(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】遊星歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/28 20060101AFI20230726BHJP
【FI】
F16H1/28
(21)【出願番号】P 2019048919
(22)【出願日】2019-03-15
【審査請求日】2021-12-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000205579
【氏名又は名称】住友重機械ギヤボックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】深井 耕作
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/010146(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/137730(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内歯歯車と、遊星歯車と、太陽歯車と、遊星歯車を支持するキャリヤと、を有する遊星歯車装置であって、
前記内歯歯車に回転を入力する第1伝達部材と、
前記キャリヤに回転を入力する第2伝達部材と、
前記第2伝達部材の回転をロックするロック機構と、
を有し、
前記ロック機構は、前記第2伝達部材がケーシング外に延在された延在部と、前記延在部と一体的に回転可能に装着される固定部材と、前記固定部材を前記ケーシングに対して相対回転不能にロックするロック部材と、を有し、
前記固定部材は、前記第2伝達部材の前記延在部に外嵌される筒状の本体部と、前記本体部の軸方向一端において径方向外側に張り出したフランジ部と、を有し、前記フランジ部を前記ケーシング側に位置させた状態で前記フランジ部と前記ケーシングが固定され、
前記固定部材は、前記第2伝達部材をロックしないときは、前記フランジ部を反前記ケーシング側に位置させた状態で前記第2伝達部材の前記延在部に装着され、前記第2伝達部材と一体的に回転することを特徴とする遊星歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊星歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電動装置と遊星歯車変速装置とを備える可変電動機システムが記載されている。
図10は、特許文献1に記載の可変電動機システムの断面図である。
図10に示すように、このシステムは、第1入力原動機として内歯車キャリア軸91を回転駆動させる定速電動機92と、第2入力原動機として入力側遊星歯車キャリア軸93を回転駆動させる可変速電動機94と、遊星歯車変速装置95とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された可変電動機システムは、定速電動機92を定速で回転させ、可変速電動機94の回転速度を制御することにより、遊星歯車変速装置95の出力回転の速度を制御できる。しかし、可変速電動機94が故障してキャリヤへの入力回転が制御できなくなると、変速装置の出力回転を制御できなくなり、システムとして運転不能となる。ブレーキを設けてキャリヤへの入力回転を固定することも考えられるが、保持トルクが小さく、大容量の歯車装置には採用できない。このため、キャリヤへの入力回転が制御不能になった場合でも、最低限運転可能な状態に容易に切替できる遊星歯車変速装置の提供が望まれている。
【0005】
本発明の目的は、このような課題に鑑みてなされたもので、キャリヤへの入力回転が制御不能になった場合でも、最低限運転可能な状態に切替できる遊星歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の遊星歯車装置は、内歯歯車と、遊星歯車と、太陽歯車と、遊星歯車を支持するキャリヤと、を有する遊星歯車装置であって、内歯歯車に回転を入力する第1伝達部材と、キャリヤに回転を入力する第2伝達部材と、第2伝達部材の回転をロックするロック機構と、を有する。ロック機構は、第2伝達部材がケーシング外に延在された延在部と、延在部と一体的に回転可能に装着される固定部材と、固定部材をケーシングに対して相対回転不能にロックするロック部材と、を有する。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、キャリヤへの入力回転が制御不能になった場合でも、最低限運転可能な状態に切替できる遊星歯車装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態の遊星歯車装置の一例を概略的に示す側面断面図である。
【
図2】
図1の遊星歯車装置のケーシングを示す側面断面図である。
【
図3】
図1の遊星歯車装置の主軸受の周辺を拡大して示す拡大図である。
【
図4】
図1の遊星歯車装置の潤滑剤誘導部を示す側面図である。
【
図5】
図1の遊星歯車装置の給油リングを示す断面図である。
【
図6】
図1の遊星歯車装置のロック機構を示す拡大図である。
【
図7】
図1の遊星歯車装置のロック機構を示す別の拡大図である。
【
図8】
図6のロック機構のカップリングを示す拡大図である。
【
