(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20230726BHJP
【FI】
F16H1/32 B
(21)【出願番号】P 2019089800
(22)【出願日】2019-05-10
【審査請求日】2022-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(72)【発明者】
【氏名】鎌形 州一
(72)【発明者】
【氏名】三好 洋之
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-222168(JP,A)
【文献】特開2013-194836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に内歯を有する環状の剛性内歯歯車と、
前記剛性内歯歯車の内側に配され、外周面に前記内歯に噛み合い可能な外歯を有する可撓性外歯歯車と、
前記可撓性外歯歯車の内側に配され、前記可撓性外歯歯車を径方向に撓めることにより前記外歯を前記内歯に噛み合わせると共に、前記外歯と前記内歯との噛み合わせ位置を周方向に移動させる第一波動発生器と、
前記可撓性外歯歯車の内側に配され、前記可撓性外歯歯車を径方向に撓めることにより前記外歯を前記内歯に噛み合わせると共に、前記外歯と前記内歯との噛み合わせ位置を周方向に移動させる第二波動発生器と、
を備え
、
前記第一波動発生器及び前記第二波動発生器は、それぞれ軸方向から見て楕円形に形成されることで、それぞれ前記可撓性外歯歯車を径方向に撓めて楕円形に変形させて、前記外歯を周方向の異なる二つの箇所で前記内歯に噛み合わせ、
前記第一波動発生器及び前記第二波動発生器の長径方向が周方向に互いにずれて位置することで、前記第一波動発生器及び前記第二波動発生器が前記可撓性外歯歯車のうち周方向で互いに異なる部位を径方向に撓める波動歯車装置。
【請求項2】
前記第一波動発生器及び前記第二波動発生器が、前記可撓性外歯歯車のうち前記周方向で互いに90度ずれて位置する部位を径方向に撓める
請求項1に記載の波動歯車装置。
【請求項3】
前記第一波動発生器及び前記第二波動発生器は互いに軸方向に間隔をあけて配列され、
前記軸方向における前記第一波動発生器と前記第二波動発生器との間隔が、前記軸方向における前記第一波動発生器又は前記第二波動発生器の厚さ以上である
請求項1又は請求項2に記載の波動歯車装置。
【請求項4】
前記可撓性外歯歯車の内周と
前記第一波動発生器及び前記第二波動発生器の
各外周との間で周方向に配列された複数の転動体と、
周方向における前記転動体の間で径方向における前記可撓性外歯歯車の内周と
前記第一波動発生器及び前記第二波動発生器の
各外周との隙間を保持する保持器と、
を備える
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の波動歯車装置。
【請求項5】
前記保持器が径方向に圧縮力を受けたときに径方向に縮む保持器の縮み長さは、径方向における前記内歯と前記外歯との噛み合わせの長さよりも小さい
請求項4に記載の波動歯車装置。
【請求項6】
径方向における前記保持器の寸法をL2、径方向における前記可撓性外歯歯車の内周と
前記第一波動発生器及び前記第二波動発生器の
各外周との隙間の寸法をL1、径方向における前記内歯と前記外歯との噛み合わせの長さをH1とし、
これら前記保持器の寸法L2、前記隙間の寸法L1及び噛み合わせの長さH1は、
L1-H1≦L2≦L1
を満たしている
請求項4又は請求項5に記載の波動歯車装置。
【請求項7】
前記保持器は、それぞれ別個に形成されて隣り合う前記転動体の間に配される複数の保持部材を備える
請求項4から請求項6のいずれか一項に記載の波動歯車装置。
【請求項8】
前記可撓性外歯歯車の内周と
前記第一波動発生器及び前記第二波動発生器の
各外周との間で周方向に配列された複数の第一転動体を有する第一転動体群と、
