(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】バナメイエビの製造方法
(51)【国際特許分類】
A01K 61/59 20170101AFI20230726BHJP
A23L 17/40 20160101ALI20230726BHJP
【FI】
A01K61/59
A23L17/40 A
(21)【出願番号】P 2019543141
(86)(22)【出願日】2018-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2018035468
(87)【国際公開番号】W WO2019059402
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2017182531
(32)【優先日】2017-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年3月23日 いせえび荘に販売 平成29年3月29日 中央魚類株式会社に販売 平成29年5月31日 瑞穂寿しに販売 平成29年6月 7日 株式会社サトー商会に販売 平成29年7月28日 株式会社仙台水産に販売 平成29年8月 7日 株式会社トーホーフードサービスに販売 平成29年8月 9日 株式会社ショクリューに販売 平成29年8月19日 日本生活協同組合連合会に販売
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】株式会社ニッスイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 格
(72)【発明者】
【氏名】松岡 功介
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-163945(JP,A)
【文献】特開平07-255432(JP,A)
【文献】特開2011-172598(JP,A)
【文献】日本食品標準成分表2015年版(七訂)アミノ酸成分表編,文部科学省,2015年12月25日,p.17-18,https://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/12/20/1365347_2-0210-2r11.pdf
【文献】鷹田馨,輸入冷凍エビの一般成分,遊離アミノ酸,脂肪酸,無機質およびコレステロール含量について,日本水産学会誌,1988年,vol.54 Issue 12,p.2173-2179
【文献】奥津智之,閉鎖循環式養殖システムで飼養したバナメイエビと他のエビ類における筋肉中遊離アミノ酸含量の比較,水産技術,2010年,vol.3 No.1,p.37-41
【文献】MATSUMOTO Misuzu,Changes in Contents of Glycolytic Metabolites and Free Amino Acids in the Muscle of Kuruma Prawn dur,日本水産学会誌,Vol.56 Issue 9,1990年,p.1515-1520
【文献】HARGREAVES, John A.,Biofloc Production Systems for Aquaculture,SRAC Publications,2013年04月,No.4503
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/59
A23L 17/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝化細菌を含むフロックを用いた水性環境下、少なくとも43日間、水槽中央部における照度100ルクス以下の遮光条件でバナメイエビを育成すること、
前記遮光条件下で育成した後に、グリシン及びアラニンを以下の含有量で含み、総遊離アミノ酸の含有量が腹部筋肉100gあたり2400mg以上であり、更に、アルギニン、プロリン及びグルタミン酸からなる群より選択される少なくとも1種のアミノ酸を、以下の含有量で含み、蛋白質含有量が腹部筋肉100gあたり21.6gを上回る、
バナメイエビを得ること、
を含むバナメイエビの製造方法:
グリシン含有量が、腹部筋肉100gあたり550mg以上、及び、
アラニン含有量が、腹部筋肉100gあたり140mg以上、並びに、
アルギニン含有量が、腹部筋肉100gあたり580mg以上、
プロリン含有量が、腹部筋肉100gあたり500mg以上、
グルタミン酸含有量が、腹部筋肉100gあたり50mg以上。
【請求項2】
水分含有量が腹部筋肉100gあたり75.5g未満である、請求項1記載の
バナメイエビの製造方法。
【請求項3】
炭水化物含有量が腹部筋肉100gあたり0.3g未満である、請求項1又は請求項2記載の
バナメイエビの製造方法。
【請求項4】
灰分含有量が腹部筋肉100gあたり1.5gを上回る、請求項1~請求項3のいずれか1項記載の
バナメイエビの製造方法。
【請求項5】
ナトリウム含有量が、腹部筋肉100gあたり0.152gを上回る、請求項1~請求項4のいずれか1項記載の
バナメイエビの製造方法。
【請求項6】
熱量が腹部筋肉100gあたり98kcalを上回る、請求項1~請求項5のいずれか1項記載の
バナメイエビの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バナメイエビの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陸上に構築された養殖水槽内において、魚介類又は甲殻類の育成を行う養殖システムについては、従来から設備、装置等において開発が進められている。
例えば、陸上養殖技術としてバイオフロック技術が注目されている。バイオフロック技術を利用した養殖技術では、バイオフロックと呼ばれる微生物の塊を人為的に作り、給餌により増加するアンモニア、亜硝酸を減少させると共に、バイオフロック自体もタンパク質源として利用される。バイオフロックとして利用される微生物としては、例えば硝化細菌が挙げられる(北水試研報 86、p.81~102(2014))。
【0003】
他の例として特開2006-217895号公報には、夜行性が強いクルマエビを、遮光性のハウスで覆って水槽の水面における照度を100ルクス以下にし、照度と関係なく増殖する有益細菌を水槽内で優先的に増殖維持し、水槽内にクルマエビを投入して該クルマエビを養殖するクルマエビの養殖方法が開示されている。
【0004】
一方、魚介類、甲殻類等を養殖するにあたり、天然物と同等又はそれ以上のおいしさが求められている。この要請に応えるために、種々の技術が提案されている。
例えば、特開2000-300219号公報には、魚介類本来の旨み、風味を損なうことなく良好な歩留まりを付与するために、グリシンの可食性金属塩又はグリシンの可食性金属塩及びグリシンの混合物を含む水溶液に魚介類を浸漬して含浸させる魚介類の処理方法及び魚介類の呈味・歩留まり改善剤が開示されている。
また、特表2006-508651号公報には、ドコサヘキサエン酸(DHA)を所定濃度で含む水産養殖エビと、風味増強剤として2,6-ジブロモフェノール等を含む水産養殖エビ等が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年、嗜好性に対する消費者の関心がますます高まりを見せており、よりいっそう高い要求に応えるには、まだ改善の余地がある。
【0006】
従って、本開示の課題は、呈味が改善された水産養殖甲殻類、その用途、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は以下のとおりである。
