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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/00 20060101AFI20230726BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230726BHJP
   C08K 3/40 20060101ALI20230726BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20230726BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20230726BHJP
   C08K 3/28 20060101ALI20230726BHJP
   C08K 3/14 20060101ALI20230726BHJP
   C08K 9/00 20060101ALI20230726BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
C08J5/00 CER
C08L101/00
C08K3/40
C08K3/36
C08K3/22
C08K3/28
C08K3/14
C08K9/00
B29C45/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019083251
(22)【出願日】2019-04-24
(65)【公開番号】P2020180195
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100196298
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 高雄
(72)【発明者】
【氏名】渡部 真大
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/200048(WO,A1)
【文献】特開昭63-316316(JP,A)
【文献】特開平02-155934(JP,A)
【文献】特開平06-143409(JP,A)
【文献】特表平08-504470(JP,A)
【文献】特開平03-250043(JP,A)
【文献】特開平07-244833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08J 5/00-5/02、5/12-5/22
B29C 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性樹脂である熱可塑性樹脂(A)と平均粒子径が0.1μm超2μm以下の球状であり、ガラスビーズ、シリカ、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、及び合成コージライトからなる群より選ばれる1種以上である硬質系改質剤(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物からなり、JIS-B0601に準拠して表面粗さ測定器を用いて測定される算術平均粗さ(Ra)が0.02μm未満である表面を有することを特徴とする、射出成形体。
【請求項2】
ISO1997に準拠して表面粗さ測定器を用いて測定される前記表面の最大高さ(Rz)が0.5μm以下である、請求項1に記載の射出成形体。
【請求項3】
前記硬質系改質剤(B)が表面処理されている、請求項1又は2に記載の射出成形体。
【請求項4】
光学用途、電気・電子用途、又は車両用途の筐体若しくは意匠材である、請求項1~3のいずれか一項に記載の射出成形体。
【請求項5】
二輪車用又は自動車用の意匠材である、請求項4に記載の射出成形体。
【請求項6】
テールランプガーニッシュ、リアランプガーニッシュ、フロントランプガーニッシュ、ピラーガーニッシュ、フロントグリル、リアグリル、ライセンスガーニッシュ、ホイールセンターキャップ、ナンバープレートガーニッシュ、又はドラミラーカバーである、請求項5に記載の射出成形体。
【請求項7】
成形体の製造方法であって、
前記製造方法は、非晶性樹脂である熱可塑性樹脂(A)と平均粒子径が0.1μm超2μm以下の球状であり、ガラスビーズ、シリカ、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、及び合成コージライトからなる群より選ばれる1種以上である硬質系改質剤(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物を射出する射出成形工程を有し、前記成形体の表面の少なくとも一部がJIS-B0601に準拠して表面粗さ測定器を用いて測定される算術平均粗さ(Ra)が0.02μm未満である、成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の内外装部品向けにハードコート処理が施されたポリカーボネートやABS樹脂、漆黒調に塗装されたASA、ABS樹脂等の成形品が用いられている。しかしながら、ハードコート処理(HC処理)では、コート斑発生による不良や生産性が低いといった問題があり、塗装では塗料に含まれる揮発性有機化合物(VOC)の問題が挙げられる。こういった問題やコスト削減の観点から、HC処理や塗装をしない成形品が切望されており、コンパウンドによる樹脂への代替について、近年盛んに検討されている。ここで、重要となる特性としては、表面外観及び耐擦傷性が挙げられる。
【0003】
これらの特性付与のため、例えば、添加剤を熱可塑性樹脂へ混合する(コンパウンドする)方法が古くより用いられている。熱可塑性樹脂としては、主にメタクリル系樹脂が用いられることが近年多くなっている。その理由は、メタクリル系樹脂が耐候性に優れることと、樹脂の中で最も高い表面鉛筆硬度を有するためである。また、高い透明性を有するために、特に塗装代替の場合、成形品に深みのある良好な着色を発現させることができる。
【0004】
しかし、高い要求特性が表面に課せられる用途においては、メタクリル系樹脂ですら、様々な摩耗現象に耐えることができず、HC処理をされることが多い。
【0005】
成形品においては、初期の高外観に加えて、例えば、車両部材を想定した場合、樹脂製の成形製品を車体に組付ける際に、軍手着用の下で作業が行われることから、耐軍手傷が要求されている。さらに、使用環境下においては、成形部材表面に埃や汚れ等が付着した場合、綿製の布やテッシュペーパ等で拭き取る際に傷がつかないことや、爪や鍵が不意に接触した際に傷が付き難いことが要求されている。その他、様々な実用ケースにおいて、高度な耐擦傷性が要求される傾向にある。
【0006】
この問題を解決する方法として、例えば、特許文献1では、アクリル樹脂にシリコーン及び脂肪酸化合物を含有させることにより、耐擦傷性を向上させる技術が提案されている。また、特許文献2では、(メタ)アクリル樹脂と無機フィラーとを含有させることにより、耐擦傷性を向上させる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2018/016473号
【文献】国際公開第2017/200048号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1は、特定のシリコーンや脂肪酸化合物を含有させることで、耐擦傷性を向上させているが、軍手等の比較的柔らかい摺動布には有効であるものの、より厳しい耐擦傷性試験で用いられるスチールウール等の硬質系の摺動布に対しては、表面外観の低下が懸念される。
【0009】
また、特許文献2は、シリカを含有させることで、耐擦傷性を向上させているが、無機フィラーの含有により、表面において微細な凹凸が生じ、目視で確認した場合、表面がぎらついて見えるという懸念が考えられる。このぎらつきは、成形体表面の算術平均粗さRaが低下することが一因であると考えられ、特許文献2においては、成形体の算術平均粗さRaが十分とはいえない。
【0010】
よって、ぎらつきがなく外観に優れ、且つHC処理又は塗装を要さず耐擦傷性にも優れる成形体が、多くの用途で切望されている。
【0011】
以上のような状況の中、本発明においては、上述の従来技術の問題点に鑑み、表面ぎらつき性が低く、耐擦傷性に優れる成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、成形体表面の算術平均粗さRaが特定範囲にあり、硬質系改質剤を含有する成形体とすることで、上述の従来技術における課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕
非晶性樹脂である熱可塑性樹脂(A)と平均粒子径が0.1μm超2μm以下の球状であり、ガラスビーズ、シリカ、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、及び合成コージライトからなる群より選ばれる1種以上である硬質系改質剤(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物からなり、JIS-B0601に準拠して表面粗さ測定器を用いて測定される算術平均粗さ(Ra)が0.02μm未満である表面を有することを特徴とする射出成形体。
〔2〕
ISO1997に準拠して表面粗さ測定器を用いて測定される前記表面の最大高さ(Rz)が0.5μm以下である、〔1〕に記載の射出成形体。
〔3〕
前記硬質系改質剤(B)が表面処理されている、〔1〕又は〔2〕に記載の射出成形体。
〔4〕
光学用途、電気・電子用途、又は車両用途の筐体若しくは意匠材である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の射出成形体。
〔5〕
二輪車用又は自動車用の意匠材である、〔4〕に記載の射出成形体。
〔6〕
テールランプガーニッシュ、リアランプガーニッシュ、フロントランプガーニッシュ、ピラーガーニッシュ、フロントグリル、リアグリル、ライセンスガーニッシュ、ホイールセンターキャップ、ナンバープレートガーニッシュ、又はドラミラーカバーである、〔5〕に記載の射出成形体。
〔7〕
成形体の製造方法であって、
前記製造方法は、非晶性樹脂である熱可塑性樹脂(A)と平均粒子径が0.1μm超2μm以下の球状であり、ガラスビーズ、シリカ、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、及び合成コージライトからなる群より選ばれる1種以上である硬質系改質剤(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物を射出する射出成形工程を有し、前記成形体の表面の少なくとも一部がJIS-B0601に準拠して表面粗さ測定器を用いて測定される算術平均粗さ(Ra)が0.02μm未満である、成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、表面ぎらつき性が低く、耐擦傷性に優れる成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について、詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜変形して実施できる。
なお、本明細書において、重合前のモノマー成分のことを「~単量体」といい、「単量体」を省略することもある。また、重合体を構成する構成単位のことを「~単量体単位」及び/又は「~構造単位」といい、単に「~単位」と表記することもある。
【0016】
[成形体]
本実施形態の成形体は、熱可塑性樹脂(A)と硬質系改質剤(B)とを含有する熱可塑性樹脂組成物からなり、算術平均粗さ(Ra)が0.02μm未満である表面を有する。
尚、本明細書において、熱可塑性樹脂組成物は、成形する前の本実施形態の成形体の原料である。
以下、本実施形態の成形体を構成する各成分について説明する。
【0017】
(熱可塑性樹脂(A))
本実施形態の成形体を構成する熱可塑性樹脂(A)としては、特に限定されないが、例えば、メタクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、シンジオタクテックポリスチレン系樹脂、ABS系樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系共重合体)、AS系樹脂(アクリロニトリル-スチレン系共重合体)、BAAS系樹脂(ブタジエン-アクリロニトリル-アクリロニトリルゴム-スチレン系共重合体、MBS系樹脂(メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン系共重合体)、AAS系樹脂(アクリロニトリル-アクリロニトリルゴム-スチレン系共重合体)、生分解性樹脂、ポリカーボネート-ABS樹脂のアロイ、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂等が挙げられる。
