(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体、クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体組成物及び加硫成形体
(51)【国際特許分類】
C08F 236/18 20060101AFI20230726BHJP
C08L 11/00 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
C08F236/18
C08L11/00
(21)【出願番号】P 2020555556
(86)(22)【出願日】2019-11-06
(86)【国際出願番号】 JP2019043551
(87)【国際公開番号】W WO2020095962
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-07-22
(31)【優先権主張番号】P 2018211380
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100160897
【氏名又は名称】古下 智也
(72)【発明者】
【氏名】西野 渉
(72)【発明者】
【氏名】大貫 俊
(72)【発明者】
【氏名】近藤 敦典
(72)【発明者】
【氏名】石垣 雄平
(72)【発明者】
【氏名】小林 直紀
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-191235(JP,A)
【文献】特公昭46-043094(JP,B1)
【文献】特開昭62-106933(JP,A)
【文献】特開平09-067471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 36/18-236/18
C08L 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ニトリル単量体由来の構造単位3~
17質量%を有し、
重クロロホルム溶媒中で測定される1H-NMRスペクトルにおいて、5.80~6.00ppmにピークを有し、5.80~6.00ppmのピーク面積(A)と4.05~6.20ppmのピーク面積(B)との比(A/B)が0.6/100~1.1/100である、クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体。
【請求項2】
重クロロホルム溶媒中で測定される1H-NMRスペクトルにおいて、4.13~4.23ppmにピークを有し、4.13~4.23ppmのピーク面積(C)と4.05~6.20ppmのピーク面積(B)との比(C/B)が0.03/100~0.5/100である、請求項1に記載のクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体を含有する、クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体組成物。
【請求項4】
前記クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体の含有量が30質量%以上である、請求項3に記載のクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体の加硫成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体、クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体組成物及び加硫成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロプレンゴムは、機械特性、難燃性等に優れているため工業用ゴム製品の材料として広く用いられている。しかしながら、クロロプレンゴムは、耐油性が十分ではなく、エンジン周辺等の油性環境下では用いることができないという課題があった。クロロプレンゴムの耐油性を向上させる手段として、不飽和ニトリル単量体を共重合させたクロロプレン共重合体の製造方法が知られている(例えば、下記特許文献1参照)。この共重合体は、加硫成形して伝動ベルト、コンベアベルト、ホース、ワイパー等の製品に好適に用いられている(例えば、下記特許文献2及び3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭55-145715号公報
【文献】特開2012-82289号公報
【文献】国際公開第2013/015043号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一側面は、破断強度、耐油性、耐久疲労性及び耐寒性に優れた加硫成形体が得られるクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体を提供することを課題とする。本発明の他の一側面は、当該クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体を含有するクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体組成物を提供することを課題とする。本発明の他の一側面は、前記クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体の加硫成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面は、不飽和ニトリル単量体由来の構造単位3~20質量%を有し、重クロロホルム溶媒中で測定される1H-NMRスペクトルにおいて、5.80~6.00ppmにピークを有し、5.80~6.00ppmのピーク面積(A)と4.05~6.20ppmのピーク面積(B)との比(A/B)が0.6/100~1.1/100である、クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体を提供する。
【0006】
本発明の他の一側面は、上述のクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体を含有する、クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体組成物を提供する。
【0007】
本発明の他の一側面は、上述のクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体の加硫成形体を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一側面によれば、破断強度、耐油性、耐久疲労性及び耐寒性に優れた加硫成形体が得られるクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体を提供することができる。本発明の他の一側面によれば、当該クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体を含有するクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体組成物を提供することができる。本発明の他の一側面によれば、上述のクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体の加硫成形体を提供することができる。本発明の一側面に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体によれば、実施例に記載の評価方法において優れた破断強度、耐油性及び耐久疲労性を有する加硫成形体を得ることができる。本発明の一側面に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体によれば、実施例に記載の評価方法において0℃以下の優れた耐寒性を有する加硫成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、1H-NMRスペクトルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0012】
NMRスペクトルにおける「ピーク」とは、NMRスペクトルにおける凸型の変曲点であり、明確な凸を示すピークだけでなく、ショルダー形状も包含する。NMRスペクトルにおける特定の化学シフト(横軸)の範囲に複数のピークが存在する場合、当該範囲における「ピーク面積」は、複数のピークのピーク面積の合計値である。
【0013】
<クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体>
