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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】イオン伝導性酸化物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 35/00 20060101AFI20230726BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230726BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230726BHJP
   C04B 35/495 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
C01G35/00 C
H01M10/0562
H01B13/00 Z
C04B35/495
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019119510
(22)【出願日】2019-06-27
(65)【公開番号】P2021004155
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 俊
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 渉平
(72)【発明者】
【氏名】岡本 直之
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-169145(JP,A)
【文献】特表2006-500311(JP,A)
【文献】特開2018-073503(JP,A)
【文献】特開2011-051800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00-47/00
C01G 49/10-99/00
H01M 10/05-10/0587、10/36-10/39
H01B 13/00
C04B 35/42-35/515、35/46-35/515
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)の組成式で表される、ペロブスカイト型イオン伝導性酸化物。
LiSr(1-b-c-x)MATa(a+z)Zr(1-a-2z-y)AlMB・・・(1)
式(1)におけるa,b,c,m,n,x及びzは以下の式を満たし、□は原子空孔であり、MAはAサイトのSrへの置換元素であって、La、Ca、Bi及びNaから選ばれる1つである。MBはBサイトのZrへの置換元素であって、Ga、Ti及びCoから選ばれる1つであり、mはMAの価数、nはMBの価数を表す。
=b+2c、(m-2)x=(4-n)y、0.65≦(a+z)<0.80、0.33≦(b=a/2)<0.40、0≦x≦0.05、0≦y≦0.02、0.005≦z≦0.02
【請求項2】
前記組成式(1)中、a=3/4、b=3/8及びc=3/16である、請求項1に記載のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物の製造方法であって、
前記組成式(1)に含まれる金属元素を含む素原料を、前記組成式(1)に基づき秤量する秤量工程と、
前記素原料を混合し、混合粉を得る混合工程と、
前記混合粉を仮焼し、仮焼粉を得る仮焼工程と、
前記仮焼粉を成形し、成形体を得る成形工程と、
前記成形体を本焼成する本焼成工程と、を備え、
前記素原料は、各金属元素についてそれぞれ独立に、金属元素の炭酸塩、酸化物、硝酸塩、アルコキシド又は水酸化物であり、
前記秤量工程において、前記素原料を混合した後の全体に含まれる金属元素の物質量の合計を100mol%として、前記素原料を混合した後の全体が、
Li元素を18.1mol%以上21.8mol%より少なく、
Sr元素を19.0mol%より多く28.5mol%以下、
Ta元素を36.1mol%以上44.6mol%より少なく、
Zr元素を6.0mol%より多く19.4mol%以下、
Al元素を含むように前記素原料を秤量し、
前記仮焼工程は、酸素を含む雰囲気中、焼成温度を800℃以上1300℃以下とし、焼成時間を1時間以上24時間以下として行い、