前記第一転動体群の隣で周方向に配列され前記第一転動体と周方向に交互に配置される複数の第二転動体を有する第二転動体群と、
を備える
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、波動歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハンドリングロボット等の駆動機構における減速装置には、波動歯車装置(例えば特許文献1参照)が採用されることがある。
波動歯車装置は、内周面に内歯を有する環状の剛性内歯歯車(サーキュラスプライン)、外周面に外歯を有する可撓性外歯歯車(フレクスプライン)、及び、波動発生器(ウェーブジェネレータ)を備える。可撓性外歯歯車の外歯の数は、剛性内歯歯車の内歯の数よりも少ない。波動発生器は、剛性内歯歯車の内側に配された可撓性外歯歯車を楕円状に撓めることで、可撓性外歯歯車の外歯を剛性内歯歯車の内歯に噛み合わせる。また、波動発生器は、回転することで、これら外歯と内歯との噛み合わせ位置を周方向に移動させる。可撓性外歯歯車は、内歯と外歯との歯数の差に基づいて、剛性内歯歯車に対して相対的に回転する。可撓性外歯歯車の回転速度は、波動発生器の回転速度よりも小さい。これにより、波動歯車装置では、減速された回転出力を可撓性外歯歯車から得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、波動歯車装置では、波動発生器が急停止する等して波動発生器の回転に急激な変化が生じると、可撓性外歯歯車には、衝撃などの過大な負荷が作用する。この場合、可撓性外歯歯車は、過大な負荷により径方向に変形して、剛性内歯歯車に対して歯飛びしてしまう(内歯と外歯との噛み合い位置が意図せずずれてしまう)、という問題がある。
【0005】
本発明は、歯飛びを抑制できる波動歯車装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る波動歯車装置は、内周面に内歯を有する環状の剛性内歯歯車と、前記剛性内歯歯車の内側に配され、外周面に前記内歯に噛み合い可能な外歯を有する可撓性外歯歯車と、前記可撓性外歯歯車の内側に配され、前記可撓性外歯歯車を径方向に撓めることにより前記外歯を前記内歯に噛み合わせると共に、前記外歯と前記内歯との噛み合わせ位置を周方向に移動させる第一波動発生器と、前記可撓性外歯歯車の内側に配され、前記可撓性外歯歯車を径方向に撓めることにより前記外歯を前記内歯に噛み合わせると共に、前記外歯と前記内歯との噛み合わせ位置を周方向に移動させる第二波動発生器と、を備え、前記第一波動発生器及び前記第二波動発生器は、それぞれ軸方向から見て楕円形に形成されることで、それぞれ前記可撓性外歯歯車を径方向に撓めて楕円形に変形させて、前記外歯を周方向の異なる二つの箇所で前記内歯に噛み合わせ、前記第一波動発生器及び前記第二波動発生器の長径方向が周方向に互いにずれて位置することで、前記第一波動発生器及び前記第二波動発生器が前記可撓性外歯歯車のうち周方向で互いに異なる部位を径方向に撓める。
【0007】
このように構成することで、波動発生器が一つである場合と比較して、剛性内歯歯車の内歯と可撓性外歯歯車の外歯との噛み合わせ位置を増やすことができる。このため、内歯と外歯とを強固に噛み合わせることができる。これにより、波動発生器の回転に急激な変化が生じる等して、可撓性外歯歯車に大きな負荷が作用しても、可撓性外歯歯車が剛性内歯歯車に対して歯飛びすることを抑制できる。
【0009】
また、このように構成することで、第一波動発生器による内歯と外歯との第一噛み合わせ位置と、第二波動発生器による内歯と外歯との第二噛み合わせ位置とが、周方向に互いにずれて位置する。これにより、内歯と外歯とをより強固に噛み合わせることができる。したがって、剛性内歯歯車に対する可撓性外歯歯車の歯飛びを効果的に抑制できる。
【0010】
上記構成であって、前記第一波動発生器及び前記第二波動発生器が、前記可撓性外歯歯車のうち前記周方向で互いに90度ずれて位置する部位を径方向に撓めてもよい。
