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7319831架線相互離隔測定装置及び架線相互離隔測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】架線相互離隔測定装置及び架線相互離隔測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/14 20060101AFI20230726BHJP
   G01B 11/00 20060101ALI20230726BHJP
   B60M 1/28 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
G01B11/14 H
G01B11/00 H
B60M1/28 R
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019100503
(22)【出願日】2019-05-29
(65)【公開番号】P2020193905
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】301078191
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】100114166
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 浩三
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 正久
(72)【発明者】
【氏名】荒木 正樹
(72)【発明者】
【氏名】宇津木 秀作
(72)【発明者】
【氏名】永福 俊朗
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-147878(JP,A)
【文献】特開2007-292619(JP,A)
【文献】特開2007-091141(JP,A)
【文献】特開平07-329615(JP,A)
【文献】特開2009-192483(JP,A)
【文献】特開2017-009446(JP,A)
【文献】根津 一嘉,車両からの架線検測技術,計測と制御,2017年,56巻、2号,p. 111-116,https://www.jstage.jst.go.jp/article/sicejl/56/2/56_111/_pdf/-char/ja,DOI:https://doi.org/10.11499/sicejl.56.111
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
G01C 3/00-3/32
B60M 1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レール上を走行する車両に設けられ、前記レールの上空に設置された複数の架線へ、前記レールの幅方向に帯状に広がった測定光を照射する複数の投光ユニットと、
前記車両上に前記レールの幅方向に離して設けられ、前記測定光が前記複数の架線の全部又は一部で反射された反射光をそれぞれ受光して、各架線の輪郭を示す測定信号を出力する複数の受光ユニットと、
前記複数の受光ユニットから出力された前記測定信号を処理する処理装置とを備え、
各投光ユニット及び各受光ユニットは、前記車両の長手方向(走行方向)において、前記車両の屋根のパンタグラフから離れた前後の位置に、前記パンタグラフを挟んで2組設けられ、
各受光ユニットは、予め定めた測定範囲の高さ方向の寸法内にある前記複数の架線の全てが、少なくともいずれかの受光ユニットの測定視野の範囲内に入る様に、互いの測定視野を一部重ねて設置され、
前記処理装置は、各受光ユニットの設置位置の情報に基づき、各受光ユニットから出力された前記測定信号を処理して、各架線の摩耗した底面の輪郭の左端と右端との中間の位置を比較点とした、前記複数の架線の各比較点のXY座標を検出し、検出した各比較点のXY座標を、予め定めた基準点を原点とするX’Y’座標へ変換して、変換後の各比較点のX’Y’座標から、前記複数の架線の相互離隔、及び各架線の偏位量を検出する
ことを特徴とする架線相互離隔測定装置。
【請求項2】
