(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】減速装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20230726BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
F16H1/32 A
H02K7/116
(21)【出願番号】P 2019075689
(22)【出願日】2019-04-11
【審査請求日】2022-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(72)【発明者】
【氏名】鎌形 州一
(72)【発明者】
【氏名】山口 剛央
(72)【発明者】
【氏名】杉山 芳彦
(72)【発明者】
【氏名】王 陽昆
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 将伍
(72)【発明者】
【氏名】新谷 誓也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 昌宏
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-301350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
H02K 7/116
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
減速機と、
前記減速機の動作時に発生する音の波形と逆位相の波形の音を出力するスピーカと
、
前記減速機の入力部に接続されるモータと、
前記逆位相の波形の音を構成する基準波形データを記憶する記憶部と、
前記モータの動作状態を指示する指令信号に応じて前記基準波形データの振幅及び位相の少なくともいずれかを変更する処理部と
を備える
減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロボットなどの装置に搭載された減速機の状態管理及び状態診断又は減速機を搭載するロボットなどの装置の状態管理などを容易に実施するために、減速機に各種センサ及び機器を備えることが望まれている。
【0003】
例えば、減速機の動作時における歯車の噛み合いによる騒音を検知するマイクロフォンと、検知した騒音と逆位相及び同振幅の干渉音を出力するスピーカとを備える減速機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、例えば、減速機の破損に起因する潤滑油の劣化を検知するためのRGBセンサ及び温度センサなどの電子部品を備える減速機が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、例えば、減速機の交換時期を管理するために減速機に接続されるモータのトルクのばらつきを電流値により検出するシステムが知られている。
また、例えば、振動センサにより検知される振動波形の周波数に基づいて減速機の異常の発生部位を特定する軸受診断装置が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
また、従来、減速機の潤滑油の量に関連する潤滑油の圧力を検知する圧力センサを備える計測装置が知られている(例えば、特許文献4参照)。
また、従来、減速機の主軸に対して所定の設定与圧範囲の与圧を印加して所望のモーメント剛性を得るために所定厚みの金属スペーサを備える減速機が知られている。
【0006】
また、従来、減速機の適正な状態管理などのために減速機の温度上昇を抑制するように構造的に動作効率を向上させた減速機が知られている。
また、従来、物体又は人との接触の有無を検知するトルクセンサを備えるロボットなどの装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-301350号公報
【文献】特開2016-020925号公報
【文献】特開2008-292288号公報
【文献】特開平4-249718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記したような減速機の騒音を検知する場合には、リアルタイムな騒音信号の解析及びフィードバックの処理が煩雑になり、処理負荷が増大する可能性があった。これにより、煩雑な処理及び複雑な処理回路を必要とせずに、減速機の動作時における歯車の噛み合いによる騒音を抑制することが望まれている。
また、上記したような減速機の破損状態を潤滑油の劣化から検知する場合には、各種センサなどの複数の電子部品が必要となり、構成が複雑になる可能性があった。これにより、複数の電子部品による複雑な構成を必要とせずに、減速機の動作時における異常状態の有無を簡易に把握することが望まれている。
