(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】導電性フィルム、並びに、それを用いた導電性フィルムロール、電子ペーパー、タッチパネル及びフラットパネルディスプレイ
(51)【国際特許分類】
H01B 5/14 20060101AFI20230726BHJP
B32B 3/14 20060101ALI20230726BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20230726BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20230726BHJP
G06F 3/041 20060101ALI20230726BHJP
H05K 1/02 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
H01B5/14 B
B32B3/14
B32B15/04 Z
B32B7/025
G06F3/041 490
H05K1/02 J
G06F3/041 495
(21)【出願番号】P 2021183830
(22)【出願日】2021-11-11
(62)【分割の表示】P 2020534685の分割
【原出願日】2019-07-30
【審査請求日】2022-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2018142225
(32)【優先日】2018-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018142051
(32)【優先日】2018-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018142045
(32)【優先日】2018-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】上城 武司
(72)【発明者】
【氏名】小松 和磨
(72)【発明者】
【氏名】池田 彬
(72)【発明者】
【氏名】飛田 空
(72)【発明者】
【氏名】杉本 哲郎
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-045352(JP,A)
【文献】特開2009-099327(JP,A)
【文献】特開2013-067531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/041
H01B 5/14
B32B 3/14
B32B 15/04
B32B 7/025
H05K 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材と、該透明基材の片面又は両面に配された金属細線パターンからなる導電部と、を有する導電性フィルムであって、
前記金属細線パターンが、金属細線から構成されており、
該金属細線が、
金、銀及び銅からなる群より選ばれる少なくとも1種以上の導電性金属原子Mとケイ素原子Siとを含み、
前記金属細線の線幅が、0.1μm以上5.0μm以下であり、
前記金属細線の延伸方向に直交する前記金属細線の断面のSTEM-EDX分析において、前記金属細線の最大厚さをTとしたとき、前記透明基材側の前記金属細線界面から0.10T~0.90Tの厚さ領域における、前記導電性金属原子Mに対する前記ケイ素原子Siの原子%比Si/M
0.10~
0.90が、0.001以上0.070以下である、
導電性フィルム。
【請求項2】
前記透明基材側の前記金属細線界面から0.10T~0.25Tの厚さ領域における原子%比Si/M
0.10~
0.25が、0.001以上0.070以下である、
請求項1に記載の導電性フィルム。
【請求項3】
前記透明基材側の前記金属細線界面から0.75T~0.90Tの厚さ領域における原子%比Si/M
0.75~
0.90が、0.001以上0.070以下である、
請求項1又は2に記載の導電性フィルム。
【請求項4】
前記透明基材と前記導電部の間に中間層を有する、
請求項1~
3のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
【請求項5】
前記中間層が、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、及びフッ化マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、
請求項
4に記載の導電性フィルム。
【請求項6】
前記金属細線のアスペクト比が、0.05以上1.00以下である、
請求項1~
5のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
【請求項7】
前記導電性フィルムのシート抵抗が、0.1Ω/sq以上1,000Ω/sq以下である、
請求項1~
6のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
【請求項8】
前記導電性フィルムの可視光透過率が、80%以上100%以下である、
請求項1~
7のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
【請求項9】
前記導電性フィルムのヘイズが、0.01%以上5.00%以下である、
請求項1~
8のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
【請求項10】
前記金属細線パターンの開口率が、80%以上100%未満である、
請求項1~
9のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
【請求項11】
前記金属細線パターンがメッシュパターンである、
請求項1~
10のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
【請求項12】
前記金属細線パターンがラインパターンである、
請求項1~
11のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか一項に記載の導電性フィルムを捲回してなる、
導電性フィルムロール。
【請求項14】
請求項1~
12のいずれか一項に記載の導電性フィルムを備える、
電子ペーパー。
【請求項15】
請求項1~
12のいずれか一項に記載の導電性フィルムを備える、
タッチパネル。
【請求項16】
請求項1~
12のいずれか一項に記載の導電性フィルムを備える、
フラットパネルディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性フィルム、並びに、それを用いた導電性フィルムロール、電子ペーパー、タッチパネル及びフラットパネルディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子ペーパー、タッチパネル、及びフラットパネルディスプレイ等の電子デバイスには、酸化インジウムスズ(以下、「ITO」ともいう。)を用いた透明な導電性フィルムが用いられている。今後、更なる電子デバイスの高付加価値化にむけて、大面積化や応答性向上、フレキシブル化が重要である。そのため、これに用いられる導電性フィルムには、高い透過率を維持しながら導電性と可撓性を向上させることが求められる。
【0003】
ITOは材料固有の導電率が低いため、高い導電性を発現するためには厚膜化が必要でありそれに伴い透過率が低下する。また厚膜化により曲げや撓み、屈曲等の変形によりクラックが発生しやすくなるため、ITOを用いた導電性フィルムでは高い透過率、導電性、可撓性を同時に発現することは困難である。
【0004】
そこで、ITOに代わる導電性フィルムの研究開発が精力的に行われており、透明基材上にパターニングした金属細線を有する導電性フィルムが注目されている。金属細線は酸化物であるITOよりも導電率が高く、これを用いた導電性フィルムは高い導電性を示すことが期待される。また、金属細線は延伸性も高いため、これを用いた導電性フィルムは導電性と可撓性に優れる。
【0005】
また、ITOとは異なり金属細線は不透明であるが、金属細線の線幅を、例えば、5μm以下に細線化することで、低い視認性と高い透過率を実現することができる。この点、非特許文献1には、プラスチック基板上に、最小線幅0.8μmの金属細線を印刷で作製する技術が開示されている。
【0006】
他方、金属細線を用いた導電性フィルムでは、ハンドリングやデバイス実装における曲げ、撓み、屈曲等の変形により、透明基材からの金属細線の剥離が発生し、導電性が低下しやすいという問題がある。このような問題に対して、基板との密着性が良好な金属細線パターンを有する透明電極を提供する方法として、透明樹脂基板と金属細線パターンの間に多孔質層を形成し、金属細線パターン上に透明導電性保護層を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、特許文献2には、銅を主成分とする金属配線にシリコンなどの第2金属元素を含有させ、銅と第2金属元素の合金が金属配線の界面で金属酸化膜を形成することで、保護膜である有機膜との密着性が向上し信頼性を高くできることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Nature Communications 7, Article number: 11402
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2014/034920号
【文献】国際公開第2015/046261号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、金属細線は不透明であるため、金属細線の細線化によるのみで透明性の低下を解決することは難しい。また、非特許文献1のように、単に金属細線の細線化を行った場合には、細線化に伴い導電性が低下する。そのため、高い透過性を発現しながら導電性を向上するためには未だ改善の余地がある。
【0011】
また、金属細線の細線化を行うと、曲げや撓み、屈曲等の変形による金属細線の断線が発生し易くなるという課題がある。例えば、特許文献1で検討されている金属細線の線幅は10μm以上である。本発明者らの検討によれば、導電性フィルムに求められる透明性を向上させるために、例えば、線幅5μm以下の金属細線を使用する場合には、特許文献1に記載されたような多孔質層を用いたとしても、導電性フィルムの曲げや撓み、屈曲等の変形によって生じる、透明基材からの金属細線の剥離に対する抑制効果が不十分であることがわかった。
【0012】
これは、例えば、線幅5μm以下の金属細線では、多孔質層への導電性インクの浸透量が少なく、また、金属細線と透明性基板とが接する面積も少ないため、特許文献1のような構成としても、金属細線と透明性基板との十分な密着性が確保できないことに起因するものと推測される。
【0013】
また、特許文献2は、金属細線を覆う保護膜としての有機膜と金属細線の密着性の向上について開示されているものの、透明導電フィルムに求められる機械的特性、電気的特性、光学的特性等の向上には未だ余地がある。
【0014】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、金属細線の細線化による透明性の向上を享受しながら、機械的特性、電気的特性、光学的特性の少なくともいずれかがさらに向上した導電性フィルム、並びに、それを用いた導電性フィルムロール、電子ペーパー、タッチパネル、及びフラットパネルディスプレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、金属細線を有する導電性フィルムにおいて、金属細線中に、導電性金属原子Mに対してケイ素原子Siを所定量含有することにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明に係る第1実施形態を完成させるに至った。
【0016】
すなわち、本発明に係る第1実施形態は、以下のとおりである。
〔1〕
透明基材と、該透明基材の片面又は両面に配された金属細線パターンからなる導電部と、を有する導電性フィルムであって、
前記金属細線パターンが、金属細線から構成されており、
該金属細線が、導電性金属原子Mとケイ素原子Siとを含み、
前記金属細線の延伸方向に直交する前記金属細線の断面のSTEM-EDX分析において、前記金属細線の最大厚さをTとしたとき、前記透明基材側の前記金属細線界面から0.10T~0.90Tの厚さ領域における、前記導電性金属原子Mに対する前記ケイ素原子Siの原子%比Si/M0.10~0.90が、0.001以上0.070以下である、
導電性フィルム。
〔2〕
前記透明基材側の前記金属細線界面から0.10T~0.25Tの厚さ領域における原子%比Si/M0.10~0.25が、0.001以上0.070以下である、
〔1〕の導電性フィルム。
〔3〕
前記透明基材側の前記金属細線界面から0.75T~0.90Tの厚さ領域における原子%比Si/M0.75~0.90が、0.001以上0.070以下である、
〔1〕又は〔2〕の導電性フィルム。
〔4〕
前記導電性金属原子Mが、金、銀、銅及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を含む、
〔1〕~〔3〕のいずれかの導電性フィルム。
〔5〕
前記金属細線の線幅が、0.1μm以上5.0μm以下である、
〔1〕~〔4〕のいずれかの導電性フィルム。
〔6〕
前記金属細線のアスペクト比が、0.05以上1.00以下である、
〔1〕~〔5〕のいずれかの導電性フィルム。
〔7〕
前記導電性フィルムのシート抵抗が、0.1Ω/sq以上1,000Ω/sq以下である、
〔1〕~〔6〕のいずれかの導電性フィルム。
〔8〕
前記導電性フィルムの可視光透過率が、80%以上100%以下である、
〔1〕~〔7〕のいずれかの導電性フィルム。
〔9〕
前記導電性フィルムのヘイズが、0.01%以上5.00%以下である、
〔1〕~〔8〕のいずれかの導電性フィルム。
〔10〕
前記金属細線パターンの開口率が、80%以上100%未満である、
〔1〕~〔9〕のいずれかの導電性フィルム。
〔11〕
前記金属細線パターンがメッシュパターンである、
〔1〕~〔10〕のいずれかの導電性フィルム。
〔12〕
前記金属細線パターンがラインパターンである、
〔1〕~〔10〕のいずれかの導電性フィルム。
〔13〕
前記透明基材と前記導電部の間に中間層を有する、
〔1〕~〔12〕のいずれかの導電性フィルム。
〔14〕
前記中間層が、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、及びフッ化マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、
〔13〕の導電性フィルム。
〔15〕
〔1〕~〔14〕のいずれかの導電性フィルムを捲回してなる、
導電性フィルムロール。
〔16〕
〔1〕~〔14〕のいずれかの導電性フィルムを備える、
電子ペーパー。
〔17〕
〔1〕~〔14〕のいずれかの導電性フィルムを備える、
タッチパネル。
〔18〕
〔1〕~〔14〕のいずれかの導電性フィルムを備える、
フラットパネルディスプレイ。
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、金属細線の組成を調整することにより、金属細線の屈折率を調整し、これにより透明基材と金属細線との屈折率を近づけることで、さらに透明性が向上することを見出し、本発明に係る第2実施形態を完成させるに至った。
【0018】
すなわち、本発明に係る第2実施形態は、以下のとおりである。
〔1〕
透明基材と、該透明基材の片面又は両面に配された金属細線パターンからなる導電部と、を有する導電性フィルムであって、
前記金属細線パターンが、金属細線から構成されており、
該金属細線が、導電性金属原子Mと酸素原子Oとを含み、
前記金属細線の延伸方向に直交する前記金属細線の断面のSTEM-EDX分析において、前記金属細線の厚さをTとしたとき、前記透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.90Tまでの厚さ領域における前記導電性金属原子Mに対する前記酸素原子Oの原子%比O/M0.10~0.90が、0.01以上1.00以下である、
導電性フィルム。
〔2〕
前記金属細線中の原子%比O/Mが、前記透明基材側から前記金属細線の厚み方向に向かって漸減する、
〔1〕に記載の導電性フィルム。
〔3〕
前記透明基材側の前記金属細線界面から0.75T~0.90Tまでの厚さ領域における原子%比O/M0.75~0.90が、0.25以下である、
〔1〕又は〔2〕に記載の導電性フィルム。
〔4〕
前記透明基材側の前記金属細線界面から0.10T~0.25Tまでの厚さ領域における原子%比O/M0.10~0.25が、0.05以上である、
〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
〔5〕
前記導電性金属原子Mが、銀、銅、及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を含む、
〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
〔6〕
前記金属細線が、酸化第一銅、酸化第二銅、酸化銀、及び酸化アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の金属酸化物を含む、
〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
〔7〕
前記金属細線の線幅が、0.1μm以上5.0μm以下である、
〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
〔8〕
前記金属細線のアスペクト比が、0.05以上1.00以下である、
〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
〔9〕
前記導電性フィルムのシート抵抗が、0.1Ω/sq以上1,000Ω/sq以下である、
〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
〔10〕
前記導電性フィルムの可視光透過率が、80%以上100%以下である、
〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
〔11〕
前記導電性フィルムのヘイズが、0.01%以上5.00%以下である、
〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
〔12〕
前記金属細線パターンの開口率が、80%以上100%未満である、
〔1〕~〔11〕のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
〔13〕
前記金属細線パターンがメッシュパターンである、
〔1〕~〔12〕のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
〔14〕
前記金属細線パターンがラインパターンである、
〔1〕~〔12〕のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
〔15〕
前記透明基材と前記導電部の間に中間層を有する、
〔1〕~〔14〕のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
〔16〕
前記中間層が、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、及びフッ化マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、
〔15〕に記載の導電性フィルム。
〔17〕
前記中間層の屈折率が前記透明基材の屈折率よりも小さく、
前記透明基材側の前記金属細線界面から0.10T~0.25Tまでの厚さ領域における前記金属細線の理論屈折率が前記中間層の屈折率よりも小さい、
〔15〕または〔16〕に記載の導電性フィルム。
〔18〕
〔1〕~〔17〕のいずれか一項に記載の導電性フィルムを捲回してなる、
導電性フィルムロール。
〔19〕
〔1〕~〔17〕のいずれか一項に記載の導電性フィルムを備える、
電子ペーパー。
〔20〕
〔1〕~〔17〕のいずれか一項に記載の導電性フィルムを備える、
タッチパネル。
〔21〕
〔1〕~〔17〕のいずれか一項に記載の導電性フィルムを備える、
フラットパネルディスプレイ。
【0019】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討し実験を重ねた結果、金属細線の断面における導電性金属原子Mと炭素原子Cの原子%比を特定の範囲に調整することで、高い導電性と、透明基材と金属細線との高い密着性を兼ね備える導電性フィルムが得られることを見出し、本発明に係る第3実施形態を完成させるに至ったものである。
【0020】
すなわち、本発明に係る第3実施形態は、以下のとおりである。
〔1〕
透明基材と、該透明基材の片面又は両面に配された金属細線パターンからなる導電部と、を有する導電性フィルムであって、
前記金属細線パターンが、金属細線から構成されており、
該金属細線が、導電性金属原子Mと炭素原子Cとを含み、
前記金属細線の延伸方向に直交する前記金属細線の断面のSTEM-EDX分析において、前記金属細線の厚さをTとしたとき、前記透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.25Tまでの厚さ領域における原子%比C/M0.10~0.25が、0.3以上6.0以下であり、
前記導電性フィルムのシート抵抗が、0.1Ω/sq以上500Ω/sq以下である、
導電性フィルム。
〔2〕
該金属細線が、酸素原子Oをさらに含み、
前記透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.25Tまでの厚さ領域における原子%比O/M0.10~0.25が、0.05以上である、
〔1〕に記載の導電性フィルム。
〔3〕
前記導電性金属原子Mが、金、銀、銅及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を含む、
〔1〕又は〔2〕に記載の導電性フィルム。
〔4〕
前記金属細線の線幅が、0.1μm以上5.0μm以下である、
〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
〔5〕
前記金属細線のアスペクト比が、0.05以上1.00以下である、
〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
〔6〕
前記導電性フィルムの可視光透過率が、80%以上100%以下である、
〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
〔7〕
前記導電性フィルムのヘイズが、0.01%以上5.00%以下である、
〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
〔8〕
前記金属細線パターンの開口率が、80%以上100%未満である、
〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
〔9〕
前記金属細線パターンがメッシュパターンである、
〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
〔10〕
前記金属細線パターンがラインパターンである、
〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
〔11〕
前記透明基材と前記導電部の間に中間層を有する、
〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の導電性フィルム。
〔12〕
前記中間層が酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、及びフッ化マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、
〔11〕に記載の導電性フィルム。
〔13〕
〔1〕~〔12〕のいずれか一項に記載の導電性フィルムを捲回してなる、
導電性フィルムロール。
〔14〕
〔1〕~〔12〕のいずれか一項に記載の導電性フィルムを備える、
電子ペーパー。
〔15〕
〔1〕~〔12〕のいずれか一項に記載の導電性フィルムを備える、
タッチパネル。
〔16〕
〔1〕~〔12〕のいずれか一項に記載の導電性フィルムを備える、
フラットパネルディスプレイ。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、金属細線の細線化による透明性の向上を享受しながら、機械的特性、電気的特性、光学的特性の少なくともいずれかがさらに向上した導電性フィルム、導電性フィルムロール、電子ペーパー、タッチパネル及びフラットパネルディスプレイを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】メッシュパターンを有する第1実施形態~第3実施形態の導電性フィルムの一態様を表す上面図
【
図2】メッシュパターンを有する第1実施形態~第3実施形態の導電性フィルムの別態様を表す上面図
【
図3】ラインパターンを有する第1実施形態~第3実施形態の導電性フィルムの一態様を表す上面図
【
図4】ラインパターンを有する第1実施形態~第3実施形態の導電性フィルムの別態様を表す上面図
【
図5】
図1の導電性フィルムのIII-III’の部分断面図であって、第1実施形態の金属細線の断面を説明するための図面
【
図6】メッシュパターンを有する第1実施形態~第3実施形態の導電性フィルムの開口率とピッチとの関係を説明するための金属細線パターンの上面図
【
図7】ラインパターンを有する第1実施形態~第3実施形態の導電性フィルムの開口率とピッチとの関係を説明するための金属細線パターンの上面図
【
図8】第1実施形態~第3実施形態の導電性フィルムを備える電子ペーパーの一態様を表す上面図
【
図9】第1実施形態~第3実施形態の電子ペーパーのV-V’の部分断面図
【
図10】従来の導電性フィルムを備える電子ペーパーの一態様を表す上面図
【
図11】第1実施形態~第3実施形態の導電性フィルムを備えるタッチパネルの一態様を表す斜視図
【
図12】第1実施形態~第3実施形態の導電性フィルムを備えるタッチパネルの別態様を表す斜視図
【
図13】本実施例のシート抵抗評価に用いられる集電部の概略図
【
図14】
図1の導電性フィルムのIII-III’の部分断面図であって、第2実施形態の金属細線の断面を説明するための図面
【
図15】
図1の導電性フィルムのIII-III’の部分断面図であって、第3実施形態の金属細線の断面を説明するための図面
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。本発明の実施の形態の各数値範囲における上限値及び下限値は任意に組み合わせて任意の数値範囲を構成することができる。
【0024】
<<第1実施形態>>
第1実施形態は、透明性を十分に維持しながら、導電性及び可撓性の両方に優れる導電性フィルム、導電性フィルムロール、電子ペーパー、タッチパネル、及びフラットパネルディスプレイを提供することを目的とする。
【0025】
〔第1実施形態:導電性フィルム〕
第1実施形態の導電性フィルムは、透明基材と、透明基材の片面又は両面に配された金属細線パターンからなる導電部と、を有する導電性フィルムである。前記金属細線パターンは、金属細線から構成されており、金属細線が、導電性金属原子Mとケイ素原子Siとを含み、金属細線の延伸方向に直交する前記金属細線の断面のSTEM-EDX分析において、金属細線の最大厚さをTとしたとき、透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.90Tの厚さ領域における、導電性金属原子Mに対するケイ素原子Siの原子%比Si/M0.10~0.90が、0.001以上0.070以下である。
【0026】
第1実施形態の導電性フィルムは、金属細線中に、導電性金属原子Mに対してケイ素原子Siを所定量含有することにより、導電性及び可撓性に優れる。第1実施形態の導電性フィルムは、可撓性に優れるため、屈曲等の変形による金属細線の断線を抑制できる。金属細線は、例えば、金属粒子が主に分散したインク、又は金属錯体等が溶解又は分散したインクを透明基材上に塗布又は印刷し、塗布又は印刷したインクを乾燥し、焼成することにより形成される。このように形成された金属細線は、導電性金属原子Mを含有するナノ構造体同士が接触及び/又は接合した形態であり、このような形態は、バルクの金属に対して高い比抵抗を有する傾向にある。そして、金属細線の導電性を更に向上させるためには、ナノ構造体同士の接触及び/又は接合を一層強固に形成することが重要である。ここで、本発明者らは、金属に対してケイ素原子Siを所定量添加することにより金属の強度が向上するという知見を得た。この知見に基づいて、本発明者らは、金属細線中に、導電性金属原子Mに対してケイ素原子Siを所定量添加することで、導電性金属原子Mを含有するナノ構造体同士の接触や接合強度が向上し、その結果、導電性フィルムの導電性及び可撓性が向上することを見出した。
【0027】
第1実施形態の導電性フィルムにおいて、原子%比Si/M0.10~0.90が0.001以上であることにより、導電性と可撓性に優れる。第1実施形態の導電性フィルムにおいて、原子%比Si/M0.10~0.90が0.070以下であることにより、ケイ素原子Siが金属細線中の電子伝導を阻害することに起因する導電性の低下を抑制できる。さらに、原子%比Si/M0.10~0.90が0.001以上0.070以下であることにより、ケイ素原子Siを含有することによる電子伝導の低下よりも、ケイ素原子Siを含有することで金属細線中の導電性金属原子M同士の接合が強固になることによる導電性の向上が優位に働き、導電性と可撓性との双方を向上させることができる。このため、第1実施形態の導電性フィルムは、原子%比Si/M0.10~0.90が0.001以上0.070以下であることにより、導電性及び可撓性に優れる。同様の観点から、原子%比Si/M0.10~0.90の下限値は、好ましくは0.003以上、より好ましくは0.005以上である。原子%比Si/M0.10~0.90の上限値は、好ましくは0.065以下、より好ましくは0.063以下である。
【0028】
金属細線中の導電性金属原子Mに対するケイ素原子Siの原子%比Si/Mの上記範囲は、金属細線の厚さ方向に対して均一に存在する、すなわち金属細線の可撓性が断面内で等方的であることが好ましい。これにより、導電性フィルムをあらゆる方向に折り曲げても断線しにくくなる傾向にある。そのため、透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.25Tの厚さ領域における原子%比Si/M0.10~0.25の下限値は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.003以上、さらに好ましくは0.005以上である。原子%比Si/M0.10~0.25の上限値は、好ましくは0.070以下、より好ましくは0.065以下、更に好ましくは0.063以下である。また、透明基材側の金属細線界面から0.75T~0.90Tの厚さ領域における原子%比Si/M0.75~0.90の下限値は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.003以上、さらに好ましくは0.005以上である。原子%比Si/M0.75~0.90の上限値は、好ましくは0.070以下、より好ましくは0.065以下、更に好ましくは0.063以下である。
【0029】
ケイ素化合物としては、(ポリ)シラン類、(ポリ)シラザン類、(ポリ)シルチアン類、(ポリ)シロキサン類、ケイ素、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、塩化ケイ素、ケイ素酸塩、ゼオライト、シリサイド等が挙げられる。これらのポリシラン類、ポリシラザン類、ポリシルチアン類、ポリシロキサン類は、直鎖若しくは分岐状、環状、網目状の形態を有してもよい。これらのケイ素化合物は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0030】
金属細線中に含まれるケイ素原子Siは、ケイ素原子やケイ素化合物の形態で存在していてもよく、ケイ素原子やケイ素化合物と導電性金属原子Mとが結合した形態(例えば、Si-M、Si-O-M等)で存在していてもよい。
【0031】
本明細書における導電性金属原子Mは、金、銀、銅、及びアルミニウムから選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であることが更に好ましく、銀又は銅であることが好ましく、さらに、比較的安価な銅であることが特に好ましい。このような金属元素を用いることにより、導電性フィルムの導電性が一層優れる傾向にある。なお、導電性金属原子Mは、ケイ素原子Siを含まない。
【0032】
本明細書において、金属細線の延伸方向に直交する前記金属細線の断面のSTEM-EDX分析より得られる導電性金属原子Mに対するケイ素原子Siの原子%比Si/M0.10~0.90、Si/M0.10~0.25、及びSi/M0.75~0.90は、それぞれ以下の方法により求められる。なお、後述する金属細線の断面の形成やSTEM-EDX分析は、金属細線断面の酸化やコンタミを防止する観点から、アルゴン等の不活性雰囲気下や真空中で行うことが好ましい。
【0033】
測定サンプルは金属細線の延伸方向に直交する金属細線の断面を含む薄切片とすることが好ましい。そのため、必要に応じて、エポキシ樹脂等の支持体に導電性フィルムを包埋してから後述する方法を用いて薄切片を形成してもよい。金属細線の断面の形成方法は、断面の形成・加工による金属細線断面へのダメージを抑制できる方法であれば特に制限されないが、好ましくはイオンビームを用いた加工法(例えば、BIB(Broad Ion Beam)加工法やFIB(Focused Ion Beam)加工法)や精密機械研磨、ウルトラミクロトーム等を用いることができる。
【0034】
形成した金属細線の断面を走査型透過電子顕微鏡(STEM)により観察し、金属細線の断面のSTEM像を得る。同時に、エネルギー分散型X線分析(EDX)により金属細線の断面の元素マッピングを測定する。
【0035】
金属細線断面のSTEM像より透明基材側の金属細線界面から金属細線表面までの最大の厚さTを算出する。ここでいう「最大の厚さT」は、透明基材側の金属細線界面から金属細線表面までの厚さのうち、最大の厚さをいう。また、透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.90Tの厚さの領域におけるケイ素原子SiのK殻のEDX強度の積算値からSi原子%を算出し、透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.90Tの厚さの領域における導電性金属原子MのK殻のEDX強度の積算値からM原子%を算出し、原子%比Si/M0.10~0.90を算出できる。同様の手法によりSi/M0.10~0.25、及びSi/M0.75~0.90についても算出できる。
【0036】
図1に、第1実施形態の導電性フィルムの一態様として、金属細線パターンがメッシュパターンである導電性フィルムの上面図を示す。第1実施形態の導電性フィルム10は、透明基材11上に、金属細線パターン12からなる導電部13を有する。
【0037】
透明基材11上には、導電部13の他、導電性フィルム10の使用用途に応じてコントローラー等に接続するための取り出し電極(不図示)が形成されていてもよい。なお、透明基材11は片面又は両面に導電部13を有することができ、一方の面に複数の導電部13を有していてもよい。導電部13は、通電または荷電(帯電)させることができるように構成された金属細線パターン12からなる。第1実施形態の導電性フィルム10を電子デバイスに組み入れたときに、導電部13は、電子ペーパー、タッチパネル、及びフラットパネルディスプレイ等の画面部分の透明電極として機能する。
【0038】
〔透明基材〕
透明基材の「透明」とは、可視光透過率が、好ましくは80%以上であることをいい、より好ましくは90%以上であることをいい、さらに好ましくは95%以上であることをいう。ここで、可視光透過率は、JIS K 7361-1:1997に準拠して測定することができる。
【0039】
透明基材の材料としては、特に限定されないが、例えば、ガラス等の透明無機基材;アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、芳香族ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等の透明有機基材が挙げられる。このなかでも、ポリエチレンテレフタレートを用いることにより、導電性フィルムを製造するための生産性(コスト削減効果)がより優れる。また、ポリイミドを用いることにより、導電性フィルムの耐熱性がより優れる。さらに、ポリエチレンテレフタレート及び/又はポリエチレンナフタレートを用いることにより、透明基材と金属細線との密着性がより優れる。
【0040】
透明基材は、1種の材料からなるものであっても、2種以上の材料が積層されたものであってもよい。また、透明基材が、2種以上の材料が積層された多層体である場合、透明基材は、有機基材又は無機基材同士が積層されたものであっても、有機基材及び無機基材が積層されたものであってもよい。
【0041】
透明基材の厚さは、好ましくは5μm以上500μm以下であり、より好ましくは10μm以上100μm以下である。
【0042】
〔中間層〕
また、透明基材と導電部の間に中間層を設けてもよい。中間層に含まれる成分としては、特に限定されないが、例えば、ケイ素化合物(例えば、(ポリ)シラン類、(ポリ)シラザン類、(ポリ)シルチアン類、(ポリ)シロキサン類、ケイ素、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、塩化ケイ素、ケイ素酸塩、ゼオライト、シリサイド等)、アルミニウム化合物(例えば、酸化アルミニウム等)、マグネシウム化合物(例えばフッ化マグネシウム)等が挙げられる。この中でも、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、及びフッ化マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。このような成分を用いることにより、導電性フィルムの透明性及び耐久性がより向上する傾向にあり、導電性フィルムを製造するための生産性(コスト削減効果)がより優れる。中間層は、PVD、CVDなどの気相成膜法や、上記中間層に含まれる成分が分散媒に分散した中間体形成組成物を塗布、乾燥する方法により成膜することができる。中間体形成組成物は、必要に応じて、分散剤、界面活性剤、結着剤等を含有してもよい。
【0043】
中間層の厚さは、好ましくは0.01μm以上500μm以下であり、より好ましくは0.05μm以上300μm以下であり、さらに好ましくは0.10μm以上200μm以下である。中間層の厚みが0.01μm以上であることで、中間層と金属細線の密着性が発現され、中間層の厚みが500μm以下であれば透明基材の可撓性が担保できる。
【0044】
中間層を透明基材上に積層することで、プラズマ等の焼成手段でインク中の金属成分を焼結させる際に、プラズマ等によって金属細線パターン部で被覆されていない箇所の透明基材のエッチングを防ぐことができる。
【0045】
さらにこの中間層は静電気による金属細線パターンの断線を防ぐために、帯電防止機能を持っていることが好ましい。中間層が帯電防止機能を有するために、中間層は導電性無機酸化物及び導電性有機化合物の少なくともいずれかを含むことが好ましい。
【0046】
中間層の体積抵抗率は100Ωcm以上100000Ωcm以下であることが好ましく、1000Ωcm以上10000Ωcm以下であることがより好ましく、2000Ωcm以上8000Ωcm以下であることがさらにより好ましい。中間層の体積抵抗率が100000Ωcm以下であることで、帯電防止機能を発現することができる。また、中間層の体積抵抗率が100Ωcm以上であることで、金属細線パターン間の高電気伝導が好ましくないタッチパネル等の用途に好適に用いることができる。
【0047】
体積抵抗率は、中間層内の導電性無機酸化物や導電性有機化合物等の含有量により調整することができる。例えば、プラズマ耐性の高い酸化ケイ素(体積比抵抗1014Ω・cm以上)と導電性有機化合物である有機シラン化合物を中間層に含む場合、有機シラン化合物の含有量を増やすことで体積抵抗率を低下することができる。一方で、酸化ケイ素の含有量を増やすことで体積抵抗率は増加するが高いプラズマ耐性を有するため薄膜にすることができ、光学的特性を損なうことがない。
【0048】
〔導電部〕
導電部は、透明基材上に配された金属細線から構成される金属細線パターンである。金属細線パターンは規則的なパターンであっても不規則なパターンであってもよい。
【0049】
金属細線は、導電性金属原子Mを含みかつ導電性を担う導電性成分に加え、非導電性成分を含んでもよい。また、非導電性成分としては、特に制限されないが、例えば、金属酸化物や金属化合物、及び有機化合物が挙げられる。なお、これら非導電性成分としては、後述するインクに含まれる成分に由来する成分であって、インクに含まれる成分のうち焼成を経た後の金属細線に残留する金属酸化物、金属化合物、及び有機化合物が挙げられる。導電性成分の含有割合は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上である。導電性成分の含有割合の上限は、特に制限されないが、100質量%である。また、非導電性成分の含有割合は、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。非導電性成分の含有割合の下限は、特に制限されないが、0質量%である。
【0050】
(金属細線パターン)
金属細線パターンは、目的とする電子デバイスの用途に応じて設計することができ、特に限定されないが、例えば、複数の金属細線が網目状に交差して形成されるメッシュパターン(
図1及び2)や、複数の略平行な金属細線が形成されたラインパターン(
図3及び4)が挙げられる。また、金属細線パターンは、メッシュパターンとラインパターンとが組み合わされたものであってもよい。メッシュパターンの網目は、
図1に示されるような正方形又は長方形であっても、
図2に示されるようなひし形等の多角形であってもよい。また、ラインパターンを構成する金属細線は、
図3に示されるような直線であっても、
図4に示されるような曲線であってもよい。さらに、メッシュパターンを構成する金属細線においても、金属細線を曲線とすることができる。
【0051】
第1実施形態の金属細線の線幅Wとは、透明基材11の金属細線パターン12が配された面側から、金属細線14を透明基材11の表面上に投影したときの金属細線14の線幅をいう。
図5を例にすると、台形の断面を有する金属細線14においては、透明基材11と接している金属細線14の面の幅が線幅Wとなる。金属細線パターンの線幅W及び厚さT、0.10T、0.25T、0.75T及び0.90Tは、それぞれ
図5に示されるように定義される。ピッチPは、線幅Wと金属細線間の距離の和である。
【0052】
第1実施形態の該金属細線の線幅Wは、例えば、0.1μm以上5.0μm以下であり、好ましくは0.2μm以上4.0μm以下、より好ましくは0.3μm以上3.0μm以下、さらに好ましくは0.4μm以上2.5μm以下である。金属細線の線幅Wが0.1μm以上であれば、金属細線の導電性を十分に確保できる。また、金属細線表面の酸化や腐食等による導電性の低下を十分に抑制できる。さらに開口率を同じとした場合、金属細線の線幅が細いほど、金属細線の本数を増やすことが可能となる。これにより、導電性フィルムの電界分布がより均一となり、より高解像度の電子デバイスを作製することが可能となる。また、一部の金属細線で断線が生じたとしても、それによる影響を他の金属細線が補うことができる。他方、金属細線の線幅Wが5.0μm以下であれば、金属細線の視認性がより低下し、導電性フィルムの透明性がより向上する傾向にある。
【0053】
金属細線の厚さTは、好ましくは10nm以上1,000nm以下である。厚さTの下限は、より好ましくは50nm以上あり、さらに好ましくは75nm以上である。金属細線の厚さTが10nm以上であることにより、導電性がより向上する傾向にある。また、金属細線表面の酸化や腐食等による導電性の低下を十分に抑制できる傾向にある。他方、金属細線の厚さTが1,000nm以下であることにより、広い視野角において高い透明性を発現できる。
【0054】
(アスペクト比)
金属細線の線幅Wに対する金属細線の厚さTで表されるアスペクト比は、好ましくは0.05以上1.00以下である。アスペクト比の下限は、より好ましくは0.08以上、さらに好ましく0.10以上である。アスペクト比を高くすることにより、透過率を低下させることなく導電性をより向上できる傾向にある。
【0055】
(ピッチ)
金属細線パターンのピッチPは、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは50μm以上であり、さらに好ましくは100μm以上である。金属細線パターンのピッチPが5μm以上であることで、良好な透過率を得ることができる。また、金属細線パターンのピッチPは、好ましくは1,000μm以下であり、より好ましくは500μm以下であり、さらに好ましくは250μm以下である。金属細線パターンのピッチPが1,000μm以下であることにより、導電性をより向上できる傾向にある。なお、金属細線パターンの形状がメッシュパターンである場合には、線幅1μmの金属細線パターンのピッチを200μmとすることにより、開口率99%とすることができる。
【0056】
なお、金属細線パターンの線幅、アスペクト比、及びピッチは、導電性フィルム断面を電子顕微鏡等で見ることにより確認することができる。また、金属細線パターンの線幅とピッチはレーザー顕微鏡や光学顕微鏡でも観察できる。また、ピッチと開口率は後述する関係式を有するため、一方が分かればもう一方を算出することもできる。また、金属細線パターンの線幅、アスペクト比、及びピッチを所望の範囲に調整する方法としては、後述する導電性フィルムの製造方法において用いる版の溝を調整する方法、インク中の金属粒子の平均粒子径を調整する方法等が挙げられる。
