IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイエスピーの特許一覧 ▶ ダイキョーニシカワ株式会社の特許一覧

特許7319869浴槽の製造方法および浴槽、ならびに断熱材付き樹脂成形体の製造方法および断熱材付き樹脂成形体
<>
  • 特許-浴槽の製造方法および浴槽、ならびに断熱材付き樹脂成形体の製造方法および断熱材付き樹脂成形体 図1
  • 特許-浴槽の製造方法および浴槽、ならびに断熱材付き樹脂成形体の製造方法および断熱材付き樹脂成形体 図2
  • 特許-浴槽の製造方法および浴槽、ならびに断熱材付き樹脂成形体の製造方法および断熱材付き樹脂成形体 図3
  • 特許-浴槽の製造方法および浴槽、ならびに断熱材付き樹脂成形体の製造方法および断熱材付き樹脂成形体 図4
  • 特許-浴槽の製造方法および浴槽、ならびに断熱材付き樹脂成形体の製造方法および断熱材付き樹脂成形体 図5
  • 特許-浴槽の製造方法および浴槽、ならびに断熱材付き樹脂成形体の製造方法および断熱材付き樹脂成形体 図6
  • 特許-浴槽の製造方法および浴槽、ならびに断熱材付き樹脂成形体の製造方法および断熱材付き樹脂成形体 図7
  • 特許-浴槽の製造方法および浴槽、ならびに断熱材付き樹脂成形体の製造方法および断熱材付き樹脂成形体 図8
  • 特許-浴槽の製造方法および浴槽、ならびに断熱材付き樹脂成形体の製造方法および断熱材付き樹脂成形体 図9
  • 特許-浴槽の製造方法および浴槽、ならびに断熱材付き樹脂成形体の製造方法および断熱材付き樹脂成形体 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】浴槽の製造方法および浴槽、ならびに断熱材付き樹脂成形体の製造方法および断熱材付き樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/54 20060101AFI20230726BHJP
   A47K 3/02 20060101ALI20230726BHJP
   B29C 43/18 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
B29C65/54
A47K3/02
B29C43/18
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019154485
(22)【出願日】2019-08-27
(65)【公開番号】P2021030615
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(73)【特許権者】
【識別番号】390026538
【氏名又は名称】ダイキョーニシカワ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 秀浩
(72)【発明者】
【氏名】星野 智弘
(72)【発明者】
【氏名】助信 哲康
(72)【発明者】
【氏名】木村 友彦
(72)【発明者】
【氏名】奥野 孝弘
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-142117(JP,A)
【文献】特開2002-219066(JP,A)
【文献】特開2006-089666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 3/00-3/40
B29
B32
F16L 59/00-59/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂によって形成された浴槽本体(3)を準備する浴槽本体準備ステップと、
未硬化の状態を有する熱硬化性樹脂(51)が表面に設けられた断熱材(5)を準備する断熱材準備ステップと、
前記浴槽本体(3)と前記断熱材(5)とを、保持型(101)に対し、前記浴槽本体(3)の外側面が前記断熱材(5)を介して前記保持型(101)に対向する状態にセットするセットステップと、
前記熱硬化性樹脂(51)が硬化する温度を前記断熱材(5)に付与しながら、前記浴槽本体(3)と前記断熱材(5)とを互いに加圧する状態に接触させることにより接合する接合ステップと、
前記断熱材(5)と接合された前記浴槽本体(3)を前記保持型(101)から脱型する脱型ステップと、を含む
ことを特徴とする浴槽の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された浴槽の製造方法において、
前記浴槽本体準備ステップでは、前記浴槽本体(3)として、成形時の熱が残留している状態の浴槽本体(3)を準備し、