前記本焼成工程は、酸素を含む雰囲気中で行う、実質的に異相を含まないペロブスカイト型イオン伝導性酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記素原料を混合した後の全体が、
La及びGa元素を含む
ように前記秤量工程を行う、請求項に記載のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記素原料を混合した後の全体が、
Ca元素を含む
ように前記秤量工程を行う、請求項または請求項に記載のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン伝導性酸化物を電解質に用いた全固体二次電池は、電解質が燃焼しないため安全性が高い、といった特徴を有する。このため、従来のリチウムイオン二次電池に比べて冷却機構、安全機構が簡略化でき、モジュールコストの低減に加えエネルギー密度改善が見込める。
【0003】
このイオン伝導性酸化物の一つとして、Li、Sr及びZrを含むペロブスカイト型イオン伝導性酸化物を挙げることができる。このLi、Sr及びZrを含むペロブスカイト型イオン伝導性酸化物としては、例えば、特許文献1にはCa又はLaを添加することでイオン伝導度を改善することが可能なことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-169145号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Solid State Ionics 261(2014)95-99
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のイオン伝導性酸化物の製造方法においては、異相が生成していた。異相の生成は、イオン伝導度を下げたり、クラックを生じたりするなどの問題を生じる可能性がある。
【0007】
本発明では、実質的に異相を含まないイオン伝導性酸化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のイオン伝導性酸化物の製造方法は、素原料を混合した後の全体に含まれる金属元素の物質量の合計を100mol%として、素原料を混合した後の全体に含まれる各金属元素は、
Li元素を18.1mol%以上21.8mol%以下、
Sr元素を19.0mol%以上28.5mol%以下、
Ta元素を36.1mol%以上44.6mol%以下、
Zr元素を6.0mol%以上19.4mol%以下、
Al元素を含む
ことを特徴とする。
【0009】
さらに、素原料を混合した後の全体に含まれる各金属元素は、
La及びGa元素を含むことが好ましい。
【0010】
さらに、素原料を混合した後の全体に含まれる各金属元素は、
Ca元素を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、実質的に異相の含まないイオン伝導性酸化物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例1、4、6で調整した焼結体のXRDパターンである。
図2図2は、比較例で調製した焼結体のXRDパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のペロブスカイト型イオン伝導性酸化物の製造方法は、金属元素としてLi、Sr、Ta、Zr、Alを含む素原料を用いる。この時、各元素は素原料全体に含まれる金属元素の物質量の合計を100mol%として、Li元素を10mol%以上22mol%以下、Sr元素を20mol%以上35mol%以下、Ta元素を32mol%以上44mol%以下、Zr元素を10mol%以上24mol%以下、とし、さらにAl元素を含むことで、実質的に異相の発生を含まないペロブスカイト型の結晶構造が維持されるため、イオンの伝導性も高くなることが期待される。実質的に異相を含まないとは、XRDによる分析でペロブスカイト型構造に起因する回折ピーク以外には明瞭なピークが認められないことを意味し、組織上で僅かにミクロな異相が観察されたとしても実質的に異相を含まないものとする。以下に、組成の考え方を説明する。
【0014】
(イオン伝導性酸化物の組成の考え方)