前記処理装置は、前記複数の受光ユニットから出力された前記測定信号を処理して、1つの架線の摩耗した底面の輪郭の左端と右端との中間の位置を比較点とし、他の架線を支持する碍子の輪郭の最下点を比較点とした、前記複数の架線の内の1つと他の架線を支持する碍子との相互離隔を検出する
ことを特徴とする請求項1に記載の架線相互離隔測定装置。
【請求項3】
前記処理装置は、各受光ユニットについての前記測定信号の非直線性の特性を示す情報に基づき、各受光ユニットから出力された前記測定信号を補正し、補正した測定信号を用いて、前記複数の架線の相互離隔、及び各架線の偏位量を検出する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の架線相互離隔測定装置。
【請求項4】
レール上を走行する車両に設けた複数の投光ユニットから、前記レールの上空に設置された複数の架線へ、前記レールの幅方向に帯状に広がった測定光を照射し、
複数の受光ユニットを、前記車両上に前記レールの幅方向に離して設け、かつ、各投光ユニット及び各受光ユニットを、前記車両の長手方向(走行方向)において、前記車両の屋根のパンタグラフから離れた前後の位置に、前記パンタグラフを挟んで2組設け、各受光ユニットを、予め定めた測定範囲の高さ方向の寸法内にある前記複数の架線の全てが、少なくともいずれかの受光ユニットの測定視野の範囲内に入る様に、互いの測定視野を一部重ねて設置し、
前記複数の受光ユニットにより、前記測定光が前記複数の架線の全部又は一部で反射された反射光をそれぞれ受光して、各架線の輪郭を示す測定信号を出力し、
各受光ユニットの設置位置の情報に基づき、各受光ユニットが出力した前記測定信号を処理して、各架線の摩耗した底面の輪郭の左端と右端との中間の位置を比較点とした、前記複数の架線の各比較点のXY座標を検出し、検出した各比較点のXY座標を、予め定めた基準点を原点とするX’Y’座標へ変換して、変換後の各比較点のX’Y’座標から、前記複数の架線の相互離隔、及び各架線の偏位量を検出する
ことを特徴とする架線相互離隔測定方法。
【請求項5】
前記複数の受光ユニットが出力した前記測定信号を処理して、1つの架線の摩耗した底面の輪郭の左端と右端との中間の位置を比較点とし、他の架線を支持する碍子の輪郭の最下点を比較点とした、前記複数の架線の内の1つと他の架線を支持する碍子との相互離隔を検出する
ことを特徴とする請求項4に記載の架線相互離隔測定方法。
【請求項6】
各受光ユニットについての前記測定信号の非直線性の特性を示す情報に基づき、各受光ユニットが出力した前記測定信号を補正し、補正した測定信号を用いて、前記複数の架線の相互離隔、及び各架線の偏位量を検出する
ことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の架線相互離隔測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道等の車両へ電力を供給する架線(トロリ線)を測定する測定装置及び測定方法に係り、特に近接して設置された複数の架線の高さの相違(以下、「相互離隔」と言う)を測定するのに好適な架線相互離隔測定装置及び架線相互離隔測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道の線路の上空に設置された架線は、パンタグラフにより鉄道の車両の屋根に搭載された舟体のすり板と接触して、車両へ電力を供給する。架線は、製造工程でその長さが限られ、設置された架線の末端箇所では、車両への電力供給が途切れない様にするため、今まで車両への給電を行っていた架線に加えて、新たに車両への給電を開始する架線が、併設して設置されている。また、レールの分岐箇所の上空では、本線の架線と、渡り線の架線とが交差して設置されている。この様に、複数の架線が重複して設置されている箇所では、新たに車両への給電を開始する架線の高さが規定値より低いと、架線が舟体のホーンの下を通ってパンタグラフに引っ掛かり、架線が損傷する恐れがある。そのため、架線の高さを測定して管理する必要がある。従来、架線と架線との接続部であるエアーセクション箇所において、架線を支持する碍子の高さを容易に測定する技術として、特許文献1に記載のものがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-21321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