[1] 非潜砂性の甲殻類であり、かつ、グリシン及びアラニンを以下の含有量で含み、総遊離アミノ酸の含有量が腹部筋肉100gあたり2400mg以上である、水産養殖甲殻類:
グリシン含有量が、腹部筋肉100gあたり550mg以上、及び、
アラニン含有量が、腹部筋肉100gあたり140mg以上。
[2] 更に、アルギニン、プロリン及びグルタミン酸からなる群より選択される少なくとも1種のアミノ酸を、以下の含有量で含む[1]に記載の水産養殖甲殻類:
アルギニン含有量が、腹部筋肉100gあたり580mg以上、
プロリン含有量が、腹部筋肉100gあたり500mg以上、
グルタミン酸含有量が、腹部筋肉100gあたり50mg以上。
[3] 蛋白質含有量が腹部筋肉100gあたり21.6gを上回る、[1]又は[2]に記載の水産養殖甲殻類。
[4] 水分含有量が腹部筋肉100gあたり75.5g未満である、[1]~[3]のいずれか1に記載の水産養殖甲殻類。
[5] 炭水化物含有量が腹部筋肉100gあたり0.3g未満である、[1]~[4]のいずれか1に記載の水産養殖甲殻類。
[6] 灰分含有量が腹部筋肉100gあたり1.5gを上回る、[1]~[5]のいずれか1に記載の水産養殖甲殻類。
[7] ナトリウム含有量が、腹部筋肉100gあたり0.152gを上回る、[1]~[6]のいずれか1に記載の水産養殖甲殻類。
[8] 熱量が腹部筋肉100gあたり98kcalを上回る、[1]~[7]のいずれか1に記載の水産養殖甲殻類。
[9] 水産養殖甲殻類が、エビ目である[1]~[8]のいずれか1に記載の水産養殖甲殻類。
[10] 水産養殖甲殻類が、クルマエビ科である[9]に記載の水産養殖甲殻類。
[11] 水産養殖甲殻類が、リトペネウス属である[10]に記載の水産養殖甲殻類。
[12] [1]~[11]のいずれか1に記載の水産養殖甲殻類の可食部。
[13] [12]に記載の水産養殖甲殻類の可食部を含む食品。
[14] [12]に記載の水産養殖甲殻類の可食部に由来する成分を含む組成物。
[15] 硝化細菌を含むフロックを用いた水性環境下、少なくとも43日間、水槽中央部における照度100ルクス以下の遮光条件で非潜砂性の甲殻類を育成すること、前記遮光条件下で育成した後に、[1]~[11]のいずれか1に記載の水産養殖甲殻類を得ること、を含む水産養殖甲殻類の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、呈味が改善された水産養殖甲殻類、その用途、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、エビの外観模式図(側面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示すものとする。
本明細書において、パーセントに関して「以下」又は「未満」との用語は、下限値を特に記載しない限り、0%即ち「含有しない」場合を含み、又は、現状の手段では検出不可の値を含む範囲を意味する。本明細書において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本明細書においてアミノ酸は、特に断らない限り、遊離アミノ酸を意味する。
【0011】
本開示に係る水産養殖甲殻類は、非潜砂性の甲殻類であり、かつ、グリシン及びアラニンを以下の含有量で含み、総遊離アミノ酸の含有量が腹部筋肉100gあたり2400mg以上である、水産養殖甲殻類である:
グリシン含有量が、腹部筋肉100gあたり550mg以上、及び
アラニン含有量が、腹部筋肉100gあたり140mg以上。
【0012】
本開示に係る水産養殖甲殻類の製造方法は、硝化細菌を含むフロックを用いた水性環境下、少なくとも43日間、水槽中央部における照度100ルクス以下の遮光条件で非潜砂性の甲殻類を育成すること、前記遮光条件下で育成した後に、上記の水産養殖甲殻類を得ること、を含む水産養殖甲殻類の製造方法である。
【0013】
本開示に係る水産養殖甲殻類は、上記構成を有するので、総遊離アミノ酸含有量が高く、かつ、味に関連する特定の2種の遊離アミノ酸の含有量がいずれも相対的に高く、これらのアミノ酸の組み合わせから生じる味によって呈味が改善された水産養殖甲殻類と、これを利用した各種用途を提供することができる。
また、本開示に係る水産養殖甲殻類の製造方法によれば、本開示に係る水産養殖甲殻類を効率よく得ることができる。
以下、本開示について説明する。
【0014】
<水産養殖甲殻類>
本開示の一実施形態による水産養殖甲殻類は、非潜砂性の甲殻類であり、かつ、グリシン及びアラニンを以下の含有量で含み、総遊離アミノ酸の含有量が腹部筋肉100gあたり2400mg以上である、場合によって他の成分を含む、水産養殖甲殻類である:
グリシン含有量が、腹部筋肉100gあたり550mg以上、及び、
アラニン含有量が、腹部筋肉100gあたり140mg以上。
本実施形態に係る水産養殖甲殻類を、以下、「高アミノ酸甲殻類」と称する場合がある。
【0015】
本明細書において「水産養殖甲殻類」とは、水産養殖され得る甲殻類であって、淡水又は、人工海水を含む海水を利用して、餌、日照、温度等の条件が管理された環境下で一定期間にわたって飼育可能な甲殻類を意味する。このような甲殻類は、飼育環境中の砂地に潜り、生活する傾向が強い潜砂性の甲殻類と、このような傾向を有しない非潜砂性の甲殻類とに大別することができる。
【0016】
高アミノ酸甲殻類としては、具体的には、軟甲網(Malacostraca)ホンエビ上目(Eucarida)が挙げられる。ホンエビ上目には、オキアミ目、アンフォニアデス目、エビ目(Decapoda)が含まれる。高アミノ酸甲殻類としては、エビ目であることができる。エビ目には、サクラエビ等を有するサクラエビ上科、クルマエビ上科が挙げられる。本高アミノ酸甲殻類としては、エビ目のなかでもクルマエビ上科であることができる。
【0017】
高アミノ酸甲殻類としては、クルマエビ上科のうち、クルマエビ科であることができ、クルマエビ科(Penaeidae)の生物の中でも、例えば、Farfantepenaeus属、コウライエビ属(Fenneropenaeus)、リトペネウス属(Litopenaeus)、クルマエビ属(Marsupenaeus)、Melicertus属、アカエビ属(Metapenaeopsis)、ヨシエビ属(Metapenaeus)、ウシエビ属(Penaeus)、Trachypenaeus属、サルエビ属(Trachysalambria)、Xiphopenaeus属などに属する生物であることができる。
【0018】
高アミノ酸甲殻類としては、クルマエビ科のうち、例えば、クルマエビ(Marsupenaeus japonicus)、ミナミクルマエビ(Melicertus canaliculatus)、ウシエビ(ブラックタイガー)(Penaeus monodon)、コウライエビ(Penaeus chinensis)、クマエビ(Penaeus semisulcatus)、フトミゾエビ(Penaeus latisulcatus)、インドエビ(Fenneropenaeus indicus)、ヨシエビ(Metapenaeus ensis)、トサエビ(Metapenaeus intermedius)、Penaeus occidentalis、ブルーシュリンプ(Penaeus stylirostris)、レッドテールシュリンプ(Penaeus pencicillatus)、バナメイエビ(Litopenaeus vannamei)等であってもよく、これらに限定されるものではない。
【0019】