この中でも、得られる成形体の算術平均粗さRa及び最大高さRzを制御する観点から、特に非晶性樹脂が好ましく、メタクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ABS系樹脂、AS系樹脂がより好ましく、中でも、高い透明性、表面硬度、耐擦傷性が得られ、算術平均粗さRa及び最大高さRzをより低くすることができる観点で、メタクリル系樹脂が特に好ましい。
【0018】
ここで、上記熱可塑性樹脂は、複数種の単量体を重合した共重合体を含み、該共重合体は、主モノマーに由来する単量体単位の含有量が、樹脂全量に対して50質量%以上であることが好ましい。なお、主モノマーとは、メタクリル系樹脂ではメタクリル酸エステル単量体、ポリスチレン系樹脂ではスチレン系単量体、ポリカーボネート系樹脂ではカーボネート系単量体等の各樹脂を主に構成する主モノマーをいう。
上記熱可塑性樹脂(A)は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0019】
((メタクリル系樹脂))
以下、メタクリル系樹脂の詳細について述べる。
メタクリル系樹脂は、メタクリル酸エステル単量体に由来する構成単位(本明細書において、単に「メタクリル酸エステル単量体単位」ともいう)からなる単独重合体であってもよいし、メタクリル酸エステル単量体単位と、メタクリル酸エステル単量体に共重合可能な他のビニル単量体に由来する構成単位(本明細書において、単に「他のビニル単量体単位」ともいう)とを含む共重合体であってもよい。この中でも、共重合体が好ましい。
【0020】
-メタクリル酸エステル単量体-
メタクリル系樹脂を構成するメタクリル酸エステル単量体単位を形成するメタクリル酸エステル単量体としては、本発明の効果を達成できるものであれば特に限定されないが、好ましい例としては、下記一般式(I)で示される単量体が挙げられる。
【化1】
(一般式(I)中、R1は、1~18個の炭素原子を有する炭化水素基を表し、該炭化水素基の炭素上の水素原子は水酸基やハロゲン基によって置換されていてもよい。)
【0021】
メタクリル酸エステル単量体としては、特に限定されないが、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸(2-エチルヘキシル)、メタクリル酸(t-ブチルシクロヘキシル)、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸(2,2,2-トリフルオロエチル)等が挙げられる。この中でも、取扱いや入手のし易さの観点より、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル等がより好ましく、メタクリル酸メチルが特に好ましい。上記メタクリル酸エステル単量体は、一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
メタクリル系樹脂が共重合体である場合、上記メタクリル酸エステル単量体単位の含有量は、メタクリル系樹脂の総量に対して、好ましくは70~99.9質量%であり、より好ましくは78~99質量%であり、さらに好ましくは80~98質量%である。メタクリル酸エステル単量体単位の含有量が70質量%以上であることにより、耐熱性がより向上する傾向にある。また、メタクリル酸エステル単量体単位の含有量が99.9質量%以下であることにより流動性がより向上する傾向にある。
【0023】
-他のビニル単量体-
メタクリル系樹脂を構成する上述した他のビニル単量体単位を形成する他のビニル単量体(本明細書において、単に「他のビニル単量体」ともいう)としては、特に限定されないが、好ましい例としては、下記一般式(II)で表されるアクリル酸エステル単量体が挙げられる。
【化2】
(一般式(II)中、R2は1~18個の炭素原子を有する炭化水素基を表し、該炭化水素基の炭素上の水素原子は水酸基やハロゲン基によって置換されていてもよい。)
【0024】
上記アクリル酸エステル単量体としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸(2-エチルヘキシル)、アクリル酸(t-ブチルシクロヘキシル)、アクリル酸ベンジル、アクリル酸(2,2,2-トリフルオロエチル)等が挙げられる。この中でも、取り扱いや入手のし易さの観点より、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル等がより好ましく、アクリル酸メチルが特に好ましい。
【0025】
また、メタクリル酸エステル単量体に共重合可能な、一般式(II)のアクリル酸エステル単量体以外の他のビニル単量体としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸やメタクリル酸等のα,β-不飽和酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、桂皮酸等の不飽和基含有二価カルボン酸及びそれらのアルキルエステル;スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、3,4-ジメチルスチレン、3,5-ジメチルスチレン、p-エチルスチレン、m-エチルスチレン、о-エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、イソプロペニルベンセン(α-メチルスチレン)等のスチレン系単量体;1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン、1,1-ジフェニルエチレン、イソプロペニルトルエン、イソプロペニルエチルベンゼン、イソプロペニルプロピルベンゼン、イソプロペニルブチルベンゼン、イソプロペニルペンチルベンゼン、イソプロペニルヘキシルベンゼン、イソプロペニルオクチルベンゼン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物類;マレイミドや、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のN-置換マレイミド等;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のエチレングリコール又はそのオリゴマーの両末端水酸基をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリレート等の2個のアルコールの水酸基をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール誘導体をアクリル酸又はメタクリル酸でエステル化したもの;ジビニルベンゼン等の多官能モノマー;等が挙げられる。
上記他のビニル単量体は、一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
他のビニル単量体単位の含有量は、メタクリル系樹脂の総量に対して、好ましくは0.1~30質量%であり、より好ましくは1.0~25質量%であり、さらに好ましくは1.5~23質量%であり、さらに好ましくは1.5~22質量%であり、特に好ましくは2.0~20質量%である。他のビニル単量体単位の含有量が0.1質量%以上であることにより、流動性及び耐熱性がより向上する傾向にある。また、他のビニル単量体単位の含有量が30質量%以下であることにより、耐熱性がより向上する傾向にある。
【0027】
メタクリル系樹脂においては、耐熱性、加工性等の特性を向上させる目的で、上記例示したビニル単量体以外のビニル系単量体を適宜添加して共重合させてもよい。
【0028】
-メタクリル系樹脂の重量平均分子量及び分子量分布-
上記メタクリル系樹脂の重量平均分子量及び分子量分布について説明する。
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したメタクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、50000~300000であることが好ましい。メタクリル系樹脂の重量平均分子量が上記範囲内であることにより、流動性、機械的強度、及び耐溶剤性のバランスを図ることができ、良好な成形加工性が維持される傾向にある。特に、優れた機械的強度及び耐溶剤性を得る観点から、メタクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、50000以上が好ましく、60000以上がより好ましく、70000以上がさらに好ましく、80000以上がさらにより好ましく、90000以上が特に好ましい。また、メタクリル系樹脂が良好な流動性を示す観点から、メタクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は300000以下であることが好ましく、250000以下がより好ましく、230000以下がさらに好ましく、210000以下がさらにより好ましく、180000以下が特に好ましい。特に、重量平均分子量(Mw)が110000~180000(好ましくは、120000~180000、さらに好ましくは130000~180000)であると、成形体表面の最大高さを一層低くすることができ、表面ぎらつき性が一層低く、スチールウール摺動後の明度の変化が一層少ない成形体が得られる。
【0029】
上記メタクリル系樹脂の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.6~6.0であり、より好ましくは1.7~5.0であり、さらに好ましくは1.8~5.0である。メタクリル系樹脂の分子量分布が上記範囲内であることにより成形加工流動と機械強度のバランスがより優れる傾向にある。ここで、Mwは重量平均分子量を表し、Mnは数平均分子量を表す。特に、分子量分布(Mw/Mn)が2.0~4.5(好ましくは2.5~4.0)であると、成形体表面の最大高さを一層低くすることができ、表面ぎらつき性が一層低く、スチールウール摺動後の明度の変化が一層少ない成形体が得られる。
【0030】
メタクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、GPCで測定することができ、具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。具体的には、あらかじめ単分散の重量平均分子量が既知で試薬として入手可能な標準メタクリル系樹脂と、高分子量成分を先に溶出する分析ゲルカラムを用い、溶出時間と重量平均分子量から検量線を作成しておき、続いて得られた検量線を元に、所定の測定対象のメタクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を求めることができる。得られた重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)から分子量分布を算出することができる。数平均分子量(Mn)とは、単純な分子1本あたりの分子量の平均であり、系の全重量/系中の分子数で定義される。重量平均分子量(Mw)とは、重量分率による分子量の平均で定義される。
【0031】
-メタクリル系樹脂のピークトップ分子量(Mp)の1/5以下の分子量成分の割合-
耐溶剤性、流動性の観点から、GPC法により求めた上記メタクリル系樹脂のGPC溶出曲線から得られるピークトップ分子量(Mp)の1/5以下の分子量を有する成分が占める割合は、上記メタクリル系樹脂のGPC溶出曲線の総面積に対して、好ましくは4~55%であり、より好ましくは6~50%であり、さらに好ましくは7~45%であり、さらに好ましくは8~43%であり、よりさらに好ましくは9~40%であ、さらにより好ましくは10~38%である。ピークトップ分子量(Mp)の1/5以下の分子量を有する成分の割合が6%以上であることより、成形流動性がより向上する傾向にあり、成形体表面の分子配向が緩和されて耐擦傷性が良好となる傾向にある。また、ピークトップ分子量(Mp)の1/5以下の分子量を有する成分の割合が50%以下であることより、耐溶剤性がより向上する傾向にある。特に、上記割合が18~35(好ましくは20~30)であると、成形体表面の最大高さを一層低くすることができ、表面ぎらつき性が一層低く、スチールウール摺動後の明度の変化が一層少ない成形体が得られる。
【0032】