本実施形態に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体は、クロロプレン単量体と不飽和ニトリル単量体とを共重合させて得られるものであり、クロロプレン単量体由来の構造単位(クロロプレン単量体単位)と、不飽和ニトリル単量体由来の構造単位(不飽和ニトリル単量体単位)とを有する。本実施形態に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体は、クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体の全量中に、不飽和ニトリル単量体由来の構造単位3~20質量%を有しており、不飽和ニトリル単量体由来の構造単位3~20質量%を主鎖に有することができる。
【0014】
不飽和ニトリル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フェニルアクリロニトリル等が挙げられる。不飽和ニトリル単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。不飽和ニトリル単量体は、優れた製造容易性及び耐油性が得られやすい観点から、アクリロニトリルを含むことが好ましい。
【0015】
クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体に含まれる不飽和ニトリル単量体由来の構造単位の量は、クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体の全量を基準として3~20質量%である。不飽和ニトリル単量体由来の構造単位の量が3質量%に満たないと、得られる加硫成形体の耐油性が向上しない。不飽和ニトリル単量体由来の構造単位の量が20質量%を超えると、得られる加硫成形体の耐寒性が低下する。
【0016】
不飽和ニトリル単量体由来の構造単位の量は、優れた耐油性が得られやすい観点から、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは7質量%以上であり、更に好ましくは8質量%以上であり、特に好ましくは9質量%以上であり、極めて好ましくは10質量%以上である。不飽和ニトリル単量体由来の構造単位の量は、優れた耐寒性が得られやすい観点から、好ましくは20質量%未満であり、より好ましくは17質量%以下であり、更に好ましくは15質量%以下であり、特に好ましくは15質量%以下であり、極めて好ましくは12質量%以下であり、非常に好ましくは11質量%未満であり、より一層好ましくは10質量%以下である。これらの観点から、不飽和ニトリル単量体由来の構造単位の量は、好ましくは5~17質量%であり、より好ましくは9~17質量%である。不飽和ニトリル単量体由来の構造単位の量は、10質量%を超えてよく、12質量%以上、15質量%以上、18質量%以上、又は、20質量%以上であってよい。不飽和ニトリル単量体由来の構造単位の量は、10質量%未満、8質量%以下、6質量%以下、5質量%以下、又は、4質量%以下であってよい。
【0017】
クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体に含まれる不飽和ニトリル単量体由来の構造単位の量は、共重合体中の窒素原子の含有量から算出することができる。具体的には、元素分析装置(スミグラフ220F:株式会社住化分析センター製)を用いて100mgのクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体における窒素原子の含有量を測定し、不飽和ニトリル単量体由来の構造単位の量を算出できる。元素分析の測定は次の条件で行うことができる。例えば、電気炉温度として反応炉900℃、還元炉600℃、カラム温度70℃、検出器温度100℃に設定し、燃焼用ガスとして酸素を0.2ml/min、キャリアーガスとしてヘリウムを80ml/minフローする。検量線は、窒素含有量が既知のアスパラギン酸(10.52%)を標準物質として用いて作成できる。
【0018】
クロロプレン単量体由来の構造単位の量は、クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体の全量を基準として下記の範囲が好ましい。クロロプレン単量体由来の構造単位の量は、優れた耐寒性が得られやすい観点から、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは80質量%を超えており、更に好ましくは83質量%以上であり、特に好ましくは85質量%以上であり、極めて好ましくは88質量%以上であり、非常に好ましくは89質量%を超えており、より一層好ましくは90質量%以上である。クロロプレン単量体由来の構造単位の量は、優れた耐油性が得られやすい観点から、好ましくは97質量%以下であり、より好ましくは95質量%以下であり、更に好ましくは93質量%以下であり、特に好ましくは92質量%以下であり、極めて好ましくは91質量%以下であり、非常に好ましくは90質量%以下である。これらの観点から、クロロプレン単量体由来の構造単位の量は、好ましくは80~97質量%である。クロロプレン単量体由来の構造単位の量は、90質量%未満、88質量%以下、85質量%以下、82質量%以下、又は、80質量%以下であってよい。クロロプレン単量体由来の構造単位の量は、90質量%を超えてよく、92質量%以上、94質量%以上、95質量%以上、又は、96質量%以上であってよい。クロロプレン単量体由来の構造単位の量は、例えば、クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体がクロロプレン単量体由来の構造単位及び不飽和ニトリル単量体由来の構造単位から構成されている場合、クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体の全量から不飽和ニトリル単量体由来の構造単位の量を差し引くことにより得ることができる。
【0019】
クロロプレン単量体と共重合させる単量体は、不飽和ニトリル単量体に限定されるものではない。クロロプレン単量体と共重合可能な単量体としては、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、1-クロロ-1,3-ブタジエン、スチレン、イソプレン、ブタジエン、アクリル酸、アクリル酸のエステル類、メタクリル酸、メタクリル酸のエステル類等が挙げられる。クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体に含まれる1-クロロ-1,3-ブタジエン由来の構造単位の量は、クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体の全量を基準として1質量%未満であってよい。
【0020】
クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体のポリマー構造は、特に限定されるものではなく、ブロック共重合体又は統計的共重合体であってもよい。
【0021】
クロロプレン単量体と不飽和ニトリル単量体との統計的共重合体は、例えば、重合反応開始後にクロロプレン単量体を連続添加又は10回以上間欠分添することにより製造できる。その際、重合反応開始時の時刻をt(0)とすると共にnを1以上の整数として、時刻t(n-1)と時刻t(n)との間の時間dt(n)におけるクロロプレン単量体及び不飽和ニトリル単量体の重合転換量の総量に基づいて時刻t(n)と時刻t(n+1)との間の時間dt(n+1)におけるクロロプレン単量体の添加量を決定し、未反応のクロロプレン単量体と不飽和ニトリル単量体との比を一定に保つことができる。
【0022】
統計的共重合体とは、J.C.Randall 「POLYMER SEQUENCE DETERMINATION, Carbon-13 NMR Method」 Academic Press, New York, 1977, 71-78ページに記述されているように、ベルヌーイの統計モデル、又は、一次若しくは二次のマルコフの統計モデルにより記述できる共重合体であることを意味する。クロロプレン単量体と不飽和ニトリル単量体との統計的共重合体が2元系の単量体から構成される場合、下記Mayo-Lewis式(I)において重合開始時のクロロプレン単量体と不飽和ニトリル単量体との比をd[M1]/d[M2]とすると共に、クロロプレン単量体を、下記Mayo-Lewis式(I)において定義されたM1としたときの反応性比r1及びr2について、r1が0.3~3000の範囲であり、r2が10-5~3.0の範囲であることが統計的共重合体を得るのに好ましい。
【0023】
【0024】
クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体は、例えば乳化重合により得ることができる。乳化重合する場合に用いる重合開始剤としては、特に制限はなく、クロロプレン単量体の乳化重合に一般に用いられる公知の重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素、t-ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物類などが挙げられる。
【0025】
乳化重合する場合に用いる乳化剤としては、特に制限はなく、クロロプレン単量体の乳化重合に一般に用いられる公知の乳化剤を用いることができる。乳化剤としては、炭素数が6~22の飽和又は不飽和の脂肪酸のアルカリ金属塩、ロジン酸又は不均化ロジン酸のアルカリ金属塩(例えばロジン酸カリウム)、β-ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物のアルカリ金属塩(例えばナトリウム塩)等が挙げられる。
【0026】
乳化重合する場合に用いる分子量調整剤としては、特に制限はなく、クロロプレン単量体の乳化重合に一般に用いられる公知の分子量調整剤を用いることができる。分子量調整剤としては、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン等の長鎖アルキルメルカプタン類;ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド等のキサントゲン化合物;ヨードホルム;ベンジル1-ピロールジチオカルバメート(別名ベンジル1-ピロールカルボジチオエート)、ベンジルフェニルカルボジチオエート、1-ベンジル-N,N-ジメチル-4-アミノジチオベンゾエート、1-ベンジル-4-メトキシジチオベンゾエート、1-フェニルエチルイミダゾールジチオカルバメート(別名1-フェニルエチルイミダゾールカルボジチオエート)、ベンジル-1-(2-ピロリジノン)ジチオカルバメート(別名ベンジル-1-(2-ピロリジノン)カルボジチオエート)、ベンジルフタルイミジルジチオカルバメート(別名ベンジルフタルイミジルカルボジチオエート)、2-シアノプロプ-2-イル-1-ピロールジチオカルバメート(別名2-シアノプロプ-2-イル-1-ピロールカルボジチオエート)、2-シアノブト-2-イル-1-ピロールジチオカルバメート(別名2-シアノブト-2-イル-1-ピロールカルボジチオエート)、ベンジル-1-イミダゾールジチオカルバメート(別名ベンジル-1-イミダゾールカルボジチオエート)、2-シアノプロプ-2-イル-N,N-ジメチルジチオカルバメート、ベンジル-N,N-ジエチルジチオカルバメート、シアノメチル-1-(2-ピロリドン)ジチオカルバメート、2-(エトキシカルボニルベンジル)プロプ-2-イル-N,N-ジエチルジチオカルバメート、1-フェニルエチルジチオベンゾエート、2-フェニルプロプ-2-イルジチオベンゾエート、1-酢酸-1-イル-エチルジチオベンゾエート、1-(4-メトキシフェニル)エチルジチオベンゾエート、ベンジルジチオアセテート、エトキシカルボニルメチルジチオアセタート、2-(エトキシカルボニル)プロプ-2-イルジチオベンゾエート、2-シアノプロプ-2-イルジチオベンゾエート、t-ブチルジチオベンゾエート、2,4,4-トリメチルペンタ-2-イルジチオベンゾエート、2-(4-クロロフェニル)-プロプ-2-イルジチオベンゾエート、3-ビニルベンジルジチオベンゾエート、4-ビニルベンジルジチオベンゾエート、ベンジルジエトキシホスフィニルジチオフォルマート、t-ブチルトリチオペルベンゾエート、2-フェニルプロプ-2-イル-4-クロロジチオベンゾエート、ナフタレン-1-カルボン酸-1-メチル-1-フェニル-エチルエステル、4-シアノ-4-メチル-4-チオベンジルスルファニル酪酸、ジベンジルテトラチオテレフタラート、カルボキシメチルジチオベンゾエート、ジチオベンゾエート末端基を持つポリ(酸化エチレン)、4-シアノ-4-メチル-4-チオベンジルスルファニル酪酸末端基を持つポリ(酸化エチレン)、2-[(2-フェニルエタンチオイル)スルファニル]プロパン酸、2-[(2-フェニルエタンチオイル)スルファニル]コハク酸、3,5-ジメチル-1H-ピラゾール-1-カルボジチオエートカリウム、シアノメチル-3,5-ジメチル-1H-ピラゾール-1-カルボジチオエート、シアノメチルメチル-(フェニル)ジチオカルバメート、ベンジル-4-クロロジチオベンゾエート、フェニルメチル-4-クロロジチオベンゾエート、4-ニトロベンジル-4-クロロジチオベンゾエート、フェニルプロプ-2-イル-4-クロロジチオベンゾエート、1-シアノ-1-メチルエチル-4-クロロジチオベンゾエート、3-クロロ-2-ブテニル-4-クロロジチオベンゾエート、2-クロロ-2-ブテニルジチオベンゾエート、ベンジルジチオアセテート、3-クロロ-2-ブテニル-1H-ピロール-1-ジチオカルボン酸、2-シアノブタン-2-イル-4-クロロ-3,5-ジメチル-1H-ピラゾール-1-カルボジチオエート、シアノメチルメチル(フェニル)カルバモジチオエート、2-シアノ-2-プロピルドデシルトリチオカルボナート、ジベンジルトリチオカルボナート、ブチルベンジルトリチオカルボナート、2-[[(ブチルチオ)チオキソメチル]チオ]プロピオン酸、2-[[(ドデシルチオ)チオキソメチル]チオ]プロピオン酸、2-[[(ブチルチオ)チオキソメチル]チオ]コハク酸、2-[[(ドデシルチオ)チオキソメチル]チオ]コハク酸、2-[[(ドデシルチオ)チオキソメチル]チオ]-2-メチルプロピオン酸、2,2’-[カルボノチオイルビス(チオ)]ビス[2-メチルプロピオン酸]、2-アミノ-1-メチル-2-オキソエチルブチルトリチオカルボナート、ベンジル-2-[(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-1-メチル-2-オキソエチルトリチオカルボナート、3-[[[(t-ブチル)チオ]チオキソメチル]チオ]プロピオン酸、シアノメチルドデシルトリチオカルボナート、ジエチルアミノベンジルトリチオカルボナート、ジブチルアミノベンジルトリチオカルボナート等のチオカルボニル化合物などが挙げられる。
【0027】
重合温度及び単量体の最終転化率は特に制限するものではないが、重合温度は、好ましくは0~50℃であり、より好ましくは10~50℃である。単量体の最終転化率が40~95質量%の範囲に入るように重合を行うことが好ましい。最終転化率を調整するためには、所望する転化率になった時に、重合反応を停止させる重合禁止剤を添加して重合を停止させればよい。
【0028】
重合禁止剤としては、特に制限はなく、クロロプレン単量体の乳化重合に一般に用いられる公知の重合禁止剤を用いることができる。重合禁止剤としては、フェノチアジン(チオジフェニルアミン)、4-ターシャリーブチルカテコール、2,2-メチレンビス-4-メチル-6-ターシャリーブチルフェノール等が挙げられる。
【0029】
クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体は、例えば、スチームストリッピング法によって未反応の単量体を除去し、その後、ラテックスのpHを調整し、常法の凍結凝固、水洗、熱風乾燥等の工程を経て得ることができる。
【0030】
クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体は、分子量調整剤の種類によりメルカプタン変性タイプ、キサントゲン変性タイプ、硫黄変性タイプ、ジチオカルボナート系タイプ、トリチオカルボナート系タイプ及びカルバメート系タイプに分類される。
【0031】
クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体は、重クロロホルム溶媒中で測定される1H-NMRスペクトルにおいて、5.80~6.00ppmにピーク(例えばピーク群)を有する。クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体は、重クロロホルム溶媒中で測定される1H-NMRスペクトルにおいて、4.05~6.20ppmにピーク(例えばピーク群)を有してよい。重クロロホルム溶媒中で測定されるクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体の1H-NMRスペクトルにおいて、5.80~6.00ppmのピーク面積(A)と4.05~6.20ppmのピーク面積(B)とのピーク面積比(A/B)は、0.6/100~1.1/100である。
図1は、1H-NMRスペクトルの一例を示す図である。
【0032】