図10】特許文献1に記載の可変電動機システムの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、本発明の一態様の概要について説明する。本発明のある態様の遊星歯車装置は、内歯歯車と、遊星歯車と、太陽歯車と、遊星歯車を支持するキャリヤと、を有する遊星歯車装置であって、内歯歯車に回転を入力する第1伝達部材と、キャリヤに回転を入力する第2伝達部材と、第2伝達部材の回転をロックするロック機構と、を有する。ロック機構は、第2伝達部材がケーシング外に延在された延在部と、延在部と一体的に回転可能に装着される固定部材と、固定部材をケーシングに対して相対回転不能にロックするロック部材と、を有する。
【0011】
この態様によれば、何らかの原因によりキャリヤへの入力回転が制御不能になったとき、固定部材をケーシングに対して相対回転不能にロックすることにより、キャリヤの回転がロックされ、内歯歯車への入力回転によって運転を継続できる。
【0012】
上述の固定部材は、第2伝達部材の延在部に外嵌される筒状の本体部と、本体部の軸方向一端において径方向外側に張り出したフランジ部と、を有してもよく、フランジ部をケーシング側に位置させた状態でフランジ部とケーシングが固定されてもよい。この場合、径方向外側に張り出したフランジ部をケーシングに固定するので、大きな保持トルクが得られ、大容量の歯車装置にも適用できる。
【0013】
上述のロック機構は、ケーシングに固定されたピン部材を有し、固定部材のフランジ部にはピン部材を挿通する挿通穴が設けられ、ピン部材を挿通穴に挿通させることにより、固定部材とケーシングが相対回転不能にロックされてもよい。この場合、ピン部材を挿通穴に挿通させる簡易な構造でロック機構を構成できる。また、構造が簡単なので信頼性や作業性が優れ、非常用や緊急用にも適用できる。
【0014】
上述の固定部材は、第2伝達部材をロックしないときは、フランジ部を反ケーシング側に位置させた状態で第2伝達部材の延在部に装着され、第2伝達部材と一体的に回転してもよい。この場合、ロック解除状態で、固定部材が第2伝達部材の延在部に装着され一体的に回転するので、固定部材を別途保管するスペースや手間を省け、紛失しにくく、緊急時でも迅速にロックできる。
【0015】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施の形態、変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0016】
[実施の形態]
以下、
図1~
図7を参照して、実施の形態に係る遊星歯車装置10の構成について説明する。
図1は、実施の形態の遊星歯車装置10を示す側面断面図である。遊星歯車装置10は、遊星歯車14と噛合う太陽歯車16および内歯歯車12を備え、これらの歯車うちの1または2つに入力された回転を変速して残りの1または2つの歯車に出力する遊星歯車型変速装置として機能する。本実施形態では、遊星歯車装置10は、遊星歯車14(キャリヤ20)と内歯歯車12とに入力された回転を変速(増速)して太陽歯車16に出力する。
図1の例では、遊星歯車装置10は、入力原動機である第1モータ82および第2モータ84からの入力回転を増速して被駆動装置である圧縮機86に出力する。なお、第1モータ82、第2モータ84および圧縮機86は、特許文献1に記載されたものと基本的に同じであり、第1モータ82は定速電動機92に対応し、第2モータ84は可変速電動機94に対応する。
【0017】
遊星歯車装置10は、主に、内歯歯車12と、遊星歯車14と、太陽歯車16と、太陽歯車軸18と、キャリヤ20、22と、遊星ピン28と、主軸受24、26と、ケーシング80と、内歯側伝達機構42と、キャリヤ側伝達機構54と、潤滑剤誘導部64と、ロック機構70とを備える。以下、太陽歯車軸18の軸線Laに沿った方向を「軸方向」といい、その軸線Laを中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」とする。また、以下、便宜的に、軸方向の一方側(図中左側)を入力側といい、他方側(図中右側)を反入力側という。
【0018】
太陽歯車軸18は、軸線Laを中心として軸方向に延びる棒状の部材である。本実施形態の太陽歯車軸18は、圧縮機86の入力軸と一体的に形成されており、圧縮機86に備えた軸受(不図示)および遊星歯車装置10に設けられたすべり軸受18sによって支持される。太陽歯車16は、太陽歯車軸18の外周部に固定され、軸線Laを中心として自転する。本実施形態は、軸方向に離隔して配置された2つの太陽歯車16を有する。2つの太陽歯車16は、いずれも斜歯歯車であり、2つの斜歯歯車の軸方向に対する傾きは互いに反対に形成される。
【0019】
遊星歯車14は、太陽歯車16と噛み合って、軸線Laを中心として公転するとともに自身の中心線を中心として自転する。本実施形態は、軸線Laを中心とする円周上に所定の間隔(例えば、120°間隔)で配列された3つの遊星歯車14を有する。本実施形態の遊星歯車14は、太陽歯車16の2つの斜歯にそれぞれ噛合う2つの斜歯が軸方向に離隔して配置される。遊星歯車14は、その中心に軸方向に貫通する貫通孔14hが設けられる。貫通孔14hには後述する遊星ピン28が挿通され、遊星歯車14は遊星ピン28に回転自在に支持される。
【0020】