架線は、パンタグラフに搭載された舟体のすり板の局所的な摩耗を防止するために、レール幅方向にジグザクに偏位させて設置されている。架線が舟体のホーンの下を通ってパンタグラフに引っ掛かるのを防止するためには、レール幅の中心位置から見て、架線が舟体の両端のホーン付近に所定量(例えば、900mm)だけ偏位した位置で、架線の高さを管理する必要がある。また、この場合、架線の高さの良否は、複数の架線の相互離隔をもって判断するのが妥当である。特許文献1に記載の技術では、複数の架線の相互離隔については、考慮されていなかった。また、特許文献1に記載の技術を用いて、複数の架線の相互離隔を検出しようとすると、多数の撮像装置(カメラ)とそれらに合わせた多数の画像処理装置とが必要となり、装置が大型化するという問題があった。また、画像の処理量が膨大になるため、検測車の走行中に車内で処理することが困難になるという問題があった。
【0005】
本発明の課題は、小型かつ簡易な構成で、複数の架線の相互離隔を、いずれかの架線が所定量だけ偏位した位置において、高精度に検出することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の架線相互離隔測定装置は、レール上を走行する車両に設けられ、レールの上空に設置された複数の架線へ、レールの幅方向に帯状に広がった測定光を照射する投光ユニットと、車両上にレールの幅方向に離して設けられ、測定光が複数の架線の全部又は一部で反射された反射光をそれぞれ受光して、各架線の輪郭を示す測定信号を出力する複数の受光ユニットと、複数の受光ユニットから出力された測定信号を処理する処理装置とを備え、各受光ユニットが、予め定めた測定範囲内にある複数の架線の全てが、少なくともいずれかの受光ユニットの測定視野の範囲内に入る様に、互いの測定視野を一部重ねて設置され、処理装置が、各受光ユニットの設置位置の情報に基づき、各受光ユニットから出力された測定信号を処理して、複数の架線の相互離隔、及び各架線の偏位量を検出することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の架線相互離隔測定方法は、レール上を走行する車両に設けた投光ユニットから、レールの上空に設置された複数の架線へ、レールの幅方向に帯状に広がった測定光を照射し、複数の受光ユニットを、車両上にレールの幅方向に離して設け、各受光ユニットを、予め定めた測定範囲内にある複数の架線の全てが、少なくともいずれかの受光ユニットの測定視野の範囲内に入る様に、互いの測定視野を一部重ねて設置し、複数の受光ユニットにより、測定光が複数の架線の全部又は一部で反射された反射光をそれぞれ受光して、各架線の輪郭を示す測定信号を出力し、各受光ユニットの設置位置の情報に基づき、各受光ユニットが出力した測定信号を処理して、複数の架線の相互離隔、及び各架線の偏位量を検出することを特徴とする。
【0008】
複数の受光ユニットを、車両上にレールの幅方向に離して設け、複数の受光ユニットにより、測定光が複数の架線の全部又は一部で反射された反射光をそれぞれ受光して、各架線の輪郭を示す測定信号を出力し、各受光ユニットの設置位置の情報に基づき、複数の受光ユニットが出力した測定信号を処理して、複数の架線の相互離隔、及び各架線の偏位量を検出するので、複数の架線の相互離隔が、いずれかの架線が所定量だけ偏位した位置において、高精度に検出される。そして、各受光ユニットを、予め定めた測定範囲内にある複数の架線の全てが、少なくともいずれかの受光ユニットの測定視野の範囲内に入る様に、互いの測定視野を一部重ねて設置するので、相互離隔を検出する複数の架線が同じ受光ユニットの測定視野の範囲内に入る必要は無く、受光ユニットの数が少なく済み、また測定信号の処理量が少なく済んで、小型かつ簡易な構成となる。広い測定視野を有する受光ユニットを使用すると、受光ユニットの数がさらに少なく済み、また測定信号の処理量がさらに少なく済んで、さらに小型かつ簡易な構成となる。
【0009】
