(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】音響光学撮像方法および音響撮像装置
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20230726BHJP
【FI】
A61B8/14
(21)【出願番号】P 2020059993
(22)【出願日】2020-03-30
(62)【分割の表示】P 2017516277の分割
【原出願日】2015-09-25
【審査請求日】2020-04-28
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-18
(32)【優先日】2014-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】ミカエル・タンター
(72)【発明者】
【氏名】ブルノ-フェリクス・オスマンスキー
(72)【発明者】
【氏名】マチュー・ペルノ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-リュック・ジェニソン
【合議体】
【審判長】石井 哲
【審判官】樋口 宗彦
【審判官】上田 泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-099370(JP,A)
【文献】特開2009-219876(JP,A)
【文献】特開2005-110934(JP,A)
【文献】特開平11-155867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響撮像方法であって、前記方法は、
(a)送信/受信ステップであって、そのステップの間に、音響トランスデューサの配列(2)が、撮像されるべき媒体(1)の一部である観察領域内に一連のn個の入射音波Ei(t)を連続して送信し、および音響トランスデューサの前記配列は、前記n個の入射音波Ei(t)の前記送信に続いて撮像されるべき前記媒体によってそれぞれ反射されるn個の反射波Ri(t)を検出する、送信/受信ステップであって、ここでnは少なくとも2に等しい自然数であり、
前記n個の入射音波の各々は、n個の基本的な入射音波E0i(t)を次の式に対応する方法で線形結合することによって得られ、
【数1】
ここで、Hcは、次数nの正方行列であり、
【数2】
は、成分として前記n個の入射音波を有するベクトルであり、
【数3】
は、成分として前記n個の基本入射波E0i(t)を有するベクトルであり、
前記n個の基本入射波E0i(t)は、平面波または発散波またはn個の異なる波面をそれぞれ有する空間において異なる点に集束された波であり、
前記n個の基本入射波の各基本入射波E0i(t)は、音響トランスデューサの前記配列(2)の複数の音響トランスデューサによって送信され、および観察領域全体を走査し、
前記複数の音響トランスデューサの数は、10個以上であり、前記複数の音響トランスデューサによって送信される入射音波の数nより多い、
送信/受信ステップと、
(b)復号化ステップであって、そのステップの間に、n個の基本反射波R0i(t)は、検出された前記n個の反射波Ri(t)を線形結合することによって決定され、式(2)に対応し、
【数4】
ここで、Hdは次数nの正方行列であって、行列HcおよびHdは、Hc.Hd=Dとなるようなものであり、Dは、全ての対角要素diiが非ゼロである次数nの対角行列であり、
【数5】
は、成分として前記n個の反射波を有するベクトルであり、
【数6】
は、成分として前記n個の基本反射波を有するベクトルである、復号化ステップと、
(c)画像構築ステップであって、そのステップの間に、合成画像は、前記n個の基本反射波R0i(t)から生成される、画像構築ステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記複数の音響トランスデューサの数は100以上であり、前記複数の音響トランスデューサによって送信される入射音波の数nは4以上20以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記行列HcおよびHdは、Hc・Hd=Dであるようなものであり、Dは、全ての対角要素diiが1より大きい次数nの対角行列である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