【0011】
このように構成することで、第一波動発生器による内歯と外歯との第一噛み合わせ位置と、第二波動発生器による内歯と外歯との第二噛み合わせ位置とを、周方向に均等に配置することができる。このため、内歯と外歯との噛み合わせを効果的に強化できる。したがって、剛性内歯歯車に対する可撓性外歯歯車の歯飛びをさらに効果的に抑制できる。
【0012】
上記構成であって、前記軸方向における前記第一波動発生器と前記第二波動発生器との間隔が、前記軸方向における前記第一波動発生器又は前記第二波動発生器の厚さ以上であってもよい。
【0013】
このように構成することで、第一波動発生器による内歯と外歯との第一噛み合わせ位置と、第二波動発生器による内歯と外歯との第二噛み合わせ位置とを、軸方向に互いに離すことができる。このため、第一、第二波動発生器による内歯と外歯との噛み合わせ位置が周方向で互いに異なることに伴って可撓性外歯歯車に生じる応力を緩和できる。
【0014】
上記構成であって、前記可撓性外歯歯車の内周と前記第一波動発生器及び前記第二波動発生器の各外周との間で周方向に配列された複数の転動体と、周方向における前記転動体の間で径方向における前記可撓性外歯歯車の内周と前記第一波動発生器及び前記第二波動発生器の各外周との隙間を保持する保持器と、をさらに備えてもよい。
【0015】
このように構成することで、保持器によって、径方向における可撓性外歯歯車の内周と波動発生器の外周との間隔が、周方向に隣り合う転動体の間の領域で小さくなることを抑制できる。このため、波動発生器の回転に急激な変化が生じる等して、可撓性外歯歯車に大きな負荷が作用しても、可撓性外歯歯車が転動体の間の領域で径方向の内側に変形することを保持器によって抑制できる。これにより、可撓性外歯歯車が剛性内歯歯車に対して歯飛びすることを抑制できる。
【0016】
上記構成であって、前記保持器が径方向に圧縮力を受けたときに径方向に縮む保持器の縮み長さは、径方向における前記内歯と前記外歯との噛み合わせの長さよりも小さくてもよい。
【0017】
このように構成することで、保持器が外力によって径方向に縮み変形し、保持器が縮んだ長さの分だけ、可撓性外歯歯車が転動体の間の領域で径方向の内側に変形しても、可撓性外歯歯車の外歯が剛性内歯歯車の内歯から外れることを防止できる。すなわち、可撓性外歯歯車が剛性内歯歯車に対して歯飛びすることを防ぐことができる。
【0018】
上記構成であって、径方向における前記保持器の寸法をL2、径方向における前記可撓性外歯歯車の内周と前記第一波動発生器及び前記第二波動発生器の各外周との隙間の寸法をL1、径方向における前記内歯と前記外歯との噛み合わせの長さをH1とし、これら前記保持器の寸法L2、前記隙間の寸法L1及び噛み合わせの長さH1は、
L1-H1≦L2≦L1
を満たしてもよい。
【0019】
このように構成することで、可撓性外歯歯車が転動体の間の領域で径方向の内側に変形しても、可撓性外歯歯車の外歯が剛性内歯歯車の内歯から外れることを防止できる。すなわち、可撓性外歯歯車が剛性内歯歯車に対して歯飛びすることを防ぐことができる。
【0020】
上記構成であって、前記保持器は、それぞれ別個に形成されて隣り合う前記転動体の間に配される複数の保持部材を備えてもよい。
【0021】
このように構成することで、複数の保持部材をそれぞれ別個に形成した保持器は、複数の保持部材を一体に固定した保持器と比較して、材料の歩留まりを向上できる。
【0022】
上記構成であって、前記可撓性外歯歯車の内周と前記第一波動発生器及び前記第二波動発生器の各外周との間で周方向に配列された複数の第一転動体を有する第一転動体群と、前記第一転動体群の隣で周方向に配列され前記第一転動体と周方向に交互に配置される複数の第二転動体を有する第二転動体群と、をさらに備えてもよい。
【0023】