さらに、本発明の架線相互離隔測定装置は、処理装置が、複数の受光ユニットから出力された測定信号を処理して、複数の架線の内の1つと他の架線を支持する碍子との相互離隔を検出することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の架線相互離隔測定方法は、複数の受光ユニットが出力した測定信号を処理して、複数の架線の内の1つと他の架線を支持する碍子との相互離隔を検出することを特徴とする。
【0011】
複数の受光ユニットが出力した測定信号を処理して、複数の架線の内の1つと他の架線を支持する碍子との相互離隔を検出するので、架線を支持する碍子の高さが管理可能となる。
【0012】
さらに、本発明の架線相互離隔測定装置は、処理装置が、各受光ユニットについての測定信号の非直線性の特性を示す情報に基づき、各受光ユニットから出力された測定信号を補正し、補正した測定信号を用いて、複数の架線の相互離隔、及び各架線の偏位量を検出することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の架線相互離隔測定方法は、各受光ユニットについての測定信号の非直線性の特性を示す情報に基づき、各受光ユニットが出力した測定信号を補正し、補正した測定信号を用いて、複数の架線の相互離隔、及び各架線の偏位量を検出することを特徴とする。
【0014】
受光ユニットの測定視野が広いと、測定視野の中央部付近に比べて、測定視野の隅の部分において、測定信号の非直線性が大きくなる。各受光ユニットについての測定信号の非直線性の特性を示す情報に基づき、各受光ユニットが出力した測定信号を補正し、補正した測定信号を用いて、複数の架線の相互離隔、及び各架線の偏位量を検出するので、複数の架線の相互離隔、及び各架線の偏位量が、より高精度に測定される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、小型かつ簡易な構成で、複数の架線の相互離隔を、いずれかの架線が所定量だけ偏位した位置において、高精度に検出することができる。
【0016】
さらに、複数の受光ユニットが出力した測定信号を処理して、複数の架線の内の1つと他の架線を支持する碍子との相互離隔を検出することにより、架線を支持する碍子の高さが管理可能となる。
【0017】
さらに、各受光ユニットについての測定信号の非直線性の特性を示す情報に基づき、各受光ユニットが出力した測定信号を補正し、補正した測定信号を用いて、複数の架線の相互離隔、及び各架線の偏位量を検出することにより、複数の架線の相互離隔、及び各架線の偏位量を、より高精度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施の形態による架線相互離隔測定装置の概略構成を示す図である。
図2図2(a)は架線の重複箇所における架線の斜視図、図2(b)は架線の重複箇所における架線の上面図である。
図3図3(a)は投光ユニット及び受光ユニットの構成例を示す図、図3(b)は投光ユニットの内部機器を示す図である。
図4】本実施の形態による架線相互離隔測定処理を示すフローチャートである。
図5】架線の相互離隔及び偏位量を説明する図である。
図6】架線と碍子との相互離隔を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[実施の形態]
(架線相互離隔測定装置の構成)
図1は、本発明の一実施の形態による架線相互離隔測定装置の概略構成を示す図である。架線相互離隔測定装置10は、図示しない投光ユニット、複数の受光ユニット4、処理装置5、表示装置6、及び記録媒体7を含んで構成されている。架線相互離隔測定装置10は、レール2上を走行する架線検測車8に搭載されている。架線検測車8が走行するレール2の上空には、複数の架線(トロリ線)1a,1bが重複して設置されている。
【0020】
なお、以下に説明する実施の形態では、架線相互離隔測定装置10の処理装置5が、架線検測車8内で架線相互離隔測定処理を行うが、架線検測車8外の地上に設けた処理装置を用いて、当該処理の全て又は一部を行ってもよい。
【0021】