前記セットステップでは、前記浴槽本体(3)を成形時の熱が残留している状態で前記保持型(101)にセットし、
前記接合ステップでは、前記浴槽本体(3)に残留している成形時の熱を利用して、前記浴槽本体(3)と前記断熱材(5)とを接合する
ことを特徴とする浴槽の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載された浴槽の製造方法において、
前記接合ステップでは、前記保持型(101)を加熱して、前記断熱材(5)に前記熱硬化性樹脂(51)が硬化する温度を付与する
ことを特徴とする浴槽の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載された浴槽の製造方法において、
前記断熱材準備ステップでは、前記断熱材(5)として、熱可塑性樹脂からなる複数の発泡粒子(13)を有し、前記複数の発泡粒子(13)それぞれが前記未硬化の状態を有する熱硬化性樹脂(51)によって覆われた断熱材(5)を準備する
ことを特徴とする浴槽の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、浴槽の製造方法および浴槽、ならびに断熱材付き樹脂成形体の製造方法および断熱材付き樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、浴槽として、省エネルギー化の観点から高い保温性能を確保すべく、発泡体などからなる断熱材が浴槽本体の外側面に設けられた保温浴槽が知られている。この保温浴槽において、断熱材は、例えば、浴槽本体の外側面に対して、ポリウレタンフォームなどの発泡体を噴き付けたり、予め成形してある複数ピースの断熱材をコーキング材などの接着剤で接着したりして設けられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-142585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、断熱材を設けるのに浴槽本体の外側面に発泡体を噴き付ける手法は、発泡ガスなどが発生するため作業環境が悪く、防護具を装着する必要があることから、作業者への負担が大きい。また、断熱材を設けるのに浴槽本体の外側面に複数ピースの断熱材を接着する手法は、個々の断熱材を浴槽本体に貼り付ける作業を行うため、工数がかかる。この断熱材を接着する手法ではさらに、浴槽本体の外側面と断熱材との間に隙間が生じることがあり、浴槽の断熱性能(保温性能)が損なわれるおそれがある。これらの問題は、浴槽に限らず、断熱材が樹脂成形体の外側面に接合されてなる断熱材付き樹脂成形体において生じ得る。
【0005】
本開示の技術は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、浴槽などの断熱材付き樹脂成形体の製造における作業者の負担の軽減と工数の削減とを図り、断熱材付き樹脂成形体の断熱性能が損なわれるのを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本開示の技術では、浴槽本体などの樹脂成形体と断熱材とを保持型を用いて直接接合するようにした。
【0007】
具体的には、本開示の技術に係る第1の態様は、浴槽の製造方法を対象とする。この第1の態様の浴槽の製造方法は、熱硬化性樹脂によって形成された浴槽本体を準備する浴槽本体準備ステップと、未硬化の状態を有する熱硬化性樹脂が表面に設けられた断熱材を準備する断熱材準備ステップと、浴槽本体と断熱材とを、保持型に対し、浴槽本体の外側面が断熱材を介して保持型に対向する状態にセットするセットステップと、熱硬化性樹脂が硬化する温度を断熱材に付与しながら、浴槽本体と断熱材とを互いに加圧する状態に接触させることにより接合する接合ステップと、断熱材と接合された浴槽本体を保持型から脱型する脱型ステップとを含む。ここでいう「未硬化の状態を有する」とは、全く硬化させていない未硬化の状態にある場合は勿論、硬化を途中まで進行させた半硬化の状態にある場合をも含む意味である。
【0008】
本開示の技術に係る第2の態様は、第1の態様の浴槽の製造方法において、浴槽本体準備ステップでは、浴槽本体として、成形時の熱が残留している状態の浴槽本体を準備する、浴槽の製造方法である。この第2の態様の浴槽の製造方法において、セットステップでは、浴槽本体を成形時の熱が残留している状態で前記保持型にセットし、接合ステップでは、浴槽本体に残留している成形時の熱を利用して、浴槽本体と断熱材とを接合する。
【0009】