【0057】
(開口率)
金属細線パターンの開口率は、好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、特に好ましくは90%以上である。金属細線パターンの開口率を上述の特定値以上とすることにより、導電性フィルムの透過率がより向上する傾向にある。また、金属細線パターンの開口率は、好ましくは100%未満であり、より好ましくは95%以下であり、さらに好ましくは90%以下であり、よりさらに好ましくは80%以下であり、さらにより好ましくは70%以下であり、特に好ましくは60%以下である。金属細線パターンの開口率を上述の特定値以下とすることにより、導電性フィルムの導電性がより向上する傾向にある。金属細線パターンの開口率は、金属細線パターンの形状によっても適正な値が異なる。また、金属細線パターンの開口率は、目的とする電子デバイスの要求性能(透過率及びシート抵抗)に応じて、上記上限値と下限値を適宜組み合わせることができる。
【0058】
なお、「金属細線パターンの開口率」とは、透明基材上の金属細線パターンが形成されている領域について以下の式で算出することができる。透明基材上の金属細線パターンが形成されている領域とは、
図1のSで示される範囲であり、金属細線パターンが形成されていない縁部等は除かれる。
金属細線パターンの開口率
=(1-金属細線パターンの占める面積/透明基材の面積)×100
【0059】
また、開口率とピッチの関係式は、金属細線パターンの形状によって異なるが、以下のように算出することができる。
図6に、パターン単位16を有するメッシュパターン(グリッド(格子)パターン)の模式図を示す。このメッシュパターンの場合、開口率とピッチは下記関係式を有する。
開口率={開口部15の面積/パターン単位16の面積}×100
={((ピッチP1-線幅W1)×(ピッチP2-線幅W2))/(ピッチP1×ピッチP2)}×100
【0060】
また、
図7にラインパターンの模式図を示す。このラインパターンの場合は、開口率とピッチは下記関係式を有する。
開口率={(ピッチP-線幅W)/ピッチP}×100
【0061】
(シート抵抗)
導電性フィルムのシート抵抗は、好ましくは0.1Ω/sq以上1,000Ω/sq以下であり、より好ましくは0.1Ω/sq以上500Ω/sq以下であり、さらに好ましくは0.1Ω/sq以上100Ω/sq以下であり、よりさらに好ましくは0.1Ω/sq以上20Ω/sq以下であり、さらにより好ましくは0.1Ω/sq以上10Ω/sq以下である。導電性フィルムのシート抵抗は、以下の方法により測定できる。
【0062】
先ず、導電性フィルムから金属細線パターンが全面に配された部分を矩形状に切り出し測定サンプルを得る。得られた測定サンプルの両端部に金属細線パターンと電気的に接続されたシート抵抗測定用の集電部を形成し、両端部に設けられた集電部間の電気抵抗R(Ω)を測定する。上述した電気抵抗R(Ω)、及び測定サンプルの集電部間の距離に相当する幅方向の長さL(mm)、奥行方向の長さD(mm)を用いて、次式によりシート抵抗Rs(Ω/sq)を算出できる。
Rs=R/L×D
【0063】
シート抵抗が低いほど電力損失が抑制される傾向にある。そのため、消費電力の少ない電子ペーパー、タッチパネル、及びフラットパネルディスプレイを得ることが可能となる。
【0064】
導電性フィルムのシート抵抗は、金属細線のアスペクト比(高さ)を向上させることにより、低下する傾向にある。また、金属細線を構成する金属材料種の選択によっても調整することが可能である。
【0065】
(可視光透過率)
導電性フィルムの可視光透過率は、好ましくは80%以上100%以下であり、より好ましくは90%以上100%以下である。ここで、可視光透過率は、JIS K 7361-1:1997の全光線透過率に準拠して、その可視光(360~830nm)の範囲の透過率を算出することで測定することができる。
【0066】
導電性フィルムの可視光透過率は、金属細線パターンの線幅を小さくしたり、開口率を向上させたりすることにより、向上する傾向にある。
【0067】
(ヘイズ)
導電性フィルムのヘイズは、好ましくは0.01%以上5.00%以下である。ヘイズの上限はより好ましくは、3.00%以下、さらに好ましくは1.00%以下である。ヘイズの上限が5.00%以下であれば、可視光に対する導電性フィルムの曇りを十分に低減できる。本明細書におけるヘイズは、JIS K 7136:2000のヘイズに準拠して測定することができる。
【0068】
〔第1実施形態:導電性フィルムの製造方法〕
第1実施形態の導電性フィルムの製造方法としては、透明基材上に、金属成分を含むインクを用いてパターンを形成するパターン形成工程と、インクを焼成して金属細線を形成する焼成工程とを有する方法が挙げられる。この場合、第1実施形態の導電性フィルムの製造方法は、パターン形成工程に先立ち、透明基材の表面に中間層を形成する中間層形成工程を含んでもよい。
【0069】
〔中間層形成工程〕
中間層形成工程の具体例としては、PVD、CVD等の気相製膜法を用いて中間層を形成する成分を透明基材の表面に成膜させることにより中間層を形成する方法が挙げられる。中間層形成工程の別の具体例としては、中間層を形成する成分が分散媒に分散してなる中間体形成組成物を透明基材の表面に塗布し、乾燥させることにより中間層を形成する方法が挙げられる。中間層を形成する成分としては、〔中間層〕の項で例示した成分が挙げられる。また、中間層形成組成物は、必要に応じて、分散剤、界面活性剤、結着剤等を含んでもよい。
【0070】
中間層形成工程において、中間層を形成する成分としてケイ素化合物を用いることが好ましい。すなわち、中間層形成工程が、パターン形成工程に先立ち、透明基材の表面にケイ素化合物を含有する中間層を形成する工程であることが好ましい。ケイ素化合物を用いることにより、焼成工程においてケイ素化合物を含む中間層から、ケイ素原子を金属細線に移行させることができるため原子%比Si/Mを所望の範囲内に制御できる傾向にある。ケイ素化合物としては、〔中間層〕の項で例示したケイ素化合物が挙げられる。
【0071】
〔パターン形成工程〕
パターン形成工程は、金属成分を含むインクを用いてパターンを形成する工程である。パターン形成工程は、所望の金属細線パターンの溝を有する版を用いる有版印刷方法であれば特に限定されないが、例えば、転写媒体表面にインクをコーティングする工程と、インクをコーティングした転写媒体表面と、凸版の凸部表面とを対向させて、押圧、接触して、凸版の凸部表面に転写媒体表面上のインクを転移させる工程と、インクをコーティングした転写媒体表面と透明基材の表面とを対向させて、押圧、接触して、転写媒体表面に残ったインクを透明基材の表面に転写する工程とを有する。なお、透明基材に中間層が形成されている場合には、中間層表面にインクが転写される。
【0072】
(インク)
上記パターン形成工程に用いられるインクは、導電性金属原子Mを含有する金属成分と溶剤を含み、必要に応じて、界面活性剤、分散剤、還元剤等を含んでもよい。金属成分は、金属粒子としてインクに含まれていてもよいし、金属錯体としてインクに含まれていてもよい。
【0073】
金属粒子の平均一次粒径は、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは50nm以下であり、さらに好ましくは30nm以下である。また、金属粒子の平均一次粒径の下限は特に制限されないが、1nm以上が挙げられる。金属粒子の平均一次粒径が100nm以下であることにより、得られる金属細線の線幅Wをより細くすることができる。なお、第1実施形態において「平均一次粒径」とは、金属粒子1つ1つ(所謂一次粒子)の粒径をいい、金属粒子が複数個集まって形成される凝集体(所謂二次粒子)の粒径である平均二次粒径とは区別される。
【0074】
金属粒子としては、導電性金属原子Mを含むものであれば、酸化銅等の金属酸化物や金属化合物、コア部が銅でありシェル部が酸化銅であるようなコア/シェル粒子の態様であってもよい。金属粒子の態様は、分散性や焼結性の観点から、適宜決めることができる。
【0075】
パターン形成工程において、原子%比Si/Mを所望の範囲内に制御するために、インクは、ケイ素化合物を含有してもよい。ケイ素化合物としては、〔中間層〕の項で例示したケイ素化合物が挙げられる。
【0076】
ケイ素化合物の含有量は、ケイ素化合物を除くインクの総量100質量部に対して、0.01質量部以上10.0質量部以下であることが好ましく、0.05質量部以上7.5質量部以下であることがより好ましく、0.1質量部以上5.0質量部以下であることが更に好ましい。ケイ素化合物の含有量が上記範囲内であることにより、原子%比Si/Mを所望の範囲内に制御できる傾向にある。
【0077】
界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、フッ素系界面活性剤などが挙げられる。このような界面活性剤を用いることにより、転写媒体(ブランケット)へのインクのコーティング性、コーティングされたインクの平滑性が向上し、より均一な塗膜が得られる傾向にある。なお、界面活性剤は、金属成分を分散可能であり、かつ焼成の際に残留しにくいよう構成されていることが好ましい。
【0078】
また、分散剤としては、特に制限されないが、例えば、金属成分表面に非共有結合又は相互作用をする分散剤、金属成分表面に共有結合をする分散剤が挙げられる。非共有結合又は相互作用をする官能基としてはリン酸基を有する分散剤が挙げられる。このような分散剤を用いることにより、金属成分の分散性がより向上する傾向にある。
【0079】
さらに、溶剤としては、モノアルコール及び多価アルコール等のアルコール系溶剤;アルキルエーテル系溶剤;炭化水素系溶剤;ケトン系溶剤;エステル系溶剤などが挙げられる。これらは単独で使用されてもよく、1種以上で併用されても良い。たとえば、炭素数10以下のモノアルコールと炭素数10以下の多価アルコールとの併用などが挙げられる。このような、溶剤を用いることにより、転写媒体(ブランケット)へのインクのコーティング性、転写媒体から凸版へのインクの転移性、転写媒体から透明基材へのインクの転写性、及び金属成分の分散性がより向上する傾向にある。なお、溶剤は、金属成分を分散可能であり、かつ焼成の際に残留しにくいよう構成されていることが好ましい。
【0080】
第1実施形態の製造方法は、原子%比Si/Mを所望の範囲内に制御するために、パターン形成時、又は焼成前のインクに、ケイ素化合物を含む媒体を接触させることにより、媒体に含まれるケイ素原子やケイ素化合物をインク中に移行させることもできる。
【0081】
〔焼成工程〕
焼成工程では、例えば、透明基材又は中間層の表面に転写されたインク中の金属成分を焼結する。焼成は、金属成分が融着して、金属成分焼結膜を形成することができる方法であれば特に制限されない。焼成は、例えば、焼成炉で行ってもよいし、プラズマ、加熱触媒、紫外線、真空紫外線、電子線、赤外線ランプアニール、フラッシュランプアニール、レーザーなどを用いて行ってもよい。得られる焼結膜が酸化されやすい場合には、非酸化性雰囲気中において焼成することが好ましい。また、インクに含まれ得る還元剤のみで金属酸化物等が還元されにくい場合には、還元性雰囲気で焼成することが好ましい。
【0082】
非酸化性雰囲気とは酸素等の酸化性ガスを含まない雰囲気であり、不活性雰囲気と還元性雰囲気がある。不活性雰囲気とは、例えば、アルゴン、ヘリウム、ネオンや窒素等の不活性ガスで満たされた雰囲気である。また、還元性雰囲気とは、水素、一酸化炭素等の還元性ガスが存在する雰囲気を指す。これらのガスを焼成炉中に充填して密閉系としてインクの塗布膜(分散体塗布膜)を焼成してもよい。また、焼成炉を流通系にしてこれらのガスを流しながら分散体塗布膜を焼成してもよい。分散体塗布膜を非酸化性雰囲気で焼成する場合には、焼成炉中を一旦真空に引いて焼成炉中の酸素を除去し、非酸化性ガスで置換することが好ましい。また、焼成は、加圧雰囲気で行なってもよいし、減圧雰囲気で行なってもよい。
【0083】
焼成温度は、特に制限はないが、好ましくは20℃以上400℃以下であり、より好ましくは50℃以上300℃以下であり、さらに好ましくは80℃以上200℃以下である。焼成温度が400℃以下であることにより、耐熱性の低い基板を使用することができるので好ましい。また、焼成温度が20℃以上であることにより、焼結膜の形成が十分に進行し、導電性が良好となる傾向にあるため好ましい。なお、得られる焼結膜は、金属成分に由来する導電性成分を含み、そのほか、インクに用いた成分や焼成温度に応じて、非導電性成分を含みうる。
【0084】
上記のとおり本発明の第1実施形態によれば、透明性を十分に維持しながら、導電性、及び可撓性の両方に優れる導電性フィルム、導電性フィルムロール、電子ペーパー、タッチパネル及びフラットパネルディスプレイを提供することができる。
【0085】
<<第2実施形態>>
第2実施形態は、より優れた透明性を発揮する導電性フィルム、並びに、それを用いた導電性フィルムロール、電子ペーパー、タッチパネル、及びフラットパネルディスプレイを提供することを目的とする。
【0086】
〔第2実施形態:導電性フィルム〕
第2実施形態の導電性フィルムは、透明基材と、該透明基材の片面又は両面に配された金属細線パターンからなる導電部と、を有する導電性フィルムであって、前記金属細線パターンが、金属細線から構成されており、該金属細線が、導電性金属原子Mと酸素原子Oとを含み、前記金属細線の延伸方向に直交する前記金属細線の断面のSTEM-EDX分析において、前記金属細線の厚さをTとしたとき、前記透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.90Tまでの厚さ領域における前記導電性金属原子Mに対する前記酸素原子Oの原子%比O/M0.10~0.90が、0.01以上1.00以下であることを特徴とする。
【0087】
図1に、第2実施形態の導電性フィルムの一態様として、金属細線パターンがメッシュパターンである導電性フィルムの上面図を示す。第2実施形態の導電性フィルム10は、透明基材11上に、金属細線パターン12からなる導電部13を有する。
【0088】
透明基材11上には、導電部13の他、導電性フィルム10の使用用途に応じてコントローラー等に接続するための取り出し電極(不図示)が形成されていてもよい。なお、透明基材11は片面又は両面に導電部13を有することができ、一方の面に複数の導電部13を有していてもよい。導電部13は、通電または荷電(帯電)させることができるように構成された金属細線パターン12からなる。第2実施形態の導電性フィルム10を電子デバイスに組み入れたときに、導電部13は、電子ペーパー、タッチパネル、及びフラットパネルディスプレイ等の画面部分の透明電極として機能する。
【0089】
このような導電性フィルムにおいて金属細線の線幅を細くすることにより、金属細線の視認性を低下させ、結果として透明性を向上させることができる。しかしながら、金属細線自体が不透明である以上、完全な透明化の達成は困難である。
【0090】
これに対して、第2実施形態によれば、金属細線を構成する、導電性金属原子Mと酸素原子Oの原子%比を調整することにより、金属細線の屈折率を透明基材の屈折率と近づけることができる。金属細線の屈折率を透明基材の屈折率と近づけることで、金属細線と透明基材の屈折率界面で生じる反射もしくは散乱を抑制し、ヘイズを低減することによって、例えば同じ線幅、同じ開口率の金属細線パターンを用いた場合であってもさらなる透明性の向上を図ることができる。さらに、このような金属細線を用いた導電性フィルムは印刷にて作製することができるため、真空蒸着法やスパッタリング法により製膜するITOを用いた導電性フィルムに対して製造における低コスト化、環境負荷低減の観点でも優れる。
【0091】
〔導電部〕
導電部は、透明基材上に配された金属細線から構成される金属細線パターンである。金属細線パターンは規則的なパターンであっても不規則なパターンであってもよい。第2実施形態において、金属細線パターンを構成する金属細線は、比較的に透明基材の屈折率と近い屈折率を有するよう構成される。
【0092】
但し、極めて細く形成される金属細線自体の屈折率を測定することは容易ではないという点に鑑み、第2実施形態においては、当該屈折率の指標として、金属細線の延伸方向に直交する金属細線の断面において、導電性金属原子Mに対する酸素原子Oの原子%比O/Mを所定の割合に規定する。すなわち、金属細線の構成要素として、金属と金属酸化物が支配的であるため、導電性金属原子Mと酸素原子Oが支配的に屈折率を変化させると考えられる。そのため、導電性金属原子Mに対する酸素原子Oの原子%比O/Mを所定の割合に規定する。例えば、導電性金属原子Mが銅であるとした場合、金属細線がすべて銅から構成される場合の屈折率は0.60であり、金属細線がすべて酸化銅から構成される場合の屈折率は2.71となる。したがって、金属細線が銅と酸化銅から構成されるとした場合、その組成比により、屈折率はこの間で調整されるものと考えられる。また、例えば、導電性金属原子Mが銀、アルミニウムであるとした場合、金属細線がすべて、これらの導電性金属原子Mにより構成される場合の屈折率は、それぞれ、0.14(銀)、1.34(アルミニウム)であり、金属細線がすべて導電性金属原子Mの酸化物により構成される場合の屈折率は、それぞれ、2.79(酸化銀)、1.77(酸化アルミニウム)である。したがって、金属細線が銀、アルミニウムのいずれかと、銀、アルミニウムの酸化物から構成されるとした場合、その組成比により、屈折率はこの間で調整されるものと考えられる。なお、このように、構成する原子(又は材料)とその組成比により算出される屈折率値を、第2実施形態では、理論屈折率ともいう。
【0093】
上記のような観点から、原子%比O/M0.10~0.90は、0.01以上1.00以下であり、好ましくは0.02以上0.80以下であり、より好ましくは0.03以上0.75以下である。原子%比O/M0.10~0.90が増加するほど、金属細線の屈折率がより向上し、原子%比O/M0.10~0.90が減少するほど金属細線の屈折率がより低下する。これによって、金属細線の屈折率が透明基材の屈折率に近づき、透明性がより向上する。また、原子%比O/M0.10~0.90が減少するほど、酸化物の割合が減少するため、導電性がより向上する傾向にある。原子%比O/M0.10~0.90が0.01以上であることにより、透明性が向上する。他方、原子%比O/M0.10~0.90が1.00以下であることにより、良好な透明性を維持しながら、高い導電性を発現できる。
【0094】
金属細線の断面内における酸素原子Oの偏在性及び均一性については、特に制限されず、酸素原子Oは金属細線断面中におよそ一様に分布していてもよいし、例えば、透明基材側の金属細線の界面に偏在していてもよいし、金属細線の表面側(透明基材側とは反対側)に偏在していてもよい。このなかでも、金属細線中の原子%比O/Mは、透明基材側から金属細線の厚み方向に向かって漸減する傾向を有することが好ましい。このような構成とすることにより、透明性がより向上する傾向にある。
【0095】
この原理としては特に制限されないが、例えば、屈折率の異なる複数の層を積層することにより、その反射率等の光学特性を制御するフィルムをモデルとして考えることができる。すなわち、第2実施形態の導電性フィルムにおいては、透明基材側から金属細線の厚み方向に向かって原子%比O/Mが漸減する金属細線を、このモデルにおける屈折率の異なる複数の層と近似するものとして、考慮することができる。但し、原理はこれに限定されるものではない。
【0096】
酸素原子Oの偏在性及び均一性は、特定の厚さ領域における原子%比O/Mを用いて表すことができる。例えば、透明基材側の金属細線界面から0.75T~0.90Tまでの厚さ領域における原子%比O/Mを原子%比O/M0.75~0.90とするとき、原子%比O/M0.75~0.90は金属細線の表面側の領域に存在する酸素原子Oの割合を示す指標となる。このような原子%比O/M0.75~0.90は、好ましくは0.25以下であり、より好ましくは0.22以下であり、さらに好ましくは0.18以下である。原子%比O/M0.75~0.90が0.25以下であることにより、導電性がより向上する傾向にある。なお、第2実施形態において、Tとは、透明基材側の金属細線界面から金属細線表面までの厚さのうち、最大の厚さを意味し、電子顕微鏡写真より測定することができる。なお、原子%比O/M0.75~0.90の最小値は、導電性を向上させる観点から、0であってよい。
【0097】
また、透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.25Tまでの厚さ領域における原子%比O/Mを原子%比O/M0.10~0.25とするとき、原子%比O/M0.10~0.25は透明基材側の金属細線の界面側の領域に存在する酸素原子Oの割合を示す指標となる。このような原子%比O/M0.10~0.25は、好ましくは0.05以上であり、より好ましくは0.06以上であり、さらに好ましくは0.07以上である。原子%比O/M0.10~0.25が0.05以上であることにより、透明性がより向上する傾向にある。また、原子%比O/M0.10~0.25は、好ましくは1.10以下であり、より好ましくは1.00以下であり、さらに好ましくは0.95以下である。原子%比O/M0.10~0.25が1.10以下であることにより、導電性がより向上する傾向にある。
【0098】
第2実施形態において、原子%比O/M0.10~0.90、原子%比O/M0.75~0.90、及び原子%比O/M0.10~0.25は、金属細線の延伸方向に直交する金属細線の断面のSTEM-EDX分析より求めることができる。具体的には、金属細線の延伸方向に直交する方向に金属細線を切断し、金属細線の断面が露出した薄切片を測定サンプルとして得る。この際、必要に応じて、エポキシ樹脂等の支持体に導電性フィルムを包埋してから薄切片を形成してもよい。金属細線の断面の形成方法は、断面の形成・加工による金属細線断面へのダメージを抑制できる方法であれば特に制限されないが、好ましくはイオンビームを用いた加工法(例えば、BIB(Broad Ion Beam)加工法やFIB(Focused Ion Beam)加工法)や精密機械研磨、ウルトラミクロトーム等を用いることができる。
【0099】
次いで、上記のようにして得られた測定サンプルを走査型透過電子顕微鏡(STEM)により観察し、金属細線の断面のSTEM像を得る。同時に、エネルギー分散型X線分析(EDX)により金属細線の断面の元素マッピングをする。具体的には、断面の箇所ごとに酸素原子OのK殻のEDX強度と、導電性金属原子MのK殻のEDX強度を測定する。この操作を金属細線の断面のうち、少なくとも透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.90Tまでの厚さ領域に対して行い、この領域における酸素原子OのK殻のEDX強度の積算値と導電性金属原子MのK殻のEDX強度の積算値を算出し、これら積算値の比を原子%比O/M0.10~0.90として得る。また、原子%比O/M0.75~0.90や原子%比O/M0.10~0.25については、対象とする厚さ領域において、同様の手法により積算値の比を求める。