図2(a)は架線の重複箇所における架線の斜視図、図2(b)は架線の重複箇所における架線の上面図である。図2(a)において、架線検測車の走行方向を矢印で示す方向とすると、今まで架線検測車への給電を行っていた架線1aの末端箇所で、架線1aが、吊架線12a及び碍子13aにより、2本の支持柱11間に設置されている。また、新たに架線検測車への給電を開始する架線1bが、吊架線12b及び碍子13bにより、2本の支持柱11間に設置されている。従って、2本の支持柱11間では、2本の架線1a,1bが重複して設置されている。これにより、2本の支持柱11の間を走行する架線検測車へ、途切れること無く電力供給が行われる。
【0022】
図2(a)において、2本の架線1a,1bの相互離隔は、各架線1a,1bの高さに応じて変動する。また、図2(b)において、上から見たとき、各架線1a,1bがそれぞれレール幅方向に偏位させて設置されているため、2本の架線1a,1bの間隔Sは、各架線1a,1bの偏位量に応じて変動する。
【0023】
図1において、本実施の形態の架線相互離隔測定装置10は、複数の受光ユニット4を有し、各受光ユニット4は、架線検測車8の屋根上に、レール2の幅方向に離して設けられている。図示しない投光ユニットも、架線検測車8の屋根上に設けられている。処理装置5、表示装置6、及び記録媒体7は、架線検測車8の車内に搭載されている。
【0024】
なお、架線検測車8の長手方向(走行方向)において、後述する投光ユニット及び受光ユニットは、架線検測車8の屋根のパンタグラフから離れた前後の位置に、パンタグラフを挟んで2組設けられている。これは、架線の高さがパンタグラフにより押し上げられる分だけ変動するので、架線検測車8の走行方向に応じ、パンタグラフによる押し上げのない位置で測定を行うためである。
【0025】
図3(a)は投光ユニット及び受光ユニットの構成例を示す図、図3(b)は投光ユニットの内部機器を示す図である。図3(b)において、投光ユニットの内部機器は、レーザー光源3a、投光レンズ3b、及びスリット3cを含んで構成されている。レーザー光源3aは、例えばレーザーダイオード等からなり、赤外線の領域にある単色のレーザー光を発生する。レーザー光の波長は、例えば、850nmとする。投光レンズ3bは、例えば、シリンドリカルレンズ等からなり、レーザー光源3aから発生したレーザー光を、レール幅方向に広げる。投光レンズ3bを透過したレーザー光は、スリット3cを透過して、帯状に広がったレーザー光となる。図3(a)において、投光ユニット3は、図3(b)に示す内部機器をレール幅方向に複数組有し、架線1a,1bへ、レール幅方向に帯状に広がった測定光MLを照射する。
【0026】
受光ユニット4は、それぞれ、干渉フィルタ4a、及びカメラ4cを含んで構成されている。測定光MLが架線1a,1bで反射された反射光は、干渉フィルタ4aを透過した後、カメラ4cで受光される。干渉フィルタ4aは、透過光の波長を、測定光MLの波長に限定する。カメラ4cは、例えば、内部にCMOSセンサー等からなる受光素子を備えた3D(3次元)カメラで構成され、受光した光の強度に応じた測定信号を出力する。これらの測定信号は、2値化された画像信号であって、各架線1a,1bの輪郭(表面の位置及び高さ)を示している。干渉フィルタ4aの透過光に含まれる太陽光を削除する必要がある場合には、干渉フィルタ4aとカメラ4cとの間に偏光板を設けると良い。
【0027】
なお、図3(a)に示す構成例では、投光ユニット3から架線1a,1bへの測定光MLが、真上方向に対しやや傾けて照射されているが、測定光MLを真上方向に照射し、受光ユニット4を真上方向に対し傾けて設置してもよい。また、投光ユニット3及び受光ユニット4の両者を、真上方向に対し傾けて設置してもよい。
【0028】
図1において、符号FVは、各受光ユニット4の測定視野の範囲を示している。また、符号MAは、予め定めた測定範囲を示している。各受光ユニット4は、破線で示す測定範囲MA内にある複数の架線1a,1bの全てが、少なくともいずれかの受光ユニット4の測定視野の範囲FV内に入る様に、互いの測定視野の範囲FVを一部重ねて設置されている。相互離隔を検出する複数の架線1a,1bが同じ受光ユニット4の測定視野の範囲内に入る必要は無く、受光ユニット4の数が少なく済み、また測定信号の処理量が少なく済んで、小型かつ簡易な構成となる。広い測定視野を有する受光ユニット4を使用すると、受光ユニット4の数がさらに少なく済み、また測定信号の処理量がさらに少なく済んで、さらに小型かつ簡易な構成となる。本実施の形態は、広い測定視野を有する受光ユニット4を使用して、レール幅方向の受光ユニット4の数を、最低限の2としたものである。