エビ目の生物には、遊泳性を持つ種と遊泳性を持たない種がある。遊泳性を持つ種の方が水槽を立体的に使用することができるため、過密状態での生産には適している。遊泳性を持つ種として例えば、クルマエビ(Marsupenaeus japonicus)、ウシエビ(Penaeus monodon)、ボタンエビ(Pandalus nipponensis)、ブドウエビ(Pandalopsis coccinata)、サクラエビ(Lucensosergia lucens)、ホッコクアカエビ(Pandalus eous)、コウライエビ(Penaeus chinensis)、ヨシエビ(Metapenaeus ensis)、バナメイエビ(Litopenaeus vannamei)が挙げられる。
【0020】
なかでも非潜砂性である高アミノ酸甲殻類としては、クルマエビ科リトペネウス属、例えば、バナメイエビ(Litopenaeus vannamei)、Litopenaeus occidentalis、Litopenaeus schmitti、Litopenaeus setiferus、及びブルーシュリンプ(Litopenaeus stylirostris)、クルマエビ科ファルファンテペネウス属、例えば、コウライエビ(Penaeus (Fenneropenaeus) chinensis)、インドエビ(Fenneropenaeus indicus)、バナナシュリンプ(Fenneropenaeus merguiensis)、レッドテールシュリンプ(Fenneropenaeus penicillatus)、Fenneropenaeus silasiとすることができ、特にバナメイエビとすることができる。
【0021】
高アミノ酸甲殻類の大きさに制限はなく、食品としての分類では、いわゆるロブスター(lobster)、プローン(prawn)、シュリンプ(shrimp)のいずれであってもよい。
【0022】
高アミノ酸甲殻類は、グリシン及びアラニンを、それぞれ、以下の含有量で含み、かつ総遊離アミノ酸含有量が腹部筋肉100gあたり2400mg以上である:
グリシン含有量が、腹部筋肉100gあたり550mg以上、及び、
アラニン含有量が、腹部筋肉100gあたり140mg以上。
グリシン及びアラニンは、甘味系遊離アミノ酸であり、エビ類のおいしさに密接に関与することが知られている。これらの特定の2種のアミノ酸種をこれまでにない含有量で有する水産養殖甲殻類は、高い含有量によるアミノ酸の組み合わせから生じる新規な味を提供することができ、これら特定のアミノ酸種すべてをこのような含有量で有しない従来の水産養殖甲殻類に対して、味の向上を図ることができる。
【0023】
本明細書においてアミノ酸の含有量は、特に断らない限り、腹部筋肉100gあたりの遊離アミノ酸の含有量を意味する。
高アミノ酸甲殻類における遊離アミノ酸の含有量は、ニンヒドリン法に従って測定した値とする。測定には、高速アミノ酸分析計L-8900形(株式会社日立ハイテクサイエンス)を使用し、得られた値を、総遊離アミノ酸含有量とする。測定用の試料は、腹部筋肉とし、測定用試料の調製及び測定方法については、後述する実施例に記載したものを適用する。本明細書において「腹部」とは、第一腹節から第五腹節を指す。アミノ酸の測定は、後述する製造方法における育成工程後に得られた高アミノ酸甲殻類であれば、測定対象とすることができる。例えば、後述する後処理工程のうち、選別工程の前後、冷凍工程の前後、清浄化工程の前後、加工工程の前後、浸漬工程の前後などの時期を適宜選択して、測定することができる。特に、冷凍工程の前後、及び清浄化工程の前後では、アミノ酸の含有量に大きな差は生じないものと判断できる。
【0024】
高アミノ酸甲殻類における総遊離アミノ酸含有量は、腹部筋肉100gあたり、2400mg以上であり、2450mg以上、2500mg以上、2550mg以上、2600mg以上、2650mg以上、2700mg以上、2750mg以上、2800mg以上、2850mg以上、2900mg以上、2950mg以上又は3000mg以上とすることができる。高アミノ酸甲殻類における総遊離アミノ酸含有量の上限値については、特に制限はなく、例えば腹部筋肉100gあたり、5000mg以下とすることができる。この範囲の総遊離アミノ酸含有量を有する高アミノ酸甲殻類は、アミノ酸に基づく味覚を濃厚に呈することができる。高アミノ酸甲殻類では、このような高濃度に総遊離アミノ酸を有することに加えて、以下に示す各アミノ酸を、組み合わせとしていずれも高いレベルで有するものである。このため、高アミノ酸甲殻類は、アミノ酸に基づく味覚を濃厚に呈することができることに加えて、特定のアミノ酸の組み合わせによる複雑で良好な味が付与され、従来とは異なる良好な味わいを呈することができる。
【0025】
高アミノ酸甲殻類は、グリシン及びアラニンの双方を、従来と比較して高い含有量で含む。
高アミノ酸甲殻類におけるグリシンの含有量は、腹部筋肉100gあたり、550mg以上であり、560mg以上、570mg以上、580mg以上、600mg以上、650mg以上、700mg以上、750mg以上、800mg以上、850mg以上又は890mg以上とすることができる。高アミノ酸甲殻類におけるグリシンの含有量の上限値については、特に制限はなく、例えば腹部筋肉100gあたり、2000mg以下とすることができる。
高アミノ酸甲殻類におけるグリシンの総アミノ酸含有量に対する割合は、22重量%以上、23重量%以上、24重量%以上、25重量%以上、26重量%以上、27重量%以上、28重量%以上又は29重量%以上とすることができる。
【0026】
高アミノ酸甲殻類におけるアラニンの含有量は、腹部筋肉100gあたり、140mg以上であり、145mg以上、150mg以上、155mg以上、160mg以上、165mg以上又は170mg以上とすることができる。高アミノ酸甲殻類におけるアラニンの含有量の上限値については、特に制限はなく、例えば腹部筋肉100gあたり、1000mg以下とすることができる。
高アミノ酸甲殻類におけるアラニンの総アミノ酸含有量に対する割合は、4.5量%以上、5重量%以上又は5.5重量%以上とすることができる。
【0027】
高アミノ酸甲殻類は、グリシン及びアラニンに加えて、他の甘味系遊離アミノ酸、苦味系遊離アミノ酸、及び旨味系遊離アミノ酸であるグルタミン酸から選択される少なくとも1種のアミノ酸を更に含有することができる。これにより、よりいっそう呈味が改善された高アミノ酸甲殻類を提供できる。
【0028】
例えば、高アミノ酸甲殻類は、アルギニン、プロリン及びグルタミン酸からなる群より選択される少なくとも1種のアミノ酸を、以下の含有量で更に含むことができる:
アルギニン含有量が、腹部筋肉100gあたり580mg以上、
プロリン含有量が、腹部筋肉100gあたり500mg以上、
グルタミン酸含有量が、腹部筋肉100gあたり50mg以上。
アルギニンは苦味系遊離アミノ酸として、プロリンは甘味系遊離アミノ酸として、グルタミン酸は旨味系遊離アミノ酸として、それぞれ知られているアミノ酸である。またアルギニンについては、水産物らしい風味を呈するアミノ酸であると知られている。このような異なる味を示すアミノ酸群から、1種又は複数種を適宜組み合わせて、従来よりも高い含有量で含むことにより、グリシン及びアラニンによる味に加えて、よりいっそう呈味が改善された高アミノ酸甲殻類を提供できる。
【0029】
高アミノ酸甲殻類におけるアルギニンの含有量は、腹部筋肉100gあたり、580mg以上であり、590mg以上、600mg以上、610mg以上、650mg以上、700mg以上、750mg以上、800mg以上又は850mg以上とすることができる。高アミノ酸甲殻類におけるアルギニン含有量の上限値については、特に制限はなく、例えば腹部筋肉100gあたり、1500mg以下とすることができる。