【0100】
なお、ここで厚さ領域を規定する、厚さTとは、金属細線断面のSTEM像より確認できる、透明基材側の金属細線界面から金属細線表面までの厚さのうち、最大の厚さをいう。したがって、金属細線の同一断面内で表面粗さ等により特定個所において厚さが異なるような場合であっても、その断面における最大厚さが厚さTとなる。なお、上記金属細線の断面の形成やSTEM-EDX分析は、金属細線断面の酸化やコンタミを防止する観点から、アルゴン等の不活性雰囲気下や真空中で行うことが好ましい。
【0101】
以上のように、原子%比O/M0.10~0.90や、好ましくはさらに原子%比O/M0.75~0.90、原子%比O/M0.10~0.25を特定の範囲に調整することで、導電性フィルムの透明性を向上させることができる。
【0102】
原子%比O/M0.10~0.90、原子%比O/M0.75~0.90、原子%比O/M0.10~0.25の各値は、特に制限されないが、例えば、金属細線を形成する際の焼成条件を調整することにより、その増減を制御することができる。金属細線は、透明基材上に金属成分を含むインクを用いてパターンを形成し、これを焼成して金属成分同士を結合させることにより形成することができる。この焼成工程において金属成分は、酸化又は還元条件下において、拡散、凝集しながら近傍の金属成分と融着し、金属成分焼結膜を形成していくと考えられる。そのため、焼成雰囲気、並びに、焼成時のエネルギー(例えば、熱、プラズマ、電子線や光源の照射エネルギー)や焼成時間を調整することで金属成分の酸化及び還元を調整し、これにより金属細線全体の原子%比O/Mや、酸化又は還元の影響を受けやすい金属細線の表面部分の原子%比O/M0.75~0.90、酸化又は還元の影響を受けにくい金属細線と透明基材界面の原子%比O/M0.10~0.25を調整することができる。
【0103】
また、後述する第3実施形態に記載するように、第2実施形態における金属細線パターンを構成する金属細線は、金属細線の延伸方向に直交する金属細線の断面において、透明基材側の金属細線界面に炭素原子が偏在する構成をさらに有してもよい。
【0104】
第3実施形態に記載するとおり、この偏在性は、金属細線の延伸方向に直交する金属細線の断面のSTEM-EDX分析において、金属細線の厚さをTとしたとき、透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.25Tまでの厚さ領域における原子%比C/M0.10~0.25により示す。
【0105】
第2実施形態における原子%比C/M0.10~0.25は、0.3以上6.0以下であり、好ましくは0.4以上5.0以下である。原子%比C/M0.10~0.25が0.3以上であることにより、透明基材に対する金属細線の密着性がより向上する。また、原子%比C/M0.10~0.25が6.0以下であることにより、導電性がより向上するほか、導電性金属原子M同士、より具体的には金属成分間の結合がより強固となり、金属細線の強度が向上する。
【0106】
また、上記と同様の観点から、透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.25Tまでの厚さ領域における原子%比O/M0.10~0.25は、好ましくは0.05以上であり、より好ましくは0.06以上であり、さらに好ましくは0.07以上である。原子%比O/M0.10~0.25が0.05以上であることにより、透明基材に対する金属細線の密着性がより向上する傾向にある。また、原子%比O/M0.10~0.25は、好ましくは1.10以下であり、より好ましくは1.00以下であり、さらに好ましくは0.95以下である。原子%比O/M0.10~0.25が1.10以下であることにより、導電性がより向上する傾向にある。
【0107】
原子%比C/M0.10~0.25及び原子%比O/M0.10~0.25の測定方法、並びに、原子%比C/M0.10~0.25及び原子%比O/M0.10~0.25の各値の調整方法は、第3実施形態に詳説する。
【0108】
以上のように、原子%比C/M0.10~0.25や、好ましくはさらに原子%比O/M0.10~0.25を特定の範囲に調整することで、高い導電性を維持しながら、密着性を向上させることができ、導電性フィルムの曲げ、撓み、屈曲等の変形による透明基材からの金属細線の剥離を抑制することができる。また、これにより、細い金属細線を用いることが可能となるため低い視認性が維持される。
【0109】
前述した第1実施形態に記載するように、第2実施形態における金属細線パターンを構成する金属細線は、導電性と可撓性の向上を目的として、原子%比Si/M0.10~0.90が0.001以上0.070以下であってもよい。原子%比Si/M0.10~0.90の下限値は、好ましくは0.003以上、より好ましくは0.005以上である。原子%比Si/M0.10~0.90の上限値は、好ましくは0.065以下、より好ましくは0.063以下である。
【0110】
さらに、透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.25Tの厚さ領域における原子%比Si/M0.10~0.25の下限値は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.003以上、さらに好ましくは0.005以上である。原子%比Si/M0.10~0.25の上限値は、好ましくは0.070以下、より好ましくは0.065以下、更に好ましくは0.063以下である。また、透明基材側の金属細線界面から0.75T~0.90Tの厚さ領域における原子%比Si/M0.75~0.90の下限値は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.003以上、さらに好ましくは0.005以上である。原子%比Si/M0.75~0.90の上限値は、好ましくは0.070以下、より好ましくは0.065以下、更に好ましくは0.063以下である。これにより、導電性フィルムをあらゆる方向に折り曲げても断線しにくくなる傾向にある。
【0111】
導電性金属原子Mは、銀、銅、及びアルミニウムから選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を含むことが更に好ましく、銀又は銅であることが好ましく、さらに、比較的安価な銅であることが特に好ましい。このような金属元素を用いることにより、導電性フィルムの導電性が一層優れる傾向にある。
【0112】
また、酸素原子Oは、金属酸化物を構成する酸素原子として金属細線に含まれ得る。このような金属酸化物としては、特に制限されないが、例えば、酸化第一銅、酸化第二銅、酸化銀、及び酸化アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種以上が挙げられる。このなかでも、製造プロセスの観点から、金属酸化物を構成する金属原子が導電性金属原子Mと一致することが好ましい。
【0113】
さらに、金属細線は、導電性金属原子Mを含みかつ導電性を担う導電性成分に加え、非導電性成分を含んでもよい。非導電性成分としては、特に制限されないが、例えば、上記金属酸化物のほか、金属化合物や、後述するインクに含まれる成分に由来する成分であって、インクに含まれる成分のうち焼成を経た後の金属細線に残留する有機化合物が挙げられる。導電性成分の含有割合は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上である。導電性成分の含有割合の上限は、特に制限されないが、100質量%である。また、非導電性成分の含有割合は、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。非導電性成分の含有割合の下限は、特に制限されないが、0質量%である。
【0114】
透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.25Tまでの厚さ領域における金属細線の理論屈折率は、好ましくは0.30~1.45であり、より好ましくは0.40~1.35であり、さらに好ましくは0.50~1.30である。金属細線の理論屈折率が上記範囲内であることにより、透明性がより向上する傾向にある。金属細線の理論屈折率は、上記のとおり、構成する原子(又は材料)とその組成比により算出される屈折率値である。
【0115】
(金属細線パターン)
金属細線パターンは、目的とする電子デバイスの用途に応じて設計することができ、特に限定されないが、例えば、複数の金属細線が網目状に交差して形成されるメッシュパターン(
図1及び2)や、複数の略平行な金属細線が形成されたラインパターン(
図3及び4)が挙げられる。また、金属細線パターンは、メッシュパターンとラインパターンとが組み合わされたものであってもよい。メッシュパターンの網目は、
図1に示されるような正方形又は長方形であっても、
図2に示されるようなひし形等の多角形であってもよい。また、ラインパターンを構成する金属細線は、
図3に示されるような直線であっても、
図4に示されるような曲線であってもよい。さらに、メッシュパターンを構成する金属細線においても、金属細線を曲線とすることができる。
【0116】
第2実施形態の金属細線の線幅Wとは、透明基材11の金属細線パターン12が配された面側から、金属細線14を透明基材11の表面上に投影したときの金属細線14の線幅をいう。
図14に
図1の導電性フィルムのIII-III’の部分断面図を示す。この
図14を例にすると、台形の断面を有する金属細線14においては、透明基材11と接している金属細線14の面の幅が線幅Wとなる。また、金属細線の厚さTは表面粗さを考慮した場合の最大厚さを意味し、ピッチPは、線幅Wと金属細線間の距離の和を意味する。
【0117】
(線幅)
金属細線の線幅Wは、例えば、好ましくは0.1μm以上5.0μm以下であり、より好ましくは0.2μm以上4.0μm以下であり、さらに好ましくは0.3μm以上3.0μm以下であり、よりさらに好ましくは0.4μm以上2.5μm以下である。金属細線の線幅Wが0.1μm以上であることにより、導電性がより向上する傾向にある。また、金属細線表面の酸化や腐食等による導電性の低下を十分に抑制できる傾向にある。さらに、開口率を同じとした場合、金属細線の線幅が細いほど、金属細線の本数を増やすことが可能となる。これにより、導電性フィルムの電界分布がより均一となり、より高解像度の電子デバイスを作製することが可能となる。また、一部の金属細線で断線が生じたとしても、それによる影響を他の金属細線が補うことができる。他方、金属細線Wの線幅が5.0μm以下であることにより、金属細線の視認性がより低下し、導電性フィルムの透明性がより向上する傾向にある。
【0118】
金属細線の厚さTは、好ましくは10nm以上1,000nm以下である。厚さTの下限は、より好ましくは50nm以上あり、さらに好ましくは75nm以上である。金属細線の厚さTが10nm以上であることにより、導電性がより向上する傾向にある。また、金属細線表面の酸化や腐食等による導電性の低下を十分に抑制できる傾向にある。他方、金属細線の厚さTが1,000nm以下であることにより、広い視野角において高い透明性を発現できる。
【0119】
(アスペクト比)
金属細線の線幅Wに対する金属細線の厚さTで表されるアスペクト比は、好ましくは0.05以上1.00以下である。アスペクト比の下限は、より好ましくは0.08以上、さらに好ましく0.10以上である。アスペクト比が0.05以上であることにより、透過率を低下させることなく、導電性をより向上できる傾向にある。
【0120】
(ピッチ)
金属細線パターンのピッチPは、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは50μm以上であり、さらに好ましくは100μm以上である。金属細線パターンのピッチPが5μm以上であることで、良好な透過率を得ることができる。また、金属細線パターンのピッチPは、好ましくは1,000μm以下であり、より好ましくは500μm以下であり、さらに好ましくは250μm以下である。金属細線パターンのピッチPが1,000μm以下であることにより、導電性をより向上できる傾向にある。なお、金属細線パターンの形状がメッシュパターンである場合には、線幅1μmの金属細線パターンのピッチを200μmとすることにより、開口率99%とすることができる。
【0121】
なお、金属細線パターンの線幅、アスペクト比、及びピッチは、導電性フィルム断面を電子顕微鏡等で見ることにより確認することができる。また、金属細線パターンの線幅とピッチはレーザー顕微鏡や光学顕微鏡でも観察できる。また、ピッチと開口率は後述する関係式を有するため、一方が分かればもう一方を算出することもできる。また、金属細線パターンの線幅、アスペクト比、及びピッチを所望の範囲に調整する方法としては、後述する導電性フィルムの製造方法において用いる版の溝を調整する方法、インク中の金属粒子の平均粒子径を調整する方法等が挙げられる。
【0122】
(開口率)
金属細線パターンの開口率の下限値は、好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、特に好ましくは90%以上である。金属細線パターンの開口率を上述の特定値以上とすることにより、導電性フィルムの透過率がより向上する傾向にある。また、金属細線パターンの開口率の上限値は、好ましくは100%未満であり、より好ましくは95%以下であり、さらに好ましくは90%以下であり、よりさらに好ましくは80%以下であり、さらにより好ましくは70%以下であり、特に好ましくは60%以下である。金属細線パターンの開口率を上述の特定値以下とすることにより、導電性フィルムの導電性がより向上する傾向にある。金属細線パターンの開口率は、金属細線パターンの形状によっても適正な値が異なる。また、金属細線パターンの開口率は、目的とする電子デバイスの要求性能(透過率及びシート抵抗)に応じて、上記上限値と下限値を適宜組み合わせることができる。
【0123】
なお、「金属細線パターンの開口率」とは、透明基材上の金属細線パターンが形成されている領域について以下の式で算出することができる。透明基材上の金属細線パターンが形成されている領域とは、
図1のSで示される範囲であり、金属細線パターンが形成されていない縁部等は除かれる。
開口率=(1-金属細線パターンの占める面積/透明基材の面積)×100
【0124】
また、開口率とピッチの関係式は、金属細線パターンの形状によって異なるが、以下のように算出することができる。
図6に、パターン単位16を有するメッシュパターン(グリッド(格子)パターン)の模式図を示す。このメッシュパターンの場合、開口率とピッチは下記関係式を有する。
開口率={開口部15の面積/パターン単位16の面積}×100
={((ピッチP1-線幅W1)×(ピッチP2-線幅W2))/(ピッチP1×ピッチP2)}×100
【0125】
また、
図7にラインパターンの模式図を示す。このラインパターンの場合は、開口率とピッチは下記関係式を有する。
開口率={(ピッチP-線幅W)/ピッチP}×100
【0126】
(シート抵抗)
導電性フィルムのシート抵抗は、好ましくは0.1Ω/sq以上1,000Ω/sq以下であり、より好ましくは0.1Ω/sq以上500Ω/sq以下であり、さらに好ましくは0.1Ω/sq以上100Ω/sq以下であり、よりさらに好ましくは0.1Ω/sq以上20Ω/sq以下であり、さらにより好ましくは0.1Ω/sq以上10Ω/sq以下である。シート抵抗が低いほど電力損失が抑制される傾向にある。そのため、シート抵抗の低い導電性フィルムを用いることにより、消費電力の少ない電子ペーパー、タッチパネル、及びフラットパネルディスプレイを得ることが可能となる。導電性フィルムのシート抵抗は、以下の方法により測定できる。
【0127】
図13にシート抵抗の測定方法を説明するための斜視図を示す。先ず、導電性フィルムから金属細線パターンが全面に配された部分を矩形状に切り出して、測定サンプルを得る。得られた測定サンプルの両端部に金属細線パターンと電気的に接続されたシート抵抗測定用の集電部を形成し、集電部間の電気抵抗R(Ω)を測定する。得られた電気抵抗R(Ω)、及び測定サンプルの集電部間の距離L(mm)、奥行方向の長さD(mm)を用いて、次式によりシート抵抗R
s(Ω/sq)を算出することができる。
R
s=R/L×D
【0128】
導電性フィルムのシート抵抗は、金属細線のアスペクト比(厚さ)の増加にともない、低下する傾向にある。また、金属細線を構成する金属材料種の選択によっても調整することが可能である。
【0129】
シート抵抗が低いほど電力損失が抑制される傾向にある。そのため、消費電力の少ない電子ペーパー、タッチパネル、及びフラットパネルディスプレイを得ることが可能となる。
【0130】
(可視光透過率)
導電性フィルムの可視光透過率は、好ましくは80%以上100%以下であり、より好ましくは90%以上100%以下である。ここで、可視光透過率は、JIS K 7361-1:1997の全光線透過率に準拠して、その可視光(360~830nm)の範囲の透過率を算出することで測定することができる。
【0131】
導電性フィルムの可視光透過率は、金属細線パターンの線幅を小さくしたり、開口率を向上させたりすることにより、より向上する傾向にある。
【0132】
(ヘイズ)
導電性フィルムのヘイズは、好ましくは0.01%以上5.00%以下である。ヘイズの上限はより好ましくは、3.00%以下、さらに好ましくは1.00%以下である。ヘイズの上限が5.00%以下であれば、可視光に対する導電性フィルムの曇りを十分に低減できる。本明細書におけるヘイズは、JIS K 7136:2000のヘイズに準拠して測定することができる。
【0133】
〔透明基材〕
透明基材の「透明」とは、可視光透過率が、好ましくは80%以上であることをいい、より好ましくは90%以上であることをいい、さらに好ましくは95%以上であることをいう。ここで、可視光透過率は、JIS K 7361-1:1997に準拠して測定することができる。
【0134】
透明基材の屈折率は、好ましくは1.50~1.80であり、より好ましくは1.50~1.60であり、さらに好ましくは1.55~1.58である。透明基材の屈折率が上記範囲内であることにより、透明性がより向上する傾向にある。透明基材の屈折率は、JIS K 7142:2014に準じて測定することができる。
【0135】
透明性の観点から、透明基材、金属細線がこの順に積層される場合、その屈折率は段階的に小さくなることが好ましい。この観点から、透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.25Tまでの厚さ領域における金属細線の理論屈折率は、透明基材の屈折率よりも小さいことが好ましい。
【0136】
透明基材の材料としては、特に限定されないが、例えば、ガラス等の透明無機基材;アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、芳香族ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等の透明有機基材が挙げられる。このなかでも、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、又はポリエチレンナフタレートが好ましい。ポリエチレンテレフタレートを用いることにより、導電性フィルムを製造するための生産性(コスト削減効果)がより優れ、また、透明基材と金属細線との密着性がより向上する傾向にある。また、ポリイミドを用いることにより、導電性フィルムの耐熱性がより向上する傾向にある。さらに、ポリエチレンナフタレート及び/又はポリエチレンテレフタレートを用いることにより、透明基材と金属細線との密着性がより優れる傾向にある。
【0137】
透明基材は、1種の材料からなるものであっても、2種以上の材料が積層されたものであってもよい。また、透明基材が2種以上の材料が積層された多層体である場合には、該透明基材は有機基材又は無機基材同士が積層されたものであっても、有機基材及び無機基材が積層されたものであってもよい。
【0138】
透明基材の厚さは、好ましくは5μm以上500μm以下であり、より好ましくは10μm以上100μm以下である。
【0139】
〔中間層〕
第2実施形態の導電性フィルムは、透明基材と導電部の間に中間層を有していてもよい。該中間層は、透明基材と導電部の金属細線との密着性の向上に寄与しうる。
【0140】
中間層に含まれる成分としては、特に制限されないが、例えば、(ポリ)シラン類、(ポリ)シラザン類、(ポリ)シルチアン類、(ポリ)シロキサン類、ケイ素、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、塩化ケイ素、ケイ素酸塩、ゼオライト、シリサイド等のケイ素化合物;酸化アルミニウム等のアルミニウム化合物;フッ化マグネシウム等のマグネシウム化合物等が挙げられる。このなかでも、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、及びフッ化マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。このような成分を用いることにより、導電性フィルムの透明性及び耐久性がより向上する傾向にあり、導電性フィルムを製造するための生産性(コスト削減効果)がより優れる。
【0141】
中間層の屈折率は、好ましくは1.30~1.80であり、より好ましくは1.40~1.70であり、さらに好ましくは1.45~1.55である。中間層の屈折率が上記範囲内であることにより、透明性がより向上する傾向にある。中間層の屈折率は、JIS K 7142:2014に準じて測定することができる。
【0142】
透明性の観点から、透明基材、中間層、金属細線がこの順に積層される場合、その屈折率は段階的に小さくなることが好ましい。この観点から、中間層の屈折率は、透明基材の屈折率よりも小さいことが好ましい。また、透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.25Tまでの厚さ領域における金属細線の理論屈折率は、中間層の屈折率よりも小さいことが好ましい。
【0143】
中間層の厚さは、好ましくは0.01μm以上500μm以下であり、より好ましくは0.05μm以上300μm以下であり、さらに好ましくは0.10μm以上200μm以下である。中間層の厚みが0.01μm以上であることで、中間層と金属細線の密着性が発現され、中間層の厚みが500μm以下であれば透明基材の可撓性が担保できる。
【0144】
中間層を透明基材上に積層することで、プラズマ等の焼成手段でインク中の金属成分を焼結させる際に、プラズマ等によって金属細線パターン部で被覆されていない箇所の透明基材のエッチングを防ぐことができる。
【0145】
さらにこの中間層は静電気による金属細線パターンの断線を防ぐために、帯電防止機能を持っていることが好ましい。中間層が帯電防止機能を有するために、中間層は導電性無機酸化物及び導電性有機化合物の少なくともいずれかを含むことが好ましい。
【0146】