ここで、5.80~6.00ppmにおけるピーク(例えばピーク群)は、クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体のうち、クロロプレン構造単位(クロロプレン結合単位)の1,2-異性体におけるビニル水素に由来するピークである。4.05~6.20ppmにおけるピーク(例えばピーク群)は、クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体のうち、クロロプレン構造単位(クロロプレン結合単位)におけるビニル水素に由来するピークである。つまり、5.80~6.00ppmのピーク面積(A)と4.05~6.20ppmのピーク面積(B)とのピーク面積比(A/B)が0.6/100~1.1/100であることは、クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体におけるクロロプレン構造単位(クロロプレン結合単位)のうち、0.6/100~1.1/100が1,2-異性体であることを示すものである。
【0033】
クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体の5.80~6.00ppmのピーク面積(A)と4.05~6.20ppmのピーク面積(B)とのピーク面積比(A/B)が0.6/100~1.1/100であることで、クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体の加硫成形体の破断強度及び耐久疲労性(耐屈曲疲労性等)を向上させることができる。ピーク面積比(A/B)が0.6/100に満たないと、得られるクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体の加硫成形体の破断強度が低下する。ピーク面積比(A/B)が1.1/100を超えてしまうと、得られるクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体の加硫成形体の耐久疲労性を向上させる効果が得られない。ピーク面積比(A/B)は、優れた耐久疲労性が得られやすい観点から、好ましくは1.1/100未満であり、より好ましくは1.0/100以下であり、更に好ましくは0.9/100以下であり、特に好ましくは0.8/100以下であり、極めて好ましくは0.7/100以下である。ピーク面積比(A/B)は、0.6/100を超えてもよく、0.7/100以上、0.8/100以上、0.9/100以上、1.0/100以上、又は、1.1/100以上であってもよい。
【0034】
クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体の5.80~6.00ppmのピーク面積(A)と4.05~6.20ppmのピーク面積(B)とのピーク面積比(A/B)を調整するには、クロロプレン単量体と不飽和ニトリル単量体とを共重合させる際の重合温度を調整すればよく、例えば、このピーク面積比(A/B)を大きくするには、重合温度を好ましくは30~50℃、より好ましくは40~50℃に設定して共重合すればよい。
【0035】
クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体は、重クロロホルム溶媒中で測定される1H-NMRスペクトルにおいて、4.13~4.23ppmにピークを有し、4.13~4.23ppmのピーク面積(C)と4.05~6.20ppmのピーク面積(B)とのピーク面積比(C/B)が0.03/100~0.5/100であることが好ましい。
【0036】
ここで、4.13~4.23ppmにおけるピーク(例えばピーク群)は、クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体のうち、クロロプレン構造単位(クロロプレン結合単位)の1,2-異性体に水が付加した構造に由来するピークである。つまり、4.13~4.23ppmのピーク面積(C)と4.05~6.20ppmのピーク面積(B)とのピーク面積比(C/B)は、クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体におけるクロロプレン構造単位(クロロプレン結合単位)のうち、1,2-異性体に水が付加した構造の比率を表す。
【0037】
クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体の4.13~4.23ppmのピーク面積(C)と4.05~6.20ppmのピーク面積(B)とのピーク面積比(C/B)が0.03/100~0.5/100であることで、クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体の加硫成形体の破断強度を低下させずに耐久疲労性を向上させることができる。ピーク面積比(C/B)は、0.03/100を超えてもよく、0.05/100以上、0.1/100以上、0.2/100以上、0.3/100以上、0.4/100以上、又は、0.5/100以上であってもよい。ピーク面積比(C/B)は、0.5/100未満、0.4/100以下、0.3/100以下、0.2/100以下、0.1/100以下、0.05/100以下、又は、0.03/100以下であってもよい。
【0038】
クロロプレン結合単位の1,2-異性体は加熱により水が付加するため、クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体の4.13~4.23ppmのピーク面積(C)と4.05~6.20ppmのピーク面積(B)とのピーク面積比(C/B)を大きくするには、クロロプレン単量体と不飽和ニトリル単量体とを共重合させて得られたクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体ラテックスを50~70℃で5分~10時間加熱処理すればよい。この際に、上述のピーク面積比(A/B)が減少するため、あらかじめ十分な量の1,2-異性体をクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体に導入しておいてよい。
【0039】
1H-NMRスペクトルは、次のように測定することができる。上述のクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体をキシレン及びメタノールで精製し、凍結乾燥して試料を得た後、試料を重クロロホルムに溶解させて、1H-NMRスペクトルを測定することができる。測定データは、溶媒として用いる重クロロホルム中のクロロホルムのピーク(7.24ppm)を基準に補正できる。
【0040】
<クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体組成物>
本実施形態に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体組成物は、本実施形態に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体を含有する。本実施形態に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体組成物は、クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体の加硫物であってもよい。
【0041】
本実施形態に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体組成物におけるクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体の含有量は、クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体組成物の全量を基準として下記の範囲であってよい。クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体の含有量は、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、又は、45質量%以上であってよい。クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体の含有量は、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、又は、50質量%以下であってよい。これらの観点から、クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体の含有量は、10~90質量%であってよい。
【0042】
