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特許7320054Mg合金、Mg合金の製造方法、及び、Mg合金を用いた土木材料及び生体材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-25
(45)【発行日】2023-08-02
(54)【発明の名称】Mg合金、Mg合金の製造方法、及び、Mg合金を用いた土木材料及び生体材料
(51)【国際特許分類】
   C22C 23/02 20060101AFI20230726BHJP
   B22D 21/04 20060101ALI20230726BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230726BHJP
   C22F 1/06 20060101ALN20230726BHJP
【FI】
C22C23/02
B22D21/04 B
C22F1/00 611
C22F1/00 612
C22F1/00 624
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 675
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/06
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021517499
(86)(22)【出願日】2020-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2020044435
(87)【国際公開番号】W WO2022113323
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2021-03-26
【審判番号】
【審判請求日】2022-01-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000175560
【氏名又は名称】三協立山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 泰誠
(72)【発明者】
【氏名】小川 正芳
(72)【発明者】
【氏名】小笹 智也
(72)【発明者】
【氏名】清水 和紀
(72)【発明者】
【氏名】中川 昭
(72)【発明者】
【氏名】蟹谷 駿
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-525843号公報
【文献】中国特許出願公開第110923531号明細書
【文献】国際公開第2017/111159号
【文献】国際公開第2018/109947号
【文献】国際公開第2017/168696号
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 23/00-23/06
C22F 1/00, 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg、Al、Mn、Niを含有し、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する、Mg合金。
【請求項2】
Znをさらに含有する、請求項1に記載のMg合金。
【請求項3】
Caをさらに含有する、請求項1又は2に記載のMg合金。
【請求項4】
AlCa、(Mg、Al)Ca、又は、MgCaからなる群から選択される1以上の化合物を含む、請求項3に記載のMg合金。
【請求項5】
Mg合金全量に対し、前記Alは0.1質量%以上16質量%以下であり、前記Mnは0.05質量%以上である、請求項1~4いずれか一項に記載のMg合金。
【請求項6】
Mg合金全量に対し、前記Znは0.05質量%以上1.5質量%以下である、請求項2に記載のMg合金。
【請求項7】
Mg合金全量に対し、前記Caは0.1質量%以上2.0質量%以下である、請求項3に記載のMg合金。
【請求項8】
前記Al-Mn-Ni系金属間化合物に対し、Niが0.1質量%以上である、請求項1~6いずれか一項に記載のMg合金。
【請求項9】
前記Al-Mn-Ni系金属間化合物は、単位断面積あたり1個/cm以上である、及び、1nm以上25μm以下の大きさを有する、請求項1~8いずれか一項に記載のMg合金。
【請求項10】
Mg合金の製造方法であって、
該Mg合金の製造方法は鋳造工程を含み、
前記鋳造工程は、
Mg、Al、Mn及びNiを配合して混合物を作製する工程と、
前記作製された混合物を720℃以上に加熱し溶湯を作製する工程と、
前記作製された溶湯を攪拌して完全溶解物を作製する工程と、
前記攪拌して作製された完全溶解物を鋳造する工程と、
を含む、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有するMg合金の製造方法。
【請求項11】
前記混合物を作製する工程において、さらにZn及び/又はCaを配合する、請求項10に記載のMg合金の製造方法。
【請求項12】
請求項1~9いずれか一項に記載のMg合金を用いた土木材料又は生体材料であって、前記Mg合金の分解性により使用後の回収が不要である、土木材料及び生体材料。
【請求項13】
