(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】歯牙用貼付シート
(51)【国際特許分類】
A61K 8/02 20060101AFI20230726BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20230726BHJP
A61K 8/21 20060101ALI20230726BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20230726BHJP
A61K 8/98 20060101ALI20230726BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20230726BHJP
A61K 8/86 20060101ALI20230726BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20230726BHJP
A61K 31/6615 20060101ALI20230726BHJP
A61K 33/16 20060101ALI20230726BHJP
A61K 33/00 20060101ALI20230726BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230726BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20230726BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20230726BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20230726BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20230726BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230726BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20230726BHJP
【FI】
A61K8/02
A61K8/73
A61K8/21
A61K8/19
A61K8/98
A61K8/34
A61K8/86
A61Q11/00
A61K31/6615
A61K33/16
A61K33/00
A61K47/10
A61K47/44
A61K47/14
A61K47/38
A61K47/32
A61K47/36
A61K47/42
(21)【出願番号】P 2020041644
(22)【出願日】2020-03-11
【審査請求日】2021-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2019107698
(32)【優先日】2019-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】筒井 生
(72)【発明者】
【氏名】椎葉 諒太
(72)【発明者】
【氏名】大橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】永田 亮輔
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-534809(JP,A)
【文献】特開2016-084287(JP,A)
【文献】特開2008-007749(JP,A)
【文献】特開2005-187330(JP,A)
【文献】特開2007-308443(JP,A)
【文献】国際公開第2012/165134(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/069595(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K31/33-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯牙への付着性と水への溶解性とを有し、かつ
薬用成分(xa)
と、プルラン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及び寒天から選ばれる1種又は2種以上の水溶性高分子(xd)とを含有する最内貼付層(X)、並びに
最内貼付層(X)よりも歯牙への付着性と水への溶解性とが低い層であって、
エチルセルロース、及びセラックから選ばれる1種又は2種の水不溶性高分子(ya)を含有し、かつプロピレングリコール(yb)及びグリセリン(yc)から選ばれる1種又は2種を含有する、透明性を示す最外保護層(Y)