nは、偶数の非ゼロの自然数である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
行列Hcは、次数nのアダマール行列であり、行列Hdは、行列Hcの転置である、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記入射音波Ei(t)の各々は、複数の時間信号Eij(t)によって表され、各時間信号は、トランスデューサ配列の一部であるトランスデューサで前記音波を表し、 前記複数の時間信号Eij(t)は、振幅および時間的形において全て互いに異なる、
請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
撮像されるべき前記媒体(1)は、生きたヒトまたは動物の生体組織を含む、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
音響撮像装置であって、
(a)音響トランスデューサの配列(2)の手段によって、撮像されるべき媒体内の観察領域内に一連のn個の入射音波Ei(t)を連続して送信するために適合された送信手段(13,2)であって、
前記n個の入射音波Ei(t)の各々は、n個の基本的な入射波E0i(t)を次の式に対応する方法で線形結合することによって得られ、
【数7】
ここで、Hcは、次数nの正方行列であり、
【数8】
は、成分として前記n個の入射音波を有するベクトルであり、
【数9】
は、成分として前記n個の基本入射波E0i(t)を有するベクトルであり、
前記基本入射波E0i(t)は、平面波または発散波またはn個の異なる波面をそれぞれ有する空間において異なる点に集束された波であり、
前記n個の基本入射波の各基本入射波E0i(t)は、音響トランスデューサの前記配列(2)の複数の音響トランスデューサによって送信され、および観察領域全体を走査し、
前記複数の音響トランスデューサの数は、10個以上であり、前記複数の音響トランスデューサによって送信される入射音波の数nより多い、
送信手段と、
(b)前記n個の入射波の前記送信に続いて撮像されるべき媒体によってそれぞれ反射さ
れるn個の反射波Ri(t)の音響トランスデューサの前記配列(2)によって連続して検出するために適合された受信手段(2,13)と、
(c)式(2)に対応する方法で、前記検出されたn個の反射波Ri(t)を線形結合することによってn個の基本反射波R0i(t)を決定するために適合された復号化手段(13)であって、
【数10】
ここで、Hdは次数nの正方行列であって、行列HcおよびHdは、Hc.Hd=Dとなるようなものであり、Dは、全ての対角要素diiが非ゼロである次数nの対角行列であり、
【数11】
は、成分として前記n個の反射波を有するベクトルであり、
【数12】
は、成分として前記n個の基本反射波を有するベクトルである、復号化手段と、
(d)前記n個の基本反射波R0i(t)から合成画像を生成するために適合された画像構築手段(13)と、
を含む、音響撮像装置。
【請求項9】
前記複数の音響トランスデューサの数は100以上であり、前記複数の音響トランスデューサによって送信される入射音波の数nは4以上20以下である、請求項8に記載の音響撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響撮像方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
文献EP2101191およびMontaldoらによる「Coherent plane-wave compounding for very high frame rate ultrasonography and transient elastography」(IEEE Trans Ultrason Ferroelectr Freq Control 2009 March; 56(3): 489-506)と題する論文は、音響トランスデューサの配列が、撮像されるべき媒体において、平面または発散の、一連のn個の入射音波Ei(t)を連続して送信する音響撮像方法を記載しており、n個の入射波は、撮像されるべき媒体において伝播され、n個の反射波をそれぞれ生成し、およびトランスデューサ配列は、反射波の代表的な信号を検出する。
【発明の概要】
【0003】
この方法は、画像取得速度および画像定義の観点では、かなりの進歩を可能にしている。
【0004】