内歯歯車12は、円筒部12aと、遊星歯車14と噛合う複数の内歯12bとを有する。円筒部12aは、軸線Laを中心とする中空円筒形状を有し、遊星歯車14を環囲する。複数の内歯12bは、円筒部12aの内周面に周方向に所定の間隔で配置される。本実施形態の内歯12bは、遊星歯車14の2つの斜歯にそれぞれ噛合う2組の斜歯が軸方向に離隔して配置される。内歯歯車12は、円筒部12aの外周部が後述する内歯ホルダ44に固定される。
【0021】
(キャリヤ)
キャリヤ20、22は、遊星歯車14の軸方向両側部に配置される。キャリヤ20、22は、主軸受24、26を介してケーシング80に回転自在に支持されている。キャリヤ20、22は、遊星歯車14の軸方向一側に配置された第1キャリヤ20と、遊星歯車14の軸方向他側に配置された第2キャリヤ22とを有し、遊星歯車14を支持する。以下、第1キャリヤ20と第2キャリヤ22とを総称するときは「キャリヤ」ということがある。第1キャリヤ20と第2キャリヤ22とは互いに連結される。本実施形態では、第1キャリヤ20は遊星歯車14の反入力側に配置され、第2キャリヤ22は遊星歯車14の入力側に配置される。第2キャリヤ22は、遊星歯車14の入力側に隣接して設けられる円板状の部材である。
【0022】
第1キャリヤ20は、第1キャリヤ本体20bと、第1キャリヤ本体20bから軸方向で遊星歯車14とは反対側に突出する突出部32とを有する。第1キャリヤ本体20bは、遊星歯車14の反入力側に隣接して設けられる円板状の部材である。本実施形態の突出部32は、第1キャリヤ本体20bから反入力側に突出する中空円筒状の部分である。第1キャリヤ本体20bおよび突出部32には、隙間を介して太陽歯車軸18が貫通する貫通孔32dが設けられる。貫通孔32dの内径は、太陽歯車16の外径より大きく形成されてもよい。突出部32の外周部には後述する主軸受24、26が配置される。
【0023】
第1キャリヤ20と第2キャリヤ22とは、連結ピン30および遊星ピン28を介して連結される。連結ピン30および遊星ピン28は、軸線Laから径方向にオフセットした位置において、軸方向に延びる円柱状のピン部材である。連結ピン30および遊星ピン28は、第1キャリヤ20または第2キャリヤ22と一体的に形成されてもよいし、別体に形成されて固定されてもよい。本実施形態では、遊星ピン28はキャリヤとは別体に形成され、連結ピン30はキャリヤと一体的に形成される。
【0024】
本実施形態では、3つの遊星ピン28が120°間隔で配置され、3つの連結ピン30が120°間隔で配置される。つまり、これらの6つのピン部材が60°間隔で配置される。
【0025】
図1に示すように、遊星ピン28は、その一端が第1キャリヤ20の凹部20hに嵌入され、他端が第2キャリヤ22の凹部22hに嵌入されている。この例では、凹部20h、20hは、軸方向に貫通している。例えば、遊星ピン28は、圧入によって凹部20h、20hに固定される。遊星ピン28は、遊星歯車14に形成された貫通孔14hを貫通する。遊星ピン28は、第1キャリヤ20および第2キャリヤ22と遊星歯車14との間の動力の伝達に寄与する連結部材として機能する。連結ピン30は、遊星歯車14とは接しておらず、動力の伝達には寄与せず、主に連結部材として機能する。
【0026】
(主軸受)
図3も参照して主軸受24、26の周辺を説明する。
図3は、主軸受24、26の周辺を拡大して示す拡大図である。主軸受24、26は、キャリヤをケーシング80に支持する。特に、主軸受24、26は、第1キャリヤ20の突出部32を支持する。本実施形態は、軸方向に離隔して配置される一対の第1主軸受24、第2主軸受26を有する。第2主軸受26は、第1主軸受24の入力側に配置される。
図1に示すように、主軸受24、26は、突出部32の外周部に配置され、第1キャリヤ本体20bおよび第2キャリヤ20には配置されない。
【0027】
この構成によれば、第1キャリヤ20と第2キャリヤ22と遊星ピン28と連結ピン30とを組み立てた後に、その組立体に主軸受24、26や内歯歯車12を取り付けることができるので、組立性が向上し組み立て工数の削減につながる。また、後述する潤滑剤の誘導路の構築も容易になる。
【0028】
主軸受24、26は、外輪24b、26bと、内輪24c、26cとを有する。主軸受24、26は、外輪24b、26bがケーシング80に周設された収容溝80g、80hに嵌められる。収容溝80g、80hは、主軸受24、26に対応して軸方向に離隔して設けられる。ケーシング80は、軸方向に離隔して配置される第1収容溝80gと、第2収容溝80hとを有する。第2収容溝80hは、第1収容溝80gの入力側に配置される。内輪24c、26cは突出部32の外周に接する。一対の主軸受24、26の間には後述する給油リング66が配置される。単一の収容溝80gには、給油リング66と第1主軸受24の外輪24bが嵌められる。この場合、ケーシング80に給油リング66が嵌る溝を主軸受の外輪が嵌る溝とは別に設ける場合に比べて、ケーシング80の加工工数を低減できる。また、単一の溝とすることによってケーシング80の軸方向寸法を短くできる。
【0029】
(ケーシング)
図1、
図2を参照して、ケーシング80を説明する。
図2はケーシング80を示す側面断面図である。ケーシング80は、遊星歯車装置10の外殻として機能する。ケーシング80は、第1円筒部80bと、第1側壁部80cと、第2側壁部80dと、第2円筒部80eと、第3側壁部80fと、中間側壁部80qとを有する。第1円筒部80bは、軸線Laを中心とする全体として中空円筒状の部分である。第1側壁部80cは、第1円筒部80bの反入力側を覆う円板状の部分であり、軸線Laを中心とする貫通孔80jを有する。第2側壁部80dは、第1円筒部80bの入力側を覆う円板状の部分である。中間側壁部80qは、空間を挟んで第2側壁部80dの反入力側に設けられる円板状の部分である。中間側壁部80qは、第1伝達部56を挟んで第2側壁部80dと軸方向に対向する。