が積層されてなる歯牙用貼付シートであって、
成分(xd)の含有量が、最内貼付層(X)100質量%中に45~60質量%であり、
成分(yb)及び成分(yc)の合計含有量が、最外保護層(Y)100質量%中に40質量%以上70質量%以下であり、
成分(yb)及び成分(yc)の合計含有量と成分(ya)の含有量との質量比(((yb)+(yc))/(ya))が0.1~9であり、かつ
成分(yb)の含有量と、成分(yb)及び成分(yc)の合計含有量との質量比((yb)/((yb)+(yc)))が0.9より大きい、歯牙用貼付シート。
【請求項2】
最内貼付層(X)が、さらにノニオン界面活性剤(xb)を含有し、かつ
最内貼付層(X)100質量%中における成分(xb)の含有量が、2質量%以上6質量%以下である請求項1に記載の歯牙用貼付シート。
【請求項3】
成分(xb)が、少なくともポリオキシエチレン硬化ひまし油(xb-1)及びポリグリセリン脂肪酸エステル(xb-2)を含有し、かつ
最内貼付層(X)中における成分(xb-1)の含有量と成分(xb-2)の含有量との質量比((xb-1)/(xb-2))が、0.1以上10以下である請求項2に記載の歯牙用貼付シート。
【請求項4】
最外保護層(Y)の厚みが、0.1μm以上5μm以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の歯牙用貼付シート。
【請求項5】
最内貼付層(X)が、さらに香料(xc)を含有する請求項1~4のいずれか1項に記載の歯牙用貼付シート。
【請求項6】
成分(yb)の含有量と成分(ya)の含有量との質量比((yb)/(ya))が、0.1~9である請求項1~
5のいずれか1項に記載の歯牙用貼付シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯牙用貼付シートに関する。
【背景技術】
【0002】
健康を維持するためにも、或いは美容上の観点からも、歯牙や歯肉等の歯牙周辺部に対する日々の適切なケアは不可欠である。満足なケアがなされていないと、歯石や汚れが歯牙表面に付着・堆積して不要に着色したり、或いは歯肉が退縮したりして、歯周病や歯肉炎等の原因となり、歯牙のぐらつきや痛みの発生要因ともなり得る上、美感も損なわれかねない。
こうした歯牙や歯牙周辺部に関する様々な症状の予防や治療、審美性を付与すべく、所望の成分を含有させた歯牙用貼付シートが開発されており、これを歯牙又は歯牙周辺部に貼付することによって、所望の成分を一定時間作用させることが試みられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、水に溶解したときのpHが互いに異なる値を示す層(A)と層(B)とを有し、後者の層にフィチン酸等を含有する歯牙用貼付シートが開示されており、これを歯牙に貼付することによって、歯牙表面におけるpH環境に経時的変化を与えながらフィチン酸等を効率的に作用させ、歯への美白効果を発揮させている。
また、特許文献2には、歯及び/又は歯肉に直接貼り付ける側の最下接着層と最上保護層を含み、互いの層に歯及び/又は歯肉に対する接着性と唾液に対する溶解速度に差異をもたせた歯周病用フィルム状外用剤が開示されており、かかる外用剤全体として、睡眠開始から睡眠中の少なくとも3時間は唾液に対して完溶しない溶解速度とすることにより、口腔内に長く滞留させて、睡眠時に薬効成分の効果を充分に発揮させようと試みている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/069595号
【文献】特開2016-84287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献に記載のシートは、歯牙又はその周辺部に所望の作用をもたらし得るものの、いずれのシートも貼付時における最外層の透明性が充分に確保されておらず、シートの溶解状況や所望の成分の拡散具合を視認することは不可能であり、また適切な貼付時間を視認によって判断するのも困難である。
【0006】
すなわち、本発明は、歯牙又は歯牙周辺部に貼付した際における最外層の透明性を高め、貼付面を構成する最内層の経時的変化の視認が可能な二層を備える歯牙貼付シートに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、種々検討したところ、歯牙への付着性と水への溶解性に差異を示す最内貼付層と最外保護層という、少なくとも二層を備える構造とし、歯牙又は歯牙周辺部に所望の効果をもたらすべく最内貼付層に薬用成分を含有させ、かつ最外保護層に水不溶性高分子とともに、プロピレングリコール又はグリセリンの少なくとも一方を含有させることにより、良好な成形性を確保しながら優れた透明性を示す最外保護層を備えた歯牙貼付シートが得られることを見出した。