【0029】
なお、例えば、測定視野がさらに1.5倍広い受光ユニットを用いて、レール幅方向の受光ユニットを1つにすると、測定範囲MAの高さ方向の寸法が極端に小さくなるので、本発明では、レール幅方向に少なくとも2つ以上の受光ユニット4を設けている。
【0030】
処理装置5は、例えば、CPU(Central Processing Unit)とメモリとHDD(Hard Disc Drive)とDIO(Digital Input-Output interface)とがそれぞれバスで接続されたパーソナルコンピュータで構成されている。処理装置5のHDDには、架線及び碍子の基準プロファイルを示すテンプレート、並びに、各受光ユニット4の設置位置の情報に基づいて作成された座標変換テーブルが、格納されている。この座標変換テーブルは、各受光ユニット4の測定信号である2値化された画像信号上のXY座標と、架線検測車8上の予め定めた基準点を原点とするX’Y’座標との対応関係を示すものである。
【0031】
受光ユニット4の測定視野が広いと、測定視野の中央部付近に比べて、測定視野の隅の部分において、測定信号の非直線性が大きくなる。処理装置5のHDDには、各受光ユニット4についての測定信号の非直線性の特性を示す情報が、格納されている。これらの情報は、測定視野の範囲内のどの位置でどれだけ測定信号の非直線性が発生するかを示す情報であって、例えば、予め、各受光ユニット4により升目模様の被写体を撮影した画像データ等から得られる。
【0032】
処理装置5は、後述する処理を行って、各受光ユニット4の設置位置の情報に基づき、複数の受光ユニット4から出力された測定信号から、複数の架線1a,1bの相互離隔、又は一方の架線と他方の架線を支持する碍子との相互離隔、及び各架線1a,1bの偏位量を検出する。処理装置5には、車両の走行位置情報が入力され、車両の走行位置との同期がなされ、測定データに車両の走行位置情報が付加される。表示装置6は、例えば、フラットパネルディスプレイ等からなり、処理装置5の制御により、処理装置5の検出結果を表示する。記録媒体7は、例えば、SSD(Solid State Drive:ソリッドステートドライブ)等からなり、処理装置5の制御により、測定データを記録する。
【0033】
(架線相互離隔測定処理)
図4は、本実施の形態による架線相互離隔測定処理を示すフローチャートである。ステップ101の測定信号補正処理では、処理装置5が、HDDに格納された各受光ユニット4についての測定信号の非直線性の特性を示す情報に基づき、各受光ユニット4が出力した測定信号を補正する。これにより、以降の処理における処理精度が向上する。
【0034】
ステップ102のノイズ除去処理では、処理装置5が、各受光ユニット4の測定信号である2値化された画像信号にノイズ除去処理を施して、2値化された画像信号から孤立点を除去する。
【0035】
ステップ103の輪郭データ抽出処理では、処理装置5が、HDDに格納された架線又は碍子の基準プロファイルを示すテンプレートを用い、2値化された画像信号から、各架線1a,1b又は碍子の輪郭を示すデータを抽出する。このとき、各架線1a,1bについては、架線側面の画像と、テンプレートとのパターンマッチングにより、架線1a,1bの摩耗部を含む輪郭を示すデータを抽出する。
【0036】
ステップ104の比較点座標検出処理では、処理装置5が、抽出した各架線1a,1b又は碍子の輪郭を示すデータから、後述する各比較点の2値化された画像信号上でのXY座標を検出する。そして、処理装置5は、HDDに格納された座標変換テーブルを用い、検出した各比較点のXY座標を、予め定めた基準点を原点とするX’Y’座標へ変換する。
【0037】
ステップ105の相互離隔/偏位量検出処理では、処理装置5が、変換後の各比較点のX’Y’座標から、複数の架線1a,1bの相互離隔、又は一方の架線と他方の架線を支持する碍子との相互離隔、及び各架線1a,1bの偏位量を検出する。
【0038】