ここで、「ピークトップ分子量(Mp)の1/5以下の分子量を有する成分が占める割合(%)」とは、GPC溶出曲線の全エリア面積を100%とした場合の、ピークトップ分子量(Mp)の1/5以下の分子量を有する成分に相当するエリア面積の割合であり、後述する実施例に記載する方法により測定することができる。なお、「ピークトップ分子量(Mp)」とは、GPC溶出曲線においてピークを示す重量分子量を指す。GPC溶出曲線においてピークが複数存在する場合は、存在量が最も多い重量分子量が示すピークにおける分子量を、ピークトップ分子量(Mp)とする。
なお、重量分子量が500以下のメタクリル系樹脂成分は、成形時にシルバーと呼ばれる発泡様の外観不良の原因となるため、できる限り少ない方が好ましい。
【0033】
-メタクリル系樹脂の溶融粘度-
メタクリル系樹脂の溶融粘度は、ツインキャピラリーレオメーターによる250℃、シェアレート100/sの条件での測定において、800Pa・s以上1800Pa・s以下であることが、硬質系改質剤(B)の分散性の観点で好ましく、例えば、後述する溶融混練時に硬質系改質剤(B)の分散性が良好となる傾向にある。800Pa・s以上であることにより、分散性が良化傾向となり、1800Pa・s以下であることにより、流動性が良好となる傾向にある。より好ましくは、900Pa・s以上1700Pa・s以下であり、さらに好ましくは、900Pa・s以上1600Pa・s以下であり、特に好ましくは、成形体表面の最大高さを一層低くすることができ、表面ぎらつき性が一層低く、スチールウール摺動後の明度の変化が一層少ない成形体が得られる観点から、1000Pa・s以上1600Pa・s以下である。
【0034】
-メタクリル系樹脂の製造方法-
メタクリル系樹脂は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合法もしくは乳化重合法のいずれかの方法により製造することができる。この中でも、好ましくは、塊状重合、溶液重合及び懸濁重合法であり、より好ましくは懸濁重合法である。
【0035】
重合温度は、重合方法に応じて適宜最適の重合温度を選択すればよいが、好ましくは50℃以上100℃以下であり、より好ましくは60℃以上90℃以下である。
【0036】
メタクリル系樹脂を製造する際には、重合開始剤を用いてもよい。重合開始剤としては、特に限定されないが、ラジカル重合を行う場合は、例えば、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ステアリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシネオデカネート、t-ブチルパーオキシピバレート、ジラウロイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、1,1-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’-アゾビス-4-メトキシ-2,4-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、2-(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等のアゾ系の一般的なラジカル重合開始剤;等が挙げられる。これらは一種のみを単独で用いてもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらのラジカル開始剤と適当な還元剤とを組み合わせてレドックス系開始剤として用いてもよい。
【0037】
これらのラジカル重合開始剤及び/又はレドックス系開始剤は、メタクリル系樹脂の重合の際に使用する全単量体の総量100質量部に対して、0~1質量部の範囲で用いるのが一般的であり、重合を行う温度と重合開始剤の半減期を考慮して適宜選択することができる。
【0038】
メタクリル系樹脂の重合方法として、塊状重合法、キャスト重合法、又は懸濁重合法を選択する場合には、メタクリル系樹脂の着色を防止する観点から、有機過酸化物を重合開始剤として用いて重合することが好ましい。このような有機過酸化物としては、上記と同様のものが挙げられ、この中でも、ラウロイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、及びt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等が好ましく、ラウロイルパーオキサイドがより好ましい。
【0039】
また、メタクリル系樹脂を、90℃以上の高温下で溶液重合法により重合する場合には、10時間半減期温度が80℃以上で、かつ用いる有機溶媒に可溶である有機過酸化物及びアゾビス開始剤等を重合開始剤として用いることが好ましい。このような有機過酸化物及びアゾビス開始剤としては、上記と同様のものが挙げられ、このなかでも1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、1,1-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)、2-(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等が好ましい。
【0040】
メタクリル系樹脂を製造する際には、必要に応じて、メタクリル系樹脂の分子量の制御を行ってもよい。メタクリル系樹脂の分子量を制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、重合方法又は重合条件を変える方法、重合開始剤の選択、連鎖移動剤やイニファータ等の量を調整する方法等が挙げられる。これらの分子量制御方法は、一種の方法のみを用いてもよく、二種以上の方法を併用してもよい。
【0041】
イニファータとしては、特に限定されないが、例えば、ジチオカルバメート類、トリフェニルメチルアゾベンゼン、テトラフェニルエタン誘導体等が挙げられる。
【0042】
連鎖移動剤としては、特に限定されないが、例えば、アルキルメルカプタン類、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トリエチルアミン等が挙げられる。このなかでも、取扱性や安定性の観点から、アルキルメルカプタン類が好ましい。当該アルキルメルカプタン類としては、特に限定されないが、例えば、n-ブチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、n-オクタデシルメルカプタン、2-エチルヘキシルチオグリコレート、エチレングリコールジチオグリコレート、トリメチロールプロパントリス(チオグリコート)、ペンタエリスリトールテトラキス(チオグリコレート)等が挙げられる。
【0043】
連鎖移動剤及びイニファータは、目的とするメタクリル系樹脂の分子量に応じて適宜添加することができ、連鎖移動剤及びイニファータの添加量を調整することにより、分子量を調整することが可能である。一般的には、メタクリル系樹脂の重合の際に使用する全単量体の総量100質量部に対して0.001質量部~5質量部の範囲で用いられる。
【0044】
また、GPC溶出曲線から得られるピークトップ分子量(Mp)の1/5以下の分子量を有する成分の割合が、4~55%の範囲であるメタクリル系樹脂を製造する方法としては、低分子量のメタクリル系樹脂と高分子量のメタクリル系樹脂とを溶融ブレンドする方法や、多段重合法により製造する方法等が挙げられる。上記のMpの1/5以下の分子量を有する成分の存在量が4~55%のメタクリル系樹脂を製造する場合、その方法については特に限定されるものではないが、品質安定性の観点から多段重合法を使用することがより好ましい。
【0045】
上記メタクリル系樹脂は、成形体表面の最大高さを一層低くすることができ、表面ぎらつき性が一層低く、スチールウール摺動後の明度の変化が一層少ない成形体が得られる観点から、多段重合法(好ましくは2段重合法)により製造されたメタクリル系樹脂が好ましい。
多段重合法を使用する場合、まず、1段目の重合において、メタクリル酸エステル単量体と他のビニル単量体とを重合し、GPCで測定した重量平均分子量が5000~50000である重合体(i)を製造することが好ましい。次に、重合系内を1段目の重合温度よりも高い温度に一定時間保持する。その後、重合体(i)の存在下で、メタクリル酸エステル単量体と他のビニル単量体とをさらに重合し、重量平均分子量が60000~350000である重合体(ii)を製造することが好ましい。なお、メタクリル系樹脂が単独重合体である場合には、他のビニル単量体を用いずに、1段目及び2段目の重合において、単独重合を行う。また、メタクリル系樹脂が単独重合体と共重合体の混合物であるような場合には、1段目の重合において単独重合を行い、2段目の重合において共重合を行うこともできる。
【0046】
製造時の重合安定性及びメタクリル系樹脂の流動性や樹脂成形体の機械的強度を向上させる観点そして成形体表面の分子配向緩和の観点から、重合体(i)の含有量は、メタクリル系樹脂の総量に対して、好ましくは5~50質量%であり、重合体(ii)の含有量は、メタクリル系樹脂の総量に対して、好ましくは95~50質量%である。重合安定性、流動性、成形体の機械的強度、成形体表面の分子配向緩和のバランスを考慮すると、重合体(i)/重合体(ii)の含有量比率は、より好ましくは7~47質量%/93~53質量%、さらに好ましくは10~45質量%/90~55質量%であり、さらにより好ましくは13~43質量%/87~57質量%であり、よりさらに好ましくは15~40質量%/85~60質量%である。
【0047】
さらに、重合体(i)は、メタクリル酸エステル単量体単位70~100質量%及び他のビニル単量体単位0~30質量%を含む重合体であることが好ましく、メタクリル酸エステル単量体単位75~100質量%及び他のビニル単量体単位0~25質量%を含む重合体であることがより好ましく、メタクリル酸エステル単量体単位80~100質量%及び他のビニル単量体単位0~20質量%を含む重合体であることがさらに好ましい。重合体(i)を構成する単量体単位の比率は、多段重合の重合体(i)の重合工程において添加する単量体量を制御することにより調整することができる。重合体(i)は、他のビニル単量体の含有量が少ない方が好ましく、他のビニル単量体を含まなくてもよい。
【0048】
また、成形時のシルバー等の不具合抑制、重合安定性、流動性の観点から、重合体(i)の重量平分均子量は、好ましくは5000~50000であり、より好ましくは10000~45000であり、さらに好ましくは18000~42000であり、特に好ましくは20000~40000である。重合体(i)の重量平均分子量は、上述したように、連鎖移動剤やイニファータを用いたり、これらの量を調整したり、重合条件を適宜変更することにより制御できる。重合体(i)の重量平分均子量は、上記同様、GPCで測定することができる。
【0049】
重合体(ii)は、メタクリル酸エステル単量体単位80~99.9質量%及び他のビニル単量体単位0.1~20質量%を含む重合体であることが好ましく、メタクリル酸エステル単量体単位90~99.9質量%及び他のビニル単量体単位0.1~10質量%を含む重合体であることがより好ましく、メタクリル酸エステル単量体単位92.5~99.8質量%及び他のビニル単量体単位0.2~7.5質量%を含む重合体であることがさらに好ましい。重合体(ii)を構成する単量体単位の比率は、多段重合の重合体(ii)の重合工程において添加する単量体量を調整することにより制御することができる。
【0050】
また、耐溶剤性、流動性の観点から、重合体(ii)の重量平分均子量は、好ましくは60000~350000であり、より好ましくは100000~320000であり、さらに好ましくは130000~300000であり、よりさらに好ましくは150000~270000である。重合体(ii)の重量平均分子量は、上述したように、連鎖移動剤やイニファータを用いたり、これらの量を調整したり、重合条件を適宜変更することにより制御できる。重合体(ii)の重量平分均子量は、上記同様、GPCで測定することができる。
【0051】
上記多段重合法は、重合体(i)と重合体(ii)のそれぞれの組成を制御しやすく、重合時の重合発熱による温度上昇が抑えられ、系内の粘度も安定化できる。この場合、重合体(i)の重合が完了しないうちに重合体(ii)の原料組成混合物は一部重合が開始されている状態であってもよいが、一度キュア(この場合、系内を重合温度より高い温度に保つこと)を行い、重合を完了させた後に重合体(ii)の原料組成混合物を添加する方が好ましい。1段目にキュアを行うことにより、重合が完了するだけでなく、未反応の単量体、開始剤、連鎖移動剤等を除去又は失活させることができ、2段目の重合に悪影響を及ぼさなくなる。結果として、目的の重量平均分子量を得ることができる。
【0052】