請求項10又は11に記載のMg合金の製造方法で製造された土木材料又は生体材料であって、前記Mg合金の分解性により使用後の回収が不要である、土木材料及び生体材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Mg合金、Mg合金の製造方法、及び、Mg合金を用いた土木材料及び生体材料に関する。特に、分解を促進することができるMg合金に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金は、構造物や装置に使用される金属材料の中では密度が小さいため、様々な分野の部材を鉄等からマグネシウム合金に置き換えることにより、該部材の軽量化が図られてきている。また、マグネシウム合金は、他の金属より電位的に卑であるため、構造物を防食する犠牲電極材や掘削部材にも応用されている。さらに、マグネシウム合金は分解性あるいは生分解性を有するため、回収不要な部材へも利用されており、地中構造物、水中構造物や生体材料、医療材料への応用開発も進められている。
【0003】
特許文献1は、改善された分解特性を有するMgZn合金やMgZnCa合金に関するものであり、これらの合金に基づく三次元構造体を有するインプラントを開示している。外科用インプラントを含む医療用途の材料であるため、具体的には、超高純度マグネシウムに高純度Znを2.0重量%~6重量%含有させている(特許文献1段落0002、0004、0045等)。
【0004】
また、特許文献2は、機械的特性、表面品質に優れるマグネシウム合金材に関し、連続鋳造を行うにあたり、マグネシウム合金の溶湯が接触する部分の形成材料を、酸素の含有量が20質量%以下の低酸素材料にて形成することを開示している(特許文献2段落0008、0009等)。
【0005】
上記のように、用途目的に応じ、軽量化や機械特性、分解特性の優れたマグネシウム合金の材料が開発されてきた。
一方で、市販のマグネシウムには不純物が存在し、かかる不純物の存在が、Fe、Cu、Niを含むマイクロガルバニ元素の形成に起因して分解速度を高めると考えられている(特許文献1段落0004等)。つまり、Niは分解速度を高める性質を有するものであり、マグネシウム合金中での存在状態によっては分解速度を調整することが可能と考えられる。しかしながら、Niは、Mgあるいはマグネシウム合金の融点や密度より高いこと(Mgの融点は650℃、Mgの密度は1.738g/cm3、Niの融点は1455℃、Ni密度は8.908g/cm3)から、マグネシウム合金が溶融する温度領域でマグネシウム合金にNiを添加して溶解させたり、合金中に完全に分散させることは難しいという課題があった。
また、上記のようにマグネシウム合金にNiを添加して溶解させたり、合金中に完全に分散させることは難しいため、分解速度を高める性質を有するNiを単にマグネシウム合金中に添加しても、意図に沿った分解の促進が可能なMg合金になりにくいという課題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2015-532685号公報
【文献】国際公開2006/003899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みたものであり、マグネシウム合金中に含まれる金属とともにNiをマグネシウム合金中に分散させた、Mg合金を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のMg合金は、Mg、Al、Mn、Niを含有し、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有する。
【0009】
上記Mg合金は、Znをさらに含有してもよい。
【0010】
上記Mg合金は、Caをさらに含有してもよい。
【0011】
上記Caを含むMg合金は、Al2Ca、(Mg、Al)2Ca、又は、Mg2Caからなる群から選択される1以上の化合物を含んでもよい。
【0012】
上記Mg合金は、Mg合金全量に対し、前記Alは0.1質量%以上であり、前記Mnは0.05質量%以上であることが好ましい。
【0013】
上記Znを含むMg合金は、Mg合金全量に対し、前記Znは0.05質量%以上1.5質量%以下であることが好ましい。
【0014】
上記Caを含むMg合金は、Mg合金全量に対し、前記Caは0.1質量%以上2.0質量%以下であることが好ましい。
【0015】
上記Al-Mn-Ni系金属間化合物に対し、Niが0.1質量%以上であることが好ましい。
【0016】
上記Mg合金において、前記Al-Mn-Ni系金属間化合物は、単位断面積あたり1個/cm2以上である、及び/又は、1nm以上25μm以下の大きさを有することが好ましい。
【0017】
上記Al-Mn-Ni系金属間化合物は、クラスターを形成していてもよい。
【0018】
本発明の晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有するMg合金の製造方法は、鋳造工程を含み、前記鋳造工程は、Mg、Al、Mn及びNiを配合して混合物を作製する工程と、前記作製された混合物を720℃以上に加熱し溶湯を作製する工程と、前記作製された溶湯を攪拌して完全溶解物を作製する工程と、前記攪拌して作製された完全溶解物を鋳造する工程と、を含む。
【0019】
上記混合物を作製する工程において、さらにZn及び/又はCaを配合してもよい。