【0030】
第2円筒部80eは、第1側壁部80cから反入力側に突出する軸線Laを中心とする中空円筒状の部分である。第3側壁部80fは、第2円筒部80eの反入力側を覆う円板状の部分であり、軸線Laを中心とする貫通孔80kを有する。貫通孔80jと第2円筒部80eとは、環状空間を介して突出部32を環囲する。上述したように、第2円筒部80eの内周面には収容溝80g、80hが周設される。貫通孔80kは、滑り軸受18sを介して太陽歯車軸18の外周部を支持する。
【0031】
第1側壁部80cには、2つの伝達部軸受収容部80mが設けられる。伝達部軸受収容部80mは、後述する第2伝達部58の第2伝達軸58sを支持する伝達部軸受58bを収容する凹部であり、この例では軸方向に貫通する。
【0032】
第2側壁部80dには、2つの伝達部軸受収容部80mと、2つの伝達部軸受収容部80nと、入力側軸受収容部80pとが設けられる。伝達部軸受収容部80nは、後述する第1伝達部56の第1伝達軸56sを支持する伝達部軸受56bを収容する凹部であり、この例では軸方向に貫通する。入力側軸受収容部80pは、軸線Laを中心とする貫通孔であり、キャリヤ側伝達軸52sを支持する入力側軸受52dを収容する凹部を有する。
【0033】
中間側壁部80qには、伝達部軸受収容部80nと、入力側軸受収容部80pと、すべり軸受収容部80sとが設けられる。入力側軸受収容部80pは伝達部軸受52gを収容し、すべり軸受収容部80sはすべり軸受42sを収容する。
【0034】
(キャリヤ側伝達機構)
次に、
図1~
図3を参照して、キャリヤ側伝達機構54を説明する。キャリヤ側伝達機構54は、第2モータ84の回転駆動力をキャリヤに伝達する伝達機構である。本実施形態のキャリヤ側伝達機構54は、第2モータ軸84sと、キャリヤ側伝達軸52sと、第1伝達部56と、第2伝達部58と、第3伝達部60とを主に含む。第2モータ軸84sは、第2モータ84の出力軸であり、後述する第1モータ軸82sを環囲する中空軸である。第2モータ軸84sは、第2モータ84の軸受(不図示)により支持され、第2モータ84から軸方向で反入力側に突出する。
【0035】
キャリヤ側伝達軸52sは、遊星歯車装置10から入力側に突出し、ジョイント機構84jによって第2モータ軸84sの反入力側に連結される。キャリヤ側伝達軸52sもまた第1モータ軸82sを環囲する中空軸である。キャリヤ側伝達軸52sは、軸方向に離隔して配置された2つの入力側軸受52dによって、入力側軸受収容部80pに支持される。本実施形態の入力側軸受52dは、例えば玉軸受けである。キャリヤ側伝達軸52sの外周部には第1伝達部56に回転を伝達する入力側伝達歯車52gが設けられる。入力側伝達歯車52gは、軸方向において2つの入力側軸受52dの間に配置される。本実施形態の入力側伝達歯車52gは、平歯車である。入力側伝達歯車52gは、斜歯歯車であってもよい。
【0036】
本実施形態は、キャリヤ側伝達軸52sを挟んで半径方向に対向する2つの第1伝達部56を有する。
図1の例では、2つの第1伝達部56は上下に離隔して配置される。第1伝達部56は、キャリヤ側伝達軸52sから伝達された回転を第2伝達部58に伝達するアイドル歯車として機能する。第1伝達部56は、軸方向に延びる第1伝達軸56sと、第1伝達軸56sの外周部に設けられる第1伝達歯車56gとを有する。第1伝達歯車56gは、第1伝達軸56sの軸方向中央に配置される平歯車である。第1伝達歯車56gは、斜歯歯車であってもよい。第1伝達歯車56gは、入力側伝達歯車52gに噛合うとともに、第2伝達部58の第2伝達歯車58hと噛合う。第1伝達軸56sは、2つの第1伝達部軸受56bによって、第2側壁部80dと、中間側壁部80qとに支持される。本実施形態の第1伝達部軸受56bは、例えば自動調心ころ軸受である。
【0037】
本実施形態は、2つの第1伝達部56それぞれの半径方向外側に配置される2つの第2伝達部58を有する。
図1の例では、2つの第2伝達部58は、上下に離隔して配置される。第2伝達部58は、第1伝達部56から伝達された回転を第3伝達部60に伝達する。第2伝達部58は、軸方向に延びる第2伝達軸58sと、第2伝達軸58sの外周部に設けられる2つの第2伝達歯車58h、58jと、第2伝達軸58sの反入力側に設けられた伝達軸突出部58eとを有する。2つの第2伝達歯車58h、58jは、軸方向に離隔して配置される平歯車である。2つの第2伝達歯車58h、58jは、斜歯歯車であってもよい。伝達軸突出部58eは、第2伝達軸58sの反入力側においてケーシング80外に延在された部分である。
【0038】
第2伝達歯車58hは、第2側壁部80dに隣接して配置され、第2伝達歯車58jは、第1側壁部80cに隣接して配置される。第2伝達歯車58hは、第1伝達歯車56gと噛合い、第2伝達歯車58jは、第3伝達部60の第3伝達歯車60gと噛合う。第2伝達軸58sは、2つの第2伝達部軸受58bによって、第2側壁部80dと、第1側壁部80cとに支持される。本実施形態の第2伝達部軸受58bは、例えば自動調心ころ軸受である。
【0039】