重合温度は、重合方法に応じて適宜最適の重合温度を選択して製造すればよいが、好ましくは50℃以上100℃以下であり、より好ましくは60℃以上90℃以下である。重合体(i)及び重合体(ii)の重合温度は、同じであっても異なっていてもよい。
【0053】
キュアの際に昇温させる温度は、重合体(i)の重合温度よりも5℃以上高くすることが好ましく、より好ましくは7℃以上、さらに好ましくは10℃以上である。さらに、キュアの際に昇温した温度で保持する時間は、10分間以上180分間以下が好ましく、より好ましくは15分間以上150分間以下である。
【0054】
メタクリル系樹脂の含有量は、得られる成形体の表面ぎらつき性が一層低く、得られる成形体のRa及びRzを制御する観点から、熱可塑性樹脂組成物の総量に対して、好ましくは50質量%以上99.9質量%以下であり、より好ましくは60質量%以上98.5質量%以下であり、さらに好ましくは70質量%以上98質量%以下である。
【0055】
((ポリスチレン系樹脂))
上記ポリスチレン系樹脂としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,5-ジメチルスチレン、3,4-ジメチルスチレン、3,5-ジメチルスチレン、p-エチルスチレン、m-エチルスチレン、о-エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、イソプロペニルベンセン(α-メチルスチレン)等のスチレン系単量体に由来する単量体単位を、樹脂全量に対して50質量%以上含む樹脂が挙げられる。上記ポリスチレン系樹脂は、上記スチレン系単量体以外に、上述のメタクリル酸エステル単量体、他のビニル単量体(スチレン系単量体を除く)に由来する構成単位を含んでいてもよい。中でも、ポリスチレンが好ましい。
上記ポリスチレン系樹脂は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0056】
上記ポリスチレン系樹脂中の、スチレン系単量体に由来する構成単位の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上である。
【0057】
((ポリカーボネート系樹脂))
上記ポリカーボネート系樹脂としては、例えば、触媒及び分子量調節剤の存在下で、二価フェノール系化合物とホスゲンとを反応させて製造した樹脂、二価フェノール系化合物及びジフェニルカーボネート等のカーボネート前駆体のエステル交換を利用して製造した樹脂等が挙げられる。
【0058】
上記二価フェノール系化合物としては、ビスフェノール系化合物を用いることができ、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)が好ましく用いられる。ビスフェノールAは、部分的又は全体的に他種の二価フェノールに変わってもよい。ビスフェノールA以外の二価フェノールとしては、例えば、ハイドロキノン、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテルや、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン等のハロゲン化ビスフェノール等が挙げられる。
【0059】
上記ポリカーボネート系樹脂としては、ビスフェノールA系ポリカーボネート等の単一重合体や、2種以上の二価フェノールの共重合体又はこれらの混合物等を用いることができる。また、上記ポリカーボネート系樹脂としては、例えば、線状ポリカーボネート、分岐型ポリカーボネート又はポリエステルカーボネート共重合体等が挙げられる。
上記分岐型ポリカーボネートとしては、例えば、トリメリット酸無水物、トリメリット酸等の多官能性芳香族化合物を、二価フェノール系化合物及びカーボネート前駆体と反応させたもの等が挙げられる。
上記ポリエステルカーボネート共重合体としては、例えば、二官能性カルボン酸を、二価フェノール系化合物及びカーボネート前駆体と反応させたもの等が挙げられる。
上記ポリカーボネート系樹脂は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
【0060】
熱可塑性樹脂(A)の含有量は、得られる成形体の表面ぎらつき性が一層低下する観点から、熱可塑性樹脂組成物の総量に対して、好ましくは50質量%以上99.9質量%以下であり、より好ましくは60質量%以上98.5質量%以下であり、さらに好ましくは70質量%以上98質量%以下である。
【0061】
(硬質系改質剤(B))
上記熱可塑性樹脂組成物は、さらに硬質系改質剤(B)を含む。
【0062】
硬質系改質剤(B)としては、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されることなく、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ケイ酸カルシウム繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、フレーク状ガラス、タルク、カオリン、マイカ、ハイドロタルサイト、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、酸化亜鉛、二酸化亜鉛、リン酸一水素カルシウム、ウォラストナイト、ガラスビーズ、シリカ、ゼオライト、酸化アルミニウム、ベーマイト、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、二酸化チタン、炭化チタン、ケイ酸、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、炭化ケイ素、酸化マグネシウム、二酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミノケイ酸ナトリウム、ケイ酸マグネシウム、硫酸バリウム、黄銅、銅、銀、アルミニウム、ニッケル、鉄、酸化鉄、グラファイト、カーボンナノチューブ、フッ化カルシウム、雲母、モンモリロナイト、膨潤性フッ素雲母、アパタイト、グラフェン、合成コージライト等が挙げられる。
【0063】
表面ぎらつき性と耐擦傷性の観点から、酸化亜鉛、二酸化亜鉛、ガラスビーズ、シリカ、二酸化ケイ素、ゼオライト、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタン、二酸化チタン、炭化チタン、ケイ酸、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、炭化ケイ素、グラファイト、カーボンナノチューブ、フッ化カルシウム、雲母、モンモリロナイト、膨潤性フッ素雲母、アパタイト、グラフェン、合成コージライト等が含まれることが好ましい。特に、ガラスビーズ、シリカ、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、合成コージライトが好ましい。
上記の硬質系改質剤(B)は、一種類のみを単独で用いてもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
硬質系改質剤(B)は、球状であることが好ましく、平均粒子径が、0.1μm超であることが、耐擦傷性と表面ぎらつき性のバランスに優れた成形体が得られ、得られる成形体の算術平均粗さRaや最大高さRzを制御する上で好ましい。平均粒子径は、0.1μm超2μm以下がより好ましく、0.15~1.8μmがさらに好ましく、0.17~1.6μmがさらに好ましく、0.21~1.4μmがさらにより好ましく、0.23~1.0μmが特に好ましく、0.25~0.8μmが最も好ましい。中でも、平均粒子径が0.25~0.7μm(好ましくは、0.25~0.58μm)である硬質系改質剤(B)と、メタクリル系樹脂とを含む、表面のRaが20nm未満の成形体は、表面ぎらつき性と耐擦傷性に特に優れる。
【0065】
なお、硬質系改質剤(B)の平均粒子径は、5μm未満であれば、マイクロトラック・ベル社製ナノトラックNanotrac WaveIIシリーズ等を用いて動的光散乱法で測定することができ、5μm以上であれば、マイクロトラック・ベル社製マイクロトラック粒子径分布測定装置MT3000IIシリーズ等を用いてレーザー回折法で測定することができる。本明細書における硬質系改質剤(B)の平均粒子径は、一次粒子径をあらわす。
【0066】
また、硬質系改質剤(B)は、そのビッカース硬度が5GPa以上20GPa以下であることが、表面ぎらつき性と耐擦傷性の観点で好ましい。ビッカース硬度は、6GPa以上であることがより好ましく、7GPa以上であることがさらに好ましい。また、20GPa以下であることにより、得られる成形体の算術平均粗さRaや最大高さRzが良化する傾向にあり、18GPa以下がより好ましく、15GPa以下がさらに好ましく、13GPa以下がさらにより好ましい。
なお、ビッカース硬度は、JIS Z 2244に準拠して室温(25℃)にて測定された値を、102HV=1GPaとして換算した値を指す。
【0067】
また、硬質系改質剤(B)は、熱可塑性樹脂(A)とより馴染ませることを目的として、適宜表面処理を施してもよい。
表面処理方法は、本発明の効果を損なわない範囲で選択することができ、例えば、界面活性剤によって表面を疎水化するフラッシング法、水性コロイド吸着によるコーティング法、および粒子表面の官能基に有機物を反応させるトポケミカルな手法等が挙げられる。中でも、目的とする官能基を有するシランカップリング剤と硬質系改質剤(B)の表面とを反応させる方法が好ましい。
【0068】
上記シランカップリング剤としては、メタクリル基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基等を含有するものが挙げられる。初期の光沢度と耐擦傷性の観点で、メタクリル基を有するシランカップリング剤を用いたメタクリルシラン処理がより好ましい。
【0069】
硬質系改質剤(B)に表面処理を行うことにより、熱可塑性樹脂樹脂(A)(好ましくは、メタクリル系樹脂)と硬質系改質剤(B)との界面密着性が良好となり、成形体の光沢度や耐擦傷性が良化する傾向にある。
【0070】
硬質系改質剤(B)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、0.3質量部以上5質量部以下であることが好ましい。より好ましくは0.4質量部以上4.5質量部以下であり、さらに好ましくは0.45質量部以上4質量部以下であり、よりさらに好ましくは0.5質量部以上3.5質量部以下である。最も好ましくは、0.7質量部以上2.5質量部以下である。硬質系改質剤(B)の含有量が0.3質量部以上であることにより耐擦傷性の観点で好ましく、硬質系改質剤(B)の含有量が5質量部以下であることにより表面ぎらつき性の観点で好ましい。
【0071】
(その他の成分)
((添加剤))
上記熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、各種の添加剤を添加してもよい。
上記添加剤としては、例えば、ポリエーテル系、ポリエーテルエステル系、ポリエーテルエステルアミド系、アルキルスルフォン酸塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩等の帯電防止剤;酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤等の安定剤;難燃剤、難燃助剤、硬化剤、硬化促進剤、導電性付与剤、応力緩和剤、結晶化促進剤、加水分解抑制剤、衝撃付与剤、相溶化剤、核剤、強化剤、補強剤、流動調整剤、増感材、ゴム質共重合体、増粘剤、沈降防止剤、タレ防止剤、充填剤、着色剤、顔料、消泡剤、カップリング剤、防錆剤、抗菌・防黴剤、防汚剤、導電性高分子、摺動剤等が挙げられる。
成形体の各種用途を想定して染料を添加してもよく、黒系調色する場合は、顔料としてカーボンブラックを添加することが、耐候性の観点で好ましい。
また、特に、熱安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、及び摺動剤等を添加することが幅広い屋内外用途として、好ましい。また、衝撃強度を上げるため、応力緩和剤や衝撃付与剤として、ゴム質共重合体を添加してもよい。
添加剤の含有量は、熱可塑性樹脂組成物の総量に対して、30質量%以下が好ましい。
熱可塑性樹脂組成物と種々の添加剤とを混合する場合の混練方法としては、後述する「熱可塑性樹脂組成物の製造方法」に記載した方法等が挙げられ、特に限定されるものではない。
【0072】
((染料(C)))
上記熱可塑性樹脂組成物は、後述する成形体の各種用途を想定して、染料(C)を含んでいてもよい。
上記染料(C)は、赤系染料、黄系染料、緑系染料、青系染料、及び紫系染料からなる群より選ばれる1種以上の染料を含むことが好ましく、赤系染料、黄系染料、緑系染料、青系染料、及び紫系染料からなる群より選ばれる1種以上の染料であることがより好ましい。