【0020】
本発明の土木材料又は生体材料は、上記Mg合金を用いたものであり、前記Mg合金の分解性により使用後の回収が不要である。
【発明の効果】
【0021】
本発明のMg、Al、Mn、Niを含有するMg合金において、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有することにより、分解の促進が可能なMg合金を提供することができる。
さらに、本発明のMg合金の製造方法によれば、マグネシウム合金中に含まれる金属のAl、MnとともにNiを含むAl-Mn-Ni系金属間化合物を形成させて晶出させ、Niをマグネシウム合金中に分散させることができ、分解の促進が可能なMg合金を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の製造工程の一例を示す。
図2】本発明のNi添加量に対する含有量の割合と溶湯温度の関係の一例を示す。
図3】鋳造工程における攪拌の有無による結晶の種類の一例を示す。図3(a)は攪拌なしの例、図3(b)は攪拌ありの例である。
図4】本発明の鋳造工程の一例を示す。図4(a)は鋳造工程の経過時間と温度の関係の一例であり、図4(b)は図4(a)で鋳造したビレットの金属顕微鏡写真であり、図4(c)は図4(b)を拡大した金属顕微鏡写真である。
図5】Niの添加量によるMg合金の金属顕微鏡写真の一例を示す。図5(a)はNi添加量が0.4質量%の場合の例、図5(b)はNi添加量が5質量%の場合の例である。
図6】均質化処理済みビレットのAl-Mn-Ni系金属間化合物の金属顕微鏡写真を示す。図6(a)は視野1、図6(b)は視野2、図6(c)は視野3の例を示す。
図7】押出材のAl-Mn-Ni系金属間化合物の金属顕微鏡写真を示す。図7(a)は視野1、図7(b)は視野2の例を示す。
図8】本発明のMg合金において、Ni濃度と分解速度の関係の一例を、Caの添加の有無により示したものである。
図9】本発明のMg合金において、Caを添加した場合のSEM-EDS分析結果の例を示す。図9(a)は視野1、図9(b)は視野2の例を示す。
図10】Ca添加濃度と、引張破壊強さ、0.2%耐力、伸びの特性の関係の例を示す。
図11】分解メカニズム調査の一例を示す。図11(a)はサンプルの押出方向と観察方向を示し、図11(b)は押出材の浸漬試験前の金属顕微鏡写真、図11(c)は押出材の浸漬試験後の金属顕微鏡写真の例を示す。
図12】本発明のMg合金において、Al-Mn-Ni系金属間化合物がクラスターとなっている一例を示す。図12(a)はクラスター形成試料の一例、図12(b)はクラスター形成試料の他の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明を実施するための形態について説明する。
【0024】
本発明のMg合金は、Mg、Al、Mn、Niを含有し、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物を有するものである。
【0025】
(Mg合金)
Mg合金は、その言葉のとおりMgを主成分とする合金である。主たる成分のMg、添加されるAl、Mn、Niは、加熱、又は、加熱及び攪拌により溶解(分散)させられれば、各地金を配合してもよいし、Mg-Al-Mn合金、Mg-Al-Zn-Mn合金、Mg-Al-Mn-Ca合金、Mg-Al-Zn-Mn合金にNiを添加してもよい。
【0026】
Mg合金には、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物が含まれる。上述したようにNiはその融点や密度が高いため、単独ではMg合金中に分散しにくいが、Mg合金中に添加されるAl、MnとともにAl-Mn-Ni系金属間化合物を形成し晶出することにより、Mg合金に分散しMg合金の分解を促進することができる。
Mg合金に晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物が含まれることにより、Mg合金の分解速度が高まる効果や、晶出する場所によりMg合金を均質に分解できる効果、あるいは局所的に分解できる効果を有する。分解速度が高まる点においては、「易分解性」である。Al-Mn-Ni系金属間化合物について、詳細は後述する。
【0027】
Mg合金に添加されるAlは、Mg合金全量に対し0.1質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上16質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上11質量%以下、0.3質量%以上11質量%以下であることがさらに好ましい。Alが0.1質量%より少ないと、Al-Mn-Ni系金属間化合物の形成がされにくくなる。一方、Alが増加すると、鋳造時の内部応力が増加し、連続鋳造が難しくなる傾向はあるものの、Al-Mn-Ni系金属間化合物の形成と晶出が行われる濃度の範囲であればよい。
【0028】
Mg合金に添加されるMnは、Mg合金全量に対し0.05質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上1.0質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以上1.0質量%以下であることがさらに好ましい。Mnが0.1質量%より少ないと、Al-Mn-Ni系金属間化合物の形成がされにくくなる。一方、Mnが増加するとMg合金、特にAlを含むMg合金にMnが含有されにくくなる傾向はあるものの、Al-Mn-Ni系金属間化合物の形成と晶出が行われる濃度の範囲であればよい。