本実施形態に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体組成物は、クロロプレン・不飽和ニトリル共重合体以外の添加剤を含有してよい。このような添加剤としては、加硫剤、可塑剤、老化防止剤、充填剤、加硫促進剤、加硫速度調整剤、加工助剤、軟化剤、スコーチ防止剤等が挙げられる。
【0043】
加硫剤としては、イオウ;モルホリン化合物(ジチオジモルホリン等);ベリリウム、マグネシウム、亜鉛、カルシウム、バリウム、ゲルマニウム、チタニウム、錫、ジルコニウム、アンチモン、バナジウム、ビスマス、モリブデン、タングステン、テルル、セレン、鉄、ニッケル、コバルト、オスミウム等の金属の単体、酸化物及び水酸化物などが挙げられる。
可塑剤としては、芳香族炭化水素系可塑剤、ジオクチルセバケート等が挙げられる。
老化防止剤としては、オゾン老化防止剤、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、アクリレート系老化防止剤、イミダゾール系老化防止剤、カルバミン酸金属塩、ワックス、アルキル化ジフェニルアミン(例えばオクチル化ジフェニルアミン)等が挙げられる。
充填剤としては、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、ファクチス等が挙げられる。
加硫促進剤としては、チオウレア化合物(エチレンチオウレア、トリメチルチオウレア等);グアニジン化合物;チウラム化合物;チアゾール化合物などが挙げられる。
加硫速度調整剤としては、テトラメチルチウラムジスルフィド等が挙げられる。
加工助剤としては、ステアリン酸等が挙げられる。
【0044】
<成形体及び加硫成形体>
本実施形態に係る成形体は、本実施形態に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体又はクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体組成物の成形体であり、本実施形態に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体又はクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体組成物を、目的に応じた形状に成形加工して得ることができる。
【0045】
本実施形態に係る加硫成形体は、本実施形態に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体又はクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体組成物の加硫成形体である。本実施形態に係る加硫成形体は、本実施形態に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体又はクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体組成物を、目的に応じた形状に成形加工し、成形時又は成形後に加硫して得ることが可能であり、本実施形態の加硫物を、目的に応じた形状に成形加工することにより得ることもできる。
【0046】
成形方法は、特に限定されるものではない。例えば、成形体が伝動ベルト、コンベアベルト、ホース、ワイパー等である場合は、プレス成形、射出成形、押出成形等により形成することができる。加硫成形体は、本実施形態に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体を使用しているため、破断強度、耐油性、耐久疲労性及び耐寒性に優れる。
【0047】
本実施形態に係る加硫成形体は、伝動ベルト、コンベアベルト、ホース、ワイパー、シール材(パッキン、ガスケット等)、ロール、空気バネ、防振材、接着剤、ブーツ、ゴム引布、スポンジ、ゴムライニング等として用いることができる。本実施形態に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体及びクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体組成物は、これらの用途に用いられる加硫成形体を得るために用いることができる。本実施形態に係る加硫成形体は、破断強度、耐油性、耐久疲労性及び耐寒性に優れることから、従来のCR(クロロプレンゴム)等では達成が困難であった用途においても好適に用いることができる。
【0048】
(伝動ベルト及びコンベアベルト)
伝動ベルト及びコンベアベルトは、巻掛け伝動装置に使われる機械要素であり、原動車から従動車に動力を伝達する部品である。伝動ベルト及びコンベアベルトは、軸にセットされたプーリーにかけて用いられることが多い。伝動ベルト及びコンベアベルトは、軽量性、静音性、軸角度の自由度等に優れるため、自動車、一般産業用ベルト、各種コンベアベルト等の機械全般に幅広く使用されている。ベルトの種類は多様化しており、平ベルト、タイミングベルト、Vベルト、リブベルト、丸ベルト等の伝動ベルト;コンベアベルトなどが機械の用途に応じて使い分けられている。効率的に動力を伝達するため、高い張力でかけられたベルトが回転変形を繰り返すことから、従来の伝動ベルト及びコンベアベルトでは、NR(天然ゴム)、SBR(スチレン・ブタジエンゴム)、CR、NBR(ニトリルゴム)、HNBR(水素化ニトリルゴム)等のエラストマー材料が使用されている。CRは、優れたゴム物性を有するため、自動車、一般産業用ベルト、各種コンベアベルト等に採用されているが、高い張力に耐えるため機械的強度を向上させることは不断の技術課題である。また、建築現場で使用される工作機器のベルト等は、飛散した油にさらされる環境で使用されることもあり、耐油性の改良が求められる。さらに、ベルトは持続的に動的環境で使用されるから、製品の信頼性向上のため、耐久疲労性(耐屈曲疲労性等)に優れた材料が求められる。
【0049】
本実施形態に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体は、伝動ベルト及びコンベアベルトの破断強度、耐油性及び耐屈曲疲労性を高めることができる。これにより、従来のCRでは達成が困難であった、飛散した油にさらされる環境等においても使用可能なベルトを製造することができる。
【0050】
(ホース)
ホースは、屈曲可能な管であり、自由に屈曲して、可搬性及び移動性を必要とする作業(水まき等)に用いられる。また、ホースは、硬質な管(金属パイプ等)と比較して、変形による疲労破壊を起こしにくいことから、振動を伴う部位の配管(自動車の配管等)に使用される。中でも、最も一般的であるのがゴムホースである。ゴムホースは、NR、CR、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)、SBR、NBR、ACM(アクリルゴム)、AEM(エチレン・アクリルゴム)、HNBR、ECO(エピクロルヒドリンゴム)、FKM(フッ素ゴム)等で作られ、送水用ホース、送油用ホース、送気用ホース、蒸気用ホース、油圧用高圧ホース、油圧用低圧ホース等が挙げられる。CRは、高圧の流体の圧力に耐え得る良好な機械的強度を理由として、主として油圧用高圧ホースに使用されているが、耐油性の不足を理由として、内層はNBRとするのが一般的である。しかしながら、化学構造の大きく異なるCR及びNBRを接着させることは困難であり、接着が不十分であると、界面で剥離するという課題がある。このため、良好な機械的強度及び耐油性を有する材料が切望されている。また、非極性液体と直接接するホースとして、CRの耐油性は不十分であり、改良が不可欠であった。
【0051】
本実施形態に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体は、ホースの破断強度及び耐油性を高めることができる。これにより、従来のCRでは達成が困難であった、非極性液体と直接接するホースを製造することができる。
【0052】
(ワイパー)
自動車、電車、航空機、船舶、建設機械等のフロントガラス、リアガラス等には、表面に付着した雨水、泥水、油汚れ、海水、氷、雪、埃等を払拭又は除去して視界を良くすることにより運転の安全を確保するために通常ワイパーが設けられている。このワイパーのガラス面と接触する部分にはワイパーブレードが取り付けられており、従来のワイパーブレードの材料としては、NR、CR等が用いられている。CRは、繰り返し変形に耐える機械的強度及び耐久疲労性を有し、払拭性等に優れるため自動車用ワイパーに使用されている。しかしながら、CRは、耐油性が不十分であるため、油汚れによりゴム材料が膨潤すると、払拭性が低下してしまう問題がある。このため、油汚れが多い環境下においては、耐油性に優れたワイパーブレードが要求されている。