このように構成することで、第一転動体と第二転動体とを周方向で隙間なく並べることができる。このため、波動発生器の回転に急激な変化が生じる等して、可撓性外歯歯車に大きな負荷が作用しても、可撓性外歯歯車が径方向の内側に変形することを抑制できる。これにより、可撓性外歯歯車が剛性内歯歯車に対して歯飛びすることを抑制できる。
【発明の効果】
【0024】
上述の波動歯車装置では、可撓性外歯歯車が剛性内歯歯車に対して歯飛びしてしまうことを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る波動歯車装置の断面図である。
【
図4】本発明の第二実施形態に係る波動歯車装置の要部を示す図である。
【
図5】本発明の第三実施形態に係る波動歯車装置に備える軸受を径方向から見た模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
〔第一実施形態〕
以下、
図1~3を参照して本発明の第一実施形態について説明する。
図1~3に示すように、第一実施形態に係る波動歯車装置1は、剛性内歯歯車2と、剛性内歯歯車2に噛み合わされる可撓性外歯歯車3と、可撓性外歯歯車3を撓み変形させる波動発生器4と、を備える。また、第一実施形態の波動歯車装置1は、軸受5を備える。
【0027】
剛性内歯歯車2は、環状に形成されている。剛性内歯歯車2は、その内周面に内歯21を有する。内歯21は、周方向に複数配列されている。剛性内歯歯車2の剛性は、後述する可撓性外歯歯車3よりも高い。剛性内歯歯車2は、例えば外力を受けても変形しない程度の剛性を有するとよい。
【0028】
可撓性外歯歯車3は、円筒状に形成されている。可撓性外歯歯車3は、剛性内歯歯車2の内側に配される。可撓性外歯歯車3は、その外周面に外歯31を有する。外歯31は、周方向に複数配列されている。外歯31は、剛性内歯歯車2の内歯21と噛み合い可能である。可撓性外歯歯車3の外周面の周方向の長さは、剛性内歯歯車2の内周面の周方向の長さよりも小さい。可撓性外歯歯車3の外歯31の数は、剛性内歯歯車2の内歯21の数よりも少ない。
【0029】
可撓性外歯歯車3は、弾性的に撓み変形可能である。可撓性外歯歯車3は、その径方向に外力を加えることで、軸方向に直交する第一径方向における径寸法が、軸方向及び第一径方向に直交する第二径方向における径寸法よりも大きくなるように弾性的に変形する。すなわち、可撓性外歯歯車3は、その径方向に撓むことで、弾性的に楕円形に変形する。
【0030】
本実施形態の可撓性外歯歯車3の外歯31は、軸方向で複数に分離されている。すなわち、外歯31は、可撓性外歯歯車3の軸方向に互いに間隔をあけて複数配列されている。軸方向における外歯31の配列数は、三つ以上であってもよいが、本実施形態では二つである。
【0031】
波動発生器4は、可撓性外歯歯車3の内側に配される。波動発生器4は、可撓性外歯歯車3を径方向に撓めることで可撓性外歯歯車3の外歯31を剛性内歯歯車2の内歯21に噛み合わせる。波動発生器4は、外歯31と内歯21との噛み合わせ位置EPを周方向に移動させる。本実施形態の波動歯車装置1は、波動発生器4を二つ備える、すなわち第一波動発生器41及び第二波動発生器42を備える。
【0032】
第一、第二波動発生器41,42は、それぞれ軸方向から見て楕円形に形成されている。第一、第二波動発生器41,42は、互いに軸方向に間隔をあけて配列されている。第一、第二波動発生器41,42は、軸方向に配列された二つの外歯31に対してそれぞれ径方向内側に位置するように配される。各波動発生器41,42が可撓性外歯歯車3の内側に配されることで、可撓性外歯歯車3は径方向に撓んで楕円形に変形する。また、各波動発生器41,42の長径方向に対応する可撓性外歯歯車3の径方向の両端に位置する外歯31が剛性内歯歯車2の内歯21に噛み合う。各波動発生器41,42が回転することで、内歯21と外歯31との噛み合わせ位置EPが周方向に移動する。
【0033】
軸方向から見た第一、第二波動発生器41,42の形状及び大きさは、互いに等しい。軸方向における第一、第二波動発生器41,42の厚さは、例えば互いに異なっていてよいが、本実施形態では互いに等しい。