高アミノ酸甲殻類におけるアルギニンの総アミノ酸含有量に対する割合は、22重量%以上、23重量%以上、24重量%以上、25重量%以上、26重量%以上、27重量%以上又は28重量%以上とすることができる。
【0030】
高アミノ酸甲殻類におけるプロリンの含有量は、腹部筋肉100gあたり、500mg以上であり、510mg以上、520mg以上、530mg以上、550mg以上、570mg以上、600mg以上、620mg以上又は640mg以上とすることができる。高アミノ酸甲殻類におけるプロリン含有量の上限値については、特に制限はなく、例えば腹部筋肉100gあたり、1500mg以下とすることができる。
高アミノ酸甲殻類におけるプロリンの総アミノ酸含有量に対する割合は、19重量%以上、20重量%以上又は21重量%以上とすることができる。
【0031】
高アミノ酸甲殻類では、更に、グルタミン酸を含むことができる。高アミノ酸甲殻類がグルタミン酸を含む場合、腹部筋肉100gあたり、50mg以上、52mg以上、又は54mg以上とすることができる。高アミノ酸甲殻類におけるグルタミン酸の含有量の上限値については、特に制限はなく、例えば腹部筋肉100gあたり、200mg以下とすることができる。
高アミノ酸甲殻類におけるグルタミン酸の総アミノ酸含有量に対する割合は、1.5重量%以上、1.6重量%又は1.7重量%以上とすることができる。
【0032】
上記のアルギニン、プロリン及びグルタミン酸から選択されるアミノ酸の組み合わせとしては、アルギニン及びプロリンの組み合わせ、アルギニン及びグルタミン酸の組み合わせ、プロリン及びグルタミン酸の組み合わせ、及びアルギニン、プロリン及びグルタミン酸の組み合わせのいずれであってもよい。例えば、グリシン及びアラニンに加えて、アルギニン及びプロリンを組み合わせることにより、甘味系遊離アミノ酸3種と苦味系遊離アミノ酸1種との組み合わせとなり、例えばエビの風味を有し、かつより良好なバランスの味を提供することができる。
【0033】
このような味のバランスは、これらのアミノ酸の含有量比によっても調整することができる。これにより、甘味、苦味又は旨味に関与する2種以上のアミノ酸の良好な含有量バランスと、グリシン及びアラニンの含有量バランスとの組み合わせによって、高アミノ酸甲殻類の呈味をより改善することができる。
【0034】
高アミノ酸甲殻類におけるグリシンとアルギニンの含有量は、重量比で1:0.5~1.5、1:0.6~1.4、1:0.7~1.3、又は1:0.8~1.2とすることができる。グリシンとプロリンの含有量は、重量比で1:0.4~1.6、1:0.5~1.5、1:0.6~1.4、又は1:0.7~1.3とすることができる。グリシンとアラニンの含有量は、重量比で1:0.1~0.6、1:0.1~0.5、1:0.1~0.4、又は1:0.1~0.3とすることができる。このようなアミノ酸の重量比とすることで、味のバランスがよくなるという利点が得られる場合がある。
【0035】
高アミノ酸甲殻類におけるグリシン:アルギニン:プロリン:アラニンの含有量は、重量比で、1:0.5~1.5:0.4~1.6:0.1~0.6とすることができる。これらの4種のアミノ酸がこのような比率で含まれる高アミノ酸甲殻類は、より良好な味を示すことができる。
【0036】
高アミノ酸甲殻類において、グルタミン酸とグリシンの含有量は、重量比で1:8~20、1:9~19、1:9.5~18.5、又は1:10~18とすることができる。グルタミン酸とアルギニンの含有量は、重量比で1:6~19、1:7~18、1:7.5~17.5、又は1:8~17とすることができる。グルタミン酸とプロリンの含有量は、重量比で1:5~17、1:6~16、1:6.5~16.5、又は1:7~16とすることができる。グルタミン酸とアラニンの含有量は、重量比で1:1.5~6、1:2~5.5、1:2.5~5、又は1:3~4.5とすることができる。
【0037】
高アミノ酸甲殻類では、腹部筋肉100gあたり、遊離アミノ酸の合計含有量に対する、グリシン及びアラニンの合計含有量の割合が、28重量%以上、30重量%以上、33重量%以上、34重量%以上又は35重量%以上とすることができる。このような範囲で上記特定の2種のアミノ酸を含む高アミノ酸甲殻類は、これら2種のアミノ酸の含有比率が高く、従来よりも改善された味を有することができる。遊離アミノ酸の合計含有量に対するグリシン及びアラニンの合計含有量の割合の上限値については特に制限はなく、例えば、90重量%以下、88重量%以下、又は85重量%以下とすることができる。
【0038】
高アミノ酸甲殻類では、腹部筋肉100gあたり、遊離アミノ酸の合計含有量に対する、グリシン、アルギニン、プロリン及びアラニンの合計含有量の割合が、79重量%以上、80重量%以上、81重量%以上、82重量%以上、83重量%以上又は84重量%以上とすることができる。このような範囲で上記特定の4種のアミノ酸を含む高アミノ酸甲殻類は、これら4種のアミノ酸の含有比率が高く、従来よりも改善された味を有することができる。遊離アミノ酸の合計含有量に対するグリシン、アルギニン、プロリン及びアラニンの合計含有量の割合の上限値については特に制限はなく、例えば、95重量%以下、93重量%以下、又は90重量%以下とすることができる。
【0039】
高アミノ酸甲殻類では、蛋白質含有量が100gあたり21.6gを上回る。このような蛋白含有量であることにより、高アミノ酸甲殻類は、蛋白分解酵素が作用したときに食味が良くなると考えられる。この蛋白質含有量は、腹部筋肉100gあたり、22.0g以上、22.5g以上、又は23.0g以上とすることができる。高アミノ酸甲殻類における蛋白質含有量の上限値については、特に制限はなく、たとえば腹部筋肉100gあたり、30g以下とすることができる。
【0040】
高アミノ酸甲殻類では、水分含有量が腹部筋肉100gあたり75.5g未満である。このような水分含有量であることにより、高アミノ酸甲殻類は、熱を通したときに著しく身が痩せることがないと考えられる。この水分含有量は、腹部筋肉100gあたり、75.0g以下、又は74.5g以下とすることができる。高アミノ酸甲殻類における水分含有量の下限値については、特に制限はなく、例えば腹部筋肉100gあたり、60g以上とすることができる。
【0041】
高アミノ酸甲殻類では、炭水化物含有量が100gあたり0.3g未満である。このような炭水化物含有量であることにより、高アミノ酸甲殻類は、糖質制限食に好適であると考えられる。この炭水化物含有量は、腹部筋肉100gあたり、0.2g以下、又は0.1g以下とすることができる。高アミノ酸甲殻類における炭水化物含有量の下限値については、特に制限はなく、たとえば腹部筋肉100gあたり、0gであってもよい。
【0042】
高アミノ酸甲殻類では、灰分含有量が100gあたり1.5gを上回る。このような灰分含有量であることにより、高アミノ酸甲殻類を摂取することで、ミネラルを多く摂取することができ、またこの灰分が呈味の向上にも寄与すると考えられる。この灰分含有量は、腹部筋肉100gあたり、1.6g以上、又は1.7g以上とすることができる。高アミノ酸甲殻類における灰分含有量の上限値については、特に制限はなく、たとえば腹部筋肉100gあたり、3.0g以下とすることができる。
【0043】
高アミノ酸甲殻類では、ナトリウム含有量が100gあたり0.152gを上回る。このようなナトリウム含有量であることにより、高アミノ酸甲殻類は、エビの調味に要する食塩量を減少させることができると考えられる。このナトリウム含有量は、腹部筋肉100gあたり、0.200g以上、又は0.250g以上とすることができる。高アミノ酸甲殻類におけるナトリウム含有量の上限値については、特に制限はなく、たとえば腹部筋肉100gあたり、1g以下とすることができる。