以下に用いる各素原料における物質量比率(mol%)範囲の決め方について説明する。ここで、物質量比率とは素原料全体に含まれる金属元素の物質量の合計を100mol%としており、ペロブスカイト型の結晶構造を維持できていれば、各金属元素の比率のずれを許容できる。本発明の目指すペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は、Li、Sr、TaおよびZr元素を含み、少なくともAl元素を含み、下記の組成式(1)で表された組成比となる様に用いる素原料の比率を調整している。0.60<a<0.80、a=b+2c、(m-2)x=(4-n)yである。ただし、□は原子空孔であり、MAはAサイトのSrへの置換元素、MBはBサイトのZrへの置換元素、mはMAの価数、nはMBの価数である。

LiSr(1-b-c-x)MATa(a+z)Zr(1-a-2z-y)AlMB・・・(1)
【0015】
ペロブスカイト型イオン伝導性酸化物は非特許文献1に示されるLi3/8Sr7/16Ta3/4Zr1/4を基本組成として、少なくともAlを含ませたものである。この結晶構造において金属元素が存在するサイトが2種類あり、LiやSrが存在するサイトをAサイト、TaやZrの存在するサイトをBサイトと呼称する。
まず、元素置換をしていない組成(組成式(1)でx=y=z=0)における各金属元素の組成範囲について説明する。Aサイト中のSr比を低下、またはBサイト中のTa比を上昇させることでペロブスカイト構造が不安定化し、異相が生成する。そのため、Aサイト中のSr比(1-b-c)は0.40以上であることが好ましく、Bサイト中のTa比が0.80未満であることが好ましい。Ta比が大きいほど導電率が高い傾向があり、Ta比aは0.65以上であることが好ましく、0.75以上であることがより好ましい。したがってZr比(1-a)は0.20より大きいことが好ましく、0.35以下であることが好ましく、0.25以下であることがより好ましい。ペロブスカイト型イオン伝導性酸化物の導電率はLi比と空孔サイト(□)比の積と正の相関があり、これを最大化するようにすることと、化合物全体の電気的中性を保つことを考慮して組成を決定している。すなわち、Li比bはb=a/2、原子空孔(□)比cはc=a/4である。したがって、Li比(b=a/2)は0.33以上であることが好ましく、0.40より小さいことが好ましい。以上で記述したSr比、Ta比、Zr比は元素置換のない場合(組成式(1)でx=y=z=0)の値であり、元素置換によりSr比、Zr比は低く、Ta比は高くなるため金属元素の物質量合計に対する各金属元素の物質量比率(mol%)は置換元素の物質量を考慮する必要がある。以下で置換元素の物質量を説明する。
【0016】
また、ペロブスカイト型イオン伝導性酸化物に元素置換を行い、格子定数を適正な範囲とすることで導電率が向上し、組成式(1)においてa=3/4、b=3/8、c=3/16で表現できる基本組成に対して、格子定数を低減することで導電率は向上する。すなわち、置換元素MAはSrよりもイオン半径が小さいLa、Ca、Bi、Naなどが好ましい。置換元素MBはZrよりもイオン半径が小さく、Taよりもイオン半径が小さいGa、Ti、Coなどが好ましい。
【0017】
さらにAlを組成範囲zとして、0<z≦0.02で含むことでTa比を上昇させながら緻密な粒界を形成することができ好ましい。0.005≦z、またはz≦0.01とすることで、Alによる抵抗増大なく緻密な粒界が形成されるためより好ましい。金属元素の物質量合計に対する各金属元素の物質量比率(mol%)は組成式(1)と0<z≦0.02より算出すると、Al元素を0mol%より多く、1.1mol%以下で含むことが好ましい。この範囲であれば、異相が生成せず、ペロブスカイト型の結晶構造を維持できる。
【0018】
置換元素MAとしてLa(m=3)、置換元素MBとしてGa(n=3)を置換しても良い。例えば組成範囲x、yとして0≦x<0.05かつ0≦y<0.05で含むことで導電率が向上するため好ましい。0<x≦0.02かつ0<y≦0.02とすることで、異相の生成なく、x=y=0と比べて導電率が向上するためより好ましい。金属元素の物質量合計に対する各金属元素の物質量比率(mol%)は組成式(1)と0<x≦0.02かつ0<y≦0.02より算出すると、La元素及びGa元素を合計で0mol%より多く2.2mol%以下で含むことが好ましい。この範囲であれば、異相が生成せず、ペロブスカイト型の結晶構造を維持できる。