さらに深みのある漆黒性を発現させる観点から、3種以上の染料を含むことが好ましく、それらの染料は、互いに色相の異なる3種以上の染料であるとより好ましく、赤系染料、黄系染料、緑系染料、青系染料及び紫系染料からなる群より選ばれる3種以上の染料であることが更に好ましい。単純に青系染料と黄系染料との組合せのみ、又は緑系染料と赤系染料との組合せのみという狭い範囲での組合せよりも、所謂光の3原色をまんべんなく含んだ組合せによって漆黒性を発現させる方が、より深みを増した漆黒性を発現させる観点で好ましいからである。そのような組合せとしては、例えば、紫系染料、緑系染料、黄系染料及び青系染料の組合せ;紫系染料、黄系染料、緑系染料及び赤系染料の組合せ;赤系染料、緑系染料及び青系染料の組合せ、といった、複数の系統の染料の適量ずつの組合せが挙げられ、これらの中では、既に多くの市販製品があり、後述する耐候性染料の種類も多いのでより所望の漆黒性を実現しやすいという観点から、赤系染料、緑系染料、黄系染料及び青系染料の組合せが好ましい。
【0073】
赤系染料としては、カラーインデックスで表すと、例えば、Solvent red 52、同111、同135、同145、同146、同149、同150、同151、同155、同179、同180、同181、同196、同197、同207、Disperse Red 22、同60、及び同191等が挙げられる。青系染料としては、カラーインデックスで表すと、例えば、Solvent Blue 35、同45、同78、同83、同94、同97、同104、及び同105等が挙げられる。黄系染料としては、カラーインデックスで表すと、例えば、Disperse Yellow 54、同160、及びSolvent yellow 33が挙げられる。緑系染料としては、カラーインデックスで表すと、例えば、Solvent Green 3、同20、及び同28等が挙げられる。紫系染料としては、カラーインデックスで表すと、例えば、Solvent Violet 28、同13、同31、同35、及び同36等が挙げられる。これらの染料は色毎に、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0074】
なお、染料の種類は特に限定されないが、染料(C)は、耐候性の観点から、アントラキノン系染料、複素環式化合物系染料及びペリノン系染料からなる群より選ばれる1種以上の染料を含むことが好ましく、アントラキノン系染料、複素環式化合物系染料及びペリノン系染料からなる群より選ばれる1種以上の染料のみからなることがより好ましい。
アントラキノン系染料としては、カラーインデックスで表すと、例えば、Solvent Violet 36、Solvent Green 3、同28、Solvent Blue 94、同97、及びDisperse Red 22等が挙げられる。
複素環式化合物系染料としては、カラーインデックスで表すと、例えば、Disperse Yellow 160等が挙げられる。
ペリノン系染料としては、カラーインデックスで表すと、例えば、Solvent red 179等が挙げられる。
これらはそれぞれ、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0075】
染料(C)の含有量は、熱可塑性樹脂組成物の総量に対して、好ましくは0.01質量%以上1.5質量%以下であり、より好ましくは0.02質量%以上1.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.03質量%以上0.8質量%以下であり、さらにより好ましくは0.04質量%以上0.6質量%以下であり、特に好ましくは0.05質量%以上0.5質量%以下である。染料(C)が、0.01質量%以上1.5質量%以下であることにより、得られる成形体の漆黒性が良好となる傾向にある。
【0076】
((カーボンブラック(D)))
上記熱可塑性樹脂組成物を黒系調色する場合は、さらにカーボンブラック(D)を含むことが耐候性の観点で好ましい。カーボンブラック(D)は、特に限定されず、熱可塑性樹脂(A)と相溶性があり、かつその物性に影響を与え難い物質であれば好適に使用できる。
カーボンブラック(D)の種類としては、ファーネスブラックが好ましく、顕微鏡観察による算術平均粒径が10~50nmであることが、成形体の算術平均粗さRaや最大高さRzを所定の範囲に調整する上でより好ましい。
【0077】
また、カーボンブラック(D)は、その表面をコーティング剤により表面コーティングされたものを含んでいてもよい。このようなカーボンブラック(D)を用いることにより、より深みのある漆黒性を発現できる。
上記コーティング剤としては、特に限定されないが、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、メチレンビスステアリルアミド、及びエチレンビスステアリルアミド(EBS)からなる群より選ばれる1種以上の化合物を含むことが好ましく、1種以上の該化合物のみからなることがより好ましい。これらの中でも、ステアリン酸亜鉛及びEBSがより好ましい。このようなコーティング剤を用いることにより、より深みのある漆黒性を実現できる傾向にある。コーティング剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
カーボンブラックがコーティング剤によりその表面をコーティングされている場合、カーボンブラックの質量Wcとコーティング剤の質量Wsとの比率(Wc/Ws)は、好ましくは20/80~60/40であり、より好ましくは30/70~50/50である。Wc/Wsが上記範囲内であることにより、より深みのある漆黒性を実現することができる傾向にある。
【0078】
コーティング前のカーボンブラックの種類として、より具体的には、顕微鏡観察による算術平均粒径が10~40nm、JIS K6217:2001で規定される窒素吸着比表面積が50~400m2/g、及び950℃で7分間加熱した際の揮発分が0.5~3質量%であることのうち1種以上の条件を満たすカーボンブラックを好適に使用できる。
【0079】
カーボンブラック(D)の含有量は、耐候性と漆黒性の観点から、熱可塑性樹脂組成物の総量に対して、好ましくは0.01質量%以上1.5質量%以下であり、より好ましくは0.02質量%以上1質量%以下であり、さらに好ましくは0.05質量%以上0.5質量%以下である。
【0080】
((熱安定剤))
上記熱安定剤としては、特に限定されないが、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系加工安定剤等の酸化防止剤等が挙げられる。この中でも、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。このような熱安定剤としては、特に限定されないが、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド、3,3’,3’’,5,5’,5’’-ヘキサ-tert-ブチル-a,a’,a’’-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、4,6-ビス(ドデシルチオメチル)-о-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1,3,5-トリス[(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-キシリン)メチル]-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミン)フェノール等が挙げられ、ペンタエリスリトールテラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。これらは一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
((紫外線吸収剤))
上記紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、フェノール系化合物、オキサゾール系化合物、マロン酸エステル系化合物、シアノアクリレート系化合物、ラクトン系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンズオキサジノン系化合物等が挙げられる。この中でも、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾトリアジン系化合物が好ましい。これらは一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0082】
紫外線吸収剤の20℃における蒸気圧(P)は、優れた成形加工性を得る観点から、好ましくは1.0×10-4Pa以下であり、より好ましくは1.0×10-6Pa以下であり、さらに好ましくは1.0×10-8Pa以下である。ここで、「優れた成形加工性」とは、例えば射出成形時に、金型表面への紫外線吸収剤の付着が少ないことや、フィルム成形時に、紫外線吸収剤のロールへの付着が少ないこと等を意味する。紫外線吸収剤がロールへ付着すると、最終的に目的とする成形体の表面に紫外線吸収剤が付着してしまい、外観性、光学特性を悪化させるおそれがあるため、成形体を光学用材料として使用する場合は特に上記成形加工性に優れていることが重要である。
【0083】
紫外線吸収剤の融点(Tm)は、ブリードアウト防止の観点から、好ましくは80℃以上であり、より好ましくは100℃以上であり、さらに好ましくは130℃以上であり、さらにより好ましくは160℃以上である。
【0084】
23℃から260℃まで20℃/minの速度で昇温した場合の紫外線吸収剤の質量減少率は、ブリードアウト防止の観点から、好ましくは50%以下であり、より好ましくは30%以下であり、さらに好ましくは15%以下であり、さらにより好ましくは10%以下であり、よりさらに好ましくは5%以下である。
【0085】
((難燃剤))
上記難燃剤としては、特に限定されないが、例えば、環状窒素化合物、リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、籠状シルセスキオキサン又はその部分開裂構造体、シリカ系難燃剤等が挙げられる。
【0086】
((摺動剤))
上記摺動剤としては、特に限定されないが、例えば、フタル酸エステル系、脂肪酸エステル系、トリメリット酸エステル系、リン酸エステル系、ポリエステル系等の可塑剤、高級アルコール、高級脂肪酸およびその塩、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸のモノ、ジ、又はトリグリセリド系等の離型剤、シロキサン系化合物等が挙げられる。中でも、漆黒性の観点から、シロキサン系化合物が好ましい。
シロキサン系化合物の中でも、ポリ(メタ)アクリル基を含有するシロキサン系化合物、ポリエステル基を有するシロキサン系化合物が好ましい。また、シロキサン系化合物は、直鎖状、環状、分岐状のいずれの構造を有してもよいが、この中でも直鎖状のシロキサン系化合物が好ましい。
【0087】
((ゴム質共重合体))
ゴム質共重合体としては、特に限定されないが、例えば、一般的なブタジエン系ABSゴム、アクリル系、ポリオレフィン系、シリコーン系、フッ素ゴム等の有機ゴム粒子を使用することができる。例えば、特公昭60-17406号公報、特開平8-245854公報、特公平7-68318号公報に開示されているアクリル系ゴム質重合体等が挙げられる。
【0088】
ゴム質共重合体としては、特に、二層以上の多層構造を有するゴム粒子が好ましく、上述した熱可塑性樹脂との相溶性の観点から、二層以上の多層構造を有するアクリル系多層ゴム粒子がより好ましい。さらに、二層構造のゴム粒子よりも三層構造以上の多層構造を有するゴム粒子を用いることにより、本実施形態の成形体の成形加工時の熱劣化や、加熱によるゴム粒子の変形が抑制され、成形体の耐熱性の維持や熱変形が抑制される傾向にあり、特に好ましい。
【0089】
三層構造以上の多層構造を有するゴム粒子とは、ゴム状ポリマーからなる軟質層と、ガラス状ポリマーからなる硬質層とが積層した多層構造のゴム粒子を言い、特に限定されないが、例えば、内側から軟質-硬質-軟質-硬質、軟質-硬質-硬質、軟質-軟質-硬質、硬質-軟質-硬質、硬質-硬質-軟質-硬質、硬質-軟質-硬質-硬質等の多層構造が挙げられ、好ましくは、内側から硬質層-軟質層-硬質層の順に形成された三層構造や、硬質-硬質-軟質-硬質、硬質-軟質-硬質-硬質の順に形成された四層構造を有する粒子である。
硬質層を最内層と最外層に有することにより、ゴム粒子の変形が抑制される傾向にあり、中央層に軟質成分を有することにより良好な靭性が付与される傾向にある。