【0044】
高アミノ酸甲殻類では、熱量が100gあたり98kcalを上回る。このような熱量であることにより、高アミノ酸甲殻類を摂取することで、カロリーをより効率よく摂取することができると考えられる。この熱量は、腹部筋肉100gあたり、99kcal以上、又は100kcal以上とすることができる。高アミノ酸甲殻類における熱量の上限値については、特に制限はなく、たとえば腹部筋肉100gあたり、110kcal以下とすることができる。
【0045】
高アミノ酸甲殻類の体重、体長は、甲殻類の種類によって異なる。
例えば、高アミノ酸甲殻類がバナメイエビの場合には、体重は、例えば8g以上、10g以上、12g以上、13g以上、14g以上、15g以上であってもよい。体重の上限値については特に制限はなく、例えば100g以下とすることができる。高アミノ酸甲殻類がバナメイエビの場合には、体長は6cm以上、7cm以上、8cm以上、9cm以上、10cm以上、11cm以上、12cm以上であってもよい。体長の上限値については特に制限はなく、例えば35cm以下とすることができる。
【0046】
本明細書において「体重」とは、高アミノ酸甲殻類を氷締めした後、約500gになるように高アミノ酸甲殻類を集め、その合計の重量を個体数で割ることにより得られた値を意味する。
本明細書において「氷締め」とは海水に氷をいれた容器に生きた高アミノ酸甲殻類を投入し、即死させ鮮度を保つ方法を意味する。
本明細書において「体長」とは、高アミノ酸甲殻類の目の後部の甲のくぼみ、いわゆる眼窩から尾節の先端までの長さを意味する。測定方法としては、眼窩から尾節の先端までを、できるだけ身体を直線状に延ばして測定してもよく、測定器を、眼窩から尾節の先端までの身体に沿わせて測定してもよい。
図1に、高アミノ酸甲殻類がエビ目である場合を例に、本発明における「体長」の部位を示す。
【0047】
<水産養殖甲殻類の製造方法>
高アミノ酸甲殻類は、上述したアミノ酸含有量を有するものであれば、製造方法については特に制限はない。以下の説明する水産養殖甲殻類の製造方法は、本開示の高アミノ酸甲殻類を効率よくことができる。
【0048】
本開示の水産養殖甲殻類の製造方法は、硝化細菌を含むフロックを用いた水性環境下、少なくとも43日間、水槽中央部における照度100ルクス以下の遮光条件で非潜砂性の甲殻類を育成すること(以下、「育成工程」という)、前記遮光条件下で育成した後に、上述した高アミノ酸甲殻類を得ること(以下、「取得工程」という)、を含み、必要に応じて他の工程を含む。
本製造方法によれば、硝化細菌を含むフロックを用いた水性環境下で、所定の遮光条件で非潜砂性の甲殻類を育成する工程を含むので、上述した高アミノ酸甲殻類を効率よく獲ることができる。
【0049】
硝化細菌を含むブロックを用いた育成は、一般にバイオフロックを用いた養殖と称されるものである。本明細書において「フロック」とは、魚介類や甲殻類等の水産生物の養殖水槽の水中に人為的に作る微生物の固まりのことをいい、本明細書では、「バイオフロック」と称することもある。このバイオフロックにより、給餌によって増加する有毒なアンモニアや亜硝酸を減少させ、バイオフロック自体もタンパク質源として餌にすることができる。
【0050】
バイオフロックには、硝化細菌が含まれる。硝化細菌の種類としては、アンモニア酸化細菌、亜硝酸酸化細菌が挙げられる。「アンモニア酸化細菌」は、好気性雰囲気下で、養殖水中のアンモニア態窒素、例えばアンモニウムイオンを酸化して亜硝酸イオンに変換する細菌である。「亜硝酸酸化細菌」は、アンモニア酸化細菌によって生成した養殖水中の亜硝酸イオンを好気性雰囲気下で更に酸化して硝酸イオンに変換する細菌である。
【0051】
硝化細菌の種類としては、ニトロバクタ(Nitorobacter)、ニトロスピナ(Nitorospina)、ニトロコッカス(Nitorococcus)等が挙げられるが特に限定されず、養殖対象の甲殻類の種類、水素イオン指数溶存酸素、窒素濃度、養殖密度、養殖水槽の大きさ、即ち養殖水の量、温度等の諸条件を考慮して適宜選択できる。
【0052】
硝化細菌は、バイオフロックとして養殖水中で存在することに加えて又はバイオフロックに代えて、担体に担持されて硝化細菌固定化材として用いられてもよい。養殖システムにおいて、硝化細菌固定化材を用いることは、硝化細菌の増殖によってバイオフロックが過剰に増加することが抑制されるなどの利点を有する。バイオフロックに加えて硝化細菌固定化材を用いる場合には、バイオフロックに含まれる硝化細菌と、硝化細菌固定化材に固定化される硝化細菌は、同一であっても異なってもよい。
【0053】
担体の種類は、硝化細菌の担持が阻害されず、また、養殖対象への悪影響がない限り、特に制限はなく、セラミック等の無機物からなる無機担体、樹脂等の有機物からなる有機担体のいずれも使用できる。担体の形状は、硝化細菌の担持が阻害されない限り制限はなく、例えば、粉末状、粒状、塊状、板状等が挙げられる。より多くの硝化細菌が担持でき、かつ、養殖水との接触性が高まるため、多孔質担体が好適である。
【0054】
無機系の多孔質担体としては、例えば天然の鉱物のケイ酸塩化合物であるモンモリロナイト、ゼオライト及びカオリン等も硝化細菌の担持に適するため、硝化細菌の定着性が向上することが期待できる。また、アルミナ等のケイ酸塩化合物以外の無機担体も使用できる。これらは1種で使用してもよく、2種以上を併せて使用してもよい。
【0055】
無機系の担体の粒子サイズは、硝化細菌の担持が阻害されない限り、特に制限はない。一方で、品質を揃える等の目的で、小さすぎる粒子をふるい分けして除去してもよい。
粒状担体としては、例えば、粒子径が0.1μm~250μm程度のものを用いることができるが、これに制限されない。
【0056】
有機系の多孔質担体は、水に溶解せず、微生物の親和性の高いポリマーからなる構造物であれば制限されないが、優れた耐摩耗性を有し長寿命であるポリウレタンフォームは好適な樹脂材として挙げられる。有機系の多孔質担体として、具体的には発泡性担体、不繊布担体、多孔性ゲル担体、中空糸膜担体などを使用することができる。これらは1種で使用してもよく、2種以上を併せて使用してもよい。
特に発泡性担体は、連通気泡を有する構造体であり、比表面積が大きく、単位体積当たりに硝化細菌を高濃度に固定化できるため、硝化細菌固定化材の担体として、好適に用いることができる。発泡性担体の市販品としては、例えば、マイクロブレス(登録商標)(アイオン株式会社製)、バイオチューブ(登録商標)(JFEエンジニアリング株式会社製)、APG(日清紡ケミカル株式会社製)、多孔性セルロース担体(EYELA製)、バイオフロンテアネット(関西化工株式会社製)、アクアキューブ(積水アクアシステム株式会社製)などが挙げられる。大きさは任意であるが、後述する通水性を有する容器に入れて使用するときは、流出しないようにその通水性を有する容器の穴(網目)より大きなものが選択される。
【0057】
硝化細菌を担体に固定する方法は任意であるが、例えば水に硝化細菌が分散された分散液と担体とを混合すればよい。混合後、例えば酸素と接触させることで、硝化細菌が担体上で増殖しつつ固定されて、硝化細菌固定化材が得られる。
【0058】
硝化細菌固定化材は、養殖水槽の養殖水に接触する状態で配置されればよく、例えば、硝化細菌固定化材を、通水性を有する容器に入れることができる。容器に入れることにより、養殖水中の硝化細菌固定化材の回収、配置が容易となり、養殖水の状態(C/N比)に応じて、硝化細菌固定化材の量(すなわち、バイオフロック以外の硝化細菌量)を制御することが容易となるなどの利点を有する。また、通水性を有する容器に入れられたことにより、硝化細菌固定化材が流れて行って消失することがなく、安定して使用することができる。