【0008】
したがって、本発明は、歯牙への付着性と水への溶解性とを有し、かつ薬用成分(xa)を含有する最内貼付層(X)、並びに
最内貼付層(X)よりも歯牙への付着性と水への溶解性とが低い層であって、水不溶性高分子(ya)を含有し、かつプロピレングリコール(yb)及びグリセリン(yc)から選ばれる1種又は2種を含有する最外保護層(Y)
が積層されてなる歯牙用貼付シートを提供するものであり、好ましくは、本発明は、歯牙への付着性と水への溶解性とを有し、かつ薬用成分(xa)を含有する最内貼付層(X)、並びに
最内貼付層(X)よりも歯牙への付着性と水への溶解性とが低い層であって、水不溶性高分子(ya)を含有し、プロピレングリコール(yb)及びグリセリン(yc)から選ばれる1種又は2種を含有し、かつ成分(yb)の含有量と成分(yb)及び成分(yc)の合計含有量との質量比((yb)/((yb)+(yc)))が0.5より大きい、最外保護層(Y)
が積層されてなる歯牙用貼付シートを提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の歯牙用貼付シートによれば、歯牙又は歯牙周辺部に貼付した際、透明性の高い最外保護層にて被覆・保護されているため、最外保護層を透して、最外保護層より内側の層における薬用成分の歯牙又は歯牙周辺部への送達・拡散等の経時的変化を視認することができ、必要な貼付時間を適切に見極めることが可能となる。また、本発明の歯牙用貼付シートを歯牙又は歯牙周辺部に視覚的に同化させて、異物感を低減することも可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の歯牙用貼付シートは、最内貼付層(X)と透明性の高い最外保護層(Y)の少なくとも二層を備える構造からなり、最内貼付層(X)を歯牙又は歯牙周辺部に貼付して使用する。このように、本発明の歯牙用貼付シートは、歯牙又は歯牙周辺部に貼付した際、最内貼付層(X)が唾液に良好に溶解しながら、各々所定の役割を適切に果たすことができる。
具体的には、最内貼付層(X)は、歯牙や歯牙周辺部に良好に付着して最外保護層(Y)に先立って唾液に溶解しつつ、含有する薬用成分(xa)を一方の面から歯牙又は歯牙周辺部へと作用させる。その間、最外保護層(Y)は、最内貼付層(X)に比べて歯牙や歯牙周辺部等の口腔内へ過度に付着することなく、また最内貼付層(X)よりも唾液への溶解が遅延するため、最内貼付層(X)の唾液への溶解が唾液や舌によって不要に阻害されることなく、薬用成分(xa)が歯牙や歯牙周辺部へと良好に送達・拡散するのを促進させながら、最外保護層(Y)を透してこうした経時的変化を視認することができる。
【0011】
ここで、歯牙周辺部とは、歯肉、いわゆる歯茎を含む歯牙の周辺に位置する口腔内の器官を意味し、本発明の歯牙用貼付シートは、歯牙のみ、歯牙周辺部のみ、或いは歯牙及び歯牙周辺部の双方にわたり貼付して用いるシートである。以下、「歯牙又は歯牙周辺部」を「歯牙等」と総称する。
また、本発明の歯牙用貼付シートを製造するために用いる原液以外、各質量については、乾燥状態での質量(乾燥質量)とする。
【0012】
本発明の歯牙用貼付シートが備える最内貼付層(X)は、歯牙への付着性と水への溶解性とを有し、かつ薬用成分(xa)を含有する層であり、本発明の歯牙用貼付シートの使用時において、歯牙等へ直接貼付される面を有する層である。これにより、本発明の歯牙用貼付シートを歯牙等に貼付した際、最内貼付層(X)が歯牙等へ良好に付着しつつ次第に唾液へと溶解し、薬用成分(xa)を最内貼付層(X)内から歯牙等へと送達・拡散させることができ、所望の部位に所望の作用をもたらすことができる。
【0013】
最内貼付層(X)が含有する薬用成分(xa)としては、歯周病や歯肉炎等の予防又は治療に有効な成分や、虫歯予防に有効な成分、美白作用をもたらす成分等が挙げられる。具体的には、フィチン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸及びこれらの塩、並びに硝酸カリウム及びフッ素から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、歯牙表面に対して集中的に薬用成分を作用させる技術が望まれている観点から、フィチン酸又はその塩、硝酸カリウム、及びフッ化物を用いることがより好ましい。好ましいフッ化物としては、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム等のフッ素イオン供給化合物、及びモノフルオロリン酸ナトリウム等が挙げられる。とりわけ、歯を簡便に美しくする技術が望まれている観点からは、フィチン酸又はその塩を用いることがより好ましい。