【0090】
例えば、ゴム質重合体が三層構造のアクリル系ゴムにより形成されている場合の、最内層を形成する共重合体中のアクリル酸エステル単量体単位としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-へキシルが好適なものとして挙げられる。
【0091】
ゴム質共重合体の最内層(b-i)が、芳香族ビニル化合物単量体単位を共重合体成分として含む場合、芳香族ビニル化合物単量体単位としては、メタクリル系樹脂に使用される単量体と同様のものを用いることができるが、好ましくは、スチレン又はその誘導体が用いられる。
【0092】
ゴム質共重合体の最内層(b-i)が、共重合性多官能単量体単位を含む場合、当該共重合性多官能単量体単位としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アリル、トリアリルイソシアヌレート、マレイン酸ジアリル、ジビニルベンゼン等が挙げられる。これらは、一種又は二種以上を併用して用いることができる。
上記化合物の中でも特に好ましいのは、(メタ)アクリル酸アリルである。
【0093】
ゴム質共重合体が三層構造のアクリル系ゴム粒子により形成されている場合の、中央層(b-ii)を形成する共重合体は、熱可塑性樹脂組成物に優れた靭性を付与する観点から、軟質なゴム弾性を示す共重合体であることが好ましい。
【0094】
中央層(b-ii)を形成する共重合体を構成する単量体としてアクリル酸エステル単量体単位を有する場合、当該アクリル酸エステル単量体単位としては、特に限定されないが、好ましくは、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルへキシル等が挙げられ、これらから1種単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
特に、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-へキシルがより好ましい。
【0095】
また、中央層(b-ii)を形成する共重合体を構成するアクリル酸エステル単量体と共重合される単量体として、芳香族ビニル化合物単量体を用いる場合、当該芳香族ビニル化合物単量体としては、スチレン又はその誘導体が好ましい。
前記中央層(b-ii)を形成する共重合体中に、共重合性多官能単量体単位を含む場合、当該共重合性多官能単量体単位としては、上述した最内層(b-i)で用いられる共重合性多官能単量体と同様のものを用いることができ、その含有量としては、中央層(b-ii)全体に対して0.1質量%以上5質量%以下であると、良好な架橋効果を有し、かつ、架橋が適度でゴム弾性効果が大きくなる傾向にあるため好ましい。
【0096】
ゴム質共重合体が三層構造のアクリル系ゴム粒子により形成されている場合の、当該アクリル系ゴム粒子の最外層(b-iii)は、メタクリル酸メチルと、当該メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体との共重合体であることが好ましく、メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体単位としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-へキシルが好ましい。
【0097】
(その他の樹脂)
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、熱可塑性樹脂(A)以外のその他の樹脂を含有してもよい。その他の樹脂は、特に限定されるものではなく、公知の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が好適に使用される。
【0098】
その他の樹脂の含有量は、熱可塑性樹脂組成物100質量%において、熱可塑性樹脂(A)が50質量%以上のとき、50質量%未満としてよい。
【0099】
熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリアルキレンアリレート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、フェノール系樹脂等は難燃性を向上させる効果が期待できるために好ましい。
【0100】
熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、キシレン樹脂、トリアジン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ウレタン樹脂、オキセタン樹脂、ケトン樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、スチリルピリジン樹脂、シリコーン樹脂、合成ゴム等が挙げられる。
上述した樹脂は、一種のみを単独で用いても、二種以上の樹脂を組み合わせて用いてもよい。
【0101】
(熱可塑性樹脂組成物の製造方法)
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、本発明の効果を損なわない範囲で選択することができ、例えば、原料を溶融混練(コンパウンド)することによって得ることができる。
【0102】
各原料の混合順序としては、例えば、熱可塑性樹脂(A)及び硬質系改質剤(B)とその他の添加剤等とを一括で撹拌によって十分混合させた後で、後述する混練機に供給する方法や、熱可塑性樹脂(A)、硬質系改質剤(B)、その他の添加剤等をそれぞれ別々のフィーダーを用いて供給する方法により混合することができる。各成分の全量を一括投入する方法に比べて、各成分を別々に全量または一部混合物としてから投入する方法は、生産安定性や品質面で好ましい。
また、硬質系改質剤(B)とその他添加剤等を用い、熱可塑性樹脂(A)をベースとした高濃度のマスターバッチを溶融混練して調製し、そのマスターバッチを他の熱可塑性樹脂(A)を用いて薄めて溶融混練しても、本実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【0103】
溶融混練方法としては、例えば、押出機、加熱ロール、ニーダー、ローラミキサー、バンバリーミキサー等の混練機を用いて混練製造する方法が挙げられる。この中でも、特に、押出機による混練が、生産性の観点から好ましく、単軸よりも二軸押出機が好ましい。
混練温度は、熱可塑性樹脂(A)の好ましい加工温度に従えばよく、好ましくは140~300℃であり、より好ましくは180~290℃であり、さらに好ましくは160~280℃である。混練温度が300℃以下であることにより、熱可塑性樹脂(A)の熱分解による残存モノマーの発生をより抑制でき、残存モノマーの可塑化効果による耐熱性等の物性低下及び射出成形時のシルバーをより有効かつ確実に防止することができる傾向にある。
また、混練回転数は、熱可塑性樹脂組成物の着色や熱分解を防止する観点から、300rpm以下で行うことが好ましく、より好ましくは250rpm以下であり、さらに好ましくは200rpm以下である。
また、吐出量(kg/hr)/混練回転数(rpm)は、成形体表面の算術平均粗さRaや最大高さRzを制御する上で、1.0以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.3以下であることがさらに好ましい。
【0104】
(成形体の特性)
((算術平均粗さ(Ra)))
本実施形態の成形体は、算術平均粗さ(Ra)が0.02μm未満である表面を有する。中でも、本実施形態の成形体の全表面のRaが0.02μm未満であることが好ましい。
上記Raは、0.019μm以下であることが好ましく、0.018μm以下であることがより好ましく、0.017μm以下であることがさらに好ましい。算術平均粗さが0.02μm未満であると、後述する測定方法により測定される表面凹凸の割合(黒相面積の割合)が小さくなり、目視での表面ぎらつきが少なくなり、表面外観が良好となる。また、Raは、耐擦傷性の観点から、0.001μm以上としてよい。
なお、算術平均粗さ(Ra)は、JIS-B0601に準拠して、表面粗さ測定器を用いて測定される値であり、具体的には、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0105】
算術平均粗さ(Ra)を上記範囲に制御する方法としては、特に限定されないが、例えば、硬質系改質剤(B)の平均粒子径、硬質系改質剤(B)の表面処理、カーボンブラック等の添加剤の平均粒子径、成形体を射出成形する際の金型温度、金型を研磨する際に用いるやすりの番手等を調整する方法等が挙げられる。硬質系改質剤(B)の平均粒子径を2.0μm以下にするとRaが低下する傾向にあり、硬質系改質剤(B)に表面処理を施すとRaが低下する傾向にあり、カーボンブラック等の添加剤の平均粒子径を50nm以下にするとRaが低下する傾向にあり、成形体を射出成形する際の金型温度を50℃以上にするとRaが低下する傾向にあり、金型を研磨する際に用いるやすりの番手を大きくするとRaが低下する傾向にある。
【0106】
((最大高さ(Rz)))
本実施形態の成形体は、算術平均粗さ(Ra)が0.02μm未満である上記表面の最大高さ(Rz)が0.7μm以下であることが好ましい。中でも、本実施形態の成形体の全表面のRzが0.7μm以下であることがより好ましい。
上記Rzは、0.5μm以下であることがより好ましく、0.4μm以下であることがさらに好ましく、0.3μm以下であることがさらにより好ましい。最大高さが0.7μm以下であると、後述する測定方法により測定される表面凹凸の割合(黒相面積の割合)が小さくなり、目視での表面ぎらつきが少なくなり、表面外観が良好となる。また、Rzは、耐擦傷性の観点から、0.001μm以上としてよい。
なお、最大高さ(Rz)とは、ISO1997に準拠して表面粗さ測定器を用いて測定される値であり、評価曲線を基準長さ毎に区切り、この各基準長さにおいて、平均線から最も高い山頂までの高さと最も深い谷底までの深さとの和を求め、平均した値である。具体的には、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
さらに、前述した算術平均粗さRaと最大高さRzが共に好ましい範囲内にある場合、表面ぎらつき性に特に優れた成形体を得ることができる。
【0107】
((成形体の耐擦傷性))
本実施形態の成形体の漆黒性は、JIS Z 8729において採用されているL***表色系におけるSCE方式での明度の値(L*)で評価できる。「SCE方式」とは、JIS Z 8722に準拠した分光測色計を用い、光トラップによって正反射光を除去して色を測る方法を意味する。
耐擦傷性試験(スチールウール0.2kg荷重下、試験距離50mm、試験速度100mm/sで5回往復摺動)前後のL*値の差であるΔL*(ΔL*=(耐擦傷性試験後のL*)-(耐擦傷性試験前のL*))が2.0以下であることが、耐擦傷性の観点で好ましい。より好ましくは1.5以下であり、さらに好ましくは1.0以下、さらにより好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.6以下である。ΔL*が2.0以下であることにより、傷が付いていない周辺部との視認による区別が困難となり、傷が目立ち難くなる。
なお、L*及びΔL*は、具体的には、後述の実施例に記載の方法で測定することができ る。
【0108】
((成形体のビカット軟化温度))
本実施形態の成形体は、ビカット軟化温度(VST)が、好ましくは80℃以上であり、より好ましくは85℃以上であり、さらに好ましくは90℃以上であり、さらにより好ましくは、95℃以上である。また、ビカット軟化温度の上限は特にない。
なお、ビカット軟化温度は、ISO306 B50に準拠して測定することができ、具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0109】
((成形体の表面ぎらつき性))
本実施形態の成形体の表面ぎらつき性は、成形体表面の光学顕微鏡による撮影画像(倍率:150倍)を二値化処理して得られる解析画像において、解析画像の全面積に対する黒相の面積の割合を算出することにより、評価することができる。
二値化処理した解析画像において、正反射する部位は白く、拡散反射する部位は黒く見える。よって、表面の凹凸はこの黒相の面積に相関し、黒相の面積の割合が低いほど表面のぎらつきが少なく、良好であると評価することができる。
解析画像の全面積に対する黒相の面積の割合は、2.0%以下であることが好ましく、より好ましくは1.7%以下であり、さらに好ましくは1.5%以下であり、さらにより好ましくは1.3%以下であり、最も好ましくは1.0%以下である。