図5は、架線の相互離隔及び偏位量を説明する図である。図4のステップ103の輪郭データ抽出処理で、各架線1a,1bについて、架線1a,1bの下側の実線で示す部分の輪郭を示すデータが抽出されたものとする。架線1aの輪郭を示すデータにおいて、摩耗した底面の左端を点1aL、右端を点1aRとし、両者の中間の位置を比較点1aCとする。同様に、架線1bの輪郭を示すデータにおいて、摩耗した底面の左端を点1bL、右端を点1bRとし、両者の中間の位置を比較点1bCとする。
【0039】
図4のステップ104の比較点座標検出処理において、処理装置5は、まず、各比較点1aC,1bCの2値化された画像信号上でのXY座標を検出する。そして、処理装置5は、座標変換テーブルを用い、検出した各比較点1aC,1bCのXY座標を、予め定めた基準点を原点とするX’Y’座標へ変換する。
【0040】
図4のステップ105の相互離隔/偏位量検出処理において、処理装置5は、比較点1aCの高さ方向の座標(Y’座標)と、比較点1bCの高さ方向の座標(Y’座標)との差異を、架線1a,1bの相互離隔として検出する。また、処理装置5は、比較点1aCのレール幅方向の座標(X’座標)と、架線検測車の中心位置の座標との差異を、架線1aの偏位量として検出する。同様に、処理装置5は、比較点1bCのレール幅方向の座標(X’座標)と、架線検測車の中心位置の座標との差異を、架線1bの偏位量として検出する。
【0041】
なお、X’Y’座標の原点(基準点)を架線検測車の中心線上に定めると、各比較点1aC,1bCの座標変換後のX’座標が、そのまま、各架線1a,1bの偏位量として検出される。
【0042】
図6は、架線と碍子との相互離隔を説明する図である。図6(a),(b)において、破線で示す碍子13bに対し、図4のステップ103で抽出される碍子の輪郭を示すデータは、実線で示す様な碍子の一部分の輪郭を示すものとなる。図6(a)に示す様に、碍子の下側の部分の輪郭を示すデータが抽出された場合は、それらの最下点を比較点13bCとする。そして、処理装置5は、比較点1aCの高さ方向の座標(Y’座標)と、比較点13bCの高さ方向の座標(Y’座標)との差異を、架線1aと碍子13bとの相互離隔として検出する。また、図6(b)に示す様に、碍子の横の部分の輪郭を示すデータが抽出された場合は、それらの最下点を比較点13bCとする。そして、処理装置5は、比較点1aCの高さ方向の座標(Y’座標)と、比較点13bCの高さ方向の座標(Y’座標)との差異を、架線1aと碍子13bとの相互離隔として検出する。
【0043】
[実施の形態の効果]
以上説明した実施の形態によれば、次の効果を奏する。
(1)小型かつ簡易な構成で、複数の架線1a,1bの相互離隔を、いずれかの架線が所定量だけ偏位した位置において、高精度に検出することができる。
【0044】
(2)さらに、複数の受光ユニット4が出力した測定信号を処理して、複数の架線1a,1bの内の1つと他の架線を支持する碍子との相互離隔を検出することにより、架線を支持する碍子の高さが管理可能となる。
【0045】
(3)さらに、各受光ユニット4についての測定信号の非直線性の特性を示す情報に基づき、各受光ユニット4が出力した測定信号を補正し、補正した測定信号を用いて、複数の架線1a,1bの相互離隔、及び各架線1a,1bの偏位量を検出することにより、複数の架線1a,1bの相互離隔、及び各架線1a,1bの偏位量を、より高精度に測定することができる。
【0046】
以上説明した実施の形態では、レール幅方向に2つの受光ユニット4を設けているが、レール幅方向に3つ以上の受光ユニットを設けてもよい。また、受光ユニット4において3Dカメラが使用されているが、受光ユニットの受光機器は、これに限定されるものではなく、2次元変位センサー等であってもよい。さらに、以上説明した実施の形態では、測定光として赤外線の領域にある単色のレーザー光が使用されているが、測定光は、昼間の太陽光の光強度より強い反射光を架線から発生させるものであれば、赤外線レーザー光に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0047】
1a,1b 架線(トロリ線)
2 レール
3 投光ユニット
3a レーザー光源
3b 投光レンズ
3c スリット
4 受光ユニット
4a 干渉フィルタ
4c カメラ
5 処理装置
6 表示装置
7 記録媒体
8 架線検測車
10 架線相互離隔測定装置
11 支持柱
12a,12b 吊架線
13a,13b 碍子
図1
図2
図3
図4
図5
図6