【0014】
薬用成分(xa)の含有量は、歯牙等へ有効に作用をもたらす観点から、最内貼付層(X)100質量%中に、好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.07質量%以上であり、さらに好ましくは0.1質量%以上である。また、薬用成分(xa)の含有量は、歯牙等への良好な浸透性を確保する観点から、最内貼付層(X)100質量%中に、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは15質量%以下である。
【0015】
より具体的には、薬用成分(xa)の含有量は、歯牙等へ作用して良好な状態へ導く観点から、下記の範囲が好ましい。薬用成分(xa)がフィチン酸又はその塩である場合、成分(xa)の含有量は、最内貼付層(X)100質量%中に酸換算量で、好ましくは1~30質量%であり、より好ましくは5~20質量%であり、さらに好ましくは10~15質量%である。
【0016】
最内貼付層(X)は、唾液への良好な溶解性を確保して、最外保護層(Y)のみならず最内貼付層(X)をも透明性を高めて歯牙用貼付シート全体に高い透明性を付与し、成分(xa)の歯牙等への溶解・拡散の可視化を一層向上させる観点から、さらにノニオン界面活性剤(xb)を含有するのが好ましい。かかるノニオン界面活性剤(xb)としては、ポリオキシエチレン硬化ひまし油(xb-1)及びポリグリセリン脂肪酸エステル(xb-2)のいずれか1種を含有するのが好ましく、ポリオキシエチレン硬化ひまし油(xb-1)及びポリグリセリン脂肪酸エステル(xb-2)の両方を含有するのがより好ましい。
ポリオキシエチレン硬化ひまし油(xb-1)としては、歯牙への付着性を確保しつつ、さらに最内貼付層(X)の透明性を高める観点から、エチレンオキシ基の平均付加モル数が20~60であるのが好ましく、40~60であるのがより好ましい。
ポリグリセリン脂肪酸エステル(xb-2)としては、唾液への良好な溶解性を確保しつつ、さらに最内貼付層(X)の透明性を高める観点から、これを構成する脂肪酸部分として炭素数10~16の脂肪酸由来のものが好ましく、炭素数12~14の脂肪酸由来のものがより好ましい。また、グリセリンの平均縮合度は、上記と同様の観点から、好ましくは5~12である。
【0017】
最内貼付層(X)中における、ポリオキシエチレン硬化ひまし油(xb-1)の含有量とポリグリセリン脂肪酸エステル(xb-2)との含有量の質量比((xb-1)/(xb-2))は、歯牙への付着性と唾液への溶解性を確保しつつ、さらに最内貼付層(X)の透明性を高める観点から、好ましくは0.1以上であり、より好ましくは0.5以上であり、さらに好ましくは1以上であり、好ましくは10以下であり、より好ましくは9以下であり、さらに好ましくは7以下である。
【0018】
最内貼付層(X)は、ノニオン界面活性剤(xb)として、ポリオキシエチレン硬化ひまし油(xb-1)及びポリグリセリン脂肪酸エステル(xb-2)以外のノニオン界面活性剤を含有することもできる。かかるノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンフィトステロール及びフィトスタノール、ポリオキシエチレンラノリン及びラノリンアルコール、ポリオキシエチレンアルキルアミン及び脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル及び脂肪酸エタノールアミド等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、ショ糖脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルから選択される1種又は2種が好ましい。
【0019】
ポリオキシエチレン硬化ひまし油(xb-1)及びポリグリセリン脂肪酸エステル(xb-2)を含むノニオン界面活性剤(xb)の全含有量は、最内貼付層(X)の歯牙への付着性と唾液への溶解性を良好に保持しつつ、さらに最内貼付層(X)の透明性を高める観点から、最内貼付層(X)100質量%中に、好ましくは0.8質量%以上であり、好ましくは2質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上であり、さらに好ましくは4質量%以上であり、好ましくは6質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは4.7質量%以下である。