【0009】
また、上記したような減速機の状態をモータの電流値により検知する場合には、モータのトルク変動と減速機の状態との対応関係の信頼性を確保することが困難になる可能性があった。これにより、減速機の状態診断の信頼性及び精度を向上させることが望まれている。また、例えば、減速機の状態診断などのために相対的に設計寿命が短いクランクシャフトの周辺部におけるフレーキングなどの異常の発生を検知することが望まれている。
また、上記したような軸受診断装置の場合には、振動センサは軸受上部の部位に配置されるだけであり、所望の異常発生部位を特定するために振動センサの位置が最適化されているか否かは不明である。これにより、減速機における振動異常の検知位置を適切に設定して、所望の異常発生部位に対する検知精度を向上させることが望まれている。
【0010】
また、上記したような減速機の潤滑油の圧力を検知する場合には、潤滑油の温度に応じた油面の変化を把握することは困難である。これにより、例えば、減速機が搭載されたロボットの作業対象(基板、食品及び医薬品など)の品質管理又は減速機の状態診断などのために、減速機内部の潤滑剤の外部への漏れの有無を精度良く検知することが望まれている。
また、上記したような金属スペーサを備える減速機の場合には、常時に亘って過大なモーメント剛性が設定されることによって減速機の寿命が減少する可能性があった。これにより、例えば、減速機の耐用期間を長くしながら所望のモーメント剛性を確保するために、減速機の動作時におけるモーメント剛性を可変に制御することが望まれている。
【0011】
また、上記したような構造的な効率向上によって温度上昇を抑制する減速機の場合、適正な温度管理を実施することが困難である。これにより、例えば、減速機の状態管理などのために減速機の温度を制御することが望まれている。
また、上記したようなトルクセンサを備えるロボットなどの装置の場合には、装置の構成が複雑になるとともに、構成に要する費用が嵩むおそれがある。これにより、簡易な構成によってロボットなどの装置と物体又は人との接触を回避することが望まれている。
【0012】
本発明は、ロボットなどの装置に搭載された減速機の状態管理及び状態診断又は減速機を搭載するロボットなどの装置の状態管理などを、簡易な構成によって容易に実施することができる減速装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様に係る減速装置は、減速機と、前記減速機の動作時に発生する音の波形と逆位相の波形の音を出力するスピーカと、前記減速機の入力部に接続されるモータと、前記逆位相の波形の音を構成する基準波形データを記憶する記憶部と、前記モータの動作状態を指示する指令信号に応じて前記基準波形データの振幅及び位相の少なくともいずれかを変更する処理部とを備える。
このように構成することで、スピーカからの出力される音によって減速機の騒音を低減又は消音することができる。
また、減速機の騒音低減又は消音を精度良く制御することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ロボットなどの装置に搭載された減速機の状態管理及び状態診断又は減速機を搭載するロボットなどの装置の状態管理などを、簡易な構成によって容易に実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の
実施形態に係る減速装置の一部を破断して構成を示す図。
【
図2】本発明の
実施形態に係る位相波の波形例を示す図であり、(a)は減速装置の騒音の波形例を示し、(b)はスピーカから出力される逆位相波の波形例を示す。
【
図3】本発明の第
1参考例に係る減速装置の一部の構成の斜視図であり、(a)はケースを示し、(b)はRVギアを示し、(c)はキャリアの基部を示し、(d)は端板部を示す。
【
図4】本発明の第
2参考例に係る減速装置の一部を破断して構成を示す図。
【
図5】本発明の第
3参考例に係る減速装置の一部を破断して構成を示す図。
【
図6】本発明の第
4参考例に係る減速装置の一部を破断して構成を示す図。
【
図7】本発明の第
5参考例に係る減速装置の一部を破断して構成を示す図。
【
図8】本発明の第
6参考例に係る減速装置の一部を破断して構成を示す図。
【
図9】本発明の第
6参考例に係る減速装置の主軸ベアリングのモーメント剛性と予圧と寿命との対応関係の一例を示す図。
【
図10】本発明の第
7参考例に係る減速装置の一部を破断して構成を示す図。
【
図11】本発明の第
7参考例に係る減速装置のケースを軸方向から見た図。
【
図12】本発明の第
8参考例に係る制御システムの一部の構成を模式的に示す図。
【
図13】本発明の第
8参考例に係る制御システムの減速機及び人体に設けられる複数の電子タグを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(実施形態)