【0053】
本実施形態に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体は、ワイパーの破断強度、耐油性及び耐久疲労性を高めることができる。これにより、従来のCRでは達成が困難であった、油汚れが多い環境下でも使用できるワイパーを製造することができる。
【0054】
(シール材)
シール材は、機械において、液体又は気体の漏れを防ぐと共に、雨水、埃等のごみ又は異物が内部に侵入するのを防ぐ部品であり、機械の性能維持に重要な役割を果たしている。シール材としては、固定用途に使われるガスケット、運動部分・可動部分に使用されるパッキン等が挙げられる。シール部分がボルト等で固定されているガスケットでは、Oリング、ゴムシート等のソフトガスケットの材料として、目的に応じた各種エラストマーが使用されている。また、パッキンは、ポンプ又はモーターの軸、バルブの可動部等のような回転部分、ピストンのような往復運動部分、カプラーの接続部、水道蛇口の止水部などに使われる。比較的低い圧力の油圧機器、又は、潤滑油の密閉に使われるオイルシールは、エラストマーの弾性で密閉性を確保している。これらエラストマーのシール材において、CRは、良好な機械的強度を有し、極性の気体又は液体のシール材に使用されている。一方、エンジンオイル又はギアーオイルのような非極性液体のシール材に使用するためには、CRの耐油性は不十分であり、改良が不可欠であった。
【0055】
本実施形態に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体は、シール材の破断強度及び耐油性を高めることができる。これにより、従来のCRでは達成が困難であった、エンジンオイル又はギアーオイルのような非極性液体のシール材を製造することができる。
【0056】
シール材としては、エンジンヘッドカバーガスケット、オイルパンガスケット、オイルシール、リップシールパッキン、O-リング、トランスミッションシールガスケット、クランクシャフト、カムシャフトシールガスケット、バルブステム、パワーステアリングシールベルトカバーシール、等速ジョイント用ブーツ材、ラックアンドピニオンブーツ材、ダイヤフラム等が挙げられる。
【0057】
(ロール)
ロールは、鉄芯等の金属製の芯をゴムで接着被覆することによって製造されるものであり、一般に金属鉄芯にゴムシートを渦巻き状に巻き付けて製造される。ロールには、製紙、各種金属製造、印刷、一般産業用、籾摺り等の農機具用、食品加工用などの種々の用途の要求特性に応じてNBR、EPDM、CR等のゴム材料が用いられている。CRは、搬送する物体の摩擦に耐え得る良好な機械的強度を有していることから、ロールにおける幅広い用途に使用されている。一方で、製鉄用又は製紙用の工業用材料、製品等の製造時など、油が付着する環境下で用いられるロールとしては耐油性が不十分であり、改良が求められる。さらに、重量物を搬送するロールは荷重により変形するという課題があり、改良を求められる。
【0058】
本実施形態に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体は、ロールの破断強度等及び耐油性を高めることができる。これにより、従来のCRでは達成が困難であった、油が付着する環境下で用いられるロールを製造することができる。
【0059】
(空気バネ)
空気バネは、圧縮空気の弾力性を利用したバネ装置である。自動車、バス、トラック等のエアサスペンションなどに利用される。空気バネとしては、ベローズ型及びスリーブ型(ダイヤフラム型の一種)が挙げられ、いずれもピストンを空気室内に侵入させて空気圧を高めることができる。飛散した油にさらされる環境で使用される場合もあり、耐油性の改良が求められる。また、空気バネに対しては、持続的に動的環境で使用されるから、製品の信頼性向上のため耐屈曲疲労性に優れることが求められる。
【0060】
本実施形態に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体は、空気バネの破断強度、耐油性及び耐久疲労性を高めることができる。これにより、従来のCRでは達成が困難であった、油汚れが多い環境下でも使用できる空気バネを製造することができる。
【0061】
(防振材)
防振材とは、振動の伝達波及を防止するゴムのことであり、例えば、防音又は衝撃の緩衝の用途、機械から発生する振動が外部に波及することを防ぐ用途等に用いられる。例えば自動車又は各種車両では、エンジン駆動時の振動を吸収して騒音を防止するために、トーショナルダンパー、エンジンマウント、マフラーハンガー等の構成材料に防振材が用いられている。防振材には、防振特性に優れた天然ゴムが広く使用されているが、建設重機用等、油の飛散する環境で使用される防振材にはCRが使用されている。防振材に油が付着することで膨潤すると、機械的な強度が低下し、早期に破壊するという問題があるため、改良が求められる。また、動的な環境で用いられるため、繰り返し変形に対する耐久性の向上が求められる。
【0062】
本実施形態に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体は、防振材の破断強度、耐油性及び耐屈曲疲労性を高めることができる。これにより、従来のCRでは達成が困難であった、油の飛散する環境でも使用できる防振材(防振ゴム)を製造することができる。
【0063】
(接着剤)
CRは、コンタクト性を有し、初期接着強度に優れることから、土木建築、合板、家具、靴、ウェットスーツ、自動車内装材等の幅広い材料の接着剤として利用されている。これらの中でも、CRの初期接着強度及び耐熱接着強度が優れることから、家具又は自動車内装材の素材として汎用されるポリウレタンフォーム用の一液型接着剤としての需要が大幅に拡大している。自動車の内装には、高い審美性が求められるが、CRの耐油性が不十分なため、自動車等に用いる各種オイル類又は燃料類の飛沫が被着体に付着すると、界面で剥離したり、被着体の表面が湾曲したりすることがある。このため、高い耐油性を有する接着剤材料が切望されている。
【0064】
本実施形態に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体は、接着剤の破断強度及び耐油性を高めることができる。これにより、従来のCRよりも優れた接着剤を製造することができる。
【0065】
(ブーツ)
ブーツとは、一端から他端に向けて外径が次第に大きくなる蛇腹状をなす部材であり、自動車駆動系等の駆動部を保護するための等速ジョイントカバー用ブーツ、ボールジョイントカバー用ブーツ(ダストカバーブーツ)、ラックアンドピニオンギア用ブーツなどがある。ブーツでは、大変形に耐えられる物理的強度が要求されるため、CRが多く使用されている。近年、車の軽量コンパクト化技術の進展に伴ってブーツの稼動空間が狭まっているため、除熱効率が低下し熱環境が過酷さを増している。このため、高温雰囲気下において、ブーツ内部に含有する油、グリース等の非極性液体に対する信頼性の向上が求められる。
【0066】
本実施形態に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体は、ブーツの破断強度、耐油性及び耐久疲労性を高めることができる。これにより、従来のCRよりも、内部に含有する油、グリース等の非極性液体に対する信頼性に優れたブーツを製造することができる。
【0067】
(ゴム引布)
ゴム引布は、ゴムを布に貼り合わせた、ゴムと布織物(繊維)の複合材料であり、ゴムシートに比べて強度が強く、耐水性、気密性等に優れている。これらの特徴を活かし、ゴムボート、テント材料、雨合羽等の衣類、建築防水用シート、緩衝材などの用途に広く用いられている。ゴム引布に使用されるゴム材料としては、一般的には、CR、NBR、EPDM等が用いられている。中でも、CRは、優れた機械的強度及び耐候性を有することから、ゴムボート等の屋外で使用される引布に広く使用されている。一方で、自動車、建築現場等のような、油が飛散する環境下で使用されるゴム引布シート材に使用するためには耐油性が不十分であり、改良が求められる。
【0068】
本実施形態に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体は、ゴム引布の破断強度及び耐油性を高めることができる。これにより、従来のCRでは達成が困難であった、油が飛散する環境下でも使用できるゴム引布を製造することができる。
【0069】
(スポンジ)