【0020】
また、ポリオキシエチレン硬化ひまし油(xb-1)の含有量は、上記と同様の観点から、最内貼付層(X)100質量%中に、好ましくは0.2~5.5質量%であり、より好ましくは0.6~4.5質量%であり、さらに好ましくは1.5~3.5質量%である。
さらに、ポリグリセリン脂肪酸エステル(xb-2)の含有量は、上記と同様の観点から、最内貼付層(X)100質量%中に、好ましくは0.1~3質量%であり、より好ましくは0.2~2.2質量%であり、さらに好ましくは0.5~2質量%である。
【0021】
最内貼付層(X)は、さらに香料(xc)を含有することができる。かかる香料(xc)としては、例えば、メントール、プレゴール、カルボン、アネトール、シネオール、サリチル酸メチル、シンナミックアルデヒド、オイゲノール、3-1-メントキシプロパン-1,2-ジオール、チモール、シトロネリルアセテート、リナロール、リナリルアセテート、ゲラニオール、ゲラニルアセテート、シトロネロール、リモネン、メントン、メンチルアセテート、N-置換-パラメンタン-3-カルボキサミド、ピネン、オクチルアルデヒド、シトラール、プレゴン、カルビルアセテート、ジヒドロカルビルアセテート、アニスアルデヒド、ベンズアルデヒド、カンファー、ラクトン、エチルアセテート、エチルブチレート、アリルシクロヘキシルプロピオネート、メチルアンスラニレート、エチルメチルフェニルグリシデート、バニリン、ウンデカラクトン、ヘキサナール、ブチルアセテート、イソアミルアセテート、ヘキセノール、ジメチルサルファイド、シクロテン、フルフラール、トリメチルピラジン、エチルラクテート、メチルラクテート、エチルチオアセテート等の単品香料成分;ストロベリーフレーバー、アップルフレーバー、バナナフレーバー、パイナップルフレーバー、グレープフレーバー、マンゴーフレーバー、バターフレーバー、ミルクフレーバー、フルーツミックスフレーバー、トロピカルフルーツフレーバー等の調合香料成分;ペパーミント油、スペアミント油、シナモン油、アニス油、ユーカリ油、ウィンターグリーン油、カシア油、クローブ油、タイム油、セージ油、セージクラリー油、ナツメグ油、ファンネル油、レモン油、オレンジ油、ハッカ油、カルダモン油、コリアンダー油、バジル油、マンダリン油、ライム油、ラベンダー油、ローズマリー油、ジンジャ-油、グレープフルーツ油、ローレル油、カモミル油、キャラウェイ油、マジョラム油、ベイ油、レモングラス油、レモンバーム油、ピメントベリー油、パルマローザ油、オリバナム油、パインニードル油、ペチグレン油、ネロリ油、ローズ油、ジャスミン油等の天然香料成分、及びこれら天然香料成分を加工処理した香料成分が挙げられる。
かかる成分(xc)の含有量は、良好な風味をもたらしつつ、成分(xa)の異味をマスキングして貼付時の不快感を低減する観点から、最内貼付層(X)100質量%中に、好ましくは0.1~3質量%であり、より好ましくは0.2~2質量%であり、さらに好ましくは0.3~1質量%である。
【0022】
最内貼付層(X)は、最内貼付層(X)自体の良好な成形性を確保する観点、及び成分(xa)の歯牙等への送達・拡散を促進する観点から、水溶性高分子(xd)を含有するのが好ましい。ここで水溶性とは、25℃において、水100gに0.1g以上溶解する成分を意味する。
かかる水溶性高分子(xd)としては、具体的には、プルラン、ヒドロキシエチルセルロース、グアガム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン及び寒天から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、最内貼付層(X)の透明性を高めて、成分(xa)の歯牙等への送達・拡散を可視化する観点から、プルラン、寒天及びヒドロキシプロピルメチルセルロースから選択される1種又は2種が好ましい。
【0023】
水溶性高分子(xd)の含有量は、最内貼付層(X)自体の良好な成形性を確保する観点、及び成分(xa)の歯牙等への送達・拡散を促進する観点から、水溶性高分子(xd)の含有量は、最内貼付層(X)100質量%中に、好ましくは30~70質量%であり、より好ましくは40~65質量%であり、さらに好ましくは45~60質量%である。
【0024】
最内貼付層(X)は、上記成分のほか、本発明の効果を損なわない限りにおいて、上記以外の成分として、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のpH調整剤、プロピレングリコール、グリセリン等の湿潤剤、サッカリンナトリウムやスクラロール等の甘味料、保存料、色素等を含有することができる。なかでも、pH調整剤として水酸化カリウムを用いると、含有する成分の歯牙用貼付シート内における溶解性又は分散性を高めることにも寄与させることができる。