以下、本発明の減速装置の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0028】
図1は、
実施形態に係る減速装置10の一部を破断して構成を示す図である。
図1に示すように、
実施形態の減速装置10は、モータ1とロボットアーム2との間に配置された減速機3を備える。
減速装置10は、例えば歯車伝動装置である。減速装置10は、ケース11と、キャリア12と、入力ギア13と、3つの伝達ギア(スパーギア)14と、3つのクランク軸15と、RV(Rotary Vector)ギア16とを備える。減速装置10は、各クランク軸15に設けられた偏心部(図示略)の回転に連動させてRVギア16を揺動回転させることにより、各クランク軸15に連結された伝達ギア14に噛み合う入力ギア13の入力回転から減速した出力回転を得るように、ケース11とキャリア12とを相対的に回転させる偏心揺動型の歯車伝動装置である。
【0029】
ケース11は、モータ1を収容するモータハウジング1aに固定されている。キャリア12は、ロボットアーム2に固定されている。キャリア12は、ケース11の内部で、中心軸Oの軸周りにケース11に対して回転可能に支持されている。ケース11と、キャリア12と、モータハウジング1aとによって囲まれる空間には、液状の潤滑剤が貯留される。
【0030】
入力ギア13はモータ1の回転軸1bに連結されている。3つの伝達ギア14は、入力ギア13に噛み合わされている。3つのクランク軸15は、3つの伝達ギア14に連結されている。各クランク軸15は、中心軸15aの軸周りにキャリア12に対して回転可能に支持されている。各クランク軸15の偏心部(図示略)は、RVギア16に対して回転可能に支持されている。
【0031】
RVギア16は、ケース11の内周面に設けられた複数の内歯ピン(図示略)に噛み合わされている。RVギア16は、各クランク軸15の回転に伴って偏心部とともに偏心運動することによって、ケース11の内歯ピンに接触しつつケース11に対して揺動回転する。
【0032】
キャリア12は、基部12aと、3つのシャフト部12bと、端板部12cとを備える。基部12a及び3つのシャフト部12bは一体的に形成されている。3つのシャフト部12b及び端板部12cは締結部材によって一体的に固定されている。各シャフト部12bは、中心軸Oに平行な軸方向にRVギア16に形成された貫通孔(図示略)に遊びを持った状態で挿し通されている。キャリア12は、RVギア16の揺動回転に伴って中心軸Oの軸周りにケース11に対して回転する。
【0033】
減速装置10は、減速機3に加えて、スピーカ18と、制御装置19とを備える。
スピーカ18は、モータハウジング1aに設けられている。スピーカ18は、減速機3にいて相対的に動作時の騒音が大きい部位の近くに配置されている。相対的に騒音が大きい部位は、例えば入力ギア13と3つの伝達ギア14との噛み合い部位などである。スピーカ18は、例えば無指向性スピーカなどである。スピーカ18は、制御装置19から入力される信号を音に変換する。
【0034】
制御装置19は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサによって所定のプログラムが実行されることにより機能するソフトウェア機能部である。ソフトウェア機能部は、CPUなどのプロセッサ、プログラムを格納するROM(Read Only Memory)、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)、及びタイマーなどの電子回路を備えるECU(Electronic Control Unit)である。また、制御装置19の少なくとも一部は、LSI(Large Scale Integration)などの集積回路であってもよい。
【0035】
図2は、位相波の波形例を示す図であり、(a)は減速装置10の騒音の波形例を示し、(b)はスピーカ18から出力される逆位相波の波形例を示す。
図2(a)、
図2(b)に示すように、制御装置19は、減速機3の動作時に発生する騒音の波形と逆位相の波形の音を出力させるようにスピーカ18を制御する。制御装置19は、予め実施された減速機3の単体での騒音計測の試験などによって取得された基本波形データを記憶している。
基本波形データは、例えば、減速機3の複数の所定運転状態で録音された騒音データから得られる周波数分布マップに基づいて作成された逆位相波データである。複数の所定運転状態は、例えば、無負荷、定格トルク及び定格トルクを超える所定トルク(例えば、定格トルクの2.5倍のトルクなど)の各々に対する複数の所定回転数(例えば、1rpm、10rpm及び20rpmの各々など)などである。
【0036】
