(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】自己熱アンモニア分解方法
(51)【国際特許分類】
C01B 3/04 20060101AFI20230726BHJP
【FI】
C01B3/04 B
(21)【出願番号】P 2020511162
(86)(22)【出願日】2018-08-21
(86)【国際出願番号】 EP2018072488
(87)【国際公開番号】W WO2019038251
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-08-17
(32)【優先日】2017-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(32)【優先日】2017-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】590000282
【氏名又は名称】トプソー・アクチエゼルスカベット
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】スペット・クリスチャン・ヘンリック
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンド・トミー・リュッケ
(72)【発明者】
【氏名】ダール・ペア・ユール
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】西独国特許出願公開第02617089(DE,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0037244(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0148925(US,A1)
【文献】国際公開第2016/193751(WO,A1)
【文献】特開2009-035458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00-6/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアから窒素および水素を含有する生成物ガスを製造する方法であって、アンモニアを酸素含有ガスで非触媒部分酸化して、窒素、水、窒素酸化物のある量および残留量のアンモニアを含有するプロセスガスにするステップ
(非触媒部分酸化ステップ);
前記プロセスガス中において、残留量のアンモニアの少なくとも一部をニッケル含有触媒と接触させ、水素および窒素に分解し、同時にプロセスガスを前記ニッケル含有触媒と接触させることによるプロセスガスの分解中に生じる水素の一部と反応によって、窒素酸化物のある量を、窒素および水へと還元するステップ
(分解ステップ);
そして、水素および窒素含有生成物ガスを取り出すステップ、を含み、
前記非触媒部分酸化ステップへのアンモニアに対する酸素供給流速は、ニッケル含有触媒との接触後に700~1100℃の間の生成物ガスの平衡温度をもたらすように調整され、
前記酸素含有ガス中の酸素の含有量が、λ=0.18~λ=0.30の間のラムダ値に対応して変化し、ここで、ラムダは、実際の酸素供給流量と前記アンモニアの窒素および水への完全な化学量論的な燃焼に必要な流量との間の比である、前記方法。
【請求項2】
前記非触
媒部分酸化ステップで生成される窒素酸化物のある量が、ニッケル含有触媒との接触による窒素酸化物と水素との反応を介して、熱力学的平衡によって制限されるとして、80%を超えて減少し、かつ最大100%まで減少する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アンモニアの前記非触媒部分酸化が、バーナー内でアンモニアを化学量論量未満の酸素により気体形態で燃焼させることによって、実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記非触媒部分酸化ステップおよび前記分解ステップが、単一の反応器で行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記単一の反応器が、自己熱分解反応器として構成される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
酸素含有ガスが10~100vol%の酸素を含む、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
アンモニア分解ステップから得られた水素によって、メタン化反応器内でCO2をメタンに変換するさらなるステップを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
生成物ガス中にさらに含まれる未分解アンモニアを分離するさらなるステップを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記未分解アンモニアが、水洗によって生成物ガスから分離される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