【0019】
さらに置換元素MAとしてCa(m=2)を置換してもよく、例えば組成範囲xとして0≦x≦0.05で含むことで異相の生成がないため好ましい。さらに0<x、またはx≦0.01とすることで異相の生成なくx=0と比べて導電率が向上するため好ましい。金属元素の物質量合計に対する各金属元素の物質量比率(mol%)は組成式(1)と0≦x≦0.05より算出すると、Ca元素を0mol%より多く、2.8mol%以下で含むことが好ましい。この範囲であれば、異相が生成せず、ペロブスカイト型の結晶構造を維持できる。
【0020】
組成式(1)と0≦x≦0.05、0≦y<0.05、0<z≦0.02より、金属元素の物質量合計に対する各金属元素Li、Sr、Ta、Zrの物質量比率(mol%)を算出した。その結果、素原料を混合した後の全体に、Li元素を18.1mol%以上21.8mol%より少なく、Sr元素を19.0mol%より多く28.5mol%以下、Ta元素を36.1mol%以上44.6mol%より少なく、Zr元素を6.0mol%より多く19.4mol%以下、各金属元素を含むことが好ましい。
【0021】
(イオン伝導性酸化物の製造方法)
本発明を実施する形態の一つとして、用いる素原料を、各金属元素の酸化物や炭酸塩等で準備し、ペロブスカイト型イオン伝導性酸化物を製造する方法を以下に説明する。
まず、組成式(1)に基づき、素原料を秤量する工程を行う。まず、組成式(1)に含まれる金属元素を含む素原料を、組成式(1)に基づき秤量する工程を行う。
【0022】
用いる素原料は、金属元素Li、Sr、Ta、Zr、Al、La、Ga、Caの炭酸塩や酸化物、硝酸塩やアルコキシドなどを用いることができ、さらに純度やコストなどの観点から入手しやすく、潮解性などの観点から、秤量しやすい炭酸塩や酸化物および水酸化物を用いることが好ましい。素原料を粉末で用いる場合の粒子径はとくに問わないが、粒子径が小さいほど固相反応が速やかに進行する。一方、粒子径が大きいほど凝集が起こりづらく混合が容易である。さらに、各素原料粉の粒子径が同程度である方が均一に混合できるため好ましい。したがって、D50が0.1μm以上10μm以下の素原料粉が好ましい。
【0023】
次に、前記素原料を混合し、混合粉を得る工程を行う。このとき準備したすべての素原料粉を混合して、仮焼後に粉末状のイオン伝導性酸化物を得たり、仮焼後に成形、焼結などを経て、焼結体状のイオン伝導性酸化物を得たりしてもよい。さらに、添加量の少ない素原料、例えばAlを含む素原料は後述する仮焼粉を得る工程の後に添加するなどして、仮焼後に成形、焼結などを経て、焼結体状のイオン伝導性酸化物を得るなどしてもよい。混合方法は、溶媒中に素原料を分散させて行う湿式混合法や、乾式で行う方法、たとえばジェットミルなどを用いてもよい。さらに湿式のボールミルであれば収率が高いため好ましい。湿式混合を選定した場合、溶媒としてはエタノールなどのアルコール類やジメチルエーテルなどのエーテル類、酢酸エチルなどのエステル類などの有機溶媒を適用することで、水と反応する場合でも湿式混合を用いることができるため好ましい。
【0024】
続いて、前記混合粉を仮焼し、仮焼粉を得る工程を行う。仮焼は固相反応により酸化物を得る方法であり、酸素を含む雰囲気中であれば、静置式バッチ炉や管状路、コンベア炉など様々な炉を用いてもよい。また、るつぼやセッタを用いる場合、材質はアルミナ、ジルコニアなどを選択してもよい。さらに仮焼工程を設けることで単一相を得やすく、仮焼粉において単一相であれば、本焼成後に導電率が高い焼結体が得られるためさらに好ましい。仮焼粉が単一相であることはXRDによって確認できる。ペロブスカイト相の同定にはSrZrO(ISCDコード:187471)など、立方晶のペロブスカイト構造を持つものを用いた。異相生成の有無は、LiTaO(ISCDコード:84226)やSrTa(ISCDコード:262844)に帰属されるピークが観測されるか否かで判定した。仮焼する工程における保持温度は、800℃以上とすることで、炭酸塩が分解し本焼成時に炭酸ガスの発生とそれに伴う割れ、膨れを抑制できるため好ましく、1250℃以上とすることで、仮焼粉が単一相となりやすくなるためさらに好ましい。また、Li揮発の問題から、焼成温度は1300℃以下で行うことが好ましく、1000℃未満とすることでLi揮発が抑制されるためさらに好ましい。保持温度は処理量にもよるが1時間以上24時間以下であることが好ましい。