制御装置19は、基本波形データとともに追加的に取得される運転条件データを記憶している。運転条件データは、減速機3をモータ1及びロボットアーム2等の所望の機器に搭載した状態で各種の運転条件であって実際に減速機3の動作時に録音された騒音の録音データと基本波形データとを比較することによって取得される。運転条件データは、減速機3の騒音低減又は消音が認められるモータ1の運転条件であって、例えば騒音低減又は消音の度合いが最大となる場合に対応するモータ1の運転条件(例えば、起動及び停止タイミング、回転数並びに電流値に応じたトルクなど)のデータである。
【0037】
制御装置19は、記憶している基本波形データ及び運転条件データの対応関係に基づいて、モータ1の動作状態を指示する指令信号に応じて基本波形データの振幅及び位相の少なくともいずれかを変更することによって、スピーカ18に入力する信号を生成する。スピーカ18に入力する信号は、
図2に示すように、減速機3の動作時に発生する騒音の波形と逆位相の波形の音をスピーカ18から出力させるための信号である。
【0038】
上述したように、実施形態の減速装置10によれば、減速機3の動作時に発生する音の波形と逆位相の波形の音を出力するスピーカ18を備えることによって、減速機3の騒音を低減又は消音することができる。また、制御装置19は、モータ1の動作状態に応じて、予め記憶している基準波形データの振幅及び位相の少なくともいずれかを変更することによって、減速機3の騒音低減又は消音を精度良く制御することができる。
【0039】
(第1参考例)
以下、第1参考例について説明する。なお、上述した実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略又は簡略化する(以下の参考例についても同様)。
【0040】
図3は、第
1参考例に係る減速装置20の一部の構成の斜視図であり、(a)はケース11を示し、(b)はRVギア16を示し、(c)はキャリア12の基部12aを示し、(d)は端板部12cを示す。
図3(a)~
図3(d)に示すように、第
1参考例に係る減速装置20は、減速機3に加えて、減速機3の所定の表面に塗布された示温材21を備える。
示温材21は、不可逆性示温材である。例えば減速機3の表面に塗布される示温材21の示温範囲は、40℃、50℃、60℃及び70℃のいずれかである。例えば減速機3の内部に塗布される示温材21の示温範囲は、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃及び90℃のいずれかである。
【0041】
図3(a)に示すように、示温材21は、例えばケース11の内周面における内歯ピン装着面以外の表面11A、ケース11の顎面11B及び外周面11Cなどに塗布される。
図3(b)に示すように、示温材21は、例えばRVギア16の軸方向端面16Aに塗布される。
図3(c)、
図3(d)に示すように、示温材21は、例えばキャリア12の基部12a、シャフト部12b及び端板部12cの各々における非加工面12A,12B,12Cに塗布される。例えば、非加工面12Aは、基部12aの軸方向端面である。非加工面12Bは、シャフト部12bの側面である。非加工面12Cは、端板部12cの軸方向端面である。
【0042】
なお、上述した第1参考例では、所定の表面に塗布される示温材21の代わりに示温材21を有する粘着テープが所定表面に貼り付けられてもよい。
なお、上述した第1参考例では、示温材21を不可逆性示温材としたが、これに限定されず、例えば温度の記録のためには不可逆性示温材を用いて、状態管理のためには可逆性示温材を用いてもよい。例えば、可逆性示温材の場合、所定温度(60℃など)を超えると警告文字が浮き出て、所定温度以下で警告文字が消えるように設けられてもよい。
【0043】
上述したように、第1参考例の減速装置20は、減速機3の所定の表面に設けられる示温材21を備える。このため、例えば温度測定用の電子部品による複雑な構成を必要とせずに、減速機3の動作時における異常状態の有無を簡易に把握することができる。
【0044】
(第2参考例)
以下、第2参考例について説明する。
【0045】
図4は、第
2参考例に係る減速装置30の一部を破断して構成を示す図である。
図4に示すように、第
2参考例に係る減速装置30は、減速機3と、制御装置19と、臭気センサ31とを備える。
【0046】
臭気センサ31は、モータハウジング1aに設けられている。臭気センサ31は、例えば、FET(電界効果トランジスタ)バイオセンサなどである。臭気センサ31は、ケース11と、キャリア12と、モータハウジング1aとによって囲まれる空間のうち潤滑剤Luが存在しない空間における臭気濃度を検出する。臭気センサ31は、例えば、潤滑剤の劣化時に発生する有機硫黄成分及びアミン系成分を検出する。
制御装置19は、臭気センサ31によって検出される臭気濃度に応じて潤滑剤の劣化状態を判定するとともに、減速機3のトルクのばらつきなどのデータとの組み合わせによる複合的な判定処理によって減速機3の故障診断及び交換時期の設定などを行う。