本開示の技術に係る第3の態様は、第1または第2の態様の浴槽の製造方法において、接合ステップでは、保持型を加熱して、断熱材に熱硬化性樹脂が硬化する温度を付与する、浴槽の製造方法である。
【0010】
本開示の技術に係る第4の態様は、第1~第3の態様の浴槽の製造方法において、断熱材準備ステップでは、断熱材として、熱可塑性樹脂からなる複数の発泡粒子を有し、複数の発泡粒子それぞれが未硬化の状態を有する熱硬化性樹脂によって覆われた断熱材を準備する、浴槽の製造方法である。
【0011】
本開示の技術に係る第5の態様は、浴槽を対象とする。この第5の態様の浴槽は、熱硬化性樹脂によって形成された浴槽本体と、浴槽本体の壁部を構成する外側面に設けられた断熱材とを備える。断熱材の表面には、熱硬化性樹脂からなる接合樹脂層が設けられている。そして、接合樹脂層は、浴槽本体に直接接合されている。
【0012】
本開示の技術に係る第6の態様は、断熱材付き樹脂成形体の製造方法を対象とする。この第6の態様の断熱材付き樹脂成形体の製造方法は、熱硬化性樹脂によって形成された樹脂成形体を準備する樹脂成形体準備ステップと、未硬化の状態を有する熱硬化性樹脂が表面に設けられた断熱材を準備する断熱材準備ステップと、樹脂成形体と断熱材とを、保持型に対し、樹脂成形体が断熱材を介して保持型に対向する状態にセットするセットステップと、熱硬化性樹脂が硬化する温度を断熱材に付与しながら、樹脂成形体と断熱材とを互いに加圧した状態に接触させることにより接合する接合ステップと、断熱材が接合された樹脂成形体を保持型から脱型する脱型ステップとを含む。
【0013】
本開示の技術に係る第7の態様は、断熱材付き樹脂成形体を対象とする。この第7の態様の断熱材付き樹脂成形体は、熱硬化性樹脂によって形成された樹脂成形体と、樹脂成形体の表面に設けられた断熱材とを備える。断熱材の表面には、熱硬化性樹脂からなる接合樹脂層が設けられている。そして、接合樹脂層は、樹脂成形体に直接接合されている。
【発明の効果】
【0014】
第1の態様の浴槽の製造方法によれば、断熱材として、未硬化の状態を有する熱硬化性樹脂が表面に設けられた断熱材を用い、その断熱材を、熱硬化性樹脂からなる浴槽本体の外側面に保持型を用いて加圧した状態に接触させ、当該断熱材の熱硬化性樹脂を硬化させることにより、浴槽本体と断熱材とを直接接合させるようにしたから、浴槽本体に必要な断熱材をまとめて設けることができ、複数ピースの断熱材を1つ1つ浴槽本体に貼り付ける作業を行う場合よりも浴槽の製造にかかる工数を削減することができる。さらに、浴槽本体の外側面に断熱材を密着させた状態で隙間なく設けることができるので、浴槽の断熱性能(保温性能)が損なわれるのを抑制できる。また、浴槽の製造現場における作業環境を改善することができる。作業者は防護具を装着しなくても済むので、作業者の負担を軽減することができる。
【0015】
第2の態様の浴槽の製造方法によれば、浴槽本体に残留している成形時の熱を利用して浴槽本体と断熱材とを接合するようにしたから、断熱材の熱硬化性樹脂を硬化させるのに、浴槽本体を再度加熱して昇温させる必要がなくなるか、または浴槽本体を昇温させるにしてもその昇温時間を短縮することができる。それにより、浴槽の製造における作業効率を向上させることができる。
【0016】
第3の態様の浴槽の製造方法によれば、断熱材の熱硬化性樹脂を硬化させるのに保持型を加熱するようにしたから、熱硬化性樹脂が硬化する温度を断熱材に付与し続けることができる。それにより、断熱材の熱硬化性樹脂を完全に硬化させて、浴槽本体に断熱材を確実に接合することができる。
【0017】
第4の態様の浴槽の製造方法によれば、断熱材として、複数の発泡粒子それぞれが未硬化の状態を有する熱硬化性樹脂によって覆われた断熱材を用いるようにしたので、浴槽本体の外形に合わせて断熱材を賦形し易い。このことは、浴槽本体の外側面に断熱材を密着させた状態で隙間なく設けるのに有利である。また、断熱材を浴槽本体に接合するときに、断熱材における複数の発泡粒子と熱硬化性樹脂とを一体化して、発泡粒子同士を結着することができる。よって、このような断熱材は、第1の態様の浴槽の製造方法に有用である。
【0018】
第5の態様の浴槽によれば、熱硬化性樹脂からなる浴槽本体の外側面に対し、断熱材の表面に設けられた熱硬化性樹脂からなる接合樹脂層を直接接合するようにしたから、浴槽本体と断熱材との間に隙間が生じるのを抑制して、良好な保温性能を持つ浴槽を実現することができる。こうした浴槽は、第1の態様の浴槽の製造方法を用いて製造することができる。
【0019】