なお、黒相の面積の割合は、以下の方法で求めることができ、具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
成形体表面の光学顕微鏡による撮影画像(倍率:150倍、500μmスケール)をソフトフェア(ImageJ)で読み込み、大津の手法による二値化を実施する。その後、この二値化処理した解析画像を用いて、解析画像の全面積に対する黒相の面積の割合(%)を算出する。測定は、成形体表面の任意の複数箇所で行い、それぞれの解析画像から得られた黒相の面積の割合を平均した値を用いるものとする。
使用装置:VHX-6000(キーエンス社製)
使用ソフトウェア:ImageJ
撮影モード:同軸落射像
画像解析方法(二値化):大津の手法
【0110】
(成形体の製造方法)
本実施形態の成形体は、例えば、下記のようにして製造することができる。まず、必要に応じてペレットの形態で得られた上記熱可塑性樹脂組成物を射出成形機の金型キャビティ内に投入する。この際、金型としては成形体の形状に対応する形状の金型キャビティを有し、かつ、ウエルド発生を抑制する観点で1点ゲートである金型を用いることが好ましい。また、その金型におけるゲートの位置は、最終的に得られる成形体において別部材によって覆われることで目視にて確認できなくなるような部分と接触する位置であると好ましい。次いで、その射出成形機により所定の条件にて熱可塑性樹脂組成物を射出成形する。こうして本実施形態の射出成形体を得ることができる。
【0111】
また、射出成形時の金型温度は、金型表面を研磨した場合に研磨された金型表面の転写性をより高める観点、及び、熱可塑性樹脂(A)のガラス転移温度を考慮して過度な冷却を抑制する観点から、50℃以上100℃以下であることが好ましく、55℃以上95℃以下であることがより好ましく、60℃以上90℃以下であることがさらに好ましい。50℃以上であることにより、表面光沢が良好となる傾向にあり、100℃以下であることにより、生産性を維持できる傾向にある。
【0112】
また、金型を研磨する際に用いるやすりの番手が5000番手以上であることが好ましく、7000番手以上であることがより好ましく、8000番手以上であることがさらに好ましく、10000番手以上であることがさらにより好ましく、12000番手以上であることが特に好ましい。金型の番手が5000番以上であると、算術平均粗さRaや最大高さRzが良好となる傾向にある。
【0113】
射出成形時の成形温度は、流動性及び熱分解性の観点から、140~290℃の範囲に調整することが好ましく、より好ましくは160~280℃の範囲であり、さらに好ましくは180~270℃の範囲である。
【0114】
(成形体の用途)
本実施形態の成形体は、表面ぎらつき性が低く、優れた耐擦傷性が求められる用途に好適に用いることができる。
このような用途としては、特に限定されないが、例えば、家具類、家庭用品、収納・備蓄用品、壁・屋根等の建材、玩具・遊具、パチンコ面盤等の趣味用途、医療・福祉用品、OA機器、AV機器、電池電装用、照明機器、船舶、航空機の構造の車体部品、車両用部品等に使用可能であり、特に光学用途、電気・電子用途、車体部品や車両用部品等の車両用途の筐体又は意匠材に好適に用いることができる。
【0115】
光学用途としては、例えば、各種レンズ、タッチパネル等、また、太陽電池に用いられる透明基盤等が挙げられる。
その他、光通信システム、光交換システム、光計測システムの分野において、導波路、光ファイバー、光ファイバーの被覆材料、LEDのレンズ、レンズカバー、EL照明等のカバー等としても利用することができる。
【0116】
電気・電子用途としては、例えば、パソコン、ゲーム機、テレビ、カーナビ、電子ペーパーなどのディスプレイ装置、プリンター、コピー機、スキャナー、ファックス、電子手帳やPDA、電子式卓上計算機、電子辞書、カメラ、ビデオカメラ、携帯電話、電池パック、記録媒体のドライブや読み取り装置、マウス、テンキー、CDプレーヤー、MDプレーヤー、携帯ラジオ・オーディオプレーヤー等が挙げられる。特に、テレビ、パソコン、カーナビ、電子ペーパー等の筐体の意匠性部品等に好適に用いることができる。
【0117】
特に、二輪車用又は自動車用の意匠材として用いられることが好ましい。自動車用の意匠材としては、例えば自動車外装用意匠材及び自動車内装用意匠材が挙げられるが、本発明による作用効果をより有利に活用する観点から、自動車外装用意匠材が好ましい。本実施形態の自動車外装用意匠材としては、例えば、テールランプガーニッシュ、リアランプガーニッシュ、フロントランプガーニッシュ、ピラーガーニッシュ、フロントグリル、リアグリル、ライセンスガーニッシュ、ホイールセンターキャップ、ナンバープレートガーニッシュ、及びドラミラーカバーが挙げられ、これらが好適である。これらの用途は総じて、薄肉の長手部品であり、意匠性が重要視されるものである。
【実施例
【0118】
以下、実施例により本実施形態を具体的に説明するが、本実施形態は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0119】
〔測定、評価方法〕
<I.熱可塑性樹脂(A)の分子量及び分子量分布>
熱可塑性樹脂(A)の重量平均分子量、分子量分布を下記装置、及び条件で測定した。
測定装置:東ソー社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(HLC-8320GPC)
カラム :TSKgel SuperH2500 1本、TSKgel SuperHM-M 2本、TSKguardcolumn SuperH-H 1本、直列接続
本カラムでは、高分子量が早く溶出し、低分子量は溶出する時間が遅い。
検出器 :RI(示差屈折)検出器
検出感度 :3.0mV/min
カラム温度:40℃
サンプル :0.02gの熱可塑性樹脂のテトラヒドロフラン10mL溶液
注入量 :10μL
展開溶媒 :テトラヒドロフラン、流速;0.6mL/min
検量線用標準サンプルとして、単分散の重量ピーク分子量が既知で分子量が異なる以下の10種のポリメタクリル酸メチル(Polymethyl methacrylate Calibration Kit PL2020-0101 M-M-10)を用いた。
なお、検量線用標準サンプルに用いたポリメタクリル酸メチルは、それぞれの単ピークのピーク分子量は以下のものを使用した。
ピーク分子量
標準試料1 1,916,000
標準試料2 625,500
標準試料3 298,900
標準試料4 138,600
標準試料5 60,150
標準試料6 27,600
標準試料7 10,290
標準試料8 5,000
標準試料9 2,810
標準試料10 850
上記の条件で、熱可塑性樹脂(A)の溶出時間に対する、RI検出強度を測定した。
GPC溶出曲線におけるエリア面積と、3次近似式の検量線を基に熱可塑性樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、GPCピークトップ分子量(Mp)及びGPCピークトップ分子量(Mp)の1/5以下の分子量を有する成分の割合(%)を求めた。
【0120】
<II.熱可塑性樹脂(A)の構造単位の解析>
1H-NMR測定により熱可塑性樹脂(A)の構造単位を同定し、その存在量(質量%)を算出した。
1H-NMR測定の測定条件は、以下のとおりである。
装置:JEOL-ECA500
溶媒:CDCl3-d1(重水素化クロロホルム)
試料:熱可塑性樹脂(A)15mgをCDCl3-d1 0.75mLに溶解し、測定用サンプルとした。
【0121】
<III.熱可塑性樹脂(A)の溶融粘度>
熱可塑性樹脂(A)を80℃で16時間乾燥の後、溶融粘度(Pa・s)を以下の条件で測定した。
装置:ツインキャピラリーレオメーター(ロザンド社製)
温度:250℃
シェアレート:100/s
オリフィス/ロングダイ:L=16mm、D=1φmm、入射角度180°
ショートダイ:L=0.25mm、D=1φmm、入射角度180°
【0122】
<IV.耐擦傷性>
スチールウール摺動試験
耐擦傷性の評価として、スチールウール摺動試験を以下の方法で実施した。
実施例及び比較例で得られた射出成形された平板状評価用試料を用いて、学振型摩擦試験機(大栄科学精器製作所社製、RT-200)の1cm四角冶具の先端にスチールウール(品番:TSW0000-200、番手:#0000超極細)をセットし、スチールウールがずれないよう固定した後、荷重0.2kg下、試験距離50mm、試験速度100mm/sの条件にて、試料の表面上で樹脂の流動方向に対して垂直な方向に、スチールウールを5回往復摺動させた。耐傷擦性試験前後の明度L*を測定し、次式によりその差ΔL*を算出した。この値が小さい程、耐擦傷性に優れると判断した。
ΔL*=耐傷擦性試験後のL*-耐傷擦性試験前のL*
得られたΔL*を次の評価基準で判断した。
〈評価基準〉
◎(優れる):ΔL*≦1.0
○(やや優れる):1.0<ΔL*≦2.0
×(劣る):2.0<ΔL*
なお、明度L*は、JIS Z 8722に準拠した分光測色計(コニカミノルタジャパン社製、「CM-700d」)を用いて、SCE方式(10°視野/D65光源)にて測定した。
【0123】
<V.算術平均粗さ(Ra)>
実施例及び比較例で得られた平板状評価用試料について、表面外観の評価として、評価用試料の表面の算術平均粗さ(Ra)(μm)を、表面粗さ測定器(SURFTEST SJ-210、株式会社ミツトヨ社製)を用いてJIS-B0601に準拠して測定し、目視評価とともに次の評価基準で判断した。なお、測定は、試料表面の中央付近の3ヵ所で行い、測定値の平均を算出してRaとした。
【0124】
<VI.最大高さ(Rz)>
実施例及び比較例で得られた平板状評価用試料について、表面外観の評価として、評価用試料の表面の最大高さ(Rz)(μm)を表面粗さ測定器(SURFTEST SJ-210、株式会社ミツトヨ社製)を用いてISO1997に準拠し、測定した。
なお、最大高さ(Rz)とは、評価曲線を基準長さ毎に区切り、この各基準長さにおいて、平均線から最も高い山頂までの高さと最も深い谷底までの深さとの和を求め、平均した値である。
【0125】
<VII.耐熱性>
耐熱性の評価として、実施例及び比較例の熱可塑性樹脂(A)及び射出成形により得られた平板状評価用試料を用いて、ビカット軟化温度(VST)(℃)を、HDT試験装置(ヒートディストーションテスター)(東洋精機製作所社製)を用いて、ISO306 B50に準じて、測定した。荷重は50Nとし、昇温速度は50℃/時間とした。
【0126】
<VIII.表面ぎらつき性>
表面ぎらつき性の評価を、以下の方法で実施した。
実施例及び比較例で得られた射出成形された平板状評価用試料を用い、光学顕微鏡にて、倍率150倍(500μmスケール)条件で平板試料の表面の凹凸状態を観察した。得られた光学顕微鏡画像をソフトフェア(ImageJ)で読み込み、大津の手法による二値化を実施した。その後、この二値化処理した解析画像を用いて、解析画像の全面積(1749.27μm×2332.36μm)に対する黒相の面積の割合(%)を算出した。解析画像は、試料表面の任意の3箇所で取得し、それぞれの解析画像から得られた黒相の面積の割合を平均した値を測定結果とした。
なお、二値化により、正反射する部位が白く、拡散反射する部位は黒く見える。よって、表面の凹凸は、この黒相の面積に相関する。
使用装置:VHX-6000(キーエンス社製)
使用ソフトウェア:ImageJ
撮影モード:同軸落射像
画像解析方法(二値化):大津の手法
〈評価基準〉
◎:黒相面積の割合(%)≦1.0%(目視にてぎらつきが殆ど無し)
○:1.0%<黒相面積の割合(%)≦2.0%(目視にてぎらつきがわずかにある)
×:2.0%<黒相面積の割合(%)(目視にてぎらつきあり)
【0127】
<総合評価>
総合評価を以下の判定基準で実施した。
上記の耐擦傷性、表面ぎらつき性にて成形体評価を実施し、総合評価を以下の評価基準で行った。
〈評価基準〉
◎(優れる):上記評価でいずれか2つ以上が◎であり、×はなし
○(やや優れる):上記評価でいずれか1つが◎であり、×はなし
△(良好):上記評価ですべて○である
×(劣る):上記評価でいずれか1つでも×がある
【0128】
〔熱可塑性樹脂組成物〕
後述する実施例及び比較例で、熱可塑性樹脂組成物の製造に用いた熱可塑性樹脂(A)、硬質系改質剤(B)、硬質系改質剤以外の添加剤、染料(C)、カーボンブラック(D)について、以下記載する。
【0129】
〔実施例及び比較例において用いた原料〕
(熱可塑性樹脂(A))
熱可塑性樹脂(A)として用いた市販品、及び熱可塑性樹脂(A)の製造に用いた原料は下記のとおりである。
・ポリカーボネート
三菱エンジニアリング社製 グレード名:H-3000
重量平均分子量:3.8万、分子量分布:2.3、ビカット軟化温度:140℃
・ポリスチレン