第3伝達部60は、第2伝達部58から伝達された回転を第1キャリヤ20および第2キャリヤ22に伝達する。第3伝達部60は、第1キャリヤ20の外周部に連結された円板状の部材であり、外周部に第3伝達歯車60gを有する。第3伝達歯車60gは、第2伝達歯車58jと噛合う平歯車である。第3伝達歯車60gは、斜歯歯車であってもよい。
【0040】
このように構成されたことにより、キャリヤ側伝達機構54は、第2モータ84の回転に基づいて、第2モータ軸84s、キャリヤ側伝達軸52s、第1伝達部56、第2伝達部58および第3伝達部60を介して、第1キャリヤ20および第2キャリヤ22を回転させる。
【0041】
(内歯側伝達機構)
次に、内歯側伝達機構42を説明する。内歯側伝達機構42は、第1モータ82の回転駆動力を内歯歯車12に伝達する伝達機構である。本実施形態の内歯側伝達機構42は、第1モータ軸82sと、内歯ホルダ44とを主に含む。第1モータ軸82sは、第1モータ82の回転駆動力を内歯ホルダ44に伝達する出力軸である。第1モータ82から軸方向で反入力側に突出して遊星歯車装置10の内部に延びる。第1モータ軸82sは、第2モータ軸84sの中空部を通り、遊星歯車装置10の内部に至る。第1モータ軸82sは、中空軸または中実軸であってもよい。第1モータ軸82sは、第1モータ82の軸受(不図示)によって支持されるとともに、中間側壁部80qに設けられたすべり軸受42sによって遊星歯車装置10の内部に支持される。第1モータ軸82sの反入力側の端部のラジアル振れを効果的に抑制するために、すべり軸受42sは内歯ホルダ44に隣接して配置される。
【0042】
内歯ホルダ44は、内歯歯車12を支持するとともに、第1モータ軸82sから伝達された回転を内歯歯車12に伝達する。内歯ホルダ44は、円盤部44cと、円筒部44sとを有する。円盤部44cは、軸芯Laを中心とする円盤形状を有し、その中心に穿設された孔に第1モータ軸82sの端部がスプライン結合される。円筒部44sは、軸芯Laを中心とする中空円筒形状を有し、遊星歯車14および内歯歯車12の少なくとも一部を環囲する。円筒部44sの入力側の内周部には円盤部44cの外周部が結合される。円筒部44sの反入力側の内周部には遊星歯車14の外周部が結合される。円筒部44sは、円盤部44cから伝達された回転を内歯歯車12に伝達する。
【0043】
このように構成されたことにより、内歯側伝達機構42は、第1モータ82の回転に基づいて、第1モータ軸82sおよび内歯ホルダ44を介して、内歯歯車12を回転させる。
【0044】
(潤滑剤誘導部)
次に、
図4、
図5も参照して、潤滑剤誘導部64を説明する。
図4は、潤滑剤誘導部64を示す側面図である。潤滑剤誘導部64は、遊星歯車装置10の内部の各所に潤滑剤を供給する。潤滑剤誘導部64は、外部給油口80tと、給油リング66と、給油口32fと、複数の潤滑剤の誘導路とを有する。
【0045】
外部給油口80tは、ケーシング80の第2円筒部80eの外周から内周まで径方向に延びる通路である。外部給油口80tの外側の開口は給油を受入れ、内側の開口は給油リング66の外周溝66bに径方向に対面する。外部給油口80tの外側の開口に給油された潤滑剤は給油リング66の外周溝66bに誘導される。給油リング66は、ケーシング80の第2円筒部80eに固定され、隙間を介して突出部32を環囲する。
【0046】
(給油リング)
図5は、給油リング66を示す断面図である。給油リング66は、軸線Laを中心とする環状の部材で、ケーシング80の第2円筒部80eとキャリヤの突出部32の間に配置される。給油リング66は、突出部32を支持する一対の主軸受24、26の間に配置される。この場合、給油リング66を一対の主軸受24、26の外側に配置する場合に比べて、ケーシング80や突出部32の突出長を抑制できる。また、給油リング66に対応して配置される給油口32fが第1キャリヤ本体20b側に寄るので、潤滑剤の循環路が短くなって所望の潤滑性能を実現しやすい。
【0047】
給油リング66の外周部にはリング状の外周溝66bが周設される。外周溝66bは外部給油口80tと連通する。給油リング66の内周面にはリング状の内周溝66cが周設される。内周溝66cは、突出部32の給油口32fに径方向に対面し、給油口32fと連通する。この場合、潤滑剤が外周溝66bと内周溝66cに沿って周方向に広がるので周方向の均一性が高まる。
【0048】
給油リング66は、外周溝66bと内周溝66cを連通する径方向通路66eを有する。本実施形態は、周方向に所定の間隔で配置された4つの径方向通路66eを有する。
図5に示すように、4つの径方向通路66eは、90°間隔に配置される。外周溝66bに供給された潤滑剤は、溝内を周方向に導かれ溝全体に広がる。外周溝66bに広がった潤滑剤は、4つの径方向通路66eを通って内周溝66cに導かれる。内周溝66cに導かれた潤滑剤は、溝内を周方向に導かれ溝全体に広がる。内周溝66cに広がった潤滑剤は、突出部32の給油口32fに導かれる。この場合、外周溝66bと径方向通路66eと内周溝66cとを介して、外部給油口80tから給油口32fに潤滑剤を効率的に供給できる。
【0049】
給油口32fは、突出部32の外周部に開口する径方向通路である。給油口32fは、内周溝66cに径方向に対面し、内周溝66cから潤滑剤の供給を受ける。給油口32fは、給油口32fに供給された潤滑剤を突出部32内部の潤滑剤の誘導路に導く。この誘導路は、給油口32fから供給された潤滑剤を第1キャリヤ本体20b側に誘導する。
【0050】