【0025】
焼成体を得る場合には、前記仮焼粉を成形し、成形体を得る工程を行う。成形体を作製するために使用する仮焼粉は仮焼後の粉をそのまま使用してもよく、湿式粉砕などの方法で粉砕してから使用してもよい。このとき、湿式粉砕の溶媒としては、エタノールなどのアルコール類やジメチルエーテルなどのエーテル類、酢酸エチルなどのエステル類などの有機溶媒を適用することで、水と反応する場合でも用いることができるため好ましい。成形は一軸加圧成型や冷間等方圧プレス(CIP)などを用いて良い。この際に、仮焼粉を加圧成形してもよいが、湿式粉砕などで得られたスラリーをシート状に成形するシート成形法を用いるなどして、成形体としてグリーンシートを作製してもよい。また、グリーンシートは加圧などしても良く、例えば加圧時にはバインダのガラス転移温度以上の温度で加温しながら加圧することがより好ましい。
【0026】
成形体としてグリーンシートを得る場合、例えば以下のように調製する。まず、バインダ(例えばポリビニルブチラール(PVB)など)の溶液を調製する。そして、この溶液に対して前記仮焼粉の含有量が、例えば5質量%以上20質量%以下となるように混合する。なお、この溶液には可塑剤(例えばジオクチルフタレート(DOP)など)を混合してもよい。そして、得られた溶液についてボールミルを使用して十分に混合及び分散が行われ、これにより、グリーンシート用のスラリーが得られる。このスラリーに対し、減圧下で脱泡と溶媒の一部揮発などを行い、粘度を調整してもよい。スラリーは、ブレード法によりポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどに塗工し、その全体を乾燥する。乾燥後、フィルムから剥がし、所望の大きさ及び形状に切断することで、グリーンシートが作製される。
【0027】
次に、得られた成形体を本焼成する工程を行う。本焼成では酸素を含む雰囲気中であれば、静置式バッチ炉や管状炉、エレベーター炉、コンベア炉など様々な炉を用いてもよい。また、るつぼやセッタを用いる場合、材質はアルミナ、ジルコニアなどを選択してもよい。焼成温度が900℃を超える場合にはLi揮発の懸念があるため、仮焼粉にLiCOなどの素原料を過剰に添加するか、例えばパウダーベッド法などでの焼成が好ましい。パウダーベッド法による焼成は、マザーパウダで加圧成形体を包む焼成方法となる。このとき、マザーパウダは加圧成形体と同一組成であり、本焼成温度でも焼結しにくいように粉末性状を調整した仮焼粉を用いることが好ましい。本発明を実施する形態は、金属元素としてLi、Sr、Ta、Zr、Alを含む素原料を用いて製造したペロブスカイト型イオン伝導性酸化物であり、例えば焼結体でもよい。焼結体の大きさには制限がなく、ペレット状の塊でもよく、粒子どうしが一部焼結した0.3μm~100μm程度の粒子径を持つ粒子でもよい。また、得られたイオン伝導性酸化物はこれまで説明した通りLiなどが揮発している可能性があり、必ずしも望むとおりの組成比になっているとは限らない。しかし同時に、Liを含む素原料を一定量多めに加えたり、焼成する際に成形体と同一組成の仮焼粉をマザーパウダとして成形体を保護したりするなど、プロセス条件を適宜選択して原料混合物組成からの組成ずれを実質的になくすことができる。
【0028】
以下に実施例について説明する。まず、以下の表1に各実施例および比較例のTa、Al、Ca、La、Gaの仕込み組成比率(mol%)と、LiCO、SrCO、Ta、ZrO、Al、CaCO、La(OH)、Gaの重量比率(mass%)、XRDにより判定した異相の有無を一覧にして示す。
【0029】
【表1】
【0030】