【0047】
上述したように、第2参考例の減速装置30によれば、臭気センサ31によって潤滑剤の劣化状態を判定するとともに、トルク等の状態量の検出結果とによる複合的な判定処理によって、減速機3の状態診断の信頼性及び精度を向上させることができる。
【0048】
(第3参考例)
以下、第3参考例について説明する。
【0049】
図5は、第
3参考例に係る減速装置40の一部を破断して構成を示す図である。
図5に示すように、第
3参考例に係る減速装置40は、減速機3と、制御装置19、変位センサ41とを備える。
【0050】
変位センサ41は、モータハウジング1aに設けられている。変位センサ41は、例えば渦電流式変位センサなどである。変位センサ41は、クランク軸15の周辺部位(例えば、各種ベアリングの接触面など)に生じるフレーキング(剥離)などに起因する伝達ギア(スパーギア)14における軸方向端面の振れ(軸方向端面の変位など)を検出する。
制御装置19は、変位センサ41によって検出される伝達ギア14における軸方向端面の振れに応じて、クランク軸15の周辺部位に生じるフレーキングの度合いを判定するとともに、減速機3のトルクのばらつきなどのデータとの組み合わせによる複合的な判定処理によって減速機3の故障診断及び交換時期の設定などを行う。
【0051】
上述したように、第3参考例の減速装置40は、伝達ギア(スパーギア)14における軸方向端面の振れを検出する変位センサ41を備える。このため、相対的に設計寿命が短いクランク軸15の周辺部におけるフレーキングなどの異常の発生を精度良く検知することができる。
【0052】
(第4参考例)
以下、第4参考例について説明する。
【0053】
図6は、第
4参考例に係る減速装置50の一部を破断して構成を示す図である。
図6に示すように、第
4参考例に係る減速装置50は、減速機3と、制御装置19と、振動センサ51とを備える。
【0054】
振動センサ51は、ケース11に設けられている。振動センサ51は、クランク軸15の周辺部位及びRVギア16の歯面周辺などに生じる振動を検出する。例えば、振動センサ51は、クランク軸15の周辺部位に生じる振動を相対的に高感度及び高精度に検出することができる部位として、シール部材52から径方向外方におけるケース11の外周部に配置される。シール部材52は、中心軸Oに平行な軸方向におけるロボットアーム2側のケース11の端部付近でケース11とキャリア12との間をシールする。
【0055】
制御装置19は、振動センサ51によって検出される振動の周波数に応じて、クランク軸15の周辺部位及びRVギア16の歯面周辺の状態を判定するとともに、減速機3の故障診断及び交換時期の設定などを行う。振動センサ51によって検出される振動の周波数は、例えば、クランク軸15の周辺に配置される各種ベアリングの回転周波数及び転動周波数と、RVギア16の歯面とケース11の内歯ピンとの噛み合い周波数とである。
【0056】
制御装置19は、予め実施された減速機3の振動計測の試験などによって取得された基準周波数データを記憶している。基準周波数データは、例えば、減速機3の複数の所定運転状態で振動センサ51によって測定された周波数分布マップのデータである。複数の所定運転状態は、例えば、無負荷、定格トルク及び定格トルクを超える所定トルク(例えば、定格トルクの2.5倍のトルクなど)の各々などである。
制御装置19は、クランク軸15の周辺部位又はRVギア16の歯面周辺におけるフレーキングなどの異常の発生に伴って各周波数が高くなることに基づいて、減速機3の動作時に振動センサ51によって検出される周波数のデータと、基準周波数データとを比較することによって、減速機3の状態を判定する。
【0057】
上述したように、第4参考例の減速装置50は、シール部材52から径方向外方におけるケース11の外周部に配置される振動センサ51を備える。このため、クランク軸15の周辺部位及びRVギア16の歯面周辺に発生する所望の振動を高感度及び高精度に検出することができる。例えば振動センサ51がケース11の最外周部(モータハウジング1aとの接続部周辺など)などの他の部位に配置される場合に比べて、クランク軸15の周辺部位及びRVギア16の歯面周辺などに生じる振動の検知精度を向上させることができる。これにより、減速機3における振動異常の検知位置を適切に設定して、所望の異常発生部位に対する検知精度を向上させることができる。
【0058】
(第5参考例)
以下、第5参考例について説明する。
【0059】
図7は、第
5参考例に係る減速装置60の一部を破断して構成を示す図である。
図7に示すように、第
5参考例に係る減速装置60は、減速機3と、制御装置19と、位置センサ61及び温度センサ62とを備える。
【0060】