分離されたアンモニアがアンモニア回収ステップで回収され、前記非触媒部分酸化ステップにリサイクルされる、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記アンモニア回収ステップにNaOHを添加することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
生成物ガス調整ユニットにおいて生成物ガスの窒素に対する水素のモル比を調整するさらなるステップを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
アンモニア供給物に水素源を添加することを、または分解反応器内の前記バーナーに直接水素源を添加することを含む、請求項
3に記載の方法。
【請求項14】
前記水素源
が生成物ガスであり、アンモニア含量および/または窒素に対する水素比が調整されたものである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
水素供給源がユーティリティサプライであるか、または別の工程由来である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
酸素含有ガスのCO
2除去洗浄を含む、請求項1~15のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素および水素含有ガスの製造に関する。より詳細には、本発明は、ガス状アンモニアを酸素含有ガスで非触媒的に部分酸化し、部分酸化されたプロセスガス中に含まれる残留量のアンモニアを窒素および水素生成物ガスに分解する一連の方法によって、このようなガスを製造する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
液体アンモニアは、水素または重要なエネルギー担体の生産のための重要な供給源であり、特に燃料源がほとんどまたは全くない地域での発電のために重要である。また、エネルギーキャリアとして、液体アンモニアは、風力、太陽光、水力などの再生可能エネルギー技術によって、変動する電力生産を均等にするための供給源としても作用する可能性がある。エネルギー担体としてのアンモニアの利点は、液体アンモニアが、例えば天然ガスや水素ガスよりも輸送しやすく、貯蔵しやすいことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
発電用燃料として適したものとするためには、水素と窒素からなるガス混合物にアンモニアを分解する必要がある。
【0004】
アンモニア分解プロセスでは、可逆反応でガス状アンモニアが水素と窒素の混合物に解離する:
【化1】
この反応は吸熱性であり、アンモニア分解反応を維持するために熱が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
次の反応によりアンモニアの発熱性非触媒的部分酸化で生じる熱が見出されている
2NH3+3/2O2→N2+3H2O
続いてアンモニアの吸熱触媒分解を行う場合に必要な熱を供給するのに十分である。
【0006】
また、ニッケル含有触媒と接触させてアンモニアの分解を行うと、部分酸化ガス中に形成される窒素酸化物が窒素と水に還元されることが観察されている。窒素酸化物は、アンモニア分解反応中に形成される水素によって無害な窒素および水に還元され、分解ガスの窒素酸化物を除去するためのさらなる工程は必要ない。
【0007】
さらなる利点は、本発明の方法が、CO2を全く発生させないという意味で、水素生成物ガスのCO2不含で生成を可能にすることである。空気を酸化剤として使用すると、少量のCO2が大気とともに工程に追加されるが、工程の反応で追加のCO2が生成されないため、同じ量のCO2が再び放出される。
【0008】
上記の見解に従い、本発明は、窒素、水、窒素酸化物のある量および残留量のアンモニアを含むプロセスガスへの酸素含有ガスによるアンモニアの非触媒的部分酸化のステップ;
前記プロセスガス中において、前記プロセスガス中において、残留量のアンモニアの少なくとも一部をニッケル含有触媒と接触させ、水素および窒素に分解し、同時にプロセスガスを前記ニッケル含有触媒と接触させることによるプロセスガスの分解中に生じる水素の一部と反応によって、窒素酸化物のある量を、窒素および水へと還元するステップ;
そして、水素および窒素含有生成物ガスを取り出すステップを含むアンモニアから窒素および水素を含む生成物ガスの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法により、非触媒的部分酸化ステップで発生する窒素酸化物のある量は、ニッケル含有触媒との接触による窒素酸化物と水素との反応を介して、熱力学的平衡によって制限されるものとして80%以上、実質的に最大100%まで減少する。
【0010】
本発明の好ましい実施形態では、アンモニアの非触媒部分酸化は、アンモニアを化学量論量未満の酸素により気体形態で燃焼させることによって、バーナー内で行われる。
【0011】
別の好ましい実施形態では、非触媒部分酸化ステップおよび分解ステップは、単一の反応器で行われる。これにより、吸熱アンモニア分解反応を行うために、発熱部分酸化からの反応熱が最適に保存される。
【0012】
単一反応器は、