【0034】
第一、第二波動発生器41,42は、軸方向に配列されているため、可撓性外歯歯車3のうち軸方向で互いに異なる部位を撓める。軸方向における第一波動発生器41と第二波動発生器42との間隔D1は、第一波動発生器41の厚さt1又は第二波動発生器42の厚さt2以上である。
第一、第二波動発生器41,42は、軸体43によって互いに連結されている。これにより、第一、第二波動発生器41,42は、一体で回転する。
【0035】
また、第一、第二波動発生器41,42は、可撓性外歯歯車3のうち周方向で互いに異なる部位を径方向に撓める。特に本実施形態では、第一、第二波動発生器41,42が、可撓性外歯歯車3のうち周方向で互いに90度ずれて位置する部位を撓める。
具体的には、第一、第二波動発生器41,42の長径方向が、周方向で互いに90度ずれる。これにより、第一波動発生器41による内歯21と外歯31との二つの第一噛み合わせ位置EP1と、第二波動発生器42による内歯21と外歯31との二つの第二噛み合わせ位置EP2とが、周方向で互いに90度ずれて位置する。すなわち、二つの波動発生器41,42による内歯21と外歯31との四つの噛み合わせ位置EPが、周方向に均等に位置する。
【0036】
軸受5は、可撓性外歯歯車3の内周と各波動発生器41,42の外周との間に、それぞれ設けられる。本実施形態の軸受5は、可撓性外歯歯車3の内周と各波動発生器41,42の外周との間で周方向に配列された複数の転動体51を備える。転動体51は、球体であってもよいし、円柱体であってもよい。軸受5により、可撓性外歯歯車3の内周と各波動発生器41,42の外周とを滑らかに擦り動かすことができる。
【0037】
以上のように構成される第一実施形態の波動歯車装置1では、二つの波動発生器41,42が回転すると、内歯21と外歯31との噛み合わせ位置EPが周方向に移動する。ここで、外歯31の数は内歯21の数よりも少ないため、噛み合わせ位置EPの移動に伴って、剛性内歯歯車2と可撓性外歯歯車3とが相対的に回転する。この相対的な回転の速度は、波動発生器4の回転速度よりも遅い。すなわち、入力された波動発生器4の回転に対して、減速した可撓性外歯歯車3あるいは剛性内歯歯車2の回転を出力できる。
【0038】
このように、第一実施形態の波動歯車装置1は、第一波動発生器41及び第二波動発生器42を備える。これにより、波動発生器4が一つである場合と比較して、剛性内歯歯車2の内歯21と可撓性外歯歯車3の外歯31との噛み合わせ位置EPを増やすことができる。このため、内歯21と外歯31とを強固に噛み合わせることができる。したがって、波動発生器4の回転に急激な変化が生じる等して、可撓性外歯歯車3に大きな負荷が作用しても、可撓性外歯歯車3が剛性内歯歯車2に対して歯飛びすることを抑制できる。すなわち、波動歯車装置1の耐衝撃性や振動特性を向上できる。
波動歯車装置1の耐衝撃性や振動特性が向上することで、波動発生器4の回転に急激な変化が生じる過酷な環境下(例えばハンドリングロボットを素早く動かす環境)で波動歯車装置1を用いることが可能となる。
【0039】
また、第一、第二波動発生器41,42は、可撓性外歯歯車3のうち周方向で互いに異なる部位を径方向に撓める。この場合、第一波動発生器41による内歯21と外歯31との第一噛み合わせ位置EP1と、第二波動発生器42による内歯21と外歯31との第二噛み合わせ位置EP2とが、周方向に互いにずれて位置する。これにより、内歯21と外歯31とをより強固に噛み合わせることができる。したがって、剛性内歯歯車2に対する可撓性外歯歯車3の歯飛びを効果的に抑制できる。すなわち、波動歯車装置1の耐衝撃性や振動特性をさらに向上できる。
【0040】
また、第一、第二波動発生器41,42は、可撓性外歯歯車3のうち周方向で互いに90度ずれて位置する部位を径方向に撓める。この場合、第一波動発生器41による内歯21と外歯31との第一噛み合わせ位置EP1と、第二波動発生器42による内歯21と外歯31との第二噛み合わせ位置EP2とを、周方向に均等に配置することができる。このため、内歯21と外歯31との噛み合わせを効果的に強化できる。したがって、剛性内歯歯車2に対する可撓性外歯歯車3の歯飛びをさらに効果的に抑制できる。すなわち、波動歯車装置1の耐衝撃性や振動特性をさらに向上できる。