第6の態様の断熱材付き樹脂成形体の製造方法によれば、断熱材として、未硬化の状態を有する熱硬化性樹脂が表面に設けられた断熱材を用い、その断熱材を、熱硬化性樹脂からなる樹脂成形体の表面に保持型を用いて加圧した状態に接触させ、当該断熱材の熱硬化性樹脂を硬化させることにより、樹脂成形体と断熱材とを直接接合させるようにしたから、樹脂成形体に必要な断熱材をまとめて設けることができ、複数ピースの断熱材を1つ1つ樹脂成形体に貼り付ける作業を行う場合よりも浴槽の製造にかかる工数を削減することができる。さらに、樹脂成形体の外側面に断熱材を密着させた状態で隙間なく設けることができるので、樹脂成形体の断熱性能が損なわれるのを抑制できる。また、断熱材付き樹脂成形体の製造現場における作業環境を改善することができる。作業者は防護具を装着しなくても済むので、作業者の負担を軽減することができる。
【0020】
第7の態様の断熱材付き樹脂成形体によれば、熱硬化性樹脂からなる樹脂成形体の表面に対し、断熱材の表面に設けられた熱硬化性樹脂からなる接合樹脂層を直接接合するようにしたから、浴槽本体と断熱材との間に隙間が生じるのを抑制して、良好な断熱性能を持つ断熱材付き樹脂成形体を実現することができる。こうした断熱材付き樹脂成形体は、第6の態様の断熱材付き樹脂成形体の製造方法を用いて製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施形態に係る浴槽の斜視図である。
図2図2は、図1のII-II線における浴槽の断面図である。
図3図3は、図2のIIIで囲んだ浴槽の一部を示す断面図である。
図4図4は、実施形態に係る浴槽の製造方法における浴槽本体の成形で成形型に成形材料をセットして型閉めする様子を示す断面図である。
図5図5は、実施形態に係る浴槽の製造方法における浴槽本体の成形で成形型内のキャビティに成形材料が押し広げられた状態を示す断面図である。
図6図6は、実施形態に係る浴槽の製造方法における浴槽本体の成形で成形型から浴槽本体を脱型する様子を示す断面図である。
図7図7は、実施形態に係る浴槽の製造方法におけるセットステップで保持型に断熱材をセットする様子を示す断面図である。
図8図8は、実施形態に係る浴槽の製造方法におけるセットステップで断熱材がセットされた保持型に浴槽本体をセットする様子を示す断面図である。
図9図9は、実施形態に係る浴槽の製造方法における接合ステップを示す断面図である。
図10図10は、実施形態に係る浴槽の製造方法における脱型ステップを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
- 浴槽の構成 -
図1は、実施形態に係る浴槽1の斜視図である。図2は、図1のII-II線における浴槽1の断面図である。図3は、図2のIIIで囲んだ浴槽1の一部を示す断面図である。図1図3に示す浴槽1は、浴室に設置される、保温性能に優れた保温浴槽である。浴槽1は、断熱材付き樹脂成形体の一例である。この浴槽1は、入浴のための湯を貯めることが可能な浴槽本体3と、浴槽本体3の外側面(樹脂成形体の表面)に設けられた断熱材5(図1では斜線を付す)とを備えている。
【0024】
浴槽本体3は、略矩形状の底壁部7と、底壁部7の周縁から立ち上がる周壁部9と、周壁部9の上端から周囲に向かって突出したリム部11とを備えている。浴槽本体3において、底壁部7と周壁部9とは、湯を溜めるための空間を形成している。底壁部7には、入浴者が腰を掛ける座面として使用可能な段部が設けられていてもよい。周壁部9には、浴槽本体3の内方に張り出す張り出し部が設けられていてもよい。
【0025】
浴槽本体3は、熱硬化性樹脂によって形成された樹脂成形体である。浴槽本体3をなす熱硬化性樹脂は、例えば、不飽和ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、フェノール系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、またはこれらを主材料とする樹脂である。但し、当該熱硬化性樹脂は、これらに限らず、その他の熱硬化性樹脂であってもよい。
【0026】
断熱材5は、浴槽本体3における底壁部7の下面と、周壁部9の外周面と、リム部11の裏側面とに一続きに設けられている。この断熱材5は、いわゆるコアシェル構造を有している。具体的には、断熱材5は、発泡体としての複数の発泡粒子13と、複数の発泡粒子13それぞれを覆う結着樹脂部15とを含んで構成されている。
【0027】