中間層の体積抵抗率は100Ωcm以上100000Ωcm以下であることが好ましく、1000Ωcm以上10000Ωcm以下であることがより好ましく、2000Ωcm以上8000Ωcm以下であることがさらにより好ましい。中間層の体積抵抗率が100000Ωcm以下であることで、帯電防止機能を発現することができる。また、中間層の体積抵抗率が100Ωcm以上であることで金属細線パターン間の高電気伝導が好ましくないタッチパネル等の用途に好適に用いることができる。
【0147】
体積抵抗率は、中間層内の導電性無機酸化物や導電性有機化合物等の含有量により調整することができる。例えば、プラズマ耐性の高い酸化ケイ素(体積比抵抗1014Ω・cm以上)と導電性有機化合物である有機シラン化合物を中間層に含む場合、有機シラン化合物の含有量を増やすことで体積抵抗率を低下することができる。一方で、酸化ケイ素の含有量を増やすことで体積抵抗率は増加するが高いプラズマ耐性を有するため薄膜にすることができ、光学的特性を損なうことがない。
【0148】
〔第2実施形態:導電性フィルムの製造方法〕
第2実施形態の導電性フィルムの製造方法は、特に制限されないが、例えば、透明基材上に金属成分を含むインクを用いてパターンを形成するパターン形成工程と、該パターンを焼成して金属細線を形成する焼成工程と、を有する方法が挙げられる。また、第2実施形態の導電性フィルムの製造方法は、パターン形成工程に先立ち、透明基材の表面に中間層を形成する中間層形成工程を含んでもよい。
【0149】
〔中間層形成工程〕
中間層形成工程は、透明基材の表面に中間層を形成する工程である。中間層の形成方法としては、特に制限されないが、例えば、物理蒸着法(PVD)、化学蒸着法(CVD)などの気相成膜法により、透明基材表面に蒸着膜を形成する方法;透明基材表面に中間層形成用組成物を塗布し、乾燥することで塗膜を形成する方法が挙げられる。
【0150】
中間層形成用組成物は、上記中間層に含まれる成分として例示した成分あるいはその前駆体と、溶剤とを含み、必要に応じて、界面活性剤、分散剤、結着剤等を含有してもよい。
【0151】
〔パターン形成工程〕
パターン形成工程は、金属成分を含むインクを用いてパターンを形成する工程である。パターン形成工程は、所望の金属細線パターンの溝を有する版を用いる有版印刷方法であれば特に限定されないが、例えば、転写媒体表面にインクをコーティングする工程と、インクをコーティングした転写媒体表面と、凸版の凸部表面とを対向させて、押圧、接触して、凸版の凸部表面に転写媒体表面上のインクを転移させる工程と、インクをコーティングした転写媒体表面と透明基材の表面とを対向させて、押圧、接触して、転写媒体表面に残ったインクを透明基材の表面に転写する工程とを有する。なお、透明基材に中間層が形成されている場合には、中間層表面にインクが転写される。
【0152】
(インク)
上記パターン形成工程に用いられるインクは、導電性金属原子Mを含有する金属成分と溶剤を含み、必要に応じて、界面活性剤、分散剤、還元剤等を含んでもよい。金属成分は、金属粒子としてインクに含まれていてもよいし、金属錯体としてインクに含まれていてもよい。
【0153】
金属粒子を用いる場合、その平均一次粒径は、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは50nm以下であり、さらに好ましくは30nm以下である。また、金属粒子の平均一次粒径の下限は特に制限されないが、1nm以上が挙げられる。金属粒子の平均一次粒径が100nm以下であることにより、得られる金属細線の線幅Wをより細くすることができる。なお、第2実施形態において「平均一次粒径」とは、金属粒子1つ1つ(所謂一次粒子)の粒径をいい、金属粒子が複数個集まって形成される凝集体(所謂二次粒子)の粒径である平均二次粒径とは区別される。
【0154】
金属粒子としては、導電性金属原子Mを含むものであれば、酸化銅等の金属酸化物や金属化合物、コア部が銅でありシェル部が酸化銅であるようなコア/シェル粒子の態様であってもよい。金属粒子の態様は、分散性や焼結性の観点から、適宜決めることができる。
【0155】
界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、シリコーン系界面活性剤やフッ素系界面活性剤などが挙げられる。このような界面活性剤を用いることにより、転写媒体(ブランケット)へのインクのコーティング性、コーティングされたインクの平滑性が向上し、より均一な塗膜が得られる傾向にある。なお、界面活性剤は、金属成分を分散可能であり、かつ焼成の際に残留しにくいよう構成されていることが好ましい。
【0156】
また、分散剤としては、特に制限されないが、例えば、金属成分に非共有結合又は相互作用をする分散剤、金属成分に共有結合をする分散剤が挙げられる。非共有結合又は相互作用をする官能基としてはリン酸基を有する分散剤が挙げられる。このような分散剤を用いることにより、金属成分の分散性がより向上する傾向にある。
【0157】
さらに、溶剤としては、モノアルコール及び多価アルコール等のアルコール系溶剤;アルキルエーテル系溶剤;炭化水素系溶剤;ケトン系溶剤;エステル系溶剤などが挙げられる。これらは単独で使用されてもよく、1種以上で併用されても良い。たとえば、炭素数10以下のモノアルコールと炭素数10以下の多価アルコールとの併用などが挙げられる。このような、溶剤を用いることにより、転写媒体(ブランケット)へのインクのコーティング性、転写媒体から凸版へのインクの転移性、転写媒体から透明基材へのインクの転写性、及び金属成分の分散性がより向上する傾向にある。なお、溶剤は、金属成分を分散可能であり、かつ焼成の際に残留しにくいよう構成されていることが好ましい。
【0158】
〔焼成工程〕
焼成工程は、透明基材又は中間層の表面にパターンに転写されたインク中の金属成分を焼成して金属細線を形成する工程であり、これにより、インクを塗布したパターンと同様の金属細線パターンを有する導電部を得ることができる。焼成は、金属成分が融着して、金属成分焼結膜を形成することができる方法であれば特に制限されない。焼成は、例えば、焼成炉で行ってもよいし、プラズマ、加熱触媒、紫外線、真空紫外線、電子線、赤外線ランプアニール、フラッシュランプアニール、レーザーなどを用いて行ってもよい。得られる焼結膜が酸化されやすい場合には、非酸化性雰囲気中において焼成することが好ましい。また、インクに含まれ得る還元剤のみで金属酸化物等が還元されにくい場合には、還元性雰囲気で焼成することが好ましい。
【0159】
非酸化性雰囲気とは酸素等の酸化性ガスを含まない雰囲気であり、不活性雰囲気と還元性雰囲気がある。不活性雰囲気とは、例えば、アルゴン、ヘリウム、ネオンや窒素等の不活性ガスで満たされた雰囲気である。また、還元性雰囲気とは、水素、一酸化炭素等の還元性ガスが存在する雰囲気を指す。これらのガスを焼成炉中に充填して密閉系としてインクの塗布膜(分散体塗布膜)を焼成してもよい。また、焼成炉を流通系にしてこれらのガスを流しながら塗布膜を焼成してもよい。塗布膜を非酸化性雰囲気で焼成する場合には、焼成炉中を一旦真空に引いて焼成炉中の酸素を除去し、非酸化性ガスで置換することが好ましい。また、焼成は、加圧雰囲気で行なってもよいし、減圧雰囲気で行なってもよい。
【0160】
金属細線に含まれる酸素原子Oを低減させ、結果として金属細線界面に含まれる酸素原子Oの割合を調整するという観点からは、還元性雰囲気により焼成を行い、また、逆に金属細線に含まれる酸素原子Oを増加させることにより金属細線界面に含まれる酸素原子Oの割合を調整するという観点からは弱い還元性雰囲気又は不活性雰囲気により焼成を行うことが考えられる。さらに、所定の雰囲気下において、焼成温度及び焼成時間によっても、金属細線界面に含まれる酸素原子Oの割合を調整することができる。
【0161】
焼成温度は、特に制限されないが、好ましくは20℃以上400℃以下であり、より好ましくは80℃以上300℃以下であり、さらに好ましくは110℃以上250℃以下であり、特に好ましくは160℃以上200℃以下である。焼成温度が400℃以下であることにより、耐熱性の低い基板を使用することができるので好ましい。また、焼成温度が20℃以上であることにより、焼結膜の形成が十分に進行し、導電性が良好となる傾向にあるため好ましい。なお、得られる焼結膜は、金属成分に由来する導電性成分を含み、そのほか、インクに用いた成分や焼成温度に応じて、非導電性成分を含みうる。
【0162】
また、焼成時間は、特に制限されないが、好ましくは80分以上300分以下であり、より好ましくは100分以上250分以下であり、さらに好ましくは120分以上220分以下である。焼成時間が300分以下であることにより、耐熱性の低い基板を使用することができるので好ましい。また、焼成温度が150分以上であることにより、焼結膜の形成が十分に進行し、導電性が良好となる傾向にあるため好ましい。
【0163】
上記のとおり、本発明の第2実施形態によれば、より優れた透明性を発揮する導電性フィルム、並びに、それを用いた導電性フィルムロール、電子ペーパー、タッチパネル、及びフラットパネルディスプレイを提供することができる。
【0164】
<<第3実施形態>>
第3実施形態は、高い導電性と、透明基材と金属細線との高い密着性を兼ね備える導電性フィルム、並びに、それを用いた導電性フィルムロール、電子ペーパー、タッチパネル、及びフラットパネルディスプレイを提供することを目的とする。
【0165】
〔第3実施形態:導電性フィルム〕
第3実施形態の導電性フィルムは、透明基材と、該透明基材の片面又は両面に配された金属細線パターンからなる導電部と、を有する導電性フィルムである。前記金属細線パターンが、金属細線から構成されており、該金属細線が、導電性金属原子Mと炭素原子Cとを含み、前記金属細線の延伸方向に直交する前記金属細線の断面のSTEM-EDX分析において、前記金属細線の厚さをTとしたとき、前記透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.25Tまでの厚さ領域における原子%比C/M0.10~0.25が、0.3以上6.0以下であり、前記導電性フィルムのシート抵抗が、0.1Ω/sq以上500Ω/sq以下であることを特徴とする。
【0166】
図1に、第3実施形態の導電性フィルムの一態様として、金属細線パターンがメッシュパターンである導電性フィルムの上面図を示す。第3実施形態の導電性フィルム10は、透明基材11上に、金属細線パターン12により構成される導電部13を有する。
【0167】
透明基材11上には、導電部13の他、導電性フィルム10の使用用途に応じてコントローラー等に接続するための取り出し電極(不図示)が形成されていてもよい。なお、透明基材11は片面又は両面に導電部13を有することができ、一方の面に複数の導電部13を有していてもよい。導電部13は、通電または荷電(帯電)させることができるように構成された金属細線パターン12により構成される。第3実施形態の導電性フィルム10を電子デバイスに組み入れたときに、導電部13は、電子ペーパー、タッチパネル、及びフラットパネルディスプレイ等の画面部分の透明電極として機能する。
【0168】
このような導電性フィルムにおいて金属細線の線幅が細くなるほど、透明基材との密着面積が減少し、導電性フィルムの曲げ、撓み、屈曲等によって透明基材からの金属細線の剥離は顕著となる。
【0169】
これに対して、第3実施形態によれば、金属細線断面の透明基材側の金属細線界面において炭素原子が偏在する構成とすることにより、密着性を調整することができる。これにより、透明性の観点から金属細線を細くした場合であっても、金属細線の密着性を確保することが可能となる。また、このような金属細線において炭素原子の偏在を所定の範囲とすることで、導電性を損ねることなく、密着性を確保することが可能となる。さらに、このような金属細線を用いた導電性フィルムは印刷にて作製することができるため、真空蒸着法やスパッタリング法により製膜するITOを用いた導電性フィルムに対して製造における低コスト化、環境負荷低減の観点でも優れる。
【0170】
〔導電部〕
導電部は、透明基材上に配された金属細線から構成される金属細線パターンである。金属細線パターンは規則的なパターンであっても不規則なパターンであってもよい。第3実施形態において、金属細線パターンを構成する金属細線は、金属細線の延伸方向に直交する金属細線の断面において、透明基材側の金属細線界面に炭素原子が偏在する構成を有する。
【0171】
第3実施形態においては、この偏在性を、金属細線の延伸方向に直交する金属細線の断面のSTEM-EDX分析において、金属細線の厚さをTとしたとき、透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.25Tまでの厚さ領域における原子%比C/M0.10~0.25により示す。第3実施形態における原子%比C/M0.10~0.25は、0.3以上6.0以下であり、好ましくは0.4以上5.0以下である。原子%比C/M0.10~0.25が0.3以上であることにより、透明基材に対する金属細線の密着性がより向上する。また、原子%比C/M0.10~0.25が6.0以下であることにより、導電性がより向上するほか、導電性金属原子M同士、より具体的には金属成分間の結合がより強固となり、金属細線の強度が向上する。
【0172】
この原理としては特に制限されないが、例えば、以下のように考えられる。第3実施形態の導電性フィルムのように、透明基材と金属細線という剛性や延伸性等の機械性質の異なる2種の部材を曲げ、撓み、屈曲等により変形させる際には、その界面に応力が集中し、それを繰り返すことで、金属細線の剥離が生じうる。この場合において、透明基材側の金属細線の界面付近に炭素原子が偏在することにより、金属細線界面の炭素原子由来の官能基と透明基材表面の官能基間で水素結合や共有結合等の化学結合が生じるため、密着性がより向上する。また、金属細線内の炭素原子は電子伝導を阻害する要因となるが、透明基材側の金属細線の界面付近に炭素原子が偏在する構造を形成することで、良好な導電性も同時に発現できる。
【0173】
また、上記と同様の観点から、透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.25Tまでの厚さ領域における原子%比O/M0.10~0.25は、好ましくは0.05以上であり、より好ましくは0.06以上であり、さらに好ましくは0.07以上である。原子%比O/M0.10~0.25が0.05以上であることにより、透明基材に対する金属細線の密着性がより向上する傾向にある。また、原子%比O/M0.10~0.25は、好ましくは1.10以下であり、より好ましくは1.00以下であり、さらに好ましくは0.95以下である。原子%比O/M0.10~0.25が1.10以下であることにより、導電性がより向上する傾向にある。
【0174】
第3実施形態において、原子%比C/M0.10~0.25及び原子%比O/M0.10~0.25は、金属細線の延伸方向に直交する金属細線の断面のSTEM-EDX分析よりより求めることができる。具体的には、金属細線の延伸方向に直交する方向に金属細線を切断し、金属細線の断面が露出した薄切片を測定サンプルとして得る。この際、必要に応じて、エポキシ樹脂等の支持体に導電性フィルムを包埋してから薄切片を形成してもよい。金属細線の断面の形成方法は、断面の形成・加工による金属細線断面へのダメージを抑制できる方法であれば特に制限されないが、好ましくはイオンビームを用いた加工法(例えば、BIB(Broad Ion Beam)加工法やFIB(Focused Ion Beam)加工法)や精密機械研磨、ウルトラミクロトーム等を用いることができる。
【0175】
次いで、上記のようにして得られた測定サンプルを走査型透過電子顕微鏡(STEM)により観察し、金属細線の断面のSTEM像を得る。同時に、エネルギー分散型X線分析(EDX)により金属細線の断面の元素マッピングをする。具体的には、断面の箇所ごとに炭素原子CのK殻のEDX強度と、導電性金属原子MのK殻のEDX強度を測定する。この操作を金属細線の断面のうち、少なくとも透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.25Tまでの厚さ領域に対して行い、この領域における炭素原子CのK殻のEDX強度の積算値と導電性金属原子MのK殻のEDX強度の積算値を算出し、これら積算値の比を原子%比C/M0.10~0.25として得る。原子%比O/M0.10~0.25についても同様の手法により算出することができる。
【0176】
なお、ここで厚さ領域を規定する、厚さTとは、金属細線断面のSTEM像より確認できる、透明基材側の金属細線界面から金属細線表面までの厚さのうち、最大の厚さをいう。したがって、金属細線の同一断面内で表面粗さ等により特定個所において厚さが異なるような場合であっても、その断面における最大厚さが厚さTとなる。なお、上記金属細線の断面の形成やSTEM-EDX分析は、金属細線断面の酸化やコンタミを防止する観点から、アルゴン等の不活性雰囲気下や真空中で行うことが好ましい。
【0177】
以上のように、原子%比C/M0.10~0.25や、好ましくはさらに原子%比O/M0.10~0.25を特定の範囲に調整することで、高い導電性を維持しながら、密着性を向上させることができ、導電性フィルムの曲げ、撓み、屈曲等の変形による透明基材からの金属細線の剥離を抑制することができる。また、これにより、細い金属細線を用いることが可能となるため低い視認性が維持される。
【0178】
原子%比C/M0.10~0.25及び原子%比O/M0.10~0.25の各値は、特に制限されないが、例えば、金属細線を形成する際の焼成条件を調整することにより、その増減を制御することができる。金属細線は、透明基材上に金属成分を含むインクを用いてパターンを形成し、これを焼成して金属成分同士を結合させることにより形成することができる。この焼成工程の前において、金属成分は、当初酸化物や酸化被膜を有する状態、あるいは分散剤等の有機物が共存する状態で存在するが、焼成の進行とともに酸素や酸化被膜、有機物等が除去されると考えられる。この酸素や酸化被膜、有機物の除去は、金属細線の気固界面(まだインクの状態の場合には気液界面)側が進行しやすく、相対的に、金属細線の内部、すなわち、透明基材側の金属細線の界面付近では進行しにくいと一般に考えられる。そのため、焼成時のエネルギー(例えば、熱、プラズマ、電子線や光源の照射エネルギー)や焼成時間、焼成雰囲気の還元性を調整することで酸素や酸化被膜、有機物の除去の程度を調整し、これにより透明基材側の金属細線界面付近に偏在する原子%比を調整することができる。また、インク中に含まれる界面活性剤や分散剤、還元剤の種類や含有量を調整することによっても、透明基材側の金属細線界面付近に偏在する原子%比を調整することが可能である。
【0179】
また、前述した第2実施形態に記載するように、第3実施形態における金属細線パターンを構成する金属細線は、比較的に透明基材の屈折率と近い屈折率を有するよう構成されていてもよい。
【0180】
第2実施形態に記載するとおり、屈折率の指標として、金属細線の延伸方向に直交する金属細線の断面において、導電性金属原子Mに対する酸素原子Oの原子%比O/Mを所定の割合を用いる。
【0181】
第2実施形態における原子%比O/M0.10~0.90は、0.01以上1.00以下であり、好ましくは0.02以上0.80以下であり、より好ましくは0.03以上0.75以下である。原子%比O/M0.10~0.90が増加するほど、金属細線の屈折率がより向上し、原子%比O/M0.10~0.90が減少するほど金属細線の屈折率がより低下する。これによって、金属細線の屈折率が透明基材の屈折率に近づき、透明性がより向上する。また、原子%比O/M0.10~0.90が減少するほど、酸化物の割合が減少するため、導電性がより向上する傾向にある。原子%比O/M0.10~0.90が0.01以上であることにより、透明性が向上する。他方、原子%比O/M0.10~0.90が1.00以下であることにより、良好な透明性を維持しながら、高い導電性を発現できる。
【0182】
また、酸素原子Oの偏在性及び均一性は、特定の厚さ領域における原子%比O/Mを用いて表すことができる。例えば、透明基材側の金属細線界面から0.75T~0.90Tまでの厚さ領域における原子%比O/Mを原子%比O/M0.75~0.90とするとき、原子%比O/M0.75~0.90は金属細線の表面側の領域に存在する酸素原子Oの割合を示す指標となる。このような原子%比O/M0.75~0.90は、好ましくは0.25以下であり、より好ましくは0.22以下であり、さらに好ましくは0.18以下である。原子%比O/M0.75~0.90が0.25以下であることにより、導電性がより向上する傾向にある。なお、第2実施形態において、Tとは、透明基材側の金属細線界面から金属細線表面までの厚さのうち、最大の厚さを意味し、電子顕微鏡写真より測定することができる。
【0183】
さらに、透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.25Tまでの厚さ領域における原子%比O/Mを原子%比O/M0.10~0.25とするとき、原子%比O/M0.10~0.25は透明基材側の金属細線の界面側の領域に存在する酸素原子Oの割合を示す指標となる。このような原子%比O/M0.10~0.25は、好ましくは0.05以上であり、より好ましくは0.06以上であり、さらに好ましくは0.07以上である。原子%比O/M0.10~0.25が0.05以上であることにより、透明性がより向上する傾向にある。また、原子%比O/M0.10~0.25は、好ましくは1.10以下であり、より好ましくは1.00以下であり、さらに好ましくは0.95以下である。原子%比O/M0.10~0.25が1.10以下であることにより、導電性がより向上する傾向にある。
【0184】
原子%比O/M0.10~0.90、原子%比O/M0.75~0.90、及び原子%比O/M0.10~0.25の測定方法、並びに、原子%比O/M0.10~0.90、原子%比O/M0.75~0.90、原子%比O/M0.10~0.25の各値の調整方法は、第2実施形態に詳説する。
【0185】
以上のように、原子%比O/M0.10~0.90や、好ましくはさらに原子%比O/M0.75~0.90、原子%比O/M0.10~0.25を特定の範囲に調整することで、導電性フィルムの透明性を向上させることができる。
【0186】
前述した第1実施形態に記載するように、第3実施形態における金属細線パターンを構成する金属細線は、導電性と可撓性の向上を目的として、原子%比Si/M0.10~0.90が0.001以上0.070以下であってもよい。原子%比Si/M0.10~0.90の下限値は、好ましくは0.003以上、より好ましくは0.005以上である。原子%比Si/M0.10~0.90の上限値は、好ましくは0.065以下、より好ましくは0.063以下である。
【0187】
さらに、透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.25Tの厚さ領域における原子%比Si/M0.10~0.25の下限値は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.003以上、さらに好ましくは0.005以上である。原子%比Si/M0.10~0.25の上限値は、好ましくは0.070以下、より好ましくは0.065以下、更に好ましくは0.063以下である。また、透明基材側の金属細線界面から0.75T~0.90Tの厚さ領域における原子%比Si/M0.75~0.90の下限値は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.003以上、さらに好ましくは0.005以上である。原子%比Si/M0.75~0.90の上限値は、好ましくは0.070以下、より好ましくは0.065以下、更に好ましくは0.063以下である。これにより、導電性フィルムをあらゆる方向に折り曲げても断線しにくくなる傾向にある。