【0041】
また、軸方向における第一波動発生器41と第二波動発生器42との間隔D1は、第一波動発生器41の厚さ又は第二波動発生器42の厚さ以上となっている。このため、第一波動発生器41による内歯21と外歯31との第一噛み合わせ位置EP1と、第二波動発生器42による内歯21と外歯31との第二噛み合わせ位置EP2とを、軸方向に互いに離すことができる。これにより、第一、第二波動発生器41,42による内歯21と外歯31との噛み合わせ位置EPが周方向で互いに異なることに伴って可撓性外歯歯車3に生じる応力を緩和できる。
【0042】
上述した第一実施形態では、第一噛み合わせ位置EP1と第二噛み合わせ位置EP2とが周方向で互いにずれる角度は、90度に限らず、任意の角度であってよい。
【0043】
上述した第一実施形態では、第一、第二波動発生器41,42は、例えば可撓性外歯歯車3のうち周方向における同じ部位を径方向に撓めてもよい。すなわち、第一噛み合わせ位置EP1と第二噛み合わせ位置EP2とが周方向で互いにずれる角度は、0度であってもよい。
【0044】
上述した第一実施形態では、軸方向に配列される波動発生器4の数が、例えば三つ以上であってもよい。また、三つ以上の波動発生器4は、可撓性外歯歯車3のうち周方向で互いに異なる部位を径方向に撓めてよい。この場合、複数の波動発生器4が撓める可撓性外歯歯車3の複数の部位は、周方向で互いに以下に定義する角度θずつずれて位置するとよい。
θ=180度/n、(ただし、nは波動発生器4の数)
このような構成では、複数の波動発生器4による内歯21と外歯31との複数の噛み合わせ位置EPを周方向に均等に配置することができる。
【0045】
〔第二実施形態〕
次に、
図4を参照して本発明の第二実施形態について説明する。第二実施形態では、第一実施形態と同様の構成要素について同一符号を付す等して、その説明を省略する。
【0046】
図4に示すように、第二実施形態の波動歯車装置1Aは、第一実施形態と同様に、剛性内歯歯車2、可撓性外歯歯車3、波動発生器4及び軸受5Aを備える。波動発生器4の数は、第一実施形態と同様に複数であってもよいが、例えば一つであってもよい。
【0047】
第二実施形態の軸受5Aは、複数の転動体51と、保持器52Aとを備える。複数の転動体51は、第一実施形態と同様に、可撓性外歯歯車3の内周と波動発生器4の外周との間で周方向に配列される。保持器52Aは、周方向における転動体51の間で径方向における可撓性外歯歯車3の内周と波動発生器4の外周との隙間を保持する。
【0048】
保持器52Aは、隣り合う転動体51の間に配される複数の保持部材53Aを備える。各保持部材53Aは、周方向における転動体51の間に配される。保持部材53Aは、少なくとも可撓性外歯歯車3の内周と波動発生器4の外周との隙間を保持するように形成されればよい。各保持部材53Aは、例えば可撓性外歯歯車3の内周から波動発生器4の外周まで径方向に延びる棒状など任意に形成されてよい。
【0049】
本実施形態の保持部材53Aは、周方向における転動体51同士の隙間を埋めるように形成されている。具体的に説明すれば、転動体51は軸方向から見て円形とされている。このため、周方向における転動体51同士の間隔は、径方向における中間部分から両端部分(可撓性外歯歯車3の内周や波動発生器4の外周)に向かうにしたがって広くなる。これに対し、保持部材53Aのうち周方向における両側の面は、円形とされた転動体51の形状に対応するように形成されている。すなわち、周方向における保持部材53Aの寸法が、径方向における中間部分から両端部分に向かうにしたがって大きくなる。
複数の保持部材53Aは、例えば互いに連結されていてもよいが、本実施形態ではそれぞれ別個に形成されている。