【0059】
通水性を有する容器として、具体的には通水性を有するカゴ状容器が挙げられる。ここで、「カゴ状容器」としては、水が通過できるように、容器の各面が網状、孔状等で形成され、容器内部の充填空間に硝化細菌固定化材を充填可能な容器を意味する。カゴ状容器の形状については、特に制限はなく、例えば略直方体形状の筐体とすることができる。通水性を有する容器の形状や大きさは、硝化細菌固定化材の種類や大きさ、養殖設備の大きさ、養殖される水産物の種類や成長度合い等を考慮して適宜選択される。また。材質も金属製、プラスチック製のいずれでもよく、養殖設備の状況等に応じて適宜選択すればよい。
【0060】
バイオフロックを用いた養殖設備について、特に制限はなく、対象となる非潜砂性の甲殻類の種類、大きさ等を考慮して適宜選択することができる。本明細書の養殖方法は、海や河川、湖沼等での養殖のみならず、陸上養殖であることを含む。
本明細書において「養殖水」とは、高アミノ酸甲殻類を養殖する水槽に、飼育のために使用する水又は水溶液を意味し、淡水、海水、及び汽水を含むことができる。これらは飼育する甲殻類毎に適切なものを選択することができる。海水、汽水は、人工海水を用いて調製したものでもよい。卵から出荷サイズまでの飼育時期により、適切に変更を加えてもよい。
【0061】
養殖設備としては、非潜砂性の甲殻類を養殖する際に通常用いられるものであればよく、水槽と、温度調整のための温度調節設備と、水槽内への養殖水の給排水設備と、必要に応じて他の設備を備えた建屋とすることができる。
【0062】
育成工程において、育成対象となる非潜砂性の甲殻類については、上述した記載を適用可能である。育成工程において育成対象となる甲殻類の成長段階については、特に制限はなく、例えばエビの場合には、稚エビから成エビを含むことができる。本明細書でいう「稚エビ」とは、体重1g未満のものを意味し、卵から稚エビに成長するまでものは含まれない。本明細書でいう「成エビ」とは、上記幼エビより成長したエビを意味する。成エビは、例えば、バナメイエビの場合、通常、15g以上程度まで成長させて出荷され得る。
【0063】
水槽内の養殖水の水質については、定期的に確認し、適切な範囲に収まるように調整することができる。養殖水のpHについては、養殖対象の種類等により適宜調整可能であり、例えば、pH5以上、pH6以上、又はpH7以上とすることができる。pHの上限値については適宜調整可能であり、例えば、pH10以下、pH9以下、又はpH8以下とすることができる。pHが低下又は上昇した場合、アルカリ剤又は酸の投入、換水率の調整等により、適宜調整することができる。
水温は、一般に23℃以上、25以上、27℃以上とすることができ、上限については、32℃以下、30℃以下、又は29℃以下とすることができる。水温は、太陽光、ヒーター等を用いて加温することにより、又は、クーラー、氷等を用いて冷却することにより、調整することができる。
水質をこのような範囲に保つことは、高アミノ酸甲殻類のストレスを抑制し、摂餌を促進する等の利点を有する。
【0064】
育成工程に用いられる飼料としては、飼育対象である非潜砂性の甲殻類の種類によって適宜選択することができる。例えば、非潜砂性の甲殻類がバナメイエビの場合、一般的なエビ用配合飼料を用いることができる。
浮力、沈降速度、水中保形性等の飼料特性は、対象となる非潜砂性の甲殻類の飼育環境に応じて適宜変更することができる。例えば、飼育水槽又は飼育池の大きさ及び形状、飼育水槽又は飼育池で生じる水流、淡水、海水、汽水等の養殖水の種類などに合わせて、適切な飼料を選択することができる。更に淡水、海水あるいは汽水に応じた飼料を選択できる。
【0065】
高アミノ酸甲殻類に好適な飼料の一例としては、アスタキサンチンを50ppm以上、100ppm以上含有する飼料である。アスタキサンチンを飼料に含ませる方法としては、油に溶解させ、スプレーによる噴霧、添加後混合、またはその組み合わせにより行ってもよいし、飼料自体を製造する時に材料の1つとして加えてもよい。養殖対象のエビに、所定の濃度のアスタキサンチンを含有する飼料の給餌量は、体重に対し重量基準で、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、又は飽食給餌の場合がある。給餌については、毎日1回給餌、2回給餌、3回給餌、4回給餌、又は5回給餌の場合がある。残餌量をモニターしながら継続的に給餌を行うこともできる。養殖対象のエビに、所定の濃度のアスタキサンチン含有する飼料を与える期間は、例えば、7日以上、14日以上、28日以上、35日以上、42日以上、49日以上、56日以上、63日以上、70日以上、77日以上、84日以上、又は90日以上とすることができる。
【0066】
育成工程では、非潜砂性の甲殻類を、少なくとも43日間、特定の遮光条件下で育成する。この遮光条件による育成によって、特定のアミノ酸の含有量の高い高アミノ酸甲殻類を獲ることができる。
育成工程では、水槽中央部における照度100ルクス以下の遮光条件で育成を行う。照度は、後述する実施例に記載の地点及び方法で測定した値とする。照度は、100ルクス以下であればよく、80以下、70以下、60以下又は50以下とすることができる。照度が低くなるほど、すなわち、暗くなるほど、効率よく高アミノ酸甲殻類を得ることができる。本明細書において「水槽中央部」とは、高アミノ酸甲殻類を育成するために用意された水槽において、150ルクス以上の光が到達しうる水槽の端部から少なくとも2m以上離間した部分を意味する。
このような照度条件を達成可能とするために、養殖設備では、水槽に入射する光を制限可能な、蓋、覆い、カバー等を備えることができる。
【0067】
上記の遮光条件による飼育は、少なくとも43日間行われる。これにより、上述した含有量でアミノ酸を含む高アミノ酸甲殻類を効率よく獲ることができる。飼育期間は、高アミノ酸甲殻類の種類によって異なるが、バナメイエビの場合、例えば、少なくとも50日間とすることができる。この遮光条件下による飼育期間を長くするほど、所定のアミノ酸の含有量を増やすことができる傾向がある。
育成工程は、上記の遮光条件による飼育を含んでいれば、遮光条件を満たさない育成を含むことができる。上記の遮光条件による育成は、遮光条件を満たさない時期の前又は後に実施することができ、例えば育成開始直後、又は出荷直前であってもよく、中間時期であってもよい。
【0068】
飼育期間は、本開示に係る高アミノ酸甲殻類が、所望の大きさ、状態等に到達したときに終了することができる。即ち、育成工程に次いで取得工程では、本開示にかかる高アミノ酸甲殻類を得ることができる。得られた高アミノ酸甲殻類は、上述したように、所定の2種のアミノ酸を高濃度に有し、従来の水産養殖甲殻類よりも改善された味を呈することができる。
飼育期間は、高アミノ酸甲殻類の種類によって異なるが、バナメイエビの場合、一般に70日以上あればよく、80日以上、又は90日以上とすることができる。飼育期間の終了は、飼育対象の種類、状態等に応じて適宜決定でき、例えば2年以内とすることができる。
【0069】
取得工程において得られた高アミノ酸甲殻類は、水揚げ後、生きた状態で各種用途に適用してもよく、締めてから各種用途に適用してもよい。高アミノ酸甲殻類を締める手法としては、甲殻類を締めるために通常用いる方法をそのまま適用することができ、例えば、氷締め等を挙げることができる。
【0070】
取得工程では、更に、得られた高アミノ酸甲殻類を大きさ等に基づいて選別する選別工程、育成工程後の高アミノ酸甲殻類の外表面又は腸内等の内部を清浄化する清浄化工程、得られた高アミノ酸甲殻類を冷凍する冷凍工程、所望の形態に加工する加工工程、処理液等に浸漬する浸漬工程、出荷用にパック詰め等を行う梱包工程などの後処理工程を1つ以上含むことができる。