なお、本発明の歯牙用貼付シートの使用時において、良好な付着性や柔軟性を保持させる観点、及び含有する成分の歯牙用貼付シート内における溶解性又は分散性を確保する観点から、製造時における乾燥工程を経た後の最内貼付層(X)においても、適度な水分量を保持しているのが望ましい。かかる水分量は、最内貼付層(X)100質量%中に、好ましくは5~16質量%であり、より好ましくは6~15質量%であり、さらに好ましくは7~14質量%である。
【0025】
本発明の歯牙用貼付シートが備える最外保護層(Y)は、最内貼付層(X)よりも歯牙への付着性と水への溶解性とが低い層であって、水不溶性高分子(ya)を含有し、かつプロピレングリコール(yb)及びグリセリン(yc)から選ばれる1種又は2種を含有する。これにより、最内貼付層(X)よりも歯牙への付着性と唾液への溶解性を低めつつ、最外保護層(Y)の成形性を高めて優れた透明性を付与することができる。したがって、本発明の歯牙用貼付シートを歯牙等に貼付した際、最内貼付層(X)に比べて唾液への溶解性が低い最外保護層(Y)が、先に唾液へと溶解する最内貼付層(X)を被覆・保護しつつ、かかる最外保護層(Y)を透して、最内貼付層(X)における薬用成分(xa)の歯牙等への送達・拡散等の経時的変化を視認することが可能となる。また最外保護層(Y)は、薬用成分(xa)の作用後に、歯ブラシによるブラッシングによって容易に除去することができる。
【0026】
ここで水不溶性とは、25℃において、水100gに溶解する量が0.1g未満である成分を意味する。
なお、最外保護層(Y)において、フィッシュアイ等の発生を有効に抑制し、優れた透明性を付与する観点から、界面活性剤の含有量は、最外保護層(Y)100質量%中に0.1質量%未満であることが好ましく、さらに0.01質量%未満であることが好ましく、殊さらに最外保護層(Y)は界面活性剤を含有しないことが好ましい。
【0027】
かかる水不溶性高分子(ya)としては、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、セルロースアセテートフタレート、ヒプロメロースフタル酸エステル、セラック、ポリビニルアセテート、ポリメチルメタクリレート、メタクリロイルエチルベタイン/メタクリレート共重合体、メタクリル酸共重合体、アミノアルキルメタクリレート共重合体及び寒天から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。なかでも、最外保護層(Y)における白濁部の出現を防ぎ、優れた透明性を付与する観点から、エチルセルロース及びセラックから選ばれる1種又は2種が好ましく、エチルセルロースがより好ましい。
【0028】
プロピレングリコール(yb)及びグリセリン(yc)の含有量と水不溶性高分子(ya)の含有量との質量比(((yb)+(yc))/(ya))、すなわち、成分(yb)及び成分(yc)の合計含有量と、成分(ya)の含有量との質量比(((yb)+(yc))/(ya))は、最外保護層(Y)におけるフィッシュアイ等の発生を有効に抑制し、優れた透明性を付与する観点から、好ましくは0.1以上であり、より好ましくは0.25以上であり、さらに好ましくは0.43以上であり、好ましくは9以下であり、より好ましくは4以下であり、さらに好ましくは2.3以下である。また、成分(yb)及び成分(yc)の合計含有量と、成分(ya)の含有量との質量比(((yb)+(yc))/(ya))は、好ましくは0.1~9であり、より好ましくは0.25~4であり、さらに好ましくは0.43~2.3である。また、プロピレングリコール(yb)の含有量と水不溶性高分子(ya)の含有量との質量比((yb)/(ya))は、好ましくは0.1~9であり、より好ましくは0.25~4であり、さらに好ましくは0.43~2.3である。
【0029】
プロピレングリコール(yb)の含有量と、プロピレングリコール(yb)及びグリセリン(yc)の合計含有量との質量比((yb)/((yb)+(yc)))は、0.5より大きく、好ましくは0.7より大きく、さらに好ましくは0.9より大きい。質量比(yb)/((yb)+(yc))の上限値については、1以下であればよい。
【0030】
成分(yb)及び(yc)から選択される1種又は2種以上の合計含有量は、最外保護層(Y)の良好な成形性とブラッシングによる崩壊性をも確保する観点から、最外保護層(Y)100質量%中に、好ましくは7質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上であり、さらに好ましくは40質量%以上であり、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは80質量%以下であり、さらに好ましくは70質量%以下である。