【0029】
Mg合金に添加されるNiは、晶出されたAl-Mn-Ni系金属間化合物に対し、0.1質量%以上であることが好ましい。Niが0.1質量%より少ないと、Al-Mn-Ni系金属間化合物とα-Mgの間で分解を促進させるような電位差が生じにくくなる。一方、Niが増加するとAl-Mn-Ni系金属間化合物の晶出温度が高くなるため、Mg溶湯中で結晶化が始まると沈殿して分離しやすくなる傾向があるものの、Al-Mn-Ni系金属間化合物の形成と晶出が適切に行われる濃度の範囲であればよい。
なお、Mg合金に含有するNiは、Mg合金全量に対しては0.01質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上0.6質量%以下がより好ましく、0.01質量%以上0.5質量%以下がさらに好ましい。Niを0.6質量%以上添加しても、Mg合金内に十分に分散・拡散することなく炉底に沈降分離されものが多くなってくると考えられるからである(後述する評価試験5の結果参照)。
また、金属間化合物とは、2種類以上の金属によって構成される化合物であり、構成する元素とは異なる特有の物理的、化学的性質を示すものもある。
【0030】
Mg合金には、さらにZnを含有させてもよい。Mg合金に添加されるZnは、Mg合金全量に対し0.05質量%以上1.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上1.5質量%以下であることがより好ましい。ZnをMg合金に添加すると、固溶強化により、0.2%耐力、伸びを向上させるとともに時効析出を促進することができる。一方、Znを1.5質量%を超えて添加すると、分解速度が低下する傾向にある。
【0031】
Mg合金には、さらにCaを含有させてもよい。Mg合金に添加されるCaは、0.1質量%以上2.0質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上2.0質量%以下であることがより好ましい。Alが添加されたMg合金にCaを添加すると、Al2Ca、(Mg、Al)2Ca、又は、Mg2Caからなる群から選択される1以上の化合物が晶出され、これらの化合物が分解の駆動力として寄与するため分解速度が増加する。また、これらの化合物が晶出することで、難燃特性や耐熱強度が向上したMg合金を得ることができる。ここで、これらのCaを含む化合物の比率は、AlとCaの添加比率によって概ね決まり、添加比率がAl>Caの場合はAl2Caが主となり、添加比率がAl≒Caの場合は(Mg、Al)2Caが主となり、添加比率がAl<Caの場合はMg2Caが主となる。
一方、Ca添加量が2.0質量%を超えると、0.2%耐力や伸びといった引張特性が低下する場合がある。
【0032】
Mg合金に存在する、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物の数密度は、SEMや金属顕微鏡において、単位断面積あたり1個/cm2以上であることが好ましい。分解速度を確保する上で、電位的に貴となるAl-Mn-Ni系金属間化合物を、単位断面積あたり1個/cm2以上晶出させることが望ましいからである。
また、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物のサイズは、1nm以上25μm以下の大きさを有することが好ましい。Al-Mn-Ni系金属間化合物が粒径25μm以上の粒径で晶出すると、疲労をはじめとした破壊の起点になり得るからである(後述する評価試験5の結果参照)。上述したように電位的に貴となるAl-Mn-Ni系金属間化合物のサイズを調整すれば、用途目的により分解促進の程度を調整することができる。
【0033】
Mg合金に存在する、晶出したAl-Mn-Ni系金属間化合物は、図1に示す押出工程後の押出材において、結晶粒界で存在する数のほうが、結晶粒内で存在する数より多いことが好ましい。すなわち、全Al-Mn-Ni系金属間化合物のうち、50%を超え100%以下の金属間化合物が結晶粒界に存在することが好ましい。結晶粒界に存在するAl-Mn-Ni系金属間化合物は、高温領域で安定であるため、押出加工(塑性加工)で生じた歪により形成されるMg合金の微小結晶粒が、粗大化して成長するのを止める効果(ピン止め効果)を有することにより、押出材のMg合金の結晶組織を微細均一にすることができ、分解も均質にすることができる。
なお、押出工程(塑性加工)前の均質化処理済みビレットにおいては、上記押出材に比べ、結晶粒内で存在する数の割合が多くてもよい。具体的には、全Al-Mn-Ni系金属間化合物のうち、30%以上100%以下の金属間化合物が結晶粒内に存在してもよい。
【0034】
また、Alを含むMg合金にNiを添加する際に介在物を異質核とした場合等、Al-Mn-Ni系金属間化合物はクラスター状になり得る。溶液との接触面である分解面においてAl-Mn-Ni系金属間化合物がクラスター状に形成すると、電位的に貴となる部分の面積が大きくなり、局部的に分解速度を増大させることができる。