複数の発泡粒子13は、断熱材5のコアを構成している。発泡粒子13は、熱可塑性樹脂によって形成されている。発泡粒子13は、球体や楕円体、円柱状の粒状体である。発泡粒子13の最大寸法は、例えば1mm以上且つ10mm以下であって、均一でもよいし、ばらついていてもよい。発泡粒子13をなす熱可塑性樹脂は、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、またはこれらを主材料とする合成樹脂である。
【0028】
結着樹脂部15は、断熱材5のコアを覆うシェルを構成している。この結着樹脂部15は、熱硬化性樹脂によって形成されている。結着樹脂部15をなす熱硬化性樹脂は、例えば、不飽和ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、フェノール系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、またはこれらを主材料とする合成樹脂であって、浴槽本体3と同じ材料であることが好ましい。
【0029】
結着樹脂部15は、断熱材5の表面に設けられた接合樹脂層16を形成している。この接合樹脂層16は、断熱材5の表層(外殻)を構成しており、浴槽本体3に直接接合されている。このように、断熱材5は、熱硬化性樹脂からなる接合樹脂層16が同じく熱硬化性樹脂からなる浴槽本体3と接合されることにより、浴槽本体3に対して堅固に固定されている。
【0030】
結着樹脂部15には、強化繊維および無機粒子の少なくとも一方が含有されていてもよい。結着樹脂部15に用いられる強化繊維としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維およびセルロースなどの有機繊維のうちから選ばれる一種以上の短繊維が挙げられる。結着樹脂部15に用いられる無機粒子としては、例えば、シラスバルーン、タルクおよび炭酸カルシウムのうちから選ばれる一種以上の無機材料からなる粒子が挙げられる。
【0031】
上記構成の浴槽1の製造方法について、以下に図4図10を参照しながら説明する。
【0032】
図4図6は、浴槽本体3を形成する様子を示す断面図である。図7は、保持型301に断熱材5をセットする様子を示す断面図である。図8は、断熱材5がセットされた保持型301に浴槽本体3をセットする様子を示す断面図である。図9は、浴槽本体3に断熱材5を接合する様子を示す断面図である。図10は、断熱材5が接合された浴槽本体3を脱型する様子を示す断面図である。
【0033】
浴槽1の製造方法は、浴槽本体準備ステップと、断熱材準備ステップと、セットステップと、接合ステップと、脱型ステップとを含んでいる。ここで、浴槽本体準備ステップは、樹脂成形体準備ステップに相当する。
【0034】
浴槽本体準備ステップでは、浴槽本体3を準備する。この実施形態において、浴槽本体3の準備は、浴槽本体3を成形することにより行われる。浴槽本体3の成形は、図4図6に示す成形型101を用いて行われる。成形型101は、第1型103と第2型105とを備えている。
【0035】
第1型103は、浴槽本体3のうち断熱材5が設けられる外側面、つまり底壁部7の下面と、周壁部9の外周面と、リム部11の裏側面とを成形する、凹形状に設けられた第1成形面107を有している。第2型105は、浴槽本体3の表側面、つまり底壁部7の上面と、周壁部9の内周面と、リム部11の表側面とを成形する、凸形状に設けられた第2成形面109を有している。これら第1型103と第2型105とは、型閉めした状態で、第1成形面107と第2成形面109との間に浴槽本体3を成形するためのキャビティ111を形成するようになっている。
【0036】
浴槽本体3を成形するには、まず、第1型103の第1成形面107と第2型105の第2成形面109とをそれぞれ所定の温度にまで加熱する。次に、図4に示すように、浴槽本体3の成形材料31を成形型101内に投入して第1型103の第1成形面107における凹形状底面に載置する。成形材料31としては、SMC(Sheet Molding Compound)やBMC(Bulk Molding Compound)などが使用される。
【0037】
続いて、図5に示すように、第1型103と第2型105とを接近させて成形型101を型閉めすることにより、キャビティ111を形成すると共に、成形材料31に圧力をかけて成形材料31をキャビティ111の全域に押し広げるように流動させる。そして、キャビティ111全域に及んだ成形材料31を第1型103および第2型105の熱で硬化させることにより、浴槽本体3を成形する。
【0038】