図2に例示されている既知の自己熱改質反応器と同様に、反応器容器の入口側にバーナーを有し、バーナーの下流に触媒床を有する自己熱分解反応器として構成されることが好ましい。
【0013】
ニッケル含有触媒との接触後の平衡温度は、非触媒部分酸化ステップへのアンモニアに対する酸素の供給流速を変化させることによって調節することができる。これは、実際の酸素供給流量とアンモニア供給物の窒素および水への完全な化学量論的燃焼に必要な量との比であるラムダ値を変化させることと等価である。固定アンモニア流量に対しては、酸素含有ガス中の酸素濃度を増加させることおよび/または酸素含有ガスの流量を増加させることにより、平衡温度を増加させることができる。
【0014】
好ましくは、非触媒部分酸化ステップへのアンモニアに対する酸素供給流速は、ニッケル含有触媒との接触後に測定された700~1100℃の間の生成物ガスの平衡温度をもたらすように調整される。
【0015】
従って、本発明の実施形態において、酸素含有ガス中の酸素の含有量は、λ=0.18~λ=0.30の間のラムダ値に対応して変化し、Teq=700~1100℃の平衡温度をもたらす。
【0016】
好ましくは、非触媒部分酸化ステップで使用される酸素含有ガスは、10~100体積%の酸素を含有する。
【0017】
従って、酸素含有ガスに適した供給源は、排ガスから純酸素またはその混合物までの範囲であり得る。
【0018】
分解ステップを離れた生成物ガス混合物は、水素、窒素および水から成り、残留する未分解アンモニア量を伴う。
【0019】
したがって、一実施形態では、本発明による方法は、生成物ガス中にさらに含有されている分解されていないアンモニアを分離するさらなるステップを含む。
【0020】
好ましくは、分離ステップは生成物ガスの水洗によって行われる。このような分離ステップでは、自己熱分解反応器からの水の主要部分はアンモニアとともに分離ステップから出ていくことになる。
【0021】
アンモニア分離ステップにおいて生成物ガスから分離されたアンモニアの量は、蒸留のようなアンモニア回収ステップにおいて回収することができ、回収されたアンモニアは、好ましくは、方法における非触媒部分酸化ステップに再循環される。同時に、このアンモニア回収ステップは、プロセス縮合物を清浄化することになる。
【0022】
最終的な水素/窒素生成物ガスの使用に応じて、生成物ガス中の水素対窒素のモル比は、意図される使用のために調整され得る。
【0023】
従って、本発明の更なる実施態様において、当該方法は、生成物ガス調整ユニットにおいて生成物ガスの窒素に対する水素モル比を調整する更なるステップを含む。この製品ガス調整ステップは、膜または圧力スイング吸着ユニット(Pressure Swing Adsorption Unit(PSA))を含むことができる。
【0024】
本発明の好ましい実施形態は、さらに、アンモニア供給物に水素源を添加するか、または分解反応器内のバーナーに直接水素源を添加する可能性を含む。アンモニア飼料に水素を加えると、100℃まで自動点火温度が下がり、予熱温度が低くなってもアンモニアの自動点火が可能となり、通常運転時の引火性が高まる。水素源は、生成物ガスまたは、好ましくは、アンモニア含量、水および/または水素/窒素比のために調整された生成物ガスである。種々のユーティリティサプライおよび他のステップ由来の水素も使用することができる。
【0025】
分解ステップでは、大気などの含酸素ガスに少量のCO2が含まれていることがある。CO2とアンモニアが水溶液中で反応し、アンモニア回収部の汚れや腐食につながることはよく知られている。また、対策を講じないと、CO2が蓄積することがある。本発明の好ましい実施態様は、酸化剤からCO2を除去する手段、例えば酸化剤をNaOH溶液で洗浄する方法、または剥離した凝縮物中のNa2CO3としてCO2を除去する目的でアンモニア回収部の蒸留カラムにNaOH溶液を加える方法を含む。
【0026】
この過程におけるCO
2蓄積を避ける別の方法は、自己熱アンモニア分解とアンモニア分離ステップとの間にメタン化反応器を含むことである。この方法により、CO
2は上流の分解反応器から得られた水素を利用してメタンに変換される:
【化2】
【0027】
ニッケルまたは貴金属を含む触媒がこの反応を触媒することができる。メタンは水溶液中でアンモニアと反応しないため、メタン化反応器中におけるCO2変換でCO2の蓄積が避けられ、生成したメタンは縮合物と共に回収部に運ばれるのではなく、アンモニア分離ステップから生成物ガスと共に工程を離れるという利点である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明による方法の特定の実施形態が図中に示されており、
図1は、自己熱アンモニア分解反応器、アンモニア分離ステップ、生成物ガス調整およびアンモニア回収を含む本発明の特定の実施形態によるアンモニア分解プロセスの模式図である。
【実施例】
【0029】
例
λ=0.21のラムダ値に対応するアンモニア分解方法のためのプロセスガス流および組成、および得られる自己熱アンモニア分解反応器内のニッケル含有触媒に接触した後の800℃の生成物ガスの平衡温度を下表1に示す。ストリーム番号は
図1を参照する。
【0030】