位置センサ61及び温度センサ62は、モータハウジング1aに設けられている。位置センサ61は、例えば密封型の超音波センサなどである。位置センサ61は、ケース11と、キャリア12と、モータハウジング1aとによって囲まれる空間のうち潤滑剤Luが存在しない空間から潤滑剤Luの表面の位置を検出する。温度センサ62は、潤滑剤Luの温度を検出する。
【0061】
制御装置19は、温度センサ62によって検出される潤滑剤Luの温度に基づいて潤滑剤Luの熱膨張率を把握し、位置センサ61によって検出される潤滑剤Luの表面の位置と、潤滑剤Luの熱膨張率との組み合わせによって潤滑剤Luの量を把握する。制御装置19は、予め既知である潤滑剤Luの初期量と、位置センサ61及び温度センサ62によって把握した潤滑剤Luの量との比較によって、潤滑剤Luの漏れの有無を判定する。
【0062】
上述したように、第5参考例の減速装置60は、潤滑剤Luの表面の位置を検出する位置センサ61及び潤滑剤Luの温度を検出する温度センサ62を備える。このため、減速機3の内部に収容されている潤滑剤Luの量を精度良く検知することができる。これにより、例えば減速機3が搭載されたロボットアーム2の作業対象(基板、食品及び医薬品など)の品質管理又は減速機3の状態診断などのために、減速機3内部の潤滑剤Luの外部への漏れの有無を精度良く検知することができる。
【0063】
なお、上述した第5参考例では、温度センサ62を備えるとしたが、これに限定されない。例えば潤滑剤Luの熱膨張の変動が無視できる場合には、温度センサ62が省略されてもよい。潤滑剤Luの熱膨張の変動が無視できる場合は、例えば、減速機3が所定時間以上に亘って停止した後の始動前に位置センサ61による検出が行われる場合などである。
【0064】
(第6参考例)
以下、第6参考例について説明する。
【0065】
図8は、第
6参考例に係る減速装置70の一部を破断して構成を示す図である。
図9は、第
6参考例に係る減速装置70の主軸ベアリング72のモーメント剛性と予圧と寿命との対応関係の一例を示す図である。
図8に示すように、第
6参考例に係る減速装置70は、減速機3と、制御装置19と、圧電素子71とを備える。
【0066】
圧電素子71は、例えば樹脂材料による外装を備える圧電セラミックスなどである。圧電素子71は、減速機3の主軸ベアリング72とキャリア12との間に配置されている。主軸ベアリング72は、中心軸Oに平行な軸方向におけるモータ1側のケース11の端部付近でケース11とキャリア12との間に配置されている。主軸ベアリング72は、ケース11に対してキャリア12を回転可能に支持する。
【0067】
例えば、圧電素子71は、主軸ベアリング72のインナーレース72aと、キャリア12の端板部12cの外周部に設けられたベアリング収容部73の壁部73aとの間に配置されている。圧電素子71は、制御装置19から印加される電圧の大きさの変化に応じて軸方向の厚みを変化させることによって、主軸ベアリング72のインナーレース72aに軸方向に印加する圧力(予圧)の大きさを変化させる。
【0068】
制御装置19は、圧電素子71に印加する電圧を、減速機3及び減速機3を搭載するロボットアーム2などの動作状態に応じて制御することによって、圧電素子71から主軸ベアリング72に印加される予圧の大きさを制御する。制御装置19は、圧電素子71に印加する電圧と圧電素子71から主軸ベアリング72に印加される予圧の大きさとの対応関係を示すマップなどのデータを予め記憶している。
例えば、制御装置19は、
図9に示すように、予め設定されたロー側予圧閾値Pa及びハイ側予圧閾値Pbの予圧範囲で予圧の大きさを変化させる。例えば、制御装置19は、ロボットアーム2の高速動作時又は低負荷動作時などに相対的にモーメント剛性を低下させ、ロボットアーム2の高負荷動作時などに相対的にモーメント剛性を増大させる。
【0069】
なお、上述した第6参考例では、圧電素子71は、主軸ベアリング72のインナーレース72aに圧力(予圧)を印加するとしたが、これに限定されない。例えば主軸ベアリング72のアウターレース72bに圧力(予圧)を印加してもよい。
【0070】
上述したように、第6参考例の減速装置70は、減速機3の主軸ベアリング72に印加する圧力(予圧)を変更可能な圧電素子71を備える。このため、モーメント剛性の増大に伴って寿命が低下傾向に変化することを考慮して、減速機3の動作状態に応じた適正な予圧を主軸ベアリング72に印加することができる。これにより、減速機3の耐用期間を長くしながら所望のモーメント剛性を確保することができる。
【0071】
(第7参考例)
以下、第7参考例について説明する。
【0072】
図10は、第
7参考例に係る減速装置80の一部を破断して構成を示す図である。
図11は、第
7参考例に係る減速装置80のケース11を軸方向から見た図である。
図10及び
図11に示すように、第