このように、突出部32に給油口32fと潤滑剤の誘導路とを設けることにより、キャリヤの中心部に近い部分から潤滑剤を供給できる。このため、中心側から径方向外向きに潤滑剤を導くことによって、遠心力を用いた潤滑剤の強制循環を実現できる。また、噛み合い部や摺動部までの循環路を短くして所望の潤滑性能を実現しやすい。また、外部給油口80tの数を減らし、例えば一つにすることも可能である。
【0051】
潤滑剤の誘導路は、突出部32と、第1キャリヤ20と、遊星ピン28と、連結ピン30と、第2キャリヤ22とに設けられる通路を含む。本実施形態では、突出部32は、軸芯Laからオフセットした位置において、周方向に所定の間隔で配置される3つの第1軸方向通路32hと、3つの第2軸方向通路32jとを有する。第1軸方向通路32hおよび第2軸方向通路32jは、突出部32から第1キャリヤ20まで軸方向に延びる通路である。第1軸方向通路32hおよび第2軸方向通路32jは、それぞれ給油口32fと連通し、給油口32fから供給された潤滑剤を、各通路の入力側に導く。第1軸方向通路32hおよび第2軸方向通路32jの反入力側の端部は塞がれている。
【0052】
第1軸方向通路32hは、第1キャリヤ20内で径方向に延びる径方向通路20kに連通する。径方向通路20kは、第1キャリヤ20内で第3軸方向通路30hに連通する。径方向通路20kの径方向外側の端部は塞がれている。第3軸方向通路30hは、第1キャリヤ20から連結ピン30を通って第2キャリヤ22まで軸方向に延びる。第3軸方向通路30hは第1軸方向通路32hより径方向外側に設けられる。第3軸方向通路30hの入力側の端部は塞がれている。第3軸方向通路30hは、連結ピン30内で複数(例えば、4つ)の径方向通路30mに連通する。複数の径方向通路30mは、軸方向に所定の間隔で配列される。径方向通路30mは、半径方向に延びて、連結ピン30の軸芯Laに近い側の外周部と、軸芯Laから遠い側の外周部とに開口する。
【0053】
潤滑剤は、第1軸方向通路32h、径方向通路20k、第3軸方向通路30hおよび径方向通路30mを通って、径方向通路30mの外周部の開口に供給される。径方向通路30mの軸芯Laに近い側の開口に供給された潤滑剤は、内歯歯車12や第2伝達部58など遊星歯車装置10内部の噛合部や摺動部に供給され、これらの間の潤滑を行う。
【0054】
第2軸方向通路32jは、第1キャリヤ20内で径方向通路20jを介して遊星ピン28内の径方向通路28kに連通する。径方向通路28kは、遊星ピン28内で第4軸方向通路28hに連通する。第4軸方向通路28hは、第2軸方向通路32jより径方向外側に設けられる。第4軸方向通路28hは、軸方向に延びて、遊星ピン28内で複数(例えば、2つ)の径方向通路28mに連通する。第4軸方向通路28hの反入力側の端部は塞がれている。
【0055】
複数の径方向通路28mは、軸方向に所定の間隔で配列される。径方向通路28mは、半径方向に延びて、遊星ピン28の軸芯Laに近い側の外周部と、軸芯Laから遠い側の外周部とに開口する。径方向通路28mの両方の開口は、遊星ピン28の外周部に設けられた油溜部28dに連通する。遊星歯車14には、その内周部から外周部に貫通する径方向通路14kが設けられる。径方向通路14kの内周側の開口は油溜部28dに連通する。径方向通路14kの外周側の開口は内歯歯車12に対面する。
【0056】
潤滑剤は、第2軸方向通路32j、径方向通路20j、径方向通路28k、第4軸方向通路28hおよび径方向通路28mを通って、油溜部28dに供給される。潤滑剤の一部は、油溜部28dから遊星ピン28と遊星歯車14の隙間に供給され、これらの間の潤滑を行う。潤滑剤の別の一部は、油溜部28dから径方向通路14kを通って、遊星歯車14と内歯歯車12の隙間に供給され、これらの間の潤滑を行う。潤滑剤のさらに別の一部は、油溜部28dから径方向通路14kを通って、遊星歯車14と太陽歯車16の隙間に供給され、これらの間の潤滑を行う。
【0057】
潤滑を行った潤滑剤は、遊星歯車装置10の内部で下方の空間に溜まり、図示しないポンプにより外部に排出される。排出された潤滑剤は、所定の浄化処理を施された後、外部給油口80tに再度供給されてもよい。
【0058】
(ロック機構)
次に、
図6~
図9を参照してロック機構70を説明する。ロック機構70は、第2モータ84の故障等の原因で第2モータ84の駆動力が制御できなくなったときに、キャリヤ側伝達機構をロックして最低限の運転を継続可能とするために、伝達軸をロックする機構である。本実施形態のロック機構70は、2つの第2伝達部58の一方の第2伝達軸58sの回転をロックする。本実施形態で、第1モータ軸82sは第1伝達部材を例示し、第2伝達軸58sは第2伝達部材を例示している。
【0059】
ロック機構70は、ロック状態とロック解除状態とを容易に切換え可能に構成される。
図6は、ロック解除状態のロック機構70の周辺を示す拡大図である。
図7は、ロック状態のロック機構70の周辺を示す拡大図である。
図6、
図7に示すように、ロック機構70は、カップリング71と、支持プレート72と、平行ピン73と、キー部材74と、カップ固定板75とを含む。
【0060】
カップリング71は、第2伝達軸58sがケーシング80外に延在された伝達軸突出部58eと一体的に回転可能に装着される。平行ピン73は、カップリング71をケーシング80に対して相対回転不能にロックする。本実施形態で、伝達軸突出部58eは延在部を例示し、カップリング71は固定部材を例示し、平行ピン73はロック部材を例示している。