しかしながら、このタイプの方法は、撮像されるべき媒体において、特に生体組織において超音波の減衰によって、取得された画像の解像度が深度とともに急速に減衰するという欠点を有する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この問題に対する1つの解決策は、送信される超音波の振幅を増加することである。しかし、この大きさは、超音波トランスデューサ及び/又はトランスデューサを制御する電子機器及び/又は医療アプリケーションに事実上関する安全基準によって指示された特定
の閾値を超えて増加させることができない。
【0006】
送信された信号の時間的なまたは空間的な符号化に基づく別の解決策が提案されているが、これらの解決策は、実際には従来の超音波撮像装置では使用できない、複雑で高価な送信電子機器の使用を必要とする。
【0007】
本発明は、これらの欠点を克服し、およびそれが実施される音響撮像装置の複雑さまたはコストを大幅に増加することなく、撮像速度を損なうことなく解像度を改善することを可能にする音響撮像方法を提供する。
【0008】
この目的を達成するために、本発明は以下のステップを含む超音波撮像方法を提供する。
(a)送信/受信ステップであって、そのステップの間に、音響トランスデューサの配列が、撮像されるべき媒体の一部である観察領域内に一連のn個の入射音波Ei(t)を連続して送信し、および音響トランスデューサの前記配列は、前記n個の入射音波の前記送信に続いて撮像されるべき前記媒体によってそれぞれ反射されるn個の反射波Ri(t)を検出する、送信/受信ステップであって、ここでnは少なくとも2に等しい自然数であり、前記入射音波は、n個の基本的な入射波E0i(t)を次の式に対応する方法で線形結合することによって得られ、
【数1】
ここで、Hc は、次数nの正方行列であり(符号化行列と呼ばれる)、
【数2】
は、成分としてn個の入射波を有するベクトルであり、
【数3】
は、成分としてn個の基本入射波を有するベクトルであり、前記基本入射波は、平面波または発散波またはn個の異なる波面をそれぞれ有する空間において異なる点に集束された波であり、
各基本入射波は、音響トランスデューサの前記配列の複数の音響トランスデューサによって送信され、および前記観察領域全体を走査する、送信/受信ステップ。
(b)復号化ステップであって、そのステップの間に、n個の基本反射波R0i(t)は、検出されたn個の反射波Ri(t)を線形結合することによって決定され、式(2)に対応し、
【数4】
ここで、λは非ゼロ定数であり、
Hdは次数nの正方行列であって(復号化行列と呼ばれる)、行列HcおよびHdは、Hc.Hd = Dとなるようなものであり、Dは、全ての対角要素diiが非ゼロである次数nの対角行列であり、
【数5】
は、成分としてn個の反射波を有するベクトルであり、
【数6】
は、成分としてn個の基本反射波を有するベクトルである、復号化ステップ。
(c)画像構築ステップであって、そのステップの間に、合成画像は、n個の基本反射波R0i(t)から生成される、画像構築ステップ。
【0009】
従って本発明は、入射波のバースト数を増加させる必要なく(および、したがってフレームレートを低下させることなく)、超音波装置の複雑さを増加する必要なく、および入射音波の振幅を増加する必要なく、取得された超音波画像の解像度を大幅に向上することができる。
【0010】
実際には、n個の基本反射波R0i(t)は、n個の基本入射波E0i(t)を別々に送信し、次いで対応する反射波をキャプチャすることによって得られるであろう信号のそれぞれ代表であるが、該n個の基本反射波R0i(t)は、n個の基本入射波E0i(t)を別々に送信することによって検出されるであろう信号の振幅よりも大きい振幅を有し、これは解像度を向上する。
【0011】
この振幅、ひいては解像度の増加は、各基本反射波R0i(t)が入射波のn個のバーストからの情報を結合するため、情報が豊富である。
【0012】
本発明は、特に文献EP2101191に記載されているように、平面波または発散波または多焦点波のn個のバーストから超音波画像を合成する全ての方法に用いられることができ、例えば、せん断波の撮像、血管ネットワークの撮像(高感度ドップラ撮像または別のもの、特に脳の機能的撮像)等である。
【0013】
本発明に従った方法の様々な実施形態において、以下の構成の内の1つまたは複数を場合により使用してもよい。
・行列HcおよびHdは、Hc.Hd = Dであるようなものであり、Dは、全ての対角要素diiが1より大きい次数nの対角行列である。