【0071】
冷凍工程では、甲殻類の冷凍に適用される冷凍条件をそのまま適用することができ、例えば-20℃以下、又は-30℃以下の温度条件で冷凍させることができる。冷凍方法はエアーブライン、アルコールブライン、塩水ブライン等が挙げられるが、特に限定するものではなく、通常使用される冷凍装置を使用することができる。
【0072】
加工工程では、高アミノ酸甲殻類の頭部の除去、殻の除去などの加工処理を、必要に応じて1つ以上行うことができる。このような一連の加工処理によって、高アミノ酸甲殻類がエビの場合にはいわゆる「むきエビ」を得ることができる。
【0073】
浸漬工程に用いられる処理液としては、特に制限はなく、例えば、酸化防止剤等を挙げることができる。酸化防止剤としては、エビ専用酸化防止剤製剤BL-7P(シマキュウ株式会社製)0.5%の氷水などが挙げられる。浸漬処理の処理時間は、用いる処理液によって異なるが、例えば酸化防止製剤の場合には1分程度とすることができる。
【0074】
<用途>
上述したように、本開示に係る高アミノ酸甲殻類は、総遊離アミノ酸含有量が高く、かつ、特定の2種のアミノ酸のいずれも相対的に高いため、これらのアミノ酸の組み合わせから生じる味によって、呈味が改善されている。このことから、このような改善された呈味により、食品等の用途に適している。各種用途に高アミノ酸甲殻類を適用する場合、高アミノ酸甲殻類の全部又は一部をそのまま使用してもよく、抽出、粉砕等の加工を行って、加工品として使用してもよい。
【0075】
高アミノ酸甲殻類の全部又は一部をそのままで、又はこれらを更に加工して得られた加工品を、高アミノ酸甲殻類由来成分として、各種用途に用いることができる。配合成分としての高アミノ酸甲殻類由来成分は、他の任意成分と組み合わせて、高アミノ酸甲殻類成分を含有する組成物を構成することができる。組成物に含まれる任意成分の配合割合は、その目的に応じて適宜選択して決定することができる。
【0076】
各種用途に利用可能な高アミノ酸甲殻類の全部又は一部は、可食部であることができる。本明細書において高アミノ酸甲殻類の可食部とは、アミノ酸を含有しうる部位であればよく、例えば筋肉、筋肉の周辺組織を挙げることができる。筋肉としては、尾部、頭胸部、腹部等における筋肉を挙げることができ、特に、アミノ酸の含有量比較的高い腹部筋肉であってよい。高アミノ酸甲殻類の可食部は、殻が付いていてもよく、殻が付いていなくてもよい。各種用途に適用される組成物は、他の任意成分と組み合わせて、高アミノ酸甲殻類の可食部に由来する成分を含む組成物とすることができる。
【0077】
高アミノ酸甲殻類は、特に陸上養殖のように、厳密に生産管理することができる場合については、高アミノ酸甲殻類の可食部を生食として市場に提供することができる。そのような高アミノ酸甲殻類の可食部の用途は、制限されるものではないが、具体例としては、食品、飼料、医薬等が挙げられる。
【0078】
高アミノ酸甲殻類の可食部を含む食品は、特に限定されず、例えば、ソーセージ、ハム、魚介加工品などの食品類が挙げられる。高アミノ酸甲殻類の可食部を含む食品における高アミノ酸甲殻類の可食部の割合には、特に制限はない。高アミノ酸甲殻類は、畜産又は水産養殖用の飼料の利用することができる。
食品又は飼料として製品化する場合には、それぞれに認められている様々な添加剤、具体的には、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤漂白剤、防菌防黴剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、香料等を添加していてもよい。
【0079】
高アミノ酸甲殻類及びその加工品は、医薬品や医薬部外品、機能性食品の原料として用いることができる。ここでいう「機能性食品」とは、一般食品に加えて、健康の維持の目的で摂取する食品及び/又は飲料を意味し、保健機能食品である特定保健用食品や栄養機能食品や、健康食品、栄養補助食品、栄養保険食品等を含む概念である。この中でも保健機能食品である特定保健用食品及び栄養機能食品が、好ましい機能性食品の態様である。
医薬品、医薬部外品、又は機能性食品として製品化する場合には、それぞれに認められている様々な添加剤、具体的には、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤漂白剤、防菌防黴剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、香料等を添加していてもよい。
【実施例】
【0080】
以下、本開示を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本開示はそれらに何ら限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「ppm」又は「%」は質量基準である。
【0081】
[実施例1]
平均個体重1gのバナメイエビ(Litopenaeus vannamei)を飼育対象とした。
屋内に水量300トン程度の水槽を設置した。水槽内に滅菌処理した海水を入れ、100尾以上/m2の密度で稚エビを収容した。水温は26~32℃に維持し、アンモニア濃度コントロールのための炭素源の添加、pH維持のためのpH調整剤の添加を行い、バイオフロックの形成を促し、調整を行った。硝化細菌固定化材として多孔質担体を使用した。好気的な環境を維持するための酸素供給、適正なフロック量を維持するための余剰フロック回収を行い、約3か月間の無換水養殖を実施した。なお、無換水養殖とは、可能な限り水換えを行わない養殖方法である。この方法により換水にかかる費用を節約することができ、それにより飼育コストを抑制することができる。
【0082】
屋内に置かれた水槽に対して、側面及び底面からの光を遮断し、電灯については、朝8時頃~夕方17時まで点灯となるように制御した。通気に関しては、水槽の中央部にエアストーンを沈めることによって行った。飼料は毎日給餌した。pH測定を毎日朝1回行った。
水槽の上面全体を、光非透過性の合成樹脂の板で覆い、水槽内に差し込む光を調整した。照度計(デジタル照度計 LX-1108、ケニス株式会社製)を用いて、建屋入り口から奥に向かって6m毎に54mまで、水面から約10cmの地点を隔壁の左右2カ所で照度を測定したところ、表1のとおりであった。
【0083】
【0084】
飼料としては、表2の組成を3パスコンディショナーでペレットミルのために処方したものを使用した。ペレットサイズは2.4mmで製造した。給餌は、残餌量を観察しながら自動給餌装置によってほぼ一日中、継続的に行い飽食給餌とした。
【0085】
【0086】
上記の照度条件で飼育を開始した。飼育開始から約60日後に飼育を終了して、体重28~33gのバナメイエビを30~35匹回収し、氷締めした後、腹部筋肉における各種アミノ酸含有量を以下のようにして測定した。
【0087】
(1)測定用試料の調製
バナメイエビの胸頭部から腹部を分離し、尾肢を取り除いて腹部を得た。腹部の殻を剥き、更に腹肢の薄い外殻を取り除いた後、得られた腹部を、ミニプロッププロセッサー「Cuisinart」(コンエアージャパン合同会社製)を用いて破砕し、均一化して、測定用試料を調製した。
試料約2gを、50mlコニカルチューブに精秤し、8mlのイオン交換水を加え、ディスパーサー、「URTRA TURRAX T-25」(IKA)を用いて、5重量%のトリクロロ酢酸水溶液を10ml加えながら、ホモジナイズした。
【0088】