【0188】
導電性金属原子Mは、金、銀、銅、及びアルミニウムから選ばれる少なくとも1種以上の金属元素を含むことが更に好ましく、銀又は銅であることが好ましく、さらに、比較的安価な銅であることが特に好ましい。このような金属元素を用いることにより、導電性フィルムの導電性が一層優れる傾向にある。
【0189】
さらに、金属細線は、上記導電性金属原子Mを含みかつ導電性を担う導電性成分に加え、非導電性成分を含んでもよい。また、非導電性成分としては、特に制限されないが、例えば、金属酸化物や金属化合物、及び有機化合物が挙げられる。なお、これら非導電性成分としては、後述するインクに含まれる成分に由来する成分であって、インクに含まれる成分のうち焼成を経た後の金属細線に残留する金属酸化物、金属化合物、及び有機化合物が挙げられる。導電性成分の含有割合は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上である。導電性成分の含有割合の上限は、特に制限されないが、100質量%である。また、非導電性成分の含有割合は、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。非導電性成分の含有割合の下限は、特に制限されないが、0質量%である。
【0190】
(金属細線パターン)
金属細線パターンは、目的とする電子デバイスの用途に応じて設計することができ、特に限定されないが、例えば、複数の金属細線が網目状に交差して形成されるメッシュパターン(
図1及び2)や、複数の略平行な金属細線が形成されたラインパターン(
図3及び4)が挙げられる。また、金属細線パターンは、メッシュパターンとラインパターンとが組み合わされたものであってもよい。メッシュパターンの網目は、
図1に示されるような正方形又は長方形であっても、
図2に示されるようなひし形等の多角形であってもよい。また、ラインパターンを構成する金属細線は、
図3に示されるような直線であっても、
図4に示されるような曲線であってもよい。さらに、メッシュパターンを構成する金属細線においても、金属細線を曲線とすることができる。
【0191】
第3実施形態の金属細線の線幅Wとは、透明基材11の金属細線パターン12が配された面側から、金属細線14を透明基材11の表面上に投影したときの金属細線14の線幅をいう。
図15に
図1の導電性フィルムのIII-III’の部分断面図を示す。この
図15を例にすると、台形の断面を有する金属細線14においては、透明基材11と接している金属細線14の面の幅が線幅Wとなる。また、金属細線の厚さTは表面粗さを考慮した場合の最大厚さを意味し、ピッチPは、線幅Wと金属細線間の距離の和を意味する。
【0192】
(線幅)
金属細線の線幅Wは、例えば、好ましくは0.1μm以上5.0μm以下であり、より好ましくは0.2μm以上4.0μm以下であり、さらに好ましくは0.3μm以上3.0μm以下であり、よりさらに好ましくは0.4μm以上2.5μm以下である。金属細線の線幅Wが0.1μm以上であることにより、導電性がより向上する傾向にある。また、金属細線表面の酸化や腐食等による導電性の低下を十分に抑制できる傾向にある。さらに、開口率を同じとした場合、金属細線の線幅が細いほど、金属細線の本数を増やすことが可能となる。これにより、導電性フィルムの電界分布がより均一となり、より高解像度の電子デバイスを作製することが可能となる。また、一部の金属細線で断線が生じたとしても、それによる影響を他の金属細線が補うことができる。他方、金属細線の線幅Wが5.0μm以下であることにより、金属細線の視認性がより低下し、導電性フィルムの透明性がより向上する傾向にある。
【0193】
金属細線の厚さTは、好ましくは10nm以上1,000nm以下である。厚さTの下限は、より好ましくは50nm以上あり、さらに好ましくは75nm以上である。金属細線の厚さTが10nm以上であることにより、導電性がより向上する傾向にある。また、金属細線表面の酸化や腐食等による導電性の低下を十分に抑制できる傾向にある。他方、金属細線の厚さTが1,000nm以下であることにより、広い視野角において高い透明性を発現できる。
【0194】
(アスペクト比)
金属細線の線幅Wに対する金属細線の厚さTで表されるアスペクト比は、好ましくは0.05以上1.00以下である。アスペクト比の下限は、より好ましくは0.08以上、さらに好ましく0.10以上である。アスペクト比が0.05以上であることにより、可視光透過率を低下させることなく、導電性をより向上できる傾向にある。
【0195】
(ピッチ)
金属細線パターンのピッチPは、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは50μm以上であり、さらに好ましくは100μm以上である。金属細線パターンのピッチPが5μm以上であることで、良好な透過率を得ることができる。また、金属細線パターンのピッチPは、好ましくは1,000μm以下であり、より好ましくは500μm以下であり、さらに好ましくは250μm以下である。金属細線パターンのピッチPが1,000μm以下であることにより、導電性をより向上できる傾向にある。なお、金属細線パターンの形状がメッシュパターンである場合には、線幅1μmの金属細線パターンのピッチを200μmとすることにより、開口率99%とすることができる。
【0196】
なお、金属細線パターンの線幅、アスペクト比、及びピッチは、導電性フィルム断面を電子顕微鏡等で見ることにより確認することができる。また、金属細線パターンの線幅とピッチはレーザー顕微鏡や光学顕微鏡でも観察できる。また、ピッチと開口率は後述する関係式を有するため、一方が分かればもう一方を算出することもできる。また、金属細線パターンの線幅、アスペクト比、及びピッチを所望の範囲に調整する方法としては、後述する導電性フィルムの製造方法において用いる版の溝を調整する方法、インク中の金属粒子の平均粒子径を調整する方法等が挙げられる。
【0197】
(開口率)
金属細線パターンの開口率の下限値は、好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、特に好ましくは90%以上である。金属細線パターンの開口率を上述の特定値以上とすることにより、導電性フィルムの透過率がより向上する傾向にある。また、金属細線パターンの開口率の上限値は、好ましくは100%未満であり、より好ましくは95%以下であり、さらに好ましくは90%以下であり、よりさらに好ましくは80%以下であり、さらにより好ましくは70%以下であり、特に好ましくは60%以下である。金属細線パターンの開口率を上述の特定値以下とすることにより、導電性フィルムの導電性がより向上する傾向にある。金属細線パターンの開口率は、金属細線パターンの形状によっても適正な値が異なる。また、金属細線パターンの開口率は、目的とする電子デバイスの要求性能(透過率及びシート抵抗)に応じて、上記上限値と下限値を適宜組み合わせることができる。
【0198】
なお、「金属細線パターンの開口率」とは、透明基材上の金属細線パターンが形成されている領域について以下の式で算出することができる。透明基材上の金属細線パターンが形成されている領域とは、
図1のSで示される範囲であり、金属細線パターンが形成されていない縁部等は除かれる。
開口率=(1-金属細線パターンの占める面積/透明基材の面積)×100
【0199】
また、開口率とピッチの関係式は、金属細線パターンの形状によって異なるが、以下のように算出することができる。
図6に、パターン単位16を有するメッシュパターン(グリッド(格子)パターン)の模式図を示す。このメッシュパターンの場合、開口率とピッチは下記関係式を有する。
開口率={開口部15の面積/パターン単位16の面積}×100
={((ピッチP1-線幅W1)×(ピッチP2-線幅W2))/(ピッチP1×ピッチP2)}×100
【0200】
また、
図7にラインパターンの模式図を示す。このラインパターンの場合は、開口率とピッチは下記関係式を有する。
開口率={(ピッチP-線幅W)/ピッチP}×100
【0201】
(シート抵抗)
導電性フィルムのシート抵抗は、0.1Ω/sq以上500Ω/sq以下であり、好ましくは0.1Ω/sq以上200Ω/sq以下であり、より好ましくは0.1Ω/sq以上100Ω/sq以下であり、さらに好ましくは0.1Ω/sq以上20Ω/sq以下であり、よりさらに好ましくは0.1Ω/sq以上10Ω/sq以下である。シート抵抗が低いほど電力損失が抑制される傾向にある。そのため、シート抵抗の低い導電性フィルムを用いることにより、消費電力の少ない電子ペーパー、タッチパネル、及びフラットパネルディスプレイを得ることが可能となる。導電性フィルムのシート抵抗は、以下の方法により測定できる。
【0202】
図13にシート抵抗の測定方法を説明するための斜視図を示す。先ず、導電性フィルムから金属細線パターンが全面に配された部分を矩形状に切り出して、測定サンプルを得る。得られた測定サンプルの両端部に金属細線パターンと電気的に接続されたシート抵抗測定用の集電部を形成し、集電部間の電気抵抗R(Ω)を測定する。得られた電気抵抗R(Ω)、及び測定サンプルの集電部間の距離L(mm)、奥行方向の長さD(mm)を用いて、次式によりシート抵抗R
s(Ω/sq)を算出することができる。
R
s=R/L×D
【0203】
導電性フィルムのシート抵抗は、金属細線のアスペクト比(厚さ)の増加にともない、低下する傾向にある。また、金属細線を構成する金属材料種の選択によっても調整することが可能である。
【0204】
シート抵抗が低いほど電力損失が抑制される傾向にある。そのため、消費電力の少ない電子ペーパー、タッチパネル、及びフラットパネルディスプレイを得ることが可能となる。
【0205】
(可視光透過率)
導電性フィルムの可視光透過率は、好ましくは80%以上100%以下であり、より好ましくは90%以上100%以下である。ここで、可視光透過率は、JIS K 7361-1:1997の全光線透過率に準拠して、その可視光(360~830nm)の範囲の透過率を算出することで測定することができる。
【0206】
導電性フィルムの可視光透過率は、金属細線パターンの線幅を小さくしたり、開口率を向上させたりすることにより、より向上する傾向にある。
【0207】
(ヘイズ)
導電性フィルムのヘイズは、好ましくは0.01%以上5.00%以下である。ヘイズの上限はより好ましくは、3.00%以下、さらに好ましくは1.00%以下である。ヘイズの上限が5.00%以下であれば、可視光に対する導電性フィルムの曇りを十分に低減できる。本明細書におけるヘイズは、JIS K 7136:2000のヘイズに準拠して測定することができる。
【0208】
〔透明基材〕
透明基材の「透明」とは、可視光透過率が、好ましくは80%以上であることをいい、より好ましくは90%以上であることをいい、さらに好ましくは95%以上であることをいう。ここで、可視光透過率は、JIS K 7361-1:1997に準拠して測定することができる。
【0209】
透明基材の材料としては、特に限定されないが、例えば、ガラス等の透明無機基材;アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、芳香族ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等の透明有機基材が挙げられる。このなかでも、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、又はポリエチレンナフタレートが好ましい。ポリエチレンテレフタレートを用いることにより、導電性フィルムを製造するための生産性(コスト削減効果)がより優れ、また、透明基材と金属細線との密着性がより向上する傾向にある。また、ポリイミドを用いることにより、導電性フィルムの耐熱性がより向上する傾向にある。さらに、ポリエチレンナフタレート及び/又はポリエチレンテレフタレートを用いることにより、透明基材と金属細線との密着性がより優れる傾向にある。
【0210】
透明基材は、1種の材料からなるものであっても、2種以上の材料が積層されたものであってもよい。また、透明基材が2種以上の材料が積層された多層体である場合には、該透明基材は有機基材又は無機基材同士が積層されたものであっても、有機基材及び無機基材が積層されたものであってもよい。
【0211】
透明基材の厚さは、好ましくは5μm以上500μm以下であり、より好ましくは10μm以上100μm以下である。
【0212】
〔中間層〕
第3実施形態の導電性フィルムは、透明基材と導電部の間に中間層を有していてもよい。該中間層は、透明基材と導電部の金属細線との密着性の向上に寄与しうる。
【0213】
中間層に含まれる成分としては、特に制限されないが、例えば、(ポリ)シラン類、(ポリ)シラザン類、(ポリ)シルチアン類、(ポリ)シロキサン類、ケイ素、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、塩化ケイ素、ケイ素酸塩、ゼオライト、シリサイド等のケイ素化合物;酸化アルミニウム等のアルミニウム化合物;フッ化マグネシウム等のマグネシウム化合物等が挙げられる。このなかでも、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、及びフッ化マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。このような成分を用いることにより、導電性フィルムの透明性及び耐久性がより向上する傾向にあり、導電性フィルムを製造するための生産性(コスト削減効果)がより優れる。
【0214】
中間層の厚さは、好ましくは0.01μm以上500μm以下であり、より好ましくは0.05μm以上300μm以下であり、さらに好ましくは0.10μm以上200μm以下である。中間層の厚みが0.01μm以上であることで、中間層と金属細線の密着性が発現され、中間層の厚みが500μm以下であれば透明基材の可撓性が担保できる。
【0215】
中間層を透明基材上に積層することで、プラズマ等の焼成手段でインク中の金属成分を焼結させる際に、プラズマ等によって金属細線パターン部で被覆されていない箇所の透明基材のエッチングを防ぐことができる。
【0216】
さらにこの中間層は静電気による金属細線パターンの断線を防ぐために、帯電防止機能を持っていることが好ましい。中間層が帯電防止機能を有するために、中間層は導電性無機酸化物及び導電性有機化合物の少なくともいずれかを含むことが好ましい。
【0217】
中間層の体積抵抗率は100Ωcm以上100000Ωcm以下であることが好ましく、1000Ωcm以上10000Ωcm以下であることがより好ましく、2000Ωcm以上8000Ωcm以下であることがさらにより好ましい。中間層の体積抵抗率が100000Ωcm以下であることで、帯電防止機能を発現することができる。また、中間層の体積抵抗率が100Ωcm以上であることで金属細線パターン間の高電気伝導が好ましくないタッチパネル等の用途に好適に用いることができる。
【0218】
体積抵抗率は、中間層内の導電性無機酸化物や導電性有機化合物等の含有量により調整することができる。例えば、プラズマ耐性の高い酸化ケイ素(体積比抵抗1014Ω・cm以上)と導電性有機化合物である有機シラン化合物を中間層に含む場合、有機シラン化合物の含有量を増やすことで体積抵抗率を低下することができる。一方で、酸化ケイ素の含有量を増やすことで体積抵抗率は増加するが高いプラズマ耐性を有するため薄膜にすることができ、光学的特性を損なうことがない。
【0219】
〔第3実施形態:導電性フィルムの製造方法〕
第3実施形態の導電性フィルムの製造方法は、特に制限されないが、例えば、透明基材上に金属成分を含むインクを用いてパターンを形成するパターン形成工程と、該パターンを焼成して金属細線を形成する焼成工程と、を有する方法が挙げられる。また、第3実施形態の導電性フィルムの製造方法は、パターン形成工程に先立ち、透明基材の表面に中間層を形成する中間層形成工程を含んでもよい。
【0220】
〔中間層形成工程〕
中間層形成工程は、透明基材の表面に中間層を形成する工程である。中間層の形成方法としては、特に制限されないが、例えば、物理蒸着法(PVD)、化学蒸着法(CVD)などの気相成膜法により、透明基材表面に蒸着膜を形成する方法;透明基材表面に中間層形成用組成物を塗布し、乾燥することで塗膜を形成する方法が挙げられる。
【0221】
中間層形成用組成物は、上記中間層に含まれる成分として例示した成分あるいはその前駆体と、溶剤とを含み、必要に応じて、界面活性剤、分散剤、結着剤等を含有してもよい。
【0222】
〔パターン形成工程〕
パターン形成工程は、金属成分を含むインクを用いてパターンを形成する工程である。パターン形成工程は、所望の金属細線パターンの溝を有する版を用いる有版印刷方法であれば特に限定されないが、例えば、転写媒体表面にインクをコーティングする工程と、インクをコーティングした転写媒体表面と、凸版の凸部表面とを対向させて、押圧、接触して、凸版の凸部表面に転写媒体表面上のインクを転移させる工程と、インクをコーティングした転写媒体表面と透明基材の表面とを対向させて、押圧、接触して、転写媒体表面に残ったインクを透明基材の表面に転写する工程とを有する。なお、透明基材に中間層が形成されている場合には、中間層表面にインクが転写される。
【0223】
(インク)
上記パターン形成工程に用いられるインクは、導電性金属原子Mを含有する金属成分と溶剤を含み、必要に応じて、界面活性剤、分散剤、還元剤等を含んでもよい。金属成分は、金属粒子としてインクに含まれていてもよいし、金属錯体としてインクに含まれていてもよい。
【0224】
金属粒子を用いる場合、その平均一次粒径は、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは50nm以下であり、さらに好ましくは30nm以下である。また、金属粒子の平均一次粒径の下限は特に制限されないが、1nm以上が挙げられる。金属粒子の平均一次粒径が100nm以下であることにより、得られる金属細線の線幅Wをより細くすることができる。なお、第3実施形態において「平均一次粒径」とは、金属粒子1つ1つ(所謂一次粒子)の粒径をいい、金属粒子が複数個集まって形成される凝集体(所謂二次粒子)の粒径である平均二次粒径とは区別される。
【0225】
金属粒子としては、導電性金属原子Mを含むものであれば、酸化銅等の金属酸化物や金属化合物、コア部が銅でありシェル部が酸化銅であるようなコア/シェル粒子の態様であってもよい。金属粒子の態様は、分散性や焼結性の観点から、適宜決めることができる。
【0226】
界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、シリコーン系界面活性剤やフッ素系界面活性剤などが挙げられる。このような界面活性剤を用いることにより、転写媒体(ブランケット)へのインクのコーティング性、コーティングされたインクの平滑性が向上し、より均一な塗膜が得られる傾向にある。なお、界面活性剤は、金属成分を分散可能であり、かつ焼成の際に残留しにくいよう構成されていることが好ましい。
【0227】
また、分散剤としては、特に制限されないが、例えば、金属成分に非共有結合又は相互作用をする分散剤、金属成分に共有結合をする分散剤が挙げられる。非共有結合又は相互作用をする官能基としてはリン酸基を有する分散剤が挙げられる。このような分散剤を用いることにより、金属成分の分散性がより向上する傾向にある。
【0228】
さらに、溶剤としては、モノアルコール及び多価アルコール等のアルコール系溶剤;アルキルエーテル系溶剤;炭化水素系溶剤;ケトン系溶剤;エステル系溶剤などが挙げられる。これらは単独で使用されてもよく、1種以上で併用されても良い。たとえば、炭素数10以下のモノアルコールと炭素数10以下の多価アルコールとの併用などが挙げられる。このような、溶剤を用いることにより、転写媒体(ブランケット)へのインクのコーティング性、転写媒体から凸版へのインクの転移性、転写媒体から透明基材へのインクの転写性、及び金属成分の分散性がより向上する傾向にある。なお、溶剤は、金属成分を分散可能であり、かつ焼成の際に残留しにくいよう構成されていることが好ましい。
【0229】
なお、金属細線中の炭素原子C及び酸素原子Oを調整するという観点から、インクに含まれる上記成分の含有量を調整することができる。例えば、上記成分の含有量を増加したり、炭素原子C及び酸素原子Oを多く含む有機物を上記成分として用いたりすることにより炭素原子C及び酸素原子Oを増加させることができる。
【0230】
〔焼成工程〕
焼成工程は、パターンを焼成して金属細線を形成する工程であり、これにより、インクを塗布したパターンと同様の金属細線パターンを有する導電部を得ることができる。焼成は、金属成分が融着して、金属成分焼結膜を形成することができる方法であれば特に制限されない。焼成は、例えば、焼成炉で行ってもよいし、プラズマ、加熱触媒、紫外線、真空紫外線、電子線、赤外線ランプアニール、フラッシュランプアニール、レーザーなどを用いて行ってもよい。得られる焼結膜が酸化されやすい場合には、非酸化性雰囲気中において焼成することが好ましい。また、インクに含まれ得る還元剤のみで金属酸化物等が還元されにくい場合には、還元性雰囲気で焼成することが好ましい。
【0231】
非酸化性雰囲気とは酸素等の酸化性ガスを含まない雰囲気であり、不活性雰囲気と還元性雰囲気がある。不活性雰囲気とは、例えば、アルゴン、ヘリウム、ネオンや窒素等の不活性ガスで満たされた雰囲気である。また、還元性雰囲気とは、水素、一酸化炭素等の還元性ガスが存在する雰囲気を指す。これらのガスを焼成炉中に充填して密閉系としてインクの塗布膜(分散体塗布膜)を焼成してもよい。また、焼成炉を流通系にしてこれらのガスを流しながら塗布膜を焼成してもよい。塗布膜を非酸化性雰囲気で焼成する場合には、焼成炉中を一旦真空に引いて焼成炉中の酸素を除去し、非酸化性ガスで置換することが好ましい。また、焼成は、加圧雰囲気で行なってもよいし、減圧雰囲気で行なってもよい。
【0232】
金属細線に含まれる酸素原子Oを低減させ、結果として金属細線界面に含まれる酸素原子Oの割合を調整するという観点からは、還元性雰囲気により焼成を行い、また、逆に金属細線に含まれる酸素原子Oを増加させることにより金属細線界面に含まれる酸素原子Oの割合を調整するという観点からは弱い還元性雰囲気又は不活性雰囲気により焼成を行うことが考えられる。
【0233】
焼成温度は、特に制限されないが、好ましくは20℃以上400℃以下であり、より好ましくは50℃以上300℃以下であり、さらに好ましくは80℃以上200℃以下であり、特に好ましくは90℃以上130℃で以下ある。焼成温度が400℃以下であることにより、耐熱性の低い基板を使用することができるので好ましい。また、焼成温度が20℃以上であることにより、焼結膜の形成が十分に進行し、導電性が良好となる傾向にあるため好ましい。なお、得られる焼結膜は、金属成分に由来する導電性成分を含み、そのほか、インクに用いた成分や焼成温度に応じて、非導電性成分を含みうる。