【0061】
カップリング71を説明する。
図8は、ロック機構70のカップリング71を示す拡大図である。
図9は、
図8のA-A線に沿った断面図である。カップリング71は、第2伝達軸58sの伝達軸突出部58eに外嵌される筒状のカップ円筒部71cと、カップ円筒部71cの軸方向一端において径方向外側に張り出したカップ鍔部71dと、を有する。カップ円筒部71cは、軸芯Laと平行に延びる第2伝達軸58sの軸芯Lcを中心とする中空円筒形状を有する。カップ鍔部71dは、カップ円筒部71cの外周部から径方向外向きに張出す中空円盤形状を有する。カップ鍔部71dはケーシング80に固定される。径方向外側に張り出したカップ鍔部71dが固定されるので、大きな保持トルクが得られ、大容量の歯車装置にも適用できる。
【0062】
カップ鍔部71dには、平行ピン73を挿通する複数のピン孔71pが設けられる。複数のピン孔71pは、軸芯Lcを中心とする円周上に所定の間隔で配置される。この例では、90°間隔で軸方向に貫通する4つのピン孔71pが設けられている。本実施形態で、カップ円筒部71cは筒状の本体部を例示し、カップ鍔部71dはフランジ部を例示し、平行ピン73はピン部材を例示し、ピン孔71pは挿通穴を例示している。
【0063】
カップ円筒部71cの内周部の所定の位置にキー部材74が嵌入されるキー溝71kが設けられる。この例では、カップ円筒部71cは周方向に180°間隔で配置された2つのキー溝71kが設けられる。伝達軸突出部58eにはキー溝71kに対応する位置にキー部材74が嵌入されるキー溝58kが設けられる。カップリング71は、伝達軸突出部58eがカップ円筒部71cに挿入された状態で、キー溝71kとキー溝58kとにキー部材74が嵌入されることによって、伝達軸突出部58eに固定される。
【0064】
図6、
図7に示すように平行ピン73は、軸方向に延びてピン孔71pと係合してカップリング71の回転を制限する円筒状のピン部材である。本実施形態は、4つのピン孔71pに対応する位置に配置される4つの平行ピン73を有する。平行ピン73は、ケーシング80に固定される。この例では、平行ピン73が圧入等により固定された支持プレート72がボルトB1によりケーシング80に固定される。
【0065】
図6に示すように、第2伝達軸58sをロックしないとき(ロック解除状態)は、カップリング71は、カップ鍔部71dを反ケーシング80側に位置させた状態で第2伝達軸58sの伝達軸突出部58eに装着され、第2伝達軸58sと一体的に回転する。このとき、平行ピン73はピン孔71pから抜けて、カップリング71に係合しないので、カップリング71とケーシング80とは相対回転可能になる。ロック解除状態では、カップリング71が伝達軸突出部58eに取り付けられて回転するので、カップリング71を別途保管するスペースや手間を省け、紛失しにくく、緊急時でも迅速にロックできる。
【0066】
図7に示すように、第2伝達軸58sをロックするとき(ロック状態)は、カップリング71は、カップ鍔部71dをケーシング80側に位置させた状態でカップ鍔部71dとケーシング80とが固定される。平行ピン73をピン孔71pに挿通させることにより、カップリング71とケーシング80とが相対回転不能にロックされる。平行ピン73をピン孔71pに挿通させる簡易な構造でロック機構が構成できるので、信頼性や作業性が優れ、非常用や緊急用としても採用できる。
【0067】
カップ固定板75は、カップリング71を伝達軸突出部58eに固定する円板部材である。カップ固定板75の外径は、カップ円筒部71cの内径より大きく、カップ円筒部71cの外径より小さく形成される。カップ固定板75は、伝達軸突出部58eの反入力側の端面にボルトB2により固定される。これにより、カップ固定板75は、カップリング71の反入力側への移動を制限する。
【0068】
ロック機構70は、ボルトB2とカップ固定板75とを脱着することにより、カップリング71の姿勢を変更して、ロック状態とロック解除状態とを容易に切換えできる。ロック機構70は、有底円筒状のカバー76に覆われる。
【0069】
このように構成された本実施形態は、故障などにより第2モータが制御不能になったとき、カップリング71をケーシング80に対して相対回転不能にロックすることにより、第2モータ84から入力された回転を遮り、第1モータ82から入力された回転により運転を継続できる。
【0070】
以上のように構成された遊星歯車装置10の動作を説明する。本実施形態では、第1モータ82は一定速で回転し、第2モータ84は可変速で回転するものとする。
【0071】
図1を参照する。まず、第2モータ84が停止してキャリヤが回転しない状態を説明する。第1モータ82が回転することによって、内歯側伝達機構42を介して、内歯歯車12が回転する。内歯歯車12が回転することによって、内歯歯車12と噛み合う遊星歯車14が自転する。遊星歯車14が自転することによって、遊星歯車14と噛み合う太陽歯車16が回転する。太陽歯車16が回転することによって、圧縮機86の入力軸と一体の太陽歯車軸18が回転する。つまり、第1モータ82が回転速度W1で回転することによって、太陽歯車軸18は第1変速比R1で変速された回転速度で回転する。なお、第1変速比R1は伝達機構の歯車比に応じて定まる。
【0072】