【0050】
径方向における保持部材53A(保持器52A)の寸法L2は、例えば以下の不等式を満たすとよい。
L1-H1≦L2≦L1
L2:径方向における保持部材53A(保持器52A)の寸法
L1:径方向における可撓性外歯歯車3の内周と波動発生器4の外周との隙間の寸法
H1:径方向における内歯21と外歯31との噛み合わせの長さ
なお、
図4では、保持部材53Aの寸法L2が、隙間の寸法L1と等しい。
【0051】
保持部材53A(保持器52A)は、例えば外力に対して変形しない剛体であるとよいが、例えば外力に対して変形してもよい。この場合、保持部材53A(保持器52A)が径方向に圧縮力を受けたときに径方向に縮む保持部材53Aの縮み長さは、径方向における内歯21と外歯31との噛み合わせの長さH1よりも小さいとよい。
【0052】
本実施形態の軸受5Aは、内輪54と外輪55とを有する。内輪54は、波動発生器4と同様の性質を有する、すなわち可撓性外歯歯車3よりも高い剛性を有する。内輪54は、波動発生器4の外周に固定される。このため、軸受5Aの内輪54は、実質的に波動発生器4の外周をなす。外輪55は、可撓性外歯歯車3と同様の性質を有する、すなわち弾性的に撓み変形可能である。外輪55は、可撓性外歯歯車3の内周に固定される。このため、軸受5Aの外輪55は、実質的に可撓性外歯歯車3の内周をなす。
【0053】
第二実施形態の波動歯車装置1Aは、周方向における転動体51の間で径方向における可撓性外歯歯車3の内周と波動発生器4の外周との隙間を保持する保持器52Aを備える。このため、保持器52Aによって、径方向における可撓性外歯歯車3の内周と波動発生器4の外周との間隔が、周方向に隣り合う転動体51の間の領域で小さくなることを抑制できる。これにより、波動発生器4の回転に急激な変化が生じる等して、可撓性外歯歯車3に大きな負荷が作用しても、可撓性外歯歯車3が転動体51の間の領域で径方向の内側に変形することを保持器52Aによって抑制できる。これにより、可撓性外歯歯車3が剛性内歯歯車2に対して歯飛びすることを抑制できる。すなわち、波動歯車装置1Aの耐衝撃性や振動特性を向上できる。
【0054】
また、第二実施形態の波動歯車装置1Aでは、保持器52Aの寸法L2、隙間の寸法L1及び噛み合わせの長さH1が、
L1-H1≦L2≦L1
を満たしている。このため、可撓性外歯歯車3が転動体51の間の領域で径方向の内側に変形しても、可撓性外歯歯車3の外歯31が剛性内歯歯車2の内歯21から外れることを防止できる。すなわち、可撓性外歯歯車3が剛性内歯歯車2に対して歯飛びすることを防ぐことができる。
【0055】
また、第二実施形態の波動歯車装置1Aでは、保持器52Aが径方向に圧縮力を受けたときに径方向に縮む保持器52Aの縮み長さが、径方向における内歯21と外歯31との噛み合わせの長さH1よりも小さい。この場合、保持器52Aが外力によって径方向に縮み変形し、保持器52Aが縮んだ長さの分だけ、可撓性外歯歯車3が転動体51の間の領域で径方向の内側に変形しても、可撓性外歯歯車3の外歯31が剛性内歯歯車2の内歯21から外れることを防止できる。すなわち、可撓性外歯歯車3が剛性内歯歯車2に対して歯飛びすることを防ぐことができる。
【0056】
また、第二実施形態の波動歯車装置1Aでは、保持器52Aが、それぞれ別個に形成されて隣り合う前記転動体51の間に配される複数の保持部材53Aを備える。複数の保持部材53Aをそれぞれ別個に形成した保持器52Aは、複数の保持部材53Aを一体に固定した保持器と比較して、材料の歩留まりを向上できる。
【0057】
上述した第二実施形態では、軸受5Aは例えば内輪54、外輪55を備えなくてもよい。すなわち、転動体51が可撓性外歯歯車3の内周や波動発生器4の外周に接触してもよい。
【0058】
〔第三実施形態〕
次に、
図5を参照して本発明の第三実施形態について説明する。第三実施形態では、第一実施形態と同様の構成要素について同一符号を付す等して、その説明を省略する。
【0059】