7参考例に係る減速装置80は、減速機3と、制御装置19、温度センサ81と、少なくとも1つのペルチェ素子82と、少なくとも1つのヒートシンク83とを備える。
【0073】
温度センサ81は、モータハウジング1aに設けられている。温度センサ81は、ケース11と、キャリア12と、モータハウジング1aとによって囲まれる空間に収容された潤滑剤Luの温度を検出する。
ペルチェ素子82は、ケース11の外周面に配置されている。例えば、4つのペルチェ素子82は、ケース11の外周部の一部を切除するようにして設けられた薄肉部11aによって外周面に形成された4つの平坦面11Dに配置されている。
ヒートシンク83はペルチェ素子82に設けられている。例えば、4つのヒートシンク83は、ケース11の平坦面11D上に設けられた4つのペルチェ素子82の表面に配置されている。
【0074】
制御装置19は、温度センサ81によって検出される潤滑剤Luの温度に応じて、ペルチェ素子82に供給する電流の通電方向とオン及びオフとを切り替える。例えば、制御装置19は、温度センサ81によって検出される潤滑剤Luの温度が所定上限温度付近まで上昇した場合、各ペルチェ素子82の設置面側を吸熱及びヒートシンク83側を発熱とするように通電する。また、例えば、制御装置19は、温度センサ81によって検出される潤滑剤Luの温度が所定下限温度付近まで低下した場合、各ペルチェ素子82の設置面側を発熱及びヒートシンク83側を吸熱とするように通電する。
【0075】
上述したように、第7参考例の減速装置80は、減速機3の内部の潤滑剤Luの温度に応じて減速機3に対する吸熱及び発熱を切り替えるペルチェ素子82を備える。このため、減速機3の温度を所望の温度範囲内に維持することができる。これにより、例えば減速機3の状態管理などのために減速機3の温度を適正に制御することができる。
なお、上述した第7参考例では、ヒートシンク83に加えて、冷却用のファンなどをヒートシンク83に備えてもよい。
【0076】
(第8参考例)
以下、第8参考例について説明する。
【0077】
図12は、第
8参考例に係る制御システム90の一部の構成を模式的に示す図である。
図13は、第
8参考例に係る制御システム90の減速機3及び人体に設けられる複数の電子タグ91を示す図である。
図12及び
図13に示すように、第
8参考例に係る制御システム90は、複数の減速機3と、複数の電子タグ91と、複数の電子タグ検出器92と、制御装置93とを備える。
【0078】
複数の減速機3は、例えば複数のロボット94の各々における関節部などに搭載されている。
複数の電子タグ91は、複数の減速機3及び各人体95の複数個所に設けられている。各電子タグ91は、例えば減速機3の表面又は人体95に装着される保護具及び衣類の表面などに貼り付けられている。複数の電子タグ91は、例えば、人体95における頭部保護具の頭頂部、複数の関節部及び手足の端部などに配置されている。
複数の電子タグ検出器92は、例えば複数のロボット94が稼働する工場内などの所定範囲に分散配置されている。各電子タグ検出器92は、複数の減速機3又は人体95に設けられた複数の電子タグ91の位置(3次元空間内の位置)を検出する。各電子タグ検出器92は、例えばドップラー効果などに基づいて各電子タグ91の位置を検出する。
【0079】
制御装置93は、複数の電子タグ検出器92によって検出された各電子タグ91の位置の情報に基づき、各電子タグ91に3次元的な所定位置範囲領域を設定する。制御装置93は、例えば、各電子タグ91に対して、複数(例えば、2つ又は3つなど)の電子タグ検出器92によって検出された位置の情報に基づいて、各電子タグ91の位置を取得する。
制御装置93は、例えば、異なる電子タグ91同士の位置範囲領域が干渉する場合に、干渉する電子タグ91同士に対応する減速機3の動作を停止させる、又は、対応する減速機3を搭載するロボット94に接触回避動作若しくは停止動作を実行させる。
【0080】
上述したように、第8参考例の制御システム90は、ロボット94に搭載される複数の減速機3又は人体95に設けられる複数の電子タグ91を備える。このため、簡易な構成によってロボット94などの装置同士の接触又は装置と人との接触を容易に回避することができる。
【0081】
本発明の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0082】
1…モータ、2…ロボットアーム、3…減速機、10,20,30,40,50,60,70,80…減速装置、18…スピーカ、19…制御装置、21…示温材、31…臭気センサ、41…変位センサ、51…振動センサ、52…シール部材、61…位置センサ、62…温度センサ、71…圧電素子、72…主軸ベアリング、81…温度センサ、82…ペルチェ素子、83…ヒートシンク、90…制御システム、91…電子タグ、92…電子タグ検出器、93…制御装置