【0035】
Mg合金において、必須のMg、Al、Mn、Ni、任意のZn、Caの他、他の元素を含んでいてもよいし、他の元素は不可避不純物のみであってもよい。ここで不可避不純物とは、Si、Fe、Cu等が例示されるが、これに限定されない。言い換えると、Mg合金において、必須のAl、Mn、Ni、任意のZn、Caの残部は、Mg及び不可避不純物であってもよい。
なお、各元素の効果は概ね以下のとおりである。Alは固溶強化や析出強化を促進し、鋳造性と耐食性を改善する。Mnは塑性加工における再結晶粒の粗大化を抑制する。Znは鋳造性と強度を改善する。Caはクリープ強度、耐熱強度を改善し、難燃性を付与する。
【0036】
(Mg合金の製造方法)
本発明のMg合金の製造方法には、鋳造工程、均質化処理工程、押出工程又は鍛造工程が含まれる。
図1に、Mg合金の製造方法の簡略フローを示す。鋳造工程でビレットが作製され、該ビレットは均質化処理工程で均質化処理済みビレットが作製される。該均質化処理済みビレットは、押出工程で押出材が作製される、又は、鍛造工程で鍛造材が作製される。なお、押出材と鍛造材は塑性加工材とも呼ばれる。
【0037】
(鋳造工程)
鋳造工程は、混合物を作製する工程、加熱して溶湯を作製する工程、攪拌して完全溶解物を作製する工程、完全溶解物を鋳造する工程を含む。
【0038】
鋳造工程における、Mg、Al、Mn及びNiを配合して混合物を作製する工程は、合金組成に応じて地金や金属塊を準備し、混合し、混合物を作製する工程である。
必須のMg、Al、Mn、Niの他、任意のZn、Caを配合することもできる。
【0039】
引き続く、作製された混合物を加熱し溶湯を作製する工程の一例においては、混合物を720℃以上、好ましくは730℃、740℃、より好ましくは750℃以に加熱する工程である。なお、750℃を超える高い温度の場合、溶湯が活性状態となり、多くの空孔欠陥が発生しやすくなる場合がある。
【0040】
作製された溶湯を撹拌して完全溶解物を作製する工程は、加熱した混合物を撹拌し、さらにむらなく略完全に溶解させ完全溶解物を作製する工程である。完全溶解物とは、配合した地金や金属塊、晶出してきた化合物が、Mg合金から沈殿したり分離したりすることなく、むらなく混合された液状の状態をいう。また、攪拌には、機械撹拌、手動撹拌、超音波溶湯撹拌、電磁撹拌等が例示される。
撹拌時間は、加熱された溶湯の量や温度と、攪拌方法や撹拌装置の大きさやパワー等にもよるが、10分以上60分以下が例示される。Mg合金に対し、高温での撹拌を長時間行うと、溶湯表面の被膜や酸化物を大量に巻き込み、鋳塊品質を維持することができない場合がある。このような場合、撹拌時間を調整するか、撹拌後に溶湯処理を実施し、上記溶湯表面の被膜や酸化物が少なくともビレット中に含まれないよう調整することで、ビレット、均質化処理済みビレット、押出材や鍛造材(塑性加工材)の品質を維持することができる。
【0041】
作製された完全溶解物は、一例としてφ70(内径70mm)の金型に注湯され、ビレットが作製される。
【0042】
なお、鋳造工程における鋳造とは、金属の温度を融点以上まで上げて、型に流し込んで冷やし固めることをいう。本発明の鋳造工程の鋳造方法は、かかる鋳造を行うものであれば限定されず、砂型鋳造法(生(砂)型鋳造法、乾燥型鋳造法、自硬性鋳型鋳造法、熱硬化型鋳型鋳造法、ガス硬化型鋳造法、消失模型鋳造法、Vプロセス鋳造法、凍結鋳型製造法等)石膏鋳造法、精密鋳造法、金型鋳造法(重力鋳造法、ダイカスト鋳造法、低圧鋳造法、高圧鋳造法)、連続鋳造法等が例示される。
【0043】
(均質化処理工程)
均質化処理工程は、鋳造工程で晶出する金属間化合物等をα-Mg中に固溶させ、成分の偏析を抑制し、成分濃度の揺らぎの少ない鋳塊を形成する工程である。たとえば、Mg-Al-Zn-Ni系合金においては、鋳造工程で晶出する低融点のMg-Al-Zn系金属間化合物をα-Mg中に固溶させ、均質化処理を行う。なお、低融点の化合物が残っている状態で押出工程に供すると、割れが生じやすく、また、Mg-Al-Zn系金属間化合物が残っていると発火の危険がある。よって、均質化処理工程は、成分濃度の揺らぎの少ない合金を形成するのみならず、割れ等が生じにくいように機械的な強度を維持したり、発火等の安全面からも実施される工程の1つである。
一例としてφ70のビレットをφ60(外径60mm)まで切削加工を行い、400℃~420℃、好ましくは約410℃で均質化処理を行い、均質化処理済みビレットを作製する。
【0044】
(押出工程)
押出工程における押出とは、耐圧性のコンテナ内に素材(均質化処理済みビレット等)を入れ、素材に圧力を加えることで、所定の断面形状に穴あけ加工した金型(ダイス)から押出し、所望の断面形状に成形する方法である。
本発明の押出工程では、一例として均質化処理済みビレットを300℃~410℃、好ましくは約400℃の雰囲気中でφ10(外径10mm)となるように押出加工を行い、押出材(塑性加工材)を形成する。押出材はMg合金を用いた部品や部材にさらに加工される。
【0045】
(鍛造工程)
鍛造工程における鍛造とは、上下一組の金型の間に材料を入れ、プレスで押しつぶして所望の形状に加工する方法である。