実施例1および実施例14は以下のように実施した。素原料はLiCO、SrCO、Ta、ZrO、Alを準備した。次に、表1に示す通りにLiCO、SrCO、Ta、ZrO、Alを秤量した。秤量した素原料をエタノールおよびジルコニアボールとともにボールミルで20時間混合し、エタノールを蒸発させることで素原料混合粉を得た。この素原料混合粉をアルミナるつぼに入れ、1300℃で15時間仮焼した。このようにして得られた仮焼粉は、アルミナるつぼと接触する面は廃棄し、るつぼからのAl混入がないようにした。目安として、収率が50%となるようにした。さらに、得られた仮焼粉を酢酸ブチルおよびジルコニアボールとともにボールミルで40時間粉砕し、酢酸ブチルを蒸発させることで粉砕粉を得た。さらに、φ14mmのダイスで9.8kN・m-2で一軸プレスし、ペレットを作製した。焼成するペレットの周囲を2倍の重量のマザーパウダ(ペレットと同組成の仮焼粉)で覆うようにし、1300℃で15時間本焼成した。このような方法で、混合した後の全体における組成と、得られたイオン伝導性酸化物との組成ずれを防止した。
【0031】
イオン伝導性の評価として、導電率は、以下のように測定した。本焼成で得られたペレットの両面を研磨し、Au蒸着した。このペレットをIn箔で挟み込み、電気化学セル内に入れた。このセルの抵抗(R)は、インピーダンスアナライザ(Solartron1260)を用いて交流インピーダンス法により測定した。ペレットの直径から面積(S)を算出し、ペレットの面積(S)とペレットの厚み(t)を用いて、導電率(σ)を以下の式1により決定した。
【式1】
【0032】
【0033】
焼結体のX線回折測定(XRD)は以下のように実施した。本焼成で得られたペレットの表面を研磨し、XRD装置(リガク製、Smart-Lab)を用いて、集中法方光学系でCuKα線(波長1.53Å、45kV、200mA)、2θ:10~80°、50°/minの条件で測定した。ペロブスカイト相の同定にはSrZrOのISCDコード:187471など、立方晶のペロブスカイト構造を持つものを用いた。異相生成の有無は、LiTaO(ISCDコード:84226)やSrTa(ISCDコード:262844)に帰属されるピークが観測されるか否かで判定した。
【0034】
実施例2から実施例4は、素原料としてLiCO、SrCO、Ta、ZrO、Al、CaCOを準備し、表1に示す通りにLiCO、SrCO、Ta、ZrO、Al、CaCOを秤量したこと以外は実施例1と同様に実施した。この結果、実施例2において導電率は3.5×10-4Scm-1と非常に高かった。
【0035】
実施例5および実施例6は、素原料としてLiCO、SrCO、Ta、ZrO、Al、La(OH)、Gaを準備し、表1に示す通りにLiCO、SrCO、Ta、ZrO、Al、La(OH)、Gaを秤量したこと以外は実施例1と同様に実施した。この結果、実施例5において導電率は3.3×10-4Scm-1、実施例6において導電率は3.4×10-4Scm-1と非常に高かった。
【0036】
実施例7から実施例9は、仮焼温度を1100℃とし、仮焼後の粉砕を省略したこと以外は実施例2と同様に実施した。
【0037】
実施例10および実施例11は、仮焼温度を1100℃とし、仮焼後の粉砕を省略したこと以外は実施例5と同様に実施した。
【0038】
実施例12および実施例13は、仮焼温度を1100℃とし、仮焼後の粉砕を省略したこと以外は実施例1と同様に実施した。
【0039】
Al置換をした実施例1、実施例4および実施例6のXRDの結果について、縦軸方向に各実施例の結果をシフトさせて表示した。これらの結果について、図1の矢印で示したペロブスカイト相に帰属されるピークのみが観測され、異相がないことが示された。Alを含むことで異相であるLiTaOなどのペロブスカイト相への固溶を促進し、緻密な粒界を形成するためであると考えられる。
【0040】
続いて、比較例について説明する。
【0041】
比較例は、素原料としてLiCO、SrCO、Ta、ZrOを準備し、表1に示す通りにLiCO、SrCO、Ta、ZrOを秤量したこと以外は実施例1と同様に実施した。すなわち、比較例においてAl元素を含めなかった。
【0042】
比較例において、図2において丸印(○)や三角印(△)で示したようにペロブスカイト相以外の結晶相LiTaOやSrTaが析出している。Ta元素の金属元素全体に対する物質量比率が41mol%以上と高く、Al元素を含まない比較例で、異相があることが示された。
【0043】
【表2】
【0044】
なお、実施例1と実施例6の狙い組成(混合粉の組成)と、実施例1と実施例6で得られたペロブスカイト型伝導性酸化物の分析値と、の比較を表2に示す。表2は、ICP分析の結果を、金属元素の合計を100%としてモル比に換算した結果であり、狙い組成と良く一致していた。

図1
図2