【0234】
また、焼成時間は、特に制限されないが、好ましくは15分以上90分以下であり、より好ましくは20分以上80分以下であり、さらに好ましくは30分以上70分以下である。焼成時間が90分以下であることにより、耐熱性の低い基板を使用することができるので好ましい。また、焼成温度が15分以上であることにより、焼結膜の形成が十分に進行し、導電性が良好となる傾向にあるため好ましい。
【0235】
金属細線に含まれる炭素原子Cを低減させ、結果として金属細線界面に含まれる炭素原子Cの割合を調整するという観点からは、比較的高温下で長時間の焼成を行い、また、逆に金属細線に含まれる炭素原子Cを増加させることにより金属細線界面に含まれる炭素原子Cの割合を調整するという観点からは比較的低温下で短時間の焼成を行うことが考えられる。
【0236】
この中でも、金属細線中の炭素原子Cを調整する観点から、焼成時のエネルギーとしては、例えば、熱、プラズマ、電子線や光源を用いることが好ましい。なお、必要に応じて、これら焼成方法を任意に組み合わせて複数回焼成してもよい。
【0237】
本発明の第3実施形態によれば、高い導電性と、透明基材と金属細線との高い密着性を兼ね備える導電性フィルム、並びに、それを用いた電子ペーパー、タッチパネル、及びフラットパネルディスプレイを提供することができる。
【0238】
〔導電性フィルムロール〕
第1実施形態~第3実施形態の導電性フィルムロールは、上記第1実施形態~第3実施形態の導電性フィルムを捲回してなるものである。導電性フィルムロールは、中心部に、導電性フィルムを巻き付けるための巻芯を有してもよい。第1実施形態~第3実施形態の導電性フィルムロールは、所望の用途(例えば、電子ペーパー、タッチパネル、フラットパネルディスプレイ等)に応じて適切なサイズに切断されて用いられる。
【0239】
〔電子ペーパー〕
第1実施形態~第3実施形態の電子ペーパーは、上記導電性フィルムを備えるものであれば特に制限されない。
図8に、第1実施形態~第3実施形態の導電性フィルム(メッシュパターン)を備える電子ペーパーの一態様を表す上面図を示し、
図9に第1実施形態~第3実施形態の電子ペーパーのV-V’の部分断面図を示し、
図10に、
図8と同じ開口率を有し、金属細線の線幅が太い、従来の導電性フィルムを備える電子ペーパーの一態様を表す上面図を示す。
【0240】
図8に示されるように、電子ペーパー20においては、カップ21上に金属細線パターン12が配されカップ21に対して電界をかけることができるように構成されている。具体的には、
図9に示されるように、電子ペーパー20のカップ21中には、帯電した黒顔料22と帯電した白顔料23とが収容されており、ボトム電極24と導電性フィルム10の間の電界により帯電黒顔料22と帯電白顔料23の挙動が制御される。
【0241】
この際、
図8と
図10の対比で示されるように、開口率が同じであっても、金属細線パターンが細かい方がカップ21の直上を横断する金属細線14が多くなり、カップ21により均一に電界をかけることが可能となる。したがって、第1実施形態~第3実施形態の導電性フィルム10を備える電子ペーパー20はより高解像度の画像を与えることが可能となる。なお、本実施形態の電子ペーパー20の構成は上記に限定されない。
【0242】
〔タッチパネル〕
第1実施形態~第3実施形態のタッチパネルは、上記導電性フィルムを備えるものであれば特に制限されない。
図11に、第1実施形態~第3実施形態の導電性フィルム(ラインパターン)を備えるタッチパネルの一態様を表す斜視図を示す。静電容量方式のタッチパネル30においては、絶縁体31の表裏面に2枚の導電性フィルム10が存在し、2枚の導電性フィルム10は、ラインパターンが交差するように対向する。また、導電性フィルム10は、取り出し電極32を有していてもよい。取り出し電極32は、金属細線14と、金属細線14への通電切り替えを行うためのコントローラー33(CPU等)とを接続する。
【0243】
また、
図12に、第1実施形態~第3実施形態の導電性フィルム(ラインパターン)を備えるタッチパネルの別態様を表す斜視図を示す。このタッチパネル30は、絶縁体31の表裏面に2枚の導電性フィルム10を備える代わりに、第1実施形態~第3実施形態の導電性フィルム10の両面に金属細線パターン12を備える。これにより、絶縁体31(透明基材11)の表裏面に2つの金属細線パターン12を備えるものとなる。
【0244】
なお、第1実施形態~第3実施形態のタッチパネルは、静電容量方式に限定されず、抵抗膜方式、投影型静電容量方式、及び表面型静電容量方式等としてもよい。
【0245】
〔フラットパネルディスプレイ〕
第1実施形態~第3実施形態のフラットパネルディスプレイは、上記導電性フィルムを備えるものであれば特に制限されない。
【実施例】
【0246】
以下、実施例及び比較例を示して本発明の実施形態を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例及び比較例により何ら限定されるものではない。
【0247】
<<実施例A>>
以下、第1実施形態に関する実施例A及び比較例Aについて、具体的に説明する。
【0248】
《透明基材A》
【0249】
[透明基材A1の調製]
ポリエチレンテレフタレート(PET)を透明基材として用いて、その上に酸化ケイ素ナノ粒子と導電性の有機シラン化合物を含む中間層形成組成物を塗布し、乾燥して、帯電防止機能を有する厚み150nm、体積抵抗率5000Ωcmの酸化ケイ素を含有した中間層を形成することにより透明基材A1を得た。なお、透明基材A1は、透明基材であるPET上に中間層が積層した形態である。
【0250】
[透明基材A2の調製]
透明基材A1の調製のために用いたPETを透明基材A2とした。
【0251】
《インクA》
[インクA1]
酸化銅ナノ粒子(CIKナノテック社製 酸化第二銅微粒子)20質量部と、分散剤(ビッグケミー社製、製品名:Disperbyk-145)4質量部と、界面活性剤(セイミケミカル社製、製品名:S-611)1質量部と、有機溶剤(n-ブタノール、及び2-プロピレングリコール)75質量部とを混合し、酸化銅ナノ粒子が分散したインクA1を調製した。
[インクA2]
粒子径21nmの酸化第一銅ナノ粒子20質量部と、分散剤(ビッグケミー社製、製品名:Disperbyk-145)4質量部と、界面活性剤(セイミケミカル社製、製品名:S-611)1質量部と、エタノール75質量部とを混合し、酸化第一銅ナノ粒子の含有割合が20質量%のインクA2を調製した。
[インクA3]
インクA1の100質量部に対してオルガノポリシロキサンを5.0質量部添加したインクA3を調製した。
【0252】
<実施例A1>
《導電性フィルムの製造》
先ず転写媒体表面にインクA1を塗布し、次いでインクA1が塗布された転写媒体表面と金属細線パターンの溝を有する版を対向させて、押圧、接触して、版の凸部表面に転写媒体表面上の一部のインクA1を転移させた。その後、残ったインクA1がコーティングされた転写媒体表面と透明基材A1とを対向させて、押圧、接触させ、透明基材A1の上に所望の金属細線パターン状のインクA1を転写させた。次いで、NovaCentrix社製Pulseforge1300を用いて室温環境下で金属細線パターン状のインクA1(分散体塗布膜)をフラッシュランプアニールにより焼成し、表1に示す線幅と厚さのメッシュパターンの金属細線を含む導電性フィルムを得た。
【0253】
《導電性フィルムの評価》
[実施例A:シート抵抗]
得られた導電性フィルムのシート抵抗R
s0(Ω/sq)を以下の方法により測定した。先ず、導電性フィルムの金属細線パターンが全面に配された部分から100mm四方の測定サンプルを切り出した。次いで、得られた測定サンプルの表面の幅方向の両端部にスクリーン印刷装置を用いて銀ペーストを塗布、乾燥し、
図13に示すように、幅10mm×奥行100mmの長尺な集電部を形成した。次いで、サンプル両端部の電気抵抗R(Ω)を、オームメーターの測定端子を接触させる2端子法により測定した。得られた電気抵抗から下記式を用いてシート抵抗R
s0(Ω/sq)を算出した。結果を下記表1に示す。なお、表面に保護層を有する導電フィルムのシート抵抗は、金属細線パターンのうち、集電部を露出させ、その他の金属細線パターンが保護層で被覆された導電性フィルムを作製し、測定を行った。具体的には、上述の方法で形成した集電部にマスキングを行い、保護層を形成し、最後にマスキングを除去することで、集電部のみが露出した導電性フィルムを作製した。
R
s0=R/L×D
L:80(mm) :集電部間の距離
D:100(mm):奥行方向の距離
【0254】
[実施例A:可視光透過率及びヘイズ]
JIS K 7361-1:1997の全光線透過率に準拠して、360~830nmの波長を有する可視光の透過率を算出することにより、導電性フィルムの可視光透過率を測定した。また、JIS K 7136:2000に準拠して導電性フィルムのヘイズを測定した。結果を下記表1に示す。
【0255】
[実施例A:金属細線断面のSTEM-EDX分析]
得られた導電性フィルムを支持体であるエポキシ樹脂に包埋し、ウルトラミクロトームを用いて金属細線の延伸方向に直交する金属細線の面で切断して、厚さ80nmの薄切片を形成した。得られた薄切片を測定サンプルとして、下記条件にて電子線を照射することにより、STEM-EDX分析を行った。
STEM:日立ハイテクノロジーズ社製、走査型透過電子顕微鏡 HD―2300A
EDX:EDAX社製、エネルギー分散型X線分析装置、GENESIS
加速電圧:200kV
測定倍率:25,000倍
電子線入射角度:90°
X線取出角度:18°
マッピング元素:Cu、Ag、Si
積算回数:200回
dwell time:200μsec.
解像度:256×200ピクセル
【0256】
先ず、STEMにより得られた金属細線の断面のSTEM像により、透明基材側の金属細線界面から金属細線表面までの最大厚さTを算出した。次いで、透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.90Tの厚さの領域におけるケイ素原子SiのK殻のEDX強度の積算値からSi原子の原子%を算出し、透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.90Tの厚さの領域におけるケイ素以外の導電性金属原子MのK殻のEDX強度の積算値からM原子の原子%を算出することにより、Si/M0.10~0.90を算出した。次いで、透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.25Tの厚さの領域におけるケイ素原子SiのK殻のEDX強度の積算値からSi原子の原子%を算出し、透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.25Tの厚さの領域におけるケイ素以外の導電性金属原子MのK殻のEDX強度の積算値からM原子の原子%を算出することにより、Si/M0.10~0.25を算出した。次いで、透明基材側の金属細線界面から0.75T~0.90Tの厚さの領域におけるケイ素原子SiのK殻のEDX強度の積算値からSi原子の原子%を算出し、透明基材側の金属細線界面から0.75T~0.90Tの厚さの領域におけるケイ素以外の導電性金属原子MのK殻のEDX強度の積算値からM原子の原子%を算出することにより、Si/M0.75~0.90を算出した。
【0257】
[実施例A:可撓性]
導電性フィルムの可撓性を評価するために、繰り返し屈曲性試験前後におけるシート抵抗変化率(%)を測定した。繰り返し屈曲性試験は、シート抵抗測定に用いた導電性フィルムを用いて、屈曲性試験機として井本製作所社製フィルム曲げ試験機(IMC-1304)を用いてでJIS C 5016:1994に準拠して、以下の条件によって測定した。なお、可撓性に乏しい場合は、金属細線が断線等することにより、シート抵抗の変化率が大きくなり、可撓性に優れる場合には、シート抵抗の変化率が小さくなる。
曲げ半径:5mm
試験ストローク:20mm
屈曲速度:90rpm
屈曲回数:10,000回
次いで、繰り返し屈曲性試験後の導電性フィルムのシート抵抗Rs1(Ω/sq)を測定して、次式にてシート抵抗変化率を算出した。
(シート抵抗変化率)=Rs1/Rs0×100
【0258】
<実施例A2>
金属細線パターンの溝を有する版、表1に示す種類のインク及び液状のオルガノポリシロキサンを含侵させた転写媒体を用いて、表1に示す種類の透明基材の上にメッシュパターンの分散体塗布膜を形成した。次いで、NovaCentrix社製Pulseforge1300を用いて室温環境下で分散体塗布膜をフラッシュランプアニールにより焼成し、表1に示す線幅と厚さのメッシュパターンの金属細線を含む導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの各種特性を表1に示す。
【0259】
<実施例A3>
インクA2を用い、フラッシュランプアニールの代わりにプラズマにより焼成及び還元した他は実施例A1と同様にして、表1に示す線幅と厚さのメッシュパターンの金属細線を含む導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの各種特性を表1に示す。
【0260】
<実施例A4~A6及び比較例A1~A2>
金属細線パターンの溝を有する版及び表1に示す種類のインクを用いて、表1に示す種類の透明基材の上にメッシュパターンの分散体塗布膜を形成した。次いで、NovaCentrix社製Pulseforge1300を用いて室温環境下で分散体塗布膜をフラッシュランプアニールにより焼成し、表1に示す線幅と厚さのメッシュパターンの金属細線を含む導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの各種特性を表1に示す。
【0261】
【0262】
実施例A1~A6、及び比較例A1~A2から、金属細線の延伸方向に直交する金属細線の断面のSTEM-EDX分析において、導電性金属原子Mに対する前記ケイ素原子Siの原子%比Si/Mを0.001以上0.070以下とすることにより、透明性を十分に維持しながら(すなわち、小さい線幅による低い視認性)、導電性(すなわち、低いシート抵抗)及び可撓性の両方に優れる導電性フィルムが得られることが分かった。
【0263】
<<実施例A’>>
以下、第1実施形態に関する実施例A’及び比較例A’について、具体的に説明する。
【0264】
《透明基材A’》
[透明基材A’1の調製]
ポリエチレンテレフタレート(PET)を透明基材として用いて、その上にスパッタリング法により酸化ケイ素を含有した厚み50nmの中間層を成膜することにより透明基材A’1を得た。なお、透明基材A’1は、透明基材であるPET上に中間層が積層した形態である。
【0265】
[透明基材A’2の調製]
PETを透明基材として用いて、その上に酸化ケイ素のナノ粒子が分散した中間層形成組成物を塗布し、乾燥して、帯電防止機能を有する厚み150nm、体積抵抗率5000Ωcmの酸化ケイ素を含有した中間層を形成することにより透明基材A’2を得た。なお、透明基材A’2は、透明基材であるPET上に中間層が積層した形態である。
【0266】
[透明基材A’3の調製]
有機基材として、PETの代わりにポリエチレンナフタレート(PEN)を用いた以外は、透明基材A’2の調製方法と同様にして中間層を有する透明基材A’3を調製した。なお、透明基材A’3は、透明基材であるPEN上に中間層が積層した形態である。
【0267】
[透明基材A’4の調製]
透明基材A’1の調製のために用いたPETを透明基材A’4とした。
【0268】
《インクA’》
[インクA’1]
酸化銅ナノ粒子(CIKナノテック社製 酸化第二銅微粒子)20質量部と、分散剤(ビッグケミー社製、製品名:Disperbyk-145)4質量部と、界面活性剤(セイミケミカル社製、製品名:S-611)1質量部と、有機溶剤(n-ブタノール、及び2-プロピレングリコール)75質量部とを混合し、酸化銅ナノ粒子が分散したインクA’1を調製した。
【0269】
[インクA’2]
DIC社製銀ナノインク(RAGT-29)100質量部にエタノールを50質量部添加し、インクA’2を調製した。
【0270】
<実施例A’1>
《導電性フィルムの製造》
先ず転写媒体表面にインクA’1を塗布し、次いでインクA’1が塗布された転写媒体表面と金属細線パターンの溝を有する版を対向させて、押圧、接触して、版の凸部表面に転写媒体表面上の一部のインクA’1を転移させた。その後、残ったインクA’1がコーティングされた転写媒体表面と透明基材A’1とを対向させて、押圧、接触させ、透明基材A’1の上に所望の金属細線パターン状のインクA’1を転写させた。次いで、NovaCentrix社製Pulseforge1300を用いて室温環境下で金属細線パターン状のインクA’1(分散体塗布膜)をフラッシュランプアニールにより焼成し、表2に示す線幅のメッシュパターンの金属細線を含む導電性フィルムを得た。
【0271】
《導電性フィルムの評価》
実施例A’のシート抵抗、可視光透過率及びヘイズ、金属細線断面のSTEM-EDX分析、並びに可撓性の測定については、実施例Aに記載の方法と同様の方法により行った。
【0272】
<実施例A’2、A’4~A’7及び比較例A’1、A’2>
金属細線パターンの溝を有する版及び表2に示す種類のインクを用いて、表2に示す種類の透明基材の上にメッシュパターンの分散体塗布膜を形成した。次いで、NovaCentrix社製Pulseforge1300を用いて室温環境下で分散体塗布膜をフラッシュランプアニールにより焼成し、表2に示す線幅のメッシュパターンの金属細線を含む導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの各種特性を表2に示す。
【0273】
<実施例A’3>
金属細線パターンの溝を有する版、表2に示す種類のインク及び液状のオルガノポリシロキサンを含侵させた転写媒体を用いて、表2に示す種類の透明基材の上にメッシュパターンの分散体塗布膜を形成した。次いで、NovaCentrix社製Pulseforge1300を用いて室温環境下で分散体塗布膜をフラッシュランプアニールにより焼成し、表2に示す線幅のメッシュパターンの金属細線を含む導電性フィルムを得た。得られた導電性フィルムの各種特性を表2に示す。
【0274】
【0275】
実施例A’1~A’7、及び比較例A’1~A’2から、金属細線の延伸方向に直交する金属細線の断面のSTEM-EDX分析において、導電性金属原子Mに対する前記ケイ素原子Siの原子%比Si/Mを0.001以上0.070以下とすることにより、透明性を十分に維持しながら(すなわち、小さい線幅による低い視認性)、導電性(すなわち、低いシート抵抗)及び可撓性の両方に優れる導電性フィルムが得られることが分かった。
【0276】
<<実施例B>>
以下、第2実施形態に関する実施例B及び比較例Bについて、具体的に説明する。
【0277】
《透明基材B》
[透明基材B1の調製]
ポリエチレンテレフタレート(PET)を透明基材として用いて、その上に酸化ケイ素ナノ粒子と導電性の有機シラン化合物を含む中間層形成組成物を塗布し、乾燥して、帯電防止機能を有する厚み150nm、体積抵抗率5000Ωcmの酸化ケイ素を含有した中間層を形成することにより透明基材B1を得た。
【0278】
《インクB》
[インクB1]
酸化銅ナノ粒子(CIKナノテック社製 酸化第二銅微粒子)20質量部と、分散剤(ビックケミー社製、製品名:Disperbyk-145)4質量部と、界面活性剤(セイミケミカル社製、製品名:S-611)1質量部と、有機溶剤(n-ブタノール、及び2-プロピレングリコール)75質量部とを混合し、酸化銅ナノ粒子が分散したインクB1を調製した。
【0279】
[インクB2]
市販の酸化銀ナノ粒子20質量部と、分散剤(ヒドロキシプロピルセルロース)5質量部と、有機溶剤(セカンダリブチルアルコール)75質量部とを混合し、酸化銀ナノ粒子が分散したインクB2を調製した。
【0280】
<実施例B1>
《導電性フィルムの製造》
先ず転写媒体表面にインクB1を塗布し、次いでインクB1が塗布された転写媒体表面と金属細線パターンの溝を有する版を対向させて、押圧、接触して、版の凸部表面に転写媒体表面上の一部のインクB1を転移させた。その後、残ったインクB1がコーティングされた転写媒体表面と透明基材B1とを対向させて、押圧、接触させ、透明基材B1の上に所望の金属細線パターン状のインクB1を転写させた。次いで、市販の赤外線オーブンを用いて、インクB1のパターンに対して以下の条件で焼成を施し、金属細線表面側の酸化銅の還元を促進することによって、透明基材B1との界面側に酸素原子Oを偏在させた線幅1μmのメッシュパターンの金属細線を有する導電性フィルムを得た。
熱源:赤外線ランプ
照射温度:180℃
照射時間:220min
環境:水素含有窒素雰囲気
【0281】
《導電性フィルムの評価》
[実施例B:シート抵抗]
得られた導電性フィルムのシート抵抗R
s0(Ω/sq)を以下の方法により測定した。先ず、導電性フィルムの金属細線パターンが全面に配された部分から100mm四方の測定サンプルを切り出した。次いで、得られた測定サンプルの表面の幅方向の両端部にスクリーン印刷装置を用いて銀ペーストを塗布、乾燥し、
図13に示すように幅10mm×奥行100mmの長尺な集電部を形成した。次いで、サンプル両端部の集電部間の電気抵抗R(Ω)を、オームメーターの測定端子を接触させる2端子法により測定した。得られた電気抵抗から下記式を用いてシート抵抗R
s0(Ω/sq)を算出した。なお、表面に保護層を有する導電フィルムのシート抵抗は、金属細線パターンのうち、集電部を露出させ、その他の金属細線パターンが保護層で被覆された導電性フィルムを作製し、測定を行った。具体的には、上述の方法で形成した集電部にマスキングを行い、保護層を形成し、最後にマスキングを除去することで、集電部のみが露出した導電性フィルムを作製した。結果を下記表3に示す。
R
s0=R/L×D
L:80(mm) :集電部間の距離
D:100(mm):奥行方向の距離
【0282】
[実施例B:可視光透過率及びヘイズ]
JIS K 7361-1:1997の全光線透過率に準拠して、360~830nmの波長を有する可視光の透過率を算出することにより、導電性フィルムの可視光透過率を測定した。また、JIS K 7136:2000に準拠して導電性フィルムのヘイズを測定した。結果を下記表3に示す。
【0283】
[実施例B:金属細線断面のSTEM-EDX分析]
得られた導電性フィルムを支持体であるエポキシ樹脂に包埋し、ウルトラミクロトームを用いて金属細線の延伸方向に直交する面で切断して、厚さ80nmの薄切片を形成した。得られた薄切片を測定サンプルとして、下記条件にて電子線を照射することにより、STEM-EDX分析を行った。
STEM:日立ハイテクノロジーズ社製、走査型透過電子顕微鏡 HD―2300A
EDX :EDAX社製、エネルギー分散型X線分析装置、GENESIS
加速電圧:200kV
測定倍率:25,000倍
電子線入射角度:90°
X線取出角度 :18°
マッピング元素:Cu、Ag、O
積算回数:200回
dwell time:200μsec.