本発明の鍛造工程では、一例として均質化処理済みビレットを300℃~410℃、好ましくは約400℃の雰囲気中で上型と下型でプレスして鍛造材(塑性加工材)を形成する。あるいは、φ10(外径10mm)、200mm~300mmの長さ等、適宜のサイズの丸鋳となるように鍛造を行い、鍛造材(塑性加工材)を形成する。鍛造材はMg合金を用いた部品や部材にさらに切削加工される。
【0046】
(Mg合金の応用)
Mg合金は、構造物等の部材、制振部材、犠牲電極材、掘削部材、地中構造物、水中構造物等の土木材料、生体材料、医療材料等に応用される。特に、地中や水中で使用される土木材料や、体内で使用される生体材料は、Mg合金の分解性により使用後の回収が不要となり得る。
【実施例
【0047】
以下に本発明の実施例を含めた評価試験の結果を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0048】
-評価試験1(評価用試料の作製と分解速度の測定)-
表1A、表1B、表1Cに記載の含有量となるように金属を添加(配合)し、上述した鋳造工程、均質化処理工程、押出工程で押出材を形成し、評価用の試料1~試料51とした。表1A、表1B、表1Cの金属の質量%は、評価用の試料に含有する金属の割合である。合金種はASTMで定められた呼称、又は、ASTMの呼称のルールを参考にした名前を記載したものである。たとえば、Aはアルミニウム、Zは亜鉛、Mはマンガン、Nはニッケル、Xはカルシウムであり、その後ろの数字は、質量%を1桁に四捨五入して順に並べたものである。
さらに、試料1~試料51について分解速度を測定した。分解速度の測定は、重量(mg)を測定した試料片を93℃の2%-KCl水溶液に一定時間浸漬し、取り出した後に乾燥させて重量(mg)を測定し、重量変化を確認することにより行った。減少した質量を1日あたり表面積(1cm2)あたりに換算したのが分解速度(mg/cm2/day)である。
【0049】
【表1A】


【0050】
【表1B】
【0051】
【表1C】


【0052】
-評価試験2(Niの添加量に対するNiの含有量の割合について)-
本発明は、添加されたNiがMg合金中でAl-Mn-Ni系金属間化合物を形成し晶出することが重要である。しかしながら、添加したNiがMg合金中でAl-Mn-Ni系金属間化合物を十分に形成することができない場合や、Niの高い融点や高い密度に起因してMg合金に分散できずに沈殿し取り除かれた場合、添加量に対してビレットや塑性加工材(押出材、鍛造材)のNi含有量が低くなる。
そこで、鋳造工程のおける加熱温度(溶湯温度)と、撹拌の有無により、Ni添加量に対するビレット中のNi含有量の割合について測定した。
結果は、図2、表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
図2及び表2に示されるように、加熱温度が720℃以上になると、撹拌なしの場合に比べ、撹拌ありの場合のNi含有量の割合が高くなり、740℃以上になると、撹拌ありの場合、Niの添加量の90%以上がビレットや塑性加工材(押出材、鍛造材)に配合されることが分かった。
よって、本評価試験2の条件では、加熱温度を720℃以上で撹拌を行えば、NiはMg合金に溶解(分散)されることが分かった。
【0055】
-評価試験3(Ni含有量によるSEM-EDS分析)-
表2の鋳造工程における溶湯温度が750℃であって、撹拌なしの押出材と撹拌ありの押出材について、SEM-EDS分析を行った。
SEM(走査型電子顕微鏡)は、対象試料に電子ビームを照射し、対象試料から放出される二次電子等を検出することで、対象試料の表面の構造を解析するものである。EDS(エネルギー分散型X線分析)は、対象試料に電子線やX線を照射した際に発生する蛍光X線を検出することで、対象試料を構成する元素と濃度を解析するものである。
【0056】
鋳造工程における攪拌の有無による、押出材の表面の構造をSEMで確認し、結晶部分の元素と濃度をEDSで解析した。
図3(a)に加熱温度(溶湯温度)750℃、撹拌なしの押出材の視野を示し、表3に点分析結果を示した。また、図3(b)に加熱温度(溶湯温度)750℃、撹拌ありの押出材の視野を示し、表4に点分析結果を示した。
【0057】
【表3】
【0058】
【表4】
【0059】
図3(a)及び表3の位置001、002の分析結果より、750℃撹拌なしの押出材では、Al-Mn-Ni系金属間化合物の形成が確認されなかった。
一方、図3(b)及び表4の位置001、002の分析結果より、750℃撹拌ありの押出材では、Al-Mn-Ni系金属間化合物の形成が確認された。
よって、撹拌を行うことにより、Niをより確実に溶解分散させることで、Al-Mn-Ni系金属間化合物が形成し晶出することが分かった。
【0060】
-評価試験4(ビレットの作製と評価)-
鋳造工程におけるビレットの作製について、図4(a)に、鋳造工程の経過時間と温度及び実施工程の一例を示し、図4(b)に図4(a)で鋳造したビレットの金属顕微鏡写真を示し、図4(c)に図4(b)を拡大した金属顕微鏡写真を示す。
【0061】
鋳造工程において、図4(a)中の加熱及び撹拌を行う工程は、NiをMg合金中にむらなく完全に又はほぼ完全に溶解させ完全溶解物を作製するための工程である。この撹拌を行う工程の前後に溶湯処理工程を実施することもできる。溶湯処理工程は、加熱及び撹拌を行うことにより低下しやすい鋳塊品質を維持するための工程である。