スポンジは、内部に細かい孔が無数に空いた多孔質の物質である。孔は、連続泡及び独立泡の形態のいずれも取り得る。孔が十分大きく、連続している場合、スポンジは、液体にひたすと、孔内の空気と置換される形で液体を吸い取り、また、外部から力を加えると、容易に液体を放出する特性を有する。また、孔が小さい場合は、優れた緩衝材又は断熱材として使用することができる。CRは、優れた機械的強度及びゴム弾性を有するため、スポンジに幅広く使用されており、防振材、スポンジシール部品、ウェットスーツ、靴等に用いられる。何れの用途においても、油による膨潤変形、変色等を防ぐため耐油性の改良が求められる。
【0070】
本実施形態に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体は、スポンジの破断強度及び耐油性を高めることができる。これにより、従来のCRでは達成が困難であった、油による膨潤変形、変色等を起こしにくいスポンジを製造することができる。
【0071】
(ゴムライニング)
ゴムライニングとは、配管、タンク等の金属面にゴムシートを接着させて金属の防食目的で使われるものである。また、ゴムライニングは、耐電気又は耐摩耗が必要とされる箇所にも使われる。従来のゴムライニングとしては、NR、CR、EPDM、SBR等が使用されるが、耐油性が不足する場合があり、耐油性を向上させることが求められる。
【0072】
本実施形態に係るクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体は、ゴムライニングとしての耐油性を高めることができる。これにより、従来のゴム材料では困難であった、油による配管又はタンクの防食が可能である。
【実施例】
【0073】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0074】
<重合体の製造>
(重合体1)
加熱冷却ジャケット及び攪拌機を備えた内容積3リットルの重合缶に、クロロプレン単量体37質量部、アクリロニトリル単量体37質量部、ジエチルキサントゲンジスルフィド0.5質量部、純水200質量部、ロジン酸カリウム(ハリマ化成株式会社製)5.00質量部、水酸化ナトリウム0.40質量部、及び、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(花王株式会社製)2.0質量部を添加した。次に、重合開始剤として過硫酸カリウム0.1質量部を添加した後、重合温度20℃にて窒素気流下で乳化重合を行った。クロロプレン単量体の分添は、重合開始20秒後から開始し、重合開始からの10秒間の冷媒の熱量変化を元に分添流量を電磁弁で調整し、以降10秒毎に流量を再調節することで連続的に行った。クロロプレン単量体及びアクリロニトリル単量体の合計量に対する重合率が50%となった時点で、重合禁止剤であるフェノチアジンを加えて重合を停止させた。その後、減圧下で反応溶液中の未反応単量体を除去することでクロロプレン・アクリロニトリル共重合体ラテックスを得た。
【0075】
クロロプレン・アクリロニトリル共重合体ラテックスの重合率は、クロロプレン・アクリロニトリル共重合体ラテックスを風乾した乾燥質量から算出した。具体的には、下記式(II)より計算した。式中、固形分濃度とは、サンプリングしたクロロプレン・アクリロニトリル共重合体ラテックス2gを130℃で加熱して、溶媒(水)、揮発性薬品、原料等の揮発成分を除いた固形分の濃度[質量%]である。総仕込み量とは、重合開始から、ある時刻までに重合缶に仕込んだ原料、試薬及び溶媒(水)の総量である。蒸発残分とは、重合開始から、ある時刻までに仕込んだ薬品及び原料のうち、130℃の条件下で揮発せずにポリマーと共に固形分として残留する薬品の質量である。単量体仕込み量は、重合缶に初期に仕込んだ単量体、及び、重合開始から、ある時刻までに分添した単量体の量の合計である。なお、ここでいう「単量体」とはクロロプレン単量体とアクリロニトリル単量体の合計量である。
重合率[%]={(総仕込み量[g]×固形分濃度[質量%]/100)-(蒸発残分[g])}/単量体仕込み量[g]×100 ・・・(II)
【0076】
上述のクロロプレン・アクリロニトリル共重合体ラテックスをpH7.0に調整し、-20℃に冷やした金属板上で凍結凝固させることで乳化破壊することによりシートを得た。このシートを水洗した後、130℃で15分間乾燥させることにより固形状のクロロプレン・アクリロニトリル共重合体(重合体1)を得た。
【0077】
クロロプレン・アクリロニトリル共重合体に含まれるアクリロニトリル単量体由来の構造単位量は、クロロプレン・アクリロニトリル共重合体中の窒素原子の含有量から算出した。具体的には、元素分析装置(スミグラフ220F:株式会社住化分析センター製)を用いて100mgのクロロプレン・アクリロニトリル共重合体における窒素原子の含有量を測定し、アクリロニトリル単量体由来の構造単位量を算出した。元素分析の測定は次の条件で行った。電気炉温度として反応炉900℃、還元炉600℃、カラム温度70℃、検出器温度100℃に設定し、燃焼用ガスとして酸素を0.2ml/min、キャリアーガスとしてヘリウムを80ml/minフローした。検量線は、窒素含有量が既知のアスパラギン酸(10.52%)を標準物質として用いて作成した。クロロプレン・アクリロニトリル共重合体中のアクリロニトリル単量体由来の構造単位量は10質量%であった。
【0078】
上述のクロロプレン・不飽和ニトリル共重合体をキシレン及びメタノールで精製し、再度凍結乾燥して試料を得た。試料を重クロロホルムに溶解させた後、1H-NMRスペクトルを測定した。測定データは、溶媒として用いた重クロロホルム中のクロロホルムのピーク(7.24ppm)を基準に補正した。測定の結果、クロロプレン・アクリロニトリル共重合体の5.80~6.00ppmのピーク面積(A)と4.05~6.20ppmのピーク面積(B)のピーク面積比(A/B)は0.6/100(0.6%)であり、4.13~4.23ppmのピーク面積(C)と4.05~6.20ppmのピーク面積(B)のピーク面積比(C/B)は0.01/100(0.01%)であった。
【0079】
(重合体2)
重合温度23℃に変更し、ラテックス中の未反応単量体を除去した後に60℃で5分加熱したこと以外は上述の重合体1と同一の手順でクロロプレン・アクリロニトリル共重合体(重合体2)を製造した。上述の重合体1と同一の手順でクロロプレン・アクリロニトリル共重合体中のアクリロニトリル単量体由来の構造単位量と1H-NMRスペクトルを測定したところ、アクリロニトリル単量体由来の構造単位量は10質量%であり、ピーク面積比(A/B)は0.6/100(0.6%)であり、ピーク面積比(C/B)は0.03/100(0.03%)であった。
【0080】
(重合体3)
重合温度を50℃に変更し、ラテックス中の未反応単量体を除去した後に60℃で5時間加熱したこと以外は上述の重合体1と同一の手順でクロロプレン・アクリロニトリル共重合体(重合体3)を製造した。上述の重合体1と同一の手順でクロロプレン・アクリロニトリル共重合体中のアクリロニトリル単量体由来の構造単位量と1H-NMRスペクトルを測定したところ、アクリロニトリル単量体由来の構造単位量は10質量%であり、ピーク面積比(A/B)は0.6/100(0.6%)であり、ピーク面積比(C/B)は0.5/100(0.5%)であった。
【0081】
(重合体4)
重合温度を50℃に変更したこと以外は上述の重合体1と同一の手順でクロロプレン・アクリロニトリル共重合体(重合体4)を製造した。上述の重合体1と同一の手順でクロロプレン・アクリロニトリル共重合体中のアクリロニトリル単量体由来の構造単位量と1H-NMRスペクトルを測定したところ、アクリロニトリル単量体由来の構造単位量は10質量%であり、ピーク面積比(A/B)は1.1/100(1.1%)であり、ピーク面積比(C/B)は0.01/100(0.01%)であった。
【0082】
(重合体5)
添加したクロロプレン単量体の使用量を47質量部に変更すると共にアクリロニトリル単量体の使用量を20質量部に変更したこと以外は上述の重合体1と同一の手順でクロロプレン・アクリロニトリル共重合体(重合体5)を製造した。上述の重合体1と同一の手順でクロロプレン・アクリロニトリル共重合体中のアクリロニトリル単量体由来の構造単位量と1H-NMRスペクトルを測定したところ、アクリロニトリル単量体由来の構造単位量は3質量%であり、ピーク面積比(A/B)は0.6/100(0.6%)であり、ピーク面積比(C/B)は0.01/100(0.01%)であった。
【0083】
(重合体6)
添加したクロロプレン単量体の使用量を17質量部に変更すると共にアクリロニトリル単量体の使用量を50質量部に変更したこと以外は上述の重合体1と同一の手順でクロロプレン・アクリロニトリル共重合体(重合体6)を製造した。上述の重合体1と同一の手順でクロロプレン・アクリロニトリル共重合体中のアクリロニトリル単量体由来の構造単位量と1H-NMRスペクトルを測定したところ、アクリロニトリル単量体由来の構造単位量は20質量%であり、ピーク面積比(A/B)は0.6/100(0.6%)であり、ピーク面積比(C/B)は0.01/100(0.01%)であった。