・nは、偶数の非ゼロの自然数である。
・行列Hcは、次数nのアダマール行列であり、行列Hdは、行列Hcの転置である。
・音波の各々は、複数の時間信号によって表され、各時間信号は、前記トランスデューサ配列の一部であるトランスデューサで音波を表す。
・該方法は、復号化ステップの後にさらに、合成画像がn個の基本反射波R0i(t)から生成される画像構築ステップを含む。
【0014】
本発明はまた、上記のような方法を実装するための装置に関し、
(a)音響トランスデューサの配列の手段によって、撮像されるべき媒体内の観察領域内に一連のn個の入射音波Ei(t)を連続して送信するために適合された送信手段であって、入射音波は、n個の基本入射波E0i(t)を次の式に対応する方法で線形結合することによって得られ、
【数7】
ここで、Hcは、次数nの正方行列であり、
【数8】
は、成分としてn個の入射波を有するベクトルであり、
【数9】
は、成分としてn個の基本入射波を有するベクトルであり、基本入射波は、平面波または発散波またはn個の異なる波面をそれぞれ有する空間において異なる点に集束された波であり、
各基本入射波は、音響トランスデューサの配列の複数の音響トランスデューサによって送信され、および観察領域全体を走査する、送信手段と、
(b)n個の入射波の送信に続いて撮像されるべき媒体によってそれぞれ反射されるn個の反射波Ri(t)の音響トランスデューサの配列によって連続して検出するために適合された受信手段と、
(c)式(2)に対応する方法で、検出されたn個の反射波Ri(t)を線形結合することによってn個の基本反射波R0i(t)を決定するように適合された復号化手段であって、
【数10】
ここで、Hdは次数nの正方行列であって、行列HcおよびHdは、Hc.Hd = Dとなるようなものであり、Dは、全ての対角要素diiが非ゼロである次数nの対角行列であり、
【数11】
は、成分としてn個の反射波を有するベクトルであり、
【数12】
は、成分としてn個の基本反射波を有するベクトルである、復号化手段と、
(d)n個の基本反射波R0i(t)から合成画像を生成するように適合された画像構築手段と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明の他の特徴及び利点は、非限定例として添付の図面を参照して示される、その実施形態のうちの1つの以下の説明から明らかとなろう。
【
図1】本発明の実施形態に従った方法を実装するための装置の概略図である。
【
図3】合成画像を生成するために連続して送信された異なる入射音波の成分基本入射波を示す一連のタイミング図である。
【
図4a】脳の血管系を表す超高速のドップラ画像であり、4aおよび4cは、本発明を用いない合成撮像によって2つの異なる平面で取得され、
図4bおよび4dは、本発明を用いて合成撮像によって同じ平面でそれぞれ取得された、図である。
【
図4b】脳の血管系を表す超高速のドップラ画像であり、4aおよび4cは、本発明を用いない合成撮像によって2つの異なる平面で取得され、
図4bおよび4dは、本発明を用いて合成撮像によって同じ平面でそれぞれ取得された、図である。
【
図4c】脳の血管系を表す超高速のドップラ画像であり、4aおよび4cは、本発明を用いない合成撮像によって2つの異なる平面で取得され、
図4bおよび4dは、本発明を用いて合成撮像によって同じ平面でそれぞれ取得された、図である。
【
図4d】脳の血管系を表す超高速のドップラ画像であり、4aおよび4cは、本発明を用いない合成撮像によって2つの異なる平面で取得され、
図4bおよび4dは、本発明を用いて合成撮像によって同じ平面でそれぞれ取得された、図である。
【
図5】
図5aおよび5bは、本発明を用いて、および用いずに合成撮像によって得られた、ヒト組織におけるせん断波の伝播を示す弾性図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
様々な図において、同じ参照番号は同じまたは同様の要素を示す。
【0017】
図1および
図2は、例えば周波数2~40MHzの間、特に2~10MHzの間で超音波圧縮波を送信または受信することにより、撮像されるべき媒体1、例えば研究対象のヒトまたは動物の組織の合成超音波撮像を行うための装置の例を示す。生成された超音波画像は、媒体1の一部に対応し、ここでは観察領域として参照される。
【0018】