図4(a)のような加熱及び撹拌を行う工程、及び、溶湯処理工程を経たビレットは、図4(b)、図4(c)のような金属顕微鏡画像が得られ、EDS分析によりAl-Mn-Ni系金属間化合物の形成及び晶出が確認された。
よって、評価試験4の結果からも、評価試験3と同様に、加熱及び撹拌を行うことにより、Niをより確実に完全に溶解分散させることで、Al-Mn-Ni系金属間化合物が形成し晶出することが分かった。
【0062】
-評価試験5(Niの添加量について)-
評価試験2において、鋳造工程におけるNiの添加量に対するビレット中のNi含有量の割合は、鋳造工程における撹拌により大きくすることができることを示した。一方でNiの添加量の増加に伴い、Al-Mn-Ni系金属間化合物の晶出温度が高くなる傾向があるため、撹拌を行ってもAl-Mn-Ni系金属間化合物を十分に形成させることができない場合がある。そこで、Niの添加量の違いよるビレットの評価を行った。
【0063】
Ni添加量が0.4質量%の場合、ビレットのNi含有量は0.4質量%であった。図5(a)に該ビレットのSEM-EDS分析結果を示した。
このビレットには、添加したNiの量が100%(含有量/添加量=0.4/0.4=100%)含有されており、かつ、Al-Mn-Ni系金属間化合物が形成し、結晶粒界に針状や粒状の形状で存在していることが確認できた。結晶粒界に針状や粒状の形状の金属間化合物が形成されるのは、塑性加工の際にAl-Mn-Ni系金属化合物が再結晶粒の粗大化に対してピン止め効果を発揮することで再結晶粒の粗大化を抑制しているためと考えられる。
【0064】
一方、Ni添加量が5質量%の場合、ビレットのNi含有量は0.4質量%であった。図5(b)に該ビレットのSEM-EDS分析結果を示した。
このビレットには、添加したNiの量が8%(含有量/添加量=0.4/5=8%)しか含有されておらず、このビレット中にはAl-Mn-Ni系金属間化合物がデンドライト状(樹枝状)に晶出していることが確認できた。デンドライト状の金属間化合物が形成されるのは、α-Mgより晶出温度が高いためであり、初晶化合物として形成されることが考えられる。また、本評価試験結果からも、Mg-Al-Zn-Mn系合金中にNiを0.6質量%以上添加しても、Mg合金内に十分に分散・拡散することなく炉底に沈降分離されると考えられる。
【0065】
よって、Niの添加量に対するNi含有量の割合が低くなりすぎると、Mg合金中にAl-Mn-Ni系金属間化合物が充分に分散できず、粒径25μm以上の粗大なAl-Mn-Ni系金属間化合物が晶出することが分かった。なお、Al-Mn-Ni系金属間化合物が粒径25μm以上の粒径で晶出すると、疲労をはじめとした破壊の起点になり得る。
【0066】
-評価試験6(均質化処理済みビレットにおけるAl-Mn-Ni系金属間化合物の晶出位置)-
均質化処理工程後、押出工程前の均質化処理済みビレットにおける、Al-Mn-Ni系金属間化合物の晶出位置について評価した。
AZ80(Alが8質量%、Znが四捨五入して0%の含有を予定した、Mg合金)に、Niが0.4質量%の含有を予定した均質化処理済みビレットを作製し、金属顕微鏡観察を行った。
【0067】
図6(a)に視野1、図6(b)に視野2、図6(c)に視野3の金属顕微鏡写真を示す。Al-Mn-Ni系金属間化合物について、結晶粒内に存在する個数と、結晶粒界に存在する個数を数えた結果を、表5に示す。
【0068】
【表5】
【0069】
図6(a)、図6(b)、図6(c)、表5より、本評価試験における押出工程前の均質化処理済みビレットのAl-Mn-Ni系金属間化合物は、約65%~約90%が結晶粒内に存在していることが分かった。
【0070】
-評価試験7(押出材におけるAl-Mn-Ni系金属間化合物の晶出位置)-
押出工程後の押出材における、Al-Mn-Ni系金属間化合物の晶出位置について評価した。
AZ80(Alが8質量%、Znが四捨五入して0%の含有を予定した、Mg合金)に、Niが0.4質量%の含有を予定した均質化処理済みビレットを作製し、金属顕微鏡観察を行った。
【0071】
図7(a)に視野1、図7(b)に視野2の金属顕微鏡写真を示す。Al-Mn-Ni系金属間化合物について、結晶粒内に存在する個数と、結晶粒界に存在する個数を数えた結果も図7(a)、図7(b)に沿えて示す。
【0072】
図7(a)、図7(b)より、本評価試験における押出工程後の押出材のAl-Mn-Ni系金属間化合物は、約80%~約85%が結晶粒界に存在していることが分かった。
【0073】
押出工程の前後で、Al-Mn-Ni系金属間化合物の晶出位置の比率が変わるのは、概ね以下のとおりである。
押出工程(塑性加工)を施すと、Mg合金内に歪ができ、微細な結晶粒が形成される。歪の回復のため、該結晶粒は粗大化するが、高温領域で安定なAl-Mn-Ni系金属間化合物のような化合物があると、結晶の粗大化(成長)を抑えるピン止め効果が働く。このピン止めは結晶粒の粒界で起こるため、Al-Mn-Ni系金属間化合物は結晶粒界に存在するようになる。また、結晶の粗大化をピン止めすることにより、押出材内部の結晶は微細均一になって安定する。
よって、微細均一な結晶の粒界に存在するAl-Mn-Ni系金属間化合物は、Mg合金内に微細に分散し、Mg合金の分解を促進させることができるとともに、分解速度を全体的にむらなく制御しやすいことが分かる。
【0074】