次いで、図6に示すように、第1型103と第2型105とを離間させて成形型101を型開けし、第1型103に付いている浴槽本体3を成形型101から脱型して取り出す。浴槽本体3は、脱型治具201を用いて、成形時の熱が残留している状態で脱型される。ここで用いられる脱型治具201は、例えば、浴槽本体3のリム部11上面に吸着する吸着部203を有し、吸着部203で浴槽本体3を保持するようになっている。
【0039】
断熱材準備ステップでは、断熱材5を準備する。この実施形態において、断熱材5の準備は、断熱材5を製造することにより行われる。断熱材5は、予め成形された複数の発泡粒子13と、結着樹脂部15を形成する熱硬化性樹脂51とを用いて製造される。
【0040】
具体的には、図示しないが、まず、熱硬化性樹脂51とアミン系硬化剤などの硬化剤とを混合して、熱硬化性樹脂51の混合液を調整する。次に、その熱硬化性樹脂51の混合液と発泡粒子13とを混合して、断熱材料を作製する。そして、断熱材料を金型に充填した後にその金型を加熱することにより、断熱材料を半硬化の状態として、発泡粒子13同士を熱硬化性樹脂51で接着する。このようにして、浴槽本体3の外側面に沿う所定の形状に賦形された断熱材5(図7参照)を製造する。
【0041】
セットステップでは、浴槽本体3を構成する壁部7,9の外側面に沿う凹形状を有する保持型301に、断熱材5および浴槽本体3をこの順でセットする。具体的には、まず、図7に示すように、保持型301の内部に断熱材5を嵌め入れてセットする。次に、図8に示すように、断熱材5がセットされた保持型301の内部に、脱型治具201を用いて成形型101から取り出した浴槽本体3を、成形時の熱が残留している状態でセットする。このようにして、保持型301に対し、断熱材5と浴槽本体3とを、浴槽本体3の壁部7,9の外側面が断熱材5を介して保持型301に対向する状態にセットする(図9参照)。保持型301にセットするときの浴槽本体3の温度は、例えば、80℃以上且つ150℃以下である。
【0042】
接合ステップでは、保持型301の外側に配置された電熱線などからなる加熱装置303により保持型301を加熱し、加熱装置303による保持型301の加熱と浴槽本体3に残留している成形時の熱とにより、断熱材5に熱硬化性樹脂51が硬化する温度を付与する。そうして断熱材5に熱硬化性樹脂51が硬化する温度を付与しながら、図9に示すように浴槽本体3を断熱材5に押し当てて浴槽本体3と断熱材5とを互いに加圧する状態に接触させる。それにより、断熱材5の熱硬化性樹脂51を完全に硬化させて、断熱材5における複数の発泡粒子13を熱硬化性樹脂51からなる結着樹脂部15で一体化し、発泡粒子13同士を結着すると共に、断熱材5を熱硬化性樹脂51からなる接合樹脂層16で浴槽本体3と接合する。
【0043】
脱型ステップでは、図10に示すように、断熱材5が接合された浴槽本体3を保持型301から脱型して取り出す。しかる後、断熱材5および浴槽本体3のバリ取りなどの端末処理を行う。以上のようにして、浴槽1を製造することができる。
【0044】
この実施形態の浴槽1の製造方法によれば、断熱材5として、半硬化の状態である熱硬化性樹脂51が表面に設けられた断熱材5を用い、その断熱材5を、熱硬化性樹脂からなる浴槽本体3の外側面に保持型301を用いて加圧した状態に接触させ、当該断熱材5の熱硬化性樹脂51を硬化させることにより、浴槽本体3と断熱材5とを直接接合させるようにしたから、浴槽本体3に必要な断熱材5をまとめて設けることができる。
【0045】
これにより、複数ピースの断熱材5を1つ1つ浴槽本体3に貼り付ける作業を行う場合よりも浴槽1の製造工数を削減することができる。さらに、浴槽本体3の外側面に断熱材5を密着させた状態で隙間なく設けることができるので、浴槽1の保温性能が損なわれるのを抑制できる。また、浴槽1の製造現場における作業環境を改善することができ、作業者は防護具を装着しなくても済むので、作業者の負担を軽減することができる。
【0046】
また、この実施形態の浴槽1の製造方法によれば、浴槽本体3に残留している成形時の熱を利用して浴槽本体3と断熱材5とを接合するようにしたから、断熱材5の熱可塑性樹脂を硬化させるのに、浴槽本体3を再度加熱して昇温させる必要がなくなるか、または浴槽本体3を昇温させるにしてもその昇温時間を短縮することができる。それにより、浴槽1の製造における作業効率を向上させることができる。
【0047】
また、この実施形態の浴槽1の製造方法によれば、断熱材5の熱硬化性樹脂51を硬化させるのに保持型301を加熱するようにしたから、熱硬化性樹脂51が硬化する温度を断熱材5に付与し続けることができる。それにより、断熱材5の熱硬化性樹脂51を完全に硬化させて、浴槽本体3に断熱材5を確実に接合することができる。
【0048】