超音波の送信および受信は、例えば数百のトランスデューサ2a(例えば、少なくとも100)を含むp個の超音波トランスデューサ2a (T1-Tn)の配列2の手段で発生することができ、配列2は、場合により2次元(2D)画像を生成するように適合された例えばトランスデューサ(1D配列)の線形配列であり、または場合により3次元(3D)画像を生成するために適合された2次元配列である。
【0019】
撮像装置はまた、例えば、
・トランスデューサ配列2を制御し、トランスデューサ配列に超音波を送信させるように構成され、トランスデューサ配列によって受信した信号を検出する、電子回路3
・電子回路3を制御し、前記検出された信号から得られた超音波画像を見るためのコンピュータ4または類似の装置
も含む。
【0020】
図2に示すように、電子回路3は、例えば、
・トランスデューサ配列2のp個のトランスデューサΤ1-Τpに個別に接続されたp個のアナログ/デジタル変換器11(A/Dj)
・p個のアナログ/デジタル変換器11にそれぞれ接続されたp個のバッファ12(Bj)
・バッファ12およびコンピュータ4と通信し、トランスデューサ配列2に送られた、および前記トランスデューサ配列から受信した、信号を処理するように構成される、プロセッサ13(CPU)
・プロセッサ13に接続されたメモリ14(MEM)
を含んでもよい。
【0021】
図1および2に表された撮像装置は、特に文献EP2101191において記述されているように、媒体1の合成超音波撮像を行うために適合されている。
【0022】
この撮像方法において、いくつかの主要なステップが識別されることができる。すなわ
ち、
(a)送信/受信ステップ
(b)復号化ステップ
(c)画像構築段階
【0023】
これらのステップを詳細に説明する。送信および復号化ステップは、上述した符号化行列Hcおよび復号化行列Hdを使用する。
【0024】
これらの符号化Hcおよび復号化Hd行列は、次数nの正方行列であり、nは少なくとも2に等しい自然数、好ましくは偶数であり、nは例えば2から100の間であり、有利には、4と20の間である。
【0025】
符号化行列Hcおよび復号化行列Hdは、Hc.Hd = Dであるようなものであり、Dは、全ての対角要素diiが非ゼロの次数nの対角行列である
【0026】
好ましくは、Dは、全ての対角要素が正、好ましくは1より大きい次数nの対角行列であってもよい。
【0027】
より好ましくは、行列Hcは、次数nのアダマール行列Hnに比例し、行列Hdは、行列Hcの転置であってもよい。
【0028】
言い換えると、
【数13】
であって、ここでλは、非ゼロ定数である。
【0029】
アダマール行列Hnの例は、n=2およびn=4について以下に与えられる。
n=2について
【数14】
n=4について
【数15】
【0030】
符号化行列がアダマール行列(Hc=Hn)である場合、上記対角行列Dは恒等行列のn倍に等しい(言い換えると、Dの全ての対角要素diiはnに等しい)。
【0031】
(a)送信/受信ステップ
(a1)送信
送信/受信ステップの間、プロセッサ13は、トランスデューサ配列2に一連のn個の入射音波Ei(t)、特に前述の超音波を媒体1に連続的に送信させる。入射音波は、一般にマイクロ秒未満のパルス、通常は中心周波数における超音波の約1~10周期である。入射波のバーストは、例えば約50から200マイクロ秒だけ互いに離れていてもよい。
【0032】
それぞれの入射音波は、平面波または発散波またはn個の異なる波面をそれぞれ有する空間内の異なる点に集束される波のいずれかであるn個の基本(elemental)入射波E0i(t)を線形結合することによって得られる。
【0033】
EP2101191に開示されているように、これらの基本波は、媒体1内の撮像されるべき領域全体を走査するために、複数のトランスデューサ(好ましくは少なくとも10のトランスデューサ、および通常は配列2のp個のトランスデューサ)によってそれぞれ送信されるであろうものである。
【0034】
この線形結合は、次の式に対応する方法で行われる。
【数16】
ここで
【数17】
は、n個の入射波を成分として有するベクトルであり、
【数18】
は、n個の基本入射波を成分として有するベクトルである。
【0035】
入射音波は、あらかじめ計算され、例えばメモリ14に保存されることができる。
【0036】
各基本入射波は、音響トランスデューサの配列2の複数の音響トランスデューサによって送信され、観察領域全体を走査する。
【0037】