次に、第1モータ82が停止して内歯歯車12が回転しない状態を説明する。第2モータ84が回転することによって、キャリヤ側伝達機構54を介して、キャリヤ20、22が回転する。キャリヤ20、22が回転することによって、キャリヤ20、22に固定される遊星ピン28および遊星ピン28に嵌合される遊星歯車14が公転する。遊星歯車14が公転することによって、遊星歯車14と噛み合う太陽歯車16が回転する。太陽歯車16が回転することによって、太陽歯車軸18が回転する。つまり、第2モータ84が回転速度W2で回転することによって、太陽歯車軸18は所定の第2変速比R2で変速された回転速度で回転する。なお、第2変速比R2は伝達機構の歯車比に応じて定まる。
【0073】
第1モータ82と第2モータ84とが回転するとき、太陽歯車軸18は式1に示される回転速度Wsで回転する。
Ws=R1・W1-R2・W2 ・・・(1)
式1に示すように、遊星歯車装置10は、回転速度W1が一定である場合に、回転速度W2を制御して変化させることにより、太陽歯車軸18の回転速度Wsを制御することができる。
【0074】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。上述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。上述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。また、図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0075】
以下、変形例を説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0076】
実施形態の説明では、カップ円筒部71cは、2つのキー溝71kを用いて伝達軸突出部58eに固定される例を示したが、キー溝71kの数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよく、ロックする容量に応じて設定できる。また、カップ円筒部71cは、キー部材とは別の原理に基づいて伝達軸突出部58eに固定されてもよい。
【0077】
実施形態の説明では、4つの平行ピン73をピン孔71pに挿通させることによりロックする例を示したが、平行ピン73の数は、3以下や5以上であってもよく、ロックする容量に応じて設定できる。
【0078】
実施形態の説明では、円筒状の平行ピン73が支持プレート72に固定される例を示したが、平行ピン73はケーシング80に直接固定されてもよく、例えばボルトであってもよい。平行ピン73は、カップリング71を係止可能であればよく、例えば、ケーシング80から突出する突起であってもよい。
【0079】
実施形態の説明では、ピン孔71pが円形の貫通孔である例を示したが、ピン孔71pは有底の孔であってもよい。また、ピン孔の代わりに、カップリングには、ケーシング80から突出する突起と係合可能な凹部が設けられてもよい。
【0080】
実施形態の説明では、回転入力が内歯歯車12とキャリヤとに入力され、回転出力が太陽歯車軸18から出力される例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、回転入力は太陽歯車軸18に入力され、回転出力は内歯歯車12またはキャリヤから出力されてもよい。
【0081】
実施形態の説明では、突出部32が太陽歯車軸18の延出方向に突出する例を示したが、本発明はこれに限定されない。突出部32は太陽歯車軸18の延出方向とは反対向きに突出してもよい。この場合、突出部32は中空構造であってもよいし、中実構造であってもよい。
【0082】
実施形態の説明では、遊星歯車装置10が単純遊星歯車装置である例を示したが、本発明はこれに限定されない。遊星歯車装置10は、遊星歯車が偏心揺動する歯車装置であってもよい。例えば、遊星歯車装置10は、内歯歯車に噛合う遊星歯車をクランク軸によって偏心揺動させる偏心揺動型遊星歯車装置であってもよい。
【0083】
実施形態の説明では、内歯ホルダ44が円盤部44cを含む例を示したが、本発明はこれに限定されない。内歯ホルダ44は、第1モータ軸82sの回転を内歯歯車12に伝達可能なものであればよい。例えば、内歯ホルダ44は、円盤部44cに代えて、第1モータ軸82sと円筒部44sとに架設される複数のアーム部材を備えてもよい。
【0084】
上述の各変形例は上述の実施形態と同様の作用・効果を奏する。
【0085】
上述した実施形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる各実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0086】
10・・遊星歯車装置、 12・・内歯歯車、 14・・遊星歯車、 16・・太陽歯車、 20・・第1キャリヤ、 20b・・第1キャリヤ本体、 22・・第2キャリヤ、 24・・第1主軸受、 26・・第2主軸受、 28・・遊星ピン、 32・・突出部、 32f・・給油口、 42・・内歯側伝達機構、 44・・内歯ホルダ、 54・・キャリヤ側伝達機構、 56・・第1伝達部、 58・・第2伝達部、 60・・第3伝達部、 66・・給油リング、 66b・・外周溝、 66c・・内周溝、 66e・・径方向通路、 70・・ロック機構、 71・・カップリング、 71c・・カップ円筒部、 71d・・カップ鍔部、 71p・・ピン孔、 73・・平行ピン、 80・・ケーシング、 80t・・外部給油口、 82・・第1モータ、 84・・第2モータ、 86・・圧縮機。