【0084】
(重合体7)
添加したクロロプレン単量体の使用量を100質量部に変更し、アクリロニトリル単量体を0質量部の使用量に変更すると共に、クロロプレン単量体を分添しないこと以外は上述の重合体1と同一の手順でクロロプレン重合体(重合体7)を製造した。上述の重合体1と同一の手順で得られたクロロプレン重合体中のアクリロニトリル単量体由来の構造単位量と1H-NMRスペクトルを測定したところ、アクリロニトリル単量体由来の構造単位量は0質量%であり、ピーク面積比(A/B)は0.6/100(0.6%)であり、ピーク面積比(C/B)は0.01/100(0.01%)であった。
【0085】
(重合体8)
重合温度を5℃に変更したこと以外は上述の重合体1と同一の手順でクロロプレン・アクリロニトリル共重合体(重合体8)を製造した。上述の重合体1と同一の手順でクロロプレン・アクリロニトリル共重合体中のアクリロニトリル単量体由来の構造単位量と1H-NMRスペクトルを測定したところ、アクリロニトリル単量体由来の構造単位量は10質量%であり、ピーク面積比(A/B)は0.5/100(0.5%)であり、ピーク面積比(C/B)は0.01/100(0.01%)であった。
【0086】
(重合体9)
重合温度を55℃に変更したこと以外は上述の重合体1と同一の手順でクロロプレン・アクリロニトリル共重合体(重合体9)を製造した。上述の重合体1と同一の手順でクロロプレン・アクリロニトリル共重合体中のアクリロニトリル単量体由来の構造単位量と1H-NMRスペクトルを測定したところ、アクリロニトリル単量体由来の構造単位量は10質量%であり、ピーク面積比(A/B)は1.2/100(1.2%)であり、ピーク面積比(C/B)は0.01/100(0.01%)であった。
【0087】
(重合体10)
添加したクロロプレン単量体の使用量を50質量部に変更すると共にアクリロニトリル単量体の使用量を17質量部に変更したこと以外は上述の重合体1と同一の手順でクロロプレン・アクリロニトリル共重合体(重合体10)を製造した。上述の重合体1と同一の手順でクロロプレン・アクリロニトリル共重合体中のアクリロニトリル単量体由来の構造単位量と1H-NMRスペクトルを測定したところ、アクリロニトリル単量体由来の構造単位量は2質量%であり、ピーク面積比(A/B)は0.6/100(0.6%)であり、ピーク面積比(C/B)は0.01/100(0.01%)であった。
【0088】
(重合体11)
添加したクロロプレン単量体の使用量を10質量部に変更すると共にアクリロニトリル単量体を57質量部の使用量に変更したこと以外は上述の重合体1と同一の手順でクロロプレン・アクリロニトリル共重合体(重合体11)を製造した。上述の重合体1と同一の手順でクロロプレン・アクリロニトリル共重合体中のアクリロニトリル単量体由来の構造単位量と1H-NMRスペクトルを測定したところ、アクリロニトリル単量体由来の構造単位量は25質量%であり、ピーク面積比(A/B)は0.6/100(0.6%)であり、ピーク面積比(C/B)は0.01/100(0.01%)であった。
【0089】
<実験A:重合体組成物の評価>
(重合体組成物の製造)
表1に示す重合体100質量部と、エチレンチオウレア(川口化学工業株式会社製、アクセル22S)0.6質量部と、イオウ(市販品)1.8質量部と、芳香族炭化水素系可塑剤(新日本理化株式会社製、NP-24)18質量部と、ワックス(大内新興化学工業社製、サンノック)2質量部と、カーボンブラックSRF(旭カーボン株式会社製、旭#50)55質量部と、ファクチス(天満サブ化工株式会社製、黒サブ)15質量部と、酸化マグネシウム(協和化学工業株式会社製、キョーワマグ(登録商標)150)4質量部と、酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製、酸化亜鉛2種)5質量部と、オゾン老化防止剤(大内新興化学工業社製、ノクラック6C)1質量部とを8インチオープンロールにおいて混練し、重合体組成物を得た。表中、「phr」は「質量部」を意味する。
【0090】
(加硫成形体の製造)
上述の重合体組成物を160℃×20分の条件でプレス加硫して厚さ2mmのシート状の加硫成形体を作製した。
【0091】
(加硫成形体の評価)
上述の加硫成形体について以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0092】
[破断強度]
上述の加硫成形体から厚さ2mmの加硫シートのテストピースを作製した。このテストピースを用いてJIS K6251に基づいて引張試験を行い、加硫ゴムの引張強度(単位:MPa)を測定した。引張り強度が20MPa以上である場合を「A」と評価し、15MPa以上20MPa未満である場合を「B」と評価し、15MPa未満である場合を「C」と評価した。A又はBを合格であると評価した。
【0093】
[耐久疲労性]
上述の加硫成形体を用いて、JIS K6260のデマッチャ屈曲疲労試験に準拠して、ストローク58mm、速度300±10rpmの条件下で、亀裂が発生した時点における屈曲試験の回数(単位:万回)を確認することにより耐久疲労性(耐屈曲疲労性)を評価した。回数が250万回以上である場合を「A」と評価し、200万回以上250万回未満である場合を「B」と評価し、150万回以上200万回未満である場合を「C」と評価し、150万回未満である場合を「D」と評価した。A、B又はCを合格であると評価した。
【0094】
[耐油性]
上述の加硫成形体を用いて、JIS K6258に準拠して耐油性を測定した。油種としてIRM903オイルを用いて、135℃、72時間浸漬後の体積変化率(ΔV)を算出した。体積変化率が20%未満である場合を「A」と評価し、20%以上40%未満である場合を「B」と評価し、40%以上である場合を「C」と評価した。A又はBを合格であると評価した。
【0095】
[耐寒性]
上述の加硫成形体を用いて、JIS K6261に準拠してゲーマン捻り試験(T10)を測定した。T10は、常温(23℃)に比べて捩りモジュラスが10倍になる温度であり、数字が低いほど耐寒性が良好なことを示す。T10が-10℃以下である場合を「A」と評価し、-10℃を超え0℃以下である場合を「B」と評価し、0℃を超える場合を「C」と評価した。A又はBを合格であると評価した。
【0096】
【0097】
表1に示した結果から、実施例の重合体組成物を用いることにより、加硫成形体における破断強度、耐油性、耐久疲労性及び耐寒性が向上することがわかった。当該加硫成形体は、これらの性質を有するため、防振材、空気バネ等の成形品として好適に使用できる。
【0098】
<実験B:重合体組成物の評価>
(重合体組成物の製造)
表2に示す重合体100質量部と、トリメチルチオウレア(大内新興化学工業株式会社製、ノクセラーTMU)1質量部と、4,4’-ジチオジモルホリン(大内新興化学工業株式会社製、バルノックR)1質量部と、ステアリン酸(新日本理化株式会社製、ステアリン酸50S)1質量部と、オクチル化ジフェニルアミン(大内新興化学工業株式会社製、ノクラックAD-F)2質量部と、カーボンブラックFEF(旭カーボン株式会社製、旭#60)40質量部と、ジオクチルセバケート(新日本理化株式会社製、サンソサイザーDOS)5質量部と、酸化マグネシウム(協和化学工業株式会社製、キョーワマグ150)4質量部と、酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製、酸化亜鉛2種)5質量部と、テトラメチルチウラムジスルフィド(大内新興化学工業株式会社製、ノクセラーTT)0.5質量部とを8インチオープンロールにおいて混練し、重合体組成物を得た。
【0099】
(加硫成形体の製造と評価)
上述の重合体組成物を160℃×20分の条件でプレス加硫して厚さ2mmのシート状の加硫成形体を作製した。この加硫成形体について、耐寒性の評価基準を除き上述の実験Aと同様の破断強度、耐久疲労性、耐油性及び耐寒性の評価を行った。耐寒性の評価では、T10が-20℃以下である場合を「A」と評価し、-20℃を超え-10℃以下である場合を「B」と評価し、-10℃を超える場合を「C」と評価した。A又はBを合格であると評価した。評価結果を表2に示す。
【0100】
【0101】
表2に示した結果から、実施例の重合体組成物を用いることにより、加硫成形体における破断強度、耐油性、耐久疲労性及び耐寒性が向上することがわかった。当該加硫成形体は、これらの性質を有するため、伝動ベルト、コンベアベルト等の成形品として好適に使用できる。