有利なことに、n個の入射音波Ei(t)のそれぞれは、トランスデューサ配列2の様々なトランスデューサTjによってそれぞれ送信された入射音波を表す複数の時間信号Eij(t)によって表されることができる。従って、Ei(t)はベクトルEi(t)=[Eij(t)]によって表されることができる。
【0038】
同様に、n個の基本入射波E0i(t)の各々は、前記トランスデューサ配列2の異なるトランスデューサTjで前記基本入射波をそれぞれ表す複数の時間信号E0ij(t)によって表されることができる。従ってE0i(t)、は、ベクトルE0i(t)=[E0ij(t)]によって表されることができる。
【0039】
同じ送信波Ei(t)に対して、従って定数iにおいて信号Eij(t)が、それらの振幅および時間的形において全て互いに異なり、ここで行われる符号化は時空間符号化であることに留意されたい。
【0040】
トランスデューサjによって送信された各信号Eij(t)は、基本信号Eij0(t)の線形結合であり、この線形結合は、上述の式(1)
【数19】
から導かれる。行列Hcは非ゼロ係数を有するので、上記線形結合も非ゼロ係数を有し、言い換えると、各トランスデューサjによって送信される信号Eij(t)は、異なる基本波i(合計n個の基本波)に対応する全ての基本信号Eij0(t)の非ゼロ係数(例えば、アダマール行列の場合は+1または-1)との線形結合である。
【0041】
1つのトランスデューサjから別のトランスデューサへの信号Eij0(t)も、それらの時間的な形の点で異なり、これは基本波の所望された形状を取得するために必要である。
【0042】
さらに、様々な成分Eij0(t)は、非ゼロ信号であるので、線形結合は有効であり、各信号Eij(t)は、信号Eij0(t)と異なる。
【0043】
図3は、n=4の特別な場合を図示しており、入射音波Ei(t)は、異なる傾きの平面波E0i(t)である4つの基本入射波の線形結合であり、波面はトランスデューサ配列に対して平行なX軸に沿って、時間tの関数として表される。この例において、使用される符号化行列は、上述のアダマール行列H4である。
【0044】
線形係数-1(-E0i(t))を割り当てられた平面波は、細い線によって表され、線形係数+1(+E0i(t))を割り当てられた平面波は、実線で表される。波E1(t)およびE2(t)について
図3の上部詳細図に示されるように、基本入射波E0i(t)の波形は、例えば約3周期持続する減衰正弦曲線であることができ、平面波はE0i(t)と単純に反対の波形を有する線形係数-1(-E0i(t))を割り当てられる。
【0045】
(a2)受信
各入射音波Ei(t)は、対応する反射波Ri(t)を返す媒体1を介して伝播する。次の入射音波を送信する前に、トランスデューサ配列2は、反射波Ri(t)を検出し、次いでプロセッサ13に送信され、メモリ14に記憶される。
【0046】
反射波Ri(t)は、トランスデューサ配列2の様々なトランスデューサTjによってそれぞれ検出された前記反射波を表す複数の時間信号Rii(t)として記憶される。従って、Ri(t)は、ベクトルRi(t)=[Rij(t)]によって表されることができる。
【0047】
(b)復号化ステップ
n個の入射音波Ei(t)を受信し、n個の反射波Ri(t)を受信した後、プロセッサ13は、検出されたn個の反射波Ri(t)を線形結合することによってn個の基本反射波R0i(t)を決定する、復号化ステップを行い、次の式に対応する。
【数20】
ここで、
【数21】
は、成分としてn個の反射波を有するベクトルであり、
【数22】
は、成分としてn個の基本反射波を有するベクトルである。
【0048】
基本反射波R0i(t)は、トランスデューサ配列2の異なるトランスデューサTjで前記基本反射波を代表する複数の時間信号R0ij(t)の形で検出される。従って、R0i(t)は、ベクトルR0i(t)=[R0ij(t)]によって表されることができ、またはより一般的には、K個の時間tkで時間サンプリングした後の、正確にR0i(t)=[R0ijk(tk)]である行列によって表されることができる。
【0049】
(c)画像構築ステップ
復号化ステップ(b)の後、プロセッサ13は、例えば、文献EP2101191またはMontaldoらの「Coherent plane-wave compounding for very high frame rate ultrasonography and transient elastography」(IEEE Trans Ultrason Ferroelectr Freq Control 2009 March; 56(3): 489-506)と題する論文に教示されている、合成画像がn個の基本反射波R0i(t)から生成される、画像構築ステップを実行する。