【0031】
最外保護層(Y)は、上記成分のほか、本発明の効果を損なわない限りにおいて、上記以外の成分として、例えば、保存料、色素等を含有することができる。
【0032】
最外保護層(Y)の厚みは、最内貼付層(X)の唾液への溶解が唾液や舌によって不要に阻害されるのを有効に防ぎ、最内貼付層(X)の唾液への溶解とともに薬用成分(xa)が歯牙等へと良好に送達・拡散するのを促進する観点から、好ましくは0.1μm以上であり、より好ましくは0.2μm以上であり、さらに好ましくは0.3μm以上である。また、最外保護層(Y)の厚みは、最外保護層(Y)への高い透明性の付与を確保する観点、及び貼付中に口を閉じても違和感が生じにくいという観点から、好ましくは5μm以下であり、より好ましくは3μm以下であり、さらに好ましくは2.5μm以下である。そして、最外保護層(Y)の厚みは、好ましくは0.1~5μmであり、より好ましくは0.2~3μmであり、さらに好ましくは0.3~2.5μm上である。
【0033】
最内貼付層(X)の厚みは、薬用成分(xa)が歯牙等へと良好に送達・拡散する間、最外保護層(Y)により有効に被覆・保護される観点、及び適度な時間内で唾液に完全溶解させる観点から、好ましくは9.9~95μmであり、より好ましくは19.8~87μmであり、さらに好ましくは29.7~77.5μm以下である。
【0034】
本発明の歯牙用貼付シートは、上記最内貼付層(X)及び最外保護層(Y)のほか、さらに最内貼付層(X)と最外保護層(Y)の層間において形成される中間層(Z)を備えることができる。これにより、使用時においては最内貼付層(X)が唾液に溶解して薬用成分(xa)を口腔内に放出した後、続いて中間層(Z)が唾液に溶解して薬用成分(xa-2)が口腔内に放出される。(xa-2)は、最内側貼付層(X)に含まれる薬用成分(xa)とは異なる成分であり、フィチン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸及びこれらの塩、並びに硝酸カリウム及びフッ素から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。中間層(Z)を設けることにより、最内貼付層(X)を溶解した後、続いて中間層(Z)を溶解させるという、段階的な溶解性を付与することが容易となる。
かかる中間層(Z)の材質としては、プルラン、ヒドロキシエチルセルロース、グアガム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン及び寒天から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0035】
本発明の歯牙用貼付シートの総厚みは、貼付に適した柔軟性や歯牙等への追随性を確保する観点、及び薬用成分(xa)が歯牙等へ作用して良好な状態へ導くために必要な量を確保する観点から、好ましくは100~10μmであり、より好ましくは90~20μmであり、さらに好ましくは80~30μm以下である。
【0036】
本発明の歯牙用貼付シートを製造するには、最内貼付層(X)、最外保護層(Y)、及び必要に応じて中間層(Z)の単一層からなるシートを各々形成した後、これらを積層してもよく、また基材の上に順次積層してもよい。最内貼付層(X)は原液(X)を用い、最外保護層(Y)は原液(Y)を用い、同様にして中間層(Z)も原液を用い、次いで各々これらの原液を層状にした後、乾燥工程を経ることにより形成することができる。
なお、最内貼付層(X)を形成するための原液(X)は、上記所定の量となるよう薬用成分(xa)を含有し、及び最外保護層(Y)を形成するための原液(Y)は、上記所定の質量比となるよう水不溶性高分子(ya)及びプロピレングリコール(yb)を含有し、その他水等の成分を適宜含有させて調製すればよい。中間層(Z)を形成するための原液も同様にして調製すればよい。
【0037】
具体的には、例えば、最内貼付層(X)の単一層からなるシートを形成する場合、薬用成分(xa)を含有する原液(X)を調製した後、厚みを勘案しつつ、離型処理等を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に原液(X)を塗工し、乾燥させる。そして、PETフィルムを剥離することにより、各々単一層からなるシートを得ることができる。このうち、歯牙等に貼付する側の面を構成することとなるシートについては、PETフィルムを剥離せず、そのまま担持させていてもよい。次いで、最下層にPETフィルムを配置し、その上に歯牙等に貼付する側の面を構成する単一層からなる最内貼付層(X)、その他中間層(Z)、及び最外保護層(Y)に相当する単一層からなるシートを順次積層した後、例えば、加圧装置を用いて圧着する。なお、ここで加圧装置は加熱してもよい。その後、最下層のPETフィルムを剥離することにより、本発明の歯牙用貼付シートを得ることができる。
