかなり短い長さを有する場合、それぞれ1つの信号またはパルスで噴射プロセス中に第1の制御弁7を数回作動させることも可能である。このような第1の制御弁7の多重作動では、射出プロセスの間、第1の制御弁7が閉鎖位置と開放位置との間で数回前後に切り替わらなければならない。
【0094】
このような多重作動すなわちパルス作動により、弁本体6は、全噴射プロセス中、閉鎖状態(弁座11と密封接触するノズルニードル62)と弁本体6の最大可能なストロークとの間の位置で、泳動または浮動状態に保つことが可能となる。このことは、噴射プロセスの間、弁本体6を閉鎖状態と最大開放状態との間の中間位置に維持することができることを意味する。
【0095】
このように、第1の制御弁7を数回作動させることにより、噴射プロセスの間に弁本体6のストロークを調整することができ、圧力チャンバ5と弁座11に沿ったノズルヘッド3との間の流れ接続の開放流れ断面を変化させることができる。
【0096】
閉鎖状態と最大開放状態との間の中間位置における弁本体6のこの浮動または泳動保持は、第2の制御弁8の適切な作動によって支持され得ることは理解されよう。
【0097】
可変ストロークで弁本体6を操作するこの方法により、噴射プロセスを可能な限り最適化することができる。例えば、2つ例を挙げると、大型ディーゼルエンジンを作動するための電流負荷に適用する、あるいは、燃料の特性に適用する。
【0098】
例えば、弁本体6の一回のストロークで全噴射プロセスを実行することが可能であり、このストロークは、閉鎖状態と最大開放状態との間の中間位置に対応する。
【0099】
噴射プロセス中(すなわち、噴射の開始時)に弁本体のストロークを変更することも可能であり、最初に弁本体6の第1のストロークを調整し、次いで、この噴射プロセス中の第1のストロークとは異なる弁本体6の第2のストロークを変更する。
【0100】
第1の制御弁7および随意的に第2の制御弁8を作動させることにより、弁本体のストロークを変化させることが可能になるため、噴射プロセスのためのほぼあらゆる噴射プロファイルを実現することができる。噴射プロファイルとは、噴射プロセス中の噴射燃料量の時間経過のことを指す。
【0101】
例えば、噴射プロセス中に、プレ噴射を実現したり、弁本体6のストロークを数段階に増やしたりすることも可能となる。
【0102】
所望の噴射プロファイルを実現するため、あるいは、弁本体6の所望のストロークを調整するために、個々の信号の長さ、および/または、噴射プロセスの間、第1の制御弁7が作動する個々の信号間の時間間隔を調整することが可能となり、所望の噴射プロファイルが得られる。
【0103】
燃料噴射ノズル1の閉鎖状態から開放状態への、かつその逆への特に良好で迅速な切り替えを達成するために、様々な供給および排出パイプ21、22、23、31、32が、好ましくは、ノズル本体2のボアとして設計されているが、それぞれが絞り効果を有し、この絞り効果の強度は、好ましくは、それぞれのパイプ21、22、23、31、32の直径によって調整される。具体的には、以下の措置が絞り効果に関して有利であり得る。
【0104】
第2の供給パイプ22の直径は、燃料パイプ4の直径の50%以下、好ましくは、25%以下である。第2の供給パイプ22の直径は、例えば、燃料パイプ4の直径の約20%に相当する。
【0105】
第1の供給パイプ21の直径は、第2の供給パイプ22の直径よりも小さい。第1の供給パイプ21の直径は、最大でも第2の供給パイプ22の直径の50%である。
【0106】
第3の供給パイプ23は、第2の供給パイプ22の直径と少なくともほぼ等しい直径を有する。
【0107】
第2の排出パイプ32は、下部チャンバ10と第2の制御弁8との間の領域において、第2の供給パイプ22の直径よりも小さい直径を有する。上記領域における第2の排出パイプ32の直径は、第2の供給パイプ22の直径の約80%である。
【0108】
第1の排出パイプ31および第2の排出パイプ32は、第1の制御弁7または第2の制御弁8の下流の各領域(すなわち、各制御弁7、8と第1の出口91との間、および第2の出口92との間)において、絞り効果をほとんど、あるいは、全く有してはならない。これらの領域において、例えば、第1の排出パイプ31または第2の排出パイプ32は、燃料パイプ4と少なくとも同径でよい。
【0109】
さらに、スロットルパイプ42を介して下部チャンバ10を燃料パイプ4に接続することが有利であり得る。この目的のために、スロットルパイプ42は、第2の排出パイプ32よりもはるかに強力な絞り効果を有するべきである。例えば、スロットルパイプ42の直径は、下部チャンバ10と第2の制御弁8との間の領域における第2の排出パイプ32の直径の最大50%でよい。
図1