解像度 :256×200ピクセル
【0284】
上記のようにして得られた測定サンプルをSTEMにより観察し、金属細線の断面のSTEM像を得た。同時に、エネルギー分散型X線分析(EDX)により金属細線の断面の元素マッピングをした。具体的には、断面の箇所ごとに酸素原子OのK殻のEDX強度と、導電性金属原子MのK殻のEDX強度を測定し、この操作を金属細線の断面の全体に対して行った。
【0285】
他方で、STEM像から、透明基材側の金属細線界面から金属細線表面までの最大厚さTを算出し、透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.90Tまでの厚さ領域における酸素原子OのK殻のEDX強度の積算値と導電性金属原子MのK殻のEDX強度の積算値を算出し、これら積算値の比を原子%比O/M0.10~0.90として得た。また、原子%比O/M0.75~0.90や原子%比O/M0.10~0.25については、対象とする厚さ領域において、同様の手法により算出した。
【0286】
<実施例B2~B10、及び比較例B1~B3>
表3に示すように、透明基材、インク、線幅、及び焼成条件等をそれぞれ変更したこと以外は、実施例B1と同様の操作により導電性フィルムを作製し、評価を行った。結果を下記表3に示す。
【0287】
【0288】
実施例B1~B10、及び比較例B1~B3から、金属細線の延伸方向に直交する金属細線の断面のSTEM-EDX分析において、導電性金属原子Mと酸素原子Oの原子%比O/Mを0.01~1.00の範囲に調整することで、高い透明性(すなわち、小さい線幅、高い透過率、及び低いヘイズ)と高い導電性を兼ね備える導電性フィルムが得られることが分かる。
【0289】
<<実施例B’>>
以下、第2実施形態に関する実施例B’及び比較例B’について、具体的に説明する。
【0290】
《透明基材B’》
[透明基材B’1の調製]
ポリエチレンテレフタレート(PET)を透明基材として用いて、その上に酸化ケイ素のナノ粒子が分散した中間層形成組成物を塗布し、乾燥して、厚み150nm、体積抵抗率5000Ωcmの酸化ケイ素を含有した中間層を形成することにより透明基材B’1を得た。
【0291】
《インクB’》
[インクB’1]
酸化銅ナノ粒子(CIKナノテック社製 酸化第二銅微粒子)20質量部と、分散剤(ビックケミー社製、製品名:Disperbyk-145)4質量部と、界面活性剤(セイミケミカル社製、製品名:S-611)1質量部と、有機溶剤(n-ブタノール、及び2-プロピレングリコール)75質量部とを混合し、酸化銅ナノ粒子が分散したインクB’1を調製した。
【0292】
[インクB’2]
市販の酸化銀ナノ粒子20質量部と、分散剤(ヒドロキシプロピルセルロース)5質量部と、有機溶剤(セカンダリブチルアルコール)75質量部とを混合し、酸化銀ナノ粒子が分散したインクB’2を調製した。
【0293】
<実施例B’1>
《導電性フィルムの製造》
先ず転写媒体表面にインクB’1を塗布し、次いでインクB’1が塗布された転写媒体表面と金属細線パターンの溝を有する版を対向させて、押圧、接触して、版の凸部表面に転写媒体表面上の一部のインクB’1を転移させた。その後、残ったインクB’1がコーティングされた転写媒体表面と透明基材B’1とを対向させて、押圧、接触させ、透明基材B’1の上に所望の金属細線パターン状のインクB’1を転写させた。次いで、市販の赤外線オーブンを用いて、インクB’1のパターンに対して以下の条件で焼成を施し、金属細線表面側の酸化銅の還元を促進することによって、透明基材B’1との界面側に酸素原子Oを偏在させた線幅1μmのメッシュパターンの金属細線を有する導電性フィルムを得た。
熱源:赤外線ランプ
照射温度:180℃
照射時間:220min
環境:水素含有窒素雰囲気
【0294】
《導電性フィルムの評価》
実施例B’のシート抵抗、可視光透過率及びヘイズ、金属細線断面のSTEM-EDX分析の測定については、実施例Bに記載の方法と同様の方法により行った。
【0295】
<実施例B’2~B’10、及び比較例B’1~B’2>
表4に示すように、透明基材、インク、線幅、及び焼成条件等をそれぞれ変更したこと以外は、実施例B’1と同様の操作により導電性フィルムを作製し、評価を行った。結果を下記表4に示す。
【0296】
【0297】
実施例B’1~B’10、及び比較例B’1~B’2から、金属細線の延伸方向に直交する金属細線の断面のSTEM-EDX分析において、導電性金属原子Mと酸素原子Oの原子%比O/Mを0.01~1.00の範囲に調整することで、高い透明性(すなわち、小さい線幅、高い透過率、及び低いヘイズ)と高い導電性を兼ね備える導電性フィルムが得られることが分かる。
【0298】
<<実施例C>>
以下、第3実施形態に関する実施例C及び比較例Cについて、具体的に説明する。
【0299】
《透明基材C》
[透明基材C1の調製]
ポリエチレンテレフタレート(PET)を透明基材として用いて、その上に酸化ケイ素ナノ粒子と導電性の有機シラン化合物を含む中間層形成組成物を塗布し、乾燥して、帯電防止機能を有する厚み150nm、体積抵抗率5000Ωcmの酸化ケイ素を含有した中間層を形成することにより透明基材C1を得た。
【0300】
[透明基材C2の調製]
PETに代えてポリエチレンナフタレート(PEN)を透明基材として用いたこと以外は、透明基材C1の調製方法と同様の方法により、透明基材C2を得た。
【0301】
《インクC》
[インクC1]
酸化銅ナノ粒子(CIKナノテック社製 酸化第二銅微粒子)20質量部と、分散剤(ビッグケミー社製、製品名:Disperbyk-145)4質量部と、界面活性剤(セイミケミカル社製、製品名:S-611)1質量部と、有機溶剤(n-ブタノール、及び2-プロピレングリコール)75質量部とを混合し、酸化銅ナノ粒子が分散したインクC1を調製した。
【0302】
[インクC2]
DIC社製銀ナノインク(RAGT-29)100質量部にエタノールを50質量部添加し、インクC2を調製した。
【0303】
<実施例C1>
《導電性フィルムの製造》
先ず転写媒体表面にインクC1を塗布し、次いでインクC1が塗布された転写媒体表面と金属細線パターンの溝を有する版を対向させて、押圧、接触して、版の凸部表面に転写媒体表面上の一部のインクを転移させた。その後、残ったインクC1がコーティングされた転写媒体表面と透明基材C1とを対向させて、押圧、接触させ、透明基材C1の上に所望の金属細線パターン状のインクC1を転写させた。次いで、インクC1のパターンに対して以下の条件で還元性ガス雰囲気下にて加熱焼成を施し、線幅1μmのメッシュパターンの金属細線を有する導電性フィルムを得た。
・環境:ヘリウム-水素ガス雰囲気下
・加熱温度:100℃
・加熱時間:60分
【0304】
《導電性フィルムの評価》
[実施例C:シート抵抗]
得られた導電性フィルムのシート抵抗R
s0(Ω/sq)を以下の方法により測定した。先ず、導電性フィルムの金属細線パターンが全面に配された部分から100mm四方の測定サンプルを切り出した。次いで、得られた測定サンプルの表面の幅方向の両端部にスクリーン印刷装置を用いて銀ペーストを塗布、乾燥し、
図13に示すように幅10mm×奥行100mmの長尺な集電部を形成した。次いで、サンプル両端部の集電部間の電気抵抗R(Ω)を、オームメーターの測定端子を接触させる2端子法により測定した。得られた電気抵抗から下記式を用いてシート抵抗R
s0(Ω/sq)を算出した。なお、表面に保護層を有する導電フィルムのシート抵抗は、金属細線パターンのうち、集電部を露出させ、その他の金属細線パターンが保護層で被覆された導電性フィルムを作製し、測定を行った。具体的には、上述の方法で形成した集電部にマスキングを行い、保護層を形成し、最後にマスキングを除去することで、集電部のみが露出した導電性フィルムを作製した。結果を下記表5に示す。
R
s0=R/L×D
L:80(mm) :集電部間の距離
D:100(mm):測定サンプルの奥行
【0305】
[実施例C:可視光透過率及びヘイズ]
JIS K 7361-1:1997の全光線透過率に準拠して、360~830nmの波長を有する可視光の透過率を算出することにより、導電性フィルムの可視光透過率を測定した。また、JIS K 7136:2000に準拠して導電性フィルムのヘイズを測定した。結果を下記表5に示す。
【0306】
[実施例C:金属細線断面のSTEM-EDX分析]
得られた導電性フィルムを、収束イオンビーム(FIB)を用いて金属細線の延伸方向に直交する金属細線の断面を含む、厚さ200nm以下の薄切片を作製した。得られた薄切片をシリコンの試料台の先端に取り付け、測定サンプルとして下記条件にてSTEM-EDX測定を行った。
STEM:日立ハイテクノロジーズ社製、走査型透過電子顕微鏡 HD―2300A
EDX :EDAX社製、エネルギー分散型X線分析装置、GENESIS
加速電圧:200kV
測定倍率:25,000倍
電子線入射角度:90°
X線取出角度 :18°
マッピング元素:Cu、Ag、C、O
積算回数:200回
dwell time:200μsec.
解像度 :256×200ピクセル
【0307】
次いで、上記のようにして得られた測定サンプルをSTEMにより観察し、金属細線の断面のSTEM像を得た。同時に、エネルギー分散型X線分析(EDX)により金属細線の断面の元素マッピングをした。具体的には、断面の箇所ごとに炭素原子CのK殻のEDX強度と、導電性金属原子MのK殻のEDX強度を測定し、この操作を金属細線の断面の全体に対して行った。
【0308】
他方で、STEM像から、透明基材側の金属細線界面から金属細線までの最大厚さTを算出し、透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.25Tまでの厚さ領域における炭素原子CのK殻のEDX強度の積算値と導電性金属原子MのK殻のEDX強度の積算値を算出し、これら積算値の比を原子%比C/M0.10~0.25として得た。酸素原子Oと導電性金属原子Mの原子%比O/M0.10~0.25についても同様の手法により算出した。結果を下記表5に示す。
【0309】
[実施例C:密着性]
得られた導電性フィルムに対し、180°ピール試験法によって、透明基材に対する金属細線の密着性を評価した。具体的には、得られた導電性フィルムの金属細線部(導電部)に対し、株式会社テラオカ社製カプトン粘着テープ650Sを貼り付け、一方の端部を導電性フィルムから剥がし、180°折り返した状態でテープを剥離した。テープ剥離後の透明基材表面を観察し、透明基材上に金属細線が残っている場合は良好な密着性を有していると判断した。なお、良好な密着性を有している場合はA、一部の金属細線の剥離が認められる場合はBと記した。結果を下記表5に示す。
【0310】
<実施例C2~C6、及び比較例C1~C8>
表5に示すように、透明基材、インク及び焼成条件等をそれぞれ変更したこと以外は、実施例C1と同様の操作により導電性フィルムを作製した。その条件を下記表5に示す。また、作製した導電性フィルムの評価を行った結果を下記表5に示す。
【0311】
【0312】
実施例C1~C6、及び比較例C1~C8より、金属細線の断面における導電性金属原子Mと炭素原子Cの原子%比を特定の範囲に調整することで、高い透明性(すなわち、小さい線幅)を維持しながら、高い導電性と、透明基材と金属細線との高い密着性を兼ね備える導電性フィルムが得られることが分かった。
【0313】
<<実施例C’>>
以下、第3実施形態に関する実施例C’及び比較例C’について、具体的に説明する。
【0314】
《透明基材C’》
[透明基材C’1の調製]
ポリエチレンテレフタレート(PET)を透明基材として用いて、PET上にスパッタリング法を用いて、厚み50nmの酸化ケイ素層を中間層として製膜した、透明基材C’1を得た。
【0315】
[透明基材C’2の調製]
PETに代えてポリエチレンナフタレート(PEN)を透明基材として用いたこと以外は、透明基材C’1の調製方法と同様の方法により、透明基材C’2を得た。
【0316】
《インクC’》
[インクC’1]
酸化銅ナノ粒子(CIKナノテック社製 酸化第二銅微粒子)20質量部と、分散剤(ビッグケミー社製、製品名:Disperbyk-145)4質量部と、界面活性剤(セイミケミカル社製、製品名:S-611)1質量部と、有機溶剤(n-ブタノール、及び2-プロピレングリコール)75質量部とを混合し、酸化銅ナノ粒子が分散したインクC’1を調製した。
【0317】
[インクC’2]
DIC社製銀ナノインク(RAGT-29)100質量部にエタノールを50質量部添加し、インクC’2を調製した。
【0318】
<実施例C’1>
《導電性フィルムの製造》
先ず転写媒体表面にインクC’1を塗布し、次いでインクC’1が塗布された転写媒体表面と金属細線パターンの溝を有する版を対向させて、押圧、接触して、版の凸部表面に転写媒体表面上の一部のインクを転移させた。その後、残ったインクC’1がコーティングされた転写媒体表面と透明基材C’1とを対向させて、押圧、接触させ、透明基材C’1の上に所望の金属細線パターン状のインクC’1を転写させた。次いで、インクC’1のパターンに対して以下の条件で還元性ガス雰囲気下にて加熱焼成を施し、線幅1μmのメッシュパターンの金属細線を有する導電性フィルムを得た。
・環境:ヘリウム-水素ガス雰囲気下
・加熱温度:100℃
・加熱時間:60分
【0319】
《導電性フィルムの評価》
実施例C’のシート抵抗、可視光透過率及びヘイズ、金属細線断面のSTEM-EDX分析、並びに密着性の測定については、実施例Cに記載の方法と同様の方法により行った。
【0320】
<実施例C’2、及び比較例C’1~C’4>
表6に示すように、透明基材、インク及び焼成条件等をそれぞれ変更したこと以外は、実施例C1と同様の操作により導電性フィルムを作製した。その条件を下記表6に示す。また、作製した導電性フィルムの評価を行った結果を下記表6に示す。
【0321】
【0322】
実施例C’1~C’2、及び比較例C’1~C’4より、金属細線の断面における導電性金属原子Mと炭素原子Cの原子%比を特定の範囲に調整することで、高い透明性(すなわち、小さい線幅)を維持しながら、高い導電性と、透明基材と金属細線との高い密着性を兼ね備える導電性フィルムが得られることが分かった。
【0323】
<<実施例D>>
以下、第2実施形態及び第3実施形態に関する実施例D及び比較例Dについて、具体的に説明する。
【0324】
《透明基材D》
[透明基材D1の調製]
PETを透明基材として用いて、その上に酸化ケイ素ナノ粒子と導電性の有機シラン化合物を含む中間層形成組成物を塗布し、乾燥して、帯電防止機能を有する厚み150nm、体積抵抗率5000Ωcmの酸化ケイ素を含有した中間層を形成することにより透明基材D1を得た。なお、透明基材D1は、透明基材であるPET上に中間層が積層した形態である。
【0325】
《インクD》
[インクD1]
粒子径21nmの酸化第一銅ナノ粒子20質量部と、分散剤(ビッグケミー社製、製品名:Disperbyk-145)4質量部と、界面活性剤(セイミケミカル社製、製品名:S-611)1質量部と、エタノール75質量部とを混合し、酸化第一銅ナノ粒子の含有割合が20質量%のインクD1を調製した。
【0326】
<実施例D1>
《導電性フィルムの調製》
先ず転写媒体表面にインクD1を塗布し、次いでインクが塗布された転写媒体表面と金属細線パターンの溝を有する版を対向させて、押圧、接触して、版の凸部表面に転写媒体表面上の一部のインクを転移させた。その後、残ったインクがコーティングされた転写媒体表面と透明基材とを対向させて、押圧、接触させ、透明基材の上に所望の金属細線パターン状のインクD1を転写させた。次いで、インクD1のパターンに対してプラズマ焼成装置を用いて表7に記載の条件で還元し、線幅1μmのメッシュパターンの金属細線を有する導電性フィルムを得た。
【0327】
《導電性フィルムの評価》
[実施例D:シート抵抗]
得られた導電性フィルムのシート抵抗R
s0(Ω/sq)を以下の方法により測定した。先ず、導電性フィルムの金属細線パターンが全面に配された部分から100mm四方の測定サンプルを切り出した。次いで、得られた測定サンプルの表面の幅方向の両端部にスクリーン印刷装置を用いて銀ペーストを塗布、乾燥し、
図13に示すように幅10mm×奥行100mmの長尺な集電部を形成した。次いで、サンプル両端部の集電部間の電気抵抗R(Ω)を、オームメーターの測定端子を接触させる2端子法により測定した。得られた電気抵抗から下記式を用いてシート抵抗R
s0(Ω/sq)を算出した。なお、表面に保護層を有する導電フィルムのシート抵抗は、金属細線パターンのうち、集電部を露出させ、その他の金属細線パターンが保護層で被覆された導電性フィルムを作製し、測定を行った。具体的には、上述の方法で形成した集電部にマスキングを行い、保護層を形成し、最後にマスキングを除去することで、集電部のみが露出した導電性フィルムを作製した。結果を下記表7に示す。
R
s0=R/L×D
L:80(mm) :集電部間の距離
D:100(mm):測定サンプルの奥行
【0328】
[実施例D:可視光透過率及びヘイズ]
JIS K 7361-1:1997の全光線透過率に準拠して、360~830nmの波長を有する可視光の透過率を算出することにより、導電性フィルムの可視光透過率を測定した。また、JIS K 7136:2000に準拠して導電性フィルムのヘイズを測定した。結果を下記表7に示す。
【0329】
[実施例D:金属細線断面のSTEM-EDX分析]
得られた導電性フィルムを、収束イオンビーム(FIB)を用いて金属細線の延伸方向に直交する金属細線の断面を含む、厚さ200nm以下の薄切片を作製した。得られた薄切片をシリコンの試料台の先端に取り付け、測定サンプルとして下記条件にてSTEM-EDX測定を行った。
STEM:日立ハイテクノロジーズ社製、走査型透過電子顕微鏡 HD―2300A
EDX :EDAX社製、エネルギー分散型X線分析装置、GENESIS
加速電圧:200kV
測定倍率:25,000倍
電子線入射角度:90°
X線取出角度 :18°
マッピング元素:Cu、C、O
積算回数:200回
dwell time:200μsec.
解像度 :256×200ピクセル
【0330】
次いで、上記のようにして得られた測定サンプルをSTEMにより観察し、金属細線の断面のSTEM像を得た。同時に、エネルギー分散型X線分析(EDX)により金属細線の断面の元素マッピングをした。具体的には、断面の箇所ごとに炭素原子CのK殻のEDX強度と、酸素原子OのK殻のEDX強度と、導電性金属原子MのK殻のEDX強度とを測定し、この操作を金属細線の断面の全体に対して行った。
【0331】
他方で、STEM像から、透明基材側の金属細線界面から金属細線までの最大厚さTを算出し、透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.25Tまでの厚さ領域における炭素原子CのK殻のEDX強度の積算値と導電性金属原子MのK殻のEDX強度の積算値を算出し、これら積算値の比を原子%比C/M0.10~0.25として得た。同様に、透明基材側の金属細線界面から0.10T~0.90Tまでの厚さ領域における酸素原子OのK殻のEDX強度の積算値と導電性金属原子MのK殻のEDX強度の積算値を算出し、これら積算値の比を原子%比O/M0.10~0.90として得た。また、原子%比O/M0.75~0.90や原子%比O/M0.10~0.25については、対象とする厚さ領域において、同様の手法により算出した。結果を下記表7に示す。
【0332】
[実施例D:密着性]
得られた導電性フィルムに対し、180°ピール試験法によって、透明基材に対する金属細線の密着性を評価した。具体的には、得られた導電性フィルムの金属細線部(導電部)に対し、株式会社テラオカ社製カプトン粘着テープ650Sを貼り付け、一方の端部を導電性フィルムから剥がし、180°折り返した状態でテープを剥離した。テープ剥離後の透明基材表面を観察し、剥離がない場合をA、一部の金属細線の剥離が認められる場合をB、全ての金属細線が剥離した場合をCと判断した。結果を下記表7に示す。
【0333】
<実施例D2~D13、及び比較例D1~D8>
表7に示すように、透明基材、インク、線幅、及び焼成条件をそれぞれ変更したこと以外は、実施例D1と同様の操作により導電性フィルムを作製し、評価を行った。結果を下記表7に示す。
【0334】
【0335】
実施例D1~D13及び比較例D1~D8から、金属細線の延伸方向に直交する金属細線の断面のSTEM-EDX分析において、導電性金属原子Mと酸素原子Cの原子%比C/M0.10~0.25を0.3~6.0の範囲に、また導電性金属原子Mと酸素原子Oの原子%比O/M0.10~0.90を0.01~1.00の範囲に調整することで、細線化による低い視認性を実現しつつ、同時に低いシート抵抗、高い透過率、低いヘイズ、良好な密着性を達成できる導電性フィルムが得られることが分かる。
【0336】
本出願は、2018年7月30日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2018-142225、特願2018-142051、及び特願2018-142045)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0337】
本発明の導電性フィルムは、電子ペーパー、タッチパネル、及びフラットパネルディスプレイ等の透明電極として、好適に利用でき、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0338】
10…導電性フィルム
11…透明基材
12…金属細線パターン
13…導電部
14…金属細線
15…開口部
16…パターン単位
20…電子ペーパー
21…カップ
22…黒顔料
23…白顔料
24…ボトム電極
30…タッチパネル
31…絶縁体
32…取り出し電極
33…コントローラー