【0038】
また、基材の上に順次積層する場合、最内貼付層(X)が歯牙等に貼付する側の面を構成するとき、例えば、まずPETフィルムを基材とし、原液(X)を塗工し、乾燥させて最内貼付層(X)を形成する。次いで最内貼付層(X)上に、必要に応じて中間層(Z)を形成した後、原液(Y)を塗工し、乾燥させて最外保護層(Y)を形成することにより、本発明の歯牙用貼付シートを得ることもできる。
【0039】
本発明の歯牙用貼付シートは、歯牙等に貼付することで、被貼付体の歯牙等に薬用成分(xa)由来の所望の効果をもたらすことができる。歯牙用貼付シートを歯牙等に貼付した際、貼付した直後から、最内貼付層(X)が全て唾液に溶解するまでの時間は、好ましくは3分以上であり、より好ましくは5分以上であり、さらに好ましくは7分以上であり、好ましくは60分以下であり、より好ましくは45分以下であり、さらに好ましくは30分以下である。
【0040】
本発明の歯牙用貼付シートは、歯牙等に貼付した際、貼付された面を構成する最内貼付層(X)が、透明性の高い最外保護層(Y)によって被覆・保護されてなる。そのため、シートを貼付した部位において、最外保護層(Y)より内側に配置されてなる層の溶解状況や薬用成分(xa)の歯牙等への送達・拡散状況を、最外保護層(Y)を透して視認することができ、適切な貼付時間を適切に見極めることもできる。また、最外保護層(Y)より内側に配置されることとなる層において色や模様を施すことにより、こうした最外保護層(Y)を透しての経時的変化の視認を容易にすることもできる。さらに、最内貼付層(X)の透明性をも高めれば、本発明の歯牙用貼付シートを歯牙又は歯牙周辺部に視覚的に同化させて、異物感を低減することも可能となる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明する。なお、表中に特に示さない限り、各成分の含有量は質量%を示す。
【0042】
[実施例1~21、比較例1~2]
表1に示す最内貼付層(X)が得られるよう、精製水を溶媒として用いつつ、薬用成分(xa)としてフィチン酸を含む各成分を混合して原液(X)を調製した。同様に、表1に示す最外保護層(Y)が得られるよう、エタノールを溶媒として用いつつ、水不溶性高分子(ya)及びプロピレングリコール(yb)或いはグリセリン(yc)を混合して原液(Y)を調製した。
次いで、厚みを勘案しつつ、得られた原液(X)をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗工し、乾燥させて最内貼付層(X)を得た。次に、最内貼付層(X)の上から原液(Y)を塗工し、乾燥させて、最内貼付層(X)60~70μmに最外保護層(Y)1~2μmが積層してなる総厚みが61~72μmの歯牙用貼付シートを得た。
なお、表1中に示す値は、乾燥後の歯牙用貼付シートを構成する最内貼付層(X)及び最外保護層(Y)での値である。
【0043】
《最外保護層(Y)の透明性及び歯牙用貼付シート全体の透明性の評価》
最外保護層(Y)の透明性については、かかる最外保護層(Y)における白濁の有無を評価の指標とした。具体的には、得られた歯牙用貼付シートを黒紙の上に配置し、目視により白濁の有無を下記5段階評価にて判断した。
結果を表1に示す。
1:白濁部が全くないため黒色が即座に識別可能
2:白濁部がなく(白濁部領域として認識不能)黒色の識別が可能
3:白濁部が少々(概ね1/4以下)存在するが黒色の識別が可能
4:白濁部がかなり(概ね1/2程度)存在し黒色の識別が一部不可能
5:白濁部が全体にわたって(概ね3/4以上)存在し黒色の識別が不可能
【0044】
また、歯牙用貼付シート全体の透明性については、シートを透しての文字の識別の可否を評価の指標とした。具体的には、文字を印字した紙から一定の距離を置いたところに歯牙用貼付シートを配置し、目視によりシートを透して文字の識別の可否を下記判定基準にしたがって判定した。
結果を表2に示す。
1:透明なため文字の識別が即座に可能
2:透明さがわずかに低いが文字の識別は十分に可能
3:透明さが多少低いが文字の識別はかろうじて可能
4:透明さがかなり欠け文字自体の識別がかろうじて可能
5:透明さが完全に欠け文字自体の識別が困難
【0045】
【0046】