第三実施形態の波動歯車装置は、第一実施形態と同様の剛性内歯歯車2、可撓性外歯歯車3及び波動発生器4(
図1~3参照)、並びに、
図5に示す軸受5Bを備える。波動発生器4の数は、第一実施形態と同様に複数であってもよいが、例えば一つであってもよい。
【0060】
軸受5Bは、第一実施形態の軸受5と同様に、可撓性外歯歯車3の内周と波動発生器4の外周との間に設けられる。
本実施形態の軸受5Bは、第一転動体群501と第二転動体群502とを備える。第一転動体群501は、可撓性外歯歯車3の内周と波動発生器4の外周との間で周方向(
図5では上下方向)に配列された複数の第一転動体511を有する。第二転動体群502は、可撓性外歯歯車3の内周と波動発生器4の外周との間で、また、軸方向(
図5では左右方向)における第一転動体群501の隣で、周方向に配列された複数の第二転動体512を有する。第二転動体512は、第一転動体511と周方向に交互に配置される。すなわち、第一転動体511と第二転動体512とは、ジグザグ状、千鳥状に配列されている。
【0061】
第一転動体511と第二転動体512とは、周方向で隙間なく並んでいる。すなわち、周方向に隣り合う第一転動体511同士の間隔が、周方向における第二転動体512の寸法よりも小さい。また、周方向に隣り合う第二転動体512同士の間隔が、周方向における第一転動体511の寸法よりも小さい。
第一、第二転動体511,512は、例えば軸方向(左右方向)に延びる円柱体であってもよいが、本実施形態の第一、第二転動体511,512は球体である。また、第一、第二転動体511,512の大きさは、例えば互いに異なってもよいが、本実施形態では同じである。
【0062】
可撓性外歯歯車3の外歯31は、径方向(
図5では紙面に直交する方向)で第一、第二転動体511,512の両方に重なるように軸方向に延びている。このため、可撓性外歯歯車3の外歯31は、第一、第二転動体511,512の両方によって径方向の内側から支持される。
【0063】
第三実施形態の波動歯車装置は、周方向に配列された複数の第一転動体511を有する第一転動体群501と、第一転動体群501の隣で周方向に配列され第一転動体511と周方向に交互に配置される複数の第二転動体512を有する第二転動体群502とを備える。特に、第一転動体511と第二転動体512とは周方向で隙間なく並ぶ。このため、波動発生器4の回転に急激な変化が生じる等して、可撓性外歯歯車3に大きな負荷が作用しても、可撓性外歯歯車3が径方向の内側に変形することを抑制できる。例えば、周方向で隣り合う二つの第一転動体511の間に位置する可撓性外歯歯車3の部位が、周方向で二つの第一転動体511の間に位置する第二転動体512によって径方向内側から支持される。これにより、可撓性外歯歯車3に大きな負荷が作用しても、可撓性外歯歯車3が径方向の内側に変形することを抑制できる。したがって、可撓性外歯歯車3が剛性内歯歯車2に対して歯飛びすることを抑制できる。すなわち、波動歯車装置の耐衝撃性や振動特性を向上できる。
【0064】
上述した第三実施形態の軸受5Bは、例えば第二実施形態と同様の保持器52A(
図4参照)を備えてもよい。
【0065】
以上、本発明の詳細について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることができる。
【0066】
本発明の波動歯車装置における軸受は、例えばすべり軸受であってもよい。この場合でも、上記実施形態と同様に、可撓性外歯歯車が剛性内歯歯車に対して歯飛びすることを抑制できる。
【符号の説明】
【0067】
1,1A…波動歯車装置、2…剛性内歯歯車、3…可撓性外歯歯車、4…波動発生器、5,5A,5B…軸受、21…内歯、31…外歯、41…第一波動発生器、42…第二波動発生器、51…転動体、52A…保持器、53A…保持部材、501…第一転動体群、502…第二転動体群、511…第一転動体、512…第二転動体、D1…間隔、EP…噛み合わせ位置、EP1…第一噛み合わせ位置、EP2…第二噛み合わせ位置