ホモジナイズ後に得られた試料を、Thermo Fisher ユニバーサル遠心機「SurvaII Legend XFR」、スウィングローター 75003607を用いて、3000rpmの回転数で15分間遠心し、上清を回収した。回収した上清を、ADVANTEC NO.2でろ過した後に、クエン酸緩衝液(pH2.2、和光純薬工業株式会社製)で50mLに定容した。次いで、0.45μmメンブレンフィルター(ADVANTEC社製 ディスポーザブルメンブレンフィルターユニット 25CS045AS)及び0.20μmメンブレンフィルター(ADVANTEC社製 ディスポーザブルメンブレンフィルターユニット 25CS020AS)を用いてろ過し、測定用サンプルとした。
【0089】
(2)アミノ酸測定
高速アミノ酸分析計 L-8900形(株式会社日立ハイテクサイエンス製)に、測定用サンプル20μLを供し、製品取扱書の記載に従って測定を行った。得られた各アミノ酸のピーク面積と標準溶液を供した際のピーク面積の比率から、各アミノ酸の含有量を求めた後、試料中に含まれる遊離アミノ酸組成を算出した。
標準溶液には、アミノ酸混合標準液 AN-II型(和光純薬工業株式会社製)、アミノ酸混合標準液 B型(和光純薬工業株式会社製)、及びL-アスパラギン標準液(和光純薬工業株式会社製)をそれぞれ用いた。各1mLずつ正確に25mLメスフラスコにとり、0.02N HClで定容したものを使用した。
【0090】
結果を、表3に示す。なお、表3において、グリシン、アルギニン、プロリン、アラニン、及びグルタミンの各アミノ酸における「(mg)」とは、これらの各アミノ酸の腹部筋肉100gあたりの重量(mg)を示し、「%」とは、腹部筋肉100gあたりの遊離アミノ酸の合計量(mg)に対するこれらの各遊離アミノ酸の重量(mg)の割合を示す。表3中、「4種合計」とは、腹部筋肉100gあたりの総遊離アミノ酸の合計量(mg)に対するグリシン、アルギニン、プロリン及びアラニンの4種の含有量(mg)の合計の割合を意味する。表3中、「総遊離アミノ酸」とは、腹部筋肉100gあたりの遊離アミノ酸の含有量の合計(mg)を意味する。
【0091】
[比較例1]
飼育時に遮光をしない条件で飼育された10g~20gのバナメイエビを、30匹入手し、比較例1として、各種遊離アミノ酸の含有量及び総遊離アミノ酸含有量を実施例1と同様にそれぞれ測定した。結果を表3に示す。
【0092】
【0093】
実施例1のバナメイエビは、育成工程において、蓋で水面を覆って、100ルクス以下の照度、水槽のほとんどの地点では、40ルクス以下の照度下で育成された。
このような育成で得られた実施例1のバナメイエビでは、表3に示されるように、グリシン及びアラニンの2種、更にこれらに加えて、アルギニン、プロリン、グルタミン酸も共に、比較的高い含有量で含むものであった。そして、総遊離アミノ酸含有量は100gあたり3041mgと、100gあたり2400mgを大きく上回った。
【0094】
これに対して、比較例1のバナメイエビは実施例1のバナメイエビとほぼ同等の体長及び体重であったが、総遊離アミノ酸含有量は100gあたり1743mgと、100gあたり2400mgよりも遙かに低く、グリシンが550mg以下、アルギニンが580mg以下、プロリンが500mg以下であった。このため、グリシン、アルギニン、プロリン及びアラニンの4種のアミノ酸の含有量のバランス、またグルタミン酸を加えた含有量のバランスが、実施例1とは異なっていた。
【0095】
アミノ酸の呈味作用については、例えば、エビ・カニ類の増養殖(p254~256、p261~263、橘高二郎、隆島史夫、金澤昭夫編、恒星社厚生閣、1996)に記載されているように既に充分に知られている。このため、総アミノ酸含有量が高く、グリシン及びアラニン、特にグリシン、アルギニン、プロリン及びアラニンの4種の含有量が高いレベルでバランスが取れている実施例1のエビの可食部は、いずれも優れた呈味であることがわかる。
実施例1及び比較例1の腹部筋肉を実際に食したところ、比較例1のものよりも実施例1のエビの方が美味しかった。これにより、実施例1のエビでは呈味が改善していることが確認された。
【0096】
(3)一般分析
実施例1及び比較例1のバナメイエビについて、表4に示す項目について一般分析を行った。その分析結果は表4のとおりである。なお、参考として、市販のバナメイエビについての分析結果も併せて掲げる。
【0097】
【0098】
上記表4で示すように、実施例1のバナメイエビは蛋白質の含有量が100gあたり23.1mgと、比較例1のバナメイエビの100gあたり19.1mgに比べ約20.9%多く、また、市販のバナメイエビの100gあたり21.6mgに比べても約6.9%多いという結果となった。このように、蛋白質の含有量が比較例1や市販エビよりも多いことも、呈味の改善に寄与しているものと考えられる。
【0099】
なお、上記表4で示すように、実施例1のバナメイエビは水分の含有量が100gあたり74.1mgと、比較例1のバナメイエビの100gあたり78.4mgに比べ約5.5%少なく、また、市販のバナメイエビの100gあたり75.5mgに対しては約1.9%少ないという結果となった。このように、水分の含有量が比較例1や市販エビよりも少ないことで、実施例1のバナメイエビは、熱を通したときに著しく身が痩せることがないと考えられる。
【0100】
また、上記表4で示すように、実施例1のバナメイエビは炭水化物の含有量が100gあたり0mgと、比較例1のバナメイエビの100gあたり0.5mg、及び、市販のバナメイエビの100gあたり0.3mgに対しいずれも100%の減少という結果となった。このように、炭水化物の含有量が比較例1や市販エビよりも少ないことで、実施例1のバナメイエビは、糖質制限食に好適であると考えられる。
【0101】
さらに、上記表4で示すように、実施例1のバナメイエビは灰分の含有量が100gあたり1.8mgと、比較例1のバナメイエビの100gあたり1.1mgに比べ約63.6%多く、また、市販のバナメイエビの100gあたり1.5mgに比べても約20.0%多いという結果となった。このように、灰分の含有量が比較例1や市販エビよりも多いことで、実施例1のバナメイエビを摂取することでミネラルを多く摂取することができ、またこのミネラルが呈味の向上にも寄与すると考えられる。
【0102】
また、上記表4で示すように、実施例1のバナメイエビはナトリウムの含有量が100gあたり0.259mgと、比較例1のバナメイエビの100gあたり0.099mgに比べ約161.6%多く、また、市販のバナメイエビの100gあたり0.152mgに比べても約70.4%多いという結果となった。このように、ナトリウムの含有量が比較例1や市販エビよりも多いことで、実施例1のバナメイエビは、エビの調味に要する食塩量を減少させることができると考えられる。
【0103】
さらに、上記表4で示すように、実施例1のバナメイエビは熱量が100gあたり101kcalと、比較例1のバナメイエビの100gあたり87kcalに比べ約16.1%高く、また、市販のバナメイエビの100gあたり98kcalに比べても約3.1%高いという結果となった。このように、熱量が比較例1や市販エビよりも高いことで、実施例1のバナメイエビを摂取することで、カロリーをより効率よく摂取することができると考えられる。
【0104】
なお、実施例1のバナメイエビでは、上記したように炭水化物含有量が減少し、蛋白質含有量が増加していることから、この熱量の増加は蛋白質含有量の増加に起因するものと推測される。よって、この熱量の増加の観点からも、実施例1のバナメイエビにおける呈味の向上効果が推測される。
【0105】
このように、本開示に係る高アミノ酸甲殻類は、従来にない改善された呈味を有するものであることがわかる。