また、この実施形態の浴槽1の製造方法によれば、断熱材5として、複数の発泡粒子13それぞれが半硬化の状態にある熱硬化性樹脂51によって覆われた断熱材5を用いるようにしたので、浴槽本体3の外形に合わせて断熱材5を賦形し易い。このことは、浴槽本体3の外側面に断熱材5を密着させた状態で隙間なく設けるのに有利である。
【0049】
また、この実施形態の浴槽1によれば、熱硬化性樹脂からなる浴槽本体3の外側面に対し、断熱材5を、その表面の熱硬化性樹脂51からなる接合樹脂層16を直接接合することにより設けるようにしたから、浴槽本体3と断熱材5との間に隙間が生じるのを抑制して、良好な保温性能を持つ浴槽1を実現することができる。
【0050】
以上のように、本開示の技術の例示として、好ましい実施形態について説明した。しかし、本開示の技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須でない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることを以て、直ちにそれらの必須でない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0051】
例えば、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0052】
上記実施形態では、断熱材5が浴槽本体3における底壁部7の下面と周壁部9の外周面とリム部11の裏側面とに一続きに設けられているとしたが、これに限らない。断熱材5は、浴槽本体3における底壁部7の下面と、周壁部9の外周面と、リム部11の裏側面とのうちいずれかに設けられていればよい。また、断熱材5は、複数に分割されて設けられていてもよい。
【0053】
上記実施形態では、浴槽1の製造に、断熱材5として、複数の発泡粒子13が半硬化の状態にある熱硬化性樹脂15によって覆われたコアシェル構造を有する断熱材5を用いるとしたが、これに限らない。コアシェル構造を有する断熱材5は、浴槽1の製造に用いられる断熱材5の一例に過ぎず、断熱材5としては、複数の発泡粒子13に代えて板状の発泡体を有するものを用いてもよいし、未硬化の状態にある熱硬化性樹脂51が表面に設けられたものを用いてもよい。要は、未硬化の状態を有する熱硬化性樹脂51が表面に設けられた断熱材5を用いていればよい。
【0054】
上記実施形態では、浴槽1の製造において、浴槽本体3に断熱材5を接合するときに保持型301を加熱装置303で加熱するとしたが、これに限らない。例えば、保持型にセットしたときの浴槽本体3に残留する成形時の熱、または成形後の加熱により昇温させた浴槽本体3の熱が断熱材5表面の熱硬化性樹脂51を硬化させるのに十分な熱である場合には、浴槽本体3に断熱材5を接合するときに保持型301を加熱しなくてもよい。
【0055】
上記実施形態では、浴槽本体3を成形することで準備するとし、断熱材5を製造することで準備するとしたが、これに限らない。浴槽本体3は、予め成形してあるものを購入するなどして準備してもよい。この場合、浴槽本体3を保持型301にセットする前に加熱して断熱材5表面の熱硬化性樹脂51に同樹脂51が硬化する温度を付与できる程度にまで昇温させてもよい。また、断熱材5についても、予め賦形しているものを購入するなどして準備してもよい。
【0056】
上記実施形態では、本開示の技術に係る断熱材付き樹脂成形体について浴槽1を例に挙げて説明したが、これに限らない。浴槽1は、断熱材付き樹脂成形体の一例に過ぎず、本開示の技術は、断熱材が樹脂成形体の外側面に接合された構造を有する物品であれば適用可能である。例えば、本開示の技術は、ユニットバスの床材や壁材、その他の住宅関連製品、さらには、ボンネットフードやトランクリアハッチなどの車両外板、その他の自動車部品にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上説明したように、本開示の技術は、浴槽の製造方法および浴槽、ならびに断熱材付き樹脂成形体の製造方法および断熱材付き樹脂成形体について有用である。
【符号の説明】
【0058】
1 浴槽(断熱材付き樹脂成形体)
3 浴槽本体(樹脂成形体)
5 断熱材
7 底壁部
9 周壁部
11 リム部
13 発泡粒子(発泡体)
15 接合樹脂層
31 成形材料
51 熱硬化性樹脂
101 成形型
103 第1型
105 第2型
107 第1成形面
109 第2成形面
111 キャビティ
201 脱型治具
203 吸着部
301 保持型
303 加熱装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10