PSジャパン社製 グレード名:G9305
重量平均分子量:25万、分子量分布:2.3、ビカット軟化温度:102℃
構造単位は、St:100質量%であった。
・PC/ABS
日本エイアンドエル製 グレード名:テクニエースH-270、色番901(黒色)
ビカット軟化温度:130℃
【0130】
・メタクリル系樹脂
メタクリル系樹脂は、下記製造例A1~A3により製造した(A-1)~(A-3)のメタクリル系樹脂を使用した。
メタクリル系樹脂の原料
・メタクリル酸メチル(MMA):旭化成ケミカルズ製(重合禁止剤として中外貿易製2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール(2,4-di-methyl-6-tert-butylphenol)を2.5質量ppm添加されているもの)
・アクリル酸メチル(MA):三菱化学製(重合禁止剤として川口化学工業製4-メトキシフェノール(4-methoxyphenol)が14質量ppm添加されているもの)
・n-フェニルマレイミド(PMI):日本触媒製
・スチレン(St):旭化成製
・n-オクチルメルカプタン(n-octylmercaptan):アルケマ製
・2-エチルヘキシルチオグリコレート(2-ethylhexyl thioglycolate):アルケマ製
・ラウロイルパーオキサイド(lauroyl peroxide):日本油脂製
・第三リン酸カルシウム(calcium phosphate):日本化学工業製、懸濁剤として使用
・炭酸カルシウム(calcium calbonate):白石工業製、懸濁剤として使用
・ラウリル硫酸ナトリウム(sodium lauryl sulfate):和光純薬製、懸濁助剤として使用
【0131】
<製造例A1(メタクリル系樹脂(A-1)の製造)>
攪拌機を有する容器に、イオン交換水:2kg、第三リン酸カルシウム:65g、炭酸カルシウム:39g、ラウリル硫酸ナトリウム:0.39gを投入し、混合液(a)を得た。
次いで、60Lの反応器に、イオン交換水:26kgを投入して80℃に昇温し、混合液(a)、メタクリル酸メチル:21.2kg、アクリル酸メチル:0.43kg、ラウロイルパーオキサイド:27g、及びn-オクチルメルカプタン:58gを投入した。
その後、約80℃を保って懸濁重合を行った。原料を投入してから140分後に発熱ピークが観測された。発熱ピークを観測後、92℃に1℃/minの速度で昇温し、60分間熟成し、重合反応を実質終了した。
次いで、50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために、20質量%硫酸を投入後、重合反応溶液を、1.68mmメッシュの篩にかけて凝集物を除去し、得られたビーズ状ポリマーを洗浄脱水乾燥処理し、ポリマー微粒子を得た。
得られたポリマー微粒子を240℃に設定したφ26mmの二軸押出機にて溶融混練し、ストランドを冷却裁断して樹脂ペレット〔メタクリル系樹脂(A-1)〕を得た。
得られた樹脂ペレットの重量平均分子量は10.2万であり、ピークトップ分子量(Mp)は10.9万であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.85であった。さらに、Mp値の1/5以下の分子量成分の存在量(%)は、4.5%であった。また、構造単位はMMA/MA=98/2(質量%)、ビカット軟化温度は110℃であった。また、250℃、100/sシェアレートでの溶融粘度は、990Pa・sであった。
【0132】
<製造例A2(メタクリル系樹脂(A-2)の製造)>
(1段目)
攪拌機を有する容器に、イオン交換水:2kg、第三リン酸カルシウム:65g、炭酸カルシウム:39g、ラウリル硫酸ナトリウム:0.39gを投入し、混合液(b)を得た。
次いで、60Lの反応器に、イオン交換水:23kgを投入して80℃に昇温し、混合液(b)、メタクリル酸メチル:5.5kg、ラウロイルパーオキサイド:40g、及び2-エチルヘキシルチオグリコレート:90gを投入した。その後、約80℃を保って懸濁重合を行った。原料を投入してから80分後に発熱ピークが観測された。このときの重合体の重量平均分子量は、2.7万であった。
(2段目)
次いで、92℃に1℃/min速度で昇温した後、30分間92℃~94℃の温度を保持した。その後、1℃/minの速度で80℃まで降温した後、次いで、メタクリル酸メチル:16.2kg、アクリル酸メチル:0.75kg、ラウロイルパーオキサイド:21g、n-オクチルメルカプタン:17.5gを投入し、引き続き約80℃を保って懸濁重合を行った。原料を投入してから105分後に発熱ピークが観測された。その後、92℃に1℃/minの速度で昇温した後、60分間熟成し、重合反応を実質終了した。
次に、50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために、20質量%硫酸を投入後、重合反応溶液を、1.68mmメッシュの篩にかけて凝集物を除去し、得られたビーズ状ポリマーを洗浄脱水乾燥処理し、ポリマー微粒子を得た。得られたポリマー微粒子を240℃に設定したφ26mmの二軸押出機にて溶融混練し、ストランドを冷却裁断して樹脂ペレット〔メタクリル系樹脂(A-2)〕を得た。
得られた樹脂ペレットの重量平均分子量は17.2万であり、ピークトップ分子量(Mp)は19.7万であり、分子量分布(Mw/Mn)は3.65であった。さらに、Mp値の1/5以下の分子量成分の存在量(%)は24.5%であった。また、構造単位はMMA/MA=96.5/3.5(質量%)、ビカット軟化温度は107℃であった。また、250℃、100/sシェアレートでの溶融粘度は、1200Pa・sであった。
【0133】
<製造例A3(メタクリル系樹脂(A-3)の製造)>
攪拌機を有する容器に、イオン交換水:2kg、第三リン酸カルシウム:65g、炭酸カルシウム:39g、ラウリル硫酸ナトリウム:0.39gを投入し、混合液(c)を得た。
次いで、60Lの反応器に、イオン交換水:26kgを投入して75℃に昇温し、混合液(d)、メタクリル酸メチル:16.8kg、フェニルマレイミド:2.93kg、スチレン:1.04kg、ラウロイルパーオキサイド:27g、及びn-オクチルメルカプタン:43gを投入した。その後、約75℃を保って懸濁重合を行った。原料を投入してから135分後に発熱ピークが観測された。発熱ピークを観測後、92℃に1℃/minの速度で昇温し、120分間熟成し、重合反応を実質終了した。
次いで、50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために、20質量%硫酸を投入後、重合反応溶液を、1.68mmメッシュの篩にかけて凝集物を除去し、得られたビーズ状ポリマーを洗浄脱水乾燥処理し、ポリマー微粒子を得た。
得られたポリマー微粒子を240℃に設定したφ26mmの二軸押出機にて溶融混練し、ストランドを冷却裁断して樹脂ペレット〔メタクリル系樹脂(A-3)〕を得た。
得られた樹脂ペレットの重量平均分子量は12.3万であり、ピークトップ分子量(Mp)は10.9万であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.83であった。さらに、Mp値の1/5以下の分子量成分の存在量(%)は、4.0%であった。また、構造単位はMMA/PMI/St=81/14/5(質量%)、ビカット軟化温度は125℃であった。また、250℃、100/sシェアレートでの溶融粘度は、970Pa・sであった。
【0134】
(硬質系改質剤(B))
下記市販の硬質系改質剤を用いた。
B-1:非晶質シリカ(球状、平均粒子径0.3μm)(3SM-C1、メタクリルシラン表面処理、(株)アドマテックス社製、ビッカース硬度:9GPa)
B-2:非晶質シリカ(球状、平均粒子径0.5μm)(SC2500-SMJ、メタクリルシラン表面処理、(株)アドマテックス社製、ビッカース硬度:9GPa)
B-3:非晶質シリカ(球状、平均粒子径1.5μm)(SC5500-SMJ、メタクリルシラン表面処理、(株)アドマテックス社製、ビッカース硬度:9GPa)
B-4:非晶質シリカ(球状、平均粒子径1.5μm)(アドマファインS0-C5、表面未処理(株)アドマテックス社製、ビッカース硬度:9GPa)
B-5:酸化アルミニウム(球状、平均粒子径0.6μm)(A2-SM-C5、メタクリルシラン表面処理、(株)アドマテックス社製、ビッカース硬度:15GPa)
B-6:SiC(球状、平均粒子径0.57μm)(Sintec 15C/サンゴバン(株)社製、ビッカース硬度:24GPa)
【0135】
(硬質系改質剤以外の添加剤)
B’-1:ポリエステル基を有するポリシロキサン系化合物(TEGOMER(登録商標)H-Si 6440P、エボニック社製、ビッカース硬度:1GPa以下)
【0136】
(染料(C))
染料としては、表1に記載の市販品を用い、それらをコンパウンド原料とした。それぞれの配合量は表3に示す。
【0137】
【表1】
【0138】
(カーボンブラック(D))
D-1については、表2に記載のカーボンブラックD-0に対して、コーティング剤を用いて表面コーティング処理を施した。具体的には、まず、カーボンブラックD-0の1.5倍の質量のコーティング剤を量り取り、それを融点以上である160℃に加熱して溶融させた後、所定量のカーボンブラックをその融液の中へ投入し撹拌した。なお、ステアリン酸亜鉛の融点は約140℃である。十分撹拌して分散させた後、冷却して、表面がコーティングされたカーボンブラックを得た。
【0139】
【表2】
【0140】
〔実施例1~16〕〔比較例1~5〕
表3に記載の配合割合になるよう、熱可塑性樹脂(A)、硬質系改質剤(B)、硬質系改質剤以外の添加剤、染料(C)、及びカーボンブラック(D)をそれぞれ計量した後、熱可塑性樹脂組成物を100質量部として、熱可塑性樹脂(A)80質量部と、残りの熱可塑性樹脂(A)と硬質系改質剤(B)とその他の成分との合計20質量部とを、同じバレルに別々のフィーダーを用いてφ26mmの二軸押出機に投入した。
溶融混練(コンパウンド)してストランドを生成し、ウォーターバスでそのストランドを冷却した後、ペレタイザーで切断してペレットを得た。なお、コンパウンドの際、押出機のベント部に真空ラインを接続し、水分やモノマー成分等の揮発成分を除去した。こうして、熱可塑性樹脂組成物を得た。なお、コンパウンド時の熱可塑樹脂組成物の混練温度及び吐出量(kg/hr)/回転数(rpm)を、表3に示す。
【0141】
〔平板状評価用試料(成形体)〕
(射出成形)
得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを射出成形機に投入し、平板状(100mm×100mm×t3mm)に成形し、評価用試料とした。なお、金型は、金型表面(金型キャビティ内面)が8000番の磨き番手で研磨されているものを用いた。そして、その磨き番手で研磨されている側の金型表面が転写されている表面を評価用試料の試験面とした。
この評価用試料の成形条件は、表3に示すように設定した。
なお、得られた評価用試料の含有成分、及び各成分の質量割合は熱可塑性樹脂組成物と同じであった。
【0142】
【表3】
【0143】
実施例1~5は、硬質系改質剤(B)を含有し、成形体表面の算術平均粗さRaが適切であったため、表面ぎらつきの少ない、耐擦傷性に優れる成形体であった。
実施例6~8においては、成形時の金型温度が75、85、100℃で実施したため、実施例5に比べて、表面ぎらつき性や耐擦傷性がより実用上良好なレベルにあった。
実施例9では、実施例2に対して、硬質系改質剤(B)以外の摺動剤をさらに添加したため、耐擦傷性がやや良化傾向にあった。
実施例10では、熱可塑性樹脂(A)として、溶融粘度がやや低い樹脂を使用したため、実施例2に比べて、硬質系改質剤(B)の分散性の違いにより、表面ぎらつき性や耐擦傷性がやや低下傾向にあったが、実用上優れたレベルにあった。
実施例11では、熱可塑性樹脂(A)として、耐熱系樹脂を用いたため、他の実施例に比べて、耐熱性の優れる成形体であった。
実施例12、13においては、硬質系改質剤(B)として酸化アルミニウムやSiCを使用したが、実用上優れたレベルにあった。
実施例14~16においては、熱可塑性樹脂(A)として、メタクリル系樹脂以外を使用したが、実用上優れたレベルにあった。
一方で、比較例1~4においては、成形体表面の算術平均粗さRaが0.02μm以上となり、表面ぎらつき性が不十分であった。
比較例5では、硬質系改質剤(B)を添加しておらず、耐擦傷性が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本実施形態の成形体の利用に関しては、低い表面ぎらつき性、および優れた耐擦傷性が要求される用途に対して、全般的に産業上利用可能である。