-評価試験8(Ni濃度と分解速度の関係と、Ca添加の有無について)-
表1A、表1B、表1Cの評価用試料の中から、押出材のNi濃度と分解速度の関係を、Ca添加の有無で分けて評価した。
図8に、評価結果を示す。
【0075】
図8より、まず、Niの含有量が増えると分解速度は増大することが分かる。また、Caを添加すると、添加しない場合よりも分解速度が増大し、Niが0.2質量%の場合は約2.0倍、Niが0.4質量%の場合は約2.2倍、Niが0.6質量%の場合は約2.4倍となった。
よって、Mg合金の分解速度の観点からは、Caを添加すると分解速度を増大させることができることが分かった。
【0076】
-評価試験9(Ca添加Mg合金中のSEM-EDS分析)-
Alを添加されたMg合金(AZ系合金、表1Bの試料28)において、Caを添加すると、Al>Caの場合主にAl2Caが形成され、Al≒Caの場合主に(Mg、Al)2Caが形成され、Al<Caの場合主にMg2Caが形成される。
図9(a)、図9(b)、表6、表7に、Alが添加されたMg合金において、Caを添加した場合(表1Cの試料43)のSEM-EDS分析結果の例を示す。図9(a)及び表6は視野1、図9(b)及び表7は視野2を示す。
【0077】
【表6】
【0078】
【表7】
【0079】
また、Caを添加したMg合金(表1Cの試料43)の分解速度は約3000mg/cm2/dayであり、Caを添加しないMg合金(図8参照)の分解速度約1500mg/cm2/dayの約2倍となった。
よって、本評価試験結果からも、分解速度の観点からは、Caを添加すると分解速度を増大させることができることが分かった。
【0080】
-評価試験10(Ca添加濃度と、引張破壊強さ、0.2%耐力、伸びの特性の関係)-
評価試験8や9に示したように、Caを添加すると、分解速度を増大させることができることが分かった。ここで、他の特性についても評価を行った。
【0081】
表8に記載の含有量となるように金属を添加(配合)し、上述した鋳造工程、均質化処理工程、押出工程で押出材を形成し、評価用の試料52~試料55(AM90+Ni質量%)とした。
【0082】
【表8】
【0083】
表8の試料52~試料55について、JISZ2241(金属材料引張試験方法)に基づき引張試験を実施し、引張破壊強さ、0.2%耐力、伸びの測定を行った。なお、引張試験片形状はJIS14A号試験片を採用した。
測定結果を表9及び図10に示す。
【0084】
【表9】
【0085】
図10より、Caの含有量が増えると、0.2%耐力及び伸びは顕著に低下することが分かった。
よって、Ca含有量を増やすと、評価試験8等からMg合金の分解速度は増大する。しかしながら、少なくとも0.2耐力、伸びの観点においては特性が低下する場合があることも考慮して、目的用途により添加量を調整する必要があることが分かった。
【0086】
-評価試験11(分解メカニズムの考察)-
AZ80+0.1Ni合金(表1Cの試料44)の押出材を樹脂に埋め込み、組織観察を行った。次に、93℃の2%KCl溶液に浸漬し、8分後同一位置で組織観察を行った。
図11(a)にサンプルの押出方向と観察方向を示し、図11(b)に押出材の浸漬試験前の金属顕微鏡写真を示し、図11(c)に押出材の浸漬試験後の金属顕微鏡写真を示す。
【0087】
図11(b)の白い部分はα-Mgであり、合金を構成するAlやCaの濃度が比較的低くなっていた。また、図11(b)の黒い帯状部分はβ相やAl2Ca化合物で、AlやCaの濃度が高くなっていた。さらに図11(b)の粒状に見えるのがAl-Mn-Ni系金属間化合物であった。これらの電位の順は、Al-Mn-Ni系金属間化合物>Al2Ca>β相>α-Mgであり、α-Mgがもっとも卑な部分である。
一方、図11(c)に示すように、白い部分すなわちα-Mgが分解していることが分かった。つまり、電位的に貴な部分であるAl-Mn-Ni系金属間化合物の周辺ではなく、電位的に卑な部分であるα-Mgが分解をしていたことになる。
以上の結果から、分解反応はAl-Mn-Ni系金属間化合物を中心として局所的にガルバニック反応が起こっているのではなく、面内でマクロ的にガルバニック反応が起こり、電位的に最も卑な部分であるα-Mgから優先的に分解が進む、という分解メカニズムであることが考察された。
【0088】
-評価試験12(Al-Mn-Ni系金属間化合物のクラスター形成)-
AZ系合金にNiを添加した際に、介在物を異種核とする等を原因としてAl-Mn-Ni系金属間化合物がクラスター状に晶出される。
図12(a)及び図12(b)にクラスター形成の金属顕微鏡写真を示す。
【0089】
Al-Mn-Ni系金属間化合物のクラスターが、溶液との接触面にあると、電位的に貴な部分の面積が大きくなり、局所的に大きな分解速度を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
以上のように、Mg合金は、ある程度の期間は所望の機械的性質を担保することができるが、その期間を過ぎると溶解又は分解するように全体的な分解速度を制御することができる。本発明のMg合金は、Al-Mn-Ni系金属間化合物の晶出という切り口で、様々な環境下で分解を促進するMg合金に応用されることが期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12