【0050】
先に示したように、行列形式R0i(t)=[R0ijk(tk)]において一般に表される、基本反射波R0i(t)は、前述の文献において記載れた方法の初期の未加工データ(または“RF rawデータ”)の行列を構成する。具体的には、RF rawデータのn個の行列R0i(t)から、プロセッサ13は、撮像されるべき媒体1のM個の点Pm(x,z)(仮想焦点と呼ばれる)でそれぞれコヒーレント合成RFデータ行列を計算し、mは1とMの間の整数であり、xは線形トランスデューサ配列2の場合にトランスデューサ配列2に平行なX軸上のポイントPmの横軸であり(二次元配列2の場合には、xはx,yで置き換えられる)、およびzは、X軸に垂直なZ軸に沿った媒体1における深度である。コヒーレント合成RFデータのこれらのM個の行列の各々は、トランスデューサが点Pmに集束された入射波を送信する場合、p個のトランスデューサTjによってそれぞれ検出されるであろう信号に対応するp個の時間信号RFcoherentm,j(t)を含む。
【0051】
コヒーレントRFデータの行列は、特に文献EP2101191またはMontaldoらの「Coherent plane-wave compounding for very high frame rate ultrasonography and transient elastography」(IEEE Trans Ultrason Ferroelectr Freq Control 2009 March; 56(3): 489-506)と題する論文に記載された原理に従って、例えば超音波圧縮波のための媒体1にわたって均一な伝播速度cを仮定することによって得られる。
【0052】
各基本入射波E0i(t)に対応する平面波の伝播の方向が分かっており、および伝播速度cが分かっているので、プロセッサ13は、各点Pmに対して、基本入射波iの点Pmまでの伝搬時間τec(i,m)と、点PmからトランスデューサTjまでの基本反射波の伝播時間τrec(i,m,j)を計算することができ、従って、往復の合計時間は、τ(i,m,j) = τec(i,Pm) + τrec(i,Pm,j)である。
【0053】
仮想焦点Pmに対応するトランスデューサTjのための空間的コヒーレント信号は、次の式を使用して計算される。
【数23】
ここで、B(i)は、各基本入射波iの寄与を重み付けするための関数である(係数B(i)が全て1に等しくてもよい)。
【0054】
例えば、前述の文献EP2101191またはMontaldoらの論文で説明されているように、媒体1の収差の影響を補正することによって、コヒーレントデータ行列RFcoherentmjを改良してもよい。
【0055】
次いでプロセッサ13は、前述の文献EP2101191またはMontaldoらの論文で説明されているような、従来の受信ビームフォーミングを実行し、超音波画像を取得し、及び/又はより精巧な処理(例えば、ドップラまたはカラードップラ画像の計算)を適用することができ、これらはそれ自体が公知である。
【0056】
トランスデューサ配列2が2次元であるとき、または基本入射波または基本反射波が発散しているとき、画像構築方法は類似である。
【0057】
全ての場合において、結果として生じた画像は、平面波の送信を介した従来の合成撮像によって得られた画像と比較して、明らかに高い解像度を示す(文献EP2101191またはMontaldoらの論文によって記載されているように)。
【0058】
従って、超高速ドップラ画像の
図4aおよび4cは、平面波の送信を用いて(本発明を用いず)合成撮像によって2つの異なる面において実行される、ラット脳の血管新生を示しているが、
図4bおよび4dは、本発明を用いた合成撮像を使用して同じ面においてそれぞれ実行された。すなわち、
図4bおよび4dの画像の明らかに増加した解像度が肉眼で見える。
【0059】
同様に、
図5aおよび5bは、それぞれ本発明を用いず、および本発明を用いて合成撮像によって得られた、ヒト組織のせん断波の伝播を表す弾性画像である。すなわち、
図5bの画像の優れた解像度は、肉眼で見える。
【符号の説明】
【0060】
1 媒体
3 電子回路
4 コンピュータ
11 アナログ/デジタル変換器
12 バッファ
13 プロセッサ(CPU)
14 メモリ